(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20220927BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20220927BHJP
F15B 11/08 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
E02F3/43 E
E02F9/20 Q
F15B11/08 A
(21)【出願番号】P 2019120376
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】伊東 勝道
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-247504(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008188(WO,A1)
【文献】特開2016-61307(JP,A)
【文献】特許第6062115(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/43
E02F 9/20
F15B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーム及びアームを含んで構成された多関節型の作業装置と、
前記ブームを駆動するブームシリンダを含む作業装置駆動用の複数の油圧アクチュエータと、
前記作業装置の姿勢を検出する複数の姿勢センサと、
前記複数の油圧アクチュエータを駆動する圧油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する制御弁ユニットと、
パイロットポンプの吐出圧を元圧として前記制御弁ユニットを駆動するパイロット圧を出力する複数の操作レバー装置と、
前記複数の操作レバー装置及び前記制御弁ユニットの間に設けた複数の電磁減圧弁を含んで構成された電磁弁ユニットと、
前記複数の姿勢センサの信号を基に前記複数の油圧アクチュエータの制限速度を演算し、前記制限速度に基づいて、掘削目標面を超えて地面を掘削しないように前記電磁減圧弁の開度を制御するコントローラとを備えた油圧ショベルにおいて、
前記コントローラは、前記操作レバー装置からブーム上げ操作信号が出力されている間、前記電磁弁ユニットに含まれるアームクラウド及びアームダンプの動作に対応する電磁減圧弁の開度を前記制限速度に基づく開度よりも大きくなるように制御することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧ショベルにおいて、前記コントローラは、前記アームクラウド及びアームダンプの動作に対応する電磁減圧弁の開度を前記制限速度に基づく開度よりも大きくなるように制御する際、ブーム下げの動作に対応する電磁減圧弁の開度も前記制限速度に基づく開度より大きくなるように制御することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項3】
請求項1に記載の油圧ショベルにおいて、前記コントローラは、前記操作レバー装置からブーム上げ操作信号が出力されている間、前記アームクラウド及びアームダンプの動作に対応する電磁減圧弁を開放する方向に制御することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項4】
請求項3に記載の油圧ショベルにおいて、前記コントローラは、前記ブーム上げ操作の停止後、前記アームクラウド及びアームダンプの動作に対応する電磁減圧弁の開度を単調に減少するように制御し、前記ブーム上げ操作の停止後所定時間で前記制限速度に基づく開度に復帰させるように制御することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項5】
請求項1に記載の油圧ショベルにおいて、前記コントローラは、ブーム上げ操作を停止してから一定時間の間、アームクラウド又はアームダンプについて演算した制限速度をブーム上げ操作を停止してからの経過時間に基づく補正増加率で増加方向に補正することを特徴とする油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるマシンコントロール機能を備えた油圧ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルには、オペレータによる作業装置の操作を補助するマシンコントロール(以下、適宜MCと記載する)機能が備えたものがある。MC機能としては、例えばオペレータの掘削操作に介入してバケットの爪先が掘削目標面より下側の領域に進入しないように例えばブームシリンダを強制的に制御する領域制限制御が代表例である。
【0003】
領域制限制御に関し、特許文献1には、掘削目標面に作業装置が接近する場合に掘削目標面に向かう方向の作業装置の目標速度ベクトルを減速補正するシステムが開示されている。しかし、領域制限制御中においては作業装置が掘削目標面に近付くにつれて作業装置が掘削目標面に向かう速度成分が減じられるため転圧作業をすることができない。
【0004】
それに対し、特許文献2には、オペレータの操作に基づいて転圧条件が満たされていると判定すると、掘削目標面付近における作業装置のブーム下げ動作の速度制限を弱め、領域制限制御中でも掘削目標面を転圧できるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第95/30059号
【文献】特許第6062115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MC機能は、ブームシリンダ等の作業装置の油圧アクチュエータの動作を制御する流量制御弁に対して操作レバー装置から入力されるパイロット圧を状況に応じて電磁減圧弁で減圧することで実現される。そして、MC機能の下では、目標掘削面を超えて掘削することを防止する観点で、作業装置の急動作を抑えるべく電磁減圧弁の待機中の開度が閉じ側に設定されている。油圧アクチュエータの速い動作が許容されるときに電磁減圧弁が開くようになっている。
【0007】
特許文献2のシステムにおいては、転圧作業と判定された場合にブーム下げ動作の速度制限が弱まる。しかし、転圧作業はブーム下げ動作のみで行われるものではなく、転圧位置の調整のためにアームクラウドやアームダンプの動作と組み合わせて行われる。アームクライドやアームダンプの動作は掘削面付近で制限されるため転圧位置の調整動作に遅延が生じ、転圧作業を円滑に実行することができない。
【0008】
本発明の目的は、マシンコントロール制御の最中でもアームクラウド及びアームダンプの動作を伴う転圧作業等の作業を掘削目標面付近で応答良く行うことができる油圧ショベルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、ブーム及びアームを含んで構成された多関節型の作業装置と、前記ブームを駆動するブームシリンダを含む作業装置駆動用の複数の油圧アクチュエータと、前記作業装置の姿勢を検出する複数の姿勢センサと、前記複数の油圧アクチュエータを駆動する圧油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから前記複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する制御弁ユニットと、パイロットポンプの吐出圧を元圧として前記制御弁ユニットを駆動するパイロット圧を出力する複数の操作レバー装置と、前記複数の操作レバー装置及び前記制御弁ユニットの間に設けた複数の電磁減圧弁を含んで構成された電磁弁ユニットと、前記複数の姿勢センサの信号を基に前記複数の油圧アクチュエータの制限速度を演算し、前記制限速度に基づいて、掘削目標面を超えて地面を掘削しないように前記電磁減圧弁の開度を制御するコントローラとを備えた油圧ショベルにおいて、前記コントローラは、前記操作レバー装置からブーム上げ操作信号が出力されている間、前記電磁弁ユニットに含まれるアームクラウド及びアームダンプの動作に対応する電磁減圧弁の開度を前記制限速度に基づく開度よりも大きくなるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マシンコントロール制御の最中でもアームクラウド及びアームダンプの動作を伴う転圧作業等の作業を掘削目標面付近で応答良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態における油圧ショベルの構成図
【
図2】
図1に示した油圧ショベルに備わった油圧システムの油圧回路図
【
図3】
図1に示した油圧ショベルに備わった電磁弁ユニットの詳細図
【
図5】
図1に示した油圧ショベルに備わったコントローラのハードウェア構成図
【
図6】
図1に示した油圧ショベルに備わった表示装置の表示画面の一例の図
【
図7】
図1に示した油圧ショベルに備わったコントローラの機能ブロック図
【
図8】マシンコントロールにより制御されたバケット爪先の軌跡の一例を示す図
【
図9】
図1に示した油圧ショベルに備わったコントローラによるアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについての制限パイロット圧の決定手順を表すフローチャート
【
図10】本発明の第1実施形態における遷移圧力の演算ロジックを表すブロック線図
【
図11】
図9の手順で演算される制限パイロット圧とブーム上げ操作との関係を表す図
【
図12】本発明の第2実施形態における油圧ショベルに備わったコントローラによるアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについての制限パイロット圧の決定手順を表すフローチャートであって第1実施形態の
図9に対応する図
【
図13】
図12の手順で演算される制限パイロット圧とブーム上げ操作との関係を表す図であって第1実施形態の
図11に対応する図
【
図14】本発明の第3実施形態における油圧ショベルに備わったコントローラの機能ブロック図であって第1実施形態の
図7に対応する図
【
図15】
図14に示した制限速度補正部におけるアームクラウド及びアームダンプについての制限速度の補正演算ロジックを表すブロック線図
【
図16】本発明の第3実施形態における油圧ショベルに備わったコントローラで演算されるアームクラウド等の制限パイロット圧のブーム上げ操作との関係を表す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
<第1実施形態>
-油圧ショベル-
図1は本発明の第1実施形態における油圧ショベルの構成図である。なお、本実施形態では作業装置の先端にアタッチメント(作業具)としてバケット10を装着した油圧ショベルを例示して説明するが、バケット以外のアタッチメントを装着した油圧ショベルにも本発明は適用され得る。
【0014】
同図に示した油圧ショベル1は、多関節型の作業装置(フロント作業機)1Aと車体1Bとを含んで構成されている。車体1Bは、左右の走行モータ(油圧モータ)3a,3b(
図2)により走行する走行体11と、走行体11の上に取り付けられた旋回体12とからなる。旋回体12は、旋回モータ(油圧モータ)4(
図2)により走行体11に対して旋回する。旋回体12の旋回中心軸は油圧ショベル1が水平地に停車した状態で鉛直である。旋回体12には運転室16が設けられている。
【0015】
作業装置1Aは、鉛直面内でそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム8、アーム9及びバケット10)を連結して構成されている。ブーム8の基端はブームピンを介して旋回体12の前部に回動可能に連結されている。このブーム8の先端にはアームピンを介してアーム9が回動可能に連結されており、アーム9の先端にはバケットピンを介してバケット10が回動可能に連結されている。ブーム8はブームシリンダ5によって駆動され、アーム9はアームシリンダ6によって駆動され、バケット10はバケットシリンダ7によって駆動される。
【0016】
また、ブームピンには角度センサR1、アームピンには角度センサR2、バケットリンク13には角度センサR3、旋回体12には車体傾斜角センサ(例えばIMU)R4が取り付けられている。角度センサR1,R2,R3により、それぞれブーム8、アーム9、バケット10の回動角度α,β,γ(
図4)が測定されてコントローラ40(後述)に出力される。車体傾斜角センサR4は、基準面(例えば水平面)に対する旋回体12(車体1B)の傾斜角θ(
図4)を測定してコントローラ40(後述)に出力する。なお、角度センサR1~R3はそれぞれ基準面に対する傾斜角を測定するセンサ(IMU等)で代替することもできる。加えて、旋回体12には一対のGNSSアンテナG1,G2が備わっている。GNSSアンテナG1,G2からの情報を基に、グローバル座標系における油圧ショベル1や作業装置1Aの基準点の位置を算出することができる。
【0017】
なお、本実施形態では作業装置1Aの基準点をバケット爪先とした場合を例に挙げて説明する。但し、基準点の設定は適宜変更可能である。例えばバケット10の背側面(外面)やバケットリンク13に基準点を設定しても良いし、バケット全体において掘削目標面Stと最短距離にある点を基準点に設定しても良い(つまり状況に応じて基準点が変化しても良い)。
【0018】
-油圧システム-
図2は
図1に示した油圧ショベルに備わった油圧システムの油圧回路図である。運転室16内には、操作レバー装置A1~A6が設置されている。操作レバー装置A1,A3は、運転席(不図示)の左右の一方側に配置された操作レバーB1を共有している。本実施形態では、操作レバーB1で操作レバー装置A1を操作するとブームシリンダ5(ブーム8)が駆動され、操作レバーB1で操作レバー装置A3を操作するとバケットシリンダ7(バケット10)が駆動される。操作レバー装置A2,A4は、運転席の左右の他方側に配置された操作レバーB2を共有している。本実施形態では、操作レバーB2で操作レバー装置A2を操作するとアームシリンダ6(アーム9)が駆動され、操作レバーB2で操作レバー装置A4を操作すると旋回モータ4(旋回体12)が駆動される。操作レバー装置A5は操作レバーB3を有し、操作レバーB3で操作レバー装置A5を操作すると右側の走行モータ3a(走行体11)が駆動される。操作レバー装置A6は操作レバーB4を有し、操作レバーB4で操作レバー装置A6を操作すると左側の走行モータ3b(走行体11)が駆動される。操作レバーB3,B4は運転席の前方に右左に並べて配置されている。
【0019】
旋回体12には原動機であるエンジン18の他、油圧ポンプ2やパイロットポンプ48が搭載されており、エンジン18によって油圧ポンプ2やパイロットポンプ48が駆動される。油圧ポンプ2はレギュレータ2aによって容量が制御される可変容量型であり、複数の油圧アクチュエータ(ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7等)を駆動する圧油を吐出する。パイロットポンプ48は固定容量型である。
図2の例では、レギュレータ2aはシャトルブロックSBを介して入力される操作レバー装置A1~A6からのパイロット圧により駆動され、入力されたパイロット圧に応じて油圧ポンプ2の吐出流量を制御する。シャトルブロックSBは複数のシャトル弁を含んで構成され、操作レバー装置A1~A6のパイロット圧を伝達するパイロットラインC1~C12の途中に設けられており、操作レバー装置A1~A6のパイロット圧の最大値を選択してレギュレータ2aに入力する。
【0020】
パイロットポンプ48の吐出配管であるポンプライン48aはロック弁39を経由し、複数に分岐して操作レバー装置A1~A6やマシンコントロール用の電磁弁ユニット160に接続している。本実施形態のロック弁39は電磁切換弁であり、そのソレノイドは旋回体12の運転室16に配置されたゲートロックレバー(不図示)の位置センサと電気的に接続している。ゲートロックレバーのポジションがその位置センサで検出され、位置センサからゲートロックレバーのポジションに応じた信号がロック弁39に入力される。ゲートロックレバーのポジションがロック位置にあればロック弁39が閉じてポンプライン48aが遮断され、ロック解除位置にあればロック弁39が開いてポンプライン48aが開通する。ポンプライン48aが遮断された状態では操作レバー装置A1~A6による操作が無効化され、旋回や掘削等の動作が禁止される。
【0021】
上記の操作レバー装置A1~A6はそれぞれ油圧パイロット方式の一対の減圧弁を含んで構成されている。これら操作レバー装置A1~A6はパイロットポンプ48の吐出圧を元圧として、それぞれオペレータによる操作レバーB1~B4の操作量と操作方向に応じて制御弁ユニット15を駆動するパイロット圧を生成し出力する。制御弁ユニット15は流量制御弁D1~D6を含んで構成されており、油圧ポンプ2からブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、走行モータ3a,3b及び旋回モータ4に供給される圧油の流れを制御する。流量制御弁D1は操作レバー装置A1からパイロットラインC1,C2を介して受圧室E1,E2に入力されるパイロット圧で駆動され、油圧ポンプ2からの圧油の供給方向や流量を制御してブームシリンダ5を駆動する。流量制御弁D2は操作レバー装置A2からパイロットラインC3,C4を介して受圧室E3,E4に入力されるパイロット圧で駆動されてアームシリンダ6を駆動する。流量制御弁D3は操作レバー装置A3からパイロットラインC5,C6を介して受圧室E5,E6に入力されるパイロット圧で駆動されてバケットシリンダ7を駆動する。同様に流量制御弁D4~D6は操作レバー装置A4~A6からパイロットラインC7~C12を介して受圧室E7~E12に入力されるパイロット圧で駆動されて対応する油圧アクチュエータを駆動する。
【0022】
-電磁弁ユニット-
図3は
図2に示した電磁弁ユニット160の詳細図である。同図に示したように、電磁弁ユニット160は、複数の操作レバー装置A1~A3及び制御弁ユニット15の間に設けられている。この電磁弁ユニット160は、電磁比例駆動式の減圧弁である電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’、及びシャトル弁SV1,SV5,SV6を含んで構成されている。以下の説明において、流量制御弁D1~D3に対するパイロット圧のうち、操作レバー装置A1~A3から出力されるパイロット圧を「第1指令信号」、電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’から出力されるパイロット圧を「第2指令信号」と称する。第2指令信号には、電磁減圧弁V2~V6で第1指令信号を減圧補正して生成したパイロット圧と、操作レバー装置A1~A3をバイパスしてパイロットポンプ38の吐出圧を電磁減圧弁V1’,V5’,V6’で減圧して別途生成したパイロット圧とが含まれる。マシンコントロール(以下、MCと略称する)は、第2指令信号に基づく流量制御弁D1~D3の制御と定義できる。
【0023】
電磁減圧弁V1’は、一次側ポートがポンプライン48aを介してパイロットポンプ48に接続されており、パイロットポンプ48の吐出圧を減圧してブーム上げ用のパイロット圧(第2指令信号)として出力する。シャトル弁SV1は、その一次側ポートが操作レバー装置A1のブーム上げ用のパイロットラインC1と電磁減圧弁V1’の二次側ポートに接続され、二次側ポートが流量制御弁D1の受圧室E1に接続されている。ブーム上げ動作に関し、パイロットラインC1の第1指令信号(ブーム上げ操作信号)と電磁減圧弁V1’の第2指令信号の高圧側がシャトル弁SV1で選択されて流量制御弁D1の受圧室E1に導かれる。
【0024】
電磁減圧弁V2は、操作レバー装置A1のブーム下げ用のパイロットラインC2に設置されている。ブーム下げ動作に関し、必要に応じて電磁減圧弁V2で減圧されたパイロットラインC2のパイロット圧が流量制御弁D1の受圧室E2に導かれる。
【0025】
電磁減圧弁V3は、操作レバー装置A2のアームクラウド用のパイロットラインC3に設置されている。アームクラウド動作に関し、必要に応じて電磁減圧弁V3で減圧されたパイロットラインC3のパイロット圧が流量制御弁D2の受圧室E3に導かれる。
【0026】
電磁減圧弁V4は、操作レバー装置A2のアームダンプ用のパイロットラインC4に設置されている。アームダンプ動作に関し、必要に応じて電磁減圧弁V4で減圧されたパイロットラインC4のパイロット圧が流量制御弁D2の受圧室E4に導かれる。
【0027】
電磁減圧弁V5は、操作レバー装置A3のバケットクラウド用のパイロットラインC5に設置されている。電磁減圧弁V5’は、一次側ポートがポンプライン48aを介してパイロットポンプ48に接続されており、パイロットポンプ48の吐出圧を減圧してバケットクラウド用のパイロット圧(第2指令信号)として出力する。シャトル弁SV5は、その一次側ポートがパイロットラインC5と電磁減圧弁V5’の二次側ポートに接続され、二次側ポートが流量制御弁D3の受圧室E5に接続されている。バケットクラウド動作に関し、パイロットラインC5のパイロット圧と電磁減圧弁V5’のパイロット圧の高圧側がシャトル弁SV5で選択されて流量制御弁D3の受圧室E5に導かれる。
【0028】
電磁減圧弁V6は、操作レバー装置A3のバケットダンプ用のパイロットラインC6に設置されている。電磁減圧弁V6’は、一次側ポートがポンプライン48aを介してパイロットポンプ48に接続されており、パイロットポンプ48の吐出圧を減圧してバケットダンプ用のパイロット圧(第2指令信号)として出力する。シャトル弁SV6は、その一次側ポートがパイロットラインC6と電磁減圧弁V6’の二次側ポートに接続され、二次側ポートが流量制御弁D3の受圧室E6に接続されている。バケットダンプ動作に関し、パイロットラインC6のパイロット圧と電磁減圧弁V6’のパイロット圧の高圧側がシャトル弁SV6で選択されて流量制御弁D3の受圧室E6に導かれる。
【0029】
電磁減圧弁V2~V6はソレノイドが消磁された状態で最大開度(開放状態)となるノーマルオープンタイプであり、コントローラ40からの指令信号(電気信号)の増加に比例して最小開度(本実施形態では開度0)まで開度が減少する。一方、電磁減圧弁V1’,V5’,V6’はソレノイドが消磁された状態で最小開度(本実施形態では開度0)となるノーマルクローズタイプであり、コントローラ40からの指令信号の増加に比例して最大開度まで開度が増加する。コントローラ40からの指令信号により電磁減圧弁V2~V6が作動すると、操作レバー装置A1~A3で生成されたパイロット圧(第1指令信号)を減圧補正したパイロット圧(第2指令信号)が生成される。一方、コントローラ40からの指令信号により電磁減圧弁V1’,V5’,V6’が作動すると、操作レバー装置A1,A3の操作に関係なくブーム上げ、バケットクラウド、バケットダンプに関するパイロット圧(第2指令信号)が発生する。第2指令信号はMC下でコントローラ40が制御したパイロット圧である。こうした電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’の作用により、例えば掘削目標面St(
図4)を超えて作業装置1Aが地面を掘削しないように一定条件下でオペレータの操作にコントローラ40が介入して作業装置1Aの動作を補正する。「掘削目標面」とは本実施形態における油圧ショベルが整地対象とする設計地形の外形面、又はこの外形面から上方に設定距離だけオフセットした面である。
【0030】
なお、油圧ショベル1には圧力センサP1~P6が備わっている。圧力センサP1,P2は、操作レバー装置A1とブーム用の流量制御弁D1とを接続するパイロットラインC1,C2に設けられている。電磁減圧弁よりも上流側におけるパイロットラインC1,C2の圧力つまりパイロット圧(第1指令信号)がそれぞれ圧力センサP1,P2で操作レバーB1によるブーム操作量として検出される。圧力センサP3,P4は、操作レバー装置A2とアーム用の流量制御弁D2とを接続するパイロットラインC3,C4に設けられている。電磁減圧弁V3,V4よりも上流側におけるパイロットラインC3,C4の圧力つまりパイロット圧(第1指令信号)がそれぞれ圧力センサP3,P4で操作レバーB2によるアーム操作量として検出される。圧力センサP5,P6は、操作レバー装置A3とバケット用の流量制御弁D3とを接続するパイロットラインC5,C6に設けられている。電磁減圧弁V5,V6よりも上流側におけるパイロットラインC5,C6の圧力つまりパイロット圧(第1指令信号)がそれぞれ圧力センサP5,P6で操作レバーB1によるバケット操作量として検出される。圧力センサP1~P6の検出信号はコントローラ40に入力される。圧力センサP1~P6とコントローラ40との接続線は省略してある。
【0031】
-バケット爪先位置(作業装置基準点)の演算方法-
図4はバケット爪先位置の演算方法の説明図である。
【0032】
作業装置1Aの姿勢は
図4のショベル基準のローカル座標系で定義できる。
図4のローカル座標系は、旋回体12を基準に設定された座標系であり、ブーム8の基部(支点)を原点とし、旋回体12の旋回中心軸と平行に(旋回体12の真上方向に)Z軸を設定し、Z軸と直交する方向(旋回体12の前方)にX軸を設定した。X軸に対するブーム8の傾斜角をブーム角α、ブーム8に対するアーム9の傾斜角をアーム角β、アーム9に対するバケット10の傾斜角をバケット角γとした。水平面(基準面)に対する車体1B(旋回体12)の傾斜角を傾斜角θとした。ブーム角αはブーム角度センサR1により、アーム角βはアーム角度センサR2により、バケット角γはバケット角度センサR3により、傾斜角θは車体傾斜角センサR4により検出される。ブーム角αは、ブーム8を上限まで上げた状態(ブームシリンダ5が最伸長状態)で最小、ブーム8を下限まで下げた状態(ブームシリンダ5が最収縮情愛)で最大となる値である。アーム角βは、アームシリンダ6が最収縮状態で最小、アームシリンダ6が最伸長状態で最大となる値である。バケット角γは、バケットシリンダ7が最収縮状態(
図4の状態)で最小、バケットシリンダ7が最伸長状態で最大となる値である。
【0033】
このとき、ローカル座標系におけるバケット爪先の位置(Xbk,Zbk)は、次の式(1)(2)で表される。
【0034】
Xbk=L1cos(α)+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)…式(1)
Zbk=L1sin(α)+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)…式(2)
L1はブーム8の基部からアーム9との連結部までの長さ、L2はアーム9とブーム8の連結部からアーム9とバケット10の連結部までの長さ、L3はアーム9とバケット10の連結部からバケット10の先端部までの長さである。
【0035】
-マシンコントロール-
コントローラ40には、操作レバー装置A1~A3の少なくとも1つが操作された場合に、一定条件下でオペレータの操作に介入して作業装置1Aの動作を制限するMC機能が備わっている。MCはバケット爪先位置や操作状況に応じてコントローラ40が電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’を制御することで実行される。コントローラ40に実装され得るMC機能には、操作レバー装置A2でアーム操作をする際に実行される「領域制限制御」、アーム操作を伴わずブーム下げ操作をする際に実行される「停止制御」や「転圧制御」が含まれる。
【0036】
領域制限制御は「整地制御」とも呼ばれる。領域制限制御が機能している間、掘削目標面Stから下側の領域を作業装置1Aが掘削しないようにブームシリンダ5、アームシリンダ6及びバケットシリンダ7の少なくとも1つが制御され、アーム操作によってバケット爪先が掘削目標面Stに沿って移動する。具体的には、掘削目標面Stに垂直な方向のバケット爪先の速度ベクトルがゼロになるように、アーム操作に伴うアーム動作中にブーム上げ又はブーム下げの微動が指令される。回動運動であるアーム動作によるバケット爪先の軌跡を掘削目標面Stに沿って直線軌道に補正するためである。
【0037】
停止制御は、掘削目標面Stよりも下方の領域にバケット爪先が侵入しないようにブーム下げ動作を停止する制御であり、ブーム下げ操作中にバケット爪先が掘削目標面Stに接近するにつれブーム下げ動作を減速させる。
【0038】
転圧制御は転圧作業を許容するための制御である。転圧作業とは、バケット10の背側面を勢い良く押し当てることで地面を押し固める作業である。しかし、MCは基本的に掘削目標面Stの付近で掘削目標面Stに対するバケット爪先の接近速度を減じるため、成形した掘削目標面Stの転圧を意図してブーム下げ操作をしてもバケット10を掘削目標面Stに勢い良く押しあてることができない。転圧制御が機能している間は、掘削目標面Stとバケット爪先との距離が近くても、ブーム下げ動作の減速が抑制される(後述)。
【0039】
-コントローラ(ハードウェア)-
図5は油圧ショベルのコントローラ40のハードウェア構成図、
図6は表示装置DSの表示画面の一例の図である。
【0040】
図5に示したコントローラ40は車載コンピュータであり、入力インターフェース41、CPU(中央演算処理装置)42、ROM(リードオンリーメモリ)43、RAM(ランダムアクセスメモリ)44、出力インターフェース45を含んで構成されている。
【0041】
入力インターフェース41には、姿勢センサR、目標面設定装置Ts、GNSSアンテナG1,G2、操作センサP、モードスイッチSWからの各信号が入力され、CPU42による演算のために必要に応じてデジタル変換する。なお、姿勢センサRは作業装置1Aの姿勢を検出するために設置された複数のセンサであって、具体的には角度センサR1~R3及び車体傾斜角センサR4である。操作センサPは圧力センサP1~P6である。目標面設定装置Tsは掘削目標面Stに関する情報(各掘削目標面の位置情報や傾斜角度情報を含む)を入力するインターフェースである。この目標面設定装置Tsはグローバル座標系(絶対座標系)で規定された掘削目標面の3次元データを格納した外部端末(不図示)と接続されており、外部端末から掘削目標面の3次元データが入力される。但し目標面設定装置Tsを介したコントローラ40への掘削目標面の入力は、オペレータによる手動入力も可能である。モードスイッチSWは作業モードを設定する入力装置である。
【0042】
ROM43は、後で
図7~
図11により説明する処理を含めたMC機能を実行するための制御プログラムや処理の実行に必要な各種情報等が記憶されている。RAM44はCPU42による演算結果や入力インターフェース41から入力された信号を記憶する。なお、本実施形態では記憶装置としてROM43及びRAM44といった半導体メモリを備えたコントローラ40を例示しているが、記憶装置の種類に特別な限定はなく、例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を用いることもできる。
【0043】
CPU42は、ROM43に記憶された制御プログラムに従って入力インターフェース41、ROM43、RAM44から取り入れた信号に基づいて所定の演算処理を実行する。
【0044】
出力インターフェース45は、CPU42による演算結果に基づく出力用の信号を生成し、その信号を電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’及び表示装置DSに出力する。これにより電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’や表示装置DSが作動する。表示装置DSはタッチパネル式の液晶モニタであり、運転室16の内部に設置されている。
図6に示すように、表示装置DSの表示画面には、掘削目標面Stと作業装置1A(例えばバケット10)の位置関係として、掘削目標面Stとバケット10の爪先までの距離(目標面距離H1)が表示される。目標面距離H1は掘削目標面Stを基準に上方向に正の値、下方向に負の値をとる。なお、
図6のような表示はモードスイッチSWでMC機能を加除した状態でも表示装置DSに表示させることができ、オペレータはこの表示を参考に作業装置1Aを操作することができる(いわゆるマシンガイダンス機能)。
【0045】
-コントローラ(機能)-
図7はコントローラ40の機能ブロック図、
図8はMCにより制御されたバケット爪先の軌跡の一例を示す図である。
【0046】
図7に示すように、コントローラ40のCPU42には、操作量演算部42A、姿勢演算部42B、目標面演算部42C、制限速度演算部42D、電磁減圧弁制御部42E、表示制御部42Fが含まれている。操作量演算部42A、姿勢演算部42B、目標面演算部42C、制限速度演算部42D、電磁減圧弁制御部42E、表示制御部42Fは、図式化して表したコントローラ40におけるCPU42の機能である。電磁減圧弁制御部42Eには更に、制限パイロット圧演算部42a、制限パイロット圧介入決定部42b(以下、介入決定部42bと略称する)、バルブ指令演算部42cが含まれている。
【0047】
(1)操作量演算部
操作量演算部42Aでは、操作センサP(圧力センサP1~P6)の検出値を基に操作レバー装置A1,A2,A3(操作レバーB1,B2)の操作量が算出される。圧力センサP1の検出値からはブーム上げの操作量、圧力センサP2の検出値からはブーム下げの操作量が算出される。圧力センサP3の検出値からはアームクラウド(アーム引き)の操作量、圧力センサP4の検出値からはアームダンプ(アーム押し)の操作量が算出される。圧力センサP5の検出値からはバケットクラウドの操作量、圧力センサP6の検出値からはバケットダンプの操作量が算出される。こうして操作量演算部42Aで圧力センサP1~P6の検出値から変換された操作量は制限速度演算部42Dに出力される。
【0048】
なお、圧力センサP1~P6による操作量の算出は一例に過ぎず、例えば各操作レバー装置A1~A3の操作レバーの回転変位を検出する位置センサ(例えばロータリーエンコーダ)で操作レバーの操作量を検出する構成としても良い。
【0049】
(2)姿勢演算部
姿勢演算部42Bでは、姿勢センサRの検出信号に基づき、ローカル座標系における作業装置1Aの姿勢とバケット10の爪先の位置が演算される。バケット10の爪先の位置(Xbk,Zbk)は、既述の通り式(1)及び式(2)により演算できる。グローバル座標系における作業装置1Aの姿勢と、バケット10の爪先の位置が必要な場合、姿勢演算部42Bは、GNSSアンテナG1,G2の信号から旋回体12のグローバル座標系における位置と姿勢を算出してローカル座標系をグローバル座標系に変換する。
【0050】
(3)目標面演算部
目標面演算部42Cでは、目標面設定装置Tsを介して入力される情報に基づいて掘削目標面Stの位置情報が演算され、演算された掘削目標面Stの位置情報がRAM44に記録される。本実施形態では、目標面設定装置Tsを介して3次元データで提供される掘削目標面を作業装置1Aが移動する平面(作業装置の動作平面)で切断した断面(先に
図4に示したような2次元の掘削目標面)の情報が掘削目標面Stの位置情報として演算される。
【0051】
なお、
図4の例では掘削目標面Stは1つだが、掘削目標面が複数存在する場合もある。掘削目標面が複数存在する場合には、例えば、バケット爪先に最も近いものを掘削目標面と設定する方法、バケット爪先の鉛直下方に位置するものを掘削目標面とする方法、任意に選択したものを掘削目標面とする方法等がある。
【0052】
(4)制限速度演算部
制限速度演算部42Dでは、作業装置1Aで掘削目標面Stを超えて地面を掘削しないように、姿勢センサRの信号を基にMC時(領域制限制御時)のブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7の各制限速度(伸長速度の制限値)が演算される。本実施形態では、まず操作量演算部42Aから入力される操作レバー装置A1~A3の操作量を基にブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7の一次目標速度がそれぞれ計算される。次にこれら一次目標速度と、姿勢演算部42Bで求めたバケット爪先の位置と、ROM43に記憶してある作業装置1Aの各部寸法(上記L1,L2,L3等)とからバケット爪先の目標速度ベクトルVc(
図8)が求められる。そして、バケット10が降下して目標面距離H1がゼロに近付くにつれて目標速度ベクトルVcの掘削目標面Stとの直交成分Vcyがゼロに近付くように、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7の1つ以上の一次目標速度が制限補正される。このようにてブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7の制限速度を演算することで、オペレータの操作に応じたバケット爪先の目標速度ベクトルVcが
図8に示したようにVca(
図8)に変換(方向変換制御)される。目標面距離H1がゼロの場合の速度ベクトルVca(≠0)は掘削目標面Stに平行な成分Vcxのみになる。これにより掘削目標面Stより下側の領域にバケット爪先が侵入しないように、掘削目標面Stから上の領域にバケット爪先が保持される。
【0053】
このとき、方向変換制御は、ブーム上げ又はブーム下げとアームクラウドとの組み合わせにより実行される場合と、ブーム上げ又はブーム下げとアームダンプとの組み合わせにより実行される場合とがある。いずれの場合においても、目標速度ベクトルVcが掘削目標面Stに接近する下向き成分(Vcy<0)を含むとき、制限速度演算部42Dでは、その下向き成分を打ち消すブーム上げ方向のブームシリンダ5の制限速度が演算される。反対に目標速度ベクトルVcが掘削目標面Stから離れる上向き成分(Vcy>0)を含むとき、制限速度演算部42Dでは、その上向き成分を打ち消すブーム下げ方向のブームシリンダ5の制限速度が演算される。また、ブーム動作用の電磁減圧弁V2,V1’等の応答遅れを加味し、アームクラウド操作直後はアームクラウドの制限速度の増加率を制限して出力するようにする。アームクダンプ操作直後も同じくアームクダンプの制限速度の増加率を制限して出力するようにする。
【0054】
なお、領域制限制御が行われない場合、制限速度演算部42Dでは、操作レバー装置A1~A3の操作に応じた各油圧シリンダの制限速度(一次目標速度)がそのまま制限速度として演算され出力される。
【0055】
制限速度演算部42Dで演算された制限速度は、制限パイロット圧演算部42aに出力される。
【0056】
(5)制限パイロット圧演算部
制限パイロット圧演算部42aでは、制限速度演算部42Dで算出された各制限速度を基にブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7に各対応する流量制御弁D1,D2,D3への制限パイロット圧Pr1が演算される。制限パイロット圧演算部42aで演算された制限パイロット圧Pr1は、介入決定部42bに出力される。
【0057】
(6)制限パイロット圧介入決定部
介入決定部42bでは、制限パイロット圧演算部42aで演算された制限パイロット圧Pr1を基に、一定条件下で必要に応じて変更が加えられて最終的な制限パイロット圧RPr2が決定される。具体的には、ブーム下げ、アームダンプ及びアームクラウドについてMCによる動作速度の制限を抑えたい状況下で、制限パイロット圧演算部42aで演算された流量制御弁D1,D2の受圧室E2~E4に対する制限パイロット圧Pr2が増加方向に変更される。介入決定部42bの機能に伴い、MCによりアクチュエータ速度が制限される状況下においても一定条件下で電磁減圧弁V2~V4の開度がMCによる本来の開度(制限速度演算部42Dで演算された制限速度に基づく開度)から増加する。この場合、ブーム下げ、アームダンプ及びアームクラウドの各動作についてMCによる制限が緩和される。介入決定部42bにおける制限パイロット圧の変更は、目標面距離H1、ブーム上げ操作の状況、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げの各動作にそれぞれ対応する制限パイロット圧に基づいて実行される。制限パイロット圧の変更を要しない場合は、介入決定部42bで決定される制限パイロット圧Pr2は、制限パイロット圧演算部42aで演算された制限パイロット圧Pr1(制限速度演算部42Dで演算された制限速度に基づくパイロット圧)となる。介入決定部42bにおける処理内容については
図9を用いて後述する。
【0058】
(7)バルブ指令演算部
バルブ指令演算部42cでは、介入決定部42bで決定した制限パイロット圧Pr2に基づく電気信号が演算され、それぞれ電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’に出力される。バルブ指令演算部42cから出力された電気信号で各ソレノイドが励磁されて電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’が作動し、流量制御弁D1~D3に作用するパイロット圧が状況に応じて制限パイロット圧Pr2で制限される。例えばオペレータがアームクラウド動作による水平掘削を意図して操作レバー装置A2を操作した場合には、バケット爪先が掘削目標面Stの下方領域に侵入しないように状況に応じて電磁減圧弁V1’,V3が制御される。この場合、オペレータの操作に応じたアームクラウド動作にアームクラウドの減速動作やブーム上げ動作が自動的に合成され、コントローラ40のアシストを得てアームクラウド操作のみで水平掘削動作が実行される。その一方で、操作レバー装置A1からブーム上げ操作信号が出力されている間、
図9で後述するように介入決定部42bの目標パイロット圧の介入決定により電磁減圧弁V2~V4の開度が制限速度に基づく開度よりも大きく決定される。これにより本来的にはMCにより動作速度が制限される条件下でも、アームクラウド、アームダンプ及びブーム下げの各動作については制限が緩和される。
【0059】
-電磁弁開度決定手順-
図9は介入決定部42bによるアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについての制限パイロット圧Pr2の決定手順を表すフローチャートである。介入決定部42bは所定の周期(例えば1ms)で
図9の処理を繰り返し実行する。介入決定部42bは、操作レバー装置A1によりブーム上げ操作がされている間、アームクラウド及びアームダンプの動作について制限パイロット圧Pr2の設定を最大圧力Pmaxまで増加させる特徴的機能を備えている。最大圧力Pmaxは、
図3の回路において流量制御弁D1,D2の受圧室E2~E4に出力し得る最大の圧力であり、制限パイロット圧演算部42aで制限速度に基づいて演算された制限パイロット圧Pr1よりも高い。
【0060】
同図の処理を開始すると、介入決定部42bは、姿勢演算部42Bから入力される目標面距離H1に基づいて掘削目標面Stからバケット爪先が十分に離れているかを判定する(ステップS301)。ここではH1≧Hthであるか否かで掘削目標面Stからバケット爪先が十分離れているかを判定する。Hthは目標面距離H1について予め設定された設定距離(>0)である。また、MCにより電磁減圧弁V2~V6,V1’,V5’,V6’が制御される(MCによる作業装置1Aの動作制限がかかる)領域を規定する掘削目標面Stからバケット爪先の設定距離をH2とすると、H2≦Hthである。MCを適正に機能させる観点ではH2<Hthであることが望ましい。介入決定部42bは、H1≧Hthであれば掘削目標面Stからバケット爪先が十分離れていると判定してステップS302に手順を移し、H1<Hthであれば掘削目標面Stからバケット爪先が近いと判定してステップS303に手順を移す。
【0061】
H1≧Hthの場合、介入決定部42bは、電磁減圧弁V2~V4の開度を最大開度にすべく流量制御弁D1,D2の受圧室E2~E4に対する制限パイロット圧Pr2が無条件で最大圧力Pmaxに決定される(ステップS302)。
【0062】
H1<Hthの場合、介入決定部42bは、圧力センサP1の検出信号(圧力)P0に基づいてブーム上げ操作がされているかを判定する(ステップS303)。ここではP0≧Pthであるか否かでブーム上げ操作がされているかを判定する。Pthは圧力センサP1の検出信号P0について予め設定されてROM43に記憶された閾値であり、ブーム8が上昇し始めるパイロット圧である。介入決定部42bは、P0≧Pthの場合はブーム上げ操作がされていると判定してステップS302に手順を移し、P0<Pthであればブーム上げ操作がされていないと判定してステップS304に手順を移す。結果、ブーム上げ操作中においては、無条件で電磁減圧弁V2~V4が最大開度で待機した状態となり、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げの各操作については目標面距離H1によらずMCが解除される。従って、ブーム上げ操作と同時に例えばアームクラウド操作又はアームダンプ操作をした場合には、MC機能による制限を受けることなくアーム9をクラウド方向又はダンプ方向に操作に応じた速度で動かせるようになる。
【0063】
他方、掘削目標面Stにバケット爪先が接近していてブーム上げ操作もない場合、介入決定部42bは、ブーム上げについて無操作継続時間Tbm[s]がTth[s]未満であるかを判定する(ステップS304)。Tthは無操作継続時間Tbmについて予め設定されてROM43に記憶されている閾値としての予め設定された所定時間である。ここでは圧力センサP1の検出信号P0がPth以上からPth未満となった時点をTbm=0として、これ以降の経過時間(=Tbm)がTth未満かが判定される。介入決定部42bでは、Tbm<TthであればステップS305に手順が移り、Tbm≧TthであればステップS306に手順が移る。
【0064】
ブーム上げ操作が停止して所定時間Tthが到来するまで(Tbm<Tth)は、介入決定部42bでは、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げについて無操作継続時間Tbmに応じた遷移圧力Psが計算される。そして、これら遷移圧力Psがアームクラウド、アームダンプ、ブーム下げについての制限パイロット圧Pr2として決定される(ステップS305)。詳細は後述するが、ここで計算される遷移圧力Psは、電磁減圧弁V2~V4の開度を最大開度(MC解除状態の開度)から制限パイロット圧Pr1に応じた開度(MC機能状態の開度)に所定時間Tthをかけて戻す(例えば単調に減少させる)ための値である。制限パイロット圧として遷移圧力Psが設定される間については、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げについてMC機能は半解除状態となる(時間経過に伴ってMCによる制限が強くなっていく状態である)。
【0065】
無操作継続時間Tbmが所定時間Tthに達したら、介入決定部42bでは、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げについて制限パイロット圧演算部42aで演算された制限パイロット圧Pr1が閾値Pth2未満かどうかが判定される(ステップS306)。Pth2はアームクラウド、アームダンプ、ブーム下げの各動作に関して制限パイロット圧演算部42aで演算された制限パイロット圧Pr1について各々予め設定された閾値であり、例えばアームクラウド、アームダンプ、ブーム下げの各動作が始まる圧力である。アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げの動作毎に制限パイロット圧Pr1は異なり得るため、ステップS306の判定結果も動作によって異なり得る。
図9ではアームクラウド、アームダンプ、ブーム下げの各動作についてフローチャートを兼ねているが、厳密にはこれら3つの動作について
図9の手順が個別に実行される。
【0066】
制限パイロット圧がPth2未満の場合、介入決定部42bでは、最小圧力Pminが制限パイロット圧Pr2に決定される(ステップS307)。制限パイロット圧Pr1がPth2以上の場合、介入決定部42bでは、制限パイロット圧Pr1が制限パイロット圧Pr2に決定される(ステップS308)。ステップS306-S308の手順ではMCが通常に機能する。
【0067】
ステップS302,S305,S307,S309において制限パイロット圧Pr2が決定したら、介入決定部42bでは、決定した制限パイロット圧Pr2がバルブ指令演算部42cに出力され、ステップS301に手順が戻る(ステップS309)。
【0068】
-遷移圧力演算方法-
図10は介入決定部42bによる
図9のフローチャートのステップS305における遷移圧力の演算ロジックを表すブロック線図である。
図10の演算ロジックによりブーム下げ、アームクラウド、アームダンプの各動作について過渡的な制限パイロット圧としての遷移圧力が演算される。ここでは
図10を用いてアームクラウド動作に関して遷移圧力を演算する場合を代表して説明するが、アームダンプ及びブーム下げの各動作についての遷移圧力の演算も同様である。
【0069】
遷移圧力の演算に当たっては、まず操作量演算部42Aで演算されたブーム上げパイロット圧が入力され(S1)、ブーム上げパイロット圧がPthからPth未満となった時点からの経過時間(無操作継続時間Tbm)が演算される(S2)。無操作継続時間Tbmはブーム上げパイロット圧がPth以上となる度にゼロにリセットされる。演算された無操作継続時間Tbmは圧力比率テーブルに入力され、圧力比率テーブルに基づいて圧力比率δ(
図11)が演算される(S3)。圧力比率δとは、遷移圧力Psに占めるアームクラウドについての制限パイロット圧Pr1(目標速度に応じた値)の割合である。圧力比率テーブルは、ブーム上げの無操作継続時間Tbmがゼロから所定時間Tthに至る間に0(最小)から1.0(最大)まで圧力比率δが増加するように設定されている(
図11)。また、アームクラウドについての制限パイロット圧Pr1が入力され(S4)、圧力比率テーブルに基づいて演算された圧力比率δが制限パイロット圧Pr1に乗算される(S5)。また、アームクラウド動作に関して流量制御弁D2の受圧室E3に作用し得る規定の最大圧力PmaxがROM43から入力され(S6)、この値に(1-δ)が乗算される(S7)。最大圧力Pmaxと(1-δ)の乗算値は、制限パイロット圧Pr1とδの乗算値に加算されて(S8)遷移圧力Psとして出力される(S9)。
【0070】
図11は
図9の手順で演算される制限パイロット圧Pr2とブーム上げ操作との関係を表す図である。同図に示すように、ブーム上げ操作中は最大圧力Pmaxが制限パイロット圧Pr2、ブーム上げ操作停止後所定時間Tthは遷移圧力Psが制限パイロット圧Pr2となる。ブーム上げ操作が停止して所定時間Tthが経過した後は、制限パイロット圧Pr1が制限パイロット圧Pr2となる。
図11における制限パイロット圧Pr1の変動は一例である。遷移圧力Psの演算に関し、圧力比率δは、ブーム上げパイロット圧が操作状態(Pth以上)から非操作状態(Pth未満)となってから所定時間Tthで0から1.0まで単調増加するように規定されている。このように圧力比テーブルを規定することで、
図11に示したようにブーム上げ操作を停止すると、目標面距離H1がHth未満の条件下では所定時間Tthで遷移圧力Psは最大圧力Pmaxから制限パイロット圧Pr1まで単調に減少する。
【0071】
-動作-
本実施形態においては、電磁弁ユニット160のブーム下げ、アームクラウド、アームダンプに関して電磁減圧弁V2~V4の制御に特徴がある。以下に電磁減圧弁V2~V4の動作について条件毎に説明する。
【0072】
(1)掘削目標面Stからバケット爪先が十分に離れている場合
姿勢演算部42Bで演算される目標面距離H1がHth以上の場合、掘削目標面Stに作業装置1Aが干渉する恐れがなく、オペレータの操作に介入してブーム下げ、アームクラウド、アームダンプの減速制御を実行する必要がない。そのため、アームクラウド、アームダンプ、及びブーム下げの制限パイロット圧Pr2に操作量によらず最大圧力Pmaxが設定され、電磁減圧弁V2~V4が開放される方向に制御される(本例では開放される)。これによりオペレータの操作に応じて操作レバー装置A1,A2で生成されるパイロット圧が流量制御弁D2,D3の受圧室E2~E4に作用し、オペレータの操作に応じた速度でブームやアームが動作する。
【0073】
(2)バケット爪先が掘削目標面Stに接近している場合
目標面距離H1がHth未満の状況でも、ブーム上げ操作がされている間、アームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについて操作量によらず制限パイロット圧Pr2に最大圧力Pmaxが設定され、電磁減圧弁V2~V4が開放される。本実施形態ではブーム上げ操作が行われたことがトリガとなって、モードスイッチSW(
図5)の操作がなくても目標面距離H1に関わらず、アームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについて自動的にMCが解除される。これによりオペレータの操作に応じて操作レバー装置A1,A2で生成されるパイロット圧が流量制御弁D2,D3の受圧室E2~E4に作用し、オペレータの操作に応じた速度でブーム8やアーム9が動作する。
【0074】
また、本実施形態においては、ブーム上げ操作を停止した際、目標面距離H1がHth未満であれば電磁減圧弁V2~V4の動作はMC下の動作に直ちには復帰しない。ブーム上げ操作の停止から所定時間Tthは、アームクラウド、アームダンプ及びブーム下げの各動作について操作量によらず制限パイロット圧Pr2に遷移圧力Psが設定される。これにより電磁減圧弁V2~V4についてはMCの半解除状態となり、オペレータの操作に応じてブーム8やアーム9が動作する状態から時間経過に伴ってMCによる動作制限の効き方が強くなる。ブーム上げ操作がないまま所定時間Tthが経過すると電磁減圧弁V2~V4の動作は通常のMC下の動作に復帰する。
【0075】
-効果-
(1)本実施形態では、操作レバー装置A1によりブーム上げ操作がされている間、アームクラウド及びアームダンプの動作に対応する電磁減圧弁V2,V3の開度を制限速度に基づく開度(本実施形態では最大開度)よりも大きくする。これにより、MC制御に介入して掘削目標面St付近で応答良く作業装置1Aのアームクラウド及びアームダンプの動作を含む転圧作業等の作業を円滑にすることができる。
【0076】
MCによるアシストを要する場面では主にアーム操作が行われ、一般にブーム上げ操作は行われない。この点に着眼し、本実施形態ではブーム上げ操作が行われたことをトリガとして、例えばモードスイッチSWを操作しなくても目標面距離H1に関わらず特定の電磁減圧弁について自動的にMCが解除されるようにした。本実施形態では整地(MC)を意図しない転圧作業等を想定し、これら作業に関連の強い電磁減圧弁V2~V4を開放することとしている。この場合、掘削目標面Stの近傍でブーム上げ操作で掘削目標面Stとバケット10との距離をとってからアーム操作で位置合わせを行う際、MC時でも操作に応じた速度でアーム9が動作して作業効率が向上し、オペレータの心理的疲労も軽減される。ブーム上げとアームクラウド(又はダンプ)の複合操作でバケット10の位置合わせを行う際にも同様の効果が得られる。
【0077】
(2)本実施形態では、ブーム上げ操作の停止後、電磁減圧弁V2~V4の開度を単調に減少させ、ブーム上げ操作の停止から所定時間Tthで制限パイロット圧Pr1に基づく開度に復帰させる。これにより例えば転圧作業時におけるブーム上げ後のブーム下げ動作もMCによる制限が抑えられ、作業効率の向上や、オペレータの心理的疲労軽減の効果が大きい。
【0078】
また、所定時間Tthが長い程、電磁減圧弁V2~V4の開度がMC下での値より大きくなる時間が長くなるため、ブーム上げ操作後にアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げの応答が改善する時間を長く確保できる。反対に、所定時間Tthが短い程、ブーム上げ操作後早期にアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げの動作についてMCによる本来の制限が効くようになり、掘削目標面Stを超えて地面を掘削することを抑制できる。所定時間Tthの調整によって作業装置1Aの応答性と掘削目標面Stの保護性を柔軟に調整することができる。
【0079】
<第2実施形態>
図12は本発明の第2実施形態における油圧ショベルに備わったコントローラによるアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについての制限パイロット圧の決定手順を表すフローチャートであって第1実施形態の
図9に対応する図である。
図13は
図12の手順で演算される制限パイロット圧Pr2とブーム上げ操作との関係を表す図であって第1実施形態の
図11に対応する図である。
【0080】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、介入決定部42bによるアームクラウド、アームダンプ及びブーム下げについての制限パイロット圧Pr2の決定手順にあり、具体的には遷移圧力の演算手順(
図9のステップS304,S305)を省略した点である。本実施形態では、ステップS303でブーム上げ操作なしと判定された場合、ブーム上げについての無操作継続時間Tbmに関係なくステップS306に手順を移す。従って、目標面距離H1がHth以下の条件では、ブーム上げ操作の停止と同時に制限パイロット圧演算部42aで演算された制限パイロット圧Pr1が制限パイロット圧Pr2となる。従って、目標面距離H1がHth以下の条件では、ブーム上げ操作の停止後速やかに、電磁減圧弁V2~V4の開度が最大開度から目標速度に応じた開度に変更される。構成及び機能を含めてその他の点について本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0081】
本実施形態においても、第1実施形態で説明した基本的効果(1)を得ることができ、またブーム上げ操作後において掘削目標面Stを超えて地面を掘削する可能性を第1実施形態よりも抑制できる。
【0082】
<第3実施形態>
図14は本発明の第3実施形態における油圧ショベルに備わったコントローラの機能ブロック図であって第1実施形態の
図7に対応する図である。本実施形態が第1実施形態と相違する点は、制限速度演算部42Dに制限速度の補正演算機能としての制限速度補正部42Daが付加された点である。制限速度補正部42Daでは、ブーム上げ操作量と、アームクラウド、アームダンプの制限速度に基づいて、制限パイロット圧演算部42aに出力するアームクラウド、アームダンプについての制限速度が補正される。具体的には、ブーム上げ操作を停止してから一定時間の間、アームクラウド又はアームダンプについて演算された制限速度がブーム上げ操作を停止してからの経過時間(無操作継続時間Tbm)に基づく補正増加率で増加方向に補正される(後述)。
【0083】
図15は制限速度補正部42Daにおけるアームクラウド及びアームダンプについての制限速度の補正演算ロジックを表すブロック線図である。
図15の演算ロジックによりアームクラウド、アームダンプの制限速度が適宜補正されて個々に演算される。ここでは
図15を用いてアームクラウド動作に関する制限速度の演算ロジックを代表して説明するが、アームダンプ動作の制限速度についての演算ロジックも同様である。
【0084】
制限速度の補正に当たっては、まず操作量演算部42Aで演算されたブーム上げパイロット圧が入力され(S11)、ブーム上げパイロット圧がPthからPth未満となった時点からの経過時間(無操作継続時間Tbm)が演算される(S12)。無操作継続時間Tbmはブーム上げパイロット圧がPth以上となる度にゼロにリセットされる。演算された無操作継続時間Tbmは減速比率テーブルに入力され、減速比率テーブルに基づいて減速比率ε(
図16)が演算される(S13)。減速比率εとは、アームクラウド動作について制限速度演算部42Dでアームクラウド操作量と姿勢演算部42Bで求めたバケット爪先の位置に基づいて求められた補正前の制限速度の増加率が、後に求める補正増加率に占める割合である。減速比率テーブルは、ブーム上げの無操作継続時間Tbmがゼロから予め設定された所定時間ΔT’に至る間に0(最小)から1.0(最大)まで減速比率εが増加(本例では線形的に増加)するように規定されている(
図16)。制限速度補正部42Daでは、アームクラウド動作について制限速度演算部42Dで求められた補正前の制限速度増加率(S14)に、減速比率テーブルに基づいて演算された減速比率εが乗算される(S15)。
【0085】
その一方で、アームクラウドについてのブーム上げ操作後制限速度増加率(=既定値>補正前の制限速度増加率)が例えばROM43から入力され(S16)、この値に比率(1-ε)が乗算される(S17)。ブーム上げ操作後制限速度増加率の(1-ε)倍の値と、補正前の制限速度増加率のε倍の値とが加算されて補正増加率が演算される(S18)。
【0086】
そしてアームクラウドについて演算された制限速度(S19)について、アームクラウド操作の直後(例えばブーム上げ操作停止後の所定時間ΔT’)に限ってアームクラウドについて補正前の制限速度が前述した補正増加率で増加方向に補正される(S20)。上記の通り、ブーム上げ操作後一定時間は、経過時間が短い程、補正前の制限速度よりも大きなブーム上げ操作後制限速度増加率が強く影響し、大きく増加補正される。他方、アームクラウド操作の直後を除き(例えばブーム上げ操作停止後の所定時間ΔT’以外)、アームクラウドについての制限速度は補正されない。このようにして制限速度演算部42Dにおいて制限速度補正部42Daにより必要に応じて増加補正された制限速度が制限パイロット圧演算部42aに出力され(S21)、制限パイロット圧演算部42aで制限パイロット圧Pr1に変換される。
【0087】
図16は本実施形態における油圧ショベルに備わったコントローラ(介入決定部42b)で演算されるアームクラウド等の制限パイロット圧のブーム上げ操作との関係を表す図である。
図16では介入決定部42bにおいて
図13(第2実施形態)に示した態様で制限パイロット圧を演算した場合を例示しているが、本実施形態による制限速度の演算方法は第1実施形態にも当然に適用できる。
【0088】
図16に示すように、ブーム上げ操作の停止後一定時間は制限速度の補正をしない場合に比べて制限パイロット圧Pr2が大きく演算され、電磁減圧弁V3,V4の開度も増加する。第1及び第2実施形態では一定条件下で見かけ上の制限パイロット圧を増加させることで電磁減圧弁の開度を増加させたが、本例のように見かけ上の制限速度を増加させることで電磁減圧弁の開度を上げることができる。制限速度の補正を組み合わせることで、制限パイロット圧Pr2の制御態様のバリエーションが増し、より柔軟な操作性の実現に寄与し得る。
【0089】
<変形例>
第1及び第2実施形態では、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げを制限パイロット圧Pr2の切換制御の対象とした場合を例に挙げて説明した。しかし、アームクラウドとアームダンプのみが応答遅れ改善の対象であれば、ブーム下げについては制限パイロット圧Pr2の切換制御の対象から外しても良い。反対にバケットダンプやバケットクラウドについての応答遅れの改善も必要であれば、これらを対象に含めることもできる。バケットクラウドやバケットダンプについても、アームクラウド等と同じように制限パイロット圧を演算し、電磁減圧弁の作動度合を制御すれば良い。この場合、δ,ε,Tth,Pth,Hthの各パラメータについては、アームクラウド、アームダンプ、ブーム下げ、バケットクラウド、バケットダンプで共用しても良いし別個の値を設定しても良い。なお、強制ブーム上げについての電磁減圧弁V1’について特に説明していないが、電磁減圧弁V3等と同様に制御することもできるが、例えばMC解除時、半解除時(例えば
図11におけるTht以前)は消磁状態(開度0)としておくことができる。
【符号の説明】
【0090】
1…油圧ショベル、1A…作業装置、2…油圧ポンプ、5…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、6…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、7…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、8…ブーム、9…アーム、10…バケット、15…制御弁ユニット、40…コントローラ、42b…制限パイロット圧介入決定部、42D…制限速度演算部、160…電磁弁ユニット、A1~A6…操作レバー装置、R1~R3…角度センサ(姿勢センサ)、R4…車体傾斜角センサ(姿勢センサ)、St…掘削目標面,Tth…所定時間、V2~V6,V1’,V5’,V6’…電磁減圧弁、ΔT’…一定時間