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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】歯科用印象材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220927BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220927BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220927BHJP
   C08K 5/45 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20220927BHJP
   A61K 6/70 20200101ALI20220927BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20220927BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/00
C08K5/45
A61K6/76
A61K6/70
A61K6/60
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020520531
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2018077425
(87)【国際公開番号】W WO2019072816
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-31
(31)【優先権主張番号】17196314.3
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502289695
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ジラト,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン,マージョリー
(72)【発明者】
【氏名】フィードラー,ユルゲン・ハー
(72)【発明者】
【氏名】ラレヴェ,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】キルシュナー,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ペラルト,ラウラ
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-503591(JP,A)
【文献】米国特許第06376569(US,B1)
【文献】特表2008-508382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0033071(US,A1)
【文献】特開平02-107668(JP,A)
【文献】米国特許第04916169(US,A)
【文献】特開平03-028269(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00398701(EP,A2)
【文献】特開2016-079190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08L 83/05
C08K 3/00
C08K 5/45
A61K 6/76
A61K 6/70
A61K 6/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200~800nmの範囲の波長を有する光により硬化するように適合した歯科用印象材料であって、
(i)1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物と、
(ii)少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有し、任意の1つのケイ素原子に結合している4つ以上の水素原子を有さない化合物と、
(iii)粒子状充填剤と、
(iv)光活性型金属触媒成分と、
(v)環状オリゴマー又はポリマーメチルビニルシロキサンである遅延剤と、
(vi)光増感剤とを含み、
(i)は下記式(XII’):
【化3】

[式中、R14’は同じであり、直鎖C1-4又はC3-4分岐鎖アルキル基を表わし、R14’’は同じであり、ビニル、プロペニル、クロロビニル及び5-ヘキセニルからなる群より選択される脂肪族不飽和基を表わし、e’は50~400の整数を表わす。]
で示される直鎖有機シロキサンであり、
(ii)は少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する直鎖又は分岐鎖有機ヒドロシロキサンであって、下記式(XVII):
(R184-jSi(R19
(XVII)
[式中、R18は、下記式(XVIII):
【化6】

で示される基である。式(XVII)及び(XVIII)において、R19は、同じであっても異なっていてもよく、独立に水素原子、直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、アリール基を表わす。ただし、少なくとも1つのR19は水素原子を表わし、jは0又は1~3の整数であり、kは1~3000の整数を表わす。]
を有し、
(iv)光活性型金属触媒成分が、Karstedt触媒又は下記式:
【化10】

[式中、R 、及びR はそれぞれ独立に、メチル基、フェニル基、又はトリフルオロメチル基を表す。]
で表されるプラチナ錯体を含有する、歯科用印象材料。
【請求項2】
前記光活性型金属触媒成分が、白金(II)アセチルアセトナート又はKarstedt触媒を含有する、請求項1記載の歯科用印象材料。
【請求項3】
さらに、安定剤を含む、請求項1又は2記載の歯科用印象材料。
【請求項4】
前記光増感剤が、2-イソプロピルチオキサントン及び1-クロロ-4-プロポキシ-9H-チオキサンテン-9-オンから選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の歯科用印象材料。
【請求項5】
2パック組成物である、請求項1~4のいずれか一項記載の歯科用印象材料。
【請求項6】
前記成分(i)の1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物が、5000Da超の分子量を有する直鎖ビニル基含有ポリメチルシロキサンであり、前記成分(v)の遅延剤が、最大5000Daの分子量を有する環状ビニル基含有ポリメチルシロキサンである、請求項1~5のいずれか一項記載の歯科用印象材料。
【請求項7】
(a)請求項1~4のいずれか1項記載の歯科用印象材料を提供することと、
(b)歯の構造の印象を取得することと、
(c)200~800nmの範囲の波長を有する光により前記歯科用印象材料を硬化させることとを含む、
歯科用印象を製造するための方法。
【請求項8】
歯科用印象の製造のための、請求項1~5のいずれか1項記載の歯科用印象材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、200~800nmの範囲の波長を有する光により硬化するように適合した歯科用印象材料に関する。歯科用印象材料は、1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物と、少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有し、任意の1つのケイ素原子に結合している4つ以上の水素原子を有さない化合物と、光活性型金属触媒成分と、遅延剤と、任意選択的に、特定の光増感成分とを含む。具体的には、本発明の歯科用印象材料は、光ヒドロシリル化プロセスにより硬化する。
【0002】
本発明の歯科用印象材料は、貯蔵安定性2パック組成物として提供することができる。組成物の照射により、間接歯科用修復物の調製に適した機械的特性を有する歯科用印象が提供される。
【0003】
発明の背景
歯科用印象は、硬い歯と軟らかい歯系組織とのネガ印象である。歯科用印象は、歯及び軟組織のポジ再現物を調製するのに使用される。
【0004】
この目的で、適切な液体~半固体/延性のコンシステンシーを有する歯科用印象材料が充填された容器が、歯列弓を覆うように配置される。ついで、歯科用印象材料を硬化させ、ネガ印象を残す。硬化を、歯科用印象材料の2つ以上の成分を混合することにより開始することができる。代替的に又は付加的に、硬化を、光の照射により開始することができる。
【0005】
現在の歯科用印象材料の中で、1つの一般的なタイプは、1つ以上のケイ素原子を含有する硬化型化合物、例えば、シラン及び/又はシロキサン、典型的には、ポリオルガノシロキサン(シリコーン)に基づいている。
【0006】
WO第93/26748号には、a)ビニル基を含有するQM樹脂と、b)約0.16~0.24m-mole/g ビニル含有量を有する分散液を前記QM樹脂と共に形成する直鎖ビニル末端ポリジメチルシロキサン流体と、c)前記ビニル基を架橋するための有機水素ポリシロキサンと、d)重合を促進するための有機白金触媒錯体とを含む、歯科用印象を調製するための重合性ポリオルガノシロキサン組成物が開示されている。QM樹脂は、SiO4/2単位及びR(RSiO1/2単位(式中、Rは不飽和であり、好ましくは、ビニルであり、Rは、アルキル又はアリールである)を含むポリオルガノシロキサン樹脂である。有機白金触媒錯体は、(水素原子に結合している)ケイ素原子のビニル基への反応を触媒するのに有用な触媒である。好ましい有機白金触媒錯体は、白金金属単独又はパラジウム、ロジウムを含む他の貴金属と組み合わせた錯体又は塩である。最も好ましい有機白金触媒錯体として、好ましくは、1つ以上のビニル材料、例えば、ビニルポリシロキサン(例えば、テトラメチルジビニルジシロキサン)との混合物又は錯体にあるクロロ白金酸(HPtCl)が開示されている。重合性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化は、有機白金触媒錯体のペーストを組成物の残りの成分と混合することにより開始される。WO第93/26748号には、光の照射により硬化される組成物の適合については言及されていない。
【0007】
EP第0398701号及びUS第5,145,886号には、ケイ素結合水素を含有する化合物と脂肪族不飽和を含有する化合物とを、白金(II)β-ジケトナート錯体触媒の存在下、200~800nmの波長を有する化学線下で反応させることを含むヒドロシリル化プロセスにより調製されるポリシロキサン組成物が開示されている。実験例では、約366nmの波長又は400~500nmの範囲内の波長を有する光を照射することにより組成物を硬化させ、照射時間に基づく硬化深さが決定された。ポリシロキサン組成物は、中でも、歯科用印象を調製するのに使用することができることが開示されている。
【0008】
特開2017-57270号公報には、歯科用補綴を調製するための組成物を開示されており、この組成物は、(メタ)アクリル基含有オルガノポリシロキサンを含み、残基R~Rn+7は、有機基又はシロキサン鎖であり、このうちの少なくとも1つは、(メタ)アクリル基である。特開2017-57270号公報には、ケイ素結合水素を有する化合物又はヒドロシリル化反応を触媒するための化合物は開示されていない。
【0009】
US第5,403,885号には、直鎖オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び付加反応を促進するための触媒を含む、透明で素早く硬化するポリシロキサン付加架橋組成物が開示されている。直鎖オルガノポリシオキサンは、ビニル基を含むことができるが、ケイ素原子に結合している水素原子を含有せず、オルガノヒドロジェンポリシロキサンは、その分子中に少なくとも2つのケイ素原子に水素原子を有するポリジメチルシロキサンドである。触媒は、ヘキサクロロ白金酸から調製された白金錯体、具体的には、白金とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体である。
【0010】
特開平09-002916号公報には、ビニル基とヒドロシリル基との反応により硬化して得られるシリコーンゴムからなるコア材料が開示されている。ビニル基は、ポリオルガノシロキサンにより提供され、ヒドロシリル基は、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンにより提供される。ビニル基とヒドロシリル基とを反応させるための触媒は、クロロ白金酸とアルコールとの結果物を表わす白金化合物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体、具体的には、クロロ白金酸を1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンと反応させることにより調製される白金-ビニルシロキサン錯体である。
【0011】
US第5,403,885号及び特開平09-002916号公報において、ヒドロシリル化反応を開始するための触媒は光活性型ではない。むしろ、これらの文献には、ヒドロシリル化反応が2つ以上のパート又は組成物を混合することにより開始されることが開示されている。
【0012】
EP第0358452号には、ケイ素結合水素を含有する化合物と脂肪族不飽和を含有する化合物との反応を含むハイドロシリル化プロセスが開示されている。白金錯体は、可視放射線活性化ヒドロシリル化反応を開始するのに使用される。EP第0358452号には、歯に可視光硬化型ポリビニルシロキサン配合物を塗装し、照射し、照射工程の直後に、隣接する複数の歯及び光で先に照射されたものを含む複数の歯の両方を覆うように2パート化学硬化型印象材料をシリンジにより直接適用することにより、歯科用印象から調製された改善された詳細が示唆されている。EP第0358452号には、追加の2パート化学硬化型印象材料を使用しない、歯科用印象の調製が開示されていない。
【0013】
発明の概要
本発明の課題は、200~800nmの範囲の波長を有する光により硬化するように適合した歯科用印象材料を提供することである。この歯科用印象材料は、1つ以上のケイ素原子を含有し、可視光により硬化するように適合した硬化型化合物に基づいている従来の歯科用印象材料と比較して改善されている。特に、本歯科用印象材料は、下記特徴:
-重合効率が、高い変換率及び良好な硬化速度の点で改善される、
-硬化深さが改善される、
-好ましくは、さらに、機械的特性、例えば、引張強度及び引裂強度が改善される
に鑑みて改善される。
【0014】
さらに、本発明の課題は、本発明の歯科用印象材料を調製するための方法を提供することであり、さらに、特に、2パート化学硬化型印象材料を使用せずに、歯科用印象を調製するための、本発明の歯科用印象材料の使用を提供することである。
【0015】
本発明は、200~800nmの範囲の光により硬化するように適合した歯科用印象材料であって、
(i)1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物と、
(ii)少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有し、任意の1つのケイ素原子に結合している4つ以上の水素原子を有さない化合物と、
(iii)粒子状充填剤と、
(iv)光活性型金属触媒成分と、
(v)遅延剤と、
(vi)任意選択的に、光増感剤とを含む、歯科用印象材料を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、
(a)本発明の歯科用印象材料を提供することと、
(b)歯の構造の印象を取得することと、
(c)200~800nmの範囲の波長を有する光により該印象材料を硬化させることとを含む、歯科用印象を製造するための方法を提供する。
【0017】
最後に、本発明は、特に、2パート化学硬化型印象材料を使用しない、歯科用印象の製造のための、本発明の歯科用印象材料の使用を提供する。
【0018】
本発明は、成分(i)~(v)及び場合により、(vi)を含む本発明の歯科用印象材料が、高い変換率及び良好な硬化速度の点で改善された重合効率、改善された硬化深さ、好ましくは、さらに、改善された機械的特性、例えば、引張強度及び引裂強度を提供するという認識に基づいている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、光硬化型サンプルの照射に使用された照射源、すなわち、405nmを中心とする発光ダイオード(LED)(ThorLab製のM405L2;約110W/cm2)の発光スペクトルを示す。
図2a図2a、図2b及び図2cは、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)中の、白金アセチルアセトナート(Pt(acac))、トリメチル(シクロペンタジエニル)白金(IV)(MeCpPt(Me))及び白金(0)-1,3,ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(Karstedt触媒)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図2b図2a、図2b及び図2cは、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)中の、白金アセチルアセトナート(Pt(acac))、トリメチル(シクロペンタジエニル)白金(IV)(MeCpPt(Me))及び白金(0)-1,3,ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(Karstedt触媒)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図2c図2a、図2b及び図2cは、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)中の、白金アセチルアセトナート(Pt(acac))、トリメチル(シクロペンタジエニル)白金(IV)(MeCpPt(Me))及び白金(0)-1,3,ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(Karstedt触媒)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図3図3は、光活性型触媒成分Pt(acac)単独の存在下でのシロキサン液のヒドロシリル化が、光(405nmのLED)への露光時にのみ開始し、露光開始時から重合開始まで約50秒の阻害があることを示す。 -曲線(1):光への露光は、t=100秒で開始 -曲線(2):光への露光は、t=600秒で開始
図4図4は、下記光活性型触媒成分について、405nmのLEDへの露光時のシロキサン液のヒドロシリル化プロファイルを示す。 曲線(1):Pt(acac)(0.067%w/w);及び 曲線(2):Pt(acac)及び9,10-ジブトキシアントラセン(DBA) 図4は、下記光活性型触媒成分について、405nmのLEDへの露光時のシロキサン液のヒドロシリル化プロファイルを示す。 -曲線(1):1,3-ジオキソラン(4.6%w/w)中のPt(acac)(0.011%w/w)及び2-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸(2dppba)(0.011%w/w); -曲線(2)=参照:1,3-ジオキソラン(4.6%w/w)中のPt(acac)2(0.011%w/w);及び -曲線(3):1,3-ジオキソラン(4.6%w/w)中のPt(acac)2(0.0095%w/w)及び1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ECH)(0.005%w/w)
図5図5は、光活性型触媒成分Karstedtの触媒溶液の存在下、露光なし(曲線(1)を参照のこと)及び405nmのLEDへの露光時(曲線(2)を参照のこと)のシロキサン液のヒドロシリル化プロファイルを示す。
図6図6は、下記条件下でのシロキサン液のヒドロシリル化プロファイルを示す。 -曲線(1):光活性型触媒成分は、Karstedt触媒溶液のみであり、露光なし;及び -曲線(2):光活性型触媒成分は、Karstedt触媒溶液及び2-イソプロピルチオキサントン(ITX)であり、405nmのLEDへの露光
図7図7は、下記期間、405nmのLEDへの露光時のトルエン中のMeCpPt(Me)の光分解を示す。 -曲線(1):0秒; -曲線(2):30秒; -曲線(3):40秒;及び -曲線(4):120秒
図8a図8a及び図8bは、図8aに示されている構造の異なるプラチナ錯体の光吸収特性を示す。ここで、図8bでは、計算された吸収極大及び実験で決定された吸収極大λmax[nm]が、互いにプロットされている。
図8b図8a及び図8bは、図8aに示されている構造の異なるプラチナ錯体の光吸収特性を示す。ここで、図8bでは、計算された吸収極大及び実験で決定された吸収極大λmax[nm]が、互いにプロットされている。
【0020】
好ましい実施態様の詳細な説明
本明細書で使用する場合、「光により硬化するように適合した」という用語は、本歯科用印象材において、200~800nmの波長を有する光、好ましくは、400~800nmの範囲の波長を有する可視光を照射すると、(i)及び(ii)の化合物間で反応、好ましくは、重合が開始されることを意味する。光照射により開始される(i)及び(ii)の化合物間の反応は、主に、(i)の化合物と(ii)の化合物との間のヒドロシリル化反応により行われる。「ヒドロシリル化反応」という用語は、シラン、例えば、(ii)の化合物の、例えば、(i)の化合物の不飽和結合間での付加反応を意味する。この付加反応により、Si-C結合が形成される。ヒドロシリル化反応は、可視光を照射すると、光活性型触媒成分(iv)の活性化により開始される。(i)及び(ii)の化合物間の反応により、(i)及び(ii)の化合物の多数の相対的に小さい分子の共有結合による組み合わせがもたらされ、より大きな分子、好ましくは、巨大分子、例えば、オリゴマー又はポリマーが形成される。(i)及び(ii)の化合物は、直鎖(巨大)分子のみを形成するように組み合わせることができ又はそれらを組み合わせて、一般的に、架橋ポリマーと呼ばれる三次元巨大分子を形成することができる。
【0021】
(i)の化合物に関連して使用される「脂肪族不飽和基」という用語は、1つ以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合を含有する任意の有機基、例えば、アルケニル及びアルキニル基、例えば、ビニル基又はエチニル基を意味する。
【0022】
「光活性型金属触媒成分」という用語は、光、好ましくは、可視光への暴露により活性化される、(i)及び(ii)の化合物間のヒドロシリル化反応を触媒する任意の金属化合物を包含する。「可視光」という用語は、約400nm~約800nmの範囲内の波長を有する光を包含する。
【0023】
「光増感剤」という用語は、活性化されると、光単独への暴露により又は光化学プロセスにおいて電子供与体化合物と相互作用して、フリーラジカルを形成する任意の化合物を包含する。(vi)の光増感剤は、(iv)の光活性型金属触媒成分の共開始剤として作用することにより、ヒドロシリル化反応の硬化速度をさらに改善することができる。
【0024】
本発明は、歯科用印象材料に関する。歯科用印象材料は、歯科用修復物、例えば、充填物、歯科用補綴、矯正歯科又は任意の他の口腔内もしくは口腔外顎顔面補綴の歯科用修復物を調製するのに使用することができる。
【0025】
(i)及び(ii)の化合物
本歯科用印象材料は、(i)1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物を含む。歯科用印象材料は、1つ以上の脂肪族不飽和基を有する1種の化合物(i)又は2種以上の化合物(i)の混合物を含むことができる。好ましくは、1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物は、5000Da超の分子量を有する化合物である。
【0026】
(i)の化合物に関連して使用される「脂肪族不飽和基」という用語は、直鎖、分枝鎖又は環状アルケニル又はアルキニル基を意味する。好ましくは、脂肪族不飽和基は、直鎖C2-18又は分岐鎖もしくは環状C3-18アルケニル基又は直鎖C2-18又は分岐鎖C4-18アルキニル基、より好ましくは、直鎖C2-12又は分岐鎖もしくは環状C3-12アルケニル基、最も好ましくは、直鎖C2-6又は分岐鎖もしくは環状C3-6アルケニル基である。アルケニル基又はアルキニル基は、1つ以上のハロゲン原子(F、Cl、Br、I)で場合により置換されていることができる。
【0027】
(i)の化合物において、脂肪族不飽和基は、好ましくは、ビニル、クロロビニル、プロペニル及び5-ヘキセニルからなる群より選択され、最も好ましくは、脂肪族不飽和基は、ビニルである。
【0028】
1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物(i)は、直鎖、分岐鎖もしくは環状炭化水素化合物、直鎖もしくは分岐鎖シラン又は直鎖、分岐鎖もしくは環状有機シロキサンであることができる。
【0029】
1つ以上の脂肪族不飽和基を有する直鎖、分枝鎖又は環状炭化水素化合物は、好ましくは、アルケン又はアルキンである。直鎖C2-30又は分岐鎖もしくは環状C3-30アルケン又はC2-30もしくは分岐鎖C4-30アルキンが好ましく、より好ましくは、直鎖C2-20又は分岐鎖もしくは環状C3-20アルケン、最も好ましくは、直鎖C2-8又は分岐鎖もしくは環状C3-8アルケンである。これらのアルケン又はアルキンは、場合により、芳香族基、例えば、ベンゼン及び/又はヘテロ原子、好ましくは、酸素原子又は窒素原子、より好ましくは、オキソ-エーテル基、カルボン酸エステル基又はニトリル基を含有することができる。さらに、このような炭化水素化合物は、1つ以上のハロゲン原子(F、Cl、Br、I)で置換されていることができる。
【0030】
例えば、好ましい炭化水素化合物は、ヘキセン、ヘプテン又はオクテン、1,5-ヘキサジエン、シクロヘキセン及びシクロヘプテン、ジビニルベンゼン、メチルビニルエーテル、ジビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、エチレングリコールのモノアリルエーテル、アリルアルデヒド、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリラート、アリル(メタ)アクリラート、ビニル酢酸、酢酸ビニル、リノレン酸、ジヒドロフラン、ジヒドロピラン、アクリロニトリル、N-ビニルピロリドンである。2つ以上の脂肪族不飽和基を有する炭化水素化合物、例えば、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン又はジビニルエーテルが最も好ましい。
【0031】
「シラン」という用語は、1つのケイ素原子又は互いに結合している2つ以上のケイ素原子を含有する化合物を包含する。
【0032】
「シロキサン」という用語は、交互のケイ素原子及び酸素原子の鎖、例えば、-Si-O-Si-、-Si-O-Si-O-、-Si-O-Si-O-Si-O-(式中、ケイ素原子の置換基は省略されている)等を含有する化合物を包含する。
【0033】
1つ以上の脂肪族不飽和基を有するシランは、好ましくは、式(X):
(R10(R11Si(R124-a-b
(X)
[式中、R12は、下記式(XI):
【化1】

で示される基である]
を有する。
【0034】
式(X)において、R10は、脂肪族不飽和基、フルオロ原子、直鎖、分枝鎖又は環状アルキル基、アリール基を表わし、同アルキル基又はアリール基は、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)から選択される1つ以上の基により場合により置換されていることができ、ただし、少なくとも1つのR10は、脂肪族不飽和基を表わし;R11は、クロロ、ブロモ又はヨード原子、アルキル-、アリール-もしくはアリールアルキル-オキシ基又はアルキル-、アリール-もしくはアリールアルキル-アシルオキシ基を表わし;aは、0又は1~3の整数を表わし;bは、0又は1~3の整数を表わし、ただし、a及びbの合計は、4以下であるという条件である。
【0035】
式(XI)において、Rは、式(X)について上で定義されたR10又はR11を表わし、cは、1~7の整数、好ましくは、1~4の整数であり、最も好ましくは、cは、1又は2である。
【0036】
式(X)のR11について、アルキル-、アリールもしくはアリールアルキル-オキシ基又は-アシルオキシ基は、好ましくは、直鎖C1-6、分枝鎖又は環状C3-6アルキル、C6-10アリール又はC7-16アリールアルキル オキシ基又は-アシルオキシ基から選択される。例えば、好ましいアルキル-、アリール又はアリールアルキル-オキシ基は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、例えば、イソプロポキシ、ブトキシ、例えば、tert-ブトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシであり、好ましいアルキル-、アリール又はアリールアルキル-アシルオキシ基は、アセトキシ、プロピオノキシ、例えば、イソプロピオノキシ及びベンゾイルオキシである。
【0037】
式(X)において、R10、R11及びR12はそれぞれ、単結合によりケイ素原子と結合している。
【0038】
好ましくは、式(X)において、a及びbの合計は、4であり、最も好ましくは、aは、4である。すなわち、式(X)の好ましいシランは、モノシランである。
【0039】
1つ以上の脂肪族不飽和基を有する直鎖又は分岐鎖有機シロキサンは、好ましくは、下記式(XII):
(R134-dSi(R14
(XII)
[式中、R13は、下記式(XIII):
【化2】

で示される基である]
を有する。
【0040】
式(XII)及び(XIII)において、R14は、同じか又は異なることができ、脂肪族不飽和基、直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、アリール基を独立して表わす。同アルキル基又はアリール基は、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)から選択される1つ以上の基により場合により置換されていることができる。ただし、少なくとも1つのR14は、脂肪族不飽和基を表わし、dは、0又は1~3の整数であり、eは、1~3000の整数を表わす。
【0041】
式(XII)で示される直鎖有機シロキサンにおいて、dは、2又は3であり、式(XII)で示される分岐鎖有機ヒドロシロキサンにおいて、dは、0又は1である。dが2又は3である式(XII)で示される直鎖有機ヒドロシロキサンが好ましく、dが3である式(XII)で示される直鎖有機ヒドロシロキサンが最も好ましい。
【0042】
好ましくは、式(XII)で示される有機シロキサンにおいて、R14は、同じか又は異なることができ、脂肪族不飽和基、直鎖C1-18、C3-18分岐鎖又はC3-12環状アルキル基、C6-12アリール基を独立して表わす。同アルキル又はアリール基は、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基又はハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)から選択される1つ以上の基により場合により置換されていることができ、dは、0又は1~3の整数であり、eは、1~1000の整数を表わす。より好ましくは、R14は、同じか又は異なることができ、直鎖C3-6又は分岐鎖もしくは環状C3-6アルケニル基から選択される脂肪族不飽和基を表わし、同アルケニル基は、1つ以上のハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、直鎖C1-9、C3-9分岐鎖アルキル基、C5-10シクロアルキル基又はC6-10アリール基により場合により置換されていることができ、dは、2又は3であり、eは、2~500の整数を表わす。さらにより好ましくは、R14は、同じか又は異なることができ、ビニル、プロペニル、クロロビニル及び5-ヘキセニルからなる群より選択される脂肪族不飽和基、直鎖C1-4もしくはC3-4分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を独立して表わし、dは、3であり、eは、3~100の整数を表わす。最も好ましくは、R14は、同じか又は異なることができ、ビニルもしくはクロロビニルの形態の脂肪族不飽和基又は直鎖C1-4もしくはC3-4分岐アルキル基を独立して表わし、dは、3であり、eは、10~50の整数を表わす。
【0043】
式(XIII)において、単位-(R14Si-O-は、e-、e-、e-、e-回等についての異なる単位-(R14Si-O-の別個のブロックにおいて繰り返すことができる。ここで、eは、e、e、e、e等の合計である。例えば、第1のブロックは、[-(R14Si-O-]e1(式中、R14は同じである)であることができ、第2のブロックは、[-(R14Si-O-]e2(式中、R14は異なる)であることができる、等である。
【0044】
下記式(XII’):
【化3】

で示される直鎖有機シロキサン、特に、ビニル基含有ポリメチルシロキサンが最も好ましい。
【0045】
式中、R14’は、同じか又は異なることができ、直鎖C1-4もしくはC3-4分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を独立して表わし、R14’’は、同じか又は異なることができ、直鎖C2-6又は分岐鎖もしくは環状C3-6アルケニル基から選択される脂肪族不飽和基を表わし、同アルケニル基は、1つ以上のハロゲン原子(F、Cl、Br、I)により場合により置換されており、e’は、30~500の整数を表わす。より好ましくは、式(XIII’)において、R14’は同じであり、直鎖C1-4又はC3-4分岐鎖アルキル基を表わし、R14’’は同じであり、ビニル、プロペニル、クロロビニル及び5-ヘキセニルからなる群より選択される脂肪族不飽和基を表わし、e’は50~400の整数を表わし、最も好ましくは、R14’は同じであり、メチル基を表わし、R14’’は同じであり、ビニル又はクロロビニルの形態の脂肪族不飽和基を表わし、e’は、80~400の整数を表す。
【0046】
1つ以上の脂肪族不飽和基を有する環状有機シランは、好ましくは、下記式(XIV):
【化4】

[式中、R15は、式(XII)のR13又はR14について上記定義されたのと同じ意味を有し、好ましくは、R15は、式(XII)のR14について上記定義されたのと同じ意味を有し、fは、3~18、より好ましくは、4~12、最も好ましくは、5~10の整数である]
を有する。
【0047】
式(XIII)において、楕円線は、環状結合を示す。
【0048】
好ましくは、上記された式(X)、(XII)及び(XIV)のいずれか1つにおいて、全てのR14又はR15基の最大10分の1が、脂肪族不飽和基を表わす。
【0049】
(i)の化合物は、2つ以上の脂肪族不飽和基を有するのが好ましい。
【0050】
好ましくは、(i)の化合物は、式(XII)で示される直鎖又は分岐鎖有機シロキサンであり、より好ましくは、dが2又は3である式(XII)で示される直鎖有機シロキサンであり、最も好ましくは、式(XII’)で示される直鎖有機シロキサンである。
【0051】
(i)の化合物は、本歯科用印象材料中に、組成物全体の5~80重量%、より好ましくは、10~60重量%、最も好ましくは、15~45重量%の量で含有されるのが好ましい。さらに、本歯科用印象材料は、(ii)少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する化合物を含む。歯科用印象材料は、少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する1つの化合物(ii)又は2つ以上の化合物(ii)の混合物を含むことができる。
【0052】
少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する化合物(ii)は、有機もしくは無機シラン又は直鎖、分岐鎖もしくは環状有機ヒドロシロキサンであることができる。
【0053】
「シラン」という用語は、1つのケイ素原子又は互いに結合している2つ以上のケイ素原子を含有する化合物を包含する。
【0054】
「有機ヒドロシロキサン」という用語は、交互のケイ素原子及び酸素原子の鎖、例えば、-Si-O-Si-、-Si-O-Si-O-、-Si-O-Si-O-Si-O-(式中、ケイ素原子の置換基は省略されている)等を含有し、炭化水素基の形態の少なくとも1つの有機部分を含む化合物を包含する。
【0055】
少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する有機又は無機シランは、好ましくは、下記式(XV):
(R16(R17Si(R184-g-h
(XV)
[式中、R18は、下記式(XVI):
【化5】

で示される基である]
を有する。
【0056】
式(XV)において、R16は、同じか又は異なることができ、水素原子、フルオロ原子、直鎖、分枝鎖もしくは環状アルキル基、アリール基を独立して表わす。同アルキル又はアリール基は、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)から選択される1つ以上の基により場合により置換されていることができ、ただし、少なくとも1つのR16は、水素原子を表わし、R17は、クロロ、ブロモ又はヨード原子、アルキル-、アリール-もしくはアリールアルキル-オキシ基又はアルキル-、アリール-もしくはアリールアルキル-アシルオキシ基を表わし、gは、1~4の整数を表わし、hは、0又は1~3の整数を表わし、ただし、g及びhの合計は、4以下であるという条件である。
【0057】
式(XVI)において、R°は、式(XV)について上記定義されたR16又はR17を表わし、iは、1~7、好ましくは、1又は2の整数である。好ましくは、式(XV)において、g及びhの合計は、2~4、より好ましくは、3である。最も好ましくは、式(XV)において、g及びhの合計は、3であり、iは、1を表わす。
【0058】
式(XV)において、R16、R17及びR18はそれぞれ、単結合によりケイ素原子に結合している。
【0059】
式(XV)及び(XVI)のR17について、アルキル-、アリール又はアリールアルキル-オキシ基又は-アシルオキシ基は、好ましくは、直鎖C1-6、分岐鎖もしくは環状C3-6アルキル、C6-10アリール又はC7-16アリールアルキルオキシ基又は-アシルオキシ基から選択される。例えば、好ましいアルキル-、アリール又はアリールアルキル-オキシ基は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、例えば、イソプロポキシ、ブトキシ、例えば、tert-ブトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシであり、好ましいアルキル-、アリール又はアリールアルキル-アシルオキシ基は、アセトキシ、プロピオノキシ、例えば、イソプロピオノキシ及びベンゾイルオキシである。
【0060】
無機シランにおいて、式(XV)中、R16は、水素原子又はフッ素原子を表わし、R17は、Cl、Br又はIを表わす。すなわち、無機シランは、有機炭化水素基、例えば、アルキル基又はアリール基を含有しないものである。適切な無機シランは、例えば、ジブロモシラン、トリクロロシラン、ペンタクロロジシラン又はヘプタクロロトリシランである。
【0061】
少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する直鎖又は分岐鎖有機ヒドロシロキサンは、好ましくは、下記式(XVII):
(R184-jSi(R19
(XVII)
[式中、R18は、下記式(XVIII):
【化6】

で示される基である]
を有する。
【0062】
式(XVII)及び(XVIII)において、R19は、同じか又は異なることができ、水素原子、直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、アリール基を独立して表わす。同アルキル基又はアリール基は、ヒドロキシル基、アルコキシ基又はハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)から選択される1つ以上の基により場合により置換されていることができる。ただし、少なくとも1つのR19は、水素原子を表わし、jは、0又は1~3の整数であり、kは、1~3000の整数を表わす。
【0063】
式(XV)で示される直鎖有機シロキサンにおいて、jは、2又は3であり、式(XVI)で示される分岐鎖有機ヒドロシロキサンにおいて、jは、0又は1である。jが2又は3である式(XVII)で示される直鎖有機ヒドロシロキサンが好ましく、jが3である式(XVII)で示される直鎖有機ヒドロシロキサンが最も好ましい。
【0064】
式(XVII)で示される有機ヒドロシロキサンにおいて、全てのR19の最大半分が、水素原子を表わすことが好ましい。
【0065】
好ましくは、式(XVII)で示される有機ヒドロシロキサンにおいて、R19は、同じか又は異なることができ、水素原子、直鎖C1-18、C3-18分岐鎖もしくはC3-12環状アルキル基又はC6-12アリール基を独立して表わす。同アルキル基又はアリール基は、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基又はハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)から選択される1つ以上の基により場合により置換されていることができ、jは、0又は1~3の整数であり、kは、1~1000の整数を表わす。より好ましくは、R19は、同じか又は異なることができ、水素原子、直鎖C1-9もしくはC3-9分岐鎖アルキル基もしくはC5-10シクロアルキル基又はC6-10アリール基を独立して表わし、jは、2又は3であり、kは、2~500の整数を表わす。さらにより好ましくは、R19は、同じか又は異なることができ、水素原子、直鎖C1-4もしくはC3-4分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を独立して表わし、jは、3であり、kは、3~100の整数を表わす。最も好ましくは、R19は、同じか又は異なることができ、水素原子、直鎖C1-4もしくはC3-4分岐鎖アルキル基を独立して表わし、jは、3であり、kは、10~50の整数を表わす。
【0066】
式(XVIII)において、単位-(R19Si-O-は、k-、k-、k-、k-回等についての異なる単位-(-(R19Si-O-の別個のブロックにおいて繰り返すことができる。ここで、kは、e、e、e、e等の合計である。例えば、第1のブロックは、[-R19SiH-O-]k1であることができ、第2のブロックは、[-(R19Si-O-]k2(式中、R19は同じである)であることができ、第3のブロックは、[-(R19Si-O-]k3(式中、R19は異なる)であることができる、等である。
【0067】
下記式(XVII’):
【化7】

で示される直鎖有機ヒドロシロキサンが最も好ましい。
【0068】
式中、R19’は、同じか又は異なることができ、直鎖C1-4もしくはC3-4分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を独立して表わし、iは、3~50の整数を表わし、iは、0~50の整数を表わす。より好ましくは、式(XV’)において、R19’は同じであり、直鎖C1-4又はC3-4分岐鎖アルキル基を表わし、kは、5~40の整数を表わし、kは、5~45の整数を表わす。最も好ましくは、R19’は同じであり、メチル基を表わし、kは、8~40の整数を表わし、kは、10~30の整数を表わす。
【0069】
少なくとも1つのケイ素結合水素原子を含有する環状有機ヒドロシランは、好ましくは、下記式(XIX):
【化8】

[式中、R20は、式(XIX)で示されるR18又はR19について上記定義されたのと同じ意味を有し、好ましくは、R20は、式(XIX)で示されるR19について上記定義されたのと同じ意味を有し、lは、3~18の整数であり、好ましくは、lは、4~14の整数であり、より好ましくは、lは、6~10の整数である]
を有する。
【0070】
式(XIX)において、楕円線は、環状結合を示す。
【0071】
上記された式(XV)、(XVII)及び(XIX)のいずれか1つにおいて、4つ以下の水素原子が、式(XV)、(XVII)及び(XIX)のケイ素原子のいずれか1つに付着している。
【0072】
(ii)の化合物は、好ましくは、異なるケイ素原子に位置する2つ以上のケイ素結合水素原子を含有するのが好ましい。
【0073】
好ましくは、(ii)の化合物は、式(XII)で示される直鎖又は分岐鎖ヒドロシロキサン、より好ましくは、jが2又は3である式(XII)で示される直鎖有機ヒドロシロキサンであり、最も好ましくは、式(XII’)で示される直鎖有機ヒドロシロキサンである。
【0074】
(ii)の化合物は、本歯科用印象材料中に、組成物全体の5~80重量%、より好ましくは、10~60重量%、最も好ましくは、15~45重量%の量で含有されるのが好ましい。
【0075】
(i)の化合物は、2つ以上の脂肪族不飽和基を有し、(ii)の化合物は、2つ以上のケイ素結合水素原子を含有するのが好ましい。(i)及び(ii)の二官能又は多官能性化合物のこの組み合わせにより、ヒドロシリル化反応により形成されるポリマーの形成が可能になる。
【0076】
より好ましくは、2つ以上の脂肪族不飽和基を有する(i)の化合物と、2つ以上のケイ素結合水素原子を含有する(ii)の化合物との組み合わせにおいて、(i)の化合物のうちの少なくとも1つは、3つ以上の脂肪族不飽和基を有し及び/又は(ii)の化合物のうちの少なくとも1つは、3つ以上のケイ素結合水素原子を含有する。ヒドロシリル化反応のための3つ以上の官能基を有する(i)及び/又は(ii)の多官能性化合物のこの組み合わせにより、ヒドロシリル化反応による架橋ポリマーネットワ-クの形成が可能となる。
【0077】
スキ-ム1において、(i)及び(ii)の化合物間のヒドロシリル化反応を、式(XII’’)及び(XVII’)で示される化合物について例示的に示す。
【0078】
【化9】
【0079】
スキーム1において、R14’、d’、R19’、i及びiは、式(XII’’)及び(XVII’)で示される化合物について上記定義されたのと同じ意味を有する。式(XII’’)で示される化合物は、ビニル基が脂肪族不飽和基R14’’に選択される、式(XII’)で示される化合物である。(i)及び(ii)の任意の化合物の組み合わせは、ヒドロシリル化反応を受けるであろうと理解される。
【0080】
スキーム1において、模式的には、式(XII’’)の1つの脂肪族不飽和基と式(XVII’)の1つのケイ素結合水素原子との間の1回のヒドロシリル化反応のみが示される。ただし、式(XII’’)の脂肪族不飽和基及び式(XVII’)の更なるケイ素結合水素原子の両方が互いに反応することにより、巨大分子、例えば、オリゴマー又はポリマーが形成されるであろうと理解される。
【0081】
本発明の歯科用印象材料の好ましい実施態様によれば、成分(i)の1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物は、5000Da超の分子量を有する直鎖ビニル基含有ポリメチルシロキサンであり、ここで、成分(v)の遅延剤は、最大5000Daの分子量を有する環状ビニル基含有ポリメチルシロキサンである。
【0082】
(iii)粒子状充填剤
本歯科用印象材料は、(iii)粒子状充填剤を含む。歯科用印象材料は、1種の粒子状充填剤(iii)又は2種以上の粒子状充填剤(iii)の混合物を含むことができる。
【0083】
粒子状充填剤(iii)は、粘度又はチキソトロピーに関して歯科用印象材料のレオロジー特性の適切な調整を提供し、歯科用印象材料の収縮を防止する。加えて、粒子状充填剤(iii)は、例えば、引張強度及び引裂強度に関して、硬化した歯科用印象材料の改善された機械的特性を提供することができる。
【0084】
好ましくは、粒子状充填剤(iii)は、ケイ素、アルミニウム、マンガン又はチタンの酸化物、他の金属酸化物、ガラス及び無機塩から選択される。より好ましくは、粒子状充填剤(iii)は、シリカから選択され、最も好ましくは、結晶性二酸化ケイ素、例えば、粉砕石英、非結晶性二酸化ケイ素、例えば、珪藻土及びヒュームドシリカ、例えば、Cab-o-Sil(登録商標)(Cabot corporation製)、Aerosil(登録商標)(Evonik corporation製)又はHDK(登録商標)(Wacker Chemie corporation製)からなる群より選択されるシリカから選択される。
【0085】
粒子状充填剤(iii)は、例えば、ハロゲン化シラン又はシラジドの形態の1種以上のシラン化剤で部分的に又は完全に表面処理することができる。
【0086】
歯科用印象材料のレオロジー特性の適切な調整のために、粒子状充填剤(iii)は、約100μm未満の最大粒径及び約10μm未満の平均粒径を有するのが好ましい。該充填剤は、単峰性又は多峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。
【0087】
粒径に加えて、歯科用印象材料のレオロジー特性は、粒子状充填剤(iii)のBET表面積の選択により、さらに適切に設定することができる。好ましくは、粒子状充填剤(iii)は、少なくとも20m2/g、好ましくは、25~600m2/g、より好ましくは、40~500m2/g、最も好ましくは、50~400m2/gのBET表面積を有する。
【0088】
好ましくは、粒子状充填剤(iii)は、本歯科用印象材料中に、組成物全体の最高で50重量%、より好ましくは、5~45重量%、最も好ましくは、15~40重量%の量で含有される。
【0089】
(iv)光活性型金属触媒成分
本歯科用印象材料は、(iv)光活性型金属触媒成分を含む。歯科用印象材料は、1種の光活性型触媒成分(iv)又は2種以上の光活性型触媒成分(iv)の混合物を含むことができる。
【0090】
好ましい実施態様によれば、光活性型金属触媒成分は、Pt、Pd、Rh、Co、Ni、Ir及びRuの群から選択される遷移金属を含有する遷移金属化合物であり、好ましくは、遷移金属化合物は、白金(II)アセチルアセトナート及び(Cp)Pt(C1-6アルキル)(式中、Cpは、1つ以上のアルキル基により置換されていることができるシクロペンタジエニル基を表わす)、好ましくは、Karstedt触媒から選択される。
【0091】
光活性型金属触媒成分(iv)は、(i)~(ii)の化合物間のヒドロシリル化反応の開始を提供する。(i)の化合物の脂肪族不飽和結合が不斉置換されている場合、逆マルコフニコフ付加生成物が形成される、すなわち、(ii)の化合物は、(i)の化合物の脂肪族不飽和基のより置換されていない炭素原子に付加する。
【0092】
光活性型金属触媒成分(iv)は、歯科用印象材料に組み込まれる場合、特に、1パック歯科用印象材料に組み込まれる場合、十分な貯蔵安定性を有するのが好ましい。好ましい貯蔵安定性は、例えば、歯科用印象材料が長い貯蔵時間、例えば、約2か月後でも、より高い重合速度及びより高い最終転化率の点で、その有利な効率の特徴を保持することであることができる。
【0093】
光活性型金属触媒成分(iv)は、Ptを含有する遷移金属化合物である。
【0094】
遷移金属化合物は、好ましくは、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)中の白金(0)-1,3,ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体溶液(Karstedt触媒)である。
【0095】
光活性型触媒成分(iv)は、本歯科用印象材料中に、組成物全体の最高で5.0重量%、より好ましくは、0.1~4.0重量%の量で含有されるのが好ましい。
【0096】
(v)遅延剤
歯科用印象材料は、遅延剤を含有する。遅延剤は、作業時間を長くするのに使用される。遅延剤は、ケイ素原子に結合しているビニル基を有するシリコーン化合物であることができる。遅延剤は、好ましくは、100~5000Daの範囲の分子量を有する。より好ましくは、遅延剤は、150~4000Daの範囲の分子量を有する。好ましい遅延剤は、ビニルメチルシロキサンのポリマーである。好ましくは、遅延剤は、環状又は直鎖オリゴマー又はポリマーアルキルビニルシロキサン、より好ましくは、環状オリゴマー又はポリマーメチルビニルシロキサンである。
【0097】
遅延剤は、1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物と考えることができるが、遅延剤は、成分(i)の1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物とは異なる。具体的には、遅延剤の分子量は、成分(i)の化合物なしに有用な歯科用印象材料の調製を可能にするほど十分には高くない。遅延剤は、連鎖停止剤として作用し、成分(i)の1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物の重合を一時的に妨害する。遅延剤は、完全に消費されるまで重合し続け、ついで、成分(i)の1つ以上の脂肪族不飽和基を有する化合物が重合し、歯科用印象材料が硬化する。
【0098】
(vi)光増感剤
好ましくは、光増感剤は、1,2-ジケトン、1,3-ジケトン、ホスフィンオキシド、チオキサントンもしくはその誘導体又は多環式芳香族炭化水素もしくはその誘導体である。より好ましくは、光増感剤は、1,2-ジケトン、アントラセンもしくは2位で置換されているその誘導体、ベンゾ[a]ピレン、アントラセンもしくは9位及び10位並びに場合により2位で置換されているその誘導体又はベンゾ[a]ピレンである。さらにより好ましくは、光増感剤は、2位において直鎖又は分枝鎖C1-4アルキル基により場合により置換されている、カンファーキノン、ベンジル、2-イソプロピルチオキサントン(ITX)、2-クロロチオキサントン、アントラセン、9,10-ジハロゲノ-、ジアルキル-、-ジアルコキシアントラセンである。最も好ましくは、光増感剤は、2位においてメチル基又はエチル基により場合により置換されている、カンファーキノン、ベンジル、2-イソプロピルチオキサントン(ITX)、2-クロロチオキサントン、アントラセン、9,10-ジブロモ-、-ジクロロ-、-ジメチル-、-ジエトキシ-アントラセンである。
【0099】
2パック又はマルチパック組成物
本発明の歯科用印象材料は、2パック又はマルチパック歯科用印象材料であることができる。
【0100】
本明細書で使用する場合、「2パック」という用語は、歯科用印象材の全ての成分が2つのシングルパックに含まれることを意味する。
【0101】
本明細書で使用する場合、「マルチパック」という用語は、歯科用印象材料の成分が多数の別個のパックに含まれることを意味する。例えば、第1のパックの成分は、第1のパックに含まれ、一方、第2のパックの成分は、第2のパックに含まれ、第3のパックの成分は、第3のパックに含まれる場合があり、第4のパックの成分は、第4のパックに含まれる場合がある、等である。
【0102】
好ましくは、歯科用印象材料は、2パック歯科用印象材料である。
【0103】
2パック歯科用印象材料について、第1のパックは、例えば、(i)、(ii)及び(iii)の成分を含み、第2のパックは、光活性型触媒成分(iv)を含むのが好ましい。(v)の光増感剤は、第1又は第2のパックに含ませることができ、好ましくは、第1のパックに含まれる。
【0104】
歯科用印象材料の使用及び歯科用印象を製造するための方法
上記された本歯科用印象材料は、歯科用印象の製造に使用することができる。
【0105】
さらに、本発明は、
(a)上記された歯科用印象材料を提供することと、
(b)歯の構造の印象を取得することと、
(c)400~800nmの範囲の波長を有する光により歯科用印象材料を硬化させることとを含む、歯科用印象を製造するための方法を提供する。
【0106】
好ましくは、工程(b)を、本歯科用印象材料が充填された容器を、印象されるサンプル、例えば、歯列弓を覆うように配置することにより行う。ついで、工程(c)において、歯科用印象材料を、適切な光源により硬化させることにより、例えば、硬い歯及び軟らかい組織のネガ印象を得る。好ましくは、工程(c)において、硬化のために、200~800nmの範囲内の波長、より好ましくは、350~600nmの範囲内の波長を中心とする光源を適用する。代替的に又は付加的に、工程(c)において、光源により、少なくとも500mW/cm2の放射照度が提供される。工程(c)において、好ましくは、350~600nm、より好ましくは、477nmを中心とし、600~1200mW/cm2の放射照度を提供する青色歯科用発光ダイオード(LED)を光源として使用するのが特に好ましい。最も好ましいのは、477nmを中心とし、800~1100mW/cm2の放射照度を提供する、青色歯科用LED SmartLite(登録商標)Focus(Dentsply製)である。
【0107】
本発明によれば、更なる2パート化学硬化型印象材料が、歯科用印象を調製するのに必要とされない。
【0108】
ここから、本発明は、下記実施例によりさらに例証されるであろう。
【0109】
以下、本発明は、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明されるであろう。なお、本発明は、以下に記載された実施例に限定されるものではない。以下では、下記略語を使用する。
【0110】
実施例
[光増感剤]
ITX:2-イソプロピルチオキサントン
CPTX:1-クロロ-4-プロポキシ-9H-チオキサンテン-9-オン
【0111】
実施例1~5及び比較例1~4
各実施例では、表1に示された組成をそれぞれ有するベース樹脂及び触媒含有樹脂をロウ被覆紙シート上で、スパチュラにより所定の割合で30秒間混合した。その後、この混合物を熱又はランプ(紫外線ランプ、405nm)により硬化させた。37℃での樹脂混合物の硬化挙動を調べる場合、サンプルをロウ被覆紙シートから、予熱され温度制御された金属プレートに移した。硬化時間は、材料がもはやスパチュラに付着しなくなる時間とみなした。したがって、スパチュラを適切な間隔で混合物の表面に与えた。
【0112】
[光化学硬化]
光化学硬化には、発光極大405nm、光強度600mW/cm2を有する照射源を使用した。ランプと樹脂混合物との間の距離を1cmで一定に保持した。結果を下記表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
実施例及び比較例に示されるように、成分(i)~(vi)の組み合わせを光照射により硬化させることができ、それにより、硬化速度を、Karstedt触媒のための光増感剤及び遅延剤の種類及び量を適切に選択することにより調整することができる。さらに、高い反応性にもかかわらず、歯科用印象材料は、高い貯蔵安定性を有する。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b