(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20220927BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20220927BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
G05D1/02 N
(21)【出願番号】P 2019036669
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 良平
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093861(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 - 69/08
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システムを利用して自車位置を特定しながら、予め設定された第1基準点と第2基準点とに基づいて生成された基準経路に平行に設定される走行経路に沿って、自動走行可能に構成された作業車両であって、
自動走行を行っているときに、前記第1基準点に基づいて特定される第1制御基準位置又は前記第2基準点に基づいて特定される第2制御基準位置に自車位置が接近すると、報知装置を作動させる制御部を備え、
前記制御部は、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置の一方を、前記第1基準点及び前記第2基準点とは異なる第3基準点に基づいて特定される第3制御基準位置に変更可能に構成され、当該変更後は、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置の一方に代えて前記第3制御基準位置に基づき前記報知装置を作動させることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、自動走行を行っているとき及び自動走行を行っていないときのいずれであっても、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置の一方を前記第3制御基準位置に変更可能に構成されている請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、自動走行を行っているときに、前記第1基準点及び前記第2基準点に基づいて画定される作業領域内で前記第3基準点が設定されると、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置のうち作業方向後方側にある一方を前記第3制御基準位置に変更するように構成されている請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部は、自動走行を行っていないときに、前記第1基準点及び前記第2基準点に基づいて画定される作業領域内で前記第3基準点が設定されると、自動走行が開始された場合の作業方向を特定し、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置のうち作業方向後方側にある一方を前記第3制御基準位置に変更するように構成されている請求項1~3いずれか1項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1基準点及び前記第2基準点に基づいて画定される作業領域外で前記第3基準点が設定されると、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置のうち自車位置に近い一方を前記第3制御基準位置に変更するように構成されている請求項1~4いずれか1項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動走行において畦際位置に接近したときに報知を実行する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛星測位システムを利用して圃場内を自動で直進走行する田植機などの作業車両が知られている。かかる作業車両は、基準経路に対して平行に設定される直線状の走行経路に沿って、自律的な直進走行を行う。基準経路は、A点及びB点と呼ばれる一組の基準点に基づいて生成される。圃場内で広範に自動走行が行われるよう、A点及びB点は圃場の畦際位置として設定されるのが一般的である。
【0003】
また、特許文献1~3に記載されているように、自動走行が終了する直前にブザーなどにより報知を実行する作業車両が公知である。これにより、作業車両が畦際位置に到達することをオペレータに事前に知らせることができる。報知を受けたオペレータは、停車に備えて体勢を整えたり、手動走行への切り替えを行ったりする。
【0004】
単純な矩形状ではない変形圃場においては、作業車両が畦際位置に接近していないのに報知が実行される、或いは、作業車両が畦際位置に接近しているのに報知が実行されない、といった事態が起こり得る。このため、変形圃場では、自動走行時の報知が適切に実行されるよう、その都度A点及びB点を消去して再設定を行い、畦際位置を更新しなければならず、煩雑な操作を強いられるという不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-135608号公報
【文献】特開2013-74815号公報
【文献】特開2004-337031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、畦際位置の更新を柔軟に行うことが可能で、変形圃場であっても自動走行時の報知を適切に実行できる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車両は、衛星測位システムを利用して自車位置を特定しながら、予め設定された第1基準点と第2基準点とに基づいて生成された基準経路に平行に設定される走行経路に沿って、自動走行可能に構成された作業車両であって、自動走行を行っているときに、前記第1基準点に基づいて特定される第1制御基準位置又は前記第2基準点に基づいて特定される第2制御基準位置に自車位置が接近すると、報知装置を作動させる制御部を備え、前記制御部は、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置の一方を、前記第1基準点及び前記第2基準点とは異なる第3基準点に基づいて特定される第3制御基準位置に変更可能に構成され、当該変更後は、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置の一方に代えて前記第3制御基準位置に基づき前記報知装置を作動させるものである。
【0008】
かかる構成によれば、第1基準点(A点及びB点の一方)及び第2基準点(A点及びB点の他方)を設定した後で、それらに基づいて特定される第1制御基準位置又は第2制御基準位置を事後的に第3制御基準位置に変更できる。変更後は、その第1制御基準位置又は第2制御基準位置の代わりに第3制御基準位置に基づいて、報知装置の作動が制御される。このため、畦際位置の更新を柔軟に行うことが可能であり、変形圃場であっても自動走行時の報知を適切に実行できる。
【0009】
前記制御部は、自動走行を行っているとき及び自動走行を行っていないときのいずれであっても、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置の一方を前記第3制御基準位置に変更可能に構成されていることが好ましい。自動走行を行っているときに制御基準位置を変更できることにより、作業を中断せずに畦際位置を更新できる。また、自動走行を行っていないときに制御基準位置を変更できることにより、例えば、正確な畦際の位置まで手動走行で移動したうえで畦際位置を更新することが可能となる。
【0010】
前記制御部は、自動走行を行っているときに、前記第1基準点及び前記第2基準点に基づいて画定される作業領域内で前記第3基準点が設定されると、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置のうち作業方向後方側にある一方を前記第3制御基準位置に変更するように構成されていることが好ましい。かかる構成によれば、いずれの制御基準位置を変更するか選択する必要がなく、作業領域内においてオペレータの意図に沿った畦際位置の更新が可能である。
【0011】
前記制御部は、自動走行を行っていないときに、前記第1基準点及び前記第2基準点に基づいて画定される作業領域内で前記第3基準点が設定されると、自動走行が開始された場合の作業方向を特定し、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置のうち作業方向後方側にある一方を前記第3制御基準位置に変更するように構成されていることが好ましい。かかる構成によれば、自動走行を行っていない場合であっても制御基準位置が適切に変更される。しかも、いずれの制御基準位置を変更するか選択する必要がなく、ユーザの意図に沿った畦際位置の更新が可能である。
【0012】
前記制御部は、前記第1基準点及び前記第2基準点に基づいて画定される作業領域外で前記第3基準点が設定されると、前記第1制御基準位置及び前記第2制御基準位置のうち自車位置に近い一方を前記第3制御基準位置に変更するように構成されていることが好ましい。かかる構成によれば、いずれの制御基準位置を変更するか選択する必要がなく、作業領域外においてオペレータの意図に沿った畦際位置の更新が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る作業車両の一例である田植機の左側面図
【
図4】自動走行に関する主要な構成を示すブロック図
【
図5】圃場での自動走行における走行経路の一例を模式的に示す図
【
図6】変形圃場での自動走行における走行経路の一例を模式的に示す図
【
図8】Aボタン及びBボタンの操作態様と動作との関係を示す表
【
図9】自動走行に関する制御部の処理を示すフローチャート
【
図12】自動走行終了・継続処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、衛星測位システムを利用して車両位置を特定しながら、作業車両の一例である乗用型の田植機を自動走行させる自動走行システムの例を示す。作業車両は、田植機に限られるものではなく、例えば、トラクタやコンバイン、苗移植機などの農用作業車両であってもよい。或いは、土木建築作業車両や除雪車などであってもよい。
【0015】
[田植機の全体構造]
まずは、田植機の全体構造について簡単に説明する。
図1では、田植機1の前後方向及び上下方向を矢印で示しており、紙面に垂直な方向が左右方向となる。田植機1は、走行部10と、作業部としての植付部20とを有する。植付部20は、走行部10の後方に配置されている。植付部20は、昇降機構21を介して走行部10の後部に昇降自在に連結されている。田植機1は、走行部10により圃場内を走行しながら、植付部20により苗を植え付ける苗植え(田植え)作業を実行できるように構成されている。
【0016】
走行部10は、走行機体2と、走行機体2を支持する左右一対の前輪3と、同じく左右一対の後輪4とを有する。前輪3は、フロントアクスルケース5から左右両側に延びた前車軸に取り付けられている。フロントアクスルケース5は、ミッションケース8の側方に設けられ、走行機体2の前部で支持されている。後輪4は、リアアクスルケース6から左右両側に延びた後車軸に取り付けられている。リアアクスルケース6は、ミッションケース8から後方に向けて突出した筒状フレーム9の後端部に設けられ、走行機体2の後部で支持されている。
【0017】
走行機体2の前部には、駆動源であるエンジン7が搭載されている。エンジン7は、ボンネット11によって覆われている。エンジン7の動力は、エンジン7の後方に配置されたミッションケース8に伝達され、そのミッションケース8を介して前輪3及び後輪4に伝達される。前輪3及び後輪4に動力を伝達して回転駆動させることにより、走行部10が前後方向に走行することができる。
【0018】
走行機体2の後端部には、リンクフレーム17が立設されている。リンクフレーム17には、昇降機構21を介して植付部20が昇降自在に連結されている。昇降機構21は、ロワリンク21aとトップリンク21bとを有する。ロワリンク21aには、油圧式の昇降シリンダ22のロッド先端部が連結している。昇降シリンダ22のシリンダ基端部は、筒状フレーム9の上面後部に上下回動可能に支持されている。昇降シリンダ22を伸縮させることで昇降機構21が上下方向に回動し、植付部20が昇降するように構成されている。
【0019】
植付部20は、エンジン7からミッションケース8及びPTO軸(動力伝達軸)18を経由した動力が伝達される植付入力ケース23と、植付入力ケース23に連結された複数の植付伝動ケース24と、各植付伝動ケース24の後端側に設けられた苗植機構25と、苗マットが載置される苗載台26とを備えている。植付部20への苗つぎ(苗補給)に供される予備苗は、ボンネット11の左右両側方に配置された予備苗台15に載置される。予備苗台15は、走行機体2の前部の左右両側に立設された支持フレーム16(予備苗支柱)に支持されている。
【0020】
苗植機構25には、一条分二本の植付爪27,27を有するロータリケース28が設けられている。ロータリケース28の回転動作に伴い、二本の植付爪27,27が苗マットから交互に苗を取り出して圃場に植え付ける。本実施形態の田植機1は、八条植えの田植機であるため、八条用四組(二条で一組)の植付伝動ケース24を備え、苗載台26も八条植え用に構成されている。但し、田植機1は、これに限定されるものではなく、例えば六条植えや十条植えの田植機であっても構わない。
【0021】
植付部20の左右外側には、それぞれサイドマーカ29が設けられている。サイドマーカ29は、筋引き用のマーカ輪体29wと、マーカ輪体29wを回転可能に支持するマーカアーム29aとを有する。マーカアーム29aの基端部は、植付部20の左右外側において、左右方向へ回動可能に支持されている。サイドマーカ29は、マーカ輪体29wを下降させて次工程での基準となる軌跡を田面に形成する着地姿勢と、マーカ輪体29wを上昇させて田面から離した非着地姿勢(
図1参照)との間で変位可能に構成されている。
【0022】
前後方向における走行機体2の中央部には、運転操作部30が設けられている。オペレータは、走行機体2の上面側に設けられた作業ステップ12(車体カバー)に搭乗し、運転操作部30において田植機1の運転操作を行う。運転操作部30の前部には、操作パネル31が設けられている。操作パネル31は、ボンネット11の後部上面側に配置されている。操作パネル31には、操向ハンドル32や主変速レバー33を含む複数の操作具が配置されている。操作パネル31の後方には、シートフレーム13を介して運転座席14が設置されている。
【0023】
ボンネット11の左右両側では、複数(本実施形態では4つ)の予備苗台15が、前後方向に間隔を空けて設けられた一対の支持フレーム16,16で支持されている。一対の支持フレーム16,16の上端には、側方視で略L字状をなす連結フレーム40が連結されている。連結フレーム40の上端には、上下方向に延びた中間フレーム41を介してユニットフレーム42が接続されている。ユニットフレーム42は、左右の中間フレーム41の上部に対して回動可能に連結されている。ユニットフレーム42には、測位部としての測位ユニット43が固定されている。
【0024】
測位ユニット43は、衛星測位システム(GNSS)からの測位信号を受信し、その測位信号に基づいて自車位置を特定する。衛星測位システムとしては、例えばDGPS(ディファレンシャルGPS)が用いられる。これによれば、予め定められた地点に設置された基準局からの補正情報により田植機1(移動局)の位置情報を補正して、田植機1の自車位置を高精度に特定することができる。DGPSに限られず、RTK(リアルタイムキネマティック)や、SBAS(静止衛星型衛星航法補強システム)などの衛星測位システムを用いることも可能である。
【0025】
[運転操作部]
次に、運転操作部30について説明する。
図2に示すように、操作パネル31には、操向ハンドル32を含む種々の操作具と表示装置34とが配置されている。操向ハンドル32は、運転座席14の前方に設けられている。操作パネル31の下方には、図示しない変速ペダルとブレーキペダルが設置されている。変速ペダルは、田植機1の車速を変更するための操作具である。ブレーキペダルは、田植機1を制動するための操作具である。一般には、操作パネル31の右下方に変速ペダルが配置され、その変速ペダルの左方にブレーキペダルが配置される。
【0026】
田植機1は、自動走行に関する操作を行うための操作部材50と、操作部材50を支持するアーム部材35とを備える。アーム部材35は、支持フレーム16,16に固定されたステー状の上腕部35aと、その上腕部35aに対してヒンジ35bを支点にして水平方向に回動する前腕部35cと、前腕部35cに対してヒンジ35dを支点にして水平方向に回動するホルダ35eとを備える。操作部材50は、ホルダ35eに取り付けられている。前腕部35cの両端には、それぞれ上下方向に沿って屈曲した肘部35f,35fが形成されている。肘部35fは、ヒンジを介して上下方向に回動できる構成でもよい。ホルダ35eに保持された操作部材50は、アーム部材35の可動範囲において動かすことができる。
【0027】
図3に示すように、操作部材50は、自動走行の開始を指示するための指示具であるAUTOボタン51と、基準経路の開始点となるA点の設定を指示するための指示具であるAボタン53と、その基準経路の終了点となるB点の設定を指示するための指示具であるBボタン54とを備える。AUTOボタン51は、操作部材50の操作面50fの中心部に配置されている。Aボタン53及びBボタン54は、AUTOボタン51の下方で左右に並べて配置されている。AUTOボタン51の左上方には、測位ユニット43の測位状態を表示する表示ランプ52が配置されている。
【0028】
AUTOボタン51は、自動走行を開始するとき及び停止するときに操作される。AUTOボタン51は、Aボタン53及びBボタン54に比べて操作頻度が高いため、押圧操作が容易になるよう、Aボタン53及びBボタン54よりも正面視で大きく形成されている。また、AUTOボタン51は、Aボタン53及びBボタン54よりも大きく突出している。Aボタン53とBボタン54とは同一形状のボタンであるが、左右対称に配置されている。AUTOボタン51の周囲にはリング状の発光部55が設けられている。発光部55は、その光色や点灯パターンによって、自動走行に関する様々な状態をオペレータに知らせる機能を有する。
【0029】
本実施形態では、自動走行に関する操作を行うための操作部材50が、操作パネル31から独立して設けられている。かかる構成によれば、既存の田植機に自動走行システムを追加で設置する際に操作パネル31を改造する必要がなく、都合が良い。但し、これに限られるものではなく、自動走行に関する操作を行うための操作部材を操作パネル31に組み込んで設けることも可能である。
【0030】
[自動走行に関する主要な構成]
田植機1は、衛星測位システムを利用して自車位置を特定しながら、予め設定された第1基準点(A点及びB点の一方)と第2基準点(A点及びB点の他方)とに基づいて生成された基準経路に平行に設定される走行経路に沿って、自動走行可能に構成されている。自動走行による直進補助作業には、操作部材50を介して、A点と呼ばれる基準経路の開始点の設定、B点と呼ばれる基準経路の終了点の設定、及び、自動走行のオン(開始)/オフ(停止)の操作が必要となる。
【0031】
図4は、自動走行に関する主要な構成を示すブロック図である。測位ユニット43は、測位用アンテナ43aと、位置計測機43b、及び、慣性計測機(IMU)43cを備える。測位用アンテナ43aは、衛星測位システムを構成する測位衛星(例えばGPS衛星)からの信号を受信する。測位用アンテナ43aで受信された測位信号は、位置計測機43bに入力される。位置計測機43bは、入力された測位信号を信号処理して自車位置を計測する。慣性計測機43cは、走行機体2の姿勢(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を特定する。
【0032】
田植機1は、走行機体2の動作(前進、後進、停止及び旋回など)、並びに、作業部である植付部20の動作(昇降、駆動及び停止など)を制御するための制御部60を備える。制御部60は、図示しないCPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えて構成されている。CPUは、各種プログラムなどをROMから読み出して実行することができる。ROMには、オペレーションプログラムやアプリケーションプログラム、各種データが記憶されている。かかるハードウェアとソフトウェアの協働により、記憶部61や処理部62、自動走行制御部63などとして制御部60を動作させることができる。
【0033】
記憶部61は、田植機1を自動走行させるために必要な様々な情報を記憶する。かかる情報としては、例えば、測位用アンテナ43aから苗植機構25までの水平距離や、オペレータによって設定された第1及び第2基準点の位置、並びに後述する第3基準点の位置が挙げられる。処理部62は、田植機1を自動走行させるために必要な様々な処理を行う。かかる処理としては、基準経路の生成や、後述する制御基準位置の変更(畦際位置の更新)が挙げられる。自動走行制御部63は、自動走行に関する制御を行う。
【0034】
自動走行制御部63は、測位ユニット43によって計測された自車位置の情報に基づき、田植機1が走行経路に沿って走行するように自動走行用アクチュエータ64を制御する。自動走行用アクチュエータ64は、自動走行時に作動させる各種のアクチュエータを指し、操向ハンドル32を操舵するアクチュエータや、ミッションケース8の変速装置を変速するアクチュエータ、植付部20を昇降するアクチュエータ(昇降シリンダ22)などを含む。自動走行制御部63は、田植機1に備えられた自動走行用センサ65からの信号に基づき、田植機1の動作を制御する。
【0035】
田植機1は、報知装置としてのブザー66を備えている。ブザー66は、制御部60の制御に応じて警告音(ブザー音)を発する。ブザー66は、操作部材50に備えられていてもよい。音を使って報知を行うブザーに限られず、例えば、光を使って報知を行うランプによって、又は、ブザーとランプとの組み合わせによって、報知装置を構成することも可能である。
【0036】
[圃場での自動走行]
図5に示した圃場70は、互いに平行に延びた一対の畦71,72によって区画されている。まず、オペレータは、基準経路SCを生成するために、一方の畦71の近傍である畦際71aから、他方の畦72の近傍である畦際72aに向かって田植機1を走行させる。その際、開始点AでAボタン53を操作してA点を設定する。また、終了点BでBボタン54を操作してB点を設定する。本実施形態では、A点が第1基準点に相当し、B点が第2基準点に相当するものとして説明するが、これらは逆でもよい。
【0037】
制御部60は、その予め設定されたA点及びB点に基づいて基準経路SCを生成するとともに、そのA点及びB点に基づいて作業領域73を画定する。基準経路SCは、A点とB点とを結んだ線分として特定できる。作業領域73は、A点を基準にして基準経路SCに垂直な線分として求められる畦際位置L1と、B点を基準にして基準経路SCに垂直な線分として求められる畦際位置L2とで挟まれた領域として特定できる。畦際位置L1,L2を構成する線分の長さは、それぞれA点、B点を中心とした所定距離(例えば左右に1kmずつ)で設定される。
【0038】
基準経路SCを生成した後、AUTOボタン51が押されると、自車位置を通って基準経路SCに平行な走行経路C1が設定されるとともに、車体の向き(方位)に基づいて作業方向WD(自動走行時の進行方向)が特定され、自動走行が開始される。作業方向WDは、基準経路SCと平行に、
図5の下向き又は上向きのいずれかとなる。作業方向WDはターン毎に入れ替わっているが、これに限られない。基準経路SCに対して車体の向き(前後方向)が傾斜しているときは、その傾斜角度が所定以下(例えば15度以下)でなければ、自動走行が開始されないように構成されている。
【0039】
以降も同様に走行経路C2,C3・・・が設定され、それらに沿った自律的な直進走行が行われる。一旦設定されたA点及びB点は消去又は再設定されるまで使用され続けるため、複数の走行経路C1,C2・・・は互いに平行になる。走行経路C1,C2・・・の端同士を接続する円弧状の旋回経路R1,R2・・・では、オペレータの操作によってUターン走行(180度の方向転換)が行われる。但し、これに限られず、自律的にUターン走行可能に構成してもよい。
【0040】
畦際位置L1は、第1基準点であるA点に基づいて特定される第1制御基準位置に相当し、畦際位置L2は、第2基準点であるB点に基づいて特定される第2制御基準位置に相当する。制御部60は、自動走行を行っているときに、畦際位置L1又は畦際位置L2に自車位置が接近すると、ブザー66を作動させる。制御部60は、例えば、畦際位置L1又は畦際位置L2に対して田植機1が所定距離(例えば8m)まで接近したときに、ブザー66を鳴らして報知を行う。畦際位置L1,L2に到達しても、変速ペダルが踏まれていれば自動走行は続行される。変速ペダルを踏まなくても一定速度で走行する機能が作動している場合は、畦際位置L1,L2に到達したときに田植機1の停車又はエンジン7の停止を行うように制御することが望ましい。
【0041】
図6は、圃場70が変形圃場である例を示す。
図6では、圃場70を狭めるようにして畦71が屈曲し、それに伴って畦際71aが段差を有している。畦際位置L1は、予め設定されたA点に基づいて特定されており、その畦際位置L1と畦際位置L2とに基づいてブザー66の作動が制御されるため、走行経路C5に沿って自動走行したときには、田植機1が畦際71aに到達してもブザー66が作動されない。これとは別に、
図6とは逆向きに畦際が段差を有していたり、畦際が湾曲していたりする変形圃場もあり、その形状によっては田植機が畦際に接近していなくてもブザーが作動される場合がある。
【0042】
従来であれば、報知が適切に実行されるよう、走行経路C4の走行後にA点及びB点を一旦消去し、走行経路C5を手動走行しながらA点及びB点を再設定して、畦際位置を更新しなければならない。しかし、そのような煩雑な操作は、オペレータにとって不都合である。また、畦際位置を更新する前後で走行経路の平行が適切に維持されるか否かは、オペレータのスキルに依存する傾向にある。オペレータが非熟練者であると、走行経路C1~C4に対して傾斜した走行経路C5~C7が設定される恐れがある。
【0043】
そこで、この田植機1では、制御部60が、畦際位置L1及び畦際位置L2の一方を、第1基準点(A点)及び第2基準点(B点)とは異なる第3基準点(P点)に基づいて特定される第3制御基準位置に変更可能に構成されており、当該変更後は、その畦際位置L1及び畦際位置L2の一方に代えて第3制御基準位置に基づきブザー66を作動させる。また、制御部60は、自動走行を行っているとき及び自動走行を行っていないときのいずれであっても、畦際位置L1及び畦際位置L2の一方を第3制御基準位置に変更可能に構成されている。
【0044】
図6では、畦際位置L1が畦際位置L3に更新される。更新後の畦際位置L3は、設定されたP点を基準にして基準経路SCに垂直な線分として求められる。P点は、第3基準点に相当する。畦際位置L3は、第3基準点に基づいて特定される第3制御基準位置に相当する。P点は、オペレータによる所定の操作に応じて設定され、それに伴って制御基準位置の変更、つまりは畦際位置の更新が行われる。当該変更前は、畦際位置L1と畦際位置L2とに基づいてブザー66の作動が制御され、当該変更後は、畦際位置L3と畦際位置L2とに基づいてブザー66の作動が制御される。このため、走行経路C5以降の自動走行においても、自車位置が畦際71aに接近したときにブザー66が適切に作動する。更新後は、P点及びB点に基づいて作業領域73が画定される。
【0045】
制御部60は、自動走行を行っているときに、作業領域73内で第3基準点が設定されると、第1制御基準位置及び第2制御基準位置のうち作業方向WD後方側にある一方を第3制御基準位置に変更するように構成されている。別の言い方をすれば、制御部60は、第1制御基準位置及び第2制御基準位置のいずれかを始点として作業方向WDに沿って自動走行を行っているときに、作業領域73内で第3基準点が設定されると、その第1制御基準位置及び第2制御基準位置のうち始点とした方を第3制御基準位置に変更するように構成されている。自動走行中に制御基準位置を変更できることにより、作業を中断せずに畦際位置を更新できる。
【0046】
したがって、
図6のように、走行経路C4に沿って自動走行しているときに、第3基準点であるP点が作業領域73内で設定されると、一対の畦際位置L1,L2のうち作業方向WD後方側にある畦際位置L1が畦際位置L3に変更される。別の言い方をすれば、一対の畦際位置L1,L2のうち走行経路C4の始点となった畦際位置L1が畦際位置L3に変更される。これにより、いずれの制御基準位置を変更するか、つまりは畦際位置L1及び畦際位置L2のどちらを変更するかを、オペレータが選択する必要がない。かかる更新パターンは感覚的に分かりやすく、オペレータの意図に沿った畦際位置の更新が可能である。
【0047】
第3基準点を設定するとき、つまりは畦際位置を更新するときの状況としては、田植機1が作業領域73内にある場合(ケース1)と、田植機1が作業領域73外にある場合とが考えられる。更に、その後者には、田植機1の前方側に作業領域73がある場合(ケース2)と、田植機1の後方側に作業領域73がある場合(ケース3)とが考えられる。
図7(A)~(C)は、それぞれケース1~3における畦際位置の更新パターンを模式的に示している。ケース1については既述の通りなので、
図7(A)の説明は省略する。
【0048】
制御部60は、作業領域73外で第3基準点が設定されると、第1制御基準位置及び第2制御基準位置のうち自車位置に近い一方を第3制御基準位置に変更するように構成されている。したがって、
図7(B)のように作業領域73外でP点が設定されると、一対の畦際位置L1,L2のうち自車位置に近い畦際位置L1が畦際位置L3に変更され、その後は畦際位置L3と畦際位置L2とに基づいてブザー66の作動が制御される。同様に、
図7(C)のように作業領域73外でP点が設定されると、一対の畦際位置L1,L2のうち自車位置に近い畦際位置L2が畦際位置L3に変更され、その後は畦際位置L3と畦際位置L1とに基づいてブザー66の作動が制御される。
【0049】
別の言い方をすると、制御部60は、
図7(B)のように作業領域73よりも作業方向WD後方側でP点が設定されたときは、一対の畦際位置L1,L2のうち作業方向WD後方側にある一方(畦際位置L1)を畦際位置L3に変更し、
図7(C)のように作業領域73よりも作業方向WD前方側でP点が設定されたときは、一対の畦際位置L1,L2のうち作業方向WD前方側にある一方(畦際位置L2)を畦際位置L3に変更するように構成されている。これらは、自動走行を行っているとき及び行っていないときのいずれでもよい。自動走行を行っていないときは、後述する作業領域73内で第3基準点が設定される場合と同様に、自動走行が開始された場合の作業方向を基準にすればよい。
【0050】
図7(D)は、自動走行を行っていないときにP点が設定される点で
図7(A)とは異なる。制御部60は、自動走行を行っていないときに、作業領域73内でP点が設定されると、自動走行が開始された場合の作業方向WDを特定し、畦際位置L1及び畦際位置L2のうち作業方向WD後方側にある一方(畦際位置L1)を畦際位置L3に変更するように構成されている。自動走行が開始された場合の作業方向WDは、自動走行が行われたと仮定したときの作業方向である。停車中や手動走行中など自動走行を行っていないときは、作業方向が定まらないものの、自動走行が開始された場合の作業方向WDを基準にすることで、支障なく畦際位置を更新できる。
【0051】
既述のように、更新後の畦際位置L3は、事後的に設定されたP点を基準にして基準経路SCに垂直な線分として定められる。これに限られず、例えば、P点を基準にしつつ、畦際位置L1及び畦際位置L2の少なくとも一方に平行な線分として畦際位置L3を特定することも可能である。畦際位置L1又は畦際位置L2の角度を調整可能な機能を備えた田植機1であれば、一対の畦際位置L1,L2が互いに非平行となる状況もあり得るが、その場合は、更新対象となる畦際位置と平行な線分として畦際位置L3を特定することができる。
【0052】
オペレータは、自動走行を行っているとき及び自動走行を行っていないときのいずれにおいても、所定の操作により第3基準点であるP点を設定できる。操作を簡略化する観点から、第3基準点の設定は、第1基準点及び/又は第2基準点の設定を指示するための指示具を用いて指示できることが好ましい。本実施形態では、Aボタン53を用いてP点の設定を指示できる。A点及びB点が設定されている状況でAボタン53が押されることにより、その時点での自車位置がP点として設定される。
図8は、Aボタン53及びBボタン54の操作態様と動作との関係を示す表である。これらの動作については、当該表の備考欄のように種々の変形例が考えられる。
【0053】
図8のように、本実施形態では、A点操作(Aボタン53の押圧操作)によって畦際位置が更新される。
図7で示した更新パターンに則って処理されるため、畦際位置L1,L2のいずれを更新するか選択する必要はない。A点操作の代わりにB点操作(Bボタン54の押圧操作)を用いてもよい。或いは、Aボタン53及びBボタン54の双方を使用することも可能である。例えば、作業領域73内でのA点操作によって作業方向後方側(進行方向上流側)の畦際位置が更新され、同じくB点操作によって作業方向前方側(進行方向下流側)の畦際位置が更新されるようにしてもよい(
図8の備考欄参照)。かかる構成によれば、車体の向きに関係なく、畦際位置L1,L2のどちらでも更新できる。
【0054】
[自動走行に関する制御部の処理]
図9~12は、田植機1の自動走行に関して制御部60が実行する処理を示すフローチャートである。
図9に示すように、田植機1の電源が投入されると「START」となり、まずは、自動走行による直進補助作業を行うための条件を設定する(作業条件設定処理S1)。次いで、その設定された条件に基づいて自動走行を実行する(自動走行実行処理S2)。その後、所定の終了条件が成立すれば自動走行を終了するが、そうでなければ自動走行を継続し(自動走行終了・継続処理S3)、これらの処理S1~S3を繰り返す。
【0055】
図10に示すように、作業条件設定処理S1では、A点操作が行われた場合に、まだA点が設定されていなければ、その操作に応じてA点が設定される(ステップS11,S12及びS14)。A点操作が行われた場合に、A点及びB点の双方が設定されていれば、その操作に応じて畦際位置が更新される(ステップS11~S13及びS15)。これは、A点操作に応じて第3基準点(P点)が設定され、それによって制御基準位置が変更されることを意味する。また、B点操作が行われた場合に、まだB点が設定されていなければ、その操作に応じてB点が設定される(ステップS16~18)。
【0056】
図10には示さないが、Aボタン53及びBボタン54の長押し操作によって、設定したA点及びB点を消去することが可能である。具体的には、
図8のように、A点のみが設定された状況でAボタン53を長押しすると、設定したA点が消去される。また、A点及びB点の双方が設定された状況でAボタン53を長押しすると、設定したA点及びB点の双方が消去される。A点及びB点の双方が設定された状況でBボタン54を長押しすると、設定したB点が消去される。別の操作態様として、Aボタン53とBボタン54とを同時に押すことで、A点及びB点が消去されるように構成してもよい。
【0057】
図11に示すように、自動走行実行処理S2では、自動走行が行われておらず、既にA点及びB点が設定されているときに、その設定されたA点及びB点に基づいて基準経路SCを生成し、畦際位置L1,L2を特定する(ステップS21~S24)。測位ユニット43の測位状態が良好であれば、制御部60によって自動走行が許可される(ステップS25)。AUTOボタン51のオン操作によって自動走行の開始が指示されると、走行経路を設定し、その走行経路に沿って自動走行を開始する(ステップS26~S28)。他方、ステップS21において自動走行中であれば、特定されている畦際位置に基づき、ブザー66を作動させて報知を実行する(ステップS29)。
【0058】
図12に示すように、自動走行終了・継続処理S3では、自動走行中において、所定の終了条件が成立するか否かを判定する(ステップS31及びS32)。自動走行の終了条件は、例えば、AUTOボタン51のオフ操作によって自動走行の終了が指示された場合、或いは、自動走行を続行できないほどに測位ユニット43の測位状態が思わしくないと判定された場合に成立する。終了条件が成立すれば自動走行を終了し、そうでなければ自動走行を継続する(ステップS32~S34)。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 田植機(作業車両の一例)
51 AUTOボタン
53 Aボタン
54 Bボタン
60 制御部
66 ブザー(報知装置の一例)
73 作業領域
L1 畦際位置(第1制御基準位置)
L2 畦際位置(第2制御基準位置)
L3 畦際位置(第3制御基準位置)
SC 基準経路