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特許7146896生物学的隆起に対してクリップ留めすることを意図した医療用インプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】生物学的隆起に対してクリップ留めすることを意図した医療用インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/24 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
A61B17/24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020505423
(86)(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 FR2018051848
(87)【国際公開番号】W WO2019025695
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】1757468
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518131285
【氏名又は名称】ディアノシク
【氏名又は名称原語表記】DIANOSIC
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】マルク、オーギュスタン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、バスティード
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0338700(US,A1)
【文献】特表2015-533589(JP,A)
【文献】特開2015-226830(JP,A)
【文献】国際公開第2014/075514(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 13/00-18/18
A61F 2/01
A61N 7/00- 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間または動物の体の腔所(34)に導入されることを意図した医療用インプラント(10;70)であって、
前記腔所(34)内に存在する生物学的隆起(38)をその間に把持して、前記インプラント(10)を前記生物学的隆起(38)に取り付けるための2つの壁部を備える、少なくとも1つのクリップを含み、
前記インプラント(10)は、各壁部(18,20)が、波状部を有する構造要素(28,30;76,78;84,86)を含み、これにより、前記構造要素(28,30;76,78;84,86)が、それ自身に対して複数回折り畳まれるようになっており、前記壁部(18,20)の前記波状部を、前記インプラント(10;70)の導入の前に折り畳み可能にし、次いで前記腔所(34)内で前記波状部を展開することを可能にする、ことを特徴とするインプラント。
【請求項2】
前記構造要素(28,30;76,78;84,86)は、ロッドである、ことを特徴とする請求項1に記載のインプラント(10;70)。
【請求項3】
長手方向(L)に細長い形状を有し、さらに、前記壁部(18,20)から前記長手方向(L)に対して垂直の方向(V,T)に突出する、少なくとも1つのスタビライザ(22,24)を含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載のインプラント(10)。
【請求項4】
前部スタビライザ(24)を含む前部(16)と、前記壁部(18,20)を含む中央部(14)と、後部スタビライザ(22)を含む後部(12)とを含む、ことを特徴とする請求項3に記載のインプラント(10)。
【請求項5】
前記スタビライザ(22,24)は、前記インプラント(10)の導入の前に平らにされ、次いで、前記腔所(34)の内部で展開されるように設計されたメッシュ構造を含む、ことを特徴とする請求項3または4に記載のインプラント(10)。
【請求項6】
前記メッシュ構造は、少なくとも0.1cm2の面積をそれぞれが有するメッシュを有する、ことを特徴とする請求項5に記載のインプラント(10)。
【請求項7】
抗炎症および/または抗菌コーティング(32)をさらに有する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインプラント(10;70)。
【請求項8】
少なくとも前記構造要素(28,30;76,78;84,86)は、所定温度よりも上で展開するように設計された形状記憶材料を含む、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のインプラント(10;70)。
【請求項9】
少なくとも前記構造要素(28,30;76,78;84,86)は、超弾性および/または吸収性材料を含む、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のインプラント(10;70)。
【請求項10】
前記クリップの少なくとも1つの、各壁部は、前記壁部の後縁部から前縁部にかけて減少する高さを有する、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のインプラント(70)。
【請求項11】
前記クリップの少なくとも1つの、各壁部は、前記壁部の後縁部から前縁部にかけて一定の高さを有する、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のインプラント(10;70)。
【請求項12】
前記クリップの少なくとも1つの、各壁部のために、この壁部の縁部に沿って延びる構造補強要素をさらに含む、ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のインプラント(70)。
【請求項13】
各構造補強要素は、この構造補強要素の圧縮を可能にする波状部を有するロッド(80,82,88,90)を含む、ことを特徴とする請求項12に記載のインプラント(70)。
【請求項14】
前記クリップは、前記腔所(34)内に存在する2つの生物学的隆起(38,40)をそれぞれ把持して、両方の生物学的隆起に同時に前記インプラント(70)を取り付けることを意図した2つのクリップを備える、ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載のインプラント(70)。
【請求項15】
2つの前記クリップは、一方が他方の上に位置し、鼻腔(34)の中鼻甲介(38)と、下鼻甲介(40)とをそれぞれ把持することが可能である、ことを特徴とする請求項14に記載のインプラント(70)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的隆起に対してクリップ留めすることを意図した医療用インプラントに関する。
【0002】
本発明は、特に、人間または動物の体の腔所に導入されることを意図した医療用インプラントに適用され、このインプラントは、腔所内に存在する生物学的隆起をその間に把持して、インプラントを生物学的隆起に取り付けるための2つの壁部を備える少なくとも1つのクリップを含む。
【背景技術】
【0003】
US2013/0276794A1の番号で公開された米国特許出願は、このようなインプラントを説明している。このインプラントは、鼻腔内の外科手術中に中鼻甲介を保護することを意図している。よって、インプラントの使用は、外科手術の時間中にのみ必要とされる。したがって、このインプラントは、長時間、例えば数ヶ月にわたって定位置で保持するためには適していない。
【0004】
よって、上述の問題および制約の少なくとも一部を克服することを可能にする、医療用インプラントを提供することが望まれる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、したがって、人間または動物の体の腔所に導入されることを意図した、医療用インプラントであり、腔所内に存在する生物学的隆起をその間に把持して、インプラントを生物学的隆起に取り付けるための2つの壁部を備える、少なくとも1つのクリップを含み、インプラントは、各壁部が、波状部を有する構造要素を含み、これにより、構造要素が、それ自身に対して複数回折り畳まれるようになっており、壁部を、インプラントの導入の前に折り畳み、次いで腔所内で展開することを可能にする、ことを特徴とするインプラントである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
よって、本発明に係るインプラントは、インプラントを生物学的隆起に対して安定かつ耐久的に取り付けることを可能にし、一方で、狭い開口を通して腔所に導入することが可能である、大きな壁部を有することができる。
【0007】
任意で、構造要素は、ロッドである。
【0008】
また、任意で、インプラントは、長手方向に細長い形状を有し、さらに、壁部から長手方向に対して垂直の方向に突出する、少なくとも1つのスタビライザを含む。
【0009】
また、任意で、インプラントは、前部スタビライザを含む前部と、壁部を含む中央部と、後部スタビライザを含む後部とを含む。
【0010】
また、任意で、スタビライザは、インプラントの導入の前に平らにされ、次いで、腔所の内部で展開されるように設計されたメッシュ構造を含む。
【0011】
また、任意で、メッシュ構造は、少なくとも0.1cmの面積をそれぞれが有するメッシュを有する。
【0012】
また、任意で、インプラントは、抗炎症および/または抗菌コーティングをさらに有する。
【0013】
また、任意で、少なくとも構造要素は、所定温度よりも上で展開するように設計された形状記憶材料を含む。
【0014】
また、任意で、少なくとも構造要素は、超弾性および/または吸収性材料を含む。
【0015】
また、任意で、クリップの少なくとも1つの、各壁部は、壁部の後縁部から前縁部にかけて減少する高さを有する。
【0016】
また、任意で、クリップの少なくとも1つの、各壁部は、壁部の後縁部から前縁部にかけて一定の高さを有する。
【0017】
また、任意で、クリップの少なくとも1つの、各壁部のために、この壁部の縁部に沿って延びる構造補強要素をさらに含む、
また、任意で、各構造補強要素は、この構造補強要素の圧縮を可能にする波状部を有するロッドを含む。
【0018】
また、任意で、クリップは、腔所内に存在する2つの生物学的隆起をそれぞれ把持して、両方の生物学的隆起に同時にインプラントを取り付けることを意図した2つのクリップを備える。
【0019】
また、任意で、2つのクリップは、一方が他方の上に位置し、鼻腔の中鼻甲介と、下鼻甲介とをそれぞれ把持することが可能である。
【0020】
本発明は、単なる例として与えられ、添付の図面を参照してなされる以下の説明を用いて、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】展開した状態での、本発明の第1の実施形態に係る、医療用インプラントの概略構造を示す模式図。
図2】展開した状態での、本発明の第1の実施形態に係る、医療用インプラントの概略構造を示す模式図。
図3】展開した状態での、本発明の第1の実施形態に係る、医療用インプラントの概略構造を示す模式図。
図4】展開した状態での、本発明の第1の実施形態に係る、医療用インプラントの概略構造を示す模式図。
図5】人間の鼻腔を模式的に示す図。
図6】折り畳まれた状態にあるインプラントを模式的に示す図。
図7】インプラントを展開するための装置を模式的に示す図。
図8】生物学的隆起に対してクリップ留めされたインプラントを模式的に示す図。
図9】本発明の第2の実施形態に係る、展開した状態の、医療用インプラントの概略構造を模式的に示す図。
図10図9のインプラントの圧縮状態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明において、要素は、長手方向Lと、垂直方向Vと、横断方向Tとにより形成される直交基準フレームを参照して説明される。
【0023】
展開した状態で図1図4に模式的に示される、本発明の第1の実施形態に係るインプラント10は、長手方向Lに細長い概略形状をしており、前部16と、中央部14と、後部12とを有する。
【0024】
中央部14は、人間または動物の体の腔所内に存在する生物学的隆起に対して、クリップ留めすることを意図している。このために、中央部14は、2つの壁部18,20を含み、この壁部は、互いに実質的に向かい合って延び、生物学的隆起をその間に把持することを意図している。各壁部18,20は、インプラント10の前部16と後部12とに取り付けられた下縁部を有する。説明される例では、2つの壁部18,20は、平面状であり、長手方向および垂直方向によって定義される平面に平行に延びる。さらに、壁部18,20は、30~50mmの間に含まれる、例えば40mmの長さと、20~30mmの間に含まれる、例えば25mmの高さとを有する。
【0025】
さらに、説明される例において、前部16および後部12は、腔所内でインプラント10を安定させることを意図した前部スタビライザ24と、後部スタビライザ22とをそれぞれ含む。このために、スタビライザ22,24のそれぞれは、中央部14から垂直方向および/または横断方向に突出し、これにより、インプラント10は、中央部14のみ、特に壁部18,20のみよりも大きな、垂直方向および/または横断方向の空間条件を有する。よって、インプラント10は、腔所内で移動しにくく、それは、その空間条件によって、腔所の壁部に迅速に接触させられるからである。さらに、この空間条件により、インプラント10は、腔所につながる開口部を通りにくく、よって、腔所から出るリスクが低い。説明される例では、後部スタビライザ22は、円盤状であり、前部スタビライザ24は、球形状である。さらに、スタビライザ22,24は、10~20mmの間に含まれる、例えば15mmの直径を有する。一般的なやり方では、スタビライザ22,24の形状およびサイズは、腔所の形状に適合される。
【0026】
インプラント10は、さらに、少なくとも1つの生物学的量のセンサ26を含んでもよい。各センサは、例えば、インプラント10の中央部14に取り付けられ、限定はされないが、酸素レベル、生体組織またはインプラント10周辺の圧力等の少なくとも1つの生体パラメータを、その場で評価することを可能にする。好ましくは、各センサ26は、センサ26によって集められたデータを、人間または動物の体の外部に位置するスマートフォンまたはタブレット等の計算装置に伝送することを可能にする、ワイヤレス通信システムを含む。インプラント10における1つまたは複数のセンサ26の存在は、よって、様々な生物学的パラメータの監視を可能にし、その知識は、耳鼻咽喉科、脳神経外科またはその他の医療専門分野において有用である。
【0027】
専用のソフトウェアをプログラミングして、測定値が収まるべき基準間隔に対する、測定値のずれを検出することができる。ずれが検出された場合、自動警告を、医療従事者に対して(例えば電子メールまたはショートテレフォンメッセージ(SMS)により)送信することができ、これにより医療従事者は、例えば、インプラント10が取り付けられた患者に警告を行う。代替的または追加的に、自動警告を、患者に、あるいは、医療従事者および/または患者の呼び出しを担当するコール処理センターに、直接送信することができる。測定値が得られると、医療従事者は、それらを用いて、患者が退院した後の予期せぬ出来事に対応したり、診断を実行または改善したりすることができ、これにより、患者の治療を個人化することを可能にする。さらに、取得した測定値を用いて、記録またはその他の種類のデータベースを構築したり、提供したりすることができる。
【0028】
インプラント10の腔所への導入を容易にするために、各壁部18,20は、長手方向の波状部を有するロッド28,30を含み、ロッド28,30は、それ自体に対して複数回、折り畳まれるようになっている。より具体的には、ロッドは、バーの一端から他端への交互の蛇行によってその端部が連結された、垂直方向の平行バーを有する。よって、各壁部18,20は、バーを互いに近づけることにより、長手方向に折り畳むことができる。さらに、ロッド28,30は、前部スタビライザ24に取り付けられた前端と、後部スタビライザ22に取り付けられた後端とを有する。
【0029】
インプラント10の導入をさらに容易にするために、スタビライザ22,24は、インプラント10を導入する前に平らにするように設計されたメッシュ構造を含む。好ましくは、メッシュ構造は、少なくとも0.1cmの面積をそれぞれが有するメッシュを含んでおり、スタビライザ22,24を通した生体液の流れを可能にする。
【0030】
好ましくは、壁部18,20のロッドと、スタビライザ22,24のメッシュ構造とは、形状記憶および/または超弾性特性を有する材料で形成される。
【0031】
形状記憶特性は、変形された材料が、所定の温度を超えて加熱されると、その元の形状に戻ることを可能にする。例えば、材料は、その温度が所定の閾値を超えると、その展開された形状に自動的に戻るように構成されており、この閾値は、好ましくは、36℃~38℃の間に含まれ、例えば、37℃である。これらの温度は、人間または動物の体の腔所内の通常の温度に対応する。
【0032】
弾性特性は、応力により変形されていた材料が、応力が止まるとその初期形状に戻ることを可能にする(これは弾性変形と呼ばれる)。超弾性特性は、同じものだが、非常に大きな変形まで伸長する。
【0033】
好ましくは、“形状記憶合金”と呼ばれる材料が用いられ、これは、形状記憶材料は、形状記憶および超弾性特性の両方を有するからである。例えば、用いられる形状記憶材料は、ニチノール(Nitinol)であり、これは、その超弾性能力、形状記憶、および生物による良好な耐性のために、医療分野でますます用いられている、ニッケル-チタン合金である。
【0034】
さらに、好ましくは、壁部18,20のロッド28,30およびスタビライザ22,24のメッシュは、好ましくは溶着なしで、所望の形状を得るために折り畳まれた単一のワイヤで作製される。
【0035】
図2から図4を参照すると、インプラント10は、好ましくは、抗炎症および/または抗菌コーティング(図では点線32で示されている)を有する。さらに、治療用コーティング、例えば、抗感染剤、抗癌剤、抗肉芽腫、コルチコステロイドコーティング、あるいはポリポーシスまたは慢性副鼻腔炎を治療するためのコーティングを有してもよい。各コーティングは、所定の期間、たとえば少なくとも1週間、関連する治療を提供することが可能である。
【0036】
説明された例では、インプラント10は、図5に示される鼻腔34に導入されることを意図している。鼻腔34(鼻窩とも呼ばれる)は、鼻孔35の背部で延びる。上鼻甲介36,中鼻甲介38、下鼻甲介40は、フィルタとして機能し、空気その他の流体の良好な循環を可能にする。中鼻甲介38に対して横方向に位置する鉤状突起42は、上顎洞口の入り口の境界を定める。
【0037】
中鼻甲介38および/または鉤状突起42に作用する手術の後、鼻腔34の粘膜の完全性が影響を受ける可能性がある。したがって、中鼻甲介38が側性化する、すなわち、鉤線状突起および/または下鼻甲介40に付着して、望ましくない瘢痕を引き起こすリスクがある。説明される例では、インプラント10は、中鼻甲介38の側性化のリスクを減らすことを目的としている。
【0038】
図6を参照すると、インプラント10は、壁部18,20が長手方向Lに沿って折り畳まれ、スタビライザ22,24が、垂直方向Vおよび横断方向Tによって定義される平面内で平らにされ、かつ直線形になっている、折り畳まれた状態で示されている。よって、インプラント10は、非常にコンパクトであり、垂直方向Vに沿って細長い形状を有する。
【0039】
図7に示される展開装置44を用いて、鼻腔34内でインプラント10を展開することができる。
【0040】
展開装置44は、好ましくは透明である中空管46を有する注射器の一般的形状を有し、折り畳まれた状態にあるインプラント10は、この中空管46内に設置されることを意図しており、中空管46内を摺動するピストン48が、インプラント10を中空管46の遠位端50に向けて押す。好ましくは、遠位端50は、中空管46の残りの部分よりも柔軟な材料で作製され、その導入中に粘膜を損傷しないようにし、これにより患者の快適さを高める。
【0041】
ピストン48は硬質であり、かつ、遠位端にプレート52を有し、近位端に押しボタン54を有する。展開装置44は、中空管46の近位端56に、ユーザが中空管46に対してピストン48を手動で摺動させることを、押しボタン54と連携して可能にする、後退フィン58をさらに含む。
【0042】
ピストン48には、中間マーカー60および遠位マーカー62が設けられている。遠位マーカー62は、折り畳まれた状態のインプラント10の(垂直方向Vに沿った)長さに対応する距離だけ、押しボタン54から離れている。マーカー60,62は、後に説明するように、鼻腔34内のインプラント10の正しい位置決めを、確実にすることを意図している。
【0043】
インプラント10を、鼻腔34内に導入するために、インプラント10を収容する中空管46を鼻孔35に挿入し、次いで、その近位端56が鼻孔35の入り口に来るまで、鼻腔34に挿入する。ピストン48は、次いで、その近位端56を通して中空管46に挿入され、プレート52は、インプラント10と接触する。押しボタン54と後退フィン58とを同時に動作させることにより、中空管46は、次いで鼻腔34から徐々に引き出され、その間、ピストン48が、中鼻甲介38付近で、中空管46の遠位端50を通して鼻腔34内にインプラント10を押し出す。
【0044】
マーカー60,62は、この段階での位置特定を可能にする。より具体的には、遠位マーカー62が、中空管46の近位端56と並ぶことで、インプラント10が中空管46の遠位端50から出始めようとしていることを示す。さらに、内側マーカー60が、中空管46の近位端56と並ぶことで、インプラント10の半分がその遠位端50を通って中空管46から出たことを示す。最後に、押しボタン54と中空管46の近位端56とが接触することで、インプラント10の全てが中空管46から出たことを示す。
【0045】
鼻腔34内の温度は、約37℃であり、形状記憶インプラント10は、鼻腔34によって、37℃まで加熱され、この温度は、展開閾値よりも高いため、インプラント10が展開し、すなわち図1図4に示される構成に自動的に戻る。あるいは、超弾性特性が使用される場合、インプラント10は、中空管46から出る際に、自動的にその初期形状に戻り、これは、中空間46によってインプラント10に加えられる応力が、止まるためである。どちらの場合も、図8に示すように、2つの壁部18,20は、中鼻甲介38の両側に展開してこれを把持する。よって、インプラント10は、中鼻甲介38にクリップ留めされ、鼻腔34内でしっかりと固定される。さらに、スタビライザ22,24の存在は、図5に示すような、鼻孔35からのインプラントの放出、または口腔咽頭43によるその飲み込みを防ぐ。この位置では、インプラント10は、中鼻甲介38が鉤状突起42および/または下鼻甲介40と接触することを防ぐ物理的障壁を形成する。さらに、抗炎症および/または抗菌コーティング32は、生組織の急速な瘢痕化を可能にし、したがって、中鼻甲介38の側性化のリスクを低減する。さらに、コーティング32は、外科的介入を必ずしも行わずに、コーティング32が治療するように適合されているポリープ症、副鼻腔炎または他の何らかの鼻窩の病気の治療を可能にすることもできる。最後に、スタビライザ22,24のメッシュにより、鼻腔34を洗浄することができる。
【0046】
本発明の第2の実施形態に係る医療用インプラント70は、図9において、展開状態で概略的に示されている。インプラント70は、人間または動物の体の腔所に存在する2つの生物学的隆起にそれぞれクリップ留めすることを意図した2つの部分72,74を含む。説明される例では、2つの部分72,74は互いに垂直に重ねられている。例えば、上側部分72は、中鼻甲介38にクリップ留めすることを意図しており、一方で下側部分74は、下鼻甲介40にクリップ留めすることを意図している。
【0047】
このために、各部分72,74は、本発明の第1の実施形態に係るインプラント10の中央部分14と同様の方法で作製されている。
【0048】
したがって、上側部分72は、長手方向の波状部を有する2つのロッド76,78によってそれぞれ定義される2つの壁部を含み、これらの壁部は、互いに実質的に向かい合って延び、その間に第1の生物学的隆起を把持することを目的とする。図9の背景側にある壁部は、前景側の壁部と区別するために点線で示されている。説明される例では、2つの壁部は平面状であり、長手方向Lと垂直方向Vとで定義される平面に平行して延びている。例えば、壁部は、30~50mmの間に含まれ、例えば40mmである長さと、20~30mmの間に含まれ、例えば25mmである高さと、を有する。長手方向の波状部により、各ロッド76,78は、それ自体で数回折り畳まれる。より具体的には、各ロッド76,78は、垂直平行バーを有し、これらのバーは、バーの一端から他端への交互の蛇行によってその端が連結されている。よって、各壁部は、バーを互いに近づけることにより、長手方向に折り畳むことができる。説明される例では、これらのバーは、後部から前部にかけて短くなる長さを有し、よって、各壁部は、壁部の後縁部から前縁部にかけて減少する高さを有する。
【0049】
上側部分72は、各壁部に対して、壁部の下縁部に沿って長手方向に延びる構造補強要素をさらに含む。説明される例では、各構造補強要素は、長手方向の波状部を有するそれぞれのロッド80,82を含み、関連する壁部の圧縮と同時に、構造補強要素の長手方向の圧縮を可能にする。ロッド80,82の長手方向の波状部は、ロッド76,78の波状部よりもはるかに小さい、例えば少なくとも10分の1の高さを有する。
【0050】
同様に、下側部分74は、長手方向の波状部を有する2つのロッド84,86によってそれぞれ定義される2つの壁部を含む。説明される例では、下側部分74の壁部は、例えば、10から30mmの間に含まれる一定の高さを有する。下側部分74は、それぞれ壁部の下縁部に沿って長手方向に延びる、2つの構造補強要素をさらに含む。これらの構造補強要素は、説明される例では、上側部分72に関して長手方向の波状部を有する、2つのロッド88,90をそれぞれ含み、これらの長手方向の波状部は、ロッド86,84の長手方向の波状部よりもはるかに小さい、例えば少なくとも10分の1の高さを有する。
【0051】
インプラント70は、下側部分74を上側部分72に取り付ける連結要素をさらに含む。説明される例では、この連結要素は、上側部分72および下側部分74のそれぞれの2つの構造補強要素の前端を接続する、実質的に垂直のロッド92を含む。
【0052】
第1の実施形態に係るインプラント10に関しては、ロッド76~92は、例えば、形状記憶および/または超弾性特性を有する材料で作製されている。
【0053】
さらに好ましくは、ロッド76~92は、好ましくは溶着なしで、所望の形状を得るために折り畳まれた単一のワイヤから作製される。
【0054】
さらに好ましくは、ロッド76~92は、吸収性材料で作製され、すなわち、材料は、腔所の生物学的環境の影響下で、例えば2年未満で漸進的な吸収により完全に消失するように構成される。好ましくは、吸収性材料が使用される場合、溶着は提供されない。
【0055】
説明される例では、インプラント70には、センサが無いことがさらに理解される。
【0056】
よって、ロッド76,78,84,86により定義された壁部、および、ロッド80,82,88,90により形成された構造補強要素は、図9に2本の太線の矢印によって示されるように、それ自体に対して長手方向に折り畳まれて、図10に示される圧縮状態を得ることができる。この圧縮状態では、インプラント70は、鼻腔34内に導入して展開し、図9の展開状態に戻ることができるものであり、上側部分72により形成されるクリップが、中鼻甲介38を把持し、下側部分74により形成されるクリップが、下鼻甲介40を把持する。
【0057】
上述したような医療用インプラントは、生物学的隆起に対して持続可能にクリップ留め可能であり、一方で、折り畳まれた状態で、腔所に容易に導入できることが、明らかに理解される。このインプラントは、耳鼻咽喉科手術手順や、さらには脳神経外科手術に、あるいはこの種のインプラントの使用を必要とする他の任意の種類の外科専門分野に、特に適している。この場合、インプラント10または70の形状は、すべての所望の用途に適合させることができ、したがって非常に多様となり得る。
【0058】
さらに、本発明は、上述の実施形態に限定されないことに留意されたい。実際に、当業者には、開示されたばかりの教示に鑑みて、上述の実施形態に様々な修正を加え得ることが理解されるであろう。
【0059】
特に、各壁部は、ロッドの代わりに、アコーディオン状に折り畳まれたシートを含むことができる。
【0060】
添付の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を本明細書に記載の実施形態に限定するものと解釈されるべきではなく、特許請求の範囲がその定式化によりカバーすることを目的とし、かつ、その予測が、開示された教示の実施に当業者の一般的な知識を適用することにより当業者の手に届く範囲内にある、すべての同等物を含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10