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特許7146809医薬組成物の調製におけるシトクロムbc1複合体阻害剤の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】医薬組成物の調製におけるシトクロムbc1複合体阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/505 20060101AFI20220927BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/539 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 13/04 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A61K31/505
A61K31/12
A61K31/4178
A61K31/44
A61K31/539
A61K31/122
A61P29/00
A61P25/04
A61P21/00
A61P15/00
A61P11/00
A61P11/06
A61P9/00
A61P9/12
A61P27/16
A61P25/06
A61P1/00
A61P1/16 101
A61P1/04
A61P9/10
A61P13/04
A61P13/10
A61P13/12
A61P13/00
A61P1/12
A61P27/02
A61P27/06
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P19/08
A61P19/06
A61P9/10 101
A61P25/28
A61P43/00 105
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019560444
(86)(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 CN2018073609
(87)【国際公開番号】W WO2018133862
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2019-09-18
(31)【優先権主張番号】201710053062.2
(32)【優先日】2017-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710060825.6
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710070661.5
(32)【優先日】2017-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519264195
【氏名又は名称】ベイジン、ウェイランチユアン、メディカル、テクノロジー、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING WEILANZHIYUAN MEDICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】コン、ユウェン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101269076(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 31/00-31/80
A61P 21/00
A61P 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムbc1複合体の阻害剤を含んでなる、平滑筋攣縮関連疾患の処置のための医薬組成物であって、
前記シトクロムbc1複合体の阻害剤が、フルアクリピリム(FAPM)、アゾキシストロビン、トリフロキシストロビン、クレソキシムメチル、ピラクロストロビン、ピコキシストロビン、ジモキシストロビン、フルオキサストロビン、アトバコン、パルバクオン、ブパルバクオン、およびその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択され、
前記平滑筋攣縮関連疾患が、月経困難症;気道攣縮関連疾患、例えば、気管支喘息、喘息性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患または気道過敏;血管攣縮関連疾患、例えば、脳血管攣縮、肺高血圧、血管性難聴、片頭痛または群発頭痛;消化管攣縮関連疾患、例えば、胆嚢炎、胆管炎、胆石、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性腸炎、慢性腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎または腸結核;高血圧;冠動脈攣縮関連疾患、例えば、異型狭心症;膀胱炎;尿管結石;腎疝痛;緑内障;術後腸閉塞;頻尿;線維筋痛;性交疼痛;過敏性腸症候群;頸筋および眼瞼の攣縮;過活動膀胱;術後眼炎症および呼吸窮迫症候群からなる群から選択される、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の分野、特に、医薬におけるシトクロムbc1複合体の阻害剤の使用に関する。特に、本発明は、平滑筋攣縮(spasm)関連疾患の処置、炎症性疾患の処置および疼痛の緩和のためのシトクロムbc1複合体の阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロムcレダクターゼ、またはミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIとしても知られるミトコンドリアシトクロムbc1複合体は、ミトコンドリアおよびほとんどの細菌の呼吸電子伝達鎖の重要な成分であり、ユビキノンからシトクロムc(細菌においてはシトクロムc2)への電子の伝達を触媒する。シトクロムbc1複合体は、2つの機能的キノン結合部位を有する。一方は、ヘムbに近い、膜間腔の片側に位置する酸化部位Qであり、他方は、ヘムbに近い、マトリックスの片側に位置する還元部位Qである。従って、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、2つのカテゴリーに分けることができる。一方は、ミトコンドリア内膜の内壁に位置するQi部位に結合するものであり、この種の阻害剤はQi部位阻害剤と呼ばれ、アンチマイシンおよびシアゾファミドなどが挙げられる。他方は、ミトコンドリア内膜の外壁に位置するQo部位に結合するものであり、この種の阻害剤はQo部位阻害剤と呼ばれ、メトキシアクリレート系殺菌剤、およびイミダゾリノンなどが挙げられる。
【0003】
シトクロムbc1複合体の阻害剤に関する既存の研究は、それらの殺菌および殺虫効果に主に焦点を当てており、これらの阻害剤を用いたヒト疾患の処置に関する報告はほとんどない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、シトクロムbc1複合体の阻害剤により平滑筋攣縮関連疾患を処置し、炎症性疾患を処置し、かつ/または疼痛を緩和する方法、平滑筋攣縮関連疾患の処置、炎症性疾患の処置および/または疼痛の緩和のための薬剤の調製におけるシトクロムbc1複合体の阻害剤の使用、ならびにシトクロムbc1複合体の阻害剤を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0005】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体のQo部位阻害剤である。
【0006】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体のQi部位阻害剤である。
【0007】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのストロビルリン類似体である。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのストロビルリン類似体は、フルアクリピリム(FAPM)、アゾキシストロビン、トリフロキシストロビン、クレソキシムメチル、ピラクロストロビン、ピコキシストロビン、ジモキシストロビン、フルオキサストロビン、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0008】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのピリドン類似体である。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのピリドン類似体は、クロピドール、GW844520、GSK932121、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのヒドロキシナフトキノン類似体である。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのヒドロキシナフトキノン類似体は、アトバコン、パルバクオン、ブパルバクオン、S-10576、NQ3(2-OH-3-(2-メチル-トリフルオロオクチル)-8-メチル-ナフトキノン)、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのキノロン類似体である。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのキノロン類似体は、RCQ06、エンドキン、ならびにELQ-118、ELQ-120、ELQ-121、ELQ-136、ELQ-233、ELQ-245、ELQ-260、ELQ-271、ELQ-274、ELQ-300、ELQ-314、ELQ-316、ELQ-317、ELQ-319、ELQ-337、ELQ-338、ELQ-351、ELQ-370、ELQ-372、ELQ-380、ELQ-384、ELQ-385、ELQ-388、ELQ-390、ELQ-400、ELQ-404、ELQ-428、P4Q-95およびP4Q-391などのエンドキン様キノロン(ELQ)、ならびにプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのアクリジンジオン類似体である。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのアクリジンジオン類似体は、フロキサクリン、WR249685、WR243246、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0012】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのスタチン類似体である。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのスタチン類似体は、シンバスタチン、セリバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン、メバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、アンチマイシンA、ランソプラゾール、ランソプラゾールスルフィド、オメプラゾール、ペンタミジン、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態では、平滑筋攣縮関連疾患は、月経困難症;気道攣縮関連疾患、例えば、気管支喘息、喘息性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患または気道過敏;血管攣縮関連疾患、例えば、脳血管攣縮、片頭痛または群発頭痛;消化管攣縮関連疾患、例えば、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性腸炎、慢性腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎または腸結核;高血圧;冠動脈攣縮関連疾患、例えば、異型狭心症;緑内障;術後腸閉塞;頻尿;線維筋痛;性交疼痛;過敏性腸症候群;頸筋および眼瞼の攣縮;過活動膀胱;術後眼炎症および呼吸窮迫症候群からなる群から選択される。
【0015】
いくつかの特定の実施形態では、炎症性疾患は、関節リウマチ、変形性関節症、骨溶解、腱炎、滑膜炎、および炎症性呼吸器疾患、例えば、慢性閉塞性肺疾患、線維症、気腫または急性呼吸窮迫症候群からなる群から選択される。
【0016】
いくつかの特定の実施形態では、疼痛は炎症性疼痛である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、FAPMおよびその誘導体の化学構造を示す。
図2図2は、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するFAPMおよびその誘導体の阻害効果を示す。
図3図3は、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するシトクロムbc1複合体のQo部位阻害剤の阻害効果を示す。
図4図4は、ラットオキシトシンにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するFAPMの阻害効果を示す。
図5図5は、アセチルコリンにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するFAPMの阻害効果を示す。
図6図6は、塩化カリウムにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するFAPMの阻害効果を示す。
図7図7は、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するアトバコンの阻害効果を示す。IC50=8.44±0.7μM。
図8図8は、PGF2αにより誘発されたラット平滑筋細胞におけるMLC20のリン酸化に対するFAPMの阻害効果を示す。
【0018】
発明の詳細な説明
異なる器官において生じる明らかに病因が異なる多くの疾患が、平滑筋細胞の生化学的機能不全に起因することが知られている。平滑筋細胞が適切に機能することが、平滑筋細胞が重要な役割を果たす総ての器官における健康問題を避けるために重要である。
【0019】
本発明者らは、意外にも、シトクロムbc1複合体の阻害剤が、in vivoにおいて平滑筋収縮を阻害でき、よって、平滑筋攣縮関連疾患の処置に使用できることを見出した。
【0020】
従って、第1の側面において、本発明は、治療上有効な量のシトクロムbc1複合体の阻害剤を被験体に投与することを含んでなる、被験体における平滑筋攣縮関連疾患を処置する方法を提供する。
【0021】
いずれの理論にも拘束されることなく、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、MLC20のリン酸化を防ぐことにより、平滑筋収縮を阻害し得る。ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)は、ミオシンIIのミオシン軽鎖(MLC20)を特異的にリン酸化するカルシウムイオンおよびカルモジュリン依存タンパク質キナーゼである。MLC20のリン酸化は、ミオシン厚フィラメントとアクチン細フィラメントとの間の相互作用を促進する。MLC20のMLCK媒介リン酸化は、平滑筋収縮を開始するのに必要である。本発明者らは、意外にも、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、MLC20のリン酸化を防ぐことができ、それによって、平滑筋収縮を阻害することにより平滑筋攣縮関連疾患を処置できることを見出した。
【0022】
本明細書で使用する場合、「平滑筋」は、限定されるものではないが、子宮平滑筋、膀胱平滑筋、虹彩筋、生殖管平滑筋、輸卵管平滑筋、気管支平滑筋、血管平滑筋および消化管平滑筋が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用する場合、「平滑筋攣縮関連疾患」は、限定されるものではないが、以下の(1)~(8)から選択される疾患が挙げられる:
【0024】
(1)婦人科疾患(子宮平滑筋):月経困難症;早産;および早期前期破水;
(2)泌尿器系疾患(尿道平滑筋、膀胱平滑筋):良性前立腺過形成;尿路結石、例えば、腎結石および尿管結石;過活動膀胱;頻尿;および勃起不全;
(3)消化器系疾患(食道平滑筋、括約筋、消化管平滑筋):食道および噴門アカラシア;過敏性腸症候群;オッディ括約筋機能不全;消化管痙攣性腹痛、例えば、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、ならびに急性および慢性虫垂炎;胆石症;急性および慢性胆嚢炎;急性および慢性膵炎;急性および慢性腹膜炎;ならびに腸閉塞。
(4)呼吸器系疾患(気管および気管支平滑筋):喘息、例えば、慢性気管支喘息、アレルギー性喘息、薬剤誘発性喘息、老人性喘息、咳喘息、慢性喘息、運動誘発性喘息および小児喘息;気管炎;急性および慢性気管支炎;慢性閉塞性肺疾患;ならびに呼吸窮迫症候群;
(5)心血管疾患(血管平滑筋):高血圧;門脈圧亢進;アテローム性動脈硬化;狭心症、例えば、異型狭心症、不安定狭心症、および安定狭心症;心筋梗塞;ならびに肥大型心筋症;
(6)脳血管攣縮関連疾患:虚血性脳血管疾患、例えば、脳梗塞、一過性脳虚血発作、および脳血栓症;血管性認知症;脳動脈硬化症;非回転性めまい;頭痛;ならびに難治性吃逆;
(7)末梢血管攣縮関連疾患:片頭痛;間欠性跛行;レイノー症候群;緑内障;突発性難聴;耳鳴;回転性めまい;および動揺病;ならびに
(8)その他:眼瞼痙攣。
【0025】
例えば、「平滑筋攣縮関連疾患」は、月経困難症;気道攣縮関連疾患、例えば、気管支喘息、喘息性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患または気道過敏;血管攣縮関連疾患、例えば、脳血管攣縮、肺高血圧、血管性難聴、片頭痛または群発頭痛;消化管攣縮関連疾患、例えば、胆嚢炎、胆管炎、胆石、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性腸炎、慢性腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎または腸結核;高血圧;冠動脈攣縮関連疾患、例えば、異型狭心症;膀胱炎;尿管結石;腎疝痛および緑内障からなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、「平滑筋攣縮関連疾患」は、例えば、術後腸閉塞、頻尿、線維筋痛、性交疼痛、過敏性腸症候群、頸筋および眼瞼の攣縮、過活動膀胱、術後眼炎症および呼吸窮迫症候群も含み得る。
【0026】
例えば、シトクロムbc1複合体の阻害剤による処置は、少なくともいくつかの平滑筋細胞の有意な弛緩をもたらし得、その結果、主要動脈(例えば、大動脈)および中動脈の動脈径が増加し、血圧が低下し、かつ、中動脈(例えば、冠動脈)の動脈径が増加し、狭心症が軽減し;肺細気管支平滑筋細胞の弛緩をもたらし得、気道径が増加し、その結果、喘息症状が緩和され;眼のカテーテル系の弛緩をもたらし得、その結果、例えば、涙管径が増加し、眼内圧が低下し、それにより、緑内障および失明のリスクが減少し;輸卵管および子宮の平滑筋細胞の弛緩をもたらし得、筋組織の弛緩が生じ、その結果、受胎能が改善し、かつ/または月経困難症症状が緩和され;胆管、尿管および尿道の平滑筋細胞の弛緩をもたらし得、カテーテル径が増加し、その結果、胆汁結石または腎結石に起因する攣縮のリスクが減少し;かつ、消化管平滑筋の弛緩をもたらし得、例えば、痙攣性疝痛が緩和される。
【0027】
好ましい実施形態では、平滑筋攣縮関連疾患は、月経困難症である。さらに好ましい実施形態では、平滑筋攣縮関連疾患は、原発性月経困難症である。
【0028】
さらに、本発明者らは、意外にも、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、in vivoにおいて炎症症状を有意に阻害できることを見出した。例えば、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、マウスにおけるキシレン誘発性耳介腫脹およびラットにおけるカラゲナン誘発性足底腫脹を阻害できることが、例5において示されている。
【0029】
従って、第2の側面において、本発明は、治療上有効な量のシトクロムbc1複合体の阻害剤を被験体に投与することを含んでなる、被験体における炎症性疾患を処置する方法を提供する。
【0030】
いずれの理論にも縛られることなく、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、一酸化窒素(NO)の産生を阻害することにより、炎症を阻害し得る。NOは、生命活動を調節する重要な小分子物質であり、一酸化窒素合成酵素(NOS)を介してL-アルギニンにより合成される。NOSアイソエンザイムには3つのサブタイプ、すなわち、通常条件下で発現する神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)および内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)と、傷害後に誘導される誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)がある。マクロファージは、宿主防御系に加え、免疫および炎症性応答に重要な役割を果たす。病的条件下では、マクロファージにおけるiNOSの発現は有意に増加し、大量の合成されたNOが、身体の種々の急性および慢性炎症性応答に関与する。本発明者らは、意外にも、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、マクロファージによる一酸化窒素の産生を阻害でき、よって、炎症性疾患の処置に使用できることを見出した。例えば、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、マウスにおける単核マクロファージによるNO産生を阻害できることが、例3において実証されている。
【0031】
本発明の方法により処置することができる炎症性疾患の例としては、関節リウマチ、変形性関節症、骨溶解、腱炎、滑膜炎、痛風、アルツハイマー病、糸球体腎炎、腎盂腎炎、アテローム硬化性疾患、血管炎、ならびに炎症性呼吸器疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患、線維症、気腫、および急性呼吸窮迫症候群)が挙げられる。好ましくは、炎症性疾患は、非感染性炎症性疾患である。
【0032】
本発明者らはまた、意外にも、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、in vivoにおいて鎮痛効果を有することを見出した。例えば、本出願の例4において、シトクロムbc1複合体の阻害剤の投与は、酢酸、ジエチルスチルベストロールおよびPGF2αにより引き起こされたマウスのライジング(身もだえ)(writhing)回数を有意に阻害し得る。
【0033】
従って、第3の側面において、本発明は、治療上有効な量のシトクロムbc1複合体の阻害剤を被験体に投与することを含んでなる、被験体における疼痛を緩和する方法を提供する。いくつかの実施形態では、疼痛は炎症性疼痛、例えば、身体において炎症が生じる炎症部位から放出された炎症性メディエーターを介して、一連のシグナル伝達経路が活性化された時に、痛覚受容体が活性化または感作された後に生じた疼痛である。
【0034】
本発明の種々の側面のいくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体のQo部位阻害剤である。本発明の種々の側面のいくつかの他の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体のQi部位阻害剤である。
【0035】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのストロビルリン類似体である。シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのストロビルリン類似体の例としては、限定されるものではないが、フルアクリピリム(FAPM)、アゾキシストロビン、トリフロキシストロビン、クレソキシムメチル、ピラクロストロビン、ピコキシストロビン、ジモキシストロビン、フルオキサストロビン、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0036】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのピリドン類似体である。シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのピリドン類似体の例としては、限定されるものではないが、クロピドール、GW844520、GSK932121、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0037】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのヒドロキシナフトキノン類似体である。シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのヒドロキシナフトキノン類似体の例としては、限定されるものではないが、アトバコン、パルバクオン、ブパルバクオン、S-10576、NQ3、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0038】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのキノロン類似体である。シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのキノロン類似体の例としては、限定されるものではないが、RCQ06、エンドキン、ならびにELQ-118、ELQ-120、ELQ-121、ELQ-136、ELQ-233、ELQ-245、ELQ-260、ELQ-271、ELQ-274、ELQ-300、ELQ-314、ELQ-316、ELQ-317、ELQ-319、ELQ-337、ELQ-338、ELQ-351、ELQ-370、ELQ-372、ELQ-380、ELQ-384、ELQ-385、ELQ-388、ELQ-390、ELQ-400、ELQ-404、ELQ-428、P4Q-95およびP4Q-391などのエンドキン様キノロン(ELQ)、ならびにプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0039】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのアクリジンジオン類似体である。シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのアクリジンジオン類似体の例としては、限定されるものではないが、フロキサクリン、WR249685、WR243246、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0040】
いくつかの実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのスタチン類似体である。シトクロムbc1複合体の阻害剤としてのスタチン類似体の例としては、限定されるものではないが、シンバスタチン、セリバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン、メバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0041】
いくつかの他の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、アンチマイシンA、ランソプラゾール、ランソプラゾールスルフィド、オメプラゾール、ペンタミジン、およびプロドラッグまたはその薬学的に許容可能な塩から選択され得る。
【0042】
上記の特定のシトクロムbc1複合体の阻害剤およびその他の利用可能な本発明のシトクロムbc1複合体の阻害剤は、例えば、Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jan 20, 112(3): 755-60; Antimicrob Agents Chemother. 2016 Jul 22, 60(8): 4972-82;Am J Trop Med Hyg. 2015 Jun, 92(6): 1195-201;PLoS One. 2013 Aug 12, 8(8): e71726; Nat Commun. 2015 Jul 9, 6: 7659; Cell Metabolism 22, 399-407, September 1, 2015; Nat Chem Biol. 2015 Nov, 11(11): 834-6; J. Med. Chem. 2015, 58, 9371-9381; ACS Med. Chem. Lett., 2012, 3 (12), pp 951-951; J. Agric. Food Chem. 2015, 63, 3377-3386; J. Phys. Chem. B 2016, 120, 2701-2708; Mol Biochem Parasitol. 2011 May, 177(1): 12-9; US2015/0203445 A1;およびWO2012070015 A1に見出すことができる。
【0043】
本発明はまた、シトクロムbc1複合体に対する阻害機能を有する上記の化合物の誘導体を網羅する。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「被験体」は、哺乳類、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトを意味する。
【0045】
第4の側面において、本発明は、平滑筋攣縮関連疾患の処置、炎症性疾患の処置および/または疼痛の緩和のための薬剤の調製におけるシトクロムbc1複合体の阻害剤の使用をさらに提供する。
【0046】
第5の側面において、本発明はまた、有効成分としてのシトクロムbc1複合体の阻害剤と薬学的に許容可能な担体とを含んでなる、平滑筋攣縮関連疾患の処置、炎症性疾患の処置および/または疼痛の緩和のための医薬組成物を提供する。
【0047】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体に溶解または分散された有効量の1以上のシトクロムbc1複合体の阻害剤を含んでなる。句「薬学的に許容可能な」は、所望により動物(例えば、ヒト)に投与された場合に、有害反応、アレルギー反応または他の望ましくない反応を生じない分子実体および組成物を意味する。少なくとも1つのシトクロムbc1複合体の阻害剤を含んでなる医薬組成物の調製は、本開示に従って当業者に既知であり、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」第21版, 2005に例示されており、これは、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。さらに、ヒトへの投与に関しては、医薬品承認当局により要求される無菌性、発熱性、全体的な安全性および純度に関する基準も満たす必要があることが理解されるべきである。
【0048】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な担体」は、当業者により理解されるように、あらゆる溶媒、分散媒、抗酸化剤、塩、コーティング剤、界面活性剤、保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピル、ソルビン酸、抗細菌剤、抗真菌剤)、等張剤、溶液遮断薬(例えば、パラフィン)、吸着剤(例えば、カオリン、ベントナイト)、薬剤安定剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム)、ゲル、結合剤(例えば、シロップ、アラビアガム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカントガム、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩)、賦形剤(例えば、ラクトース、ポリエチレングリコール)、崩壊剤(例えば、寒天、デンプン、ラクトース、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルギン酸、ソルビトール、グリシン)、湿潤剤(例えば、ヘキサデカノール、モノステアリン酸グリセリン)、滑沢剤、吸収促進剤(例えば、第四級アンモニウム塩)、食用油(例えば、扁桃油、ヤシ油、油性エステルまたはプロピレングリコール)、甘味剤、香味剤、着色剤、増量剤(例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、ケイ酸)、錠剤化滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、デンプン、グルコース、ラクトース、白亜)、吸入担体(例えば、炭化水素噴射剤)、緩衝剤などおよびその組合せを含む(例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」第21版, 2005参照)。また、治療用組成物または医薬組成物の有効成分と適合しないもの以外のいずれかの従来の担体を使用することも企図される。
【0049】
いずれにせよ、前記組成物は、1以上の成分の酸化を遅延させるために、複数の抗酸化剤を含有してもよい。抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、塩酸システイン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、レシチン、没食子酸プロピル、およびトコフェロールが挙げられる。さらに、微生物作用の予防は、限定されるものではないが、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはその組合せを含む、種々の抗細菌剤および抗真菌剤などの保存剤を用いることにより、達成することができる。
【0050】
薬学的に許容可能な塩は、酸付加塩、例えば、タンパク質成分の遊離アミノ基とともに形成される塩または無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸もしくはリン酸)もしくは有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸、乳酸、ホスホン酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、ナフタレンスルホン酸、クラブラン酸、ステアリン酸もしくはアーモンド酸)とともに形成される塩を含む。遊離カルボキシル基とともに形成される塩は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムもしくは水酸化鉄)または有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカイン)にも由来し得る。
【0051】
組成物が液体形態であるいくつかの実施形態では、担体は、限定されるものではないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、液体(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)、およびその組合せを含む、溶媒または分散媒であり得る。例えば、コーティング剤(例えば、レシチン)を用いることにより;担体(例えば、液体ポリオールもしくは脂質)に分散させることで所望の粒子径を維持することにより;界面活性剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース)を用いることにより;またはこれらの方法の組合せにより、適当な流動性を維持することができる。多くの場合、等張剤(例えば、糖、塩化ナトリウム、またはその組合せ)を含むことが好ましい。
【0052】
本発明は、当業者に既知のいずれかの好適な方法により投与することができる(例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」第21版, 2005参照)。医薬組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、髄腔内、経口、局所または吸入経路を介して投与することができる。
【0053】
経口投与される場合、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、錠剤、カプセル剤、サシェ剤、バイアル、散剤、顆粒剤、ロゼンジ、溶解可能な散剤または液体製剤の形態であり得る。必要に応じて、必要量の活性化合物を、上記の複数の他の成分を含有する好適な溶媒に混合した後、濾過および滅菌に供することにより、無菌注射溶液を調製する。一般に、複数の無菌有効成分を、塩基性分散媒および/または前記他の成分を含有する無菌担体に組み込むことにより、分散系を調製する。無菌注射溶液、懸濁液またはエマルションを調製するための無菌散剤の場合は、好ましい調製方法は、真空乾燥法または凍結乾燥法であり、これは、有効成分に加え、先に濾過した無菌液体培地からのいずれかの他の所望の成分を含有する粉末を生成する。必要な場合、液体培地を適切に緩衝する必要があり、注射前に十分な生理食塩水またはグルコースを用いることにより、液体希釈剤を等張にする必要がある。小さな領域に高濃度の活性薬剤を送達させるために、溶媒として用いるDMSOが非常に迅速な浸透をもたらすことが考えられる場合、直接注射のための高濃度組成物を調製することも企図される。
【0054】
本明細書で使用する場合、「治療上有効な量」または「治療上有効な用量」は、被験体への投与後に治療効果をもたらすのに少なくとも十分である化合物を含有する物質、化合物、材料、または組成物の量を意味する。従って、これは、疾患または障害の症状を予防する、治癒する、改善する、遅延させるまたは部分的に遅延させるのに必要な量である。
【0055】
患者に投与される本発明の組成物の実際の用量は、以下の物理的および生理的因子:体重、性別、症状の重症度、処置される疾患の種類、以前のまたは現在の治療的介入、患者の病因不明な疾患、投与時間、特定の化合物の排泄率、および投与経路に従って、決定することができる。いずれにせよ、組成物中の有効成分の濃度および個々の被験体に対する適当な用量は、投与の責任を有する医療従事者により決定されるであろう。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤は、1~150mg/kg体重、例えば、1~100mg/kg体重、1~50mg/kg体重、1~30mg/kg体重、1~20mg/kg体重、1~15mg/kg体重、1~10mg/kg体重、1~5mg/kg体重、または3~5mg/kg体重の用量で投与される。いくつかの特定の実施形態では、シトクロムbc1複合体の阻害剤または医薬組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、または2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎もしくは7日毎に1回投与される。
【0056】
いくつかの特定の実施形態では、注射された組成物の持続的吸収は、組成物中に遅延吸収薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはその組合せ)を用いることにより、達成することができる。
【実施例
【0057】
本発明は、本明細書に示すいくつかの具体例を参照することにより、さらに理解することができ、これらの具体例は、本発明を説明することだけを目的とし、いずれの方法でも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。明らかに、本発明の本質から逸脱することなく、多くの改変および変更を本発明に対して行うことができ、従って、これらの改変および変更も、本出願の範囲内である。
【0058】
例1.ラット平滑筋の収縮に対するシトクロムbc1複合体の阻害剤の阻害効果
実験材料および方法
1.1 実験動物:
1.Laboratory Animal Center of the Academy of Military Medical Sciencesから提供された体重230~270gの雌ウィスターラット、医動物のカタログ番号:D01-3039。
【0059】
1.2 実験試薬:
オキシトシン注射液(Nanjing Biochemical Pharmaceutical Factory、カタログ番号051069);ジエチルスチルベストロール(diethylstibestrol)(Beijing Yimin Pharmaceutical Co., Ltd.、カタログ番号0506150);PGF2α、クレソキシムメチル、アセチルコリン、アゾキシストロビン、フルオキサストロビン、スティグマテリン、ミキソチアゾールおよびアトバコン、これらは総てSigma(セントルイス、ミズーリ州)から購入した;トリフロキシストロビン、ピラクロストロビン、ピコキシストロビン、およびジモキシストロビン、これらは総てSanta Cruz Biotechnologyから購入した;ならびにフルアクリピリム(FAPM)およびその誘導体、これらは実験室で合成した(Int J Cancer. 2010 Sep 1;127(6):1259-70)。
【0060】
1.3 実験機器
Pclab生体シグナル取得・処理システム(Pclab Biological Signal Acquisition and Processing System)(Beijing Microsighalstar Technology Development Co., Ltd.から購入);CS502-3Cデジタルスーパーサーモスタット(CS502-3C Digital Superthermostat)(Chongqing SD Experiment Instrument Co., Ltd.から購入、温度変動0.5℃以下);GTSバイオシグナルセンサー(GTS Biosignal Sensor)(Beijing Microsighalstar Technology Development Co., Ltd.から購入);JZ101筋張力トランスデューサー(JZ101 Muscle Tension Transducer)(Gaobeidian Xinhang Electromechanical Equipment Co., Ltd.)。
【0061】
1.4 実験方法
体重230~270gの健康な雌ウィスターラットを実験に用いた。実験の2日前に、ジエチルスチルベストロール懸濁液を、0.1mg/kgで1回腹膜内に注射し、人為的発情を誘起した。ラットを頸椎脱臼により屠殺し、開腹により子宮を除去し、タイロード液を含有するガラス板に直ちに置いた。子宮壁に付着した結合組織および脂肪組織を慎重に剥がし、子宮をメサンギウム線に沿って切開し、ガラス板の底に平らに置いた後、平滑筋に沿って走行している子宮収縮帯に沿って外科用ブレードを用いることにより、子宮の片側を左右の子宮筋条片に分割し、片側の子宮筋条片の2つの端をそれぞれワイヤーで結紮した後、酸素で通気され、タイロード液5mlで満たされた栄養チューブに移し、37.2±0.5℃に予熱し、下端を固定し、上端を張力センサーに連結した。材料を20~30分間静置し、液体を2~3回交換した後、子宮に対して1gの負荷を与え、子宮が規則的な収縮波を示すまで、子宮を30~60分間維持し、40mM KCL溶液を10分間供給し、子宮筋条片の機能を評価した。次に、筋条片を弛緩させ、タイロード液で2~3回洗浄した後、30分間静置した。静置後、子宮筋条片に対して1gの負荷を与え、30~60分間維持し、子宮筋条片が安定して収縮した(すなわち、マイクロコンピュータの表示画面に規則的な収縮波形が出現した)後、投与および観察を実施し、子宮平滑筋条片の収縮張力、振幅および収縮曲線下面積などの関連データの変化を記録し、投与した薬剤を評価した。実験中、タイロード液の作業温度を37.2±0.5℃に維持し、酸素を、1~2気泡/秒で栄養チューブに連続的に通気した。累積投与法を採用し、低濃度~高濃度で毎回5μlを投与した。最終薬物濃度は、マクファーランドチューブ中の5mlタイロード液に溶解している薬剤の濃度を意味する。
【0062】
1.5 統計処理
総ての実験データは、「x±s」として表し、統計解析のための単一因子マルチレベルt検定(single-factor multi-level T test)を実施するために、SASソフトウエアを使用し、プロッティングにはoriginpro7.5ソフトウエアを使用した。画像処理にはPhotoshop CS2ソフトウエアを使用した。
【0063】
2.実験結果
2.1 PGF2αにより誘発されたラット平滑筋の収縮に対するFAPMおよびその誘導体の阻害効果
BASF SEおよびNippon Soda Co., Ltd.により開発された最初のストロビルリン殺ダニ剤であるフルアクリピリム(FAPM)は、ミトコンドリアシトクロムbc1複合体のQo部位阻害剤である。図1に示されるように、HTFAPM、FAPMAおよびIFAPMは、実験室において本発明者らが合成したFAPMの3つの誘導体である。図2Aに示されるように、通常環境下において、単離されたラット子宮平滑筋条片は、時々の自律性収縮を受け、律動性収縮を自然に生じることがあった。PGF2α(450nM)を栄養チューブに加えた際、子宮平滑筋条片の収縮の振幅および頻度が、有意に亢進した。実験は、FAPMが、PGF2α誘発性ラット子宮平滑筋収縮の振幅および頻度を用量依存的に阻害したことを示した。同じ用量下において、IFAPMは、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋収縮を部分的に阻害したが、HTFAPMおよびFAPMAは、阻害効果を示さなかった。薬剤介入の前および異なる用量の薬剤介入の10分後において、それぞれ平滑筋収縮曲線下面積を算出した。PGF2αにより生じた平滑筋収縮曲線下面積を100%とすることにより、薬物用量効果曲線をプロットし、子宮平滑筋収縮を阻害するための薬剤の半有効量(IC50値)を算出した。図2Bに示されるように、FAPMおよびIFAPMのIC50値は、それぞれ1.84±0.08μMおよび18.5±3.0μMであった。構造活性相関解析は、FAPMのO14のメトキシアクリレートは、子宮平滑筋収縮を阻害するための重要なエフェクター基であることを明らかにしている。
【0064】
2.2 PGF2αにより誘発されたラット平滑筋収縮に対するストロビルリン殺真菌剤の阻害効果
ここで、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋収縮の実験モデルにおいて、アゾキシストロビン、トリフロキシストロビン、クレソキシムメチル、フルオキサストロビン、ピラクロストロビン、ピコキシストロビンおよびジモキシストロビンなどの種々のストロビルリン殺真菌剤の子宮平滑筋収縮に対する阻害効果を、系統的に比較した。図3および表1に示されるように、これらの化合物は、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋収縮を用量依存的に阻害し、IC50値は1.05~4.08μMの間であり、これはFAPMと同等である。スティグマテリンおよびミキソチアゾールは、報告されているようにシトクロムbc1複合体の最も強力な呼吸阻害剤であり、かつ、シトクロムbc1複合体を検討するための最も慣用の小分子化合物プローブである。両方とも、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋収縮に対する最も強力な阻害効果を示し、IC50値はナノモルレベルであったことが見出されている。
【0065】
【表1】
【0066】
2.3 オキシトシン、アセチルコリンおよび塩化カリウムにより誘発されたラット平滑筋の収縮に対するFAPMの阻害効果
オキシトシンは、子宮平滑筋に対する興奮剤であり、オキシトシン受容体を活性化することにより、子宮平滑筋の律動性収縮を引き起こす。アセチルコリンは、神経伝達物質であり、平滑筋M型コリン受容体を活性化して、子宮平滑筋の律動性収縮を引き起こすことができる。塩化カリウムは、平滑筋細胞膜を脱分極させることができ、高濃度の塩化カリウム(40mM)は、子宮平滑筋の強直性収縮を引き起こすことができ、低濃度の塩化カリウム(16mM)は、子宮平滑筋の律動性収縮を引き起こすことができる。図4~6に示されるように、FAPMは、オキシトシン(1mU/ml)、アセチルコリン(0.25μM)および塩化カリウム(16mM)により誘発された子宮平滑筋収縮を用量依存的に阻害し、IC50値は、それぞれ1.6±0.08μM、1.36±0.04μMおよび1.21±0.07μMであった。
【0067】
2.4 PGF2αにより誘発されたラット平滑筋の収縮に対するアトバコンの阻害効果
アトバコンは、補酵素Qのホモログであるヒドロキシ1,4-ナフトキノリンであり、広域スペクトル抗原虫活性を有する。米国食品医薬品局(FDA)は、プラスモディウム、ニューモシスチスカリニ肺炎(PCP)、トキソプラズマおよび他の感染症の治療用にアトバコンを2011年に承認し、米国感染症学会(IDSA)ガイドラインは、2006年にトキソプラズマ症の治療用にアトルバスタチンを推奨した。アトバキノン(atovaquinone)は、原虫のシトクロムbc1複合体に直接結合することができ、シトクロムbc1複合体の活性の阻害は、広域スペクトル抗原虫活性を発揮するその分子薬理学的機序である(Siregar JE, Kurisu G, Kobayashi T, et al. Direct evidence for the atovaquone action on the Plasmodium cytochrome bc1 complex. Parasitol Int. 2015 Jun;64(3):295-300)。これに基づき、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮に対するアトルバスタチンの阻害効果を観察した。アトルバスタチンは、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋の収縮を用量依存的に阻害でき、IC50値は8.44±0.7μMであることが見出されている(図7)。
【0068】
例2.ラット平滑筋細胞におけるMLC20のリン酸化に対するシトクロムbc1複合体の阻害剤としてのFAPMの阻害効果
1.実験材料および方法
1.1.実験動物:
Laboratory Center of the Academy of Military Medical Sciencesから提供された体重230~270gの雌ウィスターラット、医動物のカタログ番号:D01-3039。
【0069】
1.2.実験試薬:
WB 2×SDSローディング緩衝剤、5×トリス-グリシン電気泳動緩衝剤、電気泳動転写緩衝剤および分離ゲル緩衝剤、これらは総て自家調製したものであり(溶液の調製を参照)、ここで、試薬およびX線感光フィルムは、総てBeijing Chemical Worksから購入した;ならびにリン酸化ミオシン軽鎖2(ser19)に対するモノクローナル抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ発色基質ルミグロ(LumiGLO)(商標)基質、これらは総てCell Signaling Technologyから購入した。
【0070】
1.3.実験機器:
Beijing Perlong New Technology Co., Ltd.から購入したDNM-9602Gマイクロプレートリーダー;ならびにNew England Biotechから購入した安定電圧・電流電源供給装置、タンパク質電気泳動機器、タンパク質電気泳動転写装置およびタンパク質分子量マーカー。
【0071】
1.4.in vitroでのラット子宮平滑筋細胞の培養:
組織塊培養法を採用した:ジエチルスチルベストロールで処置したラットを脱臼により屠殺し、消毒のために75%アルコールに浸漬し、無菌条件下で腹腔を開き、子宮を分離し、プレートに移し、子宮を切開して子宮の外膜を除去し、ブレードで子宮の内膜を緩やかに削り取り、ピンセットで子宮の外膜を緩やかに剥がし、無傷の平滑筋を1×1×1mm未満の小片に切り出し、それらを培養瓶の壁に均一に付着させ、培養液を加えて底を上にし、5%COおよび37℃で3~4時間培養した後、緩やかに回転させ、細胞が結合して小片となり、単層培養細胞を形成できるまで、RPMI-1640培養液(20%仔血清含有)に約1週間浸漬する。この時、瓶中の培養液を注ぎ出し、瓶中の組織塊をPBSで2回洗浄して除去し、適量の0.25%トリプシンを加えた。ほとんどの細胞が収縮し、顕微鏡下で円形になった際、仔ウシ血清を加えて反応を停止させ、液体を注ぎ出し、細胞をPBSで2回洗浄し、適量のRPMI-1640を加え、溶出した細胞をピペットで緩やかに洗浄し、後で使用するための細胞懸濁液を調製した。
【0072】
1.5.全細胞タンパク質の抽出:
細胞を濃度10/mlに調整し、密度4×10/ウェルで6ウェルプレートに接種し、一晩の接着培養後、血清を24時間取り除いた後、異なる濃度のFAPMで前処置した。PGF2α刺激の5分後に細胞を回収し、氷冷PBSで3回洗浄し、2×SDSローディング緩衝剤で溶解させた。細胞ライセートを回収し、10分間煮沸した後、12,000r/minで5分間遠心分離した。上清を回収し、サブパッケージし、後で使用するために-80℃で保存した。
【0073】
1.6.免疫ブロット検出(ウェスタンブロットハイブリダイゼーション):
サブパッケージした細胞ライセートを室温で解凍した後、SDS-PAGEゲル電気泳動に供した。サンプルをマイクロシリンジでコーム穴に慎重に加え、ブロモフェノールブルーバンドが分離ゲルの外側に流れるまで、電圧を100Vに安定化させた後、電圧を200Vに調整した。電気泳動後、氷浴中で安定電流160mAの下、1時間膜移行を行い、タンパク質をニトロセルロース膜に移行させ、膜をプレートに移し、室温にて5%脱脂乳で1時間ブロックし、TBS/Tで各5分間3回洗浄し、適当な割合の一次抗体希釈液で一晩インキュベートし、TBS/Tで各5分間4回洗浄し、翌日、適当な割合の二次抗体希釈液でもう1時間インキュベートし、TBS/Tで各5分間4回洗浄し、ルミグロ(LumiGLO)(商標)基質で暗所にて1分間インキュベートした。X線フィルムの現像を、暗室にて行った。必要に応じて、膜は、他の抗体で再標識することができ、膜は、65℃にて30分間透明化緩衝剤(clearing buffer)でインキュベートでき(溶液の調製を参照)、透明化後、膜をTBS/Tで洗浄でき、抗体は、ブロッキング後に標識することができる。
【0074】
1.7.統計処理
総ての実験データは、「x±s」として表し、統計解析のための単一因子マルチレベルt検定(single-factor multi-level T test)を実施するために、SASソフトウエアを使用し、プロッティングにはoriginpro7.5ソフトウエアを使用した。画像処理にはPhotoshop CS2ソフトウエアを使用した。
【0075】
2.結果
図8に示されるように、PGF2α刺激は、ラット子宮平滑筋細胞におけるMLC20のリン酸化を有意に亢進した。事前の異なる濃度のFAPMによる前処置の後、MLC20のリン酸化度は、有意に減少した。グレイ解析は、5μMおよび10μMのFAPMは、PGF2αにより誘発されたラット子宮平滑筋細胞におけるMLC20のリン酸化を有意に阻害したことを示した。この結果は、FAPMなどのシトクロムbc1複合体の阻害剤は、MLC20のリン酸化を防ぐことにより、平滑筋収縮を阻害し得ることを示した。
【0076】
例3.マクロファージによる一酸化窒素産生に対するシトクロムbc1複合体の阻害剤の阻害効果
1.材料および方法
1.1 細胞株;
マウス単核マクロファージRAW264.7は、Xiehe Cell Bankから購入した。
【0077】
1.2 試薬および機器
Sigmaから購入したリポ多糖(LPS);Invitrogenから購入したRPMI1640培地、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎仔血清;Beyotime Biotechnologyから購入した一酸化窒素検査キット;ならびにBeijing Perlong New Technology Co., Ltd.から購入したNM-9602Gマイクロプレートリーダー。
【0078】
1.3 細胞培養
マウス単核マクロファージを、10%ウシ胎仔血清、100μg・mL-1ストレプトマイシン、および100単位・mL-1ペニシリンを含有するRPMI1640培地に培養し、37℃および5%COにて恒温インキュベーターでインキュベートし、翌日継代した。
【0079】
1.4 放出されたNOの測定
サンプル中のNO含量を、グリースアッセイにより測定した。RAW264.7細胞を、5×10個/mLを含有する単一細胞懸濁液に調製し、96ウェル細胞培養プレート(200μL/ウェル)に接種した。37℃および5%COにてインキュベーターでの12時間のインキュベーション後、異なる濃度の試験サンプルを各ウェルに加え、30分間のインキュベーション後にLPS(終濃度1μg・mL-1)を加えた。LPSおよびブランク対照群を設定し、各サンプルに対して3反復ウェルとした。インキュベーターでの24時間のインキュベーション後、培養液の100μL上清を酵素標識プレートに吸引し、等容量のグリース試薬を加え、室温での反応の10分後に、540nmの吸光度を測定した。阻害率は、以下のように算出した:
【数1】
【0080】
2.結果
マウス腹膜マクロファージ細胞株RAW264.7は、炎症試験用の慣用の細胞モデルの1つである。LPSを用いてRAW264.7細胞を刺激してNOを産生させ、マクロファージによるNO産生に対するシトクロムbc1複合体の種々の阻害剤の阻害効果を観察した。表2に示されるように、シトクロムbc1複合体の阻害剤、アゾキシストロビン、トリフロキシストロビン、クレソキシムメチルおよびFAPMは総て、NO産生を有意に阻害し、IC50はそれぞれ1.89±0.35μM、0.64±0.21μM、2.77±0.69μM、および3.80μMであった。最大阻害率は、総て80%超であり、有効濃度は、子宮平滑筋収縮の阻害のものと同等であった。スティグマテリンおよびミキソチアゾールは、子宮平滑筋収縮に対する最も強力な阻害活性を示し、NO産生の阻害に対するそれらのIC50値も最低であり、それぞれ6.24±1.15nMおよび2.8nMであり、最大阻害率は、それぞれ88.3±3.9%および95%である。
【0081】
【表2】
【0082】
例4.in vivoにおけるシトクロムbc1複合体の阻害剤の鎮痛効果に関する検討
1.材料および方法
1.1 実験動物:
Laboratory Animal Center of the Academy of Military Medical Sciencesから提供された体重22~28gの雌雄清潔昆明マウス、医動物のカタログ番号:D01-3039。
【0083】
1.2 実験薬および試薬
オキシトシン注射液(Nanjing Biochemical Pharmaceutical Factory、カタログ番号:051069);ジエチルスチルベストロール(Beijing Yimin Pharmaceutical Co., Ltd.、カタログ番号:0506150);Sigma(セントルイス、ミズーリ州)から購入したインドメタシン、PGF2α、クレソキシムメチルおよびアゾキシストロビン;Santa Cruz Biotechnologyから購入したトリフロキシストロビン、ピコキシストロビンおよびジモキシストロビン;ならびに実験室において本発明者らが合成したFAPM(Int J Cancer. 2010 Sep 1; 127(6): 1259-70)。
【0084】
1.3 マウスに対する酢酸ライジング試験
Xu Shuyunの「Pharmacological Experimental Methodology」におけるマウスに対する酢酸ライジング試験を参照し、マウスにおける腹膜炎の疼痛モデルを再現した。成体健康雄昆明マウスを無作為にグループ化し、1群6~10匹とした。実験の1時間前に、マウスに対して異なる種類および用量のシトクロムbc1複合体の阻害剤を腹膜内または胃内投与し、インドメタシン(50mg/kg)を陽性対照として腹膜内注射した後、0.6%氷酢酸を0.1ml/10gで腹膜内注射し、ライジング開始時間(反応潜時)および30分以内のライジング回数を観察および記録した。
【0085】
1.4 マウス月経困難症モデルの確立
Yang L., Cao Z., Yu B. & Chai C. An in vivo mouse model of primary dysmenorrhea. Exp Anim. 2015, Aug 64, 295-303を参照し、マウス月経困難症モデルを確立した。成体健康雌昆明マウスを無作為にグループ化し、各群10匹とした。成体健康雌昆明マウスを無作為にグループ化し、各群10匹とした。実験マウスに対し、ジエチルスチルベストロール0.2mgを1日1回12日間胃内投与した。最終投与の30分後に、異なる種類および用量のシトクロムbc1複合体の阻害剤を、腹膜内または胃内投与した。インドメタシン(50mg/kg)を陽性対照として腹膜内注射し、1時間後にPGF2α(1.3mg/kg)またはオキシトシン(20U/kg)を腹膜内注射し、ライジング開始時間(反応潜時)および30分以内のライジング回数を観察および記録した。
【0086】
1.5 統計処理
総ての実験データは、「x±s」として表し、統計解析のための単一因子マルチレベルt検定(single-factor multi-level T test)を実施するために、SASソフトウエアを使用した。
【0087】
2.結果
2.1 マウスにおける酢酸誘発性ライジングに対するシトクロムbc1複合体の阻害剤の阻害効果
疼痛は、急性または潜在的組織傷害に起因する不快な感情および情動的経験である。氷酢酸などの化学的刺激により得られる疼痛モデルは、現在最も検討され、広く使用されている疼痛モデルである。これらの炎症刺激薬は、好中球走化性を介して急性炎症性疼痛を引き起こし、マクロファージ浸潤を媒介して持続性疼痛を引き起こす。マウス酢酸ライジング試験は、非麻薬性鎮痛薬のスクリーニングに好適であり、特に、ステロイド系抗炎症薬の鎮痛効果をスクリーニングするための感度が高い簡便な方法である。表3~6に示されるように、氷酢酸(0.6%、0.1ml/10g)の腹腔内注射後30分以内に、マウスは約40回のライジングを示し、潜時は2~3分であった。実験1時間前のシトクロムbc1複合体の阻害剤、FAPM(50、100および200mg/Kg)ならびにトリフロキシストロビン(50、100および200mg/Kg)の腹腔内注射またはアゾキシストロビン(50、100、200および400mg/Kg)の胃内投与は、マウスのライジング回数を用量依存的に阻害した。対照群と比較して、FAPM群およびトリフロキシストロビン群のライジング開始時間(反応潜時)は有意に延長し、用量効果が認められたが、アゾキシストロビン群のライジング開始時間は有意に延長しなかった。100mg/KgのFAPM、トリフロキシストロビンおよびアゾキシストロビンは、治療効果の点で、50mg/Kgのインドメタシンと同等であった。200mg/Kgの用量における、胃内投与されたシトクロムbc1複合体の阻害剤、ジモキシストロビン、クレソキシムメチルおよびピコキシストロビンの、マウスにおける酢酸誘発性ライジングに対する阻害効果を比較した。これらの3つの阻害剤は、マウスのライジング回数を明らかに阻害したが、ライジング開始時間は延長しなかったことが認められた。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
2.2 月経困難症モデルマウスに対するシトクロムbc1複合体の阻害剤FAPMおよびアゾキシストロビンの鎮痛効果
月経困難症は、最も一般的な婦人科症状の1つであり、原発性月経困難症および続発性月経困難症の2種類に分けられる。原発性月経困難症は、生殖器官における器質的病変がない月経困難症を意味し、月経困難症の90%超を占め、続発性月経困難症は、骨盤腔の器質的疾患に起因する月経困難症を意味する。原発性月経困難症の発症は、月経中の子宮内膜におけるプロスタグランジン含量の増加に主に関連している。PGF2α含量の増加は、月経困難症の主因である。月経困難症の病態生理学的機序および参考文献に基づき、ジエチルスチルベストロール感作およびPGF2α疼痛誘発を含む2段階方法により誘発されたマウス月経困難症モデルを確立した。
【0093】
表7および表8に示されるように、ジエチルスチルベストロールによる感作の後、PGF2α(1.3mg/kg)の腹腔内注射後30分以内に、マウスのライジング回数は約20に達し、潜時は1~2分であった。実験1時間前のシトクロムbc1複合体の阻害剤FAPM(50、100および200mg/Kg)の腹腔内注射またはアゾキシストロビン(50、100および200mg/Kg)の胃内投与は、マウスのライジング回数を用量依存的に阻害し、各用量群と対照群との間に統計的差が認められた。ライジング開始時間が有意に延長した200mg/Kg FAPM群を除き、他の群のライジング開始時間は、対照群のそれと有意差を示さなかった。50mg/KgのFAPMおよびアゾキシストロビンは、治療効果の点で、50mg/Kgのインドメタシンと同等であった。
【0094】
オキシトシンは、子宮平滑筋に対する刺激物質である。図9に示されるように、ジエチルスチルベストロール感作およびオキシトシン疼痛誘発を含む2段階方法により誘発されたマウス月経困難症モデルにおいて、マウスのライジング回数は、ほぼ40であった。アゾキシストロビン(50、100および200mg/Kg)の胃内投与は、マウスのライジング回数を用量依存的に阻害し、各用量群と対照群との間に統計的差が認められた。このモデルにおいて、50mg/Kgのアゾキシストロビンは、治療効果の点で、50mg/Kgのインドメタシンと同等であった。
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
例5.in vivoにおけるシトクロムbc1複合体の阻害剤FAPMの抗炎症効果に関する検討
1.材料および方法
1.1 実験動物:
Laboratory Animal Center of the Academy of Military Medical Sciencesから提供された体重22~28gの雌清潔昆明マウスおよび体重120~140gのSDラット、医動物のカタログ番号:D01-3039。
【0099】
1.2 実験薬および試薬
Sigma(セントルイス、ミズーリ州)から購入したインドメタシン、デキサメタゾンおよびカラゲナンキシレン;ならびに実験室において本発明者らが合成したFAPM(Int J Cancer. 2010 Sep 1; 127(6): 1259-70)。
【0100】
1.3 キシレン誘発性マウス耳介腫脹試験
健康成体雄マウス50匹を無作為に5群に分けた。実験マウスに対し、異なる用量のFAPM(50、100および200mg/kg)をそれぞれ1回腹膜内注射した。対照群に対し、同じ量の溶媒を注射し、インドメタシン(50mg/kg)を陽性対照として腹膜内注射した。投与1時間後に、キシレン20μLを、マウスの右耳の両側に均一に適用し、自己対照としての左耳にはキシレンは適用しなかった。1時間後に、2つの耳を切断し、6mm穴あけ器を用いて、2つの耳の同じ部位から2つの耳小片を除去した。2つの耳小片を精密天秤で秤量し、腫脹度(右耳小片重量-左耳小片重量)および腫脹阻害率(右耳小片重量-左耳小片重量)/左耳小片重量×100%)を算出した。
【0101】
1.4 カラゲナン誘発性ラット足腫脹試験
健康成体雄マウス18匹を無作為に3群に分けた。FAPM(100mg/kg)を1日1回、3日間連続で腹膜内投与した。対照群に対し、同じ量の溶媒を注射し、陽性薬デキサメタゾン(4mg/kg)を1日1回、3日間連続で胃内投与した。最終投与の30分後に、1%カラゲナン0.1mLを各ラットの右後足に皮下注射し、注射前ならびに注射の1、2および3時間後に足底厚を測定した。3時間後に、ラットを脱臼により屠殺した。足を膝関節から切断し、精密天秤で秤量した。足の腫脹度(右足重量-左足重量)を算出した。
【0102】
1.5 統計処理
総ての実験データは、「x±s」として表し、統計解析のための単一因子マルチレベルt検定(single-factor multi-level T test)を実施するために、SASソフトウエアを使用した。
【0103】
2.結果
炎症は、有害な刺激に対する身体により生じる重要な防御機序である。炎症反応は、身体の最も基本的な抗傷害反応である。炎症は、創傷治癒の促進に役立つが、関節炎、喘息および身体障害などの多くの傷害も引き起こし得る。炎症は、病因によって、感染性炎症、無菌性炎症(非特異性炎症)およびアレルギー性炎症に分けることができる。キシレン誘発性マウス耳介腫脹試験およびカラゲナン誘発性ラット足腫脹試験は、抗炎症薬の評価およびスクリーニングのための最も慣用の方法である。表10~12に示されるように、100mg/kg FAPMの腹腔内投与は、キシレン誘発性マウス耳介腫脹およびカラゲナン誘発性ラット足腫脹を有意に阻害し、対照群と比較して統計的差が認められた。陽性薬インドメタシン(10mg/Kg)群の耳介腫脹度は、対照群のものよりも低かったが、統計的差は認められなかった。陽性薬デキサメタゾン(4mg/kg)は、カラゲナン誘発性ラット足腫脹を有意に阻害し、その治療効果は、FAPMよりもわずかに優れている。
【0104】
【表10】
【0105】
【表11】
【0106】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8