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  • 特許-インクセット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】インクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20220927BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220927BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C09D11/54
B41M5/00 134
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022086002
(22)【出願日】2022-05-26
(62)【分割の表示】P 2022031912の分割
【原出願日】2022-03-02
(65)【公開番号】P2022136072
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2021033825
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】牧本 祐二
(72)【発明者】
【氏名】両角 俊也
(72)【発明者】
【氏名】白石 直樹
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145336(JP,A)
【文献】特開2015-040347(JP,A)
【文献】特開2001-080199(JP,A)
【文献】特開2021-074992(JP,A)
【文献】特開2017-222143(JP,A)
【文献】特開2020-164571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットであって、
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たし、
前記水性インクは、樹脂を含有し、該樹脂は樹脂エマルジョンを形成し、
前記オーバーコートインクに含有される色材の含有量は、1.0質量%以下である
インクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【請求項2】
水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、それぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たすインクセットを基材上に吐出する装置であって、
前記水性インクは、樹脂を含有し、該樹脂は樹脂エマルジョンを形成し、
前記オーバーコートインクに含有される色材の含有量は、1.0質量%以下であり、
前記水性インクを吐出する水性インク吐出部と、
前記オーバーコートインクを吐出するオーバーコートインク吐出部と、
がこの順に前記基材の搬送方向に沿うように備えている、
装置。
オーバーコートインクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【請求項3】
前記水性インク吐出部と、前記オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない
請求項2に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として前処理インクと水性インクを含むインクセット、このインクセットを使用したインクジェット記録方法、印刷物の製造方法、このインクセットを吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク組成物の液滴を紙等の基材に直接吐出し、塗布して文字や画像を得る記録方式である。この記録方式は、小型化、高速化、低騒音化、省電力化、カラー化が容易であり、しかも基材に対して非接触印刷が可能であることから、家庭用途のみならず、オフィス用途、商業印刷用途にまで適用範囲が拡大している。
【0003】
インクジェット記録方式に使用されるインク組成物として、各種の色材を水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液に溶解させた水性インクが広く用いられている。このような水を主成分とする水性インクは、環境に対する影響が少なく、引火することがないため作業者に対して安全性が高い。
【0004】
しかしながら、普通紙や再生紙等、広く一般に用いられる紙等の基材に対して水性インクを噴出すると、水性インクが紙繊維に吸収されるとともに、着弾位置の周囲に広がってにじみが生じ得る。
【0005】
そこで、色材がアニオン性であることに着目し、基材に水性インクを吐出するのに先立ち、カチオン性の化合物を含む前処理インクを基材に吐出し、その後、前処理インク上に水性インクを吐出することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、インクジェット方式には、インクジェットヘッドを左右方向に移動させ数回に分けてインクを吐出するスキャニング方式の他、インクジェットヘッドを固定させ、基材をインクジェットヘッドに1度通過させることにより画像を形成する1パス方式がある。1パス方式は、基材をインクジェットヘッドに1度通過させることにより画像を形成することができるため印刷速度が速く印刷物(積層体)の生産性が高いという利点がある。
【0007】
例えば、特許文献2には、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットであって、L値の低いインクを吐出し、最後にL値の高いインクを吐出することを特徴とするインクジェット記録方法が記載されている。特許文献2には、このインクジェット記録方法は、カラーインク間のブリード(にじみ)の発生を抑制するとともに、記録媒体(基材)におけるインクの裏抜けを防止することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-051357号公報
【文献】特開2018-144495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、近年では、インクジェット吐出する記録方式を使用して印刷するために、基材をより高速で搬送し、それぞれのインク吐出部からそれぞれのインクを吐出する。すると、それぞれのインクが基材に着弾するまでの時間が短いと、水性インクの着弾位置の周囲に広がってにじみが生じることがあった。このような問題は、高速で印刷した場合に特に顕著となる。
【0010】
このようなにじみを抑制する手段として、例えば、それぞれのインク吐出部の間に乾燥機構を設けて、基材に着弾したインクを乾燥させる方法が挙げられる。しかしながら、インクセットを吐出する装置等に乾燥機構を備えると、装置自体が大きくなってしまうため装置の小型化やコストダウンが困難となる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、インクジェット吐出する記録方式で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することのできるインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、前処理インクと、水性インクと、を含むインクセットにおいて、それぞれのインクの静的表面張力を所定の範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)前処理インクと、水性インクと、を含み、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットであって、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、インクセット。
前処理インクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0014】
(2)さらに、オーバーコートインクを含み、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、(1)に記載のインクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力S≦前処理インクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0015】
(3)前記水性インクの静的表面張力Sと前記オーバーコートインクの静的表面張力Sとの差は0.6mN/m以上である、(2)に記載のインクセット。
【0016】
(4)それぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いられる(1)から(3)のいずれかに記載のインクセット。
【0017】
(5)(1)から(4)のいずれかに記載のインクセットを使用したインクジェット記録方法であって、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出する、記録方法。
【0018】
(6)前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを吐出する吐出部の間に乾燥機構を備えないようにして、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する(5)に記載の記録方法。
【0019】
(7)(1)から(4)のいずれかに記載のインクセットを使用した印刷物の製造方法であって、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出する、印刷物の製造方法。
【0020】
(8)前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを吐出する吐出部の間に乾燥機構を備えないようにして、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する(7)に記載の印刷物の製造方法。
【0021】
(9)前処理インクと、水性インクと、を含み、それぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たすインクセットを吐出する装置であって、前記前処理インクを吐出する前処理インク吐出部と、前記水性インクを基材上に吐出する水性インク吐出部と、がこの順に前記基材の搬送方向に沿うように備えている、装置。
前処理インクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0022】
(10)前記前処理インク吐出部と、前記水性インク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない(9)に記載の装置。
【0023】
(11)前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、それぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たすインクセットを吐出する装置であって、前記前処理インクを基材上に吐出する前処理インク吐出部と、前記水性インクを吐出する水性インク吐出部と、前記オーバーコートインク吐出するオーバーコートインク吐出部と、がこの順に前記基材の搬送方向に沿うように備えている、装置。
オーバーコートインクの静的表面張力S≦前処理インクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0024】
(12)前記水性インク吐出部と、前記オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない(11)に記載の装置。
【0025】
(13)前記前処理インク吐出部と、前記水性インク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない(11)に記載の装置。
【0026】
(14)前記水性インク吐出部と、前記オーバーコートインク吐出部と、の間及び前記前処理インク吐出部と、前記水性インク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない(11)に記載の装置。
【0027】
(15)水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットであって、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、インクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0028】
(16)水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、それぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たすインクセットを基材上に吐出する装置であって、前記水性インクを吐出する水性インク吐出部と、前記オーバーコートインクを吐出するオーバーコートインク吐出部と、がこの順に前記基材の搬送方向に沿うように備えている、装置。
オーバーコートインクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0029】
(17)前記水性インク吐出部と、前記オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない(16)に記載の装置。
【発明の効果】
【0030】
本発明のインクセットは、インクジェット吐出する記録方式でより印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態のインクセットに好適に使用することができるインクセットを吐出する装置である。
図2】インクセットを吐出する従来の装置である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0033】
≪1-1.本発明の第一実施形態のインクセットの概要≫
本発明の第一実施形態のインクセットは、前処理インクと、水性インクと、を含み、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットであって、インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、インクセットである。
【0034】
前処理インクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0035】
このようなインクセットであれば、インクジェット吐出する記録方式でより高速で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。インクジェット吐出する記録方式を使用してより高速で印刷した場合には、前処理インクが基材に着弾してから水性インクが基材上の前処理インクに着弾するまでの時間が短い。このため、基材上の前処理インクの流動性が高い状態で、水性インクが基材上の前処理インクに着弾されることとなって、水性インクが広がってにじみが生じることとなる。
【0036】
そこで、前処理インクの静的表面張力Sを水性インクの静的表面張力Sよりも小さいように構成されたインクセットであれば、基材上の前処理インクの流動性が高い状態で、水性インクが基材上の前処理インクに着弾されても、水性インクが広がることを抑制することができる。これにより、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。なお、第一実施形態のインクセットは、カチオン性の化合物を含む前処理インクを含んでおり、前処理インクにより水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。
【0037】
≪1-2.インクセット≫
以下では、第一実施形態のインクセットの具体的な実施形態として、前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、それぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットを例に挙げて説明する。第一実施形態のインクセットは、オーバーコートインクを含むことは必須の構成ではないが、基材上の水性インクに所望の機能を有するオーバーコートインクを吐出することで、得られる印刷物に耐擦性、光沢性、耐候性等を付与し、又は印刷物の表面をマット調(艶消し)やメタリック調にする等の所望の機能を有するオーバーコート層を形成することができる。
【0038】
また、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式は、より高速な印刷が可能であるため、それぞれのインクが基材に着弾するまでの時間がより短くなって、水性インクの着弾位置の周囲に広がってにじみがより顕著に生じ得るものである。第一実施形態のインクセットは、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いられることは必須ではなく、例えば搬送方向と直交する方向に動くインクジェットヘッドを用いて、ヘッドの往復と基材(記録媒体)を合わせて基材(記録媒体)全体に印刷するスキャン方式でインクジェット吐出する記録方式に用いてもよいが、ラインヘッド方式等の1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いることにより、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式で発生し得る問題を生じずにより高速な印刷が可能であるという利点を享受することが可能である。
【0039】
具体的に、本実施の形態に係るインクセットは、前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、インクセットである。
【0040】
オーバーコートインクの静的表面張力S≦前処理インクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0041】
1パス方式でインクジェット吐出する従来の装置1Aを図2に示す。この装置1Aは、前処理インク11Aを吐出する前処理インク吐出部21Aと、水性インク12Aを吐出する水性インク吐出部22Aと、オーバーコートインク13Aを吐出するオーバーコートインク吐出部23Aがこの順に基材(記録媒体)の搬送方向に沿うように備えている。
【0042】
そして、それぞれの吐出部21A、22A、23Aの間には、乾燥機構32A、33Aを備えている。それぞれのインクが基材に着弾して乾燥機構により乾燥させて次のインクを着弾させることが可能となる。これにより、1パス方式を使用してより高速で印刷した場合であってもインクが基材に着弾したそれぞれのインクの流動性が低下するので、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0043】
ところが、吐出部の間に乾燥機構を備えると、装置自体が大きくなってしまうため装置の小型化やコストダウンが困難となる。また、折角1パス方式を使用して基材(記録媒体)の搬送速度を上げても基材(記録媒体)が印刷装置に装入されて乾燥するまでの搬送部全体が長くなるため、結果として印刷(記録)速度が低下して印刷物の製造速度が低下することとなる。
【0044】
そこで、それぞれのインクの静的表面張力をS≦S<Sに制御することにより、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない図1に記載したような装置1を使用して基材(記録媒体)を搬送してインクジェット吐出しても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0045】
前処理インクの静的表面張力Sが水性インクの静的表面張力Sよりも小さいこと(S<Sであること)であることで水性インクのにじみを抑制できる理由は必ずしも明らかではない。水性インクが前処理インクの表面に着弾後、その水性インクは収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、前処理インクの表面に着弾した水性インクの濡れ広がりを制御し、水性インクのにじみを効果的に抑制することができるものと推定される。
【0046】
なお、前処理インクは、基材上に吐出されて固化又は乾燥されてインク受容層等を形成するものであってもよいが、前処理インクが基材上に着弾して液体として存在している間(流動性を有する状態)に吐出されて、基材に着弾されるインクであることが好ましい。基材上の前処理インクの流動性が高い状態で、水性インクが基材上の前処理インクに着弾されても、水性インクが広がることを抑制することができる。しかも、基材上の前処理インクの流動性が高い状態で、水性インクが基材上の前処理インクに着弾されることでより高速で印刷することが可能となって印刷物の製造速度を向上させることが可能となる。
【0047】
さらに、オーバーコートインクを吐出して基材上に着弾させる際には、すでに基材上に着弾された前処理インクと、水性インクと、は混合されている状態である。オーバーコートインクの静的表面張力Sを前処理インクの静的表面張力S以下(S≦Sである)であれば、必然的にオーバーコートインクの静的表面張力Sは、すでに基材上に着弾された前処理インクと水性インクとの混合物の静的表面張力よりも小さくなる。オーバーコートインクの静的表面張力Sが前処理インクの静的表面張力S以下(S≦Sである)であることで水性インクのにじみを抑制できる理由は必ずしも明らかではない。オーバーコートインクと混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)との界面でオーバーコートインクは広がる方向(外側の方向)に流動し、混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、水性インクの濡れ広がりを制御し、水性インクのにじみを効果的に抑制することができるものと推定される。
【0048】
なお、オーバーコートインクは水性インクが固化又は乾燥されることにより形成された層上に着弾されてもよいが、水性インク(又は、水性インクと前処理インクの混合物)が基材上に着弾して液体として存在している間(流動性を有する状態)に吐出されて、基材に着弾されることが好ましい。基材上の水性インク(又は、水性インクと前処理インクの混合物)の流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インク(又は、水性インクと前処理インクの混合物)に着弾されても、水性インクが広がることを抑制することができる。しかも、基材上の水性インク(又は、水性インクと前処理インクの混合物)の流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インク(又は、水性インクと前処理インクの混合物)に着弾されることでより高速で印刷することが可能となって印刷物の製造速度を向上させることが可能となる。
【0049】
なお、それぞれのインクの静的表面張力は、S≦S<Sの関係を満たしていればよいが、SとSとの差(S-S)の下限は、0.5mN/m以上であることが好ましく、0.7mN/m以上であることがより好ましく、0.9mN/m以上であることがさらに好ましい。SとSとの差(S-S)が0.5mN/m以上であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、水性インクが前処理インクの表面に着弾後に、その水性インクは収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができるものと推定される。
【0050】
また、SとSとの差(S-S)の上限は特に限定されないが、7.0mN/m以下であることが好ましく、5.5mN/m以下であることがより好ましく、3.0mN/m以下であることがさらに好ましい。SとSとの差(S-S)が7.0mN/m以下であることにより、水性インクのはじきを効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SとSとの差(S-S)が7.0mN/m以下であることにより、水性インクが適度に濡れ広がって基材埋まりが良好となるためであると推定される。
【0051】
また、SとSとの差(S-S)の下限は、0mN/m以上であることが好ましく、0.2mN/m以上であることがより好ましく、0.4mN/m以上であることがさらに好ましい。SとSとの差(S-S)が0mN/m以上であることにより、水性インクのにじみを抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SとSとの差(S-S)0mN/m以上であることで、オーバーコートインクに対して混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動して水性インクのにじみを抑制できるためであると推定される。
【0052】
また、SとSとの差(S-S)の上限は特に限定されないが、3.5mN/m以下であることが好ましく、3.0mN/m以下であることがより好ましく、2.7mN/m以下であることがさらに好ましい。SとSとの差(S-S)が3.5mN/m以下であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SとSとの差(S-S)が大きすぎるとオーバーコートインクが大きく濡れ広がりすぎて、混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)が物理的に追従して濡れ広がってしまい水性インクのにじみが相対的に悪くなる傾向がある。SとSとの差(S-S)が3.5mN/m以下であることにより、オーバーコートインクが大きく濡れ広がることによる水性インクのにじみをより効果的に抑制できるためであると推定される。
【0053】
また、SとSとの差(S-S)の下限は、0.6mN/m以上であることが好ましく、0.8mN/m以上であることがより好ましく、0.9mN/m以上であることがさらに好ましい。SとSとの差(S-S)が0.6mN/m以上であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SとSとの差(S-S)が0.6mN/m以上であることで、オーバーコートインクに対して混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動して水性インクのにじみを抑制できるためであると推定される。
【0054】
また、SとSとの差(S-S)の上限は特に限定されないが、7.5mN/m以下であることが好ましく、6.0mN/m以下であることがより好ましく、4.5mN/m以下であることがさらに好ましい。特に、SとSとの差(S-S)が7.5mN/m以下であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SとSとの差(S-S)が大きすぎるとオーバーコートインクが大きく濡れ広がりすぎて、混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)が物理的に追従して濡れ広がってしまい水性インクのにじみが相対的に悪くなる傾向がある。SとSとの差(S-S)が7.5mN/m以下であることにより、オーバーコートインクが大きく濡れ広がることによる水性インクのにじみをより効果的に抑制できるためであると推定される。
【0055】
次に、第一実施形態のインクセットに含まれるそれぞれのインクについて説明する。
【0056】
<前処理インク>
前処理インクは、基材に水性インクを吐出するのに先立ち水を主成分として含み、カチオン性の化合物を含む水性のインクである。前処理インクは、カチオン性の化合物を含み、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されない。
【0057】
[カチオン性の化合物]
カチオン性の化合物は、後述する水性インクに含まれる色材を凝集させ、着弾位置の周囲に広がることにより発生するにじみを抑制する。カチオン性の化合物としては、カチオン基を有するカチオン性の樹脂や金属イオン(カチオン性の化合物)とアニオンからなる金属塩を挙げることができる。この中でも、カチオン基を有するカチオン性の樹脂を使用することが好ましい。これにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、カチオン性の樹脂は、分子鎖中の反応点が多く、また樹脂を構成する分子鎖の絡み合いも加わり、水性インクに含まれる色材との凝集性が向上する。また、前処理液の浸透性を向上させることができる。これらのことから、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができるものと推定される。
【0058】
カチオン性の樹脂としては、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、-NHCONH基等のカチオン基を有する樹脂が挙げられる。カチオン性の樹脂は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。
【0059】
カチオン性の樹脂は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。以下に市販品を例示すると、APC-810,815;D-6010,6020、6030、6040、6050、6060、6080、6310、DEC-50,53、56,65;FL-14、42,44LF、61、2099,2250,2273、2350、2550、2565、2599、2650、2850、2949、3050、3150、4340、4420、4440、4450、4520、4530、4535、4540、4620、4820;FQP-1264;RSL-18-22,4071H,4400,8391、8391H、HD70C、HF70D;WS-72(SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(星光PMC社製)、センカF-300;パピオゲンP-105、P-113、P-271、P-316;ピッチノールQG5A;ミリオゲンP-20;ユニセンスFPA100L、FPA101L、FPA102L、FPA1000L、FPA1001L、FPA100LU、FPA102LU、FPA1000LU;ユニセンスFCA1000L、FCA1001L、FCA1002L、FCA1003L、FCA5000L;ユニセンスKCA100L、KCA100LU、KCA1000LU、KCA1001LU;ユニセンスKHE100L、KHE101L、KHE102L、E104L、KHE105L、KHE107L、KHE1000L、KHE1001L;ユニセンスKHP10P、KHP11L、KHP10LU、KHP11LU、KHP12LU、KHP20LU:ユニセンスKHF10L、KHF11L;ユニセンスFPV1000L、FPV1000LU;ユニセンスFCV1000L;ユニセンスZCA1000L、ZCA1001L、ZCA1002L、ZCA5000L;ユニセンスKPV100LU、KPV1000LU(センカ社製)、パラロック410K101、410K111、420K308、420K300、460K313、460K318、470K308、480K300、490K300、490K309、500K30E、500K40E、59D、920AP500、975AP500、PD700、PD714L、PD714S、P600、(浅田化学社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(田岡化学工業社製)、EP-1137;MZ-477、480;NS-310X、625XC(高松油脂社製)、PAA-D11-HCL、D19-HCL,D41-HCL、D19A;PAA-HCL-03、05、3L、10L;PAA-1112CL、21CL、AC5050A、N5050CL、SA;PAS-A-1、5;PAS-H-1L、5L、10L;PAS-J-81、81L;PAS-M-1、1A、1L;PAS-21、21CL,22SA-40、24、92、92A、880、2201CL、2401(ニットーボーメディカル社製)、PP-17(明成化学社製);カチオマスターPD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(里田化工社製)などとなる。
【0060】
なお、カチオン性の樹脂は、前処理インク中に溶解した状態で存在していても、樹脂微粒子として分散された状態で存在していてもよい。
【0061】
金属塩としては、価数が少なくとも2価以上の多価金属のイオンと、陰イオンと、を含む多価金属塩を挙げることができる。多価金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等が挙げられる。なかでも、インク組成物中の色材との相互作用が大きく、にじみやムラを抑制する効果が高くなることから、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンより選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0062】
陰イオンは、無機物の陰イオンであってもよく、有機物の陰イオンであってもよい。有機物の陰イオンの具体例としては、酢酸、安息香酸、サリチル酸、2、4-ジヒドロキシ安息香酸、2、5-ジヒドロキシ安息香酸、ジメチロールプロピオン酸、パントテン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、スベリン酸、トリメリット酸、メチルマロン酸の陰イオンを挙げることができる。無機物の陰イオンの具体例としては、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等を挙げることができる。
【0063】
カチオン性の化合物の含有量としては、特に限定されるものではないが、カチオン性の化合物の含有量の下限は、前処理インク全量中0.5質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.8質量%以上の範囲内であることがより好ましく、1.0質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。カチオン性の化合物の含有量が前処理インク全量中0.5質量%以上の範囲内であることで、色材をより効果的に定着することが可能となり、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。カチオン性の化合物の含有量の上限は、前処理インク全量中9質量%以下の範囲内であることが好ましく、8質量%以下の範囲内であることがより好ましく、7質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。カチオン性の化合物の含有量が前処理インク全量中9質量%以下の範囲内であることで、前処理インクの保存安定性及び吐出安定性が向上する。
【0064】
[樹脂]
前処理インクに含まれる樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有してもよい。樹脂エマルジョンとは、続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が立体反発力や静電反発力によって樹脂微粒子として受理溶液中に分散することができる。
【0065】
前処理インクに含有される樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂あるいは共重合樹脂を含むものあるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0066】
前処理インクに含有される樹脂の含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂の含有量の下限は、前処理インク全量中0.5質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.8質量%以上の範囲内であることがより好ましく、1.0質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。樹脂の含有量の上限は、前処理インク全量中20.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、15.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0067】
[水]
前処理インクは、水を主成分として含有する。水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水の含有量の下限は、前処理インク全量中30質量%以上の範囲内であることが好ましく、前処理インク全量中50質量%以上の範囲内であることがより好ましく、55質量%以上の範囲内であることがさらに好ましく、60質量%以上の範囲内であることがさらになお好ましい。水の含有量の上限は、前処理インク全量中85質量%以下の範囲内であることが好ましく、82質量%以下の範囲内であることがより好ましく、80質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0068】
[水溶性溶媒]
前処理インクには、水溶性溶媒を含有してもよい。水溶性溶媒は、樹脂等を分散又は溶解することができるものである。
【0069】
ここで、本明細書において水溶性溶媒とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で5質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上溶解することができるものをいう。
【0070】
水溶性溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類;ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミド、ブタンアミド、イソブチルアミド、ペンタンアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、N-メチルブタンアミド、N-メチルイソブチルアミド、N-メチルペンタンアミド、N-エチルホルムアミド、N-エチルアセトアミド、N-エチルプロパンアミド、N-エチルブタンアミド、N-エチルイソブチルアミド、N-エチルペンタンアミド、N-プロピルホルムアミド、N-プロピルアセトアミド、N-プロピルプロパンアミド、N-プロピルブタンアミド、N-プロピルイソブチルアミド、N-プロピルペンタンアミド、N-イソプロピルホルムアミド、N-イソプロピルアセトアミド、N-イソプロピルプロパンアミド、N-イソプロピルブタンアミド、N-イソプロピルイソブチルアミド、N-イソプロピルペンタンアミド、N-ブチルホルムアミド、N-ブチルアセトアミド、N-ブチルプロパンアミド、N-ブチルブタンアミド、N-ブチルイソブチルアミド、N-ブチルペンタンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルブタンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジメチルペンタンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジエチルブタンアミド、N,N-ジエチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルペンタンアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド、N,N-ジプロピルブタンアミド、N,N-ジプロピルイソブチルアミド、N,N-ジプロピルペンタンアミド、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジイソプロピルプロパンアミド、N,N-ジイソプロピルブタンアミド、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ジイソプロピルペンタンアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジブチルアセトアミド、N,N-ジブチルプロパンアミド、N,N-ジブチルブタンアミド、N,N-ジブチルイソブチルアミド、N,N-ジブチルペンタンアミド、N-エチル-N-メチルホルムアミド、N-エチル-N-メチルアセトアミド、N-エチル-N-メチルプロパンアミド、N-エチル-N-メチルブタンアミド、N-エチル-N-メチルイソブチルアミド、N-エチル-N-メチルペンタンアミド、N-メチル-N-プロピルホルムアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルプロパンアミド、N-メチル-N-プロピルブタンアミド、N-メチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-メチル-N-プロピルペンタンアミド、N-エチル-N-プロピルホルムアミド、N-エチル-N-プロピルアセトアミド、N-エチル-N-プロピルプロパンアミド、N-エチル-N-プロピルブタンアミド、N-エチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-エチル-N-プロピルペンタンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等のアセテート類;γ-ブチロラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、γ,γ-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-クロトラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、6-メチルバレロラクトン等のラクトン類、2,3-ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物等、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤などが挙げられる。この中でも、前処理インクが所望の静的表面張力になるように水溶性溶媒を選択することが好ましく、例えば、1,2-ペンタンジオール、1,2-ブタンジオールを使用することが好ましい。
【0071】
水溶性溶媒の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水溶性溶媒の含有量の下限は、前処理インク全量中5質量%以上の範囲内であることが好ましく、10質量%以上の範囲内であることがより好ましく、12質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。水溶性溶媒の含有量の上限は、前処理インク全量中50質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0072】
[界面活性剤]
前処理インクには、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含有することで、前処理インクの表面張力を適切な範囲に制御することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン(シリコン)系界面活性剤等が好ましく用いられる。
【0073】
非イオン性界面活性剤としては、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも、第一工業製薬社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも、花王社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
【0074】
フッ素系界面活性剤としては、メガファックF-114、F-410、F-440、F-447、F-553、F-556(DIC社製)、サーフロンS-211、S-221、S-231、S-233、S-241、S-242、S-243、S-420、S-661、S-651、S-386(AGCセイミケミカル社製)、等が挙げられる。
【0075】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、ダイノール607、ダイノール960(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、オルフィンE1004、E1010、PD004、EXP4300(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;日信化学工業社製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;川研ファインケミカル社製)等が挙げられる。
【0076】
シリコーン(シリコン)系界面活性剤としては、例えば、FZ-2122、FZ-2110、FZ-7006、FZ-2166、FZ-2164、FZ-7001、FZ-2120、SH 8400、FZ-7002、FZ-2104、8029 ADDITIVE、8032 ADDITIVE、57 ADDITIVE、67 ADDITIVE、8616 ADDITIVE(いずれも、ダウ・東レ社製)、KF-6012、KF-6015、KF-6004、KF-6013、KF-6011、KF-6043、KP-104、110、112、323、341、6004(いずれも、信越化学社製)、BYK―300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-320、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-341、BYK-344、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-3420、BYK-3450、BYK-3451、BYK-3456、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-310、BYK-315、BYK-370、BYK-UV3570、BYK-322、BYK-323、BYK-350、BYK-352、BYK-354、BYK-355、BYK-358N、BYK-361N、BYK-380N、BYK-381、BYK-392、BYK-340、BYK-Silclean3700、BYK―Dynwet800(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG014、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGO FLOW 425、TEGO Glide 100、110、130、410、432、440、450、482、490、492、494、496、ZG400、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Twin 4200、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、KL245、250、260、265、270、280(いずれも、エボニック社製)等が挙げられる。
【0077】
なお、アニオン性界面活性剤を用いてもよいが、前処理インクはカチオン性の化合物を含有するため、アニオン性界面活性剤を用いる場合には、前処理インクに混ぜることができるか確認しておくことが好ましい。
【0078】
アニオン性界面活性剤を使用する場合には、アニオン性界面活性剤としては、エマール、ラテムル、ペレックス、ネオペレックス、デモール(いずれも、花王社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、ライオン社製)等のうち前処理インクと混ぜることができるものを使用することができる。
【0079】
これらの界面活性剤は、単独で用いても2種以上を併用しても良い。界面活性剤の含有量は、インク混和性や洗浄性、流路内壁への濡れ性、インクジェット吐出性に合わせて適宜調整される。
【0080】
界面活性剤の含有量は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、界面活性剤の含有量の下限は、前処理インク全量中0.50質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.60質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.70質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、前処理インク全量中5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、3.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0081】
[その他の成分]
前処理インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0082】
前処理インクの調製方法は、特に限定されない。例えば、水溶性溶媒に樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法等が挙げられる。
【0083】
前処理インクの表面張力は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、表面張力の上限は、30.0mN/m以下が好ましく、29.0mN/m以下がより好ましく、28.0mN/m以下がさらに好ましい。表面張力の下限は、20.0mN/m以上が好ましく、21.0mN/m以上がより好ましく、22.0mN/m以上がさらに好ましい。なお、表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:DY-300)で測定された値である。
【0084】
前処理インクは、前処理インクに含まれる水溶性溶媒や界面活性剤の種類や含有量を調整することで所定の範囲内の表面張力を有する前処理インクとなる。
【0085】
<水性インク>
水性インクとは、水を主成分として含み、色材を含んでもよく、基材上に着弾された前処理インクの上に吐出されるインクである。水を主成分とする水性インクは、環境に対する影響が少なく、引火することがないため作業者に対して安全性が高い。
【0086】
色材は、インク組成物に一般的に用いられる、染料又は顔料を用いることができる。顔料は、無機顔料や有機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本実施の形態に係る水性インクにおいて顔料を用いる場合には、分散剤や分散助剤(顔料誘導体)を使用することで、顔料の分散安定性を向上させることができる。
【0087】
色材としては、従来使用される、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックに着色するものや、ホワイト、ライトマゼンタ、ライトシアン、オレンジ等に着色するものであってもよく、特に限定はされない。
【0088】
なお、水性インクは、色材を含有しないクリアインクであってもよいが、色材を含む着色インクであってもよい。水性インクが色材を含む着色インクであると水性インクのにじみが目立つためより外観が悪化するが、それぞれのインクの静的表面張力を所定の範囲に制御された本実施の形態に係るインクセットであれば、着色インクがにじむことによる外観の悪化を効果的に抑制することができる。
【0089】
顔料としては、従来インクジェットインクに使用されている顔料、例えば、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸バリウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成マイカ、アルミナ等の無機顔料、又は有機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ペリノン系有機顔料、アゾメチン系有機顔料、アントラキノン系有機顔料(アントロン系有機顔料)、キサンテン系有機顔料、ジケトピロロピロール系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、レーキ顔料やカーボンブラック等が挙げられる。
【0090】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214、C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57:1、97、112、122、123、146、149、150、168、177、180、184、192、202、206、208、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、269、291、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、58、59、62、63、C.I.ピグメントブラウン23、25、26、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0091】
本実施の形態に係る水性インクにおいて、用いることのできる染料の具体例としては、アゾ系染料、ベンゾキノン系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料、スクアリリウム系染料、クロコニウム系染料、メロシアニン系染料、スチルベン系染料、ジアリールメタン系染料、トリアリールメタン系染料、フルオラン系染料、スピロピラン系染料、フタロシアニン系染料、インジゴイド等のインジゴ系染料、フルギド系染料、ニッケル錯体系染料、及びアズレン系染料が挙げられる。
【0092】
また、前記無機顔料の具体例としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒、無機固溶体顔料等を挙げることができる。
【0093】
顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであれば特に限定されるものではない。顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、顔料の平均分散粒径の下限は、10nm以上の範囲内であることが好ましく、20nm以上の範囲内であることがより好ましく、30nm以上の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の平均分散粒径の上限は、300nm以下の範囲内であることが好ましく、250nm以下の範囲内であることがより好ましく、200nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。平均分散粒径が300nm以下であれば、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを起こしにくく、再現性の高い均質な画像を得ることができる。平均分散粒径が10nm以上であれば、得られる印刷物の耐光性を良好なものとすることができる。なお、本実施形態において、顔料の平均分散粒径は、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000))を用いて25℃の条件下で測定した平均粒子径(D50)である。
【0094】
顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、顔料の含有量の下限は、水性インク全量中0.05質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.08質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.1質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の含有量の上限は、水性インク全量中20質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の含有量が0.05質量%以上、又は20質量%以下の範囲内であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0095】
[顔料分散剤]
本実施の形態に係る水性インクには顔料分散剤が含有されていてもよい。ここで顔料分散剤とは、顔料表面の一部に付着することでインク内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂又は界面活性剤のことを意味する。
【0096】
本実施の形態に係る水性インクにおいて、用いることのできる顔料分散剤は特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン(シリコン)系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤の中でも、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が好ましい。
【0097】
本実施の形態に係る水性インクにおいて用いることのできる顔料分散剤としては、水溶性高分子分散剤を好ましく用いることができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂を含有する水溶性高分子分散剤が、インクの分散安定性と、印刷物の画像鮮明性の観点から好ましい。
【0098】
水溶性高分子分散剤の具体例としては、Cray Valley製SMA1440、SMA2625、SMA17352、SMA3840、SMA1000、SMA2000、SMA3000、BASFジャパン社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA5220、EFKA6230、Dispex Ultra PX4575、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE40000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE45000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE47000、SOLSPERSE53095、SOLSPERSE54000、SOLSPERSE64000、SOLSPERSE65000、SOLSPERSE66000、SOLSPERSE J400、SOLSPERSE W100、SOLSPERSE W200、SOLSPERSE W320、SOLSPERSE WV400、ビックケミー社製ANTI-TERRA-250、BYKJET-9150、BYKJET-9151、BYKJET-9152、BYKJET-9170、DISPERBYK-102、DISPERBYK-168、DISPERBYK-180、DISPERBYK-184、DISPERBYK-185、DISPERBYK-187、DISPERBYK-190、DISPERBYK-191、DISPERBYK-193、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-198、DISPERBYK-199、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2012、DISPERBYK-2013、DISPERBYK-2014、DISPERBYK-2015、DISPERBYK-2018、DISPERBYK-2019、DISPERBYK-2055、DISPERBYK-2060、DISPERBYK-2061、DISPERBYK-2081、DISPERBYK-2096、エボニック社製TEGO DISPERS650、TEGO DISPERS651、TEGO DISPERS652、TEGO DISPERS655、TEGO DISPERS660C、TEGO DISPERS670、TEGO DISPERS715W、TEGO DISPERS740W、TEGO DISPERS741W、TEGO DISPERS750W、TEGO DISPERS752W、TEGO DISPERS755W、TEGO DISPERS757W、TEGO DISPERS760W、TEGO DISPERS761W、TEGO DISPERS765W、ZETASPERSE170、ZETASPERSE179、ZETASPERSE182、ZETASPERSE3100、ZETASPERSE3400、ZETASPERSE3700、ZETASPERSE3800、サンノプコ社製SNディスパーサント2010、SNディスパーサント2060、SNディスパーサント4215、SNディスパーサント5027、SNディスパーサント5029、SNディスパーサント5034、SNディスパーサント5468、ノプコール5200、ノプコサントK、ノプコサントR、ノプコスパース44-C、ノプコスパース6100、ノプコスパース6150等が挙げられる。これらの顔料分散剤は、本実施の形態に係る水性インクにおいて好適に用いることができる。
【0099】
本実施の形態に係る水性インクにおいて、用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。本実施形態において、インクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は、複数の先述した有機顔料や無機顔料を併用してもよく、先述した顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。そのなかでも、本実施の形態に係るインクセットにおいては、自己分散型顔料を含まない顔料を使用することが好ましい。これにより、水性インクのはじきを効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、水性インクが適度に濡れ広がって基材埋まりが良好となって、水性インクのはじきを効果的に抑制することができるものと推定される。
【0100】
[水]
水性インクは、水を主成分として含有する。水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水の含有量の下限は、水性インク全量中30質量%以上の範囲内であることが好ましく、45質量%以上の範囲内であることがより好ましく、50質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。水の含有量の上限は、水性インク全量中85質量%以下の範囲内であることが好ましく、80質量%以下の範囲内であることがより好ましく、75質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0101】
[水溶性溶媒]
本実施の形態に係る水性インクは、水溶性溶媒を含有してもよい。溶媒は、色材等を分散又は溶解することができるものである。
【0102】
水溶性溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類;ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミド、ブタンアミド、イソブチルアミド、ペンタンアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、N-メチルブタンアミド、N-メチルイソブチルアミド、N-メチルペンタンアミド、N-エチルホルムアミド、N-エチルアセトアミド、N-エチルプロパンアミド、N-エチルブタンアミド、N-エチルイソブチルアミド、N-エチルペンタンアミド、N-プロピルホルムアミド、N-プロピルアセトアミド、N-プロピルプロパンアミド、N-プロピルブタンアミド、N-プロピルイソブチルアミド、N-プロピルペンタンアミド、N-イソプロピルホルムアミド、N-イソプロピルアセトアミド、N-イソプロピルプロパンアミド、N-イソプロピルブタンアミド、N-イソプロピルイソブチルアミド、N-イソプロピルペンタンアミド、N-ブチルホルムアミド、N-ブチルアセトアミド、N-ブチルプロパンアミド、N-ブチルブタンアミド、N-ブチルイソブチルアミド、N-ブチルペンタンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルブタンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジメチルペンタンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジエチルブタンアミド、N,N-ジエチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルペンタンアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド、N,N-ジプロピルブタンアミド、N,N-ジプロピルイソブチルアミド、N,N-ジプロピルペンタンアミド、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジイソプロピルプロパンアミド、N,N-ジイソプロピルブタンアミド、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ジイソプロピルペンタンアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジブチルアセトアミド、N,N-ジブチルプロパンアミド、N,N-ジブチルブタンアミド、N,N-ジブチルイソブチルアミド、N,N-ジブチルペンタンアミド、N-エチル-N-メチルホルムアミド、N-エチル-N-メチルアセトアミド、N-エチル-N-メチルプロパンアミド、N-エチル-N-メチルブタンアミド、N-エチル-N-メチルイソブチルアミド、N-エチル-N-メチルペンタンアミド、N-メチル-N-プロピルホルムアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルプロパンアミド、N-メチル-N-プロピルブタンアミド、N-メチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-メチル-N-プロピルペンタンアミド、N-エチル-N-プロピルホルムアミド、N-エチル-N-プロピルアセトアミド、N-エチル-N-プロピルプロパンアミド、N-エチル-N-プロピルブタンアミド、N-エチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-エチル-N-プロピルペンタンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等のアセテート類;γ-ブチロラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、γ,γ-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-クロトラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、6-メチルバレロラクトン等のラクトン類、2,3-ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤などが挙げられる。この中でも、水性インクが所望の静的表面張力になるように水溶性溶媒を選択することが好ましく、例えば、1,3-ペンタンジオール、プロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0103】
水溶性溶媒の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水溶性溶媒の含有量の下限は、水性インク全量中5質量%以上の範囲内であることが好ましく、10質量%以上の範囲内であることがより好ましく、12質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。水の含有量の上限は、水性インク全量中50質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0104】
[樹脂]
本実施の形態に係る水性インクは、樹脂を含有してもよい。樹脂を含有することで顔料の基材(記録媒体)への浸透を抑制して、色材の定着を促進することができる。樹脂としては、定着性に優れ、印刷物の耐水性に優れる点から樹脂エマルションが好ましい。また、樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力や立体反発力によって樹脂微粒子として水性インク中に分散することができる。
【0105】
具体的には、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂あるいは共重合樹脂を含むものあるいはこれらの混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができることから、構成モノマーの少なくとも1つ以上にアクリル骨格を有するアクリル系樹脂又はアクリル系樹脂との共重合体を含むものであることが好ましい。
【0106】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、例えば、アクリットWEM-031U、WEM-200U、WEM-321、WEM-3000、WEM-202U、WEM-3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル-ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW-550CS、UW-223SX、AKW107、RKW-500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、LUBRIJET N240(ルーブリゾール製、アクリル樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩化ビニル-アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6520、6600、6820、7470、7720、(ジャパンコーティングレジン社製、アクリル樹脂エマルジョン)、PRIMAL AC-261P、 AC-818(ダウ・ケミカル社製 アクリル樹脂エマルジョン)、JE-1056(星光PMC社製 アクリル樹脂エマルジョン)、NeoCryl A2091、A2092、A639、A655、A662(DSM Coating Resin社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、QE-1042、KE-1062(星光PMC社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、JONCRYL7199、PDX-7630A(BASFジャパン社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、シャリーヌR170BX(日信化学工業社製 シリコーン-アクリル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6010(三井化学社製 ウレタン樹脂エマルジョン)、エリーテル KA-5071S(ユニチカ社製 ポリエステル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-1350(昭和電工社製 アクリル樹脂エマルジョン)等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0107】
水性インク含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂の含有量の下限は、水性インク全量中0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが好ましく、更に0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましい。樹脂の含有量の上限は、水性インク全量中15質量%以下であることが好ましく、中でも、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0108】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、300nm以下が好ましく、270nm以下がより好ましく、250nm以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、顔料の数平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0109】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、膜耐水性の観点から、10000以上が好ましく、50000以上がより好ましく、100000以上がさらに好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性の観点から、1000000以下が好ましく、700000以下がより好ましく、500000以下がより好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC-8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0110】
[界面活性剤]
本実施の形態に係る水性インクは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含有することで、水性インクの表面張力を適切な範囲に制御することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、表面張力の調整性が優れる点から、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、シリコーン(シリコン)系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が好ましく用いられる。
【0111】
具体例としては、エマール、ラテムル、ペレックス、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG、2502、SE-F、107L、ダイノール360、ダイノール604、ダイノール607(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、ダイノール960(アセチレングリコール系とシリコン系界面活性剤の配合物;エボニック社製)、サーフィノールAD01(アルカングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、オルフィンE1004、E1010、PD004、EXP4300(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;日信化学工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、BYK302、306、307、331、333、345、346、347、348、349、3420、3450、3451、3455、3456(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;ビックケミー社製)、KP-110、112、323、341、6004(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;信越化学株式会社製)、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG014、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;日信化学工業(株)製)、TEGO FLOW 425、TEGO Glide 100、110、130、410、432、440、450、482、490、492、494、496、ZG400、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Twin 4200、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、KL245、250、260、265、270、280、(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;エボニック社製)、TEGO Wet 500、505、510、520(いずれもノニオン系界面活性剤;エボニック社製)などが挙げられる。
【0112】
界面活性剤の含有量は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、界面活性剤の含有量の下限は、水性インク全量中0.30質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.40質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.50質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、水性インク全量中5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、3.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0113】
[その他の成分]
水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ワックス
、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0114】
水性インクの調製方法は、特に限定されない例えば、水溶性溶媒に自己分散型の顔料、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水溶性溶媒に、顔料と分散剤を加えて分散した後、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水溶性溶媒に顔料と樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、顔料を分散して調製する方法等が挙げられる。
【0115】
水性インクの表面張力は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、表面張力の上限は、35.0mN/m以下が好ましく、32.0mN/m以下がより好ましく、30.0mN/m以下がさらに好ましい。表面張力の下限は、21.5mN/m以上が好ましく、22.5mN/m以上がより好ましく、23.5mN/m以上がさらに好ましい。
【0116】
水性インクは、水性インクに含まれる水溶性溶媒や界面活性剤の種類や含有量を調整することで所定の範囲内の表面張力を有する水性インクとなる。
【0117】
<オーバーコートインク>
オーバーコートインクとは、水を主成分として含み、基材上に着弾された水性インクの上に吐出されるインクである。オーバーコートインクは、特定の成分を含むことで所望の機能を有するオーバーコート層を形成するための水性のインクである。
【0118】
例えば、印刷物に耐擦性や光沢性を付与する目的であれば、樹脂(樹脂エマルジョンを含む)やワックスを含有するオーバーコートインクであればよい。また、印刷物の表面のタックを軽減する目的であれば、樹脂(樹脂エマルジョンを含む)やフィラーを含有するオーバーコートインクであればよい。なお、フィラーを含有しなくても、膜厚をピクセル単位で変化させることで印刷面に凹凸感(マット面)を表現してもよい。
【0119】
さらに、オーバーコートインクの表面張力を適切な範囲に制御するために、界面活性剤を含有してもよい。また、水性インクにより形成される層(例えば加飾層)の視認性を向上させる観点から色材を含有しないようにしてもよい。その場合、色材の含有量はオーバーコートインク全量中3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが更になお好ましく、色材が含まれないことが最も好ましい。
【0120】
また、オーバーコート層を白色の層とする場合には、白色顔料を含有してもよい。さらに、オーバーコート層をメタリック調の層とする場合には、光輝性顔料を含有してもよい。これらの場合、顔料の含有量の下限はオーバーコートインク全量中0.05質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.08質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.1質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の含有量の上限は、水性インク全量中20質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。白色顔料は上述した水性インクに含有される顔料のうち、白色を示す顔料を挙げることができる。光輝性顔料としては、雲母、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス、二酸化ケイ素、金属酸化物、およびそれらの積層等の真珠光沢や干渉光沢を有するパール顔料やアルミニウム、銀、金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅等の単体金属;金属化合物;合金およびそれら混合物の少なくとも1種の金属含有光輝性顔料が挙げられる。
【0121】
[樹脂]
オーバーコートインクは、樹脂を含有してもよい。樹脂を含有することで、印刷物の耐擦性を向上させることができる。樹脂としては、定着性に優れ、印刷物の耐水性に優れる点から樹脂エマルションが好ましい。また、樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力や立体反発力によって樹脂微粒子として水性インク中に分散することができる。
【0122】
具体的には、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂あるいは共重合樹脂を含むものあるいはこれらの混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。これらの中でも構成モノマーの少なくとも1つ以上にアクリル骨格を有するアクリル系樹脂又はアクリル系樹脂との共重合体や、構成モノマーの少なくとも1つ以上にウレタン骨格を有するウレタン系樹脂又はウレタン系樹脂との共重合体を含むものを用いることが特に好ましい。
【0123】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、例えば、アクリットWEM-031U、WEM-200U、WEM-321、WEM-3000、WEM-202U、WEM-3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル-ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW-550CS、UW-223SX、AKW107、RKW-500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、LUBRIJET N240(ルーブリゾール製、アクリル樹脂エマルジョン)、SANCURE 970(ルーブリゾール製、ウレタン樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩化ビニル-アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6520、6600、6820、7470、7720、(ジャパンコーティングレジン社製、アクリル樹脂エマルジョン)、PRIMAL AC-261P、 AC-818(ダウ・ケミカル社製 アクリル樹脂エマルジョン)JE-1056(星光PMC社製 アクリル樹脂エマルジョン)、NeoCryl A2091、A2092、A639、A655、A662(DSM Coating Resin社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、QE-1042、KE-1062(星光PMC社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、JONCRYL7199、PDX-7630A(BASFジャパン社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、シャリーヌR170BX(日信化学工業社製 シリコーン-アクリル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6010(三井化学社製 ウレタン樹脂エマルジョン)、エリーテル KA-5071S(ユニチカ社製 ポリエステル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-1350(昭和電工社製 アクリル樹脂エマルジョン)等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、オーバーコートインク中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nmがさらに好ましい。樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、300nm以下が好ましく、270nm以下がより好ましく、250nmがさらに好ましい。
【0125】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、膜耐水性の観点から、10000以上が好ましく、50000以上がより好ましく、100000以上がさらに好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性の観点から、1000000以下が好ましく、700000以下がより好ましく、500000以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC-8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0126】
オーバーコートインクに樹脂を含有させる場合、樹脂の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。樹脂の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0127】
[ワックス]
オーバーコートインクは、ワックスを含有してもよい。ワックスを含有することで、印刷物の耐擦性を向上させることができる。ワックスとは、常温またはそれ以下の温度で固体であって加熱すると液化する有機物やシリコーン化合物である。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレン混合ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリプロピレン混合ワックス等の低分子量ポリオレフィンワックス類、軟化点を有するシリコーン(シリコン)類、シリコーン(シリコン)-アクリルワックス類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、エステルワックス、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス類、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ等の動物系ワックス類、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物系ワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、パラフィン混合ワックス等の石油系ワックス類、及びそれらの変性物が挙げられる。これらのワックスは、市販品として容易に入手することができる。これらの中でもポリエチレン、シリコーン系界面活性剤をワックスとして使用することが好ましい。このようなポリエチレン、シリコーン系界面活性剤としては、AQUACER515、531(ビックケミー製ポリエチレンワックスエマルジョン)、ノプコートPEM-17(サンノプコ(株)製ポリエチレンワックスエマルジョン)、TEGO Glide410、440、450、482、485、496(エボニック社製シリコーン界面活性剤)、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008(日信化学工業(株)製シリコーン界面活性剤)等が挙げられる。本実施の形態に係るオーバーコートインクにおいて、ワックスは1種単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0128】
オーバーコートインクにワックスを含有させる場合、ワックスの含有量の下限は、オーバーコートインク全量中0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。ワックスの含有量の上限は、オーバーコートインク全量中5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0129】
[水]
オーバーコートインクは、水を主成分として含有する。水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中30質量%以上の範囲内であることが好ましく、50質量%以上の範囲内であることがより好ましく、55質量%以上の範囲内であることがさらに好ましく、60質量%以上の範囲内であることがさらなお好ましい。水の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中85質量%以下の範囲内であることが好ましく、82質量%以下の範囲内であることがより好ましく、80質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0130】
[水溶性溶媒]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、水溶性溶媒を含有してもよい。水溶性溶媒は、色材等を分散又は溶解することができるものである。
【0131】
水溶性溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミド、ブタンアミド、イソブチルアミド、ペンタンアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、N-メチルブタンアミド、N-メチルイソブチルアミド、N-メチルペンタンアミド、N-エチルホルムアミド、N-エチルアセトアミド、N-エチルプロパンアミド、N-エチルブタンアミド、N-エチルイソブチルアミド、N-エチルペンタンアミド、N-プロピルホルムアミド、N-プロピルアセトアミド、N-プロピルプロパンアミド、N-プロピルブタンアミド、N-プロピルイソブチルアミド、N-プロピルペンタンアミド、N-イソプロピルホルムアミド、N-イソプロピルアセトアミド、N-イソプロピルプロパンアミド、N-イソプロピルブタンアミド、N-イソプロピルイソブチルアミド、N-イソプロピルペンタンアミド、N-ブチルホルムアミド、N-ブチルアセトアミド、N-ブチルプロパンアミド、N-ブチルブタンアミド、N-ブチルイソブチルアミド、N-ブチルペンタンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルブタンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジメチルペンタンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジエチルブタンアミド、N,N-ジエチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルペンタンアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド、N,N-ジプロピルブタンアミド、N,N-ジプロピルイソブチルアミド、N,N-ジプロピルペンタンアミド、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジイソプロピルプロパンアミド、N,N-ジイソプロピルブタンアミド、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ジイソプロピルペンタンアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジブチルアセトアミド、N,N-ジブチルプロパンアミド、N,N-ジブチルブタンアミド、N,N-ジブチルイソブチルアミド、N,N-ジブチルペンタンアミド、N-エチル-N-メチルホルムアミド、N-エチル-N-メチルアセトアミド、N-エチル-N-メチルプロパンアミド、N-エチル-N-メチルブタンアミド、N-エチル-N-メチルイソブチルアミド、N-エチル-N-メチルペンタンアミド、N-メチル-N-プロピルホルムアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルプロパンアミド、N-メチル-N-プロピルブタンアミド、N-メチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-メチル-N-プロピルペンタンアミド、N-エチル-N-プロピルホルムアミド、N-エチル-N-プロピルアセトアミド、N-エチル-N-プロピルプロパンアミド、N-エチル-N-プロピルブタンアミド、N-エチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-エチル-N-プロピルペンタンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類エチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等のアセテート類;γ-ブチロラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、γ,γ-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-クロトラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、6-メチルバレロラクトン等のラクトン類、2,3-ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤など等が挙げられる。この中でも、オーバーコートインクが所望の静的表面張力になるように水溶性溶媒を選択することが好ましく、例えば、プロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0132】
水溶性溶媒の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水溶性溶媒の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中5質量%以上の範囲内であることが好ましく、10質量%以上の範囲内であることがより好ましく、12質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。水溶性溶媒の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中50質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0133】
[界面活性剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含有することで、水性インクの表面張力を適切な範囲に制御することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、表面張力の調整性が優れる点から、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、シリコーン(シリコン)系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が好ましく用いられる。これらの中でもシリコーン(シリコン)系界面活性剤が特に好ましい。
【0134】
具体例としては、エマール、ラテムル、ペレックス、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG、2502、SE-F、107L、ダイノール360、ダイノール604、ダイノール607(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、ダイノール960(アセチレングリコール系とシリコン系界面活性剤の配合物;エボニック社製)、サーフィノールAD01(アルカングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、オルフィンE1004、E1010、PD004、EXP4300(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;日信化学工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、BYK302、306、307、331、333、345、346、347、348、349、3420、3450、3451、3455、3456(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;ビックケミー社製)、KP-110、112、323、341、6004(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;信越化学株式会社製)シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG014、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJG002、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれも、シリコーン(シリコン)系界面活性剤;日信化学工業(株)製)、TEGO FLOW 425、TEGO Glide 100、110、130、410、432、440、450、482、490、492、494、496、ZG400、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Twin 4200、TEGO Wet 240、KL245、250、260、265、270、280、(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;エボニック社製)、TEGO Wet 500、505、510、520(いずれもノニオン系界面活性剤;エボニック社製)などが挙げられる。
【0135】
界面活性剤の含有量は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、界面活性剤の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中0.5質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.8質量%以上の範囲内であることがより好ましく、1.0質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.5質量%以下の範囲内であることがより好ましく、4.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0136】
[その他の成分]
オーバーコートインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0137】
オーバーコートインクの調製方法は、特に限定されない。例えば、水溶性溶媒に樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法等が挙げられる。
【0138】
オーバーコートインクの表面張力は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、表面張力の上限は、30.0mN/m以下が好ましく、29.0mN/m以下がより好ましく、28.0mN/m以下がさらに好ましい。表面張力の下限は、19.0mN/m以上が好ましく、20.0mN/m以上がより好ましく、21.0mN/m以上がさらに好ましい。なお、静的表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:DY-300)で測定された値である。
【0139】
オーバーコートインクは、オーバーコートインクに含まれる水溶性溶媒や界面活性剤の種類や含有量を調整することで所定の範囲内の表面張力を有するオーバーコートインクとなる。
【0140】
≪1-3.記録方法≫
本実施の形態に係る記録方法は、上述した前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用したインクジェット記録方法であって、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出する記録方法である。
【0141】
図1に本実施の形態に係る記録方法を好適に使用することができるインクセットを基材上に吐出する装置1を示す。この装置1は、前処理インク11を吐出する前処理インク吐出部21と、水性インク12を吐出する水性インク吐出部22と、オーバーコートインク13を吐出するオーバーコートインク吐出部23と、がこの順に基材(記録媒体)の搬送方向に沿うように備えている。そして、前処理インク吐出部21と水性インク吐出部22との間や、水性インク吐出部22とオーバーコートインク吐出部23との間には、乾燥機構を備えていないことを特徴としている。
【0142】
上述したインクセットは、「S≦S<S」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている。このように、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない図1に記載したような装置1を使用して、インクセットに含まれる全てのインクが基材上に吐出されるまでは乾燥処理を施さないように、1パス方式により高速で印刷した場合であっても、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0143】
なお、本実施の形態に係る記録方法では、前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用したインクジェット記録方法を説明したが、前処理インクと、水性インクと、を含むインクセットにおいても同様に水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0144】
また、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えた装置を使用して印刷してもよいが、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない装置を使用することで、水性インクのにじみを効果的に抑制しつつ、装置を小型にして、さらに搬送部全体を短くすることが可能となって印刷物の製造速度が向上することとなる。
【0145】
本実施の形態に係る記録方法における記録速度(基材の搬送速度)は、30m/min以上であることが好ましく、40m/min以上であることがより好ましく、50m/min以上であることがさらに好ましい。このような高速で基材(記録媒体)を搬送して、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出しても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0146】
≪1-4.印刷物の製造方法≫
本実施の形態に係る印刷物の製造方法は、上述した前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用した印刷物の製造方法であって、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出する印刷物の製造方法である。
【0147】
上述したインクセットは、「S≦S<S」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている。これにより、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない図1に記載したような装置1を使用して1パス方式により高速で印刷した場合であっても、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0148】
≪1-5.印刷物≫
上述した実施形態の印刷物の製造方法により製造された印刷物を構成する各層について説明する。
【0149】
[媒体(記録媒体)]
本実施の形態に係る記録方法に使用することのできる基材(記録媒体)としては、特に限定はされず、樹脂基材、金属板、ガラスなどの非吸収性基材であっても、紙や布帛などの吸収性基材であっても、受容層を備える基材のような表面塗工が施された基材であってもよく、種々の基材を使用することができる。後述する実施の形態に係る印刷物の製造方法に使用することのできる基材についても同様である。
【0150】
非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基材や、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等を挙げることができる。
【0151】
吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等を挙げることができる。
【0152】
表面塗工が施された基材としてはコート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙等を挙げることができる。
【0153】
[水性インクの層]
水性インクの層とは、上述した水性インクに含まれる溶媒が揮発することにより形成される層である。例えば、水性インクに色材を含有した場合には、所望の画像を形成する加飾層となる。上述した実施形態のインクセットに含まれるそれぞれのインクを吐出することで水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0154】
水性インクに樹脂が含まれている場合には、この樹脂が水性インクの層を構成する樹脂となる。
【0155】
[オーバーコート層]
オーバーコート層とは、上述したオーバーコートインクに含まれる溶媒が揮発することにより形成される層であり、特定の成分を含むことで所望の機能を付与することのできる層である。また、このオーバーコート層は、水性インクの層の上層に配置される。
【0156】
例えば、印刷物に耐擦性や光沢性を付与する目的であれば、樹脂(樹脂エマルジョンを含む)やワックスを含有するオーバーコートインクであればよい。また、印刷物の表面のタックを軽減する目的であれば、樹脂(樹脂エマルジョンを含む)やフィラーを含有するオーバーコートインクであればよい。なお、フィラーを含有しなくても、膜厚をピクセル単位で変化させることで印刷面に凹凸感(マット面)を表現してもよい。
【0157】
また、オーバーコート層を白色の層とする場合には、白色顔料を含有してもよく、オーバーコート層をメタリック調の層とする場合には、光輝性顔料を含有してもよい。
【0158】
≪1-6.装置≫
本発明に係る装置は、前処理インクと、水性インクと、を含み、静的表面張力が所定の範囲(S<S)であるインクセットに使用することができるインクセットを吐出する装置である。具体的には、少なくとも、前処理インクを吐出する前処理インク吐出部と、水性インクを吐出する水性インク吐出部とがこの順に前記基材の搬送方向に沿うように備えている。
【0159】
インクセットに含まれるそれぞれのインクは、静的表面張力が所定の範囲に制御されている。これにより、インクジェット吐出する記録方式で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0160】
この装置のなかでも特に好適な装置の一例を図1とともに説明する。図1の装置は、前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、静的表面張力が所定の範囲(S≦S<S)であるインクセットに使用することができるインクセットを吐出する装置である。そして、図1の装置は、前処理インク吐出部と水性インク吐出部との間や、水性インク吐出部とオーバーコートインク吐出部との間には、乾燥機構を備えていないことを特徴としている。
【0161】
上述したインクセットは、「S≦S<S」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている。これにより、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない図1に記載したような装置1を使用して印刷した場合であっても、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0162】
なお、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備え、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間に乾燥機構を備える装置であってもよい。また、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、を備える装置において、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えず、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間に乾燥機構を備える装置であってもよい。さらに、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間には乾燥機構を備えず、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間に乾燥機構を備える装置であってもよい。図1の装置のように水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えず、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間に乾燥機構を備えない装置であれば、装置を小型にして、さらに搬送部全体を短くすることが可能となって印刷物の製造速度を向上させることができる。
【0163】
また、それぞれの吐出部における吐出方式は、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれの方式であってもよい。いずれの方式であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0164】
≪2-1.本発明の第二実施形態のインクセットの概要≫
本発明の第二実施形態のインクセットは、水性インクと、オーバーコートインクを含み、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録方式に用いられるインクセットであって、インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、インクセットである。
【0165】
オーバーコートインクの静的表面張力S<水性インクの静的表面張力S
【0166】
このようなインクセットであれば、インクジェット吐出する記録方式でより高速で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。インクジェット吐出する記録方式を使用してより高速で印刷した場合には、水性インクが基材に着弾してからオーバーコートインクが基材上の水性インクに着弾するまでの時間が短い。このため、基材上の水性インクの流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インクに着弾されることとなって、水性インクが広がってにじみが生じることとなる。
【0167】
そこで、オーバーコートインクの静的表面張力Sを水性インクの静的表面張力Sよりも小さいように構成されたインクセットであれば、基材上の水性インクの流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インクに着弾されても、水性インクが広がることを抑制することができる。これにより、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0168】
なお、水性インクの流動性が高い状態で、オーバーコートインクを吐出することは必須の態様ではなく、水性インクを乾燥させた後にオーバーコートインクを吐出させてもよい。水性インクの流動性が高い状態で、オーバーコートインクを吐出することにより高速な印刷をすることが可能となる。
【0169】
第二実施形態のインクセットは、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いられることは必須ではないが、ラインヘッド方式等の1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いることにより、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式で発生し得る問題を生じずにより高速な印刷が可能であるという利点を享受することが可能である。
【0170】
≪2-2.インクセット≫
第二実施形態のインクセットに含まれるそれぞれのインクは、上述した第一実施形態のインクセットに含まれるそれぞれのインクと同様である。
【0171】
それぞれのインクの静的表面張力は、S<Sの関係を満たしていればよいが、SとSとの差(S-S)の下限は、0.6mN/m以上であることが好ましく、0.8mN/m以上であることがより好ましく、0.9mN/m以上であることがさらに好ましい。SとSとの差(S-S)が0.6mN/m以上であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。
【0172】
また、SとSとの差(S-S)の上限は特に限定されないが、7.5mN/m以下であることが好ましく、6.0mN/m以下であることがより好ましく、4.5mN/m以下であることがさらに好ましい。特に、SとSとの差(S-S)が7.5mN/m以下であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。
【0173】
≪2-3.記録方法≫
上述したインクセットは、「S<S」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている。例えば、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上に1パス方式でインクジェット吐出したとしても、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。このとき、インクセットに含まれるそれぞれのインクを吐出する吐出部の間に乾燥機構を備えないようにして、それぞれのインクを基材上にインクジェット吐出してもよい。なお、この記録方法は、第二実施形態のインクセットを使用した印刷物の製造方法と定義することもできる。
【0174】
記録方法及び印刷物の製造方法における記録速度(基材の搬送速度)は、30m/min以上であることが好ましく、40m/min以上であることがより好ましく、50m/min以上であることがさらに好ましい。
【0175】
≪2-4.印刷物≫
上述した実施形態の印刷物の製造方法により製造された印刷物は、第一実施形態のインクセットを使用して得られた印刷物と同様である。
【0176】
≪2-5.装置≫
この装置は、水性インクと、オーバーコートインクと、を含み、静的表面張力が所定の範囲(S<S)であるインクセットに使用することができるインクセットを吐出する装置である。具体的には、少なくとも、水性インクを吐出する水性インク吐出部と、オーバーコートインクを吐出するオーバーコートインク吐出部と、がこの順に基材の搬送方向に沿うように備えている。
【0177】
この装置は、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構えてもよいが、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えないことが好ましい。吐出部の間に乾燥機構を備えない装置を使用して印刷した場合であっても、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。さらに、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えない装置であれば、装置を小型にして、さらに搬送部全体を短くすることが可能となって印刷物の製造速度を向上させることができる。
【実施例
【0178】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0179】
<インクの調整>
各材料を表1に示す割合(単位は質量%)になるように混合し、室温(20~25℃)にて1時間撹拌した。その後、溶け残りがないことを確認した。その後、メンブレンフィルターを用いて濾過を行い、それぞれの前処理インク、水性インク、及びオーバーコートインクを調製し、静的表面張力を測定した。
【0180】
なお、静的表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:DY-300)により測定した。
【0181】
【表1】
【0182】
表1中「ユニセンスKHE100L」とは、センカ社製水溶性第4級アンモニウム塩型樹脂である。
【0183】
表1中「ハイドランCP-7050」とは、DIC社製カチオン性ウレタン樹脂エマルジョンである。
【0184】
表1中「BYK347」、「BYK348」とは、ビックケミー製シリコーン系界面活性剤である。
【0185】
表1中「Dynol604:エボニック社製2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテドである。
【0186】
【表2】
【0187】
表2中、「ブラック顔料」とは、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)である。
【0188】
表2中、「CAB-O-JET-400」とは、キャボット社製カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)分散体である。
【0189】
表2中、「DISPERBYK-190」とは、ビックケミー製スチレン系分散剤である。
【0190】
表2中、「PRIMALAC-261P」とは、ダウ・ケミカル社製アニオン性アクリル樹脂エマルジョンである。
【0191】
表2中、「BYK349」、「BYK348」とは、ビックケミー製シリコーン系界面活性剤である。
【0192】
表2中、「Dynol604」とは、エボニック社製2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテドである。
【0193】
上記ブラック色の水性インクにおいて、カーボンブラックの代わりに、C.I.ピグメントブルー15:4(PB15:4)、C.I.ピグメントレッド122(PR122)、C.I.ピグメントイエロー74(PY74)をそれぞれ用いた以外は、同様にして、シアン色の水性インク、イエロー色の水性インク、及びマゼンタ色の水性インクを得た。なお、色材を変更したそれぞれの水性インクは、上記ブラック色の水性インクの静的表面張力と同じ値であった。なお、水性インク4においては同様に自己分散型の顔料のシアン色の水性インク、イエロー色の水性インク、及びマゼンタ色の水性インクを得た。
【0194】
【表3】
【0195】
表3中、「SANCURE970」とは、ルーブリゾール社製ウレタン樹脂エマルジョンである。
【0196】
表3中、「AQUACER531」とは、ビックケミー製ポリエチレンワックスエマルジョンである。
【0197】
表3中、「BYK345」とは、ビックケミー製シリコーン系界面活性剤である。
【0198】
表3中、「シルフェイスSAG002」とは、日信化学工業製シリコーン系界面活性剤である。
【0199】
表3中、「BYK349」とは、ビックケミー製シリコーン系界面活性剤である。
【0200】
[評価]
前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用して、にじみを評価した。具体的には、ラインヘッド方式(1パス方式)の図1に記載の構成のインクジェット印刷装置を使用して、基材(記録媒体)の搬送速度を50m/minにして、基材としてOKボール(王子マテリア製コートボール紙)の表面に前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、をこの順に吐出して、所定の印刷パターンになるように印刷物を製造した。
【0201】
(にじみ評価)
印刷物のにじみを以下の評価基準に基づき、目視で確認した。
評価基準
A:にじみが全く認められず、鮮明な画像であった。
B:極わずかににじみが認められるが、鮮明な画像であった。
C:多少にじみが認められるが、実用範囲内の画像であった。
D:にじみが認められ、鮮明な画像が得られなかった。
E:著しいにじみが認められた。
滲み評価がA~C評価であれば、実用範囲内である。
【0202】
(はじき評価)
印刷物のはじきを以下の評価基準に基づき、目視で確認した。
評価基準
A:はじきが観察されず、印刷面が十分にインクで埋まっていると判断された。
B:わずかにはじきが観察されるが、印刷面は埋まっていた。
C:はじきが観察され、印刷面の埋まりが不十分であった。
はじき評価がA又はB評価であれば、実用範囲内である。
【0203】
(浸透性評価)
前処理液を基材にバーコーターで5g/m塗布した後、液が基材表面に無くなり完全に基材が曝露した時間を計測した。
評価基準
A:10秒未満
B:10秒以上15秒未満
C:15秒以上20秒未満
D:20秒以上
浸透性評価がA~C評価であれば、実用範囲内である。
【0204】
(耐擦過性評価)
印刷物の耐擦過性を評価した。具体的には、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業社製AB-301)を用いて、印刷物の印刷表面と金巾3号(綿)を接触させて荷重500gを加えた状態で100回往復した試料について以下の評価基準により評価を行った。
評価基準
A:インク膜(水性インクの層)の剥離が全くない
B:インク膜(水性インクの層)の剥離面積が、試験面積全体の20%未満である
C:インク膜(水性インクの層)の剥離面積が、試験面積全体の20%以上である
耐擦過性評価がA又はB評価であれば、実用範囲内である。
【0205】
【表4】
【0206】
表4から分かるように、本発明のインクセットは、インクジェット吐出する記録方式でより高速で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができることが分かる。
【0207】
特に、S≦Sを満たし、S-Sが0.6mN/m以上である実施例1~8は、S≦Sを満たしていない実施例14、S-Sが0.6mN/m未満である実施例13、14と比較して水性インクのにじみを効果的に抑制できていることが分かる。
【0208】
また、オーバーコートインクを含まない実施例9~12のインクセットであっても、同様に水性インクのにじみを効果的に抑制できた。その中でも、前処理インクに含まれるカチオン性の化合物がカチオン性の樹脂である実施例9、11は、前処理液の浸透性がより向上した。また、水性インクに含まれる顔料が自己分散型顔料を含まない顔料である実施例9、10は水性インクのはじきを効果的に抑制できていた。なお、実施例9~12のインクセットは、オーバーコートインクを含んでおらず、実施例9~12のインクセットにより得られた印刷物はオーバーコート層を備えていない。このためオーバーコートインクを含む他の実施例のインクセットにより得られた印刷物と比較して、耐擦過性評価が悪化していた。
【0209】
また、水性インクと、オーバーコートインクと、を含む実施例15と比較例4のインクセットにおいて、S<Sであった実施例15は、比較例4と比較して水性インクのにじみを効果的に抑制できていることが分かる。
【符号の説明】
【0210】
1 装置
11 前処理インク
12 水性インク
13 オーバーコートインク
21 前処理インク吐出部
22 水性インク吐出部
23 オーバーコートインク吐出部
31 乾燥機構
1A 装置
11A 前処理インク
12A 水性インク
13A オーバーコートインク
21A 前処理インク吐出部
22A 水性インク吐出部
23A オーバーコートインク吐出部
31A 乾燥機構
32A 乾燥機構
33A 乾燥機構
図1
図2