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特許7146905レーザーアブレーション装置および分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】レーザーアブレーション装置および分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20220927BHJP
   G01N 21/63 20060101ALI20220927BHJP
   G01N 21/71 20060101ALI20220927BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220927BHJP
【FI】
G01N1/28 T
G01N21/63 A
G01N21/71
G01N27/62 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020514850
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2018016026
(87)【国際公開番号】W WO2019202689
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】593230855
【氏名又は名称】株式会社エス・テイ・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 憲生
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-522887(JP,A)
【文献】特開2014-071160(JP,A)
【文献】特開平11-103150(JP,A)
【文献】特開2017-193060(JP,A)
【文献】特開2003-247920(JP,A)
【文献】特開平05-119244(JP,A)
【文献】特表2015-504161(JP,A)
【文献】特表2016-517523(JP,A)
【文献】平田 岳史,レーザーアブレーション ICPMSの進歩と展望,ぶんせき,2016巻1号,日本,2016年,9頁-16頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 21/63
G01N 21/71
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルに収容された試料をアブレーションするレーザー光を出力するレーザー光源であって、レーザー光のパルス幅がフェムト秒オーダーのフェムト秒パルスレーザー光を出力する前記レーザー光源と、
前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて反射する光学系であって、第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有し、前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料の分析位置に向けて反射する前記光学系と、
前記試料の分析位置の2次元上の座標位置に基づいて、前記第1の駆動源と前記第2の駆動源を制御して、前記第1のミラーおよび前記第2のミラーの反射角を変更して、前記分析位置に前記レーザー光を照射させる照射制御手段と、
を備え、
複数の分析位置の前記試料を混合して分析する場合に、前記試料に照射されるレーザー光の間隔を予め定められた高周波数に設定するとともに、複数の分析位置をそれぞれ個別に分析する場合に、前記試料に照射されるレーザー光の間隔を前記高周波数よりも低い予め定められた低周波数に設定する
ことを特徴とするレーザーアブレーション装置。
【請求項2】
前記分析位置に応じて前記各駆動源を駆動する場合に、前記駆動源を停止位置に向けて駆動した後に、前記停止位置に停止させる際に前記停止位置に向けて移動する方向とは逆方向の駆動を行って、前記各ミラーを前記停止位置に停止させる前記照射制御手段、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項3】
試料が収容されるセルと、
前記試料をアブレーションする請求項1または2に記載のレーザーアブレーション装置と、
アブレーションされて前記セルから送り出された試料が導入され、導入された試料を誘導結合プラズマ方式で分析を行う分析計と、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料をアブレーションするレーザーアブレーション装置および前記レーザーアブレーション装置を有する誘導結合プラズマ方式の分析装置に関し、特に、試料が固体の場合に好適なレーザーアブレーション装置および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン状や微粒子状の試料に高電圧をかけることによってプラズマ化させて、励起された原子からの光を観測、分析することで、元素の定性、定量を行う技術として、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式の分析技術が知られている。ICP方式の分析手法に関して、以下の非特許文献1に記載の技術が公知である。
【0003】
非特許文献1(Fernandez et al.)には、土中に含まれる銅や亜鉛、スズ、鉛の多元素同定を行うために誘導結合プラズマ方式で質量分析(MS:Mass Spectrometry)を使用する技術が記載されている。非特許文献1では、固体の試料をアブレーションしてエアロゾル化させる際に、フェムト秒のレーザーを使用することで、分析全体にかかる時間を短縮している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Beatriz Fernandez,他4名、”Direct Determination of Trace Elements in Powdered Samples by In-Cell Isotope Dilution Femtosecond Lase Ablation ICPMS”、Anal.Chem.,2008,80,6981-6994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
非特許文献1に記載の技術では、レーザー光の照射位置はほぼ1軸上(長い楕円状の円周上)しか移動させることができず、試料の任意の複数の箇所を分析したい場合には、レーザー光が移動可能な1軸上に、複数の箇所を並べる必要がある。したがって、鉱物等の1つの固まり状のサンプルにおいて、分析したい箇所が3か所以上になると、1軸上に並べることが困難である。よって、分析位置を変えたい場合は、試料の位置を置き換える必要があり、分析全体にかかる時間が長くなる問題があった。
また、非特許文献1に記載の技術では、複数の試料を混合して分析したい場合にも、混合したい試料どうしを1軸上に並べて配置する必要もあり、且つ、レーザー光の移動可能な範囲に2つ(以上)の試料を設置する必要がある。特に、非特許文献1に記載の技術では、レーザー光が所定の速さで楕円形状の円周上に沿った軌道(いわば、陸上競技のトラック状の軌道)上を往復運動するような動きとなっているため、2つの試料の混合比が特定の混合比にしかできない問題もある。
したがって、非特許文献1に記載の技術では、試料を設置する位置や分析可能な位置に制約がある問題がある。
【0006】
本発明は、従来の構成に比べて、試料を設置する位置や分析可能な位置を広くすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のレーザーアブレーション装置は、
セルに収容された試料をアブレーションするレーザー光を出力するレーザー光源であって、レーザー光のパルス幅がフェムト秒オーダーのフェムト秒パルスレーザー光を出力する前記レーザー光源と、
前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて反射する光学系であって、第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有し、前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料の分析位置に向けて反射する前記光学系と、
前記試料の分析位置の2次元上の座標位置に基づいて、前記第1の駆動源と前記第2の駆動源を制御して、前記第1のミラーおよび前記第2のミラーの反射角を変更して、前記分析位置に前記レーザー光を照射させる照射制御手段と、
を備え、
複数の分析位置の前記試料を混合して分析する場合に、前記試料に照射されるレーザー光の間隔を予め定められた高周波数に設定するとともに、複数の分析位置をそれぞれ個別に分析する場合に、前記試料に照射されるレーザー光の間隔を前記高周波数よりも低い予め定められた低周波数に設定する
ことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザーアブレーション装置において、
前記分析位置に応じて前記各駆動源を駆動する場合に、前記駆動源を停止位置に向けて駆動した後に、前記停止位置に停止させる際に前記停止位置に向けて移動する方向とは逆方向の駆動を行って、前記各ミラーを前記停止位置に停止させる前記照射制御手段、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の分析装置は、
試料が収容されるセルと、
前記試料をアブレーションする請求項1または2に記載のレーザーアブレーション装置と、
アブレーションされて前記セルから送り出された試料が導入され、導入された試料を誘導結合プラズマ方式で分析を行う分析計と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1,に記載の発明によれば、2つの駆動源で2つのミラーを作動させて、レーザー光の照射位置を2次元的に移動させることができ、従来の構成に比べて、試料を設置する位置や分析可能な位置を広くすることができる。
また、請求項1,3に記載の発明によれば、レーザー光の間隔を変えることで、異なる分析を1つのレーザーアブレーション装置で行うことができる。
請求項2に記載の発明によれば、逆方向の駆動を行わない場合に比べて、レーザー光が照射される位置の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の実施例1の分析装置の全体説明図である。
図2図2は実施例1のレーザーアブレーション装置の要部説明図である。
図3図3は実施例1のセルの説明図である。
図4図4は実施例1のコンピュータ装置が備えている各機能をブロック図で示した図である。
図5図5は実施例1の分析装置で可能な分析モードの説明図であり、図5Aは統合分析モードの説明図、図5Bは混合分析モードの説明図、図5Cはイメージング分析モードの説明図、図5Dは定量分析モードの説明図である。
図6図6はセルから導出されたエアロゾルに含まれるアブレーションされた試料の分布の説明図である。
図7図7は従来のセルにおけるガスの流れる領域の説明図である。
図8図8はセルの拡散部の変更例の説明図であり、図8Aは変更例1の説明図、図8Bは変更例2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1の分析装置の全体説明図である。
図1において、実施例1の分析装置1は、分析計の一例としての質量分析計2を有する。実施例1の質量分析計2は、誘導結合プラズマ方式の質量分析計(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometer)で構成されている。なお、分析計は、ICP-MSに限定されず、例えば、誘導結合プラズマ方式の発光分析計(ICP-OES:Inductively Coupled Plasma - Optical Emission Spectroscopy)を使用することも可能である。なお、ICP-MSやICP-OESは、従来公知のものを使用可能であり、例えば、特開2013-130492号公報等に記載されており、公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0015】
質量分析計2には、接続部の一例としての接続チューブ3の下流端が接続されている。接続チューブ3の上流端には、合流ジョイント4が接続されている。合流ジョイント4には、付加ガス供給部の一例としての付加ガスチューブ6の下流端が接続されている。実施例1では、付加ガスチューブ6には、付加ガス(メイクアップガス)の一例としてのアルゴン(Ar)ガスが供給される。なお、実施例1では、アルゴンガスは、一例として、0.5~1.2L/min程度の流量で供給される。
【0016】
合流ジョイント4には、セル接続部の一例としてセル接続チューブ7の下流端が接続されている。セル接続チューブ7の上流端には、セル11が接続されている。セル11は、内部に試料Sが収容可能に構成されている。セル11には、搬送ガス供給部の一例としての搬送ガスチューブ12が接続されている。実施例1では、搬送ガスチューブ12には、搬送ガス(キャリアガス)の一例としてのヘリウム(He)ガスが供給される。なお、実施例1では、キャリアガスは、一例として、0.2 ~ 1L/min程度の流量で供給される。
【0017】
また、セル11の上方には、レーザーアブレーション装置21が配置されている。レーザーアブレーション装置21は、セル11の試料Sにレーザー光を照射して、試料Sをアブレーションする。
実施例1の分析装置1は、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置31を有する。コンピュータ装置31は、コンピュータ本体32と、表示部の一例としてのディスプレイ33と、入力部の一例としてのキーボード34およびマウス35を有する。コンピュータ本体32は、レーザーアブレーション装置21の駆動を制御する信号を出力すると共に、質量分析計2から検出結果を受信して、ディスプレイ33に表示可能である。
【0018】
(レーザーアブレーション装置の説明)
図2は実施例1のレーザーアブレーション装置の要部説明図である。
図2において、実施例1のレーザーアブレーション装置21は、レーザー光源の一例としてのフェムト秒レーザー22を有する。フェムト秒レーザー22は、レーザー光の一例として、パルス幅がフェムト秒オーダーのフェムト秒レーザー光22aを出力する。実施例1のフェムト秒レーザー22は、一例として、パルス幅が230fsのフェムト秒レーザー光22aを出力するが、パルス幅は、例示した数値に限定されず、変更可能である。
実施例1のフェムト秒レーザー22は、内部に図示しないシャッタが配置されており、フェムト秒レーザー光22aを出力する周波数(フェムト秒レーザー光22aが出力される間隔の逆数)を制御可能に構成されている。実施例1では、一例として、周波数を100Hz~1000Hzの間で制御可能である。すなわち、フェムト秒レーザー22からは、1000Hzでフェムト秒レーザー光22aを出力し、1000Hzの場合はシャッタを常時開放状態にしておき、100Hzの場合は、10発の内9発のフェムト秒レーザー光22aをシャッタで遮ることで、100Hzの出力とすることが可能である。
【0019】
フェムト秒レーザー光22aは、光学系の一例としてのガルバノ光学系23に導入される。実施例1のガルバノ光学系23は、第1のミラーの一例としての第1ガルバノミラー24と、第2のミラーの一例としての第2ガルバノミラー25とを有する。第1ガルバノミラー24は、フェムト秒レーザー22からのフェムト秒レーザー光22aを第2ガルバノミラー25に向けて反射し、第2ガルバノミラー25は第1ガルバノミラー24からのフェムト秒レーザー光22aを試料Sに向けて反射する。
第1ガルバノミラー24は、第1のミラー軸24aを中心として回転可能に支持されている。第1のミラー軸24aには、第1の駆動源の一例としての第1ガルバノモータ24bから駆動が伝達される。したがって、第1ガルバノモータ24bからの駆動に応じて、第1ガルバノミラー24は第1のミラー軸24aを中心に回転、傾斜して、フェムト秒レーザー光22aの反射方向を変化させる。
【0020】
第2ガルバノミラー25も、第1ガルバノミラー24と同様に、第2のミラー軸25a、第2の駆動源の一例としての第2ガルバノモータ25bを有し、フェムト秒レーザー光22aの反射方向を変化させる。なお、実施例1では、一例として、第1ガルバノミラー24は、試料Sの表面において、主としてガス流れ方向に沿ったX方向の照射位置を制御し、第2ガルバノミラー25は、主としてガス流れ方向に交差するY方向の照射位置を制御する。したがって、2つのガルバノミラー24,25の制御で、2次元的にフェムト秒レーザー光22aを走査することが可能である。実施例1では、一例として、20cm×20cmの範囲でフェムト秒レーザー光22aを照射可能に構成されている。
第2ガルバノミラー25とセル11との間には、光学部材の一例としてのレンズ26が配置されている。レンズ26は、フェムト秒レーザー光22aの焦点の位置が試料Sの表面となるように、通過するフェムト秒レーザー光22aを集光する。
【0021】
(セルの説明)
図3は実施例1のセルの説明図である。
図3において、実施例1のセル11は、試料Sが収容される収容部41を有する。また、セル11には、導入部の一例としてのガス流入部42と、導出部の一例としてのエアロゾル流出部43が形成されている。ガス流入部42は、搬送ガスチューブ12に接続され、エアロゾル流出部43はセル接続チューブ7に接続されている。ガス流入部42と収容部41との間には、拡散部44が形成されている。拡散部44は、仕切部材の一例としてのフェンス44a,44bを有する。フェンス44a,44bは、拡散部44のガス流入部42側と収容部41側に配置されている。なお、実施例1のフェンス44a,44bは、網状の部材で構成されている。
【0022】
フェンス44a,44bの間には、ガラス製の球であるガラスビーズ44cが充填されている。なお、ガラスビーズ44cは、粒径が0.5mm~2mm程度のものが好適に使用可能である。したがって、ガス流入部42から流入したキャリアガスは、拡散部44を通過する際に、ガラスビーズ44cに連続的に衝突して、ガス流れ方向(X方向)に交差する方向(Y方向)に拡散される。
【0023】
(実施例1の制御部の説明)
図4は実施例1のコンピュータ装置が備えている各機能をブロック図で示した図である。
図4において、制御部の一例としてのコンピュータ本体32は、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、コンピュータ本体32は、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリを有する。また、コンピュータ本体32は、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリを有する。また、コンピュータ本体32は、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置を有する。よって、コンピュータ本体32は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0024】
(コンピュータ本体32の機能)
コンピュータ本体32は、キーボード34やマウス35、質量分析計2、その他の図示しないセンサ等の信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、ガルバノモータ24b,25bやフェムト秒レーザー22のシャッタ等の各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。すなわち、コンピュータ本体32は次の機能を有している。
【0025】
図5は実施例1の分析装置で可能な分析モードの説明図であり、図5Aは統合分析モードの説明図、図5Bは混合分析モードの説明図、図5Cはイメージング分析モードの説明図、図5Dは定量分析モードの説明図である。
C1:分析モードの判別手段
分析モードの判別手段C1は、キーボード34やマウス35からの入力に基づいて、分析を行うモードを判別する。図5において、実施例1の分析装置1では、図5Aに示す統合分析モードと、図5Bに示す混合分析モードと、図5Cに示すイメージング分析モードと、図5Dに示す定量分析モードとが可能に構成されている。
【0026】
図5Aにおいて、統合(integration)分析モードでは、試料Sの所定の位置を高速でアブレーションしていくことで、試料Sのアブレーションした領域全体の化学組成を統合して、質量分析計2で分析を行う。したがって、アブレーションされた領域の化学組成の平均量が測定される。
図5Bにおいて、混合(mixing)分析モードでは、複数の試料Sまたは1つの試料の複数の箇所を交互に高速でアブレーションすることで、2つの試料Sまたは複数の箇所の化学組成を混合して測定される。なお、混合分析モードでは、2つの試料Sを混合する場合、一方の試料と他方の試料で、アブレーションする回数(スポットの数)を変えることで、混合比率を変えることも可能である。すなわち、一方の試料を5回アブレーションする度に、他方の試料を1回アブレーションすることで、5:1の割合で混合することも可能である。これは、他方の試料が標準試料(予め化学組成が既知の試料)を使用する場合に、標準試料が測定の基準となるので、特に好適に利用可能である。
【0027】
図5Cにおいて、イメージング(elemental imaging)分析モードでは、試料Sの所定の領域を順に低速でアブレーションしていくことで、試料Sのアブレーションされた位置(スポット、分析位置)のそれぞれの化学組成を個別に測定、分析することが可能である。すなわち、所定の領域における化学組成の分布を地図状に分析、測定することが可能である。
図5Dにおいて、定量(Quantitative Imaging)分析モードは、分析対象の試料S1の分析領域と、標準試料S2とを交互にアブレーションすることで、分析領域の各スポットの化学組成を標準試料に対する比率で分析が可能であり、定量分析が可能である。
【0028】
C2:レーザー光の出力間隔の制御手段
レーザー光の出力間隔の制御手段C2は、分析モードに応じて、フェムト秒レーザー光22aの出力間隔(周波数)を制御する。実施例1では、統合分析モードと混合分析モードが選択された場合は、高速(高頻度、1000Hz)でフェムト秒レーザー光22aを出力し、イメージング分析モードや定量分析モードが選択された場合は、低速(低頻度、10~500Hz)でフェムト秒レーザー光22aを出力する。
【0029】
C3:照射制御手段
照射制御手段C3は、第1ガルバノモータの制御手段C3Aと、第2ガルバノモータの制御手段C3Bとを有し、各ガルバノモータ24b,25bを制御して、各ガルバノミラー24,25の反射角を変更して、試料Sの目的の分析位置にフェムト秒レーザー光22aを照射させる。
第1ガルバノモータの制御手段C3Aは、試料Sの分析位置のX座標に基づいて、第1ガルバノモータ24bを制御して、第1ガルバノミラー24の反射角を制御する。第2ガルバノモータの制御手段C3Bは、試料Sの分析位置のY座標に基づいて、第2ガルバノモータ25bを制御して、第2ガルバノミラー25の反射角を制御する。なお、各ガルバノモータの制御手段C3A,C3Bは、分析位置に応じて各ガルバノモータ24b,25bを駆動する場合に、各ガルバノモータ24b,25bを停止する位置に向けて駆動した後に、停止位置に停止させる際に停止位置に向けて移動する方向とは逆方向の駆動(カウンター駆動)を行って、各ガルバノミラー24,25を停止位置に停止させる。なお、ガルバノモータ24b,25bは、フェムト秒レーザー光22aの出力間隔(周波数)に対応して、高速(1000Hz)で照射位置を変更可能である。
【0030】
C4:分析結果の処理手段
分析結果の処理手段C4は、質量分析計2からの信号を処理して、ディスプレイ33に表示する。実施例1の分析結果の処理手段C4は、統合分析モードや混合分析モードでは、測定された化学組成の分析結果を表示し、イメージング分析モードや定量分析モードでは、アブレーションされた領域のマップ画像とマップ上の各分析位置が選択された場合に化学組成を表示する画像とを表示する。
【0031】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の分析装置1では、試料Sにおいて目的の分析位置をアブレーションする場合、ガルバノ光学系23でフェムト秒レーザー光22aが照射される位置が制御される。ここで、実施例1のガルバノ光学系23は、2つのガルバノミラー24,25が、ガルバノモータ24b,25bでそれぞれ独立して制御される(2軸制御)。したがって、試料Sにおいて2次元上の任意の位置をアブレーションして、測定、分析することが可能である。よって、従来技術のように、試料を直線に沿って並べる必要がなくなる。したがって、実施例1の分析装置1は、従来の構成に比べて、試料Sを設置する位置や分析可能な位置を広くすることができる。
また、従来技術では、分析したい位置が直線上に並べられない場合は、分析したい目的の位置を、レーザが照射可能な位置(直線上)に置き直して分析する必要があり、分析全体の時間が長くなる問題があった。これに対して、実施例1では、2次元上の任意の位置にフェムト秒レーザー光22aを照射可能であり、試料Sを置き直すことが減り、分析全体の時間を短くすることができる。
【0032】
図6はセルから導出されたエアロゾルに含まれるアブレーションされた試料の分布の説明図である。
また、実施例1の分析装置1では、分析モードに応じて、フェムト秒レーザー光22aを照射する間隔が変更される。アブレーションされた試料は、キャリアガスによりエアロゾルとしてセル11から導出されるが、フェムト秒レーザー光22aの照射間隔が短い場合は、ガルバノ光学系23も連動して高速で移動し、複数の分析位置が短時間でアブレーションされる。したがって、図6において、導出されたエアロゾルは、ガス流れ方向に沿って領域51を区分けすると、各領域51に同時期にアブレーションされた試料が混在することとなる。したがって、複数の領域からアブレーションされた試料が混在した状態で質量分析計2に送られることとなり、平均値(統合分析モード)や混合されて(混合分析モード)検出される。
一方、フェムト秒レーザー光22aの照射間隔が長い場合は、複数の分析位置がある程度の時間間隔をあけてアブレーションされる。したがって、各領域51には、分析位置それぞれでアブレーションされた試料が個別に存在した状態のまま質量分析計2に送られる。したがって、各分析位置の化学組成を個別に測定、分析できる(イメージング分析モード、定量分析モード)。
【0033】
よって、実施例1では、フェムト秒レーザー光22aを照射する間隔、周波数を変更することで、1つの分析装置1でさまざまな分析を行うことができる。
さらに、実施例1の分析装置1では、混合分析モードでは、一方の試料と他方の試料で照射するスポットの比率を変えることで混合比率を変えることができる。したがって、混合比率が変えられない従来技術に比べて、利用者が分析を行いたい任意の混合比率で分析を行うこともできる。
また、実施例1の分析装置1では、ガルバノミラー24,25を分析位置に対応する停止位置で停止させる際に、ガルバノモータ24b,25bでカウンター駆動を行っている。カウンター駆動を行わずにガルバノモータ24b,25bを停止させると、ガルバノミラー24,25の位置が慣性で停止位置から行きすぎてしまう(オーバーシュートする)恐れがある。オーバーシュートが発生すると、フェムト秒レーザー光22aが分析位置に正確に照射されず、分析精度が低下する問題がある。これに対して、実施例1では、カウンター駆動でガルバノミラー24,25を停止位置に正確に停止させることができる。したがって、カウンター駆動を行わない場合に比べて、分析精度を向上させることができる。
【0034】
図7は従来のセルにおけるガスの流れる領域の説明図である。
図7において、セル11に拡散部44が設けられていない従来技術では、収容部01に支持された試料02に対して、粘性の低いHeガスが使用されると、拡散しにくく、導入部01aから導出部01bに向かうほぼ直線状の領域03しかキャリアガスが流れない。したがって、ガスが流れる領域03の外側の領域04では、試料02がアブレーションされてもキャリアガスでほとんど送られず、測定が困難である。したがって、従来は、領域03上に試料02の分析対象位置が来るように試料02を設置する必要があった。よって、従来技術では、試料02の広い範囲を測定することができず、試料02の位置を変えるために置き換え等をすると、分析に時間がかかる問題があった。
これに対して、実施例1の分析装置1では、セル11に拡散部44が設けられている。したがって、キャリアガスとして粘性の低いHeガスが導入されても、図3に示すように、ガス流れ方向(X方向)に交差する幅方向(Y方向)に拡散し、ほぼ一様に流れる。よって、試料Sの広い範囲を対象として、アブレーションされた試料Sを下流側に送ることが可能である。したがって、試料Sの置き換え等の必要がなく、分析にかかる時間を短縮できる。
【0035】
(拡散部の変更例)
図8はセルの拡散部の変更例の説明図であり、図8Aは変更例1の説明図、図8Bは変更例2の説明図である。
前記実施例において、図3に示すようにガラスビーズ44cを使用する拡散部44を例示したがこれに限定されない。図8Aに示すように、拡散部44として、ガス流れ方向の下流側に末広がりとなる衝立状の拡散壁44dを複数配置する構成とすることも可能である。また、図8Bに示すように、キャリアガスを通過させるが、流路抵抗となるフィルタ部材44eを複数設置する構成とすることも可能である。
なお、図8に例示した構成の他にも、導入されるキャリアガスの流路抵抗となる部材を配置することで、ガスの流れを幅方向(Y方向)に拡散可能な任意の構成を採用可能である。
【0036】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H08)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、試料Sとして、1つの試料または2つの試料の場合を例示したが、3つ以上とすることも可能である。
(H02)前記実施例において、ガルバノ光学系23は、2軸制御の構成を例示したが、3軸以上の構成とすることも可能である。
【0037】
(H03)前記実施例において、具体的な形状については、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。例えば、セル11の収容部41の形状等は任意に変更可能である。
(H04)前記実施例において、拡散部44にガラスビーズ44cを使用することが好ましいが、ガラス以外の材料を使用することも可能である。例えば、金属製の粒(ビーズ)やプラスチック製のビーズを使用することも可能である。なお、プラスチックビーズを使用すると、プラスチックビーズに付着した水銀(Hg)が質量分析計で検出されやすいため、ガラスビーズを使用することが望ましい。
(H05)前記実施例において、キャリアガスとしてHeガスを使用することが好ましいが、これに限定されない。分析対象の試料の種類や要求される精度等に応じて、例えば、水素ガスやネオンガス、アルゴンガス等に変更可能である。
【0038】
(H06)前記実施例において、4つの分析モードが可能な構成を例示したが、これに限定されない。分析モードが1つまたは2つあるいは3つの構成とすることも可能であるし、5つ以上のモードを有する構成とすることも可能である。よって、分析モードが1つしかない場合や、実行可能な分析モードでフェムト秒レーザー光22aの照射間隔が共通の場合、照射間隔を調整しない、すなわち、フェムト秒レーザー22のシャッタを有しない構成とすることも可能である。
(H07)前記実施例において、フェムト秒レーザー光22aの照射間隔を調整する構成として、シャッタを使用する構成を例示したがこれに限定されない。例えば、フェムト秒レーザー22とガルバノ光学系23との間にフェムト秒レーザー光22aを試料Sに照射されない方向に反射する遮蔽用の光学系を配置したり、ガルバノ光学系23で試料Sに照射しない方向に反射するように構成することも不可能ではない。
(H08)前記実施例において、粘性の比較的高いキャリアガスを使用する場合は拡散部を有しない構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…分析装置、
2…誘導結合プラズマ質量分析装置、
11…セル、
21…レーザーアブレーション装置、
22…レーザー光源、
22a…レーザー光、
23…光学系、
24…第1のミラー、
24a…第1の軸、
24b…第1の駆動源、
25…第2のミラー、
25a…第2の軸、
25b…第2の駆動源、
C3…照射制御手段、
S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8