(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】化学的締結用のエポキシ樹脂化合物における加速剤としての塩の使用
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20220927BHJP
C04B 26/14 20060101ALI20220927BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20220927BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C08G59/40
C04B26/14
E04B1/41 503C
E02D5/80 Z
(21)【出願番号】P 2021515224
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2019073941
(87)【国際公開番号】W WO2020058018
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-18
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ニコル ベーレンス
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ボルンシュレーグル
(72)【発明者】
【氏名】アーミン プファイル
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-506142(JP,A)
【文献】英国特許第01105772(GB,B)
【文献】米国特許出願公開第2016/0208042(US,A1)
【文献】特表2016-532742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C04B 26/14
E04B 1/41
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削孔における、アンカーロッド、アンカーボルト、(ネジ山付き)ロッド、(ネジ山付き)スリーブ、強化バー、および/またはネジである、建設要素ならびにアンカー固定手段を化学的に留め付けるための、エポキシ樹脂化合物における加速剤としての、硝酸の塩、亜硝酸の塩、ハロゲンの塩、トリフルオロメタンスルホン酸の塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1種の塩(S)の使用
であって、
前記エポキシ樹脂化合物が、多成分エポキシ樹脂化合物であり、
前記多成分エポキシ樹脂化合物が、少なくとも1種の硬化性エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂成分(A)と、エポキシ基に反応性である少なくとも1種のアミンを含有する硬化剤成分(B)と、を含み、前記エポキシ樹脂成分(A)と前記硬化剤成分(B)とが、反応を防止するために互いに分離されており、そして
前記エポキシ基に反応性の前記アミンが、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、2メチル-1,5-ペンタンジアミン(DYTEK A)、m-キシリレンジアミン(mXDA)、1,3-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサン(1,3-BAC)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシル‐アミン)(PACM)、4-メチルシクロヘキシル-1,3-ジアミン(mCDA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン(1,2-BAC)、およびそれらの混合物から選択される
使用。
【請求項2】
前記多成分エポキシ樹脂化合物が、前記エポキシ樹脂成分(A)と前記硬化剤成分(B)とを別個に配置して反応を防止する、2つ以上の別個のチャンバを備える、カートリッジまたはフィルムパウチ内に存在することを特徴とする、請求項
1に記載の使用。
【請求項3】
前記塩(S)が、硝酸塩(NO
3
-)、ヨウ化物(I
-)、トリフラート(CF
3SO
3
-)、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記塩(S)が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド、アルミニウム、アンモニウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるカチオンを含むことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1つに記載の使用。
【請求項5】
前記塩(S)が、少なくとも前記硬化剤成分(B)に含有されることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1つに記載の使用。
【請求項6】
前記塩(S)が、前記エポキシ樹脂化合物の総重量に基づいて、0.1~4重量%の割合で前記エポキシ樹脂化合物に含有されることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1つに記載の使用。
【請求項7】
前記硬化性エポキシ樹脂が、ビスフェノールAもしくはビスフェノールFのジグリシジルエーテル、またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項3~
6のいずれか1つに記載の使用。
【請求項8】
建設手段および/またはアンカー固定材料を化学的に留め付けるための方法であって、少なくとも1種の硬化性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂成分(A)と、エポキシ基に反応性である少なくとも1種のアミンを含有する硬化剤成分(B)と、を含む多成分エポキシ樹脂化合物が使用され、前記エポキシ樹脂成分(A)と前記硬化剤成分(B)とが、反応を防止するために互いに分離されており、前記エポキシ樹脂成分(A)および/または前記硬化剤成分(B)が、加速剤として少なくとも1種の塩(S)を含み、前記塩(S)が、硝酸の塩、亜硝酸の塩、ハロゲンの塩、トリフルオロメタンスルホン酸の塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記エポキシ基に反応性の前記アミンが、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、2メチル-1,5-ペンタンジアミン(DYTEK A)、m-キシリレンジアミン(mXDA)、1,3-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサン(1,3-BAC)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシル‐アミン)(PACM)、4-メチルシクロヘキシル-1,3-ジアミン(mCDA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン(1,2-BAC)、およびそれらの混合物から選択される、
方法。
【請求項9】
前記多成分エポキシ樹脂化合物が、前記エポキシ樹脂成分(A)と前記硬化剤成分(B)とを別個に配置して反応を防止する、2つ以上の別個のチャンバを備える、カートリッジまたはフィルムパウチ内に存在する、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記エポキシ樹脂成分(A)と前記硬化剤成分(B)とが、前記別個のチャンバから排出され、スタティックミキサまたは溶解器で混合される、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合された多成分エポキシ樹脂化合物が、掘削孔、好ましくは事前に清浄された掘削孔に導入される、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的留め付け用のエポキシ樹脂化合物における加速剤としての、硝酸の塩、亜硝酸の塩、ハロゲンの塩、トリフルオロメタンスルホン酸の塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩(S)の使用に関する。本発明はまた、掘削孔における様々な基材に建設要素、およびアンカーロッド、アンカーボルト、(ネジ山付き)ロッド、(ネジ山付き)スリーブ、強化バー、ネジなどのアンカー固定手段を化学的に留め付けるための方法に関する。
【0002】
硬化性エポキシ樹脂およびアミン硬化剤に基づく多成分モルタル化合物は、しばらく前から知られており、接着剤、亀裂を修復するための補修ペースト、ならびに掘削孔内の様々な基材にアンカーロッド、強化バー、およびネジなどの建設要素を留め付けるための接着系アンカーとして使用されている。屋外の建設現場で使用する場合、モルタル化合物は、広い温度範囲で取り扱いやすい必要があり、高温で低いクリープのみを有する必要がある。同時に、モルタル化合物は、長い処理時間を有する必要があり、広い温度範囲で迅速かつ完全に硬化する必要があり、硬化モルタル化合物は、湿った掘削孔および高温でも高い荷重値に達する必要があり、良好な耐熱性を有する必要がある。
【0003】
これらの特性プロファイルは、容易に満たすことができない。例えば、良好な取り扱い挙動を実現するには、従来のモルタル化合物では、高い割合の低粘度成分、低い割合の充填剤、および粗い充填剤を提供することが慣習であるが、これは、高温の荷重下での低いクリープ挙動という点には不利である。加えて、非反応性または非架橋性の希釈剤の割合が高く、反応性成分が少ない結果、長い処理時間が達成され、これが硬化時間の短縮を妨げる。
【0004】
エポキシアミン系モルタル化合物はまた、硬化速度が遅く、ポットライフまたはゲル化時間が長く、通常、耐熱性および耐クリープ性が低い。これは、それらが狭い温度範囲でのみ容易に取り扱うことができ、良好な荷重値に到達することができることを意味する。エポキシアミン系モルタル化合物の硬化時間は、一般に、適切なアミンを選択することによって、および/または三級アミン、アルコール、および酸などの触媒を添加することによって設定される。しかしながら、加速剤として使用され得るこれらの物質は、硬化モルタルの最終的な特性に大幅な変化を生じ、多くの場合、用途に関連する特性の点での問題に至る。特に、硬化モルタルの強度(荷重値)への悪影響が多くの場合観察され得る。
【0005】
特許文献1は、エポキシ樹脂とアミンとの反応に対する無機金属塩の加速効果について記載している。原則として、無機塩に応じて加速されたエポキシ‐アミン系をコーティングとして使用する。これは、例えば、特許文献2、特許文献3、または特許文献4に記載されている。コーティングとして使用するための組成物は、通常、高い機械的伸展性を呈し、したがって、化学的留め付けには好適ではない。化学的留め付け用のモルタル化合物は、化学的留め付けに必要な引き抜き強度を有するためには、高い脆性を有さなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】英国特許出願公開第1105772号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/053108号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/130481号明細書
【文献】米国特許第5958593号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明によって対処される問題は、モルタル化合物の引き抜き強度を損なうことなく、硬化時間を大幅に短縮することを可能にする、建設要素を化学的に留め付けるための解決策を提供することである。特に、モルタル化合物は、7時間未満、特に4時間未満の時間枠内で荷重(参照荷重の90%)に耐えることが可能である必要があり、優れた引き抜き強度を有する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって対処される問題は、請求項1に記載の化学的留め付け用のエポキシ樹脂化合物の加速剤として、塩(S)を使用することによって解決される。本発明による使用の好ましい態様は、従属請求項に提供されており、これらは、任意選択的に互いに組み合わせることができる。
【0009】
本発明はまた、請求項12に記載の建設要素および/またはアンカー固定手段を化学的に留め付けするための方法に関する。本発明による使用の好ましい態様は、従属請求項に提供されており、これらは、任意選択的に互いに組み合わせることができる。
【0010】
本発明の文脈内で、上および次の記載で使用される用語は、次の意味を有する。
「脂肪族化合物」とは、芳香族化合物を除く、非環式または環式の飽和または不飽和炭素化合物であり、
「脂環式化合物」とは、ベンゼン誘導体または他の芳香族系を除く、炭素環構造を有する化合物であり、
「芳香脂肪族化合物」とは、官能化された芳香脂肪族化合物の場合、存在する官能基が化合物の芳香族部分ではなく脂肪族に結合しているような芳香族骨格を有する脂肪族化合物であり、
「芳香族化合物」とは、ヒュッケル則(4n+2)に従う化合物であり、
「アミン」とは、1個、2個、または3個の水素原子を炭化水素基で置き換えることによってアンモニアから誘導され、一般構造RNH2(一級アミン)、R2NH(二級アミン)、およびR3N(三級アミン)を有する化合物であり(参照:A.D.McNaught and A.Wilkinson,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1997)によって編集されたIUPAC Chemical Terminology,2nd ed.(the“Gold Book”))、
「塩」とは、正に帯電したイオン(カチオン)および負に帯電したイオン(アニオン)で構成される化合物である。これらのイオン間にはイオン結合がある。表現「硝酸の塩」とは、硝酸(HNO3)から誘導され、アニオンとして硝酸塩(NO3
-)を含む化合物について記載している。表現「亜硝酸の塩」とは、亜硝酸(HNO2)から誘導され、アニオンとして亜硝酸塩(NO2
-)を含む化合物について記載している。表現「ハロゲンの塩」とは、周期表の第7族の元素をアニオンとして含む化合物について記載している。特に、表現「ハロゲンの塩」とは、アニオンとしてフッ化物(F-)、塩化物(Cl-)、臭化物(Br-)、またはヨウ化物(I-)を含む化合物を意味すると理解されるべきである。表現「トリフルオロメタンスルホン酸の塩」とは、トリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)から誘導され、アニオンとしてトリフラート(CF3SO3
-)を含む化合物について記載している。本発明の文脈において、用語「塩」とはまた、塩の対応する水和物を網羅する。加速剤として使用される塩(S)はまた、本発明の文脈において「塩」と称される。
【0011】
驚くべきことに、化学的留め付け用のエポキシ樹脂化合物に少なくとも1種の塩(S)を添加すると、硬化反応の大幅な加速に至ることが現在見出されている。硬化化合物は、優れた引き抜き強度を呈し、したがって、短期間の後に、およそ4~6時間以内、場合によっては1時間未満後などのさらにはるかに早く、荷重を受けることができる。非常に長い硬化時間を有するアミンを使用する場合でさえも、短時間で優れた引き抜き強度を達成するのに必要な塩(S)は、少量のみである。加速剤として少量のみの塩(S)でも十分であるので、塩(S)自体は、エポキシ樹脂化合物のレオロジー特性などの、用途に関連する特性に悪影響を及ぼさない。
【0012】
エポキシ樹脂化合物は、建設目的での使用が好ましい。表現「建設目的」は、コンクリート/コンクリート、鋼/コンクリート、または鋼/鋼、または他の鉱物材料との当該材料のうちの1種の構造的接着、コンクリート、レンガ、および他の鉱物材料で作製された構成要素の構造強化、繊維強化ポリマーを用いる建築物の強化用途、コンクリート、鋼、または他の鉱物材料で作製された表面の化学的留め付け、特に、(強化)コンクリート、レンガ、他の鉱物材料、金属(例えば鋼)、セラミック、プラスチック、ガラス、および木材などの掘削孔内の様々な基材への、建設要素ならびにアンカーロッド、アンカーボルト、(ネジ山付き)ロッド、(ネジ山付き)スリーブ、強化バー、ネジなどのアンカー固定手段の化学的留め付けを指す。
【0013】
エポキシ樹脂化合物は、好ましくは多成分エポキシ樹脂化合物、好ましくはエポキシ樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)とを含む二成分エポキシ樹脂化合物である。エポキシ樹脂成分(A)は、少なくとも1種の硬化性エポキシ樹脂を含む。硬化剤成分(B)は、エポキシ基に反応性である少なくとも1種のアミンを含む。多成分エポキシ樹脂化合物において、エポキシ樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)とは、反応を防止するために互いに分離されている。加速剤として使用される塩(S)は、エポキシ樹脂成分(A)もしくは硬化剤成分(B)、またはエポキシ樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)との両方に含有され得る。塩(S)は、少なくとも硬化剤成分(B)のみに含有されることが好ましい。塩(S)は、硬化剤成分(B)に含有されることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、塩(S)は、硝酸の塩、亜硝酸の塩、ハロゲンの塩、トリフルオロメタンスルホン酸の塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1種の塩である。塩(S)は、好ましくは、硝酸の塩、ハロゲンの塩、トリフルオロメタンスルホン酸の塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の塩である。硝酸塩(NO3
-)、ヨウ化物(I-)、トリフラート(CF3SO3
-)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される塩(S)が特に好ましいことが見出されている。
【0015】
アルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩、硝酸ランタニド、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、およびそれらの混合物は、特に好適な硝酸の塩である。対応する硝酸の塩は、市販されている。好ましくは、Ca(NO3)2またはNaNO3などのアルカリ金属硝酸塩および/またはアルカリ土類金属硝酸塩が、硝酸の塩として使用される。硝酸の塩の溶液、例えば、Ca(NO3)2/HNO3を含有する溶液を塩(S)として使用することも可能である。この溶液を調製するためには、CaCO3をHNO3に溶解させる。
【0016】
アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属亜硝酸塩、亜硝酸ランタニド、亜硝酸アルミニウム、亜硝酸アンモニウム、およびそれらの混合物は、特に好適な亜硝酸の塩である。対応する亜硝酸の塩は、市販されている。好ましくは、アルカリ金属亜硝酸塩、および/またはCa(NO2)2などのアルカリ土類金属亜硝酸塩が、亜硝酸の塩として使用される。
【0017】
ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化ランタニド、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化アンモニウム、およびそれらの混合物は、特に好適なハロゲンの塩である。対応するハロゲンの塩は、市販されている。ハロゲンは、好ましくは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、およびそれらの混合物からなる群から選択され、使用するにはヨウ化物が特に好ましい。
【0018】
アルカリ金属トリフラート、アルカリ土類金属トリフラート、ランタニドトリフラート、アルミニウムトリフラート、アンモニウムトリフラート、およびそれらの混合物は、特に好適なトリフルオロメタンスルホン酸の塩である。トリフルオロメタンスルホン酸の対応する塩は、市販されている。好ましくは、アルカリ金属硝酸塩および/またはCa(CF3SO3)2などのアルカリ土類金属硝酸塩が、トリフルオロメタンスルホン酸の塩として使用される。
【0019】
原則として、塩(S)のカチオンは、有機、無機、またはそれらの混合物であってもよい。塩(S)のカチオンは、好ましくは無機カチオンである。
【0020】
好適な有機カチオンは、例えば、テトラエチルアンモニウムカチオンなどの、C1-C6-アルキル基などの有機基で置換されているアンモニウムカチオンである。
【0021】
塩(S)の好適な無機カチオンは、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド、アルミニウム、アンモニウム(NH4
+)、およびそれらの混合物からなる群から、より好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、アンモニウム、およびそれらの混合物からなる群から、さらにより好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、およびそれらの混合物からなる群から選択されるカチオンである。塩(S)のカチオンは、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム、アンモニウム、およびそれらの混合物からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0022】
したがって、次の化合物または成分は、塩(S)として特に好適である:Ca(NO3)2(硝酸カルシウム、通常カルシウム、Ca(NO3)2四水和物として使用される)、Ca(NO3)2/HNO3、KNO3(硝酸カリウム)、NaNO3(硝酸ナトリウム)、Mg(NO3)2(硝酸マグネシウム、通常Mg(NO3)2六水和物として使用される)、Al(NO3)3(硝酸アルミニウム、通常Al(NO3)3九水和物として使用される)、NH4NO3(硝酸アンモニウム)、Ca(NO2)2(硝酸カルシウム)、NaCl(塩化ナトリウム)、NaBr(臭化ナトリウム)、NaI(ヨウ化ナトリウム)、Ca(CF3SO3)2(カルシウムトリフラート)、Mg(CF3SO3)2(マグネシウムトリフラート)、およびLi(CF3SO3)2(チリウムトリフラート)の混合物。
【0023】
エポキシ樹脂成分および/または硬化剤成分は、1種以上の塩(S)を有してもよい。塩は、個々に、および指定の塩のうちの2種以上の混合物で、の両方で使用することができる。
【0024】
エポキシ樹脂成分および/または硬化剤成分中の塩(S)の溶解特性を改善するために、塩(S)を好適な溶媒に溶解させてもよく、したがって溶液として使用してもよい。この目的には、例えば、メタノール、エタノール、およびグリセロールなどの有機溶媒が好適である。しかしながら、水を溶媒として使用してもよく、上記の有機溶媒との混合物でも可能である。対応する塩溶液を調製するために、塩(S)を溶媒に添加し、好ましくは完全に溶解するまで撹拌する。
【0025】
好ましくは、塩(S)は、エポキシ樹脂化合物の総重量に基づいて、0.1~4重量%、好ましくは0.1~3重量%の割合でエポキシ樹脂化合物に含有される。
【0026】
これは、塩(S)が硬化剤成分に含有される好ましい態様では、好ましくは、硬化剤成分の総重量に基づいて、0.1~15重量%の割合で硬化剤成分に含有されることである。好ましくは、塩(S)は、硬化剤成分の総重量に基づいて、硬化剤成分中0.5~12重量%の割合で、より好ましくは1.0~10重量%の割合で、さらにより好ましくは1.5~8.0重量%の割合で含有される。
【0027】
これは、塩(S)がエポキシ樹脂成分に含有される態様では、エポキシ樹脂成分の総重量に基づいて、0.1~5重量%の割合でエポキシ樹脂成分に含有されることが好ましいことである。塩(S)は、好ましくは、エポキシ樹脂成分の総重量に基づいて、0.5~4重量%の割合でエポキシ樹脂成分に含有される。
【0028】
多成分エポキシ樹脂化合物の硬化剤成分(B)は、硬化剤として、エポキシ樹脂に反応性である少なくとも1種のアミンを含む。硬化剤として使用されるアミンは、脂肪族、脂環式、芳香族、および芳香脂肪族アミンからなる群から選択され、窒素原子に結合している反応性水素原子を、分子あたり平均して少なくとも2個有する、ジアミンまたはポリアミンである。アミンは、エポキシアミン系として当業者に既知の従来のアミンから選択することができる。
【0029】
本発明の範囲を限定するものではないが、しかしながら好適なアミンの例を以下に示す:1,2-ジアミノエタン(エチレンジアミン)、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(ネオペンタンジアミン)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,3-ジアミノペンタン、1,3-ジアミノペンタン、2,2,4-または2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサンおよびそれらの混合物(TMD)、1,3-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサン(1,3-BAC)、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,2-BAC)、ヘキサメチレンジアミン(HMD)、1,2-および1,4-ジアミノシクロヘキサン(1,2-DACHおよび1,4-DACH)、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ジエチレントリアミン(DETA)、4-アザヘプタン-1,7-ジアミン、1,11-ジアミノ-3,6,9-トリオキソンデカン(trioxundecane)、1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン、1,5-ジアミノ-メチル-3-アザペンタン、1,10-ジアミノ-4,7-ジオキサデカン、ビス(3-アミノプロピル)アミン、1,13-ジアミノ-4,7,10-トリオキサトリデカン、4-アミノメチル-1,8-ジアミノオクタン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ジアミノペンタン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)メチルアミン、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、1,3-ベンゼンジメタンアミン(m-キシリレンジアミン、mXDA)、1,4-ベンゼンジメタンアミン(p-キシリレンジアミン、pXDA)、5-(アミノメチル)ビシクロ[[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチルアミン(NBDA、ノルボルナンジアミン)、ジメチルジプロピレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミノプロピルアミン(DMAPAPA)、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン(イソホロンジアミン(IPDA))、ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、ジエチルメチルベンゼンジアミン(DETDA)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(ダプソン)、混合多環式アミン(MPCA)(例えばAncamine2168)、ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタン(Laromin C260)、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、(3(4),8(9)ビス(アミノメチルジシクロ[5.2.1.02,6]デカン(異性体の混合物、三環式一級アミン、TCD-ジアミン)、4-メチルシクロヘキシルジアミン(mCDA)、N,N’-ジアミノプロピル-2-メチル-シクロヘキサン-1,3-ジアミン、N,N’-ジアミノプロピル-4-メチル-シクロヘキサン-1,3-ジアミン、N-(3-アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、ならびに2-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)プロパン-1,3-ジアミン。
【0030】
硬化剤成分中の好ましいアミンは、2-メチルペンタンジアミン(DYTEK A)、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、1,3-ベンゼンジメタンアミン(m-キシリレンジアミン、mXDA)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシル-アミン)(PACM)、1,4-ベンゼンジメタンアミン(p-キシリレンジアミン、PXDA)、1,6-ジアミノ-2,2,4-トリメチルヘキサン(TMD)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、N-エチルアミノピペラジン(N-EAP)、(3(4),8(9)ビス(アミノメチル)ジシクロ[5.2.1.02,6]デカン(異性体の混合物、三環式一級アミン、TCD-ジアミン)、1,14-ジアミノ-4,11-ジオキサテトラデカン、ジプロピレントリアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、N,N’-ジシクロヘキシル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、二級ポリオキシプロピレンジアミンおよびトリアミン、2,5-ジアミノ-2,5-ジメチルヘキサン、ビス(アミノ-メチル)トリシクロペンタジエン、1,8-ジアミノ-p-メンタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC)、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,2-BAC)、ジペンチルアミン、N-2-(アミノエチル)ピペラジン(N-AEP)、N-3-(アミノプロピル)ピペラジン、ピペラジン、ならびにメチルシクロヘキシルジアミン(mCDA)、N,N’-ジアミノプロピル-2-メチル-シクロヘキサン-1,3-ジアミン、N,N’-ジアミノプロピル-4-メチル-シクロヘキサン-1,3-ジアミン、N-(3-アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、ならびに2-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)プロパン-1,3-ジアミンなどのポリアミンである。
【0031】
エポキシ基に反応性のアミンは、好ましくは、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン(DYTEK A)、m-キシリレンジアミン(mXDA)、1,3-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサン(1,3-BAC)、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,2-BAC)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシル‐アミン)(PACM)、4-メチルシクロヘキシル-ジアミン(mCDA)、およびそれらの混合物から選択される。特に、塩(S)は、アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンを含む硬化剤成分に使用される。
【0032】
アミンを、個別に使用することも、指定されたアミンのうちの2つ以上の混合物で使用することもできる。
【0033】
エポキシ基に反応性であるアミンは、好ましくは、硬化剤成分の総重量に基づいて、10~90重量%、特に好ましくは35~60重量%の割合で硬化剤成分に含有される。
【0034】
硬化剤成分は、溶媒、さらなるフェノール性加速剤、共加速剤、接着促進剤、および無機充填剤の群からのさらなる添加剤を含んでもよい。
【0035】
非反応性希釈剤(溶媒)は、好ましくは、硬化剤成分の総重量に基づいて、最大30重量%、例えば、1~20重量%の量で含有され得る。好適な溶媒の例は、メタノール、エタノール、またはグリコールなどのアルコール、アセトンなどの低級アルキルケトン、ジメチルアセトアミドなどのジ低級アルキル低級アルカノイルアミド、キシレン、またはトルエン、フタル酸エステル、またはパラフィンなどの低級アルキルベンゼンである。溶媒の量は、硬化剤成分の総重量に基づいて、好ましくは≦5重量%である。
【0036】
フェノール性加速剤は、好ましくは、サリチル酸、スチレン化フェノール、およびカルダノール、およびそれらの混合物から選択される。これらは、硬化剤成分の総重量に基づいて、0~10重量%の割合で硬化剤成分中に存在し得る。
【0037】
例えば、ベンゼンアルコール、三級アミン、ノボラック樹脂、イミダゾール、または三級アミノフェノール、オルガノホスフィン、リン酸エステルなどのルイス塩基もしくは酸、またはそれらの2種以上の混合物を共加速剤として使用することができる。好ましくは、共加速剤は、硬化剤成分の総重量に基づいて、0.001~5重量%の重量割合で硬化剤成分に含有される。
【0038】
好適な共加速剤の例は、特に、トリス-2,4,6-ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノ)フェノール、およびビス[(ジメチルアミノ)メチル]フェノールである。好適な共加速剤混合物は、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、およびビス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含有する。この種の混合物は、例えば、Ancamine(登録商標)K54(Evonik,Germany)として市販されている。
【0039】
接着促進剤を使用することにより、掘削孔壁とモルタル化合物との架橋が改善され、それにより、硬化状態での接着が増加する。好適な接着促進剤は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチル-ジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリエトキシシラン、3-アミノプロピル-トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノエチル-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、および3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどの少なくとも1個のSi結合加水分解性基を有するシランの群から選択される。特に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(AMMO)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(AMEO)、2-アミノエチル-3-アミノプロピル‐トリメトキシシラン(DAMO)、およびトリメトキシシリルプロピルジエチレンテトラミン(TRIAMO)が接着促進剤として好ましい。さらなるシランは、例えば、欧州特許出願公開第3000792号明細書に記載されており、その内容は、本出願に組み込まれる。
【0040】
接着促進剤は、硬化剤成分の総重量に基づいて、最大10重量%、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは1.0~2.5重量%の量で含有され得る。
【0041】
無機充填剤、特に、ポルトランドセメントもしくはアルミン酸セメントなどのセメント、ならびに他の水硬性無機物質、石英、ガラス、コランダム、磁器、陶器、バライト、ライトスパー(light spar)、石膏、タルク、および/またはチョーク、およびそれらの混合物は、充填剤として使用される。さらに、ヒュームドシリカなどの増粘剤を無機充填剤として使用することもできる。特に好適な充填剤は、Millisil W3、Millisil W6、Millisil W8、およびMillisil W12、好ましくはMillisil W12などの、表面処理されていない石英粉末、微細石英粉末、および超微細石英粉末である。シラン化石英粉末、微細石英粉末、および超微細石英粉末も使用することができる。これらは、例えば、QuarzwerkeからのSilbond製品シリーズから市販されている。製品シリーズSilbond EST(エポキシシラン修飾)およびSilbond AST(アミノシラン処理)が特に好ましい。さらに、デンカ社(日本)からのASFPタイプ(d50=0.3μm)、またはタイプ指定45(d50<0.44μm)、07(d50>8.4μm)、05(d50<5.5μm)、および03(d50<4.1μm)を有するDAWもしくはDAMなどのグレードの酸化アルミニウム超微細充填剤などの酸化アルミニウム系充填剤が可能である。さらに、Hoffman MineralからのAktisil AMタイプ(アミノシラン処理、d50=2.2μm)、およびAktisil EM(エポキシシラン処理、d50=2.2μm)の表面処理された微細および超微細充填剤を使用してもよい。
【0042】
無機充填剤は、砂、細粉、または成形体の形態、好ましくは繊維またはボールの形態で添加され得る。充填剤はまた、多成分モルタル化合物の1種またはすべての成分中に存在してもよい。タイプおよび粒子サイズ分布/(繊維)長さに関する充填剤の好適な選択を使用して、レオロジー挙動、押し出し力、内部強度、引張強度、引き抜き力、および衝撃強度など、用途に関連する特性を制御することができる。
【0043】
充填剤の割合は、硬化剤成分の総重量に基づいて、好ましくは0~75重量%、例えば10~75重量%、好ましくは15~75重量%、より好ましくは20~50重量%、さらにより好ましくは25~40重量%である。
【0044】
エポキシ樹脂成分(A)は、好ましくは、少なくとも1種の硬化性エポキシ樹脂を含む。当業者には既知であり、この目的のために市販されている、分子あたり平均して2個以上のエポキシ基、好ましくは2個のエポキシ基を含有する多数の化合物は、エポキシ樹脂成分(A)中の硬化性エポキシとして使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、飽和および不飽和の両方、ならびに脂肪族、脂環式、芳香族、または複素環式であり得、ヒドロキシル基を有してもよい。それらはまた、混合または反応条件下で破壊的な二次反応を引き起こさない置換基、例えば、アルキルまたはアリール置換基、エーテル基などを含有し得る。本発明の文脈では、三量体および四量体エポキシも好適である。
【0045】
エポキシ樹脂は、好ましくは、多価アルコール、特にビスフェノールおよびノボラックなどの多価フェノール、特に、平均1.5個以上、特に2個以上、例えば、2~10個のグリシジル基官能性を有するものから誘導されたグリシジルエーテルである。
【0046】
エポキシ樹脂は、120~2000g/EQ、好ましくは140~400、特に155~195、例えば、165~185のエポキシ当量(EEW)を有し得る。また、複数のエポキシ樹脂の混合物を使用してもよい。
【0047】
エポキシ樹脂を調製するために使用される多価フェノールの例は、レゾルシノール、ヒドロキノン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン(ビスフェノールA)、ジヒドロキシフェニルメタンの異性体混合物(ビスフェノールF)、テトラブロモビスフェノールA、ノボラック、4,4’-ジヒドロキシフェニルシクロヘキサン、および4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルプロパンである。
【0048】
エポキシ樹脂は、好ましくは、ビスフェノールA、またはビスフェノールF、またはそれらの混合物のジグリシジルエーテルである。180~190g/EQのEEWを有するビスフェノールAおよび/またはFに基づく液体ジグリシジルエーテルが特に好ましく使用される。
【0049】
さらなる例は、例えばMn≦2000g/モルの平均分子量を有する、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAエピクロロヒドリン樹脂、および/またはビスフェノールF-エピクロロヒドリン樹脂である。
【0050】
エポキシ樹脂の割合は、エポキシ樹脂成分(A)の総重量に基づいて、>0~100重量%、好ましくは10~70重量%、特に好ましくは30~60重量%である。
【0051】
エポキシ樹脂成分(A)は、エポキシ樹脂に加えて、任意選択的に、少なくとも1種の反応性希釈剤を含有してもよい。芳香族基を含有するエポキシよりも低い粘度を有する、脂肪族、脂環式、もしくは芳香族のモノアルコール、または特に多価アルコールのグリシジルエーテルが、反応性希釈剤として使用される。反応性希釈剤の例は、モノグリシジルエーテル、例えば、o-クレジルグリシジルエーテル、および1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDGE)、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、およびヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ならびにグリセロールトリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TMPTGE)、またはトリメチロールエタントリグリシジルエーテル(TMETGE)などのトリ-もしくはより高次のグリシジルエーテルなどの少なくとも2個のエポキシ官能性を有するグリシジルエーテルであり、トリメチロールエタントリグリシジルエーテルが好ましい。また、これらの反応性希釈剤のうちの2種以上の混合物、好ましくはトリグリシジルエーテルを含有する混合物、特に好ましくは1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDGE)とトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TMPTGE)との、または1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDGE)とトリメチロールエタントリグリシジルエーテル(TMETGE)との混合物を使用してもよい。
【0052】
反応性希釈剤は、好ましくは、樹脂成分(A)の総重量に基づいて、0~60重量%、特に1~20重量%の量で存在する。
【0053】
多成分モルタル化合物の総質量でのエポキシ成分(A)の割合は、好ましくは5~90重量%、特に20~80重量%、30~70重量%、または40~60重量%である。
【0054】
好適なエポキシ樹脂および反応性希釈剤はまた、Michael Dornbusch,Ulrich Christ and Rob Rasing,“Epoxidharze,”Vincentz Network GmbH&Co.KG(2015),ISBN13:9783866308770の標準参照に見出すことができる。これらの化合物は、参照により本明細書に含まれる。
【0055】
さらに、エポキシ樹脂成分(A)は、硬化剤成分について既に記載されているように、従来の添加剤、特に接着促進剤および充填剤を含有し得る。
【0056】
接着促進剤は、エポキシ樹脂成分(A)の総重量に基づいて、最大10重量%、好ましくは0.1~5重量%、特に好ましくは1.0~5.0重量%の量で含有され得る。
【0057】
充填剤の割合は、エポキシ樹脂成分(A)の総重量に基づいて、好ましくは0~75重量%、例えば10~75重量%、好ましくは15~75重量%、より好ましくは20~50重量%、さらにより好ましくは25~40重量%である。
【0058】
多成分エポキシ樹脂化合物へのさらに想定される添加剤はまた、任意選択的に有機的に後処理されたヒュームドシリカ、ベントナイト、アルキル-およびメチルセルロース、およびヒマシ油誘導体などのチキソトロープ剤、フタル酸エステルもしくはセバシン酸エステルなどの可塑剤、安定剤、帯電防止剤、増粘剤、柔軟剤、硬化触媒、レオロジー助剤、湿潤剤、例えば、混合時に制御性を改善するための成分の異なる染色のための染料もしくは顔料などの着色添加剤、ならびに湿潤剤、減感剤、分散剤、ならびに反応速度用の他の制御剤、またはそれらの2種以上の混合物である。
【0059】
多成分エポキシ樹脂化合物は、好ましくは、モルタル化合物のエポキシ樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)とを別個に配置して反応を防止する、2つ以上の別個のチャンバを備える、カートリッジまたはフィルムパウチ内に存在する。
【0060】
意図される使用では、エポキシ樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)とは別個のチャンバから排出され、好適なデバイス、例えば、スタティックミキサまたは溶解器で混合される。次いで、エポキシ樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)との混合物を、既知の注入デバイスの手段によって、事前に清浄した掘削孔に導入する。次いで、留め付ける構成要素をモルタル化合物に挿入し、位置合わせする。硬化剤成分(B)の反応性成分が、重付加によって樹脂成分(A)のエポキシ樹脂と反応することによって、エポキシ樹脂化合物が、所望の期間内、好ましくは数分または数時間以内に環境条件下で硬化する。
【0061】
成分AおよびBは、好ましくは、EEWおよびAHEW値に応じてバランスのとれた化学量論が得られる比率で混合される。
【0062】
AHEW値(アミン水素当量、H当量)は、1モルの反応性Hを含有する硬化剤成分の量を提供する。AHEWは、使用される反応物、および反応物から計算される原材料の既知のH当量からの反応混合物の配合に基づいて、当業者に既知の方法で判定される。
【0063】
メタ-キシリレンジアミン(M
W=136g/モル、官能性=4eq/モル)の例を使用して、AHEWの計算を、例として以下に説明する。
【数1】
【0064】
EEW(エポキシド当量、エポキシド当量値)は、一般に、各場合で使用されるエポキシ樹脂成分の製造業者によって提供されるか、または既知の方法に従って計算される。EEW値は、1モルのエポキシ基を含有するエポキシ樹脂の量をgで提供する。
【0065】
実験では、エポキシ樹脂(既知のEEWを有する)とアミン成分との混合物からガラス転移温度(Tg)を決定することによってAHEWを得た。この場合、エポキシ樹脂/アミン混合物のガラス転移温を、異なる比で決定した。試料を、-20K/分の加熱速度で21℃から-70℃に冷却し、第1の加熱サイクルで250℃(加熱速度10K/分)まで加熱し、次いで、-70℃まで再冷却し(加熱速度-20K/分)、最後のステップで200℃まで加熱した(20K/分)。第2の加熱サイクルで最高のガラス転移温度(「T
g2」)を有する混合物は、エポキシ樹脂とアミンとの最適な比を有する。AHEW値は、既知のEEWおよび最適なエポキシ樹脂/アミン比から計算することができる。
例:EEW=158g/モル
最大T
g2を有するアミン/エポキシ樹脂混合物:4.65gのエポキシ樹脂を含む1gのアミン
【数2】
【0066】
本発明はまた、掘削孔内で建設要素および/またはアンカー固定手段を化学的に留め付けるための方法、建設要素を化学的に留め付けるために使用される上述の多成分エポキシ樹脂化合物に関する。本発明による方法は、コンクリート/コンクリート、鋼/コンクリート、または鋼/鋼、または他の鉱物材料との当該材料のうちの1種の構造的接着、コンクリート、レンガ、および他の鉱物材料で作製された構成要素の構造強化、繊維強化ポリマーを用いる建築物の強化用途、コンクリート、鋼、または他の鉱物材料で作製された表面の化学的留め付け、特に、(強化)コンクリート、レンガ、他の鉱物材料、金属(例えば鋼)、セラミック、プラスチック、ガラス、および木材などの掘削孔内の様々な基材への、建設要素ならびにアンカーロッド、アンカーボルト、(ネジ山付き)ロッド、(ネジ山付き)スリーブ、強化バー、ネジなどのアンカー固定手段の化学的留め付けに特に好適である。本発明による方法は、非常に特に好ましくは、アンカー固定手段の化学的留め付けに使用される。
【0067】
該当する場合、本発明による使用に関する上の記述は、本発明による方法にも等しく適用される。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本発明のさらなる利点は、次の好ましい実施例の記載に見出すことができるが、しかしながら、決して限定するものとして理解されるものではない。本発明のすべての態様は、本発明の範囲内で互いに組み合わせることができる。
【実施例】
【0069】
以下の表1に列挙されている化学物質は、実施例を説明するために使用されている。
【表1】
【0070】
1.温度測定による反応速度の判定
エポキシ樹脂成分(A)
実施例では、それぞれAraldite GY 240およびAraldite GY 282(Huntsman)の名称で市販されているビスフェノールA系およびビスフェノールF系エポキシ樹脂をエポキシ樹脂として使用した。
【0071】
それぞれAraldite DY-026およびAraldite(登録商標)DY-T(Huntsman)の名称で市販されている1,4-ブタンジオール-ジグリシジルエーテルおよびトリメチオルプロパン(methyolpropane)-トリグリシジルエーテルを反応性希釈剤として使用した。
【0072】
以下の表2に指定するように構成したエポキシ樹脂成分(A)を調製した。成分を混合し、80mbarの負圧、3500rpmで10分間、溶解器(PC laboratory system、容量1L)で撹拌した。
【表2】
【0073】
硬化剤成分(B)
Evonik Degussa(ドイツ)からのアミンイソホロンジアミン(IPDA、商品名Vestamin IPD)を硬化剤成分(B)として使用した。硬化剤成分(B)を調製するために、表3に指定された量の塩(S)をIPDAに添加し、可能な限り溶解させた。この混合物を、硬化剤成分として使用した。混合比は、IPDAのAHEW含有量(42.6g/EQ)、加速剤含有量、およびエポキシ樹脂成分のEEW含有量(A)に基づいて計算した。
【0074】
温度測定によって反応速度を決定するために、エポキシ樹脂成分(A)を硬化剤成分と一緒に20mlの丸縁ガラスに注いだ。丸縁ガラスの中央に、温度センサを置いた。温度変化を記録した(デバイス:横河電機社、DAQ station、モデル:DX1006-3-4-2)。この方法で、温度上昇の過程にわたり、モルタルの硬化を追跡することができた。硬化中に加速があった場合、より高い温度に関連して、より短い時間に最高温度へとシフトする。Tmax(達した最高温度)およびtTmax(最高温度に達した後の時間)を測定した。
【0075】
加速剤としての異なる塩(S)の温度測定による反応速度決定の結果を、以下の表3に示す。
【表3】
【0076】
比較のために、従来技術では既知の多数の加速剤について、温度測定による反応速度を実施した。この測定結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0077】
硬化剤成分中のアミンの変動
アミンIPDAを以下の表5に列挙されているアミンに置き換え、各場合で指定された塩(S)と組み合わせることによって、硬化剤成分(B)を変更した。温度測定による反応速度の決定結果を、以下の表5(本発明による)および6(比較例)に示す。
【表5】
【表6】
【0078】
2.モルタル化合物および引き抜き試験
エポキシ樹脂成分(A)
実施例では、それぞれAraldite GY 240およびAraldite GY 282(Huntsman)の名称で市販されているビスフェノールA系およびビスフェノールF系エポキシ樹脂をエポキシ樹脂として使用した。
【0079】
それぞれAraldite DY-026およびAraldite(登録商標)DY-T(Huntsman)の名称で市販されている1,4-ブタンジオール-ジグリシジルエーテルおよびトリメチオルプロパン-トリグリシジルエーテルを反応性希釈剤として使用した。
【0080】
Dynalsylan GLYMO(登録商標)(Evonik Industries)の名称で入手可能な3-グリシジルオキシプロピル-トリメトキシシシラン(trimethoxysysilane)を接着促進剤として使用した。
【0081】
液体成分は、手で事前に混合した。その後、石英(Quarzwerke FrechenからのMillisil(登録商標)W12)を充填剤として添加し、ヒュームドシリカ(Cabot RheinfeldenからのCab-O-Sil(登録商標)TS-720)を増粘剤として添加し、80mbarの負圧、3500rpmで10分間、溶解器(PC laboratory system、容量1L)で混合物を撹拌した。
【0082】
実施例で使用したエポキシ樹脂成分(A)の組成を以下の表7に示す。
【表7】
【0083】
硬化剤成分(B)
出発材料
Evonik Degussa(Germany)からのイソホロンジアミン(IPDA)、MGC(Japan)からの1,3-シクロヘキサンジメタンアミン(1,3-BAC)およびm-キシリレンジアミン(mXDA)、ならびにInvista(the Netherlands)からの2-メチルペンタメチレンジアミン(Dytek A)を、硬化剤成分(B)を調製するためのアミンとして使用した。
【0084】
石英(Quarzwerke FrechenからのMillisil(登録商標)W12)およびアルミン酸カルシウムセメント(Kerneos SAからのSecar80)を充填剤として使用し、ヒュームドシリカ(Cabot RheinfeldenからのCab-O-Sil(登録商標)TS-720)を増粘剤として使用した。
【0085】
硝酸カルシウムの塩およびヨウ化ナトリウムの塩は、グリセロール(1,2,3-プロパントリオール、CAS番号56-81-5、Merck、G)中の溶液として使用した。硝酸カルシウム溶液を調製するために、400.0gの硝酸カルシウム四水和物を100.0gのグリセロールに添加し、完全に溶解するまで(およそ3時間)50℃で撹拌した。この方式で調製した溶液は、80.0%の硝酸カルシウム四水和物を含有した。ヨウ化ナトリウム溶液を調製するために、36.4gのヨウ化ナトリウムを63.6のグリセロールに添加し、完全に溶解するまで50℃で撹拌した。この方式で調製した溶液は、36.4%のヨウ化ナトリウムを含有した。
【0086】
カルシウムトリフラートは、特定の硬化剤のアミン中に固体として溶解させた。
【0087】
硝酸カルシウム/硝酸溶液も塩(S)として使用した。この溶液を調製するために、52.6gの炭酸カルシウムを135.2gの硝酸にゆっくりと添加し、次いで5分間撹拌した。
【0088】
液体成分を混合して、硬化剤成分(B)を調製した。加速剤を添加し、次いで石英粉末およびケイ酸を添加し、80mbarの負圧、2500rpmで10分間、溶解器(PC laboratory system、容量1L)で撹拌した。
【0089】
この方式で調製した硬化剤成分(B)の組成は、以下の表8(本発明による)および9(比較例)に指定する。
【表8】
【表9】
【0090】
モルタル化合物および引き抜き試験
EEWおよびAHEW値に従ってバランスのとれた化学量論を生じる比のエポキシ樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)を、スピードミキサで混合した。混合物を可能な限り気泡をたてずに一液型カートリッジに注ぎ、すぐに引き抜き試験用に作製した掘削孔に注入した。
【0091】
上の実施例によるエポキシ樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)を混合することによって得たモルタル化合物の引き抜き強度は、関連するモルタル化合物をC20/25コンクリートに用い、直径14mm、掘削孔の深さ69mmを有するハンマードリルであけた掘削孔にダボで接合した高強度ネジ山付きアンカーロッドM12を使用して、ETAG 001パート5に従って決定した。掘削孔は、圧縮空気(2×6bar)、ワイヤブラシ(2×)、および再び圧縮空気(2×6bar)の手段によって清浄する。
【0092】
掘削孔は、掘削孔の底部から3分の2まで、各々の場合に試験されるモルタル化合物で満たした。ネジ山付きロッドを手で押し込んだ。スパチュラを使用して、過剰なモルタルを除去した。
【0093】
試験1の硬化時間は、25℃で4時間であった。試験2では、硬化時間は、25℃で24時間であった。
【0094】
破壊荷重は、ネジ山付きアンカーロッドをしっかりと支えて中央から引き抜くことによって決定した。実施例1~4および比較例1~5による硬化剤成分(B)を使用したモルタル化合物で得た荷重値を、以下の表10に示す。
【表10】