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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】強化繊維用サイジング剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/55 20060101AFI20220927BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20220927BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20220927BHJP
   D06M 13/262 20060101ALI20220927BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20220927BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20220927BHJP
   B29K 105/06 20060101ALN20220927BHJP
【FI】
D06M15/55
B29B15/08
D06M13/17
D06M13/262
D06M13/292
D06M15/53
B29K105:06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022547186
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022011870
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021068742
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 吉彦
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-2518(JP,A)
【文献】特開2021-55244(JP,A)
【文献】特開2016-151069(JP,A)
【文献】特開2015-67929(JP,A)
【文献】国際公開第2022/009796(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0089474(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/55
B29B 15/08
D06M 13/17
D06M 13/262
D06M 13/292
D06M 15/53
B29K 105/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、界面活性剤(B)及び水を含有する強化繊維用サイジング剤であって、
25℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の複素粘度が1×10~1×10Pa・sであり、
120℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の損失弾性率が5~30Paである、強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A)が下記一般式(1)で示される化合物である、請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【化1】
(1)
(式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。nは0以上の整数である。)
【請求項3】
前記サイジング剤の不揮発分における前記エポキシ樹脂(A)が30重量%以上であり、前記サイジング剤の不揮発分に占める前記一般式(1)においてnが0であるエポキシ樹脂(A―1)が15重量%以下である、請求項1又は2に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びロジンエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項5】
前記界面活性剤(B)が、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含み、前記非イオン界面活性剤が複数の末端にポリオキシエチレン基を有する非イオン界面活性剤を含み、前記アニオン界面活性剤がサルフェート塩及びホスフェート塩から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤を付着させた、強化繊維ストランド。
【請求項7】
マトリックス樹脂と、請求項6に記載の強化繊維ストランドとを含む、繊維強化複合材料。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項7に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維用サイジング剤及びその用途に関する。詳細には、マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤、これを用いた強化繊維ストランド及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等に、プラスチック材料(マトリックス樹脂と称される)を各種合成繊維で補強した繊維強化複合材料が幅広く利用されている。これらの複合材料に使用される強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。これら各種強化繊維は通常、フィラメント形状で製造され、その後ホットメルト法やドラムワインディング法等により一方向プリプレグと呼ばれるシート状の中間材料に加工されたり、フィラメントワインディング法によって加工されたり、場合によっては織物又はチョップドファイバー形状に加工されたりする等、各種高次加工工程を経て、使用されている。
【0003】
強化繊維複合材料のマトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が広く使用されている。エポキシ樹脂以外にもラジカル重合系のマトリックス樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂等が使用されている。
強化繊維複合材料の機械強度を向上させるためには、マトリックス樹脂と強化繊維の濡れ性や接着性が重要となり、上記のエポキシ樹脂、ラジカル重合系のマトリックス樹脂に対して、強化繊維の濡れ性や接着性が向上するサイジング剤が提案されている。
【0004】
各種高次加工工程において、各種強化繊維は、糸切れや毛羽による各種物性や品質の低下を抑制するため、集束性が求められる。また、高次加工時のガイドなどの工程通過後のバラケを抑制し、取扱性を向上させるために形体保持性が求められる。また、品質の高いコンポジットを製造するため、形状を保持したまま隙間なく均一にストランド幅を広げる開繊性が必要である。
特許文献1や特許文献2に記載のサイジング剤は、糸切れや毛羽による各種物性や品質の低下を抑制するため、集束性を向上させているが、サイジング剤の付着工程や乾燥工程における強化繊維表面のサイジング剤の付着状態が悪く、初期の集束性は良くても加工工程の過程で形体保持性を維持させることは難しく、取扱性の低下が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2015-190067号公報
【文献】日本国特開2016-89276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、取扱性に優れた形体保持性を有する強化繊維用サイジング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ樹脂、界面活性剤及び水を含有し、複素粘度及び損失弾性率が特定の値である強化繊維用サイジング剤であれば、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明の強化繊維用サイジング剤は、エポキシ樹脂(A)、界面活性剤(B)及び水を含有する強化繊維用サイジング剤であって、25℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の複素粘度が1×10~1×10Pa・sであり、120℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の損失弾性率が5~30Paである。
【0008】
前記エポキシ樹脂(A)が下記一般式(1)で示される化合物であると好ましい。
【化1】
(1)
(式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。nは0以上の整数である。)
前記サイジング剤の不揮発分における前記エポキシ樹脂(A)が30重量%以上であり、前記サイジング剤の不揮発分に占める前記一般式(1)においてnが0であるエポキシ樹脂(A―1)が15重量%以下であると好ましい。
ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びロジンエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有すると好ましい。
前記界面活性剤(B)が、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含み、前記非イオン界面活性剤が複数の末端にポリオキシエチレン基を有する非イオン界面活性剤を含み、前記アニオン界面活性剤がサルフェート塩及びホスフェート塩から選ばれる少なくとも1種を含むと好ましい。
【0009】
本発明の強化繊維ストランドは、前記強化繊維用サイジング剤を付着させたものである。
本発明の繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂と、前記強化繊維ストランドとを含む。
前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であると好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の強化繊維用サイジング剤は、形体保持性を有することができる。本発明の強化繊維ストランドを使用することにより、優れた物性を有する強化繊維複合材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の強化繊維用サイジング剤の各成分について詳細に説明する。
〔エポキシ樹脂(A)〕
エポキシ樹脂(A)は、本発明の強化繊維用サイジング剤の必須成分である。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0012】
ここで、ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等を挙げることができる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。
【0013】
アミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品等を挙げることができる。
【0014】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100~1500g/eqが好ましく、200~1000g/eqがより好ましく、300~800g/eqがさらに好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満の場合、強化繊維ストランドの経時硬化を促進することがある。エポキシ当量が1500g/eq超の場合、マトリックス樹脂との接着性が低下することがある。なお、エポキシ当量とは、JIS-K-7236に準拠したものをいう。
【0015】
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、100~10000が好ましく、400~8000がより好ましく、600~6000がさらに好ましい。重量平均分子量が100未満の場合、形体保持性が不足するとともに、強化繊維ストランドの乾燥工程等で耐熱性が不足し揮散してしまうことがある。重量平均分子量が10000超の場合、形体保持性が不足するとともに、サイジング剤の長期保管安定性が低下することがある。
【0016】
エポキシ樹脂は、強化繊維とマトリックス樹脂の接着性向上の点から、分子構造中に芳香環を有する芳香族エポキシ樹脂が好ましい。
上記の芳香族エポキシ樹脂としては、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコールなどの単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、レゾルシンノボラック、ビスフェノールFノボラック、ビスフェノールAノボラック、ジシクロペンタジエン変性フェノール、トリフェニルメタン、テトラフェニルエタンなどの多核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0017】
これら芳香族エポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく、下記一般式(1)で示される化合物であると、本願効果の観点から、さらに好ましい。
【0018】
【化1】
(1)
(式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。nは0以上の整数である。)
【0019】
本発明の強化繊維用サイジング剤の不揮発分に占める、上記n=0のエポキシ樹脂の重量割合は、15重量%以下が好ましく、10重量以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
上記n=0のエポキシ樹脂の重量割合が少ないと、エポキシ樹脂の粘度が高くなり、エポキシ当量が増加することで、形体保持性や強化繊維用サイジング剤の安定性に優れる。
【0020】
上述のエポキシ樹脂の製造方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用できる。また、上述のエポキシ樹脂は、一般に市販されているものであり、本発明の強化繊維用サイジング剤では、それら市販のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0021】
〔界面活性剤(B)〕
界面活性剤(B)は、エポキシ樹脂(A)と併用されることで、エポキシ樹脂(A)が水中に容易分散し、強化繊維用サイジング剤の取扱い性や長期安定性が優れる。
界面活性剤(B)としては、特に限定されず、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及び両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。好ましくは、非イオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤である。
【0022】
非イオン系界面活性剤とは、親水基と疎水基を有する有機化合物であり、親水基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレン/プロピレンオキサイドランダム共重合基が挙げられる。疎水基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、多環アリール基、ポリプロピレンオキサイド基などが挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキサイド付加非イオン系界面活性剤(高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール、スチレン化フェノール、ベンジルフェノール、ソルビタン、ソルビタンエステル、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド(2種以上の併用可)を付加させたもの)、ポリアルキレングリコールに高級脂肪酸等を付加させたもの、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体等を挙げることができる。非イオン系界面活性剤の中でも、複数の末端にポリオキシエチレン基を有する非イオン系界面活性剤が、本願効果を奏する観点から好ましい。複数の末端にポリオキシエチレン基を有する非イオン系界面活性剤としては、ソルビタン、ソルビタンエステル、ヒマシ油、硬化ヒマシ油にエチレンオキサイドを付加させたもの、ポリプロピレングリコールにエチレンオキサイドを付加させたもの(いわゆるプルロニック(登録商標)型界面活性剤)等が挙げられる。
【0023】
疎水基を構成するアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ラウリル基、イソデシル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、オレイル基、ベヘニル基等が挙げられ、不飽和結合を有してもよく、第一級、第二級、第三級のいずれでもよく、直鎖でも分岐構造を有してもよい。
【0024】
疎水基を構成するアルキルアリール基としては、トリル基、キシリル基、クミル基、オクチルフェニル基、2-エチルヘキシルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられ、アルキル基の位置、数に限定はない。
【0025】
疎水基を構成する多環アリール基としては、スチリルフェニル基、スチリルメチルフェニル基、スチリルノニルフェニル基、アルキルスチリルフェニル基、トリスチリルフェニル基、ジスチリルフェニル基、ジスチリルメチルフェニル基、トリスチリルフェニル基、ベンジルフェニル基、ジベンジルフェニル基、アルキルジフェニル基、ジフェニル基、クミルフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、置換基の位置や数に限定はない。
【0026】
上記高級脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、リシノレイン酸、エルカ酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ひまし油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸等が挙げられる。
【0027】
非イオン系界面活性剤の中でも、本願効果を奏する観点から、好ましくは、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体である。非イオン系界面活性剤の平均分子量は、形体保持性の点で、2000~18000が好ましく、3000~6000がさらに好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF-402HQ、KF-403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
【0028】
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(塩)、高級アルコール・高級アルコールエーテルのサルフェート塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルのホスフェート塩等を挙げることができる。好ましくはサルフェート塩、ホスフェート塩である。
【0029】
具体的には、アルキルサルフェート塩、アルキルアリールサルフェート塩、多環アリールサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルサルフェート塩(ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテルサルフェート塩等)、ポリオキシアルキレン多環アリールサルフェート塩(ポリオキシアルキレントリスチリルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンジスチリルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンスチリルメチルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンジスチリルメチルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレントリスチリルメチルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンジベンジルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンジクミルフェニルエーテルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンナフチルエーテルサルフェート塩等)、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテルサルフェート塩、アルルスルホネート塩、α-オレフィンスルホネート塩、アルキルアリールスルホネート塩、アルキルアリールジスルホネート塩(アルキルジフェニルジスルホネート塩等)、ビス(ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル)コハク酸エステルスルホネート塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルホスフェート塩、アルキルアリールホスフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルホスフェート塩、多環アリールエーテルホスフェート塩、ポリオキシアルキレン多環アリールエーテルホスフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテルホスフェート塩、芳香族スルホン酸塩(アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等)、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩(アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、クレオソート油スルホン酸塩系ホルマリン縮合物等)、メラミンスルホン酸塩縮合物、ビスフェノールスルホン酸塩系縮合物、アルキルカルボキシレート塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボキシレート塩、ポリカルボン酸塩、ロート油、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0030】
上記アニオン界面活性剤が塩の場合、水素原子、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、4級アンモニウム塩等であればよい。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。有機アミンとしては、アルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等)等が挙げられる。4級アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラメタノールアンモニウム、テトラエタノールアンモニウム等が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤は1種又は2種以上を併用してもよい。
マトリックスへの親和性に優れるため、好ましくは、アンモニウム塩、有機アミン塩、4級アンモニウム塩である。
【0031】
カチオン系界面活性剤としては、たとえば、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等)、アミン塩型カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルアミン乳酸塩等)等を挙げることができる。
【0032】
両性界面活性剤としては、たとえば、アミノ酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等)、ベタイン型両性界面活性剤(ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)等を挙げることができる。
【0033】
〔その他の樹脂〕
ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びロジンエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むと、形体保持性に優れるため、好ましい。
構造中に重合性二重結合を有する樹脂であると、形体保持性に優れ、マトリックス樹脂との親和性を高める役割を有するため、さらに好ましい。例えば、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びロジンエステル樹脂が挙げられる。
【0034】
ビニルエステル樹脂としては、例えば、前記エポキシ樹脂とα,β-不飽和モノカルボン酸とをエステル化させることで得られるエポキシ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。α,β-不飽和モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、チグリン酸及び桂皮酸等を挙げることができ、これらの2種以上を併用してもよい。ビニルエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(メタ)アクリレート変性物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基とが反応して得られる末端(メタ)アクリレート変性樹脂等)等を挙げることができる。
【0035】
飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等を挙げることができる。通常は、芳香族ポリエステル樹脂、例えば、ポリアルキレンアリレート樹脂又は飽和芳香族ポリエステル樹脂が使用される。
芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリC2-4アルキレンテレフタレート;このポリアルキレンテレフタレートに対応するポリC2-4アルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレートなど);1,4-シクロへキシルジメチレンテレフタレート(PCT))等を挙げることができる。芳香族ポリエステル樹脂は、アルキレンアリレート単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステルであってもよく、共重合成分には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのC2-6アルキレングリコール、ポリオキシC2-4アルキレングリコール、フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸等を挙げることができる。さらに、少量のポリオール及び/又はポリカルボン酸を用い、線状ポリエステルに分岐鎖構造を導入してもよい。さらに、変性化合物で変性した変性ポリエステル系樹脂(例えば、アミノ基及びオキシアルキレン基から選択された少なくとも一種を有する芳香族ポリエステル樹脂)を用いてもよい。変性化合物としては、ポリアミン類(エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンなどの炭素数2~10程度の直鎖又は分岐鎖状アルキレンジアミン等の脂肪族ジアミン類;イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジアミン類;例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン類;等)、ポリオール類(例えば、(ポリ)オキシエチレングリコール、(ポリ)オキシトリメチレングリコール、(ポリ)オキシプロピレングリコール、(ポリ)オキシテトラメチレングリコール等の(ポリ)オキシC2-4アルキレングリコール類等)等を挙げることができる。変性は、例えば、ポリエステル樹脂と変性化合物とを加熱混合し、アミド化、エステル化又はエステル交換反応を利用して行うことができる。
【0036】
飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、3000~12000が好ましく、6000~11000がさらに好ましい。酸価は5以下が好ましい。サイジング剤の不揮発分に占める飽和ポリエステル樹脂の重量は、30%以下が好ましい。
【0037】
不飽和ポリエステル樹脂としては、α,β-不飽和ジカルボン酸を含む酸成分とアルコールとを反応させて得られる不飽和ポリエステルを挙げることができる。α,β-不飽和ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等及びこれらの酸無水物等の誘導体等を挙げることができ、これらは2種以上を併用してもよい。また、必要に応じてα,β-不飽和ジカルボン酸以外の酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和ジカルボン酸及びこれらの酸無水物等の誘導体をα,β-不飽和ジカルボン酸と併用してもよい。アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族グリコール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド(1~100モル)付加物、キシレングリコール等の芳香族ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等を挙げることができ、これらの2種以上を併用してもよい。
不飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略す)付加物との縮合物、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略す。)付加物との縮合物、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのEO及びPO付加物(EO及びPOの付加は、ランダムでもブロックでもよい)との縮合物等を挙げることができる。
【0038】
不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、3000~12000が好ましく、3000~8000がさらに好ましい。酸価は5以下が好ましい。サイジング剤の不揮発分に占める不飽和ポリエステル樹脂の重量は、40%以下が好ましい。
【0039】
ロジンエステル樹脂としては、ロジンから誘導されるエステル化物であり、たとえば、ロジンと水酸基含有化合物とをエステル化してなる化合物が挙げられる。
【0040】
ロジンは、松から得られる天然樹脂であり、アビエチン酸とその異性体等を種々の割合で含有する混合物である。アビエチン酸以外の含有物の例としては、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、レボピマール酸、パラストリン酸などが挙げられる。
【0041】
上記水酸基含有化合物は特に限定されないが、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジプロピレングリコール及びビスフェノールAなどの水酸基を2個有する化合物、グリセリン、トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパンなどの水酸基を3個有する化合物、ペンタエリスリトール、ソルビタン及びジグリセリンなどの水酸基を4個有する化合物、ソルビトール及びジペンタエリスリトールなどの水酸基を6個有する化合物が挙げられる。
【0042】
ロジンエステルとしては、上記エステル化物に、さらにエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加して得られる化合物を用いることもできる。これらアルキレンオキシドの付加は、常法に従い行うことができる。サイジング剤の不揮発分に占めるロジンエステル樹脂の重量は、60%以下が好ましい。
好ましくは、液状ロジンエステル樹脂である。
【0043】
液状ロジンエステル樹脂は、本願発明の強化繊維用サイジング剤において、形体保持性に優れ、マトリックス樹脂との親和性を高める役割を果たす。液状ロジンエステル樹脂が、形体保持性に優れ、マトリックス樹脂との親和性を高める効果を発揮する理由としては定かではないが、分子構造と運動性に起因した均一付着性が原因と推定している。液状ロジンエステル樹脂の「液状」とは、常温常圧(1atm、25℃)において流動性を有することをいう。より具体的には、組成物を45°傾けた場合、その形状を10分以上保持できず、形状の変化を生じることを意味する。
更に具体的には、25℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける複素粘度が10,000Pa・s以下であり、5,000Pa・s以下であることが好ましく、4,000Pa・s以下であることがより好ましく、3,000Pa・s以下であることが更に好ましい。
好ましい下限値は、3,000Pa・sである。この範囲の物性を満たすことにより、形体保持性に優れ、マトリックス樹脂との親和性が高まり接着が容易となる。
【0044】
〔水〕
本発明の強化繊維用サイジング剤は、安定性や取扱性に優れるため、水を50~80重量%を含有する。
【0045】
本発明のサイジング剤は、取扱い時の人体への安全性や、火災等の災害防止、自然環境の汚染防止等の観点から、本発明の効果を損なわない範囲で、アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなど)、グリコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、イソプロピルグリコールなど)、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を用いてもよい。
【0046】
本発明のサイジング剤は、平滑剤を含むことができる。平滑剤としては、高級脂肪酸と高級アルコールのエステル化物、天然油脂(ヤシ油、牛脂、オリーブ油及びナタネ油等)及び流動パラフィン、ワックス等が挙げられる。高級脂肪酸の例は、上記に記載されたとおりである。高級アルコールのアルキル基の例は、疎水基を構成するアルキル基として上記に記載されたとおりである。ワックスとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、みつろう等が挙げられる。
平滑剤は、強化繊維用サイジング剤の不揮発分に対して、0.1~20重量%であると好ましく、1~10重量%であるとより好ましい。
【0047】
平滑剤の中でも、形体保持性及び製品安定性の観点から、炭素数30以上の脂肪酸及び/またはアルコール、及びこれらのエステル化物を含むと好ましい。例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックスが挙げられる。
【0048】
〔強化繊維用サイジング剤〕
本発明の強化繊維用サイジング剤は、25℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の複素粘度が1×10~1×10Pa・sであり、5×10~1×10Pa・sが好ましく、5×10~5×10Pa・sがより好ましく、1×10~5×10Pa・sがさらに好ましい。1×10Pa・s未満では、形体保持性が不足し、1×10Pa・sを超えると硬すぎて形体保持性が不足する。なお、複素粘度と損失弾性率は、強化繊維用サイジング剤組成物を105℃で1時間、恒温乾燥機で絶乾させ、レオメーターを用いて、25℃、または120℃、周波数1Hz、ひずみ0.005の条件で測定したものである。
なお、本発明における不揮発分とは、サイジング剤を105℃で熱処理して水や溶媒等を除去し、恒量に達した時の成分をいう。
【0049】
120℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の損失弾性率が5~30Paであり、5~25Paが好ましく、8~20Paがより好ましく、8~15Paがさらに好ましい。5Pa未満では、給油乾燥時の絶乾物が動き、付着性に劣るため、形体保持性が不足する。30Paを超えると、給油乾燥時の絶乾物が動きにくいため、均一付着性に劣るため形体保持性が不足する。
【0050】
本発明の強化繊維用サイジング剤の不揮発分において、分子量350以下の有機化合物が15重量%以下であると、形体保持性の観点から好ましい。より好ましくは12重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。
本発明における重量平均分子量は、東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF-402HQ、KF-403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
【0051】
形体保持性の観点から、ビスフェノールAジグリシジルエーテルが不揮発分に対して、15重量%以下であると好ましく、12重量%以下であるとより好ましく、8重量%以下でさらに好ましい。
【0052】
形体保持性の観点から、エポキシ樹脂(A)は強化繊維用サイジング剤の不揮発分に対し、20~80重量%が好ましく、30~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましい。
形体保持性の観点から、界面活性剤(B)は強化繊維用サイジング剤の不揮発分に対し、10~40重量%が好ましく、20~35重量%がより好ましく、20~30重量%がさらに好ましい。
【0053】
本発明のサイジング剤を製造する方法については、特に限定はなく、公知の手法が採用できる。サイジング剤を構成する各成分を攪拌下の水中に投入して水溶液、乳化物または水分散物とする方法、サイジング剤を構成する各成分を製造する際に水溶液、乳化物または水分散物とする方法、界面活性剤の入った水中に、サイジング剤を構成する各成分を攪拌下、投入して乳化または分散する方法、サイジング剤を構成する各成分を、予め乳化分散した乳化分散液に混合する方法、サイジング剤を構成する各成分を混合し、得られた混合物を軟化点以上に加温後、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法、サイジング剤を付与する給油浴において、乳化分散した乳化分散液とを混合する方法等が挙げられる。
【0054】
本発明のサイジング剤は、水に自己乳化及び/又は乳化分散してなるものである。サイジング剤の平均粒子径は、特に限定はないが、形体保持性の観点から、10μm以下が好ましく、0.01~1μmがより好ましく、0.01~0.5μmがさらに好ましい。該平均粒子径が10μm超の場合、強化繊維へ均一付着できず、形体保持性に劣るばかりか、サイジング剤自体が数日で分離してしまうおそれがあり、保管安定性が悪く実用的でないとなることがある。なお、本発明でいう平均粒子径とは、レーザー回折/ 散乱式粒度分布測定装置(堀場製LA-920)で測定された粒度分布より算出された平均値をいう。
【0055】
〔強化繊維ストランド〕
本発明の強化繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記の強化繊維用サイジング剤を付着させたものであり、熱硬化性樹脂又は熱可塑性マトリックス樹脂を補強するための強化繊維である。
【0056】
本発明の強化繊維ストランドの製造方法は、前述した強化繊維用サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法である。
強化繊維用サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させて付着物を得る方法については、特に限定はないが、強化繊維用サイジング剤をキスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法その他公知の方法で、原料合成繊維ストランドに付着させる方法であればよい。これらの方法のうちでも、ローラー浸漬法が、強化繊維用サイジング剤を原料合成繊維ストランドに均一付着できるので好ましい。
得られた付着物の乾燥方法については、特に限定はなく、例えば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。乾燥温度は特に限定はなく、例えば100~250℃である。
【0057】
なお、本発明の強化繊維用サイジング剤の原料合成繊維ストランドへの付着にあたっては、強化繊維用サイジング剤の構成成分全てを混合後に付着させてもよいし、構成成分を別々に二段階以上に分けて付着させてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂および/または本発明のポリマー成分以外のポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの熱可塑性樹脂を原料合成繊維ストランドに付着させてもよい。
【0058】
本発明の強化繊維ストランドは、各種熱硬化性樹脂又は各種熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の強化繊維として使用され、使用させる形態としては、連続繊維の状態でも、所定の長さに切断された状態でもよい。
【0059】
原料合成繊維ストランドへの強化繊維用サイジング剤の不揮発分の付着量は適宜選択でき、合成繊維ストランドが所望の機能を有するための必要量とすればよいが、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1~20重量%であることが好ましい。連続繊維の状態の合成繊維ストランドにおいては、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1~10重量%がより好ましく、0.5~5重量%がさらに好ましい。また、所定の長さに切断された状態のストランドにおいては0.5~20重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。
【0060】
強化繊維用サイジング剤の付着量が少ないと、形体保持性に関する本発明の効果が得られにくく、また、合成繊維ストランドの集束性が不足し、取扱い性が悪くなることがある。また、強化繊維用サイジング剤の付着量が多過ぎると、合成繊維ストランドが剛直になり過ぎて、かえって形体保持性が悪くなったり、コンポジット成型の際に樹脂含浸性が悪くなったりすることがあり好ましくない。
【0061】
本発明の強化繊維用サイジング剤を適用し得る(原料)合成繊維ストランドの合成繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維、ポリケトン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。得られる繊維強化複合材料としての物性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維およびポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましい。さらに好ましくは炭素繊維である。
本発明の合成繊維ストランドは、これらの繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の単糸(フィラメント)を、3000~10万本を束ねた繊維束である。取扱性や形体保持性の観点から、好ましくは10000本以上であり、さらに好ましくは20000本以上である。本発明の合成繊維ストランドは、ストランド幅を広げる開繊工程が行なわれる場合がある。開繊の方法としては、例えば金属面への擦過などが挙げられる。開繊工程時の温度は、例えば、20~100℃である。
【0062】
〔繊維強化複合材料〕
本発明の繊維強化複合材料は、熱硬化性マトリックス樹脂又は熱可塑性マトリックス樹脂と前述の強化繊維ストランドを含むものである。強化繊維ストランドは本発明の強化繊維用サイジング剤により処理されているので、強化繊維ストランドおよび熱可塑性マトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。
本発明の繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂と前述の強化繊維ストランドを含むものである。強化繊維ストランドは本発明のサイジング剤により処理されて、サイジング剤が均一に付着しており、強化繊維ストランド及びマトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。さらに、高温処理時のサイジング剤の熱分解を抑制でき、熱分解に起因したマトリックス樹脂との接着阻害を抑制できる。ここで、マトリックス樹脂とは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂をいい、1種又は2種以上含んでいてもよい。熱硬化性樹脂としては、特に制限はなく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらの中でも本発明のサイジング剤による接着性向上効果がより高い点から熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂がさらに好ましい。
【0063】
これらマトリックス樹脂は、強化繊維ストランドとの接着性をさらに向上させるなどの目的で、その一部又は全部が変性したものであっても差し支えない。
繊維強化複合材料の製造方法としては、特に限定はなく、チョップドファイバー、長繊維ペレットなどによるコンパウンド射出成型、UDシート、織物シートなどによるプレス成型、その他フィラメントワインディング成型など公知の方法を採用できる。
繊維強化複合材料中の合成繊維ストランドの含有量についても特に限定はなく、繊維の種類、形態、熱可塑性マトリックス樹脂の種類などにより適宜選択すればよいが、得られる繊維強化複合材料に対して、5~70重量%が好ましく、20~60重量%がより好ましい。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)、部は特に限定しない限り、「重量%」、「重量部」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
【0065】
<形体保持性の評価1>
炭素繊維束を下記形体保持性の測定方法及び評価基準に従って評価し、結果を表1~3に示した。
<形体保持性の測定方法>
25℃の環境下、直径8mm、長さ10cmの鏡面ステンレス棒に、炭素繊維束の片方を水平側を固定させながら、鏡面ステンレス棒の曲面に沿って90度の角度で接触させて下方に曲げ、垂直方向に1000gの張力をかけながら、1分間保持した。その後、水平側の固定を外し、垂直方向の張力を解除したときの曲げ角度を、分度器を用いて測定し、以下の評価基準で評価した。
【0066】
<評価基準>
◎:曲げ角度が70度以上100度未満
○:曲げ角度が50度以上70度未満又は100度以上120度未満
×:曲げ角度が50度未満又は120度以上
【0067】
<形体保持性の評価2>
炭素繊維束を下記開繊装置で開繊させた後、上記形体保持性の測定方法及び評価基準に従って評価し、結果を表1~3に示した。
<開繊装置>
直径8mm、長さ10cmの鏡面ステンレス棒3本を、間隔が25mmとなるよう平行に配置した。炭素繊維束がステンレス棒の曲面に沿って90度の角度で接触しながら、ジグザグに通過するように、直径8mm、長さ10cmの鏡面ステンレス棒2本をさらに平行に配置した。25℃または60℃の環境下、炭素繊維束をこの5本の鏡面ステンレス棒にジグザグにかけ、引出張力2000g、速度3 m/分で通過させた。
<複素粘度と損失弾性率>
レオメーター(HAAKE MARS 40、ThermoFisher SCIENTIFIC社製)を用いて、周波数1Hz、ひずみ0.005の条件で25℃における複素粘度、及び120℃における損失弾性率を測定した。
【0068】
実施例に使用した成分は次の通りである。
エポキシ樹脂(A)
(A-1):jER(登録商標)828(三菱ケミカル株式会社製)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(n=0の割合83%)
(A-2):jER(登録商標)834(三菱ケミカル株式会社製)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(n=0の割合45%)
(A-3):jER(登録商標)1001(三菱ケミカル株式会社製)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(n=0の割合12%)
(A-4):jER(登録商標)1002(三菱ケミカル株式会社製)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(n=0の割合5%)
(A-5):jER(登録商標)1004(三菱ケミカル株式会社製)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(n=0の割合2%)
(A-6):jER(登録商標)4007(三菱ケミカル株式会社製)ビスフェノールF型エポキシ樹脂
【0069】
界面活性剤(B)
(B-1):プルロニック(登録商標)P-85(株式会社ADEKA社製)POEOポリエーテル
(B-2):プルロニック(登録商標)L-121(株式会社ADEKA社製)POEOポリエーテル
(B-3):プルロニック(登録商標)P-103(株式会社ADEKA社製)POEOポリエーテル
(B-4):プルロニック(登録商標)F-108(株式会社ADEKA社製)POEOポリエーテル
(B-5):POE硬化ひまし油エーテル(EO50モル)
(B-6):ニューコール(登録商標)707-SF(日本乳化剤株式会社製、30%)POE多環フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩
(B-7):ニューコール(登録商標)740-SF(日本乳化剤株式会社製、30%)POE多環フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩
(B-8):POEラウリルホスフェート(EO3モル)
(B-9):POEやし油アルコールホスフェート(EO7モル)
(B-10):エマルゲン(登録商標)A-500(花王株式会社製)POEジスチレン化フェニルエーテル
(B-11):ニューコール(登録商標)740(日本乳化剤株式会社製)POE多環フェニルエーテル
POEOとは、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンを意味する。
【0070】
樹脂
(C-1):ハリエスターSK-501NS(ハリマ化成株式会社製)ロジンエステル樹脂エマルション(50%)、25℃、1atm、105℃で2時間乾燥させた物の複素粘度2100Pa・s)
(C-2):スーパーエステルA-18(荒川化学工業株式会社製)ロジンエステル樹脂、25℃、1atm、105℃で2時間乾燥させた物の複素粘度400Pa・s)
(C-3):ハリエスターSK-385NS(ハリマ化成株式会社製)固状ロジンエステル樹脂エマルション(50%)
(C-4):下記に示す不飽和ポリエステル樹脂(C-4)
(C-5):下記に示す飽和ポリエステル樹脂(C-5)
(C-6):下記に示す不飽和ポリエステル樹脂(C-6)
(C-7):下記に示す飽和ポリエステル樹脂(C-7)
(C-8):マーポゾール(登録商標)F-700:(松本油脂製薬株式会社製)アクリル樹脂エマルション(40%)
【0071】
その他成分
(D-1):ポリエチレングリコール(平均分子量10000)
(D-2):ポリエチレングリコール(平均分子量20000)
(D-3):ブリアン(登録商標)TW-85(松本油脂製薬株式会社製)カルナバワックス乳化物(40%)
(D-4):サイジングワックスK-52(松本油脂製薬株式会社製)カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックスの混合ワックス乳化物(40%)
(D-5):オレイン酸オレイル
(D-6):イソプロピルグリコール
【0072】
[不飽和ポリエステル(C-4)の合成]
反応器内を窒素ガスで置換し、無水マレイン酸88部とビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物404部を仕込み、140℃で5時間反応を行い、水を留去させて、酸価2.5の不飽和ポリエステル(C-4)を得た。重量平均分子量Mwは3550であった。
【0073】
[飽和ポリエステル樹脂(C-5)の合成]
反応器内を窒素ガスで置換し、イソフタル酸ジメチル890部、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル118部、ジエチレングリコール530部、酢酸亜鉛0.5部及び三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140~220℃で5時間反応を行い、240~270℃でジエチレングリコールを留去し、酸価3.4の飽和ポリエステル樹脂(C-5)を得た。重量平均分子量Mwは10300であった。
【0074】
[不飽和ポリエステル樹脂(C-6)の合成]
反応器内を窒素ガスで置換し、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物690部、フマル酸154部及びテトラブトキシシチタネート0.3部を仕込み、170℃で8時間反応を行い、水を留去させて、酸価3.9の不飽和ポリエステル(C-6)を得た。重量平均分子量Mwは2120であった。
[飽和ポリエステル樹脂(C-7)の合成]
反応器内を窒素ガスで置換し、テレフタル酸200部、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物490部、ジエチレングリコール80部、ポリエチレングリコール(平均分子量2000)370部、酢酸亜鉛0.5部及び三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140~180℃で10時間反応を行い、酸価8.4の飽和ポリエステル樹脂(C-7)を得た。重量平均分子量Mwは3300であった。
【0075】
表1~4に示す水以外の成分を乳化装置に仕込み、60℃で撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、サイジング剤水分散体を得た。得られたサイジング剤水分散体を水で希釈して、不揮発分濃度3重量%のサイジング剤エマルジョンを調製し、サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(平均直径8μm、フィラメント数24000本)を浸漬・含浸させた後、120℃ で5分間熱風乾燥させて、理論付着量が1.0%であるサイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。本サイジング剤及び本ストランドについて、前述の方法により各特性値を評価した。その結果を表1~4に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表1~4から分かるように、実施例1~13の強化繊維用サイジング剤は、エポキシ樹脂(A)、界面活性剤(B)及び水を含有する強化繊維用サイジング剤であって、25℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の複素粘度が1×10~1×10Pa・sであり、120℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の損失弾性率が5~30Paであるため、取扱性に優れた形体保持性を有する。
一方、複素粘度が1×10~1×10Pa・sの範囲にない場合(比較例2)、120℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおけるサイジング剤の不揮発分の損失弾性率が5~30Paの範囲にない場合(比較例1~7)には、取扱性に優れた形体保持性を有するという課題を解決できていない。
【要約】
取扱性に優れた形体保持性を有する強化繊維用サイジング剤を提供する。
エポキシ樹脂(A)、界面活性剤(B)及び水を含有する強化繊維用サイジング剤であって、25℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の複素粘度が1×10~1×10Pa・sであり、120℃、ひずみ0.005、周波数1Hzにおける前記サイジング剤の不揮発分の損失弾性率が5~30Paである、強化繊維用サイジング剤。