(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20220927BHJP
H05B 6/02 20060101ALI20220927BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220927BHJP
F01N 3/023 20060101ALI20220927BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220927BHJP
C04B 35/576 20060101ALI20220927BHJP
C04B 35/569 20060101ALI20220927BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20220927BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
F01N3/20 K
H05B6/02 Z
F01N3/28 301P
F01N3/023 E
B01J35/02 G
C04B35/576
C04B35/569
C04B41/88 F
C04B41/88 Q
B32B18/00 B
(21)【出願番号】P 2019005518
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018053318
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博紀
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘樹
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-013945(JP,A)
【文献】特開2017-166327(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148506(WO,A1)
【文献】特開2013-238116(JP,A)
【文献】特開2010-221155(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868(US,A1)
【文献】特開2017-047373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
H05B 6/02
F01N 3/28
F01N 3/023
B01J 35/02
C04B 35/576
C04B 35/569
C04B 41/88
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流通する流路が形成されたセラミックス製の柱状部材と、
前記柱状部材の外周面の少なくとも一部に被設された導電性皮膜層と
を具備し、
前記導電性皮膜層は、
層構造を呈し、前記柱状部材の前記表面と接する無電解めっき層と、
前記無電解めっき層の上に積層された少なくとも一層以上の誘導加熱層と
を備え、
前記流体の流通方向に直交する前記柱状部材の切断面において、電気的に接続した状態で前記柱状部材の切断面全周を被設している流体加熱部品。
【請求項2】
前記柱状部材は、
一方の端面から他方の端面まで延びる前記流路として形成された複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体である請求項1に記載の流体加熱部品。
【請求項3】
前記柱状部材は、
緻密質のセラミックスであり、
気孔率が0.1%~10%の範囲である請求項1または2に記載の流体加熱部品。
【請求項4】
前記柱状部材は、
熱伝導率が50W/m・K~300W/m・Kの範囲にあるセラミックスである請求項1~3のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項5】
前記柱状部材は、
炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上を主成分とするセラミックスである請求項1~4のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項6】
前記柱状部材は、
炭化珪素を主成分とするセラミックスであり、電気抵抗率が0.01Ωcm~10Ωcmである請求項1~4のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項7】
前記柱状部材は、
熱膨張率が0.1ppm/K~2ppm/Kのコージェライトを主成分とするセラミックスである請求項1~3のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項8】
前記導電性皮膜層は、
皮膜層厚さが0.1μm~500μmの範囲である請求項1~7のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の流体加熱部品を用いて形成され、
複数の角柱状の前記流体加熱部品を用いて一体的に構築され、若しくは、
少なくとも一つ以上の角柱状の前記流体加熱部品、及び、流体の流通する流路が形成された、
一または複数の角柱状のセラミックス製の柱状部材を用いて一体的に構築された流体加熱部品複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体に関する。更に詳しくは、ハニカム構造体等のセラミックス部材を用い、電磁誘導加熱方式によって気体や液体等の流体を加熱するための流体加熱部品、及び当該流体加熱部品を組み合わせて形成された流体加熱部品複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃費性能の改善等を目的として、エンジン始動時のフリクション(摩擦)損失の低減や、排ガス浄化用触媒の浄化性能を高めることが行われている。特に、エンジン始動直後は、冷却水やエンジンオイル、及びATF(オートマチックトランスミッションフルード)等の液体、或いは排ガス浄化用触媒が冷めた状態にあるため、エンジン性能を十分に発揮できないことがある。そこで、冷却水等の液体を速やかに適温まで加熱させたり、或いは排ガス浄化用触媒を早期に活性化させたりするための加熱システムが採用されている。
【0003】
加熱システムには、流体(冷却水やエンジンオイル等の液体或いは排気ガス等の気体等)を加熱するために、例えば、高い熱伝導率を有するセラミックス製のハニカム構造体と、抵抗加熱式ヒーター、高周波加熱式ヒーター、或いは燃焼加熱式ヒーター等の加熱体とを備えた流体加熱部品が用いられている(例えば、特許文献1参照)。セラミックス製のハニカム構造体は、隔壁によって区画された複数のセルを有し、当該セルが上記流体の流路となる。複数のセルを備えることで流体との接触面積が大きくなり、加熱体によって発生させた熱を当該流体に対して効率的に伝搬させることができる。
【0004】
一方、電磁誘導加熱方式によって導電性の担体を加熱しながら、ハロゲン化炭化水素ガス等を含む流体を担体内部に流通させることで、ハロゲン化炭化水素を高温で熱分解処理する分解方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。これによると、炭化珪素(SiC)等のカーボンセラミックスやステンレス鋼等を上記担体のベースとして用い、更に当該担体にハロゲン化炭化水素ガスに対する耐腐食性の高い白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ロジウム(Rh)、及びニッケル(Ni)の少なくとも一種類の金属元素(第一群元素)、及び、タングステン(W)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、及びバナジウム(V)の少なくとも一種類の金属元素(第二群元素)を触媒として担持したものが使用される。これらの触媒を担持した導電性の担体は、外部に設置された電磁誘導コイルによって生じた渦電流のジュール熱によって加熱され、担体の内部を流通する流体を加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-238116号公報
【文献】特開2001-54723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記に示したような流体加熱部品や加熱による流体(ハロゲン化炭化水素ガス)の分解方法は、下記に掲げる不具合を生じる可能性があった。すなわち、特許文献1に示すような流体加熱部品の場合、セラミックス製のハニカム構造体と、主に金属等で構成される加熱体との異なる材質の二つの部材で構成されていた。これにより、ハニカム構造体及び加熱体の間の境界付近での熱抵抗が大きくなり、加熱体によって発生させた熱がハニカム構造体に効率的に伝搬されないことがあった。その結果、加熱効率が低くなるおそれがあった。
【0007】
更に、それぞれ異なる材質でハニカム構造体及び加熱体が形成されているため、加熱時における両者の熱膨張率の違いが問題となることがあった。すなわち、熱膨張率の違いによってハニカム構造体及び加熱体の境界付近に隙間や空隙等が生じる可能性があり、加熱効率がより低くなる可能性があった。特に、比較的大型の流体加熱部品を形成した場合、上記熱膨張率の違いによる不具合が顕著に現れることがあった。
【0008】
一方、特許文献2に示すような導電性の担体を用いるものは、担体として使用されるSiC自体の電気抵抗が高いため、電磁誘導加熱方式による発熱効率が低く、速やかに担体を所定の温度まで上昇させられないことがあった。その結果、触媒が活性化するまでに時間が必要となるとともに、当該温度まで上昇させるために多くの電気エネルギーが必要となる等のデメリットがあった。
【0009】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、電磁誘導加熱方式による効率的な加熱を可能とするとともに、熱膨張率の違いによる影響を受けることのない、速やかな加熱が可能なセラミックス製の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に掲げる流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体が提供される。
【0011】
[1] 流体の流通する流路が形成されたセラミックス製の柱状部材と、前記柱状部材の外周面の少なくとも一部に被設された導電性皮膜層とを具備し、前記導電性皮膜層は、層構造を呈し、前記柱状部材の前記表面と接する無電解めっき層と、前記無電解めっき層の上に積層された少なくとも一層以上の誘導加熱層とを備え、前記流体の流通方向に直交する前記柱状部材の切断面において、電気的に接続した状態で前記柱状部材の切断面全周を被設している流体加熱部品。
【0012】
[2] 前記柱状部材は、一方の端面から他方の端面まで延びる前記流路として形成された複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体である前記[1]に記載の流体加熱部品。
【0013】
[3] 前記柱状部材は、緻密質のセラミックスであり、気孔率が0.1%~10%の範囲である前記[1]または[2]に記載の流体加熱部品。
【0014】
[4] 前記柱状部材は、熱伝導率が50W/m・K~300W/m・Kの範囲にあるセラミックスである前記[1]~[3]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0015】
[5] 前記柱状部材は、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上を主成分とするセラミックスである前記[1]~[4]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0016】
[6] 前記柱状部材は、炭化珪素を主成分とするセラミックスであり、電気抵抗率が0.01Ωcm~10Ωcmである前記[1]~[4]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0017】
[7] 前記柱状部材は、熱膨張率が0.1ppm/K~2ppm/Kのコージェライトを主成分とするセラミックスである前記[1]~[3]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0019】
[8] 前記導電性皮膜層は、皮膜層厚さが0.1μm~500μmの範囲である前記[1]~[7]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0020】
[9] 前記[1]~[8]のいずれかに記載の流体加熱部品を用いて形成され、複数の角柱状の前記流体加熱部品を用いて一体的に構築され、若しくは、少なくとも一つ以上の角柱状の前記流体加熱部品、及び、流体の流通する流路が形成された、一または複数の角柱状のセラミックス製の柱状部材を用いて一体的に構築された流体加熱部品複合体。
【発明の効果】
【0021】
本発明の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体によれば、電磁誘導加熱方式によって流体加熱部品を速やかに、かつ効率的に加熱することができる。その結果、自動車のエンジンの始動直後であっても、排ガス浄化用触媒が活性化する温度まで速やかに加熱することができる加熱システムに当該流体加熱部品を採用することが可能となる。
【0022】
また、本発明の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体を自動車エンジンの排ガス浄化用フィルタに用いる場合には、フィルタに溜まったカーボン微粒子を電磁誘導加熱方式によって燃焼除去を助けることが可能となる。
【0023】
特に、セラミックス製の柱状部材(ハニカム構造体等)の少なくとも外周表面に導電性皮膜層が被設され、切断面全周において電気的に接続された状態のため、電磁誘導による効率的な加熱を可能にし、局所的な温度の上昇が生じることがなく、かつ柱状部材と導電性皮膜層等との間の熱膨張率によって、加熱効率が低下したり、クラック等の割れが発生したりする不具合が発生するおそれが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態の流体加熱部品の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】流体加熱部品の概略構成を示す平面図である。
【
図3】流体加熱部品の別例構成を示す平面図である。
【
図4】流体加熱部品の別例構成を示す平面図である。
【
図5】不適合な流体加熱部品の一例を示す斜視図である。
【
図6】不適合な流体加熱部品の一例を示す斜視図である。
【
図7】流体加熱部品複合体の概略構成を示す分解斜視図である。
【
図8】
図7の流体加熱部品複合体の概略構成を示す斜視図である。
【
図9】流体加熱部品複合体の別例の概略構成を示す分解斜視図である。
【
図10】
図9の流体加熱部品複合体の概略構成を示す斜視図である。
【
図11】誘導加熱試験装置、及び温度測定の概略構成を示す説明図である。
【
図12】ハニカム構造体の隔壁に形成された表面層の概略構成の一例を示す一部拡大端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体の実施の形態について説明する。なお、本発明の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良等を加え得るものである。
【0026】
1.流体加熱部品
本発明の一実施形態の流体加熱部品1は、
図1及び
図2に示すように、セラミックス製のハニカム構造体2と、ハニカム構造体2の少なくとも一部の外周面3(表面)に被設された導電性皮膜層4とを具備するものである。
【0027】
更に、流体F(
図1参照)の流通方向(
図2における紙面手前方向から紙面奥行方向に相当)、換言すれば、ハニカム構造体2の軸方向A(
図1参照)に直交するハニカム構造体2の切断面において、ハニカム構造体2の外周面3の全周(切断面全周)をリング状に囲み、かつ電気的に接続した状態で導電性皮膜層4が被設されたものである。
【0028】
ここで、
図2は流体加熱部品1を上方から視た平面図である。更に、外周面3に被設される導電性皮膜層4は、ハニカム構造体2の外周面3の全体に亘って必ずしも被設される必要はなく、外周面
3の少なくとも一部においてリング状(環状)を呈して電気的に接続された状態であればよい(詳細は後述する)。
【0029】
ハニカム構造体2が本発明の流体加熱部品1におけるセラミックス製の柱状部材に相当する。更に具体的に説明すると、ハニカム構造体2は、一方の端面5aから他方の端面5bまで延びる流体Fの流路となる複数のセル6を区画形成する格子状の隔壁7を備えた、略円柱状を呈する構造のものである。
【0030】
柱状部材としてのハニカム構造体2が、このような構成を備えることで、流体加熱部品1のハニカム構造体2の一方の端面5aから内部に導入された流体Fは、ハニカム構造体2の内部のセル6を通過し、他方の端面5bから放出される。なお、本発明の流体加熱部品における柱状部材は、
図1等に示した略円柱状のハニカム構造体2に限定されるものではなく、柱状部材の内部に流体Fの流路となる構成を備えるものであれば構わない。
【0031】
柱状部材としてのハニカム構造体2は、セラミックスを主成分とすることにより、隔壁7や外周面3の熱伝導率を高くすることができ、効率的な流体Fの加熱等を行うことができる。なお、本明細書において、“主成分”とは、柱状部材において50質量%以上のセラミックスを含むものとして定義し、金属複合セラミックスなども含まれる。
【0032】
上記セラミックスとしては、周知のコージェライトや炭化珪素等の種々の材料を使用することができる。特に、流体Fに対する伝熱性を考慮した場合、高い熱伝導率を有する炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上を主成分とすることが好適である。更に、炭化珪素をハニカム構造体2の主成分とすることで、上記熱伝導率以外に、耐熱性及び耐腐食性に優れるといったメリットを有する。
【0033】
更に、ハニカム構造体2を構成する基材の材料としては、Si含浸SiC、(Si+Al)含浸SiC、金属複合SiC、再結晶SiC、及びSiC等を採用することができる。ここで、更に高い熱伝導率を得るために、炭化珪素を主成分とするハニカム構造体2(柱状部材)は、緻密質(または略緻密質)であることが好適である。
【0034】
すなわち、ハニカム構造体2の気孔率を0.1%~10%以下にすることが好ましく、0.1%~5%以下することがより好ましく、0.1%~2%以下にすることが特に好ましい。特に、上記Si含浸SiCや(Si+Al)含浸SiCを採用することが好適である。SiCは、それ自体で高い熱伝導率を有し、かつ放熱しやすい特性を有するが、Si含浸SiCの場合、更に緻密質に形成することができ、高い熱伝導率を持ち、十分な強度を有するハニカム構造体2を得ることができる。本明細書において、気孔率が10%以下のハニカム構造体(柱状部材)を緻密質のハニカム構造体と定義する。
【0035】
例えば、一般的な炭化珪素の場合、熱伝導率が20W/m・K程度に対し、気孔率を2%以下とすることにより、150W/m・K程度にすることができる。なお、上記気孔率は、アルキメデス法により測定したものである。
【0036】
ここで、ハニカム構造体2は、上記熱伝導率が50W/m・K~300W/m・Kの範囲であり、更に100W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは、120W/m・K~300W/m・K、最も好ましくは、150W/m・K~300W/m・Kのものである。熱伝導率を上記範囲とすることで、熱伝導性が良好なものとなり、効率的にハニカム構造体2の内部に熱を伝達することができ、流体Fに対する加熱を速やかに行うことができる。
【0037】
また、ハニカム構造体2が炭化珪素を主成分とする場合は、電気抵抗率が0.01Ωcm~10Ωcmの範囲であり、更に1Ωcm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1Ωcm以下、特に好ましくは0.05Ωcm以下であることが好ましい。これにより、電磁誘導加熱方式による加熱効率をより高めることができる。
【0038】
一方、コージェライトを主成分として柱状部材を形成する場合、熱膨張率は0.1ppm/K~2ppm/Kであることが好ましい。なお、熱膨張率の測定方法としては、たとえば、流体Fの流通方向に沿った10mm以上の長さを有する試験片であって、この流通方向に直交する方向を含む断面の面積が1mm2以上、100mm2以下である試験片を柱状部材から切り出し、この試験片の流通方向の熱膨張率を、石英を標準比較サンプルとする示差式の熱膨張計により測定する方法を採用することができる。
【0039】
ここで、コージェライトを主成分として柱状部材を形成する場合、上記炭化珪素と同様に緻密質(気孔率が10%以下)のものであることが好適である。この場合、炭化珪素を主成分とするハニカム構造体と比較して、熱伝導率が低くなるものの、熱膨張率を小さく抑えることができ、かつ比熱が小さいために耐熱衝撃性が優れたものにできる。これにより、加熱時における割れ(クラック)の発生を抑えることができ、また比重も小さいため、速やかな昇温が可能となる利点を備えている。
【0040】
また、本発明の流体加熱部品におけるハニカム構造体40は、例えば、隔壁41の隔壁表面41a及び隔壁41の細孔の内部に、触媒(図示しない)が担持されたものであってもよい。このように、ハニカム構造体40は、触媒を担持した触媒担体や、排ガス中の粒状物質(カーボン微粒子)を浄化するために目封止部44を設けたフィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ともいう)、ガソリンパティキュレートフィルタ)として構成されたものであってもよい(
図12参照)。ここで、
図12は、上記ハニカム構造体40の隔壁41に形成された表面層42の概略構成の一例を示す一部拡大端面図である。
【0041】
ハニカム構造体40を自動車用の触媒担体や排ガス浄化フィルタとして用いる場合は、所定のセラミックスを主成分とし、気孔率を30~60%としてもかまわない。30%未満の気孔率であると、触媒を効率的に担持できなくなり、また、フィルタとしての機能を低下させるため、好ましくない。また、60%超の気孔率であると、強度が十分でなく、耐久性が低下するため好ましくない。
【0042】
更に、ハニカム構造体40を自動車用の触媒担体や排ガス浄化フィルタとして用いる場合は、その隔壁41の隔壁表面41aの少なくとも一部において、通気性を有する表面層42を有していてもかまわない。表面層42の材質は、特に限定するものではなく、セラミックス、金属、CMC(セラミックスマトリックスコンポジット)など、必要に応じて適宜材質を選択することができる。
【0043】
表面層42は、単層でも多層でもかまわない。隔壁41の隔壁表面41aに表面層42を形成する。ここで、通気性を有するとは、表面層42のパーミアビリティーが、1.0×10-13m2以上であることをいう。圧力損失をさらに低減する観点から、パーミアビリティーが、1.0×10-12m2以上であることが好ましい。表面層42が通気性を有することで、表面層42に起因する圧力損失を抑制することができる。
【0044】
また、本明細書において「パーミアビリティー」は、下記数1により算出される物性値をいい、所定のガスがその物(隔壁等)を通過する際の通過抵抗を表す指標となる値である。ここで、下記数1中、Cはパーミアビリティー(m2)、Fはガス流量(cm3/s)、Tは試料厚み(cm)、Vはガス粘性(dynes・sec/cm2)、Dは試料直径(cm)、Pはガス圧力(PSI)を示す。なお、下記数1中の数値は、13.839(PSI)=1(atm)であり、68947.6(dynes・sec/cm2)=1(PSI)である。
【0045】
【0046】
パーミアビリティーを測定する際には、表面層42つきの隔壁41を切り出し、この表面層42つきの状態で、パーミアビリティーを測定した後、表面層42を削りとった状態でのパーミアビリティー測定を行い、表面層42と隔壁41の厚さの比率と、これらのパーミアビリティー測定結果から、表面層42のパーミアビリティーを算出する。
【0047】
更に、ハニカム構造体のセルの形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、三角形、四角形、及び六角形その他の多角形等の中から任意のものを選択することができる。例えば、
図3に示す流体加熱部品10のように、セル11を放射状に配したハニカム構造体12を用い、ハニカム構造体12の外周面13に導電性皮膜層14を形成したものであってもよい。
【0048】
或いは、
図4に示す流体加熱部品20のように端面形状がドーナツ状のハニカム構造体21を用いるものであってもよい。この場合、流体加熱部品20は、ドーナツ状のハニカム構造体21の外周面22(表面)及び内周面23(表面)のいずれにも導電性皮膜層24が被設されていても良い。或いは、外周面22(表面)のみ、若しくは内周面23(表面)のみに導電性皮膜層24が被設されているものであっても構わない。その他、ハニカム構造体の外形状、外周壁厚さ、内周壁厚さ、セル密度、隔壁の隔壁厚さ、隔壁密度等は任意に設定することができる。
【0049】
ここで、ハニカム構造体12の外周壁及び内周壁のそれぞれの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1mm~3.0mmの範囲が好ましく、0.5~2.5mmの範囲がより好ましく、0.5mm~1.0mmの範囲が更に好ましい。外周壁等の厚さが薄過ぎる場合、構造強度が低くなり易く、使用時の耐久性が低下する等の問題が生じる。一方、外周壁等の厚さが厚過ぎる場合、ハニカム構造体12の形成時の不具合が生じやすく製造コストが高くなる問題があるとともに、ハニカム構造体12に対して急激な温度上昇があったり、急激な温度低下があったりする等の熱衝撃に対する耐久性が低下するおそれがある。そのため、外周壁等を上記範囲内に限定してハニカム構造体12を形成する必要がある。
【0050】
導電性皮膜層4は、ハニカム構造体2の外周面3に対し、例えば、めっき法、溶射法、真空蒸着法、メタライジング法、CVD(化学気相蒸着法)、PVD(物理気相蒸着法)、及びイオンプレーティング法等の周知の方法により形成することが可能である。皮膜層厚さを均一にし、欠陥のない導電性皮膜層4を形成するために、めっき法或いは溶射法を採用するものが好ましい。これらの方法は、低コストで実施することができるメリットも備えている。
【0051】
導電性皮膜層4を構成する材質は、特に限定されるものではないが、例えば、めっき法の場合は、Ni,Ni-P、Ni-Fe、Ni-W、Ni-B-W、Ni-Co、Ni-Cr,Ni-Cd、Ni-Zn、Cr、その他クロメート処理皮膜、Co-W、Fe-W、Fe-Cr、Cr-C、及びZn-Fe等の周知の材料を組み合わせて用いることができる。
【0052】
更に、上記以外にもスズ(Sn)、亜鉛(Zn)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、及びカドミウム(Cd)等の金属元素を使用することができる。また、必要に応じて炭化物(炭化珪素、炭化タングステン、炭化クロム、炭化硼素等)、酸化物(アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化タングステン、二酸化チタン、二酸化モリブデン等)、黒鉛、窒化硼素、及び各種機能性粒子を複合化させたものであっても構わない。また、必要に応じて、封孔処理を行うことも好ましい形態の一つである。封孔処理を行うことにより、耐熱性、防錆性等を高めることができ、流体加熱部品としての耐久性を向上させることができる。
【0053】
一方、溶射法によって導電性皮膜層4を形成する場合、特に限定はないが、例えば、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法、アーク溶射法、ガスプラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、コールドスプレー法、AD(エアロゾルデポジション)法等を用いることができる。特に、ガスプラズマ溶射法及び高速フレーム溶射法が好ましく、高速フレーム溶射法が特に好ましい。これらの溶射法は、緻密、かつ酸化の少ない高品質な導電性皮膜層4を形成することが可能であり、電磁誘導加熱方式による加熱を行う場合には好適である。また、めっき法と同様に、必要に応じて、封孔処理を行うことも好ましい形態の一つである。
【0054】
ここで、導電性皮膜層4は、既に示したように、流体Fの流通方向(ハニカム構造体2の軸方向A)に直交するハニカム構造体2の切断面において、当該ハニカム構造体2の外周面3の全周に沿って少なくとも一部で電気的に接続されている必要がある(
図2参照)。上記の通り、本発明の流体加熱部品は、電磁誘導加熱方式によって、外部から加熱されるものであり、流体加熱部品1自体に加熱手段を設けるものではない。
【0055】
そのため、外周面3の全周に沿って電気的に接続されていない(電気的に途切れた)箇所が存在すると、加熱効率が極端に悪化する。所定の温度に加熱するためには、より多くの出力が必要となったり、周波数を大幅に上げる必要が出てくるため、電磁誘導加熱装置が大型にあるいは高価になり、自動車等の車載向けとしては好ましくない。また、当該部位において高いジュール熱が発生し、局所的な加熱や放電が発生したりするなどの不具合を生じる可能性がある。これらの事態を防ぎ、流体加熱部品1の全体において均一な加熱を可能とし、放電の発生を抑えるため、少なくとも一部において外周面3の全周に沿って電気的に接続した状態とされる。
【0056】
ここで、不適合な流体加熱部品50a,50bの例をそれぞれ
図5及び
図6に示す。すなわち、
図5の場合、円柱状のハニカム構造体51aの外周面52aに沿って導電性皮膜層53aが形成されているものの、外周面52aの一部で導電性皮膜層53aが途切れ、切断面においてリング状になっていない。すなわち、導電性皮膜層53aの間に絶縁部54aが形成されている。
【0057】
一方、
図6の場合、角柱状のハニカム構造体51bの外周面52bに沿って導電性皮膜層53bが形成されているものの、ハニカム構造体51aと同様に、外周面52bの一部で導電性皮膜層53bが途切れ、切断面においてリング状になっていない。すなわち、導電性皮膜53bの間に絶縁部54bが形成されている。このような場合、電磁誘導加熱方式による加熱では、流体加熱部品50a,50bにおける加熱時の電磁誘導の効率が大幅に悪化するため、より大きな電力が必要となり、速やかな加熱をすることができなくなる。また、温度分布に局所的な偏向が生じる場合があり、流体加熱部品50a,50bの全体を均一に加熱することができなくなる。
【0058】
導電性皮膜層4は、多層構造を呈するものであっても構わない。すなわち、柱状部材としてのハニカム構造体2の外周面3に当接する当接層(最下層)と、当該当接層の上に少なくとも一層以上が積層した積重層とで構成されるものであっても構わない。なお、上記当接層は、ハニカム構造体2の外周面3(柱状部材の表面)との接着性を良好とするため、セラミックス材料との相性がよい、熱膨張率が小さく、低硬度、かつ高温で基材となるセラミックス材料(炭化珪素やコージェライト等)と反応しない材質であることが特に好適である。
【0059】
上記当接層がめっき法による皮膜の場合は、無電解めっき法による無電解めっき層であるものが好ましく、炭化物(炭化珪素、炭化タングステン、炭化クロム、炭化硼素等)、酸化物(アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化タングステン、二酸化チタン、二酸化モリブデン等)、黒鉛、窒化硼素、及び各種機能性粒子を複合化させたものであることも、好ましい形態の一つである。複合化させることで、熱膨張率が小さくセラミックスとの相性がよい当接層とすることが可能となる。
【0060】
一方、上記当接層(最下層)に積層される積重層は、それぞれ導電性皮膜層4に求められる特性に特化した材質であっても構わない。例えば、電磁誘導加熱を行うために強磁性体の材料で形成された誘導加熱層を少なくとも有するとともに、更に誘導加熱層の上に積重され、耐熱性や耐熱衝撃性、耐腐食性に優れたCr、Si、Al、Ni、W、B、Au、Rd、PD、Ptのうち、少なくとも一種類の金属元素が含有している耐熱層とを備えるものであっても構わない。これにより、導電性皮膜層の全体で、柱状部材との接着性、加熱性、及び耐熱性等の優れた効果を奏することができる。なお、
図1~
図10において、図示を簡略化するため、導電性皮膜層4等はそれぞれ単層で示している。
【0061】
導電性皮膜層4は、皮膜層厚さが0.1μm~500μm、更に好ましくは0.3μm~400μmであり、より好ましくは0.5μm~200μmであり、特に0.5μm~100μmが好適なものである。導電性皮膜層4の皮膜層厚さを上記範囲内とすることで、ハニカム構造体2との間の熱膨張率の違いによる、外周面3からの剥離やハニカム構造体2の割れを抑えることができ、効率的な加熱が可能になる。皮膜層厚さが薄すぎると電磁誘導加熱方式による加熱効率が著しく低下する問題が生じ、また、皮膜形成時に欠陥が生じやすく、耐熱性、耐食性、導電性を維持することが難しくなる。また、皮膜層厚さが厚すぎると、必要以上に熱容量が増加し抵抗も下がるため、加熱効率や加熱速度が悪化する場合がある。そのため、導電性皮膜層4の皮膜層厚さは、上記範囲内が好適なものとなる。この場合、上述した多層構造の導電性皮膜層であっても皮膜層厚さは、上記範囲内である必要がある。
【0062】
2.流体加熱部品複合体
上記のように構成された本発明の流
体加熱部品を複数組み合わせることで一体的に構築された流体加熱部品複合体30a,30bを形成することができる。ここで、
図7は流体加熱部品複合体30aの構築前の状態を示す分解斜視図であり、
図8は流体加熱部品複合体30aの構築後の概略構成を示す斜視図であり、
図9は別例構成の流体加熱部品複合体30bの構築前の状態を示す分解斜視図であり、
図10は
図9の流体加熱部品複合体30bの構築後の概略構成を示す斜視図である。
【0063】
流体加熱部品複合体30aは、
図7及び
図8に示すように、角柱状のハニカム構造体31と、ハニカム構造体31の外周面32に沿って被設された導電性皮膜層33とを具備する複数の流体加熱部品34を組み合わせて構成されたものである。
【0064】
すなわち、同じ形状の9つの流体加熱部品34が使用され、互いの導電性皮膜層33を相対させるようにして、縦3つ×横3つに組み合わせたものである。なお、流体加熱部品34の接合は、セラミックス材料同士を接合する際の周知の接着剤等を用いるため、ここでは詳細な説明は省略する。これにより、大型自動車や工作機械等のシステムに用いることのできる流体加熱部品複合体が形成される。この場合であっても、流体Fの流通方向に直交する切断面において、導電性皮膜層33が電気的に接続されている。
【0065】
更に、
図9及び
図10に示す別例構成の流体加熱部品複合体30bを構成するものであっても構わない。別例構成の流体加熱部品複合体30bは、5つの角柱状の流体加熱部品34と、導電性皮膜層33を有しない4つの角柱状のハニカム構造体35とを交互に配し、縦3つ×横3つに組み合わせたものである。この場合でも電磁誘導加熱方式によって流体Fを効率的に加熱することができる。なお、
図7及び
図8において示した流体加熱部品複合体30aと同一の構成については、同一番号を付し、説明を省略する。
【実施例】
【0066】
(1)ハニカム構造体
SiCを主成分とするハニカム構造体の製造を行った。始めに、所定の粒度、調合量に調整したSiC粉末、バインダー、水又は有機溶剤などを混練した成形用原料を、所望の形状に押出成形し、乾燥させてハニカム成形体を得た後、適宜加工を加えて、高温でSi含浸焼成を行い、ハニカム構造体を得た。ここで、ハニカム構造体は、ハニカム径が43mm、軸方向のハニカム長さが23mmのサイズのものを用いた。ここで、Si含浸焼成の含浸比率等を変更することにより、実施例1ではハニカム構造体の気孔率が10%以下になるように調整した。同様に、実施例2~6、及び比較例1,2では、ハニカム構造体の気孔率が5%以下、実施例12ではハニカム構造体の気孔率が10%以上となるように調整を行った。実施例7~12については、実施例1~6のハニカム構造体と同様の条件で焼成したものを準備し、ハニカム径が40mmになるように外周壁を研削加工し、実施例1~6と比べて外周壁の薄いハニカム構造体を準備した。外周壁厚さは、測定顕微鏡を用いて計16か所の測定を行い、平均した値を外周壁厚さとした。すなわち、実施例12を除き、流体加熱部品のベースとなるハニカム構造体(柱状部材)は、緻密質のものである。
【0067】
(2)流体加熱部品の製造(導電性皮膜層の形成)
上記(1)によって得られたハニカム構造体の外周面に対し、導電性皮膜層を形成した。ここで、実施例1~3及び7~12は、導電性皮膜層として銅(Cu)めっきを施したものであり、以下、実施例4はNi-Bめっき、実施例5はNi溶射、実施例6はMo溶射を行ったものである。なお、それぞれのめっき法及び溶射法は周知のものであるため、ここでは説明を省略する。
【0068】
一方、比較例1は、導電性皮膜層を形成しないハニカム構造体のままのものであり、比較例2はCuメッキであり、かつ、ハニカム構造体の外周面の一部に絶縁部を設け、電気的に接続されていない状態にしたものである。すなわち、外周面に部分的に導電性皮膜層を施したものである。実施例1~12、及び比較例2における各導電性皮膜層の皮膜層厚さをまとめたものを下記表1にそれぞれ示す。
【0069】
(3)誘導加熱試験
図11に示す概略構成を示す誘導加熱試験装置100を用い、流体加熱部品としてのハニカム構造体の誘導加熱試験を実施した。ここで、誘導加熱試験装置100は、高周波を発生させる高周波電源装置101と、フィーダーダクト102を通して高周波電源装置101と電気的に接続されたフレキフィーダー103と、フレキフィーダー103の一端と接続された加熱コイル104と、加熱コイル104の周囲に配されたケーシング105と、加熱コイル104の内部に収容されたハニカム構造体106(流体加熱部品)の上方に配置され、加熱コイル104による誘導加熱時におけるハニカム構造体106の温度(一方の端面106aの温度)を非接触で測定するサーモカメラ107とを具備している。ここで、サーモカメラ107は、熱画像カメラとも呼ばれ、例えば、CHINO製のCPA-2300等を使用することができる。
【0070】
誘導加熱試験は、始めに誘導加熱試験装置100の加熱コイル104の内部の空間に試験対象のハニカム構造体106を配置した状態で、高周波電源装置101から高周波電流を発生させ、フィーダーダクト102及びフレキフィーダー103を介して高周波電源装置101と接続された加熱コイル104に高周波電流を流す。これにより、加熱コイル104において高周波磁束が発生する。発生した高周波磁束の中に設置されたハニカム構造体106は電流を誘導し、加熱される。本実施例では、高周波電源装置101は、最大出力40kW、周波数30kHzであり、出力制御の範囲を10%~100%の範囲で調整した。なお、加熱コイル104は、銅製パイプを用いたコイルの内径IDがφ80mmであり、コイル長さLが200mmの円形コイルを用いて構成されている。なお、加熱コイル104の銅製パイプのパイプ内部には、冷却水を流している。なお、加熱コイル104の内部への冷却水の供給の詳細はここでは説明を省略する。
【0071】
(4)温度の測定方法
上記の誘導加熱試験装置100を用いた誘導加熱試験の際に、加熱コイル104の上方に設置されたサーモカメラ107によってハニカム構造体106の一方の端面106aの温度を平面的に測定し、測定された一方の端面106aにおける最も低い(中央位置の)温度を測定温度とした。
【0072】
(5)実験条件
高周波電源装置101による高周波電流の出力を10%~100%の間で任意の出力値に設定した後、上記(4)に示した手法でサーモカメラ107によって加熱速度を測定した。ここで、加熱コイル104に高周波電流を出力した際の誘導加熱出力(kW)は、高周波電源装置101に搭載されている電圧計、及び電流計(図示しない)の数値から算出した。更に、高周波電流の出力を開始してから、ハニカム構造体106の測定温度が300℃に到達するまでの到達時間を測定し、これを“経過時間”とした。なお、300℃に達するまでの時間が60s以上の場合や、昇温が途中で止まる場合には、その時点における到達温度及び経過時間を記録した。
【0073】
(6)誘導加熱試験後の液体加熱部品の外観変化の評価
上記(3)による誘導加熱試験後の流体加熱部品の外観の変化、特にハニカム構造体の割れの発生の有無を目視により確認した。割れがないものを“A”、誘導加熱の継続が不可能なレベルの割れがあるものを“C”、誘導加熱の継続が可能なレベルの微小なクラックについては“B”と評価した。総合評価としては、300℃に到達するまでの時間が30s未満で、かつ割れがないものを“A”、300℃に到達するまでの時間が30s未満であるものの、微小なクラックが発生したものを“B”、及び300℃に到達するまでの時間が30s以上、若しくは誘導加熱の継続が不可能なレベルの割れがあるものを“C”とした。上記(3)~(5)の試験結果、割れの有無、及び総合評価の結果をまとめたものを下記表1に示す。
【0074】
【0075】
(7)まとめ
表1に示されるように、本願発明の要件を満たす実施例1~12は、誘導加熱試験において、加熱開始からの経過時間がいずれも30s以内で300℃まで到達することができる。更に、その際のハニカム構造体に誘導加熱の継続が不可能なレベルの割れが生じることがない、総合評価が“A”または“B”のものである。そのため、排ガス浄化用触媒の加熱システムの一部として使用されることにより、エンジン始動直後から触媒を活性化させることができ、燃費の改善に大きな効果を奏することが期待される。
【0076】
なお、実施例1~6の流体加熱部品においては、ハニカム構造体の外周面に形成される導電性皮膜層の金属種類及び形成方法については、特に大きな有意性は認められず、本願発明の規定した範囲であれば良好な結果を得ることが確認された。また、外周壁の薄い実施例7~12の流体加熱部品においても良好な結果が得られることを確認し、実施例1~6と比べて、より大きな加熱速度においても割れを生じずに加熱が可能であることが確認された。
【0077】
一方、導電性皮膜層を有しない流体加熱部品(比較例1)、及び、流体の流通方向に直交するハニカム構造体の切断面において、電気的に接続した状態でハニカム構造体の切断面全周を被設していない流体加熱部品(比較例2)は、いずれも加熱速度が遅く、誘導加熱試験による加熱開始から300℃に到達するまでの経過時間が100s必要であったり(比較例1)、または115sを経過して、ようやく100℃に到達するもの(比較例2)であり、速やかな加熱や昇温ができないことが示された。そのため、燃費改善のための加熱システムに採用することが困難であることが確認された。
【0078】
更に、実施例12に示すように、ハニカム構造体の気孔率が他の実施例よりも高い場合(=12.0%)は、誘導加熱試験においてクラックが発生し易いことが示された。但し、比較的軽微なものであり実用上の問題はほとんどない。そのため、本願発明において柱状部材は、気孔率が10%以下の緻密質のセラミックス材料を使用することが特に好適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体は、自動車の燃費改善のための排ガス浄化用触媒を加熱するための加熱システム等に使用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1,10,20,34:流体加熱部品、2,12,21,31,35,40,106:ハニカム構造体、3,13,22,32:外周面、4,14,24,33:導電性皮膜層、5a,106a:一方の端面、5b:他方の端面、6,11:セル、7,41:隔壁、23:内周面、30a,30b:流体加熱部品複合体、41a:隔壁表面、42:表面層、44:目封止部、50a,50b:流体加熱部品(不適合な例)、51a,51b:ハニカム構造体(不適合な例)、52a,52b:外周面(不適合な例)、53a,53b:導電性皮膜層(不適合な例)、54a,54b:絶縁部、100:誘導加熱試験装置、101:高周波電源装置、102:フィーダーダクト、103:フレキフィーダー、104:加熱コイル、105:ケーシング、107:サーモカメラ、A:軸方向、F:流体、ID:コイルの内径、L:コイル長さ。