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特許7146741EGFR阻害剤の薬学的な塩及びその結晶形、製造方法並びに使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】EGFR阻害剤の薬学的な塩及びその結晶形、製造方法並びに使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20220927BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C07D471/04 104Z
C07D471/04 CSP
A61K31/506
A61P11/00
A61P35/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019515244
(86)(22)【出願日】2018-01-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 CN2018070011
(87)【国際公開番号】W WO2018218963
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2019-04-10
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】201710408362.8
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518062510
【氏名又は名称】ウーシー ショアンリャン バイオテクノロジー カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ピン
(72)【発明者】
【氏名】チアチュアン ウー
(72)【発明者】
【氏名】チン シェンショアン
(72)【発明者】
【氏名】リー リー
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】木村 敏康
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106132957号明細書(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D471/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表される構造を有するEGFR阻害剤と、クエン酸である酸とで形成された塩である、EGFR阻害剤の薬学的な塩であって、
【化1】
前記EGFR阻害剤のクエン酸塩は結晶形Eを有し、前記結晶形Eは、5.4°±0.2°、12.0°±0.2°、21.2°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有することを特徴とする、EGFR阻害剤の薬学的な塩。
【請求項2】
前記結晶形Eは、10.8°±0.2°、17.5°±0.2°、24.9°±0.2°、25.4°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有することを特徴とする請求項1に記載のEGFR阻害剤の薬学的な塩。
【請求項3】
前記結晶形Eは、9.0°±0.2°、12.4°±0.2°、13.3°±0.2°、16.0°±0.2°、20.4°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有することを特徴とする請求項1又はに記載のEGFR阻害剤の薬学的な塩。
【請求項4】
前記EGFR阻害剤及び前記酸を用いてアルコール系溶媒中又は水中で塩を形成させ、ケトン系溶媒を添加して晶析させることで、前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形を得ることを含むことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のEGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形の製造方法。
【請求項5】
前記アルコール系溶媒の炭素原子数は1~6であり、前記ケトン系溶媒の炭素原子数は3~6であることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
小細胞肺癌治療薬を製造するための請求項1~のいずれか1項に記載のEGFR阻害剤の薬学的な塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬技術分野に該当し、EGFR阻害剤の薬学的な塩及びその結晶形、製造方法並びに使用に関する。
【背景技術】
【0002】
非小細胞肺癌(NSCLC)の末期患者では、上皮成長因子受容体(EGFR)及び未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の突然変異に対する標的治療は、今の標準治療案となっている。一方、癌細胞は突然変異や成長パターンの変化によって、EGFRまたはALK阻害剤の治療活性から逃れることができるので、これら薬剤の有効期間は一般に非常に短く、9~11ヶ月で薬剤耐性が生じる。アジアの非小細胞肺癌末期患者では、抗EGFR治療に対する耐性獲得の50%がT790M突然変異によって引き起こされたと報道されている。
【0003】
T790M突然変異による薬剤耐性を克服するために、不可逆的ATP競合阻害剤(例えばHMPL-813、CI-1033、HKI-272、HS-10182等)はすでに臨床的研究段階に進んでいる。不可逆的阻害剤は、受容体結合部位における1つの保存アミノ酸残基(Cys797)のメルカプト基(SH)と共有結合を生成できる、マイケル(Michael)付加反応可能な受容体フラグメントを含む。この阻害剤とEGFRとの間に不可逆的共有結合を介して結合する能力は通常、可逆的阻害剤とEGFRとの間の結合能力よりも強い(Journal of Medicinal Chemistry,2009,52:1231-1236参照)。にもかかわらず、上記不可逆的阻害剤の臨床試験の結果によれば、これらの阻害剤は、例えばオフターゲット効果による毒性作用、低選択性による副作用等で、患者体内において十分な薬物濃度を達成できないなど、まだ解決すべき課題が存在している。したがって、新規の不可逆的EGFR阻害剤の開発は、重要な臨床的意義があり、将来広く利用されることに繋がると考えられる。
【0004】
アストラゼネカ社(AstraZeneca)により開発され、販売されているAZD9291は、最初の第3世代の経口、不可逆的、選択的EGFR突然変異阻害剤であり、活性化型及び耐性突然変異型EGFRに作用できる。つまり、AZD9291は、T790M突然変異による薬剤耐性を無効化できる。AZD9291は、従来の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する耐性やT790M突然変異を持ったNSCLC患者に対して良好な治療効果を有する。中国特許出願CN103702990Aには、AZD9291の化合物構造が開示され、また、AZD9291及びその薬学的なメタンスルホン酸塩の結晶多形も記載されている。
【0005】
第3世代のEGFR阻害剤としてユニークな効果を有する現在販売中の製品はAZD9291のみであるため、新薬の競争は激しい。中国特許出願CN106132957Aには、構造により特定される一連の2-アリールアミノピリジン、ピリミジン又はトリアジン誘導体が開示されている。また、同出願では、上述した化合物に対する細胞レベルの活性試験が行われ、その結果によれば、これらの化合物は高いEGFR阻害活性を有しながら、野生型EGFRに対する比較的低い阻害活性を有するため、新しい抗腫瘍薬の開発に利用できると考えられる。しかし、上記出願では、原薬の薬学的形態(例えば塩結晶形)に関する研究及び保護が欠如し、さらなる開発・改善が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EGFR阻害剤の原薬の具体的な薬学的形態と物理化学的特性との関係を研究し、さらにより製薬に適するEGFR阻害剤の特定の薬学的形態を開発するために、本発明はEGFR阻害剤の薬学的な塩及びその結晶形、製造方法並びに使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式Iで表される構造を有するEGFR阻害剤と酸とにより形成される塩である、EGFR阻害剤の薬学的な塩を提供する。
【0008】
【化1】
【0009】
前記酸はメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、塩化水素又はクエン酸である。
【0010】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩として、そのメタンスルホン酸塩は結晶形Aを有し、前記結晶形Aは、6.8°±0.2°、14.0°±0.2°、21.6°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0011】
さらに、前記結晶形Aは、13.5°±0.2°、15.6°±0.2°、18.1°±0.2°、24.0°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0012】
さらに、前記結晶形Aは、5.8°±0.2°、11.5°±0.2°、12.0°±0.2°、14.8°±0.2°、17.2°±0.2°、17.5°±0.2°、18.6°±0.2°、19.0°±0.2°、22.2°±0.2°、24.6°±0.2°、27.2°±0.2°、27.7°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0013】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩として、そのp-トルエンスルホン酸塩は結晶形Bを有し、前記結晶形Bは、10.6°±0.2°、15.1°±0.2°、18.1°±0.2°、22.4°±0.2°、24.8°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0014】
さらに、前記結晶形Bは、7.8°±0.2°、10.2°±0.2°、12.9°±0.2°、18.7°±0.2°、21.0°±0.2°、21.4°±0.2°、23.7°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0015】
さらに、前記結晶形Bは、11.2°±0.2°、11.7°±0.2°、14.2°±0.2°、16.1°±0.2°、16.5°±0.2°、19.7°±0.2°、23.2°±0.2°、24.3°±0.2°、26.9°±0.2°、28.0°±0.2°、29.5°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0016】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩として、そのリン酸塩は結晶形Cを有し、前記結晶形Cは、14.1°±0.2°、16.0°±0.2°、25.3°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0017】
さらに、前記結晶形Cは、8.9°±0.2°、19.9°±0.2°、22.7°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0018】
さらに、前記結晶形Cは、11.2°±0.2°、11.9°±0.2°、12.6°±0.2°、16.8°±0.2°、17.8°±0.2°、20.5°±0.2°、21.4°±0.2°、22.1°±0.2°、23.2°±0.2°、23.8°±0.2°、24.5°±0.2°、26.0°±0.2°、28.2°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0019】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩として、その塩酸塩は結晶形Dを有し、前記結晶形Dは、7.8°±0.2°、9.8°±0.2°、16.2°±0.2°、21.3°±0.2°、26.3°±0.2°、27.6°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0020】
さらに、前記結晶形Dは、16.0°±0.2°、17.1°±0.2°、18.2°±0.2°、21.9°±0.2°、22.5°±0.2°、24.6°±0.2°、25.8°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0021】
さらに、前記結晶形Dは、13.8°±0.2°、14.5°±0.2°、15.5°±0.2°、16.7°±0.2°、20.5°±0.2°、23.5°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0022】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩として、そのクエン酸塩は結晶形Eを有し、前記結晶形Eは、5.4°±0.2°、12.0°±0.2°、21.2°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0023】
さらに、前記結晶形Eは、10.8°±0.2°、17.5°±0.2°、24.9°±0.2°、25.4°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0024】
さらに、前記結晶形Eは、9.0°±0.2°、12.4°±0.2°、13.3°±0.2°、16.0°±0.2°、20.4°±0.2°の2θ値の少なくとも1つに、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。
【0025】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩として、アモルファスリン酸塩であり、図7に示す粉末X線回折スペクトルの特徴ピークを有する。
【0026】
本発明はさらに、前記EGFR阻害剤及び前記酸を用いてアルコール系溶媒中又は水中で塩を形成させ、ケトン系溶媒を添加して晶析させることで、前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形を得ることを含む、前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形の製造方法を提供する。
【0027】
好ましくは、前記アルコール系溶媒の炭素原子数は1~6であり、前記ケトン系溶媒の炭素原子数は3~6である。
【0028】
本発明はさらに、癌治療薬を製造するための前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の使用、好ましくは非小細胞肺癌治療薬を製造するための使用を提供する。
【0029】
本発明はさらに、式Iで表されるEGFR阻害剤とリン酸で形成される塩であり、図7に示す粉末X線回折スペクトルの特徴ピークを有するアモルファスのEGFR阻害剤リン酸塩、及び癌治療薬を製造するための前記アモルファスのEGFR阻害剤リン酸塩の使用、好ましくは非小細胞肺癌治療薬を製造するための使用を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、EGFR阻害剤(N-(2-((2-(ジメチルアミノ)エチル)(メチル)アミノ)-4-メトキシ-5-((4-(1-メチル-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イル)アミノ)フェニル)アクリルアミド)のメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩、塩酸塩又はクエン酸塩を提供する。特別な結晶形により、これら薬学的な塩は、関連する遊離塩基よりも高い溶解度及び安定性を有し、より医薬開発に適し、生物学的利用能及び有効性への要望に応えられる。
【0031】
また、EGFR阻害剤の遊離塩基形態と比較して、本発明で提供するEGFR阻害剤の薬学的な塩(メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩、塩酸塩、クエン酸塩)は砂や粒状であり、製剤の加工や取扱の観点からより好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、結晶形Aの形態のEGFR阻害剤メタンスルホン酸塩のXRPDパターンである。
図2図2は、結晶形Aの形態のEGFR阻害剤メタンスルホン酸塩のDSCパターンである。
図3図3は、結晶形Bの形態のEGFR阻害剤p-トルエンスルホン酸塩のXRPDパターンである。
図4図4は、結晶形Bの形態のEGFR阻害剤p-トルエンスルホン酸塩のDSCパターンである。
図5図5は、結晶形Cの形態のEGFR阻害剤リン酸塩のXRPDパターンである。
図6図6は、結晶形Cの形態のEGFR阻害剤リン酸塩のDSCパターンである。
図7図7はアモルファス形態のEGFR阻害剤リン酸塩のXRPDパターンである。
図8図8は、結晶形Dの形態のEGFR阻害剤塩酸塩のXRPDパターンである。
図9図9は、結晶形Dの形態のEGFR阻害剤塩酸塩のDSCパターンである。
図10図10は、結晶形Eの形態のEGFR阻害剤クエン酸塩のXRPDパターンである。
図11図11は、結晶形Eの形態のEGFR阻害剤クエン酸塩のDSCパターンである。
図12図12は、結晶形Aの形態のEGFR阻害剤メタンスルホン酸塩の安定性試験結果(XRPDの比較)であり、下から順に試料の初期時点で測定したXRPDパターン、40℃/75%RHの条件下で試料を1ヶ月保管後に測定したXRPDパターンである。
図13図13は、結晶形Bの形態のEGFR阻害剤p-トルエンスルホン酸塩の安定性試験結果(XRPDの比較)であり、下から順に試料の初期時点で測定したXRPDパターン、40℃/75%RHの条件下で試料を1ヶ月保管後に測定したXRPDパターンである。
図14図14は、結晶形Cの形態のEGFR阻害剤リン酸塩の安定性試験結果(XRPDの比較)であり、下から順に試料の初期時点で測定したXRPDパターン、40℃/75%RHの条件下で試料を1ヶ月保管後に測定したXRPDパターンである。
図15図15はアモルファス形態のEGFR阻害剤リン酸塩の安定性試験結果(XRPDの比較)であり、下から順に試料の初期時点で測定したXRPDパターン、40℃/75%RHの条件下で試料を1ヶ月保管後に測定したXRPDパターンである。
図16図16は、結晶形Dの形態のEGFR阻害剤塩酸塩の安定性試験結果(XRPDの比較)であり、下から順に試料の初期時点で測定したXRPDパターン、40℃/75%RHの条件下で試料を1ヶ月保管後に測定したXRPDパターンである。
図17図17は、結晶形Eの形態のEGFR阻害剤クエン酸塩の安定性試験結果(XRPDの比較)であり、下から順に試料の初期時点で測定したXRPDパターン、40℃/75%RHの条件下で試料を1ヶ月保管後に測定したXRPDパターンである。
図18図18は、遊離塩基形態のEGFR阻害剤のH-NMRスペクトルである。
図19図19は、遊離塩基形態のEGFR阻害剤の質量スペクトルである。
図20図20は、結晶形Aの形態のEGFR阻害剤メタンスルホン酸塩のH-NMRスペクトルである。
図21図21は、結晶形Bの形態のEGFR阻害剤p-トルエンスルホン酸塩のH-NMRスペクトルである。
図22図22は、結晶形Cの形態のEGFR阻害剤リン酸塩のH-NMRスペクトルである。
図23図23は、結晶形Dの形態のEGFR阻害剤塩酸塩のH-NMRスペクトルである。
図24図24は、結晶形Eの形態のEGFR阻害剤クエン酸塩のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、EGFR阻害剤の薬学的な塩を提供し、前記EGFR阻害剤の構造式は式Iで表されるものである(化学名N-(2-((2-(ジメチルアミノ)エチル)(メチル)アミノ)-4-メトキシ-5-((4-(1-メチル-1H-ピロロ[3,2-b]ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)フェニル)アクリルアミド)。
【0034】
【化2】
【0035】
前記薬学的な塩として、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩、塩酸塩又はクエン酸塩が挙げられる。
【0036】
特に断りがない限り、本発明におけるEGFR阻害剤とは、上記化合物を意味する。
【0037】
本発明はさらに、前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形を提供する。
【0038】
前記薬学的な塩がメタンスルホン酸塩である場合、前記結晶形は結晶形Aであり、本発明の一実施形態において、5.8°±0.2°、6.8°±0.2°、11.5°±0.2°、12.0°±0.2°、13.5°±0.2°、14.0°±0.2°、14.8°±0.2°、15.6°±0.2°、17.2°±0.2°、17.5°±0.2°、18.1°±0.2°、18.6°±0.2°、19.0°±0.2°、21.6°±0.2°、22.2°±0.2°、24.0°±0.2°、24.6°±0.2°、27.2°±0.2°、27.7°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。さらに、前記結晶形Aの粉末X線回折パターンは実質的に図1に示すとおりである。さらに、本発明の実施形態において、前記結晶形Aの示差走査熱量測定パターンは実質的に図2に示すとおりである。
【0039】
前記薬学的な塩がp-トルエンスルホン酸塩である場合、前記結晶形は結晶形Bであり、本発明の一実施形態において、7.8°±0.2°、10.2°±0.2°、10.6°±0.2°、11.2°±0.2°、11.7°±0.2°、12.9°±0.2°、14.2°±0.2°、15.1°±0.2°、16.1°±0.2°、16.5°±0.2°、18.1°±0.2°、18.7°±0.2°、19.7°±0.2°、21.0°±0.2°、21.4°±0.2°、22.4°±0.2°、23.2°±0.2°、23.7°±0.2°、24.3°±0.2°、24.8°±0.2°、26.9°±0.2°、28.0°±0.2°、29.5°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。さらに、前記結晶形Bの粉末X線回折パターンは実質的に図3に示すとおりである。さらに、前記結晶形Bの示差走査熱量測定パターンは実質的に図4に示すとおりである。
【0040】
前記薬学的な塩がリン酸塩である場合、前記結晶形は結晶形Cであり、本発明の一実施形態において、8.9°±0.2°、11.2°±0.2°、11.9°±0.2°、12.6°±0.2°、14.1°±0.2°、16.0°±0.2°、16.8°±0.2°、17.8°±0.2°、19.9°±0.2°、20.5°±0.2°、21.4°±0.2°、22.1°±0.2°、22.7°±0.2°、23.2°±0.2°、23.8°±0.2°、24.5°±0.2°、25.3°±0.2°、26.0°±0.2°、28.2°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。さらに、前記結晶形Cの粉末X線回折パターンは実質的に図5に示すとおりである。さらに、前記結晶形Cの示差走査熱量測定パターンは実質的に図6に示すとおりである。
【0041】
前記薬学的な塩が塩酸塩である場合、前記結晶形は結晶形Dであり、本発明の一実施形態において、7.8°±0.2°、9.8°±0.2°、13.8°±0.2°、14.5°±0.2°、15.5°±0.2°、16.0°±0.2°、16.2°±0.2°、16.7°±0.2°、17.1°±0.2°、18.2°±0.2°、20.5°±0.2°、21.3°±0.2°、21.9°±0.2°、22.5°±0.2°、23.5°±0.2°、24.6°±0.2°、25.8°±0.2°、26.3°±0.2°、27.6°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。さらに、前記結晶形Dの粉末X線回折パターンは実質的に図8に示すとおりである。さらに、前記結晶形Dの示差走査熱量測定パターンは実質的に図9に示すとおりである。
【0042】
前記薬学的な塩がクエン酸塩である場合、前記結晶形は結晶形Eであり、5.4°±0.2°、9.0°±0.2°、10.8°±0.2°、12.0°±0.2°、12.4°±0.2°、13.3°±0.2°、16.0°±0.2°、17.5°±0.2°、20.4°±0.2°、21.2°±0.2°、24.9°±0.2°、25.4°±0.2°の2θ値に、粉末X線回折パターンにおける特徴ピークを有する。さらに、前記結晶形Eの粉末X線回折パターンは実質的に図10に示すとおりである。さらに、前記結晶形Eの示差走査熱量測定パターンは実質的に図11に示すとおりである。
【0043】
前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形の製造方法は、遊離塩基形態のEGFR阻害剤と酸とを用いてアルコール系溶媒中又は水中で塩を形成させた後、ケトン系溶媒を添加して(好ましくは滴下して)晶析させることで、前記EGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形を得ることを含む。遊離塩基形態のEGFR阻害剤と酸は、好ましくは等モルで塩を形成する。
【0044】
好ましくは、前記アルコール系溶媒の炭素原子数は1~6である。より好ましくは、前記アルコール系溶媒はメタノール又はエタノールである。
【0045】
好ましくは、前記製造方法において、前記アルコール系溶媒と前記EGFR阻害剤との添加量の比は2~5ml:1gであり、好ましくは3ml:1gである。
【0046】
好ましくは、前記製造方法において、前記ケトン系溶媒の炭素原子数は3~6であり、より好ましくは、前記ケトン系溶媒はアセトンである。
【0047】
好ましくは、前記製造方法において、前記ケトン系溶媒と前記EGFR阻害剤との添加量の比は10~30ml:1gであり、好ましくは20ml:1gである。
【0048】
前記EGFR阻害剤リン酸塩(アモルファス)の製造方法は、遊離塩基形態のEGFR阻害剤とリン酸とを、塩を形成させた後、ケトン系溶媒を添加して固体を析出させることを含む。
【0049】
遊離塩基形態のEGFR阻害剤とリン酸は、好ましくは等モルで塩を形成する。好ましくは、前記製造方法において、前記ケトン系溶媒の炭素原子数は3~6であり、より好ましくは、前記ケトン系溶媒はアセトンである。
【0050】
本発明の具体的な実施形態において、以下、図面及び具体的な実施例を用いて本発明の構成をさらに説明する。以下の実施例は本発明を解釈・説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0051】
本発明における英略語の意味は以下のとおりである。
XRPD:粉末X線回折。
DSC:示差走査熱量測定。
H-NMR:プロトン核磁気共鳴。
LC-MS:液体クロマトグラフィー質量分析。
【0052】
以下の実施例で用いたEGFR阻害剤は自製したものであり、純度99.7%で、外観が淡黄色の粒状固体である。製造方法は中国特許出願CN106132957Aを参照し、構造確認データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ10.30(1H,s),9.67(1H,s),9.32(1H,s),8.56~8.54(1H,dd),8.47~8.46(1H,d),8.25~8.24(1H,d),8.05~8.03(1H,d),7.73(1H,s),7.32~7.29(1H,dd),7.08(1H,s),6.53~6.38(2H,m),5.87~5.84(1H,dd),4.02(3H,s),3.93(3H,s),2.92~2.89(2H,t),2.72(3H,s),2.30(2H,s),2.24(6H,s)(図18参照)。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+図19参照)。
【実施例1】
【0053】
EGFR阻害剤メタンスルホン酸塩(結晶形A)。
【0054】
室温下で、遊離塩基形態のEGFR阻害剤(12.0g、24mmol)を量り取って500mL一口フラスコに入れ、エタノール36mLを加えた。メタンスルホン酸(2.32g、24mmol)を加え、40~50℃で撹拌して溶解させた。その後、アセトン240mLを滴下し、0~5℃で撹拌して、灰色の固体を析出させた。減圧ろ過し、ケーキを少量のアセトンで濯ぎ洗浄し、真空オーブンにより60℃で乾燥させて、薄茶色の固体を得た(10.1g、純度99.0%、水分0.97%、融点150.5~152.8℃)。
【0055】
上記製品の構造確認データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ9.47(1H,s),9.39(1H,s),9.30(1H,s),9.15(1H,s),8.62(1H,s),8.56~8.55(1H,d),8.48~8.47(1H,d),8.25~8.24(1H,d),8.06~8.04(1H,d),7.76(1H,s),7.33~7.30(1H,m),7.06(1H,s),6.83~6.79(1H,dd),6.46~6.41(1H,d),5.89~5.86(1H,d),4.00(3H,s),3.95(3H,s),3.27(4H,m),2.84(6H,s),2.64(3H,s),2.29(3H,s)(図20参照)。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+
【0056】
分析した結果、本実施例で得られた固体はEGFR阻害剤メタンスルホン酸塩であることが分かった。この結晶形を結晶形Aという。この結晶形のXRPDデータを表1に示し、XRPDパターンを図1に示し、DSCパターンを図2に示す。
【0057】
【表1】
【実施例2】
【0058】
EGFR阻害剤p-トルエンスルホン酸塩(結晶形B)。
【0059】
室温下で、遊離塩基形態のEGFR阻害剤(9.0g、18mmol)を量り取って500mL一口フラスコに入れ、エタノール27mLを加えた。p-トルエンスルホン酸一水和物(4.56g、18mmol)を加え、40~50℃で撹拌して溶解させた。その後、アセトン240mLを滴下し、灰色の固体を析出させた。減圧ろ過し、ケーキを少量のアセトンで濯ぎ洗浄して乾燥させ、淡褐色の固体を得た(10.1g、純度98.7%、水分0.57%、融点240.1~243.2℃)。
【0060】
上記製品の構造確認データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ9.47(1H,s),9.37(1H,s),9.24(1H,s),9.14(1H,s),8.56~8.55(1H,d),8.48~8.47(1H,d),8.24~8.23(1H,d),8.07~8.05(1H,d),7.77(1H,s),7.50~7.49(2H,d),7.30~7.29(1H,m),7.06(1H,s),6.80~6.76(1H,dd),6.45~6.41(1H,d),5.88~5.86(1H,d),4.00(3H,s),3.95(3H,s),3.27(4H,m),2.84(3H,s),2.64(3H,s),2.29(3H,s)(図21参照)。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+
【0061】
分析した結果、本実施例で得られた固体はEGFR阻害剤p-トルエンスルホン酸塩であることが分かった。この結晶形を結晶形Bという。この結晶形のXRPDデータを表2に示し、XRPDパターンを図3に示し、DSCパターンを図4に示す。
【0062】
【表2】
【実施例3】
【0063】
EGFR阻害剤リン酸塩(結晶形C)。
【0064】
室温下で、遊離塩基形態のEGFR阻害剤(3.0g、6mmol)を量り取って250mL一口フラスコに入れ、エタノール9mLを加えた。85wt%のリン酸水溶液(0.69g、リン酸として6mmol)を加え、2時間撹拌して溶解させた。その後、アセトン60mLを滴下し、灰色の固体を析出させた。減圧ろ過し、ケーキを少量のアセトンで濯ぎ洗浄して乾燥させ、褐色の固体を得た(3.5g、純度97.9%、水分1.07%、融点182.5~184.8℃)。
【0065】
上記製品の構造確認データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ10.11(1H,s),9.60(1H,s),9.27(1H,s),8.56~8.54(1H,d),8.47~8.46(1H,d),8.24~8.23(1H,d),8.05~8.03(1H,d),7.73(1H,s),7.32~7.29(1H,m),7.06(1H,s),6.69~6.64(1H,dd),6.42~6.38(1H,d),5.85~5.82(1H,dd),4.02(3H,s),3.94(3H,s),3.04~3.01(2H,m),2.69(3H,s),2.64(2H,s),2.42(6H,s)(図22参照)。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+
【0066】
分析した結果、本実施例で得られた固体はEGFR阻害剤リン酸塩であることが分かった。この結晶形を結晶形Cという。この結晶形のXRPDデータを表3に示し、XRPDパターンを図5に示し、DSCパターンを図6に示す。
【0067】
【表3】
【実施例4】
【0068】
EGFR阻害剤リン酸塩(アモルファス)
【0069】
室温下で、遊離塩基形態のEGFR阻害剤(9.0g、18mmol)を量り取って500mL一口フラスコに入れ、85wt%のリン酸水溶液(2.08g、リン酸として18mmol)を加え、40~50℃で撹拌して溶解させた。その後、アセトン180mLを滴下し、灰色の固体を析出させた。減圧ろ過し、ケーキを少量のアセトンで濯ぎ洗浄して乾燥させ、薄灰色の固体を得た(11.0g、純度98.5%)。
【0070】
上記製品の構造確認データを以下に示す。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+
【0071】
分析した結果、本実施例で得られた固体はEGFR阻害剤リン酸塩のアモルファス粉末であることが分かった。そのXRPDパターンを図7に示す。
【実施例5】
【0072】
EGFR阻害剤塩酸塩(結晶形D)。
【0073】
室温下で、遊離塩基形態のEGFR阻害剤(15.0g、30mmol)を量り取って500mL一口フラスコに入れ、濃塩酸(2.5mL、塩化水素として30mmol)のエタノール(45mL)溶液を加え、40~50℃で撹拌して溶解させた。その後、アセトン360mLを滴下し、灰色の固体を析出させた。減圧ろ過し、ケーキを少量のアセトンで濯ぎ洗浄して乾燥させ、褐色の固体を得た(15g、純度99.2%、水分0.77%、融点250.5℃~152.8℃)。
【0074】
上記製品の構造確認データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ10.55(1H,s),9.76(1H,s),9.46(1H,s),9.17(1H,s),8.56~8.55(1H,d),8.47~8.46(1H,d),8.23(1H,s),8.06(1H,s),7.77(1H,s),7.35~7.28(2H,d),7.01(1H,s),6.62~6.38(1H,dd),5.82~5.79(1H,d),4.00(3H,s),3.95(3H,s),3.28(4H,s),2.76~2.75(6H,s),2.61(3H,s)(図23参照)。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+
【0075】
分析した結果、本実施例で得られた固体はEGFR阻害剤塩酸塩であることが分かった。この結晶形を結晶形Dという。この結晶形のXRPDデータを表4に示し、XRPDパターンを図8に示し、DSCパターンを図9に示す。
【0076】
【表4】
【実施例6】
【0077】
EGFR阻害剤クエン酸塩(結晶形E)。
【0078】
室温下で、遊離塩基形態のEGFR阻害剤(10.0g、20mmol)を量り取って500mL一口フラスコに入れ、エタノール30mLを加えた。クエン酸一水和物(4.2g、20mmol)を加え、40~50℃で撹拌して溶解させた。その後、アセトン200mLを滴下し、灰色の固体を析出させた。減圧ろ過し、ケーキを少量のアセトンで濯ぎ洗浄して乾燥させ、薄灰色の固体を得た(11.3g、純度98.9%、水分0.97%、融点193.1~195.6℃)。
【0079】
上記製品の構造確認データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ11.5~10.5(4H,s),9.68(1H,s),9.54(1H,s),9.20(1H,s),8.56~8.55(1H,d),8.48~8.47(1H,d),8.24~8.23(1H,d),7.75(1H,s),7.32~7.30(1H,d),7.07(1H,s),6.69~6.67(1H,dd),6.44~6.40(1H,d),5.89~5.86(1H,d),4.01(3H,s),3.95(3H,s),3.13(3H,m),2.95(2H,s),2.64~2.59(10H,s),2.57(2H,s)(図24参照)。
ESI-MS:m/z501.2[M+H],251.2[M+2H]2+
【0080】
分析した結果、本実施例で得られた固体はEGFR阻害剤クエン酸塩であることが分かった。この結晶形を結晶形Eという。この結晶形のXRPDデータを表5に示し、XRPDパターンを図10に示し、DSCパターンを図11に示す。
【0081】
【表5】
【実施例7】
【0082】
結晶形の吸湿性に関する研究
【0083】
実施例1~3及び5~6における各結晶形態のEGFR阻害剤の薬学的な塩、実施例4におけるアモルファス形態のEGFR阻害剤リン酸塩、および遊離塩基形態のEGFR阻害剤に関して、吸湿性の比較研究を行った。「中国薬典」2015年版通則9103の方法(25℃±1℃の温度、80%±2%の相対湿度)で実験した。結果を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
結果によれば、25℃/RH80%の条件下では、本発明に係るEGFR阻害剤の薬学的な塩の結晶形6つのうち、p-トルエンスルホン酸塩の結晶形B、塩酸塩の結晶形D及びアモルファスリン酸塩はいずれも遊離塩基形態のEGFR阻害剤よりも吸湿性が低く、クエン酸塩の結晶形Eはそれと同等な吸湿性を有し、メタンスルホン酸塩の結晶形A及びリン酸塩の結晶形Cはそれよりも吸湿性が高い。
【0086】
吸湿性特徴の記述と吸湿性重量増加の定義
(中国薬典2015年版通則9103 「薬物吸湿性試験指導原則」参照)
潮解性:十分な水分を吸収すると、液体となる。
高吸湿性:吸湿による重量増加が15%以上である。
吸湿性有り:吸湿による重量増加が15%未満で2%以上である。
低吸湿性:吸湿による重量増加が2%未満で0.2%以上である。
吸湿性無し又は実質的に吸湿性無し:吸湿による重量増加が0.2%未満である。
【実施例8】
【0087】
結晶形の溶解性に関する研究
【0088】
中国薬典及び生物薬剤学分類システム(BCS)の要件に照らして、実施例1~3及び5~6における各結晶形態のEGFR阻害剤の薬学的な塩を分類する。
【0089】
(a)中国薬典2015年版の凡例における溶解性関連要件
【0090】
【表7】
【0091】
(b)BCSにおける溶解性関連要件
Do=(Mo/Vo)/Cs;
【0092】
ここで、Doは用量指数であり、Moは1回あたりの薬物の最高用量であり(オクテチニブの用量を参考にして仮に80mgとする)、Voは薬物溶解に必要な体液の体積(約250ml)であり、Csは薬物の飽和溶解度である。
【0093】
Do≦1の場合は高溶解性とし、Do>1の場合は低溶解性とする。
【0094】
(c)実験経過及び結果
EGFR阻害剤の遊離塩基を対照とし、濃度とピーク面積について直線回帰分析を行い、0.025~1.5mg/mlの範囲で、対応する線形方程式A=19775.0411c+2.4256を得、r=1.0000であった。
【0095】
水を溶媒として、実施例1~3及び5~6で作製されたEGFR阻害剤のメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩、塩酸塩及びクエン酸塩をそれぞれ適量取って飽和溶液を調製した。それぞれ1時間、4時間、24時間保管した後、サンプリングして分析し、線形方程式により飽和状態時の各試料の濃度を算出して結果を表8に示す。
【0096】
【表8】
【0097】
人工胃液を溶媒として、実施例1~6で作製されたEGFR阻害剤のメタンスルホン酸塩(結晶形A)、p-トルエンスルホン酸塩(結晶形B)、リン酸塩(結晶形C)、リン酸塩(アモルファス)、塩酸塩(結晶形)及びクエン酸塩(結晶形E)をそれぞれ適量取って飽和溶液を調製した。それぞれ1時間、4時間、24時間保管した後、サンプリングして分析し、線形方程式により飽和状態時の各試料の濃度を算出して結果を表9に示す。
【0098】
【表9】
【0099】
(d)結論
本発明で作製されたEGFR阻害剤のメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、リン酸塩(結晶形C)、リン酸塩(アモルファス)塩酸塩及びクエン酸塩という6つの薬学的な塩及びEGFR阻害剤の遊離塩基はいずれも、人工胃液での溶解度が水中での溶解度より高く、かつ、いずれも顕著な分解は生じなかった。また、水と人工胃液の両方において、本発明で作製された薬学的な塩の溶解度は遊離塩基の溶解度より遥かに高く、塩の形成により、遊離塩基の溶解度が低いという問題が改善されたと分かった。BCS溶解性基準によれば、5つの薬学的な塩は水及び人工胃液でのDo値が1未満であった。中国薬典2015年版の凡例における溶解度を参照して分類した結果、EGFR阻害剤のメタンスルホン酸塩、リン酸塩(結晶形C)、リン酸塩(アモルファス)及びクエン酸塩は、水及び人工胃液での溶解度が高いと分かった。
【実施例9】
【0100】
結晶形の安定性に関する研究
【0101】
実施例1~6における6つのEGFR阻害剤の薬学的な塩を40℃/75%RHの条件下で保管することにより、1ヶ月の加速安定性研究を行った。0、1ヶ月末にそれぞれ1回サンプリングし、試料の形状、純度及び結晶形の安定性(XRPDパターン)を重点として観察し、結果を表10に示す。メタンスルホン酸塩結晶形Aの安定性結果を図12に示し、p-トルエンスルホン酸塩結晶形Bの安定性結果を図13に示し、リン酸塩結晶形Cの安定性結果を図14に示し、リン酸塩アモルファス粉末の安定性結果を図15に示し、塩酸塩結晶形Dの安定性結果を図16に示し、クエン酸塩結晶形Eの安定性結果を図17に示す。
【0102】
【表10】
【0103】
実験結果によれば、実験条件下で1ヶ月保管した後、本発明の6つのEGFR阻害剤の薬学的な塩はいずれも安定で、変わりがなく、良好な安定性を示した。安定とは、液体クロマトグラフィー、XRPD等の分析手段を用いた結果、分解が発生しておらず、他の結晶形への転移も確認されなかったことをいう。
【0104】
上述した吸湿性、溶解性及び安定性の研究結果から、本発明のEGFR阻害剤の薬学的な塩及びその特定の結晶形は、優れた物理化学的特性を有し、より医薬開発に適し、生物学的利用能及び有効性などへの要望に応えられる。
【0105】
以上の実施例は、本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を限定するものではない。以上の実施例を用いて本発明を詳しく説明したが、上述した各実施例に記載の発明を変更したり、その構成の一部を同等のものに置き換えたりすることが可能であることは、当業者には理解される。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で行われるいずれの変更、同等の変形や改善はすべて、本発明の権利範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18
図19
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図21
図22
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