IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トランジェーヌ、ソシエテ、アノニムの特許一覧

特許7146852腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ
<>
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図1A
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図1B
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図1C
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図2
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図3A
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図3B
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図3C
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図4
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図5A
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図5B
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図6
  • 特許-腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/768 20150101AFI20220927BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A61K35/768
A61K39/395 N
A61K38/17
A61K38/20
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020112036
(22)【出願日】2020-06-29
(62)【分割の表示】P 2017502209の分割
【原出願日】2015-07-16
(65)【公開番号】P2020183392
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】14306155.4
(32)【優先日】2014-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599082883
【氏名又は名称】トランジェーヌ
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ローランス、ズィトボジェル
(72)【発明者】
【氏名】グザビエ、プレビル
(72)【発明者】
【氏名】レティシア、ファンド
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504104(JP,A)
【文献】国際公開第2014/036412(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/022138(WO,A1)
【文献】特許第6843736(JP,B2)
【文献】ROJAS, J. et al.,Optimizing oncolytic vaccinia virus and anti-CTLA4 combination therapy to treat cancer(VAC8P.997),The Journal of Immunology[online],2014年05月01日,Vol.192, Suppl.1,[2018年2月26日検索],インターネット,<URL:http://www.jimmunol.org/content/192/1_Supplement/142.3>
【文献】医学のあゆみ,Vol.249, No.5,2014年05月03日,p.456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/768
A61K 39/395
A61K 45/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療に用いるための、少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルスと1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターとを含んでなる、組合せであって、
a. 前記腫瘍溶解性ウイルスが、J2Rウイルス遺伝子中の不活性化突然変異に起因するチミジンキナーゼ(TK)を欠損するワクシニアウイルスであり、かつ前記組合せが、10 pfu~x10pfuの前記腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含んでなり、
b. 前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、Tim3、KIR、BTLAおよびCTLA4のいずれかに特異的に結合するモノクローナル抗体を含んでなり、かつ前記組合せが、mg/kg~15mg/kgの前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを含んでなり、
c. 腫瘍溶解性ウイルスが第一に、かつ、免疫チェックポイントモジュレーターが第二に投与され、腫瘍溶解性ウイルスの1回目の投与と免疫チェックポイントモジュレーターの1回目の投与の間の期間が少なくとも1週間である、組合せ物。
【請求項2】
前記ウイルスが、ウイルスI4Lおよび/またはF4L遺伝子中の不活性化突然変異に起因するリボヌクレオチドレダクターゼ(RR)活性を欠損するワクシニアウイルスである、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項3】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、さらに、ウイルスゲノム内に挿入された少なくとも1つの治療用遺伝子を発現し、該治療用遺伝子が、自殺遺伝子産物をコードする遺伝子および免疫刺激性タンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項1または2に記載の組合せ物。
【請求項4】
前記自殺遺伝子が、シトシンデアミナーゼ(CDase)活性、チミジンキナーゼ活性、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)活性、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性およびチミジレートキナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項3に記載の組合せ物。
【請求項5】
前記自殺遺伝子産物が、CDaseおよびUPRTase活性を有し、かつcodA::upp、FCY1::FUR1およびFCY1::FUR1[デルタ]105(FCU1)およびFCU1―8ポリペプチドからなる群から選択される、請求項4に記載の組合せ物。
【請求項6】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、TKおよびRR活性の両方を欠損するワクシニアウイルスであって、そのゲノム内に挿入された治療用FCU1自殺遺伝子を含んでなる、請求項4または5に記載の組合せ物。
【請求項7】
前記免疫刺激性タンパク質が、インターロイキンまたはコロニー刺激因子である、請求項3に記載の組合せ物。
【請求項8】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、TK活性を欠損し、そのゲノム内に挿入された治療用ヒトGM-CSFを含んでなる、請求項7に記載の組合せ物。
【請求項9】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ヒトPD-1に特異的に結合する抗体を含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項10】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ニボルマブ、ランブロリズマブおよびピディリズマブからなる群から選択される抗PD-1抗体を含んでなる、請求項9に記載の組合せ物。
【請求項11】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体を含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項12】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、MPDL3280AおよびBMS-936559からなる群から選択される抗PD-L1抗体を含んでなる、請求項11に記載の組合せ物。
【請求項13】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ヒトCTLA-4に特異的に結合する抗体を含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項14】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、イピリムマブ、トレメリムマブおよび一本鎖抗CTLA4抗体からなる群から選択される抗CTLA4抗体を含んでなる、請求項13に記載の組合せ物。
【請求項15】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、静脈内、腫瘍内または腹腔内の経路によって投与され、かつ、前記腫瘍溶解性ウイルスが、静脈内または腫瘍内の経路によって投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項16】
腫瘍溶解性ウイルスの1回目の投与と免疫チェックポイントモジュレーターの1回目の投与の間の期間が、数週間である、請求項1~15のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項17】
a) 少なくとも2回のウイルス投与に続く免疫チェックポイントモジュレーターの2~5回の投与であって、1回目の免疫チェックポイントモジュレーター投与から2回目の腫瘍溶解性ウイルス投与を少なくとも7日間離す投与、
b) 少なくとも2回のウイルス投与に続く免疫チェックポイントモジュレーターの2~5回の投与であって、1回目の免疫チェックポイントモジュレーター投与から2回目の腫瘍溶解性ウイルス投与を少なくとも7~14日間離す投与、
c) 少なくとも2回のウイルス投与に続く免疫チェックポイントモジュレーターの投与であって、1回目の免疫チェックポイントモジュレーター投与から2回目の腫瘍溶解性ウイルス投与を少なくとも7日間離す投与、または
d) 少なくとも2回のウイルス投与に続く免疫チェックポイントモジュレーターの投与であって、1回目の免疫チェックポイントモジュレーター投与から2回目の腫瘍溶解性ウイルス投与を少なくとも7~14日間離す投与
を含む、請求項1~15のいずれか一に記載の組合せ物。
【請求項18】
1または2週間の時間間隔で、10または10pfuの腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの2~5回の静脈内または腫瘍内投与、続けてまたは分散して2または3週間毎に3~10mg/kgの1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの2~5回の静脈内投与を含んでなる、請求項1~15のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項19】
前記癌が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌および肝臓癌からなる群から選択される、請求項1~18のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項20】
癌の治療に用いるためのキットであって、
少なくとも、請求項1~8および15~18のいずれか一項に記載の1つの腫瘍溶解性ウイルスを1つの容器に、かつ請求項9~18のいずれか一項に記載の1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを別の容器に含んでなり、
腫瘍溶解性ウイルスが第一に、かつ、免疫チェックポイントモジュレーターが第二に投与され、腫瘍溶解性ウイルスの1回目の投与と免疫チェックポイントモジュレーターの1回目の投与の間の期間が少なくとも1週間である、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、腫瘍溶解性ウイルス療法の分野、より詳細には、増殖性疾患、特に癌の治療、予防、または阻害のための組成物および方法に関する。態様は、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターと組合せた、癌の治療で使用するための1つの腫瘍溶解性ウイルスを含む。態様は、そのような成分を含んでなるキットおよび当該腫瘍溶解性ウイルスを当該1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターと併せて用いた治療方法も含む。
【0002】
毎年、癌は、世界中で1200万を超える対象において診断されている。先進国においては、およそ5人に1人が癌で死亡している。膨大な数の化学療法が存在しているにもかかわらず、特に、疾患の非常に早い段階で構築される悪性および転移性腫瘍に対して、それらはしばしば効果がない。さらに、抗腫瘍免疫は、腫瘍細胞が宿主防衛を回避するメカニズムを進化させたため、しばしば効果がない。免疫抑制の主要なメカニズムの一つは、抗原への慢性曝露に起因し、抑制性受容体の上方調節によって特徴付けられた「T細胞疲弊」として知られている方法である。これら抑制性受容体は、制御されていない免疫反応を防止するために免疫性チェックポイントとしての役割を果たす。プログラム化された細胞死タンパク質(PD-1)ならびにその配位子PD-L1およびPD-L2、CTLA-4(細胞傷害性T-リンパ球関連タンパク質-4)、LAG3(リンパ球活性遺伝子3)、BおよびTリンパ球アテニュエーター、T細胞免疫グロブリン、ムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)およびT細胞活性化のV-ドメイン免疫グロブリン抑制を含む、T細胞免疫の異なるレベルで活動する多様な免疫チェックポイントが文献において記載されてきた。
【0003】
活性のメカニズムが何であれ、これら免疫チェックポイントは、効果的な抗腫瘍免疫反応の発達を阻害することができる。腫瘍に対する免疫システム耐性を阻害し、疲弊した抗腫瘍T細胞を救済する手段として、このような免疫チェックポイントを遮断する潜在的な治療の利点に関心が高まっている(Leach et al., 1996, Science 271: 1734-6)。この10年間で、膨大な数の拮抗抗体が開発され(例えば、抗Tim3、-PD-L1、-CTLA-4、-PD1等)、何よりも、幾つかは、癌患者において目的の臨床反応に関係してきた。CTLA-4を標的とする抗体は、転移性黒色腫用に既に市場で販売されている(例えば、イピリムマブ(Ipilimumab)、Yervoy、Bristol-Myers Squibb、BMS)。BMSは、イピリムマブで治療された1800人の黒色腫患者のうち、3年後、22%は依然として生存していると報告した。抗PD-L1(例えば、MPDL3280A、Roche)、抗PD-1(例えば、ニボルマブ(Nivolumab)、BMS)での抗体治療も進行中である。
【0004】
癌の分野で浮上している、別の治療的アプローチは、腫瘍溶解性ウイルスである(Hermiston, 2006, Curr. Opin. Mol. Ther. 8: 322-30)。腫瘍溶解性ウイルスは、非分裂細胞(例えば、正常細胞)を損傷しないまま、分裂細胞(例えば、癌細胞)中で選択的複製ができる。感染した分裂細胞が溶解によって破壊されるにつれて、それらは、周囲の分裂細胞を感染させるために、新しい感染性ウイルス粒子を放出する。癌細胞は、妨害されずにウイルス性複製の進展を可能とする、不活性化された抗ウイルス性インターフェロン経路を有するかまたは突然変異した腫瘍抑制遺伝子を有するため、多くのウイルスにとって理想的な宿主である(Chernajovsky et al., British Med. J. 332: 170-2)。アデノウイルス、レオウイルス、麻疹、単純ヘルペス、ニューカッスル病ウイルスおよびワクシニアを含む多数のウイルスが、現在、腫瘍溶解性薬剤として臨床的に試験されてきた。
【0005】
自然に腫瘍溶解性であるウイルス(レオウイルスおよびセネカバレー(Seneca valley)ピコルナウイルス等)もあれば、ウイルスゲノムを組換えることによって腫瘍選択性用に操作されたものもある。このような組換えは、必須ウイルス遺伝子中の機能的欠失、ウイルス遺伝子発現を制御するための腫瘍特異的または組織特異的促進剤の使用およびウイルスを癌細胞表面へ向け直すための向性組換えを含む。
【0006】
監督官庁によって認可された初めての腫瘍溶解性ウイルスは、H101と名付けられた遺伝子組換えアデノウイルス(Shanghai Sunway Biotech)であり、頭頸部癌の治療用に、中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)から2005年に認可を獲得した。ONYX-015と名付けられた別の腫瘍溶解性アデノウイルスは、多様な固体腫瘍の治療用に、進行中の臨床試験を受けている(再発性の頭頸部癌の治療用にフェーズIII中)(Cohen et al., 2001, Curr. Opin. Investig. Drugs 2: 1770-5)。別の例として、腫瘍溶解性単純ヘルペス1型(T-VEC)が、ウイルスの病原性を弱体化させ、癌細胞への選択性を増大させ、かつ(GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)発現を通した)抗腫瘍免疫反応を強化するために、遺伝子操作された。切除不能な黒色腫の臨床効果が、フェーズIIおよびフェーズIII臨床試験において実証された(Senzer et al, 2009, J.Clin. Oncol. 27: 5763-71)。
【0007】
ワクシニアウイルス(VV)は、腫瘍に対する自然向性、強い溶解能、細胞から細胞への迅速な拡散を伴う短い寿命、高効率の遺伝子発現、および高いクローン作製能力等の、腫瘍溶解性ウイルス療法における使用で必要な鍵となる特質を多く保有する。また、それらは、大きな安全上の懸念なしに、天然痘撲滅キャンペーンの間、何百万もの個人に送達されてきた。この点に関して、GM-CSFを発現する、TK(チミジンキナーゼ)およびVGF(VV成長因子用)を二つ欠失したVV(JX-963と名付けられている)は、腫瘍を有するマウスにおいて顕著な癌選択性を示した(Thorne et al., 2007, J Clin Invest. 117: 3350-8)。同じように、GM-CSFを持ったTK-欠失VV(Wyeth株)である、JX-594は、有望な臨床データを示し、肝細胞癌中でのランダム化したフェーズIII試験が、近いうちに開始されると期待されている。
【0008】
文献において、併用治療も記載されてきた。WO2010/014787には、GLEEVEC、TAXOL等の癌治療に使用された、抗CTLA4抗体の化学療法との組合せが記載されている。WO2014/017350では、ウイルスゲノムに挿入された抗PD-1抗体をコードする遺伝子を有する組換え腫瘍溶解性ウイルスが想定されている。
【発明の概要】
【0009】
技術的課題
癌の発達を開始または促進させるために共にまたは別々に作用するかもしれない、何気ない因子の多さを理由に、癌は、何年も深刻で世界的な健康への脅威であり続けると予想されるかもしれない。さらに、悪性および特に転移性腫瘍は、しばしば、従来の療法に対して耐性であり、幾つかの癌の顕著な死亡率を説明している。
【0010】
従って、そのような増殖性疾患の予防および治療を改善するための、より効果的なアプローチ、特に組合せのアプローチ、を開発する重要な必要性がある。
【0011】
1つの腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、両方投与された併用療法は、単独で使用したどちらかのアプローチと比べて相乗的免疫反応を提供した。驚くべきことに、1つの腫瘍溶解性ワクシニアウイルスが、抗PD-1または抗CTLA-4等の1つの抗チェックポイント抗体の前に投与された、併用療法は、適切なモデル動物で証明されたとおり、抗腫瘍反応を改善し、従って、癌に対する効果的かつ強力な療法を潜在的に提供する。従って、本明細書において提供される態様は、癌等の増殖性疾患の治療および予防に有意な進展を提供する。
【0012】
この技術的課題は、請求項で定義された通りの態様の定めによって解決される。
【0013】
本発明の他の、およびさらなる側面、特徴および有利性は、本発明の現在の好ましい態様についての以下の記載から明白となるだろう。これら態様は、開示を目的として与えられている。
【0014】
発明の概要
本発明は、癌等の増殖性疾患の治療に用いるための、腫瘍溶解性ウイルスと1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターとの相乗的組合せに関する。腫瘍溶解性ウイルスは、好ましくは、レオウイルス、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)、水胞性口炎(VSV)、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、シンビス(Sinbis)ウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルスおよびヘルペスウイルス(HSV)等からなる群から選択される。一態様において、腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルスである。好ましい態様において、ワクシニアウイルスは、チミジンキナーゼ(TK)活性を欠失させるために遺伝子操作される(例えば、当該VVのゲノムは、欠損TK表現型を生産するための、J2R遺伝子中に不活性化突然変異または遺伝子欠失を有する)。代替的にもしくは組合せて、ワクシニアウイルスは、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)活性を欠失させるために遺伝子操作される(例えば、当該VVのゲノムは、I4Lおよび/またはF4L遺伝子中で不活性化突然変異または欠損RR表現型を生産するための遺伝子欠失を有する)。
【0015】
一態様において、ワクシニアウイルスは、さらに、少なくとも1つの治療用遺伝子、具体的には、自殺遺伝子産物(生成物)および/または免疫刺激タンパク質をコードする遺伝子、を発現する。
【0016】
一態様において、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、PD-1、PD-L1またはCTLA4、特に好ましくは抗PD-1抗体および/または抗CTLA4抗体、の活性と拮抗するアンタゴニスト分子である。
【0017】
一態様において、腫瘍溶解性ウイルスは、好ましくは静脈内または腫瘍内投与用に製剤化され、および/または1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、好ましくは静脈内または腹腔内または腫瘍内投与用に製剤化される。
【0018】
本発明は、本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスおよび本明細書に記載された1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの相乗的な有効量を、その治療を必要とする哺乳類へ投与することを含んでなる、癌を含む増殖性疾患の治療方法をさらに提供する。
一態様において、本発明の方法によって治療される増殖性疾患は、癌であり、特に黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌および肝臓癌である。一態様において、方法は、プロドラッグの薬学的に許容可能な量が、当該哺乳類に投与される、追加ステップを含んでなる。当該プロドラッグの投与は、好ましくは、当該腫瘍溶解性ウイルスまたはウイルス組成物の投与から少なくとも3日後に行われる。
【0019】
本発明は、好ましくは別々の容器で、本明細書に記載された1つの腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを含むキットをさらに提供する。
【発明の具体的説明】
【0020】
本発明は、癌等の増殖性疾患の治療に使用するための、少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを含んでなる組合せに関する。
【0021】
定義
本願全体で使用されている、用語「1つ(a)」および「1つ(an)」は、本文が明確に他を指示していない限り、言及された成分またはステップの「少なくとも1つ」、「少なくとも第一」「1つ以上」または「複数」を意味するという意義で使用されている。例えば、用語「細胞」は、複数の細胞(それらの混合物を含む)を含む。
【0022】
用語「1つ以上」とは、1または1より大きい数(例えば、2、3、4、5等)を指す。
【0023】
本明細書の用語「および/または」は、本明細書のどこで使用されても、「および」、「または」および「当該用語によって接続された要素の全てまたは任意の他の組合せ」の意味を含む。
【0024】
本明細書で使用されている用語「約」または「およそ」は、所与の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0025】
本明細書で使用されている用語「含んでなる(comprising)」(および、「含んでなる(compriseおよびcomprises)」等の、「含んでなる(comprising)」の任意の形態)、「有する(having)」(および「有する(haveおよびhas)」等の、「有する(having)」の任意の形態)、「含む(including)」(および、「含む(includesおよびinclude)」等の、「含む(including)」の任意の形態)または「含有する(containing)」(および、「含有する(contains およびcontain)等の「含有する(containing)」の任意の形態)は、産物、組成物および方法を定義する際に用いる場合、オープンエンドであり、追加的、未記載の要素または方法ステップを除外しない。従って、アミノ酸配列がポリペプチドの最終アミノ酸配列の一部であるかもしれない場合、ポリペプチドはアミノ酸配列を「含んでなる」。そのようなポリペプチドは、最大数百種の追加的アミノ酸残基を有し得る。「~から本質的になる(consisting essentially of)」とは、任意の本質的な意義の他の成分またはステップを除外することを意味する。従って、記載された成分から本質的になる組成物は、微量汚染物質および薬学的に許容可能な担体を除外しないだろう。アミノ酸配列が、最終的にわずかな追加的アミノ酸残基で存在する場合、ポリペプチドは、アミノ酸配列から「本質的になる」。「~からなる(consisting of)」とは、他の成分またはステップの微量要素を超えて除外することを意味する。例えば、ポリペプチドが、記載されたアミノ酸配列以外の任意のアミノ酸を含まない場合、ポリペプチドは、アミノ酸配列「からなる」。
【0026】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」とは、ペプチド結合を介した結合した少なくとも9つ以上のアミノ酸を含んでなる、アミノ酸残基のポリマーを指す。ポリマーは、直鎖状、分岐状、または環式であってもよく、自然由来のおよび/またはアミノ酸の類似体を含んでなってもよく、非アミノ酸によって中断されていてもよい。一般的指示として、アミノ酸ポリマーが、50種を超えるアミノ酸残基である場合、好ましくは、ポリペプチドまたはタンパク質として言及され、一方で50種以下のアミノ酸の長さである場合、「ペプチド」として言及される。
【0027】
本発明の文脈の範囲において、用語「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」および「ヌクレオチド配列」は、互換的に用いられ、ポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)(例えば、cDNA、ゲノムDNA、プラスミド、ベクター、ウイルスゲノム、分離DNA、プローブ、プライマーおよびそれらの任意の混合物)またはポリリボヌクレオチド(RNA)(例えば、mRNA、アンチセンスRNA、SiRNA)または混合ポリリボポリデオキシリボヌクレオチドのいずれかの任意の長さのポリマーを定義する。それらは、一本鎖または二本鎖、直鎖状または環状、自然または合成、修飾または未修飾のポリヌクレオチドを含む。さらに、ポリヌクレオチドは、非自然由来のヌクレオチドを含んでなってもよく、非ヌクレオチド成分によって中断されてもよい。
【0028】
本明細書で使用されている用語「アナログ(類似体)」とは、自然の対応物に対して、1つ以上の組換えを発現している分子(ポリペプチドまたは核酸)を指す。1つ以上のヌクレオチド/アミノ酸残基の置換、挿入および/または欠失を含む、任意の組換えが想定され得る。好ましいのは、自然の対応物の配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも98%の同一性の配列同一性の程度を保有する類似体である。
【0029】
一般的な様式において、用語「同一性」とは、2つのポリペプチドまたは核酸配列間の、アミノ酸対アミノ酸またはヌクレオチド対ヌクレオチドの対応を指す。2つの配列間の同一性のパーセンテージは、最適な配置のために導入する必要がある隙間数およびそれぞれの隙間の長さを考慮した、配列で分け合っている同一位置数の関数である。当技術において、例えば、NCBIで入手可能なBlastプログラムまたはAtlas of Protein Sequence and StructureのALIGN(Dayhoffed, 1981, Suppl., 3: 482-9)等の、アミノ酸配列間の同一性のパーセンテージを決定するための、多様なコンピュータープログラムおよび数学的アルゴリズムが入手可能である。ヌクレオチド配列間の同一性を決定するためのプログラムも、専門的データベース(例えば、Genbank,the Wisconsin Sequence Analysis Package,BESFIT,FASTAおよびGAPプログラム)において入手可能である。例証目的として、「少なくとも80%同一性」とは、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%を意味する。
【0030】
本明細書で使用されている用語「分離された」とは、その自然環境から除去された(即ち、自然的に結びついているかまたは自然界で一緒に見つけられる、少なくとも1つの他の成分から分離された)、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター等を指す。例えば、ヌクレオチドは、自然界で通常結びついている配列から分けられた場合(例えば、ゲノムからの解離)、分離されるが、異種の配列と結びついてもよい。
【0031】
用語「~から得られる」、「~に由来している(originating)」または「~に由来する(originate)」とは、成分の発生源(例えば、ポリペプチド、核酸分子)を同定するために用いられ、成分が作製される方法を制限する意図はなく、例えば、化学合成または組換え方法等であり得る。
【0032】
本明細書で使用されている用語「宿主細胞」とは、組織、器官または分離細胞内の特定の組織に関係していると制限されることなく広く理解されるべきである。そのような細胞は、培養された細胞株、初代細胞および分裂細胞等の、細胞の唯一のタイプまたは異なるタイプの細胞のグループであってもよい。本発明の文脈において、用語「宿主細胞」とは、原核細胞、酵母等の下等真核細胞および昆虫細胞等の他の真核細胞、植物および哺乳類(ヒトまたは非ヒト)細胞、同様に、本発明において用いられるための腫瘍溶解性ウイルスおよび/または免疫チェックポイントモジュレーターを生産できる細胞を含む。この用語は、本明細書で記載されたベクターの受容体となり得るかまたはベクターの受容体であった細胞と同様にそのような細胞の子孫も含む。
【0033】
本明細書で使用されている用語「腫瘍溶解性ウイルス」とは、非分裂細胞中で複製を全く示さずに、または最小限に示しながら、体外または体内のいずれかで、分裂細胞の成長および/または溶解を遅延させる目的を有する、分裂細胞(例えば、癌細胞等の増殖性細胞)中で選択的に複製することができるウイルスを指す。典型的には、腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルス粒子(またはビリオン)にパッケージされたウイルスゲノムを含み、感染性である(即ち、宿主細胞または対象を感染させるかまたはその内部に進入することができる)。
【0034】
本明細書で使用されている用語「治療(treatment)」(および、「治療すること(treating)」または「治療する(treat)」等の、治療(treatment)の任意の形態)は、最終的に従来の治療的モダリティと併合する、予防(例えば、治療する病態を有する危険性がある対象における予防的手段)および/または療法(例えば、病態を有していると診断された対象において)を含む。治療の結果は、標的の病態の進行を遅延させ、治癒し、改善しまたは制御することである。例えば、本明細書に記載された1つ種の腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの投与後に、対象が臨床状態の目に見える改善を示した場合、対象の癌治療は成功したことになる。
【0035】
本明細書で使用されている用語「投与する(administering)」(および、「投与された(administered)等の投与(administration)の任意の形態」とは、本明細書に記載された1つの腫瘍溶解性ウイルスおよび/または1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーター等の治療薬の対象への送達を指す。
【0036】
本明細書で使用されている用語「増殖性疾患」は、癌を含む、制御されていない細胞の増殖および伝播に起因する任意の疾患または状態、同様に、増加した破骨細胞活性(例えば、関節リウマチ、骨粗しょう症等)に関連した疾患および循環器疾患(血管壁の平滑筋細胞の増殖に起因する再狭窄等)を含む。用語「癌」は、「腫瘍」、「悪性腫瘍」、「新生物」等の任意のいずれかの用語と互換的に用いられ得る。これら用語は、組織、器官または細胞の任意のタイプ、悪性腫瘍の任意のステージ(例えば、病変前からステージIVまで)を含むと意図されている。
【0037】
用語「対象」とは、概して、本発明の任意の産物および方法を必要とするかまたは有益とし得る生物を指す。典型的には、生物は、哺乳類、具体的に飼育動物、家畜、競技用動物、霊長類からなる群から選択される哺乳類である。好ましくは、対象は、癌等の増殖性疾患を有するかまたは有する危険があると診断されたヒトである。用語「対象」および「患者」は、ヒト生物を指す場合、互換的に用いられてもよく、男性および女性を含む。治療される対象は、新生児、幼児、若年成人または成人であり得る。
【0038】
本明細書で使用されている用語「組合せ」とは、多様な成分の任意の可能性のあるアレンジメントである(例えば、腫瘍溶解性ウイルスおよび免疫チェックポイントモジュレーター)。そのようなアレンジメントは、少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルスとポリペプチド(例えば、組換え抗体または組換え抗体の混合物)または核酸分子(例えば、このような1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを発現するために遺伝子操作された1つ以上のベクターによって運ばれた)、同様に、ポリペプチドおよび核酸分子の混合物(例えば、1つの組換え抗体および1つの発現ベクター)の形態の1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの混合物を含む。本発明は、1つ以上が用いられた場合、各免疫チェックポイントモジュレーターの等モル濃度を含んでなる組合せ、同様に、非常に異なる濃度での組合せを含む。組合せの各成分の最適な濃度は、当業者によって決定することができると理解される。好ましくは、組合せは相乗的であり、各存在単独より高い効果をもたらす。
【0039】
用語「免疫チェックポイントモジュレーター」とは、積極的または消極的様式で免疫チェックポイントタンパク質の機能を調節できる分子を指す(具体的には、癌細胞等の抗原提示細胞(APC)および免疫Tエフェクター細胞との相互作用)。用語「免疫チェックポイント」とは、正常生理学的状態下では、制御されていない免疫反応を予防し、自己免疫および/または組織保護の維持のために極めて重要な免疫経路に直接的または間接的に関与するタンパク質を指す。本明細書で使用される1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、抗原特異的細胞のクローン選択、T細胞活性化、増殖、抗原および炎症部位への輸送、直接エフェクター機能の実行およびサイトカインおよび膜リガンドを通したシグナリングを含むT細胞媒介免疫の任意のステップで独立して作用し得る。これらの各ステップは、反応を微調整する、促進的および阻害的シグナルを平衡させることによって調節される。本発明の文脈において、用語は、阻害性免疫チェックポイント(アンタゴニスト)の機能を少なくとも部分的に下方調節できる免疫チェックポイントモジュレーターおよび/または促進性免疫チェックポイント(アゴニスト)の機能を少なくとも部分的に上方調節できる免疫チェックポイントモジュレーターを含む。
【0040】
腫瘍溶解性ウイルス
本発明において使用される腫瘍溶解性ウイルスは、現在同定されている任意のウイルスメンバーから得ることができるが、ただし、それらは、非分裂細胞と比べて分裂細胞を選択的に複製および殺すその傾向によって腫瘍溶解性である。それは、DNA複製、核酸代謝、宿主向性、表面付着、病原性、溶解、および伝播に関与するもの等、自然的に腫瘍溶解性である天然ウイルスでもよく、または腫瘍選択性および/または分裂細胞中の選好的複製を増大させるために、1つ以上のウイルス遺伝子を組換え操作されてもよい(例えば、Kirn et al., 2001, Nat. Med. 7: 781; Wong et al., 2010, Viruses 2: 78-106を参照のこと)。1つ以上のウイルス遺伝子を、イベントの制御または組織特異的調節要素(例えば、プロモーター)下で配置することを想定してもよい。
【0041】
例となる腫瘍溶解性ウイルスは、制限することなく、レオウイルス、セネカバレーウイルス(SVV)、水胞性口炎ウイルス(VSV)、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、麻疹ウイルスィルス、レトロウイルス、インフルエンザウイルス、シンビスウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス等を含む。
【0042】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、レオウイルスから得られる。代表例として、Reolysin(Oncolytics Biotechによって開発中; NCT01166542)が挙げられる。
【0043】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、セネカバレーウイルスから得られる。代表例として、NTX-010(Rudin et al., 2011, Clin. Cancer. Res. 17(4): 888-95)が挙げられる。
【0044】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、水胞性口炎ウイルス(VSV)から得られる。本発明で使用される代表例は、文献(例えば、Stojdl et al., 2000, Nat. Med. 6(7): 821-5; Stojdl et al., 2003, Cancer Cell 4(4): 263-75)において記載されている。
【0045】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、ニューキャッスル病ウイルスから得られる。本発明で使用される代表例は、制限することなく、73-T PV701株およびHDV-HUJ株、同様に、文献(例えば、Phuangsab et al., 2001, Cancer Lett. 172(1): 27-36; Lorence et al., 2007, Curr. Cancer Drug Targets 7(2): 157-67; Freeman et al., 2006, Mol. Ther. 13(1): 221-8)において記載されているものが挙げられる。
【0046】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)から得られる。ヘルペスウイルス科は、DNAウイルスの大きな仲間であり、全て共通の構造を共有し、脂質二重層膜内にエンベロープされた20面体カプシド内でカプシドに包まれた(encapsided)100~200個の遺伝子をコードする、比較的大きな二本鎖、直鎖状DNAゲノムからなる。腫瘍溶解性ヘルペスウイルスは、異なるタイプのHSVに由来し得るが、特に好ましいのはHSV1およびHSV2である。ヘルペスウイルスは、腫瘍内でのウイルス複製を制限するかまたは非分裂細胞においてその細胞毒性を低減させるために遺伝子操作され得る。例えば、チミジンキナーゼ(Martuza et al., 1991, Science 252: 854-6)、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)(Boviatsis et al., 1994, Gene Ther. 1: 323-31; Mineta et al., 1994, Cancer Res. 54: 3363-66)、またはウラシル-N-グリコシラーゼ(Pyles et al., 1994, J. Virol. 68: 4963-72)等の核酸代謝に関与する任意のウイルス遺伝子は、不活性化されてもよい。別の側面は、ICP34.5遺伝子等の毒性因子をコードする遺伝子の機能に欠失を有するウイルス突然変異体に関係する(Chambers et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 1411-5)。
腫瘍溶解性ヘルペスウイルスの代表例として、NV1020(例えば、Geevarghese et al., 2010, Hum. Gene Ther. 21(9): 1119-28)およびT-VEC(Andtbacka et al., 2013, J. Clin. Oncol. 31, abstract number LBA9008)が挙げられる。
【0047】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、パラミクソウイルス科から得ることができるモルビリウイルス、特に好ましくは麻疹ウイルスから得られる。好適な腫瘍溶解性麻疹ウイルスの代表例として、制限することなく、MV-Edm(McDonald et al., 2006; Breast Cancer Treat. 99(2): 177-84)およびHMWMAA(Kaufmann et al., 2013, J. Invest. Dermatol. 133(4): 1034-42)が挙げられる。
【0048】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、アデノウイルスから得られる。腫瘍溶解性アデノウイルスを操作するための方法は、当技術分野において入手可能である。有利的な戦略は、ウイルスプロモーターの腫瘍選択性プロモーターとの置換、または腫瘍細胞に変化するp53または網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質とのそれらの結合機能を不活性化するためのE1アデノウイルス遺伝子産物の組換えを含む。自然な文脈において、アデノウイルスE1B55kDa遺伝子は、p53(p53は、癌細胞中で頻繁に異常調節される)を不活性化するために別のアデノウイルス産物と協力し、このようにアポトーシスが防止される。腫瘍溶解性アデノウイルスの代表例として、ONYX-015(例えば、Khuri et al., 2000, Nat. Med 6(8): 879-85)およびオンコリン(Oncorine)としても名付けられたH101(Xia et al., 2004, Ai Zheng 23(12): 1666-70)が挙げられる。
【0049】
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、ポックスウイルスである。本明細書で使用される用語「ポックスウイルス」とは、ポックスウイルス科に属するウイルス、特に好ましくはコルドポックスウイルス(Chordopoxviridae)亜科およびより好ましくはオルソポックスウイルス属に属するポックスウイルスを指す。多様なポックスウイルスのゲノム、例えば、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、カナリア痘ウイルス、欠肢症ウイルス、粘液腫ウイルスのゲノムの配列は、当技術分野およびGenbank(それぞれに対する受入番号:NC_006998、NC_003663、NC_005309、NC_004105、NC_001132)等の専門的データベースにおいて入手可能である。
【0050】
望ましくは、腫瘍溶解性ポックスウイルスは、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである。
ワクシニアウイルスは、ウイルスを宿主細胞機構から独立して複製させることができる多数のウイルス酵素および因子をコードする、200kbの二本鎖DNAゲノムによって特徴付けられている、ポックスウイルス科のメンバーである。ワクシニアウイルス粒子の大半は、単一脂質エンベロープを有し、細胞内に存在し(細胞内成熟ビリオン、略してIMV)、溶解まで感染した細胞のサイトゾルに留まる。他の感染性形態は、感染した細胞から、それを溶解することなく、出芽する、二重エンベロープされた粒子(細胞外エンベロープビリオン、略してEEV)である。
【0051】
それは、任意のワクシニアウイルス株に由来してもよいが、エルストリー(Elstree)株、ワイエス(Wyeth)株、コペンハーゲン株およびウエスタンリザーブ(Western Reserve)株が特に好ましい。本明細書において用いられる遺伝子学名は、コペンハーゲンワクシニア株のものである。それは、本明細書において、他の指示がない限り、他のポックスウイルス科の相同遺伝子に対しても用いられる。しかし、遺伝子学名は、ポックス株によって異なるかもしれないが、コペンハーゲン株と他のワクシニア株の間の対応は、文献において一般的に入手可能である。
【0052】
好ましくは、本明細書で使用される腫瘍崩壊性ワクシニアウイルスは、1つ以上のウイルス遺伝子を変化させることによって組換えられる。当該組換えは、好ましくは、組換えられていない遺伝子(または合成の欠如)によって、正常状態下で生産されたタンパク質の活性を確保することができない欠損タンパク質の合成につながる。組換は、ウイルス遺伝子またはその調節要素内での(連続しているか否かにかかわらない)1つ以上のヌクレオチドの欠失、変異、および/または置換を含む。組換は、従来的な組換え技術を用いて、当業者において公知である多くの様式によって成すことができる。例となる組換えは、文献において開示され、特に好ましいのは、DNA代謝、宿主病原性およびIFN経路に関与するウイルス遺伝子を変化させるものである(例えば、Guse et al., 2011, Expert Opinion Biol. Ther.ll(5):595-608を参照のこと)。
【0053】
より好ましくは、本発明で使用される好適な腫瘍溶解性ポックスウイルスは、チミジンキナーゼをコードする遺伝子(遺伝子座J2R)を変化させることによって組換えられる。TK酵素は、デオキシリボヌクレオチドの合成に関与している。TKは、正常細胞内でのウイルス複製に必要であり、その理由として、これら細胞が、一般的に低い濃度のヌクレオチドを有するためであり、その一方で、高いヌクレオチド濃度を含有する分裂細胞においては不必要である。
【0054】
代替的にまたは組合せて、本発明で使用される腫瘍溶解性は、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)をコードする少なくとも1つの遺伝子または両方の遺伝子を変化させることによって組換えられる。自然な文脈において、この酵素は、DNA生合成において重要なステップを表す、リボヌクレオチドからデオキシリボヌクレオチドへの還元を触媒する。ウイルス酵素は、哺乳動物酵素とサブユニット構造において類似であり、R1およびR2と称される2つの非相同性サブユニットから構成され、それぞれI4LおよびF4L遺伝子座によってコードされている。I4LおよびF4L遺伝子の配列ならびに多様なポックスウイルスのゲノム内でのそれらの位置は、例えば、受入番号DQ437594、DQ437593、DQ377804、AH015635、AY313847、AY313848、NC_003391、NC_003389、NC_003310、M-35027、AY243312、DQ011157、DQ011156、DQ011155、DQ011154、DQ011153、Y16780、X71982、AF438165、U60315、AF410153、AF380138、U86916、L22579、NC_006998、DQ121394およびNC_008291を介して、公共のデータベースにおいて入手可能である。本発明の文脈において、I4L遺伝子(R1大型サブユニットをコードしている)またはF4L遺伝子(R2小型サブユニットをコードしている)のいずれかまたは両方を不活性化してもよい。
【0055】
代替的にまたは組合せて、ウイルス腫瘍特異性をさらに増大させるために、他の戦略を追求してもよい。好適な組換えの代表例として、ウイルスゲノムからのVGFをコードする遺伝子の阻害が挙げられる。VGF(VV成長因子用)は、細胞感染の直後に発現される分泌されたタンパク質であり、その機能は、正常細胞内でのウイルス伝播に重要と思われる。別の例は、最終的にTK欠失と組合わさる、血球凝集素をコードするA56遺伝子の阻害である(Zhang et al., 2007, Cancer Res. 67: 10038-46)。インターフェロン調節遺伝子(例えば、B8RまたはB18R遺伝子)またはカスパーゼ-1阻害B13R遺伝子の阻害も、有利となり得る。
【0056】
好ましい態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、J2R遺伝子内の不活性化突然変異に起因する、TKを欠損するワクシニアウイルスである。別の好ましい態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、J2R遺伝子ならびにウイルスゲノムによって運ばれたI4Lおよび/またはF4L遺伝子の両方内の不活性化突然変異に起因する、TKおよびRR活性の両方を欠損するワクシニアウイルスである(例えば、WO2009/065546およびFoloppe et al., 2008, Gene Ther., 15: 1361-71の記載による)。
【0057】
治療用遺伝子
一態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスゲノム内に挿入された、少なくとも1つの治療用遺伝子をさらに発現する。「治療用遺伝子」は、対象へ適切に投与された際に、抗腫瘍効果を強化するかまたはウイルスの腫瘍溶解性特性を強化することのいずれかによって、治療される病態の過程または症状に対して有益な効果を引き起こすと期待される、生物学的活性を提供できる産物をコードする。本発明の文脈において、治療用遺伝子は、ヒト由来であってもそうでなくても(例えば、細菌性、酵母またはウイルス由来)よい。好ましくは、治療用遺伝子は、本明細書で記載される免疫チェックポイントモジュレーターをコードする遺伝子または核酸配列ではない。
【0058】
対象における欠損または欠陥タンパク質を補完できるポリペプチドをコードするもの、または体から有害細胞を抑制または除去するための毒性効果を通して作用するもの、または免疫付与ポリペプチドをコードするもの等、本発明の文脈において多様な治療用遺伝子を想定することができる。それらは、天然遺伝子または1つ以上のヌクレオチドの突然変異、欠失、置換および/または追加によって後から得られた遺伝子であってもよい。
【0059】
有利的には、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、自殺遺伝子産物および免疫刺激性タンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される治療用遺伝子を運ぶ。
【0060】
自殺遺伝子
用語「自殺遺伝子」とは、薬剤の前駆体を細胞傷害性化合物に転換できるタンパク質をコードする遺伝子を指す。自殺遺伝子は、制限することなく、シトシンデアミナーゼ活性、チミジンキナーゼ活性、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ活性、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性およびチミジレートキナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含んでなる。自殺遺伝子および1つの核酸塩基部分を含んでなる薬剤の対応する前駆体は、下記の表において開示されている。
【0061】
【表1】
【0062】
望ましくは、自殺遺伝子は、少なくともシトシンデアミナーゼ(CDase)活性を有するタンパク質をコードする。原核生物および下等真核生物において(それは哺乳類に存在していない)、CDaseは、外因性サイトカインが加水分解脱アミノ化によってウラシルへ変換されるピリミジン代謝経路に関与している。CDaseは、シトシンの類似体(即ち、5-フルオロシトシン(5-FC))をも脱アミノ化し、それによって、5-フルオロ-UMP(5-FUMP)に転換されると非常に細胞傷害性である化合物である5-フルオロウラシル(5-FU)が形成される。核酸分子をコードするCDaseは、サッカロッミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(FCY1遺伝子)、カンジダ・アルビカンス(Candida Albicans)(FCA1遺伝子)および大腸菌(codA遺伝子)等の任意の原核生物および下等真核生物から得ることができる。遺伝子配列およびコードされたCDaseタンパク質は、公開されており、専門的データバンク(SWISSPROT、EMBL、Genbank、Medline等)において入手可能である。これら遺伝子の機能的類似体も用いることができる。そのような類似体は、好ましくは、天然遺伝子の核酸配列と、少なくとも70%、有利的には少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%の同一性の程度を有する核酸配列を有する。
【0063】
代替的または組み合わせて、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、そのウイルスゲノム内に、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)活性を有するポリペプチドをコードする自殺遺伝子を持っている。原核生物および下等真核生物において、ウラシルは、UPRTaseの活性によってUMPへ変換される。この酵素は、5-FUを5-FUMPへ転換する。例証目的で、本発明の文脈において、大腸菌(Andersen et al., 1992, European J. Biochem. 204: 51-56)からの、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)(Martinussen et al., 1994, J. Bacteriol. 176: 6457- 63)からの、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)(Kim et al., 1997, Biochem. Mol. Biol. Internat. 41: 1117-24)からの、およびバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)(Martinussen et al., 1995, J. Bacteriol. 177: 271-4)からのUPRTaseをコードする核酸配列を使用してもよい。しかしながら、酵母UPRTase、具体的には、その配列がKern et al. (1990, Gene 88: 149-57)において開示されている、S.セレビシエ(S. cerevisiae)(FUR1遺伝子)によってコードされたもの、を使用することが最も好ましい。天然酵素より高いUPRTase活性を発現する、(天然タンパク質の36位に存在する、35個の第一残基から第二Met残基までの欠失を有する)EP998568に記載されたN-末端欠失FUR1変異体(N-terminally truncated FUR1 mutant)等の機能的UPRTase類似体も使用することができる。
【0064】
好ましくは、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスのウイルスゲノム内に挿入された自殺遺伝子は、CDaseおよびUPRTase活性を有するポリペプチドをコードする。そのようなポリペプチドは、1つ目がCDase活性を有し、2つ目がUPRTase活性を有する、2つの酵素ドメインの融合によって操作することができる。例となるポリペプチドとして、制限することなく、融合ポリペプチドcodA::upp、FCY1::FUR1およびFCY1::FUR1[デルタ]105(FCU1)およびW096/16183、EP998568およびWO2005/07857に記載されたFCU1-8が挙げられる。特に興味深いのは、WO2009/065546の配列番号1に示されたアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドをコードするFCU1自殺遺伝子(またはFCY1::FUR1[デルタ]105融合)である。本発明は、そのようなポリペプチドの類似体を含むが、それらがCDaseおよび/またはUPRTase活性を保持することが条件である。公開されたデータから、核酸分子をコードするCDaseおよび/またはUPRTaseを分離し、最終的にそれらの類似体を操作し、従来技術に従って無細胞または細胞系内で酵素活性を試験することは、当業者の技術の範囲内である(例えば、EP998568を参照のこと)。
【0065】
免疫刺激性治療用遺伝子
本明細書で使用される用語「免疫刺激性タンパク質」とは、特異的または非特異的様式で、免疫系を刺激する能力を有するタンパク質を指す。当技術分野において、多数のタンパク質が、その免疫刺激効果を発揮する能力で公知である。本発明の文脈において好適な免疫刺激性タンパク質の例として、制限することなく、サイトカインが挙げられ、特に好ましくはインターロイキン(例えば、IL-2、IL-6、IL-12、IL-15、IL-24)、ケモカイン(例えば、CXCL10、CXCL9、CXCL11)、インターフェロン(例えば、IFNg、IFNalpha)、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子(例えば、GM-CSF、C-CSF、M-CSF...)APC(抗原提示細胞の略称)暴露タンパク質(例えば、B7.1、B7.2等)、増殖因子(形質転換増殖因子TGF、線維芽細胞増殖因子FGF、血管内皮増殖因子VEGF等)、クラスIまたはIIの主要組織適合複合体(MHC)抗原、アポトーシス誘発因子または阻害剤(例えば、Bax、Bcl2、BclX...)、細胞増殖抑制剤(p21、p16、Rb...)、抗毒素、抗原(抗原性ポリペプチド、エピトープ等)およびマーカー(ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ...)である。好ましくは、免疫刺激性タンパク質は、インターロイキンまたはコロニー刺激因子、特に好ましくはGM-CSFである。
【0066】
治療用遺伝子の発現
治療用遺伝子は、クローニング、PCRまたは従来的技術による化学合成によって容易に得ることができる。また、治療用遺伝子は、特定の宿主細胞または対象内で高いレベルの発現を提供するために最適化することができる。確かに、生物のコドン使用パターンは非常に非ランダムであり、コドンの使用は異なる宿主間で著しく異なり得ると観察されてきた。治療用遺伝子は、細菌性または下等真核生物由来(例えば、自殺遺伝子)であり得るため、高等真核細胞(例えば、ヒト)における効果的な発現に不適切なコドン使用パターンを有するかもしれない。典型的には、コドンの最適化は、目的の宿主生物内で頻繁に使用されないコドンに対応する1つ以上の「天然」(例えば、細菌性または酵母)コドンを、より頻繁に使用される同一のアミノ酸をコードする1つ以上のコドンと置換することによって実行される。増大した発現は部分的置換でも達成され得るため、全ての対応する天然コドンを、頻繁に使用されていないコドンに置換する必要はない。
【0067】
コドン使用の最適化に加えて、宿主細胞または対象における発現は、遺伝子配列の追加的組換えを通してさらに改善することができる。例えば、治療用遺伝子配列は、濃縮領域に存在する、希少な非最適コドンの密集を防止し、および/または発現レベルに悪影響を与えると予測される「消極的」配列要素を抑制または組換えるために組換えることができる。そのような消極的配列要素は、制限することなく、非常に高い(>80%)または非常に低い(<30%)GC含有量;ATが多いまたはGCが多い配列の並び(streches);不安定でまっすぐなまたは逆転した繰り返し配列;R A二次構造;および/または内部TATA-ボックス、カイ部位、リボゾーム進入部位および/またはスプライシング供与体/受容体部位等の内部潜在的調節要素を有する領域を含む。
【0068】
本発明によれば、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスのゲノム内に挿入された治療用遺伝子は、宿主細胞または対象内におけるその発現のため、好適な調節要素に作動的に連結される。本明細書で使用されている用語「調節要素」または「調節配列」とは、複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、核酸またはその誘導体(即ち、mRNA)の安定性および/または輸送を含む、治療用遺伝子の所与の宿主細胞または対象内での発現を可能とし、助長しまたは調節する任意の要素を指す。本明細書で使用される「作動的に連結されている」とは、連結されている要素が、それらの意図する目的のために一斉に機能するようにアレンジされていることを意味する。例えば、プロモーターが、許容状態の宿主細胞内で転写開始から核酸分子の終止まで転写に影響を与える場合、プロモーターは、核酸分子に作動的に連結されている。
【0069】
当業者であれば、調節配列の選択は、遺伝子自体、それが挿入されるウイルス、宿主細胞または対象、所望される発現のレベル等の因子に依存し得ることが理解されよう。プロモーターは、特に重要である。本発明の文脈において、多くのタイプの宿主細胞内にあるかまたは特定の宿主細胞に特異的な治療用遺伝子(例えば、肝臓特異的調節配列)の発現を指示することが本質的となり得るか、または特定のイベントまたは外生要因(例えば、気温、栄養素添加物、ホルモン等)に応答してかまたはウイルスサイクル(例えば、後期または初期)の段階に従い調節され得る。ウイルス生産を最適化し、発現されたポリペプチドの潜在的毒性を回避するために、特定のイベントまたは外生要因に応答して、生産ステップの間に抑制されたプロモーターを使用してもよい。
【0070】
哺乳類細胞における本質的発現に好適なプロモーターは、制限することなく、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター(US5,168,062)、RSVプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモーター(Adra et al., 1987, Gene 60: 65-74)、単純ヘルペスウイルス(HSV)-1のチミジンキナーゼ(TK)プロモーターおよびT7ポリメラーゼプロモーター(WO98/10088)を含む。ワクシニアウイルスプロモーターは、腫瘍溶解性ポックスウイルス内での発現に特に適している。代表例として、制限することなく、ワクシニア7.5K、H5R、11K7.5(Erbs et al., 2008, Cancer Gene Ther. 15(1): 18-28)、TK、p28、p11およびK1Lプロモーター、同様に、Chakrabarti et al.(1997, Biotechniques 23: 1094-7; Hammond et al, 1997, J. Virol Methods 66: 135-8;およびKumar and Boyle, 1990, Virology 179: 151-8)において記載されたもの等の合成プロモーター、同様に、初期/後期キメラプロモーターが挙げられる。腫瘍溶解性麻疹ウイルスに好適なプロモーターは、制限することなく、麻疹転写ユニットの発現を指示する任意のプロモーターを含む(Brandler and Tangy, 2008, CIMID 31: 271)。
【0071】
当業者であれば、治療用遺伝子の発現を制御する調節因子は、さらに、転写の適切な開始、調節および/または終了(例えば、ポリA転写終結配列)、mRNA輸送(例えば、核局在化シグナル配列)、処理(例えば、スプライシングシグナル)、および安定性(例えば、イントロンおよび非コード5’および3’配列)、翻訳(例えば、開始剤Met、トリパタイト(tripartite)リーダー配列、IRESリボゾーム結合部位、シグナルペプチド等)のために追加的要素を含んでなっていてもよいことを理解されよう。
【0072】
治療用遺伝子は、ウイルスゲノムの任意の位置、特に好ましくは非本質的遺伝子座に挿入することができる。例えば、TK遺伝子は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスへの挿入に特に適切である。
【0073】
好ましい態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、(例えば、ウイルス性J2RおよびI4L遺伝子の両方における不活性化突然変異に起因する)TKおよびRR活性の両方を欠損する(好ましくはコペンハーゲン株からの)ワクシニアウイルスである。より好ましくは、当該ワクシニアウイルスは、自殺遺伝子、特に好ましくは本明細書で記載されているFCU1自殺遺伝子を持つ。さらにより好ましくは、自殺遺伝子(例えば、FCU1)は、p11K7.5ワクシニアプロモーターの転写的制御下にある。さらにより好ましくは、ワクシニアウイルスプロモーターの制御下に置かれたFCU1は、ウイルスゲノムのTK遺伝子座内に挿入される。
【0074】
代替的で同様に好ましい態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、(ウイルスJ2R遺伝子内の不活性化突然変異に起因する)TK活性を欠損している(好ましくはワイス株からの)ワクシニアウイルスである。より好ましくは、当該ワクシニアウイルスは、免疫刺激性治療用遺伝子、特に好ましくは本明細書で記載されているヒトGM-CSF遺伝子を持つ。さらにより好ましくは、治療用遺伝子(例えば、GM-CSF)は、合成初期-後期プロモーターワクシニアプロモーターの転写制御下にあり、TK遺伝子座内に好ましくは挿入されている。
【0075】
典型的には、本発明に従い使用される腫瘍溶解性ウイルスは、感染性ウイルス粒子を生産し、かつ細胞の培養から生産された感染性ウイルス粒子を採取し、かつ場合により当該採取された感染性ウイルス粒子を精製することが可能となるように、好適な条件下で導入されたかまたは感染した宿主細胞を培養することを含む従来的技術を用いて、好適な宿主細胞株内に生産される。腫瘍溶解性ウイルスの生産に好適な宿主細胞は、制限することなく、HeLa(ATCC)、293細胞(Graham et al., 1997, J. Gen. Virol. 36: 59-72)、HER96、PER-C6(Fallaux et al., 1998, Human Gene Ther. 9: 1909-17)等のヒト細胞株、WO2005/042728、WO2006/108846、WO2008/129058、WO2010/130756、WO2012/001075等に記載されているもの等の鳥類細胞、BHK-21(ATCC CCL-10)等のハムスター細胞株、ならびに受精卵から得られたニワトリ胚芽から調製されたニワトリ一次胚線維芽細胞(CEF)を含む。腫瘍溶解性ウイルスは、本発明に従い使用される前に、少なくとも部分的に分離され得る。清澄、酵素処理(例えば、ベンゾナーゼ、プロテアーゼ)、クロマトグラフィーおよび濾過のステップを含む、多様な精製ステップを想定することができる。適切な方法は、当技術分野において記載されている(例えば、WO2007/147528、WO2008/138533、WO2009/100521、WO2010/130753、WO2013/022764)。
【0076】
免疫チェックポイントモジュレーター
免疫チェックポイントおよびそれらのモジュレーター、同様にそのような化合物を用いた方法は、文献において記載されている。本発明によれば、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、独立して、標的免疫チェックポイントを結合でき、および/またはアンタゴニスト機能(即ち、免疫チェックポイント媒介阻害シグナルと拮抗することができること)またはアゴニスト機能(即ち、免疫チェックポイント媒介刺激性シグナルを高めることができること)を発揮するために、リガンドの当該標的免疫チェックポイントへの結合を阻害することができるドメインを含んでなる、ポリペプチドであってもよい。
そのような1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、ペプチド(例えば、ペプチドリガンド)、天然受容体の可溶性ドメイン、RNAi、アンチセンス分子、抗体およびタンパク質の骨組からなる群から独立して選択され得る。
【0077】
好ましい態様において、免疫チェックポイントモジュレーターは抗体である。本発明の文脈において、「抗体」(「Ab」)は、最も広い意味で用いられ、天然由来のもの、および人間によって操作されたもの、同様に全長抗体または機能的断片または標的免疫チェックポイントまたはエピトープを結合できる(このように標的結合部分を保持する)それらの類似体を含む。本発明で使用される抗体は、任意の由来、例えば、ヒト、ヒト型化、動物(例えば、齧歯類またはラクダ科の抗体)またはキメラであり得る。それは、任意の同位体、特に好ましくはIgG1またはlgG4同位体、であってもよい。また、それは糖化されていてもそうでなくてもよい。用語抗体は、本明細書に記載された結合特異性を発現する限り、二重特異性または多重特異性抗体も含む。
【0078】
例証目的で、全長抗体は、ジスルフィド結合によって相互結合した、少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含んでなる糖タンパク質である。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VH)および3つのCH1、CH2およびCH3ドメイン(最終的にCH1とCH2の間にヒンジを伴う)からなる重鎖定常領域を含んでなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および1つのCLドメインを含んでなる軽鎖定常領域を含んでなる。VHおよびVL領域には、フレームワーク領域(FR)と名付けられたより保存された領域が組み入れられている、相補性決定領域(CDR)と名付けられた超可変領域を含んでなる。各VHおよびVLは、次の順序:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で、3つのCDRおよび4つのFRから成る。重鎖および軽鎖のCDR領域は、結合特異性の決定要因である。
【0079】
本明細書で使用される「ヒト化型抗体」とは、タンパク質配列が、ヒト抗体(即ち、ヒトの体内で天然に生産された)への類似性を増大させるために組換えられた、非ヒト(例えば、ネズミ科、ラクダ、ラット等)抗体を指す。ヒト型化の方法は、当技術分野において公知である(例えば、Presta et al., 1997, Cancer Res. 57(20): 4593-9; US 5,225,539; US5,530,101;US6,180,370;WO2012/110360を参照のこと)。例えば、ヒトへの使用に開発されたモノクローナル抗体は、FR領域の1つ以上の残基を、ヒト免疫グロブリン配列にのように見えるように置換することによってヒト型化でき、一方で可変領域(特にCDR)の残基の大部分は組換えられず、非ヒト免疫グロブリンに対応する。一般的助言として、これらFR領域内のアミノ酸置換基の数は、各可変領域VHまたはVLにおいて20個未満である。
【0080】
本明細書で使用される「キメラ抗体」とは、1つの種の1つ以上の要素および別の種の1つ以上の要素を含んでなる抗体を指し、例えば、ヒト免疫グロブリンの少なくとも部分的な定常領域(Fc)を含んでなる非ヒト抗体が挙げられる。
【0081】
本発明の組合せの使用のために、多くの抗体の形態を操作することができる。代表例として、制限することなく、Fab、Fab’、F(ab’)2、dAb、Fd、Fv、scFv、di-scFvおよびダイアボディ(diabody)等が挙げられる。より詳細には、以下が挙げられる:
i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片で表されるFab断片;
ii)ヒンジ領域で少なくとも1つのジスルフィド架橋によって結合された2つのFab断片を含んでなる二価断片で表されるF(ab’)2断片;
iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;
iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、
v)単一可変ドメイン断片(VHまたはVLドメイン)からなるdAb断片;
vi)融合され、最終的に一本鎖タンパク質を成すためにリンカーを有するVLおよびVHである、Fv断片の2つのドメインを含んでなる短鎖Fv(scFv)(例えば、Bird et al., 1988, Science 242: 423-6; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; US 4,946,778; US 5,258,498を参照のこと);および
vii)任意の別の人工抗体。
【0082】
抗体、断片およびそれらの類似体の調製方法は、当技術分野において公知である(例えば、Harlow and Lane, 1988, Antibodies - A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor NYを参照のこと)。例えば、ハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein, 1975, Nature 256: 495-7; Cote et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 2026-30; Cole et al. in Monoclonal antibodies and Cancer Therapy; Alan Liss pp77- 20 96において記載されているとおり)、(例えば、ファージディスプレイ方法を用いた)組換え技術、ペプチド合成および酵素的切断を引用してもよい。本明細書で記載される組換え技術によって抗体断片を生産することができる。それらは、Fab断片を生産するためのパパインまたはF(ab’)2断片を生産するためのペプシン等の酵素とのタンパク質分解的切断によって生産されてもよい(例えば、Wahl et al., 1983, J. Nucl. Med. 24: 316-25を参照のこと)。類似体(またはそれらの断片)は、従来的分子生物学的方法(PCR、突然変異技術)によって作り出すことができる。必要であれば、そのような断片および類似体は、完全抗体と同一のやり方で機能性についてスクリーニングされてもよい(例えば、標準ELISAアッセイによって)。
【0083】
好ましい態様において、本明細書で使用される少なくとも1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、モノクローナル抗体、特に好ましくはヒト(フレームワーク領域の両方がヒト生殖細胞免疫グロブリン配列に由来する)または公知のヒト型化方法によるヒト型化の抗体である。
【0084】
望ましくは、本発明で使用される1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、阻害性免疫チェックポイント、具体的には、次の:PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、Tim3、KIR、BTLAおよびCTLA4によって媒介されたもの、特に好ましくは任意のそのような標的タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体の活性と少なくとも部分的に(例えば、50%超)拮抗する。用語「~に特異的に結合する」とは、他のタンパク質および生物製剤の不均一集団の存在を考慮した、特定の標的またはエピトープへの結合特異性および親和性への能力を指す。従って、指定されたアッセイ条件下では、本発明で使用される抗体は、その標的に選択的に結合し、試験試料または対象中に存在する他の成分に大量には結合しない。好ましくは、そのような抗体は、一定に同等かまたは1x10-6M未満(例えば、少なくとも0.5x10-6、1x10-7、1x10-8、1x10-9、1x10-10等)の平衡分離を伴って、その標的への結合に高い親和性を示す。あるいは、本発明で使用される1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、刺激性シグナルを刺激または強化できるという意味でのアゴニスト機能を発揮し、具体的にはCD28によって媒介されたもの、特に好ましくはICOS、CD137(または4-1BB)、OX40、CD27、CD40およびGITR免疫チェックポイントである。抗体の、免疫チェックポイントへの結合能力を評価する標準アッセイは、当技術分野において公知であり、例えば、ELISA、Western blot、RIAおよびフローサイトメトリーが挙げられる。抗体の結合動力学(例えば、結合親和性)も当技術分野において公知の標準アッセイによって(例えば、Biacore分析によって)評価することができる。
【0085】
好ましい態様において、本発明で使用される少なくとも1つ以上のチェックポイントモジュレーターは、T細胞媒介反応に関与する免疫チェックポイントと拮抗できる1つのヒトまたは1つのヒト型化抗体を含んでなる。免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい例として、タンパク質Programmed Death 1(PD-1)と少なくとも部分的に拮抗できるモジュレーター、そして特に、ヒトPD-1に特異的に結合する抗体が代表される。PD-1は、免疫グロブリン(Ig)遺伝子スーパーファミリーの一部であり、CD28ファミリーのメンバーである。それは、抗原を経験した細胞(例えば、活性化したB細胞、T細胞、および骨髄性細胞)に発現する55kDa1型膜貫通タンパク質である(Agata et al., 1996, Int. Immunol. 8: 765- 72; Okazaki et al., 2002, Curr. Opin. Immunol. 14: 391779-82; Bennett et al., 2003, J. Immunol 170: 711-8)。通常の文脈において、それは、炎症性反応時に、T細胞の活性を制限することによって作用し、それによって、正常組織を、破壊から保護する(Topalian, 2012, Curr. Opin. Immunol. 24: 207-12)。PD-1について、2つのリガンドが確認され、各々PD-L1(programmed death ligand 1)およびPD-L2(programmed death ligand 2)である(Freeman et al., 2000, J. Exp. Med. 192: 1027-34; Carter et al., 2002, Eur. J. Immunol. 32: 634-43)。PD-L1は、20~50%のヒトの癌に確認された(Dong et al., 2002, Nat. Med. 8: 787-9)。PD-1およびPD-L1の相互作用は、腫瘍浸潤性リンパ球の減少、T細胞受容体媒介増殖の減少、および癌性細胞による免疫回避をもたらした(Dong et al., 2003, J. Mol. Med. 81: 281-7; Blank et al., 2005, Cancer Immunol. Immunother. 54: 307- 5 314)。完全なヌクレオチドおよびアミノ酸PD-1配列は、GenBank受入番号U64863およびNP_005009.2において見つけることができる。多くの抗PD1抗体は、当技術分野において入手可能である(例えば、WO2004/004771;WO2004/056875;WO2006/121168;WO2008/156712;WO2009/014708;WO2009/114335;WO2013/043569;およびWO2014/047350に記載のものを参照のこと)。本発明の文脈において、好ましい抗PD-1抗体は、アメリカ食品医薬品局(FDA)認可済であるか、または先進的臨床開発中であり、具体的には、ニボルマブ(BMS-936558とも表されている;Bristol Myer Squibbによって開発中)、ペンブロリズマブ(Pembrolizumab)(ランブロリズマブ(Lanbrolizumab)またはMK-3475とも表されている;Merckによって開発中)、およびピディリズマブ(Pidilizumab)(CT-011とも表されている;CureTechによって開発中)からなる群から選択される抗PD-1抗体を使用してもよい。
【0086】
免疫チェックポイントモジュレーターの別の好ましい例として、PD-L1と表されるPD-1リガンドと少なくとも部分的に拮抗できるモジュレーター、および特にヒトPD-L1を認識する抗体が代表される。多くの抗PD-L1抗体は、当技術分野において入手可能である(例えば、EP1907000に記載のものを参照のこと)。好ましい抗PD-L1抗体は、アメリカ食品医薬品局認可済であるか、または先進的臨床開発中(例えば、Genentech/Rocheによって開発中のMPDL3280AおよびBristol Myer Squibb によって開発中のBMS-936559)である。
【0087】
免疫チェックポイントモジュレーターのさらなる別の好ましい例として、CTLA-4タンパク質と少なくとも部分的に拮抗できるモジュレーター、そして特にヒトCTLA-4を認識する抗体が代表される。CD152としても知られるCTLA-4(細胞傷害性T-リンパ球関連抗原4の略称)は、1987年に確認され(Brunet et al., 1987, Nature 328: 267-70)、CTLA4遺伝子によってコードされている(Dariavach et al., Eur. J. Immunol. 18: 1901-5)。CTLA4は、受容体の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。それは、ヘルパーT細胞の表面に発現され、そこでT細胞活性化の早期段階の振幅を調節する。最近の研究で、CTLA-4は、B7―1およびB7―2を、抗原提示細胞の膜から捕捉し除去することによって体内で機能し得、このようにこれらをCD28の誘発に利用不可能にさせることが示唆された(Qureshi et al., Science, 2011, 332: 600-3)。完全なCTLA-4核酸配列は、GenBank受入番号LI 5006において見つけることができる。多くの抗CTLA-4抗体は、当技術分野において入手可能である(例えば、US 8,491,895に記載されたものを参照のこと)。本発明の文脈において好ましい抗CLTLA-4抗体は、アメリカ食品医薬品局認可済であるか、または先進的臨床開発中である。より具体的には、Bristol Myer SquibbによってYervoyとして市場で売られているイピリムマブ(例えば、US6,984,720;US8,017,114を参照のこと)、Pfizerによって開発中のトレメリムマブ(tremelimumab)(例えば、US7,109,003およびUS8,143,379を参照のこと)および一本鎖抗CTLA-4抗体(例えば、WO97/20574およびWO2007/123737を参照のこと)を引用してもよい。
【0088】
LAG3受容体と拮抗するための免疫チェックポイントモジュレーターを、本発明の組合せに用いてもよい(例えば、US5,773,578を参照のこと)。
【0089】
免疫チェックポイントモジュレーターの別の例として、OX40(ONX40L)のアゴニストリガンド等のONYX40アゴニスト(例えば、US5,457,035,US7,622,444;WO03/082919を参照のこと)またはOX40受容体に向けられた抗体(例えば、US7,291,331およびWO03/106498を参照のこと)が代表される。
【0090】
免疫チェックポイントモジュレーターの別の例として、CD8+T細胞およびNK細胞内に含まれている阻害性受容体を標的とする抗KIRまたは抗CD96抗体が代表される。
【0091】
本発明は、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを含んでなる組合せを含む。好ましい例として、制限することなく、本明細書で記載される1つの腫瘍溶解性ウイルスと組合せて、抗CTLA-4抗体および抗PD-1抗体を用いることが挙げられる。
【0092】
免疫チェックポイントモジュレーターの生産
本発明において使用される1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、好適な発現ベクターおよび宿主細胞を用いた組換え手段によって生産することができる。
【0093】
所望の免疫チェックポイントモジュレーターの関連部分をコードする核酸分子は、標準分子生物学技術(例えば、PCR増幅、cDNAクローニング、化学合成)を用いて、当技術分野および本明細書で提供された情報においてアクセス可能な配列データを用いて得ることができる。例えば、抗体の軽鎖および重鎖をコードしているcDNAまたはそれらのCDRは、生産されるハイブリドーマ、免疫グロブリン遺伝子ライブラリーまたは任意の入手可能な発生源から分離することができる。
【0094】
一態様において、免疫チェックポイントモジュレーターをコードしている核酸分子は、組換えによって、好適なベクター内にクローン化され、宿主細胞内に発現させることができ、当該免疫チェックポイントモジュレーターが生産される。発現ベクター内への挿入は、ルーチン的分子生物学によって実行することができる(例えば、Sambrook et al.(2001, Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory)において記載されたように)。アデノウイルス性ベクターまたはポックスウイルス性ベクター内への挿入は、それぞれ、Chartier et al. (1996, J. Virol. 70: 4805-10) およびPaul et al.(2002, Cancer gene Ther. 9: 470-7)に記載されているように、相同的組換えを通して行うことができる。本明細書で記載されたように、治療用遺伝子に関連して、免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子も、増大する発現レベルに最適化してもよい。
【0095】
本発明で使用される1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを発現するために、細菌等の原核生物(例えば、大腸菌またはバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis));酵母(例えば、サッカロッミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロッミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris));昆虫細胞系(例えば、Sf9細胞およびバキュロ・ウイルス);植物細胞系(例えば、カリフラワー・モザイク・ウイルスCaMV;タバコ・モザイク・ウイルスTMV)および哺乳類細胞系(例えば、培養細胞)を含む、多様な宿主ベクター系を用いても構築してもよい。典型的には、このようなベクターは、市販されている(例えば、Invitrogen、Stratagene、Amersham Biosciences、Promega等において)かまたはアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC、ロックビル、メリーランド州)等の寄託機関から入手可能であるか、またはそれらの配列、組織および生産方法を記載した多数の出版物の対象となっていて、それによって当業者はそれらの適用を可能としてきた。
【0096】
原核系に使用される好適なベクターは、制限することなく、pBR322(Gibco BRL)、pUC(Gibco BRL)、pbluescript(Stratagene)、pPoly(Lathe et al., 1987, Gene 57: 193-201)、pTrc(Amann et al., 1988, Gene 69: 301-15);pET lid(Studier et al., 1990, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185: 60-89);pIN(Inouye et al., 1985, Nucleic Acids Res. 13: 3101-9; Van Heeke et al., 1989, J. Biol. Chem. 264: 5503-9);およびpGEXベクターを含み、核酸分子が、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)(Amersham Biosciences Product)と融合して発現され得る。
【0097】
酵母(例えば、S.セレビシエ(S.cerevisiae))中の発現に好適なベクターは、制限することなく、pYepSec1(Baldari et al., 1987, EMBO J. 6: 229-34)、pMFa(Kujan et al., 1982, Cell 30: 933- 43)、pJRY88(Schultz et al., 1987, Gene 54: 113-23)、pYES2(Invitrogen Corporation)およびpTEF-MF(Dualsystems Biotech Product)を含む。
【0098】
哺乳類宿主細胞中の発現に好適なプラスミドベクターは、制限することなく、pREP4、pCEP4(Invitrogene)、pCI(Promega)、pCDM8(Seed, 1987, Nature 329: 840)およびpMT2PC(Kaufman et al., 1987, EMBO J. 6: 187-95)、pVAXおよびpgWiz(Gene Therapy System Inc; Himoudi et al., 2002, J. Virol. 76: 12735-46)を含む。
【0099】
本発明の文脈において、多様な異なるウイルスに由来する(例えば、バキュロ・ウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、AAV、ポックスウイルス、麻疹ウイルス等)、ウイルスによる発現系も利用することができる。本明細書で使用される用語「ウイルスベクター」は、ベクターDNAならびにそれらから生成したウイルス粒子を含む。ウイルスベクターは、好ましくは複製欠損または複製障害である。
【0100】
さらに、本発明の文脈において使用される発現ベクターは、宿主細胞中の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子の維持、増殖または発現を可能とする、1つ以上の追加的要素を含んでなってもよい。そのような追加的要素は、制限することなく、(例えば、細胞の栄養要求性の相補性または抗生物質抵抗性によって)組換え宿主細胞の同定および分離を容易にするためのマーカー遺伝子、安定化要素(例えば、Summers and Sherrat, 1984, Cell 36: 1097-103において記載されたcer配列およびU.S.5,198,343において記載されたDAPシステム)、および統合的要素(例えば、LTRウイルス性配列およびトランスポゾン)を含む。
【0101】
原核宿主細胞中の発現に好適なマーカー遺伝子は、テトラサイクリンまたはアンピシリン耐性遺伝子を含む。同様に、哺乳類宿主細胞中の発現に、メトトレキサートへの耐性を与えるジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)(Wigler et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 3567; O'Hare et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527);ミコフェノール酸への耐性を与えるgpt(Mulligan and Berg, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072);アミノグリコシドG-418への耐性を与えるneo(Colberre-Garapin et al., 1981, J. Mol. Biol. 150: 1)、ゼオマイシン(zeomycin)への耐性を与えるzeo、カナマイシンへの耐性を与えるkana、およびハイグロマイシンへの耐性を与えるhygro(Santerre et al., 1984, Gene 30: 147)等の耐性遺伝子を用いることができる。URA3およびLEU2遺伝子は、酵母系中の発現に用いることができ、ura3またはleu2酵母突然変異体に相補性を与える。
【0102】
発現ベクターは、適切であれば、ベクターの導入効果および/または安定性を改善させる1つ以上の物質と組合せることができる。これら物質は、広く文献において書面化されている。宿主細胞へのベクターの導入を容易にできる導入試薬の代表例として、制限することなく、ポリカチオン性ポリマー(例えば、キトサン、ポリメタクリレート、PEI等)、陽イオン性脂質(例えば、DC-Chol/DOPE、現在Promegaから入手可能なtransfectam lipofectin)およびリポゾームが挙げられる。
【0103】
例えば、高コピー数ベクターを用いること、1つ以上の転写調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー等)を置換することまたは組換えること、宿主細胞でのコドン使用を最適化すること、および転写を不安定化させ得る消極的配列を抑制することによる等、組換えDNA技術を、宿主細胞中の核酸の発現を改善するために用いてもよい。
【0104】
好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子は、宿主細胞でのその発現に好適な形態であり、それは、核酸分子が、ベクター、宿主細胞および/または治療用遺伝子に関係して記載されたような所望される発現のレベルに適切な、1つ以上の調節配列の制御下に置かれることを意味する。
【0105】
大腸菌宿主細胞中の発現に好適なプロモーターは、制限することなく、バクテリオファージラムダpLプロモーター、lac、TRPおよびIPTG誘導pTACプロモーターを含む。酵母中の発現に好適なプロモーターは、TEF(Mumberg et al., 1995, Gene 156: 119-22)、PGK(Hitzeman et al., 1983, Science 219: 620-5)、MFアルファ(Inokuchi et al., 1987, Mol. Cell. Biol. 7: 3185-93)、CYC-1(Guarente et al, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2199)、GAL-1、GAL4、GAL10、PH05、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPまたはGAPDH)、およびアルコール脱水素酵素(ADH)(Denis et al., 1983, J. Biol. Chem. 25: 1165)のプロモーターを含む。細胞外に供給された化合物によって調節された誘導真核プロモーターも用いることができ、制限することなく、亜鉛誘導メタロチオネイン(MT)プロモーター(Mc Ivor et al., 1987, Mol. Cell Biol. 7: 838-48)、デキサメタゾン(Dex)誘導マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、エクジソン昆虫プロモーター(No et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 3346-51)、テトラサイクリン抑制プロモーター(Gossen et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 5547-51)、テトラサイクリン誘導プロモーター(Kim et al., 1995, J. Virol. 69: 2565- 73)、RU486誘導プロモーター(Wang et al., 1997, Nat. Biotech. 15: 239-43)およびラパマイシン誘導プロモーター(Magari et al., 1997, J. Clin. Invest. 100: 2865-72)を含む。最後に、特に哺乳類細胞において、特に1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの発現のために、治療用遺伝子の発現のために記載されたプロモーターも好適である。
【0106】
本発明によれば、免疫チェックポイントモジュレーターは、組換えることができる。アミノ酸配列を組換えるもの、ならびに、その生物学的半生、親和性や安定性を増大させることを目標としたもの等、多様な組換えを検討することができる。
【0107】
例えば、細胞培養における免疫チェックポイントモジュレーターの分泌を容易にするために、シグナルペプチドを含んでもよい。シグナルペプチドは、典型的には、Met開始剤の直後に、タンパク質のN-末端で挿入される。シグナルペプチドの選択は、幅広く、当業者は入手可能である。
【0108】
追加例として、組換え免疫チェックポイントモジュレーターの精製を容易にするために、タグペプチド(典型的には、利用可能な抗血清または化合物によって認識され得る短いペプチド配列)を添加してもよい。本発明の文脈において、多種多様なタグペプチドを用いることができ、制限することなく、PKタグ、FLAGオクタペプチド、MYCタグ、HISタグ(通常は、4~10のヒスチジン残基の並び)およびe-タグ(US 6,686,152)を含む。タグペプチドは、タンパク質のN-末端あるいはそのC-末端あるいは内部あるいは幾つかのタグが採用された場合、任意のこれらの位置に、個別に位置してもよい。
【0109】
別の例として、免疫チェックポイントモジュレーターの糖化は、その標的への親和性を増大させるように変更してもよい。このような組換えは、例えば、糖化の部位内で1つ以上の残基を突然変異させることによって達成することができる。あるいは、糖化のタイプは、例えば、変化した糖化機構を伴う宿主細胞内での発現によって組換えることができる。例証目的で、非糖化タンパク質は、大腸菌において発現されてもよい一方で、US2004-0110704に記載されたもの(アルファ(1、6)フコシルトランスフェラーゼ活性を欠失している)等のように、炭水化物上でフコースを欠失しているモジュレーターは、他の細胞内で生産され得る。そのような組換え糖化パターンは、抗体のADCC能力を増大させると記載されてきた。
【0110】
別の組換は、例えば、抗体の生物学的半生を増大させるためのペグ化である。タンパク質のペグ化方法は、当技術分野において公知である(例えば、EP154316;EP401384;W098/15293、WO01/23001等を参照のこと)。
【0111】
本発明の文脈において追求してもよい別のアプローチは、免疫チェックポイントモジュレーターの、放射線増感剤、細胞毒性薬および/または標識剤等の外部薬剤への連結である。連結は、共有結合であってもそうでなくてもよい。本明細書で使用される用語「放射線増感剤」とは、細胞を、放射線治療により感受性にする分子を指す。放射線増感剤には、制限することなく、メトロニダゾール、ミソニダゾール、デスメチルミソニダゾール、ピモニダゾール、エタニダゾール、ニモラゾール、マイトマイシンC、RSU 1069、SR 4223、E09、RB 6145、ニコチンアミド、5-ブロモデオキシウリジン(BUdR)、5-イオドデオキシウジン(iododeoxyuhdine)(IUdR)、ブロモデオキシシチジン、フルオロデオキシウリジン(FUdR)、ヒドロキシウレアおよびシスプラチンが含まれる。
【0112】
本明細書で使用される用語「細胞毒性薬(cytoxic agent)」とは、細胞に直接毒性である、毒素(例えば、細菌性、真菌性、植物性または動物性由来の酵素的活性な毒素、またはそれらの断片)等の、それらの複製または増殖を予防する、化合物を指す。本明細書で使用される「標識剤」とは、検出可能な化合物を指す。標識剤は、それ自体によって検出可能であってもよい(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)、または酵素標識の場合、検出可能な基質化合物の化学的組換えを触媒し得る。
【0113】
免疫チェックポイントモジュレーターを組換え生産する方法は、当技術分野において確立されている。典型的には、そのような方法は、次を含んでなる:(a)本明細書で記載された発現ベクターを、好適な生産細胞へ導入し、導入されたかまたは感染した生産細胞を生産すること、(b)当該導入されたかまたは感染した生産細胞を、その増殖に好適な条件下で、体外で培養すること、(c)細胞培養から免疫チェックポイントモジュレーターを採取すること、および(d)場合により、採取された免疫チェックポイントモジュレーターを精製すること。本明細書の文脈において、生産細胞は、原核細胞、酵母等の下等真核細胞、昆虫細胞等の他の真核細胞、植物および哺乳類(例えば、ヒトまたは非ヒト)細胞を含む。好ましい大腸菌細胞は、制限することなく、大腸菌BL21(Amersham Biosciences)を含む。好ましい酵母生産細胞は、制限することなく、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.ポンベ(S. pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)を含む。好ましい酵母生産細胞は、制限することなく、BHK-21(ベビーハムスター腎臓)、CV-1(アフリカザル腎臓細胞株)、COS(例えば、COS-7)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウスNIH/3T3細胞、マウスNSO骨髄腫細胞、HeLa細胞、Vero細胞、HEK293細胞およびPERC.6細胞、同様に対応のハイブリドーマ細胞を含む。
【0114】
生産細胞は、従来的な発酵生物反応器、フラスコ、ペトリ皿で培養することができる。
培養は、所与の宿主細胞に適切な温度、pHおよび酸素含有量で実施することができる。
ここでは、原核細胞および真核細胞のタンパク質生産の知られた多様な方法を、詳細に記載するつもりはない。免疫チェックポイントモジュレーターの生産は、ペリプラズム的でも、細胞内でもよく、好ましくは生産細胞の外で分泌されてもよい(例えば、培養培地中で)。
【0115】
特に免疫チェックポイントモジュレーターが、生産細胞の外で分泌されていない場合、または完全に分泌されていない場合、必要に応じて、それを、凍結融解、超音波処理、機械的破砕、溶解剤の使用等を含む、標準的溶解方法によって採取することができる。分泌された場合は、それを培養培地から直接採取することができる。
【0116】
免疫チェックポイントモジュレーターは、次いで、硫安沈殿、酸抽出、ゲル電気泳動、濾過およびクロマトグラフィー法(例えば、逆相、サイズ排除、イオン交換、親和性、ホスホセルロース、疎水性相互作用またはハイドロキシアパタイトのクロマトグラフィー等)を含む公知の精製方法によって精製することができる。特定のタンパク質を精製するために用いられる条件および技術は、正味荷電、分子量、疎水性、親水性等の因子に依存し、当業者にとって明白となるだろう。さらに、精製のレベルは、使用の目的に依存するだろう。生産細胞によって、免疫チェックポイントモジュレータータンパク質は、多様な糖化パターンを有し得るか、または本明細書で記載されたように非糖化であり得る(例えば、細菌内で生産された場合は)とも理解されている。
【0117】
望ましくは、本明細書で使用される免疫チェックポイントモジュレーターは、それが、異なる抗原性特異性を有する他の抗体および/または他の細胞物質を実質的に含まないという意味で少なくとも部分的に精製される。さらに、免疫チェックポイントモジュレーターは、当技術分野において従来的に使用されている条件に従い製剤化し得る(例えば、WO2009/073569)。
【0118】
本発明の別の側面は、本明細書に記載された免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子の使用に関係する。例えば、免疫チェックポイントモジュレーターは、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを発現しているベクターの形態で対象に送達してもよい。本明細書で記載された任意のベクターは、本文脈に対して使用することができる。
【0119】
併用療法
腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、単一組成物で一緒にまたは別々の組成物で同時に投与してもよく、場合により、そのような有効薬の治療的有効量に加えて、薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなる。単一組成物は、腫瘍溶解性ウイルスおよび当該1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、一緒に混合された場合(例えば、腫瘍溶解性ウイルスと1つ以上の抗体の混合物、または腫瘍溶解性ウイルスと1つ以上の抗体の発現用の1つ以上のベクターの混合物)を含む。腫瘍溶解性ウイルスおよび当該1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの別々の組成物は、同時にまたは連続的に、それぞれ1回または数回(別々にまたは分散した(interspersed)様式で)、かつ同一または異なる経路を介して、投与されてもよい。
【0120】
「治療的有効量」とは、本発明の組合せまたは組成物に含んでなる、1つ異常の有益な結果を産出するために十分な、各有効薬(腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーター)の量に相当する。そのような治療的有効量は、具体的には、投与の形態;疾患状態;対象の年齢および体重;対象の治療に対する反応能力;併用療法の種類;治療の頻度;および/または予防または治療の必要性の多様なパラメーターの関数として変動し得る。予防的使用に関する場合、組合せは、特に危険にさらされた対象において、病態(例えば、癌等の増殖性疾患)を、予防するためまたは発病および/または構築および/または再発を遅延させるために十分な用量で投与される。「治療的」使用のために、ウイルスおよび免疫チェックポイントモジュレーターの組合せは、疾患を治療するという目標を伴って、病態(例えば、癌等の増殖性疾患)を有すると診断された対象に投与され、最終的に1つ以上の従来の治療的モダリティと合併する。具体的には、治療的有効量とは、ベースライン状態または治療されていない場合の予想状態よりも臨床状態の目に見える改善(例えば、腫瘍数の減少、腫瘍サイズの減少、転移の数または広がりの減少、寛解の長さの増加、疾患状態の安定化(即ち、悪化ではない)、疾患進行または重篤性の遅延または停滞、疾患状態の改善または苦痛緩和、生存率期間の延長、標準的治療への改善された反応、生活の質の改善、低減した死亡率等)を引き起こすのに必要な量であり得る。治療的有効量とは、効果的非特異的(先天性)な、および/または特異的な抗腫瘍反応の進歩を引き起こすのに必要な量でもあり得る。典型的には、免疫反応、具体的にはT細胞反応の進歩は、体外で、好適な動物モデルまたは対象から採取した生体試料を用いて、評価することができる。例えば、腫瘍観察を行うために実験室でルーチン的に用いられている技術(例えば、フローサイトメトリー、組織学)を使用してもよい。細胞傷害性T細胞、活性化された細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞および活性化されたナチュラルキラー細胞等の、治療されている対象に存在する、抗腫瘍反応に関与する、異なる免疫細胞集団を同定するために、多様な入手可能な抗体を用いてもよい。臨床状態の改善は、医師または他の技量を有する医療スタッフによって典型的に用いられる任意の関連する臨床方法によって容易に評価できる。
【0121】
用語「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、哺乳類、具体的にはヒト被験者への投与に相性がよい、任意かつ全ての、担体、溶剤、希釈剤、賦形剤、補助剤、分散媒、コーティング、抗細菌性および抗真菌性薬、吸収剤等を含むことを意図している。
【0122】
腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターまたはそれらの組成物のそれぞれは、ヒトまたは動物用に適切な溶剤または希釈剤に独立して入れることができる。溶剤または希釈剤は、好ましくは、等張性、低張性または弱高張性であり、比較的低いイオン強度を有する。代表例として、滅菌水、生理的食塩水(例えば、塩化ナトリウム)、リンガー溶液、グルコース、トレハロースおよびサッカロース溶液、ハンク(Hank's)溶液、および他の水性生理学的にバランスのとれた食塩水(例えば、Remington : The Science and Practice of Pharmacy, A. Gennaro, Lippincott, Williams&Wilkinsの最新版を参照のこと)が挙げられる。
【0123】
他の態様において、腫瘍溶解性ウイルスおよび免疫チェックポイントモジュレーター組成物のそれぞれは、ヒト用に好適に緩衝される。好適な緩衝液は、制限することなく、生理学的またはやや塩基性のpH(例えば、およそpH7~およそpH9)を維持できる、リン酸緩衝液(例えば、PBS)、重炭酸塩緩衝液および/またはトリス緩衝液を含む。
【0124】
腫瘍溶解性ウイルスおよび/または免疫チェックポイントモジュレーター組成物のそれぞれは、例えば、浸透圧性、粘性、透明度、色、滅菌性(sterility)、安定性、製剤の溶解率、ヒトまたは動物の対象への放出または吸収を修正または維持すること、血液関門を横切る輸送または特定の臓器への侵入の促進等の所望の薬学的または薬力学的特性を提供するために、他の薬学的に許容可能な賦形剤を含んでもよい。
【0125】
腫瘍溶解性ウイルスおよび/または免疫チェックポイントモジュレーター組成物のそれぞれは、免疫性(特に、T細胞媒介免疫性)を刺激し、または(例えば、TLR-7、TLR-8およびTLR-9等のトール様受容体(TLR)を通して)投与後に腫瘍細胞の感染を容易にすることができる1つ以上の補助剤を含んでなってもよく、制限することなく、ミョウバン、フロイント完全および不完全アジュバント(IFA)等の鉱油乳液、リポ多糖類またはそれらの誘導体(Ribi et al., 1986, Immunology and Immunopharmacology of Bacterial Endotoxins, Plenum Publ. Corp., NY, p407-419)、QS21等のサポニン(Sumino et al., 1998, J.Virol. 72: 4931; W098/56415)、Imiquimod(Suader, 2000, J. Am Acad Dermatol. 43:S6)、S-27609(Smorlesi, 2005, Gene Ther. 12: 1324)等のイミダゾキノリン化合物、およびWO2007/147529に記載されたもの等の関連化合物、CpG等のシトシンリン酸グアノシンオリゴデオキシヌクレオチド(Chu et al., 1997, J. Exp. Med. 186: 1623; Tritel et al., 2003, J. Immunol. 171: 2358)およびIC-31等のカチオン性ペプチド(Kritsch et al., 2005, J. Chromatogr Anal. Technol. Biomed. Life Sci. 822: 263-70)を含む。
【0126】
一態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルス組成物は、具体的には製造、および凍結温度(例えば、-70℃、-20℃)、冷蔵温度(例えば、4℃)または大気温での長期保存(即ち、少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも2年)の条件下で、安定性を改善する目標を有して製剤化してもよい。多様なウイルス製剤は、冷凍、液体形態または凍結乾燥形態のいずれかで、当技術分野において入手可能である(例えば、WO98/02522,WO01/66137,WO03/053463,WO2007/056847およびWO2008/114021等)。固体(例えば、乾燥粉末または凍結乾燥された)組成物は、真空乾燥および凍結乾燥を含む方法によって得ることができる。例証目的で、滅菌ヒスチジン、酢酸クエン酸、またはポリソルベート80等の界面活性剤および5スクロース糖またはマンニトール等の安定剤を含有するリン酸緩衝食塩水が、組換え抗体の保存に適合され、NaClおよび/または糖を含む緩衝製剤が、ウイルスの保存に特に適合される(例えば、Tris 10mM pH8とサッカロース5%(W/V)、グルタミン酸ナトリウム10mM、およびNaCl 50mMまたはリン酸緩衝食塩水とグリセロール(10%)およびNaCl)。
【0127】
特定の態様において、腫瘍溶解性ウイルス組成物は、体内での適切な分散または遅延された放出を確保するために製剤化することができる。例えば、それは、リポゾームに製剤化できる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等の生体分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。そのような製剤の多くの調整方法は、例えば、J.R. Robinson in "Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems", ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978によって記載されている。
【0128】
腫瘍溶解性ウイルスおよび免疫チェックポイントモジュレーターの適切な投与量は、多様なパラメーターの関数として適合することができ、関連の事情を考慮して、熟練者によってルーチン的に決定され得る。免疫チェックポイントモジュレーターの好適な投与量は、約0.01mg/kg~約50mg/kg、有利的には約0.1mg/kg~約30mg/kg、望ましくは約0.5mg/kg~約25mg/kg、好ましくは約1mg/kg~約20mg/kg、より好ましくは約2mg/kg~約15mg/kgで変化し、全身的に使用された場合、特に好ましくは約3mg/kg~約10mg/kg(例えば、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kgまたは10mg/kg)の用量である。しかしながら、10~100の因数を減らした用量を、免疫チェックポイントモジュレーターの局所的腫瘍内注射用に考慮してもよい。腫瘍溶解性ウイルスの好適な投与量は、およそ10~およそ1013vp(ウイルス粒子)、iu(感染単位)またはpfu(プラーク形成単位)で変化し、ウイルスおよび使用される定量的技術に依存する。一般的指針として、およそ10pfu~およそ1013pfuのワクシニアウイルスの用量が好適であり、好ましくはおよそ10pfu~およそ1011pfu、より好ましくはおよそ10pfu~およそ5X10pfuであり、ヒト用には、およそ10pfu~およそ10pfuの用量が特に好ましい(例えば、102x10、3x10、4x110、5x10、6x10、7x10、8x10、9x10、または10pfuの用量)。同じように、10~100の因数を減らした用量を、腫瘍溶解性ウイルスの局所的腫瘍内注射用に考慮してもよい。腫瘍溶解性アデノウイルスには、10~5x1012vpの個別投与が特に適切であり、好ましくは10~1012vp、より好ましくは10~5x1011vpである。試料中の存在しているウイルスの量は、ルーチン的滴定技術、例えば、許容細胞(例えば、BHK-21またはCEF)を用いて許容細胞の感染の後にプラークの数を数えること、免疫染色(例えば、抗ウイルス抗体を用いて;Caroll et al., 1997, Virology 238: 198-211)、A260吸収(vp力価)の測定、または依然として定量的免疫蛍光(iu力価)、によって決定することができる。
【0129】
投与
腫瘍溶解性ウイルスおよび/または免疫チェックポイントモジュレーターは、対象に一緒にまたは別々に、かつ単回投与または複数回投与で投与してもよい。投与は、同一または異なる経路によって行ってもよく、同一の部位または代わりの部位で実行してもよい。
【0130】
本発明の文脈において、本発明の組合せに含まれてなる有効薬のそれぞれに対して、非経口、局所、粘膜経路を含む、任意の従来的投与経路が適用可能である。非経口経路は、注射または注入としての投与を意図し、全身的経路と同様に局所的経路を含む。一般的非経口注射タイプは、静脈内(静脈の中への)、動脈内(動脈の中への)、皮内(真皮の中への)、皮下(皮膚の下への)、筋肉内(筋肉の中への)および腫瘍内(腫瘍の中へのまたは近接したところで)である。注入は、典型的には静脈内経路にて与えられる。粘膜投与は、制限することなく、経口/消化管、経鼻、気管内、肺内、膣内または直腸内経路を含む。局所投与は、経皮的手段(例えば、パッチ等)を用いて行うこともできる。投与は、従来的注射器および針(例えば、Quadrafuse注射針)、または対象において有効薬の送達を容易にできるかまたは改善できる、当技術分野において入手可能な任意の化合物または装置を用いてもよい。免疫チェックポイントモジュレーターに対する投与の好ましい経路は、静脈内(例えば、静脈内注射または静脈内注入)、腫瘍内および腹腔内を含む。経皮的パッチも想定してもよい。腫瘍溶解性ウイルスに対する好ましい投与の経路は、静脈内および腫瘍内を含む。腫瘍溶解性ウイルスの局所的腫瘍内接種は、免疫チェックポイントモジュレーターの局所的腫瘍内注射と、同時的または異なるスケジューリングで、有利的に組合せることができ、それによって遠隔転移または腫瘍損傷に対する最適な未照射部位への効果が期待される。これは、各産物の有効量を減少させ、望まない副作用を低減させることも可能にし得る。
【0131】
好ましい態様において、腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、腫瘍溶解性ウイルスを第一に、かつ免疫チェックポイントモジュレーターを第二に投与するか、またはこの反対(免疫チェックポイントモジュレーターを第一に、かつ腫瘍溶解性ウイルスを第二に投与する)等、連続して投与することができる。1つを超える免疫チェックポイントモジュレーターが用いられる場合(例えば、抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体)、それらは同時または連続的に投与されてもよく、その場合、投与されたそれぞれの抗体の投与量は、本明細書で記載された範囲に含まれる。さらに、1用量を超える併用療法が連続して投与された場合、連続投与の順序は、投与のそれぞれの時点で、逆転されても同一の順序のままでもよい。また、連続的投与を、同時投与と組み合わせてもよい。休息期間後に、繰り返し、連続的サイクルで投与することによって進めることも可能である。各投与の間隔は、数時間から1年であり得る(例えば、24時間、48時間、72時間、毎週、隔週、毎月または毎年)。間隔は、不規則であってもよい(例えば、患者の血中濃度中のモノクローナル抗体の測定後)。用量は、上記の範囲内で、それぞれの投与について変化し得る。
【0132】
本発明の文脈において、腫瘍溶解性ウイルスは、10~5xl0pfuの範囲内の用量で、1回または数回(例えば、2、3、4、5、6、7、または8回等)投与してもよい。それぞれのウイルス投与間の時間間隔は、およそ1日~およそ8週間、有利的にはおよそ2日間~およそ6週間、好ましくはおよそ3日間~およそ4週間、さらにより好ましくはおよそ1週間~およそ3週間で変化してもよい。組合せにおいて、免疫チェックポイントモジュレーターは、2mg/kg~15mg/kgの範囲内の用量で、1回または数回(例えば、2、3、4、5、6、7、または8回等)投与してもよい。それぞれの免疫チェックポイントモジュレーター間の時間間隔は、およそ1日~およそ8週間、有利的にはおよそ2日間~およそ6週間、好ましくはおよそ3日間~およそ4週間、さらにより好ましくはおよそ3日間~およそ3週間で変化してもよい。例証目的で、イピリムマブの好ましい投与スケジュールは、3週間毎に3mg/kgを静脈内注入で合計4回投与することである。幾つかの態様において、異なる結合特異性を持った2つ以上のモノクローナル抗体は、同時に投与され、その場合、投与された各抗体の用量は、指示された範囲内に含まれる。好ましい態様において、腫瘍溶解性ウイルスおよび免疫チェックポイントモジュレーターは、連続的に(別々にまたは分散して)投与され、ウイルスが1回目に、その後に免疫チェックポイントモジュレーターであることが特に好ましい。腫瘍溶解性ウイルスの1回目の投与と免疫チェックポイントモジュレーターの1回目の投与の間の期間は、およそ数時間(少なくとも6時間)~数週間で変化してもよい。好ましい態様において、本発明の方法は、免疫チェックポイントモジュレーターの投与を開始する前に、腫瘍溶解性ウイルスの少なくとも1回の投与を含んでなり、特に好ましくは少なくとも2回のウイルス投与に続く免疫チェックポイントモジュレーターの2~5回の投与(例えば、1回目の免疫チェックポイントモジュレーター投与から2回目のウイルス投与を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14日間離す)である。別の好ましい好適な治療計画は、およそ1~2週間の間隔を伴う、10または10pfuの腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの2~5回(例えば、3回)の静脈内または腫瘍内投与、その後のまたは分散した、2週間または3週間毎の、3~10mg/kgの抗免疫チェックポイント抗体の2~5回(例えば、3または4回)の静脈内投与を含む。
【0133】
本発明は、それを必要とする対象における腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの投与を含んでなる、癌等の増殖性疾患の治療方法にも関する。具体的には、本明細書に記載された、腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの組合せは、増殖性疾患を治療するために、かつ、特に癌を患っているかまたは患う危険性を有する対象において癌を治療するために用いられる。
【0134】
本発明は、それを必要とする対象における腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの投与を含んでなる、in vivoにおける腫瘍細胞増殖を阻害する方法にも関する。具体的には、本明細書で記載された、腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの組合せは、分裂細胞の溶解を増加させるために用いられる。
【0135】
本発明は、それを必要とする対象における腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの投与を含んでなる、腫瘍細胞への免疫反応を向上させる方法にも関する。具体的には、本明細書に記載された、腫瘍溶解性ウイルスおよび1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターの組合せは、CD8+Tリンパ球および特に腫瘍浸潤CD8+Tリンパ球の数および/または機能を増大させるために用いられる。
【0136】
本発明は、本明細書に記載された1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターと組み合わさった本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスに体外で感染した同種腫瘍細胞系、同様に、それを必要とする対象において当該腫瘍溶解性ウイルスに感染した当該同種腫瘍細胞系を投与し、続けて当該1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを投与することで、当該対象において当該感染した同種腫瘍細胞系によって誘発された免疫を活性化することを含んでなる、癌等の増殖性疾患の生体外治療方法に関する。
【0137】
本発明の組合せおよび方法を用いて治療され得る増殖性疾患の例として、骨肉腫、肝臓癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、食道癌、口腔咽頭癌、肺癌、頭頸部癌、皮膚癌、黒色腫、子宮癌、頸癌、卵巣癌、乳癌、直腸癌、肛門部の癌、前立腺癌、リンパ腫、内分泌系癌、甲状腺癌、軟部組織の肉腫、慢性白血病または急性白血病、膀胱癌、腎臓癌、中枢神経系の新生物(CNS)、神経膠腫等が挙げられる。本発明は、転移性癌、特にPD-L1を発現する転移性癌(Iwai et al., 2005, Int. Immunol. 17: 133-44)の治療にも有用である。本発明による併用療法を用いて治療され得る好ましい癌は、典型的に、免疫療法に反応の良い癌を含む。治療に好ましい癌の非制限的例として、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、耐ホルモン性前立腺腺癌)、乳癌、結腸直腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)および肝臓癌(例えば、肝細胞癌)が挙げられる。
【0138】
有利的態様によれば、特に腫瘍溶解性ウイルスが自殺遺伝子を持つと、本発明による併用療法または方法は、プロドラッグ、有利的にはシトシンの類似体、具体的には5-FCの薬学的に許容可能な量が対象に投与される、追加的ステップを含んでなってもよい。例証の目的で、1日あたり50~500mg/kgの用量を用いることが可能であり、1日あたり200mg/kgまたは1日あたり100mg/kgの用量が好ましい。本発明の文脈の範囲内において、プロドラッグは、標準的技法によって投与される(例えば、経口で、全身的に等)。好ましくは、投与は、腫瘍溶解性ウイルスの投与の後で、ウイルスの投与から好ましくは少なくとも3日後、より好ましくは少なくとも4日後、さらにより好ましくは7日後に行われる。経口投与が好ましい。プロドラッグを単回用量でまたは複数(つまり、有毒代謝物が宿主生物または細胞内で生産できるほど十分に長い期間繰り返される)用量で投与することが可能である。
【0139】
本発明による組合せまたは方法は、抗癌治療において効果的な1つ以上の物質と関連づけることができる。本発明による組成物と併せてか組み合わせて使用され得る抗癌治療に効果的な医薬物質の中でも、以下をより特定的に言及してもよい:
・例えば、マイトマイシンC、シクロホスファミド、ブスルファン、イホスファミド、イソファミド、メルファラン、ヘキサメチルメラミン、チオテパ、クロラムブシルまたはダカルバジン等のアルキル化剤;
・例えば、ゲムシタビン、カペシタビン、5-フルオロウラシル、シタラビン、2-フルオロデオキシシチジン、メトトレキサート、イダトレキサート、トムデックスまたはトリメトレキサート等の代謝拮抗物質;
・例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、テニポシドまたはミトキサントロン等のトポイソメラーゼII阻害剤;
・例えば、イリノテカン(CPT-11)、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトセシン(SN-38)またはトポテカン等のトポイソメラーゼI阻害剤;
・例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチンまたはビノレルビン等の細胞分裂抑制薬;
・例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、スピロプラチン(spiroplatinum)またはカルボプラチン(carboplatinum)等の白金誘導体;
・スニチニブ(Pfizer)およびソラフェニブ(Bayer)等のチロシンキナーゼ受容体の阻害剤;および
・抗新生物抗体。
【0140】
本発明による組合せまたは方法は、制限することなく、例えば、アルファインターフェロン、ベータインターフェロンまたはガンマインターフェロン、インターロイキン(具体的には、IL-2、IL-6、IL-10またはIL-12)または腫瘍壊死因子等の免疫調節薬;例えば、上皮増殖因子受容体の阻害剤(具体的には、セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、ゲフィチニブ、エリオチニブまたはラパチニブ)またはヒト上皮増殖因子受容体-2の阻害剤(具体的に、トラスツズマブ)等の細胞表面受容体の調節に影響を及ぼす薬剤;および例えば、血管内皮増殖因子の阻害剤(具体的に、ベバシズマブまたはラニビズマブ)等の血管形成に影響を及ぼす薬剤を含む1つ以上の他の薬剤と併せて用いてもよい。
【0141】
抗癌治療に効果的なそのような物質は、対象に、本発明による組合せまたは方法と連続的または同時に投与されてもよい。
【0142】
代替的にまたは組合せて、本発明による組合せまたは方法は、放射線治療と併せて用いることができる。
【0143】
本発明は、キット形態での、本発明の組合せの有効薬を含むキットも提供する。一態様において、1つのキットは、1つの容器内に入れた(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックの小瓶に入れた)本明細書に記載された少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルス、および別の容器に入れた(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックの小瓶に入れた)本明細書に記載された1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを含む。好ましいキットは、1つの腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(例えば、自殺遺伝子を持つ、TKおよびRR活性の両方を欠損するワクシニアウイルス)、およびCTLA-4に特異的に結合する1つの免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、イピリムマブ等のCTLA-4抗体)を含んでなる。別の好ましいキットは、1つの腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(例えば、自殺遺伝子を持つ、TKおよびRR活性の両方を欠損するワクシニアウイルス)、およびPD-1を特異的に結合する1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、ニボルマブまたはランブロリズマブ等の抗PD-1抗体)を含んでなる。別の好ましいキットは、1つの腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(例えば、自殺遺伝子を持つ、TKおよびRR活性の両方を欠損するワクシニアウイルス)、およびPD-L1を特異的に結合する1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、MPDL3280AまたはBMS936559等の抗PD-L1抗体)を含んでなる。場合により、キットには、有効薬の投与を実行する装置が含まれてもよい。キットには、キット内の組成物または個別成分および投与形態に関する情報を含む添付文書が含まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0144】
図1図1A、BおよびCは、異なる時点(それぞれ、D2、D13およびD20)での、0日目および3日目に10pfuのWRTG17137の2回の腫瘍内注射ならびに6日目、9日目および12日目に250μgの抗PD-1抗体の3回の腹腔内注射で治療した、マウスに移植したMCA205腫瘍の増殖を示している。
図2図2は、MCA205腫瘍細胞8x10を移植し、かつ0日目および3日目にWRTG17137の2回の腫瘍内注射ならびに6日目、9日目および12日目に抗PD-1抗体の3回の腹腔内注射で治療したマウスにおける生存率を示している。
図3図3A、BおよびCは、異なる時点(それぞれ、D3、D8およびD13)での、0日目および3日目に10pfuのWRTG17137の2回の腫瘍内注射ならびに6日目、9日目および12日目に100μgの抗CTLA-4抗体の3回の腹腔内注射で治療した、マウスに移植したMCA205腫瘍の増殖を示している。
図4図4は、8x10腫瘍細胞を移植し、かつ0日目および3日目にWRTG17137の2回の腫瘍内注射ならびに6日目、9日目および12日目に抗CTLA-4抗体の3回の腹腔内注射で治療したマウスにおける生存率を示している。
図5図5AおよびBは、0日目および3日目にWRTG17137(10、10または10pfu)の増加した用量の2回の腫瘍内注射ならびに6日目、9日目および12日目に250μgの抗PD-1抗体の3回の腹腔内注射で治療したマウスに移植したMCA205腫瘍の増殖を示している。腫瘍進行は、12日目および14日目に測定された。黒い丸の点が、ウイルスのみで治療したマウスにおける腫瘍進行を表し、灰色の四角い点がウイルスおよび抗PD1抗体で治療したマウスにおける腫瘍進行を表している。
図6図6は、0日目および3日目に10pfuのWRTG17137の2回の腫瘍内注射、ならびに1回目の抗体注射が、2回目のウイルス注射から1、3、5または7日後である、250μgの抗PD-1抗体または同型コントロールの3回の腹腔内注射で治療したマウスに移植したMCA205腫瘍の増殖を示している。時間とともに腫瘍進行を測定した。黒い丸の点が、ウイルスおよび同型コントロールで治療したマウスにおける腫瘍進行を表している一方で、灰色の四角、三角、菱形および六角形の形の点は、ウイルスおよび2回目のウイルス注射から1日、3日、5日および7日後に抗PD-1抗体で治療したマウスにおける腫瘍進行を表している。
図7図7は、0日目および3日目に10pfuのWRTG17137の2回の腫瘍内注射、ならびに1回目の抗体注射が、2回目のウイルス注射から1、3、5または7日後である、100μgの抗CTLA-4抗体または同型コントロールの3回の腹腔内注射で治療したマウスに移植したMCA205腫瘍の増殖を示している。時間とともに腫瘍進行を測定した。黒い丸の点が、ウイルスおよび同型コントロールで治療したマウスにおける腫瘍進行を表している一方で、灰色の四角、三角、菱形および六角形の形の点は、ウイルスおよび2回目のウイルス注射から1日、3日、5日および7日後に抗CTLA-4抗体で治療したマウスにおける腫瘍進行を表している。
【実施例
【0145】
免疫チェックポイント遮断アプローチを、腫瘍溶解性ワクシニアベクターと組合せることから始めた。腫瘍におけるウイルス複製は、細胞死、腫瘍の破壊、および腫瘍抗原の解放につながるだろう。腫瘍溶解性ウイルスの抗免疫チェックポイント阻害剤との組合せは、T細胞発生からのブレーキを解放し、腫瘍特異的T細胞をもたらすはずである。ウイルスベクターと組合さった免疫チェックポイント遮断剤(blocker)の相乗効果に対する前臨床証明は、マウス腫瘍モデルにおいて証明されることになっていた。これは、i)ネズミ科特異的抗免疫チェックポイント抗体およびii)より高い効果を持つ、ネズミ科細胞を感染させることができる腫瘍溶解性ポックスウイルスの使用を暗示している。
【0146】
これら研究(WRTG17137)に選択された腫瘍溶解性ウイルスは、チミジンキナーゼ(TK)(遺伝子座J2R)およびRR(遺伝子座I4L)を欠損し、正常(非分裂)細胞内でウイルスを非複製にする、ワクシニアウイルス(VV)ウエスタンリザーブ(WR)株である。対照的に、VV TK RRは、腫瘍細胞内で選択的かつ効果的に複製するはずである。それは、有毒同化生成物5-フルオロウラシル(5-FU)および5-フルオロウリジン-5’一リン酸塩中でプロドラッグ5-フルオロシトシン(5-FC)に変化する酵素、キメラ酵母由来遺伝子FCU-1を持つ(Erbs et al., 2000, Cancer Res., 60(14): 3813-22)。
【0147】
2種の免疫チェックポイントモジュレーター、即ち、抗PD-1および抗CTLA-4モノクローナル抗体を、WRTG17137と組み合わせて別々に試験した。
【0148】
腫瘍溶解性VVの抗PD-1 MAbとの組合せ
適切な抗体を有する免疫チェックポイント遮断剤ネズミ科PD-1(mPD-1)を標的にすることが第一に選択された。ラット抗mPD-1抗体RMP1-14(BioXcell)を、抗mPD-1として選択した。この抗体は、mPD-1とそのリガンドの相互作用を遮断することが示されていた(Yamazaki et al., 2005, J. Immunol. 175(3): 1586-92)。
【0149】
mPD-1阻害剤(市販のクローンRMP1-14)の腫瘍溶解性ウイルスWRTG17137との組合せを、MCA025(Shu and Rosenberg, 1985, Cancer Res. 45(4): 1657-62)マウスモデルで、in vivoで試験した。多様なスケジュールでの投与を実験した。
【0150】
第一の設定において、C57BL/6マウスにMCA205腫瘍細胞8x10を皮下注射した。腫瘍細胞注射から7日後、0日、3日および6日目に、250μgの抗mPD1抗体RMP1-14またはその同型コントロール2A3を、腹腔内(ip)注射した。
次いで、7日目および10日目に、ウイルスWRTG17137(1x10pfu)を2回腫瘍細胞内(it)注射した。13匹のマウスを4グループ試験し、コントロールグループは、同型コントロール(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)を受けさせ、1つのマウスのグループは、抗PD-1 mAb(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)で治療し、1つのマウスのグループは、腫瘍溶解性ウイルス(7日目および10日目に2回のit注射)で治療し、4つ目のグループは、抗PD-1 mAb(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)、続けて最後の抗体注射から1日後にWRTG17137の、2回の注射両方を受けさせた(7日目および10日目の2回のit注射)。腫瘍進行およびマウスの生存率を40日間観察した。
【0151】
予想通り、腫瘍は、コントロールグループにおいてサイズの面で非常に早く増大した一方で、腫瘍増殖は、全ての3つの他のグループにおいて同じ広がりの範囲で遅延したが、mPD-1抗体および腫瘍溶解性ウイルスの両方を受けたグループに若干の改善が見られた。生存率の結果は同じように、それぞれコントロールグループ、抗体グループ、WRTG17137治療グループ、および抗体+WRTG17137治療グループについて、16日目、23日目、24日目および26日目に50%の生存率を得た。
【0152】
第二の設定において、前回のようにC57BL/6マウスにMCA205腫瘍細胞8x10を皮下注射し、動物を4つの13匹のマウスからなるグループに分け、それぞれ、コントロールグループは同型コントロール(6日目、9日目および12日目に3回のip注射)を受けさせ、1つのグループは、腫瘍溶解性ウイルス(0日目および3日目にWRTG17137 1x10pfuの2回のit注射)で治療し、1つのグループは、抗PD-1 mAb(6日、9日および12日目に250μgの抗mPD1抗体RMP1-14の3回のip注射)で治療し、4つ目のグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)、続けて3日後に抗体(3日毎の3回のip注射、即ち、6日目、9日目および12日目にて)両方を受けさせた。腫瘍進行および生存率を40日間観察した。
【0153】
予想通り、腫瘍は、コントロールグループにおいてサイズの面で非常に早く増大した一方で、腫瘍増殖は、全ての3つの他のグループにおいて遅延した。しかし、図1において示されているように、腫瘍増殖は、たった1つの成分(mPD-1抗体または腫瘍溶解性ウイルス)で治療したグループと同じ広がりの範囲で遅延し、遅延は、特にD13およびD20時点で、mPD-1抗体および腫瘍溶解性ウイルスの両方を受けたグループにおいてより顕著となった。
【0154】
図2において示されているように、50%の生存率は、コントロールグループにおいて16日目に得られた。生存率の増加は、WRTG17137注射(22日目で50%の生存率)によってかまたはmPD-1注射(20日目で50%の生存率)によって観察された。生存は、WRTG17137続けて抗体の投与後にさらに増加した(28日目で50%の生存率)。
【0155】
抗CTLA4阻害剤の組合せ
抗CTLA-4抗体(市販のクローン9D9)の腫瘍溶解性ウイルスWRTG17137との組合せを、MCA205マウスモデルにおいてin vivo試験した。多様なスケジュールでの投与を実験した。
【0156】
第一の設定において、C57BL/6マウスに腫瘍細胞8x10を注射した(MCA205)。腫瘍細胞注射から7日後、0日目、3日目、5日目に、100μgの抗CTLA-4抗体9D9(BioXcell)をip注射した。7日目および10日目に、ウイルスWRTG17137(1x10pfu)を、2回腫瘍内注射した。6匹のマウスのグループを4つ試験し、それぞれ、コントロールグループは、同型コントロールMCP-11(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)を受けさせ、1つのグループは、抗CTLA-4 mAb(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)で治療し、1つのグループは、腫瘍溶解性ウイルス(7日目、10日目に2回のit注射)で治療し、4つ目のグループは、抗CTLA-4抗体(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)、最後の抗体注射から1日後にWTG17137の2回の注射(7日目および10日目に2回のit注射)両方を受けさせた。腫瘍進行およびマウス生存率を35日間観察した。
【0157】
予想通り、腫瘍は、コントロールグループにおいてサイズの面で非常に早く増大した一方で、腫瘍増殖は、全ての3つの他のグループにおいて、およそ同じ広がりの範囲内で遅延した。
【0158】
第二の設定において、前回のようにマウスにMCA腫瘍細胞8x10を皮下注射した。6匹のマウスのグループを4つ試験し、コントロールグループは、同型コントロールMCP-11(0日目、3日目および6日目に3回のip注射)を受けさせ、1つのグループは、腫瘍溶解性ウイルス(0日目、3日目に、WRTG17137 1x10pfuの2回のit注射)で治療し、1つのグループは、100μgの抗CTLA-4 mAb
9D9(6日目、9日目および12日目に3回のip注射)で治療し、4つめのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)、3日後に抗CTLA-4抗体(3日毎の3回のip注射、即ち6日目、9日目および12日目にて)両方を受けさせた。腫瘍進行およびマウス生存率を35日間観察した。
【0159】
予想通り、腫瘍は、コントロールグループにおいてサイズの面で非常に早く増大した。
腫瘍増殖は、全ての3つの他のグループにおいて遅延した。しかし、図3において示されたように、腫瘍体積は、たった1つの成分(抗CTLA-4抗体または腫瘍溶解性ウイルス)で治療したグループにおいて減少し、遅延は、抗CTLA-4抗体および腫瘍溶解性ウイルスの両方を受けたグループの方がはるかに顕著であった。
【0160】
図4において示されているように、50%の生存率は、コントロールグループにおいて18日目に得られた。生存率の増加は、WRTG17137注射によるか(21日目で50%生存率)、または抗CTLA-4抗体注射によって観察された(20日目で50%生存率)。WRTG17137に続く抗体の投与後に、生存率はさらに増加した(32日目で50%生存率が測定された)。
【0161】
投与量効果
ウイルスの用量を変化させて前回と同じ実験を実施した。腫瘍移植(MCA腫瘍細胞8X10)後、6匹のマウスのグループを4つ治療した。コントロールグループは、ウイルスの代わりに製剤緩衝液、および抗体の代わりに同型コントロールを受けた。2つ目のグループは、10、10または10pfuのWRTG17137(0日目および3日目に2回のit注射)、3つ目は、抗PD-1mAb(6日目、9日目および12日目に、250μgの抗mPD1抗体RMP1-14の3回のip注射)で治療した。4つ目は、ウイルス(0日目および3日目に、10、10または10pfu)、3日後に抗体(3日毎に3回のip注射、即ち、6日目、9日目および12日目にて)両方を受けさせた。腫瘍進行を15日間観察した。
【0162】
図5は、同じ用量のウイルス単独で(黒で丸い点)、または初回のウイルス注射後12日目および14日目に抗PD-1と組合せて(灰色で四角い点)治療したマウスにおいて観察された腫瘍進行を示している。腫瘍内に注射したウイルス用量が何であれ、腫瘍増殖は、腫瘍溶解性ウイルスのみで治療したマウスにおいて測定された腫瘍増殖と比べて、ウイルス+抗PD-1の組合せで治療したマウスにおいて遅延した。
【0163】
これら結果は、特に、免疫チェックポイントモジュレーター前にウイルスが第一に投与された際の、本発明の組合せの治療的および相乗的抗腫瘍活性を示している。
【0164】
ウイルスおよび抗体投与の間の時間間隔の変化
抗PD1抗体組合せ
6週令雌C57BL/6マウスに、MCA205腫瘍細胞8x10を右横腹内へ皮下(sc)注射した。0日目(D0)に、腫瘍体積が40~60mmへ到達すると、動物をランダム化し、11個の1グループあたりマウス6匹のグループに分けた。コントロールグループは、緩衝液(0日目および3日目に2回のit注射)を受けさせ、1つのマウスのグループは、腫瘍溶解性ウイルス(0日目および3日目にWRTG17137 1x10pfuの2回のit注射)で治療し、1つのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および同型コントロール(6日目、9日目および12日目に3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1mAb抗体(4日目、7日目および10日目に、250μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目)および抗PD-1 mAb抗体(6日目、9日目および12日目に、250μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1mAb抗体(8日目、11日目および14日目に、250μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1 mAb抗体(10日目、13日目および16日目に、250μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1 mAb抗体(4日目、7日目および10日目に、100μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1mAb抗体(6日目、9日目および12日目に、100μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)の両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1mAb抗体(8日目、11日目および14日目に、100μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗PD-1 mAb抗体(10日目、13日目および16日目に、100μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)両方を受けさせた。腫瘍進行および生存率を時間とともに観察した。
【0165】
図6において示されているように、腫瘍増殖は、腫瘍溶解性ウイルスおよび同型抗体で治療したマウスで測定した腫瘍増殖と比べて、ウイルスとPD-1(マウス1匹あたり250μg)の組合せで治療したマウスにおいて遅延した。ウイルスの投与と抗体の投与の間の時間が長ければ長いほど、腫瘍増殖は抑制された。コントロールグループとウイルス+抗PD-1グループとの間の統計的差異(D+7、即ち、10日目、13日目および16日目に250μgの抗mPD1抗体クローンRMP1-14の3回のip注射)は、治療から9日および13日後に見られた。WRTG17137 (マウス1匹あたり1x10pfu)と抗PD-1(1匹あたり100μg)の組合せで治療した動物のグループにおいて同一の傾向が観察されたが、コントロールグループ(マウス1匹あたり1x10pfu+マウス1匹あたり同型100μg)に対する一切の統計的差異はなかった。
【0166】
抗CTLA-4抗体組合せ
6週令雌C57BL/6マウスに、MCA205腫瘍細胞8x10を右横腹内へ皮下注射(sc)した。0日目(D0)に、腫瘍体積が40~60mmへ到達すると、動物をランダム化し、11個の1グループあたりマウス6匹のグループに分けた。コントロールグループは、緩衝液(0日目および3日目に2回のit注射)を受けさせ、1つのマウスのグループは、腫瘍溶解性ウイルス(0日目および3日目にWRTG17137 1x10pfuの2回のit注射)で治療し、1つのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および同型コントロール(6日目、9日目および12日目に3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗CTLA4mAb抗体(4日目、7日目および10日目に、100μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗CTLA4mAb抗体(6日目、9日目および12日目に、100μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗CTLA4mAb抗体(8日目、11日目および14日目に、100μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目)および抗CTLA4mAb抗体(10日目、13日目および16日目に、100μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方で治療し、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗CTLA4mAb抗体(4日目、7日目および10日目に、50μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目にて)および抗CTLA4 mAb抗体(6日目、9日目および12日目に、50μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目)および抗CTLA4mAb抗体(8日目、11日目および14日目に、50μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方を受けさせ、1つのマウスのグループは、ウイルス(0日目および3日目)および抗CTLA4 mAb抗体(10日目、13日目および16日目に、50μgの抗mCTLA4抗体クローン9D9の3回のip注射)両方を受けさせた。腫瘍進行および生存率を時間とともに観察した。
【0167】
図7において示されているように、腫瘍増殖は、腫瘍溶解性ウイルスおよび同型抗体で治療したマウスにおいて測定した腫瘍増殖と比べて、ウイルスと抗CTLA-4(マウス1匹あたり100μg)の組合せで治療したマウスにおいて遅延した。腫瘍増殖は、ウイルス投与と抗体投与の間が短期間(1日、3日または5日間)である方がより一層遅延し、治療から6日、9日および13日後に、これら3つのグループについて、コントロールグループに対する統計的差異が観察された。WRTG17137(マウス1匹あたり1x10pfu)と抗CTLA-4(マウス1匹あたり50μg)の組合せで治療したD+1、D+3およびD+5動物グループにおいて同一の傾向が観察されたが、コントロールグループ(マウス1匹あたり1x10pfu+マウス1匹あたり同型100μg)に対して一切の統計的差異はなかった。
【0168】
当業者は、代替、変化、追加、欠失、修飾および置換を含む、本明細書に記載された特定の方法および薬剤の多数の同等物を認識するかまたはルーチン程度の実験を用いて確認できるだろう。そのような同等物は、本発明の範囲内であると見なされ、以下の請求項に包含される。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6
図7