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特許7146937サブナノメートルの金展着剤およびそれによるエンドトキシン誘発性敗血症予防方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】サブナノメートルの金展着剤およびそれによるエンドトキシン誘発性敗血症予防方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20220927BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220927BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220927BHJP
   C08G 73/02 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A61K33/242
A61K9/51
A61K47/34
A61P31/04
C08G73/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020552734
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 US2018024681
(87)【国際公開番号】W WO2019190491
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】512175133
【氏名又は名称】ナショナル ヘルス リサーチ インスティテューツ
【氏名又は名称原語表記】National Health Research Institutes
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リン シュ-イ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0088756(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107142281(CN,A)
【文献】Chemistry of Materials,2004年,16(1),pp.167-172
【文献】Small,2016年,12(30),pp.4127-4135
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C08G
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーに内包されたサブナノメートルの金ナノクラスタを含み
前記ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは、アルキル基で修飾され、
前記サブナノメートルの金ナノクラスタの形状は、略フレーク状構造を有する、
サブナノメートルの構造
【請求項2】
前記ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは、G n NH 2 デンドリマー、または、G n OHデンドリマーであり、nは、0~4である、請求項1に記載のサブナノメートルの構造
【請求項3】
前記ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは、第4世代(G4)デンドリマーである、請求項に記載のサブナノメートルの構造
【請求項4】
前記ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは、G 4 NH 2 デンドリマー、または、G 4 OHデンドリマーである、請求項に記載のサブナノメートルの構造
【請求項5】
前記アルキルは、メチル基、または、エチル基を含む、請求項1に記載のサブナノメートルの構造
【請求項6】
前記サブナノメートルの含金構造は、リポ多糖(LPS)のリピドAの分子内の炭化水素鎖間の距離(d間隔)を圧縮するための有効量が使用され投与を必要とする哺乳類中のエンドトキシン活性を阻害するために使用される請求項1~5のいずれか一項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項7】
リピドAの前記d間隔の値を、4.19Åから3.54Åまで減少させる、請求項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項8】
リピドAの前記d間隔の値を、4.19Åから3.85Åまで減少させる、請求項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項9】
PS感染哺乳類中の炎症誘発性サイトカインを抑制するために使用される請求項1~5のいずれか一項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項10】
前記サブナノメートルの含金構造の有効量は、前記サブナノメートルの含金構造と前記LPSとのモル比に依存する、請求項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項11】
前記サブナノメートルの含金構造と前記LPSとの前記モル比は、1:2である、請求項10に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項12】
前記サブナノメートルの含金構造の有効量は、約50~100mg/kg(体重)である、請求項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項13】
前記炎症誘発性サイトカインは、NF-κB、TNF-α、IL-6、IL-1β、CXCケモカインプロフィール、IL-12p40、GM-CSF、または、GRPα(KC)を含む、請求項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項14】
前記サブナノメートルの含金構造は、LPSの非層状集合を阻害するための臨界ミセル濃度を高めるための有効量が使用され投与を必要とする哺乳類中のエンドトキシン誘発性敗血症を予防するために使用される請求項1~5のいずれか一項に記載のサブナノメートルの含金構造
【請求項15】
前記ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは、第4世代(G4)デンドリマーであり、
前記アルキル基は、メチル基、または、エチル基である、請求項1に記載のサブナノメートルの含金構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、展着剤に関し、より詳しくは、エンドトキシン誘発性敗血症を予防するためのサブナノメートルの金展着剤に関する。本発明は、また、サブナノメートルの金展着剤を介してリピドAを圧縮することにより、エンドトキシン誘発性敗血症を予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンの毒性は、困難な臨床的課題となっているが、この問題にうまく対処できる薬または治療法は未だ特定されていない。エンドトキシン毒性の危険な生物学的結果には、過剰な炎症および致命的な敗血症およびショックを潜在的に引き起越し得る免疫障害さえも含まれる。リポ多糖(LPS)のリピドAの分子のコンホメーションは、エンドトキシン(すなわちリポ多糖、LPS)とToll様受容体4(TLR4)-MD2複合体との間の自然なホスト-ゲスト相互作用の結合親和性に影響を及ぼすので、エンドトキシン毒性の危険な生物学的結果は、リポ多糖(LPS)のリピドAの分子のコンホメーションと強い相関があると理解されている。LPSは、生理学的条件下では、自発的に自己組織化して様々な集合体を形成することが可能な両性分子であるため、異なる集合体型は、個々のLPS分子の分子内の炭化水素鎖間の距離(d間隔)を微調整することによって、リピドAの分子のコンホメーションを変えることができる。一般的に、リピドAのコンホメーションは、図形描写の目的で円筒形または円錐形からなるよう単純化され、これは、層状集合体および非層状状集合体といったLPSの2つの典型的な集合体から導かれ得る。用語“円筒形および円錐形”が用いられるのは、個々のリピドAドメインのd間隔の距離が、リピドAのいくつかの炭化水素鎖を結合させるリンカーとして機能する二糖骨格(LPS分子の一部)の断面とほぼ等しいかまたはより大きいからである。d間隔がより低い充填密度を示している円錐形のリピドAのコンホメーションは、サイトカイン誘導のための、LPSとTLR4-MD2複合体との間のホスト-ゲスト複合体形成を活性化させることができる。さらに、サイトカインの強度プロフィールは、LPSの集合体が立体的になると著しく向上されることができ、その場合、リピドAの充填密度は、最低級のものとなる。これに対し、層状のLPS集合体内に見られる分子内の炭化水素鎖間の密な充填密度は、サイトカイン誘導の減少または排除さえ可能にする。しかしながら、生物環境において、三次元の集合体は安定性に優れることから、リピドAのコンホメーションは、充填密度を低下させやすい。
【発明の概要】
【0003】
グラム陰性菌の危険な組織片(すなわちリポ多糖、LPS)から生じるエンドトキシンの毒性は、困難な臨床的課題であるが、この問題にうまく対処できる薬または治療法は未だ特定されていない。
【0004】
上記欠点を克服すべく、本発明の目的は、エンドトキシン活性を効果的に阻害できて敗血症を予防するサブナノメートルの金展着剤を提供することである。
【0005】
一態様では、本発明は、サブナノメートルの金展着剤に関する。サブナノメートルの金展着剤は、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーに内包されたサブナノメートルの金ナノクラスタと、アルキルモチーフのコーティングとを含む。
【0007】
本発明の別の実施形態では、サブナノメートルの金ナノクラスタの形状は、略フレーク状構造を有する。
【0008】
本発明の別の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、分岐アミンまたは分岐ヒドロキシル基を有する。
【0009】
本発明の別の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、これらに限定されないが、PAMAM第1世代(G1)デンドリマー、PAMAM第2世代(G2)デンドリマー、PAMAM第3世代(G3)デンドリマー、PAMAM第4世代(G4)デンドリマー、PAMAM第5世代(G5)デンドリマー、PAMAM第6世代(G6)デンドリマー、PAMAM第7世代(G7)デンドリマー、PAMAM第8世代(G8)デンドリマー、PAMAM第9世代(G9)デンドリマー、PAMAM第10世代(G10)デンドリマーを含む。
【0010】
本発明の別の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、GNHデンドリマー、または、GOHデンドリマーであり、nは、0~4である。
【0011】
本発明の別の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、第4世代(G4)デンドリマーである。好ましくは、PAMAMデンドリマーは、GNHデンドリマー、または、GOHデンドリマーである。
【0012】
本発明の別の実施形態では、アルキルモチーフは、これに限定されないが、メチル基、または、エチル基を含む。
【0013】
本発明の別の実施形態では、サブナノメートルの金ナノクラスタの金原子の近接距離は、0.285nm~0.289nmの範囲である。
【0014】
本発明の一実施形態では、サブナノメートルの展着剤は、リピドAの分子内の炭化水素鎖間の距離(d間隔)を圧縮することによって、展着剤をLPSとドッキングさせる。リピドAの分子内の炭化水素鎖間の距離(d間隔)は、サイトカインの過剰誘導によって敗血症を進行させ得るエンドトキシン毒性の活性部位である。
【0015】
本発明の別の実施形態では、リピドAのd間隔の値は、4.19Åから3.85Åまたは3.54Åまで減少し、サブナノメートルの金展着剤の存在下では、より高い充填密度を示している。
【0016】
本発明の別の実施形態では、サブナノメートルの展着剤は、CMCを増大させるだけでなく、充填密度をより高め、敗血症を予防し得る。
【0017】
本発明の別の実施形態では、これらに限定されないが、血漿中のTNF-α、IL-6、IL-1β、および、CXCケモカインを含む重要な炎症誘発性のNF-κB依存性サイトカインのLPS投与マウスにおける濃度は、顕著な低下を示した。
【0018】
他の態様では、本発明は、炎症誘発性サイトカインを抑制する方法に関する。この方法は、投与を必要としているLPS感染哺乳類にサブナノメートルの展着剤を有効量投与するステップを含む。
【0019】
本発明の別の実施形態では、炎症誘発性サイトカインは、これらに限定されないが、NF-κB、TNF-α、IL-6、IL-1β、CXCケモカインプロフィール、IL-12p40、GM-CSF、または、GRPα(KC)を含む。
【0020】
本発明の別の実施形態では、サブナノメートルの展着剤の有効量は、サブナノメートルの展着剤とLPSとのモル比に依存する。好ましくは、サブナノメートルの展着剤とLPSとのモル比は、1:2である。本発明によれば、サブナノメートルの展着剤の有効量は、約50~100mg/kg(体重)であり、これは、LPSの量に依存する。好ましくは、サブナノメートルの展着剤の有効量は、約75mg/kg(体重)の濃度である。
【0021】
本発明の他の態様では、本発明は、LPS誘発性敗血症による寿命を著しく延ばす方法に関する。
【0022】
本発明のサブナノメートルの金展着剤は、LPSのリピドAの充填密度を圧縮してエンドトキシンの毒性を不活性化させるようLPSのリピドAを標的化することができる。これは、グラム陰性菌感染症によって引き起こされる敗血症の早期予防の潜在的な治療戦略となり得るだろう。これらおよび他の態様は、好適な実施形態およびそれに伴う以下の図面により明らかになろう。本開示の新規な着想の趣旨および範囲に逸脱することなく、様々な変更および修正が可能である。添付の図面は、本発明の1以上の実施形態を示すものであり、明文化された記載と併せて、本発明の原理を説明する役割を果たす。全図面を通じて、実施形態の同じまたは類似の要素には、可能な限り同じ参照番号を用いている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】LPSのリピドAの充填密度と敗血症の進行との間の可能性のある相関を示す単純モデルを示す。長方形は、デンドリマー内部のサブナノメートルの金展着剤の形成を示し、ステップ1および2は、それぞれ、金ナノクラスタの合成およびアルキルモチーフ修飾を含む。リピドAのコンホメーションは、円錐形(左側)および円筒形(右側)として描かれ、CMCの変化およびエンドトキシンの毒性の違いと相関する。
図2A】光ルミネセンスのスペクトル、および、1nm未満になるSAuNCのサイズを示す写真である。
図2B】金原子が自己堆積して異なる配向の薄膜およびアラインメントを形成することができることを示すSAuNCのHRTEM画像およびEDパターン(挿入画像)を示す。白い矢印は、個々の金原子間の距離を示す。
図2C】金原子が自己堆積して異なる配向の薄膜およびアラインメントを形成することができることを示すSAuNCのHRTEM画像およびEDパターン(挿入画像)を示す。白い矢印は、個々の金原子間の距離を示す。
図2D】金原子が自己堆積して異なる配向の薄膜およびアラインメントを形成することができることを示すSAuNCのHRTEM画像およびEDパターン(挿入画像)を示す。白い矢印は、個々の金原子間の距離を示す。
図3】展着剤A、展着剤M、および、展着剤EのH NMRスペクトルを示す。約2.5~4ppmにメチルおよびエチルのピークも現れた。
図4A】銅グリッドにおけるアルキルモチーフ修飾前の自己堆積しているSAuNCの比較を示す。
図4B】銅グリッドにおけるアルキルモチーフ修飾後の自己堆積しているSAuNCの比較を示す。挿入画像は、EDパターンを示す。非修飾の金原子は、修飾された金原子に比べ、容易に自己堆積して薄膜および良好なアラインメントを形成できる。白い矢印は、個々の金原子間の距離を示す。
図5A】様々な展着剤の存在下および非存在下におけるLPSのCMCおよびd間隔の測定を示す。上段は、4種類の展着剤の存在下または非存在下における、異なる濃度での初期のLPS集合体(ミセルまたはベシクル)からの信号である、qの関数としての散乱強度を示す。
図5B】様々な展着剤の存在下におけるリピドAのd間隔の測定を示す。表は、各条件下でのd間隔の距離をまとめたものである。
図5C】展着剤Mまたは展着剤Eの存在下におけるリピドAの充填密度を表す単純モデルを示す。
図6A】LPS、展着剤、および、TLR4-MD2複合体間の結合特異性を示す。LPSでコーティングしたプレートにおける2種類の展着剤の増大していく量が示されている。これは、プレートに吸収されたSAuNCの信号を約460nmの発光波長で測定するELISAリーダーを用いて決定された。
図6B】LPSおよび展着剤の両方でコーティングしたプレートへのTLR4-MD2複合体の結合量は、LPSのみでコーティングしたプレートと比べて著しい減少を示している。測定に際し、TLR4-MD2複合体の結合特性を、発光波長594nmの色素PEで標識した。
図6C】展着剤とTLR4との間には有意な相互作用は見られないことを示す。y軸信号(すなわち、LPS-FITCおよび展着剤の量)は、較正曲線を用いて決定された。
図7】展着剤Mおよび展着剤Eは、免疫刺激剤ではないことを示す。注射の2時間後に血液試料を採取し、マウスの血漿中のIL-6の濃度をマウスIL-6 ELISAキットで測定した。
図8】LPS投与マウスにおける血漿中のサイトカインおよびCXCケモカインへの展着剤Mの効果を示す。雄のC57BL/6Narlマウスの後肢の足蹠からLPS(0.1μg)および展着剤M(7.5μg)を表示時点で皮下注射した。TNF-αおよび他のサイトカインの測定用に、2回目の処置の1時間後および2時間後にそれぞれ血液試料を採取した。
図9A】LPS投与マウスの他の血漿中サイトカインおよびケモカインの測定における展着剤Mの効果を示す。
図9B】LPS投与マウスの他の血漿中サイトカインおよびケモカインの測定における展着剤Mの効果を示す。
図9C】LPS投与マウスの他の血漿中サイトカインおよびケモカインの測定における展着剤Mの効果を示す。雄のC57BL/6Narlマウスの後肢の足蹠からLPS(0.1μg)および展着剤M(7.5μg)を表示時点で皮下注射した。2回目の処置の2時間後に血液試料を採取した。P値は、テューキーの多重比較検定を伴う一元配置ANOVA(分散分析)を用いて計算された。
図10A】LPSの存在下または非存在下における、C57BL/6NarlマウスのRAW264.7および骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるリン酸化NF-κB p65(セリン536)の発現への展着剤の効果を示す。上段の画像:RAW264.7細胞をLPS(20ng/mL)で刺激し、表示時点で採取した。中段の画像:RAW264.7細胞を様々な濃度のLPSで30分間刺激した。下段の画像: 2種類の展着剤で30分間処置したLPS刺激RAW264.7細胞は、全細胞ライセートからのリン酸化NF-kB p65(セリン536)タンパク質の発現の低下を示した。
図10B】20ng/mLのLPSの存在下または非存在下で展着剤で30分間処置したBMDM細胞を示す。リン酸化NF-kB p65(セリン536)の発現をウエスタンブロット法により検出した。pSer-NF-kB p65のタンパク質バンドの相対密度を、βアクチン(すなわちローディングコントロール)で正規化し、LPSに対する計算された倍率変化をブロットの下に示した。
図11】2種類の展着剤(75mg/kg(体重))で処置されたLPS誘発性敗血症(25mg/kg(体重))のマウスの生存率を示す。点線は、50%の生存率を示す。Mは、展着剤Mを示し、Eは、展着剤Eを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
本明細書中に使用される用語は概して、本発明の文脈において、また各々の用語が使用される特定の文脈において、当該技術分野におけるそれらの通常の意味を有するものである。本発明を記載するために使用される特定の用語は、以下、または、本明細書中の他の部分で論じられ、本発明の記載に関わる実務者に付加的な手引きを提供するものである。便宜上、幾つかの用語を強調することもあり、例えば、イタリックおよび/または引用符を使用することもある。強調を使用しても用語の範囲および意味に影響を与えることはなく、それが強調されるにせよされないにせよ、同様の文脈において用語の範囲および意味は同じである。同じ事項を、2つ以上の方法で述べることがあることを理解されたい。したがって、ここで論じられる用語のいずれか1つまたは複数に、代替的な用語および同義語を使用してもよく、また、用語がここで補足説明されるかまたは述べられるかにせよされないにせよ、それに特殊な意義が課されることもない。幾つかの用語に対して同義語を提示している。1つまたは複数の同義語の詳説は、他の同義語の使用を排除するものではない。ここに述べられるあらゆる用語の用例を含む本明細書全体での用例の使用は、例示を目的とするにすぎず、本発明または例を挙げた全ての用語の範囲および意味を限定するものではない。同様に、本発明は本明細書中に与えられる様々な実施形態に限定されるものでもない。
【0025】
特に定義しない限り、ここに使用される全ての技術的および科学的な用語は、本願発明が属する分野の当業者が共通して理解する意味と同じ意味を有するものである。矛盾が生じる場合には、定義を含む本明細書を照合するものとする。本明細書中で使用される場合、“およそ”、“約”、または、“略”は概して、所与の値または範囲の20パーセント以内、好ましくは10パーセント以内、より好ましくは5パーセント以内を意味するものとする。
【0026】
本明細書中で使用される場合、“ナノクラスタ”という用語は、2nmより小さい直径を有するかまたは100個未満の原子から構成される粒子を指す。
【0027】
用語“金ナノ粒子”とは、2nmより大きく100nmまでの範囲の直径を有する球形の金粒子を指す。デンドリマーは繰り返し分枝した分子である。
デンドリマーは典型的に、コアを取り囲むように対称であり、多くの場合、球状の三次元形態をとる。デンドリマーはまた、世代によって分類され、これは、その合成中に繰り返された分枝サイクルの数を指す。例えば、収束的合成によってデンドリマーを生成し、分枝反応がコア分子上で3回行われた場合、結果として生じるデンドリマーは、第3世代デンドリマーとみなされる。デンドリマーは、世代番号(Gn)によって識別され、それぞれの完全合成反応の結果、新たなデンドリマー世代が生ずる。後続の各世代は、前の世代の約2倍の分子量のデンドリマーとなる。第1世代デンドリマー、第2世代デンドリマー、および、第3世代デンドリマーは、それぞれ、世代1(G-1)、世代2(G-2)、および、世代3(G-3)デンドリマーと表される。デンドリマー捕捉金ナノ粒子は、技術的に周知である。例えば、本発明は、G4デンドリマーを提供する。
【0028】
米国保健福祉省の食品医薬品局により出版されている“健康な成人志願者における治療薬に関する臨床試験の安全な初期投与量を推定する産業および査閲者のための手引き”は、“ヒト等価用量”が下記の式によって得ることができることを開示している。
ヒト等価用量(HED)=動物の投与量(mg/kg)×(動物の体重(kg)/ヒトの体重(kg))0.33
HEDは、投与の経路などの他の因子に応じて変化し得る。
略記号:CR:カルバペネム耐性;AB:アシネトバクター・バウマニ;EC:大腸菌;KP:肺炎桿菌;PA:緑膿菌。
【実施例
【0029】
本発明の範囲を限定することを意図せずに、本発明の実施形態による例示的な器具、装置、方法、および、それらに関連する結果を以下に挙げる。読み手の便宜上、実施例中に表題または副題を使用することがあるが、これは本発明の範囲を限定するものではないことに留意されたい。さらには、いくつかの理論をここで提案および開示するが、正しかろうと間違っていようと、作用の特有の理論またはスキームを何ら問わない発明に従って本発明を実行する限り、それらの理論によって本発明の範囲が限定されることは決してないものとする。
【0030】
材料
NHデンドリマー、GOHデンドリマー、HAuCl、および、LPS(大腸菌O111:B4)を、シグマ(米国、カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。MWCOメンブレンフィルターを、ミリポアから購入した(PESメンブレン)。WST-1を、同仁化学研究所(日本、熊本県)から入手した。陰イオン交換樹脂を、Merckから購入した(フラクトゲル(登録商標)EMD TMAE Hicap)。
【0031】
展着剤H、展着剤A、展着剤M、および、展着剤Eの合成
展着剤Aおよび展着剤Hを含むサブナノメートルの金ナノクラスタ(SAuNC)を、既に公開されている方法にしたがって合成した。まず、HAuCl、および、HAuBr(シグマアルドリッチ、200μL、30μmol、150mM)を、GNH(アルドリッチ、20重量%のメタノール溶液中に94.9μL、5μmol)、および、GOH(アルドリッチ、10重量%のメタノール溶液中に75.4μL、0.5μmol)を含有する20mLの脱イオン水にそれぞれ添加した。マイクロ波を照射(CEM、Discover LabMate System、300W/120℃で30分間)する前に、GNHおよびHAuCl混合溶液を4℃で一晩インキュベートした。還元後、沈殿およびSAuNCを3KDaMWCOPESメンブレンフィルター(ミリポア、アミコンウルトラ)でろ過し、AuCl またはAuBr である余分な陰イオンを陰イオン交換クロマトグラフィーによって除去することによって、GNHおよびGOHの被包から精製された展着剤Aおよび展着剤Hをそれぞれ得た。その後、デンドリマーに内包されたSAuNC(すなわち展着剤A、63.6mg、4μmol)の内部の第三級アミン基、および、表面のアミン基を、ジクロロメタン/N,N-ジメチルホルムアミド/HO(1mL/1mL/0.1mL)中で、ヨウ化メチルおよびヨウ化エチルと、室温または37℃で一晩それぞれ反応させた。それぞれの反応混合物をジクロロメタンによって3回抽出して凍結乾燥させることにより、2つの黄色いゲル状化合物(すなわち、展着剤Mおよび展着剤E)を得た。この修飾の確認として、展着剤Aと比較した場合、H NMRスペクトルは、メチル基およびエチル基から2,5ppm~4ppmでメインピークを示した。測定に際し、すべての試料を溶媒としてのDOに溶解した。
【0032】
SAuNCの高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)イメージング
各試料をレイシーカーボンフィルムに載置した。300kVでの透過型電子顕微鏡測定(JEOL JEM-3000F、日本)の前に、グリッドを乾燥させた。
【0033】
小角X線散乱(SAXS)および微小角入射広角X線散乱(GIWAXS)による測定
LPS溶液のためのSAXSデータを、国立放射光研究センター(NSRRC、台湾)の23A SWAXSワークステーションにて得た。すべてのSAXS測定は、15.0keV(波長λ=0.8267Å)のビームを用い、試料-検出器間の距離を3060mmとしてなされた。SAXSデータを、169×179mmの有効面積、および、172μmの検出器ピクセル分解能を有するピクセル検出器であるDectirs-Pilatus 1Mで収集した。散乱θおよびλによって定義される散乱波長q=4πλ-1 sinθを、ベヘン酸銀の標準試料によって較正した。放射線障害を最低限にすべく、試料溶液の長時間のスポット露光(ビーム直径約0.5mm)を防ぐために、細い(12μm)カプトン窓(直径4mm)付きの2.5mmの試料溶液のそれぞれを、1.5×1.5mmの領域内で静かにゆさぶり、室温で測定した。SAXSデータから、LPS試料溶液に用いられるのと同一環境下で測定された緩衝液散乱を減算した。その後、データを、前のレポートで詳しく述べたように、入射フラックス、試料厚さ、および、検出器の電子雑音について修正した。各SAXS測定のためのLPS-SAuNC比は、50(w/w)に維持されたことに留意されたい。GIWAXS測定も、BL23Aエンドステーションで実現された。シリコンウエハにドロップキャスティングすることにより、GIWAXS測定のためのフィルム試料を調製した。15keVのビーム(波長λ=0.8267Å)、132mmの試料-検出器距離、および、0.2度の入射角により、CMOSフラットパネルX線検出器C9728DK(52.8mm角)を用いてGIWAXSデータを収集した。ギニエ解析により、前方散乱強度(すなわち、I())、および、回転半径(Rg)を得た:I(q)=I()exp(-R /3)。これは、測定された散乱強度の二乗(すなわち、q)の関数としてのln(I)の線形プロットに当てはめることができる(図6Aの中央の行を参照)。Rは、散乱長密度で重み付けした分子の密度の中心までの平均二乗平均平方根距離であり、前方散乱強度I()は、LPSミセルまたはベシクルの分子量および濃度に比例する。同様のR値は、LPS集合体のサイズが濃度の低下に伴い変化しなかったことを示した。
【0034】
LPS-展着剤複合体、および、TLR4-MD2複合体を検出するための結合アッセイ
96ウェル高結合型イムノアッセイプレート(Costar3991、コーニング)を、0.02MのEDTAを含有する0.1MのNaCO緩衝液において30μg/mlの固定濃度のLPSでコーティングし、37℃で200分間加熱した。その後、コーティングプレートを脱イオン水で洗浄し、16時間乾燥させた。そして、プレートを、1%のBSAを含むPBSで、37℃で30分間ブロッキングし、0.1%のBSAを含むPBSで洗浄した。2種類の金展着剤のLPSへの結合を検出するために、濃度が増大している展着剤Mまたは展着剤EをLPSでコーティングしたプレートに添加した。金展着剤の存在下において、LPSへのTLR4の結合の阻止を検出するために、プレートをまずLPSでコーティングし、次に、固定濃度の展着剤Mまたは展着剤Eでコーティングした。そして、濃度が増大しているTLR4結合PE(Biolegend)を、LPSおよび展着剤でコーティングしたプレートに添加して、594nmの発光波長で読み取った。再び、金展着剤とTLR4との間の相互作用を、市販のマウスToll様受容体4 ELISAキットプレート(カタログ番号:MBS765112、MyBioSource)。により決定した。濃度が増大しているFITC標識LPS(大腸菌O111:B4、シグマ)、および、2種類の金展着剤を、市販のTLR4でコーティングされたプレートに添加した。較正曲線によってY軸を決定し、LPS-FITCおよび展着剤を計量した。金展着剤、TLR4-PE、および、LPS-FITCをインキュベート後のコーティングされたウェルのそれぞれに添加し、37℃で60分間インキュベートした。その後、プレートを0.1%のBSAを含むPBSで3回洗浄した。最後に、各コーティングされたウェルに100μlの脱イオン水を添加し、ELISAリーダー(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス)を用いて蛍光を出力した(金展着剤:Ex390nm/Em460nm、PE:Ex496nm/Em594nm、FITC:496nm/540nm)。
【0035】
動物
雄の8~12週齢のC57BL/6Narlマウスを台湾国家実験動物センター(台湾、台北)から購入した。すべてのマウスは、国家衛生研究院(NHRI)の実験動物センターにおいて適度な湿度および温度による特定の無菌状態で飼育された。すべての動物実験手順は、NHRIの施設内動物実験委員会によって承認された公開ガイドラインに従った。
【0036】
LPS処置
SAuNCとLPSとのインビボでの相互作用を明らかにすべく、0.1μg(2μg/mlの50μL、4mg/kg(体重))のLPS(大腸菌O111:B4、シグマ、米国ミズーリ州セントルイス)の単回投与、または、7.5μgのSAuNCを含む50μLのPBSの単回投与を、C57BL/6Narlマウスの後肢の足蹠から皮下注射にて行った。コンタミネーションを最小限にすべく、SAuNC溶液およびLPS溶液のどちらをも、細孔径が0.22μmの親水性ポリエーテルスルホン(PES)メンブレンを有するシリンジフィルターを介して殺菌した。保護群のマウスには、SAuNCの単回投与の注射から20分後にLPSを単回投与で注射した。処置群のマウスには、まずLPSを注射し、その20分後に、SAuNCを単回投与で注射した。指示された2回目の注射の2時間後に、イソフルランの過剰吸入により安楽死させてから、心臓穿刺により血液試料を収集した。TNF-αアッセイのために、最初の注射から1時間後に血液試料を採取した。LPS誘発性敗血症の実験モデルでは、雄のC57BL/6Narlマウス(平均体重24.9±1.3g)に、致死量である25mg/kgのLPSを注射する前後に、100μLのPBSに溶解した2種類のSAuNC(75mg/kg(体重))を30分間隔で、29ゲージ針を用いて腹腔内注射した(n=10/群)。マウスを異なる間隔で一週間まで観察した。
【0037】
血漿
初期免疫応答の研究のために、ルミネックスバイオプレックス200システムによるバイオプレックスプロマウス23プレックスアッセイ(バイオラッド)によって、メーカーの指示に従い、血漿マルチプレックスサイトカインアッセイを行った。マウスTNF-αイムノアッセイキット(Biolegend)を用いて、メーカーの指示に従い、血漿中のTNF-αを測定した。
【0038】
マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)の単離
雄のC57BL/6Jマウスの大腿骨および脛骨から骨髄細胞を単離し、赤血球を溶解した。6ウェルプレート中に10%の加熱不活性化したFBS、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、100μMの2‐メルカプトエタノール、および、10ng/mlのマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF、Peprotech)を含むRPMI-1640完全培地で骨髄前駆細胞(5×10/ウェル)を7日間維持した。
処置前に、培地を取り除くことによって、非接着細胞を除去した。
【0039】
LPS(20ng/ml)で刺激されないかまたは刺激されたBMDMを展着剤Mで30分間処置した。ウエスタンブロット法による分析のためにBMDMを収穫した。
【0040】
ウエスタンブロット
マウスRAW264.7マクロファージ細胞を6cmのペトリ皿に1×10の細胞密度で播種し、48時間成長させて90%密生させ、10%の加熱不活性化したFBS、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを追加したRPMI-1640完全培地で維持した。RAW264.7細胞を表示時間に収穫し、Haltプロテアーゼ/ホスファターゼ混合型阻害剤(Thermo Scientific)を含むRIPA緩衝液(シグマ)によって溶解した。全細胞ライセートを8%のSDS-PAGEゲルを用いて電気泳動により分離し、PVDFメンブレン(ミリポア)に移し、5%のBSAを含むTBSTで1時間ブロッキングし、phospho-Ser536 NF-κB p65(Cell Signaling)、および、ローディングコントロールとしてのβアクチンを含む一次抗体によって4℃で一晩イムノブロットした。メンブレンをHRP基質(ミリポア)に露出させ、アマシャムイメージャ600(GEヘルスケアライフサイエンス)において特定のタンパク質を視覚化した。
【0041】
薬物動態の研究
雄のC57BL/6Narlマウスに、SAuNC(100μLの滅菌PBS中に75mg/kg(体重))を60分間隔で2回、29ゲージ針を用いて腹腔内注射した。最初にSAuNCを注射してから0分(ベースライン)、15分、30分、60分、75分、90分、105分、120分、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、12時間、24時間、48時間後に血液試料を採取した。EDTAを血液凝固阻止剤として含有する紫キャップの採血管に血液試料全体を収集し、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって金原子含有量を測定した。エクセルソフトウェアを用いて薬物動態パラメータを計算し、半減期(t1/2)、最大血漿濃度時(Tmax)、最大血漿濃度(Cmax)、および、濃度時間曲線下面積(AUCall)を含めた。
【0042】
統計分析
統計分析を実施するために、GraphPad Prismプログラム(v7.02)を用いた。バイオアッセイ用データを、平均値±標準偏差(SD)で表し、テューキーの多重比較検定を伴う一元配置ANOVA(分散分析)を用いてP値を計算し、P値が0.05未満を統計的に有意な試験結果とみなした。LPS誘発性敗血症の実験モデルでは、カプラン・マイアー曲線を用いて生存率データをプロットし、SAuNC群とLPSのみの群とを比較するために、ログランク(マンテルコックス)検定によって分析した。
【0043】
結果
本研究では、リピドA(LPSのエンドトキシン毒性の活性部位)のd間隔を圧縮することによって、エンドトキシン活性を阻害する超微小金展着剤の構築を目指した。分子内充填密度を操作することによって、リピドAドメインのコンホメーションをより低密度からより高密度に変換することができ、それによって、先天性免疫認識に劇的に影響を及ぼすことができる。充填密度をより低くするかまたは高くするd間隔の差は、数オングストロームの違いでしかない。このような微妙な変化を微調整するために、抗エンドトキシン展着剤は、柔らかい材料からなる接着剤のようなモチーフと、フレーク状の超微小でありながらも硬い基体とによって構成されることが必要であろう。この展着剤のような構造は、LPSの非層状集合を阻害するための臨界ミセル濃度(CMC)を高めるだけでなく、リピドAのd間隔にも影響を及ぼすことが期待されよう。しかしながら、ほとんどのナノメートルスケールの硬い材料、すなわち、無機ナノ粒子は、異なる曲率を有する立体形状を有するため、フレーク状の展着剤の基体に用いられるには不適切である。幸いにも、ナノ粒子のサイズをサブナノメートルのレンジまで縮小すると、このような粒子の形状をフレーク状に変えることができる。例えば、フレーク状のサブナノメートルの金ナノクラスタ(SAuNC)は、理論上はすでに確立されている。我々は、SAuNCのこのような平坦面は、リピドAの分子内のd間隔を圧縮することによって、付着した接着剤状モチーフがLPSのリピドAドメインと容易に結合することを可能にし(図1)、それによって、エンドトキシン誘発性敗血症を発症させるTLR4-MD2複合体の認識を低下させ得るだろうと仮定した。
【0044】
図2Aは、本研究に用いられたSAuNCからの、励起ピークが約390nm、発光ピークが約460nmにある青色光ルミネセンスを示す。SAuNCのサイズをどのようにして正確に測定するかということは難問であるが、光ルミネセンスの発光波長は、いくつの金原子が単一のナノクラスタを構成しているかの合理的な見積もりを可能にする。約460nmで見られる発光波長の最大値は、SAuNCがAu8を主成分とするナノクラスタであることを示している(すなわち、Au8は8個の金原子からなる)。デンドリマーに内包されたSAuNCの形成に基づく合成プロトコルは、1つのデンドリマー内のAu8を主成分としたナノクラスタを主産物として実証した質量測定とともに、別の文献で公開されている。それ以外では、デンドリマーに内包されたSAuNCの全体のサイズは、金原子の埋め込みによってデンドリマーの外側のアミンに不可逆的なバックフォールディングを生じさせることができ、その結果、デンドリマーの立体構造が収縮するという事実によって、2nmくらいしかないはずであると報告されている。デンドリマーのコンホメーションの収縮は、pHおよび溶媒極性、イオン強度を含む様々なパラメータを調整する間に容易に起こり得ることを強調しておくべきである。SAuNCの寸法は、1nm未満になると推定され、このようなナノクラスタは、おそらくフレーク状であろうと考えられる。したがって、SAuNCの形状を研究するために、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)をさらに用いた。非常に驚くべきことに、銅グリッドにナノクラスタが層ごとに堆積でき(図2B~2D)、いくつかのドメインは、良好なアラインメントを示したので(図2C)、これらのSAuNCは、薄膜へと自発的に自己組織化できることが推測され得る。さらに、金原子の近接距離は、0.285~0.289nmの範囲(図2B~2Dに白い矢印で示す)であり、これは、最近接間隔の理論値(すなわち0.288nm)と非常に近いことを発見した。原子分解能は、このアラインメントが金ナノ粒子のものではなく、デンドリマーに内包されたSAuNCのアラインメントと一致することを確かめるための直接証拠をもたらす。つまり、このアラインメントは、金ナノ粒子の形成およびアラインメントを生じる、金原子の合体から形成されたチオール保護SAuNCの高次構造のアラインメントとは異なる。本研究で用いられるSAuNCの層ごとの堆積は、保護している分子(すなわち、変形デンドリマー)が金原子の合体を防ぐとともに、SAuNCの自己組織化の助けとなり得ることも実証した。その結果、薄膜の観察により、SAuNCの形状が、層ごとのアラインメントを可能にし得るフレーク状構造を成すという説明も可能になる。この観察に基づき、SAuNCをメチル基およびエチル基という2種類のアルキルモチーフで修飾し、それを接着剤として用いて展着剤Mおよび展着剤Eを得た。これらの展着剤の合成およびキャラクタリゼーションの詳細は、補足的文章に記載され、図3~4Bに示されている。
【0045】
次に、展着剤Mまたは展着剤Eの存在がLPSのCMCに影響を及ぼし、その結果、LPSの集合を阻害し得るか否か決定することは非常に興味深い。
比較のため、他の親水性SAuNC(展着剤A)および疎水性SAuNC(展着剤H)も調製した。これらは、LPS集合体をもたらすことが検証済みであるアルキルモチーフの修飾を含まない。すなわち、LPSのCMCは、これらには影響され得ないということである。図5A(上段)は、小角X線散乱(SAXS)による、様々な展着剤の存在下および非存在下における、LPSの集合体形成を決定した約0.1A-1の強い信号を示す。ギニエ解析に従い、前方散乱強度I()は、測定された散乱強度の二乗(q)の関数としてのln(I)の線形プロットを当てはめることにより得られた(図5A、中段)。I()は、低い溶液濃度に対して良好な直線性を示すので(図5Aの下段)、各条件でのLPSのCMC値を、直線外挿によって計算することができた。
予想通り、図5A(4番目および5番目の列)は、展着剤Mまたは展着剤Eの存在下では、LPSのCMC値が、LPSのみ(1番目の列)よりも著しく(10倍)上昇したことを示している。これらの効果は、SAuNCにおけるメチルおよびエチルモチーフとリピドAとの相互作用に起因するのかも知れず、LPSの自己組織化プロセスを阻止するという結果となり得た。微小角入射広角X線散乱(GIWAXS)を用いたリピドAのd間隔の測定を図5B(左側)に示す。結果は、展着剤Mおよび展着剤Eのいずれも散乱ベクトル(q)の目立った変化をもたらし、展着剤Mは14.96nm-1から16.32nm-1に変化し、展着剤Eは14.96nm-1から17.72nm-1に変化したことがわかった。各条件でのリピドAのd間隔(2π/q)の値を計算し、図5Bに示した(右側)。d間隔の値は、4.19Åから3.54Åまでにほぼ分布している。LPSのみで確認されたリピドAのd間隔と比べて、展着剤H、M、およびEは、リピドAのd間隔を圧縮したということに注目されたい。つまり、展着剤Aは圧縮しなかった。これらの結果は、疎水性部分を有する展着剤、特に、メチルおよびエチルモチーフだけを有する展着剤は、CMCを高めるだけでなく、個別のLPS分子それぞれの分子内のd間隔を縮小することで充填密度をより高め(図5C)、敗血症を予防することができることを示した。
【0046】
上記したような、LPSのリピドAと直接結合できる展着剤の他にも、展着剤Mおよび展着剤EがTLR4-MD2複合体と結合するアンタゴニストとしての役割を果たせるか否かを評価する必要もある。予想通り、展着剤Mおよび展着剤EのいずれもLPSと結合し、用量依存性応答を示した(図6A)が、TLR4と結びつくことはできない(図6C)ことがわかった。結果として、我々の展着剤がTLR4アンタゴニストとして機能するという結論は、除外できる。さらに重要なことに、LPS単独での会合に比べて、展着剤Mおよび展着剤Eの存在下でのLPSとTLR4-MD2複合体との会合は、劇的に減少する(図6B)。この観察は、LPSと様々なタンパク質との間の相互作用を阻害するためには、展着剤Mおよび展着剤EがLPSのリピドAと結合しさえすればよいことを示唆している。
【0047】
このように、我々の戦略に基づき、展着剤は、抗エンドトキシン用の有効な阻害剤となるであろう。超微小金展着剤によるリピドAの圧縮により、LPS誘発性炎症からマウスを保護することができるという仮説を検証する必要がある。展着剤Mおよび展着剤Eのいずれも単独では免疫刺激剤とは考えられないことに留意されたい(図7)。単純化のため、展着剤Mのみの調査を、LPS投与マウスにおける重要な炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの誘導を詳細に研究することによって行った。展着剤Mの注射の前処置または後処置に関わらず、LPS誘発性サイトカイン/ケモカイン誘導の阻止は、LPSと展着剤Mとのプレミックス(図8、および、図9A~9C、混合物と記されたカラム)の注射に匹敵した。例えば、LPS投与マウスにおける、血漿中のTNF-α、IL-6、および、IL-1βを含む炎症誘発性のNF-κB依存性サイトカインの濃度は、著しく低下した。また、血漿中の免疫賦活性IL-12p70の濃度は変わらなかったが、血漿中のIL-12p40の濃度は、展着剤Mの前処置の方が展着剤Mの後処置より低くなった。IL-12p40は、先天性防御免疫と適応性防御免疫との橋渡しとしての免疫調節の役割を果たす。その一方で、展着剤Mを注射されたマウスでは、LPSの投与に応答して先天性免疫細胞によって分泌された血漿中のGM-CSFおよびGROα(KC)のいずれの濃度も著しく低下した。他の血漿中のサイトカインおよびCXCケモカインプロフィールの産生(図9A~9C)、および、RAW264.7および骨髄由来マクロファージ(BMDM)からのリン酸化NF-κBの発現(図10Aおよび図10B)も著しい減少を示した。総合すると、結果は、超微小金展着剤Mは、リピドAの機能に影響を及ぼし得るので、LPSの注射後、より早い事象においてエンドトキシンの細胞毒性を減少させることになることを示唆した。
【0048】
【表1】
【0049】
薬物動態の研究では、表1に示すように、展着剤Mの半減期は17.4時間であり、展着剤Eの半減期である15.4時間よりわずかに長かった。LPS誘発性敗血症マウスにおける展着剤Mおよび展着剤Eを用いた予防効果を検証した(図11)。
【0050】
【表2】
【0051】
我々の展着剤ではグラム陰性菌を殺すことができなかったので(表2)、実験的敗血症は、菌の死後のエンドトキシン片の放出を模倣した。展着剤を注射しないLPS誘発性敗血症マウスのメディアン生存時間は、22.5時間であるのに対し、展着剤Mおよび展着剤Eで前処置されたLPS誘発性敗血症マウスのメディアン生存時間は、それぞれ67.5時間および70時間であった。2種類の展着剤(すなわち、展着剤Mおよび展着剤E)は、LPS誘発性敗血症マウスの生存時間を著しく長く、3倍に延ばした。展着剤Eを注射したLPS誘発性敗血症マウスの生存時間は、展着剤Mを注射したLPS誘発性敗血症マウスの生存時間よりわずかに長かった。このさらなる向上は、分子間のファンデルワールス力により、エチルモチーフがメチルモチーフより強くリピドAと接着することができるという事実によるものであると推測される。まとめると、修飾されたメチルおよびエチルモチーフを有する超微小金展着剤は、抗エンドトキシン展着剤として機能する可能性があり得る。
【0052】
要するに、エンドトキシン活性を効果的に阻害することができる、敗血症を予防する手段としてのサブナノメートルの金展着剤を本明細書に提示する。
超微小展着剤は、フレーク状の基体として機能する金ナノクラスタと、グラム陰性菌の危険な組織片であるLPSと結合するための接着剤としての役割を果たす短いアルキルモチーフのコーティングとからなり、リピドAを標的化し、その分子内の炭化水素鎖間の距離(d間隔)を圧縮する。生物学的関連性では、LPS投与マウスの血漿中の腫瘍壊死因子α(TNF-α)、IL-6、IL-1β、および、ケモカインを含む重要な炎症誘発性のNF-κB依存性サイトカインの誘導は、顕著な減少を示した。そればかりでなく、抗エンドトキシン展着剤の処置は、LPS誘発性敗血症マウスの生存時間を著しく延ばすことができた。抗エンドトキシン展着剤の注射は、グラム陰性菌感染症によって引き起こされる敗血症の早期予防の潜在的な治療戦略となる可能性があり、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症性ショック、および、敗血症による致死から患者を効果的に保護するだろう。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11