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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】オレフィン系重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20220927BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220927BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20220927BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08K5/20
C08J5/18 CES
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509421
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020012854
(87)【国際公開番号】W WO2020196458
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019056712
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 諒
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 将寿
(72)【発明者】
【氏名】楠本 玲実
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-113695(JP,A)
【文献】特開平11-209536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00-5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン由来の構成単位と炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む共重合体65~35質量部、
(B)DSCで測定した融点が135~170℃であるプロピレン・エチレンブロック共重合体35~65質量部(但し、成分(A)及び(B)の合計を100質量部とする)、
(C)分子量310~5000の脂肪酸アミド、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01~0.50質量部、及び
(D)分子量298以下の脂肪酸アミド、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01~0.50質量部
を含み、成分(C)の量をWc、成分(D)の量をWdとした場合に、Wc/Wdが0.5~1.5であり、かつ成分(A)が架橋されていない重合体組成物。
【請求項2】
成分(C)の配合量及び成分(D)の配合量が、いずれも0.10~0.50質量部である請求項1記載の重合体組成物。
【請求項3】
成分(C)及び成分(D)が、いずれも直鎖状の脂肪酸アミドである請求項1又は2記載の重合体組成物。
【請求項4】
成分(C)がエルカ酸アミドである請求項1~3のいずれか1項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
成分(D)がオレイン酸アミドである請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体組成物から得られる成形体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体組成物を射出成形することを含む射出成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィン系重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系熱可塑性重合体組成物への滑剤の添加は知られている。特許文献1の技術では金型から成形品を取り出す際の離型性、成形品表面の摺動性を確保するために滑剤として高級脂肪酸アミドを添加している。
【0003】
前記特許文献1の技術は、滑剤を添加した組成物を、有機過酸化物、架橋助剤の存在下で動的に熱処理して得られた熱可塑性エラストマーに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-208404号公報(請求項1、段落0019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの知見によれば、架橋物を含む組成物は、その架橋物の寄与もあり、金型からの離型性にはもともと優れると考えられる。一方、架橋物を含まない組成物においては、架橋物の寄与がなく、成形物をスムーズに生産するためには、滑剤の添加により離型性を向上させる必要があるが、添加量が増加するとブリードによる外観不良やフォギング性の悪化が問題となる。
【0006】
本発明の課題は、架橋物を含まずとも、少ない添加量の滑剤で離型性に優れたオレフィン系重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)(A)エチレン由来の構成単位と炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む共重合体65~35質量部、
(B)DSCで測定した融点が135~170℃であるプロピレン系重合体35~65質量部(但し、成分(A)及び(B)の合計を100質量部とする)、
(C)分子量310~5000の脂肪酸アミド、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01~0.50質量部、及び
(D)分子量298以下の脂肪酸アミド、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01~0.50質量部
を含み、成分(C)の量をWc、成分(D)の量をWdとした場合に、Wc/Wdが0.5~1.5であり、かつ成分(A)が架橋されていない重合体組成物。
(2)成分(C)の配合量及び成分(D)の配合量が、いずれも0.10~0.50質量部である前記(1)に記載の重合体組成物。
(3)成分(C)及び成分(D)が、いずれも直鎖状の脂肪酸アミドである前記(1)又は(2)に記載の重合体組成物。
(4)成分(C)がエルカ酸アミドである前記(1)~(3)のいずれかに記載の重合体組成物。
(5)成分(D)がオレイン酸アミドである前記(1)~(4)のいずれかに記載の重合体組成物。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の重合体組成物から得られる成形体。
(7)前記(1)~(5)のいずれかに記載の重合体組成物を射出成形することを含む射出成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、架橋物を含まずとも、少ない添加量の滑剤で離型性に優れたオレフィン系重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<成分(A):エチレン由来の構成単位と炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む共重合体>
本発明において成分(A)として用いるエチレン由来の構成単位と炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む共重合体(以下「エチレン系共重合体(A)」という。)は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとを主成分とする共重合体が好ましく、例えば、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンからなる無定形ランダムな共重合体、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンと非共役ポリエンとからなる無定形ランダムな共重合体が挙げられるが、熱安定性の観点から、ポリエン由来の構成単位を含まない無定形ランダムな共重合体が好ましい。
【0010】
前記α-オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。中でも、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。とりわけ1-ブテンが好ましい。これらのα-オレフィンは、単独で、又は2種以上混合して用いられる。
【0011】
エチレン系共重合体(A)におけるエチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとのモル比は、通常55/45~85/15であり、好ましくは60/40~83/17である。
【0012】
前記非共役ポリエンとしては、具体的には、ジシクロペンタジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン(例えば、5-メチレン-2-ノルボルネン)、エチリデンノルボルネン(例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン)、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状ジエン;1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、6-メチル-1,6-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、6-エチル-1,6-オクタジエン、6-プロピル-1,6-オクタジエン、6-ブチル-1,6-オクタジエン、6-メチル-1,6-ノナジエン、7-メチル-1,6-ノナジエン、6-エチル-1,6-ノナジエン、7-エチル-1,6-ノナジエン、6-メチル-1,6-デカジエン、7-メチル-1,6-デカジエン、6-メチル-1,6-ウンデカジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン等のトリエン等が挙げられる。非共役ポリエンが存在する場合、エチレン系共重合体(A)のヨウ素価は、通常0.1~20、好ましくは1~20である。
【0013】
エチレン系共重合体(A)としては、エチレン・1-ブテン共重合体が好ましい。
【0014】
エチレン系共重合体(A)の密度は、通常850~870kg/m、好ましくは855~870kg/mである。
【0015】
エチレン系共重合体(A)は、MFR(ISO1133、190℃、2.16kg荷重)が、通常0.1~50g/10分であり、好ましくは0.1~10g/10分である。
【0016】
エチレン系共重合体(A)は、MFR(ISO1133、230℃、2.16kg荷重)が、通常0.2~100g/10分であり、好ましくは0.2~20g/10分である。
【0017】
エチレン系共重合体(A)のムーニー粘度[ML1+4(125℃)]は、通常35~300、好ましくは40~160である。
【0018】
エチレン系共重合体(A)は、示差走査熱量分析(DSC)で得られる融点(Tm)が、170℃以下(好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下)であるか、あるいは観測されないことが好ましい。ここで、「融点が観測されない」とは融解熱量(ΔH)が1J/g未満であることを意味する。
【0019】
本発明に用いるエチレン系共重合体(A)は、その製造の際に軟化剤、好ましくは鉱物油系軟化剤を配合した、いわゆる油展ゴムであってもよい。鉱物油系軟化剤としては、従来公知の鉱物油系軟化剤、例えばパラフィン系プロセスオイルなどが挙げられる。
【0020】
エチレン系共重合体(A)の配合量は、エチレン系共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、35~65質量部、好ましくは45~60質量部である。前記エチレン系共重合体(A)の配合量が35質量部未満であると、剛性が上昇し低温での衝撃性が著しく悪化する懸念があり、65質量部を超えると、流動性や結晶性が不足し射出成形には適さない可能性がある。
【0021】
本発明においては、滑剤による離型効果の観点から、エチレン系共重合体(A)は架橋されていないことが必要である。
【0022】
<成分(B):プロピレン系重合体>
本発明において成分(B)として用いるプロピレン系重合体(以下「プロピレン系重合体(B)」という。)は、例えばプロピレン単独、又はプロピレンとその他の1種又は2種以上のモノオレフィンを高圧法又は低圧法により重合して得られる結晶性の高分子量固体生成物が挙げられる。このような重合体としては、アイソタクチックモノオレフィン重合体、シンジオタクチックモノオレフィン重合体等が挙げられる。
【0023】
プロピレン系重合体(B)は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品を用いてもよい。
【0024】
プロピレン系重合体(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
プロピレン系重合体(B)のプロピレン以外の適当な原料オレフィンとしては、好ましくは炭素数2又は4~20のα-オレフィン、具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。これらの炭素数2又は4~20のα-オレフィンを用いる際は1種でも2種以上用いてもよい。重合様式は、樹脂状物が得られれば、ランダム型でもブロック型でもよい。これらのプロピレン系重合体は、単独でも、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
プロピレン系重合体(B)は、射出成形性及び低温での衝撃性の観点から、MFR(ISO1133、230℃、2.16kg荷重)が、通常20~200g/10分であり、好ましくは40~70g/10分である。
【0027】
プロピレン系重合体(B)は、示差走査熱量分析(DSC)で得られる融点(Tm)が、135~170℃であり、好ましくは155~165℃である。前記融点(Tm)が135℃未満であると、低温での衝撃性が良化する一方で、剛性が低下し、170℃を超えると、剛性が上昇する一方で、低温での衝撃性が悪化する可能性がある。
【0028】
プロピレン系重合体(B)の密度は、通常890~910kg/m、好ましくは900~910kg/mである。
【0029】
プロピレン系重合体(B)は、オレフィン系重合体組成物の流動性及び耐熱性を向上させる役割を果たす。
【0030】
プロピレン系重合体(B)の配合量は、エチレン系共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、35~65質量部、好ましくは40~55質量部である。前記プロピレン系重合体(B)の配合量が35質量部未満であると、流動性が不足し射出成形には適さない可能性があり、65質量部を超えると、剛性が上昇し低温での衝撃性が著しく悪化する懸念がある。
【0031】
<成分(C)及び成分(D)の脂肪酸アミド>
本発明においては、成分(C)及び成分(D)として脂肪酸アミドを用いる。
成分(C)及び成分(D)として脂肪酸アミドが分岐状であると、樹脂内部に留まりやすい。したがって、脂肪酸アミドが樹脂内部に留まらず、成形時の樹脂表面に適度にブリードして、目的とする離型性能が得られる点で、本発明において成分(C)及び成分(D)として用いる脂肪酸アミドは、いずれも直鎖状の脂肪酸アミドであることが好ましい。
【0032】
<成分(C):分子量310~5000の脂肪酸アミド>
本発明において成分(C)として用いる脂肪酸アミド(以下「脂肪酸アミド(C)」という。)は、分子量310~5000であり、滑剤として作用しうる脂肪酸アミドであれば、特に制限はないが、例えば、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和ビスアミド、不飽和ビスアミドが挙げられる。脂肪酸アミド(C)の分子量は、好ましくは310~691、より好ましくは310~400、更に好ましくは310~340である。
【0033】
脂肪酸アミド(C)の具体例としては、例えばエルカ酸アミド(分子量338)、ベヘン酸アミド(分子量340)、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド(分子量691)、好ましくはエルカ酸アミド、ベヘン酸アミドが挙げられる。
【0034】
脂肪酸アミド(C)の配合量は、エチレン系共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、0.01~0.50質量部、好ましくは0.10~0.50質量部、更に好ましくは0.10~0.30質量部である。脂肪酸アミド(C)の配合量が0.01質量部未満であると、成形時に樹脂表面に存在する量が少なく離型性に寄与しない、0.50質量部を超えると、表面よりブリードして外観不良の原因となる。
【0035】
<成分(D):分子量298以下の脂肪酸アミド>
本発明において成分(D)として用いる脂肪酸アミド(以下「脂肪酸アミド(D)」という。)は、分子量298以下であり、滑剤として作用しうる脂肪酸アミドであれば、特に制限はないが、例えば、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和ビスアミド、不飽和ビスアミドが挙げられる。脂肪酸アミド(D)の分子量は、好ましくは115~298、より好ましくは199~298、更に好ましくは280~298である。脂肪酸アミド(D)の分子量がこの範囲にあると、成形品表面へのブリードの点で優れる。
【0036】
脂肪酸アミド(D)の具体例としては、例えばオレイン酸アミド(分子量282)、ステアリン酸アミド(分子量284)、ラウリン酸アミド(分子量199)、カプロン酸アミド(分子量115)、リシノール酸アミド(分子量298)、好ましくはオレイン酸アミド、ステアリン酸アミドが挙げられる。
【0037】
脂肪酸アミド(D)の配合量は、エチレン系共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、0.01~0.50質量部、好ましくは0.10~0.50質量部、更に好ましくは0.10~0.30質量部である。脂肪酸アミド(D)の配合量が0.01質量部未満であると、成形時に樹脂表面に存在する量が少なく離型性に寄与せず、0.50質量部を超えると、表面よりブリードして外観不良の原因となる。
【0038】
本発明においては、脂肪酸アミド(C)の量をWc、脂肪酸アミド(D)の量をWdとした場合に、Wc/Wdが0.5~1.5であり、好ましくは0.8~1.2である。Wc/Wdが0.5未満であると、低分子量が多いため昇華して滑剤効果が小さくなることがあり、1.5を超えると、高分子量のため表面に出にくくなり滑剤効果が小さくなることがある。
【0039】
<その他の成分>
本発明の組成物には、エチレン系共重合体(A)、プロピレン系重合体(B)、脂肪酸アミド(C)及び脂肪酸アミド(D)の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、特に限定されないが、軟化剤、充填剤、受酸剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、金属セッケン等、ポリオレフィンの分野で用いられている公知の添加剤が挙げられる。
【0040】
本発明の組成物は、成分(C)と(D)とによる離型性効果発現の観点から、如何なる架橋ゴムも含まないことが好ましい。
【0041】
本発明の組成物において、エチレン系共重合体(A)、プロピレン系重合体(B)、脂肪酸アミド(C)及び脂肪酸アミド(D)以外の添加剤の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、エチレン系共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、その他の添加剤の合計量は、通常5質量部以下、好ましくは0.5~3.0質量部である。
【0042】
<組成物及び成形体>
本発明の組成物は、少なくとも前記のエチレン系共重合体(A)、プロピレン系重合体(B)、脂肪酸アミド(C)及び脂肪酸アミド(D)を、所定の配合比で溶融法、溶液法等、好ましくは溶融混練方法により混合することで得られる。溶融混練方法としては、熱可塑性樹脂について一般的に用いられている溶融混練方法が適用できる。本発明の組成物は、例えば、粉状又は粒状の各成分を、必要であれば他の添加物等とともに、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、混練ロール、バッチ混練機、ニーダー、バンバリーミキサー等で混練することにより調製することができる。各成分の溶融混練温度(例えば、押出機ならシリンダー温度)は、160~260℃が好ましく、180~230℃が更に好ましい。各成分の混練順序及び混練方法は、特に限定されない。
【0043】
本発明の成形体は、本発明の組成物を成形して得られる成形体である。本発明の組成物は、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、カレンダー成形、発泡成形などの公知の成形方法により、各種成形体に成形することができる。
【0044】
前記の成形方法のうち、射出成形が特に好ましく、その場合、流動性、金型転写性及び樹脂成分の酸化劣化の点から、成形温度は170~260℃が好ましく、180~250℃が更に好ましい。
【0045】
本発明の成形体は、特に自動車用表皮材、自動車用エアバッグカバー材等の自動車部品として好適に適用することができる。
【0046】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2019-056712の明細書に記載される内容を包含する。
【実施例
【0047】
次に本発明について実施例を示して更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0048】
下記実施例及び比較例における物性の測定法は次の通りである。
【0049】
[メルトフローレート(MFR)]
ISO1133に準拠し、230℃又は190℃、2.16kg荷重で測定した。
【0050】
[融点(Tm)]
示差走査熱量分析(DSC)により測定する。この測定は、次のようにして行われる。試料5mg程度を専用アルミパンに詰め、(株)パーキンエルマー社製Diamond DSCを用い、30℃から230℃までを500℃/分で昇温し、230℃で10分間保持したのち、230℃から30℃までを10℃/分で降温し、30℃で更に1分間保持し、次いで10℃/分で昇温する際の吸熱曲線より融点を求める。なお、DSC測定時に、複数のピークが検出される場合は、最も高温側で検出されるピーク温度を融点(Tm)と定義する。
【0051】
[密度]
密度は、ISO1183(水中置換法)に従って、水中と空気中で測定された各試料の重量から算出した。
【0052】
[離型圧力]
後述する射出成形機による成形時に140(幅)×140(長さ)×2(厚さ)(mm)の箱型の成形品を金型からエジェクトする際の離型時の圧力を、エジェクターピンに備わった圧力センサーにより測定した。
【0053】
[実施例1及び比較例1~3]
[使用材料]
(1)エチレン系共重合体(A)
エチレン系共重合体(A)として、下記の物性を有する市販のペレット状エチレン・1-ブテン共重合体(EBR-1)(粒状、平均粒径10mm)を用いた。
エチレン由来の構成単位/(エチレン由来の構成単位+1-ブテン由来の構成単位)=80モル%
MFR(ISO1133、230℃、2.16kg荷重):0.9g/10分
MFR(ISO1133、190℃、2.16kg荷重):0.5g/10分
融点(Tm):観測されない(測定温度:30~230℃)
密度:861kg/m
【0054】
(2)プロピレン系重合体(B)
プロピレン系重合体(B)として、下記の物性を有する市販のペレット状プロピレン・エチレンブロック共重合体(PP-1)(粒状、平均粒径10mm)を用いた。
プロピレン含量95モル%
MFR(ISO1133、230℃、2.16kg荷重):50g/10分
融点(Tm):164℃
密度:900kg/m
引張弾性率(ISO527)1450MPa
シャルピー衝撃強さ(ISO179、23℃)10kJ/m
荷重たわみ温度(ISO75、1.8MPa)55℃
【0055】
(3)脂肪酸アミド(C)
脂肪酸アミド(C)としてエルカ酸アミド(日油株式会社製)(融点(Tm):79~84℃;分子量:338)を用いた。
【0056】
(4)脂肪酸アミド(D)
脂肪酸アミド(D)としてオレイン酸アミド(ライオン・アクゾ株式会社製)(融点(Tm):74~76℃;分子量:282)を用いた。
【0057】
(実施例1)
エチレン系共重合体(A)として、エチレン・1-ブテン共重合体(EBR-1)46質量部、プロピレン系重合体(B)として、プロピレン・エチレンブロック共重合体(PP-1)54質量部、脂肪酸アミド(C)としてエルカ酸アミド0.13質量部、及び脂肪酸アミド(D)としてオレイン酸アミド0.12質量部をヘンシェルミキサーで充分に混合し、下記条件下で押出混練した。
【0058】
<押出機>
・品番 KTX-46、神戸製鋼(株)製
シリンダー温度:C1~C2 120℃、C3~C4 140℃、C5~C14 200℃、
ダイス温度:200℃
スクリュー回転数:400rpm
押出量:80kg/h
得られた重合体組成物を用いて、下記の射出成形機で射出成形体(試験片)を製造し、離型圧力を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
<射出成形機>
・品番 NEX140(日精樹脂工業(株)製)
シリンダー温度(射出成形温度):220℃
金型温度:40℃
【0060】
(比較例1~3)
成分(C)及び成分(D)の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、本発明によれば、少ない添加量の滑剤で離型性に優れたオレフィン系重合体組成物を提供できることがわかる。
【0063】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。