(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20220927BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
H01L21/60 301A
C22C9/00
(21)【出願番号】P 2019199205
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/134724(WO,A1)
【文献】特開平09-283551(JP,A)
【文献】特開平04-323835(JP,A)
【文献】特開昭62-104061(JP,A)
【文献】加藤 正憲,高純度銅の特性と用途,伸銅技術研究会誌,日本,日本伸銅協会,1996年,35巻,28-35頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を有する半導体素子と、第2電極を有する基板と、前記第1電極と前記第2電極とを接続するボンディングワイヤとを備える半導体装置において、
前記ボンディングワイヤは、純度が99.999質量%以上の銅からなり、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方にフリーエアボールが圧着されてなる1次接合部と、他方に接着された2次接合部と、前記1次接合部と前記2次接合部との間に設けられたワイヤ本体部とを備え、
前記ワイヤ本体部における銅結晶の平均粒径R1に対する前記2次接合部における銅結晶の平均粒径R2の比率(R2/R1)が0.8以上である半導体装置。
【請求項2】
前記ボンディングワイヤが、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計が0.05質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が0.30質量ppm未満である、請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ボンディングワイヤが、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計が0.03質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が0.25質量ppm未満である、請求項2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子に設けられた第1電極と、リードフレームやプリント基板等の回路配線基板に設けられた第2電極とを接続する方法としてボールボンディング法が知られている。
【0003】
この方法は、まず、放電加熱等によりボンディングワイヤWの先端にフリーエアボール(FAB:Free Air Ball)を形成する。そして、形成したFABを荷重や超音波発振を加えつつ一方の電極(例えば、半導体素子1に設けられた第1電極10)に圧着する1次接合を行う。1次接合により電極10に1次接合部12が形成される(
図1参照)。
【0004】
その後、他方の電極(例えば、基板2に設けられた第2電極11)にボンディングワイヤWの外周面を荷重や超音波発振を加えつつ圧着する2次接合を行う。2次接合により、第2電極11に2次接合部14が形成される。これにより、第1電極10と第2電極11とをボンディングワイヤWによって接続する。
【0005】
そして、ボンディングワイヤWによって第1電極10と第2電極11とを接続した後、ボンディングワイヤWで接続された電極10,11とともに半導体素子1を樹脂3で封止して、
図1に示すような半導体装置Pを得る。
【0006】
ところで、ボールボンディング法に用いられるボンディングワイヤは非常に細い。そのため、導電性が良く、加工性に優れた金属材料が用いられている。特に、化学的な安定性や大気中での取り扱いやすさから、従来は金(Au)製の金ボンディングワイヤが用いられている。しかし、金ボンディングワイヤは重量の99%以上が金であるため非常に高価である。そこで、金に比べて安価な銅(Cu)製の銅ボンディングワイヤが提案されている。
【0007】
下記特許文献1及び2には、接合強度を高めたり、ボールボンディングの際に半導体素子の損傷を抑えたりするため、高純度の銅からなる銅ボンディングワイヤを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭61-251062号公報
【文献】特開昭62-89348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、半導体装置では、より過酷な熱環境における使用に対する要求が高い。これに伴い、周囲温度の変化に対する耐性(耐熱衝撃性)が求められている。しかし、上記特許文献1及び2のような銅ボンディングワイヤでは、耐熱衝撃性に対する要求を充分に満足できない場合がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱衝撃性に優れた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、周囲温度の変化によって銅ボンディングワイヤの2次接合部から破断しやすいことを見出した。そして、本発明者は、この破断が、2次接合時に荷重や超音波発振等の加工を受けた2次接合部と、加工を受けていない部分との結晶組織の差異に起因していることを見出した。
【0012】
つまり、2次接合部は、2次接合時に大きな加工を受けることで繊維状の金属組織(加工組織)となって、粒径の大きい金属組織(再結晶組織)を有する加工を受けていない部分と金属組織が異なりやすい。
【0013】
半導体装置では、周囲温度が変化すると、第2電極が設けられたリードフレームと封止樹脂との熱膨張率の差によってボンディングワイヤWに負荷がかかる。この時、ボンディングワイヤWにかかる負荷は、上記のような繊維状の加工組織と粒径の大きい再結晶組織との境界が存在する場合(言い換えれば、大きな加工を受けた2次接合部と、その近傍で加工を受けなかった部分との銅結晶の粒径の差が大きい場合)、この境界部分に集中してボンディングワイヤWを破断する。本発明者は、2次接合部とその近傍における銅結晶の粒径の差を小さく抑えることで耐熱衝撃性を向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明に係る半導体装置は、第1電極を有する半導体素子と、第2電極を有する基
板と、前記第1電極と前記第2電極とを接続するボンディングワイヤとを備える半導体装置において、前記ボンディングワイヤは、純度が99.999質量%以上の銅からなり、前記第1電極及び前記第2電極のいずれか一方にフリーエアボールを圧着して形成された1次接合部と、他方に前記ボンディングワイヤの外周面を圧着して形成された2次接合部と、前記1次接合部と前記2次接合部との間に設けられたワイヤ本体部とを備え、前記ワイヤ本体部における銅結晶の平均粒径R1に対する前記2次接合部における銅結晶の平均粒径R2の比率(R2/R1)が0.8以上であるものである。
【0017】
上記本発明の半導体装置において、前記ボンディングワイヤが、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計が0.05質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が0.30質量ppm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、耐熱衝撃性に優れた半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体装置におけるボンディングワイヤを拡大して示す図。
【
図2】
図1の半導体装置の2次接合部の形成工程を示す断面図。
【
図3】
図1の半導体装置の2次接合部の形成工程を示す断面図。
【
図4】
図1の半導体装置の2次接合部近傍を拡大して示す平面図。
【
図5】(a)は実施例1のボンディングワイヤを用いた半導体装置の2次接合部近傍の断面SEM写真、(b)は(a)の要部拡大図。
【
図6】(a)は比較例1のボンディングワイヤを用いた半導体装置の2次接合部近傍の断面SEM写真、(b)は(a)の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る半導体装置Pについて図面を参照して説明する。
【0021】
(1)半導体装置P
図1に例示する本実施形態の半導体装置Pは、例えば、パワーIC、LSI、トランジスタ、BGA(Ball Grid Array package)、QFN(Quad Flat Nonlead package)、LED(発光ダイオード)等のように、半導体素子1の第1電極10と回路配線基板(リードフレーム、セラミック基板、プリント基板等)2の第2電極11とが、ボンディングワイヤWを用いたボールボンディング法によって接続されたものである。なお、半導体装置Pは、望ましい形態として、ボンディングワイヤWで接続された第1電極10及び第2電極11とともに半導体素子1が樹脂3で封止されている。
【0022】
ボンディングワイヤWは、純度が99.999質量%以上の銅からなる。ボンディングワイヤWは、半導体素子1の第1電極10と回路配線基板2の第2電極11のいずれか一方の電極(例えば、第1電極10)に形成された1次接合部12と、他方の電極(例えば、第2電極11)に形成された2次接合部14と、1次接合部12と2次接合部14との間に設けられたワイヤ本体部16とを備える。
【0023】
1次接合部12は、ボンディングワイヤWの先端に形成されたFABを第1電極10に圧着する1次接合によって形成される。2次接合部14は、ボンディングワイヤWの外周面を圧着する2次接合によって形成される。
【0024】
より具体的には、キャピラリ20(
図2、
図3参照)に挿通されたボンディングワイヤWの先端に放電加熱等によりFABを形成する。そして、キャピラリ20は、FABを保持しつつ半導体素子1の第1電極10に向けて移動し、第1電極10にFABを接触させる。FABが第1電極10に接触するとキャピラリ20は、熱や荷重や超音波発振をFABに付与して第1電極10にFABを圧着する。これにより、第1電極10に密着する1次接合部12が形成される。
【0025】
1次接合部12が第1電極10上に形成されると、キャピラリ20は一定高さまで上昇して第1電極10から離れた後、回路配線基板2の第2電極11の上方位置へ移動する。このとき、必要に応じて特殊な動きをさせてワイヤWに「くせ」付ける動作を行っても良い。
【0026】
そして、第2電極11の上方位置へ移動したキャピラリ20は、第2電極11に向かって降下し、ボンディングワイヤWの外周面を第2電極11に押し付ける(
図2参照)。この時、キャピラリ20は、熱や荷重や超音波発振をボンディングワイヤWの外周面に付与して第2電極11にボンディングワイヤWの外周面を圧着する。
【0027】
そして、2次接合部14が第2電極11に密着固定されると、
図3に示すように、キャピラリ20が上昇して、テール部と呼ばれる一定長さのワイヤWをキャピラリ20の下方に残しつつ、2次接合部14の先端でボンディングワイヤWを切断する。これにより、第2電極11に密着する2次接合部14が形成される(
図4参照)。
【0028】
2次接合部14は、通常、
図2に示すようにキャピラリ20がボンディングワイヤWを第2電極11に押し付けた時に、キャピラリ20の先端に形成された先端面22と第2電極11とで挟まれる部分である。
【0029】
なお、キャピラリ20の先端面22とは、キャピラリ20の先端に設けられたボンディングワイヤWを挿通するホール24と所定の曲率半径を有するアウターラディアス部26との間に形成された平滑な面であり、2次接合時にボンディングワイヤWに対して大きな加工を与える。
【0030】
ワイヤ本体部16は、ボンディングワイヤWにおいて1次接合部12と2次接合部14との間に設けられた部分である。ワイヤ本体部16は、2次接合部14側の端部に設けられた低加工部16aと、低加工部16aと1次接合部12との間に設けられたワイヤ部16bとを備える。低加工部16aは、キャピラリ20のアウターラディアス部26と第2電極11とで挟まれる部分及びアウターラディアス部26の押圧により変形した部分であって、2次接合部14に比べて低い加工を受けた部分である。ワイヤ部16bは、キャピラリ20によってボンディングワイヤWの径方向に押しつぶされていない線状の部分である。
【0031】
そして、2次接合部14を形成し第1電極10と第2電極11とをボンディングワイヤWによって接続した後、第1電極10、第2電極11及びボンディングワイヤWを半導体素子1とともにエポキシ樹脂等の樹脂3によって封止して、
図1に示すような半導体装置Pを得る。
【0032】
なお、上記のような半導体装置Pの製造において、2次接合部14を形成した後、2次接合部14を高温雰囲気に曝し、2次接合部14を加熱する再結晶工程を行っても良い。
【0033】
得られた半導体装置Pでは、ワイヤ本体部16における銅結晶の平均粒径R1と、2次接合部14における銅結晶の平均粒径R2との比率ρ(=R2/R1)が0.8以上になっている。ここで、本明細書における平均粒径は、
図5(a)及び(b)に例示するように、ボンディングワイヤWの2次接合部14近傍の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定される。詳細には、同顕微鏡の画像データ上の測定対象の範囲に任意の直交する2本の直線X及び直線Yを引く。そして、一方の直線Xの長さLXと、他方の直線Yの長さLYと、一方の直線X上にある結晶粒の個数NXと、他方の直線Y上にある結晶粒の個数NYを測定する。そして、一方の直線Xの長さLXを結晶粒の個数NXで除した値(LX/NX)と、他方の直線Yの長さLYを結晶粒の個数NYで除した値(LY/NY)との平均値((LX/NX+LY/NY)/2)を平均粒径とする。
【0034】
(2)ボンディングワイヤW
上記したボンディングワイヤWは、純度99.999質量%以上の銅からなり、不純物として種々の元素を含有してもよい。例えば、リン(P)、硫黄(S)、鉄(Fe)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)及びビスマス(Bi)等を不純物として含有してもよい。ただし、リン、硫黄、鉄及び銀は、耐熱衝撃性への影響が大きいため含有量が制御されている。
【0035】
具体的には、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計を0.05質量ppm未満に抑えることで、荷重や超音波発振等の加工を受けても繊維状の金属組織へ変化しにくくなる。リン、硫黄及び鉄の含有量の合計を0.03質量ppm未満に抑えることでその作用がより顕著となる。
【0036】
また、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計を0.3ppm未満に抑えることで、比較的低温(例えば、200~300℃)の温度雰囲気において、金属組織が再結晶したり粒成長したりしやすくなる。そのため、加工を受けて繊維状に変化した金属組織を比較的低温の加熱雰囲気に曝すことで銅結晶の粒径を大きくすることができる。リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計を0.25ppm未満に抑えることでその作用がより顕著となる。
【0037】
よって、本実施形態のボンディングワイヤWは、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計が0.05質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が0.30質量ppm未満である、純度が99.999質量%以上の銅からなることが好ましい。より好ましくは、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計を0.03質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計を0.25ppm未満である。
【0038】
なお、銅、リン、硫黄、鉄、銀やその他の物質の含有量は、グロー放電質量分析法(Glow Discharge Mass Spectrometry、GDMS)によって測定された含有量である。
【0039】
(3)ボンディングワイヤWの製造方法
次に、第1電極10と第2電極11の接続に用いるボンディングワイヤWの製造方法の一例を説明する。
【0040】
まず、グロー放電質量分析法によるリン、硫黄及び鉄の含有量の合計が0.05質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が0.30質量ppm未満である、純度が99.999質量%以上の高純度銅を作製する。
【0041】
次いで、高純度銅をカーボンルツボ内に入れ、真空溶解連続鋳造炉において真空度1×10-4Pa以下で高周波溶解し、溶湯温度1150℃以上、保持時間10分以上で十分に脱ガスする。その後、不活性ガスで大気圧に戻し、連続鋳造によって直径8mmφの無酸素銅鋳造線材を鋳造する。得られた無酸素銅鋳造線材を所定の直径に達するまで縮径する。必要に応じて伸線加工の途中で軟化熱処理を行っても良い。
【0042】
そして、所定の直径まで伸線加工を行った後、必要に応じてフォーミングガス(水素5%、窒素95%含有するガス)雰囲気下で連続焼きなましを行い、ボンディングワイヤが得られる。
【0043】
なお、最終的なボンディングワイヤWの直径は用途に応じて種々の大きさとしてよい。例えば、ボンディングワイヤWの直径は5μm以上150μm以下とすることができる。
【0044】
(4)効果
上記した本実施形態の半導体装置Pでは、ボンディングワイヤWのワイヤ本体部16における銅結晶の平均粒径R1に対する2次接合部14における銅結晶の平均粒径R2の比率ρが0.8以上であり、大きな加工を受ける2次接合部14と、加工を受けない部分及び低い加工を受けた部分からなるワイヤ本体部16とで銅結晶の粒径の差が小さい。そのため、周囲温度の変化によってボンディングワイヤWに負荷がかかっても、その負荷をワイヤの広い範囲に分散することができ破断を防ぐことができ、耐熱衝撃性を良好にすることができる。
【0045】
また、上記した本実施形態のボンディングワイヤWでは、リン、硫黄及び鉄の含有量が上記のように制御されているため、ボールボンディング法の2次接合時に2次接合部14が大きな加工を受けても金属組織が繊維状に変化しにくくなる。そのため、大きな加工を受ける2次接合部14と、加工を受けない部分及び低い加工を受けた部分からなるワイヤ本体部16との間で銅結晶の粒径の差を小さくすることができる。よって本実施形態のボンディングワイヤWでは、周囲温度の変化によってボンディングワイヤWに負荷がかかっても、その負荷をワイヤの広い範囲に分散することができ破断を防ぐことができる。
【0046】
また、本実施形態のボンディングワイヤWでは、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量が上記のように制御されているため、比較的低温の加熱雰囲気で銅結晶を再結晶させたり粒成長させることができる。そのため、2次接合終了後に半導体素子等に悪影響を及ぼすことのない比較的低温の熱処理によって2次接合部14の金属組織を再結晶させたり粒成長させたりすることができる。これにより、2次接合部14とワイヤ本体部16との境界近傍における銅結晶の粒径の差が小さくなり、周囲温度の変化に起因してボンディングワイヤWが負荷を受けても破断しにくくなる。
【0047】
特に、ボンディングワイヤWで接続された第1電極10及び第2電極11を樹脂3によって封止する場合、本実施形態のボンディングワイヤWは、比較的低温の加熱雰囲気で金属組織を再結晶させたり粒成長させることができるため、封止時に2次接合部14に加わる熱によって、2次接合部14の銅結晶を再結晶させたり粒成長させたりすることができる。つまり、本実施形態のボンディングワイヤWでは、樹脂3による半導体素子1の封止工程と2次接合部14を加熱する再結晶工程とを一度に行うことができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
下記表1に示すようなリン、硫黄及び鉄の含有量の合計と、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が、下記表1に示すように制御された高純度(純度99.9999質量%以上及び純度99.99質量%以上)の銅原料を用い、上記(3)と同様の方法により直径30μmのボンディングワイヤを成形した。その後、水素を5%含有し及び窒素を95%含有するフォーミングガス雰囲気下で連続焼きなましを行い、実施例1~12及び比較例1~10のボンディングワイヤを得た。
【0051】
得られた実施例1~12及び比較例1~10の各ボンディングワイヤを用いて、銀メッキされた銅合金リードフレームとシリコンチップのアルミニウム電極との間をワイヤボンディングした。なお、ワイヤボンディングは、ステージ温度を200℃に設定したワイヤボンダー(K&S社製、IConn)を用いて行った。また、リードフレームは、ワイヤボンディングの前にアルゴン・窒素雰囲気下でプラズマ洗浄を行い、表面を清浄にした。
【0052】
そして、ワイヤボンディングの後、エポキシ樹脂(住友ベークライト製半導体封止用エポキシ樹脂成形材料「スミコン(登録商標)EME」)を用い、モールドプレス金型温度175℃、注入圧力6.8MPa、注入時間20 秒の条件でシリコンチップ及びリードフレームを樹脂封止した。その後、モールド金型内で120 秒キュアしたのち、さらに175℃ オーブン中で6 時間キュアして、実施例1~12及び比較例1~10の各ボンディングワイヤを用いた半導体装置を得た。
【0053】
得られた半導体装置について、(a)熱サイクル試験、(b)ワイヤ本体部における銅結晶の平均粒径と、2次接合部における銅結晶の平均粒径との比率ρを評価した。熱サイクル試験、銅結晶の平均粒径の比率ρの評価方法、は以下のとおりである。
(a)熱サイクル試験
樹脂封止を行った半導体装置を市販の熱サイクル試験装置を用いて評価した。温度履歴は-60℃で30分間保持した後、150℃まで昇温しこの温度で30分間保持する。これを1サイクルとして、1サイクル終了毎にボンディングワイヤWの破断がないかどうか電気的測定を行い、破断した時のサイクル数を計測した。
【0054】
評価方法は、上記熱処理を3000サイクル行ってもボンディングワイヤWの破断が起こらなかった場合を「A」、1000サイクル以上3000サイクル未満で破断が起こった場合を「B」、1000サイクル未満で破断が起こった場合を「D」とした。
(b)銅結晶の平均粒径の比率ρ
得られた半導体装置について、ボンディングワイヤを2次接合部近傍で長手方向(ワイヤが延びる方向)に沿って切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡で観察した。
【0055】
同顕微鏡の画像データ上のワイヤ本体部に任意の直交する2本の直線X1及び直線Y1を引き、直線Xの長さLX1と、直線Y1の長さLY1と、直線X1上にある結晶粒の個数NX1と、直線Y1上にある結晶粒の個数NY1を測定し、これらの測定結果から平均値((LX1/NX1+LY1/NY1)/2)を算出し、この平均値をワイヤ本体部における銅結晶の平均粒径R1とした。
【0056】
また、2次接合部についてもワイヤ本体部と同様、同顕微鏡の画像データ上の2次接合部に任意の直交する2本の直線X2及び直線Y2を引き、直線X2の長さLX2と、直線Y2の長さLY2と、直線X2上にある結晶粒の個数NX2と、直線Y2上にある結晶粒の個数NY2を測定し、これらの測定結果から平均値((LX2/NX2+LY2/NY2)/2)を算出し、この平均値を2次接合部における銅結晶の平均粒径R2とした。
そして、平均粒径R2を平均粒径R1で除して比率ρを算出した。
【0057】
評価方法は、比率ρが0.9以上の場合を「A」、0.9以上0.8未満の場合を「B」、0.8未満を「D」とした。
【0058】
【表1】
結果は、表1に示すとおりであり、実施例1~12のボンディングワイヤを用いた半導体装置では、熱サイクル試験の評価が「A」又は「B」、銅結晶の平均粒径の評価が「A」又は「B」となり、耐熱衝撃性に優れていることが分かった。
【0059】
また、
図5(a)及び(b)に示すように、実施例1では、キャピラリ20によって大きな加工を受ける2次接合部14の銅結晶の平均粒径R2が2次接合部14の厚みの30%以上となり、大きな銅結晶が2次接合部14に存在することが観察された。なお、2次接合部の厚みとは、2次接合部全体の厚みの平均値である。他の実施例2~12においても実施例1と同様、2次接合部14の銅結晶が2次接合部14の厚みの30%以上となり、大きな銅結晶が2次接合部14に存在することが観察された。
【0060】
特に、リン、硫黄及び鉄の含有量の合計が0.03質量ppm未満であり、リン、硫黄、鉄及び銀の含有量の合計が0.25質量ppm未満である実施例1,3,4,7,11及び12のボンディングワイヤを用いた半導体装置では、熱サイクル試験が「A」、銅結晶の平均粒径の比率ρが0.9以上となり、耐熱衝撃性により一層優れていることが分かった。
【0061】
一方、比較例1~10ではいずれも、熱サイクル試験が「D」、銅結晶の平均粒径の比率ρが0.8未満となり、実施例1~12のボンディングワイヤに比べて耐熱衝撃性に劣っていた。
【0062】
また、
図6(a)及び(b)に示すように、比較例1では、2次接合部14の銅結晶の平均粒径R2が2次接合部14の厚みの30%未満となり、粒径の小さい繊維状の銅結晶が2次接合部14に存在することが観察された。他の比較例2~10においても比較例1と同様、2次接合部14の銅結晶が2次接合部14の厚みの30%未満となり、粒径の小さい繊維状の銅結晶が2次接合部14に存在することが観察された。
【符号の説明】
【0063】
P…半導体装置、1…半導体素子、2…回路配線基板、3…樹脂、10…第1電極、11…第2電極、12…1次接合部、14…2次接合部、16…ワイヤ本体部、16a…低加工部、16b…ワイヤ部、20…キャピラリ、22…先端面、24…ホール、26…アウターラディアス部