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特許7146891二酸化炭素の吸収剤および二酸化炭素の分離回収方法
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  • 特許-二酸化炭素の吸収剤および二酸化炭素の分離回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素の吸収剤および二酸化炭素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20220927BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20220927BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20220927BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20220927BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
C01B32/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020501020
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006457
(87)【国際公開番号】W WO2019163867
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018030938
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2)化学吸収技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 信
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリ フィロツ アラム
(72)【発明者】
【氏名】松崎 洋市
(72)【発明者】
【氏名】小野田 正巳
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-6275(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118819(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/071150(WO,A1)
【文献】特開2014-36933(JP,A)
【文献】特開2017-189726(JP,A)
【文献】DU Yang,et al., Thermal degradation of novel piperazine-based amine blends for CO2 capture, International Journal of Greenhouse Gas Control(2016),Vol.49,p.239-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14
B01D 53/62
B01D 53/78
C01B 32/50
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収剤であって、
少なくとも1種の一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物、
少なくとも1種の一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物、及び

を含み、該吸収剤に含まれるアミン化合物の質量濃度の総和が61~84%である、吸収剤。
一般式[1]:
【化1】
(式中、R1は炭素数1~5のアルキル基又は水素基を表し、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1若しくは2のアルキル基又は水素基を表し、nは2又は3を表す。)
一般式[2]:
【化2】
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、炭素数2~4の三級アルキルアミノ基を表し、mは1、2又は3を表す。)
【請求項2】
前記アルカノールアミン化合物の質量濃度が37~83%であり、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の質量濃度が1~24%であり、水の質量濃度が16~39%であることを特徴とする、請求項1に記載の吸収剤。
【請求項3】
前記吸収剤に含まれるアミン化合物の質量濃度の総和が65~80%であり、前記アルカノールアミン化合物の質量濃度が45~75%であり、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の質量濃度が5~20%であり、水の質量濃度が20~35%であることを特徴とする、請求項1に記載の吸収剤。
【請求項4】
前記アルカノールアミン化合物が、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール及び3-(イソプロピルアミノ)プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項5】
前記アルカノールアミン化合物が、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール及び3-(イソプロピルアミノ)プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項6】
前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物が、エーテル基を有し分子対称性を有しヒドロキシ基を有さない三級脂肪族アミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項7】
前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物が、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル及びビス(2-モルホリノエチル)エーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項8】
以下の工程A及びBを含む、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法:
請求項1から7のいずれか一項に記載の吸収剤を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収剤を得る工程A、及び、
工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収剤を加熱して、吸収剤から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程B。
【請求項9】
前記工程Aが、25~60℃の温度で行われ、且つ、前記工程Bが、70~150℃の温度で行われる請求項8に記載の二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法。
【請求項10】
前記工程Aが、1.0bar以上の圧力下で行われ、且つ、前記工程Bが、3.5bar以下の圧力下で行われる請求項8又は9に記載の二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を高効率に分離回収するための吸収剤、及び該吸収剤を用いた二酸化炭素を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類の社会活動に付随する二酸化炭素やメタンといった温室効果ガス排出量の急激な増加が地球温暖化の原因の一つに挙げられている。特に、二酸化炭素は温室効果ガスの中でも最も主要なものであり、2016年に発効されたパリ協定に従い、二酸化炭素排出量削減へ向けての対策が急務となっている。
【0003】
今日、二酸化炭素の発生源である石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製鉄所の高炉、セメント工場のキルン、製造所のボイラー等から排出される混合ガスを対象に、混合ガスに含まれる二酸化炭素を分離回収し、圧縮して、輸送の後、圧入するという一連の二酸化炭素分離回収貯留(Carbon dioxide Capture and Storage、CCS)技術が、化石燃料に代わる代替エネルギー開発までの繋ぎ(ブリッジング)技術として注目されている。
【0004】
この貯留技術の実用化のためには、可能な限りの低コスト化が要求される。二酸化炭素の分離回収、圧縮、輸送、圧入の一連の工程の中では、二酸化炭素の分離回収に要するコストが二酸化炭素分離回収貯留に係わる総コストの60%以上を占めていることから、この二酸化炭素分離回収コストを低減するための技術開発が重要となる。
【0005】
そのため近年では、発電所や製鉄所から排出される二酸化炭素含有ガスを対象として、アミン化合物の水溶液を主成分とする化学吸収法による二酸化炭素分離回収の技術開発が精力的に推進されている。
【0006】
上記アミン化合物としては、一級アルカノールアミンであるモノエタノールアミン(MEA)、ジグリコールアミン(DGA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、二級アルカノールアミンである2-(メチルアミノ)エタノール(MAE)、2-(エチルアミノ)エタノール(EAE)、2-(イソプロピルアミノ)エタノール(IPAE)、3-(イソプロピルアミノ)プロパノール(IPAP)、ジエタノールアミン(DEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、三級アルカノールアミンであるN-メチルジエタノールアミン(MDEA)、2-(ジメチルアミノ)エタノール(DMAE)、トリエタノールアミン(TEA)、三級アルキルアミンであるN,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(TMDAH)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン(TMDAB)、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル(BDER)等が知られており、特にMEAが広く用いられている。
【0007】
上記アミン化合物の水溶液を二酸化炭素の液状吸収剤として用いる場合、MEAなどの一級アルカノールアミンは二酸化炭素分離回収のための装置材質に対する腐食性が高いため、装置材質として高価な耐食鋼を用いるか、或いは液状吸収剤中のアミン濃度を下げるなどの対策が必要となる。
【0008】
また、一般に液状吸収剤を再生させる際には、液状吸収剤の温度を120℃程度に加熱することで、吸収した二酸化炭素を放散させるが、上記の一級アルカノールアミンの水溶液を液状吸収剤とした場合では、液状吸収剤再生時の二酸化炭素放散量が十分でないため、また、一級アルカノールアミンの二酸化炭素との吸収反応熱が比較的高いため、結果的に回収される二酸化炭素単位質量当たりに大きなエネルギーを必要とする。
【0009】
より少ないエネルギーでの二酸化炭素の分離回収のための従来技術として、例えば、特許文献1には、アミノ基周辺にアルキル基等の立体障害を有する二級アルカノールアミンの水溶液と大気圧下の燃焼排ガスとを接触させ二酸化炭素を吸収させる方法による燃焼排ガス中の二酸化炭素の除去方法が記載されている。
【0010】
上記特許文献1においては、二級アルカノールアミンとしてMAE及びEAEの実施例が記され、MAE及びEAEの30質量%の水溶液が、二酸化炭素の吸収に好ましいと記載されている。その他の二級アルカノールアミンとしては、実施例の記載はないが、2-イソプロピルアミノエタノール(IPAE)等4種類のアミンが記されている。
【0011】
特許文献2には、同じく二級アルカノールアミンであるIPAEのみを含む液状吸収剤が記載されており、高い吸収性と放散性が特徴として挙げられているが、比較例2に示されているように二酸化炭素の回収をより効率的にするために濃度を60質量%以上に上げると吸収速度の低下、及び放散量の低下が大きく立体障害性アミンの特性が生かされず液状吸収剤の性能が低下する結果が記載されている。
【0012】
特許文献3には、三級アルカノールアミンの水溶液を液状吸収剤とし、3.5bar絶対圧(約0.35MPa)を超え、且つ20bar絶対圧(約2MPa)を超えない圧力下で行われる酸性ガス再生方法が記載されている。該特許文献においては、三級アルカノールアミンとしてMDEAの43質量%水溶液についての実施例が記されている。その他の三級アルカノールアミンとしては、実施例の記載はないが、TEA等が挙げられている。これら三級アルカノールアミンは、一般に、一級又は二級のアルカノールアミンに比べ、二酸化炭素との比較的低い吸収反応熱を持つことが知られ、二酸化炭素の分離回収に要するエネルギーの大幅な低減が期待される。
【0013】
上記特許文献3は、石炭ガス化生成ガスや採掘天然ガス等で想定される二酸化炭素分圧が高い領域において、MDEA又はTEAの水溶液を二酸化炭素の液状吸収剤として使用することを目的とした発明である。これらの三級アルカノールアミンは、火力発電所や製鉄所高炉から発生する比較的低い分圧の二酸化炭素(一般に0.02MPa程度)に対しては、二酸化炭素の回収及び液状吸収剤の再生の効率が低く、従って回収される二酸化炭素単位質量当たりのエネルギーが高くなる。
【0014】
特許文献4には、2bar(約0.2MPa)以上の高い二酸化炭素分圧を有するガス流から二酸化炭素を除去するため、殊に石炭ガス化プロセスからの排ガスから二酸化炭素を除去するための吸収剤並びに吸収及び回収方法が記載されている。該吸収剤は水素結合基を有さず、且つ、エーテル基を有する三級脂肪族ジアミン水溶液である。
【0015】
上記特許文献4の実施例では、該三級脂肪族ジアミンとしてBDERの水溶液について記載しており、該BDER水溶液を高濃度(60~90質量%)で用いることにより、二酸化炭素分圧が10bar(約1MPa)以上の高い領域において、高い二酸化炭素回収量と同時に、高い二酸化炭素吸収速度と高い二酸化炭素放散速度が得られることが記載されている。該特許文献において使用されるBDERも、MDEA又はTEAと同様に、二酸化炭素との比較的低い吸収反応熱を持つことが知られるが、低い分圧の二酸化炭素に対しては、二酸化炭素の回収及び液状吸収剤の再生の効率が低い。
【0016】
特許文献5には、立体障害を有する二級アルカノールアミンと飽和炭化水素鎖のみからなる三級アルキルアミンとを含む水溶液、及びそれを用いた二酸化炭素の回収方法が記載されている。該特許文献においては、水溶液に含まれる三級アルキルアミンとしてTMDAH及びTMDABについての実施例が示されており、二級アルカノールアミンとしてIPAEを用いた場合に比較的高い二酸化炭素の吸収量と脱離量が示されている。二級アルカノールアミンとしては、IPAEの他にIPAP及びEAEの実施例が示されている。
【0017】
上記特許文献5は、水溶液に含まれる総アミン濃度が50~60質量%の範囲で比較的高い性能が示されている。しかし、飽和炭化水素のみからなる三級アルキルアミンは一般に比較的粘性が高く、本明細書の比較例6においても、総アミン濃度を60質量%以上に上げることで性能の顕著な低下が示されている。
【0018】
特許文献6には、立体障害性を有する二級アルカノールアミンとアミノ基を2つ以上含むポリアミンと水のみからなる液体、及びそれを用いた二酸化炭素の回収方法が記載されている。該特許文献においては、該液体に含まれるポリアミンとして、飽和炭化水素鎖のみからなる一級、二級及び/又は三級のアルキルポリアミン、並びにエーテル基を含む一級アルキルポリアミンについての実施例が示されており、二級アルカノールアミンとしては、IPAE及びEAEについての実施例が示されている。
【0019】
上記特許文献6は、該液体に上記ポリアミンを0.2~1%程度の低い質量濃度で含むことで高い性能が得られることが示されている。しかし、一級のアルキルポリアミンは一般に二酸化炭素の吸収反応熱が高く二酸化炭素の脱離性に乏しい。また、飽和炭化水素鎖のみからなるアルキルポリアミンは一般に粘性が高い。従って、本明細書の比較例7~10にも示されるとおり、上記ポリアミンをより高い質量濃度で含む場合、高い性能は得られない。
【0020】
尚、上記特許文献6には、本発明が提供するところのエーテル基を有することで粘性の低い三級脂肪族アミン化合物をもって吸収剤の総アミン濃度を高濃度化することによる効果については、一切言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】特開平5-301023号公報
【文献】特開2009-6275号公報
【文献】国際公開第2005/009592号
【文献】国際公開第2011/071150号
【文献】国際公開第2013/118819号
【文献】国際公開第2014/129400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
二酸化炭素の発生量削減、省エネルギー及び省資源が求められる現代において、二酸化炭素分離回収における大量のエネルギー消費は、該技術の実用化を阻む大きな要因となっており、より少ないエネルギーでの二酸化炭素の分離回収技術が求められている。
【0023】
本発明は、二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素をより少ないエネルギーで効率的に分離回収するための吸収剤及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、効率的に二酸化炭素を吸収し、且つ放散して、高純度の二酸化炭素を高効率に回収できる吸収剤について鋭意検討した結果、一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物と一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含む水溶液が、高い二酸化炭素回収量、低い比熱及び低い二酸化炭素吸収熱を有すること、これにより二酸化炭素回収量に対して必要な消費エネルギーを低く抑えられることを見出した。
【0025】
本発明は、上記の知見に基づき、更に十分な検討を重ねて完成されたものであり、以下の二酸化炭素を分離回収するための吸収剤及びそれを用いた二酸化炭素を分離回収する方法を提供するものである。
項1.二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収剤であって、少なくとも1種の一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物、少なくとも1種の一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物、及び水を含み、該吸収剤に含まれるアミン化合物の質量濃度の総和が61~84%である、吸収剤。
一般式[1]:
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、R1は炭素数1~5のアルキル基又は水素基を表し、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1若しくは2のアルキル基又は水素基を表し、nは2又は3を表す。)
一般式[2]:
【0028】
【化2】
【0029】
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、炭素数2~4の三級アルキルアミノ基を表し、mは1、2又は3を表す。)
項2.前記アルカノールアミン化合物の質量濃度が37~83%であり、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の質量濃度が1~24%であり、水の質量濃度が16~39%であることを特徴とする、項1に記載の吸収剤。
項3.前記吸収剤に含まれるアミン化合物の質量濃度の総和が65~80%であり、前記アルカノールアミン化合物の質量濃度が45~75%であり、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の質量濃度が5~20%であり、水の質量濃度が20~35%であることを特徴とする、項1に記載の吸収剤。
項4.前記アルカノールアミン化合物が、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール及び3-(イソプロピルアミノ)プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、項1から3のいずれか一項に記載の吸収剤。
項5.前記アルカノールアミン化合物が、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール及び3-(イソプロピルアミノ)プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、項1から3のいずれか一項に記載の吸収剤。
項6.前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物が、エーテル基を有し分子対称性を有しヒドロキシ基を有さない三級脂肪族アミンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1から5のいずれか一項に記載の吸収剤。
項7.前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物が、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル及びビス(2-モルホリノエチル)エーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、項1から5のいずれか一項に記載の吸収剤。
項8.以下の工程A及びBを含む、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法:
項1から7のいずれか一項に記載の吸収剤を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収剤を得る工程A、及び、
工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収剤を加熱して、吸収剤から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程B。
項9.前記工程Aが、25~60℃の温度で行われ、且つ、前記工程Bが、70~150℃の温度で行われる項8に記載の二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法。
項10.前記工程Aが、1.0bar以上の圧力下で行われ、且つ、前記工程Bが、3.5bar以下の圧力下で行われる項8又は9に記載の二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、該吸収剤が高い二酸化炭素回収量、低い比熱及び低い二酸化炭素吸収熱を有することで、二酸化炭素回収量に対して必要な消費エネルギーを低く抑えることができ、低いエネルギーでの二酸化炭素分離回収が可能となる。さらに、よりコンパクトな二酸化炭素分離回収設備の設計が可能となり、初期コストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1~11と比較例1~12との吸収剤性能を比較したグラフである。(●:実施例1~11、△:比較例1~12)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0033】
二酸化炭素を分離回収するための吸収剤
本発明の二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を低エネルギーで分離回収するための吸収剤は、少なくとも1種の一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物と少なくとも1種の一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物と水を含むことを特徴とする。
【0034】
一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物
【0035】
【化3】
【0036】
(式中、R1は炭素数1~5のアルキル基又は水素基を表し、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1若しくは2のアルキル基又は水素基を表し、nは2又は3を表す。)
一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物
【0037】
【化4】
【0038】
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、炭素数2~4の三級アルキルアミノ基を表し、mは1、2又は3を表す。)
【0039】
一般式[1]において、R1は、炭素数1~5のアルキル基又は水素基を表す。
【0040】
炭素数1~5のアルキル基としては、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、3-ペンチルなどが挙げられる。
【0041】
好ましいR1は、水素原子、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、tert-ペンチル又は3-ペンチルであり、より好ましくは水素原子、メチル、エチル又はイソプロピルである。
【0042】
一般式[1]において、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1若しくは2のアルキル基又は水素基を表す。
【0043】
炭素数1若しくは2のアルキル基としては、例えば、メチル及びエチルが挙げられる。
【0044】
好ましいR2は、水素原子又はメチルである。R3も同様である。
【0045】
一般式[1]において、nは2又は3を表し、好ましくは2である。
【0046】
一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物の具体例としては、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、3-(イソプロピルアミノ)プロパノールなどが挙げられる。
【0047】
本発明の吸収剤は、一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物を、1種単独で含んでもよいし、2種以上同時に含んでもよい。
【0048】
一般式[2]において、R4及びR5はそれぞれ独立して、炭素数2~4の三級アルキルアミノ基を表す。
【0049】
炭素数2~4の三級アルキルアミノ基は、置換基を有してもよい二つの同一の又は異なったアルキル基が、アミノ基を構成する窒素原子に結合し、該アルキル基の炭素数の総和が2~4となるアミノ基である。
【0050】
このアルキル基は、置換基を有してもよく、また、アルキル鎖の間又は窒素原子とアルキル基との間にヘテロ原子が介在してもよい。
【0051】
また、このアルキル基はそれぞれ独立して、直鎖状、分枝鎖状又は環状のいずれでもよく、また、窒素原子に結合する二つのアルキル基が相互に結合し該窒素原子とともに環状構造を形成してもよい。
【0052】
直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルが挙げられる。環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピルが挙げられる。また、窒素原子に結合する二つのアルキル基が相互に結合し該窒素原子とともに環状構造を形成したアルキル基としては、例えば、エチレンイミノ、ピロリジノなどが挙げられる。
【0053】
前記の直鎖状、分枝鎖状、環状又は窒素原子に結合する二つのアルキル基が相互に結合し該窒素原子とともに環状構造を形成したアルキル基は、多くとも3個の置換基を有してもよく、また、アルキル鎖の間又は窒素原子とアルキル基との間の各間に多くとも各1個ずつのヘテロ原子が介在してもよい。該置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、チオール基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられる。該ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、リン原子などが挙げられ、好ましくは酸素原子である。
【0054】
炭素数2~4の三級アルキルアミノ基としては、例えば、置換基を有してもよい、ジメチルアミノ、エチル(メチル)アミノ、ジエチルアミノ、イソプロピル(メチル)アミノ、メトキシ(メチル)アミノ、メトキシ(エチル)アミノ、ジメトキシアミノ、エトキシ(メチル)アミノ、エトキシ(エチル)アミノ、ジエトキシアミノ、メトキシメチル(メチル)アミノ、メトキシメチル(エチル)アミノ、ジメトキシメチルアミノ、メトキシエチル(メチル)アミノ、エトキシメチル(メチル)アミノ、モルホリノなどが挙げられる。
【0055】
好ましいR4は、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジメトキシメチルアミノ又はモルホリノである。R5も同様である。
【0056】
一般式[2]において、mは1、2又は3を表し、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0057】
また、本発明では、一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物として、一般式[3]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物も好ましい。
【0058】
一般式[3]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物
【0059】
【化5】
【0060】
(式中、R6及びR7は、両基の炭素原子の総和は2~4であって、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基若しくは炭素数2~3のアルコキシアルキル基を、又は両基が同一に炭素数2のアルキル基であって1個の酸素原子を介して相互に結合してアミノ基を構成する窒素原子とともに6員環の環状構造を表し、R8及びR9は、両基の炭素原子の総和は2~4であって、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基若しくは炭素数2~3のアルコキシアルキル基を、又は両基が同一に炭素数2のアルキル基であって1個の酸素原子を介して相互に結合してアミノ基を構成する窒素原子とともに6員環の環状構造を表し、Lは1、2又は3を表す。)
【0061】
一般式[3]において、炭素数1~3のアルキル基としては、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどが挙げられる。
【0062】
炭素数1~3のアルコキシ基としては、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシなどが挙げられる。
【0063】
炭素数2~3のアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチルなどが挙げられる。
【0064】
両基が同一に炭素数2のアルキル基であって1個の酸素原子を介して相互に結合してアミノ基を構成する窒素原子とともに表される6員環の環状構造はモルホリノである。
【0065】
一般式[3]において、Lは1、2又は3を表し、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0066】
好ましいR6及びR7は、いずれもメチル、いずれもエチル、いずれもメトキシメチル、又はモルホリノである。R8及びR9も同様である。
【0067】
好ましい-NR6R7は、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジメトキシメチルアミノ又はモルホリノである。-NR8R9も同様である。
【0068】
一般式[2]及び[3]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の具体例としては、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ビス(2-ジエチルアミノエチル)エーテル、1,8-ビス(ジメチルアミノ)-3,6-ジオキサオクタン、1,11-ビス(ジメチルアミノ)-3,6,9-トリオキサウンデカン、ビス(2-モルホリノエチル)エーテルなどが挙げられる。
【0069】
本発明の吸収剤は、一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を、1種単独で含んでもよいし、2種以上同時に含んでもよい。
【0070】
一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物及び一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物は、市販品を入手できるか又は公知の方法により製造できる。
【0071】
本発明の吸収剤に含まれるアミン化合物の総質量濃度は、60%より高く85%より低いことが好ましく、また、本発明の吸収剤に含まれる水の質量濃度は、40%より低く15%より高いことが好ましい。
【0072】
本発明の吸収剤に含まれるアミン化合物の総質量濃度を60%より高くし、水の質量濃度を40%より低くすることにより、吸収剤の誘電率を有意に低減することができ、二酸化炭素との反応における溶媒和エネルギーが低下する。その結果、二酸化炭素吸収熱を有意に低減できる。更に、吸収剤の比熱を低下させる効果も得られる。
【0073】
アミン化合物の水溶液からなる従来の二酸化炭素吸収剤は、アミン化合物の高濃度化により、粘度の増大が著しく物質の拡散が抑制され、また、二酸化炭素との反応に寄与する水の質量濃度が低下するため、アミン化合物の質量濃度を60%より高めると、すなわち、水の質量濃度を40%より低くすると、性能の低下が著しい。
【0074】
エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物は一般に低い粘性を持っており、そのため、本発明の吸収剤は、一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物をもって吸収剤を高濃度化することで、水の質量濃度を40%より低くしても、物質の拡散が抑制されることなく、二酸化炭素及び水との良好な反応性を維持できる。
【0075】
本発明の吸収剤に含まれるアミン化合物の総質量濃度が60%より高く85%より低い範囲、及び水の質量濃度が40%より低く15%より高い範囲であれば、上記のとおり、二酸化炭素及び水との良好な反応性を維持しつつ、二酸化炭素吸収熱の低減及び比熱低下の効果が得られる。
【0076】
本発明の吸収剤に含まれるアミン化合物の総質量濃度は、より好ましくは61~84%であり、より一層好ましくは65~80%である。また、本発明の吸収剤に含まれる水の質量濃度は、より好ましくは16~39%であり、より一層好ましくは20~35%である。
【0077】
本発明の吸収剤に含まれる水は、特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、水道水、地下水等を適宜用いることができる。
【0078】
本発明の吸収剤に含まれるアルカノールアミン化合物の質量濃度は37~83%であることが好ましい。この範囲であれば、アルカノールアミン化合物の高い二酸化炭素の吸収性により、吸収剤が高い二酸化炭素回収量を持つとともに、吸収剤に含まれるアミン化合物の高濃度化が可能である。より好ましくは、45~75%である。
【0079】
本発明の吸収剤に含まれるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の質量濃度は1~24%であることが好ましい。この範囲であれば、吸収剤に含まれるアミン化合物の高濃度化による粘度の上昇が抑えられ、二酸化炭素及び水との良好な反応性を維持しつつ、二酸化炭素吸収熱の低減及び比熱低下の効果が得られる。また、一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物は、水溶液として二酸化炭素を吸収及び放散する性能を持っており、そのため、吸収剤の二酸化炭素回収量を増加させる効果も得られる。より好ましくは、5~20%である。
【0080】
本発明の吸収剤に含まれるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物は、分子対称性を有することが好ましい。エーテル基を有し分子対称性が高い三級脂肪族アミン化合物は誘電率が非常に低いため、吸収剤に含まれるアミン化合物の高濃度化により得られる吸収剤の溶媒和エネルギーを低減する効果に優れ、その結果、二酸化炭素吸収熱を低減する効果が高い。
【0081】
本発明の吸収剤に含まれるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物のうち分子対称性を有する化合物は、一般式[2]において、RとRとが同じ化学構造である化合物であり、一般式[3]にあっては、NR6R7とNR8R9とが同じ化学構造である化合物である。例えば、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ビス(2-ジエチルアミノエチル)エーテル、1,8-ビス(ジメチルアミノ)-3,6-ジオキサオクタン、1,11-ビス(ジメチルアミノ)-3,6,9-トリオキサウンデカン、ビス(2-モルホリノエチル)エーテルである。
【0082】
本発明の吸収剤に含まれるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物は、ヒドロキシ基を有さないことが好ましい。エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物は一般に低い粘性を持つが、ヒドロキシ基は水和性が高いため水を含む吸収剤の粘度を上昇させる。エーテル基を有しヒドロキシ基を有さない三級脂肪族アミン化合物を含有することで、より一層、粘性が低く二酸化炭素の吸収性能及び放散性能に優れた吸収剤とすることができ、吸収剤に含まれるアミン化合物を高濃度化しても高い二酸化炭素回収量が得られる。
【0083】
本発明の吸収剤は、一般式[1]で表されるアルカノールアミン化合物、一般式[2]で表されるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物、及び水以外の成分を、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明の吸収剤の化学的又は物理的安定性を確保するための安定剤(酸化防止剤等の副反応抑制剤)、本発明の吸収剤を用いる装置や設備の材質の劣化を防ぐための防止剤(腐食防止剤等)、本発明の吸収剤による二酸化炭素の吸収及び放散を補足するための二酸化炭素の物理吸収剤等が挙げられる。本発明の吸収剤におけるこれらその他の成分の含有量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限的なものではないが、質量濃度で5%以下が好ましい。
【0084】
上記酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0085】
上記腐食防止剤としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ホスホノプロパン-2,3-ジカルボン酸、ホスホノスクシン酸、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、マレイン酸系重合体(例えばマレイン酸及びアミレンの共重合体、又はマレイン酸、アクリル酸、及びスチレンの三元共重合体)等が挙げられる。
【0086】
上記物理吸収剤としては、例えば、シクロテトラメチレンスルホン及びその誘導体、脂肪族酸アミド(例えばアセチルモルホリン、又はN-ホルミルモルホリン)、N-アルキル化ピロリドン及び相応するピペリドン(例えばN-メチルピロリドン、又はN-メチルピペリドン)、プロピレンカーボネート、メタノール、ポリエチレングリコールのジアルキルエーテル等が挙げられる。
【0087】
二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、セメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鉄転炉、石炭ガス化複合発電設備等からの排ガス、採掘時天然ガス、改質ガスなどが挙げられ、該ガス中の二酸化炭素濃度は、体積濃度で通常5~50%程度、特に10~40%程度であればよい。かかる二酸化炭素濃度範囲では、本発明の作用効果が好適に発揮される。なお、二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素以外にN2、水蒸気、CO、H2S、COS、SO2、NO2、CH4、水素等のガスが含まれていてもよい。
【0088】
吸収剤による二酸化炭素の分離回収方法
本発明の吸収剤による二酸化炭素の分離回収方法は、二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を分離回収するための方法であって、本発明の吸収剤を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収剤を得る工程A、及び、工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収剤を加熱して、吸収剤から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程Bを含むことを特徴とする。
【0089】
(工程A)
工程Aでは、吸収剤を、二酸化炭素を含むガスと接触させることで、該二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を吸収剤に吸収させて分離する。
【0090】
工程Aにおける、吸収剤を、二酸化炭素を含むガスと接触させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、吸収剤中に二酸化炭素を含むガスをバブリングさせる方法、二酸化炭素を含むガス中に吸収剤を霧状に降らす方法(噴霧乃至スプレー方式)、磁製や金属網製の充填材が入った吸収塔内で高圧の二酸化炭素を含むガスと吸収剤とを向流接触させる方法等が挙げられる。
【0091】
工程Aにおける温度は、25~60℃とすることができる。この範囲であれば、吸収剤が二酸化炭素回収量及び二酸化炭素吸収速度に優れる。工程Aにおける温度は、好ましくは25~50℃であり、より好ましくは25~40℃である。
【0092】
工程Aにおける圧力は、通常1.0bar以上、好ましくは1.0~3.5barとすることができる。また、より高い圧力で行うことで更に高い二酸化炭素の吸収性能が得られる。
【0093】
(工程B)
工程Bでは、工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収剤を加熱して、吸収剤から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する。
【0094】
工程Bの二酸化炭素を脱離して放散させる工程における温度は、70~150℃とすることができる。この範囲であれば、吸収剤が二酸化炭素の放散速度に優れる。工程Bにおける温度は、好ましくは70~120℃であり、より好ましくは70~100℃である。
【0095】
工程Bの二酸化炭素を脱離して放散させる工程における圧力は、通常3.5bar以下、好ましくは1.0~3.5barとすることができる。また、より低い圧力で行うことで更に高い二酸化炭素の放散性能が得られる。
【0096】
二酸化炭素を吸収した吸収剤を加熱して、二酸化炭素を脱離して放散させ、回収する方法は、特に限定されるものではない。例えば、蒸留と同じく、吸収剤を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔、磁製、金属網製等の充填材の入った放散塔内で液界面を広げて加熱する方法等が挙げられる。これらの方法により、純粋な、あるいは非常に高濃度の二酸化炭素を回収することができる。
【0097】
工程Bにおいて二酸化炭素を放散した後の吸収剤は、再び工程Aに戻し、循環再利用することができる。該循環過程において、工程Bで加えられた熱は、二酸化炭素を吸収した吸収剤との熱交換により、吸収剤の昇温に利用される。該熱交換により二酸化炭素分離回収工程全体のエネルギーの低減が計られる。
【0098】
本発明の吸収剤による二酸化炭素の分離回収方法により分離回収された二酸化炭素は、通常95~100%の体積濃度を持ち、純粋で、あるいは非常に高濃度であり得る。該分離回収された二酸化炭素は、現在その技術が開発されつつある地中や海底等への隔離貯蔵(CCS)や石油増進回収法(Enhanced Oil Recovery、EOR)に供することができる。その他、該分離回収された二酸化炭素の利用用途は、特に限定されるものではない。例えば、化成品等の合成原料、或いは食品冷凍用の冷剤等が挙げられる。
【実施例
【0099】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。但し、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0100】
試薬
実施例及び比較例で使用した試薬及びガス種をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
試験方法
(二酸化炭素回収量)
実施例及び比較例において、吸収剤に対する二酸化炭素回収量の測定は、炭酸ガスボンベ及び窒素ガスボンベ、炭酸ガス流量コントローラー及び窒素ガス流量コントローラー、ガラス製反応容器(0.5L)及び温度調整器、ガス流量計、チラー、並びに二酸化炭素濃度計(横河電機製(株)IR100)を順次接続した二酸化炭素吸収放散装置を用いて行った。
【0104】
ガラス製反応容器の周囲は、電気式ヒーターで覆い、温度調整器によりガラス製反応容器内の吸収剤の温度を任意に制御する仕様とした。ガラス製反応容器内には撹拌翼を設け、ガラス製反応容器内の吸収剤を強制撹拌することで気液接触を促す仕様とした。
【0105】
ガラス製反応容器内に0.1Lの吸収剤を加えた後、窒素ガスによりガラス製反応容器内上部の気体を置換した。ガラス製反応容器内の吸収剤を二酸化炭素の吸収工程の温度条件及び圧力条件で保持した。0.14L/minの流量の炭酸ガス及び0.56L/minの流量の窒素ガスをガラス製反応容器内の吸収剤に吹き込み二酸化炭素の吸収工程を開始し、2時間継続した。
【0106】
二酸化炭素の吸収工程及び二酸化炭素の放散工程における温度条件及び圧力条件は、それぞれ温度40℃及び圧力1bar並びに温度70℃及び圧力1barであった。但し、上記の温度条件及び圧力条件は、本発明を何ら限定するものではない。
【0107】
二酸化炭素の吸収工程が終了した後、ガラス製反応容器内の吸収剤を二酸化炭素の放散工程の温度条件及び圧力条件に設定し、二酸化炭素の放散工程を開始し、2時間継続した。上記二酸化炭素の吸収工程及び放散工程において、ガラス製反応容器からの排出ガスを二酸化炭素濃度計により分析した。
【0108】
吸収剤への二酸化炭素溶解量Sc [g/L]は、二酸化炭素濃度計から得られる二酸化炭素濃度C [体積%]の経時変化から下記の式[4]を用いて求めた。
【0109】
【数1】
【0110】
吸収剤による二酸化炭素回収量は、二酸化炭素の吸収工程の開始2時間後における二酸化炭素溶解量から、二酸化炭素放散工程の開始2時間後における二酸化炭素溶解量を引いた値として定義した。
【0111】
(二酸化炭素吸収熱)
二酸化炭素吸収熱は、示差熱式熱量計(SETARAM製DRC Evolution)を用いて測定した。2台の同一形状の反応器にそれぞれ吸収剤を所定量充填し、40℃において攪拌しながら一方の反応器にのみ二酸化炭素を所定量吹込んだ。所定時間における2台の反応器間の発熱量の差と吸収剤への二酸化炭素の溶解量から、吸収された二酸化炭素量当りの発熱量を求め二酸化炭素吸収熱とした。
【0112】
(吸収剤比熱)
吸収剤の比熱は、液体比熱計(京都電子工業(株)製SHA-500)を用いて測定した。
【0113】
実施例1~3
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物としてBDER、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含む吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0114】
実施例4~9
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE及びAMP(実施例4~8)、又はIPAE及びEAE(実施例9)、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物としてBDER、並びに前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含む吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0115】
実施例10~11
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE及びAMP(実施例10)、又はIPAE及びEAE(実施例11)、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物としてBMER、並びに前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含む吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0116】
実施例12~13
前記アルカノールアミン化合物としてIPAP(実施例12)又はEAE(実施例13)、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物としてBDER、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含む吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0117】
比較例1~3
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含み、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0118】
比較例4~6
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE、飽和炭化水素鎖のみからなる三級アルキルアミンであるTMDAH、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含み、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0119】
比較例7~8
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE、飽和炭化水素鎖のみからなる一級アルキルポリアミンであるDAMPA、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含み、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0120】
比較例9~10
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE、エーテル基を含む一級アルキルポリアミンであるBAEOE、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含み、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0121】
比較例11
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE及びAMP、並びに前記水を、表3に示す濃度で含み、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0122】
比較例12
前記アルカノールアミン化合物としてIPAE及びAMP、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物としてBDER、並びに前記水を、表3に示す濃度で含む吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0123】
比較例13~14
前記アルカノールアミン化合物としてIPAP(比較例13)又はEAE(比較例14)、及び前記水を、それぞれ表3に示す濃度で含み、前記エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤について、前記試験方法に従い二酸化炭素回収量、二酸化炭素吸収熱及び吸収剤比熱を測定した。
【0124】
実施例1~13及び比較例1~14で得られた結果を表3に、実施例1~11及び比較例1~12で得られた結果を図1に示す。なお、表中の%は質量濃度を表す。
【0125】
表中のC値は吸収剤比熱Bを二酸化炭素回収量Aで割った値に1000を掛けた値であり、吸収剤により二酸化炭素を分離回収する際に必要となる消費熱量の目安となる値である。該C値及び二酸化炭素吸収熱が低い吸収剤ほど低いエネルギーで二酸化炭素を分離回収できることを意味する。
【0126】
【表3】
【0127】
実施例1~11と比較例1~11との比較から、エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含む吸収剤は、エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含まない吸収剤に比べ、低いC値及び低い二酸化炭素吸収熱を持つことが確認され、本発明である吸収剤がエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含むことによる効果が明らかに示されている。
【0128】
実施例4~7、比較例11及び比較例12の結果から、吸収剤に含まれるエーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物の質量濃度は1~24%の範囲で、該吸収剤が高い性能を示すことが、C値及び二酸化炭素吸収熱の値から確認できる。
【0129】
比較例1~10の結果から、アミン化合物の水溶液からなる従来の二酸化炭素吸収剤はアミン化合物の総質量濃度を55%以上、或いは60%以上に高めることで、二酸化炭素回収量が低下することによるC値の増大が確認される。
【0130】
実施例1~11、比較例11及び比較例12の結果から、エーテル基を有する三級脂肪族アミン化合物を含むことにより吸収剤を高濃度化した場合、吸収剤に含まれるアミン化合物の総質量濃度は60%より高く85%より低い範囲で該吸収剤が高い性能を示すことが、C値及び二酸化炭素吸収熱の値から確認できる。
【0131】
比較例13の結果から、C値及び二酸化炭素吸収熱の値は、実施例12と比較してそれぞれ高い値が示されている。
【0132】
比較例14の結果から、C値及び二酸化炭素吸収熱の値は、実施例13と比較してそれぞれ高い値が示されている。
図1