(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】リン酸バナジウムの調製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/37 20060101AFI20220927BHJP
H01M 4/58 20100101ALN20220927BHJP
【FI】
C01B25/37 M
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2019568171
(86)(22)【出願日】2018-06-14
(86)【国際出願番号】 FR2018051420
(87)【国際公開番号】W WO2018229447
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-14
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ショメット, シリル
(72)【発明者】
【氏名】ビュイセット, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第03042313(FR,A1)
【文献】国際公開第2016/209626(WO,A1)
【文献】特表2018-520462(JP,A)
【文献】特開2013-069456(JP,A)
【文献】特表2004-533706(JP,A)
【文献】Paula Serras, Vernica Palomares, Aintzane Goi, Pierre Kubiak, Tefilo Rojo,Electrochemical performance of mixed valence Na3V2O2x(PO4)2F3-2x/C as cathode for sodium-ion batteries,Journal of Power Sources,2013年,Volume 241,Pages 56-60,https://doi.org/10.1016/j.jpowsour.2013.04.094.,ISSN 0378-7753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が0.1%~200.0%の初期割合で添加された固体状態の、V
2O
5
及びNH
4H
2PO
4から形成された混合物を撹拌することを含む式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)のリン酸塩の調製方法であって、この割合が
、2つの反応物V
2O
5及びNH
4H
2PO
4の全体に対して
重量で計算される方法。
【請求項2】
これらの2つの反応物が両方とも固体状態にある、V
2O
5
及びNH
4H
2PO
4から、並びにまた、その初期割合が0.1%~200.0%である水から形成された混合物を撹拌することを含む式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)のリン酸塩の調製方法であって、
この割合が、前記2つの反応物V
2O
5及びNH
4H
2PO
4の全体に対して重量で計算され、前記2つの反応物中に当初存在し得る水を考慮に入れない方法。
【請求項3】
V
2O
5及びNH
4H
2PO
4が粉末の形態にあり、それらの粒子が、最大でも100μm
の径d
50を有し、d
50が、レーザー粒径分析器によって測定される容積サイズ分布から得られる中央径である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
V
2O
5
及びNH
4H
2PO
4から形成された前記混合物が、0.9~1.1
の初期V/P比にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
V
2O
5
及びNH
4H
2PO
4から形成された前記混合物が、粉末、ペースト又は流体分散系の形態にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
形成された前記混合物が反応性ミリングにかけられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)の前記リン酸塩の調製反応が、最大でも100℃
の温度で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)の前記リン酸塩が、5重量%未
満の残存V
2O
5を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)の前記リン酸塩が、5重量%未
満の残存NH
4H
2PO
4を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
反応から誘導され
る生成物が、選別される及び/又は水を排除するために乾燥させられる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
水の前記初期割合が、
- 少なくとも0.5
%又は
- 少なくとも75.0%
、又は
- 0.1%~10.0%
、又は
- 10.0%~50.0%;又は
- 75.0%~150.0
%
である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)のリン酸塩から
のVPO
4の調製方法であって、反応によって放出されるNH
3が反応混合物と接触したままであるような密閉環境中で、前記リン酸塩を少なくとも800℃の温度に加熱することを含
み、式(NH
4
)(VO
2
)(HPO
4
)のリン酸塩が、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって調製されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
カーボンブラックが、式(NH
4)(VO
2)(HPO
4)の前記リン酸塩
と混合される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
以下の工程:
- 第1工程中に
、反応によって放出されるNH
3又はこのNH
3の一部
が反応混合物と接触したままであ
るとともに、この反応が、反応物と混合されたカーボンブラックの存在下で起き得ることが可能であるような密閉環境中で
、式(NH
4
)(VO
2
)(HPO
4
)のリン酸塩を少なくとも800℃の温度に加熱することによってVPO
4を調製する工程;
- 第2工程中に、有効量のフッ化ナトリウム、NaF、並びに任意選択的に少なくとも1種の炭化水素-及び酸素-含有化合物、元素状炭素源との、前記第1工程からのVPO
4から形成された混合物を、不活性雰囲気下で、NVPFを得るのに好適な温度条件に曝
し、温度が少なくとも700℃である工程
を含
み、
式(NH
4
)(VO
2
)(HPO
4
)の前記リン酸塩が、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって調製されることを特徴とする、式Na
3V
2(PO
4)
2F
3のNVPFの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年6月16日にINPI(French National Industrial Property Institute)において出願された先行仏国特許出願第1755505号の優先権を主張するものであり、その出願の内容は、本出願に参照により完全に援用される。用語の明瞭さに影響を与える本出願と先行仏国特許出願との間の矛盾の場合には、本出願が専ら参照される。
【0002】
本発明は、式(NH4)(VO2)(HPO4)のリン酸バナジウムアンモニウムの調製方法に関する。それはまた、オルトリン酸バナジウムVPO4の調製方法に、及びまたNVPFの調製方法に関する。本発明はまた、VPO4の独創的な調製方法に関する。VPO4は、NVPFの調製のために使用され得る。
【0003】
[発明が解決しようとする課題]
化合物VIIIPO4(本明細書では以下、VPO4で示される)は、ナトリウム電池のカソードに使用される式Na3V2(PO4)2F3の化合物であるNVPFの製造における化学中間体として使用されている。Chem. Mater. 2016,28,7683-7692に開示されているように、NVPFの化学量論を注意深く制御することが必要である。良好な効率を有する電池を得るために、それ故、十分な純度を有するNVPFを使用することが好ましい。特に、NVPFを製造するために使用されるVPO4は、できるだけ低い量の不純物、例えば特にV(PO3)3及びV2O3及びVO2などを含有しなければならない。
【0004】
VPO4は、式(NH4)(VO2)(HPO4)(本明細書では以下、用語「リン酸バナジウム」で示される)のリン酸塩の還元によって得られる。この還元は、水素の存在下に高温で、或いは米国特許第6,387,56号明細書及びまたSolid State Sciences 2006,8,1215-1221に教示されているようにNH4H2PO4から、V2O5から及び炭素から形成された混合物の高温加熱による炭素還元によって行われ得る。この炭素還元反応は、そのとき下記である:
V2O5+2NH4H2PO4+Cブラック→2VPO4+2NH3+H2O+CO+C過剰 (I)
【0005】
NH4H2PO4及びV2O5からのリン酸バナジウムの調製方法は公知である。Z.Naturforsch 1975,30b,334-339に記載されている方法は、沸騰しているNH4H2PO4の水溶液への固体V2O5の添加をベースとしている。純度の良好な状態のリン酸バナジウムを得るために、沈澱物を洗浄することが必要であり、それは収率を低下させる(60%)。
【0006】
Chem. J.Chin. Univ. 2000,21,1177-1179に記載されている別の方法は、水溶液でのNH4VO3とNH4H2PO4との反応をベースとしている。しかしながら、この反応は、排出時にNH3の又はNH4
+の放出をもたらす。
【0007】
解決されるべき技術的課題は、それ故、良好な収率で、経済的であり、且つ、シンプルな条件を用いる、良好な純度のリン酸バナジウムの調製方法の開発に存した。
【0008】
十分な純度を有するVPO4を得るために、良好な純度を有するリン酸バナジウムを使用することが必要である。特に、リン酸バナジウムは、還元工程中のその分解がVPO4中のV2O3の存在をもたらす、残存V2O5の含有量が最低限でなければならない。同じように、リン酸バナジウムは、リン元素に富む、且つ、より低い結晶化度のVPO4をもたらす不純物の形成を防ぐために、残存リン酸アンモニウムの含有量が最低限でなければならない。
【背景技術】
【0009】
J.Power Sources 2014,264,123-127は、クエン酸塩の存在下の水中でのV2O5とNH4H2PO4との混合及び250℃で20hの混合物の加熱によるVPO4の調製を記載しており、次に生成物は洗浄される。
【0010】
Burbaらによる論文「Vibrational Spectroscopic Investigation of Li Extraction from Monoclinic and Rhombohedral Li3V2(PO4)3」において、V2O5及びNH4H2PO4が、Li3V2(PO4)3をもたらすためにLi2CO3の存在下にアセトン中で固体状態で撹拌されている。
【0011】
仏国特許出願第3042313号明細書は、米国特許第6,387,56号明細書に類似した方法で、固体状態のV2O5の及びNH4H2PO4の混合、並びに固体混合物の高温(800℃)での加熱を記載している。反応は、VPO4をもたらし、リン酸バナジウムをもたらさない。さらに、本発明の方法におけるように水が添加される前駆体混合物については言及されていない。
【0012】
Naturforshung 1975,vol.30b,334-339における科学論文「polyphosphovanadate」は、沸騰させられる(「zum sieden」)大量の水(49.76gの固形分当たり300g、すなわち、200%超の602.9%の初期水/固形分割合)を使用する方法によるV2O5からのNH4HVPO6の調製を338ページに記載している。
【0013】
科学論文J.Power Sources 2013,241,56-60は、V2O5の及びNH4H2PO4の混合物を300℃又は850℃の温度で加熱することによるVPO4の製造方法を記載している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】経時的に実施例1の混合物のSEM顕微鏡画像の進化を示す。取り出され、水に入れられた試料もまた示される(以下に記載される視覚的な方法)。
【
図2】経時的に実施例1の混合物のディフラクトグラム(強度対2θ-2シータ角)の進化を示す。
【
図3】500%の添加水を含有する混合物から調製されるリン酸バナジウムの空気中800℃でのか焼後の実施例4の混合物のディフラクトグラムを示す。VPO
4の及びVO
2の形成が観察される。他のディフラクトグラムは、200%の添加水を含有する混合物から得られたVPO
4に相当する:この場合に、VO
2ピークは観察されない。
【0015】
本発明
本発明は、それに水が0.1%~200.0%の初期割合で添加された固体状態のV2O5から及びNH4H2PO4から形成された混合物を撹拌することを含む式(NH4)(VO2)(HPO4)のリン酸塩の調製方法であって、この割合が、混合物の全体に対して計算される方法に関する。
【0016】
2つの反応物間の反応は、
V2O5+2NH4H2PO4→2(NH4)(VO2)(HPO4)+H2O (II)
と記される。
【0017】
本明細書では以下、用語「前駆体混合物」で示される出発混合物は、それ故、固体状態での、2つの反応物、V2O5及びNH4H2PO4、並びにまた水を含む。これらの2つの反応物は、好ましくは、粉末の形態で存在する。それらの粒子が、最大でも100μmの、又は最大でも50μmの径d50を有する粉末が使用され得、d50は、Beckman Coulter LS I3 320モデルレーザー粒径分析器によって測定される容積サイズ分布から得られる中央径である。2つの出発反応物が均質混合されている前駆体混合物を使用することが好ましい。
【0018】
得られるリン酸バナジウム(NH4)(VO2)(HPO4)は、2つの多形相α及びβにあり得る。反応(II)は、β形をより多くもたらし得る。
【0019】
良好な品質のリン酸バナジウムを得るために、反応(II)の化学量論に近い前駆体混合物を使用することが好ましい。したがって、例えば、V2O5及びNH4H2PO4を0.9~1.1、又は0.95~1.05の初期V/Pモル比で含む前駆体混合物が使用され得る。
【0020】
前駆体混合物は、最大でも200.0%、例えば0.1%~200.0%、又は1.00%~200.0%の所与の割合で水を含み、この割合は、2つの反応物(すなわち、V2O5及びNH4H2PO4)の全体に対する重量で計算される。水の割合は、それ故、式[水の質量/V2O5+NH4H2PO4の質量×100]で与えられる。この割合は、少なくとも0.5%、又は少なくとも0.7%又は少なくとも1.0%さえであってもよい。この割合が、特に反応(II)の進行に応じて及びこの反応が実施される温度に応じて反応の経過中に変わり得るので、これは、添加される水の初期割合であることが指摘されるであろう。
【0021】
意外にも、添加される水は、2つの出発反応物間の化学反応を加速するという機能を有する。この効果は、小割合の水の使用でさえも観察される。したがって、実施例において見ることができるように、1.0%のオーダーの小割合の添加水の存在下でさえ、水の添加なしの数十時間とは対照的に120分後に良好な純度及び良好な収率のリン酸塩を得ることが可能であることが観察され得る。一定の割合から出発して、添加水はまた出発混合物を流体化することを可能にし、それは、機械的混合操作に有利に働くことを可能にする。液体が混合物を流体化することができる場合でさえも、いかなる液体の使用も好適ではないことが言及されるべきである。したがって、例えば、無水エタノールの又は液体炭化水素の存在下で実施される試験は、同じ効果を得ることを可能にしなかった。
【0022】
前駆体混合物の調製は、任意の順でのV2O5の、NH4H2PO4の及び水の混合をベースとしている。例えば、第1手順によれば、2つの粉末を均質に混合し、2つの粉末の混合物に水を添加し、次に前駆体混合物を得るために全てのものを混合することが可能である。第2手順によれば、先ず第一に水を2つの反応物の1つに添加し、次に前駆体混合物を得るために水が添加された反応物を他の反応物と均質に混合することも可能である。これは、本出願で用いられる用語「添加される」が、水の割合の計算において、2つの反応物中に任意選択的に当初存在した水が考慮に入れられないことを意味すると指摘される理由である(この点において、化合物NH4H2PO4は、それが痕跡の水を含有し得るほど吸湿性であることが知られている)。用語「添加された」は、したがって、2つの反応物が水の添加の前に前もって混合される第1手順に本発明が限定されることを意味しない。さらに言い換えれば、本発明はまた、これらの2つの反応物が両方とも固体状態にある、V2O5から及びNH4H2PO4から、並びにまた、その初期割合が0.1%~200.0%である、水から形成された混合物を撹拌することを含む式(NH4)(VO2)(HPO4)のリン酸塩の調製方法であって、この割合が、2つの反応物V2O5及びNH4H2PO4の全体に対して重量で計算され、2つの反応物中に任意選択的に当初存在した水を考慮に入れない方法に関する。
【0023】
前駆体混合物は、前駆体混合物の物理的形態に好適な混合ツールで得られ得る。例えば、乾燥外観の粉末の場合には、実験室規模で、コーヒーミルが用いられ得る。
【0024】
前駆体混合物中の水の割合に依存して、前駆体混合物は、幾つかの物理的形態にあり得る。水の割合が低い、一般に0.1%~10.0%、又は0.5%~10.0%である場合、前駆体混合物は、粉末の形態にあり得る。この粉末は、水の存在にもかかわらず、乾燥しているように見える。化学反応(II)が次に、反応性ミリング手段を用いて実施される。
【0025】
機械化学下に入る、反応性ミリングにおいて、化学反応は、機械的エネルギーの吸収によってミリング中に直接誘発される。反応性ミリング手段は、一方では、反応混合物を均質化するという及び、他方では、化学反応を誘発するという役割を演じる。反応性ミリング手段は、例えば、ボールミル、ジャーミル、遊星ミル、振動ミル又は押出機であり得る。回収された粉末は、リン酸バナジウム(NH4VO2HPO4)からなる。所望の粒径の粉末を得るために回収された粉末を選別することが任意選択的に可能である。
【0026】
前駆体混合物はまた、比較的濃い、粘性のある分散系の形態にあり得る。水の割合は、そのとき、一般に10.0%~50.0%である。混合物は、そのとき、例えばニーダーなどの、粘性媒体に好適な任意の混合ツールで撹拌された。反応が進行するとき、混合物の粘度が増加し、粘性ペーストをもたらすことが観察される。
【0027】
水の割合がより高い、一般に50.0%~200.0%である場合、前駆体混合物は、流体分散系の形態にある。そのとき、プロペラ撹拌機又は傾斜翼攪拌機を用いて混合物を撹拌することが可能である。反応が進行するとき、混合物の粘度が増加し、粘性ペーストをもたらすことが観察される。粘度の増加は、とりわけ反応が周囲温度も近い温度で、例えば20℃~30℃の温度で実施されるときに、撹拌をより困難にし得る。したがって、混合物の撹拌を容易にするために、水の割合は、好ましくは、少なくとも75.0%、又は少なくとも80.0%である。割合は、75.0%~150.0%、又は80.0%~150.0%であり得る。
【0028】
200.0%の割合超で、リン酸バナジウムは水に再溶解し、NH4VO0.64P0.33O3及びNH4H2PO4タイプの第2相に伴われたリン酸バナジウムを含有する生成物をもたらすことができることが観察された。この混合物は、それのか焼中に及び分解中に、VO2タイプのリン酸塩に欠けている不純物を含有するVPO4を与えることができる。
【0029】
反応(II)は、高くなくてもよい温度で実施され得る。したがって、この温度は、最大でも100℃、又は最大でも60℃、又は最大でも30℃さえであり得る。反応時間は、添加される水の量に、開始時に使用される固形分の区分の状態に、及びまた前駆体混合物の物理的形態に依存する。この時間は一般に2h~60hである。
【0030】
幾つかの方法に従って反応(II)の進行の状態をフォローすることが可能である。視覚的な第1方法は、反応中に取り出された15mgの試料を5mlの脱イオン水中に超音波分散させることを含む。いくらかの出発反応物が残っている場合、このように形成された混合物は、不透明分散系の形態にあり、一方、進行が十分に前進している場合、このように形成された混合物は、鮮黄色の半透明溶液の形態にある。より定量的には、第2方法によれば、反応中に取り出された試料を、x線回折計(XRD)を用いて、分析することによって化学反応をフォローすることが可能である。出発反応物の特性ピークは徐々に消失する。これらの反応物のピークは、5%のV2O5或いは5%のNH4H2PO4が純リン酸バナジウムに添加されるときに依然として目に見えることが観察された。2つの出発反応物の特性ピークが存在しない最終生成物のディフラクトグラムを得ることが可能であることが観察されるので、したがって、最終生成物は5重量%未満のV2O5及び5重量%未満のNH4H2PO4を含有すると結論することが可能である。
【0031】
本発明の方法は、良好な純度のリン酸バナジウムをもたらし得る。このリン酸バナジウムは、5重量%未満、より特に3重量%未満、又は1重量%未満の残存V2O5を含有する可能性がある。このリン酸バナジウムは、5重量%未満、より特に3重量%未満、又は1重量%未満の残存NH4H2PO4を含有する可能性がある。これらの化合物の割合は、これらの濃度範囲内で十分正確にこれらの化合物の含有量を得ることを可能にする任意の分析技術によって測定され得る。これは、例えば、赤外線分光法であり得る。
【0032】
したがって記載される方法は、それ故、良好な収率でリン酸バナジウムを得ることを可能にする。さらに、この方法は、既に上に概説された以下の利点を有する:
- 反応が、出発反応物の不必要な排出を防ぐことを可能にする;
- 本方法は、反応(II)から生じた生成物を、それを洗浄する又はそれを精製する必要なしに回収するのに十分なものであるので、実施するのが簡単である。この生成物を選別すること及び/又水を排除するためにそれを乾燥させることがまさに必要であり得る。
【0033】
本発明はまた、本発明の方法によって得ることができる式(NH4)(VO2)(HPO4)のリン酸塩に関する。
【0034】
リン酸バナジウムNH4VO2HPO4は、リン酸バナジウムを少なくとも800℃の温度で還元環境中で加熱することによってVPO4(オルトリン酸バナジウム)へ変換される。還元環境は、アルゴンなどの不活性ガスと二水素との混合物などの、水素をベースとしても、又はカーボンブラックをベースとしてもよい。変換の例は、反応(I)によって与えられ、この場合に還元環境は、反応物に添加されるカーボンブラックによって形成される。
【0035】
VPO4への変換が行われる温度は、VPO4の分解を回避しながら生成物(斜方晶系構造のVPO4)の結晶化度を成長させるために、好ましくは800℃~1000℃である。低含有量の残存不純物を有するリン酸バナジウムを使用することが好ましい。したがって、5重量%未満、より特に3重量%未満、又は1重量%未満の残存V2O5を含有するリン酸バナジウム、或いは5重量%未満、より特に3重量%未満、又は1重量%未満の残存NH4H2PO4を含有するリン酸バナジウムを使用することが可能である。
【0036】
水素を使用することなくこの変換を実施することが可能であることも観察された。本発明はまた、式(NH4)(VO2)(HPO4)のリン酸塩からの、又はV2O5から及びNH4H2PO4から形成された混合物からのVPO4の調製方法であって、反応によって放出されるNH3又はこのNH3の一部が反応混合物と接触したままであるような密閉環境中で、リン酸塩又は混合物を少なくとも800℃の温度に加熱することを含む方法に関する。この変換に使用されるリン酸バナジウム(NH4)(VO2)(HPO4)は、上に記載された、及び水を含有する前駆体混合物を使用する方法に従って調製され得る。
【0037】
変換反応中に形成されたNH3が、反応が行われる環境から漏れるのを防ぐことによって環境が閉じ込められることを確実にすることが可能である。実施例において、変換反応が行われる坩堝は、蓋で覆われる。変換反応がより大きい規模で行われる場合には、放出されるNH3を封じ込めるように、閉じられている反応器を使用することが可能である。反応器が密閉密封されることは必要ではなく、放出されたNH3が変換反応中に反応器に封じ込められたままであれば十分である。さらに、VPO4の酸化を回避するために反応器中の残存酸素の量を最小限にすることが重要である。これを行うための一手段は、閉じた反応器の大容積を反応混合物が満たすことを確実にすることを含む。例えば窒素又はアルゴンなどの不活性ガスでの反応器のフラッシングによって酸素の存在を回避することも可能である。このフラッシングは、変換反応の開始前に及び/又はこの反応中に実施され得る。したがって、反応の前に反応器を不活性ガスで満たし、反応器に反応物を装入し、次に反応器を閉じて酸素の再入を防ぐことが可能である。
【0038】
VPO4をもたらす加熱の継続時間は決定的に重要であるわけではなく、用いられる温度に依存する。それは、一般に30分~5hである。実施例において、3hの800℃でのか焼が所望のVPO4を得ることを可能にした。
【0039】
カーボンブラックをリン酸バナジウム(NH4)(VO2)(HPO4)と、又はV2O5から及びNH4H2PO4から形成された混合物と混合することも可能である。この場合に、公知の炭素還元方法と比べて、この場合に、還元がNH3の、及びまた添加されたカーボンブラックの両方の存在下で行われるので、より少ないカーボンブラックを使用することが可能である。
【0040】
リン酸バナジウムNH4VO2HPO4/カーボンブラック混合物は、上に記載された水の存在下での方法によって特に、さらに既に調製されたリン酸バナジウムから実験施設内で調製され得る。V2O5及びNH4H2PO4から混合物をその場調製することも可能である。この場合に、カーボンブラックは、V2O5から及びNH4H2PO4から形成された混合物に直接添加される。
【0041】
VPO4は、NVPFの調製のために使用され得る。これを行うために、有効量のフッ化ナトリウム、NaF、並びに少なくとも1種の炭化水素-及び酸素-含有化合物、元素状炭素源との、VPO4から形成された混合物が、不活性雰囲気下で、NVPFを得るのに好適な温度条件に曝される。したがって、本発明はまた、以下の工程:
- 第1工程中に、式(NH4)(VO2)(HPO4)のリン酸塩、又はV2O5から及びNH4H2PO4から形成された混合物を、反応によって放出されるNH3又はこのNH3の一部が反応混合物と接触したままであり、この反応が、反応物と混合されたカーボンブラックの存在下で任意選択的に行われることが可能であるような密閉環境中で少なくとも800℃の温度に加熱することによってVPO4を調製する工程;
- 第2工程中に、有効量のフッ化ナトリウム、NaF、並びに任意選択的に少なくとも1種の炭化水素-及び酸素-含有化合物、元素状炭素源との、工程1からのVPO4から形成された混合物を、不活性雰囲気下で、NVPFを得るのに好適な温度条件に曝す工程
を含むNVPFの調製方法に関する。
【0042】
VPO4調製方法について上に見られた全てのものが、NVPF調製方法について正確に同じように適用される。
【0043】
工程2の終わりに、NVPFは、任意選択的に水で洗浄され、乾燥させられる。
【0044】
工程2は、ナトリウムイオン源の及びフッ化物イオン源の両方としての、フッ化ナトリウム、並びに任意選択的に元素状炭素を生成することができる少なくとも1種の炭化水素-及び酸素含有化合物から形成された混合物を使用する。この混合物は、好ましくは化学量論的な比でVPO4及びNaFを含む。
【0045】
炭化水素-及び酸素-含有化合物に関しては、それは、特に、例えばグルコース、サッカロース及びフルクトースなどの糖、又は例えばデンプン若しくはセルロース誘導体などの炭水化物であり得る。より優先的には、それは、セルロース誘導体、より特にさらに微結晶セルロースである。工程2中の炭化水素-及び酸素-含有化合物の分解は、一方では、NVPFを導電性炭素の相で覆うことに、及び、他方では、熱処理中のV4+への酸化の現象からのV3+バナジウムイオンの保護の増加を提供することに力を注ぐ。VPO4及びNaFをベースとする混合物中の炭化水素-及び酸素-含有化合物の割合は、1.0重量%~50.0重量%であり得るし、この割合は、VPO4、NaF並びに炭化水素-及び酸素含有化合物混合物の全体に対して計算される。例えば、そのような混合物は、160gのVPO4、70gのNaF及び23gのセルロースを含み得る。
【0046】
工程2は、NVPFを得るのに好適な温度条件下で実施される。温度は、少なくとも700℃であり得る。それは、例えば、800℃~1000℃であり得る。
【0047】
NVPFは、ナトリウム電池用の又はナトリウムイオン電池用の電極活性材料としての使用に好適である。本発明はまた、たったいま記載された方法によって得ることができるNVPFに関する。
【実施例】
【0048】
実施例1(比較):反応性ミリングによるリン酸塩の調製
試験は、アルミナ球(5mm及び20mm径)を満たした200ml円筒形ポリエチレン容器を用いて、空気中で、周囲温度で実施した。容器に、
- 28.0gのV2O5;
- 35.4gのNH4H2PO4;
- 66gの5mm径の球+120gの20mm径の球
を満たした。
【0049】
容器を1回転/秒のスピードでその対称軸の周りに回転させ、それは前駆体混合物を混合すること、及びV2O5とNH4H2PO4との間の反応を促進することを可能にする。ミリングの間に、混合物の試料(1g)を数時点(2h;8h;24h;32h;48h及び56h)で取り出す。ミリングの間に、混合物の色の進化:茶色から強烈な黄色への移行をフォローすることが可能である。溶解試験中に溶解するそれらの能力の進化をフォローすることも可能である。走査電子顕微鏡画像はまた、粉末を形成する粒子のサイズの減少を観察することを可能にする。X線回折はまた、ミリングの間に、ベータ-NH4VO2HPO4相の出現並びに2つの出発反応物(V2O5及びNH4H2PO4)の同時消失を観察することを可能にする。
【0050】
56hのミリング後に得られたリン酸塩を、アルゴン及び二水素(5容積%)からなる雰囲気中で、800℃で3hか焼する。良好な相純度のVPO4が得られる。
【0051】
実施例2(比較):球を含まない撹拌によって生成する混合物の場合
実施例1を再現するが、球なしである。そのとき、一方では、リン酸塩NH4VO2HPO4を得ることができないことが観察される。他方では、球を含まない撹拌の終わりの混合物のか焼は、良好な相純度のVPO4をもたらさない。具体的には、リン酸塩のピークのいくつかがV2O3の特性ピークの隣に検出される。さらに、このタイプの状況で得られた坩堝の画像は、得られた生成物の不均一性を明らかに示す。
【0052】
実施例2(比較):
ミリングによりリン酸バナジウムを得ることが可能ではない試験は、良好な相品質のVPO4を得ることを可能にしない。
【0053】
実施例3(本発明による):水(10%未満)の存在下での反応性ミリングによるリン酸塩の調製
水を最大でも10重量%の割合まで含む前駆体混合物(0.1%;1%;10%での試験)で実施例1を繰り返すことによって、たったの2時間で良好な純度のリン酸塩を得ることが可能であることが観察された。前駆体混合物は、この場合に、乾燥外観の粉末の形態で存在する。
【0054】
実施例4(本発明による):水(100%超)の存在下での撹拌によるリン酸バナジウムの調製
前駆体混合物が100%超の水を含む場合、それは、Turbulaミキサーで激しく撹拌され、分散系の形態にある。このミキサーは、3次元動作で作動し、その中に反応混合物が入っている容器は、連続的に変化するリズムパルス動作にかけられる。混合物の粘度は反応の経過中に増加することが観察される。
【0055】
さらに、200%の水の割合超(500%、1000%及び2000%での試験)で、式NH
4VO
0.64P
0.33O
3(準化学量論的な化合物)及びNH
4H
2PO
4を有する、及びリン酸塩NH
4VO
2HPO
4の部分溶解から生じるように思われる化合物の存在が、x線ディフラクトグラム上に検出されることが観察された。800℃で加熱した後、VPO
4及びVO
2の形成が観察される(
図3)。これは、200%以下の水の割合については観察されなかった。
【0056】
反応は200%超でより遅いように思われることも観察される。
【0057】
実施例5(比較):無水エタノールでの水の取り換え
水を200%エタノールで取り換えて、実施例4の条件下で実施された試験は、30hの長期ミリング後でさえも、Ar/H2雰囲気中の800℃でのか焼後に良好な相純度のVPO4を得ることを可能にしなかった。
【0058】
実施例6(本発明による):リン酸塩VPO4の調製中の密閉雰囲気の使用
良好な相純度のVPO4を得るために、NH4VO2HPO4を800℃で3h、Ar/H2雰囲気中でか焼することが可能である。密閉環境(蓋で密封された坩堝)中でのNH4VO2HPO4の800℃で3hのか焼は自己還元をもたらし得ることも観察された。この場合に、酸化度Vのバナジウムは、生成物の分解中に発せられるアンモニアによって還元される。非密閉環境中では、それどころか、酸化形態に相当する、化合物VOPO4及びVOPO7が形成されることが観察された。
【0059】
実施例7(本発明による):密閉環境中の炭素ベースの還元剤(カーボンブラック)の存在下でのNH4VO2HPO4のか焼
実施例6の条件下に、リン酸バナジウム及びカーボンブラックからなる混合物を使用した。この場合に、数%にすぎないオーダーの含有量でのV4(P2O7)3の最低存在が観察された。