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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】歯科用補綴物用の解除装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/16 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
A61C3/16
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019517773
(86)(22)【出願日】2017-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 GB2017052860
(87)【国際公開番号】W WO2018060683
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】1616389.1
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1619710.5
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519109900
【氏名又は名称】ハロゲート インプラント イノベーションズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HARROGATE IMPLANT INNOVATIONS LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ドズウェル、ティム
(72)【発明者】
【氏名】イーガン、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル、スティーブン
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-078489(JP,A)
【文献】特開2002-153493(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01224920(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌めからの歯科用補綴物の解除を補助するための摩擦嵌め型歯科用補綴物用の解除装置であって、
前記歯科用補綴物への取り付けのためのハウジングであって、歯科用インプラントまたは歯科用コネクタを受け入れて該歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌めを形成するように動作可能な取付室を備えるハウジングと、
前記ハウジングの前記取付室の長手方向軸線を横切る軸線を中心とする回転運動によって第1の位置から第2の位置に前記ハウジングに対して移動可能である解除部材と、を備えており、
前記解除部材が前記第1の位置にあるときに、前記解除装置が、前記インプラントまたはコネクタと前記補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能ではなく、かつ前記解除部材が前記第2の位置にあるときに、前記解除装置が、前記インプラントまたはコネクタと前記補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するために前記インプラントまたはコネクタに当接するよう動作可能であるように、前記解除装置が前記補綴物内に配置されており、前記解除部材が前記ハウジングの内部において捕捉された解除部材である、解除装置。
【請求項2】
前記ハウジングの前記取付室が着脱壁を備える、請求項1に記載の解除装置。
【請求項3】
前記着脱壁が保護キャップである、請求項に記載の解除装置。
【請求項4】
前記ハウジングの外面が、前記解除装置を前記補綴物内に保持するのを補助するように動作可能な保持部材を備える、請求項1~のいずれか一項に記載の解除装置。
【請求項5】
前記解除装置が、段階的なレベルの分離力を与えるように動作可能である、請求項1~のいずれか一項に記載の解除装置。
【請求項6】
前記解除部材が取り外し可能に捕捉される、請求項1~のいずれか一項に記載の解除装置。
【請求項7】
前記解除装置が、前記解除装置を前記補綴物の咬合表面または頬側表面上で作動させることができるように前記補綴物内に配置されるかまたは配置されるように動作可能である、請求項1~のいずれか一項に記載の解除装置。
【請求項8】
前記解除部材が前記取付室よりも上に配置される、請求項1~のいずれか一項に記載の解除装置。
【請求項9】
前記解除部材が、前記ハウジングの前記取付室内に延びるように動作可能であり、前記第2の位置では、前記解除部材が、前記第1の位置においてよりも更に前記取付室内に延びる、請求項に記載の解除装置。
【請求項10】
前記解除部材がカムを備え、前記カムが、前記第2の位置において前記支台またはインプラントに接触して分離力を付与する凸部を備える、請求項1~のいずれか一項に記載の解除装置。
【請求項11】
歯科用インプラントまたは歯科用コネクタへの摩擦嵌め取り付けを形成するための歯科用補綴物であって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の解除装置を備える、歯科用補綴物。
【請求項12】
前記歯科用補綴物が、クラウン、ブリッジまたは義歯である、請求項11に記載の歯科用補綴物。
【請求項13】
部品キットであって、
歯科用インプラント、または歯科用インプラントへの取り付けのための歯科用コネクタ、あるいはこれら両方と、
請求項11に記載の歯科用補綴物と、を備える、部品キット。
【請求項14】
前記歯科用補綴物が、クラウン、ブリッジまたは義歯である、請求項13に記載の部品キット。
【請求項15】
部品キットであって、
歯科用補綴物を形成するための組成物と、
請求項1~10のいずれか一項に記載の解除装置と、を備える、部品キット。
【請求項16】
部品キットであって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の解除装置を備えており、
前記解除部材を前記第1の位置から前記第2の位置へと作動させるように動作可能な嵌合具を更に備える、部品キット。
【請求項17】
請求項11に記載の歯科用補綴物の製造方法であって、
a.新たな補綴物の製造中に前記解除装置を補綴物内に組み込むステップと、
b.補綴物に穴を開けて前記解除装置を前記穴内に接合するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用補綴物用の解除装置に関する。より具体的には、本発明は、摩擦嵌め型歯科用補綴物内で使用される解除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラウン、ブリッジおよび義歯などの、歯科用補綴物は、欠損歯を代替するために一般的に使用される。そのような補綴物は、いくつかの方法のうちの1つ(他の歯との接続、歯科用インプラントへの接続、吸着、または周囲の筋肉による受動的保持)により口内の適所に保持され得る。
【0003】
歯科用インプラントの使用は通常、インプラントを顎骨に挿入することを伴う。そのようなものとして、歯科用インプラントは、口への他の取り付け方法と比較してもたらされる天然歯組織の安定性および保存性の向上のために好まれる可能性がある。
【0004】
歯科用補綴物は、歯科用インプラントに直接取り付けるか、またはインプラントと補綴物との間の中間体としての機能を果たす、プレススタッド式の接続、バーもしくは円錐状支台などのコネクタを介して取り付けることができる。概して、補綴物は、何らかの形態の支台またはバーを介してインプラントに取り付く。
【0005】
補綴物とインプラントまたはコネクタとの取り付けは、固定するかまたは取り外し可能とすることができる。固定取り付けを形成する方法は、ねじまたは歯科用セメントを含む。しかしながら、補綴物および支持用コネクタを自宅で簡単に掃除できるように使用者が歯科用補綴物自体を取り外すことができる歯科用補綴物を使用者に提供することが求められている。この要求の一部は、歯科用インプラントの不具合を招く可能性のある、「インプラント周囲炎」と呼ばれる状態に対する懸念の高まりから生まれたものである。「固定」インプラント補綴物を自宅でのメンテナンス用に設計することができるが、これにより、使用者が受け入れ難いと感じ得るほど歯の美観が損なわれる可能性がある。
【0006】
歯科用インプラントを用いた取り外し可能な取り付け方法の使用により、美観に対する制御の向上をもたらすと同時に使用者が補綴物およびコネクタを掃除するために補綴物を自由に取り外すことを可能にする手段を提供することができる。取り外し可能な取り付けは、プレススタッド式の接続または補綴物とインプラントもしくはコネクタとの摩擦嵌めの形成などの方法を用いて実現されてもよい。取り外し可能な補綴物もまた、使用中に十分な安定性を与えなければならない。プレススタッド式の接続が一般的に使用されるが、この種類の取り付けは、経時的に緩む可能性があり、その後、咀嚼機能中に動いて外れることがある。一方で、摩擦嵌め取り付けは、より一層の安定性を与えることができる。この種類の取り付けには、通常、使用中に所望のレベルの安定性を与えるために金属間の摩擦嵌めが用いられる。取り外し可能な1組の歯を使用者に提供するが、より「固定された」感触を与える、バーおよび円錐状支台のような、様々な金属間摩擦嵌め接続が開発されている。
【0007】
しかしながら、摩擦嵌め接続は優れたレベルの機能を提供するが、使用者が、補綴物とインプラントまたはコネクタとの間に生じるシールの強度のため、補綴物を取り外すのに苦労する可能性があることが分かっている。そのようなものとして、使用者は、補綴物を取り外すために臨床支援を求めることを当てにしなければならず、その結果、衛生状態が低下し、ならびに/または費用および時間の支出が増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、摩擦嵌め取り付けにより与えることができる良好な安定性および美観を維持したまま使用者が摩擦嵌め型歯科用補綴物を容易かつ安全に取り外すことを可能にする手段が必要である。それゆえ、本発明の態様の目的は、上述または他の問題の1つまたは複数を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌めからの歯科用補綴物の解除を補助するための摩擦嵌め型歯科用補綴物用の解除装置であって、
歯科用補綴物への取り付けのためのハウジングと、
第1の位置から第2の位置にハウジングに対して移動可能である解除部材とを備え、
解除部材が第1の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能ではなく、かつ解除部材が第2の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能であるように、解除装置が補綴物内に配置される、
前記解除装置が提供される。
【0010】
有利には、使用者の手のみで補綴物を取り外すには強度が高すぎるシールが補綴物とインプラントまたはコネクタとの間に形成された場合、使用者は、シールを破壊するのに十分な力を与えるために解除装置の解除部材を作動させるだけでよく、その後、いずれも臨床的介入を必要とせずに、より簡単に補綴物を手で取り外すことができる。それゆえ、本発明は、補綴物、インプラントおよびコネクタの有効な衛生状態を使用者が更なる臨床支援を必要とせずに維持するのを許容すると同時に、所望の美観および十分な安定性を有する補綴物を実現する。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、歯科用インプラントまたは歯科用コネクタへの摩擦嵌め取り付けを形成するための歯科用補綴物であって、
第1の位置から第2の位置に補綴物に対して移動可能である解除部材を備える解除装置を備え、
解除部材が第1の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能ではなく、かつ解除部材が第2の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能である、
歯科用補綴物が提供される。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、部品キットであって、
歯科用インプラントおよび/または歯科用インプラントへの取り付けのための歯科用コネクタと、
インプラントまたはコネクタとの摩擦嵌めを形成するように動作可能な歯科用補綴物であって、第1の位置から第2の位置に補綴物に対して移動可能である解除部材を備える解除装置を備える補綴物とを備え、
解除部材が第1の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能ではなく、かつ解除部材が第2の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能である、
部品キットが提供される。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、部品キットであって、
歯科用補綴物を形成するための組成物と、
歯科用補綴物への取り付けのためのハウジングを備える解除装置であって、第1の位置から第2の位置にハウジングに対して移動可能である解除部材を更に備える解除装置とを備え、
解除部材が第1の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能ではなく、かつ解除部材が第2の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能であるように、解除装置が補綴物内に配置される、
部品キットが提供される。
【0014】
本発明の第5の態様によれば、部品キットであって、
歯科用インプラントまたは歯科用コネクタからの歯科用補綴物の解除を補助するための摩擦嵌め型歯科用補綴物用の解除装置であって、歯科用補綴物への取り付けのためのハウジングと、第1の位置から第2の位置にハウジングに対して移動可能である解除部材とを備える解除装置を備え、
解除部材が第1の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能ではなく、かつ解除部材が第2の位置にあるときに、解除装置が、インプラントまたはコネクタと補綴物との間の摩擦嵌め取り付けに対する分離力を付与するように動作可能であるように、解除装置が補綴物内に配置され、
キットが、解除部材を第1の位置から第2の位置へと作動させるように動作可能な嵌合具を更に備える、
部品キットが提供される。
【0015】
本発明の第6の態様によれば、本発明の第2の態様による歯科用補綴物と歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌めの解除方法であって、
a.補綴物が歯科用インプラントまたは歯科用コネクタから解除されるように解除部材を第1の位置から第2の位置へと作動させるステップ
を含む、方法が提供される。
【0016】
解除装置は、補綴物の製造中に組み込まれてもよく、または既存の補綴物に後付けされてもよい。本発明の第7の態様によれば、本発明の第2の態様による歯科用補綴物の製造方法であって、
a.新たな補綴物の製造中に解除装置を補綴物内に組み込むステップと、
b.補綴物に穴を開けて解除装置を穴内に接合するステップと
を含む、方法が提供される。
【0017】
本発明の第8の態様によれば、本発明の任意の態様による解除装置、補綴物、歯科用インプラントおよび/または歯科用コネクタを3Dプリンタに印刷させるように適合されたコンピュータ実行可能命令を有するコンピュータ可読媒体が提供される。
【0018】
本発明の第9の態様によれば、歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌め取り付けからの歯科用補綴物の解除のための本発明の第1の態様による解除装置の使用が提供される。
【0019】
本発明の解除装置は、装置が補綴物と歯科用インプラントおよび/または歯科用コネクタとの摩擦嵌めの解除を作動させ得るように歯科用補綴物内に配置される。
好適には、解除装置は、幅、奥行きおよび高さがそれぞれ最大20mm、例えば最大15mmまたは最大10mmである。そのようなものとして、解除装置は、前述の大きさよりも大きな寸法を有さなくてもよい。歯科用補綴物の所望の美観および機能性を実現するために解除部材に適した大きさが重要であることが分かるであろう。
【0020】
本発明の第2および第3の態様の解除装置は、ハウジングを備え得る。
解除装置のハウジングは、金属、好ましくはチタンで形成されてもよい。好適には、ハウジングは、一体に形成されるかまたは別個の構成要素で形成され、好ましくは、ハウジングは一体に形成される。
【0021】
ハウジングの外面は任意の好適な形状を備え得る。ハウジングの外面は、実質的に円筒状であってもよい。
ハウジングの外面は、補綴物内に解除装置を保持するのを補助するように動作可能な保持部材を備え得る。保持部材は、1つまたは複数のラグ、好適にはハウジングから外方に延びる離間して配置された複数のラグを備え得る。
【0022】
好適には、解除部材は、嵌合具を使用して解除部材の作動のためのてこ作用を与えるように嵌合具と協働するように動作可能な係合手段を備える。前記係合手段は、ねじ駆動部を含み得る。ねじ駆動部は、それぞれの嵌合具と協働するように動作可能である任意の好適な形状であってもよい。好ましくは、ねじ駆動部は、六角型ねじ駆動部である。
【0023】
本発明の態様のいずれかは、解除部材を第1の位置から第2の位置へと作動させるように動作可能な嵌合具を更に備え得る。好適には、嵌合具は、角度の補正されたねじ回しである。好ましくは、嵌合具は、解除部材上のねじ駆動部と協働するように動作可能な解除部材係合部分を備える。好適には、嵌合具は、把手部分と解除部材係合部分との間に延びる角度付きシャフトを備える。好適には、シャフトは、20°~160°、例えば、40°~140°、または60°~120°、または80°~100°の角度が付けられ、好ましくは、シャフトは略90°の角度が付けられる。
【0024】
解除部材は、並進運動および/または回転運動により、好ましくは回転運動により第1の位置から第2の位置に移動してもよい。解除装置は、任意の好適な材料で形成されてもよい。好適には、解除装置は、チタンなどの金属から形成される。
【0025】
ハウジングおよび/または補綴物は、第2の位置に解除部材を保持するように動作可能であってもよい。「保持」とは、補綴物とインプラントまたはコネクタとの取り付けを解除するために解除部材の運動により生じる機械的利点が補綴物とインプラントまたはコネクタとの取り付けに発揮されることを可能にするのに十分な期間にわたってハウジングおよび/または補綴物が解除部材を第2の位置に保つことができることを意味する。
【0026】
好適には、解除装置は、段階的なレベルの分離力を与えるように動作可能である。好ましくは、ハウジングまたは補綴物は、2つ以上の位置に解除部材を保持するように動作可能であり、これらの位置では、分離力が加わるように作用可能である。例えば、ハウジングまたは補綴物は、解除装置が補綴物とインプラントまたはコネクタとの間に分離力を付与することを各位置が可能にし、かつ異なる位置が異なる量の分離力を与える、いくつかの異なる位置に解除部材を保持することができてもよい。例えば、ハウジングまたは補綴物は、解除部材により加わる分離力の量が位置2aから位置2cへと増加する位置2a、2bまたは2cに解除部材を保持することができてもよい。好適には、解除部材およびハウジングおよび/または補綴物は、協働する螺旋状ねじ山を備える。段階的なレベルの力は、解除部材およびハウジングまたは補綴物に配置された協働する螺旋状ねじ山により与えられてもよい。そのようなものとして、補綴物とインプラントまたはコネクタとを分離するように加えられる力の量は、形成されたシールの強度に応じて異なってもよい。
【0027】
好適には、本発明の任意の態様の解除装置の解除部材は、ハウジングおよび/または補綴物内の捕捉された解除部材である。「捕捉された」とは、解除部材の取り外しを可能にする方式でそれぞれのハウジング、補綴物および/または解除部材を変形させなければ解除部材をハウジングおよび/または補綴物から取り外すことができないことを意味する。好ましくは、解除部材は、ハウジング内の捕捉室内に捕捉されて保持される。
【0028】
好ましくは、解除部材は取り外し可能に捕捉される。ハウジングの捕捉室は、壁の着脱によりハウジングからの解除部材の取り外しが許容されるように着脱壁を備え得る。
有利には、捕捉される解除部材を設けることにより、使用中に可動部が装置から分離される危険性が低減され、装置の安全性が向上する。更に、制御された方式で捕捉された解除部材が取り外し可能である場合、使用者は、必要であれば装置をより良好に掃除し、かつ/または解除部材が損傷した場合に解除部材を交換することができる。
【0029】
着脱壁は、保護キャップであってもよい。好適には、保護キャップは、捕捉室の上壁を形成する。任意選択的に、保護キャップは、捕捉室および/またはハウジングの側壁の一部を形成してもよい。保護キャップは、解除部材の係合手段へのアクセスを提供する開口を含み得る。好ましくは、開口が解除部材の係合手段へのアクセスを提供する一方で、保護キャップが解除部材の上面の一部分にわたって延びる。そのようなものとして、保護キャップは、解除部材の露出面の一部を保護すると同時に、解除部材が捕捉室から抜け出るのを防止してもよい。保護キャップは、解除部材の上面の周囲に上面よりも上に延びる隆起部を備え得る。そのようなものとして、保護キャップは、嵌合具を用いての解除部材の作動中における、例えば、嵌合具の滑りによる損傷から補綴物を保護してもよい。保護キャップの外面は、開口に向けて下方に傾斜させるかまたは勾配が付けられてもよい。保護キャップは、保護キャップおよびハウジングまたは補綴物に配置された協働する螺旋状ねじ山などの、任意の好適な手段によりハウジングまたは補綴物に取り外し可能に取り付け可能であってもよい。解除部材および保護キャップは、装置内への物質の侵入を防止するのに役立つように保護キャップの開口の周囲に密着嵌合を形成するように動作可能であってもよい。
【0030】
有利には、保護キャップの傾斜外面は、嵌合具を解除部材の係合手段内に案内するのに役立つ。
補綴物は、クラウン、ブリッジまたは義歯であってもよい。補綴物または補綴物組成物は、アクリルポリマー、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)などの、ポリマーから形成されるか、または複合樹脂もしくは陶材から形成されてもよい。
【0031】
解除装置は、解除装置を補綴物の咬合表面上で作動させることができるように歯科用補綴物内に配置されるように動作可能であるかまたは配置されてもよい。好適には、解除装置は、解除部材を補綴物の咬合表面上で作動させ得るように補綴物内に配置される。任意選択的に、解除装置は、咬合表面から離れた箇所に配置されてもよい。例えば、解除装置は、解除装置を補綴物の側部表面上、好ましくは頬側面上で作動させることができるように補綴物内に配置されるように動作可能であるかまたは配置されてもよい。有利には、解除部材の作動点を補綴物の咬合表面から離して配置することにより、解除装置内への食物の侵入の危険性が低減され、それにより、衛生状態が改善される。
【0032】
インプラントまたはコネクタが解除装置または補綴物との摩擦嵌め取り付けを形成するように動作可能である限り、任意の好適な種類の歯科用インプラントまたは歯科用コネクタが、存在する場合に、本発明と共に使用されてもよい。好適には、摩擦嵌め取り付けを形成するように動作可能なインプラントまたは支台の部分は、金属、好ましくはチタンで形成される。好ましくは、歯科用コネクタは、円錐状支台、バーおよび/または側面が平行なテレスコープ支台などの支台の形態であり、最も好ましくは円錐状支台である。
【0033】
解除装置の解除部材は、第2の位置において解除部材がインプラントまたはコネクタの表面に、好適にはインプラントまたはコネクタの外面に当接するように、補綴物内に配置されるかまたは配置されるように動作可能であってもよい。好ましくは、解除部材は、第1の位置ではインプラントまたはコネクタの表面に当接しないように動作可能である。コネクタが、コネクタをインプラントに接続するための取付手段を受け入れる孔を備える場合に、好適には、解除部材がコネクタの孔の幅よりも大きな幅を有する。
【0034】
補綴物は、好適な大きさの歯科用インプラントまたは歯科用コネクタを受け入れて歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌めを形成するように動作可能な取付室を備え得る。好適には、解除装置のハウジングは、歯科用インプラントまたは歯科用コネクタを受け入れて歯科用インプラントまたは歯科用コネクタとの摩擦嵌めを形成するように動作可能である取付室を備える。
【0035】
ハウジングまたは補綴物の取付室はテーパ形状とされてもよく、好適には、インプラントまたはコネクタを受け入れるように動作可能である開放端部における最も広い箇所から上方に狭まるようなテーパ形状とされる。好ましくは、室は、0.1°~15°の角度、例えば、1°~10°、または2°~8°または3°~7°または4°~6°の角度でテーパ形状をなす。好ましくは、室の内表面は、実質的に平滑である。好ましくは、室の内表面は、チタンまたは金などの、金属で形成される。
【0036】
解除部材は、インプラントまたはコネクタを受け入れるための開放端部とは反対側の端部になど、取付室よりも上に配置されてもよい。好ましくは、解除部材は取付室よりも上に捕捉されて保持される。
【0037】
好適には、解除部材は、ハウジングまたは補綴物の取付室内に延びるように動作可能である。好適には、第2の位置では、解除部材が、第1の位置においてよりも更に取付室内に延びる。
【0038】
解除部材は、解除部材の回転により第1の位置から第2の位置に移動するように動作可能であってもよく、好ましくは、解除部材は、ハウジングの取付室の長手方向軸線を横切る軸線を中心に回転するように動作可能である。
【0039】
解除部材はカムを備え得、好適にはカムは、第2の位置において支台またはインプラントに接触して分離力を付与する凸部を備える。
好適には、解除部材は、解除部材の回転により解除部材の並進運動が生じないようにハウジング内に保持される。好ましくは、分離力の作動により、解除部材の回転運動が補綴物の並進運動に変換される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「分離力」という語句は、平均的な使用者が補綴物を手で取り外すことができる程度にインプラントまたはコネクタと補綴物との取り付けを緩めるのに十分な力を意味するように意図されている。本発明により解決される問題は、臨床的介入を必要とせずに補綴物を取り外すことができるように歯科用補綴物と歯科用インプラントとの間にシールを形成できることであることが認識されるであろう。本発明は、臨床的介入を必要とせずに使用者により補綴物が取り外され得るように補綴物とインプラントまたはコネクタとの間のシールを解除するための装置を提供する。
【0041】
本明細書に含まれる全ての特徴は、上記の態様のいずれかと任意の組み合わせで組み合わされてもよい。
ここで、添付の図面を参照しながら本発明をほんの一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の第1の態様による解除装置の第1の実施形態の側断面図を示す。
図2】本発明の第1の態様による解除装置の第2の実施形態の側面図を示す。
図3図2の解除装置の正面図を示す。
図4図3の線L-Lに沿った断面図を示す。
図5図2の解除装置の斜視図を示す。
図6】本発明の第1の態様による解除装置の第3の実施形態の側断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
歯科用支台106との摩擦嵌め状態で配置された解除装置102を示す、図1に一定の縮尺で提示された本発明の第1の実施形態をまず参照する。
歯科用円錐状支台106は、支台106の底部からインプラント104の頂部に延びるねじ110を介して歯科用インプラント104に取り付けられる。ねじ110は、支台106の孔108内に配置され、中心孔108は、支台106の頂部における開放端部から、ねじ110を受け入れて保持する支台106の底部におけるフランジ付き開放端部に長手方向に延びる。使用時に、歯科用インプラント104は使用者の顎骨内に固定され、かつ支台106はインプラント104から上方に延びる。支台106はチタンで形成され、かつ支台106の平滑な円錐状外面は、截頭上面に向かって約5°の角度で内向きにテーパ形状をなす。
【0044】
図1には、支台106外面の上に摩擦嵌め状態で配置された解除装置102が示されている。解除装置102は、ハウジング112と、解除部材114と、保護キャップ122とで形成される。ハウジング112は、チタンで形成され、かつ略円筒状外面と、第1の開放端部112aから第2の開放端部112bにハウジングを貫通して長手方向に延びる中心孔とを有する。第1の端部112aの領域における孔の円滑な円錐状内面は、第1の端部112aの外縁部における最も広い箇所から第2の端部112bに向かって約5°の勾配で狭まっている。孔のこの領域は、支台106を受け入れて支台106との摩擦嵌めを形成するための室を画定する。室は、図1に示すように、解除装置102が支台106の上に位置決めされたときに孔のその部分が支台106の外面との密接な摩擦嵌めを形成するような寸法を有する。
【0045】
ハウジング112の孔の第2の端部112b側に捕捉される解除部材114が配置される。解除部材114は、一体に形成された中実の変形不能な円筒状頭部114bおよび円筒状尾部114aを含む。尾部114aは、頭部114bの底面から同心状に延び、かつ頭部114bの直径よりも狭い直径を有する。尾部114aの下面は平面であり、かつ頭部114bの上面は六角ねじ駆動部118を含む。螺旋状ねじ山116は、頭部114bの側面の周囲に配置される。
【0046】
解除部材114は、ハウジング112の内面から内方に延びるフランジ120により解除部材114の下端部が孔内に保持され、かつ保護キャップ122により解除部材114の上端部が保持される。フランジ120は、頭部114bではなく尾部114aの通過を可能にするのに十分な幅を有する開口をハウジング112の孔内に画成する。環状保護キャップ122は、頭部114bの直径よりも狭いが六角ねじ駆動部118の幅よりも広い直径を有する中心開口に向かって下方に延びる平面状の傾斜上面を有する。キャップ122は、保護キャップ122の内面およびハウジング112の外面に配置された協働する螺旋状ねじ山により、ハウジング112の第2の端部112bの上縁部に取り外し可能に取り付けられる。
【0047】
螺旋状ねじ山124は、ハウジング112の内面上をフランジ120から端部112bの上縁部に延びている。螺旋状ねじ山124は、第1の方向への解除部材114の回転により解除部材114がハウジング112の第1の端部112aに向かって下降しかつ逆方向への回転により解除部材114が再びハウジング112の第2の端部112bに向かって上昇するように、解除部材114の螺旋状ねじ山116と協働するように構成される。フランジ120の上面に対する頭部114bの下面の当接により、解除部材114を下降させることができる最大限度が決まる。
【0048】
直交方向に延びる離間して配置された複数の保持ラグ(図示せず)をハウジング112の外面に配置することができる。ハウジング112の外面の周囲に歯科用補綴物(図示せず)を形成することができ、保持ラグは、解除装置102を補綴物内にしっかりと固定するのを補助する。本実施形態において、解除装置102は、ねじ駆動部118を含む頭部が補綴物の咬合面からアクセス可能となるように補綴物内に配置される。
【0049】
図1に示すように、解除装置102が支台106との摩擦嵌め状態で配置されかつ解除部材114が第1の位置にあるときに、解除部材114は、支台106の上面から持ち上がっている。しかしながら、任意選択的に第1の位置では、支台106と補綴物との分離を生じさせるのに必要な力を加えずに解除部材114が支台106の上面に当接し得ることが分かるであろう。
【0050】
支台106から解除装置102(ひいては補綴物)を外すために、使用者は、例えば、ねじ回しなどの、適切な嵌合具を用いて端部112aに向かう解除部材114の回転を生じさせることにより解除力を作動させる。使用者は、協働する螺旋状ねじ山116および124を下方へと回転させながら支台106の頂面に当接する解除部材114の作用により十分な力が生成されて装置102が支台106との摩擦嵌めから解除されるまで解除部材114を回転させる。摩擦嵌めが解除された状態で、使用者は、支台106から装置102を手で抜き取って、装置102および支台106を掃除し始めてもよい。装置102を交換するために、使用者は、解除部材114を第1の位置に戻し、装置102を支台106の上に再び位置決めする。
【0051】
ここで、本発明による解除装置202の第2の実施形態を示す図2図5を参照する。解除装置は、解除装置102と同じ方式で歯科用支台206の上に摩擦嵌め状態で配置される。解除装置202は、ハウジング212と、解除部材114と、保護キャップ122とで形成される。
【0052】
ハウジング212は、チタンで形成され、かつ中心孔がハウジング212の基部から内方に延びて側面においてハウジング212から出ることを除いて略円筒状外面を有する。ハウジング212の中心孔の初期当接受け部分は、解除装置102のものと同じである。
【0053】
ハウジング212の孔の頂部において、捕捉された解除部材214は、横方向に延びる。解除部材214は、支台206の頂部分を受け入れるような大きさとされる、切り欠き部分214cを別にすれば、略円筒形状を有する。解除部材214の第1の端部214aは、ハウジング212の内面における窪みに配置される。次いで、解除部材214は、第2の端部214bがハウジング212の側壁から突出するようにハウジング212の孔を貫通して横方向に延びる。保護キャップ222は、解除部材214の突出端部214bの上に配置される。端部214bの上面は、六角ねじ駆動部を含む。
【0054】
環状保護キャップ222は、解除部材端部214bの直径よりも狭いが六角ねじ駆動部の幅よりも広い直径を有する中心開口に向かって下方に延びる平面状の傾斜上面を有する。キャップ222は、ハウジング212の側面に取り外し可能に取り付けられる。
【0055】
直交方向に延びる離間して配置された複数の保持ラグ(図示せず)をハウジング212の外面に配置することができる。ハウジング212の外面の周囲に歯科用補綴物(図示せず)を形成することができ、保持ラグは、解除装置202を補綴物内にしっかりと固定するのを補助する。本実施形態において、解除装置202は、解除部材214のねじ駆動部を含む端部214bが補綴物の側面からアクセス可能となるように補綴物内に配置される。
【0056】
支台206から解除装置202(ひいては補綴物)を外すために、使用者は、例えば、ねじ回しなどの、適切な嵌合具を用いて解除部材214の回転を生じさせることにより解除力を作動させる。使用者は、支台206の頂面に当接する解除部材214の回転作用により十分な力が生成されて装置202が支台206との摩擦嵌めから解除されるまで解除部材214を回転させる。摩擦嵌めが解除された状態で、使用者は、支台206から装置202を手で抜き取って、装置202および支台206を掃除し始めてもよい。装置202を交換するために、使用者は、解除部材214を第1の位置に戻し、装置202を支台206の上に再び位置決めする。本出願に関連して本明細書と同時にまたは本明細書に先行して提出され、また本明細書と共に公開されて公衆の閲覧に付される全ての論文および文献に注意が向けられ、そのような全ての論文および文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
ここで、本発明による解除装置303の第3の実施形態を示す図6を参照する。解除装置303は、解除部材314の第1の端部314aが、円筒状凸部326であって、解除部材314の第1の端部314aの外面がハウジング312の外面と面一になるようにハウジング312を貫通して延びる円筒状凸部326を更に備えることを除いて、解除装置202と同じものである。凸部326の基部において、端部314aは、外方に延びる肩部を有し、前記肩部は、使用時に解除部材314をハウジング312内に収容するためにハウジング312の内面に当接する。更に、解除部材314は、使用時に解除部材314を解除装置303の内部に収容するように保護キャップ322の孔内において環状フランジ326に当接する端部314b側に環状フランジ324を有する。この構成において、端部314bの外面は、キャップ322の端部の外面と面一である。
【0058】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示した特徴の全て、ならびに/あるいはそのように開示した任意の方法またはプロセスのステップの全ては、そのような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除く、任意の組み合わせで組み合わされてもよい。
【0059】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示した各特徴は、明示的に別段の定めのない限り、同一、同等または類似の目的を果たす代替的な特徴に置き換えられてもよい。したがって、明示的に別段の定めのない限り、開示した各特徴は、一般的な一連の同等または類似の特徴のほんの一例に過ぎない。
【0060】
本発明は、前述の実施形態の細部に限定されるものではない。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示した特徴のうちの任意の新規な1つまたは任意の新規な組み合わせ、あるいはそのように開示した方法または工程のステップのうちの任意の新規な1つまたは任意の新規な組み合わせに及ぶ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6