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特許7147004全眼の生体測定変数を確実に判定するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】全眼の生体測定変数を確実に判定するための装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/107 20060101AFI20220927BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A61B3/107
A61B3/10 100
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021084442
(22)【出願日】2021-05-19
(62)【分割の表示】P 2019171522の分割
【原出願日】2013-09-27
(65)【公開番号】P2021118962
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】102012019474.9
(32)【優先日】2012-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】61/707,004
(32)【優先日】2012-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502303382
【氏名又は名称】カール ツアイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】エーバースバッハ、ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ハッカー、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】アントコヴィアック、ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】クロッペフライシュ、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】バイラモビッチ、フェリド
(72)【発明者】
【氏名】ビューレン、トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ライヒ、マティアス
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-075640(JP,A)
【文献】特開2011-098220(JP,A)
【文献】特開平09-285445(JP,A)
【文献】特表2009-515175(JP,A)
【文献】特表2002-529184(JP,A)
【文献】特開昭63-181735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/107
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズを計算するために眼の生体変数を測定するための装置であって、
多点角膜計と
OCT装置と、を備え、
前記多点角膜計は、角膜計測定点を含み、前記角膜計測定点は、コリメートされたビームによって点状にテレセントリック的に照明され、かつテレセントリック的に検出され、
前記OCT装置は、全眼を眼の軸方向全長にわたって検出する検出領域を有する横方向スキャン掃引源システムを含み、
前記OCT装置は、OCTデータが前房測定モードおよび網膜測定モードのうちの少なくとも一方で取得されるように構成され、前記前房測定モードおよび前記網膜測定モードうちの少なくとも一方の各々は、焦点位置またはコヒーレンス・ゲートに関して測定されるそれぞれの眼部に対して適応され、
前記前房測定モードでは、網膜からの信号も存在し、前記網膜測定モードでは、角膜前面からの信号も存在する、装置。
【請求項2】
前記多点角膜計は、少なくとも2つのリングに環状に配置された少なくとも12個の角膜計測定点を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記多点角膜計は、3つのリングであって、各リングが6つの角膜計測定点を有する該3つのリングに環状に配置された少なくとも18個の角膜計測定点を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記多点角膜計が、30超、4000未満の角膜計測定点を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記多点角膜計が、800超、1600未満の角膜計測定点を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
互いに垂直な少なくとも2つのBスキャンが、前記OCT装置により実現される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記網膜測定モードの場合、OCT照明ビームの焦点および前記コヒーレンス・ゲートのゼロ点が網膜付近に設定される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記コヒーレンス・ゲートのゼロ点は、網膜の後ろに設定される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記前房測定モードの場合、OCT照明ビームの焦点および前記コヒーレンス・ゲートのゼロ点は、前房付近または前房内にある、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記焦点が前房内に位置し、前記コヒーレンス・ゲートのゼロ点が角膜の前に位置する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記OCT装置の測定光が1010~1090nmの波長を有する、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズの計算に組み込まれる、眼の生体変数を判定するための装置に関する。このような変数として、角膜前面および角膜後面の半径(その方向を含む)、角膜の非球面性、中心の、または1次元もしくは2次元プロファイルとしての角膜厚さ、前房深さ、水晶体厚さ、水晶体前面および水晶体後面のうちの少なくとも一方の半径、眼の軸長さ、一般に、光学的に有効な境界面または眼の角膜前面/角膜後面、水晶体前面および水晶体後面、網膜等の眼の視覚的能力に光学的に関連する部分の位置および形状がある。これらの変数またはこれらの変数の一部が、公知のIOL式に従う、またはレイ・トレーシング法による、以下でIOL計算と呼ばれる眼内レンズの計算のために必要である。
【背景技術】
【0002】
従来技術は、全眼の生体変数を測定するためのOCT(光コヒーレンス・トモグラフィ)システムおよびトポグラフィ/OCT組合せシステムのみを開示している。シャインプルーフのPCI(部分コヒーレンス干渉)およびトポグラフィ・システムまたはこれらの組合せ機器は、上述した変数の一部を測定するが、これらの組合せは眼のすべてのパラメータを測定することはできない。特に、これらのシステムは、組合せシステムにおいても、眼の前房および軸方向の一次元長さを測定することに限定されているため、水晶体後面および網膜、またはこれらの部分のそれぞれのプロファイルを測定することができない。
【0003】
眼の前房および後房の測定を伴うOCTシステムと、同様に後房および前房の測定を伴うトポグラフィ/OCTシステムのみが、全眼を測定することができる。
さらに考えられる組合せは、前房測定用のトポグラフィ/シャインプルーフ・システムと後房測定用のOCTシステムとの組合せである。しかしながら、OCTも前房を検出することができるため、シャインプルーフ前房測定による利点は、追加コストに比べて低くなる。
【0004】
従来のトポメータ(topometer)(特にプラチド・システム)を用いて角膜のトポグラフィを測定することが、動きアーチファクトにより影響されるOCTシステムの測定よりも実質的に正確であるという点で、純粋なOCTシステムは、トポグラフィ/OCT組合せシステムに比べて不利である。上述したOCTシステムは、より高速な測定または眼に位置合わせされる測定により、このような動きアーチファクトを減少させることができるが、これは、かなりの費用を伴ってのみ可能であり、十分に確実な方法では容易に可能ではない。
【0005】
例として、プラチド・トポグラフと時間領域BスキャンOCTとの組合せが、トポグラフィ/OCT組合せシステムとして特許文献1に記載されている。原理上は、これによって全眼を生体測定することができる。しかしながら、記載された装置はいくつかの重大な欠点を呈するため、測定値の信頼性が低下する。
【0006】
プラチド・トポグラフィは非常に高い解像度を有するが、角膜計測定と比べると、表面を再構成することに関して再現性が低い。これは、第1に、高解像度を達成するためにトポグラフィの再構成中に行われること、および角膜計と比べて多くのトポグラフィ・システムのテレセントリック性が不足するか、または合焦可能性が不十分であることにおいて行われることのうちの少なくとも一方の仮定によるものであるため、トポグラフィ測定中、患者に対する測定機器の位置決めエラーが重要となる。
【0007】
さらに、プラチド・トポグラフでは、いわゆるスクリュ光線(Skrew rays)を考慮することができない。このスクリュ光線は、角膜頂点を通る中心面だけでなく、角膜頂点に垂直な面において角膜が湾曲するとき、すなわち、角膜が方位曲率(azimuthal curvature)を有する場合、プラチド・リング照明時に常に発生する。スクリュ光線を考慮しない結果、角膜表面は正確に再現されない。したがって、全体として、プラチド・トポグラフは、角膜の半径または一般に前面を、IOL計算の必要に応じて確実に十分には再現しない。
【0008】
さらに、時間領域OCTシステムは遅すぎ、価格において対抗するスペクトロメータに基づくシステムは、軸方向解像度を有していないこと、および軸方向スキャンもしくは検出深さが小さすぎることのうちの少なくとも一つにより、IOL計算に必要な解像度で眼の長さが得られず、もしくは部分的な深さ測定しか行われない。しかしながら、全眼生体測定、すなわち、眼の視覚的能力に光学的に関連する全眼の部分を、眼におけるその位置およびそのプロファイルに関して設定することは、前房および後房を別々に測定し、続いてデータを合成することによって、原理上、いずれの場合にも可能である。しかしながら、互いに対する画像の位置合わせは、部分画像において適切な共通の基準変数がないため、信頼性がないことが多い。
【0009】
したがって、プラチド時間領域OCTシステムによって、IOL計算のために十分に確実かつ簡単な方法で、すべての生体データを取得することはできない。
単純な角膜計とBスキャンOCTとの組合せが、特許文献2のトポグラフィ/OCT組合せシステムに記載されている。このシステムによっても、眼の生体測定の重要な生体変数を判定することができる。しかしながら、記載された装置も、測定値の信頼性を低下させ、または全眼の生体測定に関連する重要な点を未解決のままにするいくつかの重大な欠点を呈する。
【0010】
記載された角膜計は、角膜前面の半径のロバストな測定を可能にするにすぎない。角膜表面のより高次の表現、または記載された角膜計の解像度よりも高い解像度での表現は、不可能である。しかしながら、これは、眼内レンズ(略してIOL)、特にトーリックIOLの計算にますます必要になっている。
【0011】
さらに、これは、角膜計により測定されるトポグラフィをOCTデータからの空間データに割り当てるという問題を解決しておらず、また測定中の眼の動きを補償するために、OCT測定が特に迅速に行われることを保証するものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2004/0066489号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0203422号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、眼の生体変数の測定値を迅速、確実、かつ再現可能な方法により、必要な精度および解像度で測定する装置を開示するという目的に基づいており、これらの生体変数は、眼内レンズの計算、また全眼の生体測定を仮定するそのような計算に関連する。
【0014】
特に、眼の視覚的能力に光学的に関連する全眼の部分は、眼におけるそれらの位置およびそれらのプロファイルに関して判定されるべきであり、これは、以下で全眼生体測定と呼ばれる。ここでは、上述した変数が前景にあるが、装置を用いて、これまでに使い果たされていない異なる眼の変数、特に、眼の光学モデルをシミュレーションするために必要なそのような変数をも、測定データから抽出することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
多点角膜計とOCT装置とからなる、眼内レンズを計算するために眼の生体変数を測定するための装置は、角膜計測定点が遠隔測定により照明され、テレセントリック的に検出され、OCT装置が全眼をその軸方向全長にわたって検出する検出領域を有する横方向スキャン掃引源システムとして設計されるように、多点角膜計が構成されることによって、この目的を達成する。
【0016】
多点角膜計によって確実になるのは、第1に、高解像度で角膜表面を測定するために十分な数の角膜計点を使用可能であること、しかし測定点の密度は多点角膜計がスクリュ光線を検出することが可能であるように十分に低いことである。それに対して、テレセントリック性によって確実になるのは、測定する眼に対する測定機器の位置決めが不適切であっても、反射点の局所的な不整合にはつながらないことである。
【0017】
全眼をその長さにわたって捕捉する掃引源OCTスキャンが達成するのは、前房構造および網膜構造の両方をAスキャンまたはBスキャンにおいて検出することができることであり、スキャン中に網膜および前房/角膜に基づく方向付けが可能になることである。これにより、AスキャンおよびBスキャンのうちの少なくとも一方を組み合わせて、整合性のある全眼画像を形成することがさらに容易になる。ここで、掃引源OCTは、全眼長さにわたるAスキャンの、動きアーチファクトのない高速な測定を確実にする点で、時間領域OCTまたはスペクトロメータに基づくOCT等の他のOCT改良例よりも優れている。
【0018】
以下の本文は、装置および変形例の一部およびその実施形態をより詳細に説明する。その際に、以下の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】装置の基本的な光学設計を示す図。
図2】異なるOCT測定モード、すなわち前房モードおよび網膜モードで記録される2つのBスキャンを示す図。
図3】装置のBスキャン/角膜計形状の好ましい実施形態を示す図。
図4】トポグラフィの測定時およびOCT測定の場合のスクリュ光線の効果を示す図。
図5a】好ましい掃引源OCT測定システムの基本設計の2つの実施形態を示す図。
図5b】好ましい掃引源OCT測定システムの基本設計の2つの実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による、眼内レンズを計算するために眼の生体変数を測定するための装置は、多点角膜計とOCT装置とからなり、角膜計測定点がテレセントリック的に照明され、テレセントリック的に検出され、OCT装置が全眼をその軸方向全長にわたって検出する検出領域を有する横方向スキャン掃引源システムとして設計されるように、多点角膜計が構成される。
【0021】
図1は装置の基本的な光学設計を示し、ビーム・スプリッタ3により、OCTシステム2が共通の機器軸28上で多点角膜計システム1と一体化されて、両システムが、横方向に割当て可能な方法で眼27を生体測定することができるようになっている。
【0022】
ここで、多点角膜計システム1は、機器軸28から異なる半径方向距離にある複数の光源、好ましくはLED4からなる。レンズ・アタッチメント29により、LEDが確実に、共線ビームによって、角膜を点状にテレセントリック的に照明する。角膜により反射されたビームがカメラ5により検出され、カメラ5の上流にテレセントリック絞り6が取り付けられている。
【0023】
あるいは、補助レンズを有する個々のLEDの代わりに、1つまたはいくつかのLEDを用いて、適切に設計されたフレネル・レンズ、いわゆるフラキシコン(fraxicon)により、コリメート光線を生成することができる。これは、互いに離間された非常に多くのコリメート光線を生成する予定である場合に特に有利である。
【0024】
照明および検出のテレセントリック設計により、位置決めエラーに関する感度が低下する。これは、テレセントリック性の結果として、角膜に対する角度がわかっていて、距離とは無関係の光線のみが、画像の構築に寄与するためである。したがって、この設計により、プラチド・トポグラフの場合よりも角膜半径等の変数の測定の再現性が確実に高くなるため、この設計は、IOL判定関連パラメータを得ることに関して、プラチド・トポグラフよりも確実なものとなる。
【0025】
第1の実施形態では、角膜計が、カールツァイスメディック株式会社(Carl Zeiss Meditec AG)によるIOLMasterの角膜計の角度に対応する角度を、機器軸の周りのリング上に、特に機器軸に対して17~18度の照明角度で配置された6つの測定点で照明し測定する。これにより、IOLMasterからの測定データと本発明による装置からの測定データとを比較するときに、異なる角度整合による効果を考慮する必要が確実になくなる。
【0026】
さらなる実施形態では、角膜計は、機器軸の周りのいくつかのリング上に分散されたいくつかの点で照明し測定する。ここで、少なくとも2つのリング上で機器軸の周りに対称に配置された少なくとも12個の点が好ましい。
【0027】
ここで、各々6個の点を有する3つのリングを含む配置が特に好ましい。このために、図3は、考えられる配置を示す。3つのリングの配置によって確実になるのは、角膜表面の表現の必須の変数が測定されることであり、これらの変数は、良好な近似への現在のIOLのIOL計算に適したもの、すなわち角膜半径、非点収差または2つの主半径、および半径の一方の軸の位置、角膜の非球面性である。図3に示すように、第2のリングの点の位置に対する第1および第3のリングの点の回転によって特に達成されるのは、低次での角膜表面のゼルニケ表現により多くの眼の球面と比べて最大の偏差が見込まれる領域に、測定点が位置することである。さらに、この場合、リングの1つの角膜計照明について、IOLMaster角膜計にあるような形状を与えることもできる。
【0028】
ここで、好ましくは、OCTの少なくとも1つのBスキャンが少なくとも1つの角膜計測定点を通過するように、OCT装置のスキャン方向が整合される。
角膜表面の微細な解像度用または眼の疾患のより正確な診断用にさらに高い解像度を提供するために、角膜計は、30超、4000未満の角膜計測定点で照明し測定し、これらの角膜計点は、いくつかのリング上に分散されるか、または少なくともいくつかの領域を半径方向にカバーする。その結果、角膜表面のより高い次数を判定することができる。しかしながら、プラチド・トポグラフとは対照的に、OCT測定と組み合わせた角膜表面のギャップなし測定は、いわゆるスクリュ光線の検出を可能にするには適していない。したがって、800超、1600未満の測定点を有する角膜計が特に好ましい。これにより、トポグラフィ解像度とスクリュ光線の検出可能性との間の良好なアプリケーション指向の妥協がもたらされる。
【0029】
スクリュ光線を考慮する必要性について以下で説明する。
プラチド・トポグラフの代わりにいくつかの別々の測定点を有する角膜計を使用することによって確実になるのは、局所曲率を評価するときに、いわゆるスクリュ光線さえも正確に考慮されるという点である。このことは、角膜の局所曲率が、OCT測定ビームを角膜内に、したがって眼の中に屈折させるのに重要であるため、特に重要である。曲率のエラー、特にOCTビームをBスキャンの公称経線面から偏向させる曲率のエラーは、Bスキャンにおいて現れる眼内境界面の誤った位置決めにつながる。この場合に特に重大なのは、屈折における角度エラーは小さい可能性があるが、これに関連する位置決めエラーは眼内距離の増加と共に増加することである。
【0030】
これは図4に示される。図4の左側は、半径方向にのみ傾斜した角膜の表面要素を示す。したがって、ベクトル部分41は方位角成分を有していない。したがって、OCTビーム43として角膜表面要素に作用するOCTビーム42も、経線面のみに屈折する。右側は、方位角方向にも傾斜した表面要素44を示す。経線面からの反射が他の隣接する角膜領域の反射に重なり、2つの成分を容易に分離できないため、この傾斜は従来のプラチドまたはリング投影システムによって検出されない。それに対して、多点角膜計はこの傾斜を検出できる。角膜計の検出器上の反射点が経線面の外側に現れ、照明点が共に非常に近接して位置していなければ、他の照明点からの反射がそこで干渉しないからである。しかしながら、今度は、この表面要素の傾斜により、ベクトル部分44を有する表面要素上に落下するOCTビーム45が、同様にOCTビーム46として経線面から外に屈折される。したがって、Aスキャンにおける眼内境界面は、同様に経線面内にはなく、経線面の側面にある。したがって、この方位角傾斜を検出することなく、眼内境界面が、眼のモデルを形成するために誤って再現される。
【0031】
検出された角膜計点を関連する照明源により良好に割り当てることができるようにするため、さらなる実施形態の角膜計について、角膜計点が個々にまたはグループで順次照明され測定されると有利である。これは、各々の場合に角膜表面の大部分を測定する2以上のグループの角膜計測定点の場合に特に有利であり、ここでは、それぞれの角膜部分が完全にまたはかなりの程度まで重なるが、グループの角膜計点は各々の場合に互いに対してずれるか、または回転する。その結果、1つのグループの測定について、これにより、グループの2つの点の間の距離が、照明源と検出スポットとを確実に関連させるのに十分な大きさになるが、それにもかかわらず、種々のグループの角膜計測定点を測定することにより、角膜を依然として高解像度で確実に測定できるようになる。したがって、例えば18点の角膜計の場合、各々6つの点を有する3つのサブグループで測定を行うことができる。
【0032】
さらに、図3に示すような好ましい実施形態では、OCTの少なくとも1つまたは複数のBスキャン31~36が、1つまたは複数の角膜計照明点37を通過する。これは、角膜表面の角膜計データをOCTにより取得した眼内距離と組み合わせて、レイ・トレーシングによるIOL計算のための全眼モデルを形成すべきである場合に特に有利である。角膜計測定点でBスキャンを整合させることにより、角膜前面のデータを角膜曲率測定から、かつ眼内データをOCTから構成するときに、角膜計における角膜前面からの反射と同一の位置でOCTデータが確実に測定される。
【0033】
その際に、2色分離を用いて(このために、図1のビーム・スプリッタ3は2色設計を有する)角膜計およびOCTを同時に測定することができ、またはソフトウェアを用いて角膜計の画像において検出可能なOCT照明スポットを除去することにより、角膜計およびOCTを同時に測定することができ、または若干の時間遅延に合わせて(すなわち、眼の動きによるわずかな移動を受けて)角膜計およびOCTを交互に/順に測定することができる。あるいは、虹彩画像、瞳孔画像および強膜画像のうちの少なくとも一つと同時に、または同一の時間窓で、2つのモダリティの各々を別々に記録することもでき、上述した画像に基づいて互いに対して横方向に位置決めすることもできる。このような種類の角膜計信号からのOCT信号の分離は、角膜計に限定されず、角膜計の代わりにプラチド・トポグラフに適用されてもよい。
【0034】
同様に図3に示すさらなる実施形態では、OCTのBスキャンが角膜計点37を通過するだけでなく対を形成し、その対のスキャン面、例えば31および32がそれぞれ互いに垂直であり、できるだけ多くの角膜計点またはすべての角膜計点をカバーするために、種々の対が互いに対して回転する。
【0035】
この利点は、米国特許第7,452,077号明細書の通り、角膜頂点が各対について判定され、この角膜頂点を、角膜計測定から判定された角膜頂点と比較することができる点である。OCT頂点と角膜計頂点との距離が、一連のOCTおよび角膜計測定の間に強く変化しすぎると、これは、患者が適切に固定されておらず、角膜計測定点に対するOCTスキャンの割当てが、角膜計およびOCTデータから眼モデルを生成するのに十分確実ではないことを示す。
【0036】
以下の本文は、全眼の生体測定/検出のために多点角膜計が有利に組み合わされるOCTシステムを説明する。
図1によれば、OCTシステムは、掃引源干渉計13、コリメータ14、少なくとも1つの横方向に偏向するスキャナ11およびスキャナ12のうちの少なくとも一方、ならびに、眼においてOCTの焦点面を固定するように機能するいくつかの光学要素またはレンズ18、19、および20からなる。掃引源干渉計自体は、図5aおよび図5bに2つの変形形態で図示される。ここでは、これはいずれの場合にもマッハ・ツェンダー配置であるが、他の配置も実現可能である。
【0037】
最初に述べたように、掃引源システムは、その高感度のため、全眼OCTスキャンを記録するのに特に適している。特に、独国特許出願公開第102008063225号明細書に記載されたような組合せ機器の条件を満たすのに有利である。ここでは、780nm~1100nm、好ましくは1010nm~1090nmのOCT波長も、適用のために選択すべきである。それは、これらの波長の光が患者の眼によって知覚されず、白内障によって不透明になった眼の水晶体も依然として十分に貫通できるからである。組合せ機器の範囲内で、680~980nmまたは1100nm超の波長は、色分離の目的で、角膜計について選択するのに好適である。
【0038】
さらに、サンプル干渉計に加えて、掃引中のレーザ波長を監視するために基準干渉計がある場合、さらなる実施形態において、取得されたOCT信号の信頼性を向上させることができる。
【0039】
これに関し、図5aは、掃引源OCTシステムの特定の設計を示す。ここで、基準干渉計の光は、光源の直後、または実際のサンプル測定およびサンプル参照に必要な光学要素の直前に切り離される。この利点は、基準干渉計を掃引源レーザ・モジュールに組み込むことができる点である。あるいは、図5bは、この基準干渉計が光源自体内に直に位置しないか、または実際のサンプル測定およびサンプル参照に必要な光学要素の前には位置しないが、これらの光学要素の後に位置する配置を示す。
【0040】
好ましい実施形態では、遅延線によって網膜モードと前房モードとの間で切替えが行われる。網膜モードの場合、OCT照明ビームの焦点およびコヒーレンス・ゲートのゼロ点が網膜付近に設定される。コヒーレンス・ゲートのゼロ点は、この場合、好ましくは網膜の後ろに設定される。さらに、Bスキャン中の回転点は、眼の瞳孔に位置し、純粋な網膜OCTの場合のように、網膜のBスキャン/横断面記録が、高い横方向および軸方向解像度で行われるようになっている。前房モードの場合、OCT照明ビームの焦点およびコヒーレンス・ゲートのゼロ点は前房付近または前房内にある。焦点が前房内に位置し、コヒーレンス・ゲートのゼロ点が角膜の前に位置することが特に好ましい。さらに、回転点が仮想的に網膜付近に位置して、Bスキャンが、前房OCTからわかるような、前房の高解像度の横断面像を提供するようになっている。
【0041】
しかしながら、掃引源OCTの高感度により、両方のスキャン・モードにおいて、焦点が合っていない眼の部分も信号として確実に使用できる。これは図2に示される。前房モードでは、高い横方向解像度を有してはいないが、網膜Rからの信号も存在する。網膜モードでは、角膜前面CVからの信号も存在する。したがって、固定光により整合された患者の視軸と同一である主な機器軸に沿って各々の場合に行われるAスキャンは、両方のモードのBスキャンを互いに軸方向に関連付け、異なるモードの2つのスキャン間における眼の軸方向の動きを補償することができる。原理上、1つの共通の境界面の検出で十分であるが、これが実際にどの境界面であるかについて、境界面信号では不明なことが多い。ここで、種々のモードにおいて、スキャン当たり2つの境界面信号が、眼の境界面に対してより良好な割当て性を提供する。
【0042】
さらに好ましい実施形態では、さらなる光学要素により、網膜モードに比べて前房モードで遅延線が延長される。これは、網膜モードの場合、より低い網膜信号が機器の光学要素での反射によってさらに減衰されないようにビーム経路にある測定機器の光学要素がより少数になるように行われる。これに対して、前房からのより強い信号については、網膜からの信号に比べて、測定ビーム経路において眼の屈折率変化がより大きく、光学要素がより少ないため、焦点移動および遅延線移動光学ユニットでの反射による信号の減衰を許容することができる。実施形態が図1で説明され、ここでは、前房モードへの切替えが、レンズ18における旋回、レンズ20の傾け、およびプリズム16の挿入により達成される。
【0043】
さらなる実施形態では、装置は、眼および眼の近接する周囲のうちの少なくとも一方を照明するための1つまたは複数のLEDを有する。図1では、これらのLEDのLED25のみが例示される。その後、角膜計の画像センサによる記録が、眼に対して機器を横方向に位置決めするため、または縁から縁までの距離を判定するために使用される画像を提供する。この場合、角膜計測定とは対照的に、レンズを内および外のうちの少なくとも一方に旋回させることにより眼の周囲に焦点を合わせるための焦点位置の変化があると有利である。周囲の画像による機器の横方向位置決めは、前房モードにおけるOCT測定を用いた軸方向位置決めにより補完され得る。
【0044】
さらなる実施形態では、装置は、強膜を照明するための1つまたは複数のLEDを有する。射出される波長に関し、波長は血管および虹彩のうちの少なくとも一つの良好なコントラストがとられるように選択される。図1では、これらのLEDのうちLED26のみが例示される。その後、角膜計の画像センサによる記録が、眼に対するOCTおよび多点角膜計のうちの少なくとも一つの測定値の横方向位置合わせおよび回転位置合わせを可能にする画像を提供する。この位置合わせは、測定値から眼モデルを形成するため、または続いて眼内レンズを手術中に整合させるために使用され得る。
【0045】
上記の説明で記載したすべての要素および実施形態は、眼内レンズの計算に必要とされる生体変数測定の速度、信頼性、ロバスト性、および精度の増加に完全に寄与する。
すべての態様が、異なる測定物について必ずしも使用されるわけではない。例として、機器が前房の横断面および眼の軸長さのみを測定すべきである場合、多点角膜計と前房OCTとの組合せ機器において、全眼ではなく前房のみがOCTにより検出されれば十分である。そして、OCTは全眼をカバーする必要がなく、そのため時間領域およびスペクトロメータに基づくシステム等の他のOCTシステムを多点角膜計と組み合わせることが有利に可能となる。これは、このようなすべてのOCT/多点角膜計システムが、角膜表面についてのデータを取得するためにスクリュ光線を考慮することから利益を得るためであり、これらは、OCTデータの横方向局所化/割当てに使用される。
【符号の説明】
【0046】
1 角膜計システム
2 OCTシステム
3 ビーム・スプリッタ
4 LED
5 カメラ、部分センサ
6 テレセントリック絞り
7、8 焦点設定用レンズ
9 対物レンズ
10 ビーム・スプリッタ
11、12 旋回可能なミラー
13 OCT干渉計
14 コリメータ
15 光導波路
16 挿入可能なプリズム
17 ビーム偏向
18、19、20 焦点および視野設定用レンズ
21 シャッタ
22 ビーム・スプリッタ
23 フォトダイオード出力測定
24 固定LED
25 周囲照明LED
26 強膜照明LED
27 眼
28 機器軸
29 補助レンズ
28 機器軸
31~36 Bスキャン方向
37 角膜計照明測定点
41、44 表面要素ベクトル
42、45 入射OCTビーム
43、46 表面要素で光学的に屈折したOCTビーム
47 OCTスキャンおよび角膜中心面
50 掃引源
51、52、53 カプラ
54 基準干渉計
55、56 平衡検出器
58 経路長適応
59 干渉計におけるコリメータ
CV 角膜前面
R 網膜
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b