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特許7147017テリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】テリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/29 20060101AFI20220927BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220927BHJP
   A61L 2/16 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 5/18 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A61K38/29
A61K9/08
A61L2/16
A61P5/18
A61P19/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021109143
(22)【出願日】2021-06-30
(62)【分割の表示】P 2021012261の分割
【原出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2021169460
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019162281
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】松縄 保宏
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 健次
(72)【発明者】
【氏名】岡 成実
(72)【発明者】
【氏名】前島 卓治
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-220747(JP,A)
【文献】特開2019-065042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61L 2/00- 2/28
A61P 1/00-43/00
A61J 1/00- 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌操作法によるテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤の製造時における無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体の低減化方法であって、製造工程は、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージを無菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程を含み、前記パッケージの外装表面が過酸化水素又はアルコールで除染されたものであり、テリパラチド又はその塩の類縁体が18酸化体又は1-30切断体である(ただし、18酸化体とはテリパラチド又はその塩のN末端から18番目のメチオニン残基がメトキシとなった酸化体であり、1-30切断体とはテリパラチドのN末端の1番目から30番目のアミノ酸残基からなるペプチド又はその塩、をそれぞれ意味する)、無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体の低減化方法。
【請求項2】
無菌操作法によるテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤の製造時における無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体の低減化方法であって、製造工程は、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージの外装表面を過酸化水素又はアルコールで除染する工程、及び前記除染工程で得られたパッケージを無菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程を含み、テリパラチド又はその塩の類縁体が18酸化体又は1-30切断体である(ただし、18酸化体とはテリパラチド又はその塩のN末端から18番目のメチオニン残基がメトキシとなった酸化体であり、1-30切断体とはテリパラチドのN末端の1番目から30番目のアミノ酸残基からなるペプチド又はその塩、をそれぞれ意味する)、無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体の低減化方法。
【請求項3】
無菌操作区域を有する装置又はシステムが、アイソレータ又はRABSである、請求項1又は2に記載の低減化方法。
【請求項4】
無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の量がテリパラチド換算で28.2μgである、請求項1~3いずれかに記載の低減化方法。
【請求項5】
無菌操作法により製造されるテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤におけるテリパラチド又はその塩の類縁体の製造後の増加を抑制する方法であって、製造工程は、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージを無菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程を含み、前記パッケージの外装表面が過酸化水素又はアルコールで除染されたものであり、テリパラチド又はその塩の類縁体が18酸化体又は1-30切断体である(ただし、18酸化体とはテリパラチド又はその塩のN末端から18番目のメチオニン残基がメトキシとなった酸化体であり、1-30切断体とはテリパラチドのN末端の1番目から30番目のアミノ酸残基からなるペプチド又はその塩、をそれぞれ意味する)、無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体の増加抑制方法。
【請求項6】
無菌操作法により製造されるテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤におけるテリパラチド又はその塩の類縁体の製造後の増加を抑制する方法であって、製造工程は、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージの外装表面を過酸化水素又はアルコールで除染する工程、及び前記除染工程で得られたパッケージを無菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程を含み、テリパラチド又はその塩の類縁体が18酸化体又は1-30切断体である(ただし、18酸化体とはテリパラチド又はその塩のN末端から18番目のメチオニン残基がメトキシとなった酸化体であり、1-30切断体とはテリパラチドのN末端の1番目から30番目のアミノ酸残基からなるペプチド又はその塩、をそれぞれ意味する)、無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体の増加抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
無菌医薬品を製造する方法として、最終滅菌法と無菌操作法の2方法が存在し、前者は
医薬品を最終容器に充てんした後に滅菌する方法であり、後者は最終滅菌法を適用しない
医薬品に用いる技術であって、ろ過滅菌後、又は原料段階から一連の無菌工程により無菌
医薬品を製造するために用いる方法であることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、日本の厚生労働省は、「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」(非
特許文献2)及び「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」(非特許文献3)
それぞれを発行しており、無菌操作法による無菌医薬品製造における無菌操作区域を有す
る装置やシステムとして、アイソレータ(isolator)やアクセス制限バリアシステム(RA
BS: Restricted Access Barrier System)が知られている(非特許文献3)。
【0004】
さらに、アイソレータの無菌性は、作業者の物理的な隔離、空気から汚染を持ち込むリ
スクの排除、および非無菌物質のアイソレータへの持込みを防止するシステムによっても
たらされることや(非特許文献4)、アイソレータの無菌性を維持するために、内部に持
ち込む物は全て無菌性でなければならないことが報告されている(非特許文献5)。充填
及び巻締め工程はグレードA環境であるアイソレータ内において実施し、検査及び包装工
程はグレードD環境下で実施する例も開示されている(非特許文献5)。
【0005】
一方、エリスロポエチン、顆粒状コロニー刺激因子、インスリン、モノクローナル抗体
、その他のタンパク質製剤を液状にしてシリンジなどの容器に収容した容器入りタンパク
質溶液製剤は、従来から広く用いられていることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
医薬品を充填するためのプレフィルドシリンジやバイアルはその1つ1つが小さいこと
から、まとめてパッケージに収納された状態で無菌作業室に搬入されることがあることが
報告され、さらに、薬剤未充填の注射器等は、パッケージにしばしば収納され、それらパ
ッケージは、管理された滅菌の環境に搬入される前に、表面を除染されなければならない
ことも報告されている(特許文献2~3)。
【0007】
一方、アイソレータは一般に過酸化水素蒸気(VHP)のような化学剤で定期的に衛生
処理することが必要であり、このVHPが凍結乾燥機などの製造ラインに残存したまま製
造された場合、しばしば得られる薬品の有効性が低下することがあることも報告されてい
る(特許文献5)。
【0008】
また、テリパラチド又はその酢酸塩を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤が販売さ
れており(非特許文献7~8)、PTH含有凍結乾燥製剤の製造方法も報告されている(
特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/051962号
【文献】特開2016-129677号公報
【文献】特表2004-514476号公報
【文献】国際公開第2012/169435号
【文献】特表2010-509563号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】仲定宏、「無菌操作認定」、平成27年02月20日、第7回院内製造PET薬剤の「製造基準」の教育プログラム
【文献】厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課、「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」、平成24年11月9日
【文献】厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課、「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」の改訂について、平成23年4月20日
【文献】谷本和仁ら、PDA Journal of GMP and Validation in Japan, (2017), Vol.19, No.2, pp.45-55
【文献】出口統也、PDA Journal of GMP and Validation in Japan, (2010) , Vol.12, No.2, pp.70-77
【文献】第十六改正日本薬局方 一般試験法 「8.01 滅菌法及び無菌操作法」、平成23年3月24日 厚生労働省告示第65号
【文献】フォルテオ(登録商標)皮下注キット600μg添付文書(2018年1月改訂(第8版))
【文献】テリボン(登録商標)皮下注用56.5μg添付文書(2018年1月改訂(第8版))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、無菌操作法によってテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を
製造する方法であって、高品質且つ保存安定性に優れる無菌注射剤の製造方法等を提供す
ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記[1]~[7]に関する。
[1]
無菌操作法によってテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を製造する方法であ
って、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージを、無菌操作区域を有する装
置又はシステムへ搬入する工程、及び、当該搬入前に当該パッケージの外装表面を過酸化
水素又はアルコールで除染する工程、をそれぞれ含む、無菌注射剤の製造方法。
[2]
無菌操作法によってテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を製造する方法であ
って、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージの外装表面を過酸化水素又は
アルコールで除染する工程、及び前記除染工程で得られたパッケージを、無菌操作区域を
有する装置又はシステムへ搬入する工程を含む、無菌注射剤の製造方法。
[3]
無菌操作区域を有する装置又はシステムがアイソレータである、前記[1]に記載の無
菌注射剤の製造方法。
[4]
無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の量がテリパラチド換算で28.2μg
である、前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[5]
テリパラチド又はその塩を有効成分として含有する無菌注射剤の安定化方法であって、
当該有効成分を含有する薬液が含まれていない注射容器を収納したパッケージの外装表面
を過酸化水素又はアルコールで除染する工程、前記除染工程で得られたパッケージを、無
菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程、及び、当該薬液を当該注射容器に
無菌充填する工程を含む無菌操作法による製造方法によって無菌注射剤を製造することを
特徴とする、無菌注射剤の安定化方法。
[6]
テリパラチド又はその塩を有効成分として含有する無菌注射剤の保存時における有効成
分の安定化方法であって、有効成分を含有する薬液が含まれていない注射容器を収納した
パッケージの外装表面を過酸化水素又はアルコールで除染する工程、及び前記除染工程で
得られたパッケージを、無菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程、及び、
当該薬液を当該注射容器に無菌充填する工程を含む無菌操作法による製造方法によって無
菌注射剤を製造することを特徴とする、無菌注射剤の保存時における有効成分の安定化方
法。
[7]
テリパラチド又はその塩を有効成分として含有する無菌注射剤の保存時における有効成
分の酸化及び/又は切断を抑制する方法であって、有効成分を含有する薬液が含まれてい
ない注射容器を収納したパッケージの外装表面を過酸化水素又はアルコールで除染する工
程、及び前記除染工程で得られたパッケージを、無菌操作区域を有する装置又はシステム
へ搬入する工程、及び、当該薬液を当該注射容器に無菌充填する工程を含む無菌操作法に
よる製造方法によって無菌注射剤を製造することを特徴とする、無菌注射剤の保存時にお
ける有効成分の酸化及び/又は切断を抑制する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無菌操作法によってテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤を
製造する方法であって、高品質且つ保存安定性に優れる無菌注射剤の製造方法等を提供す
ることができる。また、本発明によれば、テリパラチド又はその塩を有効成分として含有
する無菌注射剤の安定化方法、当該無菌注射剤の保存時における有効成分の安定化方法、
無菌注射剤の保存時における有効成分の酸化及び/又は切断を抑制する方法についても提
供することができる。以下、本発明の製造方法を例にして説明するが、上記の各方法(無
菌注射剤の安定化方法、有効成分の安定化方法、有効成分の酸化及び/又は切断を抑制す
る方法)においても同様である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法は、無菌操作法によってテリパラチド又はその塩を含有する無菌注射
剤を製造する方法であって、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージであっ
て、その外装表面が過酸化水素又はアルコールで除染されたものを、無菌操作区域を有す
る装置又はシステムへ搬入する工程を含む。
【0015】
1.無菌操作法
無菌操作法とは、医薬品を最終容器(医薬品が最終的に用いる容器のことをいう)に充
てんした後、滅菌する方法である最終滅菌法を適用しない医薬品に用いる技術であり、ろ
過滅菌後又は原料段階から一連の無菌工程により無菌医薬品を製造するために用いる方法
を意味する(非特許文献1、6)。一般的には、耐熱性が高く、溶液状態で安定な薬剤に
対しては最終滅菌法を適用して製造することが好ましく、耐熱性が低い薬液や溶液状態で
安定ではない薬剤に対しては無菌操作法を適用して製造することが好ましい。テリパラチ
ド溶液は必ずしも十分に安定とはいえないことから、無菌操作法を適用して製造すること
が好ましい。なお、無菌医薬品自体は一般に知られており、容易に理解され得るものであ
る(非特許文献2~6)。例えば、無菌医薬品として、ヒトを含む哺乳動物の治療/予防
/診断を目的に投与される、注射剤(無菌注射剤)、点眼剤、及び、眼軟膏剤等を例示で
きる。本発明の製造方法は、無菌操作法により得られる無菌医薬品のうち、無菌注射剤を
製造する方法に関するものである。
【0016】
本発明の製造方法において、滅菌とは、対象物の微生物をその滅菌の目的が達成される
程度に殺滅又は除去することを意味する。例えば、非特許文献3に従えば、滅菌とは、「
全ての種類の微生物を殺滅し、又は除去し、対象とする物の中に生育可能な微生物が全く
存在しない状態」を意味する。滅菌法は、一般に、微生物の種類、汚染状況、滅菌される
ものの性質及び状態に応じて、その方法の適切な選択と操作法及び条件の適正化を検討し
て行うことができる。
【0017】
2.テリパラチド又はその塩
本発明の製造方法において、テリパラチドとは、フリー体のヒトPTH(1-34)を
意味する。ヒトPTH(1-34)は、ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1-8
4)のアミノ酸配列において、N末端側からみて第1番目から第34番目までのアミノ酸
残基からなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドである。
【0018】
テリパラチドは塩の形態であることもできる。テリパラチド塩として、テリパラチドと
1種又は2種以上の揮発性有機酸とによって形成される任意の塩が挙げられる。テリパラ
チドと揮発性有機酸とが塩を形成する際の両者の比率は、当該塩を形成する限りにおいて
特に限定されない。揮発性有機酸として、酢酸が好ましい。即ち、本発明の製造方法にお
けるテリパラチドの塩としては、テリパラチド酢酸塩を好ましく例示できる。
【0019】
本発明の製造方法において、無菌注射剤に含有されるテリパラチド又はその塩の量は特
に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、下限としては20μg以上である
ことが好ましく、25μg以上、27μg以上、更には28μg以上であることがより好
ましい。また、上限としては50μg以下であることが好ましく、40μg以下、35μ
g以下、30μg以下、更には29μg以下であることがより好ましい。中でも、28.
2μg又は29.2μgであることが好ましい。本明細書において、テリパラチド塩の量
は、テリパラチド換算量である。例えば、テリパラチド五酢酸塩が30.3μg又は31
.3μgの場合は、テリパラチド換算量にすると28.2μg又は29.2μgとなる。
【0020】
3.注射容器
本発明の製造方法において、注射容器は、注射用に薬剤を収容する医療用容器である限
りにおいて特に限定されないが、例えば、アンプル、シリンジ(注射筒)、ペン型注入器
に用いるカートリッジ、バイアル、ボトル、バックなどの態様が挙げられる。注射容器の
材質も特に限定されることはなく、ガラス製やプラスチック製のいずれであってもよい。
ただし、ガラス製の注射容器は、重たく破損し易いことから、本発明の製造方法における
注射容器として、プラスチック製の注射容器が好ましく、プラスチック製シリンジがさら
に好ましい。プラスチック素材は特に限定されず、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状
オレフィン系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、
ポリメタクレートなどを例示することができる。また、無菌操作方法によって製造する場
合、注射容器は滅菌されている必要がある。容器の滅菌方法は特に限定されることはなく
、高圧蒸気滅菌、乾熱滅菌、ガンマ線や電子線による放射線滅菌などを例示することがで
きる。
【0021】
4.パッケージ
本発明の製造方法において、パッケージとは、薬剤が含まれていない注射容器を収納す
る包装体である限りにおいて特に限定されず、例えば、主に槽部と蓋部から構成されるパ
ッケージであって、蓋部の全部又は一部が剥き取り操作(peel-away procedure)で容易
に開くことができるパッケージであることができる(特許文献3)。パッケージの材質は
特に限定されず、例えば、プラスチック樹脂を用いることができる。パッケージに収納さ
れる注射容器の状態は限定されないが、滅菌された状態であることが好ましい。パッケー
ジにおける注射容器の収納方式は特に限定されないが、パッケージの輸送時や充填工程時
において、パッケージに収納される複数の注射容器が互いに接触しないような構造方式で
あることが好ましく、パッケージが多層構造を有して複数段にわたって注射容器が収納さ
れてもよく、注射容器を格子状に整列させた状態で収納するものであってもよい。このよ
うなパッケージとしては、例えば、「滅菌済みガラスシリンジD2F(登録商標)」、「
滅菌包装ソリューション-D2F(登録商標)」(ニプロ社製)を例示することができる
【0022】
本発明の製造方法において用いられるパッケージは、その外装表面が除染されたもので
ある。一般的に、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージが無菌注射剤の製
造現場に輸送等される過程において外気等によってその外装が汚染されることが多い。注
射容器を収納したパッケージの汚染を避けるために、滅菌袋や外包袋に入れて製造現場に
持ち込むこともあるが、無菌操作区域に搬入する際には、その直前で滅菌袋や外装袋から
パッケージを取り出す必要があり、その際に少なからず汚染されるリスクも否定できない
。従って、そのパッケージに収納される注射容器を用いて無菌操作法によって無菌注射剤
を製造する際、その製造場所に存在する無菌操作区域を有する装置又はシステムにそのパ
ッケージを搬入する前に、予めパッケージの外装表面を除染することは極めて重要である
【0023】
本発明の製造方法においては、パッケージの外装表面が過酸化水素又はアルコールで除
染されたものである。テリパラチド又はその塩を含有する無菌注射剤においては、このよ
うなパッケージを用いて製造することで、意外にも、高品質且つ保存安定性に優れる無菌
注射剤が得られることを新たに見出した。
【0024】
過酸化水素又はアルコールでパッケージの外装表面を除染する際、汚染されている可能
性がある全ての外装表面を除染することが好ましい。例えば、パッケージが、底部、4つ
の壁部、及び蓋部の6部から構成されるボックス様の包装体である場合、6部の各外装表
面に対して除染することが好ましい。
【0025】
過酸化水素除染の方法は特に限定されないが、例えば、過酸化水素ガスで薫蒸滅菌する
方法を好適に挙げることができる。この際、パッケージ周辺において過酸化水素を適当な
濃度(例:10~1000ppm程度)に至るまで気化させ、過酸化水素ガスの下でパッ
ケージ外装を除染することができる。一般的には、酸化作用によって微生物を死滅させる
ことが過酸化水素除染の主な作用機作と理解されている。
【0026】
アルコール除染の方法も特に限定されないが、例えば、パッケージ周辺において、50
~90%濃度のイソプロパノールやエタノールを噴霧又は気化させ、パッケージ外装を除
染することができ、50~90%濃度のイソプロパノールやエタノールにて湿潤させた布
でパッケージ外装の全ての面を拭きあげることもできる。一般的には、タンパク質や核酸
の変性作用によって微生物を死滅させることがアルコール除染の主な作用機作と理解され
ている。
【0027】
ここで、「除染」とは、再現性のある方法により生存微生物を除去し、又はあらかじめ指
定されたレベルまで減少させることを意味する(非特許文献3)。実務的には、適用する
除染剤に対して抵抗性の高い芽胞の4~6logの減少を確保することでもよい。
【0028】
5.無菌操作区域を有する装置又はシステム
本発明の製造方法において、無菌操作区域とは、「微生物及び微粒子を許容レベル以下
に制御するために、供給する空気、原料及び資材、構造設備並びに職員を高度に管理した
環境」を意味する。無菌操作区域は,さらに重要区域と直接支援区域とに分けられ得る(
非特許文献3)。
【0029】
重要区域は、空気の洗浄度レベルがグレードA(ISO 5)である区域であり、薬剤充填
前の無菌作業(無菌接続、無菌原料の添加)、無菌充填、容器閉そくや打栓などの製造工
程は、重要区域で行うことが好ましい。直接支援区域は、空気の洗浄度レベルがグレード
B(ISO 7)である区域であり、重要区域のバックグラウンドとなる区域である。
【0030】
無菌操作区域を有する装置又はシステムとして、例えば、アイソレータ(isolator)や
アクセス制限バリアシステム(RABS: Restricted Access Barrier System)が知られてい
る(非特許文献3)。
【0031】
6.任意成分
本発明の製造方法に係る無菌注射剤には、無機塩・有機塩、緩衝剤、添加剤等の各種の
成分を充填していてもよい。このような成分として、例えば、二糖類(例:ショ糖)、無
機塩である塩酸塩又はナトリウム塩(例:塩化ナトリウム)、中性アミノ酸(例:L-メ
チオニン)、及び、糖アルコール(例:D-マンニトール)を挙げることができる。無菌
注射剤のpHについても、特に限定されず、例えば、3~6の範囲を例示できる。
【0032】
7.その他の工程
本発明の製造方法は、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージを、無菌操
作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程を含む限りにおいて特に限定されず、パ
ッケージの外装表面を過酸化水素又はアルコールで除染する工程を更に含んでいてもよい
。即ち、本発明の製造方法は、薬剤が含まれていない注射容器を収納したパッケージの外
装表面を過酸化水素又はアルコールで除染する工程、及び前記除染工程で得られたパッケ
ージを、無菌操作区域を有する装置又はシステムへ搬入する工程を含むものであってもよ
い。
【0033】
また、薬剤調製工程、薬剤ろ過工程、無菌充填工程、注射容器閉そくもしくは打栓工程
、無菌注射剤の検査及び包装工程を含む製造方法であることもできる。これらの製造工程
は、いずれも無菌操作区域を有する装置又はシステム内で実施されることが好ましく、前
述の通り、無菌充填工程及び注射容器閉そくもしくは打栓工程は、重要区域内(グレード
A区域内)で実施されることが好ましい。
【0034】
8.無菌注射剤
【0035】
本発明の製造方法に係る無菌注射剤は、注射用液状医薬製剤である限り、特に限定され
ない。本発明の製造方法に係る無菌注射剤として、例えば、テリパラチド又はその塩を含
む薬剤が封入又は充填されたアンプル製剤、バイアル製剤、プレフィルドシリンジ製剤等
を好ましく挙げることができる。本発明の製造方法に係る無菌注射剤を投与する(注射す
る)際の投与経路については、特に限定されないが、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、
皮内投与、皮下投与用等を挙げることができる。
【0036】
本発明の製造方法に係る無菌注射剤は、高品質な無菌注射剤である。ここで、高品質と
は、製造された無菌注射剤に含まれるテリパラチド又はその塩の類縁体が低減されている
ことを意味する。テリパラチド又はその塩の類縁体は、特に限定されないが、8酸化体、
18酸化体、8-18酸化体、切断体、又はこれら全体を意味する。ここで、8酸化体と
は、テリパラチド又はその塩のN末端から8番目のメチオニン残基がメトキシとなった酸
化体を、18酸化体とは、テリパラチド又はその塩のN末端から18番目のメチオニン残
基がメトキシとなった酸化体を、8-18酸化体とは、テリパラチド又はその塩の8番目
及び18番目のメチオニン残基が共にメトキシとなった酸化体を、それぞれ意味する。切
断体とは、テリパラチド又はその塩の部分ペプチドであって、例えば、1-30切断体を
例示でき、1-30切断体は、テリパラチドのN末端から1番目から30番目のアミノ酸
残基からなるペプチド又はその塩を意味する。
【0037】
本発明の製造方法に係る無菌注射剤に含まれる製造時の類縁体全体の量(類縁体総量)
としては、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1.
0%以下、更に好ましくは0.9%以下であり、下限値は特に限定されないが、0.1%
以上とすることができる。また、無菌注射剤に含まれる製造時の切断体量としては、好ま
しくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下、最も
好ましくは0.0%である。これらの数値は、HPLCの面積百分率であり、即ち、テリ
パラチド又はその塩及びそれらの類縁物質の総量(総ピーク面積)を100とした場合の
割合(%)を示す。
【0038】
本発明の製造方法に係る無菌注射剤は、その製造後に安定的に保存可能ならしめる無菌
注射剤である。ここで、安定的に保存可能とは、無菌注射剤を保存した際、特定の類縁体
が増加しない又は減少することを意味する。より具体的には、例えば、25℃・60%R
Hの保存条件の下、数ヶ月間にわたって、無菌注射剤に含まれる18酸化体量が実質的に
増加しない場合には、安定的に保存可能とみることができる。なお、前記保存条件は加速
試験における条件であり、本発明の製造方法に係る無菌注射剤の保存条件としては、冷蔵
保存を前提とすることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも
束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施す
ることが可能である。
【0040】
(1)無菌注射剤の製造
実施例1、2、比較例1
医薬品製造工場内にて、テリパラチド酢酸塩、マンニトール、塩化ナトリウム、及び、
L-メチオニンを含有する薬剤を調製し、ろ過滅菌した後、アイソレータにおいて、さら
に、無菌充填、打栓、包装の各工程を慣用法に沿って実施して、テリパラチド酢酸塩を含
有する無菌注射剤を製造した。
【0041】
製造に用いた注射容器は、滅菌されたプラスチック製シリンジであり、これらが薬剤未
充填の状態でパッケージの中に格子状に整列・収納されていた。パッケージは輸送され、
医薬品製造工場内に持ち込まれたものであることから、パッケージの外装表面を予め過酸
化水素(実施例1)やアルコール(実施例2)で除染した上で、アイソレータに搬入した
。除染条件は以下の通りである。
【0042】
(1-1)過酸化水素除染条件
熱した鉄板の上に過酸化水素を滴下することで、過酸化水素を気化させ、薬剤未充填の
シリンジが収納されたパッケージを気化した過酸化水素に暴露させることで外装を除染し
た。
【0043】
(1-2)アルコール除染条件
約70%の濃度の消毒用エタノールで外装の全ての面を拭きあげることで外装を除染し
た。
【0044】
搬入後、アイソレータ内に搬入されたパッケージの蓋部が剥き取り操作(peel-away pr
ocedure)され、プラスチック製シリンジを取り出して、無菌充填ラインにシリンジを実
装した。その実装後、無菌充填、打栓の各工程を慣用法に沿って実施することで、無菌注
射剤を製造した(実施例1、2)。また、除染効果を評価する目的で、除染未実施のパッ
ケージをアイソレータ内に搬入し、パッケージの蓋部が剥き取り操作(peel-away proced
ure)され、プラスチック製シリンジを取り出して、無菌充填ラインにシリンジを実装し
た。その実装後、無菌充填、打栓の各工程を慣用法に沿って実施することで、無菌注射剤
を製造した(比較例1)。
【0045】
(2)安定性試験
【0046】
実施例1、2及び比較例1で製造した無菌注射剤をそれぞれ、加速試験に供し、経時的
にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィーにより安定性を測定し、生成した不
純物の解析を行った。各試験の具体的条件は以下の通りである。
【0047】
(2-1)加速試験条件
25℃60%RHの保管庫に実施例1、2及び比較例1で製造した無菌注射剤を保管し
た。
【0048】
(2-2)高速液体クロマトグラフィー条件
1.検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm)
2.カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に3.5μmの液体クロマ
トグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填(Agilent Techno
logies社製のZorbax 300SB-C18、又は同等品)
3.カラム温度:40℃付近の一定温度
4.移動相
移動相A:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH
2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液900mLにアセトニトリ
ル100mLを加える。
移動相B:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH
2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液500mLにアセトニトリ
ル500mLを加える。
5.移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を下記表1のように変えて濃度勾配制
御する。
6.流量:毎分1.0mL
7.検出時間:試料溶液注入後45分間。ただし溶媒ピークの後ろからとする。
【0049】
【表1】
【0050】
(3)試験結果(不純物解析)
試験結果を以下の表2に記す。表中の数値は処方に含まれるテリパラチド及びその類縁
物質の総量を100とした場合の割合(%)を示す。「0M」は加速試験直前(製造直後
)を、「1M」は加速試験開始後1ヶ月経過時点を、「3M」は加速試験開始後3ヶ月経
過時点を、それぞれ意味する。
【0051】
「過酸化水素(%)」とは、過酸化水素による除染をパッケージに対して施した上で製
造されて得た無菌注射剤における各類縁体の含有量(%)を意味する。「アルコール(%
)」とは、アルコールによる除染をパッケージに対して施した上で製造されて得た無菌注
射剤における各類縁体の含有量(%)を意味する。「なし(%)」とは、パッケージに対
して除染を施さずに製造されて得た無菌注射剤における各類縁体の含有量(%)を意味す
る。表中の斜線(/)は、不純物解析を実施していない事実を表す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2より、実施例1、2で得られた無菌注射剤は、比較例1で得られたものと比べてい
ずれも類縁体量が少なく高品質であることが分かる。また、実施例1、2で得られた無菌
注射剤は、加速試験開始後3ヶ月経過時点においても18酸化体の量が増加しておらず、
保存安定性に優れるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の無菌注射剤を製造する方法は、製造物である無菌注射剤が高品質であり、製造
後に安定的に保存可能ならしめる無菌注射剤である。本発明は、例えば骨粗鬆症治療分野
など、医薬品産業において極めて有用である。