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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】ステンレス鋼上の改良された保護表面
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/14 20060101AFI20220927BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220927BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20220927BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220927BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20220927BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220927BHJP
【FI】
C23C8/14
B32B9/00 A
C22C19/05 G
C22C30/00
C22F1/10 H
C22F1/00 613
C22F1/00 626
C22F1/00 641B
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
【請求項の数】 25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021130952
(22)【出願日】2021-08-10
(62)【分割の表示】P 2020519723の分割
【原出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2022000539
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】2981416
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】501026879
【氏名又は名称】ノバ ケミカルズ コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファラグ、ハニー
(72)【発明者】
【氏名】ベナム、レスリー
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼーンコフ、バシリー
(72)【発明者】
【氏名】サントス、ビリー
(72)【発明者】
【氏名】ドネリー、キャスリーン
(72)【発明者】
【氏名】坂本 伸之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 国秀
(72)【発明者】
【氏名】ジョルフィー、マイケル
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0086431(US,A1)
【文献】特表2011-524467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0015564(US,A1)
【文献】国際公開第2015/108072(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/093034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00
C22C 19/00
C22C 30/00
C22F 1/00
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼基材上に表面を作製する方法であって、
該方法は、酸化性雰囲気中で、
第1の加熱工程において、鋼基材を、室温から第1の目標温度220℃~240℃まで加熱すること;
第2の加熱工程において、鋼基材を、第2の目標温度365℃~375℃まで加熱すること;
第3の加熱工程において、鋼基材を、第3の目標温度1000℃~1100℃まで加熱すること;及び
冷却工程において、鋼基材を、第4の目標温度18℃~25℃まで冷却すること;
を含み、
該表面は、
式:Mn Cr 3-x (式中、xは0.5~2)のスピネルを含む外層;及び
該外層と該鋼基材との間に存在するCr を含む中間層;
を含み、該外層及び該中間層は、該鋼基材の表面の少なくとも85%を覆っており、
該鋼基材は、40~55重量%のNi、30~35重量%のCr、15~25重量%のFe、1.0~2.0重量%のMn、0.01~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb、最大2.5重量%の1つ以上の微量元素、炭素及びシリコンを含む、方法。
【請求項2】
前記第1の目標温度が、225℃~235℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の加熱工程が、鋼基材を、第1の速度10~15℃/分で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の速度が、12~14℃/分である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の加熱工程が、鋼基材を、前記第1の目標温度で1.5~3時間保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の加熱工程が、鋼基材を、前記第1の目標温度で2~2.5時間保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の目標温度が、370℃~374℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の加熱工程が、鋼基材を、第2の速度1~5℃/分で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の速度が、2~3℃/分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の加熱工程が、鋼基材を、前記第2の目標温度で1~3時間保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の加熱工程が、鋼基材を、前記第2の目標温度で1~2時間保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第3の目標温度が、1050℃~1090℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第3の加熱工程が、鋼基材を、第3の速度1~5℃/分で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第3の速度が、2~3℃/分である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第3の加熱工程が、鋼基材を、前記第3の目標温度で4~8時間保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第3の加熱工程が、鋼基材を、前記第3の目標温度で5~7時間保持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記冷却工程が、鋼基材を、第4の速度1~2.5℃/分で冷却することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記酸化性雰囲気が、
40~50重量%の空気;及び
1つ以上の不活性ガス;
を含み、該1つ以上の不活性ガスが、窒素、アルゴン、又はそれらの混合物を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記中間層が1~1.7ミクロンの厚さを有し、前記外層が1.5~4.0ミクロンの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記表面の外層が、Mn Cr 3-x (式中、xは0.5~2)の化合物を85重量%以上含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記表面が、MnO、MnSiO 、Mn SiO 、及びそれらの混合物からなる群から選択されるMn、Siの酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記酸化物が、5重量%未満の量で存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記鋼基材が、40~50重量%のNi、33~35重量%のCr、20~25重量%のFe、及び0.20~0.60重量%のLaを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記鋼基材が、0.4~0.6重量%のC、1.5重量%未満のSi、0.01~0.20重量%のTi、0.05~0.25重量%のMo、及び0.25重量%未満のCuを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記微量元素、炭素、及びシリコンの総重量パーセントが、0.60~2.20重量%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼上の改良されたコーティングに関する。この表面は、高温で炭化水素にさらされる用途でのコーキングに耐性がある。この表面は、多くの低コーキング鋼よりも薄く、改良された安定性を有している。下地となる鋼は、改質されたステンレス鋼である。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼の低コーキング表面に関する重要な技術(Benumの名でNOVA Chemicals(International)S.A.に譲渡)がある。この技術の実例は、米国特許第6,899,966号(2005年5月31日発行)である。典型的には、ステンレス鋼の表面は、MnCr、MnSiO、及びMnSiOの酸化物の混合物で構成されている。カバー酸化物層は、少なくとも約1ミクロンの厚さを有する(米国特許出願公開第2005/0257857号)。一方、本発明の基材鋼は、0.20~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb、2.5重量%の1つ以上の微量元素と炭素とシリコンを含むが、これらは、上記の著名な特許における基材には存在しない。
【0003】
米国特許第8,906,822号(Petroneらに2014年12月9日に発行され、BASF Qtech Inc.に譲渡された)は、ステンレス鋼表面の保護コーティングを教示しており、Mn、MnCrO、又はそれらの組合せ(式中、x及びyは1~7の整数である)を含む第1の領域と、タングステンを含む第2の領域の記載がある。このタングステン成分は、本発明の表面には存在しない。
【0004】
米国特許第7,396,597号及び米国特許出願公開第2010/0034690号(前者は2008年7月8日に発行され、後者は2010年2月11日に公開され、共に西山の名で住友金属工業株式会社に譲渡された)は、興味深い。597特許は、Cr欠乏層を有するステンレス鋼を教示している。この層は、母材金属を加熱することにより生成された酸化物スケール層を除去することにより生成される。これは、表面酸化物層を維持する本発明の物質に反する内容を教示している。690出願は、本発明の基材よりも高い0.5~5重量%のCuを含む金属基材を教示している。さらに、690出願の鋼は、酸化物コーティングを有していないようである。
【0005】
英国特許出願公開第2159542号(1985年12月4日に公開され、Man Maschinenfabrick Augsburg Nurnbergに譲渡された)のEmbodiment 10は、興味深い。この実施形態は、1~2ミクロンの厚さを有するMnCrのフェルト状表面コーティングと、その下に、当該MnCr表面層の粒界内に浸透している約4ミクロンのCrの緻密層とを生成することを、教示している。基材合金は、約20重量%のCr、約33重量%のNi、4重量%のMn、1重量%未満のSi、1重量%未満のTi、1重量%未満のAl、及び残りの鉄を含む。この参考文献は、コーティングされた基材がさらなる酸化に対して耐性があることを教示している。本発明の合金は、この参考文献のものとは区別される。
【0006】
本発明は、コークスの形成に対する改良された耐性を有するオーバーコートを備えた鋼基材を提供しようとするものである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、40~55重量%のNi、30~35重量%のCr、15~25重量%のFe、1.0~2.0重量%のMn、0.01~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb並びに1つ以上の微量元素及び炭素及びシリコンを含む鋼基材であり、その表面上に、式:
MnCr3-x(式中、xは0.5~2)のスピネルを含み1.5~4.0ミクロンの厚さを有する外層を有し、該表面層と該基材との間に、1~1.7ミクロンの厚さを有するCrを有する中間層を有する、鋼基材を提供する。
【0008】
さらなる実施形態において、鋼基材は、0.4~0.6重量%のC、いくつかの実施形態で0.4~0.5重量%のC、1.5重量%未満のSi、いくつかの実施形態で1.2重量%未満のSi、0.01~0.20重量%のTi、0.05~0.25重量%のMo、いくつかの実施形態で0.05~0.12重量%のMo、及び0.25重量%未満のCu、いくつかの実施形態で0.1重量%未満のCu、さらなる実施形態で0.06重量%未満のCuをさらに含む。
【0009】
さらなる実施形態では、鋼基材は、基材層の表面の85%以上を覆う外層及び中間層を含む。
【0010】
さらなる実施形態では、鋼の外層及び中間層は、基材層の表面の95%以上を覆っている。
【0011】
さらなる実施形態では、外層のxは、0.8~1.2である。
【0012】
さらなる実施形態では、外層は1.5~2.0ミクロンの厚さを有し、中間層は1.0~1.7ミクロンの厚さを有する。
【0013】
さらなる実施形態では、外層は、本質的にMnCrからなる。
【0014】
さらなる実施形態では、外層及び中間層を有する少なくとも1つの表面を有する上記の鋼を含む加工部品が提供される。
【0015】
さらなる実施形態では、その内面に外層及び中間層を有する管(パイプ又は通路)が提供される。
【0016】
さらなる実施形態では、その内面に外層及び中間層を有する反応器が提供される。
【0017】
さらなる実施形態では、その内面に1つ以上の(平行)ビーズ又はフィンをさらに含む上記の炉管が提供され、ここで、該フィン又は該ビーズと管の長手方向の軸との交差角は、円周S(S=πD、式中、Dは管の内径である)でのフィンのピッチ(p)で、シータ(θ)である。
【0018】
さらなる実施形態では、内部ビーズ又はフィンが連続している上記の炉管が提供される。
【0019】
さらなる実施形態では、内部ビーズ又はフィンが不連続である上記の炉管が提供される。
【0020】
さらなる実施形態では、内部ビーズ又はフィンが不連続であり、前記フィンの全円弧長が、TW=w×nである(式中、wは、平面に投影した円弧長であり、nは、らせん線状の線の1ターンにおけるフィンの数である)上記の炉管が提供される。
【0021】
さらなる実施形態では、外面に一連の閉じた突起を有し、該突起が、
i)コイルの外径の3~15%の最大高さと、
ii)面積が前記コイルの外断面積の0.1%~10%である、コイルとの接触面、又は底面と、
iii)体積が比較的小さく外面が比較的大きい幾何学形状であり、
四面体(三角形の底面と正三角形の3つの面とを有する角錐);
ジョンソンの正四角錐(正方形の底面と正三角形の側面とを有する角錐);
4つの二等辺三角形の側面を有する角錐;
二等辺三角形の側面を有する角錐(例えば、4つの面を有する角錐の場合、底面は正方形でなくてもよく、長方形又は平行四辺形であってもよい);
球の断片(例えば、半球形又はそれよりも浅い形状);
楕円体の断片(例えば、楕円をその長軸又は短軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
涙滴形の断片(例えば、不均一に変形された楕円体をその変形軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
放物線形の断片(例えば、放物線をその長軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片~変形半球(又はそれよりも浅い形状))例えば、異なる種類の三角翼等、からなる群から選択される幾何学形状と
を有する、上記の炉管が提供される。
【0022】
さらなる実施形態では、その内面に1つ以上のビーズ又はフィンを有し、その外面に一連の閉じた突起を有し、該突起が、
i)コイルの外径の3~15%の最大高さと、
ii)面積が前記コイルの外断面積の0.1%~10%である、コイルとの接触面、又は底面と、
iii)体積が比較的小さく外面が比較的大きい幾何学形状であり、
四面体(三角形の底面と正三角形の3つの面とを有する角錐);
ジョンソンの正四角錐(正方形の底面と正三角形の側面とを有する角錐);
4つの二等辺三角形の側面を有する角錐;
二等辺三角形の側面を有する角錐(例えば、4つの面を有する角錐の場合、底面は正方形でなくてもよく、長方形又は平行四辺形であってもよい);
球の断片(例えば、半球形又はそれよりも浅い形状);
楕円体の断片(例えば、楕円をその長軸又は短軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
涙滴形の断片(例えば、不均一に変形された楕円体をその変形軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
放物線形の断片(例えば、放物線をその長軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片~変形半球(又はそれよりも浅い形状))例えば、異なる種類の三角翼等、からなる群から選択される幾何学形状と
を有する、上記の炉管が提供される。
【0023】
さらなる実施形態では、円形(環状)の断面を有する炉管であって、その外面に、三角形の断面を有する1~8個の実質的に直線状の長手方向の垂直フィンを有し、該フィンが、(i)コイル通路の長さの10~100%の長さと、(ii)コイル通路と連続的に接触しているか、又はコイル通路の一部である底面であり、コイル外径の3%~30%の幅を有する底面と、(iii)コイル外径の10%~50%の高さと、(v)コイル通路の総重量の3%~45%の重量とを有し、該フィンが、(vi)放射するよりも多くの放射エネルギーを吸収する、炉管が提供される。
【0024】
さらなる実施形態では、円形(環状)の断面を有し、且つその内面に上記のビーズ又はフィンを有する炉管であって、その外面に、三角形の断面を有する1~8個の実質的に直線状の長手方向の垂直フィンを有し、該フィンが、(i)コイル通路の長さの10~100%の長さと、(ii)コイル通路と連続的に接触しているか、又はコイル通路の一部である底面であり、コイル外径の3%~30%の幅を有する底面と、(iii)コイル外径の10%~50%の高さと、(v)コイル通路の総重量の3%~45%の重量とを有し、該フィンが、(vi)放射するよりも多くの放射エネルギーを吸収する、炉管が提供される。
【0025】
さらなる実施形態では、式:MnCr3-x(式中、xは0.5~2)のスピネルを含み1.5~4.0ミクロンの厚さを有する外層と、
該表面層及び基材の間に1~1.7ミクロンの厚さを有するCrを有する中間層であり、40~55重量%のNi、30~35重量%のCr、15~25重量%のFe、1.0~2.0重量%のMn、0.01~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb、最大2.5重量%の1つ以上の微量元素、炭素及びシリコンを含む鋼基材の表面の少なくとも85%を覆っている、前記中間層と、
を備えた表面を作製する方法であって、酸化性雰囲気中で、
1)前記鋼を、室温から10~15℃/分の速度で220℃~240℃の温度に加熱し、この温度で1.5~3時間保持し;
2)前記鋼を、1~5℃/分の速度で365~375℃の温度に加熱し、この温度で1~3時間保持し;
3)前記鋼を、1~5℃/分の速度で1000℃~1100℃に加熱し、この温度で4~8時間保持し;
4)前記鋼を、1℃~2.5℃の速度で18~25℃の温度に冷却する
ことを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、エチレンクラッカーでの運転5年後の本開示の出口管の断面のSEMである。
【0027】
図2図2は、エタン分解炉のホットボックスへの入口管の断面のSEMである。この炉の放射部には、コールドボックスとホットボックスと呼ばれる2つの区画がある。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<数値範囲>
操作例における、又は他に指示がある場合を除き、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを指す全ての数又は表現は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明が得ようとする特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、且つ通常の丸め技法を適用して解釈されるべきである。
【0029】
本発明の広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載されている数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、いずれの数値も、それらのそれぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
【0030】
また、本明細書に列挙された任意の数値範囲は、その中に包含される全ての部分的な範囲を含むことが意図されることを理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、記載された最小値1と記載された最大値10との間及びそれらを含む全ての部分的な範囲を含むことが意図されている;すなわち、最小値が1以上で最大値が10以下である。開示された数値範囲は連続的であるので、それらは最小値と最大値の間のあらゆる値を含む。他に明示的に示されていない限り、本願において特定される様々な数値範囲は近似値である。
【0031】
本明細書で表される全ての組成範囲は、実際には合計で100%(体積%又は重量%)に制限され、100%を超えない。複数の成分が組成物中に存在し得る場合、各成分の最大量の合計は100%を超えることがあるが、当業者が容易に理解するように、実際に使用される成分の量は最大100%に一致するであろうことは理解される。
【0032】
本発明の鋼基材は、40~55重量%のNi、いくつかの実施形態で40~45重量%のNi、30~35重量%のCr、いくつかの実施形態で33~35重量%のCr、15~25重量%のFe、いくつかの実施形態で20~25重量%のFe、0~2.0重量%のMn、0.01~0.60重量%のLa、いくつかの実施形態で0.20~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb並びに1つ以上の微量元素及び炭素及びシリコンを含む。いくつかの実施形態では、炭素、シリコン及び微量元素は、0.4~0.6重量%のC、1.5重量%未満のSi、いくつかの実施形態で1.2重量%未満のSi、0.01~0.20重量%のTi、いくつかの実施形態で0.10~0.20重量%のTi、0.05~0.25重量%のMo、いくつかの実施形態で0.05~0.15重量%のMo、及び、0.25重量%未満のCu、いくつかの実施形態で0.06重量%未満のCuを含む。典型的には、炭素、シリコン及び微量元素の総重量パーセントは、0.60~2.20重量%、いくつかの実施形態で0.7~1.5重量%の範囲である。
【0033】
本発明の表面を生成する1つの方法は、加熱/浸漬/冷却プロセスとして特徴付けられ得るプロセスにおいて、成形ステンレス鋼(すなわち、処理前に冷間加工された可能性がある部品)を処理することによる。このプロセスは、酸化性雰囲気中で、以下を含む:
1)前記鋼を、室温から10~15℃/分の速度で、いくつかの実施形態で12~14℃/分の速度で、220℃~240℃の範囲に、いくつかの実施形態で225~235℃の範囲に加熱し、前記鋼を、この温度で1.5~3時間、典型的には2~2.5時間保持し;
2)前記鋼を、1~5℃/分の速度で、いくつかの実施形態で2~3℃/分の速度で、365~375℃に、いくつかの実施形態で370~374℃に加熱し、前記鋼を、この温度で1~3時間、典型的には1~2時間保持し;
3)前記鋼を、1~5℃/分の速度で、いくつかの実施形態で2~3℃/分の速度で、1000℃~1100℃、いくつかの例で1050~1090℃に加熱し、前記鋼を、この温度で4~8時間、典型的には5~7時間保持し;
4)前記鋼を、1℃~2.5℃の速度で18~25℃の温度に冷却する。
【0034】
好ましくは、酸化環境は、空気、いくつかの実施形態で40~50重量%の空気を含み、残りは1つ以上の不活性ガス、好ましくは窒素、アルゴン又はそれらの混合物を含む。
【0035】
処理されたステンレス鋼の冷却速度は、処理された表面の剥離を防ぐようなものであるべきである。最後の熱処理後の鋼の冷却速度は、毎分約2.5℃未満であるべきである。
【0036】
本発明の表面を提供するための他の方法は、当業者には明らかであろう。例えば、ステンレス鋼は、例えば米国特許第3,864,093号に開示されているような適切なコーティングプロセスで処理することができる。
【0037】
外層及び中間層は、基材層の表面の85%以上を覆っている。いくつかの実施形態では、外層及び中間層は、基材層の表面の95%以上を覆っている。本発明のいくつかの実施形態では、外層は1.5~2.0ミクロンの厚さを有し、中間層は1.0~1.7ミクロンの厚さを有する。
【0038】
処理された基材の外表面は、式:MnCr3-x(式中、xは0.5~2)の化合物を、典型的には、85重量%以上、好ましくは90重量%以上含む。いくつかの実施形態では、xは0.8~1.2であってもよい。最も好ましくは、xは1である(MnCr)。好ましくは、前記表面は、式:MnCr3-xの化合物を、85重量%以上、いくつかの実施形態で95重量%を超えて、含む。前記表面に存在し得る他の酸化物は、MnO、MnSiO、MnSiO及びそれらの混合物からなる群から選択されるMn、Siの酸化物を含んでもよい。これらの酸化物は、5重量%未満、好ましくは1重量%未満の量で存在すべきである。前記表面層は、最大5重量%、好ましくは1重量%未満のCrを含んでもよく、MnCr3-xは、前記表面を完全には覆わない。
【0039】
一般に、鋼基材は、管(tube)又はパイプなどの完成した形状、ドラム又はシリンダーなどの容器、ピストン、バルブなどに加工される。特に有用な加工部品又は形状の1つは、パイプ若しくは管、又は炉の通路若しくはコイルである。このようなパイプ又は管は、分解炉で使用し得る。パイプの内部は、コーキングに対する耐性がある表面を生成するために処理される。これにより、炉内の管又はパイプの連なり長さ(run length)が改善される。
【0040】
一般に、蒸気分解(steam cracking)では、原料(例えば、エタンなどのC2-4アルカン又はナフサなどの高級パラフィン)は、典型的には、1.5~8インチ(例えば、典型的な外径は、2インチ 約5cm、3インチ 約7.6cm、3.5インチ 約8.9cm、6インチ 約15.2cm、7インチ 約17.8cm)の範囲の外径を有する管、パイプ又はコイルにガス状で供給される。管又はパイプは、一般に約900℃~1100℃の温度に維持された分解部を有する炉を通り、出口ガスの温度は一般に約800℃~900℃である。原料が分解部を通過すると、水素(及びその他の副生成物)が放出され、不飽和(例:エチレン)になる。分解部を通過する原料の滞留時間は、一般に10分の1秒未満であり、ミリ秒程度の短さであってもよい。そのようなプロセスの温度、圧力及び流量などの典型的な操作条件は、当業者によく知られている。
【0041】
上記の条件下で、炉から、パイプ又は管の内部を通って移動する流体(ガス)への熱伝達を、できるだけ大きくすることが非常に望ましい。
【0042】
本発明の一実施形態では、管は、その管の内側に、らせん状フィン又はビーズ又は旋条(rifling)又はそれらの組合せなどの熱伝達を改善するための内部表面改質をさらに含んでもよい。内部らせん状リブ又はビーズの一例は、例えば、米国特許第5,950,718号(Sugitaniらに1999年9月14日に発行され、Kubota Corporationに譲渡された)に記載されている。フィン又はビーズは、管の内面にらせん状突起(helical projection)を形成する。フィン又はビーズと管の長手方向の軸との交差角は、円周S(S=πD、式中、Dは管の内径)でのフィンのピッチ(p)で、シータ(θ)である。単一のらせん状突起又はビーズによって形成されるフィンのピッチpは、管の軸を中心とした完全な回転に対するらせん状突起の点の軸の前進距離(すなわち、リードL=πD/tanθ)に等しい。らせん状フィンのピッチ(p)は、(隣接するらせん状突起がある場合)同じらせん状突起の隣接するらせん状突起間の間隔(軸距離)として任意に決定できる。一般に、内部フィンは、高さが1~15mm、ピッチが20~350mm、交差角(θ)が15°~45°、好ましくは25°~45°である。
【0043】
内部フィン又はビーズは、上記のように連続的であっても、不連続的であってもよい。
【0044】
内径Dが約30~150mmの管の場合、例えば、傾斜角θは約15~85度、ピッチpは約20~400mmとすることができる。ピッチpは、らせんの傾斜角θ及びらせんの数N(p=E/N、式中、Eはらせんのリードである)に応じて調整のために増減される。
【0045】
フィンの高さH(管内面からの突出高さ)は、例えば、管の内径の約30分の1~10分の1である。フィンの長さLは、例えば、約5~100mmであり、例えば、管の内径Dと、らせん状の軌跡の各ターンに沿って分割されたフィンの数とに応じて決定される。
【0046】
不連続なフィンが円弧長(平面に投影した円弧長)wを有し、らせん状線の1ターンにおけるフィンの数がnである場合。フィンの全円弧長TWは、TW=w×nになる。
【0047】
らせん状フィンが管内の流体への熱伝達を促進できるようにしつつ、圧力損失を最小限に抑えるため、管内面の円周長さC(C=πD)に対する不連続フィンの全円弧長TWの比率、すなわち、R(R=TW/C)は、好ましくは約0.3~0.8である。この値が小さすぎると、熱伝導促進効果が低くなり、この値が大きすぎると、過大な圧力損失となる。
【0048】
らせん状フィンは、プラズマ粉末溶接(PTA溶接)などの肉盛方法により、効率よくビーズとして形成できる。
【0049】
さらなる実施形態では、パイプ又は管は、管によって炉壁及びバーナーから取り込まれる放射熱を増加させるために、外部フィン又は突起を有してもよい。これらの突起は、米国特許第8,790,602号(Petelaらに2014年7月29日に発行され、NOVA Chemicals(International)S.A.に譲渡された)に記載されている。
【0050】
本発明によれば、コイルの外面を、少なくとも分解炉の放射部内の1つ以上の通路の一部において、比較的小さな突起により拡張している。
【0051】
突起(protuberances)は、通路(pass)に沿って均一に離間させても、通路に沿って不均一に離間させてもよい。突起の相互の近接性は、通路の長さに沿って変化させてもよく、あるいは突起は、管の一部においてのみ、又は全ての部分において均一に離間させてもよい。突起は、炉の放射部内の通路の上端においてより多く密集させてもよい。
【0052】
突起は、コイル通路の外面の10%~100%(及びその間のすべての範囲)を覆うようにできる。本発明のいくつかの実施形態では、突起は、放射コイルの通路の外表面の40~100%、典型的には50%~100%、一般的には70%~100%を覆うようにしてもよい。突起が、コイル通路全体を覆うのではなく、通路の100%未満を覆う場合、それらの突起を通路の底部、中央部、又は上部に位置付けることができる。
【0053】
突起の底面(base)は、コイルの外面と接触している。突起の底面の面積は、コイルの断面積の0.1%~10%以下である。突起は、例えば、四面体、角錐、立方体、円錐、球の断片(例えば、半球形又はそれよりも浅い形状)、楕円体の断片、変形した楕円体の断片(例えば、涙滴形)等といった、比較的体積が小さく比較的外面が広い幾何学形状としてもよい。突起に有用な形状には、以下が含まれる:
四面体(三角形の底面と正三角形の3つの面とを有する角錐);
ジョンソンの正四角錐(正方形の底面と正三角形の側面とを有する角錐);
4つの二等辺三角形の側面を有する角錐;
二等辺三角形の側面を有する角錐(例えば、4つの面を有する角錐の場合、底面は正方形でなくてもよく、長方形又は平行四辺形であってもよい);
球の断片(例えば、半球形又はそれよりも浅い形状);
楕円体の断片(例えば、楕円をその長軸又は短軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
涙滴形の断片(例えば、不均一に変形された楕円体をその変形軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
放物線形の断片(例えば、放物線をその長軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片~変形半球(又はそれよりも浅い形状))例えば、異なる種類の三角翼等。
【0054】
突起の形状の選択は、主に通路又は管の製造のしやすさに基づく。通路上に突起を形成する方法の1つは、鋳型壁に突起の形状を有する鋳型で鋳造することである。これは、比較的単純な形状に有効である。突起は、例えばローレットロール等のローレット装置を使用することなどにより、鋳造管の外面を機械加工することによって製造してもよい。
【0055】
上述の形状は、閉じた立体である。
【0056】
突起のサイズは、慎重に選択する必要がある。サイズが小さいほど、突起の体積に対する面積の比率は大きくなるが、そのようなテクスチャを鋳造又は機械加工することはより難しくなる場合がある。また、極めて小さい突起の場合、コイル表面の異なる不純物の堆積により、その存在の恩恵は、時間が経つにつれて徐々に小さくなり得る。しかしながら、突起は理想的に対称である必要はない。例えば、楕円形の底面は、涙滴形に変形させてもよく、そのような形状とした場合、好ましくは、通路を炉内に位置決めした時に、その「尾部」(tail)が下を向くようにする。
【0057】
突起は、放射コイルの表面から、コイル外径の3%~15%、及びその間のすべての範囲、好ましくはコイル外径の3%~10%の高さ(LZ)を有する。
【0058】
一実施形態では、突起の密集度(concentration)は均一であり、コイルの外面を完全に覆う。しかしながら、密集度は、コイル通路の位置における放射フラックス(例えば、いくつかの位置では他の位置(炉のコーナー部)よりもフラックスが大きい)に基づいて選択してもよい。
【0059】
突起の設計においては、突起が放射するよりも多くの放射エネルギーを突起が吸収するように注意する必要がある。これは、突起の底面からコイルへの熱の伝達は、フィンのないむき出しのコイルの同等の表面に同じ操作条件で伝達される熱を超えなければならない、と言い換えることができる。突起の密集度が過剰になり、それらの形状が適切に選択されない場合、過度の伝導抵抗の熱的影響により、それらが熱伝達を低下させはじめる可能性があり、それは突起の目的を損なう。適切に設計され製造された突起は、周囲を流れる燃焼ガス、火炎及び炉の耐火物からコイルに伝達される正味の放射熱及び対流熱を増加させる。放射熱伝達におけるプラスの影響は、増加したコイルの外面を通して多くの熱を吸収でき、燃焼ガスとコイルとの間の接触面積が増加するという理由だけではなく、コイル表面がもはや滑らかでないので、放射するコイル表面を通しての相対的な熱損失が減少するという理由のためでもある。したがって、突起がその周囲にエネルギーを放射すると、このエネルギーの一部が他の突起に送られて捕捉され、これによりそれはコイル表面に戻される。突起は、コイルへの対流熱伝達も増加させる。これは、流れる燃焼ガスと接触しているコイル外面の増加によるものであるだけでなく、コイル表面に沿った乱流の増加と、境界層の厚さの減少によるものである。
【0060】
代替の実施形態において、パイプ又は炉のコイル若しくは炉の通路の外面は、1つ以上のフィン長手方向フィンを含んでもよい。外部長手方向フィンを有する炉の通路用のパイプ又は管は、例えば、米国特許第9,132,409号(Petelaらに2015年9月15日に発行され、NOVA Chemicals(International)S.A.に譲渡された)に記載されている。
【0061】
本発明のこの態様によれば、1つ以上の長手方向の垂直フィンが、プロセスコイルの外面に、少なくとも分解炉の放射部の1つ以上の通路の一部に追加される。
【0062】
典型的には、コイルの単一の通路の少なくとも一部の外面上に、又は好ましくは複数のコイル通路上に、1~8個、好ましくは1~4個、より好ましくは1個又は2個の長手方向の垂直フィンがあってもよい。複数のフィンが存在する場合、それらのフィンは、コイル通路の外周の周りに放射状に均一に離間させてもよい(例えば、コイル通路の外周上に、2つのフィンを180°離間させ、又は4つのフィンを90°離間させる)。ただし、フィンの間隔は非対称であってもよい。例えば、2つのフィンの場合、間隔は放射コイルの外周で半径方向に160°~200°離間させてもよく、2つのフィンは半径方向に60°から120°離間させてもよい。
【0063】
長手方向の垂直フィンは、長方形、正方形、三角形、台形、又は前記底面よりも上面が薄い先細りの長方形のプロファイルなど、いくつかの断面形状を有することができる。台形の形状については、完全に意図的ではないかもしれないが、例えば、三角形の断面を製造する(例:鋳造又は機械加工)ことが困難又は高額な場合など、製造プロセスから、必要性が生じる可能性がある。
【0064】
フィンは、コイル通路の長さの10%~100%(及びその間のすべての範囲)まで拡張できる。ただし、フィンの長さ(Lh)とフィンの位置は、すべてのコイル通路に沿って均一である必要はない。本発明のいくつかの実施形態では、フィンは、放射コイルの通路の長さの15~100%、典型的には30%~100%、一般的には50%~100%まで拡張することができ、コイル通路の底部、中央部又は上部に位置付けることができる。本発明のさらなる実施形態では、フィンは、コイル通路の長さの15%~95%、好ましくは25%~85%まで拡張でき、コイルに沿って中央に位置付けるか、又は前記通路の上部又は底部にオフセットできる。
【0065】
フィンは、放射コイルの外周においてその底面に、そのコイルの外径の3%~30%、典型的には、約6%~25%、好ましくは7%~20%、最も好ましくは7.5%~15%の幅(Ls)を有することができる。
【0066】
フィンは、コイル外径の10%~50%の、好ましくは10%~40%、典型的には、10%~35%の間のすべての範囲の、放射コイルの表面上の高さ(Lz)を有することができる。フィンのサイズは、コイル通路の位置での放射フラックスに基づいて選択できるため、コイル通路に沿って配置されたフィンは、放射部のすべての位置で同じサイズであるとは限らない(例えば、いくつかの位置では(炉のコーナーの)他の位置よりもフラックスが大きい)。
【0067】
フィンの設計においては、フィンが放射するよりも多くの放射エネルギーをフィンが吸収するように注意する必要がある。これは、フィンから(コイルの外面のフィンの底面を通して)コイルに伝達される熱は、フィンのないむき出しのコイルの表面の同等の領域を通して伝達される熱よりも大きくなければならない、と言い換えることができる。フィンが大きくなりすぎる(高くなりすぎる又は広くなりすぎる)と、過度の伝導抵抗の熱的影響により(例えば、フィンが放射し、フィンが吸収するよりも多くの熱を放出することにより)、フィンが熱伝達を低下させはじめる可能性があり、それはフィンの目的を損なう。操作/使用の条件下で、フィンの底面を通してコイルへの熱の伝達は、フィンのないむき出しのコイルの同等の表面に同じ条件で伝達される熱を超えなければならない。
【0068】
さらなる実施形態では、フィンは実質的に厚い。この実施形態によれば、フィンは、それらの底面において、炉管の半径の約33%以上の厚さを有し、典型的には、炉管の半径の約40%、望ましくは約45%以上、いくつかの実施形態では最大50%の厚さを有する。フィンは、厚いか又は太くて短い。それらのフィンの最大幅に対する高さの比率は、約0.5~5、通常は1~3である。フィンの側面(縁)は平行であってよく、フィンの外縁に向かって内向きに軽くテーパー状であってもよい。テーパーの角度は、フィンの中心線に対して内側に約15°以下、典型的には約10°以下であるべきである。フィンの縁は、平らであるか、(各表面から30°~45°の角度で)尖っているか、又は丸みのある丸いノーズがあってもよい。フィンは、鈍い「V」字形の外向きに延びる放物線、平行四辺形の形での断面形状を有してもよい。場合によっては、好ましくは長手方向フィンの場合、フィンの断面は「E」字型(平行な長手方向の延長部を持つモノリス(平行な溝を持つ))であってもよい。
【0069】
一実施形態では、フィンの少なくとも1つの主表面は、規則的又は半規則的なパターンで外向きに開いた溝のアレイを有し、これは、フィンの少なくとも1つの主表面(例:水平方向フィンの場合は上面又は底面、長手方向フィンの場合は側面)の表面積の少なくとも10%を覆い、前記溝は、フィンの最大厚さの1/4未満の深さ、いくつかの例では、8分の1~10分の1の深さを有する。前記アレイは、フィンの1つ以上の主表面の表面積の25%以上、場合によっては50%以上、好ましくは75%以上、最も好ましくは85%以上で最大100%覆ってもよい。前記アレイは、平行線、直線若しくは波状、フィンの主軸に平行若しくは角度がある線、交差線、波線、正方形、又は長方形の形態をとることができる。前記溝は、外向きに開いたV、切頭の外向きに開いたV、外向きに開いたU、及び外向きに開いた平行な側面チャネルの形態であってもよい。
【0070】
フィンは、炉管の主軸に対して横方向又は平行(例えば長手方向)であってもよい。横方向のフィンは、炉管の主軸に対して垂直に約0°~25°の角度で配置できる。しかしながら、管の主軸に対して垂直でない角度で横方向のフィンを作製することは、より費用がかかり、難しい。横方向のフィンは、円、楕円、又はN面の多角形から選択された形状を持つことができ、ここで、Nは3以上の整数である。いくつかの実施形態では、Nは4~12である。横方向のフィンの主表面は、フィンの上面と底面である。横方向フィンは、炉管の外径の少なくとも2倍、場合によっては3~5倍の間隔を空けて離間させる必要がある。
【0071】
長手方向フィンは、平行四辺形、楕円又は円の一部の形状を有することができ、且つ、放射部の炉管(通路と呼ばれることもある)の長さの約50%~100%、及びその間のすべての範囲の長さを有することができる。
【0072】
長手方向フィンの底面は、炉管の半径の4分の1以上であってもよく、いくつかの例で炉管の半径の1/3~3/4、典型的には1/3~3/4、又はいくつかの例で1/3~5/8、他の例では1/3~1/2であってもよい。フィンは、厚いか又は太くて短い。それらのフィンの最大幅に対する高さの比は、約0.5~5、通常は1~3である。フィンの側面(エッジ)は平行であってもよく、フィンの先端に向かって内側に軽くテーパー状であってもよい。テーパーの角度は、フィンの中心線に対して内側に約15°以下、典型的には約10°以下であるべきである。フィンの先端又は前縁は、平らであるか、(フィンの上面と底面から30°~45°の角度で)先細りであるか、又は丸みのある丸いノーズがあってもよい。長手方向フィンの前縁は、典型的には、炉管の中心軸に平行である。フィンが炉管の長さの100%未満しか伸びていない場合、フィンの前縁は、その大部分が炉管の中心軸に平行であり、炉管の壁に約60°と30°の間の角度で、典型的には45°の角度で角度が付けられている。場合によっては、フィンは、管の表面に垂直な平面で終わることがある。
【0073】
ここで、本発明を以下の非限定的な例により説明する。
【実施例
【0074】
エタン分解炉で使用した場合に、触媒コークス成長と表面への付着物の堆積とを防ぐ保護コーティング層を生成する目的で、新規なステンレス鋼ベース合金を設計した。合金組成(重量%)を表1に示し、従来技術の生成物と比較した。この新規な配合には、ランタンとセリウムが含まれている。別のバリエーションには、ランタンのみが含まれる場合がある。
【0075】
【表1】
【0076】
従来技術の鋼及び新規な鋼を、蒸気分解炉の放射部で使用される炉管内に形成した。
その管を上記のように熱処理し、管の内部に低コーキング表面を生成した。
【0077】
本発明の鋼で作製したパイプの内面の酸化物フィルムの被覆率を、画像分析ソフトウェアを使用して定量的に測定した。シールド酸化物層の表面被覆率は、99.7%から100%の間で変化した。NOVA Chemicals Corporationのスチームクラッカーの1つでの運転(5~6年)後の酸化物の表面被覆率を、同じ手法を使用して計算すると、依然として99%である。酸化物層の剥落がないことを特徴とする、このような強化された表面酸化物の安定性と保護は、この新規な配合の特徴である。
【0078】
断面のSEM-EDX分析により、総酸化物層が3.5μmを超えないことが示された。この層は、1.5~2.0μmの厚さで変化する上部スピネル(MnCr)層と、1.0~1.7μmの厚さで変化する下部のCr層で作製された。この新規な配合の最大酸化物層厚は、従来技術の鋼(10μm)と比較して3.5μmであった。
【0079】
この新規な鋼の配合を、1100℃で酸化環境内で100時間試験した後において、酸化物層の厚さは、従来技術の鋼(10から42μmに増加した)と比較して、3.5から10μmに増加した。
【0080】
NOVA Chemicals Corporationのスチームクラッカーの1つから取り出されたコイルのSEM-EDX断面分析で示されているように、商業運転で5年後でも、シールド酸化物層は、依然として無傷であった。
【0081】
出口コイルの断面のSEMを取得し、酸素、クロム、マンガン濃度の高い連続した均一な層が存在し、シールド酸化物層を形成していることを確認した。EDX分析では、シールド酸化物の最上層に鉄とニッケルが存在しないことも確認された。表面酸化物層は、従来のスチームクラッカーでの使用下で安定しており、剥離しない。
【0082】
この新規な鋼基材の配合は、表面を覆う結晶サイズの制御された/制限された成長により、酸化物表面の安定性を高め、よりコンパクトな表面を生成し、酸化物表面の堅牢性を高めるように設計されている。
【0083】
従来技術のANK400Hの結晶サイズは、1100℃で100時間の酸化試験にさらされると、0.5から5~10μmに増加した。同じ試験条件にさらされた新規な配合物は、0.5から3μmしか増加しない。
【0084】
運転寿命(life in operation)後、図2に示すように、結晶サイズは大きくならなかった。これにより、信頼できる表面保護を提供し、結晶サイズの制御の有効性を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
40~55重量%のNi、30~35重量%のCr、15~25重量%のFe、1.0~2.0重量%のMN、0.01~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb並びに1つ以上の微量元素及び炭素及びシリコンを含む鋼基材であり、その表面上に、式:
MnCr3-x
(式中、xは0.5~2)のスピネルを含み1.5~4.0ミクロンの厚さを有する外層を有し、該表面層と該基材との間に、1~1.7ミクロンの厚さを有するCrを有する中間層を有する鋼基材により、化学反応における炭素堆積物に対する保護を提供する。
本願の出願当初の特許請求の範囲に係る発明の内容は、以下の通りである。
[1] 40~55重量%のNi、30~35重量%のCr、15~25重量%のFe、1.0~2.0重量%のMn、0.01~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb並びに1つ以上の微量元素及び炭素及びシリコンを含む鋼基材であり、
その表面上に、式:
Mn Cr 3-x
(式中、xは0.5~2)のスピネルを含み1.5~4.0ミクロンの厚さを有する外層を有し、
該表面層と該基材との間に、1~1.7ミクロンの厚さを有するCr を有する中間層を有する、鋼基材。
[2] 0.4~0.6重量%のC、1.5重量%未満のSi、0.01~0.20重量%のTi、0.05~0.25重量%のMo、及び0.25重量%未満のCuをさらに含む、[1]に記載の鋼基材。
[3] 前記外層及び前記中間層が、前記基材層の表面の85%以上を覆っている、[2]に記載の鋼基材。
[4] 前記外層及び前記中間層が、前記基材層の表面の95%以上を覆っている、[3]に記載の鋼基材。
[5] 前記外層xが、0.8~1.2ミクロンの厚さを有する、[4]に記載の鋼基材。
[6] 前記外層の厚さが1.5~2.0ミクロンであり、前記中間層の厚さが1.0~1.7ミクロンである、[5]に記載の鋼基材。
[7] 前記外層が、本質的にMnCr からなる、[6]に記載の鋼基材。
[8] 前記外層及び中間層を有する少なくとも1つの表面を有する、[1]に記載の鋼基材を含む加工部品。
[9] その内面に前記外層及び中間層を有する管である、[8]に記載の加工部品。
[10] その内面に前記外層及び中間層を有する反応器である、[8]に記載の加工部品。
[11] その内面に1つ以上の連続又は不連続のビーズ又はフィンをさらに含み、該フィン又は該ビーズと管の長手方向の軸との交差角が、円周S(S=πD、式中、Dは管の内径である)でのフィンのピッチ(p)で、シータ(θ)である、[8]に記載の管。
[12] 外面に一連の閉じた突起を有し、該突起が、
i)コイルの外径の3~15%の最大高さと、
ii)面積が前記コイルの外断面積の0.1%~10%である、コイルとの接触面、又は底面と、
iii)体積が比較的小さく外面が比較的大きい幾何学形状であり、
四面体(三角形の底面と正三角形の3つの面とを有する角錐);
ジョンソンの正四角錐(正方形の底面と正三角形の側面とを有する角錐);
4つの二等辺三角形の側面を有する角錐;
二等辺三角形の側面を有する角錐(例えば、4つの面を有する角錐の場合、底面は正方形でなくてもよく、長方形又は平行四辺形であってもよい);
球の断片(例えば、半球形又はそれよりも浅い形状);
楕円体の断片(例えば、楕円をその長軸又は短軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
涙滴形の断片(例えば、不均一に変形された楕円体をその変形軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
放物線形の断片(例えば、放物線をその長軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片~変形半球(又はそれよりも浅い形状))例えば、異なる種類の三角翼等、からなる群から選択される幾何学形状と
を有する、[9]に記載の炉管。
[13] 外面に一連の閉じた突起を有し、該突起が、
i)コイルの外径の3~15%の最大高さと、
ii)面積が前記コイルの外断面積の0.1%~10%である、コイルとの接触面、又は底面と、
iii)体積が比較的小さく外面が比較的大きい幾何学形状であり、
四面体;
ジョンソンの正四角錐(正方形の底面と正三角形の側面とを有する角錐);
4つの二等辺三角形の側面を有する角錐;
二等辺三角形の側面を有する角錐(例えば、4つの面を有する角錐の場合、底面は正方形でなくてもよく、長方形又は平行四辺形であってもよい);
球の断片(例えば、半球形又はそれよりも浅い形状);
楕円体の断片(例えば、楕円をその長軸又は短軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
涙滴形の断片(例えば、不均一に変形された楕円体をその変形軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片);
放物線形の断片(例えば、放物線をその長軸周りに回転させた時に形成される形状又は体積の断片~変形半球(又はそれよりも浅い形状))例えば、異なる種類の三角翼等、からなる群から選択される幾何学形状と
を有する、[11]に記載の炉管。
[14] 円形の断面を有する炉管であって、その外面に、三角形の断面を有する1~8個の実質的に直線状の長手方向の垂直フィンを有し、該フィンが、(i)コイル通路の長さの10~100%の長さと、(ii)コイル通路と連続的に接触しているか、又はコイル通路の一部である底面であり、コイル外径の3%~30%の幅を有する底面と、(iii)コイル外径の10%~50%の高さと、(v)コイル通路の総重量の3%~45%の重量とを有し、該フィンが、(vi)放射するよりも多くの放射エネルギーを吸収する、[9]に記載の炉管。
[15] 円形の断面を有する炉管であって、その外面に、三角形の断面を有する1~8個の実質的に直線状の長手方向の垂直フィンを有し、該フィンが、(i)コイル通路の長さの10~100%の長さと、(ii)コイル通路と連続的に接触しているか、又はコイル通路の一部である底面であり、コイル外径の3%~30%の幅を有する底面と、(iii)コイル外径の10%~50%の高さと、(v)コイル通路の総重量の3%~45%の重量と
を有し、該フィンが、(vi)放射するよりも多くの放射エネルギーを吸収する、[11]に記載の炉管。
[16] 式:Mn Cr 3-x (式中、xは0.5~2)のスピネルを含み1.5~4.0ミクロンの厚さを有する外層と、
該表面層及び基材の間に1~1.7ミクロンの厚さを有するCr を有する中間層であり、40~55重量%のNi、30~35重量%のCr、15~25重量%のFe、1.0~2.0重量%のMn、0.01~0.60重量%のLa、0.0~0.65重量%のCe、0.06~1.8重量%のNb、最大2.5重量%の1つ以上の微量元素、炭素及びシリコンを含む鋼基材の表面の少なくとも85%を覆っている、前記中間層と、
を備えた表面を作製する方法であって、酸化性雰囲気中で、
1)前記鋼を、室温から10~15℃/分の速度で220℃~240℃の温度に加熱し、この温度で1.5~3時間保持し;
2)前記鋼を、1~5℃/分の速度で365~375℃の温度に加熱し、この温度で1~3時間保持し;
3)前記鋼を、1~5℃/分の速度で1000℃~1100℃に加熱し、この温度で4~8時間保持し;
4)前記鋼を、1℃~2.5℃の速度で18~25℃の温度に冷却する
ことを含む、方法。
[17] 前記内部ビーズ又はフィンが連続している、[11]に記載の管。
[18] 前記内部ビーズ又はフィンが不連続である、[11]に記載の管。
[19] 前記内部ビーズ又はフィンが不連続であり、前記フィンの全円弧長が、TW=w×nである(式中、wは、平面に投影した円弧長であり、nは、らせん線状の線の1ターンにおけるフィンの数である)、[11]に記載の管。
図1
図2