(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】3C-SiC膜を調製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20220927BHJP
C23C 16/46 20060101ALI20220927BHJP
C23C 16/48 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C23C16/42
C23C16/46
C23C16/48
(21)【出願番号】P 2020559484
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 CN2018089263
(87)【国際公開番号】W WO2019227395
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509136264
【氏名又は名称】武漢理工大学
【氏名又は名称原語表記】Wuhan University of Technology
【住所又は居所原語表記】122 Luoshi Road,Hongshan District Wuhan,Hubei 430070 China
(73)【特許権者】
【識別番号】517321517
【氏名又は名称】後藤 孝
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】韓 明旭
(72)【発明者】
【氏名】▲トゥ▼ 溶
(72)【発明者】
【氏名】章 嵩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-206445(JP,A)
【文献】特開平1-147071(JP,A)
【文献】特開平2-194176(JP,A)
【文献】特開平10-226599(JP,A)
【文献】特表2015-517203(JP,A)
【文献】Youfeng Lai et al.,Fine-grained 3C-SiC thick films prepared via hybrid laser chemical vapor deposition,Journal of the American Ceramic Society,2019年,DOI: 10.1111/jace.16445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C23C 16/46
C23C 16/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合した赤外レーザービームおよび紫外レーザービームによるCVDによってSiC-CVD膜を調製するためのプロセスであって:
コールドウォール型のレーザーCVD装置のチャンバー内に基材を提供すること;
前記基材を予備加熱し、それから、赤外レーザービームおよび紫外レーザービームを前
記基材上に照射すること;
ケイ素前駆体および炭素前駆体、任意にキャリアガスを前記チャンバー内に導入して、
前記基材上に前記SiC-CVD膜を成膜すること、
を含み、
成膜温度が前記チャンバー内において
前記赤外レーザービームにより1523から1623Kに維持される、
プロセス。
【請求項2】
前記SiC-CVD膜が3C-SiC膜である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記SiC-CVD膜が0.5から5μmの平均結晶粒径を有する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ケイ素前駆体がSiCl
4であり、前記炭素前駆体がCH
4であり、前記キャリアガスがH
2である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記基材がグラファイトディスクである、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドレーザーCVDによって調製されるSiC-CVD膜、具体的には微細結晶粒3C-SiC厚膜に、およびそれを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)はワイドバンドギャップ化合物半導体材料であり、これは、その高い熱伝導性、絶縁破壊電界強度、および飽和速度により、高出力および高周波電子機器への使用にとって高度に好適である。これらのうち、3C-SiCは、その多くの非常な特徴、例えば高い温度安定性、熱伝導性、および機械的強度、ならびに優良な化学的侵食、熱ショック、および酸化耐性により、高温での使用にとって魅力的である。
【0003】
最近では、3C-SiC厚膜は、ホットウォールCVD(HCVD)、プラズマCVD(PECVD)、およびレーザーCVD(LCVD)によって調製されている。これらのCVDプロセスのうち、LCVDは低いTdepにおいてかつ高いRdepでもって3C-SiC厚膜を調製するための最も効率的なやり方である。例えば、非特許文献1は、1673Kにおいて数千マイクロメートル毎時のRdepでもって連続ダイオードレーザーCVDによって調製されるmmスケールの厚さを有する3C-SiC膜を開示している。3C-SiC膜の厚さはミリメートル範囲であったので、3C-SiCの平均結晶粒径もまた数十または数百マイクロメートルまで上げられた。
【0004】
しかしながら、微小な微細構造を有するSiCは、それらの粗大結晶粒バルクカウンターパートよりも優れた多くの機械的、電気的、および光学的特性を有する。例えば、非特許文献2は、プロピレンのパルス法によって得られる微細結晶粒SiCを開示しており、SiC膜の硬度は37から43GPaの範囲であり、これは粗大な柱状結晶粒SiC層のものよりも約10%高かった。他方で、バルミーナ(Barmina)らによって報告されている通り(非特許文献3)、ミクロンまたはナノメートルサイズの構造を有するSiCは発光ダイオード(LED)の性能を改善し得る。
【0005】
ダイオードレーザー(赤外レーザー)またはCO2レーザーCVDなどの他のレーザーCVDプロセスと比較して、紫外レーザーCVDは低温においてSiCまたは他のセラミック薄膜を作るという利点を有し、紫外レーザービームの波長(λ)は概ね100から300nmの範囲であった。熱分解的プロセスであるダイオードレーザーまたはCO2レーザーCVDとは違って、紫外レーザーCVDは光分解的プロセスである。主として、紫外レーザービームはジシランおよび四塩化チタンなどの前駆体によって吸収され、これは分子を光分解し、それによって反応を開始する。紫外レーザーの別の重要な適用はSiCの表面ナノテクスチャリングである。SiCが紫外レーザーを照射されるときには、溶融層がレーザーパルス爆発によって得られ、それから、溶融物はSiC表面上において球形のまたは半球形のナノ構造の形態で固化する。
【0006】
しかしながら、当分野においては、実施することが容易であり、成膜速度がより高く、かつ、より高い微小硬度を有する3C-SiC膜が得られるレーザーCVDによって微細結晶粒3C-SiC厚膜を調製するためのいかなるプロセスもない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】H.チェン(Cheng),R.トゥ(Tu),S.ジャン(Zhang),M.X.ハン(Han),T.後藤(Goto),およびL.M.ジャン(Zhang)著,「ハライドレーザー化学蒸着による高度に配向したベータSiCバルクの調製(Preparation of highly oriented beta SiC bulks by halide laser chemical vapor deposition)」,ジャーナル・オブ・ザ・ヨーロピアン・セラミック・ソサエティ(Journal of the European Ceramic Society),第37巻[2]p.509-515(2017年).
【文献】R.Z.リウ(Liu),M.L.リウ(Liu),Z.L.ワン(Wang),Y.L.シャオ(Shao),J.X.チャン(Chang),およびB.リウ(Liu)著,「パルス化プロピレンによる流動層化学蒸着による微細結晶粒SiC層の調製(Preparation of Fine Grained SiC Layer by Fliudized Bed Chemical Vapor Deposition with Pulsed Propylene)」,ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・セラミック・ソサエティ(Journal of the American Ceramic Society),第99巻[6]p.1870-1873(2016年).
【文献】E.V.バルミーナ(Barmina),A.A.セルコフ(Serkov),およびG.A.シャフェエフ(Shafeev)著,「ピコ秒UVレーザー放射による単結晶炭化ケイ素のナノ構造化(Nanostructuring of single-crystal silicon carbide by picosecond UV laser radiation)」,クォンタム・エレクトロニクス(Quantum Electronics),第43巻[12]p.1091-1093(2013年).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の上に記載されている問題を解決すること、ならびに、赤外レーザー(ダイオードレーザー)および紫外レーザーを複合させるハイブリッドレーザーCVDシステムによってSiC-CVD膜、具体的には微細結晶粒3C-SiC厚膜を調製するためのプロセスを提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、上のプロセスによって調製されるSiC-CVD膜、具体的には厚いかつ微細結晶粒の3C-SiC膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上の目的を達成するために、1つの態様では、複合した赤外レーザービームおよび紫外レーザービームによるCVDによってSiC-CVD膜を調製するためのプロセスが提供され:
レーザーCVD装置のチャンバー内に基材を提供すること;
前記基材を予備加熱し、それから、赤外レーザービームおよび紫外レーザービームを前記基材上に照射すること;
ケイ素前駆体および炭素前駆体、任意にキャリアガスを前記チャンバー内に導入して、前記基材上に前記SiC-CVD膜を成膜すること、
を含み、
成膜温度は前記チャンバー内において1523から1623Kに維持される。
【0011】
好ましい実施形態では、前記の得られるSiC-CVD膜は3C-SiC膜であり;好ましくは、前記SiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜は0.5から5μmの平均結晶粒径を有する。
【0012】
1つの実施形態では、レーザーCVD装置はコールドウォール型レーザーCVD装置である。
【0013】
1つの実施形態では、紫外レーザービームはパルスモードで照射される。好ましくは、紫外レーザービームは50mJ/cm2においてかつ10Hzの繰返しで照射される。好ましくは、それは15psのパルス幅を有する。好ましくは、紫外レーザービームは266nmの波長(λ)を有する。
【0014】
1つの実施形態では、赤外レーザービームは連続モードで照射される。好ましくは、赤外レーザービームは200から500Wの出力(PL)でもって照射される。赤外レーザービームは基材表面上において均一な温度分布を提供し得る。好ましくは、赤外レーザービームは1060nmの波長(λ)を有する。
【0015】
1つの実施形態では、前記基材は好ましくはグラファイトディスクである。
【0016】
1つの実施形態では、好ましくは、基材はTpre=753Kにおいてホットステージ上で予備加熱される。
【0017】
1つの実施形態では、好ましくは、SiCl4およびCH4がそれぞれ前記ケイ素および炭素前駆体として用いられ、H2が前記キャリアガスとして用いられる。好ましくは、ケイ素および炭素前駆体ならびにキャリアガスはそれぞれ200から1400sccmの流量で導入される。
【0018】
1つの実施形態では、好ましくは、プロセスの間の全圧(Ptot)は4kPaであり、成膜時間は30minである。
【0019】
いくつかの実施形態では、プロセスの間の成膜速度(Rdep)は最高で1230μm/h、好ましくは500から1230μm/hの範囲であり得る。
【0020】
別の態様では、上のプロセスによって調製されるSiC-CVD膜、好ましくは微細結晶粒3C-SiC厚膜が提供される。
【0021】
1つの実施形態では、前記SiC-CVD膜、好ましくは前記3C-SiC膜は0.5から5μmの平均結晶粒径を有する。
【0022】
1つの実施形態では、そのSEM像から分かる通り、SiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜は、粒状表面および柱状微細構造を有する。別の実施形態では、SiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜はランダムに分布した結晶学的配向を有する。
【0023】
1つの実施形態では、前記SiC-CVD膜、好ましくは前記3C-SiC膜は、1623Kかつ300gの荷重負荷において、35GPaに至るまで、好ましくは31から35GPaに至るビッカース微小硬度(HV)を有する。
【0024】
上のプロセスでは、紫外レーザーの導入は成膜の核形成速度を向上させ得る。それゆえに、より微細な結晶粒およびより高い微小硬度を有するSiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜が、複合した赤外レーザービームおよび紫外レーザービームによる上のプロセスによって得られ得、このプロセスは実施することが容易でありかつ成膜速度がより高い。
【0025】
付属の図面は本発明の実施形態を図解し、記載と一緒になって本発明の原理を説明する用をなす。これらは本発明のさらなる理解を提供するために包含され、かつ本明細書の一部として組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の1つの実施形態に従うプロセスを実施するために用いられるハイブリッドレーザーCVD装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1~2および比較例1~2において得られた3C-SiC膜のXRDパターンを図解するグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1~2および比較例1~2において得られた3C-SiC膜のラマンパターンを図解するグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1~2および比較例1~2において得られた3C-SiC膜の表面および割断SEM像を図解するグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1~2および比較例1~2において得られた3C-SiC膜の分布および平均結晶粒径を図解するグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1~2および比較例1~2において得られた3C-SiC膜のビッカース微小硬度(H
V)に対する荷重負荷の効果を図解するグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1~2および比較例1~2において得られた3C-SiC膜の成膜速度(R
dep)を図解するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願の利点および特徴は、例の次の詳細な記載および付属の図面の参照によってより容易く理解され得る。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で実施され得、本明細書において提出される例に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの例は本開示が徹底的かつ完全でありかつ本開示の概念を当業者に詳しく伝えるように提供され、本開示は添付の請求項によって定められる。
【0028】
本願では、用語「ダイオードレーザー」は用語「赤外レーザー」と同義であり、2つの用語は次の文中では交換可能に用いられ得る。
【0029】
上に記載されている通り、1つの態様では、本発明は、複合した赤外レーザービームおよび紫外レーザービームによるCVDによってSiC-CVD膜、好ましくは微細結晶粒3C-SiC厚膜を調製するためのプロセスを提供し:
レーザーCVD装置、好ましくはコールドウォール型レーザーCVD装置のチャンバー内に基材を提供すること;
基材を予備加熱し、それから、赤外レーザービームおよび紫外レーザービームを基材上に照射すること;
ケイ素前駆体および炭素前駆体、任意にキャリアガスをチャンバー内に導入して、SiC-CVD膜、好ましくは微細結晶粒3C-SiC厚膜を基材上に成膜すること、
を含み、
成膜温度はチャンバー内において1523から1623Kに維持される。
【0030】
図1は、本発明の1つの実施形態に従うプロセスを実施するために用いられるハイブリッドレーザーCVD装置としてのコールドウォール型レーザーCVD装置を示している。
図1から分かる通り、装置100は成膜のためのチャンバー1を画定する筐体を包含する。赤外レーザービームおよび紫外レーザービームがそれぞれ石英窓4、4’からチャンバー1内に導入され得るように、赤外レーザー2および紫外レーザー3が装置100に接続される。また、基材全部を照射するために、赤外レーザービームはレンズ(示されていない)によって直径が20mmまで拡大される。チャンバーの底には、基材5を支持するためのステージ6が提供される。好ましくは、ステージ6は、その上の基材5がプロセスにおいて予備加熱され得るように加熱ステージである。ケイ素前駆体および炭素前駆体ならびにキャリアガスを導入するためのノズル7が基材5のすぐ上に提供される。好ましくは、ノズル7は30mmの距離で基材から離間される。管が、一方では、ガスを導入するためのノズル7に接続され、他方では、バルブ12、12’、12”を介してそれぞれケイ素前駆体および炭素前駆体ならびにキャリアガスのソースに流体接続している。例えば、SiCl
4がケイ素前駆体として、CH
4が炭素前駆体として、かつH
2がキャリアガスとして用いられるときには、管は、バルブ12を介してSiCl
4前駆体タンク11に、バルブ12’を介してCH
4ソースに、かつバルブ12”を介してH
2ソースに接続され得る。任意に、SiCl
4前駆体タンク11はさらにSiCl
4ガスを運ぶためのH
2ソースに接続され得る。
図1に示されている通り、SiCl
4ガスが高温においてバブリングによって液体から運ばれ得るように、H
2ガスをタンク11内に導入するための管はSiCl
4液体のレベルよりも下であり得る。加えて、ガスの流れは
図1に示されている通りMFCによってコントロールされ得る。チャンバー内の温度がプロセスにおいてモニタリングされ得るように、パイロメーター9が別の石英窓8を介して装置100の筐体上に提供され得る。真空ポンプ10が装置100の底に提供される。
【0031】
ダイオードレーザーCVD装置とは異なって、本発明に従うハイブリッドレーザーCVD装置では、紫外レーザービームを通過させるための石英窓が追加される。紫外レーザーは例えば100から300nmの一般的な波長を有し得る。赤外レーザーについては、それは当分野において頻繁に用いられる波長を有し得る。
【0032】
プロセスにおいて、成膜速度(Rdep)は最高で1230μm/hであり得る。成膜速度(Rdep)を測定するための方法は次に記載される。
【0033】
本発明に従うプロセスに関連する他の(好ましい)特徴は上に記載されている通りである。
【0034】
別の態様では、本発明は、上のプロセスによって調製されるSiC-CVD膜、好ましくは微細結晶粒3C-SiC厚膜を提供する。SiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜は0.5から5μmの平均結晶粒径を有し得る。そのSEM像から分かる通り、SiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜は、粒状表面および柱状微細構造、ならびにランダムに分布した結晶学的配向を有し得る。加えて、SiC-CVD膜、好ましくは3C-SiC膜は1623Kかつ300gの荷重負荷において、35GPaに至るビッカース微小硬度(HV)を有し得る。平均結晶粒径およびビッカース微小硬度(HV)を測定するための方法は次に記載される。
【実施例】
【0035】
以降では、本発明が例に従って記載されるが、次の例はその範囲を限定するためよりもむしろ単に本発明のより明瞭な理解を可能にするために提供される。
【0036】
<実施例1>
3C-SiC膜の製造
図1に示されているコールドウォール型ハイブリッドレーザーCVD装置を使用して、微細結晶粒3C-SiC膜を調製した。紫外レーザービーム(β-BaB
2O
4、波長=266nm)を通過させるための石英窓4’を追加した。紫外レーザーを50mJ/cm
2においてかつ10Hzの繰返しで照射した。パルス幅は15psであった。グラファイトディスク(IGS-743、Φ15mm×1mm、三協カーボン株式会社、東京、日本)を基材として用い、T
pre=753Kにおいてホットステージ上で予備加熱した。赤外レーザービーム(InGaAlAs、波長=1060nm)を石英ガラス窓4からチャンバー内に導入し、基材全部を照射するためにレンズによって直径を20mmまで拡大した。レーザーは200から500Wの出力(P
L)による連続モードで作動させた。成膜温度(T
dep)は熱電対およびパイロメーター(2MH-CF4、オプトリス社(Optris GmbH.)、ベルリン、ドイツ)によって測定し、1523Kで基材全体において±5K以内にコントロールした。赤外レーザービームは基材表面上に均一な温度分布を提供した。SiCl
4およびCH
4をそれぞれケイ素および炭素前駆体として用いた。SiCl
4を293Kにおいて蒸気化し、H
2ガスによってCVDチャンバー内に運んだ。SiCl
4、CH
4、およびH
2の流量はそれぞれ400、200、および1400sccmに固定した。全圧(P
tot)および成膜時間はそれぞれ4kPaおよび30minであった。ノズルと基材との間の距離は30mmであった。ガスノズルの温度は473Kにおいて熱電対によって記録した。有害な排気ガス(例えば中間体Si-C-H-Cl)およびHClを処理するために、液体窒素を充填したコールドトラップおよびNaOHスプレー式スクラバーを適用した。
【0037】
測定
結晶相は、Cu-Kα(40kVかつ40mA)放射によるX線回折(θ-2θ)によって調べた(XRD、Ultima-III、株式会社リガク、東京、日本)。
ラマンスペクトロメーター(LabRam HR800Ev、株式会社堀場製作所、京都、日本。532nmのHe-Neレーザーを有する)を3C-SiC膜のラマンスペクトル測定に用いた。
試験片の微細構造はSEM(Quanta-250、FEI、20kV、ヒューストン、米国)によって観察し、成膜速度(Rdep)は厚さおよび成膜時間から計算した。
3C-SiC膜の微小硬度はビッカース微小硬度試験機(430SVD、ウォルパート(Wolpert)、米国)によって300、500、および1000gの荷重で測定した。圧入時間は15sであり、硬度試験のための3C-SiC膜の厚さは、基材の効果を排除するために十分厚かった。
平均結晶粒径は、SEM像から、少なくとも100個の結晶粒を有する直線長さを計数することによって決定した。
【0038】
結果
得られた3C-SiC膜のXRDパターンおよびラマン散乱スペクトルはそれぞれ
図2および3に示されている((c)によって示す)。SEM像は
図4(e)および(f)に示されている。平均結晶粒径およびビッカース微小硬度はそれぞれ
図5および6に示されている((c)によって示す)。R
depは
図7に示されている。
【0039】
<実施例2>
3C-SiC膜を実施例1のものと同じやり方で製造および測定したが、ただし、成膜温度(Tdep)は1623Kで基材全体において±5K以内にコントロールした。
【0040】
結果
得られた3C-SiC膜のXRDパターンおよびラマン散乱スペクトルはそれぞれ
図2および3に示されている((d)によって示す)。SEM像は
図4(g)および(h)に示されている。平均結晶粒径およびビッカース微小硬度はそれぞれ
図5および6に示されている((d)によって示す)。R
depは
図7に示されている。
【0041】
<比較例1>
3C-SiC膜を実施例1のものと同じやり方で製造および測定したが、ただし、プロセスにはいかなる紫外レーザービームも導入されない;つまり、3C-SiC膜はダイオード(赤外)レーザーCVDプロセスによって製造した。
【0042】
結果
得られた3C-SiC膜のXRDパターンおよびラマン散乱スペクトルはそれぞれ
図2および3に示されている((a)によって示す)。SEM像は
図4(a)および(b)に示されている。平均結晶粒径およびビッカース微小硬度はそれぞれ
図5および6に示されている((a)によって示す)。R
depは
図7に示されている。
【0043】
<比較例2>
3C-SiC膜を実施例2のものと同じやり方で製造および測定したが、ただし、プロセスにはいかなる紫外レーザービームも導入されない;つまり、3C-SiC膜はダイオード(赤外)レーザーCVDプロセスによって製造した。
【0044】
結果
得られた3C-SiC膜のXRDパターンおよびラマン散乱スペクトルはそれぞれ
図2および3に示されている((b)によって示す)。SEM像は
図4(c)および(d)に示されている。平均結晶粒径およびビッカース微小硬度はそれぞれ
図5および6に示されている((b)によって示す)。R
depは
図7に示されている。
【0045】
<評価>
XRDパターン
図2は、ダイオードレーザーCVD(比較例1~2、(a)および(b))ならびにハイブリッドレーザーCVD(実施例1~2、(c)および(d))によって成膜された3C-SiC膜のXRDパターンを示している。2θ=35.7°、41.3°、60°、71.8°、および75.5°における突出した5つの回折ピークは、それぞれ3C-SiCの(111)、(200)、(220)、(311)、および(222)面に対応する。
図2の曲線(a)および(b)に示されている通り、ダイオードレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜では、(220)ピークは他よりも強く、これは(220)面の優先配向を示した。しかしながら、ハイブリッドレーザーCVDによって成膜された3C-SiC膜では、いくつかの主なピークが観察された[
図2の曲線(c)および(d)]。それは結晶の結晶粒が結晶学的配向においてランダムに分布していることを意味した。3C-SiC膜の配向をロットゲーリングファクター(F
hkl)によって評価した。表1はダイオードレーザーCVDおよびハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜のF
110およびF
111を示す。F
hklは等式(1)から計算した:
F
hkl=(P
hkl-P
0)/(1-P
0) 等式(1)
式中、P
hklおよびP
0は、それぞれ膜(P
hkl)および粉末(P
0)について、(hkl)面のピーク強度と全てのピークの合計との比である。F
hklファクターは負(他の軸に沿った配向)から0(ランダム)へ、1(完全配向)までの値を有する。3C-SiC膜の配向はハイブリッドレーザーCVDでは顕著に変化した。ダイオードレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜は0.6よりも高いF
110の値を示し、かつF
111の負の値を有し、<110>配向を示した。他方は、3C-SiC膜のF
110およびF
111の値は0に近く、ランダムな配向を見せた。ハイブリッドレーザーCVDによって調製された試験片では、小さい肩が2θ~33.8°において観察され、これは面欠陥が原因であり得た。面欠陥および優先配向の乱れはハイブリッドレーザーCVDの紫外レーザーの照射によってもたらされ得た。
【0046】
【0047】
ラマンスペクトル
ダイオードレーザーCVD(比較例1~2、(a)および(b))ならびにハイブリッドレーザーCVD(実施例1~2、(c)および(d))によって成長させられた3C-SiC膜のラマン散乱スペクトルが
図3に示されている。曲線(a)および(b)はダイオードレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜のラマンスペクトルを示している。それは796および972cm
-1における2つの主に鋭いピークからなり、これらはそれぞれ3C-SiCの横光学(TO)および縦光学(LO)モードに帰属した。1520および1710cm
-1の辺りの2つのピークは2次光学フォノンモードに帰せられた。加えて、スペクトル中にはいかなるわずかな炭素相ピーク[D(~1330cm
-1)およびG(~1580cm
-1)]もなかった。曲線(c)および(d)はハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜のラマンスペクトルを示している。それもまた主に796および972cm
-1における2つのピークからなり、これらはハイブリッドレーザーCVDにおいて不変であった。これらのピークに加えて、150および600cm
-1の間の2つのブロードピークが、ハイブリッドCVDによって調製された試験片において検出された。これは、より小さいSiC結晶子について特に報告されている炭化ケイ素音響フォノンまたはアモルファスシリコンのTOフォノンモードの、どちらかに割り当てられ得る。a-Siもまた、SiCの紫外レーザー照射によって作られることが報告されている。TOおよびLOピークの低いcm
-1側に観察された肩はいくつもの(numerous of)欠陥を示唆した。この結果はXRDパターンと整合した。XRDおよびラマンピークの半値全幅(FWHM)が表2に提示されている。ハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiCのTOおよびLOラマンピークのFWHMは、ダイオードレーザーCVDによって成膜された試験片よりもずっと高かった。ブロード化はSiCの結晶粒の小さいサイズが原因であると思われた。XRDピークのFWHMは類似の結果を見せ、これもまたハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiCがずっと小さい結晶粒径を有することを支持した。
【0048】
【0049】
SEM像
図4は、ダイオードレーザーCVD(比較例1~2、(a)から(d))ならびにハイブリッドレーザーCVD(実施例1~2、(e)から(h))によって調製された3C-SiC膜の表面および割断の微細構造を示している。ダイオードレーザーCVDによって成膜された3C-SiC膜は、屋根様の切子状表面[
図4(a)および(c)]ならびに柱状断面[
図4(b)および(d)]を示した。柱状結晶粒は、成長方向といくらかずれたものが検出されるものの、良く整列した柱状の微細構造を見せるということが分かり得た。<110>配向した3C-SiC膜のこれらの典型的な表面および割断の微細構造は、当分野の以前の研究に類似である。しかしながら、ハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜は異なる微細構造を見せた。微細な粒状の表面構造[
図4(e)および(g)]が観察された。柱状物[
図4(f)および(h)]は3C-SiC膜の厚さ全体には延在せず、長さおよび幅が限られていた。これは新たな種の連続的な核形成を示唆し、これはハイブリッドレーザーCVDの紫外レーザーによる核形成速度の向上が原因であり得る。
【0050】
結晶粒径
図5は、ダイオードレーザーCVD(比較例1~2、(a)および(b))ならびにハイブリッドレーザーCVD(実施例1~2、(c)および(d))によって調製された3C-SiC膜の結晶粒径分布を提示している。
図5(a)および(b)はダイオードレーザーCVDによって調製された3C-SiCの結晶粒径分布を示している。T
dep=1523および1623Kでは、3C-SiC膜の表面構造は、結晶粒径がそれぞれ4~27および10~100μmの範囲である。ハイブリッドCVDによって調製された3C-SiC膜の結晶粒径分布は
図5(c)および(d)に示されている。結晶粒径分布はそれぞれ0.5~3.5および1.5~5.5μmの範囲であった。表3はダイオードレーザーCVDおよびハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiCの平均結晶粒径を示している。ハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜では、平均結晶粒径は大いに減少した。ダイオードレーザーCVDによって調製された3C-SiCの平均結晶粒径はそれぞれ52.8および13.2μmであった。しかしながら、ハイブリッドCVDによって調製された3C-SiCでは、平均結晶粒径はそれぞれ1.2および2.6μmに縮小した。通常は、紫外レーザービームが標的に衝突するときには、ナノ粒子は照射されたサンプルから直接的に生成され、ナノ粒子の形成はピコまたはフェムト秒レーザー誘起クーロン爆発によって開始され、これはSiC膜における一様に分布した微細構造に至る。
【0051】
【0052】
ビッカース微小硬度
図6は、ダイオードレーザーCVD(比較例1~2、(a)および(b))ならびにハイブリッドレーザーCVD(実施例1~2、(c)および(d))によって調製された3C-SiC膜のビッカース微小硬度(H
V)に対する荷重負荷の影響である。3C-SiC膜のH
Vは、圧子の荷重負荷の増加に伴って減少した。原理的には、圧入の形状はそのサイズに非依存的であるので、硬度は荷重負荷とは独立しているはずである。しかしながら、実際には、特に小さい荷重において、圧入の荷重依存性がある。全圧入量は、荷重除去による弾性回復の量を差し引いた塑性変形によって得られるものである。より低い荷重では、弾性回復の量は、全圧入量のうち、より高い荷重よりも大きい割合である。それゆえに、通常は、より小さい荷重における測定される硬度値はより高い荷重におけるものと比較してより高い。セラミック材料については、荷重の増加に伴う硬度の減少が従来技術において周知である。ハイブリッドレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜のH
VはダイオードレーザーCVDよりもずっと高かった。1623Kかつ300gの荷重負荷においては、H
VはハイブリッドレーザーCVDでは31から35GPaに増大した。向上したH
Vは、ハイブリッドレーザーCVDの3C-SiC膜のずっと小さい結晶粒径によって引き起こされ得た。
【0053】
R
dep
図7は、ダイオードレーザーCVD(比較例1~2。中空の円によって示す)およびハイブリッドレーザーCVD(実施例1~2。中実の円によって示す)によって調製された3C-SiC膜のR
depを示している。1523および1623Kでは、R
depはダイオードレーザーCVDでは440から935μm/hであった。ハイブリッドレーザーCVDでは、R
depは500および1230μm/hまで増大した。ダイオードレーザーCVDプロセスとは違って、光熱的な成膜プロセスは、ハイブリッドレーザーCVDプロセスの紫外レーザービームによって光分解的に向上させられ得た。3C-SiC膜をハイブリッドレーザーCVDによって成膜したときには、前駆体の分解速度は改善された。それから、成長表面はより多くのラジカルを受け取り、R
depの改善に至るであろう。
【0054】
上で分かる通り、赤外レーザービームおよび紫外レーザービームを複合させるハイブリッドレーザーCVDによって、微細結晶粒3C-SiC厚膜が作製された。紫外レーザーの導入は、3C-SiC膜の優先配向、微細構造、HV、およびRdepに対して大いなる影響を有した。粗大結晶粒のかつ<110>配向した3C-SiC膜がダイオードレーザーCVDによって得られ、結晶粒径は5~100μmの範囲であったが、ハイブリッドレーザーCVDによって、結晶粒径が0.5~5μmの範囲である微細結晶粒のかつランダムに配向した3C-SiC膜が調製された。ダイオードレーザーCVDによって調製された3C-SiC膜は屋根様の切子状(faced)表面および良く整列した柱状微細構造を示したが、ハイブリッドレーザーCVDプロセスでは、粒状表面および柱状微細構造が得られた。ハイブリッドレーザーCVDでは、紫外レーザーによる核形成の向上が原因で、柱状結晶粒は長さおよび幅が限られた。ずっと小さい結晶粒径ゆえに、ハイブリッドレーザーCVDでは、例えば1623Kかつ300gの荷重負荷において、3C-SiC膜のHVおよびRdepもまた改善された。それぞれ、3C-SiC膜のHVは31から35GPaに増大し、Rdepは935から1230μm/hに増大した。
【0055】
本発明の具体的な実施形態が上に記載されたが、種々の適用および改変が本発明の範囲から外れることなしに当業者に容易に明らかになるであろう。
【符号の説明】
【0056】
1 チャンバー
2 赤外レーザー
3 紫外レーザー
4 石英窓
4’ 石英窓
5 基材
6 ステージ
7 ノズル
8 石英窓
9 パイロメーター
10 真空ポンプ
11 SiCl4前駆体タンク
12 バルブ
12’ バルブ
12” バルブ
100 装置