IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図1
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図2
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図3
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図4
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図5
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図6
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図7
  • 特許-冗長系センサ異常判定装置及び制御装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】冗長系センサ異常判定装置及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 9/03 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G05B9/03
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018071437
(22)【出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2019185158
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】濱口 謙一
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-304970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 9/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御入力が与えられた制御対象を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を、前記制御対象について統計的に決定された動的モデルを用いて求め、求めた該予測値と前記計測値の差を表す予測誤差を、前記センサのそれぞれについて計算する予測誤差計算部と、
前記冗長化された一方の前記センサの前記計測値と他方の前記センサの前記計測値との差分の絶対値が閾値以上の場合に、該一方と該他方の前記センサのそれぞれの前記予測誤差を比較し、該予測誤差の小さい方の前記センサを正常なセンサと判定する正常系判定部と
を備えることを特徴とする冗長系センサ異常判定装置。
【請求項2】
前記正常系判定部は、
前記予測誤差を平滑化し、該平滑化した前記予測誤差の小さい方の前記センサを正常なセンサと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の冗長系センサ異常判定装置。
【請求項3】
冗長化されたセンサで制御対象を計測して制御量のフィードバック制御を行う制御装置であって、
前記制御対象を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を、前記制御対象について統計的に決定された動的モデルを用いて求め、求めた該予測値と前記計測値の差を表す予測誤差を、前記センサのそれぞれについて計算する予測誤差計算部と、
前記冗長化された一方の前記センサの前記計測値と他方の前記センサの前記計測値との差分の絶対値が閾値以上の場合に、該一方と該他方の前記センサのそれぞれの前記予測誤差を比較し、該予測誤差の小さい方の前記センサを正常なセンサと判定する正常系判定部と、
前記予測誤差が小さい方のセンサを選択して前記制御量を出力するセンサ選択部と
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項4】
前記正常系判定部は、
前記予測誤差を平滑化し、該平滑化した前記予測誤差の小さい方の前記センサを正常なセンサと判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冗長化されたセンサで制御対象を計測し、センサの異常を判定する冗長系センサ異常判定装置及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用IoT(Industrial IoT, IIOT)による産業機器の遠隔監視や予防保全の高度化、オペレーションの最適化といった技術が注目されている。特に、予防保全の高度化によって産業装置のダウンタイムを低減することは、顧客の逸失利益の最小化につながるため、きわめて重要である。ダウンタイムを低減させるためには、システムの一部が故障しても、正常かつ安全に動作するフォールト・トレラント制御システム(Fault tolerant control system)の実現が重要である。
【0003】
例えば、ガスタービンなどの高い信頼性が要求される製品では、フィードバック制御する物理量の測定に、二重化されたセンサを利用している。例えば、地上用ガスタービンの可変静翼(VSV: Variable Stator Vane)制御では、可変静翼の開度を二重化されたセンサで計測し、フィードバック制御を行っている。
【0004】
二重化されたセンサを利用したフィードバック制御において、異常時に高値を出力するセンサを、フィードバック制御システムにおける制御量として選択する方法が例えば特許文献1に開示されている。また、フェイルセーフに基づく高値・低値選択ではなく、異常・正常判定ロジックと組み合わせた異常回避方法も知られている。例えば、特許文献2には、駆動電流の大きさに基づいて、現在フィードバック制御に使用されているメインセンサと、フィードバック制御に使用されていないサブセンサのどちらが異常かを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-265503号公報
【文献】特許第3438406号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フィードバック制御中に片方のセンサが異常になったからといって、必ずしももう片方の正常なセンサによる計測値が高値になる理論的な保証がない。よって、特許文献1の技術では適切にセンサを選択することができない。また、特許文献2の技術では、フィードバック制御に使用されているメインセンサの計測値が異常かどうかを判定するので、二重化されたセンサを制御中に切り替える方式のフィードバック制御には適用できない。つまり、従来の技術は、冗長化されたセンサの異常を適切に判定することができないという課題がある。
【0007】
本開示は上記課題に鑑み、冗長化されたセンサの異常を適切に判定することができる冗長系センサ異常判定装置及び制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る冗長系センサ異常判定装置は、制御入力が与えられた制御対象を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を、前記制御対象について統計的に決定された動的モデルを用いて求め、求めた該予測値と前記計測値の差を表す予測誤差を、前記センサのそれぞれについて計算する予測誤差計算部と、前記冗長化された一方の前記センサの前記計測値と他方の前記センサの前記計測値との差分の絶対値が閾値以上の場合に、該一方と該他方の前記センサのそれぞれの前記予測誤差を比較し、該予測誤差の小さい方の前記センサを正常なセンサと判定する正常系判定部とを備える。
【0009】
また、本開示の一態様に係る制御装置は、冗長化されたセンサで制御対象を計測して制御量のフィードバック制御を行う制御装置であって、前記制御対象を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を、前記制御対象について統計的に決定された動的モデルを用いて求め、求めた該予測値と前記計測値の差を表す予測誤差を、前記センサのそれぞれについて計算する予測誤差計算部と、前記冗長化された一方の前記センサの前記計測値と他方の前記センサの前記計測値との差分の絶対値が閾値以上の場合に、該一方と該他方の前記センサのそれぞれの前記予測誤差を比較し、該予測誤差の小さい方の前記センサを正常なセンサと判定する正常系判定部と、前記予測誤差が小さい方のセンサを選択して前記制御量を出力するセンサ選択部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、冗長化されたセンサの異常を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施形態に係る冗長系センサ異常判定装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2図1に示す冗長系センサ異常判定装置の処理手順を示すフローチャートを示す図である。
図3図1に示す冗長系センサ異常判定装置の予測誤差計算部の構成例を示すブロック図である。
図4】本開示の実施形態に係る制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
図5図4に示す制御装置の処理手順を示すフローチャートを示す図である。
図6】センサ異常時の経過時間と可変静翼の開度の関係を示すグラフである。
図7】二重化されたセンサの予測誤差を示す図であり、(a)は予測誤差の瞬時値、(b)は予測誤差を平滑化した値を示すグラフである。
図8図3に示すブロック図を2サンプリング時間後の予測誤差を計算できるように変形した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の実施形態に係る冗長系センサ異常判定装置及び制御装置の構成及び動作について説明する。先ず冗長系センサ異常判定装置から説明する。
【0013】
(冗長系センサ異常判定装置)
図1は、本開示の実施形態に係る冗長系センサ異常判定装置の機能構成例を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る冗長系センサ異常判定装置100(以降、「冗長系センサ」の文言は省略する)は、予測誤差計算部10、正常系判定部20、及びセンサ選択部30を備える。異常判定装置100は、例えばROM、RAM、CPU等からなるコンピュータで実現される。異常判定装置100をコンピュータによって実現する場合、その処理内容はプログラムによって記述される。
【0015】
異常判定装置100は、例えば、PID制御をおこなう制御装置のフィードバック経路に用いられる。以降、制御装置の制御対象を、例えば、地上用ガスタービンの可変静翼とし、該可変静翼の開度を二重化されたセンサで計測し、フィードバック制御を行う例で説明する。以降、可変静翼をVSVと称する。
【0016】
図1において、予測誤差計算部10に入力されるVSVA(n)は、二重化されたセンサの一方(A系)のセンサの計測値を表す。VSVB(n)は、二重化されたセンサの他方(B系)のセンサの計測値を表す。VSVMA(n)は、制御対象に与えられた制御入力であり、この例ではVSVの開度を可変するモータを駆動する駆動電流である。(n)は時刻nを意味し、以降においてサンプリング時間と称する場合もある。
【0017】
異常判定装置100の処理手順を示すフローチャートを図2に示す。ここから、図2も参照する。
【0018】
異常判定装置100の予測誤差計算部10は、計測値VSVA(n)、計測値VSVB(n)、及び駆動電流VSVMA(n)を取得すると動作を開始する(ステップS1)。予測誤差計算部10は、制御入力(駆動電流VSVMA(n))が与えられた制御対象(図示せず)を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を制御対象の統計的に決定されたモデルを用いて求め、求めた該予測値と計測値の差を表す予測誤差VSVAerror(n),VSVBerror(n)を、センサのそれぞれについて計算する(ステップS2)。ここで制御入力(駆動電流VSVMA(n))は、制御器(図示せず)から制御対象に、該制御対象の制御量が参照値に追従するように与えられる。
【0019】
本実施形態では、統計的に決定されたモデルとして例えばARX(Autoregressive with exogenous input)モデルを用いる。一般のARXモデルは次式で与えられる。
【0020】
【数1】
【0021】
式(1)において、y(n)は時刻nにおける出力、u(n)は時刻nにおける入力、Na,Nbは自然数、Nkは入力が出力に影響するまでのムダ時間、及びe(n)は白色雑音である。Na=1,Nb=2, Nk=0,a1=-1として説明する。この場合のARXモデルは次式で表される。
【0022】
【数2】
【0023】
式(2)においてb1,b2は、制御対象の過去に得られたデータから統計的に決定された値であり、既知の定数である。b1,b2は、ARXモデルのシステム同定(参考文献:足立著、「制御のためのシステム同定」、東京電機大学出版局)によって予め決定する。
【0024】
VSVの駆動電流VSVMA(n)は、電流遮断時に閉方向に動くようにヌル電流(InputOffset)が与えられる。ヌル電流によるオフセット量を考慮し、入力u(n)と駆動電流VSVMA(n)の関係を次式で与える。
【0025】
【数3】
【0026】
ヌル電流値は、例えば10mA程度の大きさである。また、式(2)のy(n)は、VSVの開度(以降、VSV開度)であり、0%~100%の値をとる。よって、VSV開度は(y(n))閾値処理される。閾値処理について詳しくは後述する。
【0027】
予測誤差計算部10で計算される予測誤差VSVAerror(n)は、A系センサで計測した計測値VSVA(n)と、例えば1サンプリング時間後の計測値をARXモデルで予測した予測値VSVA_ESTとの差である。同様に予測誤差VSVBerror(n)は、B系センサで計測した計測値VSVB(n)と、同モデルで予測した例えば1サンプリング時間後の予測値VSVB_ESTとの差である。
【0028】
正常系判定部20は、複数の予測誤差を比較し、該誤差が最小であるセンサを判定する(ステップS3、S4)。この例の複数の予測誤差は、予測誤差VSVAerror(n)と予測誤差VSVBerror(n)の2つである。
【0029】
正常系判定部20は、A系の計測値VSVA(n)とB系の計測値VSVB(n)を比較することによって、A系とB系の正常・異常判定を行う。正常・異常の判定は、例えば、計測値VSVA(n)と計測値VSVB(n)の差分の絶対値が閾値δ以上であるか否かで判定する(ステップS3)。
【0030】
計測値VSVA(n)と計測値VSVB(n)の差分の絶対値が閾値δ以上の場合は、どちらかのセンサに異常が発生したと判定する(ステップS3のYES)。差分の絶対値が閾値δ未満の場合は、A系とB系共に正常と判定する(ステップS3のNO)。この判定方法は、同時に2系統のセンサに異常が発生する確率が低いことを前提にしている。
【0031】
次に、正常系判定部20は、予測誤差VSVAerror(n)と予測誤差VSVBerror(n)を比較し、予測誤差の値が大きい方を異常なセンサ、予測誤差の値が小さい方を正常なセンサと判定する。予測誤差VSVAerror(n)が予測誤差VSVBerror(n)よりも大きい場合は、B系のセンサを正常と判定する(ステップS4のYES)。また、予測誤差VSVBerror(n)が予測誤差VSVAerror(n) よりも大きい場合は、A系のセンサを正常と判定する(ステップS4のNO)。そして、センサ選択部30は、正常と判定されたセンサを選択する(ステップS5)。
【0032】
ステップS1~S5(図2)の処理は、1サンプリング時間ごとに実行される。なお、図2は、作図の都合により1サンプリング時間ごとに各処理が実行されるように表記していない。以降に示すフローチャートも同様である。
【0033】
以上述べたように本実施形態に係る異常判定装置100は、制御入力が与えられた制御対象を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を、制御対象の統計的に決定されたモデルを用いて求め、求めた該予測値と計測値の差を表す予測誤差を、センサのそれぞれについて計算する予測誤差計算部10と、複数の予測誤差を比較し、該予測誤差が最小であるセンサを判定する正常系判定部20とを備える。これにより、冗長化されたセンサのうち、正常なセンサと、異常な計測値を出力しているセンサを特定することができる。
【0034】
また、異常判定装置100は、フィードバック制御で制御量に選択されているセンサの選択情報を使用しないので、正常時にフィードバック制御で選択するセンサが入れ替わる可能性がある制御方式、又は正常時にフィードバック制御で選択するセンサを固定する制御方式のどちらに対しても適用可能である。
【0035】
続いて、本実施形態に係る異常判定装置100の各部の構成及び動作を更に詳しく説明する。
【0036】
(予測誤差計算部)
図3は、予測誤差計算部10のより具体的な機能構成例を示すブロック図である。予測誤差計算部10は、予測部11、A系予測誤差計算部12、及びB系予測誤差計算部13を備える。
【0037】
予測部11は、オフセット量111、減算器112、1要素遅延ブロック113、乗算器114、乗算器115、及び加算器116を備える。オフセット量111は、式(3)に示すヌル電流(InputOffset)の大きさを表すディジタル数値を保持するレジスタである。
【0038】
減算器112は、式(3)の演算を行って時刻nにおけるオフセット量を考慮した入力u(n)を計算する。1要素遅延ブロック113は、入力u(n)をデータとする例えば上記のサンプリング時間に対応する周波数で動作するフリップフロップであり、入力u(n)を1サンプリング時間遅延させる。
【0039】
乗算器114は、入力u(n)の振幅をb倍する。乗算器115は、1要素遅延ブロック113の出力信号の振幅をb倍する。加算器116は、乗算器114,115のそれぞれの出力を加算し、式(2)の右辺の第2項以降(b1u(n)+b2u(n-1))を計算する。
【0040】
A系予測誤差計算部12は、1要素遅延ブロック121、加算器122、飽和器123、及び減算器124を備える。1要素遅延ブロック121は、A系センサで計測した計測値VSVA(n)を1サンプリング時間遅延させる。
【0041】
加算器122は、予測部11が出力する(b1u(n)+b2u(n-1))と1要素遅延ブロック121が出力する計測値VSVA(n)を1サンプリング時間遅延させた値を加算して、A系の1サンプリング時間後の予測値である一段先予測値VSVA_EST(n)を出力する。
【0042】
この例の制御対象は、0%~100%の値をとるVSV開度であるため、飽和器123で閾値処理を行う。飽和器123は、次式に示す演算を行う。Uは上限、Lは下限をそれぞれ意味し、u>Uならy=U、U<Lならy=L、それ以外ならy=uとする。
【0043】
【数4】
【0044】
減算器124は、A系センサで計測した時刻nのVSVA(n)から一段先予測値VSVA_EST(n)を減じて時刻nの一段先予測誤差であるVSVAerror(n)を出力する。
【0045】
以上述べたA系センサの予測誤差の計算は、B系のセンサに対しても同様に行われる。B系予測誤差計算部13が行う処理は、上記のA系と同じである。よって、図3に構成のみを示してその説明は省略する。
【0046】
(正常系判定部)
正常系判定部20は、予測誤差VSVAerror(n)と予測誤差VSVBerror(n)を比較することによって、A系とB系の正常・異常判定を行う。予測誤差VSVAerror(n)と予測誤差VSVBerror(n)は瞬時値である。よって正常・異常判定は、例えば雑音等の影響によって不安定になる場合がある。
【0047】
そこで、予測誤差VSVAerror(n)と予測誤差VSVBerror(n)を平滑化すると、正常・異常判定の安定性を向上させることができる。平滑化の方法は複数存在する。平滑化の方法として、例えば移動平均絶対誤差を用いる。
【0048】
移動平均絶対誤差は次式で定義できる。
【0049】
【数5】
【0050】
ただし、Hは1以上の自然数である。予測誤差VSVBerror(n)についても同様に移動平均絶対誤差を求める。移動平均絶対誤差は異常値と称してもよいものである。
【0051】
このように、正常系判定部20は、予測誤差を平滑化し、該平滑化した予測誤差が最小であるセンサを正常なセンサと判定するようにしてもよい。これにより、正常・異常判定の安定性を向上させることができる。
【0052】
センサ選択部30は、冗長化されたセンサのそれぞれの正常・異常を判定した後に正常なセンサを選択するものであり、異常判定装置100の必須の構成要素ではない。そこで、センサ選択部30については、次に説明する本実施形態に係る制御装置200の説明の中で触れることにする。
【0053】
(制御装置)
図4は、本開示の実施形態に係る制御装置の機能構成例を示すブロック図である。図4に示す制御装置200は、減算器210、制御部220、制御対象230、及び冗長センサ異常判定部100を備える。参照符号から明らかなように冗長センサ異常判定部100は、上記の異常判定装置100と同じものである。以降、冗長センサ異常判定部100は、異常判定部100と称する。
【0054】
また、制御対象230は、この例では上記のようにVSVのVSV開度とする。制御装置100は、いわゆるPID制御と称される制御を実行する制御装置である。
【0055】
制御装置200は、参照値rと制御量yの差が無くなるように制御対象230を制御する。参照値rは、この例において所望のVSV開度である。
【0056】
制御装置200の処理手順を示すフローチャートを図5に示す。ここから、図5も参照する。
【0057】
制御装置200は、参照値rを取得すると動作を開始する(ステップS20)。この時、制御量yは、例えば、冗長化されたセンサのA系が選択されると仮定する(ステップS21)。
【0058】
減算器210は、参照値rと制御量yの差分を求め、求めた差分を制御部220に出力する。制御部220は、該差分が小さくなるように制御対象230に対する制御入力を生成する(ステップS23)。制御入力は、この例ではVSV開度を可変するモータの駆動電流VSVMA(n)である。
【0059】
制御入力が与えられた制御対象230は、VSV開度を可変する。そして、計測値VSVA(n)、計測値VSVB(n)、及び制御入力VSVMA(n)を異常判定部100に対して出力する。
【0060】
異常判定部100は、計測値VSVA(n)、計測値VSVB(n)、及び駆動電流VSVMA(n)を取得すると動作を開始する(ステップS1)。ステップS1~S3は、図2で説明済みの処理と同じである。
【0061】
図4では図示を省略している異常判定部100内の正常系判定部20は、計測値VSVA (n)と計測値VSVB(n)を比較することによって、冗長系センサの正常・異常判定を行う。正常・異常の判定は、例えば、計測値VSVA(n)と計測値VSVB(n)の差分の絶対値が閾値δ以上であるか否かで判定する(ステップS3)。
【0062】
差分が閾値δ未満の場合は、A系とB系共に正常と判定する(ステップS3のNO)。この場合、選択されているA系のセンサはそのまま維持される。つまり、選択されているセンサは切替えられない。
【0063】
差分が閾値δ以上の場合は、冗長系センサに異常が発生したと判定する(ステップS3のNO)。センサの異常と判定した異常判定部100内の正常系判定部20(図1)は、例えば式(5)の計算を行ってA系及びB系のそれぞれの異常値を求め、A系の異常値とB系の異常値を比較する(ステップS25)。
【0064】
異常判定部100内のセンサ選択部30は、A系の異常値がB系の異常値よりも大きい場合(ステップS25のYES)、今まで選択されていたA系のセンサをB系のセンサに切り替える(ステップS26)。また、B系の異常値がA系の異常値よりも大きい場合(ステップS25のNO)、いままで選択されていたA系のセンサが選択(ステップS27)され、センサの切替は行われない。このように異常値を比較し、異常値の大きい方のセンサに異常が発生しているとして、制御系から切り離す。
【0065】
以上述べたように本実施形態に係る制御装置200は、冗長化されたセンサで制御対象を計測して制御量のフィードバック制御を行う制御装置であって、制御対象を冗長化されたセンサで計測し、n(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値と現在時刻の計測値との差を表す予測誤差を、制御対象について統計的に決定された動的モデルを用いて求め、求めた該予測値と計測値の差を表す予測誤差を、センサのそれぞれについて計算する予測誤差計算部10と、複数の予測誤差を比較し、該予測誤差が最小であるセンサを判定する正常系判定部20と、予測誤差が最小であると判定されたセンサを選択して上記の制御量を出力するセンサ選択部30とを備える。これにより、制御装置200は、故障したセンサを除外し、正常なセンサで制御対象230の制御を継続することができる。
【0066】
なお、正常系判定部20は、予測誤差を平滑化し、該平滑化した予測誤差が最小であるセンサを判定するようにしてもよい。そうすることで、異常判定装置100と同様に正常・異常判定の安定性を向上させることができる。
【0067】
(異常判定の具体例)
図6は、地上用ガスタービンのVSV開度を制御するモータ駆動電流の異常を示すグラフである。横軸は時間(秒)、縦軸はVSV開度(%)である。実線はA系センサの計測値VSVA、細かな破線はB系センサの計測値VSVBを示す。プロット(●)在りの一点鎖線はA系の一段先予測値、プロット(●)在りの大きな破線はB系の一段先予測値である。図6では、全てのサンプリング時間の計測値VSVA,VSVB及び一段先予測値を表していない。よって、(n)の表記は省略している。
【0068】
図6に示す具体例では、10.9~11.0秒の間でA系のセンサの計測値VSVA(実線)が突発的に低くなる異常が発生している。この例では、センサの計測値の高値選択を行うため、この時は正常であるB系のセンサ(VSVB(破線))でフィードバック制御が行われている。
【0069】
しかし、11.05秒付近で高値が入れ替わり、異常なセンサの計測値である計測値VSVA(実線)でフィードバック制御が行われ、11.2秒付近でVSV開度が0%まで意図せずに低下している。この制御上の不具合により、11.8秒の後にガスタービンは緊急停止した。
【0070】
図7は、図6に示した計測値VSVA,VSVB及び制御入力VSVMAを、本実施形態に係る異常判定装置100(図1)に入力して計算させたVSVAerrorとVSVBerrorを示すグラフである。作図の都合によりVSVBerrorのプロットを(×)で表記している。縦軸はError、横軸は図6と同じ時間(秒)である。(a)はErrorの瞬時値、(b)は式(5)のHをH=30sampleとして計算した移動平均絶対誤差(Moving Mean of VSVA Error)を示す。
【0071】
図7(b)に示すように10.95秒以降、A系センサの異常値がB系センサの異常値よりも安定して高いことが分かる。このことから、11.0秒付近から異常値の高いA系センサを制御系から除外し、B系センサで計測した計測値VSVBでフィードバック制御を行うように切り替えればガスタービンの停止を防げることが分かる。
【0072】
このように本実施形態に係る異常判定装置100(図1)によれば冗長化されたセンサの異常を適切に判定することができる。また、該異常判定部100を制御系に含む制御装置200(図4)によれば、故障したセンサを除外し、正常なセンサでガスタービンの制御を継続することができる。
【0073】
(n段先予測値)
上記の実施例では、1サンプリング時間後の予測値を求める例で説明を行った。なお、この予測値は、nサンプリング時間後のn段先予測誤差に拡張することが可能である。次にnを増やす方法について説明する。
【0074】
nを1増やして2とした場合の2段先のARXモデルは次式で計算する。ここでy(n-2)は、2サンプリング時間後の入力u(n)である。y(n)は予測値である。
【0075】
【数6】
【0076】
図8は、2段先のARXモデルを計算する予測誤差計算部の機能構成例を示すブロック図である。図8に示す予測誤差計算部120は、予測部21、A系予測誤差計算部22、及びB系予測誤差計算部23を備える。
【0077】
予測部21は、一段先予測誤差を計算する予測部11(図3)に対して1要素遅延ブロック211、乗算器212,213、及び加算器214,105を備える点で異なる。また、A系予測誤差計算部22は、一段先予測誤差を計算するA系予測誤差計算部12(図3)に対して2要素遅延ブロック221を備える点で異なる。
【0078】
n段先予測誤差を計算する場合は、この異なる部分をnに対応させればよい。つまり予測部においては、1要素遅延ブロック211、乗算器212,213、及び加算器214の組を(n-1)個に増やす。また、A系予測誤差計算部においては、n要素遅延ブロック(z-n)を備えるようにする。B系予測誤差計算部についても、A系予測誤差計算部と同様にする。
【0079】
このように予測誤差計算部を構成することでn(n≧1)サンプリング時間後の計測値の予測値を計算することができる。
【0080】
以上述べたように本実施形態に係る冗長系センサ異常判定装置100は、冗長化されたセンサの異常を適切に判定することができる。また、本実施形態に係る制御装置200は故障したセンサを適切に除外し、正常なセンサで制御対象230の制御を継続することができる。
【0081】
また、冗長系センサ異常判定装置100及び制御装置200は、冗長化されたセンサの計測値同士を比較するので、フィードバック制御に用いるセンサが入れ替わる可能性がある制御対象に対しても適用することができる。また、同じ理由により、フィードバック制御中のセンサが異常になった場合に、センサの計測値がどのように変化するのかが理論的に保証のない(不定)制御対象に対しても適用することが可能である。
【0082】
また、冗長系センサ異常判定装置100及び制御装置200は、冗長化されたセンサに異常が発生した場合に、それぞれの系のセンサの異常値の大小比較を行うため、煩雑な閾値を設定する必要がないという効果を奏する。
【0083】
上記の実施形態では、制御対象について統計的に決定された動的モデルとしてARXモデルを用いる例で説明を行ったが、本開示はこの例に限定されない。ARXモデルを、FIR(Finite Impulse Response)、ARMAX(Auto-Regressive Moving Average eXogenious)、及び線形状態空間表現モデルに替えてもよい。また、非線形なモデルを用いてもよい。
【0084】
上記の実施形態では、統計的に決定された動的モデルを事前に与える例を示したが、動的モデルは制御対象の制御中に同定するようにしてもよい。また、動的モデルのパラメータを制御中に逐次更新するようにしてもよい。
【0085】
また、冗長化されたセンサの偏差が閾値δを一度でも超えた場合に異常を検知したが、複数回を超えた場合に異常を検知するようにしてもよい。また、異常値として一段先予測誤差の絶対値を移動平均した例を示したが、動的モデルからの乖離度を表す指標であれば他の指標を用いてもよい。異常値は、移動平均ではなく、例えば一段先予測誤差の絶対値をローパスフィルタを通過させた出力としてもよい。
【0086】
また、異常判定後、異常側のセンサを、ディスプレイ画面に表示、ログ装置に保存、及び通信装置で送信するようにしてもよい。また、異常と判定されたセンサは、計測を継続してもよいし、計測を停止してもよい。
【0087】
上記の実施形態は、制御装置200の制御対象を、地上用ガスタービンの可変静翼とし、該可変静翼の開度を二重化されたセンサで計測する例で説明を行った。しかし、センサが二重化された1入力1出力フードバック制御系であれば、他の制御系に適用してもよい。また、上記の実施形態は、二重化されたセンサの例で説明を行ったが、本開示の技術思想は二重化以上に冗長化されたセンサに対しても適用することが可能である。
【0088】
このように、本開示は上記の実施形態に限定されない。本開示の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0089】
10、120…予測誤差計算部、11,21…予測部、12,22…A系予測誤差計算部、13,23…B系予測誤差計算部、20…正常系判定部、30…センサ選択部、100…冗長系センサ異常判定装置(冗長系センサ異常判定部)、200…制御装置、210…減算器、220…制御部、230…制御対象、VSVMA(n)…制御入力、VSVA(n),VSVB(n)…計測値、VSVAerror(n),VSVBerror(n)…予測誤差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8