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特許7147093コンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】コンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20220927BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
H01G13/00 361A
G01R31/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022084743
(22)【出願日】2022-05-24
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021174290
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521468718
【氏名又は名称】YURIホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 礼治郎
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-148759(JP,A)
【文献】特開2009-302276(JP,A)
【文献】特開2003-043098(JP,A)
【文献】特開平11-219871(JP,A)
【文献】特開平10-293107(JP,A)
【文献】特開2000-150329(JP,A)
【文献】特開2009-295606(JP,A)
【文献】特開平09-152455(JP,A)
【文献】特開平09-330855(JP,A)
【文献】特開2017-040629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記コンデンサに対して第1電気信号を入力した後、該第1電気信号とは波形が異なる第2電気信号に切り替えをおこない、前記コンデンサから過渡振動を含む振動を発生させ、発生させた前記過渡振動を含む振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程と、
前記反応電圧の前記振動反応電圧から過渡応答波形を測定する過渡応答波形測定工程とを有することを特徴とするコンデンサの検査方法。
【請求項2】
前記過渡応答波形測定工程により測定された良品コンデンサと不良品コンデンサの前記過渡応答波形の相違に基づいて、上記コンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項3】
前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記第1電気信号及び、切り替える前記第2電気信号を負荷処理により安定化させた後、前記コンデンサに印可することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項4】
前記過渡応答波形測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項5】
コンデンサの検査装置であって、
検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された直流電圧供給装置と、
前記ホルダー部の入力側に接続された信号発生装置と、
前記ホルダー部の出力側に接続された電圧/電流測定器を備え、
前記直流電圧供給装置が、前記コンデンサに直流バイアス電圧の印加を行い、
前記信号発生装置が、前記コンデンサに対して第1電気信号を入力した後、該第1電気信号とは波形が異なる第2電気信号に切り替えをおこない、前記コンデンサから過渡振動を含む振動を発生させ、発生させた前記過渡振動を含む振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記電圧/電流測定器が、前記反応電圧の前記振動反応電圧から過渡応答波形を測定することを特徴とするコンデンサの検査装置。
【請求項6】
前記コンデンサの検査装置が、
前記ホルダー部と前記信号発生装置との間に、直列に接続されたブリッジ負荷回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路を備え、
前記ブリッジ負荷回路が、前記第1電気信号及び前記第2電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることを特徴とする請求項5に記載のコンデンサの検査装置。
【請求項7】
前記ブリッジ負荷回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることを特徴とする請求項6に記載のコンデンサの検査装置。
【請求項8】
前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることを特徴とする請求項6に記載のコンデンサの検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックチップコンデンサは、小型、大容量かつ信頼性が高いため、今日ではほぼ全ての電子機器、医療機器に搭載されている。一方、生産現場では、コンデンサの高い信頼性を確保するために、外見では判別できない欠陥(電極異常、積層ずれ、ボイド、割れ)などを発見するために、絶縁抵抗、静電容量、tanδ、パルス耐圧等の数々の電気的特性試験を行っている。
【0003】
しかしながら、上記電気的特性試験においては、電気的な特性としては反応しない欠陥が存在することや、電気的特性試験で相当以上の感度を得ようとすると、コンデンサにかかる電気的な負荷が非常に大きくなることが懸念としてある。そのため、多くの場合、超音波探傷検査が併用される。
【0004】
この超音波探傷検査は、装置構成が簡便である点、不良のシグナルに一定の普遍性があり測定条件をコンデンサごとに調整しなくてよい点など、生産現場に適用するのに優れた特性がある。一方、超音波の反射・拡散性の問題から超音波を伝導する媒体が必要となること、測定感度がコンデンサの大きさに影響されること、測定時間が長いこと、また、コンデンサの縁(端部電極)に当たる部分では面が湾曲しているため、超音波が透過しにくいことなどの問題もあった。
【0005】
このためこれまでに、超音波探傷の代替技術として電気機械結合の原理を利用したインピーダンス測定法等が提案されている(特許文献1~4、非特許文献1)。
【0006】
ところで、セラミックコンデンサのように高い対称性を持つ幾何学的な構造では、固有の機械共振周波数を持つことが知られており、逆圧電効果による歪み振動の周波数がこれら構造の固有振動数の近似点に来ると、構造の機械的振動は増幅される。それに伴いコンデンサ内部の歪みも増幅され、圧電効果からコンデンサの電位差が増加する。これが電気機械結合である。
【0007】
特許文献1~4及び非特許文献1は、コンデンサの共振特性を、電気機械結合により出力される電気的なシグナルとして計測する内部欠陥の検査方法である。
このような従来の検査方法では、コンデンサに高バイアス電圧をかけ、段階的に周波数を掃引しながら周波数ごとのコンデンサの電気的反応(電圧、インピーダンス、ESR)を測定する必要があり、1個のコンデンサを検査するのに非常に時間がかかる。
【0008】
また、同様の原理を利用した他の提案として、コンデンサに一定のバイアス電圧をかけ、そこに外部の応力(超音波等の振動)を与えることで電気機械結合の反応を惹起し、電流値から欠陥の有無を判別する技術がある(例えば特許文献5)。
【0009】
しかしながらこの提案では、DCバイアス電圧をかけながらも外部の振動源を必要とするため、外部の振動源のみで検査が可能な超音波探傷技術に対して優位性を持たない。
【0010】
すなわち、上記提案は欠陥検出の感度としては超音波探傷試験と同等以上であったとしても、いずれも構成の簡便性、検査速度の観点から製造ラインに用いるのには不適である。
【0011】
一方、上記従来の提案以外に、アメリカ国立標準技術研究所、NASA、メリーランド大学等の研究者による論文において、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の非線形音響効果についての研究が行われている(非特許文献2~4)。これらの研究では、外部まで割れが顕出したコンデンサの良不良判定を対象とし、トーンバースト信号を用いて電気機械結合によりコンデンサを特定の固有振動モードで振動させ、信号が切れて振幅が減衰するとき、その振動モードの位相(あるいは周波数)の変化から不良品を識別している。
【0012】
具体的には、上記研究におけるコンデンサの測定および判定は以下の手順を踏む。
a)測定するコンデンサを定める。
b)一定のバイアス電圧環境下でトーンバースト信号の周波数を掃引し、コンデンサの固有振動数fを測定する。
c)同等のバイアス電圧環境下で、b)の測定に用いられたものと同等の信号振幅を持つトーンバースト信号の信号周波数を、特定された周波数fとし入力する。
d)信号が切れた際、コンデンサの電圧は振動しながら減衰するが、初期には周波数fで振動し、振幅が減衰するに従い時間単位周波数(または位相)が変化する。この周波数の変化(または位相の変化)を特定時間枠でとらえ、良品と不良品を判別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭61-108956号公報
【文献】特開平7-174802号公報
【文献】特許第2826422号公報
【文献】特開平11-219871号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】L. Bechou, S. Mejdi, Y. Ousten, and Y. Danto, “Non-destructive detection and localization of defects in multilayer ceramic chip capacitors using electromechanical reasonances”, Quality Rel. Eng. Int., vol.12, pp. 43-53, 1996
【文献】W. L. Johnson, S. A. Kim, T. P. Quinn, and G. S. White, “Nonlinear acoustic effects in multilayer ceramic capacitors”, Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation, Vols. 32B (AIP Conference Proceedings, vol. 1511), pp. 1462-1469, 2013
【文献】W. L. Johnson, S. A. Kim, G. S. White, and J. Herzberger, “Nonlinear acoustic detection of cracks in multilayer ceramic capacitors”, 2014 IEEE Ultrason.Symp. Proceedings (Chicago, Sept. 3-6, 2014), pp. 248-251
【文献】W. L. Johnson, S. A. Kim, G. S. White, J. Herzberger, K. L. Peterson, and P. R. Heyliger, “Time-domain analysis of resonant acoustic non-linearity arising from cracks in multilayer ceramic capacitors”, Proc. AIP Conf. Proc., vol. 1706, 2016, Art. No. 060005 しかしながら、これら非特許文献2~4の研究で用いられる手法は、原理的及び実用上の観点から以下に示す数々の問題がある。
【0015】
まず原理的な問題点として、上記研究は測定対象を単一の固有振動モードに固定し、そのモードを追尾しなくてはならないことがあげられる。そのため、トーンバースト信号の信号周波数がコンデンサの固有振動数から少しでもずれると、他の固有振動モードが混ざりこみ、測定が不安定となってしまう。例えば、信号周波数が固有振動数からずれている場合、トーンバースト信号が切れた際の過渡応答は図1図2に示すように、複数の固有振動モードが重なり合った状態で振動する。また、トーンバースト信号が切れた瞬間は想定したモードで振動していたとしても、固有振動モード間の結合により、時間がたつにつれほかのモードが干渉することが起こり得るため、やはり測定が安定しにくい。実際に、上記研究(非特許文献4, FIGURE 6およびFIGURE 7)では減衰後期の位相変化の分散が示されており、測定を有効とする時間枠を限定しなければならなかったことが言及されている。
【0016】
また、内部欠陥のあるコンデンサは通常の固有振動モードの他に、図3に示すような副次的な共振モードを持つことがあることが知られている。上記研究の手法は、原理的に測定を特定の固有振動モードに固定するため、これら副次モードを判別することは困難である。
【0017】
上記研究の実用上の問題点として、測定精度および不良判別の感度が低いことがあげられる。上記研究(非特許文献2~4)で不良判別が行われたのは、内部欠陥を持つコンデンサではなく、目視や外観検査でも不良判定が可能な外部に割れが顕出したコンデンサのみであった。また、非特許文献2では、トーンバースト信号の信号周波数を段階的に変化させ、固有振動モードの検出を試みているが(非特許文献2, FIGURE 2)、複数存在する固有振動モードの内、1つしか発見できなかった。上記研究の測定手法は、系統誤差が大きく、固有振動モードを判別する信号解像度が低いといえる。
【0018】
精度不足、感度不足の原因として、回路構成の寄生ノイズへの脆弱性と測定条件の不安定化が考えられる。上記研究の機器構成(非特許文献4、FIGURE 2)では、測定信号がコンデンサに限らず、コンデンサと電池、抵抗が並列に接続された回路全体から発振されるため、純粋なコンデンサの反応を測定できていない。また、信号波形の出力端部と測定系の測定端部が共有されることから(つまり、一般に言う2端子測定法となっており)測定シグナルに寄生抵抗、寄生インダクタンスなどの影響によるノイズが乗りやすくなる。さらに、高周波帯におけるコンデンサのインピーダンスの低下から、出力系に対する負荷が不安定であること、回路の寄生抵抗などの影響によりコンデンサごとのドライブ電圧が一定しない虞もある。
【0019】
また、実務上必要となる測定・判定の高速性の観点から、上記研究の手法を適用する際に、予めターゲットとなるコンデンサの共振特性を測定し、固有振動数を確定する必要があるのは大きな問題である。例えば同じ製造ロットのコンデンサであっても、材料、焼成条件などのわずかな差異からコンデンサの固有振動数は異なってくる。そのため、上記研究の手法をコンデンサ群の検査に適用するには、コンデンサごとに測定条件を確定・調整した後に、測定および良・不良の判別を行わなければならず、時間的に大きな足かせとなる。
【0020】
さらに、上記研究の手法を適用するには、デュプレクサ、位相敏感検出できる測定器などが必要となり、装置構成が非常に複雑で高価であるという問題もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、製造ライン上のコンデンサ、および誘電性を持つ電子部品を、簡便な装置を用いて定格(電圧、電流)内で非破壊検査し、欠陥を高速に高信頼度で検出することが可能なコンデンサの検査方法及びこれに用いる検査装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
即ち、本発明のコンデンサの検査方法は、以下のことを特徴としている。
【0023】
第1に、本発明のコンデンサの検査方法は、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記コンデンサに対して第1電気信号を入力した後、該第1電気信号とは波形が異なる第2電気信号に切り替えをおこない、前記コンデンサから過渡振動を含む振動を発生させ、発生させた前記過渡振動を含む振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程と、
前記反応電圧の前記振動反応電圧から過渡応答波形を測定する過渡応答波形測定工程とを有することを特徴とする。
【0024】
第2に、上記第1の発明のコンデンサの検査方法において、前記過渡応答波形測定工程により測定された良品コンデンサと不良品コンデンサの前記過渡応答波形の相違に基づいて、上記コンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することが好ましい。
【0025】
第3に、上記第1又は第2の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記第1電気信号及び、切り替える前記第2電気信号を負荷処理により安定化させた後、前記コンデンサに印可することが好ましい。
【0026】
第4に、上記第1から第3の発明のコンデンサの検査方法の、前記過渡応答波形測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることが好ましい。
【0027】
第5に、本発明のコンデンサの検査装置は、検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された直流電圧供給装置と、
前記ホルダー部の入力側に接続された信号発生装置と、
前記ホルダー部の出力側に接続された電圧/電流測定器を備え、
前記直流電圧供給装置が、前記コンデンサに直流バイアス電圧の印加を行い、
前記信号発生装置が、前記コンデンサに対して第1電気信号を入力した後、該第1電気信号とは波形が異なる第2電気信号に切り替えをおこない、前記コンデンサから過渡振動を含む振動を発生させ、発生させた前記過渡振動を含む振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記電圧/電流測定器が、前記反応電圧の前記振動反応電圧から過渡応答波形を測定することを特徴とする。
【0028】
第6に、上記第5の発明のコンデンサの検査装置において、前記コンデンサの検査装置が、
前記ホルダー部と前記信号発生装置との間に、直列に接続されたブリッジ負荷回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路を備え、
前記ブリッジ負荷回路が、前記第1電気信号及び前記第2電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることが好ましい。
【0029】
第7に、上記第6の発明のコンデンサの検査装置において、前記ブリッジ負荷回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることが好ましい。
【0030】
第8に、上記第6又は第7の発明のコンデンサの検査装置において、前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のコンデンサの検査方法は、電気機械結合の反応を振動源とし、振動変化への過渡応答からコンデンサの共振特性の情報を得て欠陥を探知する、外部の振動源が必要でない超音波探傷技術である。電気機械結合から起こる振動を用いるために振動を伝達する媒体を必要とせず、また検査感度がコンデンサの大きさに制限されない。さらに、過渡応答を用いるために測定に必要な時間は過渡応答の収束時間のみに制限され、例えば測定を2ms程度と非常に短時間で行うことができ、検査に高速性が求められる生産ラインに適用することが可能である。
【0032】
加えて、測定条件をコンデンサ個々に対し調整する必要がなく、例えば同一ロット品、同一品種などのような一定の群に対し、同一条件による検査が可能である。
【0033】
本発明は高い測定の安定性を有し、幅広い周波数帯に渡り、欠陥の反応も含めたコンデンサの共振特性を選択的に表出させることが可能で、高精度に不良を判別することができる。さらに、検査手法、装置構成が簡便であるため、検査システム全体を廉価に、かつ省スペースで構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】トーンバースト信号の信号周波数を1016kHzで測定した際の減衰過渡応答波形における固有振動モードの干渉を示すチャートである。
図2】過渡応答の周波数分布と共振曲線の比較であり、(A)は図1の減衰過渡応答波形を周波数成分に分解したものであり、(B)は周波数掃引により測定した同一のコンデンサの共振曲線である。
図3】従来の技術における良品コンデンサと内部欠陥コンデンサの共振曲線の比較であり(A)は良品コンデンサの共振曲線、(B)は欠陥により副次ピークを呈すコンデンサの共振曲線である。
図4】波形Aから波形Bへの電気信号の切り替えおよびコンデンサの振動状態を時系列上に表したチャートである。
図5】位相が固定された波形による信号の切り替えを表したチャートである。
図6】トーンバースト信号の信号構成を示すチャートである。
図7】FSK信号の信号構成を示すチャートである。
図8】FSK信号が入力された際の良品コンデンサの反応であり、(A)は、搬送波周波数を1100kHz、ホップ周波数を2200kHzとした場合のコンデンサの振動反応電圧、(B)は、その過渡応答波形の周波数成分分布、(C)は、基準良品コンデンサの共振曲線である。
図9】トーンバースト信号が入力された際の良品コンデンサの反応であり、(A)は、信号周波数を800kHzとした場合のコンデンサの振動反応電圧で、(B)は、その過渡応答波形の周波数成分分布、(C)は基準良品コンデンサの共振曲線である。
図10】2周波数混合波形バーストが入力された際の良品コンデンサの反応であり、(A)は、682kHzと1202kHzの正弦波の混合波形が入力されたコンデンサの振動反応電圧で、(B)は、その過渡応答波形の周波数成分分布、(C)は基準良品コンデンサの共振曲線である。
図11】FSK信号入力時の、良品コンデンサと内部欠陥コンデンサの過渡応答波形である。(A)、(B)は別個の良品コンデンサの過渡応答波形を、(C)、(D)は別個の内部欠陥コンデンサの過渡応答波形をそれぞれ表している。
図12】本発明のコンデンサの検査装置の基本的な構成を示す概略図である。
図13】(A)は、実施例1における良品コンデンサの周波数成分分布であり、(B)は、基準良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線である。
図14】(A)は、実施例1における内部欠陥コンデンサ(I群)の周波数成分分布であり、(B)は、基準良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線である。
図15】(A)は、実施例1における内部欠陥コンデンサ(III群)の周波数成分分布であり、(B)は、基準良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線である。
図16】実施例1における良品コンデンサ群及び内部欠陥コンデンサ(I~IV群)について、周波数成分分布のピークの鋭さと、ピーク周波数で仕分けた判定例グラフである。破線は良品群の3シグマ範囲を表す楕円である。
図17】(A)は、実施例2における良品コンデンサの周波数成分分布であり、(B)は、基準良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線である。
図18】(A)は、実施例2における内部欠陥コンデンサ(I群)の周波数成分分布であり、(B)は、基準良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線である。
図19】(A)は、実施例2における内部欠陥コンデンサ(III群)の周波数成分分布であり、(B)は、基準良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線である。
図20】実施例2における良品コンデンサ群及び内部欠陥コンデンサ(I~IV群)について、周波数成分分布のピークの高さと、ピーク周波数で仕分けた判定例グラフである。破線は良品群の3シグマ範囲を表す楕円である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明のコンデンサの検査方法では、第1電気信号により一定条件で振動しているコンデンサに対し、入力する信号を波形が異なる第2電気信号に切り替えることによって、選択的に複数の固有振動モードが混在した過渡振動を励起させる。第1電気信号および第2電気信号によって発生した振動および過渡振動は圧電効果により電圧に転換され、電気信号と重畳/干渉した電圧波形(振動反応電圧)となって出力される。振動反応電圧から、入力信号が第1電気信号から第2電気信号へ切り替わった際に起こる過渡応答反応を抽出し、良品コンデンサと不良品コンデンサの過渡応答波形の相違に基づいて良否を判別する。
【0036】
本発明のコンデンサの検査方法では、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、コンデンサに入力する電気信号を切り替え、過渡振動を発生させ、発生させた振動が電圧信号に転換され出力する振動反応電圧発生工程と、振動反応電圧から過渡応答成分を抽出して計測する過渡応答波形測定工程とを有し、過渡応答波形の特性に応じてコンデンサの良否の判定を行う良否判定工程を有している。
(検査対象コンデンサ)
本発明のコンデンサの検査方法で検査可能なコンデンサとしては、誘電性を持ち、プラス極とマイナス極の極性を有するコンデンサであれば特に制限なく検査が可能であり、具体的には、例えば、積層セラミックコンデンサ、円板型セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ、電解コンデンサ等を例示することができる。これらの中でも特に、チタン酸バリウム等の強誘電物質を用いた積層セラミックコンデンサの検査に好適に用いることができる。
<直流バイアス電圧印加工程>
本発明のコンデンサの検査方法では、まず、直流バイアス電圧印加工程として、検査対象のコンデンサに直流電圧を印加し、分極させて逆圧電効果を増大させる。通常、例えば積層セラミックコンデンサ(MLCC)には、小型化・大容量化を達成するために誘電物質として強誘電物質が採用されている。このような強誘電体コンデンサは、通常状態においても一定の分極を持つものであるが、通常のAC電界では逆圧電効果(電気歪効果)が顕在化することは少ない。しかし、バイアス電圧を印加することにより分極を促進させ、逆圧電効果を顕著に表出させることができる。
【0037】
なお、直流バイアス電圧は、一つのコンデンサを検査・測定している間、つまりコンデンサを振動させ過渡応答波形を測定する間は十分に一定であることが必要であるが、それ以外の時は一定値である必要はない。例えば、検査時間の2倍以上の周期を持つ矩形波、あるいは検査時間よりも十分長い周期を持つ正弦波なども利用可能である。
【0038】
直流バイアス電圧印加工程におけるバイアス電圧は、コンデンサの定格電圧以下であれば特に制限なく印加できるが、より高い精度の検査を行うことを考慮した場合には、定格の60%以下のバイアス電圧の印可が好ましい。
<振動反応電圧発生工程>
振動反応電圧発生工程では、構造物の振動が一つの定常振動から他の定常振動に移る際の過渡振動に、その構造物の共振特性の情報が含まれているという物理原理を利用し、コンデンサを第1電気信号の波形Aで振動させた後、波形Aとは異なる第2電気信号の波形Bに切り替えて、コンデンサの構造体の共振特性の情報を含んだ過渡振動を電気機械結合の逆圧電効果により励起させる。
【0039】
コンデンサに電気信号を入力すると、電気信号はコンデンサの振動源(応力)として機能する。コンデンサの構造上、印加される電圧に対し発生する電界は方向が1軸に固定されており、電気信号の値に対して、コンデンサ内に発生する電界は方向と大きさが完全に定まる。コンデンサに電気信号を入力した際、コンデンサの電極境界に電界の微分が生じ、これが電気機械結合の応力として働き、コンデンサの構造内に振動として伝搬する。
【0040】
振動の伝搬は波動方程式により記述できる現象である。一定周期の応力に対し、コンデンサは応力による振動エネルギーを熱として発散し、あるいは自身の構造の振動エネルギーとして蓄え、一定時間経過後に、応力の周期性に応じた安定した振動状態に達する。例えば、電気信号としてコンデンサに直流信号を入力すると、直流信号は時間変化しないため、信号入力前のコンデンサの振動状態にかかわりなく、一定時間経過後にコンデンサの振動は減衰し、消失する。また、周波数fの正弦波を入力すると、同様にコンデンサの初期振動状態にかかわりなく、一定時間経過後にコンデンサは周波数fで安定して振動するようになる。
【0041】
上記の安定した振動状態を定常振動と呼び、応力の周期性、つまり電気信号の周期性(電気信号の波形)と1対1で対応する。
【0042】
また、コンデンサのような幾何学的に単純な構造では、外部応力に対し複数の局在化した共振周波数(固有振動モード)を持つ。例えば、電気信号により固有振動数に整合した周波数の外部応力が加わると、構造はその周波数で大きく振幅する。一方、波形Aの第1電気信号により一定の応力で振動している状態(波形Aの定常振動)から別周波数の応力、つまり波形Bの第2電気信号による振動に切り替えると、コンデンサの振動は一定時間経過後に波形Bの周波数に収束するが(波形Bの定常振動)、そこに至るまでの過渡状態では波形Bの応力に起因する振動と、構造の固有モードに由来する過渡振動が組み合わされた混成波が出現する。同様に、波形Aにより定常振動している状態からコンデンサを振動させる応力を切る、つまり第2電気信号の波形をV=0の直流信号とすると、振動は減衰しながら構造の固有振動モードが組み合わされた混成波として振動する。
【0043】
構造の固有振動モードの測定例として、図1図2に、第1電気信号として1016kHzの正弦波をコンデンサに入力し、コンデンサを定常振動させた後、第2電気信号としてV=0の直流信号に切り替えた際の測定結果を示す。コンデンサの振動は電圧信号として測定されている。図1からわかるように、第1電気信号から、応力を切断する第2電気信号に切り替えると、コンデンサの振動は減衰しながら無振動状態へ向かい振動する。これが過渡振動の波形である。さらに、図2からわかるように、第2電気信号の過渡振動は、第1電気信号の周波数(1016kHz)とはかかわりなく、コンデンサの構造に由来する複数の固有振動モードの混成波として振動する。
【0044】
また、コンデンサ内の振動の伝搬を表す波動方程式は線形の微積分方程式であり、その解を線形重畳したものもやはり解である。例えば、ある振動状態にあるコンデンサに対し、波形Gの電気信号が一定時間経過後にコンデンサを定常振動させ、また、波形Hの電気信号も一定時間後にコンデンサを定常振動させる場合、波形Gと波形Hを重畳させた波形の電気信号もやはり一定時間後にコンデンサを定常振動させる。
【0045】
定常振動は応力を与える波形の周期性によって定義される。ここで、一般性を失わず、コンデンサを定常振動させる波形を
s(t)=V0+V1Sin(2πft+φ1)+V2Sin(2πf2t+φ2)+V3Sin(2πf3t+φ3)+・・・と置く。
波形sの値は時間軸の-∞<t<∞において定義されるものであり、特定の参照時間tにおいての位相を固定することで一意的に定めることができる。集合Sは、要素が波形sで、波形sのパラメター(V,f、φ)が取り得るすべての値の組合せをとった集合である。
【0046】
本発明では、コンデンサを定常振動させる第1電気信号及び第2電気信号の波形を、集合Sに含まれる波形の内、周波数成分が0の波形、有限個数の周波数成分で構成された波形、あるいは固有の周波数fを持つものとする。
【0047】
これらの波形の集合をS1と置く。説明のため、以下にS1に属する波形の例を挙げるが、発明の適用範囲はこれらの波形に制限されるものではない。
(i)0(無信号)
(ii)V+Sin(2πft+φ)(直流電圧との組み合わせ)
(iii)Sin(2πft)+Sin(4πft)+Sin(6πft)
(iv)周波数fの矩形波
(v)Sin(2πft)+Sin(2πeft)(eは自然対数の底)
これらの例で、(i)は周波数成分が0の波形である。(ii)は波形の周波数fを持つ。(iii)は3つの周波数成分で構成され、波形としての周波数1/6fを持つ。(iv)は、無限級数の周波数の重なり合いで表現されるが、波形として周波数fを持つ。(v)は2つの周波数成分の重なり合いであるが、波形としての周波数を持たず、非周期で振動する。
【0048】
さらに、S1に含まれる波形のうち、周期振動する、つまり波形としての周波数fを持つ波形、および周波数成分が0(つまりは直流電圧)の波形で構成された集合をS2と置く。
【0049】
ある時間(t)のコンデンサの振動状態(空間座標上のコンデンサの変位量とその変化速度で表される)をUと表す。
【0050】
一定周期の信号波形で定常振動しているコンデンサの振動状態は、波形の周期上の同一点、つまり同一位相の点(t)において同一の振動状態Uを示す。一方、非周期の波形で定常振動する場合は、周期上の同一点は存在しない。この場合、コンデンサを一定の振動状態(U)に固定するには、コンデンサが定常振動しており、なおかつ、入力開始からtまでの信号波形が同一のものである必要がある。
【0051】
本発明で用いる電気信号の切り替え方法は、品種、形状が一様なコンデンサの群に対して、検査の基準となる一定した過渡振動を発生させるものであり、波形Aの第1電気信号によって切り替え時(t=t)にコンデンサを特定の振動状態Uに固定し、切り替え後のコンデンサの振動状態を波形Bの第2電気信号の定常振動に誘導することでこれを実現している。
(電気信号の切り替えの設定パラメター)
以下に、本発明における電気信号切り替えに必要な構成要素を詳述する。構成要素および設定パラメターは以下のとおりである。
(a) コンデンサの過渡応答の持続時間の指標T
(b) S1に属する波形A
(c) S1に属する波形B
(d) 波形Aの標準参照時刻、および信号の入力開始時刻t
(e) 波形Aの信号入力終了時刻、波形Bへの切り替え時刻、および波形Bの標準参照時刻t、(t-t≧T
(f) 測定の開始時刻tiおよび終了時刻t、(t≦ti<t、およびt<t
(g) 波形Bの信号入力終了時刻t
(電気信号切り替えの手順)
電気信号の切り替え手順は、まず波形Aの第1電気信号を入力しコンデンサを定常振動させ、コンデンサが目的の振動状態Uを示したときに、波形Bの第2電気信号に切り替えることで、固定の振動状態Uから、波形Bの定常振動に至る過渡振動を発生させる。
【0052】
以下に、電気信号の切り替えの実施形態を説明する。図4に、波形Aから波形Bへの切り替え、および、コンデンサの振動状態を時系列上にチャートとして示す。
【0053】
図4に示す実施形態においては、まず、検査を行うコンデンサ群に対して時間定数Tを定めている。コンデンサの過渡応答の持続時間の指標Tは、過渡応答が収束するまでを基準とした一定の時間定数である。過渡振動が消失するまでの時間はコンデンサの形状、品種、初期振動状態、および信号の強さにより異なるが、例えば、3216、3225サイズのコンデンサではおおむね1ms以下である。
【0054】
入力開始時刻(t=t)に波形Aの第1電気信号をコンデンサに入力する。波形AはS1に属する波形であって、信号の入力開始時刻(t=t)を波形の基準時間とし、波形の位相振幅、周波数(または、波形の構成要素個々の振幅、位相、周波数)が定められている。
【0055】
波形Aの第1電気信号をTの時間以上入力することにより、コンデンサから不明な初期振動および過渡振動を消去し、コンデンサを定常振動させる。
【0056】
第1電気信号の入力時間(t-t)をコンデンサごとに一定とすることで、信号切り替え時の波形の位相を一定とし、切り替え時(t=t)のコンデンサの振動状態をUとして固定する。なお、波形Aが周期性を持つ、つまりS2に属する波形の場合、波形Aを(t≧t+T)の時刻まで入力し、その後、波形Aの周期上の同一点、つまり同一位相の点で信号を切り替えるようにしてもよい。この場合、コンデンサごとに第1電気信号の入力時間は必ずしも一定ではないが、切り替え時の振動状態Uは固定される。
【0057】
次に、(t=t)において、コンデンサに入力する電気信号を第1電気信号の波形Aから第2電気信号の波形Bへ切り替え、コンデンサを振動状態Uから波形Bの定常振動へ移行させ、過渡振動を発生させる。波形BはS1に属する信号であり、切り替え時刻(t=t)を波形の基準時間とし、波形の位相振幅、周波数(または、波形の構成要素個々の振幅、位相、周波数)を定める。
【0058】
コンデンサの振動状態の測定は、一定の時間枠(ti≦t≦tf)で行う。測定を開始する時刻tiは、t≦tiの任意の時で、通常、ti=tである。測定の終了時刻tfはt<tの任意の時であるが、t-t≧ Tとすれば、過渡応答の情報が最大限取得できる。
【0059】
t=tで、電気信号の入力を終了する。通常、t≧tである。
(信号の連続的な切り替え)
尚、波形Aから波形Bに切り替える際に、t=tから波形Aの位相、振幅など波形パラメターを連続的に変化させ、波形Bへ収束させるようにしてもよい。このような場合、波形Aが変化した時刻(t=t)から発生するコンデンサの反応を過渡応答とみなす。このような切り替えの例として、周波数を一定時間の内に変調させ別周波数に切り替えるスイープ信号、あるいは、信号の振幅を指数関数的に減衰させるような振幅スイープ信号などがあげられる。ただし、このような場合でも、一定の過渡反応を観測するために、波形Aから波形Bに収束するまでの信号波形は、コンデンサごとに一定であることが要求される。また、信号波形が波形Bへ収束する時間、つまり波形Bと入力信号との差異が電圧の測定感度εよりも小さくなるまでの時間は、過渡反応の持続時間Tcよりも小さい必要がある。
(信号の周期的な切り替え)
測定の一形態として、波形を切り替えるスイッチング信号を外部から入力し、波形を複数回あるいは周期的に切り替え、外部信号の任意の切り替えポイントで測定を行うことができる。例えば、スイッチング信号として一定周波数の矩形波を入力し、矩形波の立上りの際に第1電気信号の波形Aから第2電気信号の波形Bに、立下りの際に第2電気信号の波形Bから第1電気信号の波形Aに切り替わるよう制御し、矩形波の任意の立ち上がりポイントで測定が行える。この場合、波形発生器により、波形の切り替えごとに電気信号の位相(または標準参照時刻)を調整する、または、切り替えごとに固定位相の信号を出力すれば、周期的な切り替えにおいても上記で詳述された単発の波形切り替え手順をそのまま適用することができる。
【0060】
一方、例えば、図5に示すように、第1電気信号の波形の位相と第2電気信号の波形の位相が、共にある標準参照時刻に定められ、その後の切り替えを固定された位相で行う方式の場合、切り替えポイントごとの第1電気信号と第2電気信号の波形の位相がずれてしまう場合がある。このような方式で一定の過渡反応を測定するには、使用する波形に以下の条件を加え、切り替えポイントごとの波形の位相を一致させる。
【0061】
切り替えポイントでの波形の位相を一定させるには、第1電気信号の波形A、第2電気信号の波形Bを、いずれもS2に属する波形、つまり周期性を持つ波形とする。さらに、スイッチング信号の周期をPと置き、P、Pをそれぞれ波形A、波形Bの周期とすると、
P/P=k、P/P=m
となるようにする。ここでk、mは整数である。
【0062】
1セットの切り替えサイクルで、そのサイクルの内に第1電気信号の波形A、第2電気信号の波形Bが占める割合を、一般にデューティ比と呼ぶ、波形A、波形Bのデューティ比をそれぞれD、Dと置く。
【0063】
デューティ比は切り替えサイクルごとに一定であり、D+D=1である。したがって、第1電気信号の波形Aから第2電気信号の波形B、あるいは、波形Bから波形Aへの波形の切り替えも周期Pを持つ。これにより、切り替わり時の波形の位相を、切り替えサイクルごとに一定にできる。
【0064】
また、一つの切り替えサイクルで、波形Aの第1電気信号の入力開始時と、入力終了時(つまり、波形Bへの切り替え時)で、信号の位相が同一となるよう制御したい場合、P/P=kに加え、D×P/P=q(qは整数)が必要である。同様に、入力開始時と終了時の第2電気信号の位相を同一のものとしたい場合、P/P=mに加え、D×P/P=r(rは整数)が必要となる。q、rは一つの切り替えサイクルの中の波形の入力サイクル数と理解できる。
【0065】
さらに、コンデンサは第1電気信号の波形Aの入力終了時には定常振動していなくてはならない。波形Aのデューティ比Dに対し、
×P≧ T
が必要である。
【0066】
加えて、第2電気信号の波形Bへ切り替えた際の過渡振動の測定時間は十分でなくてはならない。このため、波形Bのデューティ比Dに対し、
×P~T
が好ましい。
【0067】
尚、波形A、または波形Bが直流電圧である場合、それらの波形への周期の制約はなく、デューティ比による入力時間のみ制限される。
【0068】
以下に、本発明による検査の実施における最適な波形の条件について詳述する。
【0069】
まず、第1電気信号の波形A、第2電気信号の波形Bのうち、少なくとも片方はコンデンサに振動エネルギーを蓄積するため、振動波形を用いることが好ましい。振動波形とは、その入力範囲において、波形の時間二階微分が複数のピークを持つものである。
【0070】
本発明で用いる信号波形の周波数成分は、検査対象となるコンデンサ群のサンプルごとのばらつきを考慮して、固有振動数から一定程度離して設定されることが好ましい。ここで、切り替え前後の波形周波数のどちらかがコンデンサの固有振動数と一致すると、過渡振動はそのモードが支配的となり、欠陥を含めたその他のモードに対する感度が相対的に低下してしまう。また、波形Aの周波数が固有振動数に近すぎると、固有振動数の近くでは周波数変化に対して振動振幅の変化が大きいため、個々の固有振動数のばらつきにより、切り替え時のコンデンサの振動条件Uが、測定群の中で一定しなくなる虞がある。
【0071】
第2電気信号の波形Bは最大でも数個の周波数成分で構成されるのが好ましい。解析においては、振動反応電圧の過渡応答成分を定常振動から分離する必要があるが、定常振動の波形が複雑すぎると分離が難しくなる。また、周波数成分から共振特性を解析する場合、定常振動の周波数成分はスペクトル上に鋭いピークを持ち、解析においてはノイズとなる。
【0072】
本発明の検査に用いる波形の構成周波数成分、または、波形としての周波数fは数100kHz~数10MHzの範囲が好ましい。
【0073】
一般的に用いられる電気信号であり、本振動反応電圧発生工程に好適な信号構成を持つものの例として、トーンバースト信号とFSK信号があげられる。トーンバースト信号は振幅偏移変調(ASK)信号の一種であり、図6に示すように、第1電気信号の波形Aを正弦波、第2電気信号の波形Bを電圧0の信号(無信号)として、波形A・Bのペアを一定周期で切り替えたものと考えることができる。一方、FSK(周波数偏移変調)信号は、図7に示す通り、第1電気信号の波形Aを正弦波、第2電気信号の波形Bを別周波数の正弦波として、波形A・Bのペアを切り替えるものである。
【0074】
本発明はコンデンサに入力する電気信号の使用方法において従来型技術とは一線を画しており、電気信号の周波数を掃引する、あるいは信号周波数をコンデンサの固有振動数に固定するなどの、測定中の電気信号の波形パラメター調整を必要としない。また、波形パラメターは、検査対象となるコンデンサ群(品種、ロット)に対して一定であり、コンデンサごとの個別調整も必要とされない。
【0075】
波形の切り替えの際、過渡振動にどの固有振動モードが励起されるかは、切り替え前のコンデンサの振動状態(U)、切り替え後の第2電気信号の波形B、および各モード間の結合の強さに依存する。一般的な指標として、切り替え前の波形Aの周波数をf、切り替え後の波形Bの周波数をfとすると、過渡振動には周波数がf~f間のモード、およびそれらに結合した、それらよりも低い周波数(つまり低エネルギー帯)のモードを励起できると考えられる。
【0076】
第1電気信号、第2電気信号、およびその切り替えによりコンデンサに発生した振動は、電気機械結合の圧電効果により電圧に転換される。コンデンサが定常振動しているとき、圧電効果による振動の電圧波形は、振動源となった電気信号、つまり分圧された第1電気信号および第2電気信号の波形と周期成分が等しく、電気信号の波形に重畳して出力される。一方、コンデンサが過渡振動しているとき、振動の電圧波形はコンデンサの固有振動モードが干渉した波形であり、それがさらに電気信号の波形と干渉し、出力される。本発明では、振動源となった電気信号と、過渡振動を含む振動から圧電効果により発生する電圧とが、重畳/干渉し出力される電圧波形を、振動反応電圧と呼ぶ。
【0077】
直流バイアス電圧印加工程および振動反応電圧発生工程を経た際にコンデンサからは、直流バイアス電圧、および上記振動反応電圧が重畳された電圧が出力されることとなる。本発明においてはこれを反応電圧と呼ぶ。
(ブリッジ負荷回路)
本発明のコンデンサの検査方法では、検査対象のコンデンサに対して抵抗器及び/又はインダクタで構成されたブリッジ負荷回路を直列に設けることにより、信号発生装置から測定回路全体への供給電力を安定させることができる。
【0078】
コンデンサのインピーダンスは周波数に反比例し、また、電流の位相も電圧から90°ずれることから、コンデンサを信号発生装置に直接接続した場合、信号発生装置からの入力電力が微小な寄生抵抗や寄生インダクタンスなどに影響されやすくなるため、安定したドライブが困難となり、測定の再現性に影響する場合がある。
【0079】
そのため、本発明では、ブリッジ負荷回路を測定対象のコンデンサに対して直列に接続することで、電流と電圧の位相ずれを低減し、信号発生装置がコンデンサをドライブしやすくすることができる。また、ドライブする信号周波数に関わらず、測定回路全体のインピーダンスが一定以上となることで、入力電力の周波数依存性を低減し、再現性を確保することができる。さらに、ブリッジ負荷回路は、測定対象のコンデンサにかかる電圧を一定以下に制限する働きがある。ブリッジ負荷回路により、コンデンサに入力される第1電気信号及び第2電気信号を安定させることができ、ひいてはコンデンサから出力される反応電圧を安定させることができる。
<過渡応答波形測定工程>
過渡応答波形測定工程では、上記振動反応電圧発生工程にてコンデンサから出力される反応電圧に含まれる振動反応電圧の波形から、信号が第1電気信号から第2電気信号へ切り替わることにより発生した過渡振動に起因する部分を、過渡応答波形として抽出する。
(フィルタ処理による振動反応電圧の表出)
本発明の検査方法では、まず、直流バイアス電圧印加工程および振動反応電圧発生工程を経てコンデンサから出力される反応電圧を、フィルタ回路に透過させるフィルタ処理を行うのが好ましい。フィルタ回路は、検査対象のコンデンサに並列に接続されるハイパスフィルタ回路であり、コンデンサの反応電圧から直流バイアス電圧を分離、除去し、微小な振動反応電圧を表出させることができる。
【0080】
また、フィルタ回路は、電気信号の入力端部と測定系の測定端部を分離する役割も果たす。測定端部はフィルタ内に置かれるため、コンデンサホルダー部の出力端部およびフィルタ要素を介して電気信号の入力端部とは分離される。これにより、電気信号入力時に測定端部に大電流が流れることがなくなり、測定端部の寄生抵抗や配線の寄生インダクタンスなどによるノイズが、測定値へ影響することを抑えることができる。
【0081】
なお、フィルタ処理において、フィルタ回路としてRCハイパスフィルタを用いる場合、時間定数τ=RCと置くと、フィルタのカットオフ周波数1/2πτは測定最低周波数よりも低く設定する必要がある。また、フィルタの入力インピーダンスが測定コンデンサに流れる電流に影響することを防ぐため、フィルタ抵抗はコンデンサのインピーダンスよりも必要十分に高く設定する必要がある。
【0082】
なお、通常、測定系はフィルタ処理後の電圧を測定するが、フィルタ回路またはフィルタコンデンサに直列に電流計を挿入し、電流を振動反応電圧の測定媒体としてもよい。これは、フィルタの抵抗器にかかる電圧の波形とフィルタ回路に流れる電流の波形が比例関係にあるからであり、電流、電圧のいずれを測定媒体としても、得られる振動反応電圧の情報に差異はない。
(過渡応答波形の抽出)
振動反応電圧の測定では、測定機器の基準参照時間を、コンデンサに入力する第1電気信号から第2電気信号に切り替わるとき(t=t)に設定し、コンデンサの振動反応電圧を測定することで、振動反応電圧から過渡応答成分を捕捉する。通常は、電気信号切り替えに同期するスイッチング信号に対し、電圧/電流測定器の測定開始トリガーを設定して測定する。また、振動反応電圧を測定するのと同時に電気信号の切り替えに同期した信号を測定することもできる。これにより、コンデンサの反応電圧から過渡応答成分を認識し、過渡応答波形を抽出することができる。
(FSK信号による過渡応答波形の抽出・解析例)
第1電気信号を周波数1100kHzの正弦波、第2電気信号を周波数2200kHzの正弦波とし、信号波形を周期的に切り替えた測定・解析例を示す。一般に、この信号構成はFSK信号と呼ばれる。1100kHzの第1電気信号(搬送波)から2200kHzの第2電気信号(ホップ波)に切り替わった際のコンデンサの振動反応電圧を図8(A)に、抽出された過渡応答波形の周波数成分分布を図8(B)に、また、比較として図8(C)に、基準良品コンデンサの共振曲線を示す。測定の時間基準(0s)は、波形の切り替わり時刻tに対応している。
【0083】
図8(A)から、第2電気信号に切り替わった際、コンデンサの振動反応電圧が2200kHzの定常振動に指数関数的に収束していく様子が確認できる。また、図8(B)から、振動反応電圧の周波数成分分布には1100kHz、2200kHzのいずれとも異なる周波数帯にピークが現れており、さらに、これらのピークが共振曲線のピークと一致することから、振動反応電圧の過渡応答成分にはコンデンサの共振特性の情報が含まれていることがわかる。また、周波数成分分布に1190kHz帯のピークのみならず、1780kHz帯と1840kHz帯にもピークが確認でき、2200kHzまでの幅広い帯域に感度を持っていることがわかる。
(トーンバースト信号による過渡応答波形の抽出・解析例)
第1電気信号の波形として周波数1240kHzの正弦波、第2電気信号の波形をV=0(無信号)とし、信号波形を周期的に切り替え、第1電気信号から第2電気信号ヘ波形が切り替わった際のコンデンサの振動反応電圧を図9(A)に示し、図9(B)に抽出された過渡応答波形の周波数成分分布を、比較として図9(C)に基準良品コンデンサの共振曲線を示す。一般に、この信号構成はトーンバースト信号と呼ばれる。図9(A)から、信号が無信号に切り替わった際、コンデンサの振動が自由振動しながら指数関数的に減衰していく様子が確認できる。図9(B)から、コンデンサは自由振動する際、自身の固有振動モードの混成波として振動していることがわかる。この例では、周波数成分分布に1190kHz帯のピークおよび1050kHz帯と650kHz帯のピークが確認でき、1240kHzから0Hzにかけた帯域に感度を持っていることがわかる。
【0084】
(2周波数混合波形バーストによる過渡応答波形の抽出・解析例)
第1電気信号の波形として周波数682kHzおよび1202kHzの正弦波の混合波形、第2電気信号の波形をV=0(無信号)として、信号波形を周期的に切り替え、第1電気信号から第2電気信号へ波形が切り替わった際のコンデンサの振動反応電圧を図10(A)に示し、図10(B)に、抽出された過渡応答波形の周波数成分分布を、比較として図10(C)に基準良品コンデンサの共振曲線を示す。周波数成分分布には1190kHz帯のピークおよび650kHz帯のピークが確認できる。FSK信号、トーンバースト信号による測定例に比べ、650kHz帯のピークがより強く励起されており、低周波帯への感度が高いことがわかる。
【0085】
上記の測定例から、第1電気信号から第2電気信号への波形の切り替えにより発生させた振動反応電圧の過渡応答波形は、幅広い周波数帯においてコンデンサの固有振動モードとその特徴を情報として含んでいることがわかる。
(測定速度)
本発明の検査方法において、測定速度は原理的に過渡応答が定常状態へ落ち着くまでの時間のみに制限されるため非常に高速である。定常解へ落ち着くまでの時間はコンデンサの種類や大きさ等により異なるが、通常1ms以下である。つまり、第1電気信号入力時、および第2電気信号への切り替え後の両方で定常状態へ落ち着く時間を見込んでも、一回の測定に必要な時間は最大2ms程度である。
<良否判定工程>
本発明の検査方法においては、測定・抽出された過渡応答波形に含まれる振幅、振動周波数、過渡応答の減衰速度、固有振動モードの干渉などの情報から、不良を判別することができる。例えば、図11は第1電気信号を周波数1100kHzの正弦波、第2電気信号を周波数2200kHzの正弦波としたFSK信号で測定を行った際の、良品と不良品(内部欠陥品)の過渡応答波形の比較であるが、良品と不良品との間に明確に差異が出ていることがわかる。特に、固有振動モードと入力信号の干渉(つまりビート現象)において、図11(A)、(B)の良品には一定周期の安定したうなりが確認できるが、図11(C)、(D)の不良品では良品と比べより長周期のうなりとなり、また、うなりの周期も安定しない。
【0086】
また、過渡応答波形の解析手法として、過渡応答波形に窓フーリエ変換、又はウェーブレット変換を行えば、一定時間窓の周波数成分分布によりコンデンサの共振特性をマッピングすることができる。例えば、フーリエ変換を行った場合、良品のピークはコンデンサの固有振動数にシャープに、つまりQ値が高く出現するが、不良品の場合は低Q値、複数ピークへの分割、副次ピークの出現など様々に発現する。これによりコンデンサの欠陥による異常を検知することができ、コンデンサの良否を判定することが可能である。
【0087】
以下に、上記本発明のコンデンサの検査方法を実現するための検査装置について詳述する。本発明のコンデンサの検査装置は、基本的な構成として、検査対象のコンデンサのホルダー部と、ホルダー部の入力側に接続された直流電圧供給装置と、ホルダー部の入力側に接続された信号発生装置と、ホルダー部の出力側に接続された電圧/電流測定器を備えている。また、ホルダー部と信号発生装置との間に、直列に接続されたブリッジ負荷回路と、ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路を備えることが好ましい。図12に、本発明のコンデンサの検査装置の一実施形態の概略構成図を示す。
【0088】
本実施形態の検査装置は、検査対象のコンデンサ1のホルダー部2と、直流電圧供給装置3と、信号発生装置4と、ブリッジ負荷回路5と、フィルタ回路6及び電圧/電流測定器7を備えている。
(ホルダー部)
ホルダー部2は、検査対象のコンデンサ1を載置して、コンデンサ1のプラス極及びマイナス極を外部装置及び外部回路と接続可能とする部材であり、形状等は、検査対象のコンデンサ1の形状、大きさ等に応じて適宜設定することができる。
(直流電圧供給装置)
直流電圧供給装置3は、コンデンサ1に直流バイアス電圧を印加するために設けられる装置であり、コンデンサ1に定格電圧以下の所定の電圧を供給できるものであれば特に制限はなく、具体的には、例えば、蓄電池や安定化電源、所定の電圧の比較的長いスパンの矩形波が発生可能な装置、また、測定時間内での所定電圧からの変化が十分小さい電圧波形を生成するファンクションジェネレータ等を用いることができる。
(信号発生装置)
信号発生装置4は、検査対象のコンデンサ1に第1電気信号及び第2電気信号を入力するための装置であり、所定の周波数を持つ様々な電圧信号の出力と切り替え、または重畳ができる装置であれば特に制限はなく、具体的にはファンクションジェネレータを好適に用いることができる。
(ブリッジ負荷回路)
ブリッジ負荷回路5は、ホルダー部2に直列に接続されて設けられる回路であり、電流と電圧の位相ずれを低減し、信号発生装置4からの第1電気信号及び第2電気信号を負荷処理により安定させドライブしやすくする、また、反応電圧を安定させるために設けられるものである。ここで、ブリッジ負荷回路5のインピーダンス|Zb|は、測定対象のコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きいことが要求される。
(フィルタ回路)
フィルタ回路6は、ホルダー部2に並列に接続され、コンデンサの反応電圧から直流バイアス電圧等の直流成分を分離、除去し、振動反応電圧を表出させるハイパスフィルタ回路であり、通常、フィルタコンデンサ61とフィルタ抵抗器62から構成されたRCハイパスフィルタ回路が用いられる。電圧/電流測定器7で電圧を測定する場合、フィルタ抵抗器62の一端はグラウンドに接地される。
(電圧/電流測定器)
電圧/電流測定器7は振動反応電圧から過渡振動成分を抽出し、測定する装置である。波形の切り替わりに同期した信号に対し測定トリガーをかけることができる、または、複数の信号を同時に測定できる装置であれば特に制限はない。例えば、一般的なオシロスコープを用いることができる。また、電圧/電流測定器7として、スペクトラムアナライザあるいはシグナルアナライザを用い、周波数成分分布に変換された過渡応答波形を出力することも可能である。測定された過渡応答波形から、コンデンサ1の欠陥を高信頼度で検出することが可能となる。
【0089】
上記実施形態の検査装置によれば、検査対象のコンデンサ1、コンデンサ1を載置するホルダー部2、直流バイアス電圧を印加するための直流電圧供給装置3と電気信号を発生させる信号発生装置4から構成される入力系、また、入力系への負荷インピーダンスを一定に保つ負荷処理を行うためのブリッジ負荷回路5、検査対象のコンデンサ1に並列に接続されたフィルタ回路6、該フィルタ回路6を介してコンデンサ1の反応を測定する電圧/電流測定器7で構成できるため、装置構成が簡便であり、検査システム全体を廉価かつ省スペースで構成することができる。
【0090】
以上、本発明のコンデンサの検査方法及び検査装置を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0091】
例えば、上記実施形態においては、検査対象の電子部品をコンデンサとして説明したが、原理的には電極を持ち、誘電体を構成要素とする、フェライト、積層電池等の他の電子部品の検査にも適用が可能である。
【実施例
【0092】
以下、本発明のコンデンサの検査方法について実施例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実験サンプル>
形状が長さ3.2mm、高さ1.6mm、幅1.6mm、容量10μF、耐圧35V、温度特性がX5Rの積層セラミックコンデンサ(MLCC)500個を実験サンプルとした。なお、コンデンサは市販のものであり、実験サンプルのコンデンサの品番はすべて同一のものとした。
(良品群)
実験サンプルから抜き取った、76個のコンデンサで良品群を構成した。良品の指標とするため、一定条件下で良品群のコンデンサの共振曲線を測定し、主要ピークである1190kHz帯のピーク周波数とピーク値を求めた。良品群の平均ピーク値および標準偏差は0.210±0.013Vであり、平均ピーク周波数および標準偏差は1191.6±4.1kHzであった。
(内部欠陥品)
サンプルサイズ42個ずつで構成した4群のコンデンサに対し、群ごとにそれぞれ異なる応力を加え、コンデンサに欠陥の生成を試みた。加えた応力は以下の通りである。
I群)急熱:室温にあるコンデンサを液体窒素(-196℃)に浸漬し、温度が安定したのちに液体金属(350℃)に浸漬し、熱衝撃を与えた。これを3回繰り返した。
II群)急冷:室温にあるコンデンサを液体金属(350℃)の上に置き加熱、温度が安定したのちに液体窒素に浸漬し、熱衝撃を与えた。これを2回繰り返した。
III群)物理衝撃:コンデンサの電極端部を上下から金属製の治具で固定し、重さ31gの円筒型金具を10cmの高さから自由落下させ、金具の底面を治具に当てた。これを2回繰り返した。
IV群)鉄球による物理衝撃: コンデンサの電極端部を上下から金属製の治具で固定し、重さ28gの鉄球を9cmの高さから治具へ自由落下させた。これを2回繰り返した。
【0093】
応力を加えたのち、従来型技術である波数スイープによりI~IV群のコンデンサの共振曲線を測定し、1190kHz帯ピークのピーク値が0.170V以下のものを欠陥品として識別した。
【0094】
欠陥品に対して検査員による外観検査を行い、欠陥が外部まで顕出しているものを外部欠陥品、外観検査では欠陥の特長が検出できなかったものを内部欠陥品として分類した。
【0095】
内部欠陥品に分類された個数は、I群が11個、II群が17個、III群が7個、IV群が10個であった。
<機器構成と設定>
以下の実施例では、図12に示す構成のコンデンサの検査装置において、負荷処理を行うブリッジ負荷回路としてブリッジ抵抗を設けるとともに、フィルタ回路としてカットオフ周波数が50kHzのRCハイパスフィルタ回路及び、電圧/電流測定器としてのオシロスコープ(アジレント InfiniVision DSO-X-3024A)を用い、直流バイアス電圧を12.0Vに設定し、計測を行った。
<実施例1:FSK信号による内部欠陥品の判別>
実施例1では、FSK信号を用い、第1電気信号をFSK信号の搬送波として周波数975kHz、第2電気信号をFSK信号のホップ波とし周波数2925kHzの、それぞれ正弦波に設定し、良品コンデンサと内部欠陥品コンデンサの振動反応電圧を測定した。
【0096】
図13(A)に、良品コンデンサの過渡応答波形の周波数成分分布を示し、図13(B)に基準として良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線を示す。図13(A)に示す良品コンデンサの周波数成分分布では、共振曲線と同様に1190kHz付近のマイナスに鋭く大きなメインピークが現れ、正常な固有振動数である650kHz帯、1040kHz帯、および高次周波数帯にも相対的に小さなピークが認められるが、その他の周波数には顕著なピークは認められない。
【0097】
図14(A)、図15(A)に、内部欠陥コンデンサの過渡応答波形から得た周波数成分分布、また、図14(B)、図15(B)に、比較対象として良品コンデンサの共振曲線を示す。図14(A)はI群(急熱)に属する内部欠陥品の周波数成分分布である。ここでは共振ピークが全体的に低周波帯にシフトしており、また、良品に比してピーク全体の高さが低下し、低Q値のピークとなっている。さらに、固有振動数以外に副次ピークの発生が認められる。
【0098】
図15(A)に示すIII群(物理衝撃)内部欠陥品コンデンサの周波数成分分布では、メインピーク(1190kHz帯)が分割しており、さらに650kHz帯と1190kHz帯の間に明瞭な副次ピークが見られる。
【0099】
次に、上記の測定から得られた過渡応答波形の周波数成分分布から、メインピーク(1190kHz帯)のピーク周波数fと、ピークの鋭さ(Q値)の指標としてピーク周波数での周波数成分(W)の2階微分、Q=dW/df|f=fを算出し、(f,Q)からなるデータセットを得た。
【0100】
図16(A)、(B)に、このデータセットを良品群および内部欠陥品(I~IV群)に振り分けてプロットしたチャートを示す。破線は良品群のピーク周波数とピークの鋭さがそれぞれ独立して正規分布すると仮定した同時確立分布の3シグマ範囲の楕円を表している。チャートから、良品コンデンサのピーク周波数が1180~1190kHz付近に、Q値が0.03~0.06V/kHz付近に集中しているのに対して、内部欠陥コンデンサでは、ピーク周波数が幅広く現れ、Q値も低いことが確認できる。また、II群の5個、III群の1個を除き、3シグマ範囲の外にあることが確認できる。
<実施例2:トーンバースト信号による内部欠陥品の判別>
次に、実施例2として、トーンバースト信号の信号周波数を1300kHzに設定し、内部欠陥品コンデンサの振動反応電圧を測定した。
【0101】
図17(A)に、良品コンデンサの過渡応答波形の周波数成分分布を示し、図17(B)に基準として良品コンデンサの波数スイープによる共振曲線を示す。この良品コンデンサの周波数成分分布では、共振曲線と同様に1190kHz付近のマイナスに鋭く大きなメインピークが現れ、正常な固有振動数である650kHz帯、1040kHz帯、および高次周波数の1300kHz帯に相対的に小さなピークが認められるが、その他の周波数には顕著なピークは認められない。
【0102】
図18(A)は、I群(急熱)に属する内部欠陥品の周波数成分分布であり、図18(B)は、比較対象としての良品コンデンサの共振曲線である。1190kHz帯ピークの周波数が低下し、さらに、ピーク値の減少が顕著である。
【0103】
図19(A)は、III群(物理衝撃)内部欠陥コンデンサの周波数成分分布であり、図19(B)は、基準としての良品コンデンサの共振曲線である。1190kHz帯ピークのピーク値が顕著に低下し、また、副次ピークの発生も認められる。
【0104】
上記の測定から得られた過渡応答波形の周波数成分分布から、1190kHz帯のピーク周波数fおよびピーク値Wpを算出し、(f,W)からなるデータセットを得た。図20(A)にこのデータセットを良品群および内部欠陥品(I、II群)に、図20(B)に良品群および内部欠陥品(III、IV群)に振り分け、プロットしたチャートを示す。破線は良品群のピーク周波数とピーク値がそれぞれ独立して正規分布すると仮定した同時確立分布の3シグマ範囲の楕円を表している。
【0105】
図20(A)(B)のチャートから、良品群のコンデンサのピーク周波数が1180~1190kHz帯に、ピーク値が0.35~0.55V/kHzに集中するのに対し、内部欠陥品ではピーク周波数が高周波帯および低周波帯に広く分散する傾向がみられ、また、ピーク値が大きく減少することがわかる。また、内部欠陥品はI群の1個を除き、すべて3シグマ範囲の外にあることが確認できた。
【0106】
以上の結果から、本発明のコンデンサの検査装置を用いて、振動反応電圧から電気信号切り替え時の過渡応答波形を抽出し、周波数成分分布による解析を行うことにより、コンデンサの欠陥を高速かつ高信頼度で検出し、良否判定を行うことが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0107】
1 コンデンサ
2 ホルダー部
3 直流電圧供給装置
4 信号発生装置
5 ブリッジ負荷回路
6 フィルタ回路
61 フィルタコンデンサ
62 フィルタ抵抗器
7 電圧/電流測定器
【要約】      (修正有)
【課題】製造ライン上のコンデンサを、簡便な装置を用いて定格(電圧、電流)内で非破壊検査し、欠陥を高速に高信頼度で検出することが可能なコンデンサの検査方法及びこれに用いる検査装置を提供すること。
【解決手段】検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、コンデンサに対して第1電気信号を入力した後、第1電気信号とは波形が異なる第2電気信号に切り替えをおこない、コンデンサから過渡振動を含む振動を発生させ、発生させた過渡振動を含む振動に起因する振動反応電圧と、直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程と、反応電圧の振動反応電圧から過渡応答波形を測定する過渡応答波形測定工程とを有することを特徴とする。
【選択図】図12
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
図16
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図18
図19
図20