(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】多気室タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 17/01 20060101AFI20220927BHJP
B60C 5/20 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
B60C17/01
B60C5/20
(21)【出願番号】P 2018225976
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100211395
【氏名又は名称】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】和田 翔吾
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第02087349(FR,B1)
【文献】実開昭61-076705(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第102848862(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0279438(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1834926(KR,B1)
【文献】特開2015-077922(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01507082(GB,A)
【文献】特公昭37-001754(JP,B1)
【文献】特開2008-308125(JP,A)
【文献】国際公開第2019/115917(WO,A1)
【文献】米国特許第4280546(US,A)
【文献】仏国特許出願公開第2276953(FR,A1)
【文献】特開2007-1551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00-5/24
B60C 17/00-17/02
B60C 19/12
B60C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、
一対のビード部と、
前記トレッド部と前記ビード部との間に延在する一対のサイドウォール部と、
タイヤ赤道面を境とするタイヤ半部のいずれかにそれぞれ設けられ、かつ、タイヤ内腔を隔離して隣接する複数の気室を形成する、隔壁と、を備え、
前記隔壁のそれぞれは、タイヤ内壁面と連結されている第1連結部と、前記第1連結部よりも前記タイヤ内壁面のタイヤ径方向外側に連結されている第2連結部とを備え、
タイヤに流体が充填されている状態において、前記隔壁よりもタイヤ幅方向内側の空間に第1気室が形成され、前記隔壁と前記サイドウォール部のタイヤ内壁面との間の空間に第2気室が形成され
、
前記第2連結部は、前記トレッド部の接地端よりもタイヤ幅方向外側の位置で、かつ、前記トレッド部に設けられたベルトの最大幅位置よりもタイヤ幅方向内側の位置で、前記タイヤ内壁面に連結され、
前記隔壁のそれぞれは、前記第1気室に流体が充填されていない状態で、前記第2気室に所定の内圧を充填した場合に、最大荷重以下の荷重を拡張変形せずに支持可能な強度を有する、多気室タイヤ。
【請求項2】
前記ビード部は、ビードコアを含み、
前記第1連結部は、前記ビードコアよりもタイヤ径方向外側の前記タイヤ内壁面に連結されている、請求項
1に記載の多気室タイヤ。
【請求項3】
前記第2気室への通気を可能にする通気部材を更に備える、請求項
1又は2に記載の多気室タイヤ。
【請求項4】
前記通気部材は、前記サイドウォール部を貫く位置に配置されている、請求項
3に記載の多気室タイヤ。
【請求項5】
前記通気部材は、前記隔壁を貫く位置に配置されている、請求項
3又は4に記載の多気室タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多気室タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンク等のタイヤ破損によってタイヤの内圧が低下した状態でも一定距離を安全に走行可能なタイヤが知られている。例えば、特許文献1には、タイヤのサイドウォール部にサイド補強ゴムを配置したランフラットタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サイド補強ゴムを有するランフラットタイヤは、サイド補強ゴムを追加している分だけタイヤ径方向の剛性が高くなるため、通常走行時の乗り心地性が悪化するおそれがある。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、乗り心地性の悪化を抑制しつつ、タイヤ破損時に一定距離を安全に走行可能な、多気室タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多気室タイヤは、トレッド部と、一対のビード部と、前記トレッド部と前記ビード部との間に延在する一対のサイドウォール部と、タイヤ赤道面を境とするタイヤ半部のいずれかにそれぞれ設けられ、かつ、タイヤ内腔を隔離して隣接する複数の気室を形成する、隔壁と、を備え、前記隔壁のそれぞれは、タイヤ内壁面と連結されている第1連結部と、前記第1連結部よりも前記タイヤ内壁面のタイヤ径方向外側に連結されている第2連結部とを備え、タイヤに流体が充填されている状態において、前記隔壁よりもタイヤ幅方向内側の空間に第1気室が形成され、前記隔壁と前記サイドウォール部のタイヤ内壁面との間の空間に第2気室が形成される。
本発明に係る多気室タイヤによれば、乗り心地性の悪化を抑制しつつ、タイヤ破損時に一定距離を安全に走行することが可能となる。
【0007】
本発明に係る多気室タイヤでは、前記隔壁のそれぞれは、拡張変形を拘束する部材であることが好ましい。かかる構成によれば、多気室タイヤにおける気室の形状又は容積等を維持しやすくなる。
【0008】
本発明に係る多気室タイヤでは、前記ビード部は、ビードコアを含み、前記第1連結部は、前記ビードコアよりもタイヤ径方向外側の前記タイヤ内壁面に連結されていることが好ましい。かかる構成によれば、トレッド部にパンク等が発生した場合であっても、リムを介してタイヤ径方向外側に掛かる車両の荷重を第2気室によって適切に支えることができる。
【0009】
本発明に係る多気室タイヤでは、前記第2連結部は、前記トレッド部の接地端よりもタイヤ幅方向外側の前記タイヤ内壁面に連結されていることが好ましい。かかる構成によれば、トレッド部にパンク等が発生した場合であっても、第2気室から空気がタイヤ外部に漏洩しにくくなる。
【0010】
本発明に係る多気室タイヤでは、前記第2気室への通気を可能にする通気部材を更に備えることが好ましい。かかる構成によれば、繰り返し第2気室へ空気を充填することができ、多気室タイヤの利便性が向上する。
【0011】
本発明に係る多気室タイヤでは、前記通気部材は、サイドウォール部を貫く位置に配置されていることが好ましい。かかる構成によれば、多気室タイヤをリムに装着した状態で第2気室に空気を充填することができ、多気室タイヤの利便性が向上する。
【0012】
本発明に係る多気室タイヤでは、前記通気部材は、前記隔壁を貫く位置に配置されていることも好ましい。かかる構成によれば、リムに設けられたバルブ等から第1気室とともに第2気室に空気を充填することができ、多気室タイヤの利便性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乗り心地性の悪化を抑制しつつ、タイヤ破損時に一定距離を安全に走行可能な、多気室タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多気室タイヤの、タイヤ幅方向断面図である。
【
図2】本発明に係る多気室タイヤの変形例を示す、タイヤ幅方向断面図である。
【
図3】本発明に係る多気室タイヤの他の変形例を示す、タイヤ幅方向断面図である。
【
図4】
図1の多気室タイヤの、パンク時の変形形態の一例を概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。
【
図5】
図1の多気室タイヤの、パンク時の変形形態の他の例を概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る多気室タイヤについて図面を参照して例示説明する。各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0016】
以下、特に断りのない限り、各要素の寸法、長さ関係、位置関係等は、空気入りタイヤとしての多気室タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態で測定されるものとする。また、タイヤを適用リムに装着し、タイヤに規定内圧を充填し、最大荷重を負荷した状態で、路面と接する接地面のタイヤ幅方向の幅を、タイヤの接地幅といい、タイヤの接地幅のタイヤ幅方向の端部を接地端という。
【0017】
本明細書において、「適用リム」とは、空気入りタイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指すが、これらの産業規格に記載のないサイズの場合は、空気入りタイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。「適用リム」には、現行サイズに加えて将来的に前述の産業規格に含まれ得るサイズも含まれる。「将来的に記載されるサイズ」の例として、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズが挙げられ得る。
【0018】
本明細書において、「規定内圧」とは、前述したJATMA YEAR BOOK等の産業規格に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、前述した産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。また、本明細書において、「最大荷重」とは、前述した産業規格に記載されている適用サイズのタイヤにおける最大負荷能力に対応する荷重、又は、前述した産業規格に記載のないサイズの場合には、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する荷重を意味する。
【0019】
図1には、本発明の一実施形態に係る多気室タイヤ1(以下、「タイヤ1」とも称する。)をタイヤ幅方向に沿って切断した、タイヤ幅方向断面図が示されている。
図1において、タイヤ1は、タイヤ赤道面CLを境とするタイヤ半部のそれぞれに、タイヤの内腔を複数の空間に隔離している、一対の隔壁30a及び30bを備える。隔壁30a及び30bは、例えば、ゴムで被覆した膜部材であるが、これに限られず、空気等の気体の漏洩を妨げる任意の隔壁とすることができる。なお、以下、タイヤ内腔に充填される気体として、一般的な空気を例にして説明する。これによって、タイヤ1がリムに装着されて空気を充填された場合に、タイヤ内腔に、隔壁30a及び30bのタイヤ幅方向内側に第1気室20が形成され、隔壁30a及び30bのそれぞれのタイヤ幅方向外側に第2気室21a及び21bが形成される。以下、第2気室21a及び21bを特に区別しない場合に、単に、第2気室21と総称し、隔壁30a及び30bを特に区別しない場合、単に、隔壁30と総称する。
【0020】
本明細書において、タイヤ幅方向とは、タイヤ1の回転軸と平行な方向をいう。
図1において、タイヤ幅方向は、矢印Wで示される。また、タイヤ径方向とは、タイヤ1の回転軸と直交する方向をいう。
図1において、タイヤ径方向は、矢印Rで示される。タイヤ1は、タイヤ赤道面CLに対して対称な構成であるものとして説明するが、これに限らず、タイヤ赤道面CLに対して非対称な構成とすることができる。
【0021】
本明細書において、タイヤ径方向に沿ってタイヤ1の回転軸に近い側を「タイヤ径方向内側」と称し、タイヤ径方向に沿ってタイヤ1の回転軸から遠い側を「タイヤ径方向外側」と称する。一方、タイヤ幅方向に沿ってタイヤ赤道面CLに近い側を「タイヤ幅方向内側」と称し、タイヤ幅方向に沿ってタイヤ赤道面CLから遠い側を「タイヤ幅方向外側」と称する。
【0022】
図1に示すように、タイヤ1は、一対のビード部2と、一対のサイドウォール部3と、トレッド部4とを有している。サイドウォール部3は、トレッド部4とビード部2との間に延在している。サイドウォール部3は、ビード部2のタイヤ径方向外側に位置している。
【0023】
一対のビード部2は、ビードコア2aと、ビードフィラー2bと、をそれぞれ有している。ビードコア2aは、周囲をゴムにより被覆された複数のビードワイヤを備える。ビードワイヤはスチールコードにより形成されている。スチールコードは、例えば、スチールのモノフィラメント又は撚り線で形成することができる。ビードフィラー2bは、ゴム等で構成され、ビードコア2aに対してタイヤ径方向外側に位置している。本実施形態では、ビードフィラー2bは、タイヤ径方向外側に向けて厚みが減少している。タイヤ1は、ビードフィラー2bを設けない構造とすることができる。ビード部2は、タイヤ1をリムに装着したときに、タイヤ径方向内側及びタイヤ幅方向外側においてリムに接するように構成されている。
【0024】
タイヤ1は、カーカス5を有している。カーカス5は、一対のビードコア2a間にトロイダル状に延在してタイヤの骨格を形成している。カーカス5の端部側はビードコア2aに係止されている。具体的には、カーカス5は、ビードコア2a間に配置されたカーカス本体部5aと、ビードコア2aの周りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ折り返されているカーカス折返し部5bと、を有している。カーカス折返し部5bのタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側への長さは、任意とすることができる。また、カーカス5は、カーカス折返し部5bを有していない構造、或いはカーカス折返し部5bをビードコア2aに巻きつけている構造とすることができる。
【0025】
カーカス5は、1枚以上のカーカス層によって構成することができる。例えば、カーカス5は、タイヤ赤道面CLにおいてタイヤ径方向に積層して配置された2枚のカーカス層によって構成することができる。カーカス5のカーカス層を構成するカーカスコードは、例えば、ポリエステルで構成されるが、これに限られず、例えばナイロン、レーヨン、及びアラミドなどの有機繊維、並びにスチールなどの金属で構成することができる。本実施形態において、カーカス5は、ラジアル構造とされるが、これに限られず、バイアス構造とすることができる。
【0026】
トレッド部4におけるカーカス5のタイヤ径方向外側には、トレッド部4を補強するベルト6及びトレッドゴムが設けられている。ベルト6は、例えば、タイヤ径方向に積層された複数のベルト層によって構成することができる。ベルト6のベルト層を構成するベルトコードは、例えば、ポリエステルで構成されるが、これに限られず、例えばナイロン、レーヨン、及びアラミドなどの有機繊維、並びにスチールなどの金属で構成することができる。
【0027】
タイヤ1は、インナーライナー7を有している。インナーライナー7は、タイヤ1の内壁面を覆うように配置されている。インナーライナー7は、タイヤ赤道面CLにおいてタイヤ径方向に積層された複数のインナーライナー層によって構成することができる。インナーライナー7は、例えば、空気透過性の低いブチル系ゴムで構成される。ブチル系ゴムには、例えばブチルゴム、及びその誘導体であるハロゲン化ブチルゴムが含まれる。インナーライナー7は、ブチル系ゴムに限られず、他のゴム組成物、樹脂、又はエラストマで構成することができる。
【0028】
タイヤ1は、補強層8を有している。補強層8は、インナーライナー7よりもタイヤ内壁面内側に、タイヤ1の内壁面を覆うように配置されている。補強層8は、例えば、ゴムで被覆された膜部材であるが、フィルム等、空気等の気体の透過性が低い任意の部材とすることができる。これによって、補強層8は、その少なくとも一部が、気室を形成する隔壁30として機能する。補強層8は、第1連結部9aと第2連結部9bとにおいてインナーライナー7と連結されていて、かつ第1連結部9aと第2連結部9bとの間でインナーライナー7と離間している。本実施形態では、第1連結部9aはタイヤ赤道面CLを境に対称となる位置に2つ設けられている。第2連結部9bはタイヤ赤道面CLを境に対称となる位置に2つ設けられている。第1連結部9aと第2連結部9bとは、互いにタイヤ径方向において異なる位置に設けられている。第2連結部9bは、第1連結部9aよりもタイヤ径方向外側に位置している。
【0029】
本実施形態では、タイヤ1に空気が充填された場合に、タイヤ内腔において、インナーライナー7と補強層8とによって囲まれた空間と、補強層8よりもタイヤ幅方向内側の空間とに、内圧が付与された気室が形成される。このため、本実施形態では、補強層8の第1連結部9aと第2連結部9bとで囲まれた部分がそれぞれ前述した隔壁30a及び30bとして機能する。すなわち、それぞれタイヤ半部に位置する一対の隔壁30a及び30bは、第1連結部9aと、第2連結部9bとにおいてタイヤ内壁面と連結されている。ここで、タイヤ1に空気が充填された状態とは、タイヤ1を適用リムに装着し、所定の内圧を充填した状態である。例えば、タイヤ1に空気が充填された状態には、上述した基準状態が含まれる。補強層8よりもタイヤ幅方向内側の空間に形成される気室を第1気室20と称する。補強層8とサイドウォール部3のタイヤ内壁面とによって囲まれている空間に形成される気室を第2気室21a及び21bと称する。
図1には、タイヤ1に形成された、1つの第1気室20と2つの第2気室21a及び21bとが示されている。
【0030】
2つの第2気室21a及び21bは、それぞれタイヤ周方向に連続した1つの空間に形成されているが、これに限られず、それぞれ、例えばタイヤ周方向と交差する方向に延在するように設けられた隔壁等によってタイヤ周方向に分断して形成された複数の小気室で形成されてもよい。
【0031】
補強層8は、タイヤ1の内壁面に任意の方法で形成することができる。例えば、補強層8の形成時に、インナーライナー7と補強層8とを第1連結部9aと第2連結部9bとの間で剥離可能にタイヤ幅方向に互いに重ねて接着することができる。インナーライナー7と補強層8とは、例えば、補強層8のタイヤ幅方向外側の表面の第1連結部9aと第2連結部9bとの間の剥離領域に、シリコンオイル等の剥離剤を塗装することで、少なくとも一部を剥離可能に接着することができる。或いは、インナーライナー7と補強層8との間の剥離領域に剥離部材を挟着して成型することで、容易に剥離作業を行うことが可能となり、少なくとも一部を剥離可能に接着することができる。剥離部材は、例えば、加硫時にゴムが浸透しきらない程度に目の細かい伸縮性の編物状、織物状、綿状の部材、若しくはこれらを複数重ねた部材、又は樹脂フィルム等とすることができる。この形成方法を用いることによって、タイヤ1をより簡易な製造方法によって製造することが可能となり、製造コストの増大を抑制することができる。
【0032】
隔壁30が、補強層8の少なくとも一部をインナーライナー7から剥離して形成される例を上述したが、隔壁30の構成又は形成方法は、これに限定されない。例えば、隔壁30は、空気等の気体の透過性が低い任意のシート状部材の第1連結部9aと第2連結部9bとをタイヤ内壁面に接着して形成することができる。或いは、隔壁30は、空気等の気体の透過性が低い任意の中空のリング状部材の外表面の一部を、タイヤ内壁面に、第1連結部9aと第2連結部9bとをそれぞれ端部として接着して形成することができる。
【0033】
本実施形態において、隔壁30を形成する補強層8として、タイヤ1が備える他の部材の少なくとも一部が用いられていてもよい。例えば、補強層8は、上述したカーカス5の一部を構成するカーカス層であってもよい。かかる場合、補強層8であるカーカス層を、第1連結部9aと第2連結部9bとにおいて、他のカーカス層と連結して、かつ第1連結部9aと第2連結部9bとの間で他のカーカス層と離間することで、気室を形成する隔壁とすることができる。補強層8は、上述したインナーライナー7の一部を構成するインナーライナー層であってもよい。かかる場合、補強層8であるインナーライナー層を、第1連結部9aと第2連結部9bとにおいて他のインナーライナー層と連結して、かつ第1連結部9aと第2連結部9bとの間で他のインナーライナー層と離間することで、気室を形成する隔壁とすることができる。
【0034】
隔壁30の強度は、隔壁30と面する第2気室21に所定の内圧を充填された状態で拡張変形しない強度を有する。例えば、隔壁30の強度は、第1気室20に空気が充填されていない状態で、第2気室21a及び21bに規定内圧を充填した場合に、第2気室21a及び21bの内圧によって隔壁30が拡張変形しない強度とすることができる。例えば、隔壁30の強度は、第1気室20に空気が充填されていない状態で、第2気室21a及び21bに所定の内圧を充填した場合に、第2気室21a及び21bが最大荷重又は最大荷重未満の一定荷重を拡張変形せずに支持可能な強度とすることができる。隔壁30は、強度を増加するために、例えば、有機繊維、ガラス繊維、又はスチールコード等をゴム組成物又は樹脂で被覆して形成した部材、或いは、硬度の高いゴム組成物で形成した部材等を含む、拡張変形を拘束する部材とすることができる。
【0035】
隔壁30の第1連結部9a及び第2連結部9bは、タイヤ内壁面において、第1気室20に空気が充填されていない状態で、第2気室21a及び21bに所定の内圧を充填された場合に、第2気室21a及び21bが最大荷重又は最大荷重未満の一定荷重を支持可能な位置に連結することができる。例えば、第1連結部9aは、ビード部2のビードコア2aよりもタイヤ径方向外側のタイヤ内壁面に連結することができる。また、例えば、第2連結部9bは、トレッド部4の接地端よりもタイヤ幅方向外側に連結することができる。第2連結部9bは、ただし、トレッド部4の接地端よりもタイヤ幅方向内側に連結することもできる。
【0036】
また、
図1において、第2連結部9bは、ベルト6の最大幅位置よりもタイヤ幅方向外側の位置で、タイヤ内壁面に連結されているが、この限りではない。第2連結部9bは、ベルト6の最大幅位置よりもタイヤ幅方向内側の位置で、好ましくは、ベルト最大幅の10~20%だけベルト6の最大幅位置よりタイヤ幅方向内側に離間した位置で、タイヤ内壁面に連結されていてもよい。かかる構成によれば、タイヤ破損によって気室20bから空気が漏洩しているときに、第2気室21a及び21bに掛かる荷重をベルト6で支持することができ、タイヤ破損時における支持能力をより向上することができる。
【0037】
次に、本発明に係る多気室タイヤ1の変形例について図面を参照して説明する。
図2及び
図3は、多気室タイヤ1の変形例を示す、タイヤ幅方向断面図である。これらの変形例のタイヤ1は、第2気室21への通気を可能にする通気部材10を更に備える。通気部材10は、例えば、バルブであるが、これに限られず、機械式又は電磁式の弁等の、第2気室21への通気を可能にする任意の装置とすることができる。通気部材10は、タイヤ1の任意の位置に配置することができる。例えば、通気部材10は、
図2に示すように、インナーライナー7及びサイドウォール部3を貫く位置に配置することができる。これによって、通気部材10は、第2気室21とタイヤ1外部とを通気可能に接続している。また、通気部材10は、
図3に示すように、第1連結部9a及び第2連結部9bの間で隔壁30(補強層8)を貫く位置に配置することができる。かかる場合、通気部材10は、第1気室20と第2気室21とを通気可能に接続する。
図2及び
図3において、第2気室21a及び21bのそれぞれに対して1つずつの通気部材10が配置されているが、通気部材10の数はこれらに限られない。通気部材10は、タイヤ1の用途等に応じて、タイヤ1に任意の数にて配置することができる。
【0038】
通気部材10は、第2気室21への充填方向と第2気室21からの排気方向との双方向の通気を可能にする通気部材とすることができる。或いは、通気部材10は、第2気室21への充填方向又は第2気室21からの排気方向のうちの一方の通気を可能にする通気部材とすることができる。例えば、通気部材10は、第2気室21への充填方向の通気を妨げず、第2気室21からの排気方向の通気を妨げる通気部材とすることができる。或いは、通気部材10は、第2気室21への充填方向の通気を妨げて、第2気室21からの排気方向の通気を妨げない通気部材とすることもできる。かかる場合、通気部材10は、例えば、一定方向への通気を規制可能な逆止弁、或いは当該逆止弁を備えるバルブとすることができる。
【0039】
次に、本発明に係る多気室タイヤ1のパンク時の変形形態の一例について、図面を参照して説明する。通常時のタイヤ1は、第1気室20及び2つの第2気室21a及び21bには、それぞれ規定内圧となるように空気が充填されている。
【0040】
図4は、
図1に示すタイヤ1のトレッド部4にパンクが発生した状態を概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。トレッド部4にパンク等が発生すると、当該パンク等が発生した損傷部から第1気室20内の空気がタイヤ外部に漏洩する。この際、2つの第2気室21a及び21bは、第1気室20とそれぞれ隔壁30a及び30bによって区画されているため、第2気室21a及び21bからのタイヤ外部への空気の漏洩が起こらない。このため、第2気室21a及び21bが、車体を支え、パンク後の走行を可能にする。即ち、第2気室21a及び21bが、例えば、従来のランフラットタイヤのサイドウォール部に配置されたサイド補強ゴムと同等の役割を果たす。
【0041】
図5は、
図1に示すタイヤ1の第2気室21aが面するタイヤ半部のサイドウォール部3にパンクが発生した状態を概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。サイドウォール部3にパンク等が発生すると、当該パンク等が発生した損傷部から第2気室21a内の空気がタイヤ外部に漏洩する。この際、第1気室20及び第2気室21bは、第2気室21aと隔壁30aによって区画されているため、第1気室20及び第2気室21bからのタイヤ外部への空気の漏洩が起こらない。このため、第1気室20及び第2気室21bが、車体を支え、パンク後の走行を可能にする。このとき、第2気室21aの空気がタイヤ外部に漏洩することにより、第2気室21aの内圧が第1気室20の内圧よりも低下し、隔壁30aがタイヤ内壁面に密着する。隔壁30aがタイヤ内壁面に密着することにより、損傷部からの空気の漏洩も低減される。
【0042】
以上述べたように、本発明に係る多気室タイヤ1は、トレッド部4と、一対のビード部2と、トレッド部4とビード部2との間に延在する一対のサイドウォール部3と、タイヤ赤道面CLを境とするタイヤ半部のいずれかにそれぞれ設けられ、かつ、タイヤ内腔を隔離して隣接する複数の気室を形成する、隔壁30と、を備える。隔壁30のそれぞれは、タイヤ内壁面と連結されている第1連結部9aと、第1連結部9aよりもタイヤ内壁面のタイヤ径方向外側に連結されている第2連結部9bとを備える。タイヤ1に流体が充填されている状態において、2つの隔壁30よりもタイヤ幅方向内側の空間に第1気室20が形成され、2つの隔壁30とサイドウォール部3のタイヤ内壁面との間の空間に第2気室21が形成される。かかる構成によれば、サイドウォール部3にサイド補強ゴムを有する従来のランフラットタイヤに比べて、タイヤ径方向の剛性の増加等の、通常走行時の乗り心地性への影響を軽減することができる。一方で、タイヤ1の内部に複数の気室を有するため、複数の気室のうちいずれかが破損した場合であっても、継続して走行可能となる。これによって、乗り心地性の悪化を抑制しつつ、タイヤ破損時に一定距離を安全に走行することが可能となる。更に、かかる構成によれば、サイドウォール部3にサイド補強ゴムを追加する従来のランフラットタイヤに比べて、タイヤ1の重量の増加を抑えることができ、走行時の燃費の悪化を軽減することができる。
【0043】
本発明に係る多気室タイヤ1では、隔壁30のそれぞれは、拡張変形を拘束する部材であることが好ましい。かかる構成によれば、多気室タイヤ1における気室20の形状又は容積等を維持しやすくなる。
【0044】
本発明に係る多気室タイヤ1では、ビード部2は、ビードコア2aを含み、第1連結部9aは、ビードコア2aよりもタイヤ径方向外側のタイヤ内壁面に連結されていることが好ましい。かかる構成によれば、トレッド部4にパンク等が発生した場合であっても、リムを介してタイヤ径方向外側に掛かる車両の荷重を第2気室21によって適切に支持することができる。さらに、多気室タイヤ1の第1連結部9aよりもタイヤ径方向内側の、リムに装着される部分の形状は一般的なタイヤと同一とすることができる。これによって、特殊なリムを用意せずとも、後述する適用リムに装着することができ、多気室タイヤ1の利便性が向上する。
【0045】
本発明に係る多気室タイヤ1では、第2連結部9bは、トレッド部4の接地端よりもタイヤ幅方向外側のタイヤ内壁面に連結されていることが好ましい。かかる構成によれば、多気室タイヤ1を装着して走行中にパンク等が発生する蓋然性が高いトレッド部4の接地面にパンク等が発生した場合においても、第2気室21から空気が漏洩しにくくなり、より有効である。
【0046】
本発明に係る多気室タイヤ1は、第2気室21への通気を可能にする通気部材10を更に備えることが好ましい。かかる構成によれば、第2気室21の内圧が低下した場合において、多気室タイヤ1を交換せずとも、通気部材10から第2気室21へ空気を充填することで繰り返し多気室タイヤ1を利用することができ、多気室タイヤの利便性が向上する。
【0047】
本発明に係る多気室タイヤ1では、通気部材10は、サイドウォール部3を貫く位置に配置されていることが好ましい。かかる構成によれば、例えば、多気室タイヤ1をリムに装着した状態等であっても、通気部材10から直接、第2気室21へ繰り返して空気を充填することができ、多気室タイヤの利便性が向上する。
【0048】
本発明に係る多気室タイヤ1では、通気部材10は、隔壁30を貫く位置に配置されていることが好ましい。かかる構成によれば、多気室タイヤ1をリムに装着した状態で、リムに設けられたバルブ等から、第1気室20に空気を充填することで、通気部材10を介して、第2気室21にも空気を充填することができ、多気室タイヤの利便性が向上する。
【0049】
本発明を諸図面及び実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本発明に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各実施形態に含まれる構成又は機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能である。また、各実施形態に含まれる構成又は機能等は、他の実施形態に組み合わせて用いることができ、複数の構成又は機能等を1つに組み合わせたり、分割したり、或いは一部を省略したりすることが可能である。
【0050】
例えば、本発明において、第2気室21は一対のサイドウォール部3のそれぞれの内壁面側に1つずつ設けられているものとして説明したが、この限りではない。例えば、サイドウォール部3のそれぞれに、2つ以上の第2気室21を設けることができる。
【0051】
また、例えば、本発明において、タイヤ1は、タイヤ赤道面CLに対して対称な構成であるものとして説明したが、この限りではない。例えば、一対のサイドウォール部3の内壁面側にそれぞれに1つずつ設けられた2つの第2気室21は、その容積及び形状等の少なくとも1つを互いに異なるものとされることができる。
【0052】
また、例えば、本発明において、タイヤ1は、空気が充填されるものとして説明したが、この限りではない。例えば、タイヤ1ひいてはタイヤ1の気室には、窒素等の気体を充填することができる。また、例えば、タイヤ1ひいてはタイヤ1の気室には、気体に限らず、液体、ゲル状物質、又は粉粒体等の流体を充填することができる。
【0053】
また、例えば、本発明において、タイヤ1は、第1気室20及び第2気室21の少なくとも1つの内圧を計測するセンサと、通気部材10を制御するための制御装置と、を更に備える構成とすることができる。かかる場合、タイヤ1の内部又は外部に設置された制御装置は、センサによって計測された内圧に基づいて、パンクが発生したと判定された場合に、通気部材10における通気を制御することができる。
【0054】
また、例えば、本発明において、タイヤ1の内腔に形成される第2気室21の数は2つであるものとして説明したが、この限りではない。例えば、タイヤ1に形成される第2気室21の数は、タイヤ1の用途に応じて、2以上の任意の数とすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1:多気室タイヤ、 2:ビード部、 2a:ビードコア、 2b:ビードフィラー、 3:サイドウォール部、 4:トレッド部、 5:カーカス、 5a:カーカス本体部、 5b:カーカス折返し部、 6:ベルト、 7:インナーライナー、 8:補強層、 9a:第1連結部、 9b:第2連結部、 10(10a、10b):通気部材、 20:第1気室、 21(21a、21b):第2気室、 30(30a、30b):隔壁