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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】小型成形品の印刷処理方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 1/40 20060101AFI20220927BHJP
   A61J 3/06 20060101ALI20220927BHJP
   B41J 21/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
B41M1/40 Z
A61J3/06 Q
B41J21/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018214052
(22)【出願日】2018-11-14
(65)【公開番号】P2020078920
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000209751
【氏名又は名称】池上通信機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野沢 省吾
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 太郎
(72)【発明者】
【氏名】込谷 太一
(72)【発明者】
【氏名】大槻 良彦
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130945(JP,A)
【文献】特開2017-177454(JP,A)
【文献】特開2018-57788(JP,A)
【文献】特開2017-124171(JP,A)
【文献】特開2018-1753(JP,A)
【文献】特開2015-166053(JP,A)
【文献】特開2016-10437(JP,A)
【文献】特開2020-18784(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0132722(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/40
A61J 3/06
B41J 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次印刷パターンが形成された小型成形品の端面に対して追加の2次印刷パターンを形成するための印刷処理方法であって、
観測部により前記端面を撮像して画像を取得する画像取得工程と、
当該取得された画像に基づいて、2次印刷パターンの形成を行うことを許容する印刷可能領域および禁止する印刷禁止領域を前記画像内で判定する領域判定工程と、
前記小型成形品の本来の外観特徴および前記1次印刷パターンに対応して、前記印刷可能領域に印刷を要求する印刷要求領域を定義する定義工程であって、当該定義を行うために、前記画像に前記印刷要求領域を示す印刷要求領域パターンを変位させて重ね合わせる設定工程と、
前記重ね合わせの過程で前記印刷要求領域パターン内に前記印刷禁止領域が観測されない、またはその面積が規定値以下である場合に、前記印刷要求領域パターンの変位量に基づいて印刷部を制御して印刷を行わせる制御工程と、
を備えたことを特徴とする印刷処理方法。
【請求項2】
前記1次印刷パターンを形成するために、
観測部により前記端面を撮像して画像を取得する画像取得工程と、
当該取得された画像に基づいて、2次印刷パターンの形成を行うことを許容する印刷可能領域および禁止する印刷禁止領域を前記画像内で判定する領域判定工程と、
前記小型成形品の本来の外観特徴および前記1次印刷パターンに対応して、前記印刷可能領域に印刷を要求する印刷要求領域を定義する定義工程であって、当該定義を行うために、前記画像に前記印刷要求領域を示す印刷要求領域パターンを変位させて重ね合わせる設定工程と、
前記重ね合わせの過程で前記印刷要求領域パターン内に前記印刷禁止領域が重複していない、またはその面積が規定値以下である場合に、前記印刷要求領域パターンの変位量に基づいて印刷部を制御して印刷を行わせる制御工程と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の印刷処理方法。
【請求項3】
前記小型成形品は厚み方向に対向する2つの端面を有し、
前記印刷部は、前記2つの端面に対してそれぞれ印刷を行うために、前記小型成形品を反転させる反転機構を挟んで、前記小型成形品の搬送方向の上流側および下流側に2つ設けられ、
前記画像取得工程では、2つの前記観測部により前記2つの端面をそれぞれ撮像して2つの画像を取得し、
前記領域判定工程では、前記2つの画像に対してそれぞれ前記印刷可能領域および前記印刷禁止領域を判定し、
前記定義工程では、前記2つの端面に対応してそれぞれ用意された2つの前記印刷要求領域パターンを前記2つの画像に対して同時に変位させて前記重ね合わせの処理を行う、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の印刷処理方法。
【請求項4】
前記観測部は、前記上流側および前記下流側の印刷部に対応して2つ設けられていることを特徴とする請求項3に記載の印刷処理方法。
【請求項5】
前記2次印刷パターンは、前記1次印刷パターンに重畳しないように形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の印刷処理方法。
【請求項6】
前記観測部は、前記小型成形品の色を検出する観測ユニットを有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の印刷処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型成形品の印刷処理方法に関し、特に小型成形品の外観特徴(形状など)や向きに対応して、適切な印刷を実施することができるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型成形品、例えば医薬品である錠剤には、種別などを認識するために、印刷手段を用いて錠剤表面に識別情報などを印刷する処理を行う場合が増えてきている。その場合、錠剤の外観特徴(形状や割線の有無など)に合わせて行われることが強く望ましく、また、印刷は欠陥のない錠剤に対してのみ行われることが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、対象物の表面を撮像する撮像機構と、当該撮像された画像を基に対象物の形状上の欠陥を検査する機構と、前記画像を基に表面に対して印刷を行う印刷機構とを備え、検査機構によって良品と判断された対象物に印刷を施すようにするとともに、前記画像を基に搬送面内における対象物の角度を検出し、当該検出角度に応じて基本の印刷データをテーブル変換または極座標変換することにより回転印刷パターンを生成する技術が開示されている。対象物には平面視楕円形の錠剤(以下、楕円錠という)が主として例示され、また、開示の技術は平面視円形であっても割線が形成された錠剤(以下、割線錠という)に対しても適用できる旨が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、割線錠に印刷を行うために、錠剤の一方面および他方面を撮像する第1および第2の撮像部と、一方面および他方面に対して印刷処理を行う第1および第2の印刷部と、を備えた構成が開示され、撮像によって取得された画像に基づいて割線の方向を特定し、割線が形成された面(表面)および反対側の面(裏面)に対し、割線に対する所定方向に応じて印刷処理を行うようにすることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、錠剤の一方面および他方面に付着した異物を検出する第1および第2の検出部と、一方面および他方面に対して印刷処理を行う第1および第2の印刷部と、を備えた構成が開示され、第1および第2の検出部によって異物が検出されなかった錠剤に対してのみ、第1および第2の印刷部の少なくとも一方に印刷処理を行わせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5934268号
【文献】特許第6325699号
【文献】特許第6297428号
【文献】特願2018-146943号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの特許文献1~3を含む従来技術では、印刷の向きを調整するために、ないしは印刷の可否を決定するために、それぞれ錠剤毎の検査が必要となっている。また、搬送面上での角度の特定を行うために、外観特徴の違いに応じて異なる手法が必要となることが考えられる(例えば特許文献1に例示された割線のない楕円錠に対する角度検出の手法は、平面視円形の割線錠に対しては適用できない)。
【0008】
本発明の目的は、錠剤など小型成形品毎の検査を要することなく、不良のない小型成形品に対してのみ適切な印刷が実施されるようにすることにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、1次印刷が行われた錠剤に対し、錠剤毎の検査を要することなく、適切に2次印刷を行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明は、1次印刷パターンが形成された小型成形品の端面に対して追加の2次印刷パターンを形成するための印刷処理方法であって、
観測部により前記端面を撮像して画像を取得する画像取得工程と、
当該取得された画像に基づいて、2次印刷パターンの形成を行うことを許容する印刷可能領域および禁止する印刷禁止領域を前記画像内で判定する領域判定工程と、
前記小型成形品の本来の外観特徴および前記1次印刷パターンに対応して、前記印刷可能領域に印刷を要求する印刷要求領域を定義する定義工程であって、当該定義を行うために、前記画像に前記印刷要求領域を示す印刷要求領域パターンを変位させて重ね合わせる設定工程と、
前記重ね合わせの過程で前記印刷要求領域パターン内に前記印刷禁止領域が観測されない、またはその面積が規定値以下である場合に、前記印刷要求領域パターンの変位量に基づいて印刷部を制御して印刷を行わせる制御工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷可能領域および印刷禁止領域が判定された錠剤などの小型成形品の画像に対し、小型成形品の本来の外観特徴に対応した印刷要求領域を示すパターンを変位させながら重ね合わせる処理を行い、重ね合わせの過程で前記パターン内に印刷禁止領域が観測されない、またはその面積が規定値以下となった場合にのみ、パターンの変位量に基づいて印刷部を制御して印刷を行わせる。これにより、向きや欠陥をその都度特定することなく、不良のない小型成形品に対してのみ適切な印刷を実施することができる。また、所望であれば錠剤の割線への印刷も可能となる。
【0012】
さらに、本発明によれば、先行する印刷(1次印刷)が行われた錠剤に対し、追加の印刷(2次印刷)を行うことで、例えば多数の錠剤に共通した基本情報を一括して印刷した後に、必要数の錠剤に対して追加的にトレース情報などを追加して印刷することができる。しかも、1次印刷パターンに対して2次印刷パターンは適切な位置関係をもって形成できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)および(b)は、割線模様を有する錠剤に対する印刷情報の配置を説明するための説明図である。
図2】(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る印刷可能領域、印刷禁止領域および印刷要求領域を定義する態様、並びにそれに基づく1次印刷および2次印刷の態様を説明するための模式図である。
図3】本発明印刷処理方法を実施する印刷処理システムの一例を説明するための模式図である。
図4図2のシステムで使用するメモリ構成の一例を示す模式図である。
図5】(a)~(d)は、図1の錠剤に対して1次印刷を実施する際の印刷要求領域の重ね合わせ処理を説明するための説明図である。
図6】(a)~(d)は、図1の錠剤に対して2次印刷を実施する際の印刷要求領域の重ね合わせ処理を説明するための説明図である。
図7】重ね合わせ処理に基づいて錠剤に印刷データを適用するため構成の一例を示す模式的回路図である。
図8】(a)および(b)は、割線に対して印刷を行うために印刷可能領域および印刷禁止領域を判定する態様および印刷要求領域を定義する態様を説明する説明図である。
図9図1とは異なる割線模様を有する錠剤に対して印刷可能領域および印刷禁止領域を判定し、印刷要求領域を定義する態様の2例を説明する説明図である。
図10】(a)および(b)は、異形錠(楕円錠)に対して本発明の一実施形態に係る印刷可能領域および印刷禁止領域を判定する態様および印刷要求領域を定義する態様を説明するための説明図である。
図11】(a)および(b)は、局所的に凹部を有する割線錠に対して本発明の一実施形態に係る印刷可能領域および印刷禁止領域を判定する態様および印刷要求領域を定義する態様を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0015】
なお、本発明の処理対象となる小型成形品としては、錠剤(粉末、顆粒あるいは液体を充填したカプセルを含む)のほか、キャンディやチョコレート菓子などの食品類、ボタンなどの留め具類、おはじきなどの玩具類等が挙げられる。しかし以下の実施形態では、厚み方向に対向する2つの端面を有する錠剤に対し、各端面に所要の印刷を施す方法を例示する。また、以下に説明する実施形態は、割線錠や、楕円錠などの異形錠に適用して好適なものであるが、割線の有無を問わず、さらに錠剤の形状を問わず、適用が可能であることは勿論である。
【0016】
(本発明の基本的構成)
上述した特許文献1、2は、錠剤毎に搬送面に対する角度を検出する処理を経た上で、形状(例えば平面視にて楕円形)に対して不自然な方向となる印刷を禁止する、ないしは、割線と交差する方向の印刷を禁止する技術に係るものである。また、特許文献1、3は、錠剤毎に欠陥の有無を検出した上で、欠陥のない錠剤に対してのみ印刷を実施する技術を開示している。
【0017】
これに対し、本発明は、本出願人が特許文献4にて提案した構成を基本的に採用する。当該構成は、
・搬送面に対する錠剤の角度や割線の角度(以下、これらの角度を「錠剤の向き」ともいう)
・割れや欠け、変色、表面に付着または内部に混入した異物などの欠陥
の検出ないし特定を行うことなく、欠陥のない錠剤に対してのみ所望の印刷を適切に行うという、従来技術とは全く異なる思想に基づくものである。
【0018】
本発明の基本的構成では、印刷対象となる各錠剤の端面の画像に基づいて印刷可能領域を判定し、さらにその余事象として印刷禁止領域を設定する。一方、錠剤の種類に応じた錠剤本来の外観特徴に対応して印刷を行う領域を要求する印刷要求領域という概念を導入し、印刷可能領域および印刷禁止領域の情報を含む錠剤毎の画像パターン(以下、個別パターン)に対し、印刷要求領域を示すパターン(以下、印刷要求パターン)を変位(後述する実施形態では移動および回転)させながら重ね合わせる処理を行い、当該印刷要求パターンの変位量(移動量および回転量)に基づいて印刷手段の制御を行う。
【0019】
つまり本発明は、錠剤の向きや欠陥をその都度特定し、それに基づいて印刷の可否を含めた印刷手段の制御、つまり、欠陥があるから印刷を行わない、割線がこの向きであるからその向きに揃うように印刷を行う、ということを基本的思想とするものではない。印刷要求パターンを個別パターンに重ね合わせる処理を行い、印刷要求パターンを通した印刷禁止領域の観測に基づいて印刷の制御を行うことを基本的思想とする。
【0020】
(本発明の発展的構成)
錠剤の印刷データには、製造者名、ロゴ、製造場所、薬剤名、製造年月日、ロット番号などの基本情報が含まれ得る。また昨今では、偽薬や不正なコピー商品(以下、偽錠という)への対策や、不正なルートでの流通に対処するために、トレーサビリティを向上する要望が多くなってきている。そのためには、販売者名や薬局名等(以下、トレース情報)が印刷されていれば効果的である。さらに、昨今ではユーザ(患者)にも治療協力の一環として内服遵守(服薬アドヒアランス)が求められるようなってきている。このことから、服薬アドヒアランスに資する情報(以下、アドヒアランス情報)として、個人情報(ユーザ名)や服用日時などが印刷されていれば至便である。
【0021】
基本情報は製造された大量の錠剤に共通して印刷すべき情報である一方、トレース情報は個々の販売者に対応して印刷すべき情報であって、販売者毎の印刷対象となる錠剤の数は当初の製造数より少ない。また、アドヒアランス情報は個々のユーザに対応して印刷される情報であって、印刷対象となる錠剤の数はさらに少なくなる。したがって、基本情報とトレース情報やアドヒアランス情報とを一括して印刷しようとすると、印刷内容の切り替えが必要となり、管理も煩雑なものとなる。
【0022】
そこで本発明は、多数の錠剤に共通した基本情報を一括して印刷した後に、必要数の錠剤に対して追加的にトレース情報やアドヒアランス情報を追加して印刷する構成を採用する。以下では、一括印刷される基本情報を1次印刷データ、その印刷を1次印刷と称し、追加して印刷されるトレース情報などを2次印刷データ、その印刷を2次印刷と称する。
【0023】
1次印刷データと2次印刷データとが別の情報(非補完的な情報)である場合、1次印刷データの印刷部位と重畳しないように(つまり1次印刷データによる1次印刷パターンの視認性を阻害しないように)2次印刷データによる2次印刷パターンが配置されるようにする。そのために、1次印刷では、上記基本的構成で説明した態様にて印刷要求領域(以下、1次印刷要求領域)を定義する処理を行い、2次印刷では、錠剤本来の外観特徴に対応することに加え、1次印刷パターンを避けて2次印刷パターンが配置されるように印刷要求領域(以下、2次印刷要求領域)を定義する。
【0024】
なお、1次印刷データおよび2次印刷データは、文字,数字,記号(以下、単に文字という)、またはこれらの少なくとも1つを含む文字列、あるいは図形、模様やバーコードなどであってもよい。つまり印刷される情報の内容に応じて適宜の形態とすることができる。また、典型的には錠剤の色(背景色)とは異なる色で印刷されて可視化されるが、所望であれば複数色またはフルカラー印刷がおこなわれるものでもよい。さらに、内容によっては可視情報だけでなく、不可視情報であってもよい。例えば、トレース情報に関しては、不可視インクによるステルス印刷が行われるものであってもよい。
【0025】
(定義)
本明細書および特許請求の範囲で使用する用語の定義をまとめれば次のとおりである。
【0026】
錠剤の「外観特徴」とは、検査対象とする種類の錠剤の本来の形状、割線および凹部などをいい、各錠剤に生じ得る欠陥を含む概念ではない。1次印刷可能領域および1次印刷禁止領域とは、撮像された各錠剤の端面の画像に基づいて判定される、それぞれ1次印刷データの印刷を行うことを許容する領域および禁止する領域をいう。1次印刷要求領域は、錠剤本来の外観特徴に対応して1次印刷パターンの配置を所望する範囲を十分に包含する領域である。
【0027】
また、2次印刷可能領域および2次印刷禁止領域とは、さらに1次印刷パターンに対応して、それぞれ2次印刷を行うことを許容する領域および禁止する領域をいう。2次印刷要求領域は、さらに1次印刷パターンに対応して2次印刷パターンの配置を所望する範囲を十分に包含する領域であり、1次印刷パターンと重畳しない印刷を行う場合には、当該部位に対応した範囲を除外して定義される。
【0028】
加えて、印刷処理および各領域に関連して付される「1次」や「2次」という語は、印刷の相対的な先後を表すものであって、最初に行われる印刷や2番目に行われる印刷であることを限定するものではない。
【0029】
(印刷例)
図1を用い、扁平な円柱形状を有し、分割を前提としない割線模様(デザイン割線)が一方の端面のみに形成されている錠剤(以下では、当該一方の端面を第1面、これと対向する端面を第2面という)に対する印刷状態を示している。ただし、この印刷状態および印刷の内容はあくまでも説明のための例示であることは勿論である。
【0030】
まず、図1(a)に示すように、第1面にはデザイン割線Bsを挟んで1次印刷データとしての製品名やロゴなどを含む基本情報に対応した1次印刷パターンMと、2次印刷データとしてのトレース情報などに対応した2次印刷パターンDとが配置されている。また、図1(b)に示すように、第2面にもデザイン割線対応領域Bs´を挟んで1次印刷パターンMと2次印刷パターンDとが配置されている。しかし、この例の錠剤Tsは分割を前提としていないため、例えばユーザが錠剤を裏返したときに第1面の印刷状態に対して不自然に感じないのであれば、印刷の向きは第1面と異なるものであってもよく、またデザイン割線対応領域Bs´上に印刷が行われてもよい。
【0031】
(印刷可能領域、印刷禁止領域および印刷要求領域の設定)
図2を用い、印刷可能領域、印刷禁止領域および印刷要求領域を設定する態様、並びにそれに基づく1次および2次印刷の態様を説明する。
【0032】
まず、図2(a)は、1次印刷データの印刷を行うために第1面に対して判定または定義した各領域を示す。符号Tbは錠剤Tsを撮像して得た画像から抽出された1次印刷可能領域の外縁と、その外側の領域Sとの境界であり、その外側領域Sすなわち1次印刷可能領域の背景に相当する領域を1次印刷禁止領域として判定する。
【0033】
また、第1面に対しては、境界Tbの内側においてデザイン割線Bsを除いた領域を印刷可能領域PA1とし、デザイン割線Bsは印刷禁止領域として判定する。そして、第1面に対しては、2点鎖線で示すように、境界Tbないし印刷可能領域PA1および割線Bに対してマージンを有する印刷要求領域PR1を定義する。このようにすれば、図2(b)に示すように、錠剤の外側の領域Sおよび割線Bs内にはみ出すことなく1次印刷データに対応した1次印刷パターンMの形成を行うことができる。
【0034】
次に、2次印刷に際しては、図2(b)のように1次印刷パターンが配置された第1面の画像を取得して、2次印刷可能領域および2次印刷禁止領域を判定する。本例の場合、2次印刷禁止領域には背景色とは色の異なる1次印刷パターンが含まれるものとなる。換言すれば、2次印刷可能領域PA2は、1次印刷可能領域PA1と同じ輪郭を有し、且つ1次印刷パターンMを除いた領域となる。
【0035】
そして、2点鎖線で示すように、境界Tbないし印刷可能領域PA1および割線Bに対してマージンを有し、且つ1次印刷パターンMの外側に破線で示すようなマージンを有する2次印刷要求領域PR2を定義する。以下では、この1次印刷パターンMに対してマージンを有する領域を2次印刷非要求領域PNRとして参照する。2次印刷非要求領域PNRは、1次印刷パターンMの全体を包含するように適切な広がりを持った形状として設定される。このようにすることで、図1(a)に示したように、錠剤の外側の領域Sおよび割線Bs内にはみ出すことなく、且つ1次印刷データとは重畳しない2次印刷パターンUの形成を行うことができる。
【0036】
なお、1次印刷パターンMが分離した文字の列で構成される場合には文字毎に(例えば文字の輪郭に沿った形状として)設定されるようにしてもよい。また、1次印刷パターンMの形状および寸法は1次印刷データから認識できるので、1次印刷パターンM自体をそのまま2次印刷禁止領域として判定するのではなく、1次印刷パターンMの外側に広がりを持った領域を2次印刷禁止領域として判定し、その2次印刷禁止領域またはさらに広がりを持った領域を2次印刷非要求領域PNRとしてもよい。
【0037】
以上、図1(a)に示した第1面に対する印刷結果を得る場合を例示したが、同図(b)に示したような第2面に対する印刷結果を得る場合にも同様の処理を適用できることは勿論である。すなわち、デザイン割線Bsが形成されていない第2面に対しても、第1面と同様に第1および第2印刷可能領域PA1およびPA2と、第1および第2印刷要求領域PR1およびPR2を定義することができる。そして、後述のように第1面および第2面の第1および第2印刷要求領域PR1をセットで変位させ、変位量に対応した第1および第2印刷データを用いることで、図1(a)および(b)に示したような印刷結果を得ることができる。ここで、第1面および第2面の印刷可能領域および印刷要求領域の形状は一致していなくてもよいことは言うまでもない。
【0038】
なお、印刷可能領域の寸法および形状は、錠剤を撮像して得た画像の輪郭にジャギーが現れることを考慮し、輪郭直近の内側に境界Tbを持つように定めることができる。あるいは、錠剤の2次元画像から観測される濃度、3次元画像から観測される搬送面からの高さ、または、色検査によって検出される色情報に閾値を設けて印刷可能領域と印刷禁止領域とが判定されるようにしてもよい。
【0039】
すなわち、その閾値で規定される条件を満たしている領域を印刷可能領域、満たしていない領域を印刷禁止領域と判定するのである。これによれば、外側領域および割線のほか、端面外周に沿って面取りが施されている錠剤であれば当該面取り部分、あるいは楕円錠であれば平面視にて外周に沿った部分は、印刷可能領域から排除されて印刷禁止領域として判定される。また、これによれば、割れや欠けなどの欠陥があった場合、それらの欠陥部分は、画像処理によって抽出された印刷可能領域に含まれない印刷禁止領域として判定される。さらに、錠剤の形状上の不良だけでなく、色検査装置,X線検査装置,近赤外線検査装置などを併用して濃度を観測し、濃度に閾値を設けることで変色,異物の付着または混入,成分異常によって所定の濃度条件を満たしていない部分を印刷禁止領域として印刷可能領域から排除することもできる。
【0040】
加えて、図2は、印刷要求領域PR1,PR2の外縁は境界Tbから有意に離隔しているように描かれているが、これは説明の便宜上のものである。実際は、後述する重ね合わせ処理の容易化や、印刷データの配置の誤差を考慮して、例えば数画素分、境界Tbの内側に印刷要求領域PR1,PR2の外縁が定義されるようにすればよい。
【0041】
さらに加えて、後述のように個別パターンに対する印刷要求パターンの重ね合わせを行う過程で利用するために、印刷禁止領域および印刷要求領域には識別情報が付加される。この例の割線錠は外側領域Sおよびデザイン割線Bs(場合によってはさらに欠陥部分)が印刷禁止領域として判定されるが、それぞれに同じ識別情報が付加されてもよいし、異なる識別情報が付加されてもよい。
【0042】
さらに、平錠と称される錠剤では、端面と側面とをつなぐ周縁部に傾斜面が設けられるのが一般的である(図9(b)参照)。また、楕円錠や糖衣錠などでは曲面となっている端面を有している(図10図11参照)。そのような傾斜面や曲面への印刷が望まれる場合には、傾斜面や曲面の傾きを補正した(投影した)ビットマップを作成し、印刷情報の視認性を高めた印刷を行うことができる。
【0043】
(印刷処理の概要)
図3は、本発明印刷処理方法を実施する印刷処理システムの一例を説明するための模式図であり、概して、図中左側の搬送方向上流側に配された第1処理部1と、右側の搬送方向下流側に配された第2処理部3と、これらの間にあって錠剤の表裏を反転する表裏反転機構2と、を備える。なお、図2において矢印で示す符号Xは錠剤の搬送方向を示している。
【0044】
第1処理部1は、不図示のホッパおよび錠剤整列機構から搬送されてきた錠剤Tに対し、当初搬送面に接していない端面(以下、便宜上「一端面」と称する)を観測する観測部1-1と、当初搬送面に接していた端面(以下、便宜上「他端面」と称する)を観測する観測部1-2と、錠剤内部を観測する観測部1-3とを備える。
【0045】
観測部1-1および1-2は、錠剤の端面の2次元画像を撮像するためのカメラを含む観測ユニット、または、光切断法によって錠剤の3次元形状を計測する観測ユニット、または、錠剤の色を検出するカメラを含む観測ユニットを有するものとすることができるが、これらの2以上の観測ユニットを含んでいてもよい。特に、2次印刷に際して1次印刷パターンを認識する上では、錠剤の色を検出するカメラを含むことが強く望ましい。観測部1-3は、X線により錠剤内部を観測する観測ユニット、または、錠剤の成分分析に供するべく近赤外線を使用して観測する観測ユニットとすることができるが、これらの双方を含むものであってもよい。
【0046】
これらの観測部で観測された錠剤の情報は領域判定部11に入力される。領域判定部11は、基本的に、観測部1-1および1-2で観測された画像(すなわち一端面および他端面の画像並びに背景画像)に基づいて、上述したような印刷可能領域および印刷禁止領域の判定を行う。
【0047】
印刷制御部13は、領域判定部11によって印刷可能領域および印刷禁止領域が判定された画像に対し、メモリ15に予め登録してある印刷要求パターンを変位(移動および/または回転)させながら重ね合わせる処理を行い(詳しくは後述する)、当該変位後の位置に基づいて設定した印刷データを印刷部17に送信する。
【0048】
メモリ15は、図4に示すように、複数種類(例えばm種類)の錠剤のそれぞれに対して印刷要求領域を規定するためのパターンに対応した印刷要求領域規定データT1~Tmと、錠剤に印刷される複数種類(例えばn種類)の印刷パターンに対応した印刷データP1~Pnとが格納されている。各印刷要求領域規定データは、錠剤の形状および寸法に合わせ、錠剤外へのはみ出しのない印刷を実施するために、錠剤の外縁領域を避けた寸法・形状の1次印刷要求領域PR1(図2(a))を定義するデータを有する。例えば上述のデザイン割線錠であれば、第1面および第2面の印刷要求領域PR1に対応したデータをセットとしたものとする。各印刷要求領域規定データはさらに、印刷非要求領域PNRを包含する2次印刷要求領域PR2(図2(c))を定義するデータを有する。例えば図1のデザイン割線錠であれば、第1面および第2面の印刷要求領域PR2に対応したデータをセットとしたものとする。なお、2次印刷非要求領域PNRは1次印刷パターンの画像から設定されるものでもよいが、1次印刷パターンの形状・寸法等は既知であるので、予め2次印刷領域規定データに含まれているほうが好ましい。
【0049】
各印刷データは、錠剤の第1面に印刷すべきデータ(例えば図1(a)に示した第1面の印刷データ)と、第2面に印刷すべきデータ(例えば図1(b)に示した第2面印刷データ)とをセットとしたものである。第1面および第2面の印刷データはいずれも、ある種類の錠剤に共通する1次印刷データと、複数の販売者に対応してそれぞれに個別に設定されている2次印刷データと、を含む。印刷は、後述のように、印刷対象として搬送されている錠剤の向きに適合するように実施されるが、本実施形態の場合、印刷部17に送信すべき印刷データは、錠剤の向きの特定に基づいて加工されるものではなく、印刷要求パターンの変位に基づいて取得される。この際、印刷データは、錠剤の両端面に対応してセットで用意された基本となる一対の印刷データを、印刷要求パターンの回転位置に基づいて加工することにより取得することができる。
【0050】
あるいは、図3の右側部分に示すように、回転位置と対応付けた第1面および第2面の印刷パターンを複数格納しておき、回転位置に対応したものを選択するようにしてもよい。例えば割線錠の場合、割線に対して5度以上の傾きがあると印刷品質の低下が認識されるので、搬送方向Xに対して錠剤が0度~180度傾いている範囲で、例えば1度刻みで印刷データを回転させた印刷パターンを用意すればよい。
【0051】
印刷部17は、例えば搬送方向Xと交差する方向に複数のノズルを配列してなるインクジェットヘッドを用いるものとすることができ、ノズルの配列範囲は、搬送方向Xと直交する方向(以下、Y方向)における搬送中心からのずれを考慮して定められる。印刷部17は錠剤Tの一端面に対して印刷を行うものであり、当該印刷後、錠剤Tは第2処理部3の印刷部37によって他端面に対する印刷が行われるようにするべく、表裏反転機構2によって反転される。
【0052】
第2処理部3は、第1処理部1の観測部1-1,1-2、領域判定部11、印刷制御部13および印刷部17とそれぞれ同様の構成の観測部3-1,3-2、領域判定部31、印刷制御部33および印刷部37を備える。第2処理部3の領域判定部31は、観測部3-1および3-2で観測された、表裏反転された錠剤Tの画像(すなわち他端面および一端面の画像並びに背景画像)に基づいて、領域判定部11と同様に印刷可能領域および印刷禁止領域の判定を行う。印刷制御部33は、印刷制御部13と同様に、メモリ15にアクセスして得た印刷要求パターンを移動および/または回転させながら重ね合わせる処理を行い、当該移動位置および/または回転位置に基づいて設定した印刷データを印刷部37に送信する。なお、第1処理部1から表裏反転機構2を経て第2処理部3に移送される過程で搬送面上での錠剤のずれが生じないように規制する手段が設けられているのであれば、領域判定部31、観測部3-1および3-2は設けられていなくてもよい。
【0053】
1次印刷が終了した錠剤は再供給装置120に導入される。再供給装置120は、当該導入された錠剤を貯留する貯留部と、全錠剤に対する1次印刷が終了した後に販売者等に個別の2次印刷を行うために、1次印刷済みの所要数の錠剤を印刷処理システムに再供給する再供給部と、を備えたものとすることができる。
【0054】
あるいは、図3の印刷処理システムでは1次印刷を行うのみとし、同様の構成の次段システム200で2次印刷を行うようにしてもよい。この場合において、次段システム200に至る錠剤の搬送路は必ずしも連続したものでなくてもよく、ストックされて一括して供給される1次印刷済みの錠剤を受容するものでもよい。また次段システム200は他の場所に設置されていてもよい。また、製造者のシステムである必要もなく、例えば販売者が設置するものであってもよい。これらのように1次印刷と2次印刷とを別のシステムで実施する場合には、それぞれのシステムに設けられるメモリには1次印刷または2次印刷を行うためのデータのみが格納されていればよい。
【0055】
(重ね合わせ処理の例)
図5(a)~(d)および図6(a)~(d)を用い、図1(a)および(c)のように判定された印刷可能領域および印刷禁止領域を含む画像に対し、印刷要求領域を設定するための重ね合わせ処理を説明する。
【0056】
図5(a)~(d)において、矩形の枠はカメラで撮像された画像に基づいて取得された範囲である。1次印刷を行うための重ね合わせ処理は、この範囲に1次印刷要求領域PR1を含んだパターン(1次印刷要求パターン)を重ね、これを通して外側領域Sが認識されず且つ割線Bsが認識されなくなるまで(ないしは、印刷禁止領域の面積が規定値以下となるまで)、当該パターンを移動および回転させることで実施される。
【0057】
より具体的には、図5(a)に示すように、印刷要求領域PR1を通して観測される1次印刷禁止領域の画素数をカウントしながら、まず1次印刷要求パターンをX方向に移動させて行き、画素数が最小となった点で移動を停止する。この点で、1次印刷要求パターンおよび1次印刷可能領域のパターンのX方向位置が揃うことになる(図5(b))。続いて、1次印刷要求パターンをY方向に移動させて行き、画素数が最小となった点で移動を停止する。この点で1次印刷要求パターンおよび1次印刷可能領域のパターンのY方向位置が揃い(図5(c))、両パターンの中心が一致する。
【0058】
次に、1次印刷要求領域PR1を通して見える印刷禁止領域(割線Bs)の画素数をカウントしながら、1次印刷要求パターンを時計方向CWまたは反時計方向CCWに回転させ、画素数が最小となった回転位置で停止する。これによって1次印刷要求パターンの重ね合わせが完了し、図5(d)に示すように印刷要求領域が定義される。また、これに応じて、+Y,-Y方向に複数のノズル70aを配列してなるインクジェットヘッド70に対しては、1次印刷に使用するノズルの配列範囲Nを設定し、規定のタイミングで1次印刷を実施することができる。さらに、図4に示したような回転位置(角度)に応じた1次印刷データを有している場合には、対応する印刷データに基づいてインクジェットヘッド70を駆動することができる。
【0059】
2次印刷を行うための重ね合わせ処理も同様である。1次印刷済みの錠剤の画像に基づいて取得された範囲に印刷非要求領域PNRを含んだ2次印刷要求領域PR2パターンを重ねる(図6(a))。そして、2次印刷可能領域のパターンと中心が一致するまで2次印刷要求パターンをXおよびY方向に移動させ(図6(b)、(c))、これを通して外側領域S、デザイン割線Bsおよび1次印刷パターンMが認識されなくなるまで、当該パターン回転させる(図6(d))。
【0060】
なお、以上の重ね合わせ処理において移動時にカウントされる画素数には、外側領域Sおよび割線Bsのものが含まれるが、これらに別の識別情報を付与しておくことで、移動時には外側領域Sの画素数のみがカウントされるようにしてもよい。また、2次印刷要求領域PR2の移動時に、印刷禁止領域となる1次印刷パターンMに対する印刷非要求領域PNRの重畳(マスク)状態が変化し、画素数の最小値の検出が困難となることが考えられ得る。その場合には、禁止領域となる外側領域Sおよび割線Bsと1次印刷パターンMとに別の識別情報を付与し、移動時には前者の画素数がカウントされるようにする一方、回転時には後者の画素数がカウントされるようにしてもよい。
【0061】
図3のシステムを用いた重ね合わせ処理は、詳細には例えば次のように実施することができる。これを1次印刷に関連して説明するが、2次印刷を行う場合も同様である。
【0062】
まず、当初搬送面に接していない端面(一端面)に第1面用の1次印刷要求パターンPR1を、当初搬送面に接していた端面(他端面)に第2面用の印刷要求パターンPR1(以下、混乱を避けるためにダッシュ記号を付して参照する)を適用し、セットで同時に変位(移動および回転)させながら重ね合わせ処理を行う。
【0063】
重ね合わせが成功した場合(1次印刷要求パターンPR1から観測される画素数が最小値となった場合、すなわち一端面が第1面となっており、したがって1次印刷要求パターンPR1から観測される画素数には変化がある一方、1次印刷要求パターンPR1´から観測される画素数には変化がない場合)には、印刷部17により一端面に印刷を実施し、表裏反転後、印刷部37により他端面に印刷を実施する。
【0064】
一方、重ね合わせが成功しなかった場合(1次印刷要求パターンPR1から観測される画素数が最小値とならなかった場合、すなわち一端面が第2面となっており、したがって1次印刷要求パターンPR1から観測される画素数には変化がない一方、1次印刷要求パターンPR1´から観測される画素数には変化がある場合)には、一端面に1次印刷要求パターンPR1´を、他端面に1次印刷要求パターンPR1を適用し、セットで変位(移動および回転)させる。その重ね合わせが成功すると、印刷部17により他端面に印刷を実施し、表裏反転後、印刷部37により一端面に印刷を実施する。
【0065】
重ね合わせ処理は次のように行うこともできる。
【0066】
図7は、重ね合わせ処理に基づいて錠剤に印刷データを適用するための他の構成の一例を示す模式的回路図である。この例では、一端面および他端面に対し、ともに第1面の1次印刷要求パターンPR1を適用し、セットで変位(移動および回転)させながら、カウンタCAおよびCBにて画素数をカウントする。最小値検出部MinAおよびMinBは当該カウント値を監視し、最小値が検出された場合には「1」、検出されない場合には「0」となる信号XおよびYをそれぞれ出力する。
【0067】
信号Xは第1面の1次印刷データとともにアンド回路A1に入力される一方、信号Xの反転信号は第2面の1次印刷データとともにアンド回路A2に入力される。アンド回路A1およびA2の出力はオア回路OAにてオア演算され、印刷部17に供給される。また、信号Yの反転信号は第1面の1次印刷データとともにアンド回路B1に入力される一方、信号Yは第2面の1次印刷データとともにアンド回路B2に入力される。アンド回路B1およびB2の出力はオア回路OBにてオア演算され、印刷部37に供給される。
【0068】
ここで、X=1(一端面が第1面、他端面が第2面)である場合、第1面1次印刷データが印刷部17に供給され、一端面に対する印刷が実施される。逆に、X=0(一端面が第2面、他端面が第1面)である場合、第2面1次印刷データが印刷部17に供給され、一端面に対する印刷が実施される。また、Y=1(他端面が第1面、一端面が第2面)である場合、第2面1次印刷データが印刷部37に供給され、他端面に対する印刷が実施される。逆に、Y=0(他端面が第2面、一端面が第1面)である場合、第1面1次印刷データが印刷部37に供給され、他端面に対する印刷が実施される。
【0069】
以上の構成によれば、一端面および他端面にそれぞれ1次印刷要求パターンPR1およびPR1´を適用した重ね合わせが成功しなかった場合に、適用関係を逆にして再度重ね合わせを行う必要がなくなる。
【0070】
(種々の外観特徴を有する錠剤への適用)
以上では、S字形状の割線模様(デザイン割線)Bsが刻印されている錠剤に本発明を適用した実施形態について説明したが、割線模様の形状は特に限定されない。例えば、図8に示すように交差した割線模様Bcが刻印されている場合、これを避けた部分に1次印刷可能領域PA4を判定し、割線模様Bcの部分を1次印刷禁止領域として判定するとともに、1次印刷可能領域PA4に1次印刷要求領域PR4-1を定義すれば、1次印刷パターンMの印刷を行うことができる。そして、1次印刷パターンMに対する印刷非要求領域PNRを含んだ2次印刷要求領域PR4-2を定義すれば、2次印刷パターンMの印刷を行うことができる。
【0071】
また、上述したようなデザイン割線ではなく、分割(例えば2分割)を前提とした割線が形成された錠剤に対しても本発明は有効に適用が可能である。この場合は、例えば図9(a)に示すように、割線Bを挟んで回転対称となる位置に1次印刷パターンMおよび2次印刷パターンDを形成することができる。すなわち、割線Bを避けた部分に1次印刷可能領域PA5を判定し、割線Bの部分を1次印刷禁止領域として判定するとともに、1次印刷可能領域PA5に1次印刷要求領域PR5-1を定義すれば、1次印刷パターンMの印刷を行うことができる。そして、1次印刷パターンMに対する印刷非要求領域PNRを含んだ2次印刷要求領域PR5-2を定義すれば、2次印刷パターンMの印刷を行うことができる。
【0072】
さらに本発明は、割線部分への印刷が望まれる場合にも対応可能である(これは、割線部分を避けた印刷を前提としている従来技術とは全く逆の思想である)。この場合、割線Bの部分の全体を1次印刷禁止領域として判定するのではなく、割線Bの稜線部分を避けた部分(端面から一定以上の深さを持つ直線状部分)に印刷可能領域を判定し、稜線部分に印刷禁止領域を判定することで、図9(a)に示すように割線Bの谷に沿って印刷要求領域PR5-3を定義する。これによれば、同図(b)のように直線状印刷パターンLを形成することができる。印刷部分Lが割線Bの延在方向の全体にわたって形成されていれば、割線位置を目視でき、分割を行い易くなる。また、直線状印刷パターンLが割線Bの谷の両側に跨って形成されていれば、分割された錠剤の割り口を目視し、直線が途切れていないかを確認することで、一点鎖線で示す分割線に沿った正確な2分割が行われたか否かを判定することができる。
【0073】
直線状印刷パターンLは1次印刷時に形成されるものでもよいし、2次印刷時に形成されるものでもよい。例えば成人では分割しないで服用する錠剤であれば、小児向けに処方する場合にのみ直線状印刷パターンLを印刷することで、分割すべき旨の注意を喚起する助けとなるので、2次印刷で直線状印刷パターンLを形成することが好ましいものとなる。
【0074】
なお、割線部分への印刷は、上述したデザイン割線を有する錠剤にも適用できる。この場合、割線模様Bs,Bc(図1(a),図8)の稜線部分に1次印刷禁止領域を判定し、稜線部分を避けた部分に1次印刷可能領域を判定する一方、割線Bs,Bcの谷に沿って印刷要求領域を定義すれば、図5の場合と同様に割線模様への印刷を行うことができる。
【0075】
加えて、本発明は、割線を持たない錠剤への適用も可能である。
【0076】
図10(a)は、短軸を中心として楕円を回転させた扁平な回転楕円体形状を有する錠剤(糖衣錠の一般的な形状である)の第1面を示す平面図である。このような錠剤に対しても、1次印刷パターンMに対応して印刷非要求領域PNRを設定することで、2次印刷パターンDを形成することができる。
【0077】
また、図10(a)および(b)に示すように、第1面に凹部Rを有していてもよく、その凹部Rの外縁の内側に、印刷パターンPpcを形成するための印刷要求領域PC(1次印刷時に形成されるものでもよいし、2次印刷時に形成されるものでもよい)を定義することができる。錠剤が糖衣錠である場合、染料インクは浸透定着が生じにくいために顔料インクが用いられるのが一般的であると考えられる。しかしこの例のように局所的な凹部の底面に印刷を施すこと、すなわち印刷が錠剤の表面に現れないことは、錠剤同士の擦れなどによって印刷が不鮮明になることを防止する上で効果的である。
【0078】
印刷要求領域PCを定義するための重ね合わせ処理に際しては、印刷要求領域PCとは別に、輪郭Tdないし印刷可能領域と相似形をなす仮想的な第2の印刷要求領域パターンを用意し、上記と同様の移動を行わせれば、X,Y方向の位置合わせが簡単なものとなる。そして、その位置合わせ終了後に、印刷要求領域PCを回転移動させることで、凹部Rへの印刷要求領域の定義を行えばよい。なお、凹部は図示の形状に限らず、例えば刻印などであってもよい。
【0079】
また、本発明に係る印刷処理方法は、平面視円形の錠剤だけでなく、図11に示すような、長軸を中心として楕円を回転させた形状(回転楕円体)を呈する楕円錠に対しても同様に適用できる。このような錠剤に対しても、1次印刷パターンMに対応して印刷非要求領域PNRを設定することで、2次印刷パターンDを形成することができる。
【0080】
(実施形態の効果)
以上の実施形態によれば、基本的に割線の有無および錠剤の向きの特定は行わず、印刷したい領域を規定する印刷要求領域の印刷要求パターンを重ね合わせることで、所望の印刷を適切に行うことができる。これは、多種多様の錠剤に対しフレキシブルな印刷が可能となることを意味する。
【0081】
また、先行する印刷(1次印刷)が行われた錠剤に対し、追加の印刷(2次印刷)を行うことで、例えば多数の錠剤に共通した基本情報を一括して印刷した後に、必要数の錠剤に対して追加的にトレース情報などを追加して印刷することができる。しかも、1次印刷パターンに対して2次印刷パターンは適切な位置関係をもって形成できるようになる。
【0082】
(その他)
なお本発明は、上述した実施形態および随所に述べた変形例に限られない。例えば図4では、X方向およびY方向の順に印刷要求パターンの移動を行うものとしたが、この順序は逆でもよい。また、搬送時にX方向またはY方向における錠剤のずれを規制する手段が付加されていれば、当該方向への移動処理は行われなくてもよい。さらに、両方向へのずれを規制する手段が付加されていれば、印刷要求パターンの移動は行わず、回転のみを行うものであってもよい。
【0083】
すなわち、本発明はそれらの規制手段の使用を排除するものではない。しかし特許文献1や特許文献2に開示された技術は、一旦錠剤ないし割線の向きが特定されても、それに合わせた印刷を行うためには、搬送過程でのずれが生じないようにする規制手段(例えば特許文献2における保持板)が必須となる。これに対し、本発明では錠剤のずれを厳格に規制する必要がない。基本的に重ね合わせ処理によってインクジェットヘッドの使用ノズル範囲や駆動タイミングを調整することができるからである。
【0084】
また以上では、主として錠剤の両端面に印刷を行う場合に対応した印刷処理システムの構成を例示したが、本発明は錠剤その他の小型成形品の1つの端面に対してのみ印刷を行う場合にも適用できることは勿論である。
【0085】
さらに、印刷可能領域および印刷禁止領域を判定するために観測部が用いる閾値を変更設定できるようにしてもよい。
【0086】
また、上述の実施形態では、1次印刷パターンを基本情報、2次印刷パターンをトレース情報として説明したが、アドヒアランス情報が含まれていてもよい。この場合、印刷する錠剤数はさらに少なくなるので、2次印刷以降に行う3次印刷にて形成されるようにしてもよい。また、アドヒアランス情報はユーザに直接関わり情報であって、印刷対象となる錠剤数は少ないので、調剤薬局などで行われるようにしてもよい。
【0087】
さらに加えて、上述した実施形態では、1次印刷データと2次印刷データとが別の情報を表すように重畳せずに印刷されるものとした。しかし両データで1つの情報を表す補完的なものとしてもよく、少なくとも一部が重畳して形成されるものでもよい。
【0088】
また、各次印刷される情報はあくまでも例示であって、印刷対象となる小型成形品によって適宜選択できるものである。例えば菓子などであれば、アニメーションなどのキャラクタを1次印刷パターンとし、メッセージや個人名などを2次以降の印刷で形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 第1処理部
1-1~1-3、3-1、3-2 観測部
2 表裏反転機構
3 第2処理部
11、31 領域判定部
13、33 印刷制御部
15 メモリ
17、37 印刷部
Ts 錠剤
Tb 境界
PA1、PA4、PA5、PA3 印刷可能領域
PR1、PR2、PR4-1、PR4-2、PR5-1、PR5-2 印刷要求領域
PNR 印刷非要求領域
M、D 印刷パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11