(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】アルカリ金属のヘキサシアノメタレートまたはオクタシアノメタレートに基づく固体ナノ複合材料、その調製方法、及び金属カチオンの抽出方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/02 20060101AFI20220927BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20220927BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220927BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
B01J20/02 A
G21F9/12 501B
G21F9/12 501J
B01J20/30
C02F1/28 B
(21)【出願番号】P 2019513070
(86)(22)【出願日】2017-09-06
(86)【国際出願番号】 FR2017052356
(87)【国際公開番号】W WO2018046844
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-19
(32)【優先日】2016-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】522120004
【氏名又は名称】オラノ・リサイクレイジ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アニエス・グランジャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・フレミー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・シャルロット
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・バール
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/038206(WO,A1)
【文献】特開2014-016311(JP,A)
【文献】特表2017-530115(JP,A)
【文献】特表2012-527344(JP,A)
【文献】特開昭56-111041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0231598(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101041123(CN,A)
【文献】Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry,Vol.268, No.2,2006年,p.231-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
G21F 9/00-9/36
C02F 1/28
C01C 1/00-3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体無機多孔質支持体の少なくとも1つの表面に結合した、式[Alk
+
x]M
n+[M’(CN)
m]
z-[式中、Alkはアルカリ金属であり、xは1または2であり、Mは遷移金属であり、nは2または3であり、M’は遷移金属であり、mは6または8であり、zは3または4である]を有する、アルカリ金属と遷移金属とのヘキサシアノメタレートまたはオクタシアノメタレートのナノ粒子を含む固体ナノ複合材料であって、前記ナノ粒子は、固体支持体の少なくとも1つの前記表面に吸着によって結合しており、前記表面は塩基性表面である、固体ナノ複合材料。
【請求項2】
前記材料が、前記固体支持体の質量に対して1から20質量%のナノ粒子含有量を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
M
n+が、Fe
2+、Ni
2+、Fe
3+、Co
2+、Cu
2+、またはZn
2+である、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
M’がFe
2+またはFe
3+またはCo
3+であり、mが6であるか、あるいはまた、M’がMo
5+であり、mが8である、請求項1または2に記載の材料。
【請求項5】
AlkがLi、Na、またはKである、請求項1から4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
[M’(CN)
m]
z-が、[Fe(CN)
6]
3-、[Fe(CN)
6]
4-、[Co(CN)
6]
3-、または[Mo(CN)
8]
3-である、請求項1から5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
前記M
n+カチオンがNi
2+、Cu
2+、Fe
2+、またはFe
3+カチオンであり、[M’(CN)
m]
z-アニオンが[Fe(CN)
6]
3-または[Fe(CN)
6]
4-アニオンである、請求項1から6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
前記M
n+カチオンがFe
3+カチオンであり、[M’(CN)
m]
z-アニオンが[Mo(CN)
8]
3-アニオンである、請求項1から
6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
前記M
n+カチオンがCo
2+またはNi
2+カチオンであり、[M’(CN)
m]
z-アニオンが[Co(CN)
6]
3-アニオンである、請求項1から
6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
前記ナノ粒子が、式K[Cu
IIFe
III(CN)
6]またはK
2[Cu
IIFe
II(CN)
6]またはK[Ni
IIFe
III(CN)
6]またはK
2[Ni
IIFe
II(CN)
6]を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
前記ナノ粒子が球体または回転楕円体の形態を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
前記ナノ粒子が3nmから30nmのサイズを有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の材料。
【請求項13】
前記支持体が、金属酸化物及びこれらの混合物;半金属酸化物及びこれらの混合物;金属及び/または半金属の混合酸化物;金属アルミノシリケート;金属シリケート及びこれらの混合物;金属チタン酸化物、半金属チタン酸化物、及びこれらの混合物;金属カーバイド;半金属カーバイド、及びこれらの混合物;金属酸化物及
び半金属酸化物の混合物、及び/または金属及び/または半金属の混合酸化物の混合物;ガラス;炭素;から選択される材料;並びに前記材料のうち二つ以上の材料を含む複合材料を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の材料。
【請求項14】
前記支持体が、粒子;膜;フェルト;及びモノリスから選択される形態である、請求項1から13のいずれか一項に記載の材料。
【請求項15】
前記支持体が、0.5mmから1mmの粒径を有する粒子からなる粉末の形態である、請求項14に記載の材料。
【請求項16】
前記支持体が、5から500m
2/gのBET比表面積を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の材料。
【請求項17】
以下の連続する工程が行われる、固体ナノ複合材料の製造方法であって:
a)固体支持体を提供する工程;
b)固体支持体の少なくとも1つの表面を塩基性にする工程;
c)少なくとも1つの表面を塩基性にした固体支持体を、M
n+イオンを含有する溶液と接触させ、次いで、得られた固体支持体を水で1回または数回洗浄し、乾燥させるかまたは乾燥させない工程;
d)工程c)の終わりに得られた固体支持体を、[M’(CN)
m]
z-の塩及びアルカリ金属Alkの塩を含む溶液と接触させ、次いでこうして得られた固体支持体を水で1回または数回洗浄し、乾燥させるかまたは乾燥させない工程;
e)工程c)からd)を繰り返すかまたは繰り返さない工程;
f)工程c)からd)が当該方法の最後の工程である場合、得られた固体支持体を工程c)の間に水で1回または数回洗浄し、こうして得られた固体支持体を工程d)の間に1回または数回洗浄し、乾燥させる工程;
が行われる、請求項1から16のいずれか一項に規定の固体ナノ複合材料の製造方法。
【請求項18】
工程b)の間に、固体支持体の少なくとも1つの表面を、少なくとも1つの塩基性溶液と、前記表面と接触している塩基性溶液のpH値が安定化され、所望の塩基性値で安定に保たれるまで、1回または数回接触させ、これによって、塩基性とされた少なくとも1つの表面を有する固体支持体が得られ、その後前記固体支持体を塩基性溶液から分離し、塩基性とされた少なくとも1つの表面を有する固体支持体を乾燥させるかまたは乾燥させない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(M’(CN)
m)
z-の塩及びアルカリ金属Alkの塩を含む前記溶液が、水性溶液である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
工程c)及びd)が静的モードまたはバッチ方式で、あるいは動的モードで実施される、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程c)及びd)が1から10回繰り返される、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの金属カチオンを、これを含む液体媒体から抽出する方法であって、前記液体媒体が請求項1から16のいずれか一項に記載の材料と接触して配置される方法。
【請求項23】
前記液体媒体が、水性液体媒体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記液体媒体が、放射性核種を含有する液体媒体である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記液体媒体が、前記金属カチオンに加えて塩を含有する水性溶液である、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記金属カチオンが、0.1ピコグラムから100mg/Lの濃度で含まれる、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記金属カチオンが、Cs、Co、Ag、Ru、Fe、及びTl、並びにこれらの同位体から選択される元素のカチオンである、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記同位体が、放射性同位体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記カチオンが
134Csまたは
137Csのカチオンである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記液体媒体が、金属カチオンとして
134Csまたは
137Csのカチオンを含み、さらに塩を含む水性溶液である、請求項22から29のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属のヘキサまたはオクタシアノメタレートをベースとする固体ナノ複合材料に関する。
【0002】
これらのアルカリ金属のヘキサ及びオクタシアノメタレートは、プルシアンブルーアナログまたはPBAと呼称することができる。
【0003】
より具体的には、本発明は、金属カチオン、アルカリカチオン、及びヘキサまたはオクタシアノメタレートアニオン、特にヘキサまたはオクタシアノ鉄酸塩アニオンを含むナノ粒子を含む固体ナノ複合材料に関し、前記ナノ粒子は固体支持体の少なくとも1つの表面に吸着されている。
【0004】
本発明によるアルカリ金属のヘキサまたはオクタシアノメタレートをベースとするナノ複合固体材料は、有機配位子を含まず、したがって純粋に無機または無機-無機材料であるとみなすことができる。
【0005】
本発明はまた、この材料を調製するための方法に関する。この方法は、固体支持体を、プルシアンブルーアナログPBAのナノ粒子で官能化するための方法として定義することができる。
【0006】
本発明はまた、金属カチオン、特に、液体、例えば、溶液、特に水性溶液中に含まれる放射性金属カチオンを、前記材料を利用して分離する方法に関する。
【0007】
例えば、本発明による材料は、水性溶液中に含まれる放射性セシウムの選択的吸着、抽出に使用することができる。
【0008】
本発明の技術分野は、一般に、鉱物定着剤(固定化剤)の分野として定義することができる。
【背景技術】
【0009】
原子力施設、例えば、原子炉、使用済み核燃料再処理施設、実験室、研究センター、及び廃液処理施設は、放射性廃液、特に液体放射性廃液を発生させる。
【0010】
特に、採鉱から使用済み施設の解体までの、核燃料サイクルにおいて行われる様々な作業は、放射性廃液、特に液体放射性廃液を発生させる。
【0011】
かなりの量のこれらの廃液は、環境中に放出される前に処理及び汚染除去されねばならない。
【0012】
これらの排液中に含まれ、従って除去されねばならない汚染物質は、主に、本質的に溶液中の金属カチオンの形態で含まれる固体粒子及び/または放射性元素である。
【0013】
現在のところ、これらの廃液中に含まれる放射性元素の選択的抽出、固定、固定化は、一般的に、有機イオン交換樹脂を用いて行われる。
【0014】
前記樹脂は、少なくとも2つの欠点を有する。第一には、これらは比較的低い選択性を有し、第二には、抽出された放射性元素の照射性のために、後者が、放射線分解の影響下で水素を放出しうる貯蔵条件下で、樹脂の劣化を引き起こす場合がある。
【0015】
鉱物固定、固定化剤が開発され、その後複合固定、固定化剤、特にプルシアンブルーアナログをベースとするものが開発されたことは、特に有機イオン交換樹脂の欠点を克服するためである。
【0016】
したがって、セシウム又は放射性遷移金属、例えば60Coを含有する廃液を処理するために、多数のプルシアンブルーアナログをベースとした材料が、文献で提案されており、市販されている。
【0017】
これに関して、国際公開第2010/133689号[1]に記載された先行技術を参照することができる。
【0018】
この文献には、無機鉱物基質を有する複合材料が、基質内での共沈による合成、ゾルゲル合成による合成、多孔質無機支持体中での直接合成による合成、または他の経路による合成によって調製できる旨が詳説されている。
【0019】
文献[1]に挙げられている文献の中で、特に、PBAのナノ粒子が直接経路で無機支持体に挿入される合成方法を提案する、Mimuraらによる文献[2]を挙げることができる。得られた材料は、カラム法によるCs除染に使用される。
【0020】
前記合成方法は、Ni(NO3)2、次いでK4Fe(CN)6の溶液を用いた多孔質シリカゲルの連続含浸を含む。
【0021】
第一に、基質の事前の調製がないため、材料内のナノ粒子の量が少ない。第二に、第二の含浸がカリウム塩の不在下で行われるため、ナノ粒子はその構造中にごく少量のカリウムを含むのみであり、より低い選択性(約104ml/gのKdを有する)、Cs抽出時の遷移金属の放出、及び速度論の低下をもたらし:平衡に達するのに2日を要する。
【0022】
基質内での共沈によるこの種の合成では、最終生成物の組成はうまく制御されておらず、その特性はほとんど再現不能である。共沈は、堆積したヘキサシアノ鉄酸塩の量に対する制御不良をもたらし、ヘキサシアノ鉄酸塩固定、固定化剤は支持体に弱く結合している。したがって、固定、固定化剤は、汚染除去工程で容易に分離しうる。この合成も大量のヘキサシアノ鉄酸塩を体系的に使用するが、これは発生する廃棄物の処理及び調整に有害である。
【0023】
この種のハイブリッド無機-無機材料の別の例は、文献[3]に提案され、市販されている。
【0024】
この文献[3]では、合成方法の説明は簡潔であるが、得られる材料は、非化学量論的ニッケル-ヘキサシアノ鉄酸カリウムの存在下で調製された高密度水酸化ジルコニウムに相当する。
【0025】
これらの材料に多孔性が欠けるために、極めて遅い交換速度論(数日後に平衡に達する)がもたらされ、このことは固定床法についての問題を提起する。さらに、粒子の化学的性質は非化学量論的であるので、ニッケルはCs抽出時に放出される。最後に、この文書の合成方法は他の基質、例えば、異なるサイズの粒子または濾過膜に置き換えることはできない。
【0026】
より正確には、文献[3]は、水酸化ジルコニウムゲル内でのニッケルヘキサシアノ鉄酸カリウムの直接合成に関するものと思われる。この論文の著者によれば、水酸化ジルコニウムは、塩基性溶液、すなわち12より高いpHを有するものへの応用のために選択された。得られる材料は「Thermoxid-35」と呼称され、およそ33質量%のZrO2、38質量%の水、及び28質量%のニッケルヘキサシアノ鉄酸カリウムを含む、直径0.4から1mmの顆粒の形態である。
【0027】
この材料は、約6nmの細孔径について約0.35から0.4cm3/gの細孔容積を有する多孔性を有する。この複合材料を、Csの吸着について、6.2から9.6の範囲のpHを有する溶液中0.01から2.0mmol/Lの範囲の濃度で、1mol/LのNaClの存在下で試験した。全ての場合において、1.0×104cm3/gより高いKd値が得られた。
【0028】
共沈による従来の合成と同様に、ゾルゲル経路によるインサイチュでの共沈による複合材料の調製もまた、最大30%に達する大量のヘキサシアノ鉄酸塩を使用するが、無視できない量の水も使用する。このことは、発生した廃棄物の処理及び調整に関する問題を引き起こしうる。これらの大量の水は、貯蔵中に放射線分解による水素の放出を引き起こしうる。
【0029】
さらに、実験室試験により、平衡に達するまでに約300時間を要するため、「Thermoxid」への収着速度は非常に遅いことが判明した。
【0030】
最後に、これらのヘキサシアノ鉄酸塩に富む化合物の任意のガラス化は、有毒な青酸の放出をもたらし得る。これは、固定された固定化セシウムの揮発を促進し、よって除染が実施不能となりうる。
【0031】
より最近では、Chaudhuryらが、文献[4]において、プルシアンブルーアナログ、ここではフェロシアン化銅で膜を官能化するための単純な含浸法を提案した。
【0032】
この目的のために、前記膜を、一方はCuSO4の水性溶液を含み、他方はK4Fe(CN6)の水性溶液を含む、2つの連結されていない透過区画に曝露する。これらの溶液が膜を通過すると、膜の多孔内に非化学量論的フェロシアン化銅の急速な沈降が起こる。配位子も有機溶媒も使用しないこの単純な合成経路は、高いKd値(約105ml/g)の達成を可能にするが、構造中にカリウムイオンを有するフェロシアン化物を得ることは可能にせず、このため比較的遅い反応速度(平衡に達するのに数時間)をもたらす。さらに、フェロシアン化物の構造に化学量論が存在しないことは、九分通り溶液中のCuの放出をもたらす。最後に、この経路は膜にのみ適用することができ、固定床処理方法に使用可能な粒子には適用することができない。
【0033】
したがって、既に挙げた国際公開第2010/133689号[1]は、文献[2]、[3]、及び[4]に記載の材料の欠点を克服するという課題を有していた。
【0034】
この文献は、PBAナノ粒子を含有する固体材料及びその製造方法を記載している。
【0035】
より具体的には、文献、国際公開第2010/133689号[1]は、Mn+カチオン(ここで、Mは遷移金属であり、nは2または3である);及び[M’(CN)m]x-アニオン(ここで、M’は遷移金属であり、xは3または4であり、mは6または8である)を含むCN配位子を有する金属配位ポリマーのナノ粒子を含む固体ナノ複合材料を記載しており、配位ポリマーの前記Mn+カチオンは、有機金属結合で多孔質ガラス支持体の多孔内に化学的に付着した有機グラフトの有機基に結合している。
【0036】
文献、国際公開第2010/133689号[1]はまた、前記固体ナノ複合材料の調製方法に関し、ここでは以下の連続工程:
a)多孔質ガラス製の支持体を準備する工程;
b)有機グラフトを多孔質ガラス支持体の細孔内に化学的に付着させる工程;
c)細孔内に有機グラフトが結合している多孔質ガラス支持体を、Mn+イオンを含有する溶液と接触させ、かくして得られた支持体を1回または数回洗浄しそして乾燥させる工程;
d)工程c)の終わりに得られた多孔質ガラス支持体を、[M’(CN)m]x-錯体の溶液と接触させ、かくして得られた支持体を1回または数回洗浄して乾燥させる工程;
e)工程d)の終わりに得られた多孔質ガラス支持体を1回または数回洗浄し、次いで乾燥させる工程;
f)場合により、工程c)からe)を繰り返す工程;
が実施される。
【0037】
この文献の固体ナノ複合材料及びその調製方法は、多数の欠点を有する。
【0038】
この文献の固体ナノ複合材料の支持体は、多孔質ガラス支持体、より正確には、SiO2-Na2O-B2O3状態図の不混和領域内にある組成を有する固体ホウケイ酸ナトリウムガラスのホウ酸塩相の選択的化学攻撃によって調製された非常に特殊な多孔質ガラス支持体に限定される。
【0039】
この文献に記載されている調製方法は、非常に特定の支持体を含む特定の材料の調製を可能にするのみであり、いかなる状況下でも、他の支持体を含む材料の調製に置き換えることはできない。
【0040】
さらに、この文献では、材料を調製するために使用される方法のため、ヘキサシアノメタレートのナノ粒子、例えば、基質に結合したヘキサシアノ鉄酸塩は、その構造内にアルカリ金属イオンを全く含まない。
【0041】
しかしながら、その構造中にアルカリ金属を含有するヘキサシアノ鉄酸塩が、例えばCsのより優れた抽出能力を有するのみならず、結果的にヘキサシアノ鉄酸塩の構造に含まれる遷移金属の放出をもたらさないことが判明し、また当業者には周知である。
【0042】
アルカリ金属を含有するヘキサシアノ鉄酸塩に関しては、Csの吸着はアルカリ金属、例えばカリウムのイオン交換により行われるが、ヘキサシアノ鉄酸塩がアルカリ金属なしで使用される場合には、Csの吸着はヘキサシアノ鉄酸塩の構造内に含まれる遷移金属とのイオン交換によって行われ、結果として遷移金属の放出をもたらす。
【0043】
処分基準に関する問題に関して、アルカリ金属、例えばカリウムの放出は、遷移金属、例えばCoまたはNiの放出よりはるかに好ましい。
【0044】
最後に、文献、国際公開第2010/133689号[1]に記載の合成方法は、比較的複雑であり、一般に、有機溶媒、例えばメタノール及び制御された環境の使用を要する。
【0045】
したがって、この合成方法は、困難を伴わずに工業的規模で実施することはできない。
【0046】
文献、国際公開2016/038206号[5]の目的は、文献[1]の方法の欠点を克服することである。
【0047】
したがって、この文献は、構造のアルカリ金属と抽出されるイオンとの間の純粋なイオン交換体として作用する、構造のケージ内にアルカリ金属を含有するPBAナノ粒子を含む固体ナノ複合材料を調製する方法を提案する。
【0048】
換言すれば、PBAナノ粒子は、抽出しようとする溶液中のカチオンと交換するアルカリ金属カチオンを、その構造中に含有する。
【0049】
より具体的には、文献[5]は、CN配位子を有する金属配位ポリマーのナノ粒子を含む固体ナノ複合材料を調製する方法に関し、前記ナノ粒子は、式[Alk+
x]Mn+[M’(CN)m]z-(ここで、Alkはアルカリ金属であり、xは1または2であり、Mは遷移金属であり、nは2または3であり、M’は遷移金属であり、mは6または8であり、zは3または4であり、配位ポリマーの前記Mn+カチオンは有機金属または配位結合を介して有機グラフトのR2有機基に結合しており、前記有機グラフトはまた、前記グラフトのR1基と固体支持体の少なくとも1つの表面との反応により、前記表面に好ましくは共有結合により化学結合している)を満たし、この方法においては以下の連続工程:
a)固体支持体を提供する工程;
b)有機グラフトが固体支持体の表面に化学的に付着する工程;
c)その表面に有機グラフトが結合した固体支持体を、Mn2+イオンを含有する溶液と接触させ、かくして得られたグラフト化固体支持体を1回または数回洗浄し、任意に乾燥させる工程;
d)工程c)の終わりに得られたグラフト化固体支持体を、[M’(CN)m]z-の錯体または塩、例えば[Alkz][M’(CN)m]の塩、及びアルカリ金属Alkを含有する溶液と接触させ、かくして得られた固体支持体を1回または数回洗浄し、任意に乾燥させる工程;
e)工程c)からd)を任意に繰り返す工程;
f)工程c)及びd)が当該方法の最後の工程である場合、得られたグラフト化固体支持体を工程c)の間に水で1回または数回洗浄して乾燥させ、かくして得られた固体支持体を工程d)の間に1回または数回洗浄して乾燥させる工程;
が実施される。
【0050】
したがって、この文献の方法で得られた材料では、CN配位子を有する金属配位ポリマーの「カチオン交換」ナノ粒子が、有機グラフトによって支持体に結合していることに注目される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【文献】国際公開第2010/133689号
【文献】国際公開第2016/038206号
【非特許文献】
【0052】
【文献】H. Mimura, M. Kimura, K. Akiba, Y. Onodera, “Selective removal of cesium from highly concentrated sodium nitrate neutral solutions by potassium nickel hexacyanoferrate(II)-loaded silica gels”, solvent extraction and ion exchange, 17(2), 403-417, (1999)
【文献】L. Sharigyn, A. Muromskiy, M. Kalyagina, S. Borovkov, “A granular inorganic cation-exchanger selective to cesium”, J. Nuclear Science and Technology, 44 (5), 767-773, (2007)
【文献】Sanhita Chaudhury, A.K. Pandey; A. Goswami, “Copper ferrocyanide loaded track etched membrane an effective cesium adsorbent”, J. Radioanal. Nucl. Chem 204 (2015) 697-703
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0053】
「カチオン交換」ナノ粒子と支持体との間のこの有機グラフトの存在は、第一に有機溶媒、第二に有機種(すなわちグラフト)に頼る、高温で行われる合成工程を意味する。工業的規模での製造のための有機溶媒の使用は、環境への影響を低減し、職場での安全を確実にするための努力において、ますます禁止されつつある(「ATEXリスク」)。
【0054】
特定の有機グラフトの使用はまた、製造コストの増加を招き、費用対効果を得ることを困難にする。
【0055】
最後に、有機グラフトの存在は、カチオン、特に標的放射性核種カチオン(RN)を含む最終廃棄物の管理のための処分経路の選択に関する、難しい問題のままである。
【0056】
実際、この廃棄物中の有機化合物が存在により、放射線分解ガス、例えば水素が生成され、そのため、貯蔵条件下での廃棄物の管理がより困難になる可能性がある。
【0057】
したがって、前述の観点から、アルカリ金属及び遷移金属のヘキサシアノメタレートまたはオクタシアノメタレートのナノ粒子を含む固体ナノ複合物材料が必要とされ、これは特に文献[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]、とりわけ文献[5]に記載のような先行技術の材料の不利益、制限、及び欠陥を有するが、これらの文献の材料によって引き起こされる上述の問題を解決する。
【0058】
汚染物質、例えば放射性カチオンの分離のための材料の使用後に得られる最終廃棄物の管理の問題を解決し、且つ生産コストを低減する、グラフト、配位子を含まない材料が求められている。
【0059】
この材料は、迅速な抽出速度論を有し、すなわち平衡に達するまでに数分であって、固定床で最適な使用が可能でなければならない。
【0060】
前記材料内のナノ粒子の量は多くなければならない。
【0061】
ナノ粒子は、構造のアルカリカチオンと抽出しようとするカチオンとの間の純粋なイオン交換体として作用するために、構造のケージ中にアルカリカチオンを含有するPBAナノ粒子でなければならない。材料と汚染物質との間の交換反応は、ナノ粒子の構造の他の構成金属に影響を与えることなく、アルカリカチオンのみを含む必要がある。
【0062】
上述の特性を有し、以上に列挙した要件を満たす材料の調製を可能にする方法もまた必要とされている。
【0063】
さらに、この方法は次の要件:
- 形態及び組成に関係なく、あらゆる種類の支持体に実装できなければならない;
- 環境への影響を制限し、工業生産に内在するリスクを低減し、且つ可能な限り生産コストを削減するために、有機溶媒または制御雰囲気を使用しない工程、特に合成工程を適用しなければならない;
- 単純で、信頼性があり、再現性があり、且つ限られた数の工程を含まねばならない;
- 製造時間、ひいては費用を削減するために短い合成工程を含まねばならない;
を満たす必要がある。
【0064】
本発明の目的は、とりわけこれらの必要性及びこれらの要件を満たす、こうした方法及びこうした材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0065】
本発明によれば、この目的及びさらに他の目的は、式[Alk+
x]Mn+[M’(CN)m]z-[式中、Alkはアルカリ金属であり、xは1または2であり、Mは遷移金属であり、nは2または3であり、M’は遷移金属であり、mは6または8であり、zは3または4である]を有する、アルカリ金属と遷移金属とのヘキサシアノメタレートまたはオクタシアノメタレートのナノ粒子を含む固体ナノ複合材料であって、固体無機多孔質支持体の少なくとも1つの表面に結合し、前記ナノ粒子は、固体支持体の少なくとも1つの前記表面に吸着によって結合しており、前記表面は塩基性(塩基性とされた)表面である、固体ナノ複合材料によって満たされる。
【0066】
固体無機支持体は多孔質であり、壁によって画定される孔を含み、またナノ粒子は、前記壁の塩基性内側表面に、吸着によって(吸着を介して)付着する。
【0067】
「孔の内側に付着する」とは、一般的に「該孔を画定するチャネルの壁の内側表面に付着する」ことを意味する。
【0068】
「少なくとも1つの塩基性表面」とは、孔を画定するチャネルの壁の内側表面を含む、(塩基性溶液に)接触可能な支持体の大部分、好ましくは全ての表面が塩基性であるか、またはむし塩基性とされていることを意味する。
【0069】
前記表面が塩基性である(塩基性にされている)か否かを決定するために、固体無機支持体の表面を単に適切な色指示薬、特に塩基性pH範囲に特異的な色指示薬(しかるに塩基性pH範囲内に規定の特定色を有する)、例えばフェノールフタレインと接触させ、この接触の後に得られる表面の色を、例えば目視により観察することができる。
【0070】
フェノールフタレインは、9から10のpH範囲でピンク色であり、そして10より高いpHでは
紫色であることが想起される。
【0071】
色指示薬と接触させた後に得られる表面の色が、塩基性pH範囲内の指示薬の既定の特定色、または既定の特定色の1つである場合、固体無機支持体の表面は効果的に実際に塩基性であるか、効果的に実際に塩基性とされたとみなすことができる。
【0072】
適切な1つまたは複数の色指示薬を使用して、どのような特定の塩基性pH範囲に固体無機支持体の表面が含まれるかを決定することも可能である。このことは、固体支持体の表面が塩基性であり、特定の塩基性度が規定の特定pH範囲内にあることが望ましい場合には、特に有利である。
【0073】
例えば、固体無機支持体の表面がpH9から10の塩基性であることが望ましい場合は、この表面は塩基性溶液で処理されて、この表面がフェノールフタレインと接触した際には、この表面がピンク色(pH9の領域ではむしろ淡いピンク色、またはpH10の領域ではむしろ濃いピンク色)を示すこととなり、固体無機支持体の表面が10より高いpHを有する塩基性であることが望ましい場合、この表面は塩基性溶液で処理されて、この表面がフェノールフタレインと接触した際には、この表面が紫色を示し、pHが高いほど濃く鮮明な色となる。
【0074】
本発明によれば、固体支持体の表面は、特にこの表面を少なくとも1つの塩基性溶液、好ましくは少なくとも1つの水性塩基性溶液と、攪拌下で、前記表面と接触したこの塩基性溶液のpHが、設定された既定の望ましいpH値で安定し、7より高い値、好ましくは7から10の塩基性値で安定に維持されるまで接触させることによって、塩基性とすることができる。
【0075】
この接触は、一回の操作で、一回または数回、数回の連続した接触操作で行うことができ、これらの連続した接触操作中に使用される塩基性溶液は、同一のpH値または異なるpH値、例えば増大するpH値を有する。
【0076】
接触は、一般的に周囲温度(すなわち一般的に15℃から30℃、好ましくは20℃から25℃)で、一般的には加熱せずに周囲圧で、圧力をかけずに行われる。
【0077】
安定したpHとは、pHの値が数分の間、例えば10分のオーダーの時間に亘って安定に維持されることを意味する。
【0078】
この塩基性溶液は、一般的に、7より高い、好ましくは9以上、好ましくは10以上のpHの、無機塩基の水性塩基性溶液、好ましくはNaOHまたはKOH、より好ましくはKOHの水性塩基性溶液であり、例えば、この水性塩基性溶液、例えば、KOHの水性塩基性溶液は、9、10、または14のpHを有してよい。特に、前記水性塩基性溶液は、KOHの水性塩基性溶液であり、その場合、支持体は、好ましくはシリカ製であってよい。
【0079】
無機鉱物多孔質支持体の塩基性(塩基性とされた)表面は、無機鉱物表面のままである。この表面が、塩基性溶液と支持体の無機材料との間(例えば無機塩基、例えばKOHとこの無機材料との間、特にKOHとシリカとの間)に表面上で(表面で)起こる反応によって塩基性になるという事実とは別に、その組成は、他のいかなる根本的な変性も経ず、またこの表面の外形、形態、幾何学は変更されない。
【0080】
本発明によれば、無機支持体の表面は、分子、特に有機のグラフトの支持体の表面へのグラフト化によって塩基性とされるのではない。塩基性とされた表面は無機のままであり、これは塩基性にされたという事実によって根本的には変性されず、これを塩基性とする処理の後にもいかなる有機分子、グラフトまたは他の添加元素も含まない。
【0081】
換言すれば、無機支持体の表面の塩基性度は、特に水性塩基性溶液、例えばKOH溶液との接触後の、支持体を構成する無機鉱物材料、例えばシリカに固有の塩基性度であって、この無機材料に付着、グラフト化した、特に有機の元素、分子による塩基性度ではない。
【0082】
遊離には、ナノ粒子は均一且つ均質に多孔中に分布する。
【0083】
したがって、上記式中、Alk+は、アルカリ金属の一価カチオン、例えば、Li、Na、またはKを表し、Kより好ましい。
【0084】
上記の式は単純な方式で書くことができる:[Alkx]M[M’(CN)m](ここで、Mは酸化状態2または3であり、且つAlkは酸化状態1である)。
【0085】
前記ナノ粒子はまた、任意に「ナノ結晶」と呼称される。
【0086】
本発明による材料は、従来技術に代表されるように、特に、上で引用した従来技術文献によって、記載または示唆されたことのない特徴の組み合わせを含む。
【0087】
第1の特徴によれば、本発明による材料のナノ粒子は、化学量論的化合物[Alk+
x]Mn+[M’(CN)m]zである特定の化合物のナノ粒子であり、文献上一致して確認されているが、例えば式AlkxM1-x[MIIM’III(CN)6];AlkxM1-x[MIIIM’II(CN)6];Alk2xM1-x[MIIM’II(CN)6];AlkxM1-x[MIIM’’V(CN)8](xが厳密に1より小さい)の非化学量論的化合物は、この合成が、以下に記載の本発明の方法のように、アルカリ金属の塩、例えば、カリウム塩のさらなる添加なしに実施される場合に得られる。
【0088】
その構造中にアルカリ金属を含有する本発明による方法によって製造された材料は、例えばCsの、より良好な抽出能力を有する。
【0089】
さらに、本発明による方法によって調製された材料では、例えばセシウムの抽出時のイオン交換は、アルカリ金属、例えばカリウムとのみ起こり、ヘキサシアノ鉄酸塩の構造に含まれる金属MまたはM’の放出は皆無である。遷移金属ではなくアルカリ金属、例えばカリウムを放出することは、特に廃棄物処理基準に鑑みた観点からすると格段に有利である。
【0090】
換言すれば、本発明による材料は、その多孔内に、その構造のケージ内にアルカリ金属カチオンを含有するPBA粒子を有する。このため、このPBAは、前記構造のアルカリ金属カチオンと抽出しようとする汚染カチオン、例えばセシウムカチオンとの間の純粋なイオン交換体として作用する。材料と汚染カチオンとの間の交換反応は、ナノ粒子の構造の他の構成金属に影響を与えることなく、アルカリ金属カチオンのみを含む。
【0091】
第2の特徴によれば、本発明による材料は、塩基性にされた塩基性表面を有する固体支持体を含むが、先行技術の材料、例えば文献[2]、[3]、及び[4]に記載の材料においては、基質はナノ粒子を結合させる前にいかなる予備調製も受けず、とりわけ支持体が塩基性でない。
【0092】
驚くべきことに大量のナノ粒子が支持体に付着することを可能にするのは、支持体の表面のこの塩基性の性質である。無機支持体がいかなる予備調製も受けておらず、特に塩基性ではない、文献[2]、[3]及び[4]の材料では、支持体に結合したナノ粒子の量は少ない。
【0093】
換言すれば、塩基性pHでの前処理により、多孔質支持体中により多量のナノ粒子の組み込みが可能になる。ナノ粒子のサイズは孔の直径によって決定され、したがってナノ粒子は孔内でブロックされる。ナノ粒子の付着は機械的である。
【0094】
したがって、本発明による材料の第3の特徴によれば、ナノ粒子は、固体の無機多孔質支持体の細孔内での吸着により付着している。
【0095】
したがって、本発明による材料では、ナノ粒子は有機配位子グラフトを介して無機支持体に結合しているのではない。
【0096】
これが、本発明による材料と文献[5]の材料との間の本質的な相違である。この有機グラフトの存在による文献[5]の材料の欠点は、したがって排除される。
【0097】
したがって、本発明による材料中に有機グラフト配位子が存在しないことは、特に(放射性同位体を含む)最終廃棄物に関する管理上の問題を解決し、製造コストを削減することを可能にする。
【0098】
本発明による材料は、特にグラフトの存在によるその欠点を有することなく、文献[5]の材料の全ての利点を有すると言える。
【0099】
ナノ粒子は、有機配位子を介して無機支持体に結合してはいないが、それでもなお支持体に確実に付着しており、本発明による材料のナノ粒子含有量は高く、文献[5]の材料のそれに匹敵する。
【0100】
以下に見られるように、有機グラフトが存在しないことは、特に文献[5]の方法と比較して、本発明による材料を調製する方法を大幅に単純化する。
【0101】
有利には、本発明による材料のナノ粒子含有量は、固体支持体の質量に対して1質量%から20質量%、好ましくは約10質量%である。
【0102】
本発明による材料の他の特性は、これが迅速な抽出速度論を有し、平衡に達するまでに数分間、例えば5から10分しかかからないことである。これにより、固定床での材料の最適な使用が可能になる。
【0103】
最後に、本発明による材料は、上述の必要性及び要求の全てを満たす。
上記式において、Alkは、Li、Na、またはKであってよく、好ましくはAlkはKである。
有利には、Mn+は、Fe2+、Ni2+、Fe3+、Co2+、Cu2+、またはZn2+であってよい。
有利には、M’はFe2+またはFe3+またはCo3+であり、mは6である。
有利には、M’はMo5+であり、mは8である。
有利には、[M’(CN)m]z-は、[Fe(CN)6]3-、[Fe(CN)6]4-、[Co(CN)6]3-、または[Mo(CN)8]3-であってよい。
【0104】
有利には、Mn+カチオンはNi2+、Cu2+、Fe2+、またはFe3+カチオンであってよく、[M’(CN)m]z-アニオンは[Fe(CN)6]3-または[Fe(CN)6]4-アニオンであってよい。
【0105】
有利には、Mn+カチオンはFe3+カチオンであってよく、[M’(CN)m]z-アニオンは[Mo(CN)8]3-アニオンであってよい。
【0106】
有利には、Mn+カチオンは、Co2+またはNi2+カチオンであってよく、[M’(CN)m]z-アニオンは、[Co(CN)6]3-アニオンであってよい。
【0107】
好ましくは、ナノ粒子は式K[CuIIFeIII(CN)6]またはK2[CuIIFeII(CN)6]またはK[NiIIFeIII(CN)6]またはK2[NiIIFeII(CN)6]を満たす。
【0108】
有利には、ナノ粒子は球または回転楕円体の形態を有してもよい。
ナノ粒子は、一般的に、例えば直径3nmから30nmのサイズを有する。
【0109】
ナノ粒子は、一般的に、支持体全体にわたって均一なサイズ及び形状を有することに留意されたい。
【0110】
有利には、支持体は、金属酸化物、例えば、遷移金属酸化物、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、例えばジルコニア、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化コバルト、及び酸化モリブデン、酸化アルミニウム、例えばアルミナ、酸化ガリウム、及びこれらの混合物;半金属酸化物、例えば、酸化ケイ素、例えばシリカ、酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、及び酸化ヒ素、並びにこれらの混合物;金属及び/または半金属の混合酸化物;金属アルミノシリケート;金属シリケート、例えば、ジルコニウムシリケート、スズシリケート、セリウムシリケート、ムライト型化合物(アルミニウムシリケート)及びコーディエライト型化合物(アルミノフェロマグネシアンシリケート)、及びこれらの混合物;金属チタン酸化物、例えば、チアライト、半金属チタン酸化物、及びこれらの混合物;金属カーバイド;半金属カーバイド、例えばSiC、及びこれらの混合物;金属酸化物及び/または半金属酸化物の混合物、及び/または金属及び/または半金属の混合酸化物の混合物;ガラス、例えばホウケイ酸ガラス;(無機)炭素、例えば、グラファイト、フラーレン、及びメソポーラスカーボン;から選択される材料;並びに前記材料のうち二つ以上の材料を含む複合材料を含むか、好ましくはこれらからなる。
【0111】
支持体は、粒子、例えば、顆粒、ビーズ、繊維、チューブ、例えばカーボンナノチューブ、プレート及びフレーク;膜;フェルト;及びモノリスから選択される形態であってよい。
【0112】
有利には、支持体は、粒子、例えば0.5mmから1mmの粒径を有するビーズからなる粉末の形態である。
【0113】
有利には、支持体は、5から500m2/g、好ましくは50から500m2/g、さらに好ましくは100から200m2/gのBET比表面積を有する。
【0114】
大きな比表面積を有する支持体は、支持体内に挿入されたナノ粒子の量の最適化を可能にする。
【0115】
本発明はさらに、本発明による材料を調製するための方法に関し、ここでは以下の連続する工程:
a)固体支持体を提供する工程;
b)固体支持体の少なくとも1つの表面を塩基性にする工程(好ましくは固体支持体の全表面);
c)少なくとも1つの表面を塩基性にした固体支持体を、溶液、好ましくは、Mn+イオンを含有する水性溶液と接触させ、次いで、得られた固体支持体を水で1回または数回洗浄し、任意に乾燥させる工程;
d)工程c)の終わりに得られた固体支持体を、[M’(CN)m]z-の塩、例えば、式[Alkz][M’(CN)m]の塩、及びアルカリ金属の塩を含む溶液と接触させ、次いでこうして得られた固体支持体を水で1回または数回洗浄し、任意に乾燥させる工程;
e)工程c)からd)を任意に繰り返す工程;
f)工程c)からd)が当該方法の最後の工程である場合、得られた固体支持体を工程c)の間に水で1回または数回洗浄し、こうして得られた固体支持体を工程d)の間に1回または数回洗浄し、乾燥させる工程;
が行われる。
【0116】
本発明の方法は、先行技術において記載も示唆もされたことのない特定の順序の特定の工程を含む。
【0117】
特に、本発明の方法は、文献[5]に記載されている方法とは、固体支持体の表面上への有機グラフトのいかなる化学結合工程をももはや含まないという事実によって、根本的に相違する。
【0118】
本発明によれば、この工程は、固体支持体の少なくとも1つの表面を塩基性とする工程によって置き換えられる。
【0119】
従って、最終材料中の有機グラフト配位子の存在に関する全ての不利益が排除される。
【0120】
本発明による方法の工程b)は、文献[5]の方法における固体支持体の表面上への有機グラフトの化学結合工程よりも、はるかに単純で、格段に信頼性があり、より迅速かつ低コストである。
【0121】
この工程b)が酸化物表面に特によく適していることにさらに注目すべきである。
【0122】
文献[5]の方法は、かなり単純化されている一方で、得ようとする材料に同様の特性を持たせる。
【0123】
本発明の方法はまた、工程d)の間に、工程c)の終わりに得られた固体支持体が以下:
・[M’(CN)m]z-(z=3または4)の塩、例えば式[Alkz]の塩を含む溶液と接触して置かれ、
・さらにまた、アルカリ金属Alkの塩と接触して置かれ、[M’(CN)m]z-、例えば式[Alkz][M’(CN)m]の塩のみを含む溶液とは接触させない
ことで定義される。
【0124】
明らかに、追加的に添加されるアルカリ金属Alkの塩は、[M’(CN)m]z-の塩、例えば式[Alkz][M’(CN)m]の塩とは異なり、別個である。
【0125】
[M’(CN)m]z-塩の種類は重要でなく、[M’(CN)m]z-(シアネート塩)の塩を溶液中に溶解させる場合に添加されるアルカリ金属の量も重要ではない。上述のような本発明による所望の構造を得ることにつながるのは、実際のところ、アルカリ金属塩が、シアネート塩に加えて添加される(後者がアルカリ金属塩であるか否かによらない)という事実である。
【0126】
本発明による方法のこの工程中にアルカリ金属塩を添加することにより、信頼性があり、明確でそして再現性のある方法で、先に定義したような化学量論的化合物:[Alk+
x]Mn+
[M’(CN)m]z-を得ることが可能であり、文献上一致して確認されているが、例えば式AlkxM1-x[MIIM’III(CN)6];AlkxM1-x[MIIIM’II(CN)6];Alk2xM1-x[MIIM’II(CN)6];AlkxM1-x[MIIM’’V(CN)8](xが厳密に1より小さい)の非化学量論的化合物は、この合成が、アルカリ金属の塩、例えば、カリウム塩のさらなる添加なしに実施される場合に得られる。
【0127】
本発明の方法は、従来技術の方法の不利益、欠陥、制限、及び欠点を有さず、上記引用文献に記載されているような従来技術の方法の問題に対する解決策をもたらす。
【0128】
特に、既に上述の通り、本発明の方法は、その特定の工程b)のために、文献[5]の方法の不利益、欠陥、制限、及び欠点を有さず、この文献に記載の方法の問題に解決策をもたらす。
【0129】
本発明の方法は、全体として、完全かつ単純であり、既知の証明された方法に頼り、また、信頼性があり且つ完全に再現性がある。実際、これにより、その特性、組成(特にアルカリ金属の化学量論に関して)、及び特性が明確に規定され、ランダムな変性を受けない最終製品の製造が可能になる。
【0130】
本発明の方法は、特に、一般的に有機溶媒ではなく水のみを使用し、一般的に制御された雰囲気に頼らず、且つ一般的に加熱を使用しないことから、環境への影響が少ない。
【0131】
本発明の方法は限られた数の単純な工程を含み、この方法の工程、特に合成工程は、短く、すなわちその継続時間は数時間を超えない(例えば20分から2時間)。したがって、この方法の全体の期間は短く、例えばサイクル数に応じて3から48時間であり、いずれにせよ文献[5]の方法の時間よりも短い。
【0132】
本発明の方法は、それらの形状、サイズ、量、種類にかかわらず、あらゆる種類の支持体を用いて実施することができる。
【0133】
本発明による方法によって調製された材料は、特にその特定の工程b)のために、上に列挙された全ての有利な特性を有する。
【0134】
有利には、工程b)の間に、固体支持体の少なくとも1つの表面を、少なくとも1つの塩基性溶液、好ましくは少なくとも1つの水性塩基性溶液と、好ましくは攪拌下で、前記表面と接触している塩基性溶液のpH値が安定化され、安定になり、好ましくは攪拌下で所望の塩基性値で安定に保たれるまで、1回または数回接触させ、これによって、塩基性とされた少なくとも1つの表面を有する固体支持体が得られ、その後前記固体支持体を塩基性溶液から分離し、塩基性とされた少なくとも1つの表面を有する固体支持体を任意に乾燥させる。
【0135】
安定したpHとは、pH値が数分間、例えば約10分の間安定したままであることを意味する。
【0136】
前記少なくとも1つの塩基性溶液は、一般に、7より高い、好ましくは9以上、好ましくは10以上のpHの、無機塩基の水性塩基性溶液、好ましくはNaOHまたはKOH、より好ましくはKOHの水性塩基性溶液であり、例えば、この水性塩基性溶液、例えばKOHは、9、10、または14のpHを有してよい。この接触は、1回または数回、連続した数回の接触操作で連続して行うことができ、これらの連続した接触操作に使用される塩基性溶液は、同一または異なるpH値、例えば増大するpH値を有する。
【0137】
塩基性溶液のpHは、一般的に、連続的に監視され、調節される。
【0138】
より正確には、塩基性溶液の固体支持体との接触は、前記塩基性溶液を、好ましくは滴下して、固体支持体を含有する懸濁液、分散液に添加し、塩基性溶液と懸濁液、分散液との混合物のpHを、好ましくは連続的に監視することによって行うことができる。塩基性溶液の添加は、塩基性溶液と分散液との混合物のpHが、必要とされる所望の塩基性値に達した際に停止し、必要とされる所望の塩基性値で安定化させる。
【0139】
接触は、一般的に周囲温度(すなわち一般的に15℃から30℃、好ましくは20℃から25℃)で、一般には加熱せず、且つ大気圧で、一般的には圧力をかけずに行われる。
【0140】
塩基性溶液の所望の安定な塩基性pH値は、金属Mの種類に依存し、一般的には7から10、例えば9、10、または11である。例えば銅については、9である。
【0141】
有利には、Mn+イオンを含有する溶液は、Mn+イオンを含有する1種または数種の塩の水溶液である。
【0142】
有利には、(M’(CN)m)z-の塩、例えば、式[Alkz][M’(CN)m]の塩とアルカリ金属Alkの塩を含有する溶液は水溶液である。
【0143】
好ましくは、洗浄は、水、特に超純水を用いて行われる。
【0144】
有利には、工程c)及びd)は静的モードまたはバッチ方式で、あるいは動的モードで、例えば同一のカラムで行われる。
【0145】
有利には、工程c)及びd)は、1から10回、好ましくは1から4回繰り返されてもよい。
【0146】
工程c)及びd)の連続が繰り返される回数を変えることによって、本発明の方法で製造された材料の抽出能力を調節することは容易に可能である。
【0147】
本発明による材料は、その含まれる液体媒体から少なくとも1つの金属カチオンを抽出分離する方法であって、前記液体媒体は本発明による材料と接触して配置される方法において、特に使用してよいが、これに限定されない。
【0148】
したがって、本発明はまた、前記抽出方法に関する。
【0149】
本発明の材料は、その優れた特性、例えば、優れた交換容量、優れた選択性、速い反応速度のために、前記用途に特に適している。
【0150】
この優れた効果は、固体無機カチオン交換体材料、例えば、不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩の量を低減させて得られる。
【0151】
さらに、その特定の構造から生じる本発明による材料の機械的強度及び安定性の優れた特性によって、そのカラム充填及び分離方法の連続的実施が可能になり、よって既存の設備、例えば、いくつかの工程を含む処理チェーンまたはラインと容易に融合させることができる。
【0152】
有利には、前記液体媒体は、水性液体媒体、例えば水性溶液、例えば海水または汽水であってよい。
【0153】
本発明による材料で処理しうる溶液は非常に多様であり、本発明による材料の優れた化学的安定性のために、例えば腐食剤または他の薬剤を含むことさえできる。
【0154】
本発明による材料は、特に、非常に広いpH範囲、例えば2から10に亘って使用することができる。例えば、酸性溶液(例えば硝酸の溶液)を、例えば0.1Mより高濃度で、また中性またはpH10までの塩基性溶液を処理することが可能である。
【0155】
前記液体は、処理液または工業廃水であってよい。
【0156】
有利には、前記液体媒体は、液体媒体、例えば、放射性核種を含有する水性溶液であってよい。例えば、液体媒体は、原子力産業、原子力発電所、及び放射性核種を使用する活動に由来する液体及び廃液の中から選択することができる。
【0157】
これらの中では、例えば、原子力発電所の運転または浄化/解体由来の冷却水及び放射性廃液、核燃料サイクルプラントの運転活動または浄化/解体活動由来、使用済み施設の採掘から解体まで由来の放射性水性溶液及び廃液、及び実験室、研究センター、または放射性核種を使用する別の産業由来の放射性水性溶液廃液または廃液を挙げることができる。
【0158】
しかしながら、本発明による材料は、工業用であるか否か、非核であるかによらず、他の活動分野で明らかに使用することができる。
【0159】
例えば、ヘキサシアノ鉄酸塩はタリウムを選択的に固定化することから、この性質を、セメント工場からの廃液の精製について有利なことに、猛毒であるこの元素の排出及び放出を低減または防止するために使用することができる。
【0160】
液体媒体、好ましくは水性溶液は、分離しようとする前記金属カチオンとは別に、溶液中に別の塩、例えば、NaNO3またはLiNO3またはAl(NO3)3、あるいはまた別のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の任意の可溶性塩を、例えば最大2モル/Lに達する濃度で含み得る。溶液は、上記のように、酸、塩基、さらには有機化合物も含んでよい。
【0161】
したがって、液体媒体は、前記金属カチオンに加えて、(明らかに前記金属カチオンの塩とは異なる)塩、例えばNaClを30g/Lより高濃度で含有する水性溶液であってよい。
【0162】
本発明の方法は、驚くべきことに、金属カチオン、例えばセシウムカチオンの、塩、特にNaClを多く含む液体媒体、例えば水性溶液からの効率的かつ選択的な分離を可能にする。NaCl含有量が高い前記媒体は、例えば海水及び汽水である。
【0163】
一般的に、前記金属カチオンは、0.1ピコグラムから100mg/L、好ましくは0.1ピコグラムから10mg/Lの濃度で存在してよい。
【0164】
「金属」という用語は、同位体、特に前記金属の放射性同位体を包含する。
【0165】
好ましくは、カチオンは、Cs、Co、Ag、Ru、Fe、及びTl、ならびにこれらの同位体、特に放射性同位体から選択される元素のカチオンであり、その中でも、58Co、60Co、55-59Fe、134Cs、137Cs、及び103、105、105、107Ruが挙げられる。
特に、金属カチオンはセシウムカチオンCsである。
より好ましくは、カチオンは134Csまたは137Csのカチオンである。
【0166】
本発明による方法によって製造された材料の1つの好ましい用途は、原子力産業由来の液体のガンマ活性に大きく寄与し、ヘキサシアノ鉄酸塩によって選択的に固定化される、セシウムの固定化である。
【0167】
本発明による方法は、有利には、金属カチオンとして134Csまたは137Csのカチオンを含有し、さらに塩、例えばNaClを、好ましくは高濃度、例えば30g/Lより高濃度で含有することが好ましい、水性溶液である液体媒体を用いて実施してよい。
【0168】
本発明の方法は、放射性セシウムのこれら金属カチオンの、塩、例えばNaClを多く含むこうした液体媒体からの、効率的で選択的な分離を可能にする。この効率的な選択的分離は、競合イオン、例えばNaの存在下での、Csに対する本発明による材料の選択性のために可能である。
【0169】
この方法は、本発明による材料に本質的に関連し、この方法において利用され、且つ既に上述した全ての利点を有する。
【0170】
本発明による方法によって調製された材料を使用する分離方法は、好ましくは連続操作下で使用され、好ましくは粒子形態である本発明の方法によって調製されたナノ複合材料は、例えばカラムとして充填され、前記材料は、好ましくは処理しようとする溶液によって流動化が保証される流動床を形成するが、固定化方法はまたバッチ方式で実施することができ、その場合は交換材料と処理しようとする溶液との接触は好ましくは攪拌下で実施される。カラムへの充填により、大量の溶液を、その高い流速で連続的に処理することが可能である。
【0171】
処理しようとする溶液と本発明の方法によって調製された材料との接触時間は可変であり、例えば連続操作については1分から1時間、例えばバッチ操作については10分から約24時間の範囲であってよい。
【0172】
固定化方法の完了に際して、溶液中の汚染物質、例えばカチオンは、本発明による固体ナノ複合体固定化、固定剤、(交換体)材料中に、収着によって、すなわちイオン交換またはナノ粒子への吸着によって、それ自体が固体支持体の表面に付着したナノ粒子の構造中に固定される。
【0173】
ここで、本発明を、以下により詳細に、特に実施例の主題である特定の実施形態に関連して、説明する。
この説明は、添付の図面を参照しながら行われる。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【
図1】
図1は、実施例5で実施した速度論試験中の、実施例3で調製した材料のセシウムの吸着容量Q(mg/g)を時間(分)の関数として示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例4で調製された材料を用い、実施例5で得られた破過曲線を示すグラフである。 破過曲線は、カラム出口でのCs濃度(mg/L)を、カラムを通過した体積(V(mL))の関数として与える:これは、カラム出口での定期的なサンプリングと共に実施されており、その後溶液中のカチオンの分析が実施される。
【発明を実施するための形態】
【0175】
本発明による方法の第一工程は、固体支持体を提供することからなる。
この固体支持体の構成材料の種類に関しては、特に制限はない。
一般的に、この支持体は、1つまたは複数の無機鉱物材料製である。
好ましい材料は上に引用されている。
【0176】
支持体の構造及びその構成材料に関して制限はない。
従って、支持体は一般的に多孔質である。
【0177】
支持体に関して本発明において使用される用語「多孔質」が、この支持体が細孔または空隙を含む旨を意味することが、最初に特定される。
【0178】
したがって、この多孔質支持体の密度は、非多孔質であって固体材料と呼称される同様の支持体の理論密度よりも低い。
【0179】
細孔は、連結していても孤立していてもよいが、本発明による多孔質支持体においては、細孔の大部分は連結しており、通じている。この場合、開放気孔または相互連結細孔との用語が使用されるが、本発明の方法はまた、相互連結細孔を有しない多孔質支持体を用いて実施されてもよい。
【0180】
一般的に、本発明による支持体においては、細孔は前記支持体の第一の表面と前記支持体の第二の主表面とを連結する浸透細孔である。
【0181】
本発明の意味においては、支持体は、その密度がその理論密度の最大約95%であれば、一般的に多孔質であると見なされる。
【0182】
支持体の多孔度は広い範囲内で可変であり、一般的に25%から50%まで変動し得る。
【0183】
多孔度は、一般的に窒素吸着-脱着により、または水銀ポロメーターを用いて測定される。
【0184】
本発明の方法で使用される支持体は、あるいは一種類のみの多孔性、例えば、微細孔性、メソ孔性、またはマクロ孔隙を有していてもよい。
【0185】
あるいは、本発明の方法で使用される支持体は、例えば微細孔性(例えば直径2nm未満の孔径)、メソ孔性(例えば直径2から20nmの孔径)、またはマクロ孔隙微孔性(例えば直径が20nmより大きく、例えば100nmまでの孔径)から選択される数種の多孔性を有してもよい。
【0186】
多孔性は、秩序化、組織化、構造化、例えばメソ構造化されていてもいなくてもよい。
支持体のサイズに関しても制限はなく、支持体サイズは広い範囲で変動してよい。
【0187】
したがって、前記支持体は、ナノスケールサイズ、すなわち(その最大寸法によって定義される)50nmから100nmのサイズの支持体、微視的スケールの、すなわち100nmから1mmのサイズの支持体、または巨視的スケールの、すなわち1mmより大きいサイズの支持体であってよい。
【0188】
支持体は既に上述された全ての種類の形態を有してよい。
【0189】
例えば、支持体は、粒子、例えば球(ビーズ)または回転楕円体、繊維、チューブ、特にカーボンナノチューブ、またはプレートの形態であり得る。
【0190】
しかしながら、特にカラム内で実施される連続抽出法において支持体を使用することを可能にするためには、支持体が粉末を形成する粒子の形態であることが一般的に好ましい。この粉末は、潜在的なヘッドロスを低減させる粒径を有することがさらに好ましい。理想的な粒径は0.5mmから1mmである。
【0191】
粒径は、球または回転楕円体の直径である最大寸法によって定義される。
【0192】
支持体のための、(流れ作業のために)ヘッドロスの低減も可能にする別の好ましい形態は、一般的に少なくとも5mmのサイズを有し、且つ巨視孔を含むモノリスの形態である。
【0193】
有利には、支持体は、窒素吸着-脱着または水銀ポロシメトリーによって測定される50から500m2/g、好ましくは100から200m2/gのBET比表面積を有する。
【0194】
従来技術の方法、例えば文献[5]の方法では、支持体を、一般的に、例えば超純水で1回または数回洗浄し、その後例えば120℃の温度のオーブン内で24時間に亘って乾燥させた後、当該方法の別の工程を実施する。本発明による方法では、洗浄及び乾燥による支持体のこの調製の理由はなく、これらは必要でない。
【0195】
第一工程において、支持体の少なくとも一つの表面を塩基性にする。
【0196】
有利には、支持体を、塩基性溶液、好ましくは水性塩基性溶液と接触させる。
【0197】
支持体と塩基性溶液とのこの接触は、動的モードで行うことができ、すなわち固体支持体は開回路内を循環する溶液の流れと接触させて配置する。
【0198】
あるいは、接触は、攪拌下にてバッチ方式で行ってもよい。
【0199】
総接触時間は、一般的に約2時間である。
【0200】
例えば、固体支持体を容器内に含まれる水性塩基性溶液中に入れることができる。(攪拌下のバッチ方式における)接触時間は非常に短く(瞬間的またはほぼ瞬間的)、支持体を濡らすためにのみ使用される。
【0201】
この水溶液に、濃塩基性溶液、好ましくはpH13のKOH溶液を徐々に添加する。この添加の間中、支持体と接触している溶液のpHを測定し、支持体と接触している溶液のpHが設定された所望の値、例えば8から10で安定になり、このpHが10から15分間、例えば10分間に亘ってこの所望の値で安定に維持された時点で添加を停止する。
【0202】
この工程は短時間、例えば約2時間である。
【0203】
この工程の終わりに、固体支持体を(例えば濾過またはデカンテーションにより)溶液から分離し、そして他のいかなる処理も必要とせずに、固体支持体をMn+塩を含有する水性溶液と接触させる。
【0204】
従って、この第一工程の終わりに、固体支持体が、塩基性とされた一表面を有して得られる。
【0205】
好ましくは、支持体の全ての接触可能な表面は塩基性にされる。
【0206】
固体支持体の、塩基性とされた表面上にナノ粒子を調製するためにここに記載される工程は、文献、国際公開2016/038206号[5]に記載された方法の工程と実質的に同様である。特に、本発明によれば、工程d)の間に、工程c)の終わりに得られた固体支持体を、錯体または(M’(CN)m)z-の塩、例えば式[Alkz][M’(CN)m]の塩を含むのみである溶液とではなく、(M’(CN)m)z-の塩、例えば式[Alkz][M’(CN)m]の塩、及び錯体とは異なるアルカリ金属Alkの塩を含有する溶液と接触させる。
【0207】
したがって、特にこれらの工程で使用される試薬及び操作条件に関してのみならず、ナノ粒子の説明に関しても、この文献を参照することができる。
【0208】
したがって、第二の工程において、ナノ粒子を、固定支持体の塩基性とされた前記表面上で成長させる。
【0209】
この成長は、任意に繰り返される2つの連続工程で得られる。
【0210】
これらは本発明による方法の工程c)及びd)であり、その連続は含浸サイクルと呼ばれるものに相当し、前記サイクルは任意に繰り返される。
【0211】
一方の表面を塩基性とした固体支持体は、まず、一般的に金属塩の形態でMn+イオンを含有する水性溶液と接触させる。
【0212】
したがって、この溶液の溶媒は水であり、好ましくは超純水である。
【0213】
この溶液に含まれる金属塩は、一般的に、この金属のシアノメタレート、例えば不溶性であるこの金属のヘキサシアノ鉄酸塩をもたらすことのできる金属から選択される金属の塩である。
【0214】
この金属は、全ての遷移金属の中から、例えば、銅、コバルト、亜鉛、ニッケル、及び鉄などから選択してよい。したがって、Mn+イオンは、Fe2+、Ni2+、Fe3+、Co2+、Cu2+、及び、Zn2+イオンの中から選択してよい。
【0215】
例えば、金属塩は、これら金属Mの1つの、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩、任意に水和されたテトラフルオロホウ酸塩であってよい。
例えば、これは硝酸銅であってよい。
【0216】
溶液中の金属塩の濃度は、0.01から1mol/L、より好ましくは0.1から0.5mol/Lである。
【0217】
使用される塩の量は、好ましくは処理された固体支持体の約0.1から1mmol/gである。
【0218】
接触は、固体支持体の含浸としても認定され得るが、一般的に周囲温度で行われ、一般的に4から96時間続く。
【0219】
この接触は、バッチ方式とも呼ばれる静的モードで、好ましくは攪拌下で、この場合は一般的には12から96時間継続させ、あるいは動的モード(固定床または流動床)で、この場合は4から24時間継続させる。
【0220】
この接触の終わりに固体支持体が得られ、当該支持体の塩基性とされた表面にMn+カチオンが吸着されている。
接触の終わりに、固体支持体を洗浄する。
【0221】
バッチ方式では、一般的に固体支持体を溶液から取り出して洗浄する。
動的モードでは、固体支持体は溶液から取り出さずに直接洗浄する。
【0222】
洗浄は、固体支持体を1回または数回、例えば1から3回、好ましくは水で洗浄することからなる。
【0223】
この洗浄操作により、過剰の金属塩を除去し、完全に規定された組成を有する安定な生成物を得ることが可能である。
次いで任意に乾燥が行われるが、これは可能であるが必須ではない。
【0224】
上記のようにMn+金属カチオンと反応した固体支持体を、次いで(M’(CN)m)z-の塩、例えば式Alkz[M’(CN)m]の塩の溶液、より好ましくは式Kz[M’(CN)m]の塩と、さらにアルカリ金属Alkの塩の溶液と接触させる。
【0225】
アルカリ金属Alkは、Li、Na、及びKの中から選択することができ、好ましくは、AlkはKである。
【0226】
アルカリ金属塩は、溶液にも含まれている(M’(CN)m)z-の塩とは相違し、別個である。
【0227】
アルカリ金属塩は、例えば、アルカリ金属Alkの硝酸塩、硫酸塩及びハロゲン化物(塩化物、ヨウ化物、フッ化物)の中から選択することができ、例えば、硝酸カリウムである。
有利には、この溶液の溶媒は水であり、好ましくは超純水である。
【0228】
接触は、固体支持体の含浸とも呼称できるが、一般的に周囲温度で行われ、一般的に2から96時間継続される。
【0229】
この接触は、好ましくは攪拌下で、静的モードまたはバッチ方式で実施してよく、この場合は一般に12から96時間継続し、あるいはまた動的モードで、この場合は一般的に2から24間継続する。
【0230】
(M’(CN)m)z-塩は一般に次の式:(Alk)z[M'(CN)m]を満たし、ここでM’、m、及びzは既に上記した意味を有し、Alkは、アルカリ金属のカチオンAlk、例えばKまたはNaから選択される一価カチオンを有し、より好ましくは、(M’(CN)m)z-塩は以下の式:Kz[M’(CN)m]、例えばK4Fe(CN)6を有する。
【0231】
溶液中のアルカリ金属の塩の濃度は、通常0.001から1mol/L、好ましくは0.001から0.05mol/Lである。
【0232】
有利には、(M’(CN)m)z-塩の濃度とアルカリ金属の塩の濃度は同一である。
【0233】
また、使用される[M’(CN)m]z-塩の溶液は、一般的に、初期の固体支持体によって構成される含浸支持体の量に対する塩の質量比が、好ましくは固体支持体の0.1から5mmol/gであるように調製される。
【0234】
このようにして、[M’(CN)m]z-アニオン部分、例えば[M’(CN)m]z塩の[Fe(CN)6]4-、例えば式Alkz[M’(CN)m]の、Mn+陽イオン上への固定及び結晶構造へのアルカリ金属の同時挿入が得られる。この固定化は、媒体に応じて比較的強い共有結合型の結合の形成によって起こり、この固定化は一般的に定量的であり、すなわち全てのMn+カチオンが反応する。したがって、固定化はまったくランダムではない。
【0235】
結晶構造の全ての部位へのアルカリ挿入は、まずは塩、例えばAlkz[M’(CN)m]中のアルカリの任意の存在を通して可能であるが、とりわけ含浸溶液に添加されたアルカリ金属塩のさらなる存在を通して可能である。
【0236】
これが、[M’(CN)m]z塩に含まれるアルカリ金属Alk、例えばAlkz[M’(CN)m]と、含浸溶液のアルカリ金属塩に含まれるのが、同じアルカリ金属Alkであることが一般的に好ましい理由である。
接触の終わりに、固体支持体を洗浄する。
【0237】
バッチモードでは、固体支持体は一般的に溶液から除去され、次いで洗浄される。
動的モードでは、固体支持体は溶液から除去されず、直接洗浄される。
【0238】
洗浄は、支持体を1回または数回、例えば1から3回、好ましくは錯体溶液の溶媒と同一の溶媒、例えば超純水で洗浄することからなる。
【0239】
この洗浄操作の目的は、[M’(CN)m]zの塩及びMn+カチオンに結合していないナノ粒子を除去することであり、これによって遊離の、放出されうる非結合[M’(CN)m]z-がもはや存在しない固体支持体を得ることが可能である。
【0240】
固体支持体とMn+金属カチオンとの接触工程、及び洗浄工程(1回以上)の連続に次いで、固体支持体と[M’(CN)m]z-塩、例えば[M’(CN)m]3-の塩及びアルカリ金属の塩を含有する溶液との接触、これに次ぐ洗浄(1回または数回)は、1回だけ行われてもよいが、あるいはまた、一般的に1から10回、例えば1から4、5、6、または7回繰り返すことができ、したがって、本発明による材料の抽出性能は、完全に調整することが可能である。
【0241】
鉱物定着剤、例えば不溶性金属のヘキサシアノ鉄酸塩と式[Alk+
x]Mn+[M’(CN)m]z-のアルカリ金属との固定化剤の質量含有量は、固体支持体の質量に対して一般的に1から10%である。
【0242】
本発明は、詳説のためであり非限定的である以下の実施例を参照してここに説明される。
【実施例】
【0243】
(実施例1)
この実施例では、乾燥粗製シリカの表面をどのように塩基性にできるかを示す。
(1)乾燥粗製シリカのpH測定
乾燥粗製シリカのpHを決定するために、いかなる前処理も受けていない数グラムの乾燥粗製シリカを数滴のブロモチモールブルーと接触させた。
ブロモチモールブルーの様々な可能な形態、及びpHによってブロモチモールブルーが呈し得る様々な色を、以下の表1に示す。
【0244】
【0245】
いかなる前処理も受けず、数滴のブロモチモールブルーと接触させた乾燥粗製シリカは黄色を呈することが、目視で観察された。
この黄色の着色は、乾燥粗製シリカのpHが6より低いことを示す。
【0246】
(2)シリカの前処理-KOHの塩基性溶液と接触させることによってその表面を塩基性とした前処理シリカの調製
粗製シリカの前処理を、その表面を塩基性にすることが可能であるか否かを決定するために実施した。
したがって、この前処理工程は、以下:
・14と非常に高いpHの、KOHの高濃度塩基性溶液を準備する;
・かくして調製した、pH14のこの塩基性KOH溶液を、固体シリカをそれぞれ含む3つの懸濁液に滴下により添加し、塩基性溶液と分散液との混合物のpHを連続的に監視する;
KOHがシリカと反応する。
【0247】
塩基性溶液と分散液との混合物のpHが必要とされる所望の値に達し、必要とされる所望の塩基性値、すなわち、9(前処理シリカI)、10(前処理シリカII)、または11(前処理シリカIII)の値に安定化された時点で、塩基性溶液の添加を停止した。
これらpH値は、それぞれ9、10、及び11で安定化pH値と呼称される。
【0248】
(3)前処理されたシリカの表面pHの測定、検証
上記のように調製した3つの前処理シリカI、II、及びIIIの表面のpHを検証するために、これらの異なる前処理し乾燥させたシリカI、II、及びIIIのそれぞれ数グラムを、塩基性pH範囲に特有の別の色指示薬:フェノールフタレインと接触させた。
【0249】
フェノールフタレインは、9から10のpH範囲でピンク色であり、10より高いpHでは紫色であることが想起される。
【0250】
3つの前処理されたシリカI、II、及びIIIのそれぞれをフェノールフタレインと接触させた後に得られた色を目視で観察した。
【0251】
得られた異なる色は、シリカに施された前処理が、材料の、しかるに表面のpHの上昇をもたらすことを示している。
【0252】
フェノールフタレインと接触させた後、3つの前処理されたシリカは、前処理されたシリカIIIについて10.8(紫)のpH、前処理されたシリカIIについて10(ピンク)のpH、前処理されたシリカIについて9(淡いピンク色)にそれぞれ相当する色を示した。
【0253】
この実施例は、塩基性KOH溶液で行われる前処理に応じて、より正確にはシリカの前処理に使用される塩基性KOH溶液のpHに応じて、シリカの表面pHを制御できることを示す。
【0254】
目視によって確認された通り、前処理に使用された塩基性KOH溶液のpH(すなわち、それぞれ11;10;9)に応じて、異なる表面pH(すなわち、10.8;10;9)を有する3つのシリカが得られた。
【0255】
(実施例2)
この実施例では、本発明による材料は、化学量論的銅-フェロシアン化カリウムのナノ粒子を、その表面をpH9の塩基性KOH溶液と連続的に接触させることによって塩基性にした多孔質シリカのゲル内に挿入することによって調製した。
この材料のセシウム抽出性能を次に測定した。
【0256】
・本発明による材料の調製
この実施例では、本発明による調製方法を、市販の多孔質シリカゲルである支持体上で、粒径200から500μm、孔径30nm、及び約130m2/gのBET比表面積を有する顆粒の形態で実施した。
この多孔質シリカゲル内への銅-フェロシアン化カリウム(K2Cu(Fe(CN)6))の挿入のための操作方式は、以下の工程1及び2を含んでいた。
【0257】
1. この表面を塩基性KOH溶液と連続的に接触させることによってシリカ表面を塩基性とする変性
1.1 1回目の接触:約10gのシリカゲル(例えば上記のもの)を250mLのpH9のKOH溶液と接触させた。この1回目の接触中に、最初は9であった前記溶液のpHは、直ちに2pH単位低下した。24時間攪拌した後、上清を除去することによって固体を回収した。
1.2 pH9の250mLのKOH溶液との、2回目の接触:溶液のpHは当初9であるが、約1pH単位低下した。24時間攪拌し、次いで上清を除去することにより固体を回収した。
1.3 pH9の250mLのKOH溶液との、3回目の接触:24時間攪拌した後の溶液のpHは安定なままであり、pH9である。上澄み液を除去することにより固体を回収し、その後空気中で24時間乾燥させた。
【0258】
2. 銅-フェロシアン化カリウムの前駆体溶液を用いる含浸工程
2.1 硝酸銅(Cu(NO3)2)の第1の溶液(Cu2+の濃度5.10-2mol/L(すなわち3.2g/L))を調製した。この溶液のpHは4.5であった。
工程1に記載のように変性したシリカゲル1gを、この硝酸銅溶液10mLと2時間に亘り接触させた。次に固体を回収し、任意に超純水ですすいだ。ここでは乾燥工程は必要でない。
この工程の終わりに、銅がシリカに、水和銅の単核または多核オキソ-ヒドロキソ種の形態で挿入されたが、これは、シリカ表面の塩基性により可能となった。この合成経路により、支持体の青色の着色によって示されるように、シリカゲル内へのかなりの量の銅種の挿入がもたらされた。
2.2 フェロシアン化カリウム及び硝酸カリウムをそれぞれ10-1mol/Lの濃度で含有する第2の溶液を調製した。
1gの銅担持シリカゲルを10mLのこの溶液と2時間に亘り接触させた。この工程により、構造のケージ内にカリウムイオンを有する化学量論的銅-フェロシアン化カリウムの形成がもたらされた。固体を回収し、任意に超純水ですすいだ。
【0259】
(Cu(NO3)2)との、次いで(K4Fe(CN)6+KNO3)との接触は、「含浸サイクル」と呼称される。この含浸サイクルを2回繰り返し、これによって本発明による所望の材料が得られる。
【0260】
抽出性能は、実施された含浸サイクルの回数に直接関係しており(実施例2参照)、このため、材料を合成する際、この性能は非常に容易に調節することができる。
その後、材料を超純水ですすぎ、空気中で48時間に亘って乾燥させる。
【0261】
・上記で調製した本発明による材料のセシウム抽出性能の測定
2回の含浸サイクルで上記のように調製した、本発明による材料のCsに対する抽出性能の測定は、100mg/gの硝酸セシウム溶液についてのいわゆる標準試験を使用することによって実施した。
【0262】
上記のように調製した本発明による材料50mgを、この100mg/g硝酸セシウム溶液50mL中に約20時間に亘って置いた。Cs濃度の分析を初期及び最終溶液中で実施して、当該材料の吸着性能を評価した。この吸着性能は以下のように表される。
【数1】
[式中、[Cs]
i及び[Cs]
fは、それぞれ、原子吸着で分析さえた初期及び最終のCs濃度であり、Vは使用された溶液の体積であり、mは使用された材料の質量である]
【0263】
上記のように調製された本発明による材料についてのこの実施例における測定性能は、12mg/gであった。
【0264】
(実施例3)
この実施例では、本発明による材料は、pHが連続的に監視され調整される塩基性KOH溶液に表面を接触させることによって塩基性とされた1つの表面を有する多孔質シリカゲル内に、化学量論的銅-フェロシアン化カリウムのナノ粒子を挿入することによって調製した。
次いで、この材料のセシウム抽出性能を測定した。
【0265】
・本発明による材料の調製
この実施例では、本発明による調製方法を、実施例2と同じ支持体を用いて実施したが、工程1でのpHの調整は制御した。材料の特性に対する含浸サイクルの回数の影響も調査した。
【0266】
・塩基性KOH溶液の制御された添加によって塩基性とする、シリカ表面の変性
約5gのシリカゲル(例えば上記のもの)を、ビーカー内でpH10のKOH溶液250mLと接触させた。攪拌のために、攪拌羽根をビーカー内で直接使用した。溶液のpHを、pHメーターを使用してインラインでモニターし、pH13のKOH母液を連続添加によってpHを10に安定化させた。約1.5時間の試験時間に相当する、溶液のpHの9.3での安定化の後(したがってpH13のKOH溶液を18mL添加した後)、上澄み液を除去して含浸工程(2)を実施した。
【0267】
・銅-フェロシアン化カリウムの前駆体溶液を用いる含浸工程
硝酸銅(Cu(NO3)2)の第1の溶液(Cu2+の濃度10-1mol/L(すなわち6.4g/L))を調製した。
工程1に記載のように変性したシリカゲル5gを、この硝酸銅溶液10mLと2時間に亘り接触させた。次に固体を回収し、任意に超純水ですすいだ。ここでは乾燥工程は必要でない。この工程の終わりには、接触前後の銅溶液の分析により、およそ0.5質量%のCuのシリカゲルへの導入(固体1gにつき5mgのCu)が示された。
次いで、前述と同様に、フェロシアン化カリウム及び硝酸カリウムを10-1mol/Lの濃度で含有する第2の溶液を調製した。
【0268】
5gの銅担持シリカゲルを10mLのこの溶液と接触させた。この工程により、構造のケージ内にカリウムイオンを有する化学量論的銅-フェロシアン化カリウムの形成がもたらされた。
(Cu(NO3)2)との、次いで(K4Fe(CN)6+KNO3)との接触は、「含浸サイクル」と呼称される。この含浸サイクルは1または2回繰り返される。各含浸サイクルの後、少量の材料をサンプリングしてCs抽出性能を測定し、サイクル回数が材料の特性に及ぼす影響を調査する。
【0269】
・含浸サイクル数の関数としての、上記で調製した本発明による材料のセシウムに対する抽出性能の測定
この抽出性能は、実施例1の記載と同様の方法で測定した。
サイクル1:測定された性能は15.76mg/gであった。
サイクル2:測定された性能は18.14mg/であった。
微量のCuもFeも、硝酸セシウムの2つの対応する最終溶液のICP-AES分析によっても見られなかった(したがって、これらの元素の含有量は検出限界未満であった)。
それ故、単一の含浸サイクルが、十分な抽出性能の達成に十分であると思われる。この点は、工程を制限し、これによる製造時間の短縮によって製造コストを低減するために、重要である。
【0270】
(実施例4)
この実施例では、本発明による材料を、多孔質シリカゲルに化学量論的銅-フェロシアン化カリウムのナノ粒子を挿入することによって調製した。しかしながら、工業化の観点から、シリカゲルの出発量における規模の変化の、この合成経路に対する効果を評価するために、5gまたは10gでなく100gのシリカゲルを使用した。
次いで、この物質のセシウムに対する抽出性能を測定した。
【0271】
・本発明による材料の調製
100gのシリカゲルを、KOHで調整した初期pH9を有する250mLの溶液と接触させた。懸濁液を攪拌羽根で攪拌しつつ、pHを連続的に測定した。次いで、pHを、pH13のKOHの溶液を添加することによって9.5で安定するまで連続的に調整した。この試験には、およそ1から2時間の時間がかかる。
この工程の終わりに、上清を除去した。
次いで、含浸工程を、3回の含浸サイクルで、前述の実施例に記載したように実施した。
【0272】
・含浸サイクルの回数の関数としての、上記で調製した本発明による材料のセシウムに対する抽出性能の測定
各サイクル間に抽出能力を測定した。
測定された抽出性能は以下の通りであった。
サイクル1:13.81mg/g
サイクル2:18.01mg/g
サイクル3:34.4mg/g
微量のCuもFeも、硝酸セシウムのこれら3つの対応する最終溶液のICP-AES分析によっても見られなかった(したがって、これらの元素の含有量は検出限界より少なかった)。
これらの結果は、本発明による材料の製造が、実施例2及び3におけるよりも大規模、すなわち100gで、溶媒として水に頼るだけの「穏やかな」条件下、迅速な合成時間、すなわちサイクル全体で約6時間で実施可能であることを実証する。
【0273】
(実施例5)
この実施例では、実施例4で調製した本発明の材料によるセシウム抽出及び吸着速度論を調べ、実施例4で調製した本発明の材料によるセシウム抽出試験をカラム中で行った。
【0274】
・動態試験
この材料をカラム中で使用する目的で、実施例4で調製した材料について動態試験を実施した。
これらの速度的試験は、50mgの材料を50mLの廃液と攪拌下で異なる時間に亘って接触させることからなる。
各速度点は、1回の接触時間に対する抽出性能の測定1回に対応する。
最初の溶液は、100mg/LのCsがCsNO
3の形態で溶解した超純水の溶液であった。初期溶液及び最終溶液中のCsを、原子吸着分光法により分析した。速度論的結果を
図1に示す。
図1は、吸着速度が非常に速い(数分である)ことを示している。
さらに、溶液中のKの分析により、固体のKと溶液のCsとの間の完全交換、並びに、Cu、FeまたはSiの放出塩析のないことが示される。
【0275】
・カラム試験
実施例4で調製した材料の特性を、破過曲線を決定することによって評価した。
この目的のために、実施例4で調製した材料2gを直径1cmのカラムに入れた。この量の材料は、5cmのカラム高さに相当した。
70mg/LのCsをCsNO
3の形態で含有する溶液を、線速度2mL/hに対応する160mL/hの流速でカラムに通し、カラム出口での濃度を原子吸着分光法により一定間隔で測定した。かくして破過曲線を得た。この破過曲線を
図2に示す。
この破過曲線のプロファイルは、この材料が、固定床形態で、工業用Cs抽出プロセスにおける実施に非常に適していることを示すため、特に興味深い。
【0276】
(実施例6)
この実施例では、本発明による材料を、pH9の塩基性KOH溶液と連続的に接触させることでその表面を塩基性にした多孔性シリカゲル中に、化学量論的ニッケル-フェロシアン化カリウムのナノ粒子を挿入することによって調製した。
次いで、この材料のセシウムに対する抽出性能を測定した。
この実施例のこの目的は、当該合成方法の別の種類のフェロシアン化物への可能な拡張を検証することであった。
したがって、この実施例では、酸性媒体中のセシウムに対して良好な抽出効率を有することが既知の、ニッケル-フェロシアン化カリウムを含有する材料を得ることが求められた。
【0277】
・本発明による材料の調製。
シリカゲル支持体の表面を塩基性溶液で変性させる工程は、実施例2に記載したものと同様であった。
含浸工程は、第1の含浸段階で銅塩をニッケル塩で置き換えた点で異なっていた。したがって、硫酸ニッケル(Ni(SO4)2)の第1溶液が調製された(Ni2+濃度が10-1mol/L)。
1gの「塩基性化された」シリカゲルを、10mLのこの硫酸ニッケル溶液と2時間に亘って接触させた。次に固体を回収し、超純水ですすいだ。ここでは乾燥は不要であった。次に、実施例2において、フェロシアン化カリウム及び硝酸カリウムをそれぞれ10-1Mol/Lの濃度で含有する第2の溶液を調製した。1gのニッケル担持シリカを10mLのこの溶液と接触させた。この工程により、構造のケージ内にカリウムイオンを有する化学量論的ニッケル-フェロシアン化カリウムの生成がもたらされた。この含浸サイクルを3回繰り返した後、抽出能力を測定した。
【0278】
・3回の含浸サイクル後の、上記で調製した本発明による材料のセシウムに対する抽出性能の測定
この抽出性能は、実施例2に記載したものと同様の方法で測定した。
サイクル3:測定された性能は48mg/gであった。
前記材料により放出されたカリウムの分析は、純粋なCsとKとの交換に相当していた。Ni及びFeの濃度は検出限界以下であった。
したがって、本発明の合成方法は、別の種類のフェロシアン化物、例えばニッケル-フェロシアン化カリウムに使用することができ、Csとの交換が当該構造のカリウムとのみ行われる材料がもたらされる。
【0279】
(参考文献)
[1] 国際公開第2010/133689号
[2] H. Mimura, M. Kimura, K. Akiba, Y. Onodera, “Selective removal of cesium from highly concentrated sodium nitrate neutral solutions by potassium nickel hexacyanoferrate(II)-loaded silica gels”, solvent extraction and ion exchange, 17(2), 403-417, (1999).
[3] L. Sharigyn, A. Muromskiy, M. Kalyagina, S. Borovkov, “A granular inorganic cation-exchanger selective to cesium”, J. Nuclear Science and Technology, 44 (5), 767-773, (2007).
[4] Sanhita Chaudhury, A.K. Pandey; A. Goswami, “Copper ferrocyanide loaded track etched membrane an effective cesium adsorbent”, J. Radioanal. Nucl. Chem 204 (2015) 697-703.
[5] 国際公開2016/038206号