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特許7147022層状食品用油中水型乳化物とそれを用いた可塑性油脂および層状食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】層状食品用油中水型乳化物とそれを用いた可塑性油脂および層状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220927BHJP
   A21D 13/16 20170101ALI20220927BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20220927BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D13/16
A21D2/16
A21D2/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021117941
(22)【出願日】2021-07-16
(62)【分割の表示】P 2017205531の分割
【原出願日】2017-10-24
(65)【公開番号】P2021164485
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2016208997
(32)【優先日】2016-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】彦エ さくら
(72)【発明者】
【氏名】北谷 友希
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-213289(JP,A)
【文献】特開2009-45033(JP,A)
【文献】村上千秋,加熱油脂のコレステロール代謝に及ぼす影響(第1報) パーム分別油の影響,油化学,1990年,第39巻 第7号,pp.22-30
【文献】大武由之,豚肉脂質の脂肪酸ならびにトリグリセリド組成,日畜会報,1970年,41(12),pp.642-648
【文献】日本油化学会,油脂・脂質・界面活性剤データブック,丸善出版株式会社,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖類および二糖類から選ばれる少なくとも1種の糖類を含有し、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が、トリグリセリドの2位に結合された脂肪酸全体の質量に対して35~57質量%であり、トリグリセリドの構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量が、トリグリセリドの脂肪酸全体の質量に対して3質量%未満であり、
前記二糖類としてショ糖を含有し、ショ糖の含有量が前記糖類全体の質量に対して50質量%以上であり、
前記糖類と水との質量比(前記糖類/水)が、0.5~2.5であり、
トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量が、トリグリセリド全体の質量に対して25~35質量%であり、かつトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量が、トリグリセリドの2位に結合された脂肪酸全体の質量に対して1.5~5.0質量%である層状食品用油中水型乳化物(但し、トリグリセリドXOXおよびXOYにおけるXとOとYは次のとおりである。
X:炭素数16以上の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
Y:炭素数16以上の不飽和脂肪酸)。
【請求項2】
油脂の含有量が50~85質量%である請求項1に記載の層状食品用油中水型乳化物。
【請求項3】
前記糖類の含有量が5~35質量%である請求項1または2に記載の層状食品用油中水型乳化物。
【請求項4】
ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂を油脂全体の質量に対して10~40質量%含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の層状食品用油中水型乳化物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の層状食品用油中水型乳化物からなる可塑性油脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状食品用油中水型乳化物とそれを用いた可塑性油脂および層状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デニッシュ、クロワッサン、パイなどの層状食品を製造する際には、生地の間に可塑性油脂である油中水型乳化物を包み込み、その後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって生地中に可塑性油脂を層状に折り込んで、生地と可塑性油脂の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この可塑性油脂を折り込んだ生地を焼成することによって、層状構造を持つ層状食品が得られる。
【0003】
従来、甘みのある層状食品は、消費者に広く好まれている。層状食品に甘みを付与するために、多量の糖類を生地に直接添加した場合、生地がべたつき、軟化して作業性が悪くなり、折り込み時に油脂が均一に伸びず、油脂切れが生じたり、適正な厚みの油脂層が形成されないため、ボリュームのある焼成品を得ることが困難になる。このような問題点に対処する技術として、特許文献1には、生地に折り込む油中水型乳化物に糖類を添加した、加糖タイプの油中水型乳化物が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、実施例において部分水素添加した硬化油を含む調合油を使用している。このように、従来の製菓製パン用油脂には部分水素添加した硬化油が多く使用されてきた。しかし、この硬化油に含まれるトランス脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させるとも言われており、健康志向の高まりにより、近年ではトランス脂肪酸量の低減が強く望まれている。
【0005】
トランス脂肪酸量を低減した油脂配合においても、この油中水型乳化物を生地に折り込んで焼成した層状食品には、口溶け、フレーバーリリースが良いことが望まれている。ところが、層状食品用油中水型乳化物は、生地中に可塑性油脂として層状に折り込み、可塑性油脂の薄い層を形成するために、物性として硬さが必要で、硬さを確保するために油脂の融点が高めになる傾向があることから、口溶けをシャープにすることやフレーバーリリースと両立することが難しい。特にトランス脂肪酸量を低減した油脂配合においては、口溶けの悪さから甘みを感じにくいという問題点があった。
【0006】
さらに、甘みとともに、フレーバーなどによる本来の風味に加えて、コク味を付与することができれば、消費者の嗜好に沿うことができる。ここでコク味とは、味の厚みを感じることであり、甘み由来のもので、糖類と油脂が関与している。
【0007】
糖類を添加した油中水型乳化物としては、特許文献2に記載の技術も提案されている。この技術では、水溶性呈味剤であるカラメルの風味が焼成後も残存することを課題とし、糖類の持つ保水力により水溶性呈味剤の揮発を抑制することで、焼成による風味の揮散を抑制したとされている。しかしながら、トランス脂肪酸量を低減した油脂配合において、口溶け、フレーバーリリースを改良し、さらに油脂組成と糖類との組み合わせによって、本来の風味に加えて甘み由来のコク味を発現することについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-325503号公報
【文献】特開2010-94080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、トランス脂肪酸量を低減した油脂配合において、層状食品の口溶け、フレーバーリリースが良く、かつ、甘みとともに、本来の風味に加えて甘み由来のコク味を付与することができ、さらに生地へ層状に折り込む際に伸展性の良い層状食品用油中水型乳化物とそれを用いた可塑性油脂および層状食品の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の層状食品用油中水型乳化物は、単糖類および二糖類から選ばれる少なくとも1種の糖類を含有し、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が、トリグリセリドの2位に結合された脂肪酸全体の質量に対して35~57質量%であり、
トリグリセリドの構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量が、トリグリセリドの脂肪酸全体の質量に対して3質量%未満であることを特徴としている。
【0011】
本発明の可塑性油脂は、前記層状食品用油中水型乳化物からなる。
【0012】
本発明の層状食品の製造方法は、前記可塑性油脂を生地に折り込み、この生地を焼成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トランス脂肪酸量を低減した油脂配合において、層状食品の口溶け、フレーバーリリースが良く、かつ、甘みとともに、本来の風味に加えて甘み由来のコク味を付与することができる。生地へ層状に折り込む際における伸展性も良く、ボリュームのある焼成品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が、トリグリセリドの2位に結合された脂肪酸全体の質量に対して35~57質量%である。トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量がこの範囲内であると、層状食品の口溶け、フレーバーリリースが良く、かつ、甘みとともに、フレーバーなどによる本来の風味に加えて、甘み由来のコク味を付与することができる。生地へ層状に折り込む際における伸展性も良く、ボリュームのある焼成品を得ることができる。フレーバーリリース、甘み由来のコク味が特に良好である点から、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量は、40~50質量%がより好ましい。
【0016】
さらに、本発明の層状食品用油中水型乳化物は、トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量が、トリグリセリド全体の質量に対して19~44質量%であり、かつトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量が、トリグリセリドの2位に結合された脂肪酸全体の質量に対して0.1~7質量%であることが好ましい。但し、トリグリセリドXOXおよびXOYにおけるXとOとYは次のとおりである。
X:炭素数16以上の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
Y:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量と、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量が上記の範囲内であると、生地へ層状に折り込む際における伸展性が特に良好で、生地への折り込み時に容易に油脂が均一に伸び、生地への折り込み時に油脂切れしないよう配慮した困難な作業がより軽減され、ボリュームのある焼成品を容易に得ることができる。伸展性が特に良好である点から、本発明の層状食品用油中水型乳化物は、トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量が、トリグリセリド全体の質量に対して25~35質量%であり、かつトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量が、トリグリセリドの2位に結合された脂肪酸全体の質量に対して1.5~5.0質量%であることがより好ましい。
【0017】
上記のトリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量、ラウリン酸とミリスチン酸の合計量、トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量は、油脂を調合することによって調整することができる。産業規模で使用されている個別の油脂の種類とその脂肪酸組成およびトリグリセリド組成、並びにそれらの特徴点の類型は既に知られており、測定による把握も可能であることから、当業者であれば後述の実施例に開示した結果を参照すれば、本発明の効果を得るために、特段の困難性を伴わずに本発明に必須の上記脂肪酸組成およびトリグリセリド組成の範囲内とするための油脂配合を選択し得るであろう。本発明の層状食品用油中水型乳化物に使用される油脂としては、特に限定されるものではないが、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油またはそれらの脱臭油、加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)などが挙げられる。これらの油脂は、2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0018】
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有する化合物である。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。上記に例示したような油脂に由来する、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリド、2位に結合されたラウリン酸が結合されたトリグリセリド、2位に結合されたミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位と3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドとしては、例えば、SOS型トリグリセリド、SOU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、UOU型トリグリセリドなどが挙げられるが、特に限定されない。2位に結合されたラウリン酸が結合されたトリグリセリド(SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド、ULU型トリグリセリド)、2位に結合されたミリスチン酸が結合されたトリグリセリド(SMS型トリグリセリド、SMU型トリグリセリド、UMU型トリグリセリド)も同様である。ここで「S」はトリグリセリドの構成脂肪酸である飽和脂肪酸、「U」はトリグリセリドの構成脂肪酸である不飽和脂肪酸、「O」はトリグリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸、「L」はトリグリセリドの構成脂肪酸であるラウリン酸、「M」はトリグリセリドの構成脂肪酸であるミリスチン酸を意味する。2位にオレイン酸、ラウリン酸、またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4~24の飽和脂肪酸であることが好ましい。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。2位にオレイン酸、ラウリン酸、またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14~24の不飽和脂肪酸であることが好ましい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0019】
2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドは、不飽和結合を持ち分子構造上歪を形成しており、回転運動する際に、分子構造の障害となりやすい。そのため、油脂中の各トリグリセリドの分子同士が近付きにくくなるため、結晶化しにくい状態となることが特徴として挙げられ、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの含有量は、層状食品の口溶け、フレーバーリリース、甘み由来のコク味、生地へ層状に折り込む際における伸展性に影響する。
【0020】
特に、飽和脂肪酸Sが炭素数16以上の飽和脂肪酸Xで、不飽和脂肪酸Uが炭素数16以上の不飽和脂肪酸Yであり、トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量と、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量が上記の範囲内であると、生地へ層状に折り込む際における伸展性が特に良好である。炭素数16以上の飽和脂肪酸Xは直鎖でかつ長鎖であること、炭素数16以上の不飽和脂肪酸Yは不飽和結合を持ち分子構造上歪を形成しかつ長鎖であることから、これらは生地へ層状に折り込む際における伸展性に関連する融点、さらには油脂の硬さに影響する。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドは、ラウリン酸は直鎖の飽和脂肪酸であるが分子量が小さいことに起因し、分子運動がおこりやすいため、固化後に油脂中で、分子同士が離れやすい状態となることが特徴として挙げられ、上記と同様に生地へ層状に折り込む際における伸展性に関連する融点、さらには油脂の硬さに影響する。
【0021】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換油脂(a)を油脂全体の質量に対して10~40質量%含有することが好ましい。エステル交換油脂(a)をこの範囲内で含有すると、フレーバーリリース、甘み由来のコク味が特に良好である。
【0022】
エステル交換油脂(a)の原料であるラウリン系油脂(a1)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上の油脂であり、例えば、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのラウリン系油脂(a1)のうち、ヤシ油に比べて融点が高く、高融点のエステル交換油脂(a)を容易に得ることができる点を考慮すると、パーム核油、その分別油や硬化油が好ましい。硬化油の場合、水素添加量によってトランス脂肪酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、または完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油が好ましい。
【0023】
ラウリン系油脂(a1)は、ヨウ素価が2以下の油脂を含有することが好ましい。ヨウ素価が2以下の油脂を用いると、トランス脂肪酸の生成の虞が少なく、エステル交換油脂(a)を他の油脂と混合する際に結晶核となり、固化し易くかつ口溶けの良い油脂組成物となる。ヨウ素価が2以下の油脂としては、極度硬化油が挙げられる。
【0024】
エステル交換油脂(a)の原料であるパーム系油脂(a2)は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上である。パーム系油脂(a2)としては、パーム油、パーム分別油やこれらの硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部などを用いることができる。硬化油の場合、水素添加量によってトランス脂肪酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、または完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油が好ましい。
【0025】
パーム系油脂(a2)は、ヨウ素価が50~60の油脂を含有することが好ましい。ヨウ素価が50~60の油脂を用いることで、含有する飽和脂肪酸量から結晶性に優れ、また不飽和脂肪酸を含む点からフレーバーリリースと可塑性に優れた油脂の作製が可能となる。またパーム系油脂(a2)は、極度硬化油を含有することが好ましい。パーム系油脂(a2)に極度硬化油が含有されていると、エステル交換油脂(a)の融点を高めることができ、結晶性が良好になる。
【0026】
エステル交換油脂(a)において、ラウリン系油脂(a1)と、パーム系油脂(a2)とのエステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウムなどが用いられ、酵素触媒としてはリパーゼなどが用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属などのリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミックなどの担体上に固定化したものを用いても、粉末の形態として用いても良い。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。エステル交換反応の触媒として化学触媒や位置選択性のない酵素触媒を用いた場合、ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂(a)中における質量比(SUS/SSU)が0.45~0.55の範囲内となる。
【0027】
エステル交換反応に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05~0.15質量%添加し、減圧下で80~120℃に加熱し、0.5~1.0時間攪拌することでラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(a)を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼなどの酵素触媒を油脂質量の0.01~10質量%添加し、40~80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(a)を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法でも行うことができる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭などの精製を行う。
【0028】
エステル交換油脂(a)は、ヨウ素価が15~45であることが好ましい。ヨウ素価がこの範囲内であると、他の油脂との相溶性がよく、フレーバーリリース、甘み由来のコク味が特に良好である。エステル交換油脂(a)は、1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の層状食品用油中水型乳化物においてエステル交換油脂(a)を使用する場合、これと併用されるエステル交換油脂(a)以外の油脂は、特に限定されるものではないが、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらを加工(硬化、エステル交換反応、分別のうち1つ以上の処理)、精製(脱酸、脱臭、脱色など)したものを使用できる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量や、トリグリセリドXOXおよびXOYの合計量とトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量を上記の範囲内に調整することが容易である点から、エステル交換油脂(a)を使用する場合には、それ以外の油脂として以下に記載する「油脂I」を使用することができ、その中でも「油脂I」と「油脂II」を併用することが好ましい。エステル交換油脂(a)を使用しない場合にも、「油脂I」と「油脂II」を併用することが考慮される。
【0030】
「油脂I」とは、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸と、トリグリセリドの2位に結合されたミリスチン酸との合計含有量が、トリグリセリドの2位構成脂肪酸全体の質量に対して0.5~7質量%であり、かつSOS型トリグリセリドおよびSOU型トリグリセリドの合計含有量がトリグリセリド全体の質量に対して4~65質量%である油脂のことを指す。ここでSOS型トリグリセリドは、1位と3位に飽和脂肪酸、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリド、SOU型トリグリセリドは、1位と3位もしくは3位と1位にそれぞれ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを示し、「S」は飽和脂肪酸、「U」は不飽和脂肪酸、「O」はオレイン酸を示す。このような油脂Iとしては、特に限定されないが、例えば、植物油脂、動物油脂(豚脂(ラード)、牛脂など)、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂が挙げられる。その中でも、パーム系油脂であるパーム油、パーム分別軟質部(パームオレイン)、パームスーパーオレイン、パーム油のエステル交換油脂、パーム分別軟質部のエステル交換油脂、豚脂などを組み合わせて用いることが好ましい。
【0031】
「油脂II」とは、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸と、トリグリセリドの2位に結合されたミリスチン酸との合計含有量が、トリグリセリドの2位構成脂肪酸全体の質量に対して1質量%未満であり、かつSOS型トリグリセリドおよびSOU型トリグリセリドの合計含有量がトリグリセリド全体の質量に対して3~34質量%である油脂のことを指し、特に25℃において流動状を呈する液状油(パーム分別軟質部を除く。)を指す。このような油脂IIとしては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の層状食品用油中水型乳化物において、油脂の含有量は、50~85質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。この範囲内であると、層状食品の口溶け、フレーバーリリース、甘み由来のコク味が特に良好である。
【0033】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、油脂の構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、トリグリセリドの構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、トリグリセリドの脂肪酸全体の質量に対して3質量%未満である。
【0034】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、単糖類および二糖類から選ばれる少なくとも1種の糖類を含有する。これらの糖類を含有し、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量を上記範囲内とすることで、層状食品の口溶け、フレーバーリリースが良く、かつ、甘みとともに、フレーバーなどによる本来の風味に加えて、甘み由来のコク味を付与することができる。
【0035】
前記糖類のうち、単糖類としては、例えば、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、アラビノースなどが挙げられる。
【0036】
前記糖類のうち、二糖類としては、例えば、ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、パラチノース、セロビノースなどが挙げられる。
【0037】
上記の単糖類および二糖類は、実質の糖含量が同一となるように糖の一部またはすべてを液糖の形態で代替して配合してもよい。
【0038】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、前記糖類の含有量が5~35質量%であり、二糖類としてショ糖を含有し、ショ糖の含有量が前記糖類に対して50質量%以上であることが好ましい。この範囲内であると、層状食品の口溶け、フレーバーリリース、甘み由来のコク味が特に良好である。その中でも、前記糖類の含有量が10~30質量%であることがより好ましい。この範囲内であると、フレーバーリリース、甘み由来のコク味が特に良好である。
【0039】
上記の糖類は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により定性、定量分析をすることができる。定量分析では、カラムによる分離の後、ディテクターで検出しクロマトグラムを作成し、クロマトグラムの溶出位置により分子種を特定し、ピークの面積から濃度を計算する。
【0040】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、以上に説明した油脂および前記糖類以外に、水を含有する。水は、本発明の層状食品用油中水型乳化物における水相を構成し、本発明の層状食品用油中水型乳化物を製造する際には、前記糖類は水に溶解して水相に含まれる。本発明の層状食品用油中水型乳化物において、前記糖類と水との質量比(前記糖類/水)は、本発明の効果を得る点や、前記糖類の溶解性などの点から、0.5~2.5であることが好ましく、0.7~2.3であることがより好ましい。
【0041】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、乳化剤を配合することが好ましい。乳化剤としては、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。上記乳化剤の中でもグリセリン脂肪酸エステル、特にモノグリセリン不飽和脂肪酸エステルがデニッシュ等の焼成品の口溶け、ラストのフレーバーリリースがさらに良く甘み由来のコク味をより付与することができるのでより好ましい。本発明の層状食品用油中水型乳化物を製造する際には、油溶性乳化剤は油相に添加し、水溶性乳化剤は水相に添加することが好ましい。
【0042】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、風味付与のため、呈味成分としてフレーバーを配合することが好ましい。フレーバーとしては、例えば、バターフレーバー、ミルクフレーバー、クリームフレーバー、チーズフレーバー、チョコレートフレーバー、コーヒーフレーバー、紅茶フレーバー、カスタードフレーバー、ナッツフレーバー、フルーツフレーバー、はちみつフレーバー、メイプルフレーバーなどが挙げられる。本発明の層状食品用油中水型乳化物は、油溶性フレーバーが好ましく使用される。
【0043】
本発明の層状食品用油中水型乳化物には、以上の各成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳、乳製品、乳製品を酵素処理した呈味剤、蛋白質、卵、卵黄、上記以外の糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、増粘剤、着色成分、酒類、酵素、アミノ酸、粉末油脂などが挙げられる。乳としては、牛乳などが挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどが挙げられる。蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白などの植物蛋白などが挙げられる。糖質としては、マルトトリオースなどの三糖類、オリゴ糖、糖アルコール、デンプン、デンプン分解物、イヌリン(アガベイヌリン等)などの多糖類や、ステビアやアスパルテームなどの甘味料などが挙げられる。抗酸化剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物などが挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロンなどが挙げられる。増粘剤としては、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などが挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチンなどが挙げられる。
【0044】
本発明の層状食品用油中水型乳化物は、次の手順で製造することができる。
【0045】
まず油相と水相を調製する。油相は、油脂を含有し、その他に油溶性乳化剤、油溶性フレーバーなどを使用する場合には、これらを油相に添加する。水相は、単糖類および二糖類から選ばれる少なくとも1種の前記糖類を添加し、その他に水溶性の成分を使用する場合には、これらを水相に添加する。これらの油相と水相は、好ましくは50~90℃、より好ましくは65~85℃に加熱し、添加した成分を完全に溶解しておくことが望ましい。これらの油相と水相を加熱下で混合し乳化する。例えば、加熱された油相に加熱された水相をゆっくりと添加しながら乳化する。その後、必要に応じて、フレーバーなどの他の添加成分を加えてもよい。
【0046】
その後、加熱された乳化物をコンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサスなどの冷却混合機により急冷捏和し、可塑化して本発明の層状食品用油中水型乳化物を可塑性油脂として得ることができる。また、必要に応じて冷却混合機において窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込んだり、急冷捏和後に、可塑性油脂を熟成(テンパリング)してもよい。
【0047】
本発明の層状食品用油中水型乳化物からなる可塑性油脂は、層状食品の生地に折り込んで使用することができる。例えば、生地の間に可塑性油脂を包み込み、その後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって生地中に可塑性油脂を層状に折り込んで、生地と可塑性油脂の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この可塑性油脂を含有する生地を焼成することによって、層状食品が得られる。この可塑性油脂は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状、チップ状などの様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点などから、シート状とすることが好ましい。可塑性油脂をシート状とした場合のサイズは、特に限定されるものではないが、例えば、幅50~1000mm、長さ50~1000mm、厚さ1~50mmとすることができる。
【0048】
生地への可塑性油脂の折り込みや、生地の焼成は、例えば公知の条件および方法に従って行うことができる。
【0049】
本発明の可塑性油脂を用いた生地は、穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉など)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉などが挙げられる。
【0050】
生地には、穀粉以外にも、通常、焼成品の生地に使用されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく適宜の量とすることができる。具体的には、例えば、水、乳、乳製品、蛋白質、糖質(ショ糖、澱粉、オリゴ糖、イヌリン等の多糖類など)、卵、卵加工品、塩類、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、練り込み用油脂、粉末油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、呈味剤、香辛料、着色料、フレーバーなどが挙げられる。
【0051】
本発明の可塑性油脂を折り込んだ生地を用いた焼成品である層状食品としては、例えば、デニッシュ、クロワッサン、パイなどが挙げられる。
【実施例
【0052】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(1)層状食品用油中水型乳化物の作製
(1-1)油脂
表1に示す油脂配合において、エステル交換油脂には、次のエステル交換油脂1~5を使用した。
(エステル交換油脂1)
パーム核油20質量%、パーム核極度硬化油7.5質量%、パーム油57.5質量%、パーム極度硬化油15質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってヨウ素価35のエステル交換油脂1を得た。
(エステル交換油脂2)
パーム核油20質量%、パーム核極度硬化油7.5質量%、パーム油62.5質量%、パーム極度硬化油10質量%を原料として、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、ヨウ素価37のエステル交換油脂2を得た。
(エステル交換油脂3)
パーム核油53質量%、パーム油47質量%を原料として、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、ヨウ素価36のエステル交換油脂3を得た。
(エステル交換油脂4)
パーム分別軟質油(ヨウ素価56)を原料として、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂4を得た。
(エステル交換油脂5)
パーム油(ヨウ素価53)を原料として、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂5を得た。
【0053】
表1において、全油脂におけるトリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の合計量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおり、リパーゼ溶液で処理後のモノアシルグリセリン画分をガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の2位構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。
【0054】
油脂組成物におけるXOX、XOYの各含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0055】
油脂におけるトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3-2013 トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」で測定した。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出した。
【0056】
油脂におけるヨウ素価は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」により測定した。
【0057】
(1-2)乳化剤
表2の実施例および比較例において、乳化剤には、次の乳化剤1~4を使用した。
(乳化剤1)
エマルジーMO 理研ビタミン(株):モノグリセリン不飽和脂肪酸エステル
(乳化剤2)
レシチンM 昭和産業(株)
(乳化剤3)
サンソフトQ-1710S 太陽化学(株):デカオレイン酸デカグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤4)
SYグリスターCR-500 阪本薬品工業(株):ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
【0058】
(1-3)糖類
表2の実施例および比較例において、糖類には、次の単糖、二糖、および三糖を使用した。
(単糖 ブドウ糖)
昭和含水結晶ぶどう糖(CRD) 昭和産業(株):ブドウ糖91.2%含有
(単糖 果糖)
フルーツシュガー 日新製糖(株)
(二糖 ショ糖)
精製上白糖ST20 大日本明治製糖(株)
(二糖 麦芽糖)
サンマルト-S 三和澱粉工業(株)
(三糖 マルトトリオース)
オリゴトース 三菱化学フーズ(株)
【0059】
<層状食品用油中水型乳化物の作製>
表2の実施例1~13、比較例1~4に示す配合で油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、各油中水型乳化物を得た。具体的には、実施例1では、油脂配合1となる比率で各油脂を調合し、油中水型乳化物の油脂部とし、この油脂部56.75質量%に各乳化剤を総量として0.15質量%、ミルクフレーバー0.1質量%を添加し、70℃まで加熱攪拌し、完全に乳化剤を溶解したものを油相とした。水18質量%にショ糖25質量%を加熱攪拌しながら完全に溶解したものを水相とし、該油相に該水相を添加し、プロペラを用いて油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、25cm×21cm×1cmのシート状に成型し、表2の組成となる油中水型乳化物を可塑性油脂として得た。
実施例2~13、比較例1~4も実施例1と同様な方法で各油中水型乳化物を得た。
【0060】
(2)評価
実施例1~13、比較例1~4の各油中水型乳化物について次の評価を行った。
<デニッシュの作製>
下記の配合および作製条件でデニッシュを作製した。具体的には油中水型乳化物および練り込み用ショートニング以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、練り込み用ショートニングを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地に油中・BR>・^乳化物を折り込み、3つ折り2回を加え-10℃にて30分リタードし、3つ折り1回を加え-10℃にて60分リタードさせた。その後シーターゲージ厚3mmまで延ばし、10cm角(10cm×10cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
〈デニッシュの配合〉
強力粉 90質量部
薄力粉 10質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 6質量部
練り込み用ショートニング 8質量部
(ミヨシショートニングZ:ミヨシ油脂(株))
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 53質量部
油中水型乳化物 生地100質量部に対して21質量部
〈デニッシュの作製条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速5分、(練り込み用ショートニング投入)、低速2分、
中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアタイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3つ折り×2回 -10℃にてリタード30分
3つ折り×1回 -10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm 10cm角(10cm×10cm)にカット ホイロ: 35℃ 75% 60分
焼成: 200℃ 14分
【0061】
<評価>
上記焼成したデニッシュについて、パネルによる官能評価を行った。なお、評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20~40代の男性5名、女性7名をパネルとして選抜した。
【0062】
[デニッシュの口溶け]
各油中水型乳化物を生地に折り込んだデニッシュを焼成後、20℃で1日保存した後、パネル12名で試食し、デニッシュの口溶け感を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル12名中10~12名が、口溶けが良いと評価した。
○:パネル12名中7~9名が、口溶けが良いと評価した。
△:パネル12名中4~6名が、口溶けが良いと評価した。
×:パネル12名中1~3名が、口溶けが良いと評価した。
【0063】
[デニッシュのラストのフレーバーリリース]
各油中水型乳化物を生地に折り込んだデニッシュを焼成後、20℃で1日保存した後、パネル12名で試食し、デニッシュのミルクフレーバーのリリース度合いを以下の基準で評価した。
ここでフレーバーリリースは、食した後に口の中に感じるフレーバー感であるラストのフレーバーリリースを評価した。
評価基準
点数
4点:ラストのフレーバーリリースが非常に速く、風味を強く感じる。
3点:ラストのフレーバーリリースが速く、風味を強く感じる。
2点:ラストのフレーバーリリースがやや遅く、風味が若干薄れる。
1点:ラストのフレーバーリリースが遅く、風味が弱い。
平均点
◎:平均点が3.5以上
〇:平均点が3以上3.5未満
△:平均点が2以上3未満
×:平均点が2未満
【0064】
[デニッシュのコク味(甘み由来)]
各油中水型乳化物を生地に折り込んだデニッシュを焼成後、20℃で1日保存した後、パネル12名で試食し、風味にコク味があるかを比較例1のデニッシュと比較し、以下の基準により評価した。
評価基準
◎:パネル12名中10~12名が、コク味があると評価した。
○:パネル12名中7~9名が、コク味があると評価した。
△:パネル12名中4~6名が、コク味があると評価した。
×:パネル12名中1~3名が、コク味があると評価した。
【0065】
[ロールイン時の作業性(伸展性)]
約1.8Kgのパン生地にシート状の可塑性油脂である上記の層状食品用油中水型乳化物380gをのせ、ロールイン(生地への折り込み)時の層状食品用油中水型乳化物の伸展性について、熟練した作業員が以下の基準により評価した。
評価基準
◎:生地中で油脂が均一に伸び、非常に伸展性が良好である。
○:生地中で油脂が均一に伸び、伸展性が良好である。
△:伸展性はあるものの、やや油脂切れがある。
×:油脂が均一に伸びず、油脂切れがある。
【0066】
上記の評価結果を表2に示す。表2では、評価基準の指標として◎と〇は課題解決に至っている、△は、原則として課題解決までは至っていない、×は、課題解決は不可と判定した。4つの評価項目が全て◎と〇であることを課題解決において望ましい指標とし、△は4つの評価項目のうち1個以下が必須で、望ましくは0個である。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】