(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20220927BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
F16F13/10 K
F16F13/10 J
B60K5/12 F
(21)【出願番号】P 2018179376
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】市川 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】水川 弘樹
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-143948(JP,U)
【文献】特開2009-243510(JP,A)
【文献】特開昭60-260733(JP,A)
【文献】米国特許第04653734(US,A)
【文献】特開昭57-084220(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02237354(GB,A)
【文献】特開2006-038015(JP,A)
【文献】特開2008-267453(JP,A)
【文献】実開昭61-087246(JP,U)
【文献】特開昭60-018632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12
7/00- 8/00
16/00
F16F 11/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕切部材によって隔てられた流体室を有する流体封入式防振装置において、
前記仕切部材には隙間をもって変位可能に可動体を収容する収容領域が形成されていると共に、該収容領域の両側の壁部に対向位置して開口する連通孔を通じて該収容領域が各一方の前記流体室に連通されており、前記可動体の各一方の該壁部への当接部分が球状面の弾性体とされており、且つ、
該可動体の収容された該収容領域が複数設けられており、
該複数の可動体が異なる大きさのものを含んでいることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
仕切部材によって隔てられた流体室を有する流体封入式防振装置において、
前記仕切部材には隙間をもって変位可能に可動体を収容する収容領域が形成されていると共に、該収容領域の両側の壁部に対向位置して開口する連通孔を通じて該収容領域が各一方の前記流体室に連通されており、前記可動体の各一方の該壁部への当接部分が球状面の弾性体とされており、且つ、
該可動体の収容された該収容領域が複数設けられており、
該複数の可動体が異なる材質のものを含んでいることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動体が球形状とされている請求項1
又は2に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウントやボデーマウント、メンバマウントなどに用いられる流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振支持体乃至は防振連結体の一種として、仕切部材によって隔てられた流体室を有する流体封入式防振装置が知られている。例えば特公昭62-53735号公報(特許文献1)に示される流体封入式防振装置では、仕切部材に可動板が板厚方向で変位可能に収容されており、流体室間の相対的な圧力変動を可動板で吸収軽減等するようになっている。
【0003】
ところが、このような流体封入式防振装置では、振動入力によって変位した可動板が仕切部材に打ち当たることで、異音や振動が発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題とするところは、可動体の仕切部材への打ち当たりに伴う異音や振動の如き問題を軽減乃至は防止することのできる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
本発明の第一の態様は、仕切部材によって隔てられた流体室を有する流体封入式防振装置において、前記仕切部材には隙間をもって変位可能に可動体を収容する収容領域が形成されていると共に、該収容領域の両側の壁部に対向位置して開口する連通孔を通じて該収容領域が各一方の前記流体室に連通されており、前記可動体の各一方の該壁部への当接部分が球状面の弾性体とされており、且つ、該可動体の収容された該収容領域が複数設けられており、該複数の可動体が異なる大きさのものを含んでいることを特徴とするものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動体の大きさを異ならせることで、可動体と仕切部材との当接面積や当接時の力の大きさなどを可動体毎に調節することができて、当接する際の打音や振動(周波数等)を分散させることができる。
【0013】
本発明の第二の態様は、仕切部材によって隔てられた流体室を有する流体封入式防振装置において、前記仕切部材には隙間をもって変位可能に可動体を収容する収容領域が形成されていると共に、該収容領域の両側の壁部に対向位置して開口する連通孔を通じて該収容領域が各一方の前記流体室に連通されており、前記可動体の各一方の該壁部への当接部分が球状面の弾性体とされており、且つ、該可動体の収容された該収容領域が複数設けられており、該複数の可動体が異なる材質のものを含んでいることを特徴とするものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動体の材質を異ならせることで、可動体と仕切部材との当接時の力の大きさなどを可動体毎に調節することができて、当接する際の打音や振動(周波数等)を分散させることができる。
【0015】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動体が球形状とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動体の方向性(回転変位の状態)に拘わらず、仕切部材に対して目的とする略一定の状態で当接させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動体が仕切部材に対して弾性体により構成された当接部分をもって略線状の小さな面積で当接することから、当接時の打音や振動を軽減乃至は防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図であって、
図4におけるI-I断面に相当する図。
【
図2】
図1に示された流体封入式防振装置を構成する仕切部材を示す斜視図。
【
図3】
図2に示された仕切部材における分解斜視図。
【
図6】
図2に示された仕切部材を構成する仕切部材本体を示す平面図。
【
図8】
図2に示された仕切部材を構成する蓋部材を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0020】
先ず、
図1には、本発明に係る流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で弾性連結された構造を有している。そして、第一の取付部材12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第二の取付部材14が車両ボデー側に取り付けられることで、パワーユニットと車両ボデーとの間に介装されて、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向および軸方向とは、マウント軸方向となる
図1中の上下方向をいう。
【0021】
より詳細には、第一の取付部材12は、全体として逆向きの略円錐台形状とされており、金属や硬質の合成樹脂からなる剛性部材とされている。この第一の取付部材12は、上端面から中心軸上に穿設されたねじ穴18を備えている。また、第一の取付部材12の上端部には、外周側に突出する略環状の外周フランジ状部20が一体形成されているとともに、外周フランジ状部20よりも下側が、下方に向って次第に小径化するテーパ状外周面を有する下方突部22とされている。
【0022】
また、第二の取付部材14は、全体として大径の略円筒形状を有しており、金属や硬質の合成樹脂からなる剛性部材とされている。かかる第二の取付部材14の上下方向中間部分には、軸直角方向に広がる環状の段差部24が設けられており、当該段差部24よりも上方が大径筒部26とされている一方、段差部24よりも下方が小径筒部28とされている。また、第二の取付部材14の下側開口縁部には、内周側に所定幅で突出する内周フランジ状部30が設けられている。
【0023】
そして、第二の取付部材14の軸方向上方に離隔して、第一の取付部材12が第二の取付部材14と略同軸上に配設されていると共に、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で連結されている。
【0024】
かかる本体ゴム弾性体16は、略截頭円錐形状とされており、軸方向上方に向かって次第に小径化するテーパ状の外周面を有している。そして、本体ゴム弾性体16の小径側端部に対して第一の取付部材12における下方突部22が埋め入れられた状態で、本体ゴム弾性体16の小径側端部が、第一の取付部材12における下方突部22の外周面の略全面に亘って重ね合わされて加硫接着されている。
【0025】
また、本体ゴム弾性体16の大径側端部が、第二の取付部材14における大径筒部26の内周面の略全面に亘って重ね合わされて加硫接着されている。
【0026】
なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が、第一の取付部材12と第二の取付部材14とを備えた一体加硫成形品として構成されている。そして、第二の取付部材14の上側の開口部が、本体ゴム弾性体16によって流体密に覆蓋されている。
【0027】
また、本体ゴム弾性体16の大径側端部には、逆向きの略すり鉢形状を呈する大径凹所32が形成されている。なお、第二の取付部材14における小径筒部28の内周面は、シールゴム層34で覆われている。
【0028】
さらに、第二の取付部材14には、下側の開口部から、仕切部材38と、可撓性膜40が嵌め入れられて組み付けられている。そして、第二の取付部材14の下側の開口部が可撓性膜40で覆蓋されることにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜40の軸方向対向面間に液室42が画成されている。更にまた、液室42には、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等の非圧縮性流体が封入されている。本実施形態では、封入流体として、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0029】
また、液室42は、略円板形状を有する仕切部材38で仕切られている。すなわち、軸直角方向に広がって配された仕切部材38の上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された流体室としての第一の流体室44が形成されていると共に、仕切部材38の下方には、壁部の一部が可撓性膜40で構成された流体室としての第二の流体室46が形成されており、これら第一の流体室44と第二の流体室46とが仕切部材38により隔てられている。本実施形態では、第一の流体室44により振動が入力される受圧室が構成されているとともに、第二の流体室46により容積変化が容易に許容される平衡室が構成されている。尤も、これら第一および第二の流体室44,46は、受圧室と平衡室に限定されるものではなく、振動入力に際して相対的な圧力変動が惹起されるものであればよい。
【0030】
なお、可撓性膜40は、変形容易なように弛みを持たせた薄肉円板形状のゴム膜で構成されている。また、可撓性膜40の外周縁部には、略円環形状を有するリング金具48が加硫接着されている。そして、可撓性膜40を備えたリング金具48が第二の取付部材14の下端開口部に内挿されてシールゴム層34を介して小径筒部28と内周フランジ状部30により固定的に支持されることで、可撓性膜40が第二の取付部材14に組み付けられている。
【0031】
また、仕切部材38は、
図2~5に示されているように、厚肉の略円板形状の仕切部材本体50に対して、薄肉の略円板形状の蓋部材52が上方から重ね合わされて相互に固定状態で組み付けられている。なお、これら仕切部材本体50および蓋部材52は、金属や硬質の合成樹脂などにより好適に形成され得る。
【0032】
そして、仕切部材38の外周面を周方向に延びる周溝54が第二の取付部材14の小径筒部28で覆蓋されることによって形成された第一のオリフィス通路56によって、第一の流体室44と第二の流体室46が相互に連通されている。而して、エンジンマウント10の車両装着状態で振動が入力されると、第一の流体室44と第二の流体室46との間に惹起される相対的な圧力変動に基づいて第一のオリフィス通路56を通じての流体流動が生ぜしめられるようになっている。この第一のオリフィス通路56を通じての流体の流動作用に基づいて、例えばエンジンシェイクなどの低周波大振幅振動に対する防振性能の向上が図られるように、第一のオリフィス通路56の長さや断面積などがチューニングされている。
【0033】
さらに、仕切部材38の中央部分には、中央空所58が形成されており、リリーフ弁60とコイルスプリング62が収容配置されている。中央空所58は、仕切部材本体50の円形の中央凹所64が蓋部材52で覆蓋されることで形成されており、中央凹所64の底壁の下側透孔66,66と蓋部材52の上側透孔68,68とを通じて、両流体室46,44に連通されることで短絡流路70を構成している。なお、中央凹所64の内周面には、深さ方向に延びる位置決め突部72が複数本(本実施形態では3本)形成されており、リリーフ弁60を、周囲に流路を確保しつつ上下に案内するようになっている。また、リリーフ弁60は、コイルスプリング62の付勢力で下方へ付勢されており、下側透孔66,66を覆蓋する状態で位置決めされている。
【0034】
そして、エンジンマウント10に対して衝撃的な荷重が及ぼされて第一の流体室44に大きな負圧が発生すると、コイルスプリング62の付勢力に抗してリリーフ弁60が上方に変位して短絡流路70が開放されることで、第一の流体室44における負圧が速やかに解消されるようになっている。これにより、衝撃的な大荷重の入力時におけるキャビテーションに起因する異音の防止が図られている。
【0035】
また、仕切部材本体50には、
図6,7にも示されるように、複数の円形凹所74および下側連通孔76が設けられており、径方向および周方向で互いに間隔を隔てて配置されている。特に本実施形態では、複数の円形凹所74および下側連通孔76として、大きさの異なるものが採用されており、円形凹所74が、径寸法および深さ寸法の大きな大円形凹所74aと、径寸法および深さ寸法の小さな小円形凹所74bとを含んで構成されている。これに伴って、下側連通孔76の大きさも異ならされており、大円形凹所74aの底壁部には、径寸法の大きな大連通孔76aが形成されている一方、小円形凹所74bの底壁部には、径寸法の小さな小連通孔76bが形成されている。なお、本実施形態では、小連通孔76bの下方開口部には、内径寸法が大きくされて仕切部材本体50の下面に開口する座繰部78が設けられており、小連通孔76bの実質的な長さ寸法が調整されている。
【0036】
一方、蓋部材52には、
図8,9にも示されるように、仕切部材本体50における円形凹所74と対応する位置に、上下方向で貫通する連通孔としての上側連通孔80が形成されている。本実施形態では、複数の円形凹所74と対応して、複数の上側連通孔80が形成されているとともに、当該複数の上側連通孔80において大きさが異なるものが含まれている。特に、本実施形態では、蓋部材52における上側連通孔80として、大円形凹所74aにおける大連通孔76aと上下方向で対向する位置に径寸法の大きな大連通孔80aが形成されている一方、小円形凹所74bにおける小連通孔76bと上下方向で対向する位置に径寸法の小さな小連通孔80bが形成されている。なお、これら大連通孔80aおよび小連通孔80bの内径寸法は、大円形凹所74aおよび小円形凹所74bの内径寸法より小さくされており、下側連通孔76における大連通孔76aおよび小連通孔76bの内径寸法と略等しくされている。
【0037】
そして、仕切部材本体50の各円形凹所74の上側開口部に対して蓋部材52の各上側連通孔80が位置合わせされて重ね合わされることで、仕切部材38の内部に、略円柱形状の収容領域82が形成されている。本実施形態では、複数の収容領域82が相互に独立して形成されて、各別に、上下の連通孔80,76を通じて各一方の流体室44,46にそれぞれ連通されている。特に本実施形態では、収容領域82が、大円形凹所74aと小円形凹所74bに対応して、大収容領域82aと小収容領域82bとを含んで構成されている。
【0038】
すなわち、これら大収容領域82aおよび小収容領域82bは、それぞれ、上側の壁部である蓋部材52に形成された上側連通孔80(大連通孔80aおよび小連通孔80b)を通じて第一の流体室44に連通されている一方、下側の壁部である円形凹所74の底壁部に形成された下側連通孔76(大連通孔76aおよび小連通孔76b)を通じて第二の流体室46に連通されている。
【0039】
特に本実施形態では、上側連通孔80(大連通孔80aおよび小連通孔80b)と収容領域82(大収容領域82aおよび小収容領域82b)と下側連通孔76(大連通孔76aおよび小連通孔76b)とにより、第一の流体室44と第二の流体室46とを連通する第二のオリフィス通路84が構成されている。そして、第二のオリフィス通路84を通じての流体の流動作用に基づいて、例えばアイドリング振動や走音こもり音などの高周波小振幅振動に対する防振性能の向上が図られるように、第二のオリフィス通路84の全体における長さや断面積などがチューニングされている。
【0040】
ここにおいて、第二のオリフィス通路84上における収容領域82には、可動体86が収容されている。これにより、可動体86には、上方から上側連通孔80を通じて第一の流体室44に封入された流体の流体圧が及ぼされる一方、下方から下側連通孔76を通じて第二の流体室46に封入された流体の流体圧が及ぼされるようになっている。本実施形態では、この可動体86は中実の球形状とされており、ゴムやエラストマなどの弾性体による形成品とされている。特に、本実施形態では、可動体86が略真球の外周面形状とされている。なお、
図3において、各可動体86の表面に示された大円の線は、作図上または成形上のパーティングラインを表すものに過ぎない。
【0041】
また、本実施形態では、複数の可動体86が採用されて、複数の収容領域82のそれぞれにおいて、一つずつ可動体86が収容されている。特に本実施形態では、これら複数の可動体86において大きさが異なるものが含まれており、大収容領域82aおよび小収容領域82bに対応して、複数の可動体86が、大可動体86aと小可動体86bとを含んで構成されている。なお、本実施形態では、これら複数の可動体86(大可動体86aおよび小可動体86b)が、何れも同じ材質の弾性体により構成されている。
【0042】
さらに、可動体86の外径寸法は収容領域82の内径寸法よりも小さくされており、可動体86と収容領域82を構成する壁部との間には、隙間88が設定されている。即ち、大可動体86aおよび小可動体86bの外径寸法が、大円形凹所74aおよび小円形凹所74bの内径寸法よりも僅かに小さくされており、大収容領域82aおよび小収容領域82b内で大可動体86aおよび小可動体86bが上下の移動ストロークの中間に位置せしめられた状態において、大可動体86aおよび小可動体86bの周囲に、大収容領域82aおよび小収容領域82bにおける内周壁部および上下壁部に対して隙間88が設定されている(
図1中の拡大図参照)。特に本実施形態では、大可動体86aおよび小可動体86bが、大収容領域82aおよび小収容領域82b内で、軸直角方向よりも軸方向において大きな変位が許容されている。
【0043】
以上の如き構造とされた本実施形態のエンジンマウント10では、前述の如き車両への装着状態下において、エンジンシェイクのような低周波大振幅の振動が入力された場合には、第一のオリフィス通路56を通じた流体流動に伴う防振効果が発揮される。かかる場合には、第二のオリフィス通路84において可動体86(大可動体86aおよび小可動体86b)が上下方向で変位し、仕切部材38における上側連通孔80(大連通孔80aおよび小連通孔80b)または下側連通孔76(大連通孔76aおよび小連通孔76b)の開口周縁部に可動体86が略隙間なく当接して、第二のオリフィス通路84を閉塞するようになっている。これにより、第一のオリフィス通路56を通じた流体流動が効率的に惹起されて、流体流動量も確保されることにより、流体の共振作用などの流体流動による防振効果が有効に安定して発揮され得る。
【0044】
その際、本実施形態では、可動体86が略真球の外周面形状とされていることから、収容領域82の上下両側の壁部に設けられた略円形の上側連通孔80および下側連通孔76に対する当接部分が球状面とされた外周面90とされており、可動体86が、上側連通孔80および下側連通孔76の開口周縁部に対して周方向で連続した円環状(略線状)に当接するようになっている。
【0045】
これにより、例えば可動体が従来の如き板形状とされる場合に比べて、仕切部材38への当接面積を小さく抑えることができて、打ち当たりに伴う異音や振動が効果的に抑制され得る。特に、可動体は仕切部材への当接状態で変形すると第一のオリフィス通路56を通じての流体流動量が減少して防振性能の低下につながるおそれがある。そのために、従来構造の平板状の可動体(可動板)では、変形剛性の確保と当接打音等の軽減という相反する要求特性の両立が困難であった。ここにおいて、本願発明では立体形状(実施形態では球体状)の可動体86を採用したことで、可動体86自体の弾性変形量を抑えて第一のオリフィス通路56による防振効果を良好に確保しつつ、仕切部材38への当接面積を小さくすることで、仮に弾性の小さい材質の可動体86でも集中的な当接荷重によって打ち当たり部分で有効な弾性変形を生ぜしめて良好な緩衝作用を得ることが可能となるのである。
【0046】
また、本実施形態では、可動体86が、大きさの大きな大可動体86aと大きさの小さな小可動体86bとを含んで構成されていることから、大可動体86aが仕切部材38(上側の大連通孔80aまたは下側の大連通孔76aの開口周縁部)に当接する際の当接部分の当接面積と、小可動体86bが仕切部材38(上側の小連通孔80bまたは下側の小連通孔76bの開口周縁部)に当接する際の当接部分の当接面積とを相互に異ならせることができる。これにより、可動体86が仕切部材38に当接する際の打音や振動を分散させることができて、異音や振動が低減され得る。
【0047】
一方、エンジンマウント10に対してアイドリング振動や走行こもり音のような高周波小振幅の振動が入力された場合には、可動体86が打ち当たらない振幅で収容領域82内において上下方向に往復移動して、第二のオリフィス通路84を通じた流体の流動作用や、可動体86の上下方向の変位に伴う圧力吸収作用などによって低動ばね効果が発揮され得る。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0049】
たとえば、可動体や収容領域の個数は何等限定されるものではなく、前記実施形態のように複数の収容領域82と複数の可動体86が設けられて各収容領域82に一つずつ可動体86が収容されてもよいし、収容領域と可動体とがそれぞれ一つだけ設けられる態様であってもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、複数の可動体86において異なる大きさのもの(大可動体86aおよび小可動体86b)が含まれて構成されていたが、複数の可動体が設けられる場合、全ての可動体は同じ大きさであってもよい。
【0051】
さらに、前記実施形態では、複数の可動体86において全て同じ材質が採用されていたが、複数の可動体が設けられる場合、少なくとも一つの可動体は、他とは材質の異なる弾性体により構成されてもよい。これにより、各可動体において質量や硬度を調節することができて、可動体と仕切部材との当接時に作用する力を異ならせて分散させたり、例えば第二のオリフィス通路によって発揮される防振効果の周波数域のブロード化を図るチューニングなども可能である。
【0052】
更にまた、可動体は、少なくとも当接部分である外周面が弾性体により構成されていればよく、例えば可動体の内部が金属や合成樹脂により構成されていてもよいし、中空であってもよい。さらに、外周面における特定の部位のみが連通孔の開口周縁部に当接する場合には、少なくとも当該特定の当接部位が球状面の弾性体により構成されていればよく、外周面におけるその他の部位は、例えば金属や合成樹脂などで形成されてもよいし、平面等の非球面形状であってもよい。即ち、可動体は、少なくとも当接部分が球状面であればよく、前記実施形態の如き全体が球状面とされているものや真球状面に限定されるものではない。尤も、真球又はそれに近い球状の外周面とすることで、可動体の方向に拘わらず、即ち可動体が如何なる方向に回転等して変位しても、連通孔の開口周縁部に対して線状の当接部分を安定して確保することが可能になる。その結果、特定部位だけが繰り返し打ち当たることが避けられるから、耐久性の向上等も図られ得る。このように、可動体の個数や大きさ、形状、材質などは、発生する打音や振動の大きさだけでなく、要求される防振特性などに応じて適宜設計可能であり、何等限定されるものではない。
【0053】
なお、可動体の変位時において、可動体は連通孔の開口周縁部に対して隙間なく当接することが好適であり、これにより、第一のオリフィス通路を通じた防振効果がより効果的に発揮され得る。尤も、可動体と連通孔の開口周縁部との当接時には、これらの間に僅かに隙間があってもよい。例えば、可動体の表面において、仕切部材との当接部分にシボ状等の緩衝用突起を設けることで製造上の寸法誤差による当接面の隙間発生の有無や隙間大きさのばらつきなどを抑えたり、当接衝撃の更なる緩和を図ることも可能であり、また、当接時の隙間を設定することで防振特性のチューニング等に利用しても良い。
【0054】
また、それぞれ可動体が収容された複数の収容領域は、完全に独立している必要はなく、互いに連通状態であっても良い。即ち、各収容領域内での可動体の移動状態(収容領域の両側開口部への当接状態を含む)が安定していれば良く、複数の収容領域間における流体的な独立性は本発明において必須でない。
【0055】
本発明に係る流体封入式防振装置は、前記実施形態の如き自動車用のエンジンマウントに限定されるものではなく、自動車用のストラットマウントやメンバマウント、ボデーマウントなどの防振装置に適用されてもよいし、自動車以外の防振装置に適用されてもよい。また、本体ゴム弾性体によって連結されたインナ軸部材とアウタ筒部材との間に流体室を形成した、従来から公知の筒型の流体封入式防振装置にも本発明は適用可能であり、適用される流体封入式防振装置の基本構造は限定されるものでない。
また、本発明は、もともと以下(i)~(v)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 仕切部材によって隔てられた流体室を有する流体封入式防振装置において、前記仕切部材には隙間をもって変位可能に可動体を収容する収容領域が形成されていると共に、該収容領域の両側の壁部に対向位置して開口する連通孔を通じて該収容領域が各一方の前記流体室に連通されており、前記可動体の各一方の該壁部への当接部分が球状面の弾性体とされていることを特徴とする流体封入式防振装置、
(ii) 前記可動体の収容された前記収容領域が複数設けられている請求項1に記載の流体封入式防振装置、
(iii) 前記複数の可動体が異なる大きさのものを含んでいる請求項2に記載の流体封入式防振装置、
(iv) 前記複数の可動体が異なる材質のものを含んでいる請求項2又は3に記載の流体封入式防振装置、
(v) 前記可動体が球形状とされている請求項1~4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、流体室間の相対的な圧力変動により可動体が変位して壁部へ当接する際に、壁部に設けられた連通孔の開口周縁部に対して弾性体からなる可動体の球状面が略線状の小さな面積で当接することから、例えば前記特許文献1のように平板状の可動体が仕切部材に対して面状に当接する場合に比べて、当接面積を小さくすることができて、可動体が仕切部材に打ち当たる際の打音や振動が軽減乃至は防止され得る。
上記(ii)に記載の発明では、複数の可動体が仕切部材に対して複数箇所で当接することから、可動体の変位で許容される圧力変動量乃至は流体流動量をトータルで確保しつつ、当接する際の衝撃が分散され得る。
上記(iii)に記載の発明では、可動体の大きさを異ならせることで、可動体と仕切部材との当接面積や当接時の力の大きさなどを可動体毎に調節することができて、当接する際の打音や振動(周波数等)を分散させることができる。
上記(iv)に記載の発明では、可動体の材質を異ならせることで、可動体と仕切部材との当接時の力の大きさなどを可動体毎に調節することができて、当接する際の打音や振動(周波数等)を分散させることができる。
上記(v)に記載の発明では、可動体の方向性(回転変位の状態)に拘わらず、仕切部材に対して目的とする略一定の状態で当接させることが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、38:仕切部材、44:第一の流体室(流体室)、46:第二の流体室(流体室)、76:下側連通孔(連通孔)、80:上側連通孔(連通孔)、82:収容領域、86:可動体、88:隙間、90:外周面(当接部分、球状面)