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特許7146777CD39の発現を阻害する免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】CD39の発現を阻害する免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220927BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
A61K31/712 ZNA
A61K31/7125
A61P37/02
A61P37/04
A61P37/06
A61P19/02
A61P1/00
A61P29/00
A61P9/00
A61P35/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019540695
(86)(22)【出願日】2017-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2017075647
(87)【国際公開番号】W WO2018065622
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】16192807.2
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17187774.9
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519125450
【氏名又は名称】セカルナ・ファーマシューティカルズ・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ヤシンスキー
(72)【発明者】
【氏名】タマラ・ヒルメンユク
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/052121(WO,A2)
【文献】特表2016-516416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0058792(US,A1)
【文献】国際公開第2016/073845(WO,A1)
【文献】特表2016-526883(JP,A)
【文献】特表2014-526472(JP,A)
【文献】特表2011-510953(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0273062(US,A1)
【文献】Biochemistry, 1999, Vol.38, pp.13473-13479
【文献】J. Physiol., 2003, Vol.547, No.1, pp.209-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号89、配列番号91、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号88、配列番号90、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97及びこれらの組合せからなる群から選択される免疫抑制復帰オリゴヌクレオチドであって、
ヌクレオチドの少なくとも1つが修飾されており、修飾が、LNA、cET、ENA、2'フルオロ修飾ヌクレオチド、2'O-メチル修飾ヌクレオチド及びこれらの組合せからなる群から選択され、
前記オリゴヌクレオチドが、配列番号1 (ヒト)のエクトヌクレオチダーゼ(NTPdase) CD39の核酸配列とハイブリダイズする、オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
+T*+A*+G*T*A*A*G*C*C*C*T*G*+A*+T*+G (A04055H)、
+T*+A*+C*G*T*T*C*A*C*T*A*C*C*T*+T*C*+T (A04053H)、
+G*+T*+T*T*G*T*G*T*G*A*G*A*G*C*+T*+T (A04040H)、
+C*+A*+C*T*T*A*C*G*T*T*C*A*C*T*+A*+C*+C (A04045H)、
+G*+G*+C*G*A*A*A*T*T*G*C*+A*+G*+A (A04001H)、
+C*+T*+C*C*A*G*C*G*T*A*A*G*+A*+T (A04002H)、
+T*+T*+G*A*A*C*A*C*T*G*C*+G*+A*+T (A04003H)、
+G*+C*C*A*T*A*G*G*C*A*C*C*+T*+T*+C (A04004H)、
+C*+T*+A*T*G*C*T*G*A*A*C*C*+A*+C*+C (A04005H)、
+T*G*+T*A*G*A*G*G*C*T*C*C*C*+C*+C (A04006H)、
+T*+T*+G*C*A*G*A*G*C*A*T*T*+A*+T*+C (A04007H)、
+A*+G*+G*C*G*A*A*A*T*T*G*C*+A*+G*+A (A04008H)、
+T*+A*G*A*C*A*T*T*G*T*A*G*+T*+C*+C (A04009H)、
+G*+A*G*T*G*C*C*T*G*A*T*C*C*+T*+T (A04010H)、
+A*+A*+T*C*C*C*C*C*T*G*G*A*+G*+T*+G (A04011H)、
+A*+G*+C*G*T*A*A*G*A*T*G*T*+T*+T*+T (A04012H)、
+A*+C*+T*C*C*A*G*C*G*T*A*A*+G*+A*+T (A04013H)、
+T*+G*+A*T*A*G*C*C*T*T*G*C*+A*+G*+A (A04014H)、
+A*+G*T*C*C*A*G*C*C*G*G*C*G*T*+C (A04015H)、
+G*G*+A*C*A*A*T*G*G*T*T*G*+C*+T*+C (A04016H)、
+C*+T*+T*G*A*A*C*A*C*T*G*C*+G*+A*+T (A04017H)、
+G*+A*G*T*A*C*A*A*C*T*G*A*+A*+C*+C (A04018H)、
+G*+T*+A*A*G*C*C*C*T*G*A*T*+G*+T*+T (A04019H)、
+T*+A*+T*G*G*T*A*C*A*G*T*+T*G*+G*+T (A04020H)、
+C*+T*+G*A*C*T*G*A*A*T*T*T*G*+C*+C*+C (A04021HM)、
+A*+C*+T*A*T*G*C*T*G*A*A*C*C*A*+C*+C (A04022HM)、
+G*+A*C*T*A*T*G*C*T*G*A*A*C*+C*+A*+C (A04023HM)、
+G*+A*+G*G*C*G*A*A*A*T*T*G*C*A*+G*+A (A04024HM)、
+A*+G*A*G*T*G*C*C*T*G*A*T*C*C*+T*+T (A04025H)、
+G*+A*+T*A*G*T*T*T*C*C*A*A*T*+A*+C*+C (A04026H)、
+T*+A*+C*T*C*C*A*G*C*G*T*A*A*+G*+A*+T (A04027H)、
+A*+T*+G*T*A*G*C*C*C*A*A*A*G*T*+C*+C (A04028H)、
+C*+A*+T*G*T*A*G*C*C*C*A*A*A*+G*+T*+C (A04029H)、
+G*+G*+A*C*A*A*T*G*G*T*T*G*C*+T*C*+A (A04030H)、
+A*+G*+C*C*T*A*T*G*A*T*G*G*C*C*+A*+C (A04031H)、
+G*+C*+C*T*T*G*A*A*C*A*C*T*G*C*+G*+A (A04032H)、
+A*+C*C*C*T*G*A*G*T*T*G*T*A*A*C*+T (A04033H)、
+A*+G*G*A*T*A*G*T*C*T*T*G*T*C*+T*+C (A04034H)、
+C*C*T*A*C*C*C*A*G*G*A*T*A*G*+T*+C (A04035H)、
+C*+C*+C*T*C*T*C*A*C*T*A*A*A*+T*+T*+A (A04036H)、
+A*+C*+T*C*C*A*C*A*C*T*A*A*T*+G*+C*+T (A04037H)、
+G*T*+C*A*A*T*C*C*T*G*C*T*C*A*+A*+C (A04038H)、
+C*+A*+G*T*C*A*A*T*C*C*T*G*C*+T*+C*+A (A04039H)、
+C*T*+T*G*C*C*A*T*A*G*A*G*G*C*+G*A*+A (A04041HM)、
+T*+G*+C*C*A*G*A*G*T*G*C*C*T*G*+A*+T*+C (A04042H)、
+A*+C*+G*T*T*C*A*C*T*A*C*C*T*T*+C*+T*+T (A04043H)、
+T*+T*+A*C*G*T*T*C*A*C*T*A*C*C*+T*+T*+C (A04044H)、
+A*+A*+G*G*T*C*A*C*T*T*A*C*G*T*+T*+C*+A (A04046H)、
+G*+C*+C*C*C*A*A*A*A*T*C*C*C*C*+C*+T*+G (A04047H)、
+G*+A*+G*A*G*A*A*T*G*T*A*G*G*T*+A*C*+C (A04048H)、
+C*+C*C*T*G*G*A*T*C*T*T*G*C*C*+A*+A*+T (A04049H)、
+A*+A*+A*G*T*C*C*A*G*C*C*G*G*C*G*+T*+C (A04050H)、
+A*+G*+A*G*T*G*C*C*T*G*A*T*C*+C*+T*+T (A04051H)、
+T*+A*+C*G*T*T*C*A*C*T*A*C*C*T*+T*+C*+T (A04052H)
+G*+C*+C*C*T*G*A*T*G*T*T*T*G*+A*+A*+T (A04054H)
+G*+T*+T*T*G*T*G*T*G*A*G*A*G*C*+T*+T*+T (A04056H)、
+T*+T*+T*G*T*G*T*G*A*G*A*G*+C*+T*+T (A04058H)、
+G*+G*+T*T*T*G*T*G*T*G*A*G*A*G*C*+T*+T (A04059H)、
+G*+G*+T*T*T*G*T*G*T*G*A*G*A*G*C*+T (A04060H)、
+G*+T*+T*T*G*T*G*T*G*A*G*A*G*C*+T (A04061H)、
+G*G*+T*T*T*G*T*G*T*G*A*G*+A*G*+C (A04062H)
及びこれらの組合せからなる群から選択され、
+がLNAヌクレオチドを示し、*がヌクレオチド間のホスホロチオエート(PTO)結合を示す、請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
CD39の発現をナノモル濃度で阻害する、請求項1又は2に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の免疫抑制復帰オリゴヌクレオチドと、薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項5】
化学療法剤、他のオリゴヌクレオチド、抗体及び/又は低分子を更に含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
他のオリゴヌクレオチド、抗体及び/又は低分子が、免疫抑制因子及び/又は免疫刺激因子を阻害又は刺激する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
免疫抑制因子がIDO1、IDO2、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、VISTA、A2AR、CD39、CD73、STAT3、TDO2、TIM-3、TIGIT、TGF-ベータ、BTLA、MICA、NKG2A、KIR、CD160、Chop、Xbp1及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
免疫刺激因子が4-1BB、Ox40、KIR、GITR、CD27、2B4及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
CD39の不均衡が関与する障害を予防及び/又は治療する方法における使用のための、請求項1から3のいずれか一項に記載の免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は請求項4から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
障害が、自己免疫障害、免疫障害、心血管障害、炎症性障害、細菌、ウイルス及び/若しくは真菌感染、肝障害、慢性腎障害、精神障害並びに/又はがんである、請求項9に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【請求項11】
自己免疫障害が、自己免疫性関節炎又は自己免疫性胃腸疾患である、請求項10に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【請求項12】
自己免疫性胃腸疾患が、炎症性腸疾患(IBD)又は結腸炎である、請求項11に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【請求項13】
免疫障害が、HIV感染である、請求項10に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【請求項14】
細菌、ウイルス及び/又は真菌感染が、敗血症又はウシ結核菌感染である、請求項10に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【請求項15】
がんが、乳がん、肺がん、悪性黒色腫、リンパ腫、皮膚がん、骨がん、前立腺がん、肝がん、脳がん、喉頭、胆嚢、膵臓、精巣、直腸、副甲状腺、甲状腺、副腎、神経組織、頭頸部、結腸、胃、気管支、腎臓のがん、基底細胞癌、扁平上皮癌、転移性皮膚癌、骨肉腫、ユーイング肉腫、細網肉腫、脂肪肉腫、骨髄腫、巨細胞腫瘍、小細胞肺腫瘍、膵島細胞腫瘍、原発性脳腫瘍、髄膜腫、急性及び慢性リンパ球性及び顆粒球性腫瘍、急性及び慢性骨髄球性白血病、ヘアリー細胞腫瘍、腺腫、過形成、髄様癌、腸管神経節腫、ウィルムス腫瘍、精上皮腫、卵巣腫瘍、平滑筋腫、子宮頸部異形成、網膜芽細胞腫、軟部組織肉腫、悪性カルチノイド、局所皮膚病変、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、骨原性肉腫、悪性高カルシウム血症、腎細胞腫瘍、真性赤血球増加症、腺癌、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、白血病、又は類表皮癌である、請求項10に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【請求項16】
局所投与又は全身投与に適する、請求項9か15のいずれか一項に記載の使用のための免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ-1 (ENTPD1又はCD39)の核酸配列とハイブリダイズする免疫抑制復帰オリゴヌクレオチドと、このような免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド並びに薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤(dilutant)を含む医薬組成物とについて言及する。
【背景技術】
【0002】
近年、悪性腫瘍等のいくつかの異なる疾患の治療は、免疫療法を適用することにより、特に「免疫チェックポイント」と呼ばれる阻害物質により非常に成功した。このようなチェックポイントは、シグナルを強める(共刺激分子)か又は弱める免疫系の分子である。治療手法の概念は、内因性抗腫瘍免疫反応の活性化に基づいている。例えば、多くのがんは、それぞれ、T細胞及びNK細胞の活性を阻害することにより免疫系からがん自体を保護している。例えば、免疫チェックポイント調節物質、すなわち刺激物質又は阻害物質はCTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、VISTA、A2AR、BTLA、IDO、CD39、CD73、STAT3、TDO2、TIM-3、MICA、NKG2A、KIR、TIGIT、TGF-ベータ、Ox40、GITR、CD27、CD160、2B4及び4-1BBのうちの1つ又は複数を対象としている。
【0003】
CD39は、種々の型のがんに対して免疫を向上させる1つの新規かつ有望な候補とみなす必要がある。CD39は、ATPからADPへ及びADPからAMPへの変換を担うエクトヌクレオチダーゼ(NTPdase)である。これは、AMPを免疫抑制アデノシンに分解するエクトヌクレオチダーゼCD73と協調して作用する。
【0004】
CD39は、種々の免疫細胞上に単球、好中球、マクロファージ、Bリンパ球、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー細胞(NK)のいくつかのサブセット、及びT細胞として広範に発現する。主にT reg細胞はCD39及びCD73を著しく発現し、これらがアデノシンを産生してT細胞応答を抑制することを可能とする。更に、CD39発現レベルの増強が、多くの種々の腫瘍(固形並びに血液の腫瘍)において、及び腫瘍に関連する免疫細胞上で認められている。例えば、黒色腫では、CD39発現の増加がメラノサイトについて研究されており、これらの悪性細胞への分化と関連することが見出された。更に、CD39 mRNA及びタンパク質レベルの増強が、腎臓、肺、精巣、甲状腺腫瘍由来のがん細胞、並びにリンパ腫のがん細胞について研究された。種々の腫瘍における、このようなCD39の発現レベルの増大は、腫瘍促進、増殖及び免疫抑制微小環境の媒介における、このエクトヌクレオチダーゼの重要な役割を強く示唆する。
【0005】
死にゆくがん細胞は、ATPを腫瘍微小環境内の細胞外腔へ放出する。生きている腫瘍細胞は、免疫抑制アデノシンが産生されるため、ATPからの利益を得る。これにより、腫瘍細胞は、制御されずに増殖及び転移を遂げることが可能である。上述のように、種々の腫瘍細胞又は腫瘍関連免疫細胞がCD39及びCD73の発現を強力に示すと、腫瘍微小環境内のアデノシンレベルが増大する。リンパ球上のA2A又はA2B受容体に結合することにより、アデノシンは、このような細胞に対して免疫抑制シグナルを媒介する。例えば、T細胞は、その増殖、細胞傷害性サイトカインの産生及び活性を阻害される。NK細胞は、細胞傷害能の低減を示す。アデノシンがマクロファージ(免疫抑制M2表現型)の代替的活性を誘導すると、炎症性サイトカインの産生は低減するが、免疫抑制サイトカインIL-10の産生は増加する。種々の腫瘍における適切な治療標的としてのCD39の重要な役割は、CD39及びCD73ノックアウトマウスを使用する腫瘍モデルが疾患転帰の改善を示すという事実により強調される。
【0006】
しかし、抗腫瘍免疫応答を増強させるのに、CD39の阻害がCD73単独の阻害よりも効果的である可能性が非常に高い。一方では、CD39を遮断すると、腫瘍微小環境内のアデノシンレベルを低減させる。他方では、腫瘍微小環境内のATPレベルが高いことは、免疫刺激シグナルを媒介するDC、マクロファージ及びこれらの前駆体の「find me(私を見つけて)」シグナルとして作用し得る。
【0007】
ATPはDC上のP2X7受容体に結合し、これらを活性化して炎症性サイトカインをIL-1β又はIL-28として放出する。次いで、このようなサイトカインは、NK細胞、T細胞及びマクロファージを活性化し、これらの増殖、細胞傷害性及び成熟を増強する。したがって、T細胞受容体(TCR)が関与すると、T細胞が活性化される間にATPが放出される。このATPは、P2X受容体を介してオートクリンの機序で作用して、TCRの誘導による活性化及びIL-2産生を増強し得る。同ATPは、P2X受容体を介してパラクリンの機序で隣接するリンパ球に作用して、リンパ節内でのこれらの運動性を阻害し、これによりT細胞とAPCとの間の相互作用を促進し得る。総合すれば、腫瘍微小環境内のATPレベルが増大すると、最適な抗腫瘍免疫応答を開始する完全な条件が設定される。
【0008】
CD39エクトヌクレオチダーゼ活性を遮断するために、IPH52 (Bastidら、CancerImmunology Research、2014)及びOREG-103/BY40 (Bennefoyら、OncoImmunology 4:5、2015)等の抗ヒトCD39モノクローナル抗体は現在、前臨床研究下にあり、これにより動物モデルにおける延命への期待がもたらされる。しかし、このようなモノクローナル抗体は、立体障害のため腫瘍微小環境に局在化できない恐れがある。更に、ARL67156 (OncoImmunology 1:3、2012)及びPOM-1 (Gastroenterology、2010、139(3)、1030~1040頁)等のCD39の低分子阻害物質は、動物モデルにおいてin vitro及びin vivoで試験されており腫瘍増殖の低減をもたらす。しかし、このような低分子は、これらがin vivoで活性が低く半減期が短いため高用量及び高頻度で投与しなければならない。
【0009】
免疫療法は、結果的に長期寛解となるが、これまでのところ小規模な患者群のみの結果となっている。この理由は、多数の免疫チェックポイント及び任意選択で更なる免疫抑制機序が、例えば、免疫系と腫瘍細胞との間の相互作用に関与するためであり得る。免疫チェックポイントと潜在的な他の機序との組合せは、生体防御を逃れる腫瘍及び対象の個々の状態に応じて変化し得る。
【0010】
いくつかの免疫抑制機序の阻害では、分子標的が細胞内に位置するか又は酵素活性を有さないため、抗体及び/又は低分子を使用する一般的手法は、適さないか又はほとんど適さない。したがって、CD39等の「免疫チェックポイント」機能の阻害することにおいて安全かつ有効である作用物質は、例えば、この酵素活性に影響を受ける疾患又は状態を患っている患者の治療に重要な追加となり得る。
【0011】
本発明のオリゴヌクレオチドは、CD39の発現及び活性それぞれの阻害に非常に成功している。オリゴヌクレオチドの作用機序は、抗体又は低分子の作用機序と異なっており、オリゴヌクレオチドは、例えば、
(i)固形腫瘍の腫瘍組織への浸潤、
(ii)標的の複数の機能及び活性それぞれの遮断、
(iii)オリゴヌクレオチド相互、又はオリゴヌクレオチドと抗体若しくは低分子との組合せ、及び
(iv)抗体が接触可能でないか又は低分子により阻害可能でない細胞内効果の阻害
に関して非常に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2014154843 A1
【非特許文献】
【0013】
【文献】Bastidら、CancerImmunology Research、2014
【文献】Bennefoyら、OncoImmunology 4:5、2015
【文献】OncoImmunology 1:3、2012
【文献】Gastroenterology、2010、139(3)、1030~1040頁
【文献】Chackalamannil、Rotella、Ward、Comprehensive Modicinal Chemistry III Elsevier、03.06.2017
【文献】Zhangら、Gene Therapy、2011、18、326~333頁
【文献】Stantonら、Nucleic Acid Therapeutics、Vol. 22、No. 5、2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、がん及び免疫細胞上のCD39発現をmRNAレベルでアンチセンスオリゴヌクレオチドにより標的とすることは、例えば、種々のがん及び免疫疾患それぞれに対する免疫療法を発展及び向上させる有望な最先端の手法である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、約10~20ヌクレオチドを含む、免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド等のオリゴヌクレオチドについて言及し、ヌクレオチドの少なくとも1つは修飾されている。オリゴヌクレオチドは、例えば、配列番号1 (ヒト)のエクトヌクレオシダーゼCD39の核酸配列及び/又は配列番号2 (マウス/ラット)の配列とハイブリダイズする。修飾ヌクレオチドは、例えば、架橋した核酸(例えば、LNA、cET、ENA、2'フルオロ修飾ヌクレオチド又は2'O-メチル修飾ヌクレオチド、及びこれらの組合せ)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、CD39発現の少なくとも50%を阻害し、いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、CD39の発現をナノモル濃度で阻害する。
【0016】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNAiと比較して著しい利点を有する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、トランスフェクト試薬を用いずにin vitroでトランスフェクトすることができ、したがって、このトランスフェクションは、RNAiのトランスフェクションに不可欠であるトランスフェクト試薬を使用したトランスフェクションよりもin vivo条件に近い。アンチセンスオリゴヌクレオチドのin vivo全身投与は、種々の組織において可能であるが、RNAiのin vivoでの投与は、例えば肝臓におけるGalNAcのように送達システムに依存する。更に、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNAiより短く、したがって、合成及び細胞内への取込みがそれほど複雑でない。RNAiは、RNAiを同様に開始し得る、パッセンジャー鎖のオフターゲット効果を規則的に示す。パッセンジャー鎖のRISCローディングは、パッセンジャー鎖が意図しない標的をRNAi活性の対象とし、有毒な副作用を生じ得るため、RNAi薬物についての重要な問題となっている(Chackalamannil、Rotella、Ward、Comprehensive Modicinal Chemistry III Elsevier、03.06.2017を参照)。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、パッセンジャー鎖を含まない。
【0017】
本発明は、本発明の免疫抑制復帰オリゴヌクレオチド、並びに任意選択で薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む医薬組成物に更に関する。いくつかの実施形態では、この医薬組成物は、化学療法剤、例えば、白金製剤(platinum)又はゲムシタビン、別のオリゴヌクレオチド、抗体又はこれらの断片、例えば、Fab断片、HERA融合タンパク質、リガンド捕捉剤(ligand trap)、ナノボディ、BiTe及び/若しくは例えば、腫瘍治療において有効な低分子、並びにこれらの組合せを更に含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、別のオリゴヌクレオチド、抗体及び/又は低分子との組合せである。このような各化合物のいずれかは、分離又は医薬組成物中に組み合わされており、この場合、オリゴヌクレオチド、抗体又はこれらの断片、例えばFab断片、HERA融合タンパク質、リガンド捕捉剤、ナノボディ、BiTe及び/若しくは低分子は、免疫抑制因子、例えばIDO1、IDO2、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、VISTA、A2AR、CD39、CD73、STAT3、TDO2、TIM-3、TIGIT、TGF-ベータ、BTLA、MICA、NKG2A、KIR、CD160、Chop及び/又はXbp1を阻害又は刺激する。これに加えて、又はこれに代えて、オリゴヌクレオチド、抗体及び/又は低分子は、免疫刺激因子、例えば4-1BB、Ox40、KIR、GITR、CD27及び/又は2B4を阻害又は刺激する。
【0019】
更に、本発明は、CD39の不均衡が関与する障害を予防及び/又は治療する方法における本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物の使用に関する。いくつかの実施形態では、障害は、例えば、自己免疫障害、例えば自己免疫性関節炎又は自己免疫性胃腸疾患、例えば炎症性腸疾患(IBD)若しくは結腸炎、免疫障害、例えば慢性ウイルス感染、例えばHIV感染による免疫疲弊(immune exhaustion)、心血管障害、炎症性障害、例えば慢性気道炎症、細菌、ウイルス及び/又は真菌感染、例えば敗血症若しくはウシ結核菌(Mycobacterium bovis)感染、肝障害、慢性腎障害、精神障害並びに/或いはがんである。いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物は、例えば、局所的又は全身的に投与される。
【0020】
本明細書において引用又は参照する文献(「本明細書で引用する文献」)のすべて、及び本明細書で引用する文献において引用又は参照する文献のすべては、本明細書又は本明細書に参照により組み込む文献において言及する任意の製品のための任意の製造者の指示書、記述、製品仕様書、及び製品説明書と一緒に、これによって本明細書に参照により組み込み、本発明の実施において用いられ得る。より詳細には、参照する文献のすべては、個々の文献それぞれを参照により組み込むことを詳細かつ個別に示すことと同等に参照により組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】配列番号1 (NM_001776.5)のhCD39 mRNA上の部位に結合するhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの分布、並びにこれらの修飾及び長さを示す図である。hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドを配列番号1のhCD39 mRNA配列に対して整列させた。種々のグレースケールは種々のLNA修飾を示し、各記号は異なる長さのアンチセンスオリゴヌクレオチドを示す。
図2A-1】第1のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株HDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2A (パート1))。HDLM-2を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図2A-2】第1のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株HDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2A (パート2))。HDLM-2を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図2B-1】第2のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株HDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2B (パート1))。HDLM-2を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図2B-2】第2のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株HDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2B (パート2))。HDLM-2を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図2C-1】第1のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株A-172 (ヒト神経膠芽腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2C (パート1))。A-172細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3つのウェルの平均+/- SDを示す。
図2C-2】第1のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株A-172 (ヒト神経膠芽腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2C (パート2))。A-172細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図2D-1】第2のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株A-172 (ヒト神経膠芽腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2D (パート1))。A-172細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図2D-2】第2のスクリーニングラウンドでのヒトがん細胞株A-172 (ヒト神経膠芽腫)におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのhCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである(図2D (パート2))。A-172細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1 (WO2014154843 A1に記載)で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図3】HDLM-2及びA-172細胞におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの効力の相関分析を示すグラフである。
図4】HDLM-2細胞における選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチド(A04019H (配列番号23)、A04033H (配列番号37)、A04039H (配列番号43)、A04040H (配列番号3)、A04042H (配列番号45)、A04044H (配列番号47)及びA04045H (配列番号4))による濃度依存性hCD39 mRNAノックダウンを示すグラフである。HDLM-2細胞を指示濃度の各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。残余hCD39発現を無処置対照細胞と比較して示す。hCD39 mRNA発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。濃度依存性標的ノックダウンをTable 8 (表8)に示すIC50値の算出に使用した。
図5】HDLM-2細胞における更に選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチド(A04010H (配列番号14)、A04016H (配列番号20)、A04017H (配列番号21)、A04019H (配列番号23)、A04020H (配列番号24)及びA04026H (配列番号30))による濃度依存性hCD39 mRNAノックダウンを示すグラフである。第1及び第2のスクリーニングラウンドにおいて強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)を参照として使用した。HDLM-2細胞を指示濃度の各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。hCD39 mRNA発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。無処置細胞(100として設定)と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。3連のウェルの平均+/- SDを示す。濃度依存性標的ノックダウンをTable 9 (表9)に示すIC50値の算出に使用した。
図6A】更なるアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計した、第3のスクリーニングラウンドを示すグラフである。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、第1及び第2のスクリーニングラウンド由来の効果的なアンチセンスオリゴヌクレオチドをベースとした。したがって、hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドをヒトがん細胞株HDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫) (図6A)において試験した。HDLM-2細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。第1のスクリーニングラウンドにおいて強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04019H、A04040H、及びA04042Hを参照として使用した。無処置細胞(1として設定)と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。
図6B】更なるアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計した、第3のスクリーニングラウンドを示すグラフである。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、第1及び第2のスクリーニングラウンド由来の効果的なアンチセンスオリゴヌクレオチドをベースとした。したがって、hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドをヒトがん細胞株A-172 (ヒト神経膠芽腫) (図6B)において試験した。A-172細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。第1のスクリーニングラウンドにおいて強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04019H、A04040H、及びA04042Hを参照として使用した。無処置細胞(1として設定)と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。
図7】第3のスクリーニングラウンドでのHDLM-2及びA-172細胞における、更に選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチド(A04051H (配列番号88)、A04052H (配列番号89)、A04053H (配列番号89)、A04056H (配列番号92)、A04059H (配列番号94)、A04060H (配列番号95)及びA04061H (配列番号96))による濃度依存性hCD39 mRNAノックダウンを示すグラフである。第1及び第2のスクリーニングラウンドにおいて強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)を参照として使用した。HDLM-2細胞を指示濃度の各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。hCD39 mRNA発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。無処置細胞(100として設定)と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。3連のウェルの平均+/- SDを示す。濃度依存性標的ノックダウンをTable 12 (表12)に示すIC50値の算出に使用した。
図8】A04040H (配列番号3)及びA04045H (配列番号4)による濃度依存性及び時間依存性CD39タンパク質ノックダウンを示すグラフである。HDLM-2細胞におけるCD39タンパク質発現のフローサイトメトリーによる分析を、指示するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる処置の後3、4及び6日間行う。処置対照として、細胞を指示濃度のneg1で3、4及び6日間処置した。無処置対照細胞(= 1)と比較した相対発現を示す。
図9】抗CD3抗体の存在下で10μMのhCD39特異的ASO A04040H (黒色棒グラフ)又は対照オリゴヌクレオチドS6 (白色棒グラフ)で6日間処置した初代ヒトCD8+及びCD4+ T細胞を示すグラフである。対照細胞を抗CD3で活性化したが、いかなるオリゴヌクレオチド処置も受けなかった(縞の棒グラフ)。その後、オリゴヌクレオチド及び抗CD3を除去し、オリゴヌクレオチド除去後3、6、及び11日目にhCD39タンパク質発現をフローサイトメトリーにより分析した。CD39タンパク質発現を平均蛍光強度(MFI)として示し、CD39のMFIから非特異的アイソタイプ対照のMFIを減算することにより算出した。2つのウェルの平均+/- SDを示す。
図10図10A図10Cは、JIYOYE細胞における生存率及びATP濃度に対するhCD39ノックダウンの作用を示すグラフである。JIYOYE細胞を5μMの指示するアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)又はneg1で計6日間処置した。3日後に培地を新鮮なオリゴヌクレオチド含有培地と交換し、6日目にhCD39タンパク質ノックダウン効力をフローサイトメトリーにより分析した。オリゴヌクレオチド処置細胞の残余hCD39発現及び生存率を無処置細胞と比較して示す(図10A図10B)。6日後、20μMのCD39低分子阻害物質ARL67156三ナトリウム塩をASO無処置細胞に加え、37℃で1時間インキュベートした。次いで、2μMのATPを細胞又は各条件由来の細胞を含まない細胞培養培地に加え、30分後に細胞上清のATP濃度又は細胞培養培地をATP生物発光アッセイキット(ATP Bioluminescence Assay Kit) (Roche社)を使用して決定した(図10C)。
図11-1】図11A図11Dは、MACSを使用して末梢血から単離した初代ヒトCD8+ T細胞のhCD39タンパク質(図11A)及び生存率(図11B)のノックダウンを示すグラフである。CD8+ T細胞をプレート結合抗ヒトCD3 (OKT-3)により活性化した。活性細胞をRPMI-1640培地、A04040H (配列番号3)を補充した培地、及び5μMのneg1を補充した培地でそれぞれ計6日間処置した。3日後、培地を5μMのA04040H (配列番号3)及びneg1をそれぞれ含有する新鮮な培地と交換し、6日目にhCD39タンパク質ノックダウン効力(図11A)及び生存率(図11B)をフローサイトメトリーにより分析した。残余hCD39発現及び生存率(7-AAD陽性細胞の中央値)を無処置細胞と比較して示す。
図11-2】同日、細胞を採取、洗浄し、一定細胞数(96ウェルプレート中150.000細胞/ウェル)を各3連のウェルに再度蒔いた。次いで、2μM(図11C)又は20μM(図11D)のATPを細胞又は無細胞の細胞培養培地に加え、30分後に細胞上清又は細胞培養培地のATP濃度を、ATP生物発光アッセイキット(Roche社)を使用して決定した。
図12A】細胞増殖色素で標識し、抗CD3で活性化し、5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (黒色棒グラフ)又は対照オリゴヌクレオチドS6 (白色棒グラフ)で5日の全処置時間の間処置したヒトCD8+ T細胞を示すグラフである。ビヒクル対照では(縞の棒グラフ)、細胞は抗CD3のみにより活性化された。続いて、オリゴヌクレオチド処置の開始後3日目及び4日目に400μMのATP又はビヒクルを細胞に加えた。更に、4日目に24時間のインキュベーション時間の間、追加の対照として20μMの低分子CD39阻害物質ARL67156三ナトリウム塩を細胞に加えた(チェックの棒グラフ)。オリゴヌクレオチド処置の開始後5日目に、CD8+ T細胞のCD39タンパク質発現を、フローサイトメトリーを使用して分析した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図12B】細胞増殖色素で標識し、抗CD3で活性化し、5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (黒色棒グラフ)又は対照オリゴヌクレオチドS6 (白色棒グラフ)で5日の全処置時間の間処置したヒトCD8+ T細胞を示すグラフである。ビヒクル対照では(縞の棒グラフ)、細胞は抗CD3のみにより活性化された。続いて、オリゴヌクレオチド処置の開始後3日目及び4日目に400μMのATP又はビヒクルを細胞に加えた。更に、4日目に24時間のインキュベーション時間の間、追加の対照として20μMの低分子CD39阻害物質ARL67156三ナトリウム塩を細胞に加えた(チェックの棒グラフ)。オリゴヌクレオチド処置の開始後5日目に、CD8+ T細胞の増殖を、フローサイトメトリーを使用して分析した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図12C】細胞増殖色素で標識し、抗CD3で活性化し、5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (黒色棒グラフ)又は対照オリゴヌクレオチドS6 (白色棒グラフ)で5日の全処置時間の間処置したヒトCD8+ T細胞を示すグラフである。ビヒクル対照では(縞の棒グラフ)、細胞は抗CD3のみにより活性化された。続いて、オリゴヌクレオチド処置の開始後3日目及び4日目に400μMのATP又はビヒクルを細胞に加えた。更に、4日目に24時間のインキュベーション時間の間、追加の対照として20μMの低分子CD39阻害物質ARL67156三ナトリウム塩を細胞に加えた(チェックの棒グラフ)。オリゴヌクレオチド処置の開始後5日目に、CD8+ T細胞の絶対細胞数を、フローサイトメトリーを使用して分析した。3連のウェルの平均+/- SDを示す。
図13】配列番号2 (NM_001304721.1)のmCD39 mRNA上の部位に結合するmCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの分布、並びにこれらの修飾及び長さを示す図である。mCD39アンチセンスオリゴヌクレオチド配列をmCD39 mRNA配列に対して整列させた。種々のグレースケールは種々のLNA修飾を示し、各記号は異なる長さのアンチセンスオリゴヌクレオチドを示す。
図14-1】(パート1)マウスがん細胞株A20 (マウスB細胞リンパ腫)におけるmCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのmCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである。A20細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドの単回投与で処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余mCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。
図14-2】(パート2)マウスがん細胞株A20 (マウスB細胞リンパ腫)におけるmCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのmCD39 mRNAノックダウン効力を示すグラフである。A20細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドの単回投与で処置した。陰性対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1で細胞を処置した。無処置細胞と比較した残余mCD39 mRNA発現を示す。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現に対して正規化した。
図15図15A及び図15Bは、1、2、3、4、5、9、12、16及び19日目に25mg/kg若しくは10mg/kgの用量のA04011MR又は陰性対照オリゴヌクレオチドneg1のいずれかの皮下注射により処置したC57BL/6マウス(5マウス/群)由来の脾臓におけるCD39 mRNA発現レベルを示すグラフである。発現値をハウスキーピング遺伝子HPRT1の発現値に対して正規化した。
図16図16A及び図16Bは、オリゴヌクレオチド処置マウス由来の腫瘍浸潤制御性T細胞(Treg)(図16A)及び腫瘍関連マクロファージ(TAM)(図16B)上のCD39タンパク質発現を、無処理マウスの腫瘍と比較して示すグラフである。
図17】配列番号1 (NM_001776.5 )のhCD39 mRNA(pos: 1-3420)の配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、エクトヌクレオチダーゼCD39のmRNA配列とハイブリダイズし、例えば、腫瘍細胞又は腫瘍関連免疫細胞上のCD39の発現及び活性のそれぞれを阻害する、ヒト及びマウスのオリゴヌクレオチドを初めて提供する。その結果、ATPのレベルは増大し、その分解産物、例えばADP、AMP及び免疫抑制アデノシンのレベルは減少する。このような作用はすべて抗腫瘍免疫細胞、免疫活性化(例えば、細胞傷害性T細胞又はNK細胞を介して)並びに腫瘍細胞の認識及び排除それぞれの増大をもたらす。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドは、CD39発現及び活性がそれぞれ増加している障害を予防及び/又は治療する方法における使用のための興味深く非常に効果的なツールとなる。
【0023】
以下において、本発明の要素をより詳細に記載する。このような要素を特定の実施形態と共に列挙するが、これらは任意の様式及び任意の数で組合せて、更なる実施形態を作り出すことが可能であることが理解されるべきである。様々に記載する実施例及び実施形態は、本発明を明示的に記載する実施形態のみに制限するものと解釈されるべきではない。本記載は、明示的に記載する実施形態を任意の数の開示された要素と組み合わせる実施形態を助け、包含するものと理解されるべきである。更に、本出願において記載する要素すべての任意の置換及び組合せは、文脈上他に指示しない限り、本出願の記載により開示するものとみなされるべきである。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、文脈上他に要求しない限り、語句「含む(comprise)」、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」等の変形は、記述するメンバー、整数若しくは工程、又はメンバー、整数若しくは工程の群を包含することを意味するが、他の任意のメンバー、整数若しくは工程、又はメンバー、整数若しくは工程の群を除外することを意味しないものと理解される。用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」並びに本発明の記述に関して(特に、特許請求の範囲の文脈で)使用する類似の参照は、本明細書において他に指示しない限り、又は文脈が明示的に矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、範囲内にある個別の値それぞれに個々に言及する簡潔な方法として機能することを単に意図する。本明細書において他に指示しない限り、個々の各値は、本明細書において個々に列挙する場合と同様に本明細書中に組み込む。本明細書において記載する方法はすべて、本明細書において他に指示しない限り、又は文脈が他に明示的に矛盾しない限り、任意の適した順序で実行することができる。本明細書において提供する任意及びすべての例、又は例示的言語(例えば、「等(such as)」、「例えば(for example)」)の使用は、本発明をより良く例示することを単に意図し、他に主張しない限り、本発明の範囲の制限を提起しない。本明細書における言語は、本発明の実施に不可欠な、主張していない任意の要素を示すものとして解釈されてはならない。
【0025】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば10~25ヌクレオチド、10~15ヌクレオチド、15~20ヌクレオチド、12~18ヌクレオチド、又は14~17ヌクレオチドからなる、又はこれを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、例えば10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は25ヌクレオチドからなる、又はこれを含む。本発明のオリゴヌクレオチドは、修飾された、少なくとも1ヌクレオチドを含む。修飾ヌクレオチドは、例えば、架橋ヌクレオチド、例えばロックド核酸(LNA、例えば2',4'-LNA)、cET、ENA、2'フルオロ修飾ヌクレオチド、2'O-メチル修飾ヌクレオチド又はこれらの組合せである。いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、同一の又は異なる修飾を有するヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、リン酸が、例えばホスホロチオエートである、修飾したリン酸骨格を含む。
【0026】
本発明のオリゴヌクレオチドは、1つ又は複数の修飾ヌクレオチドをオリゴヌクレオチドの3'及び/若しくは5'末端、並びに/又はオリゴヌクレオチド内の任意の位置に含み、ここで、修飾ヌクレオチドは1、2、3、4、5若しくは6修飾ヌクレオチドが連続するか、又は修飾ヌクレオチドは1つ若しくは複数の無修飾ヌクレオチドと組み合わせる。次のTable 1 (表1)、Table 2 (表2)及びTable 3 (表3)は、修飾ヌクレオチド、例えば(+)で示すLNA及び(*)で示すホスホロチオエート(PTO)を含むオリゴヌクレオチドの実施形態を示す。Table 1 (表1)、Table 2 (表2)及びTable 3 (表3)それぞれの配列からなる、又はこれを含むオリゴヌクレオチドは、他の任意の修飾ヌクレオチド並びに修飾及び無修飾ヌクレオチドの他の任意の組合せを含むことができる。Table 1 (表1)のオリゴヌクレオチドは、ヒトCD39のmRNAとハイブリダイズする。
【0027】
【表1A】
【0028】
【表1B】
【0029】
Table 2 (表2)は、別のスクリーニングラウンドにおいて同定されたヒトCD39のmRNAとハイブリダイズする、更なるアンチセンスオリゴヌクレオチドを示す。
【0030】
【表2】
【0031】
次のTable 3 (表3)は、ラット又はマウスCD39のmRNAとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを示す。
【0032】
【表3】
【0033】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば、配列番号1及び/又は配列番号2のヒト又はマウスD39のmRNAとハイブリダイズする。このようなオリゴヌクレオチドは、CD39アンチセンスオリゴヌクレオチドと呼ばれる。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、例えば、CD39 mRNA、例えば配列番号1のCD39 mRNAの1000~1700位又は2500~3200位でハイブリダイズする。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、例えばヒト、ラット又はマウスCD39等のCD39発現の少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%を阻害する。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば細胞、組織、臓器、又は対象において免疫抑制を復帰させる、免疫抑制復帰オリゴヌクレオチドである。本発明のオリゴヌクレオチドは、ナノモル又はマイクロモル濃度で、例えば0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900若しくは950nM、又は1、10若しくは100μMの濃度でCD39の発現を阻害する。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは1、3、5、9、10、15、27、30、40、50、75、82、100、250、300、500若しくは740nM又は1、2.2、3、5、6.6若しくは10μMの濃度で使用する。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明のオリゴヌクレオチド並びに薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む医薬組成物について言及する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、化学療法剤、別のオリゴヌクレオチド、抗体及び/又は低分子を更に含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物は、障害を予防及び/又は治療する方法における使用のためのものである。いくつかの実施形態では、障害を予防及び/又は治療する方法における本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物の使用は、放射線療法と組み合わせる。放射線療法は、化学療法(例えば、白金製剤、ゲムシタビン)と更に組み合わせることができる。障害は、例えば、CD39の不均衡を特徴とする。すなわち、正常で健康な細胞、組織、臓器又は対象におけるレベルと比較してCD39のレベルが増大する。CD39レベルは、例えばCD39発現及び活性それぞれの増加により増大する。CD39レベルは、任意の標準的方法、例えば、当業者に公知の免疫組織化学検査、ウエスタンブロット、定量的リアルタイムPCR又はQuantiGeneアッセイにより測定することができる。
【0038】
本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物は、局所的又は全身的に、例えば、経口的、舌下、経鼻的、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、髄腔内、経皮的及び/又は直腸内に投与する。代替的に又は組み合わせてex vivoで処置した免疫細胞を投与する。オリゴヌクレオチドは、単独で、又は別の本発明の免疫抑制復帰オリゴヌクレオチドと組み合わせて、並びに任意選択で別の化合物、例えば別のオリゴヌクレオチド、抗体若しくはこれらの断片、例えばFab断片、HERA融合タンパク質、リガンド捕捉剤、ナノボディ、BiTe、低分子及び/若しくは化学療法剤(例えば、白金製剤、ゲムシタビン)と組み合わせて投与する。いくつかの実施形態では、他のオリゴヌクレオチド(すなわち、本発明物の一部ではない)、抗体、及び/又は低分子は、自己免疫障害、例えば自己免疫性関節炎又は自己免疫性胃腸疾患、例えば炎症性腸疾患(IBD)若しくは結腸炎、免疫障害、例えば慢性ウイルス感染、例えばHIV感染による免疫疲弊、心血管障害、炎症性障害、例えば慢性気道炎症、細菌、ウイルス及び/又は真菌感染、例えば敗血症若しくはウシ結核菌感染、肝障害、慢性腎障害、精神障害(例えば、統合失調症、双極性障害、アルツハイマー病)及び/又はがんの予防及び/又は治療において有効である。
【0039】
本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物は、例えば、固形腫瘍又は血液腫瘍を予防及び/又は治療する方法において使用する。本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物の使用により予防可能かつ/又は治療可能ながんの例は、乳がん、肺がん、悪性黒色腫、リンパ腫、皮膚がん、骨がん、前立腺がん、肝がん、脳がん、喉頭、胆嚢、膵臓、精巣、直腸、副甲状腺、甲状腺、副腎、神経組織、頭頸部、結腸、胃、気管支、腎臓のがん、基底細胞癌、扁平上皮癌、転移性皮膚癌、骨肉腫、ユーイング肉腫、細網肉腫、脂肪肉腫、骨髄腫、巨細胞種瘍、小細胞肺腫瘍、膵島細胞腫瘍、原発性脳腫瘍、髄膜腫、急性及び慢性リンパ球性及び顆粒球性腫瘍、急性及び慢性骨髄球性白血病、ヘアリー細胞腫瘍、腺腫、過形成、髄様癌、腸管神経節腫、ウィルムス腫瘍、精上皮腫(セミノーマ)、卵巣腫瘍、平滑筋腫(leiomyomater tumor)、子宮頸部異形成、網膜芽細胞腫、軟部組織肉腫、悪性カルチノイド、局所皮膚病変、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、骨原性肉腫、悪性高カルシウム血症、腎細胞腫瘍、真性赤血球増加症(多血症)、腺癌、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、白血病、又は類表皮癌である。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の2つ以上のオリゴヌクレオチドは、例えば医薬組成物と同時点で、若しくは別々に、又は間隔をずらして共に投与する。他の実施形態では、本発明の1つ又は複数のオリゴヌクレオチドは、別の化合物、例えば、別のオリゴヌクレオチド(すなわち、本発明物の一部ではない)、抗体、低分子及び/又は化学療法剤と共に、例えば医薬組成物と同時点で、若しくは別々に、又は間隔をずらして投与する。このような組合せのいくつかの実施形態では、免疫抑制復帰オリゴヌクレオチドは、免疫抑制因子の発現及び活性のそれぞれを阻害し、他のオリゴヌクレオチド(すなわち、本発明物の一部ではない)、抗体又はその断片、例えばFab断片、HERA融合タンパク質、リガンド捕捉剤、ナノボディ、BiTe及び/若しくは低分子は、同一の及び/又は別の免疫抑制因子を阻害(アンタゴニスト)又は刺激(アゴニスト)する。免疫抑制因子及び/又は免疫刺激因子及び/又は免疫刺激因子。免疫抑制因子は、例えばIDO1、IDO2、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、VISTA、A2AR、CD39、CD73、STAT3、TDO2、TIM-3、TIGIT、TGF-ベータ、BTLA、MICA、NKG2A、KIR、CD160、Chop、Xbp1及びこれらの組合せからなる群から選択される。免疫刺激因子は、例えば4-1BB、Ox40、KIR、GITR、CD27、2B4及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0041】
免疫抑制因子は、その発現及び/又は活性が、例えば、細胞、組織、臓器又は対象中で増加する因子である。免疫刺激因子は、そのレベルが、細胞、組織、臓器又は対象及びその個々の症状に応じて、細胞、組織、臓器又は対象中で増大又は減少する因子である。
【0042】
本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物と組み合わせる抗体は、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、又は二重特異性抗体である。本発明のオリゴヌクレオチド又は医薬組成物と組み合わせる低分子は、例えばARL67156 (OncoImmunology 1:3、2012)又はPOM-1 (Gastroenterology、2010、139(3): 1030~1040頁)である。
【0043】
本発明の対象は、例えば、哺乳動物、鳥類又は魚類である。
【実施例
【0044】
以下の実施例は、本発明の種々の実施形態を例示するが、本発明は、これらの実施例に制限されない。以下の実験は、IDO1を内因性に発現する細胞について実行する。すなわちこの細胞は、トランスフェクトされたレポーター構築物を含む人工系を表さない。このような人工系は、治療的に適切なin vivo系に近い内在系よりも高次の阻害及び低次のIC50値を一般に示す。更に、以下の実験では、トランスフェクション剤を使用しない。すなわち、ジムノシス送達(gymnotic delivery)を実行する。トランスフェクション剤は、IC50値に影響するオリゴヌクレオチドの活性を増加させることで知られている(例えば、Zhangら、Gene Therapy、2011、18、326~333頁; Stantonら、Nucleic Acid Therapeutics、Vol. 22、No. 5、2012を参照)。人工系としてトランスフェクション剤を使用すると、治療手法に変換することが困難又は不可能となり、トランスフェクション製剤は、オリゴヌクレオチド用にはこれまでのところ認められていない。以下の実験は、いかなるトランスフェクション剤も使用せずに実行した。
【0045】
(実施例1)
ヒトCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計
ヒト(h) CD39への特異性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドの設計では、配列番号1 (seq. ref. ID NM_001776.5)を有するhCD39 mRNA配列を使用した。14、15、16及び17merを内部基準に従って設計し、neg1 (WO2014154843 A1に記載)を対照アンチセンスオリゴヌクレオチドとして実験のすべてにおいて使用した(Table 1 (表1))。hCD39 mRNA上の部位に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチドの分布を図1に示す。
【0046】
(実施例2)
ヒトがん細胞株におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの効力スクリーニング
がん細胞株におけるhCD39 mRNA発現のノックダウンに関する本発明のhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの効力を分析するために、図2A図2Dに示すように、各アンチセンスオリゴヌクレオチドの単回投与(濃度: 10μM、いかなるトランスフェクション試薬も加えず;このプロセスはジムノシス送達と呼ばれる)でHDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫、DSMZ)及びA-172 (ヒト神経膠芽腫、ATCC)細胞を処置した。hCD39及びHPRT1 mRNA発現を、QuantiGene Singleplexアッセイ(Affymetrix社製)を使用して3日後に分析し、hCD39発現値をHPRT1値に対して正規化した。際立ったことには、>90%のノックダウン効率は23及び18 (HDLM-2細胞、図2A及び図2B参照)について観察され、>90%のノックダウン効率は8及び10 (A-172細胞)アンチセンスオリゴヌクレオチド(図2C及び2D参照)について観察された。無処置細胞と比較した、hCD39の平均の正規化したmRNA発現を、A-172 (第1のスクリーニングラウンドに関するTable 4 (表4)及び第2のスクリーニングラウンドに関するTable 5 (表5))及びHDLM-2細胞(第1のスクリーニングラウンドに関するTable 6 (表6)及び第2のスクリーニングラウンドに関するTable 7 (表7))について以下に列挙する。
【0047】
【表4A】
【0048】
【表4B】
【0049】
【表5A】
【0050】
【表5B】
【0051】
【表6A】
【0052】
【表6B】
【0053】
【表7A】
【0054】
【表7B】
【0055】
【表7C】
【0056】
(実施例3)
HDLM-2及びA-172細胞におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの効力の相関分析
試験する両細胞株、HDLM-2及びA-172において最も高い活性を有する候補を更に選択するために、相関分析を実行した(データは図2B及び図2Dから得た)。図3に示すように、HDLM-2及びA-172細胞におけるIC50の決定のための7つの強力なアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわち、A04019H (配列番号23)、A04033H (配列番号37)、A04039H (配列番号43)、A04040H (配列番号3)、A04042H (配列番号45)、A04044H (配列番号47)及びA04045H (配列番号4) (黒でマーク)を選択した。重要なことには、対照アンチセンスオリゴヌクレオチドneg1は、両細胞株においてhCD39の発現に対して悪影響を及ぼさなかった。
【0057】
(実施例4)
第1のスクリーニングラウンドでのHDLM-2細胞における選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのIC50決定(mRNAレベル)
hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドA04019H (配列番号23)、A04033H (配列番号37)、A04039H (配列番号43)、A04040H (配列番号3)、A04042H (配列番号45)、A04044H (配列番号47)、A04045H (配列番号4)のIC50を決定するために、HDLM-2細胞を滴定量の各アンチセンスオリゴヌクレオチド(濃度: 10μM、3.3μM、1.1μM、370nM、120nM、41nM、14nM、4.5nM)で処置した。hCD39 mRNA発現を3日後に分析した。図4及び次のTable 8 (表8)に示すように、アンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)及びA04045H (配列番号4)は、それぞれ99%及び99.2%の最大標的阻害を有する無処置細胞と比較して、hCD39 mRNAの下方制御に関してHDLM-2細胞において最も高い効力を有した。Table 8 (表8)は、HDLM-2細胞における滴定濃度での上述の選択されたアンチセンスオリゴヌクレオチドのIC50値及び標的阻害を示す。
【0058】
【表8】
【0059】
(実施例5)
第2のスクリーニングラウンドでのHDLM-2細胞における選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのIC50決定(mRNAレベル)
第2の実験では、hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドA04010H (配列番号14)、A04016H (配列番号20)、A04017H (配列番号21)、A04020H (配列番号24)及びA04026H (配列番号30)の作用の濃度依存性及びIC50値を試験した。第1のIC50決定において強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04019H (配列番号23)及びA04040H (配列番号3)を参照として使用した。HDLM-2細胞を滴定量の各アンチセンスオリゴヌクレオチド(濃度: 10μM、3.3μM、1.1μM、370nM、120nM、41nM、14nM、4.5nM)で処置した。処置の3日後、hCD39 mRNA発現を分析した。図5及びTable 9 (表9)は、選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドによってhCD39 mRNA発現が濃度依存的に低減したことを示す。アンチセンスオリゴヌクレオチドA04016H、A04019H、A04020H及びA04040Hは、HDLM-2細胞においてhCD39 mRNAを抑制するのに最も高い効力を有し、これは12.8nM (A04016H)、11.58nM (A04019H)、10.11nM (A04020H)、及び21.53nM (A04040H)のIC50値により示された。
【0060】
【表9】
【0061】
(実施例6)
ヒトがん細胞株におけるhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの第3のスクリーニングラウンド
第3のスクリーニングラウンドでは、新たなアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計した。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、長さ、mRNA上の正確な位置及び化学修飾パターンを修飾した第1のスクリーニングラウンド由来の効果的なアンチセンスオリゴヌクレオチドをベースとした。したがって、hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドをヒトがん細胞株である(図6A、Table 10 (表10)) HDLM-2 (ヒトホジキンリンパ腫)及び(図6B、Table 11 (表11)) A-172 (ヒト神経膠芽腫)において試験した。HDLM-2及びA-172細胞を10μMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドで3日間処置した。第1のスクリーニングラウンドにおいて強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04019H (配列番号23)、A04040H (配列番号3)、及びA04042H (配列番号45)を参照として使用した。無処置細胞(1として設定)と比較した残余hCD39 mRNA発現を示す。
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
(実施例7)
第3スクリーニングラウンドでのHDLM-2細胞における選択したhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのIC50決定(mRNAレベル)
hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドA04051H (配列番号88)、A04052H (配列番号89)、A04053H (配列番号89)、A04056H (配列番号92)、A04059H (配列番号94)、A04060H (配列番号95)、及びA04061H (配列番号96)は、HDLM-2及びA-172細胞の両方において強力な単回投与の活性を示した。作用の濃度依存性を検討するため、及びIC50値を決定するために、1000nM、330nM、110nM、40nM、12nM、4nM、1.3nM、0.45nMの各アンチセンスオリゴヌクレオチドでHDLM-2細胞を処置した。第1のスクリーニングラウンドにおいて強力な活性を示したアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040Hを参照として使用した。処置の3日後、hCD39 mRNA発現を分析した。図7は、hCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドによりhCD39発現が濃度依存的に減少したことを示す。IC50値及び標的阻害をTable 12 (表12)に示す。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドA04056H、A04059H、及びA04060Hは、HDLM-2細胞においてhCD39 mRNAを抑制するのに最も高い効力を有し、これは20.2nM (A04056H)、18.32nM (A04059H)、又は20.5nM (A04060H)のIC50値により示された。
【0065】
【表12】
【0066】
(実施例8)
A04040H (配列番号3)及びA04045H (配列番号4)による濃度依存性及び時間依存性hCD39タンパク質ノックダウン
高度に強力なhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)及びA04045H (配列番号4)は、種々の濃度におけるhCD39タンパク質発現に対するこれらのノックダウン効力及び細胞生存率に対するこれらの影響によって詳細に特徴付けられた。したがって、HDLM-2細胞を種々の濃度の各アンチセンスオリゴヌクレオチドでそれぞれ3、4及び6日間処置した。CD39抗体(クローンA1)及び7-AADを使用したフローサイトメトリーによりタンパク質発現を分析して生存率を検討した。図8に示すように、両方のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、すべての指示時点の後、hCD39タンパク質の強力な阻害を示したが、neg1による処置では、阻害効果を有しなかった。対照的に、A04045H (配列番号4)は、試験条件のいずれにおいてもHDLM-2細胞の生存率に影響しなかった。Table 13 (表13)では、種々の時点でのHDLM-2細胞における選択されたヒトCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)及びA04045H (配列番号4)のタンパク質ノックダウン効力を要約する。
【0067】
【表13】
【0068】
(実施例9)
初代ヒトCD4+及びCD8+ T細胞におけるhCD39タンパク質発現に対するhCD39特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドの作用の検討並びにオリゴヌクレオチド除去後の作用持続性の検討
A04040Hは、ヒトがん細胞株においてmRNAレベル及びタンパク質レベルでhCD39発現を抑制する非常に強力な活性を示した。次のステップでは、初代ヒトT細胞におけるその活性を検討した。更に、アンチセンスオリゴヌクレオチド除去後の作用の持続性を調査した。したがって、CD8+及びCD4+ T細胞を末梢血から単離し、いかなるヒトmRNAにも相補的ではない10μMのhCD39特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (黒色棒グラフ)又は対照オリゴヌクレオチドS6 (白色棒グラフ)の存在下で抗CD3による6日の全処置時間の間、CD8+及びCD4+ T細胞を活性化した。対照細胞を抗CD3で活性化したが、いかなるオリゴヌクレオチド処置も受けなかった (縞の棒グラフ)。その後、オリゴヌクレオチドを除去し、オリゴヌクレオチド除去の3、6及び11日後にhCD39タンパク質発現をフローサイトメトリーにより分析した(図9)。
【0069】
図9に示すように、無処置対照細胞と比較した場合、A04040Hは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの除去後、少なくとも6日の間hCD39タンパク質発現を有意に抑制したが、S6による処置は、hCD39タンパク質発現に対して阻害効果を有しなかった。hCD39タンパク質発現の全般的な低減が、後の時点(6日目及び11日目)でCD8+及びCD4+ T細胞上に認められた。これは、細胞培養物から抗CD3を除去した後、T細胞活性が低減したためである可能性が高い。したがって、CD39アンチセンスオリゴヌクレオチド処置T細胞と対照オリゴヌクレオチド処置T細胞との間のhCD39タンパク質発現レベルの差は、ASO除去後3日目が最も大きかった。これは、オリゴヌクレオチド除去6日後でもなお有意であった(図9)。オリゴヌクレオチド除去11日後では、CD8+及びCD4+ T細胞上のhCD39発現は低く、CD39 ASO、対照ASO、及び無処置対照細胞の間で同等であった(図9)。
【0070】
(実施例10)
JIYOYE細胞におけるATP分解に対するhCD39ノックダウンの下流効果
アデノシンは、hCD39によるATP分解中に産生される主要な一免疫抑制分子である。ATPは、ATP生物発光アッセイ(ATP Bioluminescence Assay Kit CLS II、Roche社)により検出することができる。JIYOYE細胞を5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)又は陰性対照オリゴヌクレオチドneg1で6日間(3+3)処置した。3日後、RPMI-1640培地を5μMのオリゴヌクレオチドを含有する新鮮なRPMI-1640培地と交換した。タンパク質ノックダウン効力(図10A)及び生存率(図10B)を6日後にフローサイトメトリーにより分析した。アンチセンスオリゴヌクレオチドの存在は、細胞生存率に影響しなかった(図10B)。同日、いかなるアンチセンスオリゴヌクレオチドでも処置しなかった細胞を20μMのCD39低分子阻害物質ARL67156三ナトリウム塩(TOCRIS社)と共に37℃で1時間インキュベートした。次いで、2μMのATPを細胞又は各条件由来の細胞を含まない細胞培養培地に加え、30分後、細胞上清において、又は細胞培養培地においてATP濃度を測定した。際立ったことには、ATP分解効力は、A04040H (配列番号3)で処置したJIYOYE細胞においてほとんど消失し(図10C)、結果として、neg1で処置した細胞と比較してATP濃度が約4倍高くなり、ARL67156で処置した細胞と比較してATP濃度が2倍高くなった(図10C)。Table 14 (表14)は、JIYOYE細胞の細胞培養上清における相対ATPレベルに対するhCD39ノックダウンの作用を示す。
【0071】
【表14】
【0072】
更に、ATP分解に対するhCD39ノックダウンの作用をまた、初代ヒトCD8+ T細胞において分析した(図11A図11D)。活性化T細胞を5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H (配列番号3)又は陰性対照オリゴヌクレオチドneg1で6日間(3+3)処置した。3日後、RPMI-1640培地を5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する新鮮なRPMI-1640培地と交換した。6日後にタンパク質ノックダウン効力(図11A)及び生存率(図11B)をフローサイトメトリーにより分析した。アンチセンスオリゴヌクレオチドの存在は、細胞生存率に影響しなかった(図11B)。6日目に、一定細胞数の細胞を再度蒔き、ATPを2μM (図11C)又は20μM (図11D)の濃度で加えた。30分後に細胞上清において、又は細胞培養培地においてATP濃度を測定した(Table 15 (表15))。
【0073】
際立ったことには、ATP分解効力は、A04040H(配列番号3)で処置したCD8+ T細胞においてほとんど消失し(図11C図11D)、結果として、neg1処置細胞と比較した場合、ATP濃度が約7倍高くなり、培地対照とほとんど同一のATP濃度に達した。Table 15 (表15)は、初代ヒトCD8+ T細胞におけるATP濃度に対するhCD39ノックダウンの作用を示す。
【0074】
【表15】
【0075】
(実施例11)
細胞外ATP存在下又は非存在下のT細胞増殖に対するCD39特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドの作用の検討
本発明におけるこれまでの結果は、初代ヒトCD8+ T細胞のA04040Hによる処置が細胞外ATPを分解する能力を著しく阻害することを明らかにした。がんでは、例えば、化学療法又は放射線療法により誘導される細胞死の後、ATPが腫瘍細胞から放出される。CD39-CD73軸はT細胞機能において重要な役割を果たすため、細胞外ATP存在下又は非存在下のT細胞増殖に対するA04040Hの作用を検討した。ヒトCD8+ T細胞を細胞増殖色素で標識し、抗CD3で活性化し、5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドA04040H又は対照オリゴヌクレオチドS6で5日の全処置時間の間、処置した。ビヒクル対照では、細胞を抗CD3のみで活性化した。続いて、オリゴヌクレオチド処置の開始後3日目及び4日目に400μMのATP又はビヒクルを細胞に加えた。更に、4日目に24時間のインキュベーション時間の間、追加の対照として20μMの低分子CD39阻害物質ARL67156三ナトリウム塩を細胞に加えた。オリゴヌクレオチド処置の開始後5日目にCD8+ T細胞のCD39タンパク質発現、増殖、及び絶対細胞数を、フローサイトメトリーを使用して分析した。
【0076】
CD8+ T細胞のA04040H処置により、CD39タンパク質発現が強力に抑制された(図12A)。細胞外ATPの非存在下で、A04040H処置(黒色棒グラフ)、S6処置(白色棒グラフ)、ARL67156処置(チェックの棒グラフ)、及びビヒクル処置(縞の棒グラフ) CD8+ T細胞の間で増殖(図12B上パネル)、又は絶対細胞数(図12C)に差は認められなかった。400μMのATPを添加すると、S6、ARL67156、又はビヒクルで処置したCD8+ T細胞の増殖が低減し(図12B下パネル)、絶対数が有意に減少した(図12C)。際立ったことには、A04040H処置CD8+ T細胞の増殖(図12B下パネル)は、ATPによる細胞培養培地の補充により低減しなかった。したがって、絶対T細胞数(図12C)は、A04040H処置細胞においてATP添加により変化しなかった。
【0077】
要約すると、このような結果は、ATPによる細胞培養培地の補充は、CD8+ T細胞を発現するCD39の増殖を著しく阻害することを明らかにした。際立ったことには、A04040H処置によるCD39タンパク質ノックダウンによって、ATP分解が阻害され、したがって、細胞増殖及び絶対T細胞数に対する補充したATPの阻害効果が復帰した。
【0078】
(実施例12)
マウス/ラットCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計
ヒトCD39とマウス(m)/ラット(r) CD39との間の配列の差異のため、ごくわずかなhCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドのみが、マウス/ラットCD39に交差反応性である。これらがヒト細胞株において限定的なノックダウン効力のみを示したため、代替アンチセンスオリゴヌクレオチドを、マウス/ラットCD39への特異性を有するように設計した。配列番号2 (seq. ref. NM_001304721.1)を有するマウスCD39 mRNA配列を15、16及び17merアンチセンスオリゴヌクレオチドの設計のベースとして使用した。neg1はWO2014154843 A1に記載されており、すべての実験において対照として作用する(Table 2 (表2))。hCD39 mRNA上の部位に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチドの分布を図13に示す。
【0079】
(実施例13)
マウスがん細胞株におけるmCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの効力スクリーニング
がん細胞株におけるmCD39 mRNA発現のノックダウンに関するmCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドの効力を分析するために、図14に示すように、各アンチセンスオリゴヌクレオチドの単回投与(濃度: 10μM、いかなるトランスフェクション試薬も加えず;このプロセスはジムノシス送達と呼ばれる)でA20 (マウスB細胞リンパ腫、ATCC)細胞を処置した。対照として、CGTTTAGGCTATGTACTTの配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるneg1で細胞を処置した。3日後にmCD39及びHPRT1 mRNA発現を、QuantiGene Singleplexアッセイ(Affymetrix社製)を使用して分析し、mCD39発現値をHPRT1発現値に対して正規化した。際立ったことには、図14に示すように、15種の様々なアンチセンスオリゴヌクレオチドによる処置によって、A20細胞において>90%のノックダウン効力がもたらされた。mCD39の平均の正規化したmRNA発現の正確な値を次のTable 16 (表16)に示す。
【0080】
【表16】
【0081】
(実施例14)
C57BL/6マウスにおけるアンチセンスオリゴヌクレオチド媒介in vivo mCD39 mRNAノックダウン
強力なmCD39 ASOであるA04011MRを選択し、C57BL/6マウスにおけるそのin vivoノックダウン能を分析した。1、2、3、4、5、9、12、16及び19日目に25mg/kg又は10mg/kgの用量のA04011MR又は陰性対照オリゴヌクレオチドneg1のいずれかの皮下注射によりC57BL/6マウスを処置した(5匹のマウス/群)。最後のASO処置から7日後(26日目)、マウスを屠殺し、CD39 mRNAを分析するために脾臓を試料採取した。図15に示す結果は、A04011MR又はneg1により処置したマウスの脾臓におけるCD39 mRNA発現レベルを示す。際立ったことには、25mg/kg (図15A)又は10mg/kg (図15B)のA04011MRを用いたマウスの全身的治療では、対照オリゴヌクレオチド(neg1)処置マウスと比較した場合、mCD39 mRNAレベルが、脾臓において有意に低減した。このようなデータは、in vivoの脾臓においてA04011MRがCD39発現をmRNAレベルで強力に阻害することを明白に示す。
【0082】
(実施例15)
同系マウス腫瘍モデルにおけるアンチセンスオリゴヌクレオチド媒介in vivo mCD39タンパク質ノックダウン
強力なmCD39アンチセンスオリゴヌクレオチドA04011MRを選択し、同系のマウス皮下腫瘍モデルにおけるそのin vivoノックダウン能を分析した。したがって、5×105 MC38 wt腫瘍細胞をC57BL/6マウスに皮下注射した。腫瘍が50~70mm3の間のサイズに達すると、1、2、3、4、5、9及び12日目に種々の用量のA04011MR (20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg)又は陰性対照オリゴヌクレオチドneg1 (20mg/kg)を用いた皮下注射によりマウスに全身的治療を行った(4匹のマウス/群)。追加の対照として、MC-38担腫瘍マウスを無処置のままとした。アンチセンスオリゴヌクレオチドによる最後の処置から4日後(16日目)、腫瘍を単離して、腫瘍浸潤免疫細胞のサブタイプにおけるCD39タンパク質発現を、フローサイトメトリーを使用して分析した。図16A及び図16Bは、オリゴヌクレオチド処置マウス由来の腫瘍浸潤制御性T細胞(Treg) (図16A)及び腫瘍関連マクロファージ(TAM) (図16B)上のCD39タンパク質発現を、無処置マウスの腫瘍と比較して示す。際立ったことには、A04011MRは、対照と比較した場合、Treg (図16A)及びTAM (図16B)上のmCD39タンパク質発現を20mg/kgの場合に最も高い効力で用量依存性に抑制した。このようなデータは、in vivoの腫瘍浸潤免疫細胞においてA04011MRがCD39発現をタンパク質レベルで強力に阻害することを明白に示す。
図1
図2A-1】
図2A-2】
図2B-1】
図2B-2】
図2C-1】
図2C-2】
図2D-1】
図2D-2】
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12A
図12B
図12C
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17
【配列表】
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