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特許7147060ラクトバチルス・カゼイ由来ガラクトース・ムタロターゼ遺伝子のプロモーターを用いた常時的高発現表面発現ベクターおよびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】ラクトバチルス・カゼイ由来ガラクトース・ムタロターゼ遺伝子のプロモーターを用いた常時的高発現表面発現ベクターおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/74 20060101AFI20220927BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220927BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C12N15/74 110Z
C12N1/21 ZNA
C12P21/02 C
A61K39/02
A61P31/00
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021518738
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 KR2019013260
(87)【国際公開番号】W WO2020076078
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】10-2018-0120546
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519220124
【氏名又は名称】バイオリーダース コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】パク ヨン チュル
(72)【発明者】
【氏名】キ デ ウン
(72)【発明者】
【氏名】ナム ギョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン セ ウン
(72)【発明者】
【氏名】ムン ハ ナ
(72)【発明者】
【氏名】カン ヒュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ハム キュン ス
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0099892(US,A1)
【文献】特表2005-500054(JP,A)
【文献】Gerard G. Bouffard et al,Dependence of Lactose Metabolism upon Mutarotase Encoded in the gal Operon in Escherichia coli.,J. Mol. Biol., 1994, Vol.244, pp.269-278,1994年12月02日,Vol.244, No.3,p.269-278,doi: 10.1006/jmbi.1994.1728
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)遺伝子のプロモーターであって、
配列番号1の塩基配列からなる
ことを特徴とするプロモーター。
【請求項2】
請求項1に記載のプロモーターおよび目的タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項3】
請求項2に記載の発現ベクターで形質転換された微生物。
【請求項4】
請求項1に記載のプロモーター、ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体の遺伝子および目的タンパク質をコードする遺伝子が連結されていることを特徴とする微生物表面発現ベクター。
【請求項5】
目的タンパク質は、抗原であることを特徴とする請求項4に記載の微生物表面発現ベクター。
【請求項6】
前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体の遺伝子は、pgsA、pgsBおよびpgsCのうちの少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項4に記載の微生物表面発現ベクター。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか一項に記載の微生物表面発現ベクターで形質転換された微生物。
【請求項8】
微生物は、乳酸菌であることを特徴とする請求項7に記載の微生物。
【請求項9】
前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子は、pgsAであり、配列番号18~21および29~31のうちのいずれか一つの塩基配列からなることを特徴とする請求項4に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項10】
前記遺伝子pgsAは、ポリガンマグルタミン酸を産生するバチルス属菌株に由来したことを特徴とする請求項9に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項11】
前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号22の塩基配列からなることを特徴とする請求項9に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項12】
前記遺伝子pgsAの末端部位にリンカーが挿入されており、前記挿入されたリンカーに目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていることを特徴とする請求項9に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項13】
前記目的タンパク質は、表面発現に有利であるように目的タンパク質のアミノ酸配列のうちの一部分が除去されたり位置特異的に突然変異されたりしたものであることを特徴とする請求項9に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項14】
前記ベクターは、グラム陰性菌またはグラム陽性菌に適用されることを特徴とする請求項9ないし13のいずれか一項に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項15】
請求項9ないし13のいずれか一項に記載の表面発現ベクターで形質転換された微生物。
【請求項16】
形質転換に用いられた微生物は、目的タンパク質の細胞表面発現に有利であるように、発現された目的タンパク質を分解することに関わる細胞内または細胞外のタンパク質分解酵素を産生できないように変形されたものであることを特徴とする請求項15に記載の形質転換された微生物。
【請求項17】
微生物は、乳酸菌であることを特徴とする請求項15に記載の形質転換された微生物。
【請求項18】
請求項7に記載の形質転換された微生物を培養することを特徴とする目的タンパク質を微生物の表面に発現する方法。
【請求項19】
次のステップを含む微生物ワクチンの製造方法:
(a)請求項5に記載の微生物表面発現ベクターで形質転換された微生物を培養して微生物の表面に抗原を表面発現するステップ;及び
(b)前記抗原が表面発現された微生物を回収するステップ。
【請求項20】
微生物は、乳酸菌であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項15に記載の形質転換された微生物を培養して目的タンパク質を細胞の表面に発現するステップおよび目的タンパク質が表面に発現された細胞を回収するステップを含む目的タンパク質の細胞表面発現方法。
【請求項22】
目的タンパク質は、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、シグナル伝達タンパク質もしくはその一部分、抗体もしくはその一部分、一本鎖抗体、結合タンパク質、結合ドメイン、ペプチド、抗原、付着タンパク質、構造タンパク質、調節タンパク質、毒素タンパク質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子および植物生体防御誘導タンパク質よりなる群から選ばれるいずれか一種であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法により製造され、抗原が表面に発現された細胞をヒト以外の脊椎動物に投与して体液性免疫または細胞性免疫を誘導することを特徴とする方法。
【請求項24】
下記のステップを含むことを特徴とするグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞の表面に目的タンパク質を発現する方法:
(a)請求項14に記載の目的タンパク質の表面発現ベクターに目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入して組換えベクターを製造するステップ;
(b)前記組換えベクターでグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞を形質転換するステップ;及び
(c)前記形質転換された宿主細胞を培養して目的タンパク質を宿主細胞の表面に発現するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)遺伝子のプロモーターに係り、さらに詳しくは、配列番号1の塩基配列で示されるラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)遺伝子のプロモーター、前記プロモーターを含有する発現ベクターおよび前記発現ベクターで形質転換された微生物に関する。
【0002】
また、本発明は、バチルス属菌株由来のポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質(pgsA)を用いて外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現する新規なベクターに関するものであり、さらに、本発明は、バチルス属菌株由来のポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を用いて外来タンパク質を微生物の表面に発現するタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
食品微生物の中で最も重要な微生物群である乳酸菌(lactic acid bacteria)は、様々な食品に用いられてきたことに伴い、一般的に安全と認められている(GRAS:generally recognized as safe)微生物であり、プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾンなどを有していて遺伝子の導入のための自体ベクターの開発が可能であり、かつ、当業界において通常的に用いられる方法による形質転換が容易である他、食用選択マーカー遺伝子もまた確保されていることから、食用に用いる上で最も好適な菌株であるといえる。また、乳酸菌は、腸内有害菌の抑制作用および整腸作用、血中コレステロールの減少機能、栄養学的な価値の増進、病原体感染の抑制作用、肝硬変症の改善作用、抗癌作用、老化の抑制作用、大食細胞の活性化を通じた免疫増強作用などの効能を有している。
【0004】
乳酸菌から有用な外来タンパク質を産生するためには、高効率のプロモーター(J.M.van der Vossen et al.,Appl.Environ.Microbial.,Vol.53,pp 2452-2457,1987;Teija Koivula et al.,Appl.Environ.Microbial.,Vol.57,pp 333-340,1991;Pascalle G.G.A.et al.,Appl.Environ.Microbial.,Vol.62,pp 3662-3667,1996)の確保が必要であるものの、現在まで乳酸菌遺伝体に関する研究はほとんど進んでいないのが現状である。乳酸菌の遺伝体は、現在まで、ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC 2705(Bifidobacterium longum NCC 2705)、エンテロコッカス・フェカーリスV583(Enterococcus faecalis V583)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum WFCS1)に対してのみ遺伝体の塩基配列が解読された状態であり、現在のところ、多種多様な乳酸菌の遺伝体の解読の研究が行われており、ちなみに、これまで乳酸菌から分離されたプロモーターとしては、ストレブトコッカス・サーモフィラスA054、ラクトコッカス・ラクティスMG1614、ラクトコッカス・クレモティスWg2のゲノム由来の常時発現プロモーター(Philippe Slos et al.,Appl.Environ.Microbial.,Vol.57,pp 1333-1339,1991;Teija Koivula et al.,Appl.Environ.Microbial.,Vol.57,pp 333-340,1991;J.M.van der Vossen et al.,Appl.Environ.Microbial.,Vol.53,pp 2452-2457,1987)のみが知られている。
【0005】
最近、アメリカおよびヨーロッパにおいて、乳酸菌を用いたライブワクチンの開発、有用なホルモン剤の腸内運搬体に関する研究およびこのための効率よい遺伝子源の確保と乳酸菌用挿入ベクターの開発への取り組みが行われている。特に、乳酸菌に含有されている多量の構成成分である非メチル化された(unmethylated)CpG DNA、リポタイコ酸(lipoteichoic acid)、ペプチドグリカンなどが免疫上昇剤(adjuvant)としての役割を果たすことが知られているので、乳酸菌のワクチン伝達体(vehicle)としての有用性が高く評価されている。また、乳酸菌は、胆汁酸および胃酸に抵抗性を示して腸までの抗原の伝達が可能であるので、腸内粘膜免疫を誘導することができるという点で多くの利点を有している(Jos F.M.K.Seegers,Trends Biotechnol.,Vol.20,pp 508-515,2002)。
【0006】
しかしながら、乳酸菌をワクチン伝達体として用いるためには、疾病予防用抗体の生成のための抗原タンパク質を菌体の内部または外部に提示して抗原抗体反応が円滑に行われるようにする技術の開発が必要であり、実際に、ヒトパピローマウイルス(HPV:Human papilloma virus)のL1タンパク質が内部発現される乳酸菌を用いた抗体誘導能の確認(Karina Araujo Aires et al.,Appl.Environ.Microbiol.Vol.72,pp 745-752,2006)およびIL-2(Interleukin-2)の乳酸菌分泌発現菌株を用いた疾病治療効能の確認(Lothar Steidler et al.,Nat.Biotechnol.Vol.21,pp 785-789,2003)などが発表され、これらの他にも、乳酸菌がワクチン伝達体として用いて好適であることを窮め尽くした様々な研究結果が発表されている。
【0007】
上述したように、目的タンパク質を発現する乳酸菌に対する様々な用途の開発と学問的な研究が盛んに行われているものの、これまでは発現される目的タンパク質の発現量が不十分であるという問題と、誘導的発現プロモーターを用いたときに体内への投与時の持続的な発現が不可能である虞があるという問題などがある。
【0008】
また、細胞表面発現とは、タンパク質やペプチドなどを適切な表面発現母体(anchoring motif)と融合してグラム陰性、陽性菌、カビ、酵母、動物細胞の表面に発現する技術のことをいう(Lee S.Y.,et al.,Trends Biotechnol.,21:4552,2003)。最初の細胞表面発現技術は、1980年代に相対的に表面が単純なファージを用いてペプチドや小さなタンパク質を繊維状ファージ(filamentous phage)のpIIIと融合して発現してこれを表面発現システム(surface-expression system)と名付けたものである。ファージを用いた細胞表面発現は、抗体のスクリーニングや、エピトープ、高親和性リガンドなどのスクリーニングに用いられたが、ファージの表面に発現され得るタンパク質の大きさが相対的に制限されているため、限界を曝け出すことに至った。したがって、その代案として、バクテリアを用いた細胞表面発現が開発された。バクテリアや酵母などの微生物の表面タンパク質を表面発現母体(surface anchoring motif)として用いて外来タンパク質を微生物の表面に安定的に発現する分野である。
【0009】
特定の有機体の外膜タンパク質を用いて外来タンパク質を細胞の表面に発現するためには、適当な表面タンパク質と外来タンパク質を遺伝子のレベルで互いに連結して融合タンパク質が生合成されるようにし、これらが安定的に細胞内膜を通過して細胞の表面に付着されて保たれるようにしなければならない。このためには、次のような性質を有するタンパク質を表面発現の母体として用いることが好ましい:第一に、細胞内膜を通過できる分泌シグナル(secretion signal)をN-末端に有しており、第二に、細胞外膜の表面に安定的に付着され得る標的シグナル(targeting signal)を有していなければならず、第三に、細胞の成長に悪影響を及ぼさない範囲内において細胞の表面に多量に発現されてタンパク質の活性が高く現れることができ、かつ、最後に、タンパク質の大きさとは無関係に安定的に発現されて様々な反応に利用できなければならない(Georgiou et al.,TIBTECH,11:6,1993)。このような表面発現母体は、宿主細胞の表面に外膜タンパク質のN-末端やC-末端、またはタンパク質の中央に挿入されるように遺伝的に操作する必要もある(Lee et al.,TIBTECH,21:45,2003)。
【0010】
細菌の表面にタンパク質が発現されるためには、細胞内において生合成されたタンパク質が細胞膜を通過できる分泌シグナル(secretion signal)がそのタンパク質の一次配列の上になければならない。また、グラム陰性細菌である場合には、細胞内膜と細胞膜空間を通過して細胞外膜に挿入・付着されて膜の外部に突出するように定着されなければならない。細菌の場合、このような分泌シグナルと細胞の表面に定着されるようにする標的シグナル(targeting signal)を有しているタンパク質としては、表面タンパク質、特殊の酵素、毒素タンパク質などが挙げられる。実際に、これらのタンパク質が有する分泌シグナルと標的シグナルなどを適当なプロモーターと併用すれば、細菌の表面にタンパク質を成功的に発現することができる。外来タンパク質の表面発現に用いられた細菌の表面タンパク質は、細胞外膜タンパク質、リポタンパク質(lipoprotein)、分泌タンパク質、細胞表面器官タンパク質など大きく4種類に分けられる。現在まで主としてグラム陰性細菌に存在する表面タンパク質、例えば、LamB、PhoE、OmpAなどを用いて所要の外来タンパク質を細菌の表面に発現しようとする試みが行われた。これらのタンパク質を用いた場合、外来タンパク質を細胞の表面に突出したループ(loop)に挿入するため、構造的に挿入可能なタンパク質の大きさが制限される。また、挿入されるべき外来タンパク質のC-末端とN-末端が立体的に近く位置しなければならないため、その距離が遠い場合には、連結ペプチドで両末端同士を近付けなければならないという問題がある。
【0011】
実際に、LamBやPhoEを用いた場合、50~60個以上のアミノ酸からなる外来ポリペプチドを挿入すれば、構造的な制限をもたらして安定的な膜タンパク質を形成することができなかった[Charbit et al.,J.Immunol.,139:1658-1664(1987);Agterberg et al.,Vaccine,8:85-91(1990)]。OmpAを用いて外来タンパク質を突出されたループに挿入した場合もあるが、構造的な制限を克服するために細胞外膜に定着できるようにする最小限の標的シグナルを含む一部のOmpA断片のみを用いた。このような方法で、β-ラクタマーゼ(β-lactamase)をOmpA標的シグナルC-末端に連結して細胞の表面に発現したケースがある。
【0012】
さらに、最近に知られている表面発現に用いられたグラム陰性細菌の細胞外膜タンパク質であって、シュードモナス(Pseudomonas)属由来の氷核形成タンパク質(Ice-nucleation protein;INP)を用いた表面発現が試みられた[Jung et al.,Nat,Biotechnol,16:576-560(1998),Jung et al.,Enzyme Microb.Technol,22(5):348-354(1998),Lee et al.,Nat.Biotechnol,18:645-648(2000)]。ジョン(Jung)らは、N-末端、中央の繰り返し区間、並びにC-末端から構成された氷核形成タンパク質のC-末端にレバンスクラーゼ(levansucrase)を、かつ、中央の繰り返し区間が削除されたN-末端、およびC-末端から構成された氷核形成タンパク質のC-末端にカルボキシメチルセルラーゼ(carboxymethylcellulase)を融合してそれぞれを表面発現して酵素活性を測定確認した。李(Lee)らは、同様に、N-末端、もしくはN-末端とC-末端から構成された氷核形成タンパク質のそれぞれの末端にB型肝炎ウィルスの表面抗原とC型肝炎ウィルスのコア(core)抗原を大腸菌またはサルモネラ・ティフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)菌株の表面に発現した後、これらが複合生ワクチンとして使用できることを確認した。
【0013】
リポタンパク質もまた、表面タンパク質として表面発現に用いられている。特に、大腸菌のリポタンパク質は、そのN-末端に分泌シグナルを有し、細胞内膜を通過することができ、末端のシステイン(L-cysteine)が共有結合で細胞外膜脂質または細胞内膜脂質と直接的に付着されている。主たるリポタンパク質であるLppは、N-末端は細胞外膜に、C-末端は細胞壁(peptidoglycan;PG)に結合されていて細胞外膜タンパク質OmpA断片と連結される場合に安定的に外来タンパク質を細胞外膜まで分泌して表面発現することができる[Francisco et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,489:2713-2717(1992)]。他のリポタンパク質であるTraTは、リポタンパク質のこのような特性を用いてポリオウィルスのC3エピトープなどのペプチドを表面発現するのに用いられた[Felici et al.,J.Mol.Biol.,222:301-310(1991)]。また、未だ正確な機能は判明されていない細胞壁付着型リポタンパク質(Peptidoglycan-associated lipoprotein;PAL)もまた組換え抗体の表面発現に用いられた[Fuchs et al.,Bio/Technology,9:1369-1372(1991)]。この場合、PALのC-末端は細胞壁に連結され、N-末端は組換え抗体に連結されて融合タンパク質が表面発現された。
【0014】
細胞外膜を通過する分泌タンパク質もまた、表面タンパク質として利用できるが、グラム陰性細菌の場合、分泌タンパク質が発達されておらず、いくつかの分泌タンパク質の場合にのみその特有の分泌機作に関与するタンパク質が存在して細胞外膜の通過を援助している。例えば、クレブシエラ(Klebsiella)属のプルラナーゼ(pullulanase)は、リポタンパク質であって、そのN-末端が脂肪質に置換されて細胞外膜に付着されていて、完全に細胞培養液中に分泌される。コルナカー(Kornacker)らがプルラナーゼのN-末端断片を用いてβ-ラクタマーゼを細胞の表面に発現したが、発現されたプルラナーゼ-β-ラクタマーゼ融合タンパク質はしばらくの間細胞の表面に付着されていて、細胞培養液中に遊離されるという欠点があった。また、これを用いて細胞膜空間(periplasmicspace)タンパク質であるアルカリ・ホスファターゼ(alkaline phosphatase)を発現した場合、これの分泌のためには少なくとも14個以上のタンパク質が関わるため、安定的に表面発現されなかった[Kornacker et al.,Mol.Microl.,4:1101-1109(1990)]。
【0015】
ユニークな分泌体系を有している病原微生物ナイセリア(Neisseria)由来のIgAプロテアーゼは、C-末端に存在する断片にN-末端に存在するプロテアーゼを細胞外膜に定着させるシグナルを有している。一応細胞外膜に達して細胞の表面に突出したプロテアーゼは、自分の加水分解能により細胞培養液に分泌される。クラウザー(Klauser)らは、このIgAプロテアーゼ断片を用いて約12kDaのコレラ毒素B小単位を安定的に細胞の表面に発現した[Klauser et al.,EMBO J.,9:1991-1999(1990)]。しかしながら、分泌過程の最中に細胞膜空間において起きたタンパク質の折り畳み(protein folding)により融合タンパク質の分泌は抑えられた。
【0016】
この他にも、グラム陰性細菌の場合、細胞の表面に存在して表面発現に応用できる細胞器官としては、べん毛(Flagella)、線毛(Pili)および長縁毛(Fimbriae)などが挙げられる。べん毛の構成小単位であるべん毛タンパク質(Flagellin)を用いてコレラ毒素B小単位とB型肝炎ウィルスに由来したペプチドが安定的に発現され、これらはそれに対する抗体と強力に反応した[Newton et al.,Science,244:70-72(1989)]。細胞の表面にまるで糸のような形状をした長縁毛の構成タンパク質であるフィンブリリン(fimbrilin)を用いて外来ペプチドの発現を試みたところ、小さなペプチドの場合にのみ成功的に発現された[Hedegaard et al.,Gene,85:115-124(1989)]。
【0017】
最近、上記のようなグラム陰性細菌の表面タンパク質による表面発現の試みの他に、グラム陽性細菌の表面タンパク質を用いた表面発現が試みられた[Samuelson et al.,J.Bacteriol.,177:1470-1476(1995)]。この場合にも、細胞内膜を通過できる分泌シグナルと細胞膜に付着される表面発現母体を必要とする。実際に、スタフィロコッカス・ヒイカス(Staphylococcus hyicus)由来のリパーゼを分泌シグナルとして用い、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のプロテインAを膜付着母体として用いて80個のアミノ酸からなるマラリア抗原(malaria blood stage antigen)とストレプスコッカスタンパク質G由来のアルブミン付着タンパク質を効果的にグラム陽性細菌の表面に発現したケースがある。
【0018】
上記のグラム陰性および陽性細菌の表面発現に関する研究を通じて、多くの有用なタンパク質発現システムが開発されてアメリカ、ヨーロッパと日本国などにおいて出願されている。中でも、特に、グラム陰性細菌の細胞外膜タンパク質を用いた場合が5件(WO9504069、WO9324636、WO9310214、EP603672、US5356797)報告され、細胞表面器官である線毛(pili)を用いた場合が1件(WO9410330)報告され、かつ、細胞表面リポタンパク質(lipoprotein)を用いた場合も1件(WO9504079)報告された。
【0019】
以上述べたように、細菌の細胞外膜タンパク質を用いて外来タンパク質を細胞の表面に発現するためには、適当な細胞外膜タンパク質と外来タンパク質を遺伝子のレベルで互いに連結して融合タンパク質が生合成されるように誘導し、これらが安定的に細胞内膜を通過して細胞外膜に付着されて保たれるようにしなければならない。しかしながら、上記の条件をいずれも満たす表面発現母体は未だ開発されていないのが現状であり、現在までは上記の場合の欠点を補うレベルに留まっている。
【0020】
一方、本発明者らは、バチルス(Bacillus subtilis var.Chungkookjang)属菌株由来のポリガンマグルタミン酸の合成複合体遺伝子(pgsBCA)を新規な表面発現母体として活用して、外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現する新規なベクターと前記ベクターで形質転換された微生物の表面に目的タンパク質を発現する方法を開発したことがある(大韓民国特許登録第0469800号)。
【0021】
そこで、本発明者らは、前記特許に記載されている表面発現母体を用いて抗原または抗原決定期を乳酸菌において安定的に高発現し得るベクターが開発されれば、抗原が乳酸菌の表面に露出されるので生体との馴染みがよく、効率よく免疫反応を誘導し得るワクチンの製造が可能であると判断し、目的タンパク質を乳酸菌において高発現し得るプロモーターを選別する過程を行った結果、既存より用いられてきたプロモーターに比べて、ガラクトース・ムタロターゼ遺伝子のプロモーターを用いる場合に、遺伝子の発現が向上することを確認し、さらに、バチルス属菌株由来のポリガンマグルタミン酸の合成遺伝子(pgsA)を新規な表面発現母体として活用することについて鋭意検討し且つ研究したところ、pgsA遺伝子を用いて、外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現する新規なベクター、および微生物の表面に外来タンパク質を多量に発現する方法を開発して本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の主たる目的は、目的遺伝子の発現の上昇を誘導するラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来プロモーターを提供するところにある。
【0023】
本発明の他の目的は、前記プロモーターおよび目的タンパク質をコードする遺伝子が連結されていることを特徴とする発現ベクターを提供するところにある。
【0024】
本発明のさらに他の目的は、前記発現ベクターで形質転換された微生物および前記形質転換された微生物を用いた目的タンパク質の製造方法を提供するところにある。
【0025】
本発明のさらに他の目的は、前記形質転換された微生物を用いて微生物ワクチンを製造する方法を提供するところにある。
【0026】
本発明のさらに他の目的は、微生物の表面に外来タンパク質を大量に発現し得る表面発現母体としてバチルス属菌株に由来したポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を選択し、これを用いて、外来タンパク質やペプチドを微生物の表面に発現し得る目的タンパク質の表面発現ベクターを製造し、これにより形質転換された様々な形質転換体において外来タンパク質を効率よく形質転換体の表面に発現する方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
前記目的を達成するために、本発明は、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacilluscasei)由来ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)遺伝子のプロモーターを提供する。
【0028】
本発明において、前記プロモーターは、配列番号1で示されることを特徴としてもよい。
【0029】
本発明は、また、前記プロモーターの末端に目的遺伝子が連結されていることを特徴とする発現ベクターおよび前記発現ベクターで形質転換された微生物を提供する。
【0030】
本発明は、さらに、前記プロモーター、ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体遺伝子および目的タンパク質をコードする遺伝子が連結されている微生物表面発現ベクターおよび前記表面発現ベクターで形質転換された微生物を提供する。
【0031】
本発明において、前記目的タンパク質は、抗原であることを特徴としてもよい。具体的に、目的タンパク質は、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、シグナル伝達タンパク質もしくはその一部分、抗体もしくはその一部分、一本鎖抗体、結合タンパク質、結合ドメイン、ペプチド、抗原、付着タンパク質、構造タンパク質、調節タンパク質、毒素タンパク質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子および植物生体防御誘導タンパク質よりなる群から選ばれるいずれか一種であることを特徴としてもよい。
【0032】
本発明において、前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体遺伝子は、pgsA、pgsBおよびpgsCのうちの少なくともいずれか一種であることを特徴としてもよい。
【0033】
本発明は、また、前記形質転換された微生物を培養することを特徴とする目的タンパク質を微生物の表面に発現する方法を提供する。
【0034】
本発明は、さらに、(a)前記微生物表面発現ベクターで形質転換された微生物を培養して微生物の表面に抗原を表面発現するステップ;及び(b)前記抗原が表面発現された微生物を回収するステップ;を含む微生物ワクチンの製造方法を提供する。
【0035】
前記目的を達成するために、本発明は、ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAと目的タンパク質をコードする遺伝子を含む目的タンパク質の表面発現ベクターを提供する。
【0036】
本発明において、前記遺伝子pgsAは、ポリガンマグルタミン酸を産生するバチルス属菌株に由来したことを特徴としてもよい。
【0037】
本発明において、前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号18~22および29~31のうちのいずれか一つの塩基配列を有することを特徴としてもよい。好ましくは、前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号18~21および29~31のうちのいずれか一つの塩基配列を有することを特徴としてもよい。
【0038】
本発明において、前記遺伝子pgsAの末端部位にリンカーが挿入されており、前記挿入されたリンカーに目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていることを特徴としてもよい。
【0039】
本発明において、前記目的タンパク質は、表面発現に有利であるように目的タンパク質のアミノ酸配列のうちの一部分が除去されたり位置特異的に突然変異されたりしたものであることを特徴としてもよい。
【0040】
本発明は、また、前記表面発現ベクターで形質転換された微生物を提供する。本発明において、形質転換に用いられた微生物は、目的タンパク質の細胞表面発現に有利であるように、発現された目的タンパク質を分解することに関わる細胞内または細胞外のタンパク質分解酵素を産生できないように変形されたものであることを特徴としてもよい。
【0041】
本発明において、前記微生物は、乳酸菌であることを特徴としてもよい。本発明において、前記乳酸菌は、ラクトバチルス属、ストレプスコッカス属およびビフィドバクテリウム属を含んでいてもよい。代表的に、ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.ferementum)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー(L.delbrueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニーLJI(L.johnsonii LJI)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)およびラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus);ストレプスコッカス属は、ストレプスコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus);ビフィドバクテリウム属は、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B.bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B.psuedolongum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.・breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb-12(B.lactis Bb-12)およびビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B.adolescentis)などを宿主として用いることができ、さらに好ましくは、ラクトバチルス属である。
【0042】
本発明は、また、前記形質転換された微生物を培養して目的タンパク質を細胞の表面に発現するステップおよび目的タンパク質が表面に発現された細胞を回収するステップを含む目的タンパク質の細胞表面発現方法を提供する。
【0043】
本発明において、目的タンパク質は、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、シグナル伝達タンパク質もしくはその一部分、抗体もしくはその一部分、一本鎖抗体、結合タンパク質、結合ドメイン、ペプチド、抗原、付着タンパク質、構造タンパク質、調節タンパク質、毒素タンパク質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子および植物生体防御誘導タンパク質よりなる群から選ばれるいずれか一種であることを特徴としてもよい。
【0044】
本発明は、さらに、前記方法により製造され、抗原が表面に発現された細胞をヒト以外の脊椎動物に投与して体液性免疫または細胞性免疫を誘導することを特徴とする方法を提供する。
【0045】
本発明は、さらにまた、前記方法により製造され、抗原が表面に発現された細胞をヒト以外の脊椎動物に投与して免疫反応を誘導し、前記免疫反応により生成された抗体を回収することを特徴とする脊椎動物から抗体を製造する方法を提供する。
【0046】
本発明は、さらにまた、前記ベクターは、グラム陰性菌またはグラム陽性菌に適用されることを特徴とする目的タンパク質の表面発現ベクターを提供する。
【0047】
本発明は、さらにまた、(a)微生物表面発現用ベクターに目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入して組換えベクターを製造するステップ;(b)前記組換えベクターでグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞を形質転換するステップ;及び(c)前記形質転換された宿主細胞を培養して目的タンパク質を宿主細胞の表面に発現するステップ;を含むことを特徴とするグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞の表面に目的タンパク質を発現する方法を提供する。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、目的タンパク質を乳酸菌において高発現し得るラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来のガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)・プロモーターおよび前記プロモーターを用いた発現用ベクターを提供することができるという効果がある。前記ベクターは、目的タンパク質を表面発現する遺伝子を含有しているので、前記ベクターを用いた形質転換体においては目的タンパク質を効果的に菌体の表面に発現することができて乳酸菌をワクチン伝達体として活用することができる。
【0049】
また、本発明に係る目的タンパク質の表面発現ベクターは、目的タンパク質を安定的に発現することができ、本発明に係る表面発現ベクターは、目的タンパク質を常時的に発現しながら、これと同時に、組換え微生物に表面発現して必要とするワクチン製造用抗原の製作などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明のガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)・プロモーターを得る方法を示すものである。
図2】本発明のガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)・プロモーターを用いて構築された表面発現用ベクターの遺伝子地図を示すものである。
図3】本発明の発現ベクターで形質転換した乳酸菌と比較して各プロモーター間の目的タンパク質の発現の度合いを、ウェスタンブロッティングを用いて示すものである。
図4】共焦点蛍光顕微鏡を用いて本発明の発現ベクターにより目的タンパク質が微生物の表面に発現されることを確認したものである。
図5】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター、pKV-Pald-PgsA-EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図6】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA1)、PgsA motif 1-60 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図7】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA2)、PgsA motif 1-70 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図8】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA3)、PgsA motif 1-80 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図9】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA4)、PgsA motif 1-100 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図10】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA5)、pKV-PgsA 1-188 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図11】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA6)、PgsA motif 25-60 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図12】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA7)、PgsA motif 25-70 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図13】本発明によるラクトバチルス・カゼイを宿主とする表面発現ベクター(pKV-Pald-pgsA8)、PgsA motif 25-100 a.a -EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図14】本発明の表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1~pKV-Pald-pgsA8で形質転換したラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPタンパク質の表面発現を示すウェスタンブロッティング写真を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
実施例2:ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターを用いたEGFPタンパク質表面発現ベクター(pKV-Pgm-pgsA-EGFP)の構築
ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターにより発現誘導されるEGFPタンパク質の発現ベクターを製造するために、大腸菌およびラクトバチルス・カゼイから複製可能なRepEを複製原点(replication origin)として有するベクターにラクトバチルス・カゼイ由来のガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターを挿入した後、前記プロモーターのダウンストリームにバチルス(Bacillus subtilis var.Chungkookjang)由来の表面発現母体であるpgsAを導入し、pgsAのカルボキシ末端に目的遺伝子を挿入し得るBamHI、XbaIの制限酵素サイトを追加してガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターを含むpKV-Pgm-pgsAベクターを製造した。前記pgsA遺伝子としては、大韓民国特許登録第0469800号に開示されているものを用いた。
【0052】
EGFP遺伝子は、合成EGFP遺伝子断片を鋳型として用い、かつ、配列番号4と配列番号5をプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った後に得た。
【0053】
配列番号4:
5’-TGGTGGATCCGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’
【0054】
配列番号5:
5’-TGACTCTAGAACTAGTGTCGACGGTACCTTACTTGTACAGCTCGTCC-3’
【0055】
その結果、5’末端にはBamHI制限酵素部位を含んでおり、3’末端にはXbaI制限酵素部位を含んでいるDNA切片を確保した。EGFP遺伝子を含んでいる755bpの確保されたDNA切片をBamHIとXbaIで切断してpKV-Pgm-pgsAベクターのpgsAC末端に連結することにより、乳酸菌宿主に形質転換した場合、EGFPタンパク質を菌体の外部に表面発現できる発現ベクターpKV-Pgm-pgsA-EGFPを完成した(図2)。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明は、ある観点からみて、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)遺伝子のプロモーターに関するものである。
【0057】
本発明においては、ガラクトース・ムタロターゼ遺伝子のプロモーターを得るために、PCR方法を用いてラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)のゲノムから増幅し、遺伝子クローニング技術を用いてラクトバチルス・カゼイ由来700bpのプロモーター(配列番号1)を分離した。本発明のガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターは、ラクトバチルス・カゼイに存在するガラクトース・ムタロターゼ遺伝子の発現を誘導するプロモーターである。一般に、プロモーターは、RNA(リボ核酸)重合酵素が結合して転写の開始を誘導する部分を含み、プロモーターの塩基配列に応じてRNAの合成の度合いが決定されるため、プロモーターに応じて遺伝子の発現強度が異なる可能性がある。
【0058】
本発明のプロモーターによる発現誘導能力を測定するために、前記プロモーターを含む発現ベクターと既存のアルドラーゼ(aldolase)プロモーターを含む発現ベクターにそれぞれEGFP遺伝子を挿入し、前記製作されたベクターを用いてラクトバチルス・カゼイを形質転換した後、各プロモーターにより発現誘導されたEGFPの発現の度合いをウエスタンブロッティングを用いて比較した。その結果、ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)・プロモーターを含むベクターの形質転換体においてEGFPの発現の度合いが効果的に増加したことが確認され、本発明のプロモーターの発現誘導の強度もまた既存のアルドラーゼ・プロモーターに比べて強いということを確認した。
【0059】
本発明は、他の観点からみて、前記ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターと目的タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターおよび前記発現ベクターで形質転換された微生物に関するものである。
【0060】
発現ベクターは、通常、転写を可能にするプロモーター、プロモーターのダウンストリームに目的タンパク質を発現する遺伝子、微生物内において自己複製して増幅できる遺伝子および目的とするベクターを選別するための選択マーカー遺伝子が最小限に必要であり、目的遺伝子を除いた前記遺伝子は、ベクターのバックボーン(backbone)および選択された宿主に応じて異なってくることがある。ベクターの製作に当たって前記最小限に必要な遺伝子は当業者には広く知られており、遺伝子の発現条件および目的に応じて容易に選択することができる。通常、前記ベクターのバックボーンとしては、pWV01、pAMβ1の複製原点を有するものなどを用いることができ、これに限定されたことはない。
【0061】
目的遺伝子だけではなく、さらに調節部位を含む遺伝子の発現を目的とするベクターまたはDNA(デオキシリボ核酸)配列を適切な宿主細胞に挿入するために様々な方法および手段を用いてもよい。例えば、トランスフォーメーション(形質転換)、トランスフェクション(形質移入)、接合(コンジュゲーション)、原形質体融合法およびカルシウム・フォスフェート沈殿法などの生化学的方法や、ジエチルアミノエチル(DEAE:diethylaminoehtyl)デキストラン、またはエレクトロポレーション(electroporation)などの物理的な方法を用いてもよい。
【0062】
発現ベクターを適切な宿主細胞に挿入した後、当業界において知られている通常の技術を用いて形質転換体のみを選別できる抗生物質を含む宿主の生長に適した選択培地を用いて目的遺伝子を発現できるベクターを含有する形質転換体を選別してもよい。
【0063】
本発明は、さらに他の観点からみて、前記ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーター、ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体遺伝子および目的タンパク質をコードする遺伝子が連結されている微生物表面発現ベクターおよび前記表面発現ベクターで形質転換された微生物に関するものである。
【0064】
前記プロモーターのダウンストリームには表面発現母体であるポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体の遺伝子が含まれるが、前記表面発現母体は、ベクターのDNA配列上においてプロモーターと目的遺伝子との間に位置する。前記表面発現母体の遺伝子は、アミノ酸でコードされた後には、目的タンパク質の前半部に連結されて発現されたタンパク質が細胞膜の脂質と結合するように誘導する作用をするため、目的タンパク質が表面発現される上で決定的な役割を果たす。前記表面発現母体の遺伝子をプロモーターおよび目的遺伝子と連結する方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)、制限酵素切断(restriction enzyme digestion)およびライゲーション法(ligation)など当業者により容易に実施できる通常の技術が挙げられる。
【0065】
この明細書において、「宿主」、または「微生物」とは、プロバイオティック(probiotic)のグラム陽性菌である乳酸菌のことをいい、一般的なプロバイオティック微生物の選別基準には、(i)ヒト由来の微生物であること;(ii)胆汁、酸、酵素および酸素に安定的であること;(iii)腸内粘膜に付着する能力があること;(iv)消化器官内においてコロニーを形成できる能力があること;(v)抗バクテリア性物質を産生できること;および(vi)効能や安定性が証明できることなどの条件が含まれている。前記条件を根拠として、乳酸菌は、人体内における成長が親和的であり、しかも、無害な菌であることが明らかである。したがって、乳酸菌を宿主とする形質転換体を人体に適用して疾病の予防または治療のための遺伝子の伝達またはタンパク質の伝達などの用途に用いる場合、菌株を用いる通常のワクチンの製造方法とは異なり、菌株の非毒性化または無毒性化の段階が求められない。
【0066】
本発明において、前記微生物は、ラクトバチルス属、ストレプスコッカス属およびビフィドバクテリウム属を含んでいてもよい。代表的に、ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.ferementum)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー(L.delbrueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニーLJI(L.johnsonii LJI)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)およびラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus);ストレプスコッカス属は、ストレプスコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus);ビフィドバクテリウム属は、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B.bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B.psuedolongum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb-12(B.lactis Bb-12)およびビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B.adolescentis)などを宿主として用いることができ、さらに好ましくは、ラクトバチルス属である。
【0067】
本発明においては、前記プロモーターと表面発現母体であるpgsAとが連結された塩基配列を含み、目的遺伝子としてEGFP遺伝子を発現できる発現ベクター(pKV-Pgm-pgsA-EGFP)を製作し、前記発現ベクターをラクトバチルス・カゼイに挿入してEGFPを発現する形質転換体を製造した。
【0068】
本発明の向上した遺伝子発現能力を有するプロモーターによって発現される目的タンパク質は、菌体の表面に発現され、したがって、本発明の形質転換された微生物は、ワクチン(vaccine)として用いることができる。
【0069】
本発明は、さらに他の観点からみて、前記表面発現ベクターで形質転換された乳酸菌を用いることを特徴とする微生物ワクチンの製造方法に関するものである。
【0070】
ワクチンは、疾病に対する予防の目的で生有機物を用いて免疫システムを刺激するのに用いられる薬剤である。免疫活性化とは、有機体内において抗体の生成、T-リンパ球の刺激、または他の免疫細胞(例えば、大食細胞)を刺激して抗原を効率よく除去するための過程のことをいう。上記に関する詳しい免疫学の概観は、当業界における通常の技術を有する者にとって容易に理解される(Barrett,J.T.,Textbook of Immunology,1983)。
【0071】
抗原としての目的タンパク質を発現する形質転換された微生物ワクチンの投与の対象は哺乳動物であってもよく、さらに好ましくは、ヒトであってもよい。
【0072】
前記ワクチン組成物の製法は、標準技法を用いたものであってもよく、投与者に適した投与量は、遺伝子生成物の抗原性に応じて変わり、存在するワクチンの典型的な免疫反応を誘導するのに十分な量であればよく、日常的な実験過程を経て必要量を容易に判断することができる。典型的な初期のワクチンの容量は、体重1kg当たりに抗原0.001~1mgであり、好適なレベルの保護を提供するために、必要に応じて、量を増やしたり多重容量を用いたりする。上記の量は、当該技術分野に属する専門家により決定可能であり、製剤化方法、投与方式、投与者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性などの要因によっても様々に処方可能である。
【0073】
ワクチンが抗体を生成するに当たって効果的であるためには、抗原性物質がワクチン処理の施された対象の抗体生成機序が実現できるように体内に取り込まれなければならない。したがって、免疫反応のためには、遺伝子産物の微生物運搬体が体内に先に取り込まれなければならない。本発明の形質転換体において提示される抗原による好適な反応を刺激するためには、静脈注射、筋肉注射、皮下注射などの投与方法が採用可能であるが、経口投与、胃挿入により、または噴霧剤の形態で腸または肺に直接的に投与することが好ましい。
【0074】
ワクチン組成物を投与者に経口投与するためには、親液性の形態、例えば、カプセルの形態で提供されることが有用である。前記カプセルは、Eudragate S(登録商標)、Eudragate L(登録商標)、セルロースアセテート、セルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶被覆として提供される。前記カプセル類は、それ自体で用いてもよく、投与する前に懸濁液のように親液性物質を再組成して用いてもよい。再組成は、形質転換された微生物の生存に適したpHの緩衝液において行うことが効果的である。胃酸から前記形質転換された微生物およびワクチンを保護するために、毎回、ワクチンの投与前に重炭酸ナトリウム製剤を投与することが有用である場合がある。選択的に、ワクチンは、非経口投与、鼻内投与または乳腺内投与用に製造されてもよい。
【0075】
本発明のプロモーターを含み、抗原として作用できる目的タンパク質を発現する遺伝子を含有している形質転換された乳酸菌は、消化器官内の粘膜においてコロニーを形成しながら目的とする効能が得られるようにし、上記の乳酸菌が目的とする形質転換性質を保ち、円滑なコロニーの形成のためにベクター内の選択抗生物質を同時に投与してもよく、上記の手段をもって、形質転換体が分裂する過程にいて派生され得るベクターを有さない目的としない乳酸菌の発生を制御することができる。上記の選別方法は、当業界における通常の技術により容易に行われることができ、前記過程において使用できる選択抗生物質は、発現ベクター内に含まれている抗生物質遺伝子に応じて異なってくることがある。
【0076】
また、下記の実施例5において製造された表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を用いて乳酸菌宿主においてさらに安定的に高い発現率を示せるように、PgsAの遺伝子を断片とする改良を行った。
【0077】
まず、PgsA断片のうち、1-60 a.a、1-70 a.a、1-80 a.a、1-100 a.a、1-188 a.aを含むPgsA断片を確保するために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型として用い、かつ、配列番号8~17のプライマーを用いてPCRを行って得た。
【0078】
その結果、アルドラーゼ・プロモーターを含み、それぞれのPgsA motif断片を含むDNA切片を確保した。なお、前記切片の5’末端にはSphI制限酵素が含まれており、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。確保されたDNA切片にSphIとBamHIを処理して切片を確保した。なお、それぞれのPgsA1~A5 motif断片が配列番号18~22の塩基配列を有することを確認した。
【0079】
一方、PgsA断片のうち、25-60 a.a、25-70 a.a、25-100 a.aを含むPgsA断片を確保するために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型として用い、かつ、配列番号23~28のプライマーを用いてPCRを行って得た。
【0080】
その結果、それぞれのPgsA motif断片を含むDNA切片を確保した。なお、前記切片の5’末端にはEcoRV制限酵素が含まれており、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。確保されたDNA切片にEcoRVとBamHIを処理して切片を確保した。なお、それぞれのPgsA motif断片が配列番号29~31の塩基配列を有することを確認した。
【0081】
本発明は、微生物の表面に外来タンパク質を大量に発現できる新規な表面発現母体としてバチルス属菌株に由来したポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を選択し、これを用いて外来タンパク質やペプチドを微生物の表面に発現できる表面発現ベクターを製造し、これにより形質転換された様々な形質転換体において外来タンパク質を効率よく形質転換体の表面に発現する方法を提供することを目的とする。
【0082】
前記目的を達成するために、本発明は、ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をなす遺伝子pgsAを含む微生物表面発現ベクターおよび前記ベクターにより形質転換された菌株を提供する。
【0083】
本発明は、また、前記目的を達成するために、前記微生物表面発現ベクターを用いて外来タンパク質を形質転換菌株の表面に発現する方法を提供する。
【0084】
遺伝子pgsAがコードするタンパク質は、バチルス属に存在する細胞外膜タンパク質であって、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis IFO3336;納豆菌;Biochem.Biophy.Research Comm.,263,6-12,1999)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis ATCC9945;Biotech.Bioeng.57(4),430-437,1998)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis;J.Bacteriology,171,722-730,1989)などから産生される食用、水溶性、陰イオン性、生分解性高分子物質であるポリガンマグルタミン酸の合成に関与するタンパク質である。
【0085】
納豆菌(Bacillus subtilis IFO3336)の場合、細菌から分離された細胞外膜タンパク質は、合計で922個のアミノ酸からなるタンパク質であって、pgsB、pgsCおよびpgsAからなっており、pgsBは393アミノ酸から、pgsCは149アミノ酸から、そしてpgsAは380アミノ酸から構成されている。アシウチ(Ashiuchi)らは、バチルス納豆菌由来のポリガンマグルタミン酸の合成遺伝子をクローニングし、大腸菌に形質転換して大腸菌におけるポリガンマグルタミン酸の合成を観察したことがある[Ashiuchi et al.,Biochem.Biophy.Res.Communications,263:6-12(1999)]。
【0086】
しかしながら、前記ポリガンマグルタミン酸合成酵素複合体をなすタンパク質pgsAの具体的な役割および機能については未だ判明されていない。但し、複合体構成タンパク質のうち、pgsBは、アミドリガーゼ系であって、pgsBのN-末端の特異アミノ酸が細胞膜もしくは細胞壁と相互作用をし、pgsAの場合、N-末端とC-末端に親水性の特異アミノ酸配列を有していて、pgsBの援助とともにこれらのアミノ酸配列が細胞内膜を通過できる分泌シグナルと標的および付着シグナルを有していると推察される。
【0087】
本発明者らの研究の結果、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質は、そのアミノ酸一次配列の構造と特性からみて、外来タンパク質を細胞の表面に発現する表面発現母体として多くの利点を有していることが判明された:第一に、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質は、ポリガンマグルタミン酸の合成および細胞外への分泌のために細胞の表面に多量に発現でき、第二に、発現されたポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質は、細胞周期からみて、休止期においても安定的に保たれ、第三に、構造的に、特に、pgsAの場合、細胞の表面に突出されており、第四には、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質はその起源がグラム陽性細菌の表面であって、様々なグラム陽性細菌だけではなく、グラム陰性細菌の表面において安定的に発現できるなどの利点がある。
【0088】
本発明は、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の特性を用いて外来タンパク質を細菌の表面に発現できる有用なベクターを提供するところにその目的がある。特に、本発明の目的タンパク質の表面発現ベクターは、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の一次配列の上に有している分泌シグナルと標的シグナルを含む。
【0089】
また、本発明は、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の特性を用いた表面発現ベクターを用いて外来タンパク質を微生物の表面に発現する方法を提供するところにその目的がある。特に、本発明は、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を用いて外来タンパク質を微生物の表面に発現することにより、細胞の破砕またはタンパク質の分離精製過程を経ずとも効率よく外来タンパク質を利用できる外来タンパク質の製造方法を提供する。
【0090】
さらに、本発明において、前記「目的タンパク質」または「外来タンパク質」とは、前記タンパク質を発現する形質転換された宿主細胞においては正常的に存在し得ないタンパク質のことをいう。例えば、乳酸菌においてウィルス由来または腫瘍由来タンパク質を人為的に発現するように操作した場合、前記タンパク質を外来タンパク質または目的タンパク質と名付ける。
【0091】
より具体的に、前記目的タンパク質は、好ましくは、感染性微生物、免疫疾患由来抗原または腫瘍由来の抗原、例えば、真菌性病原体、バクテリア、寄生虫、腸内寄生虫(helminth)、ウィルスまたはアレルギー誘発物質などを含んでいてもよく、これらに何ら限定されない。さらに詳しくは、前記抗原は、破傷風トキソイド(tetanus toxoid)、インフルエンザウィルスの赤血球凝集素(hemagglutinin)または核タンパク質、ジフテリアトキソイド(diphtheria toxoid)、HIVのgp120またはその断片、HIVのgagタンパク質、IgAプロテアーゼ(protease)、インスリンペプチドB、ばれいしょ粉状そうか病菌(Spongospora subterranea)抗原、ビブリオース(Vibriose)抗原、サルモネラ(Salmonella)抗原、ニューモコッカス抗原(Pmeumococcus)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory syncytial virus)抗原、インフルエンザ菌(Hemophilus influenza)外膜タンパク質、ストレプスコッカス・ニューモニエ(肺炎レンサ球菌)(Streptococcus pneumoniae)抗原、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のウレアーゼ(urease)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のピリン(pilin)、淋菌(N.gonorrhoeae)のピリン(pilin)、黒色腫関連抗原(melanoma associated antigens:TRP2、MAGE-1、MAGE-3、gp100、チロシナーゼ、MART-1、HSP-70、beta-HCG)、HPV-16、-18、-31、--35、または-45に由来するE1、E2、E6およびE7を含むヒトパピローマウイルス(Human papillomma virus)の抗原、CEA腫瘍抗原、正常または変異型rasタンパク質、正常または変異型p53、Muc1、pSAなどを含み、かつ、コレラ、ジフテリア、ヘモフィルス(Haemophilus)、A型肝炎、B型肝炎、インフルエンザ、麻疹、脳炎、おたふく風邪、百日咳、天然痘、肺炎球菌性肺炎(pneumococcal pneumonia)、ポリオ、狂犬病、風疹(rubella)、破傷風、結核、アジソン病(Addison’s disease)、免疫反応誘発物質(immunogen)、アレルギー誘発物質(allergen)、固形腫瘍および血液担持腫瘍を含む癌、後天性免疫不全症候群、腎臓移植、心臓移植、膵臓移植、肺移植、骨移植、および肝臓移植などの移植拒絶反応のときに関与する因子などに由来する当業界において知られている抗原および自己免疫を誘発する抗原などを含んでいてもよい。
【0092】
したがって、本発明の表面発現方法により産生された外来タンパク質を様々な用途に供することができる。この用途には、抗体および酵素の効果的な産生があり、これらの他にも、抗原、付着または吸着タンパク質および新規な生理活性物質をスクリーニングするためのペプチドライブラリーの産生などが含まれる。
【0093】
バチルス属菌株に由来したポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質をはじめとするあらゆる種類のポリガンマグルタミン酸の合成に関与する遺伝子を用いた表面発現ベクターは、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0094】
また、本発明のポリガンマグルタミン酸の合成遺伝子を用いた表面発現ベクターは、外来タンパク質を微生物の表面に発現するためにあらゆる菌株に適用することができ、好ましくは、グラム陰性細菌、さらに好ましくは、大腸菌、サルモネラ・ティフィ、サルモネラ・ティフィムリウム、ビブリオ・コレラ(コレラ菌)、マイコバクテリウム・ボビス(ウシ型結核菌)、赤痢菌、およびグラム陽性細菌、好ましくは、バチルス、ラクトバチルス、ラクトコッカス、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)、リステリア・モノサイトゲネス、ストレプトコッカス(レンサ球菌)菌株などに適用することができる。前記菌株を用いたあらゆる外来タンパク質の製造方法は、本発明の範囲に含まれる。
【0095】
必要に応じて、ポリガンマグルタミン酸の合成遺伝子のN-末端もしくはC-末端に全部または一部の制限酵素の様々な認識部位を挿入してもよく、これらの制限酵素部位が挿入された表面発現ベクターは、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0096】
具体的に、本発明は、バチルス属菌株に由来したポリガンマグルタミン酸合成遺伝子であるpgsAを含み、pgsAのC-末端に制限酵素認識部位を挿入して様々な外来タンパク質遺伝子を手軽にクローニングできる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1~pKV-Pald-pgsA8を提供する。
【0097】
本発明は、ポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の複合体のうち、細胞外膜タンパク質の複合体であるpgsAから構成されてpgsAのC-末端にEGFPタンパク質のN-末端を連結して、EGFPタンパク質を融合タンパク質の形態でグラム陽性菌の表面に発現し得る表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1~pKV-Pald-pgsA8を提供する。
【0098】
特に、一実施形態によれば、バチルス・サブチルス・チョンクッジャン(Bacillus subtilis var.chungkookjang,KCTC0697BP)からポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の遺伝子pgsAを取得したが、遺伝子は、ポリガンマグルタミン酸を産生するあらゆるバチルス属菌株からpgsAを取得してベクターを製造したり、外来タンパク質を表面発現したりすることも本発明の範囲に含まれる筈である。例えば、バチルス・サブチルス・チョンクッジャンに存在するpgsA遺伝子の塩基配列と80%以上の相同性を有する他の菌株由来のpgsA遺伝子を用いてベクターを製造したり、外来タンパク質を表面発現したりすることも本発明の範囲に含まれる筈である。
【0099】
本発明の別の実施形態によれば、タンパク質が効率よく大腸菌細胞の表面に発現されるかどうかを調べるために強化緑色蛍光タンパク質(enhanced Green fluorescent protein;EGFP)をモデルタンパク質として選択して確認した。「EGFP(enhanced Green fluorescent protein;強化緑色蛍光タンパク質)遺伝子」は、生体内において緑色の光を発光して当該タンパク質を発現する細胞を容易に観察できるようにする遺伝子であって、蛍光顕微鏡で観察が可能であるという利点がある。GFPは、クラゲ(jellyfish:Aequorea Victoria)から起源する緑色蛍光タンパク質であって、色々な研究分野において遺伝子発現の重要なマーカーとして用いられている。EGFPは、GFPの突然変異体であって、そもそもGFPの64番目のフェニルアラニン(Phenylalanine)アミノ酸配列をロイシン(Leucine)に、かつ、65番目に位置しているセリン(Serine)アミノ酸配列はトレオニン(Threonine)に置き換えることにより、本来のGFPよりもさらに強い蛍光シグナルを発光するという利点がある。
【0100】
本発明者らは、前記製作されたpKV-Pald-pgsA1~pKV-Pald-pgsA8組換えベクターにEGFP遺伝子を挿入して表面発現ベクターを製作し、これを用いてラクトバチルス・カゼイを形質転換した後、培養して発現を誘導し、培養液を一定量採取してタンパク質を得た。得た前記タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いて分析し、抗EGFP抗体を用いてウェスタンブロッティング(western blotting)を行った結果、前記製作されたpKV-Pald-pgsA1~pKV-Pald-pgsA8組換えベクターにタンパク質EGFPが成功的に挿入されて細胞の表面に発現されたことを確認した。
【0101】
また、前記実施形態においては、EGFPタンパク質を外来タンパク質として用いたが、その他の酵素、抗原、抗体、付着タンパク質または吸着タンパク質などいかなるタンパク質もまた外来タンパク質になり得るということはいうまでもない。
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものと解釈されないということは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0103】
特に、下記の実施例においては、表面発現ベクターを製作するためのモティフとしてpgsA遺伝子を用いたが、この他にも、pgsB、pgsCまたはこれらの組み合わせを用いた場合にも同様の結果が得られるということはこの出願人の先行特許(WO2003/014360)から確認されたように、当業者にとって自明であるといえる。
【0104】
また、下記の実施例においては、グラム陽性菌に適用される表面発現ベクターを製造し、宿主細胞としてラクトバチルス・カゼイを用いたが、ラクトバチルス・カゼイ以外のいかなるグラム陽性菌もまた宿主細胞として活用することができ、グラム陽性菌の他にいかなるグラム陰性菌およびその他の細菌で形質転換することもまた当業者にとって自明であるといえる。
【0105】
実施例1:ラクトバチルス・カゼイ由来ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターの確保
ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)のゲノムからガラクトース・ムタロターゼ遺伝子のプロモーター部位に相当する700bpのDNA断片をPCR方法を用いて確保した。
【0106】
ラクトバチルス・カゼイは、基本培地であるMRS培地(1%カゼイン加水分解物、1.5%酵母エキス、2%デキストロース、0.2%クエン酸アンモニウム、0.5%酢酸ナトリウム、0.01%硫酸マグネシウム、0.05%硫酸マンガンおよび0.2%リン酸二カリウム、アキュメディア・マニュファクチャラース社製)において培養し、培養されたラクトバチルス1x109個の菌体を破砕して得られた溶液をPCRの鋳型として用いた。
【0107】
遺伝子のクローニングの際にベクター内への挿入が容易になるようにSphIとXhoIの切断部位がプライマー(配列番号2および配列番号3)の各末端に位置するように製作し、上記のプライマーを用いてPCRを行った結果、総長さが700bp(配列番号1)の増幅産物を確保し、PCR増幅産物は、pGEM-Teasy vector(米プロメガ社製)にクローニングして塩基配列を分析した(図1)。
【0108】
配列番号2:
5’-TACGGCATGCTTGAATTGGTTTCTTACGAT-3’
【0109】
配列番号3:
5’-TACGCTCGAGGTTGAATTACCTCCTAATAG-3’
【0110】
実施例2:ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターを用いたEGFPタンパク質表面発現ベクター(pKV-Pgm-pgsA-EGFP)の構築
ガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターにより発現誘導されるEGFPタンパク質の発現ベクターを製造するために、大腸菌およびラクトバチルス・カゼイから複製可能なRepEを複製原点(replication origin)として有するベクターにラクトバチルス・カゼイ由来のガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターを挿入した後、前記プロモーターのダウンストリームにバチルス(Bacillus subtilis var.Chungkookjang)由来の表面発現母体であるpgsAを導入し、pgsAのカルボキシ末端に目的遺伝子を挿入し得るBamHI、XbaIの制限酵素サイトを追加してガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターを含むpKV-Pgm-pgsAベクターを製造した。前記pgsA遺伝子としては、大韓民国特許登録第0469800号に開示されているものを用いた。
【0111】
EGFP遺伝子は、合成EGFP遺伝子断片を鋳型として用い、かつ、配列番号4と配列番号5をプライマーとして用いてPCRを行った後に得た。
【0112】
配列番号4:
5’-TGGTGGATCCGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’
【0113】
配列番号5:
5’-TGACTCTAGAACTAGTGTCGACGGTACCTTACTTGTACAGCTCGTCC-3’
【0114】
その結果、5’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれており、3’末端にはXbaI制限酵素部位が含まれているDNA切片を確保した。EGFP遺伝子を含んでいる755bpの確保されたDNA切片をBamHIとXbaIで切断してpKV-Pgm-pgsAベクターのpgsAC末端に連結することにより、乳酸菌宿主に形質転換した場合、EGFPタンパク質を菌体の外部に表面発現し得る発現ベクターpKV-Pgm-pgsA-EGFPを完成した(図2)。
【0115】
実施例3:ウェスタンブロッティングを用いた目的タンパク質の発現有無および発現誘導強度の確認
この実施例においては、実施例2において製作されたpKV-Pgm-pgsA-EGFP発現ベクターでラクトバチルス・カゼイを形質転換し、前記形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイを培養してEGFPタンパク質の発現を確認した。
【0116】
新規なガラクトース・ムタロターゼ・プロモーターの発現誘導の強度を既存のアルドラーゼ・プロモーターと比較して新規なプロモーターの発現誘導力を確認するために各プロモーターにはレポーター遺伝子としてEGFP遺伝子を連結して発現ベクターを構築し、ラクトバチルス・カゼイにそれぞれ形質転換した。そして、EGFPの発現量をウェスタンブロッティングを用いて比較した。
【0117】
まず、本発明の表面発現ベクターで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイをMRS培地(Lactobacillus MRS,米国ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー(BD)社製)、30℃において静置培養してEGFPタンパク質の表面発現を誘導した。
【0118】
前記培養されたラクトバチルス・カゼイの全細胞に対して、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびEGFPに対する特異抗体を用いたウェスタンブロッティングを行って前記融合タンパク質の発現を確認した。
【0119】
具体的に、発現が誘導された形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイの全細胞を同じ細胞濃度で得たタンパク質で変性(denature)させて試料を用意し、これをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析した後、分画されたタンパク質を二フッ化ポリビニリデン(PVDF:polyvinylidene-difluoride membranes,Bio-Rad社製)メンブレンに移した。タンパク質の移されたPVDFメンブレンをブロッキング緩衝液(50mM Tris-HCl,5%脱脂乳(skim milk),pH 8.0)において1時間ブロッキングした後、EGFPに対する各ウサギ由来のポリクローン1次抗体をブロッキング緩衝溶液に1000倍希釈して1時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液で洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP:Horseradish Peroxidase)が接合されたウサギ由来抗体に対する2次抗体をブロッキング緩衝溶液に10000倍希釈して1時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液で洗浄し、洗浄されたメンブレンに基質(Lumigen PS-3 acridan,H22)を添加して約2分間発色させ、CCD(電荷結合素子)カメラでEGFPに対する特異抗体と前記融合タンパク質との間の特異的な結合を確認した。
【0120】
図3は、本発明の細胞表面発現ベクターで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイの全細胞においてEGFPタンパク質の発現量を確認するためにウェスタンブロッティングを行った結果を示すものである。それぞれ、レーンSMは、タンパク質サイズマーカー、レーン1は、ラクトバチルス・カゼイ(空きベクター)、レーン2及び3は、ラクトバチルス・カゼイ(pKV-Pgm-pgsA-EGFP)、レーン4は、ラクトバチルス・カゼイ(pKV-Pald-pgsA-EGFP)の発現を示す。
【0121】
目的タンパク質の発現ベクターpKV-Pald-pgsA-EGFP(レーン4)と比べて、本発明のpKV-Pgm-pgsA-EGFP(レーン2および3)発現ベクターにおいて目的タンパク質の発現が確認されただけではなく、さらに優れた発現量を示すことを確認した。これは、本発明のガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)・プロモーターが発現ベクター内において目的タンパク質を安定的に発現し、アルドラーゼ(Aldoalse)・プロモーターと比べてさらに強く発現することができるということを示唆する(図3)。
【0122】
実施例4:共焦点蛍光顕微鏡を用いた両目的タンパク質の微生物表面発現の確認
本発明の表面発現ベクターの発現の度合いを確認するために蛍光イメージを共焦点顕微鏡(Confocal microscopy,Carl Zeiss LSM800)を用いて観察した。
【0123】
本発明の表面発現ベクター(pKV-Pgm-pgsA-EGFP)で形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイをMRS培地(Lactobacillus MRS,米国ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー(BD)社製)、30℃において静置培養してEGFPタンパク質の表面発現を誘導した。そして、EGFPの特異抗体で結合した後、Alexa488(green)で免疫染色して共焦点顕微鏡でEGFPの細胞表面発現を確認した。
【0124】
その結果、図4に示すように、本発明の発現ベクターで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおいて安定的に蛍光が発現されることを確認することができた。
【0125】
したがって、本発明の発現ベクターは、乳酸菌への形質転換を通じて、通常のワクチンの製造方法とは異なり、菌株の非毒性化または無毒性化の段階が求められず、目的タンパク質をさらに強く発現するので、微生物ワクチンの製造に活用できることが期待される。
【0126】
実施例5:表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA-EGFPの製造
前記EGFP発現ベクターを製造するために、pKV-Pald-PgsA-E7(大韓民国登録特許第10-1471043号参照)から製造された表面発現ベクターを用いて、PgsAのC-末端にEGFPタンパク質をコードする遺伝子を挿入して乳酸菌において表面発現できるベクターpKV-Pald-PgsA-EGFPを確保した。
【0127】
まず、pKV-Pald-PgsA-E7ベクターからpgsAと融合されたHPV16 E7遺伝子を除去し、EGFPをコードする遺伝子を挿入した。合成EGFP遺伝子断片を鋳型として用い、かつ、配列番号6と配列番号7をプライマーとして用いてPCRを行って得た。
【0128】
配列番号6:
5’-TGGTGGATCCGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’
【0129】
配列番号7:
5’-TGACTCTAGAACTAGTGTCGACGGTACCTTACTTGTACAGCTCGTCC-3’
【0130】
その結果、EGFP遺伝子を含んでいる755bpの切片を確保した。なお、前記切片の5’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれており、前記切片の3’末端にはXbaI制限酵素部位が含まれている。確保されたDNA切片にBamHIとXbaI制限酵素を処理して切断して741bp切片を確保した。
【0131】
pKV-Pald-PgsA-E7をBamHIとXbaIで切断してHPV16 E7遺伝子部分を除去し、ベクター部分を確保した。
【0132】
BamHIとXbaIで切断したE7遺伝子を含有しているDNA断片を同じ制限酵素で切断したベクターと連結してpKV-Pald-PgsA-EGFPを完成した(図5)。
【0133】
実施例6:表面発現ベクターPgsA motifの改良
この実施例においては、実施例5において製造された表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を用いて乳酸菌宿主においてさらに安定的に高い発現率を示し得るようにPgsAの遺伝子を断片とする改良を行った。
【0134】
まず、PgsA断片のうち、1-60 a.a、1-70 a.a、1-80 a.a、1-100 a.a、1-188 a.aを含むPgsA断片を確保するために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型として用い、かつ、以下のプライマーを用いてPCRを行って得た。
【0135】
PgsA motif 1-60 a.a
【0136】
配列番号8:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
【0137】
配列番号9:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGAGAGTACGTCGTCAGAATACGTT-3’
【0138】
PgsA motif 1-70 a.a
【0139】
配列番号10:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
【0140】
配列番号11:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTCCCATCATAATATCGCCTACAAAT-3’
【0141】
PgsA motif 1-80 a.a
【0142】
配列番号12:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
【0143】
配列番号13:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTTTTTGCTCCGTTACTTTTTCAACA-3’
【0144】
PgsA motif 1-100 a.a
【0145】
配列番号14:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
【0146】
配列番号15:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGCTACATAATCCGAGGCTCTAAAG-3’
【0147】
PgsA motif 1-188 a.a
【0148】
配列番号16:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
【0149】
配列番号17:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCGACTTTCTGGTACGAAATTTTCTTT-3’
【0150】
その結果、アルドラーゼ・プロモーターを含み、それぞれのPgsA motif断片を含むDNA切片を確保した。なお、前記切片の5’末端にはSphI制限酵素が含まれており、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。確保されたDNA切片にSphIとBamHIを処理して切片を確保した。また、それぞれのPgsA1~A5 motif断片が以下のような塩基配列を有することを確認した。
【0151】
PgsA1-60 a.a断片配列(PgsA1)
【0152】
配列番号18:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCA-3’
【0153】
PgsA1-70 a.a断片配列(PgsA2)
【0154】
配列番号19:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGA-3’
【0155】
PgsA1-80 a.a断片配列(PgsA3)
【0156】
配列番号20:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAA-3’
【0157】
PgsA1-100 a.a断片配列(PgsA4)
【0158】
配列番号21:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCA-3’
【0159】
PgsA1-188 a.a断片配列(PgsA5)
【0160】
配列番号22:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCAGGAAACTTTGAAAACCCGGTAACCTATCAAAAGAATTATAAACAAGCAGATAAAGAGATTCATCTGCAGACGAATAAGGAATCAGTGAAAGTCTTGAAGGATATGAATTTCACGGTTCTCAACAGCGCCAACAACCACGCAATGGATTACGGCGTTCAGGGCATGAAAGATACGCTTGGAGAATTTGCGAAGCAAAACCTTGATATCGTTGGAGCGGGATACAGCTTAAGTGATGCGAAAAAGAAAATTTCGTACCAGAAAGTC-3’
【0161】
前記pKV-Pald-PgsA-EGFPをSphIとBamHIで切断してアルドラーゼ・プロモーターとPgsA遺伝子部分を除去したベクター部分を確保した。
【0162】
SphIとBamHIで切断したアルドラーゼ・プロモーターを含み、それぞれのPgsA motif断片遺伝子を含有しているDNA断片を同じ制限酵素で切断したベクターと連結して改良されたベクターを完成した(図6から図10)。
【0163】
一方、PgsA断片のうち、25-60 a.a、25-70 a.a、25-100 a.aを含むPgsA断片を確保するために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型として用い、かつ、以下のプライマーを用いてPCRを行って得た。
【0164】
PgsA motif 25-60 a.a
【0165】
配列番号23:
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
【0166】
配列番号24:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGAGAGTACGTCGTCAGAATACGTT-3’
【0167】
PgsA motif 25-70 a.a
【0168】
配列番号25:
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
【0169】
配列番号26:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTCCCATCATAATATCGCCTACAAAT-3’
【0170】
PgsA motif 25-100 a.a
【0171】
配列番号27:
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
【0172】
配列番号28:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGCTACATAATCCGAGGCTCTAAAG-3’
【0173】
その結果、それぞれのPgsA motif断片を含むDNA切片を確保した。なお、前記切片の5’末端にはEcoRV制限酵素が含まれており、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。確保されたDNA切片にEcoRVとBamHIを処理して切片を確保した。また、それぞれのPgsA motif断片が以下のような塩基配列を有することを確認した。
【0174】
PgsA25-60 a.a断片配列(PgsA6)
【0175】
配列番号29:
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCA-3’
【0176】
PgsA25-70 a.a断片配列(PgsA7)
【0177】
配列番号30:
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGA-3’
【0178】
PgsA25-100 a.a断片配列(PgsA8)
【0179】
配列番号31:
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCA-3’
【0180】
pKV-Pald-PgsA-EGFPをEcoRVとBamHIで切断してPgsA遺伝子部分を除去したベクター部分を確保した。
【0181】
EcoRVとBamHIで切断したそれぞれのPgsA motif断片遺伝子を含有しているDNA断片を同じ制限酵素で切断したベクターと連結して改良されたベクターを完成した(図11から図13)。
【0182】
実施例7:PgsA motif改良表面発現ベクター形質転換体の発現の確認
この実施例においては、実施例5において製作されたPgsA motif改良表面発現ベクターでラクトバチルス・カゼイを形質転換し、前記形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイを培養してEGFPタンパク質の発現を確認した。形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおいて改良された断片pgsA1~A8のうちのいずれか一つと融合されたEGFPタンパク質の発現有無を調べた。
【0183】
PgsA motif断片表面発現ベクターで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイをMRS培地(Lactobacillus MRS,米国ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー(BD)社製)、30℃において静置培養してポリガンマグルタミン酸を合成する遺伝子断片pgsA1~A8のうちのいずれか一つのC-末端と融合されたEGFPタンパク質の表面発現を誘導した。
【0184】
前記培養されたラクトバチルス・カゼイの全細胞に対して、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびEGFPに対する特異抗体を用いたウェスタンブロッティングを行って前記融合タンパク質の発現を確認した。
【0185】
具体的に、発現が誘導された形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイの全細胞を同じ細胞において得たタンパク質で変性(denature)させて試料を用意し、これをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析した後、分画されたタンパク質をPVDF(polyvinylidene-difluoride membranes;Bio-Rad社製)メンブレンに移した。タンパク質の移されたPVDFメンブレンをブロッキング緩衝溶液(50mMトリス塩酸、5%脱脂乳(skim milk)、pH 8.0)において1時間振とうしてブロッキングした後、EGFPに対するウサギ由来のポリクローン1次抗体をブロッキング緩衝溶液に1000倍希釈して1時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液で洗浄し、HRPが接合されたウサギに対する2次抗体をブロッキング緩衝溶液に10000倍希釈して1時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液で洗浄し、洗浄されたメンブレンに基質(lumigen PS-3 acridan,H22)を添加して約2分間発色させ、CCDカメラでEGFPに対する特異抗体と前記融合タンパク質との間の特異的な結合を確認した(図14)。
【0186】
図14は、本発明と比較して対照群として設定された未改良のpgsAが挿入されたpKV-Pald-pgsA組換え発現ベクターに伴うラクトバチルス・カゼイにおける発現様相(レーン6および11)および本発明に係る改良されたpgsA1~A8が挿入されたpKV-Pald-pgsA1~A8組換え発現ベクターに伴うラクトバチルス・カゼイにおける発現様相(レーン1~5およびレーン7~10)を示す。
【0187】
具体的に、図14のレーン1は、PgsA motif 1-60 a.aにEGFPを発現した形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイであり、レーン2は、PgsA motif 1-70 a.a、レーン3は、PgsA motif 1-80 a.a、レーン4は、PgsA motif 1-100 a.aにEGFPが形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイの発現である。レーン5は、PgsA motif 1-188 a.aにEGFPが形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイのタンパク質の発現を示す。レーン6は、pKV-Pald-PgsA-EGFPが形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイのタンパク質の発現を示す。
【0188】
また、図14のレーン7は、PgsA motif 25-60 a.aにEGFPを発現した形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイであり、レーン8は、PgsA motif 25-70 a.a、レーン9は、PgsA motif 25-100 a.aにEGFPが形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイの発現である。レーン10は、PgsA motif 1-188 a.aにEGFPが形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイのタンパク質の発現を示す。レーン11は、pKV-Pald-PgsA-EGFPが形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイのタンパク質の発現を示す。
【0189】
未改良のpKV-Pald-pgsA-EGFP表面発現ベクターによるEGFP融合タンパク質の発現と比較すれば、改良されたPgsA motif断片を含むEGFP融合タンパク質がさらに強く発現されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明は、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来ガラクトース・ムタロターゼ(galactose mutarotase)遺伝子のプロモーターおよびバチルス属菌株由来のポリガンマグルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質(pgsA)を用いて外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現する新規なベクターに関するものであり、前記ベクターは、目的タンパク質を表面発現する遺伝子を含有しているので、前記ベクターを用いた形質転換体においては目的タンパク質を効果的に菌体の表面に発現することができて、乳酸菌をワクチン伝達体として活用することができ、かつ、目的タンパク質の表面発現ベクターは目的タンパク質を安定的に発現することができ、本発明に係る表面発現ベクターは、目的タンパク質を常時的に発現しながら、これと同時に、組換え微生物に表面発現して必要とするワクチン製造用抗原の製作などに好適に用いることができるという点で、産業上の利用可能性が存在する。
[配列目録フリーテキスト]
配列番号1
5’-ttgaattggt ttcttacgat ggtaagacca acgaaactgg tacagctgca tgggctaaag ctaagcctga aaaggtcatc aagatcacca aggaattcag caagccgcaa tacaatgttt ctgttttgaa gcttgaagtt ccagttgatc aaaagtttgt tgaaggctac accgatgacg gcgttacccc tgtttacagc aaggaagaag ccgctaagta ttacaaggaa cagtcagatg caacggatct cccattcatc ttcctgtccg ctggtgtcac caacgaattg ttccttgaag aactcaagtt tgctaagcaa gcaggttcag cctttaatgg tgttctctgt ggccgtgcaa cttggaagcc gggtgttaag ccatatgctg ctgaaggcga agctgctggt aagaagtggc tgcagaccga aggcaaggct aacattgatc gtttgaacaa ggtgcttgca gaaactgcaa ccccttggac tgacaaagtt gaaggttaat ctttaaccat agttgcaaga aaggaccgat tatgatgatc ggttcttttt ttatgactgc ggacatgttt ttgtgaccac tgcaaacatc aaatgaagt tcgaaaaact tgctaacaat cattacaggt cagtgatcca gtggtagact gtattgaat gcgttttcgt ctattaggag gtaattcaac-3’

配列番号2
5’-tacggcatgc ttgaattggt ttcttacgat-3’

配列番号3
5’-tacgctcgag gttgaattac ctcctaatag-3’

配列番号4
5’-tggtggatcc gtgagcaagg gcgaggagct g-3’

配列番号5
5’-tgactctaga actagtgtcg acggtacctt acttgtacag ctcgtcc-3’

配列番号6
5’-tggtggatcc gtgagcaagg gcgaggagct g-3’

配列番号7
5’-tgactctaga actagtgtcg acggtacctt acttgtacag ctcgtcc-3’

配列番号8
5’-tcgagcatgc aatacccact tattgcgatt tgct-3’

配列番号9
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct gagagtacgt cgtcagaata cgtt-3’

配列番号10
5’-tcgagcatgc aatacccact tattgcgatt tgct-3’

配列番号11
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct cccatcataa tatcgcctac aaat-3’

配列番号12
5’-tcgagcatgc aatacccact tattgcgatt tgct-3’

配列番号13
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct ttttgctccg ttactttttc aaca-3’

配列番号14
5’-tcgagcatgc aatacccact tattgcgatt tgct-3’

配列番号15
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct gctacataat ccgaggctct aaag-3’

配列番号16
5’-tcgagcatgc aatacccact tattgcgatt tgct-3’

配列番号17
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccaccg actttctggt acgaaatttt cttt-3’

配列番号18
5’-atgaaaaaag aactgagctt tcatgaaaag ctgctaaagc tgacaaaaca gcaaaaaaag aaaaccaata agcacgtatt tattgccatt ccgatcgttt ttgtccttat gttcgctttc atgtgggcgg gaaaagcgga aacgccgaag gtcaaaacgt attctgacga cgtactctca-3’

配列番号19
5’-atgaaaaaag aactgagctt tcatgaaaag ctgctaaagc tgacaaaaca gcaaaaaaag aaaaccaata agcacgtatt tattgccatt ccgatcgttt ttgtccttat gttcgctttc atgtgggcgg gaaaagcgga aacgccgaag gtcaaaacgt attctgacga cgtactctca gcctcatttg taggcgatat tatgatggga-3’

配列番号20
5’-atgaaaaaag aactgagctt tcatgaaaag ctgctaaagc tgacaaaaca gcaaaaaaag aaaaccaata agcacgtatt tattgccatt ccgatcgttt ttgtccttat gttcgctttc atgtgggcgg gaaaagcgga aacgccgaag gtcaaaacgt attctgacga cgtactctca gcctcatttg taggcgatat tatgatggga cgctatgttg aaaaagtaac ggagcaaaaa-3’

配列番号21
5’-atgaaaaaag aactgagctt tcatgaaaag ctgctaaagc tgacaaaaca gcaaaaaaag aaaaccaata agcacgtatt tattgccatt ccgatcgttt ttgtccttat gttcgctttc atgtgggcgg gaaaagcgga aacgccgaag gtcaaaacgt attctgacga cgtactctca gcctcatttg taggcgatat tatgatggga cgctatgttg aaaaagtaac ggagcaaaaa ggggcagaca gtatttttca atatgttgaa ccgatcttta gagcctcgga ttatgtagca-3’

配列番号22
5’-atgaaaaaag aactgagctt tcatgaaaag ctgctaaagc tgacaaaaca gcaaaaaaag aaaaccaata agcacgtatt tattgccatt ccgatcgttt ttgtccttat gttcgctttc atgtgggcgg gaaaagcgga aacgccgaag gtcaaaacgt attctgacga cgtactctca gcctcatttg taggcgatat tatgatggga cgctatgttg aaaaagtaac ggagcaaaaa ggggcagaca gtatttttca atatgttgaa ccgatcttta gagcctcgga ttatgtagca ggaaactttg aaaacccggt aacctatcaa aagaattata aacaagcaga taaagagatt catctgcaga cgaataagga atcagtgaaa gtcttgaagg atatgaattt cacggttctc aacagcgcca acaaccacgc aatggattac ggcgttcagg gcatgaaaga tacgcttgga gaatttgcga agcaaaacct tgatatcgtt ggagcgggat acagcttaag tgatgcgaaa aagaaaattt cgtaccagaa agtc-3’

配列番号23
5’-cgctggatat ctacatgcac gtatttattg ccattccg-3’

配列番号24
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct gagagtacgt cgtcagaata cgtt-3’

配列番号25
5’-cgctggatat ctacatgcac gtatttattg ccattccg-3’

配列番号26
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct cccatcataa tatcgcctac aaat-3’

配列番号27
5’-cgctggatat ctacatgcac gtatttattg ccattccg-3’

配列番号28
5’-tacgggatcc accagaacca ccagaaccac cagaaccacc agaaccacct gctacataat ccgaggctct aaag-3’

配列番号29
5’-cacgtattta ttgccattcc gatcgttttt gtccttatgt tcgctttcat gtgggcggga aaagcggaaa cgccgaaggt caaaacgtat tctgacgacg tactctca-3’

配列番号30
5’-cacgtattta ttgccattcc gatcgttttt gtccttatgt tcgctttcat gtgggcggga aaagcggaaa cgccgaaggt caaaacgtat tctgacgacg tactctcagc ctcatttgta ggcgatatta tgatggga-3’

配列番号31
5’-cacgtattta ttgccattcc gatcgttttt gtccttatgt tcgctttcat gtgggcggga aaagcggaaa cgccgaaggt caaaacgtat tctgacgacg tactctcagc ctcatttgta ggcgatatta tgatgggacg ctatgttgaa aaagtaacgg agcaaaaagg ggcagacagt atttttcaat atgttgaacc gatctttaga gcctcggatt atgtagca-3’
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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