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特許7147106積層シートの製造方法及び衛生マスクの製造方法並びに積層シート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】積層シートの製造方法及び衛生マスクの製造方法並びに積層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20220927BHJP
   B32B 7/05 20190101ALI20220927BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20220927BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20220927BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20220927BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B7/05
D04H1/4374
D04H1/728
D04H3/16
A41D13/11 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022525034
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002808
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021064523
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595031775
【氏名又は名称】シンワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(72)【発明者】
【氏名】井上 信作
(72)【発明者】
【氏名】永峰 圭
(72)【発明者】
【氏名】財満 壮晋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】塩見 健太
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-147890(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042253(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/004696(WO,A1)
【文献】特開2008-169506(JP,A)
【文献】登録実用新案第3221348(JP,U)
【文献】特開2009-106468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
A62B7/00-33/00
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性の多数の繊維で形成された第一基材層と、前記第一基材層の繊維より細い熱可塑性の多数の繊維で形成された第二基材層とを有するシート状積層体を形成する工程と、前記シート状積層体の表面から裏面に至る多数の溶融固化部を、前記シート状積層体に形成する工程を含む積層シートの製造方法であって
前記第一基材層は、不織布からなり、
前記第二基材層は、エレクトロスピニング法によって紡糸された多数のナノファイバーで形成された不織布からなり、
当該積層シートの全光線透過率が70パーセント以上であり、
当該積層シートを通過する空気の風速が毎秒20センチメートルとなるよう空気の供給量を設定した濾材性能試験における圧力損失が300パスカル以下であり、
前記濾材性能試験において上流側と下流側の空気に含まれる0.3~0.5マイクロメートルの粒子の個数をパーティクルカウンターで計測し、その計測した上流側の粒子の個数と下流側の粒子の個数との差の、前記上流側の粒子の個数に対する割合を捕集効率とするとき、当該積層シートの捕集効率が60パーセント以上であり、
前記シート状積層体の面積に対する、前記多数の溶融固化部の個々の占有面積の総和の面積率が10パーセント以上80パーセント以下の範囲にあることを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層シートの製造方法であって、
前記シート状積層体は、前記第二基材層の前記第一基材層と反対側に、熱可塑性の多数の繊維で形成された不織布からなる第三基材層を有する積層シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の積層シートの製造方法であって、
前記多数の溶融固化部は、前記シート状積層体の表面に設定した、互いに同じ形状及び大きさを有して隙間なく接する多数の仮想境界枠の各々に、一個又は複数個ずつ分配されて該仮想境界枠に囲まれており、しかも前記仮想境界枠毎の溶融固化部の占有面積が夫々同じになるよう前記シート状積層体の表面に均一に分布しており、前記仮想境界枠内の前記溶融固化部以外の部分を枠内非溶融部とするとき、該枠内非溶融部の面積は、400平方ミリメートル以下であることを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の積層シートの製造方法によって製造された積層シートをマスク本体として用いて顔面を覆う衛生マスクを製造する衛生マスクの製造方法。
【請求項5】
少なくとも熱可塑性の多数の繊維で形成された不織布からなる第一基材層と、前記第一基材層の繊維より細い熱可塑性であってエレクトロスピニング法によって紡糸された多数のナノファイバーで形成された不織布からなる第二基材層とを有するシート状積層体と、
所要の通気性及び透明性を得るよう個々の占有面積及び該個々の占有面積の総和の前記シート状積層体の面積に対する面積率を調整して前記シート状積層体に形成された、該シート状積層体の表面から裏面に至る多数の溶融固化部と、
を備え、
当該積層シートの全光線透過率が70パーセント以上であり、
当該積層シートを通過する空気の風速が毎秒20センチメートルとなるよう空気の供給量を設定した濾材性能試験における圧力損失が300パスカル以下であり、
前記濾材性能試験において上流側と下流側の空気に含まれる0.3~0.5マイクロメートルの粒子の個数をパーティクルカウンターで計測し、その計測した上流側の粒子の個数と下流側の粒子の個数との差の、前記上流側の粒子の個数に対する割合を捕集効率とするとき、当該積層シートの捕集効率が60パーセント以上であり、
前記シート状積層体の面積に対する、前記多数の溶融固化部の個々の占有面積の総和の面積率が10パーセント以上80パーセント以下の範囲にあることを特徴とする積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性及び空気中の花粉・唾液や喀痰等の飛沫等の捕集性を有する半透明の積層シート及び積層シートを用いた衛生マスク並びに積層シート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顔面に装着して鼻孔、口を覆い風邪等の感染症を予防するための衛生マスクには、布製のものや、特許文献1に開示されているように、伸縮性の高いウレタンスパンボンド不織布に抗菌剤を付着した不織布を接合したものがある。また、特許文献2に開示されているように、複数の不織布フィルターを備えた衛生マスクもある。更に、特許文献3には、装着者の口及び鼻を覆うマスク本体の全体を、着用者の顔が外部から透けて見える透明な柔軟シート材で形成したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭62-149353号公報
【文献】実用新案登録第3220086号公報
【文献】実用新案登録第3185729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の布製の衛生マスクや、従来の、伸縮性の高い不織布に抗菌剤を付着した不織布を接合した衛生マスクは、その目開きの大きさより、唾液や喀痰等の飛沫の拡散防止には不十分である。
【0005】
また、複数の不織布フィルターを備えた従来の衛生マスクは、飛沫の拡散防止に有効ではあるが、従来の布製や不織布製の衛生マスクと同様に、それを装着した時に口や鼻が隠れてしまうため、装着者の表情が判らず、マスク装着者との良好な意志疎通や、犯罪防止等の観点から十分とはいえない。
【0006】
また、マスク本体の全体を、透明な柔軟シート材で形成した衛生マスクは、良好な意志疎通や、犯罪防止の面では有効であるが、柔軟シート材として透明な樹脂フィルムを用い、その透明な樹脂フィルムに、適度の通気性を確保するために唾液や喀痰等の飛沫の拡散防止が可能な微小な通気孔を多数形成する必要があり、この多数の微小な通気孔を樹脂フィルムに形成するのは非常に困難であるので、現実的には、感染症の予防に有効かつ通気性の良好なものを得難く、微小通気孔を形成するための高度な加工技術の開発、高価な加工設備等が必要になる。
【0007】
特に、新型コロナウイルスの感染拡大以降、衛生マスクの装着が常態化する生活スタイルの変化に起因して、衛生マスクの機能に求められるニーズが、感染症予防の機能に加えて、衛生マスク装着時のコミュニケーションの不便さや息苦しさを解消する機能へと拡大している。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、装着者の表情の視認性及び通気性が良く唾液や喀痰等の飛沫の拡散防止に有効な捕集性を有する衛生マスクを得るのに適した半透明の積層シートを提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、装着者の表情の視認性及び通気性が良く唾液や喀痰等の飛沫の拡散防止に有効な捕集性を有する比較的安価な衛生マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明の第1の側面に係る積層シートによれば、少なくとも熱可塑性の多数の繊維で形成された第一基材層と、前記第一基材層の繊維より細い熱可塑性の多数の繊維で形成された第二基材層とを有するシート状積層体と、所要の通気性及び透明性を得るよう個々の占有面積及び該個々の占有面積の総和の前記シート状積層体の面積に対する面積率を調整して前記シート状積層体に形成された、該シート状積層体の表面から裏面に至る多数の溶融固化部と、を備えるよう構成できる。
【0011】
前記構成により、装着者の表情の視認性及び通気性が良く唾液や喀痰等の飛沫の拡散防止に有効な捕集性を有する衛生マスクを得るのに適した半透明の積層シートを比較的安価に大量生産することができる。
【0012】
本発明の第2の側面に係る積層シートによれば、前記多数の溶融固化部は、個々に所要の占有面積を有し前記シート状積層体上に点在するよう構成できる。
【0013】
本発明の第3の側面に係る積層シートによれば、前記多数の溶融固化部は、個々に溝状に一定方向に伸長すると共に所要の幅を有し前記シート状積層体上に所要の相互間隔で並ぶよう構成できる。
【0014】
本発明の第4の側面に係る積層シートによれば、前記シート状積層体は、前記第二基材層の前記第一基材層と反対側に、熱可塑性の多数の繊維で形成された第三基材層を有するよう構成できる。
【0015】
本発明の第5の側面に係る積層シートによれば、前記面積率は、10%以上80%以下の範囲にあるよう構成できる。前記構成により、所要の通気性及び透明性が得られるようになる。
【0016】
本発明の第6の側面に係る積層シートによれば、前記多数の溶融固化部は、前記シート状積層体の表面に設定した、互いに同じ形状及び大きさを有して隙間なく接する多数の前記仮想境界枠の各々に、一個又は複数個ずつ分配されて該仮想境界枠に囲まれており、しかも前記仮想境界枠毎の溶融固化部の占有面積が夫々同じになるよう前記シート状積層体の表面に均一に分布しているよう構成できる。
【0017】
前記構成により、一つの仮想境界枠について、その仮想境界枠の面積に対する溶融固化部の占有面積の割合を算出することで、シート状積層体の溶融固化部の分布領域全体について、個々の溶融固化部の占有面積の総和の、前記シート状積層体の溶融固化部の分布領域全体の面積に対する面積率を算出することができるので、溶融固化部の適正な形状、大きさ、配置間隔等を能率的に得ることが可能になる。
【0018】
本発明の第7の側面に係る積層シートによれば、前記積層シートの全光線透過率は70%以上であり、前記積層シートを通過する空気の風速が毎秒20センチメートルとなるよう空気の供給量を設定した濾材性能試験における圧力損失が300パスカル以下であり、前記濾材性能試験において上流側と下流側の空気に含まれる0.3~0.5マイクロメートルの粒子の個数をパーティクルカウンターで計測し、その計測した上流側の粒子の個数と下流側の粒子の個数との差の、前記上流側の粒子の個数に対する割合を捕集効率とするとき、前記積層シートの捕集効率は60%以上であり、前記仮想境界枠内の前記溶融固化部以外の部分を枠内非溶融部とするとき、該枠内非溶融部の面積は、400平方ミリメートル以下であるよう構成できる。
【0019】
本発明の第8の側面に係る衛生マスクによれば、上述の本発明の第1~第7の側面に係る積層シートのうちのいずれか一つの積層シートをマスク本体に用いて構成できる。
【0020】
本発明の第9の側面に係る積層シートの製造方法によれば、少なくとも熱可塑性の多数の繊維で形成された第一基材層と前記第一基材層の繊維より細い繊維で形成された熱可塑性の多数の繊維で形成された第二基材層とを重ね合わせシート状積層体を形成する工程と、前記シート状積層体の表面から裏面に至る多数の溶融固化部を、所要の通気性及び透明性を得るよう個々の占有面積及び該個々の占有面積の総和の前記シート状積層体の面積に対する面積率を調整して前記シート状積層体に形成する工程と、を含むよう構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一実施形態に係る積層シートの一部分を拡大して模型的に示す平面図である。
図2図1におけるA-A矢視断面を模型的に示す断面図である。
図3】積層シートを製造する際に用いる一つの装置の説明図である。
図4】積層シートを製造する際に用いる別の装置の説明図である。
図5】溶融固化部の形状の他の一例を模型的に示す平面図である。
図6】溶融固化部の形状の更に他の一例を模型的に示す平面図である。
図7】本発明の第一実施形態に係る衛生マスクの正面図である。
図8】衛生マスクの装着状態を示す斜視図である。
図9】本発明の第二実施形態に係る積層シートの一部分を拡大して模型的に示す平面図である。
図10図9におけるB-B矢視断面を模型的に示す断面図である。
図11】溶融固化部の形状の更に他の一例を模型的に示す平面図である。
図12】実施例1の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図13】実施例2の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図14】実施例3の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図15】実施例4の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図16】比較例1の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図17】比較例2の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図18】溶融固化部の形状の更に他の一例を模型的に示す平面図である。
図19】実施例5の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図20】溶融固化部の形状の更に他の一例を模型的に示す平面図である。
図21】実施例6の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図22】溶融固化部の形状の更に他の一例を模型的に示す平面図である。
図23】実施例7の積層シートの視認性を調べるために用いた写真である。
図24】本発明の第三実施形態に係る衛生マスクの正面図である。
図25】溶融固化部の形状の更に他の一例を模型的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための積層シート及び衛生マスク並びに積層シート製造方法を例示するものであって、本発明はそれらを以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。(第一実施形態)
【0023】
図1及び図2に示すように、積層シートSは、熱可塑性の多数の繊維で形成された第一基材層1と、第一基材層1の繊維より細い熱可塑性の多数の繊維で形成された第二基材層2と、第二基材層2の、第一基材層1と反対側に配置した第三基材層3とを有するシート状積層体4と、このシート状積層体4に形成された多数の溶融固化部5とを備えている。
【0024】
第一基材層1は、繊維径が5マイクロメートル以上の不織布でできており、第二基材層2は、1000ナノメートル未満のナノファイバー繊維を含む不織布でできている。第三基材層3も、繊維径が5マイクロメートル以上の不織布でできている。
【0025】
多数の溶融固化部5は、シート状積層体4に点在しており、夫々シート状積層体4を表裏両側から局部的に挟んで加熱することにより、その加熱部分において第一基材層1並びに第二基材層2及び第三基材層3が溶融状態になり、その後、溶融部分が冷えて固化することによって形成されており、シート状積層体4の表面から裏面に至っている。
【0026】
溶融固化部5は、第一基材層1並びに第二基材層2、及び第二基材層2並びに第三基材層3が溶着されてなり、多数の繊維が溶融状態つまり個々の繊維の中心まで完全に溶融した状態又は個々の繊維の一部分が溶融した状態になって融合した後、冷えて固化することにより形成される。それゆえ溶融固化部5は、多数の繊維で構成されたもののように光が反射や散乱されることがないので透明性が高く、通気性が無いか極めて低いものとなる。
【0027】
これに対して、シート状積層体4の溶融固化部5以外の部分つまり非溶融部6は、第一基材層1並びに第二基材層2及び第三基材層3が、溶融固化部5のように溶融せずに単に重なっているので、通気性はあるが、多数の繊維によって光の反射や散乱が生じるので不透明である。
【0028】
したがって、シート状積層体4は、透明性を有する溶融固化部5と、不透明で通気性のある非溶融部6とを有しており、光に対して、例えば非溶融部6を糸とし溶融固化部5を網の目とする網のようになっているため、積層シートSは全体として半透明となる。
【0029】
ここで、シート状積層体4に、多数の溶融固化部5を含むように計測領域を設定したとき、その設定した計測領域内のシート状積層体4の平面視の広さをシート状積層体4の面積とし、溶融固化部5の平面視の広さを溶融固化部5の占有面積とし、非溶融部6の平面視の広さを非溶融部の面積とする。そして設定した計測領域内にある全ての溶融固化部5について個々の占有面積を合計したものを、個々の溶融固化部5の占有面積の総和とし、シート状積層体4の面積に対する個々の溶融固化部5の占有面積の総和の割合を面積率とする。
【0030】
積層シートSにおいて、面積率を小さくすれば、通気性は向上するが、透過する光の量が減るので積層シートSの透明性が低下し、逆に面積率を大きくすれば、透明性は向上するが、通気性が低下する傾向にある。そして積層シートSの透明性が向上すると積層シートSの裏側にある物を透かして見る場合の視認性が向上する。また、面積率が同じ場合、溶融固化部5の個々の占有面積を大きくすると、積層シートSの背後に配置した対象物を、その積層シートSを通して視認するときの、積層シートSの対象物に対する解像度が低下して視認性が低下する傾向にある。それゆえ、多数の溶融固化部5は、所要の通気性及び透明性が得られるよう個々の占有面積及び面積率を調整して形成されている。そして所要の通気性及び透明性を得るための溶融固化部5の所要の占有面積や所要の面積率は、例えば試行錯誤によって求めるこができる。その結果、通気性及び透明性が実用性を備えるには、当該面積率を10%以上80%以下とするのが望ましいことが明らかとなった。
(積層シート製造方法)
【0031】
次に、積層シートSの製造方法について説明する。
【0032】
積層シートSを製造するには、まず、熱可塑性の多数の繊維で形成された第一基材層1と、第一基材層1の繊維より細い熱可塑性の多数の繊維で形成された第二基材層2と、第二基材層2の第一基材層1と反対側に、熱可塑性の多数の繊維で形成された第三基材層3を有するシート状積層体4を形成する。第二基材層2は主に飛沫の拡散防止用のフィルターとなる。
【0033】
次いで、シート状積層体4の表面から裏面に至る多数の溶融固化部5を、所要の通気性及び透明性を得るよう個々の占有面積及び該個々の占有面積の総和のシート状積層体の面積に対する面積率を調整して積層シートSに形成する。
【0034】
この実施形態では、シート状積層体4を形成するために、例えば、図3に示す装置と図4に示す装置を用いる。また第一基材層1及び第三基材層3となる不織布は、帯状に形成してロール状に巻取ったものを用いる。そして図3に示すように、第一基材層1となる不織布1aを、その原反ロールR1から巻戻して公知のナノファイバー紡糸装置M1へ送り、その第一基材層1の下面にナノファイバーをエレクトロスピニング法で紡糸することによって第一基材層1に第二基材層2となる不織布2aを重ね合わせた一次積層体7を形成し、その一次積層体7を巻取って原反ロールR7とする。
【0035】
次いで、図4に示すように、一次積層体7をその原反ロールR7から巻戻すと共に第三基材層となる不織布3aを原反ロールR3から巻戻して、対をなす案内ローラ21、22へ送り、一次積層体7の第二基材層2の上面に第三基材層3となる不織布3aを重ね合わせてシート状積層体4を形成する。
【0036】
このようにしてシート状積層体4を形成することにより、第二基材層2となる不織布2aが、単体での取り扱いが面倒なものであっても、それを、第三基材層3となる不織布3aとの重ね合わせ時等に第一基材層1と一体化させて取り扱うことができるので、第二基材層2となる不織布2aの取り扱いが容易になる。
【0037】
図4において、案内ローラ21、22(案内ローラ21、22は必要ない場合もある。)を通過したシート状積層体4は、更にエンボス装置M2へ走行する。エンボス装置M2は、外周に規則的に配置された多数の凸部23aを有するエンボスローラ23と、支持ローラ24とを備えている。
【0038】
多数の凸部23aは、エンボスローラ23の外周面に幅方向及び円周方向に夫々所定の相互間隔で規則的に配置されている。個々の凸部23aの先端面は、溶融固化部5と同様の形状に形成されており、回転時に誘導加熱又は直加熱により加熱されるようになっている。支持ローラ24の外周面は平坦であり、回転時に誘導加熱又は直加熱により加熱されるようになっている。シート状積層体4は、回転するエンボス装置M2を通過する際にエンボスローラ23の凸部23aと支持ローラ24の外周面とにより表裏両側から挟まれて加圧されると共に加熱され、当該シート状積層体4の表裏両面には多数の溶融固化部5が規則的に反復して形成される。そしてシート状積層体4は、それに多数の溶融固化部5が形成されることにより積層シートSとなり、その積層シートSは巻取られて巻取ロールRに形成される。このシート状積層体4へのエンボス加工は、積層シートSに、透明性を付与できる点に加えて、例えば、ナノフィルター層の偏りを減少させて耐久性を高めることができる点や、フィルター性能(ウイルス捕捉性能)を維持できる点、基材の風合いを調整できる点においても意義がある。
【0039】
なお、第一基材層1や第三基材層3に親水処理を施す必要がある場合には、不織布1aに不織布2aを重ね合わせる前に不織布1aに、又は不織布1aや不織布3aに親水処理を行っておく。この親水処理は、例えば不織布1aや不織布3aの製造工程で公知の親水剤を添加したり、繊維製造時に公知の親水剤を繊維に添加した後、その繊維で不織布を製造したりすることにより行う。また図4に示す装置を、エンボス装置M2の代わりにシート状積層体4を巻取る巻取装置を備えたものに替えると共に、エンボス装置M2を備える巻替え装置を準備して、この巻替え装置において溶融固化部5を形成するようにしてもよい。また溶融固化部5を形成するために、エンボス装置M2の代わりにシート状積層体4をエンボスローラと超音波ホーンとで挟んで、超音波ホーンを超音波振動させることにより溶融させて接合する超音波接合装置等、他の加熱装置を用いてもよい。また溶融固化部5は、図1に示す形状のものに限らず、例えば図5図6に示す形状のものを採用し得る。
【0040】
図7に示す衛生マスク10は、マスク本体11と、マスク本体11の左右両側に設けられた耳掛け部12とを備えており、顔面に装着したとき、マスク本体11は、図8に示すように口13や鼻14を覆う。この衛生マスク10は、マスク本体11として、図1及び図2に示す積層シートSを用いており、図2に示す第一基材層1は、顔面に接触する側に配置されマスク本体11の内層となっており、親水処理がされている。第三基材層3は、顔面に接触しない側に配置されマスク本体11の外層になっている。第二基材層2は、マスク本体11の、唾液や喀痰等の飛沫の拡散を防止するための中層となっている。なお、衛生マスク10は、例えばゴムや不織布からなる耳掛け部12を有するタイプに限定されず、例えば、耳掛け部12がマスク本体11と共に一体成型又は打ち抜き成型された不織布からなるタイプや、マスク自体に粘着部が設けられており、耳掛け部12を有しない粘着タイプも含まれる。また、マスク本体11の形状は、特に限定されず、例えば柳葉型をした立体形状であってもよい。
【0041】
第一基材層1又は第三基材層3に親水処理をしておき、衛生マスク10において、親水処理をした第一基材層1又は第三基材層3を、顔面に接触する側に配置しておけば、この衛生マスク10の装着者の呼吸中の水蒸気が結露したとしても、第一基材層1又は第三基材層3が、結露した水滴の拡散を助けて蒸散させる働きをするので、顔面が接触する内層が結露した水で濡れて不快感が生じるのを防ぐことができる。
(第二実施形態)
【0042】
図9及び図10は本発明の第二実施形態を示し、この第二実施形態では、多数の溶融固化部5が、個々に溝状に一定方向に伸長すると共に、所要の通気性及び透明性を得るよう所要の幅を有し、シート状積層体4上に所要の相互間隔で並んでいる点で、第一実施形態の積層シートSと相違する。
【0043】
図9に示す溝状の多数の溶融固化部5は、互いに交差する縦向きに伸長したものと横向きに伸長したものとからなるが、交差しないよう一つの方向にのみ伸長するものであってもよい。個々の溝状の溶融固化部5の所要の幅や、溝状の溶融固化部5の所要の相互間隔は、試行錯誤により求めることができる。また溶融固化部5や非溶融部6は、図9に示す形状のものに限らず、例えば図11に示す形状のものを採用し得る。
【0044】
多数の溶融固化部5は、空気の流路を狭くして積層シートSによる粒子の捕集性を向上させる働きもあり、個々の溶融固化部5の形状及び配置は、通気性や透明性を考慮して決定する。最終的には更に官能評価を加え、総合的に判断して決定するのが望ましい。
(仮想境界枠)
【0045】
積層シートSの全体の面積に対する多数の溶融固化部5の面積率を把握するには、個々の溶融固化部5の占有面積の総和を求める必要がある。図7に示すマスク本体11は縦の長さが13センチメートル、横の長さが16センチメートルの長方形の積層シートSでできている。このような面積の広い積層シートSにおいて、多数の溶融固化部5の面積を一つずつ求めて合計するのは面倒である。この面倒を避けるため、そして積層シートSの性能を、その表面全域にわたって極力一様にするために、例えば図1に示すように、シート状積層体4の表面に、互いに同じ形状及び大きさを有して隙間なく接する多数の仮想境界枠Pを設定している。図1において、点a、b、c、dで囲まれた四角形が一つの仮想境界枠Pである。そして多数の溶融固化部5は、一個ずつ仮想境界枠Pの各々に分配され、かつ仮想境界枠P毎の溶融固化部5の占有面積が夫々同じになるようシート状積層体4の表面に均一に分布している。したがって、上述の積層シートSにおける溶融固化部5の分布領域全域の面積率は、一つの仮想境界枠Pの面積に対する一つの溶融固化部5の占有面積の割合と等しくなる。そして、この割合を枠内面積率とし、一つの仮想境界枠P内の溶融固化部5以外の部分を枠内非溶融部6aとすると、一つの仮想境界枠Pの面積及び枠内非溶融部6aの面積は、枠内面積率が同じ場合、仮想境界枠P内の溶融固化部5の面積と枠内面積率とに基づき夫々算出することができる。
【0046】
図1に示す多数の溶融固化部5は、各々の周りを枠内非溶融部6aで囲まれている。仮想境界枠Pは、夫々一つの溶融固化部5と、この溶融固化部5の周りの枠内非溶融部6aを囲んでいる。図5図6図9図11図18図20及び図22では、夫々二点鎖線で示す四角形が仮想境界枠Pである。図9図11示す仮想境界枠Pは、一つの溶融固化部5の一部分5aと四個の非溶融部6の各一部分6aを囲んでおり、この場合、枠内非溶融部6aは四つの一部分6aで構成されている。
【0047】
なお、各仮想境界枠P内の溶融固化部5の形状や個数は全て同じとは限らない。一つの仮想境界枠P内に、異なる形状の溶融固化部5があったり、複数個の溶融固化部5があったり、一つの仮想境界枠P内に、個々の形状や大きさが異なる複数個の溶融固化部5があったり、仮想境界枠P相互間で溶融固化部5の個数が異なったりする場合もあり得る。そのような場合でも、一つの仮想境界枠Pが囲んでいる一つ又は複数の溶融固化部5による占有面積の総和が仮想境界枠P毎に同じであれば、溶融固化部5はシート状積層体4の表面に均一に分布していると見做す。
【0048】
仮想境界枠Pの面積が大きくなると、積層シートSを通して視認するときの、積層シートSの視認対象物に対する解像度が低下する。この解像度は、ここでは一つの仮想境界枠Pの大きさを意味し、上述の枠内面積率を一定にして解像度を変えた場合、解像度が小さくなると、仮想境界枠Pの面積が大きくなり、仮想境界枠P内の溶融固化部5の面積及び枠内非溶融部6aの面積が大きくなり、衛生マスク装着者の顔面の、一つの枠内非溶融部6aによって覆われる部分の面積が大きくなって、衛生マスク10の装着者の表情が捉えにくくなる。それゆえ、積層シートSの解像度が小さ過ぎる場合には、仮想境界枠Pの面積を小さくして枠内非溶融部6aの面積を適正範囲内に収める必要がある。この解像度は、通気性に及ぼす影響は枠内面積率に比べて小さいので、その解像度の適正範囲は、例えば、コンピュータを利用して、各々枠内面積率が同じで枠内非溶融部6aの面積が異なる幾つかの積層シートSを模擬的に作成し、その積層シートS毎に、その積層シートSと、口元及び鼻の写った顔写真とを合成して表示画面に表示し、その積層シートSを通して顔写真を目視したときの表情の見え具合によって解像度の良否を判断することで把握することができる。
【実施例1】
【0049】
次に、本発明の積層シートSの実施例について説明する。
(実施例1)
【0050】
第一基材層1として、目付が1平方メートル当たり15グラムであって、ポリプロピレン(PP)を素材とするスパンボンド不織布を使用し、第二基材層2として、目付が1平方メートル当たり0.2グラムであって、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を素材としてエレクトロスピニング法により紡糸した不織布を使用し、第三基材層3として、目付が1平方メートル当たり15グラムであって、ポリプロピレン(PP)を素材とするスパンボンド不織布を使用し、第一基材層1と第二基材層2と第三基材層3とを、第二基材層2が第一基材層1と第三基材層3との間に配置されるように重ね合わせてシート状積層体4を形成し、このシート状積層体4に、図1に示すような形状の多数の溶融固化部5をエンボス装置M2により形成することで、積層シートS1を製造した。
【0051】
多数の溶融固化部5を形成する際に使用したエンボス装置M2のエンボスローラ23の凸部23aの先端面は、図1に示す溶融固化部5の形状と同じ形状である。そして面積率は21パーセントであった。この面積率を求めるとき、エンボスローラ23の凸部23aの先端面の面積と溶融固化部5の面積とは略同一であるので、凸部23aの先端面の面積を、溶融固化部5の面積として用いた。
【0052】
なお、多数の溶融固化部5の形状は、厳密には、溶融固化により変形したり収縮したりするのでエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状とは、夫々僅かに異なることになる。そこで、実施例1~実施例4では、溶融固化部5の占有面積及び面積率を、加工に使用したエンボスローラ23の凸部23aの形状、配置に基づき算出した。
【0053】
溶融固化部5形成時のエンボスローラ23の凸部23aの表面温度は摂氏148度、支持ローラの表面温度は摂氏148度とし、シート状積層体4を毎分3メートルの速さで走行させながら、エンボスローラ23と支持ローラ24とにより、シート状積層体4に、当該シート状積層体4の幅1センチメートル当たり60キログラムの押圧力を加えた。
【0054】
積層シートS1の通気性と粒子の捕集性を評価するために、積層シートS1について、マスク濾材の性能試験(以下、濾材性能試験という。)を行った。その際、試験装置において積層シートS1を通過する空気の風速が毎秒20センチメートルとなるよう空気の供給量を設定し、空気が積層シートS1を通過する際の圧力損失を計測すると共に、積層シートS1の上流側と下流側の空気に含まれる0.3~0.5マイクロメートルの粒子の個数をパーティクルカウンターで計測し、次式(数1)により捕集効率を求めた。
(数1)
捕集効率=(上流側の粒子個数-下流側の粒子個数)÷(上流側の粒子個数)
【0055】
上述の濾材性能試験の結果、圧力損失が123.1パスカル、捕集効率が80.0パーセントであった。
【0056】
積層シートS1の視認性を評価するために、積層シートS1の一部分であって一辺6.7mm×9.8mmの長方形部分に対し、日本分光株式会社製の分光光度計(V-570)を用いて積層シートS1の全光線透過率を測定した。その結果、全光線透過率は72.9パーセントであった。また積層シートS1の背後に、略実物大の口元及び鼻の写った顔写真を置き、その写真の口元及び鼻を、積層シートS1を通して見ることで、目視により積層シートS1の視認性の良否を調べた。その結果、透明フィルムのフェースガードを通して見るほどではないが、口や鼻がくっきりと見えた。図12は、そのとき撮影された写真である。
(実施例2)
【0057】
実施例1と同じように形成されたシート状積層体4を用い、このシート状積層体4に、図5に示す形状に近似する形状の多数の溶融固化部5をエンボス装置M2により形成することで、積層シートS2を製造した。
【0058】
多数の溶融固化部5を形成する際に使用したエンボス装置M2のエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状は、図5に示す溶融固化部5の形状と同じであり、面積率は25パーセントであった。また溶融固化部5形成時のエンボスローラ23の凸部23aの表面温度は摂氏145度、支持ローラの表面温度は摂氏145度とし、その他の加工条件は実施例1と同じとした。
【0059】
積層シートS2について、通気性と粒子の捕集性を評価するために、実施例1と同様に濾材性能試験を行った。
【0060】
濾材性能試験の結果、圧力損失が120.8パスカル、捕集効率が73.6パーセントであった。
【0061】
また、製造された積層シートS2について、視認性を評価するために、実施例1と同様に全光線透過率を求めると共に、目視により視認性の良否を調べた。その結果、全光線透過率は75.1パーセントであり、また目視により、透明フィルムのフェースガードを通して見るほどではないが、口や鼻がくっきりと見えた。図13は、そのとき撮影された写真である。
(実施例3)
【0062】
実施例1と同じように形成されたシート状積層体4を用い、このシート状積層体4に、図6示す形状に近似する多数の溶融固化部5をエンボス装置M2により形成することで、積層シートS3を製造した。
【0063】
多数の溶融固化部5を形成する際に使用したエンボス装置M2のエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状は、図6に示す溶融固化部5の形状と同じであり、面積率は52パーセントであった。また溶融固化部5形成時のエンボスローラ23の凸部23aの表面温度は摂氏145度、支持ローラ24の表面温度は摂氏145度とし、その他の加工条件は実施例1と同じとした。
【0064】
積層シートS3について、通気性と粒子の捕集性を評価するために、実施例1と同様に濾材性能試験を行った。
【0065】
濾材性能試験の結果、圧力損失が133.8パスカル、捕集効率が75.7パーセントであった。
【0066】
また、製造された積層シートS3について、視認性を評価するために、実施例1と同様に全光線透過率を求めると共に、目視により視認性の良否を調べた。その結果、全光線透過率は78.2パーセントであり、また目視により、透明フィルムのフェースガードを通して見るほどではないが、顔写真の口や鼻がくっきりと見えた。図14は、そのとき撮影された写真である。
(実施例4)
【0067】
実施例1と同じように形成されたシート状積層体4を用い、このシート状積層体4に、図11に示す形状に近似する形状の多数の溶融固化部5をエンボス装置M2により形成することで、積層シートS4を製造した。
【0068】
多数の溶融固化部5を形成する際に使用したエンボス装置M2のエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状は、図11に示す溶融固化部5の形状と同じであり、面積率は50パーセントであった。また溶融固化部5形成時のエンボスローラ23の凸部23aの表面温度は摂氏145度、支持ローラの表面温度は摂氏145度とし、その他の加工条件は実施例1と同じとした。
【0069】
製造された積層シートS4について、通気性と粒子の捕集性を評価するために、実施例1と同様に濾材性能試験を行った。
【0070】
濾材性能試験の結果、圧力損失が203.2パスカル、捕集効率が78.1パーセントであった。
【0071】
また、製造された積層シートS4について、視認性を評価するために、実施例1と同様に全光線透過率を求めると共に、目視により視認性の良否を調べた。その結果、全光線透過率は70.7パーセントであり、また目視により、顔写真の口や鼻がくっきりと見えた。図15は、そのとき撮影された写真である。
(比較例1)
【0072】
実施例1~実施例4と比較するために、比較例1として既存の不織布衛生マスク(「東京メディカル株式会社製の不織布3層マスク」)のマスク本体を構成している積層シートS5を採用した。この積層シートS5は、第一基材層1として、目付が1平方メートル当たり18グラムであって、ポリプロピレン(PP)を素材とするスパンボンド不織布を使用し、第三基材層3として、目付が1平方メートル当たり18グラムであって、ポリプロピレン(PP)を素材とするスパンボンド不織布を使用し、第二基材層2として、目付が1平方メートル当たり25グラムであって、ポリプロピレン(PP)を素材とするメルトブローン不織布を使用し、第一基材層1と第二基材層2と第三基材層3とを、第二基材層2が第一基材層1と第三基材層3との間に配置されるように重ね合わせて形成したものであり、多数の溶融固化部5は有していない。
【0073】
この積層シートS5について、実施例1と同様の濾材性能試験を行った。
【0074】
濾材性能試験の結果、圧力損失が102.4パスカル、捕集効率が78.4パーセントであった。
【0075】
積層シートS5について、実施例1と同様にして全光線透過率を求めた結果、全光線透過率は30.4パーセントであった。
【0076】
また積層シートS5について、視認性を評価するために、実施例1と同様に全光線透過率を求めると共に、目視により視認性の良否を調べた。その結果、全光線透過率は30.4パーセントであり、また目視により、顔写真の口や鼻を全く認識できなかった。図16は、そのとき撮影された写真である。
(比較例2)
【0077】
実施例1~実施例4と比較するために、比較例2として既存の衛生マスク(「東京メディカル株式会社製の不織布2層マスク」)のマスク本体を構成している積層シートS6を採用した。この積層シートS6は、目付が1平方メートル当たり20グラムであって、ポリプロピレン(PP)を素材とするスパンボンド不織布を2枚重ね合わせて構成されており、比較例1のようなメルトブローン不織布からなるフィルター層を有しておらず、また多数の溶融固化部も有していない。
【0078】
積層シートS6について、実施例1と同様の濾材性能試験を行った。
【0079】
濾材性能試験の結果、圧力損失が6.2パスカル、捕集効率が3.1パーセントであった。
【0080】
また、積層シートS6について、実施例1と同様にして全光線透過率を求めた結果、全光線透過率は56.4パーセントであり、また比較例1と同様に目視により視認性の良否を調べた結果、口や鼻がぼやけて見えた。図17は、このとき撮影された写真である。
(評価)
【0081】
実施例1~実施例4、及び比較例1~比較例2について、積層シートの製造に関する各種データ、及び上述の性能試験で得られた通気性、粒子の捕集性、視認性に関するデータを表1に示す。
【表1】
【0082】
実施例1~実施例4の積層シートの通気性、粒子の捕集性、視認性ついて、比較例1、比較例2と比較して良否を判断する。
(通気性の評価)
【0083】
表1に示すように、実施例1~実施例3では圧力損失の値が、比較例1の圧力損失の値と同程度であるので、実施例1~実施例3の積層シートS1、S2、S3は、既存の衛生マスクと同程度の通気性を有していると評価できる。実施例4の積層シートS4は、比較例1より通気性が劣っている。
(捕集性の評価)
【0084】
表1に示すように、実施例1~実施例4の捕集効率は、70~80パーセントのレベルにあり、比較例1と略同じレベルで、目標とした60パーセント以上である。そして比較例2の捕集効率3.1パーセントより遥かに勝っている。したがって、実施例1~実施例4は、通気性及び空気中の花粉・唾液や喀痰等の飛沫等の飛散を防止する捕集性を有している。
(視認性の評価)
【0085】
表1に示すように、実施例1~実施例4の全光線透過率は、比較例1、比較例2に比べて十分に大きい。また図16に示す写真では、口や鼻を全く視認することができず、図17に示す写真では、口や鼻がぼやけて見えるのに対して、図12図15に示す写真では、口元や鼻を十分に視認することができる。したがって、実施例1~実施例4の積層シートS1、S2、S3、S4の視認性は十分良いと評価できる。
【0086】
本発明の積層シートSでは、その積層シートSを通過する空気の風速が毎秒20センチメートルとなるよう空気の供給量を設定した濾材性能試験における圧力損失を、その積層シートSの通気性の良し悪しの指標としており、この圧力損失の目標値は300パスカル以下であり、より好ましくは210パスカル以下である。また、濾材性能試験において上流側と下流側の空気に含まれる0.3~0.5マイクロメートルの粒子の個数をパーティクルカウンターで計測し、その計測した上流側の粒子の個数と下流側の粒子の個数との差の、前記上流側の粒子の個数に対する割合を捕集効率とするとき、この捕集効率を捕集性の指標としており、この捕集効率の目標値は60%以上であり、より好ましくは70パーセント以上である。また、透明性の指標となる全光線透過率の目標値は70パーセント以上である。さらにまた、解像度の指標となる枠内非溶融部6aの占有面積の目標値は、400平方ミリメートル以下であり、より好ましくは40平方ミリメートル以下である。なお、仮想境界枠P内の溶融固化部5の占有面積が小さくなりすぎると、不織布の繊維が溶融固化部5に被さって積層シートの全光線透過率が低下するので、仮想境界枠P内の溶融固化部5の占有面積の目標値は0.04平方ミリメートル以上にするのが望ましい。
【0087】
溶融固化部5の形状や大きさが異なる3種類の積層シートを更に製造し、その濾材性能、視認性を検討した。その際、各々実施例2と同じように形成されたシート状積層体4にエンボス装置M2により溶融固化部5を形成した。また積層シートの濾材性能や視認性を評価するために、実施例1と同様の方法で圧力損失や捕集効率、全光線透過率を求めた。またエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状及び寸法から、凸部23aの先端面の面積を算出して、この凸部23aの先端面の面積を仮想境界枠P内の溶融固化部5の占有面積とし、エンボスローラ23の凸部23aの周りの空所の形状及び寸法から、仮想境界枠Pの面積を算出した。
(実施例5)
【0088】
図18に示す形状の多数の溶融固化部5をシート状積層体4に形成することで積層シートS5を製造した。その際に用いたエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状は正方形であり、その先端面の面積は0.25平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積は1.8平方ミリメートルであった。そして枠内非溶融部6aの面積は約1.5平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積に対する溶融固化部5の面積率は約14パーセントであった。また積層シートS5について、濾材性能試験を行った結果、圧力損失が171.8パスカル、捕集効率が78.3パーセントであり、全光線透過率を求めた結果、全光線透過率は74パーセントであった。また目視により視認性の良否を調べた結果、透明フィルムのフェースガードを通して見るほどではないが、顔写真の口や鼻がくっきりと見えた。図19は、そのとき撮影された写真である。
(実施例6)
【0089】
図20に示す形状の多数の溶融固化部5をシート状積層体4に形成することで積層シートS6を製造した。その際に用いたエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状は長方形であり、その先端面の面積は0.42平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積は約2.3平方ミリメートルであった。そして枠内非溶融部6aの面積は約1.9平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積に対する溶融固化部5の面積率は約18パーセントであった。また積層シートS6について、濾材性能試験を行った結果、圧力損失が206.4パスカル、捕集効率が77パーセントであり、全光線透過率を求めた結果、全光線透過率は74.8パーセントであった。また目視により視認性の良否を調べた結果、透明フィルムのフェースガードを通して見るほどではないが、顔写真の口や鼻がくっきりと見えた。図21は、そのとき撮影された写真である。
(実施例7)
【0090】
図22に示す形状の多数の溶融固化部5をシート状積層体4に形成することで積層シートS5を製造した。その際に用いたエンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状は正方形であり、その先端面の面積は0.04平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積は約0.36平方ミリメートルであった。そして枠内非溶融部6aの面積は約0.32平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積に対する溶融固化部5の面積率は約11パーセントであった。また積層シートS7について、濾材性能試験を行った結果、圧力損失が198.8パスカル、捕集効率が77.6パーセントであり、全光線透過率を求めた結果、全光線透過率は73.7パーセントであった。また目視により視認性の良否を調べた結果、透明フィルムのフェースガードを通して見るほどではないが、顔写真の口や鼻がくっきりと見えた。図23は、そのとき撮影された写真である。
【0091】
実施例5~実施例7について、積層シートの製造に関する各種データ、及び上述の性能試験で得られた通気性、粒子の捕集性、視認性に関するデータを表2に示す。
【表2】
【0092】
実施例5~実施例7の積層シートS5、S6、S7は、いずれも濾材性能試験における圧力損失、捕集効率、全光線透過率の目標値に到達しており、その通気性及び透明性は適正であった。
【0093】
つまり、圧力損失については、目標値は300パスカル以下であるのに対して、実施例5では171.8パスカル、実施例6では206.4パスカル、実施例7では198.8パスカルである。捕集効率については、目標値は60パーセント以上であるのに対して、実施例5では78.3パーセント、実施例6では77パーセント、実施例7では77.6パーセントである。全光線透過率については、目標値は70パーセント以上であるのに対して、実施例5では74パーセント、実施例6では74.8パーセント、実施例7では、73.7パーセントである。また視認性については、実施例5~実施例7は、いずれも目視判断により視認性があるとされている。更に、枠内非溶融部6aの占有面積については、目標値が400平方ミリメートル以下であるのに対して、実施例5では約1.6平方ミリメートル、実施例6では約1.9平方ミリメートル、実施例7では約0.32平方ミリメートルである。
【0094】
実施例1~実施例4の積層シートS1~S4についても、エンボスローラ23の凸部23aの先端面の形状及び寸法から、凸部23aの先端面の面積を算出して、この凸部23aの先端面の面積を仮想境界枠P内の溶融固化部5の占有面積とし、エンボスローラ23の凸部23aの周りの空所の形状及び寸法から、仮想境界枠Pの面積を算出し、その溶融固化部5の占有面積と仮想境界枠Pの面積とから、枠内面積率と枠内非溶融部6aの面積を算出した。その結果、エンボスローラ23の凸部23aの先端面の面積は、実施例1では2.6平方ミリメートル、実施例2では0.6平方ミリメートル、実施例3では33.2平方ミリメートル、実施例4では、0.7平方ミリメートルであり、仮想境界枠Pの面積は、実施例1では12.8平方ミリメートル、実施例2では2.4平方ミリメートル、実施例3では63.8平方ミリメートル、実施例4では1.41平方ミリメートルであり、枠内非溶融部6aの面積は、実施例1では約10.2平方ミリメートル、実施例2では約1.8平方ミリメートル、実施例3では30.6平方ミリメートル、実施例4では約0.7平方ミリメートルであった。
【0095】
実施例1~実施例4の積層シートS1~S4についても実施例5~実施例7の場合と同様に評価した。その結果、積層シートS1~S4はいずれも通気性及び透明性は適正であった。
【0096】
本発明によれば、第二基材層2として、ナノファイバー不織布の代わりにメルトブローン不織布を用いることができる。メルトブローン不織布の繊維径は概ね500ナノメートル以上である。シート状積層体4は、第三基材層3を備えず、第一基材層1と第二基材層2とで構成されたもの、或いは4層以上の層を有するのもでもよい。また第一・第三基材層の不織布の代わりにまた、紗、織物、編み物、通気性のあるフィルムであってもよい。繊維集合体の場合は密度が小さいほうがよい。合成繊維の場合は低目付でマスターバッチなどの不純物がないことが望ましい。また酸化チタンなどの増白剤は透明性を阻害するので添加しないのが望ましい。また第二基材層2を、溶融固化部5を備えないナノファイバー不織布とし、第一基材層1、第三基材層3をエンボス加工した多数の溶融固化部5を備える不織布で構成することができる。ナノファイバーを形成するためには、親水性が付与された基材が望ましい。また穴の開いた透明フィルムを、第一基材層1、第三基材層3として用いたり、第三基材層3の上に設ける第四基材層とし用いたりすることもできる。第一基材層1、第三基材層3等には、ポリエチレン(PE)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエステル(PET)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(NY)やPBT、PVA、ポリウレタンや天然系の熱可塑性素材等が適材であり、第二基材層のナノファイバー不織布やメルトブローン不織布には、上記以外にPVDF、セルロースアセテート、タンパク系、CNF、PCL、PAI、PVA、PEG、アクリル樹脂、PAN等を用いることがある。
【0097】
また、図2では、溶融固化部5は、シート状積層体4の表面から裏面に至っているが、シート状積層体4の裏面付近の一部分が溶融せずに残っている場合もあり得る。その場合でも、溶融していない一部分が積層シートSの透明性に大きく影響を及ぼすものでなければ、溶融固化部5はシート状積層体4の表面から裏面に至っていると見做す。そして溶融固化部5は完全に透明なものでなくてもよく、また非溶融部6も光を完全に遮断するものでなくてもよい。
【0098】
また、図9に示す溶融固化部5は縦方向及び横方向に伸長しているが、図24に示す衛生マスク10では多数の溶融固化部5は夫々縦方向のみに伸長している。この溶融固化部5は必要に応じて横方向のみ或いは斜め方向にのみ伸長していてもよい。図25は、図24に示す衛生マスク10の一部分を拡大すると共に縦方向の中央部分を省略して示している。図25において、点a、b、c、dで囲まれた四角形が一つの仮想境界枠Pであり、この仮想境界枠Pの長辺の長さは、溶融固化部5の長辺の長さと同じになっている。そして縦方向に伸長した多数の溶融固化部5は、夫々同形同大であり、互いに同形同大で横方向に一列に並ぶと共に隙間無く接する多数の仮想境界枠Pの各々に、一個ずつ分配されて囲まれており、シート状積層体11の表面に均一に分布している。多数の溶融固化部5が斜め平行に伸長している場合には、仮想境界枠Pの形状は平行四辺形にすることができる。
【0099】
また、積層シートは、その全面に同じ前記仮想境界枠が均一に分布したものに限らず、例えば、顔面の一部分を隠すために部分的に一つ又は複数の特定の模様が配置されたものでもよく、その場合は、その特定の模様を無視して、溶融固化部の分布領域について面積率、通気性、透明性等を考慮することとする。更に、衛生マスクは、プリーツや特定の模様を設けたものでもよく、積層シートの表と裏を逆にして用いてもよい。
【符号の説明】
【0100】
S…積層シート
1…第一基材層;1a…不織布
2…第二基材層;2a…不織布
3…第三基材層;3a…不織布
4…シート状積層体
5…溶融固化部
6…非溶融部
7…一次積層体
10…衛生マスク
11…マスク本体
12…耳掛け部
13…口
14…鼻
21…案内ローラ
22…案内ローラ
23…エンボスローラ;23a…凸部
24…支持ローラ
P…仮想境界枠
【要約】
装着者の表情の視認性及び通気性が良く飛沫の拡散防止に有効な捕集性を有する衛生マスクを得るのに適した半透明の積層シートを提供する。本発明の積層シート(S)は、少なくとも熱可塑性の多数の繊維で形成された第一基材層(1)と、第一基材層(1)の繊維より細い熱可塑性の多数の繊維で形成された第二基材層(2)とを重ね合わせてなるシート状積層体(4)と、所要の通気性及び透明性を得るよう個々の占有面積及び該個々の占有面積の総和のシート状積層体(4)の面積に対する面積率を調整してシート状積層体(4)に形成された、該シート状積層体(4)の表面から裏面に至る多数の溶融固化部(5)とを備える。
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