IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本甜菜製糖株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社大和化成研究所の特許一覧

<>
  • 特許-耐腐紙 図1
  • 特許-耐腐紙 図2
  • 特許-耐腐紙 図3
  • 特許-耐腐紙 図4
  • 特許-耐腐紙 図5
  • 特許-耐腐紙 図6
  • 特許-耐腐紙 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】耐腐紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/12 20060101AFI20220927BHJP
   A01G 9/02 20180101ALI20220927BHJP
   D21H 17/15 20060101ALI20220927BHJP
   D21H 21/36 20060101ALI20220927BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
D21H19/12
A01G9/02 103U
D21H17/15
D21H21/36
D21H27/00 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021544058
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033646
(87)【国際公開番号】W WO2021045205
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2019163081
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231981
【氏名又は名称】日本甜菜製糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593002540
【氏名又は名称】株式会社大和化成研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰臣
(72)【発明者】
【氏名】山田 英明
(72)【発明者】
【氏名】奥濱 良明
(72)【発明者】
【氏名】中尾 誠一郎
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-342452(JP,A)
【文献】特表昭60-501317(JP,A)
【文献】特表2007-527472(JP,A)
【文献】特表2016-510366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/12
D21H 17/15
D21H 21/36
D21H 27/00
A01G 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む紙とカルボン酸架橋剤とを含む耐腐紙であって、前記セルロース繊維と前記カルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合していることを特徴とする耐腐紙。
【請求項2】
前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の耐腐紙。
【請求項3】
前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の耐腐紙。
【請求項4】
前記カルボン酸架橋剤が、前記紙に対して、乾燥質量当たり0.3~20.0質量%の割合で含有することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の耐腐紙。
【請求項5】
次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の耐腐紙。
【請求項6】
前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の割合で含有することを特徴とする、請求項5に記載の耐腐紙。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうちいずれか1項に記載の耐腐紙からなることを特徴とする、育苗鉢体用原紙。
【請求項8】
請求項7に記載の育苗鉢体用原紙からなることを特徴とする育苗鉢体。
【請求項9】
セルロース繊維を含む紙にカルボン酸架橋剤を含む加工液を適用する工程、及び、
該加工液が適用された紙を加熱処理する工程を含むことを特徴とする、耐腐紙の製造方法。
【請求項10】
前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項9に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項11】
前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項9又は請求項10に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項12】
前記加工液が、前記カルボン酸架橋剤を、1.0~20.0質量%の濃度で含有することを特徴とする、請求項9乃至請求項11のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項13】
前記加熱処理の温度が、100~300℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項9乃至請求項12のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項14】
前記加熱処理の温度が、150~220℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項9乃至請求項12のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項15】
前記加熱処理が、加熱ロール及び/又は加熱盤との接触加熱により行われることを特徴とする、請求項9乃至請求項12のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項16】
前記加熱処理の温度が、150~250℃の範囲内で行うことを特徴とする、請求項15に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項17】
前記加熱処理の温度が、190~220℃の範囲内で行うことを特徴とする、請求項15に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項18】
前記加工液が、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒を含むことをさらに特徴とする、請求項9乃至請求項17のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項19】
前記加工液が、前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の範囲で含むことを特徴とする、請求項18に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項20】
前記加工液が、pH4未満であることを特徴とする請求項9乃至請求項19のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項21】
前記耐腐紙が、育苗鉢体用原紙である、請求項9乃至請求項20のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法により製造された育苗鉢体用原紙を使用する、育苗鉢体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用資材、水産用資材、建築用資材等に使用できる、一定期間の腐敗に耐え得る紙、すなわち耐腐紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、四角柱状あるいは六角柱状に加工された紙製の鉢体を用いて植物を栽培する、育苗移植栽培法が広く実用されている。この栽培法は、具体的には、紙で作られた四角柱状あるいは六角柱状の鉢体に培養土を詰め、播種し、灌水管理下にて苗を育て、育苗の完了した苗を鉢に付けたままの状態の苗、すなわち鉢苗で圃場に植え付けて栽培するものである。この技術は、圃場への植付けが容易で労力が省け、また苗を傷めないので植付けの活着率が高いという特徴がある。
【0003】
上記の育苗移植栽培法で使用する鉢体に用いられる紙(育苗鉢体用原紙)は木質繊維でつくられているため、湿潤時において紙力が低下し、特に農業用で使用するときには土壌微生物によって容易に分解する。
育苗鉢体用原紙に求められる主な特性として、例えば(1)鉢体の製造時の折り曲げ、引っ張り等の機械的な加工に耐える乾燥時の紙力を有すること、及び、(2)育苗中の微生物による分解に対する耐性、すなわち耐腐性および、圃場への植付けにおける機械的、人為的な取扱いに耐える湿潤時の紙力を有すること等の特性を挙げることができる。
【0004】
紙の特性を生かしつつ、上記要求特性の実現を図った育苗鉢体用原紙の加工方法として種々の提案がなされている。
例えば特許文献1には、埋没強度の増強を図り、木材パルプにポリビニールアルコール繊維を混抄して加熱処理することよりなる合成繊維紙の製造方法が開示されている。
特許文献2及び特許文献3には、鉢体製造に耐える強度と、育苗条件に耐えかつ移植後において自然に崩壊する程度の耐腐性の付与を目指して、紙のセルロースの水酸基をジメチルジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)などの尿素N-置換誘導体であるホルムアルデヒド系薬剤を用いて、化学的に架橋封鎖する方法が開示されている。
また非特許文献1には、ポリビニールアルコール樹脂と、尿素ホルマリン樹脂、トリメチロールメラミン樹脂又はグリオギザール等の耐水化剤とを混合したサイズ液にて、紙や板紙の表面をサイジングすることにより、分解を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭50-33931号公報
【文献】特開昭59-100793号公報
【文献】特公平02-023640号公報
【文献】特表2001-508139号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】長野浩一ら共著「ポバール」昭和59年4月25日高分子刊行会発行第337~342頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1にて提案された方法では、紙の耐腐性等の物理的強度を高めるためには、紙に混抄するポリビニールアルコール繊維の含有量を多くする必要があり、紙の特性が失われる場合がある。また非特許文献1の方法では、サイジングによる紙への耐腐性の付与が不十分となる場合がある。さらに特許文献2及び3の方法では、十分な耐腐性は付与できるが、ホルムアルデヒド系薬剤であるDMDHEUには極微量のホルムアルデヒドが含まれていることもあるため、環境への影響を考慮する必要性がある。
なお、これまでにも、セルロース質繊維のヒドロキシ基を架橋封鎖するために、ホルムアルデヒド系薬剤の代替として架橋剤としてポリカルボン酸を架橋剤として用い、しわ回復性や強度など湿潤性能を高める技術が開示されている(特許文献4)。しかし、このような技術によって農業分野で用いられる育苗鉢体用原紙において重要な要求特性である紙の耐腐性が備わるかは全く開示されていない。
【0008】
本発明は、育苗鉢体の製造時並びに圃場への植付け時に十分な強度を保持するべく、乾燥時及び湿潤時における十分な紙力を有するとともに、育苗鉢体用原紙に特有の要求性能である育苗中の微生物による分解に対する耐性、すなわち耐腐性を有し、かつ、環境への影響が危惧される遊離ホルムアルデヒドを発生させない薬剤(架橋剤)を用いて製造することで環境への負荷が軽減された、育苗鉢体用原紙およびそれを用いた育苗鉢体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、従来のホルムアルデヒド系薬剤(DMDHEU)に替えて、遊離ホルムアルデヒド発生のないポリカルボン酸架橋剤を採用し、これをセルロース繊維のヒドロキシ基の封鎖に用いることで、環境への負荷を軽減しつつ、育苗鉢体用原紙に求められる耐腐性を付与することができることを見出した。
さらに本発明者らは、ポリカルボン酸架橋剤による反応の条件をより詳細に検討することにより、様々な条件に応じた所望の耐腐性を紙に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記(1)~(21)の実施態様が提供される。
(1)セルロース繊維を含む紙とカルボン酸架橋剤とを含む耐腐紙であって、前記セルロース繊維と前記カルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合していることを特徴とする耐腐紙。
(2)前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(1)に記載の耐腐紙。
(3)前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の耐腐紙。
(4)前記カルボン酸架橋剤が、前記紙に対して、乾燥質量当たり0.3~20.0質量%の割合で含有することを特徴とする、(1)乃至(3)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙。
(5)次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒をさらに含むことを特徴とする、(1)乃至(4)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙。
(6)前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の割合で含有することを特徴とする、(5)に記載の耐腐紙。
(7)(1)乃至(6)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙からなることを特徴とする、育苗鉢体用原紙。
(8)(7)に記載の育苗鉢体用原紙からなることを特徴とする育苗鉢体。
(9)セルロース繊維を含む紙にカルボン酸架橋剤を含む加工液を適用する工程、及び、
該加工液が適用された紙を加熱処理する工程を含むことを特徴とする、耐腐紙の製造方法。
(10)前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(9)に記載の耐腐紙の製造方法。
(11)前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(9)又は(10)に記載の耐腐紙の製造方法。
(12)前記加工液が、前記カルボン酸架橋剤を、1.0~20.0質量%の濃度で含有することを特徴とする、(9)乃至(11)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(13)前記加熱処理の温度が、100~300℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、(9)乃至(12)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(14)前記加熱処理の温度が、150~220℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、(9)乃至(12)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(15)前記加熱処理が、加熱ロール及び/又は加熱盤との接触加熱により行われることを特徴とする、(9)乃至(12)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(16)前記加熱処理の温度が、150~250℃の範囲内で行うことを特徴とする、(15)に記載の耐腐紙の製造方法。
(17)前記加熱処理の温度が、190~220℃の範囲内で行うことを特徴とする、(15)に記載の耐腐紙の製造方法。
(18)前記加工液が、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒を含むことをさらに特徴とする、(9)乃至(17)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(19)前記加工液が、前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の範囲で含むことを特徴とする、(18)に記載の耐腐紙の製造方法。
(20)前記加工液が、pH4未満であることを特徴とする(9)乃至(19)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(21)前記耐腐紙が、育苗鉢体用原紙である、(9)乃至(20)のうちいずれか1項に記載の耐腐紙の製造方法。
(22)(21)に記載の方法により製造された育苗鉢体用原紙を使用する、育苗鉢体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セルロースの架橋剤としてホルムアルデヒド系薬剤(DMDHEU)の代替としてカルボン酸架橋剤を用いることにより、環境への負荷が軽減される耐腐紙を提供できるとともに、育苗中および圃場への植付け時には十分な強度を保持する、育苗鉢体用原紙さらには育苗鉢体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、<未処理区>について実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
図2図2は、<クエン酸処理区>のクエン酸濃度5.0%で処理した加熱処理後のクエン酸加工紙について実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
図3図3は、<クエン酸処理区>のクエン酸濃度7.5%で処理した加熱処理後のクエン酸加工紙について実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
図4図4は、<クエン酸処理区>のクエン酸濃度10.0%で処理した加熱処理後のクエン酸加工紙について実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
図5図5は、<クエン酸処理区>のクエン酸濃度5.0%で処理した加熱処理前のサンプルについて実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
図6図6は、<クエン酸処理区>のクエン酸濃度7.5%で処理した加熱処理前のサンプルについて実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
図7図7は、<クエン酸処理区>のクエン酸濃度10.0%で処理した加熱処理前のサンプルについて実施した、FT-IRスペクトル測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
育苗鉢体は一般に木質繊維を含有する紙で製造されるため、湿潤時において紙力が低下し、さらに育苗時には鉢体に培養土が充填されるため培養土中の微生物により分解される。この分解作用は、一般的には土壌微生物の生産するセルラーゼ(セルロース分解酵素)によって、紙の木質繊維を構成するセルロースが加水分解されることにより進行する。
本発明者らは、このセルラーゼによるセルロースの分解反応をセルロースのヒドロキシ基を遊離ホルムアルデヒドの発生のない架橋剤によって封鎖することにより抑制する、すなわち、紙のセルロースとカルボン酸架橋剤とを反応させる処理をなすことで、紙に耐腐性を付与することを図り、本発明に至ったものである。
以下、本発明について詳述する。
【0014】
[耐腐紙]
本発明は、セルロース繊維を含む紙と、カルボン酸架橋剤とを含む耐腐紙を対象とするものであり、前記セルロース繊維と前記カルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合していることを特徴とする。すなわち本発明の耐腐紙において、前記セルロース繊維と架橋していないカルボン酸架橋剤が含まれていてもよい。
【0015】
<紙>
本発明で用いられる紙、すなわち耐腐紙の原料となる紙(原紙ともいう)は、セルロース繊維を主成分として含有するものであれば、その原料パルプの種類やセルロース繊維の含有量は特に限定されない。例えば、通常の製紙材料として使用するパルプを含有する紙が挙げられる。より具体的には、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ;古紙を原料とする脱墨パルプなどを挙げることができ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。特に、漂白していない未晒のパルプからなるものを好適に用いることができる。パルプ繊維の原料となる木材は、針葉樹材でも広葉樹材でもよく、また混合して使用してもよい。これらの他に、ポリエチレン、ポリエステル、ビニロン、レーヨン、合成パルプ、ポリ乳酸などの化学繊維を含有させてもよい。
本発明で使用する紙には、必要に応じて、バインダー、填料、紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤、防腐剤等の通常抄紙に用いられる各種助剤を含有することができる。また、後述するカルボン酸架橋剤との反応が妨げられない範囲で、澱粉、ポリビニルアルコール等によりサイズ処理されていてもよく、無機顔料を主成分とするコート層やレジンコート層を有していてもよい。
【0016】
本発明で用いられる紙の坪量は、特に限定されないが、例えば20~200g/mとすることができ、また例えば30~100g/mとすることができ、40~60g/mとすることができる。
【0017】
<カルボン酸架橋剤>
本発明で使用するカルボン酸架橋剤として、ジカルボン酸、ポリカルボン酸などのカルボン酸架橋剤を用いることができる。前記カルボン酸架橋剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、タートレートモノコハク酸、イミノジコハク酸、ブタンテトラカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメチルビニルエーテル-コ-マレエートコポリマー、ポリメチルビニルエーテル-コ-イタコネートコポリマー、アクリル酸系ポリマー、及びマレイン酸系ポリマー、並びにそれらの塩を挙げることができる。
中でも好適なカルボン酸架橋剤として、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩を挙げることができる。
【0018】
上記カルボン酸架橋剤の含有量、すなわち処理対象となる紙への使用量(適用量)は、該紙の種類(パルプ種、セルロース含有量、坪量等)などにもよるが、本発明の耐腐紙を育苗鉢体に加工後、該鉢体を用いた育苗中および植付け時において十分な強度を維持することができるように適宜調整することができる。たとえば、処理対象となる紙の乾燥質量100質量%に対し、0.3~25.0質量%となる割合で使用(適用)することができる。好ましい態様において0.3~20.0質量%の割合にて、例えば2.4~20.0質量%の割合にて、2.4~17.0質量%の割合にて、7.5~20.0質量%の割合にて、7.5~17.0質量%の割合にて、10.0~17.0質量%の割合にて、またより好ましい態様では13.0~17.0質量%の割合でカルボン酸架橋剤を使用(適用)することができる。カルボン酸架橋剤の使用量(適用量)を0.3質量%以上の割合とすることで、育苗時や移植時に破れが発生し難い耐腐性を付与することができる。
【0019】
<架橋触媒>
本発明では、カルボン酸架橋剤に加えて、反応を促進し短時間で行う目的で、架橋触媒を併用することができる。
架橋触媒としては、次亜リン酸ナトリウムや次亜リン酸カリウムなどのアルカリ金属次亜リン酸塩、リン酸塩、アルカリ金属亜リン酸塩、アルカリ金属ポリリン酸塩、リン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属二水素リン酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属水素リン酸塩、ポリリン酸、次亜リン酸、リン酸、アリルホスフィン酸などのリン酸塩、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、ホウ弗化マグネシウム、ホウ弗化亜鉛などの金属塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムのようなアンモニウム塩、モノエタノールアミン塩酸塩のような有機アミン塩などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記架橋触媒の使用量は、使用するカルボン酸架橋剤の種類、並びに該カルボン酸架橋剤に対する触媒の反応性など、触媒の種類により作用が異なるため一概に限定できないが、通常、カルボン酸架橋剤の質量(100質量%)に対し、0.1~40質量%の割合で使用することができる。好ましい態様において、例えば10~30質量%の割合にて、また15~25質量%の割合とすることができる。
【0021】
[耐腐紙の製造方法]
本発明の耐腐紙において、前記カルボン酸架橋剤と、前記紙に含まれるセルロース繊維との結合を形成するための処理は、該カルボン酸架橋剤を紙に塗布するなどして適用し、その後、該紙を加熱して該カルボン酸架橋剤の反応を進行させればよい。
本発明は、耐腐紙の製造方法も対象とするものであり、該製造方法は、前記カルボン酸架橋剤と、所望により前記架橋触媒とを含む加工液を調製し、該加工液を対象の紙(セルロース繊維を含む紙)の少なくとも一部に適用する工程と、該加工液が適用された紙を加熱処理する工程を含むことを特徴とする。
【0022】
<原紙を抄紙する工程>
本実施形態において、原紙は、抄紙法で製造されていることが好ましい。抄紙法を用いることによって、複数の種類の繊維の混抄を容易に行うことができる。
抄紙法は、一般に、原料となる短繊維を混合した後にシート化する方法である。抄紙法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。乾式法は、具体的には、短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してネット上に集積して、シートを形成する方法である。シート形成に際して水流等を利用することもできる。一方、湿式法は、短繊維を液体媒体中で分散混合させた後に、ネット上に集積して、シートを形成する方法である。これらの中では、水を媒体として使用する湿式抄紙法が好ましく選択される。
【0023】
湿式抄紙法では、短繊維を含有する水性スラリーを、抄紙機に送液し、短繊維を分散させた後、脱水、搾水および乾燥して、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。
【0024】
抄紙法で原紙を製造する際には、パルプ繊維が水分を含んでいるため、乾燥させる工程が必要となる。乾燥工程における乾燥は、通常、好ましくは100℃以上、より好ましくは120~140℃程度の温度で行われる。乾燥工程では、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、アフタードライヤー、バンドドライヤー、赤外線ドライヤー等の乾燥機が使用される。
【0025】
<加工液を適用する工程>
本工程において、前述のカルボン酸架橋剤と、所望により前記架橋触媒とを水で適正濃度に希釈・配合した加工液を用いることができる。該加工液は、本発明の効果を損なわない範囲において、紙の加工に通常使用され得るその他添加剤を含んでいてもよい。
【0026】
上記加工液において、前述のカルボン酸架橋剤の配合量は、紙への適用量などを考慮し適宜設定され得、例えば、0.3~25.0質量%の濃度の範囲とすることができる。好ましい態様において、該加工液中の該カルボン酸架橋剤の配合量を、1.0~20.0質量%の範囲、5.0~20.0質量%の範囲、7.5~15.0質量%の範囲、10.0~15.0質量%の範囲、あるいは、12.5~15.0質量%の範囲とすることができる。
また、架橋触媒を使用する場合には、その使用量は、カルボン酸架橋剤の質量(100質量%)に対し、0.1~40質量%の割合、例えば10~30質量%の割合にて、また15~25質量%の割合とすることができる。
なお上記加工液の溶媒は、カルボン酸架橋剤や架橋触媒を溶解することができ、紙への適用性や各工程における操作性を考慮し適宜選択され得、例えば水などを用いることができる。
また上記加工液は、そのpH値がより酸性側(pH7未満)にて適用に付すことが好適である。例えばpH値が6以下、あるいはpH値が5以下、若しくは4以下の加工液を用いることができ、またpH4未満の加工液を用いることができる。
【0027】
上記加工液の紙への適用方法は、所定量のカルボン酸架橋剤を紙に付着させ得る方法であれば特に限定されない。好ましくは、所定量のカルボン酸架橋剤を紙全体に均一に付着させ得る方法を採用し得、例えば、該加工液の蒸気に紙を晒す方法、該加工液に紙を浸漬する方法、該加工液を紙に塗布又は噴霧する方法等が挙げられる。浸漬または塗布する方法としては、ロールコータ、バーコータ、ドクターコータ、ブレードコータ、カーテンコータ等の公知の塗工または含浸装置を用いることができる。また、抄紙工程において工業的な処理をする場合、該加工液をサイズプレス工程やゲートロール工程において紙に塗布することもできる。抄紙工程で塗布を行う場合、乾燥工程を通じて加工液を乾燥させることができる。
【0028】
<加熱処理する工程>
加工液の紙への適用後、該紙の加熱処理を行う。ここでの熱処理は、先に適用したカルボン酸架橋剤の反応を進行させ、また反応を完結させるためのものである。
加熱処理方法としては、紙に対して通常行われる加熱方法であれば特に制限なく用いることができ、接触加熱法、非接触加熱法のいずれであってもよい。例えば、前記紙の片面を、所定温度に加熱されたシリンダー乾燥機のシリンダー面(加熱ロール、加熱盤)等に接触加熱する方法や、熱風循環式乾燥機中などの高温雰囲気下に所定の時間曝すことより処理する非接触加熱による方法、遠赤外線乾燥機による処理方法等が挙げられる。
加熱処理の温度は、加熱処理方法にもよるが、例えば30~300℃とすることができ、100~250℃が好ましく、150~220℃がより好ましく、また190~220℃とすることもできる。加熱処理の時間は加熱処理方法によって異なり、熱風循環式乾燥機などによる非接触加熱の場合は、例えば30秒~60分、より好ましくは1~15分であり、またシリンダー乾燥機などによる加熱ロール又は加熱盤などによる接触加熱の場合は、例えば0.5秒~30分、より好ましくは1秒~3分である。
【0029】
また、加工液の紙への適用後、熱処理を行う前に、必要に応じて予備乾燥させて紙の水分率を調整してもよい。ここでの水分調整(予備乾燥)は、カルボン酸架橋剤の反応が事実上進行しないように管理された条件が望まれる。例えば、ショートループドライヤー、連続タンブラルドライヤー、テンター型ドライヤー、ドラムドライヤーなど公知の乾燥手段を用いて行うことができる。なおこの段階での紙の水分率の調整は必須ではなく、原紙の製造段階(抄紙工程)において実施してもよい。
【0030】
前述したとおり、本発明の耐腐紙は、セルロース繊維とカルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合を形成してなるものである。
この結合は、セルロース繊維のヒドロキシ基とカルボン酸架橋剤のエステル結合の形成によるものであり、エステル結合の特性吸収が強く現れる赤外線吸収スペクトルの測定により、該結合の形成を確認できる。
具体的には、赤外線吸収スペクトルにおいて、1730cm-1付近にエステルのC=O伸縮振動由来のピークが観測された場合、この結合構造が導入されたことが確認される。
また、核磁気共鳴(NMR)スペクトルによって、すなわちエステルに隣接した水素のシグナルが、未処理(未架橋)のものと比較して低磁場移動することを確認することによっても、前記結合の形成を確認できる。
【0031】
[育苗鉢体用原紙及び育苗鉢体]
本発明の耐腐紙は、育苗鉢体用原紙として好適に用いることができる。すなわち、前記耐腐紙からなる育苗鉢体用原紙、並びに、該育苗鉢体用原紙からなる育苗鉢体も本発明の対象である。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、実施例における試験サンプルの性能の測定、評価は、次の方法で行なった。
なお下記評価において、強度の数値が高いほど、サンプル中のセルロースの分解が抑制されていることを示すものである。
(1)引裂強度(実施例4、実施例6及び実施例8で得られた加工紙):
JIS P8116:2000「紙-引裂強さ試験方法-エルメンドルフ形引裂試験機法」に準じて、紙流れ方向(縦方向;実施例4、実施例6及び実施例8)並びに紙幅方向(横方向;実施例6及び実施例8)の引裂強度を測定した。なお本試験に使用したサンプルの大きさを75mm×63mmとした。同測定は4回繰り返し、平均値を算出した。
(2)耐折強さ(実施例4、実施例6及び実施例8で得られた加工紙):
JIS P-8115:2001「紙及び板紙-耐折強さ試験方法-MIT試験機法」に準じて、紙流れ方向(縦方向;実施例4、実施例6及び実施例8)並びに紙幅方向(横方向;実施例6及び実施例8)にて耐折回数8回で耐折試験を行った。なお本試験に使用したサンプルの大きさを15mm×100mmとした。
(3)乾引張強度・湿引張強度(実施例4、実施例6及び実施例8で得られた加工紙):
JIS P8113:1998「紙および及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して、紙流れ方向(縦方向;実施例4、実施例6及び実施例8)並びに紙幅方向(横方向;実施例6及び実施例8)にて各引張強度の測定を実施した。サンプルの大きさを15mm×100mm、チャックスパン50mm、引張速度10mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は8回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
<乾引張強度 試料調湿条件>
JIS P 8111:1998に規定する方法によって調湿(標準状態紙、板紙及びパルプの調湿及び試験のための標準状態は、23℃±1℃、(50±2)%r.h.とする。)した試料を用いた。
<湿引張強度 試料調湿条件>
JIS P 8111:1998に規定する方法によって調湿(上記参照)した後、水(室温:20℃±5℃)に24時間浸漬した試料を用いた。
(4)湿潤引張強度(基準)[参考例1(実施例1で得られた加工紙)、参考例2(実施例4で得られた加工紙)、参考例4(実施例6で得られた加工紙)、参考例5(実施例8で得られた加工紙)]、並びに、酵素処理引張強度[実施例2(実施例1で得られた加工紙)、実施例5(実施例4で得られた加工紙)、実施例7(実施例6で得られた加工紙)、実施例9(実施例8で得られた加工紙)]
JIS P8113:1998「紙および及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して、紙流れ方向(縦方向;参考例1、参考例2、参考例4、参考例5、実施例2、実施例5、実施例7及び実施例9)並びに紙幅方向(横方向;参考例4、参考例5、実施例7及び実施例9)にて各引張強度の測定を実施した。サンプルの大きさを30mm×70mm(参考例1、実施例2)、60mm×100mm(参考例2、実施例5、参考例4、実施例7、参考例5、参考例9)とし、前者サンプルの大きさ30mm×70mmはチャックスパン30mmで、後者サンプルの大きさ60mm×100mmはチャックスパン50mmで、それぞれ引張速度10mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は8回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
なお調湿(湿潤)条件並びに酵素処理条件については後述するとおりである。
(5)埋没処理引張強度(実施例3(実施例1で得られた加工紙)):
JIS P8113:1998「紙および及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して測定を実施した。サンプルの大きさを30mm×70mm、チャックスパン30mm、引張速度100mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は4回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
なお埋没処理条件については後述するとおりである。
(6)酵素耐腐指数=[酵素処理引張強度/湿潤引張強度(基準)]×100
酵素耐腐指数は酵素処理による耐腐性を示す指標であり、本発明に係る効果を考慮した場合、求められる指標値(要求強度)は概ね85以上である。
(7)参考:耐水指数=[湿引張強度/乾引張強度]×100
耐水指数は、原紙の品質管理の指標として用いられる参考値である。
【0033】
<実施例1>クエン酸処理による加工紙の作製(1)[乾燥器使用による非接触熱処理]
原料となる紙(未晒クラフト紙(薬剤未処理):坪量53g/mのビニロン混抄した未漂白のクラフトパルプ紙、以下「原紙」と称する)を、クエン酸(カルボン酸架橋剤)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)を表1で示す濃度となるように調整した加工液に、3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表2参照)。また各試験区に適用した加工液は何れもpH2前後を呈していた。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙を乾燥させた後に、150℃又は190℃に調整した乾燥器に3分間原紙を入れ、熱源に非接触の状態にて加熱乾燥処理を施し、クエン酸処理による加工紙(以下、クエン酸加工紙)を得た。
なお後述する実施例4に示すように、浸漬後(熱処理前)において、加工浸漬前後の原紙の質量の測定結果より、加工液の塗布量及び有効成分量が表4と同程度の量となることが確認された。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
<参考例1> 湿潤引張強度(基準)の測定(1)
実施例1で得た各クエン酸加工紙(試験区1~7、処理温度150℃又は190℃)を、30mm×70mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、これを水(室温:20℃±5℃)に24時間浸した後、前述の(4)の手順にて湿潤引張強度(基準)を測定した。得られた結果を表3(表3-1、表3-2)に示す。
【0037】
<実施例2> 酵素処理引張強度の測定(1)
実施例1で得た各クエン酸加工紙(試験区1~7、処理温度150℃又は190℃)を、30mm×70mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、セルラーゼ(オノズカS/ヤクルト薬品工業(株)製)を濃度1%・pH5.0に調整した酵素液の入った恒温器(45℃)にて72時間連続処理した。
処理後、これらを水洗し、前述の(4)の手順にて酵素処理引張強度を測定した。
また、得られた酵素処理引張強度と、参考例1で得た湿潤引張強度(基準)の値を用い、前述の(6)に示す式にて酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表3(表3-1、表3-2)に示す。
【0038】
<実施例3> 埋没処理引張強度の測定
実施例1で得た各クエン酸加工紙(試験区1~7、処理温度150℃又は190℃)を、30mm×70mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、これを、水分率を50%に調整した蔬菜用培土(スーパー培土/日本甜菜製糖製、pH 6.74、EC 1.81dS/m)に埋没させ、温度30℃、湿度90%の人工気象器((株)日本医化器械製作所製)内に静置した。静置後2週間後又は8週間後にサンプルを取り出した。前述の(5)の手順にて埋没処理引張強度を測定した。得られた結果を表3(表3-1、表3-2)に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表3-1(加熱処理:150℃、3分間)に示すように、湿潤引張強度(基準)はクエン酸処理濃度が高くなるにつれ高い値となる傾向を示し、同濃度が7.5質量%以上においてほぼ一定の強度を示した。
また埋没処理2週間後の引張強度は、クエン酸処理濃度:1.0~5.0質量%では、同処理濃度の湿潤引張強度(基準)よりも低く分解が進行したのに対して、同7.5~15.0質量%では埋没後も一定の強度を維持しており、湿潤引張強度(基準)と同程度の強度を有していた。
一方、埋没処理8週間後の引張強度は、クエン酸処理濃度:1.0~10.0質量%ではサンプルの分解が進行して強度が著しく低下したが、同12.5質量%以上の濃度では分解は進行するものの一定の強度を維持していた。
また酵素処理引張強度は、クエン酸処理濃度が高くなるにつれて高い値を示し、これは、土壌中での微生物による分解またセルラーゼによる分解を抑制することを意味するものであり、クエン酸処理濃度:12.5質量%以上では土壌中でも十分な強度を維持することが推察される結果となった。
【0042】
表3-2(加熱処理:190℃、3分間)に示すように、本処理温度では、クエン酸処理濃度:2.5質量%以上で、湿潤引張強度(基準)の値はほぼ横ばいとなった。
また埋没処理2周間後の引張強度は、クエン酸処理濃度:2.5質量%以下ではやや分解が進行したために強度が低下したが、同5.0質量%以上では分解を抑制し、一定の強度を維持していた。
一方、埋没処理8週間後の引張強度は、クエン酸処理濃度:5.0質量%でもやや分解が進行したものの、同7.5質量%以上では分解を抑制し、十分な強度を維持していた。
また酵素処理引張強度は、クエン酸処理濃度:5.0質量%以上が抑制され十分な強度を維持していた。
これらの結果より、本処理温度により、150℃処理と比べて、低濃度のクエン酸処理濃度にてセルロースの分解を抑制することが確認された。
【0043】
<実施例4>クエン酸処理による加工紙の作製(2)[加熱ローラー使用による接触加熱処理]
原料となる紙(未晒クラフト紙(薬剤未処理):坪量53g/mのビニロン混抄した未漂白のクラフトパルプ紙(原紙))を、クエン酸(架橋剤)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)を前記表1に示す濃度となるように調整した加工液に、3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表4参照)。また各試験区に適用した加工液は何れもpH2前後を呈していた。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙を乾燥させた後に、190℃又は220℃に調整した加熱ローラーにて4.5秒間の接触加熱処理を行い、クエン酸加工紙を得た。
なお比較対照として、ジメチルジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)系薬剤(有効成分:DMDHEU、濃度3.6質量%)を用いて同様に処理を行った(以下、DMDHEU架橋原紙)。DMDHEU架橋原紙は、育苗鉢体用原紙として従来使用されてきた原紙である。
【0044】
【表5】
【0045】
実施例4で得た各クエン酸加工紙及びDMDHEU架橋原紙(処理温度190℃又は220℃)について、前述の(1)~(3)の手順に従い、引裂強度、耐折強さ、乾引張強度・湿引張強度、及び(7)に示す式にて耐水指数を算出した。
得られた結果を表5(5-1、表5-2)に示す。
【0046】
<参考例2> 湿潤引張強度(基準)の測定(2)
実施例4で得た各クエン酸加工紙及びDMDHEU架橋原紙(処理温度190℃又は220℃)を、60mm×100mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、これを水(室温:20℃±5℃)に24時間浸した後、前述の(4)の手順にて湿潤引張強度(基準)を測定した。得られた結果を表5(表5-1、表5-2)に示す。
【0047】
<実施例5> 酵素処理引張強度の測定(2)
実施例4で得た各クエン酸加工紙及びDMDHEU架橋原紙(処理温度190℃又は220℃)を、60mm×100mmの大きさの試験サンプルそれぞれ切断し、セルラーゼ(オノズカS/ヤクルト薬品工業(株)製)を濃度1%・pH5.0に調整した酵素液の入った恒温器(45℃)にて72時間連続処理した。
処理後、これらを水洗し、前述の(4)の手順にて酵素処理引張強度を測定した。
また、得られた酵素処理引張強度と、参考例2で得た湿潤引張強度(基準)の値を用い、前述の(6)に示す式にて酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表5(表5-1、表5-2)に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
表5-1(加熱処理:190℃、4.5秒間)に示すように、酵素処理によってすべてのクエン酸処理濃度で分解が著しく進行し、ほとんどのサンプルにおいて酵素処理引張強度を測定できない結果となった。したがって、190℃の処理では目標の性能に十分でないことがわかった。
なお、耐折強さ(回数)及び引裂強度は、クエン酸処理濃度が高くなるにつれて低い数値になり、クエン酸処理濃度が10質量%以上でDMDHEU架橋原紙と同等の数値となった。
また乾引張強度はクエン酸処理濃度によらずほとんど変わらない値となったものの、DMDHEU架橋原紙に比べて約1割程度弱い値となった。湿引張強度はクエン酸処理濃度が高くなるにつれて高い値を示したが、最大処理濃度:15質量%でもDMDHEU架橋原紙に比べて3割程度弱い結果となった。
【0051】
一方、表5-2(加熱処理:220℃、4.5秒間)に示すように、本処理温度では、クエン酸処理濃度:7.5質量%以上で湿潤引張強度(基準)はDMDHEU架橋原紙と同等の数値となり、分解を抑制し十分な強度を有しており、酵素耐腐指数もDMDHEU架橋原紙と同等の数値となった。
また耐折強さ(回数)及び引裂強度は、クエン酸処理濃度が高くなるにつれて低い数値になり、クエン酸処理濃度が7.5質量%以上でDMDHEU架橋原紙と同等の数値となった。
乾引張強度はクエン酸処理濃度によらずほとんど変わらない値となり、DMDHEU架橋原紙に比べてやや弱い傾向にあった。湿引張強度はクエン酸処理濃度が高くなるにつれて高い値を示し、最大処理濃度:15質量%においてDMDHEU架橋原紙に比べて3割程度弱い傾向にあった。
この結果は、220℃の処理では、クエン酸処理濃度が7.5質量%以上であれば、DMDHEU架橋原紙に比べると湿引張強度がやや弱いものの、耐腐性を十分付与することができることが確認された。
【0052】
<実施例6>クエン酸処理による加工紙の作製(3)[加熱ローラー使用による非接触熱処理]
〈クエン酸処理区〉
原料となる紙(未晒クラフト紙(薬剤未処理):坪量53g/mの麻混抄した未漂白のクラフトパルプ紙、以下「原紙2」と称する)を、クエン酸(カルボン酸架橋剤)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)を下記表6で示す濃度となるように調整した加工液に、3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙2の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表6参照)。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙2を乾燥させた後に、220℃に調整した加熱ローラーにて4.5秒間の接触加熱処理を行い、クエン酸加工紙を得た。
【0053】
比較対照として、以下の処理区を準備した。
〈未処理区〉
クエン酸処理をせず、原紙2のまま用いた。
〈DMDHEU処理区〉
ジメチルジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)系薬剤(有効成分:DMDHEU、濃度3.6質量%)を用いて、上記クエン酸処理と同様の処理を行い、DMDHEU架橋原紙を得た。加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(DMDHEU量)を表7に示す。
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
実施例6で得た各クエン酸加工紙、又はDMDHEU架橋原紙について、前述の(1)~(3)の手順に従い、引裂強度、耐折強さ、乾引張強度・湿引張強度、及び(7)に示す式にて耐水指数を算出した。
得られた結果を表8(表8-1(紙流れ方向(縦方向))、表8-2(紙幅方向(横方向))に示す。また各加工液のpHを表8に合わせて示す。
【0057】
<参考例3>
フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルの測定
実施例6に示す〈クエン酸処理区〉のそれぞれについて、各処理区における接触加熱処理(220℃)の処理前及び処理後に、FT-IR用測定サンプルを採取し、それぞれ水で10分間、続いて70℃の温水で10分間水洗した。その後、各サンプルを常温で乾燥し、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-4600typeA、日本分光(株)にてFT-IRスペクトルを測定した。また、〈未処理区〉である原紙2についても同様の手順にてFT-IRスペクトルを測定した。得られた結果を図1図7に示す。
【0058】
<参考例4>
湿潤引張強度(基準)の測定(3)
実施例6で得た各クエン酸加工紙、又はDMDHEU架橋原紙を、60mm×100mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、これを水(室温:20℃±5℃)に24時間浸した後、前述の(4)の手順にて湿潤引張強度(基準)を測定した。
得られた結果を表8(表8-1(紙流れ方向(縦方向))、表8-2(紙幅方向(横方向))に示す。
【0059】
<実施例7> 酵素処理引張強度の測定(3)
実施例6で得た各クエン酸加工紙、又はDMDHEU架橋原紙を、60mm×100mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、セルラーゼ(オノズカS/ヤクルト薬品工業(株)製)を濃度1%・pH5.0に調整した酵素液の入った恒温器(45℃)にて72時間連続処理した。
処理後、これらを水洗し、前述の(4)の手順にて酵素処理引張強度を測定した。
また、得られた酵素処理引張強度と、参考例4で得た湿潤引張強度(基準)の値を用い、前述の(6)に示す式にて酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表8(表8-1(紙流れ方向(縦方向))、表8-2(紙幅方向(横方向))に示す。
【0060】
【表10】
【0061】
【表11】
【0062】
表8(表8-1及び表8-2)に示すように、クエン酸加工紙は、クエン酸処理濃度が高くなるにつれて物理強度が低下するととともに、酵素耐腐指数が上昇し、クエン酸処理濃度10.0質量%にてDMDHEU架橋原紙と同等の数値となった。
【0063】
また、図1図7に示すFT-IRスペクトルに示すように、各処理区の加熱前後のスペクトル波形を確認したところ、クエン酸処理区(処理濃度:5.0質量%、7.5質量%、10.0質量%)のサンプルは、加熱処理後に波長1700~1750cm-1付近(図中の矢印で示すピーク参照)にエステルのC=O伸縮振動由来のピークが確認されて、架橋構造が導入されたことが確認された(図2:クエン酸濃度5.0質量%、図3:クエン酸濃度7.5質量%、図4:クエン酸濃度10.0質量%)。
一方、未処理区(図1)にあっては、上記波長付近にピークは見られず、架橋構造は導入されていないことが伺える。
なお、加熱処理前のクエン酸処理サンプル(クエン酸濃度:5.0質量%(図5)、7.5質量%(図6)、10.0質量%(図7))においても上記波長付近に若干のピークが確認されるが、これは薬剤塗布後の乾燥作業時の熱付加により、ごく僅かであるが架橋反応が進んだためと推測される。
【0064】
<実施例8>クエン酸処理による加工紙の作成(4)[加熱ローラー使用による非接触熱処理]
〈クエン酸処理区〉
クエン酸(カルボン酸架橋剤)(300g/L)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)(60g/L)の溶液を準備し、ここに水酸化ナトリウムを加え、溶液のpHが2、3、4、5、又は6となるように調製した。pH調整した溶液を2.5倍に希釈して加工液とし、ここに原料となる紙(未晒クラフト紙(薬剤未処理):坪量53g/mの麻混抄した未漂白のクラフトパルプ紙、以下「原紙2」と称する)を3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙2の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表9参照)。なおこのときのクエン酸濃度は12.0質量%、次亜リン酸ナトリウム濃度は2.4質量%であった。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙2を乾燥させた後に、220℃に調整した加熱ローラーにて4.5秒間の接触加熱処理を行い、クエン酸加工紙を得た。
〈DMDHEU処理区〉
ジメチルジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)系薬剤(有効成分:DMDHEU、濃度3.6質量%)を用いて、上記クエン酸処理と同様の処理を行い、DMDHEU架橋原紙を得た。加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(DMDHEU量)を表9に示す。
【0065】
【表12】
【0066】
実施例8で得た各クエン酸加工紙又はDMDHEU架橋原紙について、前述の(1)~(3)の手順に従い、引裂強度、耐折強さ、乾引張強度・湿引張強度、及び(7)に示す式にて耐水指数を算出した。
得られた結果を表10(表10-1(紙流れ方向(縦方向))、表10-2(紙幅方向(横方向))に示す。また各加工液のpHを表10に合わせて示す。
【0067】
<参考例5>
湿潤引張強度(基準)の測定(4)
実施例8で得た各クエン酸加工紙又はDMDHEU架橋原紙を、60mm×100mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、これを水(室温:20℃±5℃)に24時間浸した後、前述の(4)の手順にて湿潤引張強度(基準)を測定した。
得られた結果を表10(表10-1(紙流れ方向(縦方向))、表10-2(紙幅方向(横方向))に示す。
【0068】
<実施例9> 酵素処理引張強度の測定(4)
実施例8で得た各クエン酸加工紙又はDMDHEU架橋原紙を、60mm×100mmの大きさの試験サンプルにそれぞれ切断し、セルラーゼ(オノズカS/ヤクルト薬品工業(株)製)を濃度1%・pH5.0に調整した酵素液の入った恒温器(45℃)にて72時間連続処理した。
処理後、これらを水洗し、前述の(4)の手順にて酵素処理引張強度を測定した。
また、得られた酵素処理引張強度と、参考例5で得た湿潤引張強度(基準)の値を用い、前述の(6)に示す式にて酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表10(表10-1(紙流れ方向(縦方向))、表10-2(紙幅方向(横方向))に示す。
【0069】
【表13】
【0070】
【表14】
【0071】
表10(表10-1及び表10-2)に示すように、耐折強さは、紙の方向に関係なく、処理液のpHが2又は3であるクエン酸加工紙においてはDMDHEU架橋原紙と同等の数値となったが、処理液のpHが4、5、6と高くなるにつれて、クエン酸加工紙の耐折強さは高い数値を示した。
また引裂強度は、紙の方向に関係なく、処理液のpHが2であるクエン酸加工紙においてDMDHEU架橋原紙に比べ多少強度が低いものの、処理液のpHが3、4、5、又は6であるクエン酸加工液においてはDMDHEU架橋原紙よりも高い強度が得られ、処理液のpH値の上昇とともに、引裂強度も高くなる傾向がみられた。
乾引張強度は、処理液のpH値、紙の方向に関係なく、すべてのサンプルで同程度の強度が得られる一方、湿引張強度は、紙の方向に関係なく、処理液のpHが2又は3であるクエン酸加工紙においてはDMDHEU架橋原紙と同等の強度となり、処理液のpHが4、5、6と高くなるにつれて、クエン酸加工紙の湿引張強度は低い数値を示した。
さらに、湿潤引張強度及び酵素処理後の引張強度は、紙の方向に関係なく、処理液のpH2又は3であるクエン酸加工液においてはDMDHEU架橋原紙より若干低いものの一定の強度を有していたものの、処理液のpHが4、5、6と高くなるにつれて、クエン酸加工しにおけるこれらの強度は低下した。
以上の結果より、クエン酸加工液のpH値をより酸性側としてクエン酸処理することにより、例えばクエン酸濃度が12.0質量%の加工液の場合にはpHを4未満とすることにより、架橋反応が十分に進行し、DMDHEU架橋原紙と同程度の物理強度と耐腐性を得ることができることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7