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  • 特許-アセチル化木質要素の冷却 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】アセチル化木質要素の冷却
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
B27K5/00 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018567104
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2017065520
(87)【国際公開番号】W WO2017220772
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】16175947.7
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357170
【氏名又は名称】トライコヤ テクノロジーズ エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】TRICOYA TECHNOLOGIES LTD
【住所又は居所原語表記】Brettenham House, 19 Lancaster Place, London WC2E 7EN, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】カッペン,セオドラス ゲラルダス マリヌス マリア
(72)【発明者】
【氏名】ベンステッド,ステファン ジョン
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-198610(JP,A)
【文献】特表2015-511549(JP,A)
【文献】米国特許第06203859(US,B1)
【文献】英国特許出願公告第00223298(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0303751(US,A1)
【文献】特表2015-508027(JP,A)
【文献】国際公開第96/019526(WO,A3)
【文献】特開平03-130104(JP,A)
【文献】特開昭59-158205(JP,A)
【文献】BRELID,P.Larsson,The influence of post-treatments on acetyl content for removal of chemicals after acetylation,Holz als Roh- und Werkstoff,2002年,60,p.92-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質要素をアセチル化する工程と、前記アセチル化された木質要素を冷却する工程とを含み、前記冷却する工程が、前記アセチル化された木質要素に液体水を供給して湿潤化したアセチル化木質要素を得る工程と、前記湿潤化したアセチル化木質要素をガス流に曝露する工程とを含
乾燥木質要素1kg当たり100gから500gの水を噴霧により前記アセチル化された木質要素に塗布して前記湿潤化したアセチル化木質要素を作製し、
前記ガス流を、乾燥木質要素1kg当たり100gから500gの水を含む湿潤化したアセチル化木質要素のストリームに接触させ、
前記木質要素が、木質チップ、木質ストランド、および木質粒子からなる群から選択される1つ以上を含み、
前記ガス流を、少なくとも120℃の温度を有する湿潤化したアセチル化木質要素に接触させ、
前記木質要素の温度が、前記湿潤化した木質要素のガス流への曝露中、少なくとも30℃低下する、アセチル化木質要素の製造プロセス。
【請求項2】
前記木質要素が、少なくとも0.15mmの少なくとも2つの寸法を有する、請求項に記載のプロセス。
【請求項3】
前記木質要素が、長さ5mmから75mm、幅5mmから50mm、厚さ1.5mmから25mmの木質チップを含む、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
乾燥木質要素1kg当たり100gから250gの水を噴霧により前記アセチル化された木質要素に塗布して前記湿潤化したアセチル化木質要素を作製し、
前記ガス流を、乾燥木質要素1kg当たり100gから250gの水を含む木質要素のストリームに接触させる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ガス流が、5体積%未満の酸素を含む、請求項1から4の何れかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記ガス流への曝露中、湿潤化した木質要素を蒸発セクションを通って搬送する工程を含む、請求項1から5の何れかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記冷却する工程が、前記アセチル化された木質要素上に水を噴霧して均一に湿潤化した木質要素を得る工程と、続いて、前記蒸発セクションにおいて、5体積%未満の酸素を含むガス流を前記湿潤化した木質要素上に供給する工程とを含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ガス流が、前記木質要素に対してクロスフローで供給される、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記蒸発セクションがスクリューセクションを含み、前記スクリューセクションのスクリュー動作が前記木質要素の給送および均一化をもたらす、請求項に記載のプロセス。
【請求項10】
150℃以上の温度、20%を超えるアセチル含有量、および0.5重量%未満の残留酸含有量を有する木質要素に、液体水を噴霧して均一に湿潤化された木質要素を得る、請求項7から9の何れかに記載のプロセス。
【請求項11】
前記プロセスが、前記冷却された木質要素を貯蔵および/または処理する工程を更に含む、請求項1から10の何れかに記載のプロセス。
【請求項12】
前記湿潤化した木質要素をガス流に暴露する工程が蒸発セクション内で行われ、前記プロセスが、前記ガス流のガスを、前記蒸発セクションに連結された再循環ループを通って再循環する工程を含み、前記再循環ループ内で水蒸気が凝縮され、凝縮物が前記再循環ループから抜き出される、請求項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記再循環ループ内で、前記木質要素の乾燥重量に基づいて、少なくとも3重量%の水が凝縮される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記湿潤化した木質要素が30分未満の間前記ガス流に暴露される、請求項1から13の何れかに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却工程を含むアセチル化木質要素の製造プロセスに関する。この冷却工程において、木質要素は、好ましくは120℃から180℃の範囲の温度から好ましくは60℃未満の温度に冷却される。
【背景技術】
【0002】
木材のアセチル化は、耐久性のない軟質木材種の耐久性を改善する方法として長い間認識されてきた。アセチル化は、硬さや寸法安定性などの木材の特性を改善するために用いることができる。そのようなプロセスに関する背景参考文献には、WO2013/117641およびWO2013/139937が含まれる。木材のアセチル化は一般に、木質要素を、加熱しながら無水酢酸および/または酢酸を含むアセチル化流体に接触させることを伴う。アセチル化流体は一般に再循環される。
【0003】
木材のアセチル化によって、典型的には少なくとも120℃、または少なくとも150℃、しばしば160℃と180℃の間の温度を有する高温アセチル化木質要素がもたらされる。よって、アセチル化木質要素は貯蔵および更なる処理には高温過ぎる。そのような温度を有するアセチル化木質要素の貯蔵は、木質要素が周囲に対してゆっくりと冷えている間であっても、くすぶり(無炎燃焼)の危険を伴う。そのため、特にアセチル化木質要素を直ちに更なる処理にかけない場合、アセチル化木質要素の冷却が必要である。
【0004】
しかし、現在の冷却方法は、(アセチル化)木質要素には不十分である。木質要素はその低い熱伝達係数のために、冷却が難しい。特にガス冷却および間接熱交換による冷却の場合、この低い熱伝達係数が問題を引き起こす。アセチル化木質要素上に冷却ガスを流すことによる冷却は、十分に効率的ではなく、超高ガス流および木質要素の長い滞留時間を必要とするであろう。間接冷却では、冷却された機器から木質要素への熱伝達が非常に乏しいことから、均一で急速な冷却はもたらされない。冷却浴中にアセチル化木質要素を浸漬する更なる方法は、湿潤アセチル化木質要素をもたらす結果となるため魅力的ではない。冷却された木質要素は滴り落ちることさえある。更に、アセチル化木質要素から残留アセチル化流体が冷却液中に浸出する危険がある。
【0005】
従って、特にアセチル化木質要素のためのより良い冷却方法およびそのような方法を組み込んだプロセスが必要とされている。望ましくは、これらの方法は急速かつ効率的であり、先行技術による方法の上述した各不利点を伴わない。
【0006】
特開平6-198610号公報には、木材を細断して得られる木質繊維を液相中でアセチル化した後、このアウィセチル化木質繊維を集積して一体化成形するプロセスが記載されている。
【発明の概要】
【0007】
前述の各要望のうちの1つ以上により良く対処するために、本発明は一態様において、木質要素をアセチル化する工程と、そのアセチル化された木質要素を冷却する工程とを含み、冷却する工程が、アセチル化された木質要素に液体水を供給して湿潤化した木質要素を得る工程と、その湿潤化した木質要素をガス流に曝露する工程とを含む、アセチル化木質要素の製造プロセスを提供する。
【0008】
更なる態様において、本発明は、水噴霧チャンバと、前記水噴霧チャンバの下流の蒸発セクションと、ガス再循環ループとを備える冷却システムに関し、前記水噴霧チャンバは、木質要素用の入口と、水を噴霧するための液体分配器と、木質要素用の出口とを備え、蒸発セクションは、木質要素用の入口および出口と、木質要素を前記入口から前記出口へ連続的に給送するためのコンベアと、ガスを前記蒸発セクション内に導入するための少なくとも1つの開口部を有する入口コンジットと、ガスを前記蒸発セクション内から抜き出すための少なくとも1つの開口部を有する出口コンジットとを含み、前記各コンジットが前記ガス再循環ループに連結され、前記各コンジットの前記各開口部が前記木質要素用の入口および出口とは異なる。
【0009】
本発明は、木材アセチル化プラントにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による木質要素の冷却プロセスの非限定的な例示的実施形態のためのプロセス機構を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は一般に、アセチル化木質要素の製造およびアセチル化木質要素の冷却に関する。本発明は一態様において、高温アセチル化木質要素を液体を用いて湿潤化させることと湿潤化した木質要素から液体を蒸発させることとの組み合わせが、アセチル化木質要素の効率的な冷却をもたらすという賢明な洞察に基づく。従って、このプロセスは、液体、好ましくは水をアセチル化木質要素に供給して湿潤化した木質要素を得る工程と、湿潤化した木質要素をガス流に曝露する工程とを含む。ガス流への曝露が、木質要素と接触している水性液体の蒸発を引き起こし、その結果、木質要素の温度が低下する。本発明では、湿潤化および曝露を用いて高温アセチル化木質要素の蒸発冷却をもたらす。このことは、例えば蒸発冷却を用いて空気を冷却する空調方法と対照をなし得る。
【0012】
このプロセスは、木質要素をアセチル化する工程を含む。木質要素をアセチル化する工程は一般に、木質要素を無水酢酸および/または酢酸を含むアセチル化流体と接触させることを伴う。接触中、木質要素の温度は120℃から180℃の範囲の温度まで、より好ましくは150℃から180℃の範囲の最終温度まで上昇する。
【0013】
アセチル化工程は、好ましくは連続的なプロセス工程である。このプロセスは、バッチまたは連続プロセスであり得るか、またはバッチプロセス工程と連続プロセス工程との組み合わせを含み得る。好ましくは、冷却工程は連続プロセス工程である。より好ましくは、曝露工程は連続プロセス工程である。
【0014】
好ましくは、アセチル化は、例えば減圧下で、アセチル化木質要素から過剰のアセチル化液を除去することを含む。好ましくは、このプロセスは、アセチル化と冷却工程の間に仕上げ工程を含む。仕上げ工程は一般に、木質要素の、未反応の無水酢酸および形成された酢酸の含有量を減少させることを目的とする。仕上げ工程は、好ましくは、アセチル化木質要素を減圧および/または約130℃以上などの高温に曝露することを含む。多くの場合、仕上げ工程から得られた木質要素は、150℃を超えるなど、120℃を超える温度を有する。
【0015】
好ましくは、アセチル化され、任意的に仕上げに供された木質要素は、150℃以上など、120℃以上の温度を有し、好ましくはその幾何学的中心において、好ましくは、15重量%を超える、または17重量%を超える、または20%を超える、または21重量%を超えるアセチル含有量を有する。好ましくは、アセチル化木質要素はまた、例えば仕上げ工程によって得られる、乾燥ベースで1重量%未満、または0.9重量%未満、または0.5重量%未満の残留酸含有量を有する。好ましくは、冷却された木質要素は、そのようなアセチル含有量および/または残留酸含有量を有する。
【0016】
木材のアセチル含有量は以下のように求めることができる。各試料を木質粒子に粉砕する。これらの試料から、残留する微量の酢酸および/または無水酢酸を水で洗浄し、続いて103±2℃で14時間から24時間の間乾燥させることによって除去する。これらの乾燥させた試料を秤量した後、典型的には90℃である高温で水酸化ナトリウム溶液を用いて鹸化することにより、アセチル基を酢酸イオンの形態で木材から放出させる。この鹸化反応を15分毎に攪拌しながら4時間進行させる。酢酸イオンは、標準酢酸溶液を用いて較正した高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により、酪酸ナトリウムを内部基準として用いて定量する。
【0017】
残留酢酸(RA)含有量は、木材に含まれる残留非結合酢酸(残留非結合無水酢酸の加水分解によって形成される酢酸を含む)の尺度である。酢酸はまた、木材自体に由来することもあるため、RAは元々ある酢酸とアセチル化反応の残りの酢酸の両方を測定する。残留酸含有量(RA)を求めるには、明確に定義された量である3gから5gの試料材料を脱塩水中で1時間振とうする。この抽出工程の後、試料を濾過によって水画分から分離する。続いて、この水画分を既知の水酸化ナトリウム(NaOH)溶液でフェノールフタレインを指示薬として用いて滴定し、試料の残留酸濃度を計算することができる。
【0018】
このプロセスは、アセチル化木質要素を冷却する工程を含む。好ましくは、木質要素は、一般には5℃を超える周囲温度など、100℃未満、または80℃未満、より好ましくは60℃未満、または40℃未満の温度に冷却される。好ましくは、木質要素の温度は、前記冷却中、より特にガス流への曝露中、少なくとも30℃、または少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも80℃低下する。好ましくは、蒸発セクションの出口における木質要素は、例えば周囲温度である、100℃未満、または80℃未満、より好ましくは60℃未満、または40℃未満の温度を有する。例えば不活性雰囲気である、周囲とは異なる雰囲気が蒸発セクション内で維持される場合、蒸発セクションの出口は任意的に、木質要素の周囲雰囲気への、および/またはガス流とは異なる雰囲気への移動によって特徴づけられる。好ましくは、この冷却は30分未満または15分未満に達成される。
【0019】
冷却された木質要素は、例えば、特に蒸発セクションの出口において、例えば1重量%から8重量%、または5重量%から10重量%の範囲にある、35重量%未満の含水量を有する。
【0020】
本発明は一般に、アセチル化木質要素の製造に関する。特に木質チップ、ストランド、および粒子は、比表面積(m2表面積/1kgの木材)がより低いことから、例えば木質繊維と比較して冷却するのが難しい。
【0021】
木質要素は、例えば、木質チップ、木質ストランド、および木質粒子からなる群から選択される1つ以上を含むか、またはそれからなる。本発明のプロセスおよびシステムは、例えば、耐久性および非耐久性の硬質木材並びに耐久性および非耐久性の軟質木材のアセチル化に用いられる。木質要素は、好ましくは、非耐久性の硬質木材または、例えば、典型的にはトウヒ、マツ、またはモミなどの針葉樹類である軟質木材のような非耐久性木材種に属する。木材の好ましい種類は、トウヒ、ベイトウヒ、カイガンショウ、ヨーロッパアカマツ、ラジアータマツ、ユーカリ、レッドアルダー、ヨーロッパアルダー、ブナ、およびシラカバである。
【0022】
いくつかの種類の木質要素の典型的な寸法を以下の表1に示す。好ましいのは、表1に定義されるような木質チップ、ストランド、および粒子、並びに任意的にスライバーである。好ましくは、より均一な冷却を達成するために、木質要素は表1に定義されるような各種の木質要素のうちの1つからなる。一部の実施形態において、木質粒子は、1.0mmから5.0mmの幅および/または厚さを有する。好ましくは、木質要素は、少なくとも0.15mmの少なくとも2つの寸法(直交方向における)を有する。
【0023】
【表1】
【0024】
冷却は、木質要素に液体水を供給して湿潤化した木質要素を得ることを含む。この液体水は、任意的に、他の成分を含む液体ストリームとして、または例えば99重量%を超えて本質的に水からなる液体ストリームとして供給される。
【0025】
好ましくは、液体水を木質要素の表面に供給し、好ましくは、木質要素を液体水と接触させる。好ましくは、このプロセスは、木質要素を湿潤チャンバ内に導入する工程と、液体水を湿潤チャンバ内に導入する工程とを含む。一部の実施形態において、湿潤化は湿潤チャンバ内における凝縮を伴わない。一部の任意的な実施形態において、このプロセスは、例えば、木質要素と接触している湿潤チャンバ内に蒸気を導入する工程を含まない。好ましくは、木質要素に供給される液体水の量は、乾燥木質要素1kg当たり100gから150gの水など、10gから500gの水、より好ましくは50gから400gの水、または100gから500gの水、更により好ましくは100gから250gの水の範囲である。好ましくは、木質要素を、乾燥木質要素1kg当たり100gから150gの水など、乾燥木質要素1kg当たり10gから500gの水、より好ましくは50gから400gの水、更により好ましくは100gから250gの水と接触させる。これによって、より良い冷却がもたらされる。好ましくは、木質要素を含むストリームは、湿潤チャンバの出口において、乾燥木材1kg当たりそのような量の水を含み、蒸発セクションの入口のおいても依然としてそのような量を含む。好ましくは、ガス流を、そのような量の水を有する木質要素を含むストリームに接触させる。
【0026】
湿潤チャンバ内に導入された液体水の温度は、10℃と50℃の間など、例えば5℃から95℃の範囲である。湿潤化は、好ましくは、1baraと5baraの間などの周囲圧力で行われる。好ましくは、湿潤化したアセチル化木質要素は、150℃以上など、100℃以上、または120℃以上の温度を有する。
【0027】
好ましくは、湿潤化したアセチル化木質要素は、アセチル化工程から湿潤チャンバの入口まで、不活性ガスおよび/または真空下などの低酸素条件下に維持される。本明細書において、低酸素条件は、例えば5kPa未満、または2kPa未満の酸素分圧を含む。これによって、有利に、木質要素の炭化を防止することが可能になる。従って、湿潤化したアセチル化木質要素は、アセチル化工程から湿潤チャンバの入口まで、そして湿潤チャンバの入口においても、150℃以上など、例えば120℃以上の高温である。
【0028】
高温アセチル化木質要素は、例えば重力流によって、またはコンベアを用いて、湿潤チャンバを通って給送されてもよい。
【0029】
好ましくは、一部またはすべての水を噴霧により木質要素に供給することによって、好ましくは均一に湿潤化した木質要素を得る。噴霧はまた、木質要素の湿潤化中に限定的な顕熱交換をもたらす。好ましくは、木質要素は、水を噴霧するための少なくとも1つの液体分配器を含むチャンバ内で湿潤化される。好ましくは、水はノズルを通して噴霧される。任意的に、水は、250μmから550μmの範囲など、少なくとも100μm、または少なくとも250μmの体積平均径を有する液滴として噴霧される。好ましいプロセスにおいて、噴霧は、液滴の蒸発を促進するよりはむしろ、高温アセチル化木質要素の表面上および高温アセチル化木質要素間の空隙内に液体水を分配して供給するために用いられる。噴霧は、例えば移動ヘッドを用いて水を降り注ぐことを含み得る。任意的に、10重量%未満の導入された液体水が、任意的にアセチル化木質要素と接触することなく、湿潤チャンバ内で蒸発する。
【0030】
冷却は、湿潤化した木質要素をガス状媒体、特にガス流に、通常は蒸発セクション内で曝露することを含む蒸発工程を更に含む。好ましくは、そのようなガス流への曝露の開始時および/またはそのような蒸発セクションの入口におけるアセチル化湿潤木質要素は、150℃以上など、120℃以上の温度を有する。この曝露の結果、水が木質要素から蒸発し、必要な気化熱が木質要素から抜き出され、それによって木質要素の温度が低下する。好ましくは、ガス流への曝露中、温度は少なくとも だけ低下する。
【0031】
好ましくは、湿潤化した木質要素は、水蒸気が木質要素から連続的に除去されるようにガス流に曝露される。好ましくは、木質要素は、湿潤化した木質要素の温度において、50%未満、または20%未満、または10%未満の相対湿度を有するガス状流に曝露される。より特に、これは、蒸発セクションの木質要素用の入口における木質要素の温度に基づく相対湿度として計算された、蒸発セクションの入口におけるガス流の含水量を指す。この入口におけるガス流は一般に、蒸発セクション内に導入された木質要素よりも少なくとも10℃、または少なくとも20℃、または少なくとも50℃、または少なくとも100℃低い温度を有する。
【0032】
蒸発セクションは、好ましくは、1baraと2baraの間など、0.5baraから5.0baraの範囲の圧力、好ましくは周囲圧力で操作される。
【0033】
好ましくは、湿潤化した木質要素は、好ましくは連続的に蒸発セクションを通って搬送される。湿潤化した木質要素はまた、不動の間に空気流に曝露されてもよい。蒸発セクション内における木質要素の滞留時間は、例えば、5分から10分の範囲など、30分未満、または15分未満、または10分未満である。
【0034】
好ましくは、ガス流は、高温湿潤アセチル化木質要素を酸化しないように、周囲雰囲気よりも低い酸素濃度を有する。高温湿潤アセチル化木質要素は、例えば120℃以上、または150℃以上である。よって一般に、ガス流(酸素含有量に関係なく)は、例えば120℃以上、または150℃以上の高温湿潤アセチル化木質要素に接触させられる。好ましくは、ガス流は、蒸発セクション内への入口において、10体積%未満の酸素、または5体積%未満、または2体積%未満、または1体積%未満の酸素を含む。より好ましくは、ガス流は、少なくとも90体積%、または少なくとも99体積%の、窒素、二酸化炭素および/または煙道ガスなどの不活性ガスを含む。窒素が好ましい。周囲と比較した場合の酸素欠乏および/または窒素富化空気を用いることも可能である。ガス流のこれらの好ましい組成に鑑み、ガスは好ましくは再循環される。
【0035】
好ましくは、蒸発工程は、木質要素が連続的に搬送される蒸発セクション内で、木質要素上に、好ましくは不活性ガスであるガス流を供給することを含む。搬送方向は蒸発セクションの長さを画定する。よって、流れ方向を有するガス流は、蒸発セクション、特に木質要素がそこを通って搬送される空間内に導入される。ガス流は更に蒸発セクションから排出される。ガス流は一般に、木質要素の搬送方向に対して本質的に並流、向流、または垂直(横流)の方向を有する。横流が好ましい。ガス流方向は、蒸発セクションのガス用の1つ以上の入口および1つ以上の出口によって画定され、これらの入口および出口は木質要素用の入口および出口とは別個であってもよい。
【0036】
一部の実施形態において、木質要素は蒸発セクション内で水平に搬送される。ガス流は、例えば、蒸発セクションの左右に、または上から下に、または下から上(そして内部)に水平に流れる。好ましくは、前記蒸発セクションは、木質要素用の入口および出口と、コンベアと、シェルとを含むコンベアシステムを含み、シェルは木質要素がそこを通ってコンベア(ベルト、チェーン、またはスクリューなど)によって搬送される空間を提供する。シェルは、周囲とは異なる空間内の雰囲気を維持するように構成されている。好ましくは、蒸発セクションは、空間内へのガス流用の複数の入口と、空間から水蒸気を含むガスを排出または抜き出すための複数の出口とを含む。好ましくは、これらのガス流用の複数の入口および出口の各開口部は、木質要素用の入口および出口と大きさが異なる。好ましくは、それらは木質要素用の入口と出口の間に位置する。任意的に、これらの開口部はシェルを貫通して設けられる。任意的に、これらの開口部は、蒸発セクション内に備えられた複数のガスコンジット内に設けられ、一般に前記空間内に延在して前記シェル内の開口部に接続されるか、または木質要素用の入口または出口まで延在、またはそれを貫通して延在する。好ましくは、ガス用の各開口部は、その大きさが木質要素用の入口および出口よりも小さく、好ましくは木質要素の大きさよりも小さい。好ましくは、入口ガスコンジットは、蒸発セクションの長さの少なくとも一部に亘ってガス流を分配するためのマニホールドを含む。好ましくは、木質要素用の各開口部並びに入口および出口は、クロスフロー用に配置される。
【0037】
給送することに加え、木質要素の均一化をもたらし得ることから、スクリューコンベアが好ましい。スクリュー作用は、木質要素の温度の均一性を増大させ得る。これによって、有利に、滞留時間が短縮され得る可能性がある。更に、スクリュー動作は、例えばシャッフリングおよび/またはタンブリングによって木質要素と水との混合を可能にし得る。スクリュー動作はまた、木質要素上への水の再分配を可能にし、特に木質要素のゆっくりとした乾燥から木質要素の迅速な乾燥へと導き得る。スクリュー動作はまた、木質要素表面の乾燥雰囲気への曝露を最適化し得る。水平スクリューコンベアが好ましい。例えば少なくとも70%、または少なくとも80%の体積充填の充填レベルを用いて、均一な流れをもたらし、低充填部分を通るガス流のショートカットを防ぐことができる。ベルトコンベア、管状ベルトコンベア、バケットコンベア、およびチェーンコンベアも使用され得る。
【0038】
このプロセスは、好ましくは、蒸発セクションから、好ましくは水蒸気で飽和またはほぼ飽和した不活性ガスを含むガスを抜き出す工程を含む。ガスは、好ましくは、蒸発セクションに連結された再循環ループを用いて再循環される。再循環ループ内で、ガスが好ましくは冷却され、水蒸気がガスから凝縮され、凝縮物が好ましくは再循環ガスから除去され、そしてガスは、例えばファンを用いて蒸発セクションに再循環によって戻される。圧力および酸素レベルを制御するために、パージガスを抜き出す、および/またはガスを追加してもよい。再循環ループ内の水蒸気の凝縮および凝縮物の除去によって、再循環されたガスストリームの相対湿度および温度が少なくとも部分的に制御され、ガス流の乾燥能力が維持される。凝縮物の量はまた、木質要素からの気化潜熱の効果的な抜き出しの指標である。従って、好ましくは、木質要素の重量に基づき、例えば毎分、少なくとも3重量%、または少なくとも5重量%の水が再循環ループ内で凝縮され、これは形成され、好ましくは、乾燥ベースの木材1kg当たり、例えば蒸発セクションの出口を通過する木質要素1kg当たり、抜き出される凝縮物kgに基づく。
【0039】
任意的に、ガス流は、凝縮に供される前に、蒸発セクションを、例えば蒸発セクション内に直列に配置された別々の複数のゾーンを通って複数回通過させられる。任意的に、一ゾーン内の横流は、複数のゾーンを通る全向流と組み合わされる。
【0040】
再循環ループ内における冷却は、好ましくは、冷却流体に対する間接熱交換を含む。任意的に、凝縮中に放出された凝縮熱は、例えば加熱されるべき流体ストリームに対する熱交換によって、回収される。また、凝縮物はガスから分離され、任意的に湿潤工程に再生利用されるか、または、例えば更に処理されて廃棄される。再循環ループは、好ましくは、乾燥されたガスをガス流として蒸発セクション内へ再導入するためのファンを含む。好ましくは、再循環ループ内のガスの温度低下は少なくとも5℃、または少なくとも10℃である。好ましくは、再導入されたガス流の水蒸気含有量は、ガス流が蒸発セクションから抜き出された時の水蒸気含有量の50%未満である。
【0041】
任意的に、このプロセスは、冷却された木質要素を貯蔵および/または処理する工程を更に含む。説明した冷却はまた、アセチル化されていない木質要素を冷却するのに用いられてもよい。
【0042】
本発明のより更なる態様は、冷却システム(1)に関する。非限定的な実施形態を図1に示す。冷却システム(1)は、水噴霧チャンバ(2)と、木質要素に対して前記水噴霧チャンバ(2)の下流側の蒸発セクション(6)と、ガス再循環ループ(11)とを備える。水噴霧チャンバ(2)は、木質要素(3)用の入口(3)および出口(5)と、好ましくは水を噴霧するための液体分配器(4)とを含む。下流側蒸発セクション(6)は、木質要素用の入口(7)および出口(13)と、シェル(9)と、好ましくは前記入口(7)から前記出口(13)へ前記シェル(9)を通って木質要素を連続的に給送するためのコンベア(8)とを含む。前記出口(5)は、前記入口(7)に接続されている。好ましくは、蒸発セクション(6)は、蒸発セクション(6)内にガスを導入し、蒸発セクション(6)からガスを抜き出すための複数の開口部(10)を備える。これらの開口部は、例えば流体連通にて、前記ガス再循環ループ(11)に連結されている。各開口部(10)は、木質要素用の入口(7)および出口(13)とは異なり、それらから離間している。好ましくは、蒸発セクションは、そのような各開口部(10)を含むガス用の入口コンジット(10a)および出口コンジット(10b)を含む。各コンジットは、ガス再循環ループ(11)に連結されている。各コンジット(10a、10b)は、好ましくは、例えば、少なくとも部分的に前記シェルを貫通して、または前記シェルの内壁において、前記シェル内に設けられている。入口コンジット(10a)は、シェル(9)によって画定された空間の少なくとも一部に亘って、およびその一部内にガスを分配することを可能にする。出口コンジット(10b)は、ガスを、例えばシェルの長さに亘って捕集し、ガスをシェル(9)から再循環ループ(11)内に抜き出すことを可能にする。両コンジットは、好ましくは、シェルとは別個の壁を有し、前記各開口部(10)は前記壁に設けられている。
【0043】
好ましくは、蒸発セクション(6)はスクリューコンベヤー内に構成され、コンベヤー(8)は少なくとも1つのスクリューである。好ましくは、各開口部(10)は、前記スクリューの搬送方向に対してクロスフローのガスの流れのために前記スクリューコンベアに配置される。
【0044】
好ましくは、前記再循環ループ(11)は、互いに組み合わされてもよい冷却器(12)と凝縮容器(14)とを含み、凝縮物用の出口(15)を有する。好ましくは、再循環ループは、ガス流を蒸発セクションに再導入するための再循環ファン(16)を更に含む。再循環ループは、ガス用の入口(17)および任意的にガスパージ出口(図示せず)を更に含んでもよい。ガス再循環ループは、前記蒸発セクション、特に木質要素がそこを通って搬送される前記シェル内部の空間と流体連通するように連結される。
【0045】
好ましくは、ガス入口コンジット(10a)は、ガス出口コンジット(10b)と径方向に対向して配置される。本明細書において、径方向は蒸発セクションの長さに対して垂直である。任意的に、ガスコンジットが、蒸発セクションの長さの少なくとも一部、好ましくは半分を超える長さに亘って搬送方向と平行に延び、このガスコンジットは、好ましくはその長さの少なくとも一部に亘って、より好ましくは蒸発セクションの長さの少なくとも半分に亘って分布する複数の開口部を備える。
【0046】
例えば、マニホールドをガス入口コンジットとして用いることができる。これによって、有利に、搬送方向に亘って良好な分布でガスが導入される。任意的に、ウェッジワイヤスクリーンがガス出口コンジットとして用いられる。
【0047】
シェル(9)および/または出口(13)は、好ましくは、蒸発セクション内で周囲雰囲気とは異なる雰囲気を維持するために、特により低い酸素分圧を維持するために構成される。冷却システム(1)の更なる好ましい構成は、プロセスに関連して説明した通りである。操作中、木質要素はセクション(18)においてアセチル化され、チャンバ(2)内でそれに水を噴霧することによって湿潤化される。湿潤化された木質要素は、水が蒸発するように、蒸発セクション(6)を通って搬送される間に存在するガス流に曝露される。水蒸気は凝縮容器(14)内で凝縮する。冷却された木質チップなどの木質要素が出口(13)において得られる。
【0048】
蒸発セクションは、任意的に1つ以上の蒸発ユニットを含むか、または任意的に湿潤ゾーンなど他のゾーンをも含むユニットまたはシェル内に設けられる1つ以上のゾーンを含む。蒸発セクションは、任意的に、例えばガス流の温度、圧力、および/または組成が異なる1つ以上の蒸発ゾーンを含む。この冷却システムは、説明したようなアセチル化木質要素の製造方法において用いることができる。この冷却システムは、アセチル化されているか、またはアセチル化されていない木質要素を冷却する方法において用いることができる。
【0049】
より更なる態様において、本発明は、木材アセチル化セクション(18)と、その下流に前記冷却システム(1)とを含む木材アセチル化プラントにも関し、前記木材アセチル化セクションの出口は、木質要素の給送のために、前記水噴霧チャンバの前記木質要素用の入口(3)に連結される。好ましくは、木材アセチル化プラントは、木質要素を周囲空気および/または制御された雰囲気下に曝露することなく、木質要素を前記アセチル化セクションから前記冷却システムに給送するように構成される。
【0050】
木材アセチル化セクションは、チャンバ、または容器、または搬送ユニットなどの反応ユニットを含む。好ましくは、前記木材アセチル化セクションは、アセチル化流体を加熱するためのヒータを更にに含む。木材アセチル化セクションは、好ましくは、アセチル化流体を除去するように構成された前記反応チャンバの下流の部分を更に含む。好ましくは、前記反応チャンバは、その入口から出口まで木質要素を連続給送するように設計される。任意的に、前記反応ユニットは、鉛直に配置されたプラグフロー反応器を含む。任意的に、前記反応ユニットは、木質要素をアセチル化流体に接触させるための、好ましくは実質的に水平に配置された(斜めを含む)スクリューコンベアを含む。このプラントは、アセチル化流体を用いた木質要素の真空含浸用に構成された、アセチル化セクションの上流の含浸ユニットを含んでもよい。
【0051】
明瞭化および簡潔な説明のために、特徴は、同じまたは別個の実施形態の一部として本明細書に記載されるが、本発明の範囲は、記載された特徴のすべてまたは一部の組み合わせを有する実施形態を含み得る。当業者には、本発明が本明細書に記載された任意の実施形態に限定されず、変更が可能であることは明らかであろう。各プロセス並びに装置およびシステムの好ましい、例示された特徴は互いに組み合わせることができる。本発明のプロセスは、任意的に、木材アセチル化プロセスまたは方法を含む。「含む(comprising)」という用語は、説明されたもの以外の更なる要素および/または工程の存在を考慮するのに用いられ、参照された項目が説明された要素および/または工程から実質的または本質的に構成される好ましい実施形態を包含する。また、単語「a」および「an」は、「1つだけ」に限定されるとは解釈されないものとし、「少なくとも1つ」を意味するために用いられ、複数を排除しない。具体的または明示的に記載または請求されていない特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく本発明の構造に追加的に含まれてもよい。「好ましくは(preferably)」のような表現の使用は、本発明を限定することを意図するものではない。
図1