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特許7146718リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質、及びリチウムイオン二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220927BHJP
   C01G 51/08 20060101ALI20220927BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220927BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220927BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220927BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220927BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G51/08
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019198128
(22)【出願日】2019-10-31
(62)【分割の表示】P 2018095641の分割
【原出願日】2018-05-17
(65)【公開番号】P2020024941
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2019-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2017099871
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100119301
【弁理士】
【氏名又は名称】蟹田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】内田 彩
(72)【発明者】
【氏名】米田 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正弘
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-026640(JP,A)
【文献】特開2015-156363(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061633(WO,A1)
【文献】特開2000-501060(JP,A)
【文献】特開2016-127016(JP,A)
【文献】特開2004-342554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01G51/00-51/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト酸リチウムを用い、前記コバルト酸リチウムにマグネシウムとフッ素を含正極活物質であって、
前記正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用い、六フッ化リン酸リチウムとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとに2wt%のビニレンカーボネートが混合されているものを電解液に用い、25℃環境下において4.6Vの電圧まで電流値を0.5C(ただし1C=137mA/gを満たす)として定電流充電し、その後、電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、
アルゴン雰囲気において前記正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したとき、XRDパターンは少なくとも2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピークを有する、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質。
【請求項2】
コバルト酸リチウムを用い、前記コバルト酸リチウムにマグネシウムとフッ素を含正極活物質であって、
前記正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用い、六フッ化リン酸リチウムとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとに2wt%のビニレンカーボネートが混合されているものを電解液に用い、25℃環境下において4.6Vの電圧まで電流値を0.5C(ただし1C=137mA/gを満たす)として定電流充電し、その後、電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、
アルゴン雰囲気において前記正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したとき、XRDパターンは少なくとも2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピークを有し、
前記XRDパターンをリートベルト法により解析したとき、前記2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピークを有する結晶構造の割合が60wt%以上を満たす、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質。
【請求項3】
コバルト酸リチウムを用い、前記コバルト酸リチウムにマグネシウムとフッ素を含正極活物質であって、
前記正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用い、六フッ化リン酸リチウムとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとに2wt%のビニレンカーボネートが混合されているものを電解液に用い、25℃環境下において4.6Vの電圧まで電流値を0.5C(ただし1C=137mA/gを満たす)として定電流充電し、その後、電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、
アルゴン雰囲気において前記正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したとき、XRDパターンは少なくとも2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピークを有し、結晶構造が空間群R-3m、Coの座標が(0、0、0.5)、酸素の座標が(0、0、x)(ただし0.20≦x≦0.25)と同定される、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質。
【請求項4】
コバルト酸リチウムを用い、前記コバルト酸リチウムにマグネシウムとフッ素を含正極活物質であって、
前記正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用い、六フッ化リン酸リチウムとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとに2wt%のビニレンカーボネートが混合されているものを電解液に用い、25℃環境下において4.6Vの電圧まで電流値を0.5C(ただし1C=137mA/gを満たす)として定電流充電し、その後、電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、
アルゴン雰囲気において前記正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したとき、XRDパターンは少なくとも2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピークを有し、結晶構造が空間群R-3m、Coの座標が(0、0、0.5)、酸素の座標が(0、0、x)(ただし0.20≦x≦0.25)と同定され、
前記XRDパターンをリートベルト法により定量したとき、前記2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピークを有する結晶構造の割合が60wt%以上を満たす、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載された正極活物質を有する正極と、
負極と、を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、
マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。
本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、
またはそれらの製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる正極活物質、二
次電池、および二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すも
のである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウ
ムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を
有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装
置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二
次電池は、携帯電話、スマートフォン、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末
、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、次世代クリーンエネルギー自動車(ハ
イブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)
等)など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの
供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高エネルギー密度化、
サイクル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
そこでリチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化を目指した、正極活
物質の改良が検討されている(特許文献1、特許文献2および非特許文献1)。また、正
極活物質の結晶構造に関する研究も行われている(非特許文献2乃至非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-164758号公報
【文献】特表2014-523840号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Jae-Hyun Shim et al, “Characterization of Spinel LixCo2O4-Coated LiCoO2 Prepared with Post-Thermal Treatment as a Cathode Material for Lithium Ion Batteries”, CHEMISTRY OF MATERIALS, 2015, 27, pp.3273-3279
【文献】Toyoki Okumura et al,“Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, pp.17340-17348
【文献】Motohashi, T. et al,“Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2 (0.0≦x≦1.0)”, Physical Review B, 80(16) ;165114
【文献】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様は、さらに高容量で充放電サイクル特性に優れた、リチウムイオン二次電
池用正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、リチウム
イオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活
物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、高容量の二次電池を
提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、充放電特性の優れた二次電池を提供
することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、安全性又は信頼性の高い二次電
池を提供することを課題の一とする。
【0010】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法
を提供することを課題の一とする。
【0011】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請
求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の正極活物質は、充電状態と放電状態におい
て、結晶構造の変化が少ないことを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様は、正極と、負極と、をする二次電池であって、正極のXRDパターンを
リートベルト法により解析したとき、正極は、擬スピネル型結晶構造を有し、擬スピネル
型結晶構造の割合は、60wt%以上である、二次電池である。
【0014】
本発明の別の一態様は、リチウムと、コバルトと、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、
を有する正極活物質であって、正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用いたリ
チウムイオン二次電池を、25℃環境下において電池電圧が4.6Vとなるまで電流値が
十分に下がる程度まで充電した後、正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したと
き、2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°に回折ピーク
を有する、正極活物質である。
【0015】
本発明の別の一態様は、リチウムと、コバルトと、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、
を有する正極活物質であって、充電深度0.8以上の正極活物質において存在比が60w
t%以上ある結晶構造の、ユニットセルあたりの体積と、充電深度0.06以下の正極活
物質において存在比が60wt%以上ある結晶構造の、ユニットセルあたりの体積と、の
差が、2.5%以内である、正極活物質である。
【0016】
上記において、正極活物質はTiまたはAlの少なくとも一を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様により、高容量で充放電サイクル特性に優れた、リチウムイオン二次電池
用正極活物質を提供することができる。また、リチウムイオン二次電池に用いることで、
充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供することができる。ま
た、高容量の二次電池を提供することができる。また、充放電特性の優れた二次電池を提
供することができる。また、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することができる。
また、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができ
る。
【0018】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
形態は、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、
図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項な
どの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一態様の正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図。
図2】従来例の正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図。
図3】結晶構造から計算されるXRDパターン。
図4】本発明の一態様の正極活物質の結晶構造と磁性を説明する図。
図5】従来例の正極活物質の結晶構造と磁性を説明する図。
図6】導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図。
図7】二次電池の充電方法を説明する図。
図8】二次電池の充電方法を説明する図。
図9】二次電池の放電方法を説明する図。
図10】コイン型二次電池を説明する図。
図11】円筒型二次電池を説明する図。
図12】二次電池の例を説明する図。
図13】二次電池の例を説明する図。
図14】二次電池の例を説明する図。
図15】二次電池の例を説明する図。
図16】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図17】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図18】二次電池の外観を示す図。
図19】二次電池の外観を示す図。
図20】二次電池の作製方法を説明するための図。
図21】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図22】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図23】電子機器の一例を説明する図。
図24】電子機器の一例を説明する図。
図25】電子機器の一例を説明する図。
図26】電子機器の一例を説明する図。
図27】実施例1の本発明の一態様の正極活物質のXRDパターン。
図28】実施例1の本発明の一態様の正極活物質のXRDパターン。
図29】実施例1の本発明の一態様の正極活物質のXRDパターン。
図30】実施例1の本発明の一態様の正極活物質のXRDパターン。
図31】実施例1の比較例の正極活物質のXRDパターン。
図32】実施例1の比較例の正極活物質のXRDパターン。
図33】実施例1の本発明の一態様の正極活物質のXRDパターン。
図34】実施例1の本発明の一態様の正極活物質のXRDパターン。
図35】実施例1の比較例の正極活物質のXRDパターン。
図36】実施例1の本発明の一態様および比較例の正極活物質のXRDパターン。
図37】実施例1の本発明の一態様の正極活物質の体積変化率を示すグラフ。
図38】実施例1の本発明の一態様および比較例の二次電池のサイクル特性。
図39】実施例2の本発明の一態様および比較例の正極活物質のESRシグナル。
図40】実施例2の本発明の一態様および比較例の正極活物質のESRシグナル。
図41】実施例3の計算に用いた結晶構造モデル。
図42】実施例3の計算結果を説明するグラフ。
図43】実施例3の計算結果を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は
以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれ
ば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈さ
れるものではない。
【0021】
また、本明細書等において結晶面および方向はミラー指数で示す。結晶面および方向の表
記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字
の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある
。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は<
>で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞ
れ表現する。
【0022】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(たとえばA,B,C)からなる固体におい
て、ある元素(たとえばB)が空間的に不均一に分布する現象をいう。
【0023】
本明細書等において、活物質等の粒子の表層部とは、表面から10nm程度までの領域を
いう。ひびやクラックにより生じた面も表面といってよい。また表層部より深い領域を、
内部という。
【0024】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構
造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリ
チウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である
結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層
状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合が
ある。
【0025】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列して
いる構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0026】
また本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する擬スピネル型の
結晶構造とは、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト、
マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、イオンの配列がスピネル型と似た対称
性を有する結晶構造をいう。なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元素は
酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性
を有する。
【0027】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl型の結
晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl型に類似した結晶
構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO
)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩
塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0028】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)
をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これら
が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在す
る。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型
結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純な
対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラ
ー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書で
は、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより構
成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合が
ある。
【0029】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM
(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕
微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することが
できる。X線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることがで
きる。結晶の配向が概略一致していると、TEM像等で、直線状に陽イオンと陰イオンが
交互に配列した列の方向の差が5度以下、より好ましくは2.5度以下である様子が観察
できる。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない
場合があるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0030】
また本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能
なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。たとえばLiCoOの理論容量は27
4mAh/g、LiNiOの理論容量は274mAh/g、LiMnの理論容量
は148mAh/gである。
【0031】
また本明細書等において、挿入脱離可能なリチウムが全て挿入されているときの充電深度
を0、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離したときの充電深度を1と
いうこととする。
【0032】
また本明細書等において、充電とは、電池内において正極から負極にリチウムイオンを移
動させ、外部回路において負極から正極に電子を移動させることをいう。正極活物質につ
いては、リチウムイオンを離脱させることを充電という。また充電深度が0.5を超える
正極活物質を、充電された正極活物質ということとする。さらに充電深度が0.8以上の
正極活物質を、高電圧で充電された正極活物質ということとする。そのため、例えばLi
CoOにおいて219.2mAh/g以上充電されていれば、高電圧で充電された正極
活物質である。また不純物元素が5at%以下であるコバルト酸リチウム(ここでは不純
物元素とはリチウム、コバルト、酸素以外の元素をいう)において、25℃環境下で、電
池電圧が4.6V(対極リチウムの場合)となるまで定電流充電し、その後電流値が0.
01Cとなるまで定電圧充電した後の正極活物質も、高電圧で充電された正極活物質とい
うこととする。
【0033】
同様に、放電とは、電池内において負極から正極にリチウムイオンを移動させ、外部回路
において正極から負極に電子を移動させることをいう。正極活物質については、リチウム
イオンを挿入することを放電という。また充電深度が0.5以下の正極活物質を、放電さ
れた正極活物質ということとする。また充電深度が0.06以下の正極活物質、または高
電圧で充電された状態から充電容量の90%以上の容量を放電した正極活物質を、十分に
放電された正極活物質ということとする。たとえばLiCoOにおいて充電容量が21
9.2mAh/gならば高電圧で充電された状態であり、ここから充電容量の90%であ
る197.3mAh/g以上を放電した後の正極活物質は、十分に放電された正極活物質
である。また、不純物元素が5at%以下であるコバルト酸リチウム(ここでは不純物元
素とはリチウム、コバルト、酸素以外の元素をいう)において、25℃環境下で電池電圧
が3V以下(対極リチウムの場合)となるまで定電流放電した後の正極活物質も、十分に
放電された正極活物質ということとする。
【0034】
(実施の形態1)
[正極活物質の構造]
まず図1及び図2を用いて、本発明の一態様である正極活物質100と、従来の正極活物
質について説明し、これらの違いについて述べる。なお、本実施の形態で述べる従来の正
極活物質とは、リチウム、コバルト、酸素以外の元素を内部に添加する、又は表層部にコ
ーティングする等の加工がされていない、単純なコバルト酸リチウム(LiCoO)で
ある。
【0035】
<従来の正極活物質>
従来の正極活物質の例として、コバルト酸リチウムが挙げられる。コバルト酸リチウムは
、非特許文献2及び非特許文献3等で述べられているように、充電深度によって結晶構造
が変化する。コバルト酸リチウムの代表的な結晶構造を図2に示す。
【0036】
図2に示すように、充電深度0(放電状態)であるLiCoOは、空間群R-3mの結
晶構造を有する領域を有し、ユニットセル中にCoO層が3層存在する。そのためこの
結晶構造を、O3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO層とはコバルトに酸素が
6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。
【0037】
また充電深度1のときは、空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCoO
層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型結晶構造と呼ぶ場合がある。
【0038】
また充電深度が0.88程度のときのLiCoOは、空間群R-3mの結晶構造を有す
る。この構造は、P-3m1(O1)のようなCoOの構造と、R-3m(O3)のよ
うなLiCoOの構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造
を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニ
ットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし図2をはじめ
本明細書では、他の構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセ
ルの1/2にした図で示すこととする。
【0039】
充電深度が0.88程度、またはそれ以上になるような高電圧の充電と、放電とを繰り返
すと、LiCoOはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、の
間で結晶構造の変化を繰り返すことになる。
【0040】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO層のずれが大きい。図2に点線およ
び矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO層がR-3m(O3)から大き
くずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与え
うる。
【0041】
さらに体積の差も大きい。詳細は実施例1で述べるが、同数のコバルト原子あたりで比較
した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のO3型結晶構造の体積の差は3.5%以上で
ある。
【0042】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、P-3m1(O1)のようなCoO層が連続し
た構造は不安定である可能性が高い。
【0043】
そのため、高電圧の充放電を繰り返すとコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結
晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、
リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるた
めだと考えられる。
【0044】
<本発明の一態様の正極活物質>
≪内部≫
それに対して本発明の一態様の正極活物質100では、十分に放電された状態と、高電圧
で充電された状態における、結晶構造および体積の差が小さい。
【0045】
正極活物質100の充放電前後の結晶構造を、図1に示す。正極活物質100はリチウム
と、コバルトと、酸素と、を有する。上記に加えてマグネシウムを有することが好ましい
。またフッ素、塩素等のハロゲンを有することが好ましい。またチタンおよびアルミニウ
ムのうち少なくとも一を有することが好ましい。
【0046】
図1の充電深度0(放電状態)の結晶構造は、図2と同じR-3m(O3)である。一方
、本発明の一態様の正極活物質100は、十分に充電された充電深度0.88程度の場合
図2と異なる構造の結晶を有する。この空間群R-3mの結晶構造を、本明細書等では
擬スピネル型結晶構造と呼ぶこととする。なお、図1に示されている擬スピネル型結晶構
造では、コバルト原子の対称性と酸素原子の対称性について説明するために、リチウムの
表示を省略しているが、実際はCoO層の間にコバルトに対して12原子%程度のリチ
ウムが存在する。また、O3型結晶構造および擬スピネル型結晶構造いずれの場合も、C
oO層の間、つまりリチウムサイトに、希薄にマグネシウムが存在することが好ましい
。また、酸素サイトに、希薄に、フッ素等のハロゲンが存在することが好ましい。さらに
、コバルトサイトに、希薄にアルミニウム、チタンのうち少なくとも一が存在することが
好ましい。
【0047】
正極活物質100では、リチウムが離脱する際の結晶構造の変化が抑制されている。たと
えば図1中に点線で示すように、これらの結晶構造ではCoO層のずれがほとんどない
【0048】
また、詳細は実施例1で述べるが、正極活物質100では、充電深度0のO3型結晶構造
と、充電深度0.88の擬スピネル型結晶構造のユニットセルあたりの体積の差は2.5
%以下、より詳細には2.2%以下である。
【0049】
そのため高電圧で充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい。
【0050】
なお擬スピネル型結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標をそれぞれC
o(0,0,0.5)、O(0,0,x)(0.20≦x≦0.25)で示すことができ
る。
【0051】
CoO層間に希薄に存在するマグネシウムは、CoO層のずれを抑制する効果がある
。そのためCoO層間にマグネシウムが存在すると、擬スピネル型結晶構造になりやす
い。そのためマグネシウムは正極活物質100の粒子内部にも分布していることが好まし
い。またマグネシウムを当該粒子内部に分布させるために、正極活物質100の作製工程
において、加熱処理を行うことが好ましい。
【0052】
しかしながら、加熱処理の温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じてマグネシウム
がコバルトサイトに入る可能性が高まる。マグネシウムがコバルトサイトに存在すると、
R-3mの構造を保つ効果がなくなってしまう。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、
コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念され
る。
【0053】
そこで、マグネシウムを当該粒子内部に分布させるための加熱処理の前に、コバルト酸リ
チウムにフッ素化合物等のハロゲン化合物を加えておくことが好ましい。ハロゲン化合物
を加えることでコバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることで、カチオ
ンミキシングが生じにくい温度で、マグネシウムを粒子全体に分布させることが容易とな
る。さらにフッ素化合物が存在すれば、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が
向上することが期待できる。
【0054】
さらに正極活物質100のコバルトサイトに、希薄にチタンおよびアルミニウムのうち少
なくとも一が存在すると、結晶構造の変化がさらに抑制される。
【0055】
正極活物質100の内部に分布するマグネシウムは、CoO層のずれを抑制する効果が
あるが、同時に電荷のバランスをとるためにマグネシウムの周囲のコバルトが2価に還元
されやすくなる可能性がある。そのためマグネシウムが過剰になると、正極活物質100
の粒子の一部がMgOとCoO(II)が固溶した構造になる恐れが生じる。MgOとC
oO(II)が固溶した構造となった領域では、リチウムの挿入脱離の経路がなくなって
しまう。
【0056】
しかしチタンは4価が安定で3価がこれに次ぎ、アルミニウムは3価が安定である。どち
らも2価は不安定である。そのためコバルトサイトに存在するチタンまたはアルミニウム
は、周囲のリチウムサイトにマグネシウムがあっても、2価に還元されにくい。そのため
、コバルトサイトにチタンまたはアルミニウムが希薄に存在すると、MgOとCoO(I
I)が固溶した構造になりにくいと考えられる。
【0057】
また、チタンおよびアルミニウムの少なくとも一を有すると、特に充電状態において、酸
素が離脱しにくくなる。つまりチタンまたはアルミニウムと結合した酸素は活性が下がる
ために、電解液に対する酸化分解の触媒効果が下がり、正極活物質表面での電解液の酸化
分解が起きにくくなる。
【0058】
≪表層部≫
マグネシウムは正極活物質100の粒子全体に分布していることが好ましいが、これに加
えて粒子表層部のマグネシウム濃度が、粒子全体の平均よりも高いことがより好ましい。
粒子表面はいうなれば全て結晶欠陥であるため、不安定になりやすく結晶構造の変化が始
まりやすい部分である。表層部のマグネシウム濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効
果的に抑制することができる。また表層部のマグネシウム濃度が高いと、電解液が分解し
て生じたフッ酸に対する耐食性が向上することも期待できる。
【0059】
またフッ素も、正極活物質100の表層部の濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好
ましい。電解液に接する領域である表層部にフッ素が存在することで、フッ酸に対する耐
食性を効果的に向上させることができる。
【0060】
また、チタンまたはアルミニウムのうちいずれか一の濃度も、粒子全体の平均よりも表層
部の濃度が高いことが好ましい。マグネシウム濃度の高い領域に、チタンまたはアルミニ
ウムのうちいずれか一が多く存在すれば、CoO層の変化を抑制する効果を強く発揮で
きる。また正極活物質表面での電解液の酸化分解がより起きにくくなる。
【0061】
このように正極活物質100の表層部は内部よりも、マグネシウム、フッ素、チタンまた
はアルミニウムの少なくとも一の濃度が高い、内部と異なる組成であることが好ましい。
またその組成として常温で安定な結晶構造をとることが好ましい。そのため、表層部は内
部と異なる結晶構造を有していてもよい。たとえば、正極活物質100の表層部の少なく
とも一部が、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。なお表層部と内部が異なる結晶構造
を有する場合、表層部と内部の結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0062】
なお、正極活物質100がマグネシウムおよびチタンを有する場合は、チタン濃度のピー
クが、マグネシウム濃度のピークよりも深い領域に存在すると好ましい。チタンは4価ま
たは3価をとりうるため、チタンの価数によってチタン-酸素間の距離が変化しうる。そ
のためチタン原子の周囲は、金属-酸素間の距離にばらつきがあっても安定しやすい。た
とえば正極活物質100の表層部が岩塩型の結晶構造を有する場合、チタンを有する領域
がバッファ領域として機能し、内部の結晶構造の安定化に寄与しうる。
【0063】
ただし表層部がMgOのみ、またはMgOとCoO(II)が固溶した構造のみでは、上
述したようにリチウムの挿入脱離の経路がなくなってしまう。そのため表層部は少なくと
もコバルトを有し、放電状態においてはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路を有
している必要がある。また、マグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0064】
≪粒界≫
正極活物質100が有するマグネシウム、ハロゲン、コバルト、アルミニウムまたはチタ
ンは、内部にランダムかつ希薄に存在していてもよいが、一部は粒界に偏析していること
がより好ましい。
【0065】
換言すれば、正極活物質100の結晶粒界およびその近傍のマグネシウム濃度が、内部の
他の領域よりも高いことが好ましい。また結晶粒界およびその近傍のフッ素濃度も高いこ
とが好ましい。また、結晶粒界およびその近傍のチタンまたはアルミニウムのいずれか一
の濃度も高いことが好ましい。
【0066】
粒子表面と同様、結晶粒界も面欠陥である。そのため不安定になりやすく結晶構造の変化
が始まりやすい。そのため、結晶粒界およびその近傍のマグネシウム濃度が高ければ、結
晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。また、結晶粒界およびその近傍のチ
タンまたはアルミニウムのいずれか一の濃度が高ければ、CoO層の変化を抑制する効
果を強く発揮できる。
【0067】
また、結晶粒界およびその近傍のマグネシウムおよびフッ素濃度が高い場合、正極活物質
100の粒子の結晶粒界に沿ってクラックが生じた場合でも、クラックにより生じた表面
の近傍でマグネシウムおよびフッ素濃度が高くなる。そのためクラックが生じた後の正極
活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。
【0068】
なお本明細書等において、結晶粒界の近傍とは、粒界から10nm程度までの領域をいう
こととする。
【0069】
≪粒径≫
正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工し
たときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、集電
体への塗工時に活物質層を担持しにくくなる、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も
生じる。そのため、D50(メディアン径ともいう)が、1μm以上100μm以下が好
ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0070】
<分析方法>
ある材料が、高電圧で充電されたとき擬スピネル型結晶構造を示す本発明の一態様の正極
活物質100であるか否かは、高電圧で充電された正極を、XRD、電子線回折、中性子
線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判
断できる。特にXRDは、正極活物質が有する結晶構造を高分解能で解析できる、結晶性
の高さおよび結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析が
できる、二次電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の
点で好ましい。
【0071】
本発明の一態様の正極活物質100は、これまで述べたように高電圧充電状態と放電状態
とで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧充電状態で、放電状態との変化の
大きな結晶構造が50%以上を占める材料は、高電圧の充放電に耐えられないため好まし
くない。そして詳細は実施例1で説明するが、元素を添加するだけでは目的の結晶構造を
とらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよびフッ素を有する
コバルト酸リチウム、という点で共通していても、擬スピネル型結晶構造が60wt%以
上になる場合と、H1-3型結晶構造が50%以上を占める場合と、がある。また、所定
の電圧では、擬スピネル結晶構造がほぼ100%になり、さらに当該所定の電圧をあげる
とH1-3型結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質10
0であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析が必要で
ある。
【0072】
≪充電方法≫
上記判断をするための高電圧充電は、例えば対極リチウムでコインセル(CR2032タ
イプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して行うことができる。
【0073】
より具体的には、正極には、正極活物質と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化
ビニリデン(PVDF)を正極活物質:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合
したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0074】
対極にはリチウム金属を用いることができる。なお対極にリチウム金属以外の材料を用い
たときは、二次電池の電位と正極の電位が異なる。たとえば正極の電位に注目したとき、
対極黒鉛の場合の4.5V充電は、対極リチウムの場合の4.6V充電におおむね相当す
る。本明細書等における電圧および電位は、特に言及しない場合、正極の電位である。
【0075】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用
い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がE
C:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合された
ものを用いることができる。
【0076】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いることができる。
【0077】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができ
る。
【0078】
上記条件で作製したコインセルを、4.6V、0.5Cで定電流充電し、その後電流値が
0.01Cとなるまで定電圧充電する。なおここでは1Cは137mA/gとする。温度
は25℃とする。このようにして充電した後に、コインセルを解体して正極を取り出せば
、高電圧で充電された正極活物質を得られる。この後各種分析を行う際、取り出した正極
活物質は、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい
。たとえばXRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。
【0079】
≪XRD≫
擬スピネル型結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα1線に
よる理想的な粉末XRDパターンを図3に示す。また比較のため充電深度0のLiCoO
(O3)と、充電深度1のCoO(O1)の結晶構造から計算される理想的なXRD
パターンも示す。なお、LiCoO(O3)およびCoO(O1)のパターンはIC
SD(Inorganic Crystal Structure Database)
より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモ
ジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて
作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ
1=1.540562×10-10m、λ2は設定なし、Monochromatorは
singleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献4に記載の結晶構造情
報から同様に作成した。擬スピネルのパターンは本発明の一態様の正極活物質のXRDパ
ターンから、Rietveld解析ソフトであるBruker AXS社製のTOPAS
version3で結晶構造を推定し、他と同様にXRDパターンを作成した。なお、
本発明の一態様の正極活物質のXRDパターンは、実施例1に示している。
【0080】
図3に示すように、擬スピネル型結晶構造では、2θ=19.30±0.20°(19.
10°以上19.50°以下)、および2θ=45.55±0.10°(45.45°以
上45.65°以下)に回折ピークが出現する。より詳しく述べれば、2θ=19.30
±0.10°(19.20°以上19.40°以下)、および2θ=45.55±0.0
5°(45.50°以上45.60°以下)に鋭い回折ピークが出現する。しかしH1-
3型結晶構造およびCoO(P-3m1、O1)ではこれらの位置にピークは出現しな
い。そのため、高電圧で充電された状態で2θ=19.30±0.20°、および2θ=
45.55±0.10°のピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100
の特徴であるといえる。
【0081】
なお、本発明の一態様の正極活物質100は高電圧で充電したとき擬スピネル型の結晶構
造を有するが、粒子のすべてが擬スピネル型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を
含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリ
ートベルト解析を行ったとき、擬スピネル型結晶構造が50wt%以上であることが好ま
しく、60wt%以上であることがより好ましく、66wt%以上であることがさらに好
ましい。擬スピネル型結晶構造が50wt%以上、より好ましくは60wt%以上、さら
に好ましくは66wt%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすること
ができる。
【0082】
また、正極活物質の粒子が有する擬スピネル構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCo
O2(O3)の1/10程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXR
Dの測定条件であっても、高電圧充電後に明瞭な擬スピネル型結晶構造のピークが確認で
きる。一方単純なLiCoOでは、一部が擬スピネル型結晶構造に似た構造を取りえた
としても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは
、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0083】
なお、XRDパターンから明らかになる特徴は、正極活物質の内部の構造についての特徴
である。粒径(D50)が1μmから100μm程度の正極活物質では、内部と比較すれ
ば表層部の体積はごくわずかであるため、正極活物質100の表層部が内部と異なる結晶
構造を有していても、XRDパターンには表れない可能性が高い。
【0084】
≪ESR≫
擬スピネル型結晶構造を有する正極活物質100では、図1および図4(A)に示すよう
に、コバルトは酸素6配位のサイトに存在する。図4(B)に示すように、酸素6配位の
コバルトでは3d軌道がe軌道とt2g軌道に分裂し、酸素が存在する方向を避けて配
置しているt2g軌道のエネルギーが低い。酸素6配位サイトに存在するコバルトの一部
は、t2g軌道が全て埋まった反磁性Co3+のコバルトである。しかし酸素6配位サイ
トに存在するコバルトの他の一部は、常磁性のCo2+またはCo4+のコバルトであっ
てもよい。この常磁性のコバルトは、Co2+とCo4+どちらの場合も不対電子が1つ
のためESRでは区別がつかないが、周囲に存在する元素の価数によって、どちらの価数
をとってもよい。
【0085】
一方、従来例の正極活物質では、充電された状態で表層部にリチウムを含まないスピネル
型の結晶構造を有しうると述べられているものがある。この場合、図5(A)に示すスピ
ネル型結晶構造であるCoを有することになる。
【0086】
スピネルを一般式A[B]Oで記述する場合、元素Aは酸素4配位、元素Bは酸素6
配位となる。そこで本明細書等では、酸素4配位のサイトをAサイト、酸素6配位のサイ
トをBサイトと呼ぶ場合がある。
【0087】
スピネル型結晶構造のCoでは、酸素6配位のBサイトだけでなく、酸素4配位の
Aサイトにもコバルトが存在する。図5(B)で示すように、酸素4配位のコバルトでは
分裂したe軌道とt2g軌道のうち、e軌道のエネルギーが低い。そのため酸素4配
位のCo2+、Co3+およびCo4+はいずれも不対電子を有し常磁性である。そのた
めスピネル型Coを十分に有する粒子をESR等で分析すれば、酸素4配位でCo
2+、Co3+またはCo4+の常磁性コバルトに由来するピークが検出されるはずであ
る。
【0088】
しかしながら、本発明の一態様の正極活物質100では酸素4配位の常磁性コバルトに由
来するピークが確認できないほど少ない。つまり従来例と比較して、本発明の一態様の正
極活物質は、ESR等で検出できるスピネル型Coに由来するピークが小さいか、
確認できないほど少ない場合がある。スピネル型Coは充放電反応に寄与せず、ま
た熱的に不安定であるため、スピネル型Coは少ないほど好ましい。この点からも
、正極活物質100は、従来例と異なるものであるといえる。
【0089】
≪XPS≫
X線光電子分光(XPS)では、表面から2乃至8nm程度(通常5nm程度)の深さま
での領域の分析が可能であるため、表層部の約半分の領域について、各元素の濃度を定量
的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析す
ることができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、検出下限は元素に
もよるが約1原子%である。
【0090】
正極活物質100についてXPS分析をしたとき、コバルトの濃度を1としたときの、マ
グネシウムの濃度の相対値は0.4以上1.5以下が好ましく、0.45以上1.00未
満がより好ましい。またフッ素濃度の相対値は0.05以上1.5以下が好ましく、0.
3以上1.00以下がより好ましい。またチタンおよびアルミニウムのいずれか一の濃度
の相対値は0.05以上0.4以下が好ましく、0.1以上0.3以下がより好ましい。
【0091】
また、正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギ
ーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV
程度であることがさらに好ましい。これは、LiFの結合エネルギーである685eV、
およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値であ
る。つまり、正極活物質100がフッ素を有する場合、フッ化リチウム及びフッ化マグネ
シウム以外の結合であることが好ましい。
【0092】
さらに、正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合
エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、
1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネ
ルギーである1305eVと異なる値であり、MgOの結合エネルギーに近い値である。
つまり、正極活物質100がマグネシウムを有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合
であることが好ましい。
【0093】
≪EDX≫
EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをED
X面分析と呼ぶ場合がある。またEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原
子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価することを線分析と呼ぶ場合がある。
【0094】
EDX面分析(たとえば元素マッピング)により、内部、表層部および結晶粒界近傍にお
ける、マグネシウム、フッ素、チタンまたはアルミニウムの濃度を定量的に分析すること
ができる。また、EDX線分析により、マグネシウム、フッ素、チタンまたはアルミニウ
ムの濃度のピークを分析することができる。
【0095】
正極活物質100についてEDX線分析をしたとき、表層部のマグネシウム濃度のピーク
は、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好まし
く、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在すること
がさらに好ましい。
【0096】
また正極活物質100が有するフッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好
ましい。そのためEDX線分析をしたとき、表層部のフッ素濃度のピークは、正極活物質
100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nm
までに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好まし
い。
【0097】
またEDX線分析をしたとき、正極活物質100表層部のチタンまたはアルミニウムの少
なくとも一の濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ0.2n
m以上10nm以下に存在することが好ましく、深さ0.5nm以上3nm以下に存在す
ることがより好ましい。
【0098】
また正極活物質100について線分析または面分析をしたとき、結晶粒界近傍におけるマ
グネシウムとコバルトの原子数の比(Mg/Co)は、0.020以上0.50以下が好
ましい。さらには0.025以上0.30以下が好ましい。さらには0.030以上0.
20以下が好ましい。
【0099】
[正極活物質の作製方法]
次に、本発明の一態様である正極活物質100の作製方法の一例について説明する。
【0100】
<ステップS11:出発原料の準備>
はじめに、出発材料として、リチウム源と、コバルト源を用意する。またマグネシウム源
およびフッ素源も出発材料として用意することが好ましい。
【0101】
リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウムを用いることができる。コバ
ルト源としては、例えば酸化コバルトを用いることができる。マグネシウム源としては、
例えば酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム
等を用いることができる。フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、フッ化マグネシウ
ム等を用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源とし
ても用いることができる。
【0102】
マグネシウム源に含まれるマグネシウムの原子量は、コバルトの原子量を1としたとき0
.001以上、0.1以下が好ましく、0.005以上0.02以下がより好ましく、0
.01程度がさらに好ましい。
【0103】
フッ素源に含まれるフッ素は、マグネシウム源に含まれるマグネシウムの、1.0倍以上
4倍以下(原子数比)であることが好ましく、1.5倍以上3倍以下(原子数比)である
ことがさらに好ましい。
【0104】
<ステップS12:出発材料の混合>
次に、上記の出発原料を混合する。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いるこ
とができる。ボールミルを用いる場合は、たとえばメディアとしてジルコニアボールを用
いることが好ましい。
【0105】
<ステップS13:第1の加熱処理>
次に、ステップS12で混合した材料を加熱する。本ステップは、焼成、または第1の加
熱処理という場合がある。加熱は800℃以上1100℃未満で行うことが好ましく、9
00℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。
温度が低すぎると、出発材料の分解および溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が
高すぎると、Coが還元する、Liが蒸散するなどの原因で、Coが2価となる欠陥が生
じるおそれがある。
【0106】
加熱時間は、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。焼成は、乾燥空気等の雰囲
気で行うことが好ましい。たとえば1000℃で10時間加熱することとし、昇温は20
0℃/h、乾燥雰囲気の流量は10L/minとすることが好ましい。その後加熱した材
料を室温まで冷却する。たとえば保持温度から室温までの降温時間を10時間以上50時
間以下とすることが好ましい。
【0107】
ステップS13の加熱により、コバルト酸リチウムを合成することができる。出発材料に
マグネシウムとフッ素を含む場合、マグネシウムとフッ素がコバルト酸リチウムの中に分
布した複合酸化物の粒子となる。
【0108】
また、出発原料としてあらかじめ合成されたリチウム、コバルト、フッ素、マグネシウム
を含む複合酸化物の粒子を用いてもよい。この場合、ステップS12およびステップS1
3を省略することができる。たとえば、日本化学工業株式会社製の、コバルト酸リチウム
粒子(商品名:C-20F)を出発原料の一として用いることができる。これは粒径が約
20μmであり、表面からXPSで分析可能な領域にフッ素、マグネシウム、カルシウム
、ナトリウム、シリコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リチウム粒子である。
【0109】
<ステップS14:チタンまたはアルミニウムの少なくとも一を含む材料で被覆>
次に、コバルト酸リチウムの粒子の表面を、チタンまたはアルミニウムの少なくとも一を
有する材料で被覆することが好ましい。被覆する方法としては、ゾルゲル法をはじめとす
る液相法、固相法、スパッタリング法、蒸着法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パ
ルスレーザデポジション)法等の方法を適用することができる。本実施の形態では、均一
な被覆が期待でき、大気圧で処理が可能なゾルゲル法を適用する場合について説明する。
【0110】
まずチタンアルコキシド、またはアルミニウムアルコキシド、またはこれらの混合物をア
ルコールに溶解させ、さらにコバルト酸リチウム粒子を混合する。
【0111】
チタンアルコキシドとしてはたとえばTitanium tetraisopropox
ide(TTIP)を用いることができる。アルミニウムアルコキシドとしてはたとえば
アルミニウムイソプロポキシドを用いることができる。また溶媒のアルコールとしては、
たとえばイソプロパノールを用いることができる。
【0112】
コバルト酸リチウムの粒径によって、金属アルコキシドの必要量は異なる。たとえばTT
IPを用いる場合でコバルト酸リチウムの粒径(D50)が20μm程度ならば、コバル
ト酸リチウムの粒子に対してTTIPを0.004ml/g以上0.01ml/g以下と
なるよう加えることが好ましい。アルミニウムイソプロポキシドを用いる場合で同じ粒径
ならば、コバルト酸リチウムの粒子に対してアルミニウムイソプロポキシドを0.027
9g/g以上0.0697g/g以下となるよう加えることが好ましい。
【0113】
次に、金属アルコキシドのアルコール溶液とコバルト酸リチウムの粒子の混合液を、水蒸
気を含む雰囲気下で撹拌する。撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことができ
る。撹拌時間は、雰囲気中の水と金属アルコキシドが加水分解および重縮合反応を起こす
のに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relativ
e Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。
【0114】
雰囲気中の水蒸気と金属アルコキシドを反応させることで、液体の水を加える場合よりも
ゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。また常温で金属アルコキシドと水を反応
させることで、たとえば溶媒のアルコールの沸点を超える温度で加熱を行う場合よりもゆ
っくりとゾルゲル反応を進めることができる。ゆっくりとゾルゲル反応を進めることで、
厚さが均一で良質な被覆層を形成することができる。
【0115】
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する。回収方法としては、ろ過、遠心分離
、蒸発乾固等を適用することができる。沈殿物は金属アルコキシドを溶解させた溶媒と同
じアルコールで洗浄することができる。
【0116】
次に、回収した残渣を乾燥する。たとえば、70℃で1時間以上4時間以下、真空または
通風乾燥することができる。
【0117】
<ステップS15:第2の加熱処理>
次に、ステップS14で作製した、チタンまたはアルミニウムを有する材料で被覆された
、コバルト酸リチウムの粒子を加熱する。本ステップは、第2の加熱処理という場合があ
る。
【0118】
加熱時間は、保持温度での保持時間を1時間以上50時間以下とすることが好ましく、2
時間以上20時間以下がより好ましい。加熱時間が短すぎるとマグネシウムおよびフッ素
を加えていた場合に、表層部および結晶粒界近傍への偏析が不十分となる恐れがある。し
かし加熱時間が長すぎると、チタンまたはアルミニウムで被覆していた場合、これらの金
属の拡散が進みすぎて表層部および結晶粒界近傍の濃度が低くなる恐れがある。
【0119】
保持温度としては500℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上920℃以下が
より好ましく、800℃以上900℃以下がさらに好ましい。保持温度が低すぎるとマグ
ネシウムの偏析が起こらない恐れがある。しかし高すぎてもMgがCoサイトにも分布し
てしまう、LiCoOのようなCo3+でなく、CoOのようなCo2+が安定になり
、CoOの層状構造が保てない等のおそれがある。
【0120】
また、第2の加熱処理は酸素を含む雰囲気で行うことが好ましい。酸素分圧が低い場合、
より加熱温度を低くしないとCoが還元するおそれがある。
【0121】
本実施の形態では、保持温度を800℃として2時間保持することとし、昇温は200℃
/h、酸素の流量は10L/minとする。
【0122】
加熱後の冷却は、冷却時間を長くとると、結晶構造を安定させやすく好ましい。たとえば
、保持温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0123】
このように、第1の加熱処理(ステップS13)と、第2の加熱処理(ステップS15)
のように複数回加熱を行うことが好ましい。最初の加熱処理では、出発材料同士を十分に
反応させるためにCoの融点(895℃)およびLiCOの融点(723℃)
よりも高い温度で加熱する。次の加熱処理では、マグネシウムをCoO層間に分布させ
るために第1の加熱処理よりも低い温度で加熱する。具体的には、Co3+がCo2+
り安定になる温度が、エリンガム図より大気中で920℃であることから、第2の加熱処
理は920℃以下で行うことが好ましい。
【0124】
<ステップS16:回収>
次に、冷却された粒子を回収する。さらに、粒子をふるいにかけることが好ましい。上記
の工程で、本発明の一態様の正極活物質100を作製することができる。
【0125】
また、ステップS16の後、ステップS14からステップS16までを繰り返して複数回
ゾルゲル法による被覆を行ってもよい。繰り返し回数は、1回でもよく、2回以上でもよ
い。繰り返しゾルゲル処理と加熱処理を行うことで、コバルト酸リチウム粒子にクラック
が生じていた場合に、クラックを減少させることができる。
【0126】
また、複数回ゾルゲル処理を行う場合に用いる金属アルコキシドの種類は、同じものでも
よいし、異なっていてもよい。異なるものを用いる場合、たとえば1回目のゾルゲル処理
でチタンアルコキシドを用い、2回目のゾルゲル処理でアルミニウムアルコキシドを用い
ることができる。
【0127】
なお、本実施の形態では正極活物質100としてリチウム、コバルトおよび酸素を有する
材料について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。たとえば正極活物質100
が有する遷移金属は、コバルトだけに限られず、極めて少量のニッケル、マンガンのうち
少なくとも一を有していてもよい。また上記の遷移金属に加えて、出発材料に極めて少量
のアルミニウムを加えてもよい。
【0128】
また本発明の一態様では、十分に充電された正極活物質と、十分に放電された正極活物質
と、で結晶構造の変化が抑制されていればよい。そのため、本明細書中で定義した擬スピ
ネル型結晶構造をとらなくともよいし、マグネシウム、フッ素、チタンまたはアルミニウ
ム等の元素を含まなくてもよい。
【0129】
また正極活物質100は、炭素、硫黄、ケイ素、ナトリウム、カルシウム、ジルコニウム
等のその他の元素を有していてもよい。
【0130】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0131】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池に用い
ることのできる材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電解液
が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0132】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0133】
<正極活物質層>
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を有する。また、正極活物質層は、正極活物質に
加えて、活物質表面の被膜、導電助剤またはバインダなどの他の物質を含んでもよい。
【0134】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることができる
。先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサイクル特性に
優れた二次電池とすることができる。
【0135】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることが
できる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導
電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下
がより好ましい。
【0136】
導電助剤により、活物質層中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助
剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導
電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる
【0137】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊
維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維
、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カ
ーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノ
チューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例
えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子
、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニ
ッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を
用いることができる。
【0138】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0139】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高
い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン
化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とす
る。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導
電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いるこ
とにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。スプ
レードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン化
合物を被膜として形成することが好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合がある
ため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェン、マルチグラフェン、
又はRGOを用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(g
raphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0140】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が
大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多く
なりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量
が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤として
グラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成する
ことができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0141】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合
の断面構成例を説明する。
【0142】
図6(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質
100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含
む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェン又はマルチグラフェンを用
いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好ましい
。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数の
グラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0143】
活物質層200の縦断面においては、図6(B)に示すように、活物質層200の内部に
おいて概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散している。図6(B)におい
てはグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又
は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極
活物質100を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に張り
付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0144】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物
シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することが
できる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を
結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくするこ
とができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比
率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
【0145】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質
層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に
、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化
合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に
分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元
するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互
いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。
なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行
ってもよい。
【0146】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェ
ン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よ
りも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させ
ることができる。よって、正極活物質100の活物質層200における比率を増加させる
ことができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0147】
また、予め、スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤で
あるグラフェン化合物を被膜として形成し、さらに活物質同士間をグラフェン化合物で導
電パスを形成することもできる。
【0148】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレ
ン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プ
ロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして
、フッ素ゴムを用いることができる。
【0149】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分
子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチ
ルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセ
ルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉など
を用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用
いると、さらに好ましい。
【0150】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メ
チル(ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニ
ルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、
ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピ
レン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデ
ン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー
、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0151】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0152】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例
えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい
場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合すること
が好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよ
い。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカル
ボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシ
プロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導
体や、澱粉を用いることができる。
【0153】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチル
セルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、
粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリ
ーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書にお
いては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、そ
れらの塩も含むものとする。
【0154】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとし
て組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分
散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいこ
とが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、
例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために
高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0155】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜とし
ての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電
気伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動
態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することができ
る。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できると
さらに望ましい。
【0156】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれ
らの合金など、導電性が高い材料を用いることができる。また正極集電体に用いる材料は
、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカン
ジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用い
ることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成しても
よい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタ
ン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、
コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメ
タル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5
μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0157】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およ
びバインダを有していてもよい。
【0158】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0159】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可
能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲ
ルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少
なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大
きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシ
リコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例
えば、SiO、MgSi、MgGe、SnO、SnO、MgSn、SnS、V
Sn、FeSn、CoSn、NiSn、CuSn、AgSn、Ag
Sb、NiMnSb、CeSb、LaSn、LaCoSn、CoSb、I
nSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反
応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合があ
る。
【0160】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiO
と表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0
.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0161】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハー
ドカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい
【0162】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカ
ーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げら
れる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例え
ば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積
を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、
鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0163】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)
にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/
Li)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さ
らに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価であ
る、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0164】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO)、リチウムチタン酸化物(Li
12)、リチウム-黒鉛層間化合物(Li)、五酸化ニオブ(Nb
、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等の酸化物を用いることが
できる。
【0165】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、LiN型構造をもつ
Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6
Co0.4は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm)を示
し好ましい。
【0166】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、
正極活物質としてリチウムイオンを含まないV、Cr等の材料と組み合わせ
ることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも
、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質とし
てリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0167】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば
、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウム
との合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が
生じる材料としては、さらに、Fe、CuO、CuO、RuO、Cr
の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn、CuN、Ge
等の窒化物、NiP、FeP、CoP等のリン化物、FeF、BiF等の
フッ化物でも起こる。
【0168】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有
することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0169】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リ
チウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0170】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ま
しく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチ
レンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラ
クトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート
(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチ
ル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1
,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホ
キシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テト
ラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の
組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0171】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一
つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇して
も、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオン
からなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級
アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等
の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の
芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系ア
ニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキル
スルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレート
アニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェ
ートアニオン等が挙げられる。
【0172】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF、LiClO、Li
AsF、LiBF、LiAlCl、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO
、Li10Cl10、Li12Cl12、LiCFSO、LiCSO
、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiN(CFSO
、LiN(CSO)(CFSO)、LiN(CSO等のリチ
ウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いること
ができる。
【0173】
二次電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不
純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具
体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好
ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0174】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベ
ンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレ
ート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル
化合物などの添加剤を添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して
0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0175】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0176】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池
の薄型化および軽量化が可能である。
【0177】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、
ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーの
ゲル等を用いることができる。
【0178】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシ
ド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを
含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(H
FP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリ
マーは、多孔質形状を有してもよい。
【0179】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、P
EO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができ
る。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電
池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0180】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙
、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリ
ビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを
用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状
に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0181】
セパレータは多層構造であってもよい。たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機
材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを
混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、たとえば酸化ア
ルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、た
とえばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材
料としては、たとえばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用い
ることができる。
【0182】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレー
タの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコ
ートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。
ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安
全性を向上させることができる。
【0183】
たとえばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコ
ートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウ
ムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい
【0184】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を
保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0185】
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用い
ることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、
例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等
の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金
属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステ
ル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0186】
[充放電方法]
二次電池の充放電は、たとえば下記のように行うことができる。
【0187】
≪CC充電≫
まず、充電方法の1つとしてCC充電について説明する。CC充電は、充電期間のすべて
で一定の電流を二次電池に流し、所定の電圧になったときに充電を停止する充電方法であ
る。二次電池を、図7(A)に示すように内部抵抗Rと二次電池容量Cの等価回路と仮定
する。この場合、二次電池電圧Vは、内部抵抗Rにかかる電圧Vと二次電池容量Cに
かかる電圧Vの和である。
【0188】
CC充電を行っている間は、図7(A)に示すように、スイッチがオンになり、一定の電
流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが一定であるため、V=R×Iのオームの法
則により、内部抵抗Rにかかる電圧Vも一定である。一方、二次電池容量Cにかかる電
圧Vは、時間の経過とともに上昇する。そのため、二次電池電圧Vは、時間の経過と
ともに上昇する。
【0189】
そして二次電池電圧Vが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、充電を停止する
。CC充電を停止すると、図7(B)に示すように、スイッチがオフになり、電流I=0
となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧Vが0Vとなる。そのため、内部抵抗Rで
の電圧降下がなくなった分、二次電池電圧Vが下降する。
【0190】
CC充電を行っている間と、CC充電を停止してからの、二次電池電圧Vと充電電流の
例を図7(C)に示す。CC充電を行っている間は上昇していた二次電池電圧Vが、C
C充電を停止してから若干低下する様子が示されている。
【0191】
≪CCCV充電≫
次に、上記と異なる充電方法であるCCCV充電について説明する。CCCV充電は、ま
ずCC充電にて所定の電圧まで充電を行い、その後CV(定電圧)充電にて流れる電流が
少なくなるまで、具体的には終止電流値になるまで充電を行う充電方法である。
【0192】
CC充電を行っている間は、図8(A)に示すように、定電流電源のスイッチがオン、定
電圧電源のスイッチがオフになり、一定の電流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが
一定であるため、V=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧Vも一
定である。一方、二次電池容量Cにかかる電圧Vは、時間の経過とともに上昇する。そ
のため、二次電池電圧Vは、時間の経過とともに上昇する。
【0193】
そして二次電池電圧Vが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、CC充電からC
V充電に切り替える。CV充電を行っている間は、図8(B)に示すように、定電圧電源
のスイッチがオン、定電流電源のスイッチがオフになり、二次電池電圧Vが一定となる
。一方、二次電池容量Cにかかる電圧Vは、時間の経過とともに上昇する。V=V
+Vであるため、内部抵抗Rにかかる電圧Vは、時間の経過とともに小さくなる。内
部抵抗Rにかかる電圧Vが小さくなるに従い、V=R×Iのオームの法則により、二
次電池に流れる電流Iも小さくなる。
【0194】
そして二次電池に流れる電流Iが所定の電流、例えば0.01C相当の電流となったとき
、充電を停止する。CCCV充電を停止すると、図8(C)に示すように、全てのスイッ
チがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧Vが0Vとな
る。しかし、CV充電により内部抵抗Rにかかる電圧Vが十分に小さくなっているため
、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなっても、二次電池電圧Vはほとんど降下しない。
【0195】
CCCV充電を行っている間と、CCCV充電を停止してからの、二次電池電圧Vと充
電電流の例を図8(D)に示す。CCCV充電を停止しても、二次電池電圧Vがほとん
ど降下しない様子が示されている。
【0196】
≪CC放電≫
次に、放電方法の1つであるCC放電について説明する。CC放電は、放電期間のすべて
で一定の電流を二次電池から流し、二次電池電圧Vが所定の電圧、例えば2.5Vにな
ったときに放電を停止する放電方法である。
【0197】
CC放電を行っている間の二次電池電圧Vと放電電流の例を図9に示す。放電が進むに
従い、二次電池電圧Vが降下していく様子が示されている。
【0198】
次に、放電レート及び充電レートについて説明する。放電レートとは、電池容量に対する
放電時の電流の相対的な比率であり、単位Cで表される。定格容量X(Ah)の電池にお
いて、1C相当の電流は、X(A)である。2X(A)の電流で放電させた場合は、2C
で放電させたといい、X/5(A)の電流で放電させた場合は、0.2Cで放電させたと
いう。また、充電レートも同様であり、2X(A)の電流で充電させた場合は、2Cで充
電させたといい、X/5(A)の電流で充電させた場合は、0.2Cで充電させたという
【0199】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形状
の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形
態の記載を参酌することができる。
【0200】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。図10(A)はコイン型(単層偏平型
)の二次電池の外観図であり、図10(B)は、その断面図である。
【0201】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶
302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。
正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306
により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設け
られた負極活物質層309により形成される。
【0202】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307のそれぞれが有す
る活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0203】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム
、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼
等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウ
ム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極30
7とそれぞれ電気的に接続する。
【0204】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、図10(B
)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、
負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介
して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0205】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0206】
ここで図10(C)を用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用い
た二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向き
になる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソー
ド(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電位
が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書にお
いては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充
電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極
は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連
したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは
、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソー
ド(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極
)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(
プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
【0207】
図10(C)に示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。二
次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。
【0208】
[円筒型二次電池]
次に円筒型の二次電池の例について図11を参照して説明する。円筒型の二次電池600
は、図11(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面およ
び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)
602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0209】
図11(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池
缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで
捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に
捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602に
は、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれ
らの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる
。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を電池缶602に被覆
することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回
された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電
池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。
非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0210】
円筒型の二次電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成
することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負
極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負
極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子6
03は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接され
る。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature C
oefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。
安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601
と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が
上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して
異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO)系
半導体セラミックス等を用いることができる。
【0211】
また、図11(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614
の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続さ
れていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続
されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、
大きな電力を取り出すことができる。
【0212】
図11(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を
点線で示した。図11(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を
電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板を重畳して設け
ることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していてもよ
い。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池6
00が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのため
モジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。温度制御装置617が有する熱
媒体は絶縁性と不燃性を有することが好ましい。
【0213】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0214】
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、図12乃至図16を用いて説明する。
【0215】
図12(A)及び図12(B)は、二次電池の外観を示す図である。二次電池913は、
回路基板900を介して、アンテナ914、及びアンテナ915に接続されている。また
、二次電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、図12(B)に示すよう
に、二次電池913は、端子951と、端子952と、に接続されている。
【0216】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951
、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、
端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子
などとしてもよい。
【0217】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及
びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、
平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体
アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は
、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能する
ことができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アン
テナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけ
でなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0218】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これによ
り、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0219】
二次電池は、アンテナ914及びアンテナ915と、二次電池913との間に層916を
有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を
有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0220】
なお、二次電池の構造は、図12に限定されない。
【0221】
例えば、図13(A-1)及び図13(A-2)に示すように、図12(A)及び図12
(B)に示す二次電池913の対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよい。
図13(A-1)は、上記一対の面の一方を示した外観図であり、図13(A-2)は、
上記一対の面の他方を示した外観図である。なお、図12(A)及び図12(B)に示す
二次電池と同じ部分については、図12(A)及び図12(B)に示す二次電池の説明を
適宜援用できる。
【0222】
図13(A-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでア
ンテナ914が設けられ、図13(A-2)に示すように、二次電池913の一対の面の
他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池91
3による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体
を用いることができる。
【0223】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大きく
することができる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことがで
きる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914に適用可能な形状のアン
テナを適用することができる。アンテナ918を介した二次電池と他の機器との通信方式
としては、NFC(近距離無線通信)など、二次電池と他の機器との間で用いることがで
きる応答方式などを適用することができる。
【0224】
又は、図13(B-1)に示すように、図12(A)及び図12(B)に示す二次電池9
13に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続さ
れる。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお
図12(A)及び図12(B)に示す二次電池と同じ部分については、図12(A)及
図12(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0225】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表
示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクト
ロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペー
パーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0226】
又は、図13(B-2)に示すように、図12(A)及び図12(B)に示す二次電池9
13にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に
電気的に接続される。なお、図12(A)及び図12(B)に示す二次電池と同じ部分に
ついては、図12(A)及び図12(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0227】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光
、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流
量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい
。センサ921を設けることにより、例えば、二次電池が置かれている環境を示すデータ
(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0228】
さらに、二次電池913の構造例について図14及び図15を用いて説明する。
【0229】
図14(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設
けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸され
る。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐
体930に接していない。なお、図14(A)では、便宜のため、筐体930を分離して
図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子95
2が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウ
ムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0230】
なお、図14(B)に示すように、図14(A)に示す筐体930を複数の材料によって
形成してもよい。例えば、図14(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体9
30bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体9
50が設けられている。
【0231】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナ
が形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の
遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの
内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bと
しては、例えば金属材料を用いることができる。
【0232】
さらに、捲回体950の構造について図15に示す。捲回体950は、負極931と、正
極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟ん
で負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体
である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複
数重ねてもよい。
【0233】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図12に示す端子911に接続
される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図12に示す端子91
1に接続される。
【0234】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0235】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、図16乃至図22を参照して説明する。ラ
ミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくと
も一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることも
できる。
【0236】
図16を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次
電池980は、図16(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994
と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、図15で説明した
捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり
合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0237】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な
容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリー
ド電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電
極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0238】
図16(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム98
2とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納する
ことで、図16(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体99
3は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有す
るフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0239】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料
や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の
材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を
有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する二次電池を作製すること
ができる。
【0240】
また、図16(B)および図16(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが、
1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体99
3を収納してもよい。
【0241】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0242】
また図16では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池9
80の例について説明したが、たとえば図17のように、外装体となるフィルムにより形
成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としても
よい。
【0243】
図17(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物
質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する
負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装
体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されて
いる。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実
施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0244】
図17(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負
極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極
集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように
配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から
外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極
集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0245】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリ
プロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、ア
ルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金
属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹
脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0246】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を図17(B)に示す。図17
A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、図17(B)
に示すように、複数の電極層で構成する。
【0247】
図17(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16とし
ても二次電池500は、可撓性を有する。図17(B)では負極集電体504が8層と、
正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、図17(B)は負極の
取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論
、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合
には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場
合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0248】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を図18及び図19に示す。図1
8及び図19は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リー
ド電極510及び負極リード電極511を有する。
【0249】
図20(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体50
1を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極
503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極
506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成
されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領
域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、図20(A)に示す例に限
られない。
【0250】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、図18に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、図20
(B)、(C)を用いて説明する。
【0251】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。図20(B)に積層さ
れた負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を
4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ
領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いれば
よい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リ
ード電極511の接合を行う。
【0252】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0253】
次に、図20(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その
後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時
、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に
接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0254】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508(図示しない。)を外装体5
09の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気
下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネー
ト型の二次電池である二次電池500を作製することができる。
【0255】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0256】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について図21および図22を参照して説明する
【0257】
図21(A)に、曲げることのできる二次電池250の上面概略図を示す。図21(B1
)、(B2)、(C)にはそれぞれ、図21(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-
C4、切断線A1-A2における断面概略図である。二次電池250は、外装体251と
、外装体251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極21
1aと電気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリ
ード212bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域
には、正極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている
【0258】
二次電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、図22を用いて説明
する。図22(A)は、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順を
説明する斜視図である。図22(B)は正極211aおよび負極211bに加えて、リー
ド212aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0259】
図22(A)に示すように、二次電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の短
冊状の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極2
11bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方の
面のタブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の部
分に負極活物質層が形成される。
【0260】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活物
質層の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積層
される。
【0261】
また、正極211aの正極活物質層が形成された面と、負極211bの負極活物質層が形
成された面の間にはセパレータ214が設けられる。図22では見やすくするためセパレ
ータ214を点線で示す。
【0262】
また図22(B)に示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部215
aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部2
15bにおいて電気的に接続される。
【0263】
次に、外装体251について図21(B1)、(B2)、(C)、(D)を用いて説明す
る。
【0264】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むよう
に2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部2
62と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび負
極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部26
3は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶこ
とができる。
【0265】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線2
72が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部26
2及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0266】
図21(B1)は、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、図21(B2)は、
谷線272と重なる部分で切断した断面である。図21(B1)、(B2)は共に、二次
電池250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0267】
ここで、正極211aおよび負極211bの幅方向の端部、すなわち正極211aおよび
負極211bの端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする。二次電池250
に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極211bが長
さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外装体251と
正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してしまう場合があ
る。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電解液により腐
食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定することが好ま
しい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、二次電池250の体積が増大してしまう。
【0268】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、正極211
aおよび負極211bと、シール部262との間の距離Laを大きくすることが好ましい
【0269】
より具体的には、積層された正極211aおよび負極211bおよび図示しないがセパレ
ータ214の合計の厚さを厚さtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0
倍以下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以
下であることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに
対する信頼性の高い電池を実現できる。
【0270】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを正極211a
および負極211bの幅(ここでは、負極211bの幅Wb)よりも十分大きくすること
が好ましい。これにより、二次電池250に繰り返し曲げるなどの変形を加えたときに、
正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触しても、正極211aおよび負
極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正極211aおよび負極211b
と外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0271】
例えば、一対のシール部262の間の距離Laと、負極211bの幅Wbとの差が、正極
211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍
以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好ましい
【0272】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式1の関係を満たすことが好ま
しい。
【0273】
【数1】
【0274】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましく
は1.0以上2.0以下を満たす。
【0275】
また、図21(C)はリード212aを含む断面であり、二次電池250、正極211a
および負極211bの長さ方向の断面に対応する。図21(C)に示すように、折り曲げ
部261において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体251
との間に空間273を有することが好ましい。
【0276】
図21(D)に、二次電池250を曲げたときの断面概略図を示している。図21(D)
は、図21(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0277】
二次電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に位
置する他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置する
部分は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体2
51の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形
する。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251にか
かる応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。そ
の結果、外装体251は破損することなく、小さな力で二次電池250を曲げることがで
きる。
【0278】
また、図21(D)に示すように、二次電池250を曲げると、正極211aおよび負極
211bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよび
負極211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折り
曲げ部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極
211aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211b
自体が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損すること
なく二次電池250を曲げることができる。
【0279】
また、正極211aおよび負極211bと外装体251との間に空間273を有している
ことにより、曲げた時内側に位置する正極211aおよび負極211bが、外装体251
に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0280】
図21および図22で例示した二次電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装
体の破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化し
にくい電池である。二次電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明した
正極活物質を用いることで、さらにサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0281】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明
する。
【0282】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する
例を図23(A)乃至図23(G)に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子
機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、
コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォト
フレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報
端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0283】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車
の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0284】
図23(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401
に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、ス
ピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次
電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用い
ることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0285】
図23(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機740
0を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池
7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を図23(C
)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態
で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極7
408を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電
体と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性
が高い構成となっている。
【0286】
図23(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、
筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。
また、図23(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲
げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または
全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の
値で表したものが曲率半径であり、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径
が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部ま
たは全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150
mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の
一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0287】
図23(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は
、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン72
05、入出力端子7206などを備える。
【0288】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インタ
ーネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができ
る。
【0289】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うこ
とができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に
触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン72
07に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0290】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ
動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持
たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシ
ステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0291】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能で
ある。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで
通話することもできる。
【0292】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを
介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電
を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行
ってもよい。
【0293】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。
本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。
例えば、図23(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態
で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0294】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋セン
サ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度セン
サ、等が搭載されることが好ましい。
【0295】
図23(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7
304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表
示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させる
こともできる。
【0296】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことが
できる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状
況を変更することができる。
【0297】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接デ
ータのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。
なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0298】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽
量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0299】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を図
23(H)、図24および図25を用いて説明する。
【0300】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命
な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電
動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考
え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0301】
図23(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。図
23(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アト
マイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカート
リッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や過
放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。図23(H)に示し
た二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7
504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いこ
とが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため、
長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提
供できる。
【0302】
次に、図24(A)および図24(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示
す。図24(A)および図24(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630
a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示
部9631、表示モード切り替えスイッチ9626、スイッチ9627、スイッチ962
5、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を
有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができ
る。図24(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、図24(B)は、
タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0303】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電
体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体
9630bに渡って設けられている。
【0304】
表示部9631は、全て又は一部の領域をタッチパネルの領域とすることができ、また、
当該領域に表示されたアイコンを含む画像、文字、入力フォームなどに触れることでデー
タ入力をすることができる。例えば、筐体9630a側の表示部9631の全面にキーボ
ードボタンを表示させて、筐体9630b側の表示部9631に文字、画像などの情報を
表示させて用いてもよい。
【0305】
また、筐体9630b側の表示部9631にキーボードを表示させて、筐体9630a側
の表示部9631に文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。また、表示部96
31にタッチパネルのキーボード表示切り替えボタンを表示するようにして、当該ボタン
に指やスタイラスなどで触れることで表示部9631にキーボードボタン表示するように
してもよい。
【0306】
また、スイッチ9625乃至スイッチ9627は、タブレット型端末9600を操作する
ためのインターフェースだけでなく、様々な機能の切り替えを行うことができるインター
フェースとしてもよい。例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一
は、タブレット型端末9600の電源のオン・オフを切り替えるスイッチとして機能して
もよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、縦表
示又は横表示などの表示の向きを切り替える機能、又は白黒表示やカラー表示の切り替え
る機能を有してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なく
とも一は、表示部9631の輝度を調整する機能を有してもよい。また、表示部9631
の輝度は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の外光
の光量に応じて最適化する構成とすることができる。なお、タブレット型端末は光センサ
だけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内
蔵させてもよい。
【0307】
図24(B)は、タブレット型端末9600を2つ折りに閉じた状態であり、タブレット
型端末9600は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を含
む充放電制御回路を9634有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に係
る二次電池を用いる。
【0308】
なお、上述の通り、タブレット型端末9600は2つ折りが可能であるため、未使用時に
筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折り
たたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久
性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高
容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレッ
ト型端末9600を提供できる。
【0309】
また、この他にも図24(A)および図24(B)に示したタブレット型端末9600は
、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又
は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集す
るタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等
を有することができる。
【0310】
タブレット型端末9600の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチ
パネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池963
3は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的
に行う構成とすることができる。なお蓄電体9635としては、リチウムイオン電池を用
いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0311】
また、図24(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について図24
C)にブロック図を示し説明する。図24(C)には、太陽電池9633、蓄電体963
5、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表
示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コン
バータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図24(B)に示す充放電制御回路96
34に対応する箇所となる。
【0312】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。
太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコ
ンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池
9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637
で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631
での表示を行わない際には、スイッチSW1をオフにし、スイッチSW2をオンにして蓄
電体9635の充電を行う構成とすればよい。
【0313】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧
電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電
体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信し
て充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成とし
てもよい。
【0314】
図25に、他の電子機器の例を示す。図25において、表示装置8000は、本発明の一
態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置800
0は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部
8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐
体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受
けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって
、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る
二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能とな
る。
【0315】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光
装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Devi
ce)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field
Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0316】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など
、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0317】
図25において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池81
03を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光
源8102、二次電池8103等を有する。図25では、二次電池8103が、筐体81
01及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示
しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装
置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄
積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が
受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いる
ことで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0318】
なお、図25では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示してい
るが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8
106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上
型の照明装置などに用いることもできる。
【0319】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができ
る。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光
素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0320】
図25において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、
本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内
機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。図25
は、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次
電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外
機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナー
は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電
力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池82
03が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時で
も、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコン
ディショナーの利用が可能となる。
【0321】
なお、図25では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを
例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコン
ディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0322】
図25において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を
用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷
蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。図25では、二
次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、
商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を
用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時
でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷
凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0323】
なお、上述した電子機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電子
機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助
するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電子機器の
使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0324】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量の
うち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次
電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑える
ことができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉830
2、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄
える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行わ
れる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率
を低く抑えることができる。
【0325】
本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させること
ができる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって
、二次電池の特性を向上することができ、よって、二次電池自体を小型軽量化することが
できる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に
搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。本実施の形態
は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0326】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0327】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプ
ラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる
【0328】
図26において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。図26(A)
に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車で
ある。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いる
ことが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様である二次電池を用いることで
、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有す
る。二次電池は、車内の床部分に対して、図11(C)および図11(D)に示した二次
電池のモジュールを並べて使用すればよい。また、図16に示す二次電池を複数組み合わ
せた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター840
6を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光
装置に電力を供給することができる。
【0329】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示
装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲ
ーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0330】
図26(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方
式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができ
る。図26(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二
次電池8024、8025に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。
充電に際しては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ
等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステ
ーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、
外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024、8025を充
電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直
流電力に変換して行うことができる。
【0331】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給
して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組
み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電
の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に
太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触で
の電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0332】
また、図26(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。図26
(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示
灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することが
できる。
【0333】
また、図26(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池860
2を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても
、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能とな
っており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納
すればよい。
【0334】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大き
くすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自
体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることがで
きる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる
。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる
。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二
酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次
電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らす
ことができる。
【0335】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0336】
本実施例では、本発明の一態様の正極活物質100と比較例のコバルト酸リチウムを作製
し、XRDにより分析した結果について説明する。
【0337】
[正極活物質の作製]
≪サンプル01≫
本発明の一態様の正極活物質のサンプル01として、出発材料にマグネシウムおよびフッ
素を加えてコバルト酸リチウムの粒子を作製し、その後加熱したものを作製した。
【0338】
サンプル01では、実施の形態1のステップS11で説明したように、出発材料のリチウ
ム源として炭酸リチウム、コバルト源として酸化コバルト、マグネシウム源として酸化マ
グネシウム、フッ素源としてフッ化リチウムを用意した。そして各元素の比がLi1.0
Co0.99Mg0.011.980.02となるように秤量した。
【0339】
次に、ステップS12として、出発材料を混合した。混合はジルコニアボールを有するボ
ールミルを用いて、250rpmで2時間行った。
【0340】
次に、ステップS13として、混合した材料を酸化アルミニウム製の坩堝(以後、アルミ
ナ坩堝と呼称する。)に入れて加熱した。マッフル炉を用いて、乾燥空気雰囲気の流量は
10L/minとし、保持温度950℃(昇温200℃/時間)、保持時間10時間とし
た。保持温度から室温までの降温時間は10時間以上15時間以下とした。
【0341】
チタンおよびアルミニウムの被覆処理をしないためステップS14は行わなかった。
【0342】
次に、ステップS15として、ステップS13で合成したマグネシウムおよびフッ素を含
むコバルト酸リチウム粒子をアルミナ坩堝に入れて加熱した。マッフル炉を用いて、酸素
雰囲気の流量は10L/minとし、保持温度900℃(昇温200℃/時間)、保持時
間2時間とした。保持温度から室温までの降温時間は10時間以上15時間以下とした。
【0343】
その後、解砕処理を行った。解砕処理は、ふるいにかけることにより行い、ふるいは目開
きが53μmのものを用いた。
【0344】
最後に粒子を回収し、サンプル01の正極活物質を得た。なお上述の条件で作製した正極
活物質は、表層部のマグネシウムおよびフッ素の濃度が内部よりも高くなることがわかっ
ている。
【0345】
≪サンプル02≫
サンプル02は、本発明の一態様の正極活物質として、マグネシウムおよびフッ素を有す
るコバルト酸リチウム粒子を加熱したものを作製した。
【0346】
サンプル02では、出発材料としてコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製、
商品名:C-20F)を用いた。そのためサンプル02では、実施の形態1で説明したス
テップS12およびステップS13を省略した。なお上記コバルト酸リチウム粒子は、粒
径(D50)が約20μmであり、XPSで分析可能な領域にフッ素、マグネシウム、カ
ルシウム、ナトリウム、シリコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リチウム粒子である。ま
たチタンおよびアルミニウムの被覆処理をしないためステップS14も行わなかった。
【0347】
次にステップS15として、コバルト酸リチウム粒子をアルミナ坩堝に入れて加熱した。
マッフル炉を用いて、乾燥空気雰囲気の流量は5L/minとし、保持温度800℃(昇
温200℃/時間)、保持時間2時間とした。保持温度から室温までの降温時間は10時
間以上15時間以下とした。その後はサンプル01と同様にふるいにかけ、回収した。な
お上述の条件で作製した正極活物質も、表層部のマグネシウムおよびフッ素の濃度が内部
よりも高くなることがわかっている。
【0348】
≪サンプル03≫
サンプル03は本発明の一態様の正極活物質として、マグネシウムおよびフッ素を有する
コバルト酸リチウム粒子に、ゾルゲル法によりチタンを被覆した正極活物質を作製した。
【0349】
サンプル03でも、出発材料としてコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製、
商品名:C-20F)を用いた。そのためステップS12およびステップS13を省略し
た。
【0350】
次にステップS14として、上記のコバルト酸リチウム粒子に、チタンを含む材料を被覆
した。具体的には、イソプロパノールにTTIPを溶解し、TTIPのイソプロパノール
溶液を作製した。そして該溶液に、コバルト酸リチウム粒子を混合した。TTIPがマグ
ネシウムとフッ素を含むコバルト酸リチウムに対して0.004ml/gとなるように混
合した。
【0351】
この混合液を、マグネチックスターラーで72時間、25℃、湿度90%RHの条件下で
蓋をせずに撹拌した。この処理により、雰囲気中の水とTTIPで加水分解および重縮合
反応を起こさせ、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子の表面に、チタ
ンを含む層を形成させた。
【0352】
上記の処理を終えた混合液を遠心分離し、沈殿物を回収した。遠心分離は3000rpm
で1分行い、洗浄にはイソプロパノールを用いた。
【0353】
回収した沈殿物を、70℃で3時間、通風乾燥炉にて乾燥した。
【0354】
次にステップS15として、チタンを有する材料で被覆されたコバルト酸リチウム粒子を
アルミナ坩堝に入れて加熱した。マッフル炉を用いて、酸素雰囲気の流量は10L/mi
nとし、保持温度800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間とした。保持温度か
ら室温までの降温時間は10時間以上15時間以下とした。その後はサンプル01と同様
にふるいにかけ、回収した。上述の条件で作製した正極活物質は、表層部のチタン、マグ
ネシウムおよびフッ素の濃度が内部よりも高くなることがわかっている。またチタン濃度
のピークは、マグネシウム濃度のピークよりも深い領域にあることがわかっている。
【0355】
≪サンプル04≫
サンプル04は本発明の一態様の正極活物質として、マグネシウムおよびフッ素を有する
コバルト酸リチウム粒子に、ゾルゲル法によりアルミニウムを被覆した正極活物質を作製
した。
【0356】
サンプル04でも、出発原料としてコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製、
商品名:C-20F)を用いた。そのためステップS12およびステップS13を省略し
た。
【0357】
次にステップS14として、上記のコバルト酸リチウム粒子に、アルミニウムを含む材料
を被覆した。具体的には、イソプロパノールにアルミニウムイソプロポキシドを溶解し、
アルミニウムイソプロポキシドのイソプロパノール溶液を作製した。そして該溶液に、コ
バルト酸リチウム粒子を混合した。アルミニウムイソプロポキシドがマグネシウムとフッ
素を含むコバルト酸リチウムに対して0.0279g/gとなるように混合した。
【0358】
この混合液を、マグネチックスターラーで8時間、25℃、湿度90%RHの条件下で蓋
をせずに撹拌した。この処理により、雰囲気中の水とアルミニウムイソプロポキシドで加
水分解および重縮合反応を起こさせ、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム
粒子の表面に、アルミニウムを含む層を形成させた。
【0359】
上記の処理を終えた混合液をろ過し、残渣を回収した。ろ過のフィルターには、桐山ろ紙
(No.4)、洗浄にはイソプロパノールを用いた。
【0360】
回収した残渣を、70℃で1時間、真空ベルジャーにて乾燥した。
【0361】
次にステップS15として、アルミニウムを有する材料で被覆されたコバルト酸リチウム
粒子をアルミナ坩堝に入れて加熱した。マッフル炉を用いて、酸素雰囲気の流量は10L
/minとし、保持温度800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間とした。保持
温度から室温までの降温時間は10時間以上15時間以下とした。その後はサンプル01
と同様にふるいにかけ、回収した。上述の条件で作製した正極活物質は、表層部のアルミ
ニウム、マグネシウムおよびフッ素の濃度が内部よりも高くなることがわかっている。ま
たアルミニウム濃度のピークは、マグネシウム濃度のピークよりも深い領域にあることが
わかっている。
【0362】
≪サンプル05≫
サンプル05は比較例として、マグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウム粒
子(日本化学工業株式会社製、商品名:C-20F)を、ゾルゲル処理や加熱をせずに、
そのまま用いた。
【0363】
≪サンプル06≫
サンプル06は比較例として、マグネシウムおよびフッ素を含まないコバルト酸リチウム
粒子に、ゾルゲル法によりアルミニウムを被覆した。
【0364】
サンプル06では、出発材料としてコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製、
商品名:C-5H)を用いた。そのためステップS12およびステップS13を省略した
。なお上記コバルト酸リチウム粒子は、粒径(D50)が約5μmであり、XPS等でマ
グネシウムが検出されないコバルト酸リチウム粒子である。
【0365】
次にステップS14として、上記のコバルト酸リチウム粒子に、アルミニウムを含む材料
を被覆した。具体的には、イソプロパノールにアルミニウムイソプロポキシドを溶解し、
アルミニウムイソプロポキシドのイソプロパノール溶液を作製した。そして該溶液に、コ
バルト酸リチウム粒子を混合した。アルミニウムイソプロポキシドがマグネシウムとフッ
素を含むコバルト酸リチウムに対して0.0917g/gとなるように混合した。
【0366】
そしてサンプル04と同様に撹拌し、回収し、乾燥した。
【0367】
次にステップS15として、アルミニウムを有する材料で被覆されたコバルト酸リチウム
粒子を加熱し、冷却し、回収した。加熱温度を500℃とした他は、サンプル04と同様
に作製した。
【0368】
サンプル01からサンプル06の作製条件を表1に示す。
【0369】
【表1】
【0370】
[二次電池の作製]
上記で作製したサンプル01からサンプル06の正極活物質を用いて、CR2032タイ
プ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製した。
【0371】
正極には、上記で作製した正極活物質(LCO)と、アセチレンブラック(AB)と、ポ
リフッ化ビニリデン(PVDF)をLCO:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で
混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。
【0372】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0373】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用
い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がE
C:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合された
ものを用いた。
【0374】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0375】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0376】
[初回充電後のXRD]
サンプル01からサンプル06の正極活物質を用いた二次電池を、所定の電圧でCCCV
充電した。具体的には所定の電圧まで0.5Cで定電流充電した後、電流値が0.01C
となるまで定電圧充電した。そして充電状態の二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボッ
クス内で解体して正極を取り出し、DMC(ジメチルカーボネート)で洗浄して電解液を
取り除いた。そしてCuKα1線による粉末XRDにより解析を行った。なお、当該解析
では、Bruker AXS社製全自動多目的X線回折装置 D8 ADVANCEを用
いた。XRD装置は粉末サンプル用のセッティングとしたが、サンプルの高さは装置の要
求する測定面に合わせた。また、サンプルを湾曲させず平らにしてセッティングした。
【0377】
図27に、サンプル01の正極活物質を用いた二次電池を、4.6Vで充電した後の正極
のXRDパターンを示す。比較のため、図3と同じ擬スピネル型結晶構造とH1-3型結
晶構造のパターンもあわせて示す。4.6Vで充電したときのサンプル01では、擬スピ
ネル型結晶構造とH1-3型結晶構造が混在していた。またリートベルト解析により、擬
スピネル型の結晶構造を66wt%有することが推定された。
【0378】
図28に、サンプル02の正極活物質を用いた二次電池を、4.1V、4.2V、4.3
V、4.4V、4.5V、4.6V、4.7V、および4.8Vで充電した後の正極のX
RDパターンを示す。4.6Vで充電したときのサンプル02が、擬スピネル型結晶構造
を有することが明らかとなった。また、4.7V以上で充電したときのサンプル02は、
擬スピネルと異なる結晶構造を有し、またピークの幅が広がり結晶性が低下していること
が推測された。
【0379】
図29に、サンプル03の正極活物質を用いた二次電池を、4.1V、4.2V、4.3
V、4.4V、4.5V、4.6V、4.7V、および4.8Vで充電した後の正極のX
RDパターンを示す。サンプル03も4.6Vで充電したとき擬スピネル型結晶構造を有
することが明らかとなった。また、4.6Vで充電したサンプル03はより明瞭なパター
ンを示し、4.6Vで充電したサンプル02よりも擬スピネル以外の結晶構造が少ないこ
とが推測された。また、4.7V以上で充電したときのサンプル03は、擬スピネルと異
なる結晶構造を有し、またピークの幅が広がり結晶性が低下していることが推測された。
【0380】
図30に、サンプル04の正極活物質を用いた二次電池を、4.6V、4.7V、および
4.8Vで充電した後の正極のXRDパターンを示す。サンプル04は4.6Vおよび4
.7Vで充電したとき擬スピネル型結晶構造を有することが明らかとなった。また、4.
8Vで充電したときのサンプル04は、擬スピネルと異なる結晶構造を有し、またピーク
の幅が広がり結晶性が低下していることが推測された。
【0381】
図31に、比較例のサンプル05の正極活物質を用いた二次電池を、4.1V、4.2V
、4.3V、4.4V、4.5V、4.6V、4.7V、および4.8Vで充電した後の
正極のXRDパターンを示す。比較例のサンプル05は4.6V以上4.7V以下で充電
したとき、擬スピネル型結晶構造でなくH1-3の結晶構造を有することが明らかとなっ
た(43.5°から46°(2θ)までのピークが特に特徴的である)。また、4.5V
と4.6Vの間でH1-3型結晶構造に変化することが明らかとなった。また、4.8V
で充電したときのサンプル05は擬スピネルともH1-3とも異なる結晶構造を有し、ま
たピークの幅が広がり結晶性が低下していることが推測された。
【0382】
図32に、比較例のサンプル06の正極活物質を用いた二次電池を4.6Vで充電した後
の正極のXRDパターンを示す。4.6Vで充電したときのサンプル06はH1-3型結
晶構造を有することが明らかになった。
【0383】
[複数回充電後のXRD]
次に、サンプル02、サンプル03および比較例であるサンプル05について4.6Vで
複数回充電した後にXRDにより解析を行った。具体的には4.6VでCCCV充電した
ものを、1回充電したサンプルとした。また4.6VでCCCV充電した後、放電電圧が
2.5Vとなるまで定電流放電(CC放電)し、さらに4.6VでCCCV充電したもの
を、2回充電したサンプルとした。一部では同様に9回充電したサンプルも作製した。
【0384】
図33に、サンプル02の正極活物質を用いた二次電池を、4.6Vで1回充電した後、
および2回充電した後の正極のXRDパターンを示す。1回目の充電では擬スピネル型結
晶構造だけでなく、H1-3型結晶構造や他の構造が存在し、結晶性が低下していること
が推測された。しかし2回目の充電では擬スピネル型結晶構造以外の構造が減少し、1回
目よりも結晶性が高くなっていた。
【0385】
図34に、サンプル03の正極活物質を用いた二次電池を、4.6Vで1回、2回および
9回充電した後の正極のXRDパターンを示す。サンプル03でも、1回目の充電では擬
スピネル型結晶構造だけでなく、H1-3型結晶構造や他の構造が存在し、結晶性が低下
していることが推測された。しかし2回目以降の充電では擬スピネル型結晶構造以外の構
造が減少し、擬スピネル型結晶構造については高い結晶性を保っていた。
【0386】
図35に、比較例であるサンプル05の正極活物質を用いた二次電池を、4.6Vで1回
および2回充電した後の正極のXRDパターンを示す。サンプル05では、1回目および
2回目の充電ともにH1-3型結晶構造の構造を有した。これも43.5°から46°(
2θ)までに存在するピークに注目すると特徴が明らかである。
【0387】
[複数回放電後のXRD]
次に、サンプル02、サンプル03および比較例であるサンプル05について、10回放
電した後にXRDにより解析を行った。具体的には、CCCV充電(4.6V)後にCC
放電(2.5V)を行う充放電を10回繰り返した後、放電状態の二次電池を解体して正
極を取り出し、XRDにより解析を行った。
【0388】
図36に、サンプル02、サンプル03および比較例であるサンプル05の10回放電し
た後の正極のXRDパターンを示す。比較のため、図3と同じLiCoO(O3)、擬
スピネル型結晶構造、およびH1-3型結晶構造のパターンもあわせて示す。サンプル0
2、サンプル03、およびサンプル05いずれもLiCoO(O3)の構造を有してい
た。しかし、サンプル05ではLiCoO(O3)における(0 0 3)面、(0
0 6)面など、c軸に垂直な面からの回折ピークの幅が広がり、結晶性が低下していた
。それに対して、サンプル02とサンプル03はCoO層のずれが生じないため高い結
晶性を保っており、10回充放電した後の劣化が少ないことが推測された。
【0389】
[体積変化]
次に、サンプル03の各充電深度のXRDパターンから格子定数、および結晶構造を推測
した。そして各結晶構造のユニットセルあたりの体積を求め、充電前の体積と比較した。
また他の結晶構造と比較しやすくするため、H1-3型結晶構造のc軸としてユニットセ
ルの1/2の値を用いて計算した。
【0390】
表2に、サンプル03の各充電深度のXRDパターンから推測される格子定数および結晶
構造を示す。
【0391】
【表2】
【0392】
4.1V以上4.5V以下で充電したときはいずれも、空間群R-3mに属する2相の結
晶構造をとることが推定された。これは各正極活物質の粒子内、または粒子間で充電深度
の差が生じているためと考えられた。表2ではR-3m(1)とR-3m(2)と表記し
た。
【0393】
そして4.6Vで充電したときは、擬スピネル型結晶構造とH1-3型結晶構造が混合し
ていることが推定された。またリートベルト解析により、擬スピネル型結晶構造は77w
t%以上有することが推定された。
【0394】
また4.7Vで充電したときは、H1-3型結晶構造とO1型結晶構造が混合しているこ
とが推定された。
【0395】
また擬スピネル型結晶構造は、O3型結晶構造からの体積変化率が2.5%以下、より詳
細には2.2%以下であるのに対して、H1-3型結晶構造の場合はO3型結晶構造から
の体積変化率が3.5%以上であった。
【0396】
表2の体積変化率をグラフにしたものを、図37に示す。O3:充電深度0を示すマーカ
のみグラフ上部の横軸を参照する。また、図37では、結晶構造がR‐3m(1)(2)
、擬スピネル型結晶構造、H1-3型結晶構造、又はO1型結晶構造のいずれか一に推定
されるものを個々のマーカで示している。
【0397】
表2および図37から明らかなように、擬スピネル型結晶構造はH1-3型結晶構造より
もユニットセルあたりの体積変化が少ない。また4.6Vで充電されたサンプル03は、
擬スピネル型結晶構造を77wt%以上有するため、結晶構造および体積の変化が抑制さ
れていることが明らかとなった。
【0398】
[サイクル特性]
次に、サンプル01、サンプル03およびサンプル05を用いた二次電池のサイクル特性
を評価した。
【0399】
なお、サイクル特性を評価したサンプル01およびサンプル03は、XRD解析サンプル
とロットが異なり、わずかに作製条件が異なるためグラフ中にアスタリスクを付したが、
正極活物質としての特徴に大きな違いはない。具体的には、サンプル01は、第1の加熱
処理を1000℃で行った。サンプル03は、ゾルゲル処理に用いるTTIPの量を0.
01ml/gとし、第2の加熱処理を乾燥空気雰囲気で行った。
【0400】
コインセルは正極活物質(LCO)と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニ
リデン(PVDF)をLCO:AB:PVDF=95:2.5:2.5(重量比)で混合
した他は同様に作製した。
【0401】
サイクル試験は25℃で行い、充電はCCCV(0.5C、4.6V、終止電流0.01
C)、放電はCC(0.5C、2.5V)とした。なお、ここでは、1Cは正極活物質あ
たりの電流値で137mA/gとした。
【0402】
図38(A)にサンプル01、サンプル03およびサンプル05の放電容量を、図38
B)に放電容量維持率を示す。比較例のサンプル05は40サイクル時点で放電容量維持
率が40.9%まで低下した。一方本発明の一態様の正極活物質は、初期容量が比較例と
同程度に高く、かつサンプル03は100サイクル時点で78.4%、サンプル01は7
0サイクル時点で67.5%と、良好なサイクル特性を示した。
【0403】
本発明の一態様の正極活物質は、4.6Vという高電圧で充放電をしても良好なサイクル
特性を示すことが明らかとなった。
【0404】
このように、本発明の一態様の正極活物質であるサンプル01からサンプル04では、4
.6V充電で擬スピネル型結晶構造を60%以上有することが明らかとなった。擬スピネ
ル型結晶構造は、H1-3型結晶構造よりも放電状態との結晶構造および体積の差が小さ
いため、充放電を繰り返しても劣化しにくい。そのため高電圧で充電したとき擬スピネル
型結晶構造を有する正極活物質ならば、高電圧で充放電を行ってもサイクル特性が良好で
ある。
【0405】
それに対して、比較例のサンプル05およびサンプル06では4.6V充電のとき擬スピ
ネル型結晶構造は出現しないかごくわずかで、主にH1-3型結晶構造をとることが明ら
かとなった。H1-3型結晶構造はO3型結晶構造と結晶構造および体積の差が大きいた
め劣化しやすい。そのためサンプル05およびサンプル06は高電圧充電に耐えられない
材料であり、実際に放電容量が大きく低下する。
【0406】
なお、比較例のサンプル05は、サンプル01と同様にマグネシウムおよびフッ素を有す
るものの、4.6V充電のとき主にH1-3型結晶構造をとり、サイクル特性が劣る。こ
のように、本発明の一態様の正極活物質は充放電に伴う結晶構造の変化が少ないことが特
徴であり、これは含まれる元素だけでは判断できないことも示された。
【実施例2】
【0407】
本実施例では、本発明の一態様の正極活物質100と比較例のコバルト酸リチウムを作製
し、ESRにより分析した結果について説明する。
【0408】
[正極活物質の作製]
≪サンプル11A・サンプル11B≫
出発材料にマグネシウムおよびフッ素を加えて第1の加熱処理を行ったものをサンプル1
1Aとし、その後第2の加熱処理を行ったものをサンプル11Bとした。
【0409】
ステップS11およびステップS12として各元素の比がLi1.02Co0.99Mg
0.011.980.02となるように炭酸リチウム、酸化コバルト、酸化マグネシ
ウムおよびフッ化リチウムを秤量し、混合した。そしてステップS13の第1の加熱処理
では、酸化アルミニウム坩堝を用い、乾燥空気雰囲気の流量は10L/minとし、保持
温度1000℃(昇温200℃/時間)、保持時間10時間とした。保持温度から室温ま
での降温時間は10時間以上15時間以下とした。第1の加熱処理によって合成された、
マグネシウムとフッ素を含むコバルト酸リチウムの粒子を、サンプル11Aとした。
【0410】
次に、サンプル11Aのマグネシウムとフッ素を含むコバルト酸リチウム粒子をアルミナ
坩堝に入れ、ステップS15の第2の加熱処理を行った。乾燥空気雰囲気の流量は10L
/minとし、保持温度800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間とした。保持
温度から室温までの降温時間は10時間以上15時間以下とした。このようにして作製さ
れた粒子を、サンプル11Bとした。
【0411】
≪サンプル12B≫
比較例として、マグネシウムおよびフッ素を加えずに、第1および第2の加熱処理を行っ
て作製したものを、サンプル12Bとした。
【0412】
各元素の比がLiCoとなるように炭酸リチウムおよび酸化コバルトを秤量した
他は、サンプル11Bと同様に作製した。
【0413】
[ESR]
サンプル11A、サンプル11Bおよびサンプル12Bについて、ESRで分析を行った
結果を図39および図40に示す。図39は、室温測定のシグナルである。図40は低温
(10K)測定の結果を、320mT前後の鋭いシグナルを比較するため拡大した図であ
る。
【0414】
図39に示すように、サンプル12Bおよびサンプル11Aでは、120mTから150
mTを中心とする幅の広いシグナルが検出されたが、サンプル11Bではこのシグナルは
検出下限以下であった。このシグナルは酸素4配位のCo(図5におけるAサイト)に対
応する。
【0415】
そのため、マグネシウムおよびフッ素を有さないサンプル12B、およびマグネシウムお
よびフッ素を有するが第2の加熱処理を行わないサンプル11Aはスピネル型の結晶構造
のCoを有するが、マグネシウムおよびフッ素を有しかつ第2の加熱処理を行った
サンプル11Bでは検出下限以下であることが明らかとなった。
【0416】
また図40に示すように、すべてのサンプルで320mT程度を中心とする鋭いピークが
検出された。このシグナルは酸素6配位のCo(図5におけるBサイト)に対応する。
【0417】
このうち、図40(B)のサンプル11Aおよび図40(C)のサンプル11Bでは、3
12mT前後にショルダーピークがみられたが、図40(A)のサンプル12Bでは見ら
れなかった。このピークはCoの近くにMgが存在することを示すものである。このよう
に、ESRを用いても正極活物質がMgを有することを判断できることが明らかとなった
【実施例3】
【0418】
本実施例では、どのような元素を固溶させると、高電圧充電時に擬スピネル型結晶構造に
なりやすいか、を計算により明らかにした。
【0419】
図2で説明したように、H1-3型結晶構造は、P-3m1(O1)のようなCoO
構造と、R-3m(O3)のようなLiCoOの構造と、が交互に積層された構造であ
る。
【0420】
そのため、P-3m1に属する構造が増えて1/2程度になるとH1-3型結晶構造にな
りやすいと考えることができる。逆にR-3mに属する構造が50%以上を占めれば、R
-3mである擬スピネル型結晶構造になりやすいと考えることができる。そこで、P-3
m1とR-3mの結晶構造モデルを用いて高電圧充電状態の正極活物質を再現し、Mg,
AlまたはTiを有する場合の安定化エネルギーを計算した。
【0421】
高電圧充電状態の結晶構造モデルは、図2で説明したR-3m(O3)からLiを全て引
き抜いたものと、P-3m1(O1)と、を用いた。そして以下のように、Mg,Alま
たはTiがCoO層間の最安定な位置に挿入される場合と、Coサイトに置換される場
合をそれぞれ計算した。
【0422】
Mg,AlまたはTiがCoO層間にある場合のP-3m1の結晶構造モデルを図41
(A1)に、R-3mの結晶構造モデル図41(A2)に示す。Mg,AlまたはTiが
Coサイトにある場合のP-3m1の結晶構造モデルを図41(B1)に、R-3mの結
晶構造モデル図41(B2)に示す。また表3に計算条件を示す。
【0423】
【表3】
【0424】
空間群P-3m1構造の場合と、空間群R-3m構造の場合のエネルギー差ΔE(eV)
を、MgをCoO層間に挿入する場合は、以下の式のように計算した。挿入・置換する
元素のエネルギーは、原子単体のエネルギーを用いた。
【0425】
【数2】
【0426】
同様に、CoサイトにMgを置換する場合は、以下の式のように計算した。
【0427】
【数3】
【0428】
他の元素についても同様に計算を行った結果を図42に示す。比較のため、挿入または置
換しなかった場合、およびCoO層間にLiを挿入した場合の結果も示す。
【0429】
図42(A)は、CoO層間にAl、Ti、Mg、またはLiが挿入された場合の安定
化エネルギーΔEを示すグラフである。いずれの元素でもΔEがマイナスの値であり、こ
れは空間群R-3mの構造の方が、P-3m1より安定になることを意味する。またいず
れの元素でもLiより低い値となった。つまりこれらの元素をCoO層間に有する正極
活物質は、単純なLiCoOよりも、高電圧充電状態でもR-3mの構造になりやすく
なることが示された。なかでもAl、Ti、Mgの中ではMgが最も効果的であることが
明らかとなった。
【0430】
図42(B)はCoサイトにAl、TiまたはMgが置換された場合の安定化エネルギー
ΔEを示すグラフである。いずれの元素でもΔEがプラスの値となりP-3m1構造の方
が安定であることを示した。Al、Tiは、置換しない場合(Coが存在する場合)より
も低い値であったが、Mgは置換しない場合よりも高い値であった。
【0431】
そのため、CoO層間に存在するMgはR-3mの構造を保つ効果が高いのに対して、
Coサイトに存在するMgはその効果がないことが明らかとなった。
【0432】
次に、全てのリチウムが挿入された、放電状態のR-3m(O3)の結晶構造のとき、A
l、TiまたはMgは、LiサイトとCoサイトのどちらに置換する方が安定かを計算し
た。計算方法は図42と同様とした。結果を図43に示す。
【0433】
AlおよびTiは、LiサイトとCoサイトどちらに置換してもΔEは同程度のマイナス
の値をとった。また、Tiの方がよりΔEは小さかった。そのためAlおよびTiはLi
CoOに固溶しやすい傾向があり、なかでもTiがより固溶しやすいことが示された。
【0434】
一方、MgはLiサイトとCoサイトの比較では、Liサイトの方が大きく安定であった
。そのためMgはCoサイトよりもLiサイトに入りやすいことが示された。また、いず
れの置換でもΔEがプラスであるため、MgはLiCoOにやや固溶しにくい傾向があ
るといえる。この傾向を有することから、一部のMgが表層部や結晶粒界近傍等に偏析す
る現象を説明できる。
【0435】
以上から、CoO層間(Liサイト)にMgが存在すると、Liを多く引き抜かれた高
電圧充電状態でもR-3mの構造を保ちやすく、擬スピネル型結晶構造になりやすいこと
が示唆された。そのためLiCoOのLiサイトに入りやすいMgを、第2の加熱処理
を含む作製工程で確実に(Coサイトでなく)Liサイトに収めることが重要であると考
えられる。
【符号の説明】
【0436】
100 正極活物質
200 活物質層
201 グラフェン化合物
211a 正極
211b 負極
212a リード
212b リード
214 セパレータ
215a 接合部
215b 接合部
217 固定部材
250 二次電池
251 外装体
261 折り曲げ部
262 シール部
263 シール部
271 稜線
272 谷線
273 空間
300 二次電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
500 二次電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
508 電解液
509 外装体
510 正極リード電極
511 負極リード電極
600 二次電池
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 セパレータ
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
611 PTC素子
612 安全弁機構
613 導電板
614 導電板
615 モジュール
616 導線
617 温度制御装置
900 回路基板
910 ラベル
911 端子
912 回路
913 二次電池
914 アンテナ
915 アンテナ
916 層
917 層
918 アンテナ
920 表示装置
921 センサ
922 端子
930 筐体
930a 筐体
930b 筐体
931 負極
932 正極
933 セパレータ
950 捲回体
951 端子
952 端子
980 二次電池
981 フィルム
982 フィルム
993 捲回体
994 負極
995 正極
996 セパレータ
997 リード電極
998 リード電極
7100 携帯表示装置
7101 筐体
7102 表示部
7103 操作ボタン
7104 二次電池
7200 携帯情報端末
7201 筐体
7202 表示部
7203 バンド
7204 バックル
7205 操作ボタン
7206 入出力端子
7207 アイコン
7300 表示装置
7304 表示部
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
7407 二次電池
7408 リード電極
7500 電子タバコ
7501 アトマイザ
7502 カートリッジ
7504 二次電池
8000 表示装置
8001 筐体
8002 表示部
8003 スピーカ部
8004 二次電池
8021 充電装置
8022 ケーブル
8024 二次電池
8025 二次電池
8100 照明装置
8101 筐体
8102 光源
8103 二次電池
8104 天井
8105 側壁
8106 床
8107 窓
8200 室内機
8201 筐体
8202 送風口
8203 二次電池
8204 室外機
8300 電気冷凍冷蔵庫
8301 筐体
8302 冷蔵室用扉
8303 冷凍室用扉
8304 二次電池
8400 自動車
8401 ヘッドライト
8406 電気モーター
8500 自動車
8600 スクータ
8601 サイドミラー
8602 二次電池
8603 方向指示灯
8604 座席下収納
9600 タブレット型端末
9625 スイッチ
9626 スイッチ
9627 スイッチ
9628 操作スイッチ
9629 留め具
9630 筐体
9630a 筐体
9630b 筐体
9631 表示部
9633 太陽電池
9634 充放電制御回路
9635 蓄電体
9636 DCDCコンバータ
9637 コンバータ
9640 可動部
図1
図2
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