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特許7146786太陽電池の製造方法、太陽電池および太陽電池モジュール
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】太陽電池の製造方法、太陽電池および太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20220927BHJP
   H01L 31/0747 20120101ALI20220927BHJP
【FI】
H01L31/04 260
H01L31/06 455
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019546601
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2018033640
(87)【国際公開番号】W WO2019069643
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2017194610
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】入江 暢
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航
(72)【発明者】
【氏名】吉河 訓太
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158226(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/132615(WO,A1)
【文献】特開2012-049183(JP,A)
【文献】国際公開第2016/051993(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0284923(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの主面のうちの少なくとも一方面側に凹凸構造を有する半導体基板と、前記半導体基板の前記一方面側の一部に順に積層された第1導電型半導体層および第1電極層と、前記半導体基板の前記一方面側の他の一部に順に積層された第2導電型半導体層および第2電極層とを備える裏面電極型の太陽電池の製造方法であって、
前記半導体基板の前記一方面側に積層された前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層上に、物理気相成長法を用いて、電極材料膜を少なくとも1層形成する電極材料膜形成工程と、
前記電極材料膜の一部を除去するパターニングを行い、第1方向に延在すると共に前記第1方向と交差する第2方向に並ぶように帯状の前記第1電極層および前記第2電極層を形成するパターニング工程と、
を含み、
前記電極材料膜形成工程では、前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層が積層された前記半導体基板を前記第2方向に搬送しながら、前記電極材料膜を形成する、
太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記電極材料膜形成工程では、前記電極材料膜を多層に形成する、請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記電極材料膜形成工程では、前記電極材料膜の多層のうちの前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層に接する1層目の層の膜厚が、2層目以降の層の膜厚よりも薄くなるように、前記電極材料膜を形成する、請求項2に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記電極材料膜形成工程では、前記電極材料膜の多層のうちの前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層に接する1層目の層の膜厚が、2層目以降の層の膜厚の1/2倍以下となるように、前記電極材料膜を形成する、請求項3に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
2つの主面のうちの少なくとも一方面側に凹凸構造を有する半導体基板と、前記半導体基板の前記一方面側の一部に順に積層された第1導電型半導体層および第1電極層と、前記半導体基板の前記一方面側の他の一部に順に積層された第2導電型半導体層および第2電極層とを備える裏面電極型の太陽電池であって、
前記第1電極層および前記第2電極層は、透明電極層であり、
前記第1電極層および前記第2電極層は、第1方向に延在する帯状をなし、前記第1方向に交差する第2方向に並んでおり、
隣り合う前記第1電極層と前記第2電極層との間には、前記第1電極層および前記第2電極層の電極材料の残渣が存在し、
前記残渣の一部は、前記半導体基板の凸部の一部を反映した形状で、かつ、前記第1方向に連なっている、
太陽電池。
【請求項6】
前記凸部は四角錐形状であり、
前記凸部の一部を反映した形状は、前記一方面側からの正面視において三角形状である、
請求項5に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記第1電極層および前記第2電極層は、多層構造であり、
前記多層構造のうちの前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層に接する1層目の層の膜厚は、2層目以降の層の膜厚の1/2倍以下である、
請求項5または6に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記第1電極層および前記第2電極層の電極材料は、導電性酸化物である、請求項5~7の何れか1項に記載の太陽電池。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の太陽電池を備える、太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面電極型(バックコンタクト型)の太陽電池の製造方法、太陽電池、およびその太陽電池を備えた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板を用いた太陽電池として、受光面側および裏面側の両面に電極が形成された両面電極型の太陽電池と、裏面側のみに電極が形成された裏面電極型の太陽電池とがある。両面電極型の太陽電池では、受光面側に電極が形成されるため、この電極により太陽光が遮蔽されてしまう。一方、裏面電極型の太陽電池では、受光面側に電極が形成されないため、両面電極型の太陽電池と比較して太陽光の受光率が高い。特許文献1には、裏面電極型の太陽電池が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の太陽電池は、光電変換層として機能する半導体基板と、半導体基板の裏面側の一部に順に積層された第1導電型半導体層および第1電極層と、半導体基板の裏面側の他の一部に順に積層された第2導電型半導体層および第2電極層とを備える。この太陽電池では、入射光の反射を低減し、半導体基板における光閉じ込め効果を向上するために、半導体基板の受光面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有する。また、この太陽電池では、半導体基板に吸収されず通過してしまった光の回収効率を高めるために、半導体基板の裏面側(電極形成面側)に同様の凹凸構造(テクスチャ構造)を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/114371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような太陽電池では、第1電極層および第2電極層の形成方法として、例えばスパッタリング法等の物理気相成長法(PVD)が用いられる。具体的には、半導体基板の裏面側に積層された第1導電型半導体層および第2導電型半導体層上に、物理気相成長法を用いて、電極材料膜を形成し(電極材料膜形成工程)、その後、フォトリソグラフィー法等を用いて、電極材料膜の一部を除去するパターニングを行い、互いに分離した第1電極層および第2電極層を形成する(パターニング工程)。
【0006】
このように、裏面側に凹凸構造(テクスチャ構造)を有する半導体基板を用いた裏面電極型の太陽電池において、物理気相成長法を用いて第1電極層および第2電極層を形成すると、第1電極層と第2電極層との間のリーク電流が増加し、曲線因子が低下してしまうことがある。
【0007】
本発明は、電極層間のリーク電流の増加を抑制し、曲線因子の低下を抑制する太陽電池の製造方法、太陽電池、およびその太陽電池を備えた太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る太陽電池の製造方法は、2つの主面のうちの少なくとも一方面側に凹凸構造を有する半導体基板と、半導体基板の一方面側の一部に順に積層された第1導電型半導体層および第1電極層と、半導体基板の一方面側の他の一部に順に積層された第2導電型半導体層および第2電極層とを備える裏面電極型の太陽電池の製造方法であって、半導体基板の一方面側に積層された第1導電型半導体層および第2導電型半導体層上に、物理気相成長法を用いて、電極材料膜を少なくとも1層形成する電極材料膜形成工程と、電極材料膜の一部を除去するパターニングを行い、第1方向に延在すると共に第1方向と交差する第2方向に並ぶように帯状の第1電極層および第2電極層を形成するパターニング工程とを含み、電極材料膜形成工程では、第1導電型半導体層および第2導電型半導体層が積層された半導体基板を第2方向に搬送しながら、電極材料膜を形成する。
【0009】
本発明に係る太陽電池は、2つの主面のうちの少なくとも一方面側に凹凸構造を有する半導体基板と、半導体基板の一方面側の一部に順に積層された第1導電型半導体層および第1電極層と、半導体基板の一方面側の他の一部に順に積層された第2導電型半導体層および第2電極層とを備える裏面電極型の太陽電池であって、第1電極層および第2電極層は、第1方向に延在する帯状をなし、第1方向に交差する第2方向に並んでおり、隣り合う第1電極層と第2電極層との間には、第1電極層および第2電極層の電極材料の残渣が存在し、残渣の一部は、半導体基板の凸部の一部を反映した形状で、かつ、第1方向に連なっている。
【0010】
本発明に係る太陽電池モジュールは、上記した太陽電池を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極層間のリーク電流の増加を抑制し、曲線因子の低下を抑制する太陽電池およびその太陽電池を備えた太陽電池モジュールが製造される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る太陽電池モジュールの一例を示す側面図である。
図2】本実施形態に係る太陽電池を裏面側からみた図である。
図3図2の太陽電池におけるIII-III線断面図である。
図4A】透明電極層間の境界領域を拡大して示す図である。
図4B図4Aに示す凸部Aの面A2の一部を更に拡大して示す図である。
図5A】本実施形態に係る太陽電池の透明電極層間の境界領域における電極材料の残渣を示す図である。
図5B】従来の太陽電池の透明電極層間の境界領域における電極材料の残渣を示す図である。
図6A】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6B】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6C】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6D】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6E】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6F】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6G】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2導電型半導体層形成工程の一部を示す図である。
図6H】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における電極形成工程の一部を示す図である。
図6I】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における電極形成工程の一部を示す図である。
図6J】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における電極形成工程の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0014】
(太陽電池モジュール)
図1は、本実施形態に係る太陽電池モジュールの一例を示す側面図である。図1に示すように、太陽電池モジュール100は、二次元状に配列された複数の太陽電池セル1を備える。
【0015】
太陽電池セル1は、配線部材2によって直列および/または並列に接続される。具体的には、配線部材2は、太陽電池セル1の電極におけるバスバー部(後述)に接続される。配線部材2は、例えば、タブ等の公知のインターコネクタである。
【0016】
太陽電池セル1および配線部材2は、受光面保護部材3と裏面保護部材4とによって挟み込まれている。受光面保護部材3と裏面保護部材4との間には、液体状または固体状の封止材5が充填されており、これにより、太陽電池セル1および配線部材2は封止される。受光面保護部材3は、例えばガラス基板であり、裏面保護部材4は、ガラス基板、金属板、または金属層と樹脂層とで多層化した複合シートが挙げられる。封止材5は、例えば透明樹脂である。
以下、太陽電池セル(以下、太陽電池という。)1について詳細に説明する。
【0017】
(太陽電池)
図2は、本実施形態に係る太陽電池を裏面側からみた図である。図2に示す太陽電池1は、裏面電極型の太陽電池である。太陽電池1は、2つの主面を備える半導体基板11を備え、半導体基板11の主面において第1導電型領域7と第2導電型領域8とを有する。
【0018】
第1導電型領域7は、いわゆる櫛型の形状をなし、櫛歯に相当する複数のフィンガー部7fと、櫛歯の支持部に相当するバスバー部7bとを有する。バスバー部7bは、半導体基板11の一方の辺部に沿ってX方向(第2方向)に延在し、フィンガー部7fは、バスバー部7bから、X方向に交差するY方向(第1方向)に延在する。
同様に、第2導電型領域8は、いわゆる櫛型の形状であり、櫛歯に相当する複数のフィンガー部8fと、櫛歯の支持部に相当するバスバー部8bとを有する。バスバー部8bは、半導体基板11の一方の辺部に対向する他方の辺部に沿ってX方向(第2方向)に延在し、フィンガー部8fは、バスバー部8bから、Y方向(第1方向)に延在する。
フィンガー部7fとフィンガー部8fとは、Y方向(第1方向)に延在する帯状をなしており、X方向(第2方向)に交互に並んでいる。
なお、第1導電型領域7および第2導電型領域8は、ストライプ状に形成されてもよい。
【0019】
第1導電型領域7と第2導電型領域8とは、境界領域9を介して分離されている。
【0020】
図3は、図2の太陽電池におけるIII-III線断面図である。図3に示すように、太陽電池1は、半導体基板11の主面のうちの受光する側の一方の主面である受光面側に順に積層された接合層13と反射防止層15とを備える。また、太陽電池1は、半導体基板11の主面のうちの受光面の反対側の他方の主面である裏面側の一部(主に、第1導電型領域7)に順に積層された接合層23と、第1導電型半導体層25と、第1電極層27とを備える。また、太陽電池1は、半導体基板11の裏面側の他の一部(主に、第2導電型領域8)に順に積層された接合層33と、第2導電型半導体層35と、第2電極層37とを備える。
【0021】
<半導体基板>
半導体基板11としては、導電型単結晶シリコン基板、例えばn型単結晶シリコン基板またはp型単結晶シリコン基板が用いられる。これにより、高い光電変換効率が実現する。
半導体基板11は、n型単結晶シリコン基板であると好ましい。これにより、結晶シリコン基板内のキャリア寿命が長くなる。これは、p型単結晶シリコン基板では、光照射によってp型ドーパントであるB(ホウ素)が影響して再結合中心となるLID(Light Induced Degradation)が起こる場合があるが、n型単結晶シリコン基板ではLIDをより抑制するためである。
【0022】
半導体基板11は、裏面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有する。これにより、半導体基板11に吸収されず通過してしまった光の回収効率が高まる。
また、半導体基板11は、受光面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有していてもよい。これにより、受光面において入射光の反射が低減し、半導体基板11における光閉じ込め効果が向上する。
【0023】
半導体基板11の厚さは、50μm以上250μm以下であると好ましく、60μm以上230μm以下であるとより好ましく、70μm以上210μm以下であると更に好ましい。これにより、材料コストが低減する。
なお、半導体基板11として、導電型多結晶シリコン基板、例えばn型多結晶シリコン基板またはp型多結晶シリコン基板を用いてもよい。この場合、より安価に太陽電池が製造される。
【0024】
<反射防止層>
反射防止層15は、半導体基板11の受光面側に接合層13を介して形成されている。接合層13は、真性シリコン系層で形成される。
反射防止層15としては、屈折率1.5以上2.3以下程度の透光性膜が好適に用いられる。反射防止層15の材料としては、SiO、SiN、SiON、またはそれらの積層物等が好ましい。
【0025】
本実施形態では、受光面側に電極が形成されていないため(裏面電極型)、太陽光の受光率が高く、光電変換効率が向上する。
【0026】
<第1導電型半導体層および第2導電型半導体層>
第1導電型半導体層25は、半導体基板11の裏面側の一部(主に、第1導電型領域7)に接合層23を介して形成されており、第2導電型半導体層35は、半導体基板11の裏面側の他の一部(主に、第2導電型領域8)に接合層33を介して形成されている。これにより、第1導電型半導体層25および接合層23と、第2導電型半導体層35および接合層33とは、Y方向(第1方向)に延在する帯状をなしており、X方向(第2方向)に交互に並んでいる。
第1導電型半導体層25および接合層23と、第2導電型半導体層35および接合層33とは境界領域9にも延びている。境界領域9において、第2導電型半導体層35および接合層33の一部は、第1導電型半導体層25および接合層23の一部と重なり合っている。これにより、製造誤差を考慮しても半導体層が形成されない領域が存在することがなく、光電変換効率が高まる。
【0027】
第1導電型半導体層25は、第1導電型シリコン系層、例えばp型シリコン系層で形成される。第2導電型半導体層35は、第1導電型と異なる第2導電型のシリコン系層、例えばn型シリコン系層で形成される。なお、第1導電型半導体層25がn型シリコン系層であり、第2導電型半導体層35がp型シリコン系層であってもよい。
p型シリコン系層およびn型シリコン系層は、非晶質シリコン層、または、非晶質シリコンと結晶質シリコンとを含む微結晶シリコン層で形成される。p型シリコン系層のドーパント不純物としては、B(ホウ素)が好適に用いられ、n型シリコン系層のドーパント不純物としては、P(リン)が好適に用いられる。
【0028】
<接合層>
接合層23,33は、真性シリコン系層で形成される。接合層23,33は、パッシベーション層として機能し、キャリアの再結合を抑制する。
【0029】
<第1電極層および第2電極層>
第1電極層27は、第1導電型半導体層25上に形成されており、第2電極層37は、第2導電型半導体層35上に形成されている。これにより、第1電極層27および第2電極層37は、Y方向(第1方向)に延在する帯状をなしており、X方向(第2方向)に交互に並んでいる。
第1電極層27は、第1導電型半導体層25上に順に積層された透明電極層28と金属電極層29とを有する。第2電極層37は、第2導電型半導体層35上に順に積層された透明電極層38と金属電極層39とを有する。
<<透明電極層>>
透明電極層28,38は、透明導電性材料からなる透明導電層で形成される。透明電極層28,38は、多層構造であってもよい。この場合、多層構造のうちの第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35に接する1層目の層28a,38aの膜厚は、2層目以降の層28b,38bの膜厚の1/2倍以下であると好ましい。
透明導電性材料としては、透明導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等が用いられる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。更に、信頼性またはより高い導電率を確保するため、インジウム酸化物にドーパントを添加すると好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、またはS等が挙げられる。
【0030】
<<金属電極層>>
金属電極層29,39は、金属材料で形成される。金属材料としては、例えば、Cu、Ag、Alおよびこれらの合金が用いられる。
なお、製造プロセスの簡便化のために、透明電極層28と透明電極層38とは同じ材料で形成されてもよいし、金属電極層29と金属電極層39とは同じ材料で形成されてもよい。
【0031】
ここで、透明電極層28および透明電極層38の形成方法としては、例えばスパッタリング法等の物理気相成長法(PVD)が用いられる。具体的には、後述するように、物理気相成長法を用いて、半導体基板11を搬送しながら、半導体基板11の裏面側に積層された第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35上に電極材料膜を形成し(電極材料膜形成工程)、その後、フォトリソグラフィー法等を用いて、電極材料膜の一部をエッチングで除去するパターニングを行い、互いに分離した透明電極層28,38を形成する(パターニング工程)。
【0032】
このように、裏面側に凹凸構造(テクスチャ構造)を有する半導体基板11を用いた裏面電極型の太陽電池において、物理気相成長法を用いて透明電極層28,38を形成すると、透明電極層28,38間のリーク電流が増加し、曲線因子が低下してしまうことがある。
【0033】
本願発明者らは、鋭意検討を行い、透明電極層28,38間に溶け残る電極材料の残渣が原因であることを見出した。
図4Aは、透明電極層28,38間の境界領域9を拡大して示す図であり、図4Bは、図4Aに示す凸部Aの面A2の一部を更に拡大して示す図である。図4Aおよび図4Bには、走査型電子顕微鏡による観察結果が示されている。このように、観察倍率1000~100000倍程度で、透明電極層28,38間の境界領域9を観察することによって、電極材料の残渣(微小結晶粒)の形成状態を確認できる。更に、透明電極層28,38間の境界領域9における電極材料の残渣(微小結晶粒)の被覆率、および、その大きさも確認できる。
なお、電極層の膜厚が1~20nmと非常に薄い場合には、例えば透過型電子顕微鏡を用いればよい。この場合、観察倍率10万~100万倍程度で、透明電極層28,38間の境界領域9を含む断面を観察することによって、電極材料の残渣(微小結晶粒)の形成状態を確認できる。
図4Aでは、物理気相成長法を用いた電極材料膜形成時の半導体基板11の搬送方向がB1で示され、搬送方向B1に交差する方向がB2で示される。
【0034】
図4Aおよび図4Bに示すように、四角錐形状(ピラミッド型)の凸部Aにおける搬送方向B1側の面A1(すなわち、先にプラズマに曝され、PVDダメージが多い面)では、溶け残った電極材料の残渣(白く見える微小結晶粒)が少ない。一方、凸部Aにおける搬送方向B1と反対側の面A2(すなわち、後にプラズマに曝される面)では、溶け残った電極材料の残渣が多く、凸部Aの面A2側の一部を反映した形状(正面視において三角形状)で残渣が溶け残り、これらの残渣は搬送方向B1に交差する方向B2に連なっている。
これは、物理気相成長法による電極材料膜の形成において、電極材料膜中にエッチング液耐性が高い微小結晶粒が生成され、微小結晶粒がその後の電極材料膜のエッチング工程中に残渣として溶け残ったと考えられる。
【0035】
そのため、物理気相成長法における半導体基板11の搬送方向がY方向(第1方向、帯状の電極層に対して平行方向)である場合、図5Bに示すように、電極材料の残渣28pがX方向(第2方向)に連なり、透明電極層28,38間を架橋する。そのため、透明電極層28,38間のリーク電流が増加し、曲線因子(FF)が低下してしまう。
【0036】
なお、電極材料の残渣(微小結晶粒)を無くすには、エッチング処理時間を延ばすか、またはエッチング液の温度を上げることが考えられる。しかしながら、このようにすると、電極材料膜のパターニングの際のレジストパターン直下のアンダーエッチングで所望形状よりも小型な透明電極層になったり、残渣の残っていない領域の半導体層へのエッチング溶液の過度の浸漬に起因する半導体層のダメージが生じたりする。すると、透明電極層の直列抵抗の増加、または、半導体基板におけるキャリアのライフライム低下に起因する曲線因子の低下が生じるため好ましくない。
【0037】
そこで、本実施形態の太陽電池の製造方法では、物理気相成長法における半導体基板11の搬送方向をX方向(第2方向、電極層に対して交差方向)にする。
これにより、図5Aに示すように、電極材料の残渣28pがY方向(第1方向)に連なり、X方向(第2方向)には連ならず、透明電極層28,38間を架橋しない。そのため、透明電極層28,38の間のリーク電流の増加が抑制され、曲線因子(FF)の低下が抑制される。
【0038】
<<電極材料の残渣>>
以上より、本実施形態の太陽電池1では、図5Aおよび図4Aに示すように、隣り合う第1電極層27と第2電極層37との間(境界領域9)には、透明電極層28,38の電極材料の残渣(微小結晶粒)28pが存在する。残渣28pの一部は、半導体基板11の四角錐形状(ピラミッド型)の凸部Aの面A2の一部を反映した形状(正面視において三角形状)で、かつ、Y方向(第1方向、電極層に対して平行方向)に連なっている。なお、残渣28pは、X方向(第2方向、電極層に対して交差方向)に連なっていない。
【0039】
<太陽電池の製造方法>
次に、図6A図6Jを参照して、本実施形態に係る太陽電池の製造方法について説明する。図6A図6Eは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1導電型半導体層形成工程を示す図であり、図6Fおよび図6Gは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2導電型半導体層形成工程を示す図であり、図6H図6Jは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における電極形成工程を示す図である。
【0040】
<第1導電型半導体層形成工程>
まず、図6Aに示すように、少なくとも裏面側に凹凸構造を有する半導体基板(例えば、n型単結晶シリコン基板)11の裏面側の全面に接合層材料膜(例えば、真性シリコン系層)23Zを積層する。本実施形態では、このとき、半導体基板11の受光面側の全面に、接合層(例えば、真性シリコン系層)13を積層する(図示省略)。
その後、接合層材料膜23Z上に、すなわち半導体基板11の裏面側の全面に、第1導電型半導体材料膜(例えば、p型シリコン系層)25Zを積層する。
【0041】
接合層材料膜23Z、第1導電型半導体材料膜25Z、および接合層13の形成方法は特に限定されないが、プラズマCVD法を用いると好ましい。プラズマCVD法による製膜条件としては、例えば、基板温度100~300℃、圧力20~2600Pa、高周波パワー密度0.004~0.8W/cmが好適に用いられる。材料ガスとしては、例えばSiH、Si等のシリコン含有ガス、またはシリコン系ガスとHとの混合ガスが好適に用いられる。
第1導電型半導体材料膜25Zのドーパント添加ガスとしては、例えば、水素希釈されたBが好適に用いられる。
また、光の透過性を向上させるために、例えば、酸素または炭素といった不純物を微量添加してもよい。その場合、例えば、COまたはCHといったガスをCVD製膜の際に導入する。
プラズマCVD法を用いた製膜によれば、製膜条件によって比較的容易に膜質を制御できることから、耐エッチャント性や屈折率の調整が容易となる。
【0042】
次に、図6Bに示すように、半導体基板11の裏面側の第1導電型半導体材料膜25Z上にフォトレジスト91Zを形成する。フォトレジスト91Zとしては、ポジ型およびネガ型のいずれであってもよい。なお、材料の入手の容易さおよびパターニング精度の高さから、ポジ型のフォトレジストを用いると好ましい。以下では、ポジ型のフォトレジストを用いた場合について説明する。
本実施形態では、このとき、半導体基板11の受光面側の接合層13上に反射防止層15を形成する(図示省略)。反射防止層15の形成方法は特に限定されないが、精密な膜厚制御が可能なプラズマCVD法を用いると好ましい。CVD法による製膜によれば、材料ガスまたは製膜条件のコントロールで膜質制御が可能である。
【0043】
次に、図6Cに示すように、第1導電型半導体層のパターン形成用のフォトマスク(図示せず。)を用いてフォトレジスト91Zを露光し、第1導電型半導体材料膜25Zにおける第1導電型半導体層の一部が露出するようにフォトレジスト91Zの一部を除去してフォトレジスト91を形成する。
【0044】
次に、図6Dに示すように、フォトレジスト91をマスクとして、第1導電型半導体材料膜25Zおよび接合層材料膜23Zの一部をエッチングにより除去し、第1導電型半導体層25および接合層23を形成する。エッチング液としては、フッ酸を含む酸系の溶液が好適に用いられる。エッチング液は、各層毎に適合したものを適宜選択して用いられる。
【0045】
次に、図6Eに示すように、フォトレジスト91を剥離する。
以上の第1導電型半導体層形成工程では、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチング法を採用したが、マスクを利用したCVD法(化学気相堆積法)が採用されてもよい。
【0046】
<第2導電型半導体層形成工程>
次に、図6Fに示すように、半導体基板11の裏面側の露出部分および第1導電型半導体層25上に、すなわち半導体基板11の裏面側の全面に、接合層材料膜(例えば、真性シリコン系層)33Zを積層する。
その後、接合層材料膜33Z上に、すなわち半導体基板11の裏面側の全面に、第2導電型半導体材料膜(例えば、n型シリコン系層)35Zを積層する。
接合層材料膜33Zおよび第2導電型半導体材料膜35Zの形成方法は特に限定されないが、上述した接合層材料膜23Zおよび第1導電型半導体材料膜25Zと同様に、プラズマCVD法を用いると好ましい。第2導電型半導体材料膜35Zのドーパント添加ガスとしては、例えば、水素希釈されたPHが好適に用いられる。
なお、接合層材料膜33Zおよび第2導電型半導体材料膜35Zの形成工程の前に、半導体基板11の洗浄を行うことが好ましく、フッ酸水溶液による洗浄を行うことがより好ましい。
【0047】
次に、上述した図6B図6Eと同様に、フォトレジストをマスクとして、第2導電型半導体材料膜35Zおよび接合層材料膜33Zの一部をエッチングにより除去し、図6Gに示すように第2導電型半導体層35および接合層33を形成する。
【0048】
<電極層形成工程>
<<電極材料膜形成工程>>
次に、図6Hに示すように、第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35上に、すなわち半導体基板11の裏面側の全面に、透明電極材料膜28Zを積層する。透明電極材料膜28Zの形成方法としては、スパッタリング法等の物理気相成長法(PVD)が用いられる。その際、半導体基板11を、後述するパターニング工程で形成予定のY方向(第1方向)に延在する帯状の第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35と交差するX方向(第2方向)に搬送しながら、透明電極材料膜28Zを形成する。
また、半導体基板11の搬送を繰り返すことにより、透明電極材料膜28Zを多層に形成する。このとき、例えば、透明電極材料膜28Zの多層のうちの第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35に接する1層目の層28Zaの膜厚が、2層目以降の層28Zbの膜厚の1/2倍以下となるように、半導体基板11の搬送速度を制御する。
【0049】
<<パターニング工程>>
次に、上述した図6B図6Eと同様に、フォトレジストをマスクとして、透明電極材料膜28Zの一部をエッチングにより除去し(パターニング)、図6Iに示すように、第1導電型半導体層25上に透明電極層28を形成し、第2導電型半導体層35上に透明電極層38を形成する。これにより、Y方向(第1方向)に延在すると共に、Y方向と交差するX方向(第2方向)に並ぶように、帯状の透明電極層28および透明電極層38を形成する。
【0050】
上述したパターニング工程後、図6Jに示すように、透明電極層28上に金属電極層29を形成し、透明電極層38の上に金属電極層39を形成する。
金属電極層29,39の形成方法としては、例えば、スクリーン印刷法、メッキ法、導線接着法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法、スパッタリング法等が用いられる。特に、Agペーストを用いたスクリーン印刷法、銅メッキを用いたメッキ法が好ましい。
以上の工程により、本実施形態の裏面電極型の太陽電池1が完成する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、裏面側に凹凸構造(テクスチャ構造)を有する半導体基板11を用いた裏面電極型の太陽電池1において、物理気相成長法を用いて透明電極層28,38の電極材料を形成する際に、半導体基板11の搬送方向をX方向(第2方向、電極層に対して交差方向)にする。
これにより、図5Aに示すように、電極材料の残渣28pがY方向(第1方向)に連なり、X方向(第2方向)には連ならず、透明電極層28,38間を架橋しない。そのため、透明電極層28,38の間のリーク電流の増加が抑制され、曲線因子の低下が抑制される。
【0052】
ところで、物理気相成長法を用いた電極形成方法では、プラズマを用いた製膜手法であるため、電極材料または緩衝ガスの粒子が半導体基板11、接合層23,33および導電型半導体層25,35に衝突し、これらの層にダメージが生じる。そのため、キャリアライフタイムが低下し、曲線因子が低下する。
この点に関し、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、電極材料膜を多層に形成するため、1層目を形成する際に、電極材料または緩衝ガスの粒子が半導体基板11、接合層23,33および導電型半導体層25,35に衝突する時間を短縮でき、また、2層目以降の物理気相成長法による製膜ダメージが1層目により緩和される。そのため、キャリアライフタイムの低下が抑制され、曲線因子の低下がより抑制される。
【0053】
なお、透明電極層28,38間には電極材料の残渣(微小結晶粒)28pが存在しているため、第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35が保護され、各種工程時におけるキャリアライフタイムの低下が抑制され、耐湿熱性等の信頼性が向上することが予想される。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、図3に示すようにヘテロ接合型の太陽電池およびその製造方法を例示したが、本発明の特徴の電極形成方法は、ヘテロ接合型の太陽電池に限らず、ホモ接合型の太陽電池等の種々の太陽電池およびその製造方法に適用される。
【0055】
また、本実施形態では、透明電極層と金属電極層とから構成される電極層を例示したが、電極層は透明電極層または金属電極層の単層構造であってもよい。例えば、裏面側に凹凸構造(テクスチャ構造)を有する半導体基板を用いた裏面電極型の太陽電池において、物理気相成長法を用いて単層構造の金属電極層を形成する場合にも、本発明の特徴の電極形成方法を適用できる。
【実施例
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0057】
(実施例1)
<太陽電池の作製>
下記のとおり、図2および図3に示す裏面電極型の太陽電池1を、図6A図6Jに示す工程により作製した。
先ず、半導体基板11として入射面方位が(100)であるn型単結晶シリコン基板を準備し、この基板をアセトン中で洗浄した後、2質量%のフッ酸水溶液に5分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜を除去した後、超純水による洗浄を2回行った。この基板を、75℃に保持された5質量%KOH/15質量%イソプロピルアルコールの混合水溶液に15分間浸漬し、基板の表面をエッチングすることで、基板の表面にテクスチャ構造(凹凸構造)を形成した。その後、2質量%のフッ酸水溶液に5分間浸漬し、超純水による洗浄を2回行い、常温で乾燥させた。この段階で、パシフィックナノテクノロジー社製の原子間力顕微鏡(AFM)により、半導体基板の表面観察を行ったところ、基板の表面はエッチングが最も進行しており、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャ構造(凹凸構造)が形成されていることを確認した。上記基板の表面の算術平均粗さは2100nmであり、上記基板の厚さは160nmであった。上記基板の厚さは、基板の表裏の凸部間の距離を測定することで求めた。
【0058】
次に、エッチング後の基板をCVD装置へ導入し、半導体基板11の受光面側に接合層13として真性非晶質シリコンを10nmの膜厚で製膜した。真性非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度180℃、圧力130Pa、SiH/H流量比2/10、投入パワー密度0.03W/cmであった。本実施例における薄膜の膜厚は、シリコン基板上に同条件にて製膜された薄膜の膜厚を、分光エリプソメトリー(商品名:M2000、ジェー・エー・ウーラム社製)にて測定することにより求められた製膜速度から算出された値である。
【0059】
同様にしてCVD法により、半導体基板11の裏面側に接合層材料膜23Zとして真性非晶質シリコンを5nmの膜厚で製膜した。次に、接合層材料膜23Zの上に第1導電型半導体材料膜25Zとして、p型非晶質シリコンを10nmの膜厚で製膜した。真性非晶質シリコンの製膜条件は、受光面側のそれと同じ条件とした。また、p型非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度190℃、圧力130Pa、SiH/H/B流量比1/10/3、投入パワー密度0.04W/cmであった。上記でいうBガス流量は、HによりB濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
【0060】
このようにして形成された第1導電型半導体材料膜25Zを実質的に覆うようにフォトレジスト91Zを形成し、フォトマスクを用いてフォトレジスト91Zの一部を紫外光によって露光し、KOH水溶液によって現像し、フォトレジスト91Zの一部を除去してフォトレジスト91を形成し、第1導電型半導体材料膜25Zの一部を露出させた。
【0061】
次に、フォトレジスト91をマスクとして、第1導電型半導体材料膜25Zおよび接合層材料膜23ZをHFおよびHNOの混酸によってエッチングし、半導体基板11の裏面を露出させるように第1導電型半導体層25および接合層23を形成した。その後、エタノール、アセトンおよびイソプロピルアルコールの混合有機溶剤を用いてフォトレジスト91を剥離して除去した。
【0062】
次に、エッチングにより汚染された基板をHF水溶液で洗浄し、CVD装置へ導入して、裏面の全面に、接合層材料膜33Zとして真性非晶質シリコンを5nmの膜厚で製膜した。真性非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度180℃、圧力130Pa、SiH/H流量比2/10、投入パワー密度0.03W/cmであった。
【0063】
続いて、接合層材料膜33Zの上に第2導電型半導体材料膜35Zとしてn型非晶質シリコンを10nmの膜厚で製膜した。n型非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度180℃、圧力60Pa、SiH/PH流量比1/2、投入パワー密度0.02W/cmであった。上記でいうPHガス流量は、HによりPH濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
【0064】
さらに、第1導電型半導体材料膜25Zおよび接合層材料膜23Zに対してパターニングしたのと同様に、形成された第2導電型半導体材料膜35Zを実質的に覆うようにフォトレジストを形成し、フォトマスクを用いてフォトレジストの一部を紫外光によって露光した後、KOH水溶液によって現像し、フォトレジストの一部を除去してパターン化されたフォトレジストを形成した。
【0065】
そして、このフォトレジストを用いて、第1導電型半導体層25の上の第2導電型半導体材料膜35Zおよび接合層材料膜33ZをKOH水溶液によってエッチングによって除去し、第1導電型半導体層25の表面を露出させるように第2導電型半導体層35および接合層33を形成した。次に、第1導電型半導体層25および第2導電型半導体層35が形成された裏面の略全面に、酸化インジウム錫(ITO、屈折率:1.9)を、物理気相成長法により、基板11の搬送方向を後述のエッチング法で形成予定の帯状の透明電極層28,38に垂直(交差)な方向に搬送させ、膜厚10nmと70nmの2回に分けて計80nmに製膜することで透明電極材料膜28Zを形成した。ITOの製膜条件は、ターゲットとして酸化インジウムに錫を10質量%添加したものを用い、基板温度を室温とし、圧力0.3Paのアルゴン雰囲気中で、0.5W/cmのパワー密度を印加して電極材料膜として製膜した。
【0066】
次に、透明電極材料膜28Zの一部を、塩酸を用いたエッチングによって除去し、透明電極層28および透明電極層38として分離した。
【0067】
最後に、透明電極層28および透明電極層38上に、Agペーストをスクリーン印刷により塗布して、金属電極層29および金属電極層39を形成した。透明電極層28と金属電極層29が第1電極層27を構成し、透明電極層38と金属電極層39とが第2電極層37を構成する。
以上のように作製した太陽電池1を走査型電子顕微鏡によって倍率80000倍で観察することにより、透明電極層28,38間において、電極材料の残渣(微小結晶粒)が、帯状の透明電極層28,38と平行方向に並び、かつ透明電極層28,38間で架橋されていないことを確認した。
【0068】
(実施例2)
太陽電池1の作製工程において、透明電極材料膜28Zを一度に膜厚80nmに製膜した以外は、実施例1と同様にして太陽電池1を作製した。作製した太陽電池1を走査型電子顕微鏡によって倍率80000倍で観察したところ、電極材料の残渣(微小結晶粒)が透明電極層28,38間で架橋されていないことを確認した。
【0069】
(比較例1)
太陽電池の作製工程において、透明電極材料膜28Zの製膜時の基板11の搬送方向をエッチング法で形成予定の帯状の透明電極層28,38と平行な方向に搬送した以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製した。作製した太陽電池を走査型電子顕微鏡によって倍率80000倍で観察したところ、電極材料の残渣(微小結晶粒)が透明電極層28,38間で架橋されていることを確認した。
【0070】
(比較例2)
太陽電池の作製工程において、透明電極材料膜28Zを一度に膜厚80nmに製膜した以外は、比較例1と同様にして太陽電池を作製した。作製した太陽電池を走査型電子顕微鏡によって倍率80000倍で観察したところ、電極材料の残渣(微小結晶粒)が透明電極層28,38間で架橋されていることを確認した。
【0071】
以上のように作製した実施例1,2および比較例1,2の太陽電池の光電変換特性として、開放電圧Voc、短絡電流Isc、リーク電流Ileak、曲線因子FFを測定した。その結果を表1に示す。表1では、実施例2のVoc、Isc、Ileak、FFの結果を1.00とした場合の相対比率で実施例1、比較例1,2の結果を示した。Ileakについては、-2V時の電流I(-2V)とIscの比(I(-2V)/Isc)の結果を示した。
【0072】
【表1】
表1によれば、透明電極材料膜28Zの製膜時の基板11の搬送方向を帯状の透明電極層28,38と平行な方向に搬送したことで電極材料の残渣(微小結晶粒)が透明電極層28,38間で架橋されている比較例1に対して、透明電極材料膜28Zの製膜時の基板11の搬送方向を帯状の透明電極層28,38と垂直な方向に搬送したことで電極材料の残渣(微小結晶粒)が透明電極層28,38間で架橋されていない実施例1では、Ileakの増加が抑制され、FFの低下が抑制された。同様に、比較例2に対して実施例2では、Ileakの増加が抑制され、FFの低下が抑制された。
これは、透明電極層28,38間で電極材料の残渣(微小結晶粒)が架橋されることで発生するリーク電流、シャント抵抗の低下による出力ロスが抑制されたことが主原因であると考えられる。
【0073】
また、透明電極材料膜28Zを膜厚80nmに一度に製膜した実施例2に対して、透明電極材料膜28Zを膜厚10nmと70nmの2回に分けて製膜した実施例1では、FFの低下が抑制された。同様に、比較例2に対して比較例1では、FFの低下が抑制された。
これは、透明電極材料膜28Zを2層に分けて製膜したことによるキャリアライフタイムの低下が抑制されたことが主原因であると考えられる。
【0074】
以上より、透明電極材料膜28Zの製膜時の基板11の搬送方向を帯状の透明電極層28,38と垂直(交差)な方向に搬送することで、透明電極層28,38間で電極材料の残渣(微小結晶粒)が架橋されることを抑制し、その結果、透明電極層28,38間のリーク電流の増加を抑制でき、曲線因子の低下を抑制できることが分かった。
また、透明電極材料膜28Zの製膜を2層に分けて製膜することで、物理気相成長法のプラズマでの製膜ダメージによるキャリアライフタイムの低下を抑制し、曲線因子の低下をより抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0075】
1 太陽電池
2 配線部材
3 受光面保護部材
4 裏面保護部材
5 封止材
7 第1導電型領域
7b,8b バスバー部
7f,8f フィンガー部
8 第2導電型領域
9 境界領域
11 半導体基板
13,23,33 接合層
15 反射防止層
25 第1導電型半導体層
27 第1電極層
28,38 透明電極層
28p 電極材料の残渣
29,39 金属電極層
35 第2導電型半導体層
37 第2電極層
100 太陽電池モジュール
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J