(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】断熱部材およびそれを用いた内装部品
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20220927BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20220927BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20220927BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20220927BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
B32B5/18 101
B60R13/02 A
B60R13/08
B32B5/02 Z
F16L59/02
(21)【出願番号】P 2018173089
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】三輪 恭之
(72)【発明者】
【氏名】中野 資之
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】縣 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 達臣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 優
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068465(JP,A)
【文献】特表2014-502305(JP,A)
【文献】特開2005-193621(JP,A)
【文献】特開2011-052511(JP,A)
【文献】特開2005-351405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/18
B60R 13/02
B60R 13/08
B32B 5/02
F16L 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する二つの塗料層と、
二つの該塗料層間に介在し、一方の該塗料層から他方の該塗料層に向かって連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、
を備え
、
該空隙含有層の厚さは1.2mm以上20mm以下であり、二つの該塗料層の厚さは各々1mm以下であり、
二つの該塗料層は、各々、該塗料層に接する該空隙含有層の表層のみに含浸し、その含浸深さは各々0.1mm以上1mm以下であり、
該空隙含有層の厚さt1と、該空隙含有層における二つの該塗料層の含浸深さの合計t2と、の関係は次式(a)を満足することを特徴とする断熱部材。
1≦(t1-t2)≦19.8 ・・・(a)
【請求項2】
さらに、少なくとも一方の前記塗料層に積層され、積層方向に連通する複数の空隙を有する空隙含有層を備える請求項1に記載の断熱部材。
【請求項3】
前記空隙含有層は、不織布、または連続気泡構造を有する発泡体である請求項1または請求項2に記載の断熱部材。
【請求項4】
基材と、該基材に積層される断熱部材と、を備える内装部品であって、
該断熱部材は、
複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する塗料層と、
該塗料層に積層され積層方向に連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、
を備え
、
該塗料層は該基材側に配置され、該塗料層と該基材とが接着される接着部と、該塗料層と該基材とが接着されない非接着部とを有し、該非接着部には空気層が介在していることを特徴とする内装部品。
【請求項5】
前記塗料層は、該塗料層に接する前記空隙含有層の表層のみに含浸している
請求項4に記載の内装部品。
【請求項6】
基材と、該基材に積層される断熱部材と、を備える内装部品であって、
該断熱部材は、
複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する塗料層と、
該塗料層に積層され積層方向に連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、
を備え、
該塗料層は、該基材側から順に配置される第一塗料層と第二塗料層とを有し、該空隙含有層は、該第一塗料層と該第二塗料層との間に配置され、
該第一塗料層と該基材とが接着される接着部と、該第一塗料層と該基材とが接着されない非接着部とを有し、該非接着部には空気層が介在していることを特徴とする内装部品。
【請求項7】
基材と、該基材に積層される断熱部材と、を備える内装部品であって、
該断熱部材は、
複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する塗料層と、
該塗料層に積層され積層方向に連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、
を備え、
該塗料層は、該基材側から順に配置される第一塗料層と第二塗料層とを有し、該空隙含有層は、該第一塗料層と該第二塗料層との間に配置され、
該空隙含有層の厚さは1.2mm以上20mm以下であり、該第一塗料層および該第二塗料層の厚さは各々1mm以下であり、
該第一塗料層および該第二塗料層は、該空隙含有層の表層のみに含浸し、その含浸深さは各々0.1mm以上1mm以下であり、
該空隙含有層の厚さt1と、該空隙含有層における該第一塗料層および該第二塗料層の含浸深さの合計t2と、の関係は次式(a)を満足することを特徴とする内装部品。
1≦(t1-t2)≦19.8 ・・・(a)
【請求項8】
前記第一塗料層と前記基材とが接着される接着部と、該第一塗料層と該基材とが接着されない非接着部とを有し、
該非接着部には空気層が介在している請求項7に記載の内装部品。
【請求項9】
前記空隙含有層は、不織布または連続気泡構造を有する発泡体である
請求項4ないし請求項8のいずれかに記載の内装部品。
【請求項10】
前記基材は、前記断熱部材側から順に積層される、裏側ガラスクロス、発泡体層、表側ガラスクロス、および表皮層を有する
請求項4ないし
請求項9のいずれかに記載の内装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに用いられる内装部品およびそれに好適な断熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の環境対応、自動運転化の進展に伴い、従来のガソリン車に対し、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車といった電動車の比率が増加してきている。これらの車にはパワートレイン駆動用のバッテリが搭載されており、特に電力のみをエネルギー源として使用する電気自動車においては、電力消費率(電費)を向上させて、走行距離を延ばすことが求められる。現状では、電気自動車の電池エネルギーのうちの50%程度が空調関連で失われており、電費向上には空調の熱損失が大きな課題である。例えば車室内を暖房した場合、熱エネルギーの多くは天井材、ドアトリムなどの内装部品を暖めるために使われてしまい熱損失が大きい。熱損失を低減するためには、内装部品の断熱性を向上させて熱エネルギーの消費を抑えることが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-79073号公報
【文献】特表2015-528071号公報
【文献】特開2011-162902号公報
【文献】特開2014-237910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の内装部品には、断熱性、吸音性、意匠性などが要求される。所望の要求を満足するよう、内装部品の多くは樹脂製の基材に表皮材などが積層された積層構造を有する(例えば特許文献1参照)。積層構造の一つとして熱伝導率が小さい断熱層を配置すると、内装部品の断熱性を高めることができる。
【0005】
シート状の断熱部材としては、特許文献2に、エアロゲル含有粒子およびバインダーの混合物が不織布に含浸されてなる可撓性絶縁体が記載されている。特許文献3には、シリカエアロゲルを担持した不織布の一部がアルミナからなるコーティング層で被覆された断熱材が記載されている。特許文献4には、繊維径が50nm以下のナノファイバーが分散されたシリカエアロゲルを内部に含む繊維シートが記載されている。
【0006】
これらの断熱部材に用いられているシリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし、10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。シリカエアロゲルは、熱伝導率が小さいため、部材の断熱性を高めるのに有用な材料である。しかし、シリカエアロゲルを製造するためには多くの工程、時間を要するため、製造コストが高いという課題がある。例えば、シリカエアロゲルを含む断熱層を形成する場合、その厚さを大きくすることにより断熱性を高めることができる。しかし、その分だけシリカエアロゲルの使用量が多くなり、断熱部材、ひいては内装部品が高価になってしまう。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、コストを抑制しつつ断熱性に優れた断熱部材を提供することを課題とする。また、当該断熱部材を用いて断熱性に優れた内装部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の断熱部材は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する二つの塗料層と、二つの該塗料層間に介在し、一方の該塗料層から他方の該塗料層に向かって連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、を備えることを特徴とする。
【0009】
(2)上記課題を解決するため、本発明の内装部品は、基材と、該基材に積層される断熱部材と、を備える内装部品であって、該断熱部材は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する塗料層と、該塗料層に積層され積層方向に連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の断熱部材を構成する二つの塗料層は、いずれも多孔質構造体を有する。多孔質構造体の骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であり、細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、熱の移動が阻害される。これにより、多孔質構造体は優れた断熱効果を発揮する。したがって、二つの塗料層は、断熱性に優れる。
【0011】
二つの塗料層の間には、空隙含有層が配置される。空隙含有層は、一方の塗料層と他方の塗料層との間で連通する複数の空隙を有する。空隙含有層において、熱は、空隙以外の部分(固体)内の移動(伝導)と、空隙内の流体(空気)の移動(対流)と、の両方により伝達される。空隙含有層としては、不織布、連続気泡構造を有する発泡体などが挙げられる。不織布の場合、繊維同士が点接触しているため、伝導よりも対流による熱伝達が支配的になる。また、連続気泡構造の発泡体においても、伝導よりも対流による熱伝達が支配的になる。したがって、熱が一方の塗料層から空隙含有層に到達すると、熱の伝達方法は伝導から対流に変わる。この際、隣接する二層の界面において熱抵抗が発生する。その後、空隙含有層において熱は主に対流により伝達され、他方の塗料層に到達すると、熱の伝達方法は対流から伝導に変わる。この際にも、隣接する二層の界面において熱抵抗が発生する。このように、二つの塗料層間に空隙含有層を介在させると、空隙含有層の両側において界面熱抵抗が2回生じるため、熱の伝達が大幅に抑制される。これにより、例えばある厚さの塗料層を基準にした場合、当該塗料層の厚さを半分にして空隙含有層の両側に配置することにより、トータルの塗料層の厚さが同じでも、界面熱抵抗が増加する分だけ断熱性を向上させることができる。さらに、塗料層の反対側に空隙含有層を追加してもよい。空隙含有層の数を増やすことにより、塗料層との界面における熱抵抗が増加するため、より断熱性を向上させることができる。
【0012】
以上より、本発明の断熱部材によると、多孔質構造体を有し断熱性の高い塗料層を用いつつ、空隙含有層との界面における熱抵抗を利用することにより、塗料層を厚くしなくても同等以上の断熱性能を実現することができる。換言すると、コストをかけずに断熱性を向上させることができる。また、空隙含有層においては、音響エネルギーが熱エネルギーに変換されやすい。このため、本発明の断熱部材は、吸音性にも優れる。
【0013】
上記特許文献2に記載されている可撓性絶縁体は、エアロゲルを含んだ混合物(スラリー)を不織布の一面に塗布し、不織布の一面側から当該混合物を含浸させて製造される。よって、エアロゲル含有層は、不織布の一面側にしか形成されていない。また、特許文献2の請求項3に記載されているように、エアロゲルを含んだ混合物が不織布の厚さ方向全体に含浸されると、不織布内の空隙が消失するため、熱の伝達方法は対流ではなく熱伝導になる。この場合、エアロゲル含有層と不織布との界面における熱抵抗は生じにくい。したがって、熱抵抗による断熱性の向上効果は期待できない。
【0014】
(2)本発明の内装部品は、基材と、塗料層と空隙含有層とを有する断熱部材と、を備える。上述したように、断熱部材の隣接する二層の界面には、熱の伝達方法の違いにより熱抵抗が発生する。これにより、基材に塗料層のみを配置した場合と比較して、熱の伝達が抑制される。以下、模式図を用いて、空隙含有層の有無による熱抵抗の違いを説明する。
図1に、本発明の内装部品の一形態の断面模式図を示す。
図2に、基材に塗料層のみが配置された内装部品の断面模式図を示す。
図1、
図2においては、説明の便宜上、部材のハッチングを省略する。
【0015】
まず、本発明の内装部品について説明する。
図1に示すように、内装部品1は、基材10と断熱部材20とを備えている。基材10は、表皮層11と発泡体層12との積層体である。表皮層11はファブリック素材からなり、発泡体層12はポリウレタン発泡体からなる。断熱部材20は、塗料層21と空隙含有層22との積層体である。塗料層21は、多孔質シリカ構造体およびウレタン樹脂を有している。空隙含有層22は、不織布からなる。
【0016】
図1中、白抜き矢印で示すように、熱は表皮層11から塗料層21方向に伝達されるものとする。表皮層11側の空気温度をT1とし、各部材を通過する際の温度勾配を、太線で模式的に示す。熱の伝達において、まず、空気と表皮層11との界面において熱抵抗R1が発生する。次に、熱は表皮層11および発泡体層12を伝導する。本形態においては、表皮層11および発泡体層12の熱伝導率は同じ値であるため、これらを伝導する際の熱抵抗をR2とする。そして、熱が空隙含有層22に到達すると、発泡体層12と空隙含有層22との界面において熱抵抗R3が発生する。続く空隙含有層22においては、熱は主に対流により伝達される。この際の熱抵抗をR4とする。そして、熱が塗料層21に到達すると、空隙含有層22と塗料層21との界面において熱抵抗R5が発生する。続いて、熱は塗料層21を伝導し、この際の熱抵抗をR6とする。最後に、熱が塗料層21から外部に放出される際に、塗料層21と空気との界面において熱抵抗R7が発生する。このようにして、熱は基材10および断熱部材20を通って伝達され、塗料層21側の空気温度はT2になる。
【0017】
次に、塗料層のみが配置された内装部品について説明する。
図2に示すように、内装部品9は、基材90と塗料層93とを備えている。内装部品9の構成は、空隙含有層が配置されていない点以外は、先に示した本発明の内装部品1の構成と同じである。基材90は、表皮層91と発泡体層92との積層体である。塗料層93は、多孔質シリカ構造体およびウレタン樹脂を有している。
【0018】
図2中、白抜き矢印で示すように、熱は表皮層91から塗料層93方向に伝達されるものとする。表皮層91側の空気温度をT1とし、各部材を通過する際の温度勾配を、太線で模式的に示す。熱の伝達において、まず、空気と表皮層91との界面において熱抵抗R1が発生する。次に、熱は表皮層91および発泡体層92を伝導し、この際の熱抵抗をR2とする。続いて、熱は塗料層93を伝導し、この際の熱抵抗をR6とする。最後に、熱が塗料層93から外部に放出される際に、塗料層93と空気との界面において熱抵抗R7が発生する。このようにして、熱は基材90および塗料層93を通って伝達され、塗料層93側の空気温度はT3になる。
【0019】
空隙含有層を有する内装部品1の熱抵抗は、七つの熱抵抗の合計値(R1+R2+R3+R4+R5+R6+R7)になる。これに対して、空隙含有層を有しない内装部品9の熱抵抗は、四つの熱抵抗の合計値(R1+R2+R6+R7)になる。つまり、内装部品1の方が、熱抵抗R3、R4、R5が加わる分だけ、全体の熱抵抗が大きくなる。換言すると、内装部品1の方が、熱が伝達されにくい。
【0020】
このように、本発明の内装部品によると、多孔質構造体を有し断熱性の高い塗料層を用いつつ、塗料層に空隙含有層を積層させることにより、二層の界面における熱抵抗を利用して、高い断熱性を実現することができる。また、空隙含有層においては、音響エネルギーが熱エネルギーに変換されやすい。このため、本発明の内装部品は、吸音性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の内装部品の一形態における熱抵抗を説明するための断面模式図である。
【
図2】基材に塗料層のみが配置された内装部品における熱抵抗を説明するための断面模式図である。
【
図7】実施例2のサンプルを構成する断熱部材の断面顕微鏡写真である。
【
図9】断熱性評価実験における温度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の断熱部材および内装部品の実施の形態について説明する。実施の形態において、本発明の内装部品は、自動車の天井材として具現化されている。
【0023】
<第一実施形態>
[構成]
まず、本実施形態の天井材の構成を説明する。
図3に、本実施形態の天井材の一部断面図を示す。
図3中、前出
図1と対応する部材については同じ符号で示す。以下の
図3~
図6においては、部材の積層方向を表裏方向と定義する。
図3に示すように、天井材31は、基材10と断熱部材20とを備えている。
【0024】
基材10は、表側(車室内側)から順に、表皮層11、表側ガラスクロス13a、発泡体層12、および裏側ガラスクロス13bを有している。表皮層11は、天井材31の最表層として配置されており、表皮層11の表面は、車室内に表出する意匠面である。表皮層11は、ファブリック素材からなる。表皮層11の厚さは1mmである。発泡体層12は、ポリウレタン発泡体からなり、表側ガラスクロス13aを挟んで表皮層11に積層されている。発泡体層12の裏面には、裏側ガラスクロス13bが積層されている。発泡体層12の厚さは4mmであり、表側ガラスクロス13aおよび裏側ガラスクロス13bの厚さは0.2mmである。
【0025】
断熱部材20は、塗料層21と空隙含有層22とを有している。塗料層21は、多孔質シリカ構造体と、水溶性バインダーとしてのウレタン樹脂と、を有している。塗料層21の厚さは1mmである。空隙含有層22は、塗料層21と基材10の裏側ガラスクロス13bとの間に介装されている。空隙含有層22は、不織布からなる。空隙含有層22は、塗料層21と裏側ガラスクロス13bとの間で連通する複数の空隙を有している。空隙含有層22の厚さは2.0mmである。塗料層21の一部は空隙含有層22の裏面近傍に含浸している。空隙含有層22における塗料層21の含浸深さは0.5mmである。空隙含有層22と裏側ガラスクロス13bとは全面接着されていない。すなわち、空隙含有層22の周縁部のみが枠状に、接着剤により裏側ガラスクロス13bに接着されている。これにより、天井材31は、空隙含有層22と裏側ガラスクロス13bとが接着される接着部と、接着されない非接着部とを有しており、非接着部には空気層が介在している。
【0026】
[作用効果]
次に、本実施形態の天井材の作用効果について説明する。天井材31の断熱部材20は、塗料層21と空隙含有層22とを有している。塗料層21は、多孔質シリカ構造体を含むため、高い断熱性を有する。加えて、塗料層21には空隙含有層22が積層されている。空隙含有層22は、不織布からなる。不織布は、細い繊維同士が点接触して形成されており、厚さ方向に連通する複数の空隙を有している。このため、空隙含有層22においては主に対流により熱が伝達される。他方、基材10および塗料層21においては、伝導により熱が伝達される。したがって、空隙含有層22との界面において、熱の伝達方法が伝導から対流、または対流から伝導に変化する。これにより、界面熱抵抗が発生し、基材10に塗料層21のみを配置した場合と比較して、熱の伝達を抑制することができる。したがって、天井材31によると、塗料層を厚くすることなく、換言するとコストを抑制しつつ、断熱性を向上させることができる。
【0027】
天井材31における熱抵抗を、先の
図1に示した断面模式図に基づいて算出した結果を以下に示す。天井材31は、
図1における内装部品1に対応する。算出式中、Aは各部材共通の面積(積層方向に垂直な面積)[m
2]、hは空気の熱伝達率[W/m
2K]、δは部材の厚さ[m]、λは部材の熱伝導率[W/mK]である。なお、
図1中、R4の計算においては、空隙含有層の厚さδとして、塗料層が含浸していない部分の厚さ(1.5mm)を使用した。表側ガラスクロス13aおよび裏側ガラスクロス13bについては、厚さが極めて薄いため、熱抵抗は無いものとした。表1に、A、h、δ、λの値をまとめて示す。
【表1】
R1=1/Ah=1/(0.0294×20)=1.7[K/W]
R2=δ/Aλ=0.005/(0.0294×0.035)=4.85[K/W]
R3=1/Ah=1/(0.0294×20)=1.7[K/W]
R4=δ/Aλ=0.0015/(0.0294×0.035)=1.46[K/W]
R5=1/Ah=1/(0.0294×20)=1.7[K/W]
R6=δ/Aλ=0.001/(0.0294×0.022)=1.55[K/W]
R7=1/Ah=1/(0.0294×20)=1.7[K/W]
R1+R2+R3+R4+R5+R6+R7=14.65[K/W]
比較のため、基材10に塗料層21のみが配置された天井材における熱抵抗を、先の
図2に示した断面模式図に基づいて算出した結果を以下に示す。当該天井材は、
図2における内装部品9に対応する。算出式中、A、h、δ、λの値は、先の表1に示したとおりである。
R1=1/Ah=1/(0.0294×20)=1.7[K/W]
R2=δ/Aλ=0.005/(0.0294×0.035)=4.85[K/W]
R6=δ/Aλ=0.001/(0.0294×0.022)=1.55[K/W]
R7=1/Ah=1/(0.0294×20)=1.7[K/W]
R1+R2+R6+R7=9.80[K/W]
天井材31の熱抵抗の合計値は、14.65[K/W]になる。これに対して、基材10に塗料層21のみが配置された天井材の熱抵抗の合計値は、9.80[K/W]になる。このように、断熱部材20として空隙含有層22を配置すると、熱抵抗が大きくなることがわかる。また、基材10のみの熱抵抗は、R1+R2+R7=8.25[K/W]である。これを基準にすると、断熱部材20を配置することによる流出熱量の削減率は、次式(i)により43.69%となる。
流出熱量の削減率(%)=(14.65-8.25)/14.65×100 ・・・(i)
本実施形態によると、塗料層21は空隙含有層22の裏面近傍、すなわち塗料層21に接する表層のみに含浸している。よって、空隙含有層22の空隙の多くは、塗料層21の材料で埋められることなく残存し、対流による熱伝達が確保される。また、空隙含有層22と裏側ガラスクロス13bとは全面接着されておらず、非接着部には空気層が介在している。よって、非接着部による断熱効果も期待できる。また、空隙含有層22においては、音響エネルギーが熱エネルギーに変換されやすい。このため、天井材31は、吸音性にも優れる。
【0028】
<第二実施形態>
本実施形態の天井材と第一実施形態の天井材との相違点は、塗料層が基材側になるように断熱部材を配置した点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図4に、本実施形態の天井材の一部断面図を示す。
図4中、
図3と対応する部材については同じ符号で示す。
【0029】
図4に示すように、天井材32は、基材10と断熱部材20とを備えている。断熱部材20は、塗料層21と空隙含有層22とを有している。断熱部材20において、塗料層21は、基材10側に配置されている。すなわち、塗料層21は、空隙含有層22と基材10の裏側ガラスクロス13bとの間に介装されている。塗料層21の一部は空隙含有層22の表面近傍に含浸している。塗料層21と裏側ガラスクロス13bとは全面接着されていない。すなわち、塗料層21の周縁部のみが枠状に、接着剤により裏側ガラスクロス13bに接着されている。これにより、天井材32は、塗料層21と裏側ガラスクロス13bとが接着される接着部と、接着されない非接着部とを有しており、非接着部には空気層が介在している。
【0030】
本実施形態の天井材は、構成が共通する部分については、第一実施形態の天井材と同様の作用効果を有する。天井材32においては、塗料層21が基材10側に配置されている。この場合、仮に塗料層21と裏側ガラスクロス13bとが接着剤(固体)により全面接着されていれば、基材10から塗料層21を通過するまでの間、熱は伝導により伝達され、熱の伝達方法は変化しない。このため、隣接する層同士の界面で熱抵抗は発生しない。しかし、天井材32によると、塗料層21と裏側ガラスクロス13bとは全面接着されておらず、非接着部には空気層が介在している。これにより、非接着部においては、対流による熱伝達が行われることになり、塗料層21と裏側ガラスクロス13b(基材10)との界面において、熱抵抗が発生する。このように、本実施形態においては、塗料層21が基材10側に配置されていても、塗料層21と空隙含有層22との界面だけでなく、塗料層21と基材10との界面においても熱抵抗が生じる。したがって、天井材32は優れた断熱効果を発揮する。
【0031】
<第三実施形態>
本実施形態の天井材と第一実施形態の天井材との相違点は、塗料層を空隙含有層の表裏両側に配置した点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図5に、本実施形態の天井材の一部断面図を示す。
図5中、
図3と対応する部材については同じ符号で示す。
【0032】
図5に示すように、天井材33は、基材10と断熱部材40とを備えている。断熱部材40は、第一塗料層23と、第二塗料層24と、空隙含有層22とを有している。第一塗料層23および第二塗料層24は、いずれも多孔質シリカ構造体と、水溶性バインダーとしてのウレタン樹脂と、を有している。第一塗料層23の厚さは0.5mm、第二塗料層24の厚さは0.5mmである。第一塗料層23は、基材10側に配置されている。
【0033】
空隙含有層22は、第一塗料層23と第二塗料層24との間に介装されている。空隙含有層22は、厚さ2.0mmの不織布からなる。第一塗料層23の一部は空隙含有層22の表面近傍に含浸している。第二塗料層24の一部は空隙含有層22の裏面近傍に含浸している。空隙含有層22における第一塗料層23、第二塗料層24の含浸深さは、各々0.25mmである。第一塗料層23と裏側ガラスクロス13bとは全面接着されていない。すなわち、第一塗料層23の周縁部のみが枠状に、接着剤により裏側ガラスクロス13bに接着されている。これにより、天井材33は、第一塗料層23と裏側ガラスクロス13bとが接着される接着部と、接着されない非接着部とを有しており、非接着部には空気層が介在している。断熱部材40は、本発明の断熱部材の概念に含まれる。
【0034】
本実施形態の天井材は、構成が共通する部分については、第一実施形態の天井材と同様の作用効果を有する。天井材33は、二つの塗料層23、24の間に空隙含有層22が介装された断熱部材40を備えている。断熱部材40においては、第一塗料層23と空隙含有層22との界面、および第二塗料層24と空隙含有層22との界面の二つの界面において、熱抵抗が発生する。したがって、塗料層23、24の個々の厚さが、第一実施形態の天井材の塗料層21の半分の厚さであっても、界面熱抵抗が増加することにより、熱の伝達を効果的に抑制することができる。すなわち、断熱部材40によると、第一実施形態の天井材31における断熱部材20と比較して、塗料層のトータルの厚さを変更することなく、断熱性能を向上させることができる。
【0035】
断熱部材40によると、第一塗料層23は空隙含有層22の表面近傍のみ、第二塗料層24は空隙含有層22の裏面近傍のみに含浸している。すなわち、二つの塗料層23、24は、各々、空隙含有層22の表裏両側の表層のみに含浸している。よって、空隙含有層22の空隙の多くは、塗料層23、24の材料で埋められることなく残存し、対流による熱伝達が確保される。また、天井材33によると、第一塗料層23と裏側ガラスクロス13bとは全面接着されておらず、非接着部には空気層が介在している。これにより、非接着部においては、対流による熱伝達が行われることになり、第一塗料層23と裏側ガラスクロス13b(基材10)との界面において、熱抵抗が発生する。このように、本実施形態においては、第一塗料層23が基材10側に配置されていても、空隙含有層22との界面だけでなく、第一塗料層23と基材10との界面においても熱抵抗が生じる。以上より、本実施形態の断熱部材40および天井材33によると、コストを抑制しつつ、断熱性能をより向上させることができる。
【0036】
<第四実施形態>
本実施形態の天井材と第三実施形態の天井材との相違点は、第一塗料層と基材との間に空隙含有層を追加した点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図6に、本実施形態の天井材の一部断面図を示す。
図6中、
図5と対応する部材については同じ符号で示す。
【0037】
図6に示すように、天井材34は、基材10と断熱部材41とを備えている。断熱部材41は、第一塗料層23と、第二塗料層24と、第一空隙含有層25と、第二空隙含有層26と、を有している。第一空隙含有層25は、第一塗料層23と裏側ガラスクロス13b(基材10)との間に介装されている。第二空隙含有層26は、第一塗料層23と第二塗料層24との間に介装されている。第一空隙含有層25および第二空隙含有層26は、いずれも厚さ2.0mmの不織布からなる。第一塗料層23の一部は、第一空隙含有層25の裏面近傍および第二空隙含有層26の表面近傍に含浸している。第二塗料層24の一部は第二空隙含有層26の裏面近傍に含浸している。第一空隙含有層25における第一塗料層23の含浸深さは0.25mmである。第二空隙含有層26における第一塗料層23、第二塗料層24の含浸深さは、各々0.25mmである。第一空隙含有層25と裏側ガラスクロス13bとは接着剤により全面接着されている。断熱部材41は、本発明の断熱部材の概念に含まれる。
【0038】
本実施形態の天井材および断熱部材は、構成が共通する部分については、第三実施形態の天井材および断熱部材と同様の作用効果を有する。天井材34は、塗料層23、24と空隙含有層25、26とが交互に配置された断熱部材41を備えている。断熱部材41においては、第一空隙含有層25と第一塗料層23との界面、第一塗料層23と第二空隙含有層26との界面、および第二空隙含有層26と第二塗料層24との界面の三つの界面において、熱抵抗が発生する。よって、断熱部材41においては、界面熱抵抗が増加する分だけ、熱の伝達を抑制する効果が高くなる。また、空隙含有層が一層増えることにより、吸音性能も高くなる。
【0039】
断熱部材41によると、第一塗料層23は第一空隙含有層25の裏面近傍、および第二空隙含有層26の表面近傍のみに含浸している。第二塗料層24は第二空隙含有層26の裏面近傍のみに含浸している。すなわち、塗料層23、24は、空隙含有層25、26の表層のみに含浸している。よって、空隙含有層25、26の空隙の多くは、塗料層23、24の材料で埋められることなく残存し、対流による熱伝達が確保される。
【0040】
第三実施形態においては、第一塗料層23および裏側ガラスクロス13bの一部のみを接着し、両部材間に空気層を配置することにより、対流による熱伝達を確保した。しかし、本実施形態によると、第一塗料層23と裏側ガラスクロス13bとの間に第一空隙含有層25を配置することにより、対流により熱伝達する層を安定して形成することができる。また、空気層を配置する必要がないため、第一空隙含有層25と裏側ガラスクロス13bとを全面接着することが可能になる。こうすることにより、断熱部材41の位置ずれを抑制することができる。
【0041】
<その他の形態>
以上、本発明の断熱部材および内装部品の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0042】
[断熱部材]
本発明の断熱部材は、二つの塗料層と、その間に介装される空隙含有層と、を備える。塗料層は、疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する。多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する固体材料である。骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。多孔質構造体の形状は、球状、異形状の塊状など特に限定されない。例えば、球状の場合には、最密充填しやすいため充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。また、表面積が小さくなるため、熱伝導率が比較的大きい水溶性バインダーの量を低減することができ、断熱性の向上につながる。
【0043】
多孔質構造体の最大長さを粒子径とした場合、多孔質構造体の平均粒子径は1~200μm程度が望ましい。多孔質構造体の粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔(空隙)容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。一方、塗料の安定性や塗工のしやすさを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径の多孔質構造体が大径の多孔質構造体間の隙間に入りこむため、充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0044】
多孔質構造体には、表面に親水基を有する親水性のものがある。しかし、親水性の多孔質構造体は、脆く崩れやすい。したがって、本発明の断熱部材においては、疎水性の多孔質構造体を採用する。
【0045】
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである多孔質シリカ構造体が望ましい。多孔質シリカ構造体として、市販のエアロゲル、キセロゲルなどを用いてもよい。
【0046】
多孔質構造体の含有量は、塗料層の熱伝導率、硬さ、機械的強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝導率を小さくするという観点では、多孔質構造体の含有量は、塗料層全体の質量を100質量%とした場合の40質量%以上であることが望ましい。50質量%以上、65質量%以上であるとより好適である。一方、多孔質構造体が多すぎると脱落しやすくなったり、塗料層が硬くなり機械的強度が低下するおそれがある。このため、多孔質構造体の含有量は、塗料層全体の質量を100質量%とした場合の75質量%以下であることが望ましい。
【0047】
水溶性バインダーは、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂から選ばれる一種以上を含むことが望ましい。例えば、アクリル樹脂またはウレタン樹脂を単独で用いてもよく、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを混合して用いてもよい。塗料層の機械的強度を高めて、断熱部材、ひいては内装部品の耐久性を向上させるという観点から、架橋剤などを配合して水溶性バインダーを架橋させてもよい。
【0048】
空隙含有層は、自身を挟んで配置される一方の塗料層から他方の塗料層に向かって連通する複数の空隙を有する。空隙含有層としては、不織布、連続気泡構造を有する発泡体などが挙げられる。空隙含有層が不織布からなる場合、吸音性の観点から、その目付量は150g/m2以下であることが望ましい。連続気泡構造を有する発泡体としては、スラブウレタンなどが挙げられる。
【0049】
空隙含有層は、二つの塗料層間に配置する他、塗料層に積層してもよい。例えば、空隙含有層と塗料層とを交互に積層させてもよい。空隙含有層の数を増やすことにより、界面における熱抵抗が増加するため、断熱性が向上する。また、吸音性も向上する。
【0050】
塗料層および空隙含有層の厚さは、所望の断熱性、吸音性、積層する数などに応じて、適宜決定すればよい。例えば吸音性の観点から、塗料層の厚さを1mm以下にすることが望ましい。塗料層の厚さが1mmを超えると、塗料層による音の反射の影響が大きくなり吸音率が低下する。
【0051】
塗料層は空隙含有層に積層して配置されるが、塗料層の一部が空隙含有層に含浸していてもよい。但し、空隙含有層の空隙を残存させて、層内の対流による熱伝達を確保する必要があるため、塗料層が空隙含有層の全体に含浸している態様は除かれる。塗料層は、空隙含有層の表層のみに含浸していることが望ましい。この場合、塗料層と空隙含有層との密着性を確保する観点から、塗料層の含侵深さは0.1mm以上であるとよい。
【0052】
例えば、空隙含有層の厚さを1.2mm以上20mm以下、塗料層の厚さを1mm以下、空隙含有層における塗料層の含浸深さを0.1mm以上1mm以下とした場合、空隙含有層の厚さt1と、空隙含有層における塗料層の含浸深さt2と、の関係は次式(a)を満足することが望ましい。空隙含有層の両側に塗料層が含浸している場合、式(a)中の塗料層の含浸深さt2としては、各々の含浸深さ(t21、t22)の合計値(t21+t22)を使用する。
1≦(t1-t2)≦19.8 ・・・(a)
(t1-t2)<1の場合、吸音性能が低下する。19.8<t1-t2の場合、施工時の取扱い性が低下し、設置スペースも制約される。一般に、自動車の天井から内部の鋼板までには20mm程度の空間がある。例えば、本発明の断熱部材および内装部品を自動車の天井材として使用する場合、空隙含有層の厚さを最大の20mmとしても、天井から鋼板までの空間内に配置することができる。また、空隙含有層における塗料層の含浸深さt2を大きくするほど、塗料層と空隙含有層との接着面積が増加し、空隙含有層が不織布の場合には、含浸された塗料の多くが繊維に囲まれる。これにより、塗料層が剥がれにくくなり、強度が上がり、塗料層の粉落ちを低減することができる。
【0053】
塗料層は、例えば次のようにして形成すればよい。まず、多孔質構造体、水溶性バインダー、必要に応じて添加剤などを水に分散させて塗料を調製する。次に、調製した塗料を、空隙含有層の表面に塗布する。そして、塗膜を80~120℃下で数分~数十分程度保持して乾燥する。塗料を塗布するには、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。塗料を空隙含有層の全体に含浸させないためには、塗料にはある程度の粘度が必要になる。また、塗布する際の圧力を調整することが望ましい。例えば、ブレードコート法によると、塗料が含浸しすぎず均一な厚さで塗布できるため好適である。
【0054】
[内装部品]
本発明の内装部品は、基材と断熱部材とを備える。断熱部材は、疎水性の多孔質構造体と水溶性バインダーとを有する塗料層と、該塗料層に積層され積層方向に連通する複数の空隙を有する空隙含有層と、を備える。上述したように、本発明の断熱部材は、空隙含有層を挟む二つの塗料層を備えるが、本発明の内装部品を構成する断熱部材においては、塗料層は一層でもよい。塗料層、空隙含有層、および塗料層の形成方法については、先に説明したとおりである。よって、ここでは説明を省略する。
【0055】
本発明の内装部品は、車両の天井材の他、ドアトリム、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレストなどに好適である。基材の構成、材質、形状などは、内装部品の種類に応じて決定すればよく、特に限定されない。例えば、自動車の天井材として用いる場合には、発泡体層と表皮層との積層体が好適である。発泡体層としては、ポリウレタン発泡体などが挙げられる。
【0056】
表皮層は内装部品の最表層として配置され、内装部品の意匠性や質感を与える役割を果たす。表皮層の構成は特に限定されない。例えば、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ファブリック、本革から選ばれる一種以上を含んで構成するとよい。表皮層は、樹脂などからなる単層の形態、一つまたは複数の樹脂層と基布とを貼り合わせなどにより一体化した形態、樹脂の一部を基布に含浸させて一体化した形態などでもよい。表皮層の表面(意匠面)には、シボ加工などの表面処理が施されていてもよい。
【0057】
基材は、発泡体層および表皮層に加えて、他の層を有してもよい。例えば、発泡体層の強度を向上させるという観点から、ガラスクロスなどを積層することが望ましい。
【0058】
基材と断熱部材とは、接着されていてもされていなくてもよい。接着される場合には、全面接着、部分接着を問わない。例えば、空隙含有層が基材側に配置される場合には、基材と断熱部材とを全面接着しても構わない。他方、塗料層が基材側に配置される場合には、空気層を配置し対流による熱伝達を確保するという観点から、基材と断熱部材とが接着されない非接着部を残す部分接着が望ましい。
【実施例】
【0059】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0060】
<サンプルの製造>
[実施例1]
まず、塗料層を形成するための塗料を調製した。水にウレタン樹脂バインダー溶液(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」、固形分50質量%)を添加し、撹拌しながら疎水性の多孔質シリカ構造体(平均粒子径10μm)を添加して、塗料を調製した。塗料における各成分の含有量は、水77質量%、ウレタン樹脂バインダー10質量%、多孔質シリカ構造体13質量%である。
【0061】
次に、調製した塗料を、不織布(目付量65g/m2、厚さ2.0mm)の表面にブレードコート法により塗布し、100℃下で20分間乾燥して、厚さ1mmの塗料層を形成した。塗料層の一部は、不織布(空隙含有層)の表面近傍に含浸した。このようにして、塗料層/空隙含有層の二層構造の断熱部材を製造した。
【0062】
続いて、表皮層、表側ガラスクロス、発泡体層、および裏側ガラスクロスがこの順に積層してなる基材を準備した。表皮層は、厚さ1mmのファブリック素材からなる。発泡体層は、厚さ4mmのポリウレタン発泡体からなる。表側ガラスクロス、裏側ガラスクロスの厚さは、いずれも0.2mmである。裏側ガラスクロスの周縁部に、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、裏側ガラスクロスの上に断熱部材を空隙含有層を下にして載置して、断熱部材の周縁部のみを裏側ガラスクロスに接着した。このようにして、基材と断熱部材とが積層してなる実施例1のサンプルを製造した。製造したサンプルの構成は、前出
図3に示した第一実施形態の構成と同じである。製造したサンプルは、本発明の内装部品の概念に含まれる。
【0063】
[実施例2]
まず、実施例1において調製した塗料を、不織布(同上)の表裏両面にブレードコート法により塗布し、100℃下で20分間乾燥して、厚さ0.5mmの塗料層を形成した。塗料層の一部は、不織布(空隙含有層)の表裏両面近傍に含浸した。不織布における塗料層の含浸深さは、表面および裏面のいずれも0.25mmであり、空隙含有層の厚さt1と、空隙含有層における塗料層の含浸深さt2と、の関係は先の式(a)を満足した。このようにして、塗料層/空隙含有層/塗料層の三層構造の断熱部材を製造した。製造した断熱部材は、本発明の断熱部材の概念に含まれる。
【0064】
図7に、製造した断熱部材の断面顕微鏡写真を示す。
図7に示すように、断熱部材は、上下二つの塗料層間に空隙含有層が介装されてなる。上側の塗料層の一部は、空隙含有層の上面近傍に含浸している。下側の塗料層の一部は、空隙含有層の下面近傍に含浸している。
【0065】
次に、実施例1と同様に、製造した断熱部材を基材の裏側ガラスクロスの上に載置して、断熱部材(塗料層)の周縁部のみを裏側ガラスクロスに接着した。このようにして、基材と断熱部材とが積層してなる実施例2のサンプルを製造した。製造したサンプルの構成は、前出
図5に示した第三実施形態の構成と同じである。製造したサンプルは、本発明の内装部品の概念に含まれる。
【0066】
[比較例1]
実施例1で使用した基材のみを比較例1のサンプルとした。
【0067】
[参考例1]
実施例1において調製した塗料を、基材の裏側ガラスクロスの表面に直接ブレードコート法により塗布し、100℃下で20分間乾燥して、厚さ1mmの塗料層を形成した。このようにして、基材と塗料層とが積層してなる参考例1のサンプルを製造した。参考例1のサンプルと実施例1のサンプルとは、空隙含有層を備えない点で相違する。参考例1のサンプルの構成は、前出
図2の断面模式図で示した構成と同じである。
【0068】
<断熱性の評価>
[実験装置および実験方法]
まず、実験装置の構成を説明する。
図8に、実験装置の概略図を示す。
図8に示すように、実験装置5は、断熱ボックス50と、空気加熱用ヒーター51と、第一熱電対52、と、ヒーターコントローラー53と、を備えている。断熱ボックス50は、アルミフレームに、壁材として厚さ40mmのフェノールフォーム断熱材(旭化成建材(株)製「ネオマフォーム(登録商標)」)を取付けて作製されている。断熱ボックス50の内寸は、縦215mm、横350mm、高さ150mmである。断熱ボックス50の上蓋500には、サンプル設置用の開口部501が形成されている。開口部501の大きさは、縦140mm、横220mmである。断熱ボックス50の内部には、空気加熱用ヒーター51と第一熱電対52とが配置されている。空気加熱用ヒーター51は、断熱ボックス50の外側に配置されているヒーターコントローラー53に電気的に接続されている。
【0069】
次に、実験方法を説明する。製造したサンプル54を、表皮層を下側にして、上蓋500の開口部501を塞ぐように配置した。サンプル54の上面には、第二熱電対55を取り付けた。外気温24℃の環境にて、断熱ボックス50の内部を空気加熱用ヒーター51で加熱した。この際、ヒーターコントローラー53により、断熱ボックス50内の温度が50℃になるように制御した。断熱ボックス50内の温度は、第一熱電対52により測定した。加熱開始時から、断熱ボックス50内の温度が50℃になり安定してから50分経過後まで(トータル100分間)、サンプル54の上面温度を第二熱電対55により測定した。
【0070】
[実験結果]
図9に、各サンプルの上面温度および断熱ボックス内の温度の経時変化をグラフで示す。
図9に示されるボックス内温度、上面温度のグラフは、いずれも上から比較例1、参考例1、実施例1、実施例2を示す。ここでは、以下の方法で算出した各サンプルの上面温度の変化量に基づいて、断熱性を評価した。まず、断熱ボックス内の温度が50℃になり安定してからの50分間(具体的には実験開始後50分~100分まで)におけるサンプルの上面温度の平均値を算出した。次に、同50分間の室温の平均値を算出し、サンプルの上面温度の平均値から室温の平均値を差し引いて、サンプルの上面温度の変化量とした。そして、比較例1(基材のみ)のサンプルの上面温度の変化量を基準にして、比較例1に対する各サンプルの上面温度の変化量の差から、流出熱量の削減率を次式(ii)により算出した。
流出熱量の削減率(%)=(ΔT
0-ΔT)/ΔT
0×100 ・・・(ii)
[式中、ΔT
0:比較例1のサンプルの上面温度の変化量、ΔT:各サンプルの上面温度の変化量]
流出熱量の削減率は、参考例1のサンプルでは11.9%であったのに対して、実施例1のサンプルでは25.8%、実施例2のサンプルでは37.5%となった。このように、本発明の内装部品によると、流出熱量を大幅に削減できることが確認された。すなわち、本発明の内装部品は、断熱性に優れることが確認された。特に本発明の断熱部材を備える内装部品(実施例2のサンプル)において、流出熱量の削減率がより大きくなった。
【0071】
<吸音性の評価>
製造したサンプルについて、JIS A1409:1998に準拠して残響時間を測定し、吸音率(α
s)を算出した。
図10に、各サンプルの吸音率をグラフで示す。グラフ中、矢印で示された周波数領域(1000~2000Hz)は、車室内での会話に影響を及ぼす領域である。実施例1、2のサンプルは、当該領域において高い吸音率を示した。以上より、本発明の内装部品は吸音性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
1:内装部品、10:基材、11:表皮層、12:発泡体層、13a:表側ガラスクロス、13b:裏側ガラスクロス、20、40、41:断熱部材、21:塗料層、22:空隙含有層、23:第一塗料層、24:第二塗料層、25:第一空隙含有層、26:第二空隙含有層、31、32、33、34:天井材(内装部品)、5:実験装置、50:断熱ボックス、51:空気加熱用ヒーター、52:第一熱電対、53:ヒーターコントローラー、54:サンプル、55:第二熱電対、500:上蓋、501:開口部。