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特許7146763冷間圧延及び熱処理された鋼板、その製造方法並びにそのような鋼の乗り物部品製造のための使用
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  • 特許-冷間圧延及び熱処理された鋼板、その製造方法並びにそのような鋼の乗り物部品製造のための使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】冷間圧延及び熱処理された鋼板、その製造方法並びにそのような鋼の乗り物部品製造のための使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220927BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20220927BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/16
C21D9/46 P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019534274
(86)(22)【出願日】2016-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 IB2016057941
(87)【国際公開番号】W WO2018115938
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2019-08-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルジュ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】スアソ・ロドリゲス,イアン・アルベルト
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529392(JP,A)
【文献】特開2009-287114(JP,A)
【文献】特表2015-520298(JP,A)
【文献】特表2014-505172(JP,A)
【文献】特開2016-041579(JP,A)
【文献】特表2017-507242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延及び熱処理された鋼板であって、
重量百分率で表された以下の元素:
0.15%≦炭素≦0.6%
4%≦マンガン≦20%
5%≦アルミニウム≦15%
0≦ケイ素≦2%
アルミニウム+ケイ素≧6.5%
から構成される組成を有し、並びに以下の元素:
0.01%≦ニオブ≦0.3%
0.01%≦チタン≦0.2%
0.01%≦バナジウム≦0.6%
0.01%≦銅≦2.0%
0.01%≦ニッケル≦2.0%
セリウム≦0.1%
ホウ素≦0.01%
マグネシウム≦0.05%
ジルコニウム≦0.05%
モリブデン≦2.0%
タンタル≦2.0%
タングステン≦2.0%
のうちから1つ以上を任意選択的に含有することができ、前記鋼板の残部は、鉄及び労作に起因する不可避不純物から構成され、前記鋼板のミクロ組織は、面積分率で10~50%のオーステナイトを含み、前記オーステナイト相は、任意選択的に粒内カッパ炭化物を含み、前記鋼板のミクロ組織の残部は、2%以下の粒内カッパ炭化物を任意選択的に含む、通常フェライト及びD0型構造の規則相フェライトであり、D0型構造の規則相フェライトが0.1%以上の面積分率でミクロ組織中に存在し、当該鋼板は、900MPa以上の極限引張強さを有する、鋼板。
【請求項2】
アルミニウム含量、マンガン含量及び炭素含量が、
0.3<(Mn/2Al) x exp(C)<2
であるような、請求項1に記載の冷間圧延及び熱処理された鋼板。
【請求項3】
マンガン含有量が、7~15%で含まれる、請求項1又は2に記載の冷間圧延及び熱処理された鋼板。
【請求項4】
アルミニウム含有率が7%以上であり、前記鋼板のミクロ組織の残部は、2%以下の粒内カッパ炭化物を含む、通常フェライト及びD0型構造の規則相フェライトである、請求項1~3に記載の冷間圧延及び熱処理された鋼板。
【請求項5】
前記鋼板が、7.4以下の密度及び9%以上の均一伸びを示す、請求項1~4に記載の冷間圧延及び熱処理された鋼板。
【請求項6】
以下の工程:
請求項1~4に記載の組成を有する冷間圧延鋼板を準備する工程と、
前記冷間圧延鋼板を、600秒未満の期間にわたって、800~950℃の間の均熱温度にまで加熱し、次いで前記鋼板を、600℃~室温の範囲の温度にまで冷却する工程と、
前記鋼板を、10秒~250時間の期間にわたって、150℃~600℃の均熱温度にまで再加熱し、その後に前記鋼板を冷却する工程と、
を含む、冷間圧延及び熱処理された鋼板を製造する方法であって、
当該冷間圧延及び熱処理された鋼板のミクロ組織は、面積分率で10~50%のオーステナイトを含み、前記オーステナイト相は、任意選択的に粒内カッパ炭化物を含み、当該ミクロ組織の残部は、2%以下の粒内カッパ炭化物を任意選択的に含む、通常フェライト及びD0型構造の規則相フェライトであり、D0型構造の規則相フェライトが0.1%以上の面積分率でミクロ組織中に存在し、当該鋼板は、900MPa以上の極限引張強さを有する、鋼板を製造する方法
【請求項7】
乗り物の構造用部品又は安全用部品の製造のための、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項6に記載の方法により製造された鋼板の使用。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼板のフレキシブル圧延により得られた部品。
【請求項9】
請求項8による部品を備える乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車産業に適する、600MPa以上の引張強さ及び9%以上の均一伸びを有する低密度鋼、並びにその製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境規制により、自動車製造業者は、乗り物からのCO排出を継続的に削減する必要に迫られている。その対策のために、自動車製造業者には、いくつかの選択肢があり、その際、主要となる選択肢は、乗り物の重量を軽減すること、又は乗り物のエンジンシステムの効率を改善することである。進歩は、多くの場合これら2つのアプローチの組合せにより達成される。本発明は、第1の選択肢、すなわち自動車の重量軽減に関する。この非常に特定された分野においても、2つの方途のうちから1つを選ぶことができる。
【0003】
第1の方途は、鋼の機械的強度のレベルを向上させつつ、鋼の厚さを低減することである。残念ながら、この解決策は、機械的強度の向上に関連する不可避的な延性の低下に加え、特定の自動車部品の剛性が著しく低下し、搭乗者にとって不快な状態をもたらす音響学的問題が発生するという理由により限界を有する。
【0004】
第2の方途は、鋼を、より軽量な別の金属と合金化して鋼の密度を低減することである。これらの合金の中でも、鉄アルミニウム合金と呼ばれる低密度合金は、注目すべき機械的特性及び物理特性を有し、乗り物の重量を著しく軽減することが可能である。この場合において、低密度とは、7.4以下の密度を意味する。
【0005】
JP2005/015909は、20%を超える非常に高いマンガン含有率を有し、及びアルミニウムをも最高15%含有して、より軽量な鋼母材をもたらす低密度TWIP鋼を記載しているが、この開示された鋼は、圧延時の高い変形抵抗とともに溶接性の問題をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-015909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、
・7.4以下の密度と、
・900MPa以上、好ましくは、1000MPa以上の極限引張強さと、
・9%以上の均一伸びと、
を同時に有する冷間圧延鋼板を利用可能とすることにある。
【0008】
好ましくは、このような鋼はまた、成形、とりわけ、圧延に対する良好な適合性並びに良好な溶接性及び良好な被覆性を有することができる。
【0009】
また、本発明の別の目的は、従来の工業用途に適合する一方、製造パラメータの変更に対して頑健な、これらの鋼板の製造方法を利用可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、特許請求の範囲の請求項1に記載の鋼板を提供することにより達成される。この鋼板はまた、特許請求の範囲の請求項2~5の特徴をも備えることができる。別の目的は、特許請求の範囲の請求項6に記載の方法を提供することにより達成される。別の態様は、特許請求の範囲の請求項7~9に記載の部品又は乗り物を提供することにより達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)D0型構造の暗視野像を示す図である。(b)D0の晶帯軸[100]に対応する回析パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の所望の鋼を得るためには、組成がきわめて重要であり、それゆえ組成の詳細な説明を以下の記載において提示する。
【0013】
炭素含有率は、0.15%~0.6%の間にあり、炭素は、重要な固溶体強化元素として作用する。炭素はまた、カッパ炭化物(Fe,Mn)AlCの形成を増進する。炭素は、オーステナイト安定化元素であり、及びマルテンサイト変態温度Msの著しい低下を誘起するために、かなりの含量の残留オーステナイトを確保し、これにより塑性を向上する。炭素含有率を上記の範囲内に維持することは、鋼板に所要レベルの強度及び延性を実現することを保証する。また、この炭素含有率を維持することが、マンガン含有率を低減しつつも、いくばくかのTRIP効果を依然として得ることを可能とする。
【0014】
マンガン含有率は、4%~20%の間にある必要がある。この元素はガンマ相生成元素である。マンガン添加の目的は、本質的には、フェライトに加えオーステナイトを含有する組織を得ることにあり、及びこの組織を室温において安定化することにある。アルミニウム含有量に対するマンガン含有量の比率は、熱間圧延後に得られる組織に大きな影響を及ぼす。4を下回るマンガン含有率の場合、オーステナイト安定化が不十分となり、焼なましライン出口における冷却中に、マルテンサイトへの変態が早発するリスクを伴う。さらに、マンガン添加はD0領域を広げて、温度上昇及び/又はアルミニウム含量低減においても十分な量のD0析出物を得ることができる。20%を超える場合、フェライト比率の低下が起こり、所要の引張強さに到達することをより困難にすることがあり、本発明には悪影響を及ぼす。好適な実施形態において、マンガン添加は、17%を限度とする。
【0015】
アルミニウム含有率は、5%~15%の間、好ましくは5.5%~15%の間にある。アルミニウムは、アルファ相生成元素であり、したがって、フェライト及びとりわけD0型構造の規則相フェライト(Fe,Mn,X)Alの形成を促進する傾向がある(Xは、D0に固溶する任意の溶質添加元素、例えば、ケイ素)。アルミニウムは、2.7の密度を有し、及び機械的特性に及ぼす重要な影響を有する。アルミニウム含有量を増大すると、機械的強度及び弾性限界もまた増加するが、転位の移動度が減少するために均一伸びが低下する。4%未満の場合、アルミニウムの存在による密度減少が便益を損なうことになる。15%を超える場合、規則相フェライトの存在が所期の限界を超えて増大して、鋼板に脆性を付与し始めるために、本発明に不利に作用する。好ましくは、アルミニウム含有率を9%未満に制限して、さらなる脆性の金属間析出物の形成を防止する。
【0016】
上記の制限に加えて、好適な実施形態においては、マンガン、アルミニウム及び炭素の含有量は、下記の関係式:
0.3<(Mn/2Al) x exp(C)<2
に従う。
【0017】
0.3未満の場合、オーステナイト含量を過度に低減するリスクがあり、不十分な延性につながる可能性がある。2を超える場合、オーステナイト体積分率が49%を超えて増加する可能性があり、これにより、D0相析出物の発現可能性が低減する。
【0018】
ケイ素は、鋼の密度を低減する元素であり、及び固溶体硬化にも有効である。さらに、ケイ素は、B2相に対するD0の安定化という好ましい効果を有する。ケイ素含有率は、2.0%を限度とするが、これは、2.0%を超える場合、この元素が表面欠陥の発生をきたす強い付着性のある酸化物を形成する傾向を有するためである。表面酸化物の存在は、鋼の濡れ性を損ない及び見込まれる溶融めっき作業中に欠陥を発生させる場合がある。好適な実施形態において、ケイ素含有率は、好ましくは1.5%を限度とする。
【0019】
本発明者らは、D0析出に関して所期の結果を得るためには、ケイ素及びアルミニウムの合計含量は、少なくとも6.5%に等しくあるべきことを見出した。
【0020】
ニオブを、任意選択的に用いる元素として、0.01~0.1%の含量で、結晶粒微細化をもたらすために本発明の鋼に添加してもよい。結晶粒微細化により、強度及び伸びを良好に両立させることが可能となり並びに疲労性能改善に寄与すると考えられる。ただし、ニオブは、熱間圧延中の再結晶を遅延する傾向を有していた。したがって、常に望ましい元素であるとは限らない。それゆえ、ニオブは、任意選択的に用いる元素のままにしておく。
【0021】
チタンを、任意選択的に用いる元素として、0.01%~0.1%の含量で、結晶粒微細化のために、ニオブと同様の方式で、本発明の鋼に添加してもよい。さらに、ケイ素は、B2相に対するD0の安定化という好ましい効果を有する。それゆえ、窒化物、炭化物又は炭窒化物として析出していないチタンの非結合部分は、D0相を安定化する。
【0022】
バナジウムを、任意選択的に用いる元素として、0.01%~0.6%の含量で添加してもよい。添加した場合、バナジウムは、焼なまし中に微細な炭-窒化物化合物を形成し、これらの炭-窒化物は、さらなる硬化を可能とする。さらに、バナジウムは、B2相に対するD03の安定化という好ましい効果を有する。それゆえ、窒化物、炭化物又は炭窒化物として析出していないバナジウムの非結合部分は、D0相を安定化する。
【0023】
銅を、任意選択的に用いる元素として、0.01%~2.0%の含量で、鋼の強度を向上及び耐食性を改善するために添加してもよい。上述の効果を得るためには、最小でも0.01%が必要である。しかしながら、銅の含有率が2.0%を超える場合、表面の美観を損なう場合がある。
【0024】
ニッケルを、任意選択的に用いる元素として、0.01~3.0%の含量で、鋼の強度向上及び靭性改善のために添加してもよい。上述の効果を得るためには、最小でも0.01%が必要である。しかるに、ニッケル含有率が、3.0%を超える場合、B2を安定化する傾向を有し、D0形成には有害となりかねない。
【0025】
他の元素、例えば、セリウム、ホウ素、マグネシウム、若しくはジルコニウムを、個別に、又は組み合わせて、以下の比率:セリウム≦0.1%、ホウ素≦0.01、マグネシウム≦0.05、ジルコニウム≦0.05で添加することができる。記載した最大含有率以下において、これらの元素は、凝固中にフェライト結晶粒を微細化することができる。
【0026】
最後に、モリブデン、タンタル及びタングステンを添加して、D0相をさらに安定化してもよい。モリブデン、タンタル及びタングステンは、個別に、又は組み合わせて、最大含有率レベル:モリブデン≦2.0、タンタル≦2.0、タングステン≦2.0以下で添加することができる。これらのレベルを超えると、延性が低下する。
【0027】
本発明の特許請求の範囲で特許請求される鋼板のミクロ組織は、面積分率で10~50%のオーステナイトを含み、前記オーステナイト相は、任意選択的に粒内(Fe,Mn)AlCカッパ炭化物を含み、上記ミクロ組織の残部はフェライトであって、このフェライトは通常フェライト及びD0型構造の規則相フェライトを含み並びに2%以下の粒内カッパ炭化物を任意選択的に含む。
【0028】
オーステナイトが10%未満の場合、少なくとも9%である均一伸びを得ることができない。
【0029】
通常フェライトは、本発明の鋼において、高い成形性及び大きな伸び、並びに、ある程度までの疲労破壊に対する耐性をも本鋼に付与するために存在する。
【0030】
D0規則相フェライトは、本発明の範囲内において、化学量論が(Fe,Mn,X)Alである金属間化合物により定義される。規則相フェライトは、本発明の鋼において、面積分率で、0.1%の最小量、好ましくは0.5%の最小量、より好ましくは1.0%の最小量、有利には3%を超える最小量で存在する。好ましくは、このような規則相フェライトの少なくとも80%は、30nm未満、好ましくは20nm未満、より好ましくは15nm未満、有利には10nm未満、さらには5nm未満の平均粒径を有する。この規則相フェライトは、合金に900MPaレベルに到達し得る強度をもたらす第2の焼なまし工程中に形成される。規則相フェライトが存在しない場合、900MPaレベルの強度には到達できない。
【0031】
カッパ炭化物は、本発明の範囲内において、化学量論が(Fe,Mn)AlCである析出物により定義され、式中xは厳密に1未満である。フェライト結晶粒内にあるカッパ炭化物の面積分率は、最大2%まで増加することができる。2%を超える場合、延性が低下して、9%を超える均一伸びが達成されない。さらに、フェライト粒界周囲にカッパ炭化物の制御不能な析出物が発生する場合があり、結果として、熱間及び/又は冷間圧延の際の工数が増大し得る。カッパ炭化物はまた、好ましくは30nm未満の粒径を有するナノサイズ粒子として、オーステナイト相内にも存在し得る。
【0032】
本発明による鋼板は、任意の適切な方法によって得ることができる。しかしながら、これから記載する本発明による方法を使用することが好ましい。
【0033】
本発明による方法は、上述した本発明の範囲内における化学組成を有する半製品の鋳鋼品を準備することを含む。鋳造を行い、鋼塊又は連続的にスラブ若しくは薄い鋼帯の形態にすることができる。
【0034】
簡素化の目的で、半製品としてスラブを例に取り上げ、本発明による方法をさらに記載する。連続鋳造後に、スラブを直接圧延することができる。又は最初に室温にまで冷却して、その後に再加熱してもよい。
【0035】
熱間圧延に供するスラブの温度は、1280℃より低い必要がある。なぜならばこの温度より高い温度にすると、粗大なフェライト結晶粒が形成されて、粗粒フェライトをもたらし、これらの粗粒が、熱間圧延中に再結晶する最大量が減少するリスクが生じかねないからである。フェライトは、初期結晶粒の大きさがより大きいほど、再結晶がより困難になる。このことは、工業的に費用がかさみ及びフェライトの再結晶に関しても不利となるのであるから、1280℃を超える再加熱温度は回避すべきであることを意味する。粗粒フェライトはまた、「ローピング」と呼ばれる現象を増大する傾向を有する。
【0036】
フェライトが存在するうちに、少なくとも1回の圧延パスを伴う圧延を実施することが望ましい。この目的は、オーステナイト安定化元素のオーステナイト内への分配を高め、脆性をきたし得るフェライト内における炭素飽和を防止することにある。仕上げ圧延パスは、800℃を超える温度において実施する。なぜならば、この温度より低い温度では、鋼板が圧延性の著しい低下を示すからである。
【0037】
好適な実施形態において、スラブの温度は、熱間圧延が、中間温度-変態温度範囲内で完了でき、及び仕上げ圧延温度が依然として850℃を上回る程度に十分に高い。850℃~980℃の間の仕上げ圧延温度が、再結晶及び圧延に有利な組織を得るためには好ましい。900℃を超えるスラブ温度で圧延を開始することが、圧延機にかかる場合がある過剰な負荷を避けるためには好ましい。
【0038】
このような方式にて得られた鋼板は、次いで、好ましくは100℃/秒以下の冷却速度において、巻取り温度にまで冷却される。好ましくは、冷却速度は、60℃/秒以下とする。
【0039】
次いで、熱間圧延鋼板を、600℃未満の巻取り温度において巻き取る。なぜならばその温度を超える温度では、フェライト内におけるカッパ炭化物の析出を、2%の最大値以下に制御することが不可能となり得るリスクがあるからである。600℃を超える巻取り温度はまた、オーステナイトの著しい分解をもたらし、オーステナイト相の所要含量の確保を困難にする。それゆえ本発明の熱間圧延鋼板のために好適な巻取り温度は、400℃~550℃の間にある。
【0040】
熱間帯鋼焼なましは、400℃~1000℃の間の温度で任意選択的に実施することができる。熱間帯鋼焼なましは、連続焼なまし、又はバッチ焼なましであり得る。均熱処理の保持時間は、連続焼なまし(50秒~1000秒)であるか又はバッチ焼なまし(6時間~24時間)であるかで異なる。
【0041】
次いで、熱間圧延鋼板に、35~90%の間の板厚減少を伴う冷間圧延を行う。
【0042】
次いで、得られた冷間圧延鋼板に、二段焼なまし処理を施して、鋼に目標とした機械的特性及びミクロ組織を付与する。
【0043】
第1の焼なまし工程において、冷間圧延鋼板を、好ましくは、1℃/秒を超える昇温速度で、600秒未満の持続時間にわたり、800℃~950℃の間の保持温度にまで加熱して、強い加工硬化を受けた初期組織の90%を超える再結晶率を確保する。次いで、フェライト内にあるカッパ炭化物を制御する目的で、好ましくは、30℃/秒を超える冷却速度で鋼板を室温にまで冷却する。
【0044】
次いで、第1の焼なまし工程で得られた冷間圧延鋼板を、例えば、もう一度、少なくとも10℃/時間の昇温速度で、300秒~250時間の持続時間にわたり、150℃~600℃の間の保持温度にまで再加熱して、その後に室温にまで放冷してもよい。この工程は、D03規則相フェライト及び可能であればオーステナイト内にあるカッパ炭化物の形成を効果的に制御するためになされる。保持持続時間は、使用する温度によって決まる。
【0045】
溶融亜鉛めっきを円滑に行うために、追加の熱処理を任意選択的に実施してもよい。この追加の熱処理において、鋼板を460~500℃の温度にまで再加熱する。この程度の熱処理では、鋼板の機械的特性又はミクロ組織のいずれをも変化させない。
【実施例
【0046】
本明細書において提示する、以下の試験、実施例、図による例示及び表は、制限する性質のものでは全くなく、並びに説明のみの目的のためであることを考慮する必要があり、及び本発明の有利な特徴を明示する。
【0047】
本発明による鋼板及びいくつかの等級の比較供試材は、表1にまとめた組成及び表2にまとめた製造工程パラメータを使用して製造した。それらの鋼板の対応するミクロ組織は、表3にまとめた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
いくつかのミクロ組織解析を、試行Eからの供試材について実施した、並びにD0型構造の画像を図1(a)及び図1(b)に再現する。
【0052】
(a)D0型構造の暗視野像を示す図である。
(b)D0の晶帯軸[100]に対応する回析パターンを示す図である。矢印は、図1(a)における暗視野像のために使用した反射を示す。
【0053】
次いで、それらの鋼板の特性を評価し、結果を表4にまとめた。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例は、本発明による鋼板が、特定の組成及びミクロ組織を有するために、目標とした特性の全てを示す唯一のものであることを提示している。
図1