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特許7147232セラミックス-金属接合体の製造方法、多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法、セラミックス-金属接合体及び多数個取り用セラミックス-金属接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】セラミックス-金属接合体の製造方法、多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法、セラミックス-金属接合体及び多数個取り用セラミックス-金属接合体
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/20 20060101AFI20220928BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220928BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H05K3/20 Z
H01L23/12 D
C04B37/02 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018074477
(22)【出願日】2018-04-09
(65)【公開番号】P2019186354
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】新井 皓也
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 雅人
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-165720(JP,A)
【文献】特開2007-180306(JP,A)
【文献】特開2014-194988(JP,A)
【文献】特開昭53-74367(JP,A)
【文献】特開平1-275478(JP,A)
【文献】特開平5-70256(JP,A)
【文献】特開2008-311295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B37/02
H01L23/12―23/15
H05K1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の少なくとも一方の面に金属層が接合されたセラミックス-金属接合体の製造方法であって、
前記セラミックス基板の前記金属層が接合される接合領域を横切って前記セラミックス基板の端縁まで延びる溝を形成する溝形成工程と、
前記溝形成工程後に、前記セラミックス基板の前記接合領域に厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をAl-Si系ろう材箔を介して積層し、積層方向に荷重をかけながら加熱して前記接合領域に前記金属板を接合し、前記金属層を形成する接合工程と、を有することを特徴とするセラミックス-金属接合体の製造方法。
【請求項2】
前記溝形成工程では、前記接合領域における前記溝の開口面積が前記接合領域の面積の5%未満となるように前記溝を形成することを特徴とする請求項1に記載のセラミックス-金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記溝形成工程では、前記溝は、前記セラミックス基板の前記接合領域の80%の面積の領域内に形成され、該領域の中心が該接合領域の中心と一致していることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス-金属接合体の製造方法。
【請求項4】
複数のセラミックス基板に分割可能な大きさのセラミックス母材の少なくとも一方の面に金属層が接合された多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法であって、
前記セラミックス母材の前記金属層が接合される接合領域を横切って前記セラミックス母材の端縁まで延びる溝及び各セラミックス基板分割するためのスクライブラインを形成する溝形成工程と、
前記溝形成工程後に、前記セラミックス母材の前記接合領域に厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をAl-Si系ろう材箔を介して積層し、積層方向に荷重をかけながら加熱して前記接合領域に前記金属板を接合し、前記金属層を形成する接合工程と、を有し、
前記金属板は、前記スクライブラインにより区画される複数の領域にまたがる大きさに形成されていることを特徴とする多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス母材は、その両面に前記接合領域を有し、
前記溝形成工程では、前記セラミックス母材の一方の面に前記スクライブラインが形成され、他方の面に前記溝が形成されることを特徴とする請求項4に記載の多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法。
【請求項6】
前記溝形成工程では、前記溝は、前記接合領域の80%の面積の領域内に形成され、該領域の中心が前記接合領域の中心と一致していることを特徴とする請求項4又は5に記載の多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法。
【請求項7】
セラミックス基板の少なくとも一方の面に金属層が接合されたセラミックス-金属接合体であって、
前記金属層が接合される接合領域を横切って延びる溝が形成された前記セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の前記接合領域にAl-Si系ろう材により接合され、厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる前記金属層と、を備え
前記溝が前記セラミックス基板の端縁まで延びていることを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項8】
複数のセラミックス基板に分割可能な大きさのセラミックス母材の少なくとも一方の面に金属層が接合された多数個取り用セラミックス-金属接合体であって、
前記金属層が接合される接合領域を横切って延びる溝及び各セラミックス基板分割するためのスクライブラインが形成された前記セラミックス母材と、
前記セラミックス母材の前記接合領域にAl-Si系ろう材により接合され、厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる前記金属層と、を有し、
前記金属層は、前記スクライブラインにより区画される複数の領域にまたがる大きさに形成され
前記溝は前記セラミックス母材の端縁まで延びていることを特徴とする多数個取り用セラミックス-金属接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基板にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層が接合されたセラミックス-金属接合体の製造方法、多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法、セラミックス-金属接合体及び多数個取り用セラミックス-金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱電素子やLED素子の配線基板としてセラミックス板の両面に金属層が接合されたセラミックス-金属接合体が個片化されたセラミックス回路基板を用いることが提案されている。このセラミックス-金属接合体では、セラミックス板と金属層を構成する金属板との接合は、ろう材を用いて行われている。例えば、セラミックス板と金属板とをろう材を用いて接合する技術として、特許文献1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法が開示されている。
この特許文献1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法では、複数のパワーモジュール用基板を形成可能な広い面積を有するセラミックス母材の表面にレーザ光を照射して、セラミックス母材を各パワーモジュール用基板の大きさに区画するようにスクライブライン(分割溝)を予め設けておき、このセラミックス母材の両面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をAl-Si系のろう材を用いて接合した後、スクライブライン上の金属部分を除去するようにエッチングをし、その後、このスクライブラインに沿ってセラミックス基板を分割することにより個片化し、個々のパワーモジュール用基板を製造している。また、その接合時には、セラミックス母材と、その両面にろう材を用いて設けられる金属板とからなる積層体の両面をカーボン板で挟んで加圧しながら加熱することが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-185606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、セラミックス基板に接合される金属層が薄い場合、上記積層体の両面をカーボン板で挟んでこれらを加圧状態で加熱すると、溶融したろう材が金属層の表面上で液相となって、ろうシミとなり、顕著な場合はセラミックス基板の金属層にカーボン板が付着する問題が生じる。
このため、セラミックス基板に接合された金属層の表面へのろうシミを抑制できるセラミックス-金属接合体及びその製造方法が望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、セラミックス基板に接合された金属層の表面に形成されるろうシミの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のセラミックス-金属接合体の製造方法は、セラミックス基板の少なくとも一方の面に金属層が接合されたセラミックス-金属接合体の製造方法であって、前記セラミックス基板の前記金属層が接合される接合領域を横切って前記セラミックス基板の端縁まで延びる溝を形成する溝形成工程と、前記溝形成工程後に、前記セラミックス基板の前記接合領域に厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をAl-Si系ろう材箔を介して積層し、積層方向に荷重をかけながら加熱して前記接合領域に前記金属板を接合し、前記金属層を形成する接合工程と、を有する。
【0007】
ここで、上記溝が形成されていないセラミックス基板の接合領域にAl-Si系ろう材箔を介してアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板を積層し、積層方向に荷重をかけながら加熱すると、金属層の厚さが0.4mm以下と薄い場合、溶融したろう材に含まれるSi成分が金属層の表面まで拡散し、その表面で液相を生じさせてろうシミとなる。
これに対し、本発明では、セラミックス基板の金属層が接合される接合領域を横切って延びる溝がセラミックス基板に形成されていることから、セラミックス基板の接合領域にAl-Si系ろう材箔を介して金属板を積層した積層体を積層方向に荷重をかけながら加熱して接合する際に、溶融したろう材がセラミックス基板に形成された溝に沿って接合領域より外側に排出されるので、溶融したろう材のSi成分が金属層の表面まで拡散し、その表面で液相を生じさせることを抑制でき、ろうシミの発生を抑制できる。
【0008】
本発明のセラミックス-金属接合体の製造方法において、前記溝形成工程では、前記接合領域における前記溝の開口面積が前記接合領域の面積の5%未満となるように前記溝を形成するとよい。
ここで、接合領域おける溝の開口面積が接合領域の面積の5%以上であると、接合面積が減少するため、セラミックス基板と金属板との接合性が低下する可能性がある。
これに対し、上記態様では、接合領域における溝の開口面積が接合領域の面積の5%未満であるため、セラミックス基板の接合領域と金属板とを強固に接合できる。
なお、ここで、接合領域の面積及び溝の開口面積は、溝が形成されたセラミックス基板を上面視した際の面積である。
【0009】
本発明のセラミックス-金属接合体の製造方法において、前記溝形成工程では、前記溝は、前記セラミックス基板の前記接合領域の80%の面積の領域内に形成され、該領域の中心が前記接合領域の中心と一致しているとよい。
なお、ここでの接合領域の面積は、セラミックス基板を上面視した際の面積である。
ここで、溝形成工程により形成される溝が、上記セラミックス基板の接合領域の80%の面積の領域外に形成されている場合や、接合領域の80%の面積の領域の中心がセラミックス基板の中心と一致していない場合、すなわち、セラミックス基板の接合領域の周縁近傍のみを通過するように溝が形成されている場合、接合領域の略全域から溶融したろう材を排出しにくい。
これに対し、上記態様では、溝形成工程により形成される溝が、セラミックス基板の接合領域の80%の面積の領域内に形成され、該領域の中心が接合領域の中心と一致しているので、接合領域の略全域から溶融したろう材を効率よく排出でき、ろうシミの発生をさらに抑制できる。
【0010】
本発明の多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法は、複数のセラミックス基板に分割可能な大きさのセラミックス母材の少なくとも一方の面に金属層が接合された多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法であって、前記セラミックス母材の前記金属層が接合される接合領域を横切って前記セラミックス母材の端縁まで延びる溝及び各セラミックス基板分割するためのスクライブラインを形成する溝形成工程と、前記溝形成工程後に、前記セラミックス母材の前記接合領域に厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をAl-Si系ろう材箔を介して積層し、積層方向に荷重をかけながら加熱して前記接合領域に前記金属板を接合し、前記金属層を形成する接合工程と、を有し、前記金属板は、前記スクライブラインにより区画される複数の領域にまたがる大きさに形成されている。
このような構成によれば、多数個取り用セラミックス-金属接合体をスクライブラインに沿って容易に個片化でき、複数のセラミックス回路基板を効率よく製造できる。また、スクライブライン及び上記溝の両方から溶融したろう材を接合領域の外側に排出できるので、ろうシミの発生を抑制できる。
また、セラミックス母材に上記溝が形成され、溶融したろう材が接合領域より外側に排出されることから、金属層内に拡散するSi原子の含有量が少なくなる。このため、多数個取り用セラミックス-金属接合体のエッチングレートが高くなるので、該多数個取り用セラミックス-金属接合体に対してエッチング処理を行う際に、エッチング処理を効率よく実行できる。
【0011】
本発明の多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法において、前記セラミックス母材は、その両面に前記接合領域を有し、前記溝形成工程では、前記セラミックス母材の一方の面に前記スクライブラインが形成され、他方の面に前記溝が形成されるとよい。
上記態様では、セラミックス母材の一方の面にスクライブラインが形成され、他方の面に溝が形成されるので、片面にのみスクライブライン及び溝が形成されている場合に比べて、表面側の金属層内に拡散するSi原子の含有量と、裏面側の金属層内に拡散するSi原子の含有量との差が小さくなる。つまり、セラミックス母材の表面側の金属層のSi濃度と裏面側の金属層のSi濃度との差が小さくなるので、略同じエッチングレートにより各金属層をエッチングでき、セラミックス-金属接合体の両面を同時に処理できる。
【0012】
本発明の多数個取り用セラミックス-金属接合体の製造方法において、前記溝形成工程では、前記溝は、前記接合領域の80%の面積の領域内に形成され、該領域の中心が前記接合領域の中心と一致しているとよい。
上記態様では、溝が接合領域の80%の面積の領域内に形成され、該領域の中心が接合領域の80%の面積の領域の中心と一致しているので、接合領域の略全域から溶融したろう材を効率よく排出でき、ろうシミの発生をさらに抑制できる。
【0013】
本発明のセラミックス-金属接合体は、セラミックス基板の少なくとも一方の面に金属層が接合されたセラミックス-金属接合体であって、前記金属層が接合される接合領域を横切って延びる溝が形成された前記セラミックス基板と、前記セラミックス基板の前記接合領域にAl-Si系ろう材により接合され、厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる前記金属層と、を備え、前記溝が前記セラミックス基板の端縁まで延びている。
【0014】
本発明の多数個取り用セラミックス-金属接合体は、複数のセラミックス基板に分割可能な大きさのセラミックス母材の少なくとも一方の面に金属層が接合された多数個取り用セラミックス-金属接合体であって、前記金属層が接合される接合領域を横切って延びる溝及び各セラミックス基板分割するためのスクライブラインが形成された前記セラミックス母材と、前記セラミックス母材の前記接合領域にAl-Si系ろう材により接合され、厚さが0.4mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる前記金属層と、を有し、前記金属層は、前記スクライブラインにより区画される複数の領域にまたがる大きさに形成され、前記溝が前記セラミックス母材の端縁まで延びている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セラミックス基板に接合された金属層の表面に形成されるろうシミの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るセラミックス回路基板の断面を示す断面図である。
図2】上記実施形態におけるセラミックス回路基板の製造工程を示す図である。
図3】上記実施形態における溝が形成されたセラミックス基板の一部を拡大して示す断面図である。
図4】上記実施形態における溝が形成されたセラミックス回路基板の平面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る溝により分割されたセラミックス回路基板の平面図である。
図6】上記実施形態における溝が形成されたセラミックス母材を表面側から見た平面図である。
図7】上記実施形態におけるセラミックス回路基板の製造工程を示す図である。
図8】上記実施形態におけるセラミックス回路基板の製造方法を示すフロー図である。
図9】上記実施形態の変形例に係る溝が形成されたセラミックス母材を表面側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施形態について図面を用いて説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のセラミックス回路基板1の断面を示す断面図である。
セラミックス回路基板1は、本発明のセラミックス-金属接合体に相当し、例えば、熱電変換素子の配線基板として用いられ、平面視で縦寸法5mm及び横寸法5mmの矩形状に形成されている。このようなセラミックス回路基板1は、図1に示すように、セラミックス基板2と、セラミックス基板2の両面にろう材を用いて接合された金属層3,4とを備えている。
【0018】
セラミックス基板2は、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、アルミナ等からなるセラミックス材料により形成され、厚さが0.3mm~1.0mmとされている。このセラミックス基板2の表面2a及び裏面2bには、図1に示すように、溝21が形成されている。
各金属層3,4は、純アルミニウム又はアルミニウム合金により形成され、厚さは0.4mm以下(例えば、0.25mm)とされている。これら金属層3,4としては、純度99.00質量%以上の純アルミニウム、純度99.99質量%以上の純アルミニウム又はJIS3003のアルミニウム合金等を適用することができる。
また、各金属層3,4とセラミックス基板2とは、Al-Si系のろう材を用いて接合されている。このろう材におけるSi濃度は、5質量%~12質量%であることが好ましく、7.5質量%~10.5質量%であることがより好ましい。これは、Al-Si系ろう材におけるSi濃度が5質量%未満であると、熱による溶融性が低下するため、接合性が悪くなるおそれがあり、Si濃度が12質量%を超えると、Al-Si系ろう材が硬くなり圧延性が低下するおそれがある。
【0019】
次に、以上のように構成されるセラミックス回路基板1の製造方法について説明する。この製造方法においては、図2に示すように、セラミックス基板2の両面2a,2bに溝21を形成して、セラミックス基板2の両面2a,2bにAl-Si系ろう材箔5を介して金属層3,4となる金属板30,40を接合して、セラミックス-金属接合体であるセラミックス回路基板1を製造する。以下、工程順に説明する。
【0020】
(溝形成工程)
まず、図2(a)に示すように、矩形板状のセラミックス基板2の表面2a及び裏面2bに溝21(21a,21b)を形成する。この図3(a)に示すように、溝21は、例えば、レーザ光Lを照射することにより、セラミックス基板2の表面2a及び裏面2bを線状に除去して形成される。
なお、溝形成工程では、例えばCOレーザ、YAGレーザ、YVO4レーザ、YLFレーザ等を使用して溝21の加工を行うことができる。
【0021】
図3は、溝21が形成されたセラミックス基板2の一部を拡大して示す断面図であり、図4は、セラミックス回路基板1の平面図である。なお、図3においては、溝21bのみを拡大して示している。
図3に示すように、厚さ寸法L1のセラミックス基板2の両面2a,2bのそれぞれには、深さ寸法L2、幅寸法L3の溝21が形成される。このため、セラミックス基板2における溝21が形成された部位の厚さ寸法L4は、溝21が形成されていないセラミックス基板2の厚さ寸法L1より小さくなっている。
なお、深さ寸法L2は0.1mm~0.3mm、幅寸法L3は0.05mm~0.2mmとするとよい。例えば、本実施形態では、L1は0.635mm、L2は0.2mm、L3は0.1mm、L4は0.435mmに設定される。
【0022】
これら溝21a,21bのうち、溝21aは、図4に示すように、表面2a側から見てセラミックス基板2の表面2aにおける中央より左側に位置し、図4における表面2aの上側の辺から下側の辺に向けて延びる直線状の溝である。また、溝21bは、表面2a側から見て裏面2bにおける中央より右側に位置し、図4における表面2aの上側の辺から下側の辺に向けて延びる直線状の溝である。すなわち、各溝21a,21bは、表面2a側から見て間隔をあけて並んで配置され、これら各溝21a,21bは、重なって形成されていない。
また、これら溝21a,21bは、図4に示すように、セラミックス基板2の表面2a及び裏面2bにおける金属板30,40が接合する領域である接合領域6の面積Ar3の80%の面積の領域61内に形成されている。この領域61の中心は、接合領域6の中心と一致している。この領域61内に形成される各溝21a,21bの両端部は、セラミックス基板2の表面2a及び裏面2bの両端縁まで形成されている。すなわち、各溝21a,21bは、接合領域6を横切って延び、その両端部は、接合領域6より外側まで延びている。
【0023】
また、表面2a,2bにおける接合領域6の溝21a,21bそれぞれの開口面積は、表面2a,2bそれぞれの接合領域6の面積Ar3の5%未満に設定されている。すなわち、溝21aは、表面2aの接合領域6の面積Ar3(接合領域6の長さL5×L5)×0.05>接合領域6における溝21aの開口面積Ar1(溝21aの幅寸法L3×接合領域6の長さL5)となるように表面2aに形成され、溝21bは、裏面2bの接合領域6の面積Ar3×0.05>接合領域6における溝21bの開口面積Ar2(溝21bの幅寸法L3×接合領域6の長さL5)となるように裏面2bに形成されている。
なお、この溝21を形成する際には、少なくとも溝21の一方の端部はセラミックス基板2の端縁まで形成されていることが望ましいが、必ずしもセラミックス基板2の端縁まで延びていなくてもよい。すなわち、溝21は、後述する接合工程で溶融したろう材を接合領域6より外側に排出できる程度に該接合領域6外まで延びていればよい。
このような溝21が形成されたセラミックス基板2は、図示は省略するが、洗浄液により洗浄される。
【0024】
(接合工程)
次に、図3(b)に示すように、溝21の形成後に洗浄されたセラミックス基板2に厚さ寸法が0.4mm以下の金属板30,40をAl-Si系ろう材を用いて接合する。具体的には、セラミックス基板2の表面2a及び裏面2bの接合領域6に、それぞれAl-Si系ろう材箔5を介在させて金属板30,40を積層し、これらの積層体をカーボン板により挟持し、積層方向に荷重をかけながら(加圧した状態のまま)真空中で加熱することにより、セラミックス基板2と金属板30,40を接合する。これにより、図3(c)に示すセラミックス基板2の両面2a,2bに金属層3,4が接合されたセラミックス回路基板1が形成される。
また、積層方向への加圧は0.1MPa~0.5MPa、加熱温度は630℃~650℃とするとよい。また、Al-Si系ろう材箔は、厚さ5μm~15μmであるとよい。ただし、加熱温度は使用した金属板30,40の融点よりも低いものとする。また、Al-Si系ろう材としては、Al-Siろう材やAl-Si-Cuろう材の他Al-Si-Mgろう材等を用いることができる。
【0025】
ここで、セラミックス基板2の両面2a,2bに溝21が形成されていない場合、接合領域6にAl-Si系ろう材箔5を介してアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板30,40を積層し、積層方向に荷重をかけながら加熱すると、金属層3,4の厚さが0.4mm以下と薄いので、溶融したろう材に含まれるSi成分が金属層3,4の表面まで拡散し、その表面で液相を生じさせてろうシミとなる。
【0026】
これに対し、本実施形態では、セラミックス基板2の金属層3,4が接合される接合領域6を横切って延びる溝21がセラミックス基板2に形成されていることから、セラミックス基板2の接合領域6にAl-Si系ろう材箔5を介して金属板30,40を積層した積層体を積層方向に荷重をかけながら加熱して接合する際に、溶融したろう材がセラミックス基板2に形成された溝21に沿って接合領域6より外側に排出されるので、溶融したろう材のSi成分が金属層3,4の表面まで拡散し、その表面で液相を生じさせてろうシミとなることを抑制できる。
【0027】
ここで、Al-Si系ろう材箔5の厚さを薄くして溶融したろう材のSi成分が金属層3,4の表面まで拡散することを抑制することも考えられるが、このようなAl-Si系ろう材には、圧延の限界があり、例えば、5μm以下にすることが難しい。また、シリコン含有量も5質量%未満とすることが難しい。このため、セラミックス基板2の接合領域6にAl-Si系ろう材箔5を介して金属板30,40を積層した積層体を積層方向に荷重をかけながら加熱して接合する際、溶融したろう材の量が必要以上に多くなり、余剰分が生じる。
これに対し、本実施形態では、上記余剰分としての溶融したろう材が接合領域6より外側に排出されるので、ろうシミの発生を抑制できる。
【0028】
また、溝21a,21bの接合領域6における開口面積Ar1,Ar2のそれぞれが表面2a及び裏面2bそれぞれの接合領域6の面積Ar3の5%未満であるため、セラミックス基板2の表面2a及び裏面2b(接合領域6)と金属板30,40とを強固に接合できる。
さらに、溝21a,21bが、セラミックス基板2の表面2a及び裏面2bそれぞれの接合領域6の80%の面積の領域61に形成され、その領域61の中心が該接合領域6の中心と一致しているので、接合領域6の略全域から溶融したろう材を効率的に排出でき、ろうシミの発生をさらに抑制できる。
【0029】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係るセラミックス回路基板1Aを示す平面図であり、図6は、溝21が形成されたセラミックス母材20を表面20a側から見た平面図である。
本実施形態のセラミックス回路基板1Aは、複数のセラミックス基板を分割可能な大きさのセラミックス母材20の両面に溝21を形成した後、該セラミックス母材20の両面にAl-Si系ろう材箔を介して金属板30,40を積層して接合した後、スクライブラインとして機能する溝21cに沿って分割することにより形成される点、すなわち、製造方法が第1実施形態と異なり、その他、分割した個々のセラミックス回路基板1Aとして視れば、裏面2bにのみ2本の溝21bが形成されている点も異なる。
なお、本実施形態においては、第1実施形態の形状と同一又は略同一の構成については、同じ番号を付し、説明を省略又は簡略化して説明する。なお、以下の説明では、溝21のうち、セラミックス母材20の表面20aに形成された溝21cをスクライブライン21cと呼び、裏面20bに形成された溝21bを非分割溝21bと呼ぶ。
【0030】
セラミックス母材20として視れば、非分割溝21bは、図5に示すように、セラミックス基板2の裏面2bの中心を通過し、裏面2bの上側の辺から下側の辺に向けて延びる直線状の溝と、裏面2bの中心を通過し、図5における裏面2bの左側の辺から右側の辺に向けて延びる直線状の溝と、により構成される。これら非分割溝21bは、セラミックス基板2の裏面2bにおける金属板40が接合する領域である接合領域6の面積Ar3の80%の面積の領域61内に形成され、領域61の中心が接合領域6の中心と一致している。この領域61内に形成される各非分割溝21bの両端部は、セラミックス基板2の裏面2bの両端縁まで形成されている。すなわち、各非分割溝21bは、接合領域6を横切って延び、その両端部は、接合領域6より外側まで延びている。
また、接合領域6における2本の非分割溝21bの開口面積(縦方向に延びる非分割溝21bの開口面積Ar2+横方向に延びる非分割溝21bの開口面積Ar2-各非分割溝21bが重なる領域の面積Ar4)は、接合領域6の面積Ar3の5%未満とされている。
【0031】
次に、セラミックス回路基板1Aの製造方法について説明する。この製造方法においては、セラミックス基板2を複数形成可能な大きさのセラミックス母材20を用意し、図7に示すように、セラミックス母材20の両面に複数の溝21を形成して、セラミックス母材20の両面に金属層3,4となる金属板30,40を接合して多数個取り用セラミックス-金属接合体50をまず製造する。そして、この多数個取り用セラミックス-金属接合体50をスクライブライン21cに沿ってエッチングして、メッキ後に分割個片化することが行われる(図8参照)。以下、溝形成工程、接合工程、エッチング工程、メッキ工程及び分割工程の順に詳細を説明する。
【0032】
(溝形成工程)
まず、図7(a)に示すように、矩形板状のセラミックス母材20の表面20a及び裏面20bにスクライブライン21c及び非分割溝21bを形成する。この図7(a)に示すように、スクライブライン21c及び非分割溝21bは、例えば、レーザ光Lを照射することにより、セラミックス母材20の表面20a及び裏面20bを線状に除去して形成される。これらのうち、スクライブライン21cは、後述する分割工程において、セラミックス母材20の分割の起点となる。
なお、溝形成工程では、スクライブライン21cの幅寸法及び深さ寸法は、非分割溝21bの幅寸法及び深さ寸法より大きく形成され、例えば、スクライブライン21cの幅寸法は、0.05mm~0.3mm、深さ寸法は0.1mm~0.3mmに設定される。なお、非分割溝21bの幅寸法及び深さ寸法は、第1実施形態の溝21bと同じである。
【0033】
セラミックス母材20の表面20aには、図6に示す例では、実線で示すように縦方向に延びる4本のスクライブライン21cと、横方向に延びる3本のスクライブライン21cが形成されている。縦方向に延びる4本のスクライブライン21cのそれぞれは、横方向に所定間隔を開けて配置され、横方向に延びる3本のスクライブライン21cのそれぞれは、縦方向に所定間隔を開けて配置されている。
一方、セラミックス母材20の裏面20bには、図6に破線で示すように、縦方向に延びる3本の非分割溝21bと、横方向に延びる2本の非分割溝21bが形成され、縦方向に延びる3本の非分割溝21bのそれぞれは、横方向に所定間隔を開け、かつ、セラミックス母材20の平面視で表面20aに配置された縦方向に延びる4本のスクライブライン21cとずれて配置される。また、横方向に延びる2本の非分割溝21bのそれぞれは、縦方向に所定間隔を開け、かつ、上記平面視で表面20aに配置された横方向に延びる3本のスクライブライン21cとずれて配置される。すなわち、溝形成工程では、非分割溝21bは、接合領域6Aの80%の面積の領域61A内に形成され、領域61Aの中心が該接合領域6Aの中心と一致している。なお、スクライブライン21cに沿う非分割溝21bは、スクライブライン21cと所定間隔を開けて形成されている。
【0034】
具体的には、本実施形態では、10mm四方のセラミックス基板2を複数形成するため、セラミックス母材20の表面20a及び裏面20bとも、10mm間隔でスクライブライン21c及び非分割溝21bが形成され、かつ、これら表面20aのスクライブライン21cと裏面20bの非分割溝21bとがセラミックス母材20の面方向に5mmずれて配置されている。このため、セラミックス母材20を平面視で投影すれば、表面20aに位置するスクライブライン21cと裏面20bに位置する非分割溝21bとが縦方向及び横方向のそれぞれにおいて5mmピッチで配置されることとなる。また、セラミックス母材20の周縁部はマージン部であり、セラミックス基板2としては使用されない。これにより、後述する分割工程においてセラミックス母材20がスクライブライン21cに沿って分割されると、平面視で10mm四方のセラミックス基板2が6個形成される。
【0035】
(接合工程)
次に、図7(b)に示すように、スクライブライン21c及び非分割溝21bの形成後に洗浄されたセラミックス母材20の接合領域6Aに厚さ寸法が0.4mm以下で、上記平面視でスクライブライン21cにより区画された6つの領域にまたがる大きさの金属板30,40をAl-Si系ろう材を用いて接合する。具体的には、セラミックス母材20の両面の上記周縁部を除く接合領域6Aに、それぞれAl-Si系ろう材箔5を介在させて金属板30,40を積層し、これらの積層体をカーボン板により挟持し、積層方向に荷重をかけながら真空中で加熱することにより、セラミックス母材20と金属板30,40を接合する。これにより、セラミックス母材20の両面20a,20bに金属層3,4が設けられた多数個取り用セラミックス-金属接合体50が形成される。
【0036】
本実施形態では、上述したように、表面20aに縦4本、横3本のスクライブライン21cが形成され、裏面20bに縦3本、横2本の非分割溝21bが形成されており、これらスクライブライン21c及び非分割溝21bの本数は、表面20aと裏面20bとで略等しい本数といえる。このため、接合工程において真空状態で上記積層体が加熱されると、溶融したろう材が溝21a,21bに沿って積層体の外側に略同じ量流出する。このため、金属層3,4との間に略同じ量の溶融したろう材が残されることとなり、この溶融したろう材のSi原子が金属層3,4内に拡散して略同量のSi原子を含む金属層3,4となる。これにより、金属層3,4のSi濃度が略同じとなる。
また、スクライブライン21c及び非分割溝21bに沿って溶融したろう材が積層体の外側(接合領域6の外側)に排出されるので、金属層3,4の表面のろうシミの発生が抑制される。
【0037】
(エッチング工程)
そして、多数個取り用セラミックス-金属接合体50のセラミックス母材20に接合された金属層3,4をスクライブライン21cに沿ってエッチングする。エッチングは公知の手法により行うことが可能であり、例えば、必要な箇所にマスキングした後に塩化鉄溶液を用いてエッチングする。エッチングによって、平面視で略矩形状の金属層3,4が形成される。これにより、図7(c)に示すように、セラミックス母材20には、スクライブライン21cにより区画された各領域に金属層3,4が設けられる。
この場合、セラミックス母材20の表面20a側の金属層3と裏面20b側の金属層4とが同じSi濃度の金属層となっているので、同じエッチングレートにより各金属層3,4をエッチングできることから、多数個取り用セラミックス-金属接合体50の両面は、同時にエッチング処理される。
【0038】
(メッキ工程)
そして、図示は省略するが、必要に応じて、多数個取り用セラミックス-金属接合体50に金メッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等のメッキ処理を施す。これにより、多数個取り用セラミックス-金属接合体50の金属層3,4にメッキ処理が施された多数個取り用セラミックス-金属接合体50が製造される。
なお、本実施形態では、多数個取り用セラミックス-金属接合体50の両面にメッキ処理が施されるが、これに限らず、例えば、一方の面のみメッキ処理が施されることとしてもよい。
【0039】
(分割工程)
最後に、メッキ処理された金属層3,4と接合されたセラミックス母材20をスクライブライン21cに沿って分割することで、図7(d)に示すように、セラミックス母材20が個片化され、複数(6個)のセラミックス回路基板1Aが製造される。
なお、分割工程においては、セラミックス母材20の最も外縁側に位置する領域(セラミックス母材20の外縁に最も近いスクライブライン21cよりも外側に位置する領域には、上述した接合工程において外側に流れ出した溶融したろう材が固まることにより、ろう瘤が形成されているため、これらを事前に取り除いた後、各スクライブライン21cに沿ってセラミックス母材20を個片化する。
【0040】
このように、本実施形態のセラミックス回路基板1の製造方法では、セラミックス母材20の表面20a及び裏面20bの両面にスクライブライン21c及び非分割溝21bをそれぞれ略同数形成したので、セラミックス母材20の表面20a及び裏面20bの両面にAl-Si系ろう材を用いて金属板30,40を積層した積層体を接合する際に、表面20a及び裏面20bのいずれの面においてもスクライブライン21c及び非分割溝21bに沿って積層体の外側に略同量の溶融したろう材が排出される。このため、セラミックス母材20の表面20a側の金属層3内に拡散するSi原子の含有量と、裏面20b側の金属層4内に拡散するSi原子の含有量とが略同じとなる。つまり、セラミックス母材20の表面20a側の金属層3と裏面20b側の金属層4とが同じSi濃度の金属層となるので、同じエッチングレートにより各金属層3,4をエッチングでき、多数個取り用セラミックス-金属接合体50の両面を同時に処理できる。
【0041】
また、非分割溝21bが接合領域6Aの80%の面積の領域61A内に形成され、領域61Aの中心が接合領域6Aの中心と一致しているので、セラミックス母材20の接合領域6Aの略全域から溶融したろう材を効率的に排出でき、ろうシミの発生をさらに抑制できる。
【0042】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記第2実施形態では、スクライブライン21c及び非分割溝21bがそれぞれ10mm間隔で配置されることとしたが、これに限らず、これらスクライブライン21c及び非分割溝21bの配置間隔は、セラミックス回路基板1のサイズに合わせて適宜変更できる。また、セラミックス母材20の表面20aに縦4本、横3本のスクライブライン21cを形成し、裏面20bに縦3本、横2本の非分割溝21bを形成することとしたが、その数及び形成位置はセラミックス母材のサイズ等に応じて適宜変更できる。また、スクライブラインは、両面に形成されていてもよい。
【0043】
図9は、第2実施形態の変形例に係る複数のセラミックス回路基板を製造するための溝21が形成されたセラミックス母材20Aを表面20a側から見た平面図である。
本変形例のセラミックス母材20Aは、図9に示すように、スクライブライン21cにより分割されることにより、平面視で10mm四方のセラミックス回路基板を9つ製造できる大きさに形成されている。このセラミックス母材20Aの表面20aには、図9に示す例では、実線で示すように縦方向に延びる4本のスクライブライン21cと、横方向に延びる4本のスクライブライン21cが形成されている。縦方向に延びる4本のスクライブライン21cのそれぞれは、横方向に所定間隔を開けて配置され、横方向に延びる4本のスクライブライン21cのそれぞれは、縦方向に所定間隔を開けて配置されている。
【0044】
一方、セラミックス母材20の裏面20bには、図9に破線で示すように、セラミックス母材20Aの対向する角を結ぶ対角線状に延びる2本の非分割溝21bが形成されている。すなわち、本変形例では、接合領域6Bの80%の面積であって、その中心が該接合領域6Bの中心と一致する領域61Bを通過するように非分割溝21bが形成されている。
このようなスクライブライン21c及び溝21bが形成されたセラミックス母材20Aの両面20a,20bの接合領域6Bに、金属層3,4が接合され、個片化されると、非分割溝21bが形成されたセラミックス回路基板が5つ形成され、非分割溝21bが形成されていないセラミックス回路基板が4つ形成されることとなる。
【0045】
本変形例では、非分割溝21bがセラミックス母材20Aの対向する角を結ぶ対角線上に延びているので、非分割溝21bによりセラミックス母材20Aを割れにくくできる。
また、本変形例においても非分割溝21bが接合領域6Bの80%の面積の領域61B内に形成され、領域61Bの中心が該接合領域6Bの中心と一致しているので、スクライブライン21c及び非分割溝21bのそれぞれから溶融したろう材を接合領域6Bより外側に排出でき、ろうシミの発生を抑制できる。
【0046】
上記第2実施形態では、メッキ処理後に各セラミックス回路基板1を分割することとしたが、これに限らず、分割工程後に各セラミックス回路基板1にメッキ処理を施すこととしてもよい。また、メッキ処理工程はなくてもよい。
また、上記第2実施形態では、スクライブライン21cの幅寸法及び深さ寸法は、溝21bの幅寸法及び深さ寸法より大きいこととしたが、同じであってもよい。
【0047】
また、上記各実施形態では、溝21は、レーザ加工により形成されることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、ダイヤモンドスクライバー等の他の加工方法により実施することもできる。
【実施例
【0048】
[試験手順]
縦50mm×横50mmのセラミックス母材の表面にスクライブラインとして機能する溝を縦方向に5mm間隔で9本、横方向に5mm間隔で9本形成した。
実施例1及び2においては、裏面にセラミックス母材の対向する角を結ぶ対角線上に延びる2本の溝を形成し、比較例1及び2においては、裏面に溝を形成しなかった。
なお、スクライブラインとして機能する溝の幅寸法は0.1mm、深さ寸法は0.15mm、裏面に形成される2本の溝の幅寸法は0.05mm、深さ寸法は0.1mmとした。
このようなセラミックス母材の両面の接合領域(縦49mm×横49mmの領域)にそれぞれSi濃度7.5質量%、厚さ12μmのAl-Si系ろう材箔を介在させて表1に示す組成の厚さ0.1mmの金属板(金属層)を積層し、これらの積層体をカーボン板により挟持し、積層方向に荷重をかけながら(加圧した状態のまま)真空中で加熱することにより、セラミックス母材と金属板とを接合した多数個取り用セラミックス-金属接合体を製造した。この際、積層方向への加圧は0.3MPa、加熱温度は640℃、加圧時間は60分とした。
【0049】
上述した多数個取り用セラミックス-金属接合体のそれぞれの表面に対し、スクライブラインで区画化される5mm×5mmのエリアに、4mm×4mmのエッチングレジストを付与した。なお、5mm×5mmのエリアを上面視した時の中心と、4mm×4mmのエッチングレジストを上面視した時の中心とが、一致するようにエッチングレジストを付与した。なお、エッチングレジストは、多数個取り用セラミックス-金属接合体の裏面にも、表面と同じパターンで付与した。
次に、多数個取り用セラミックス-金属接合体に対してエッチング処理を行い、レジストを剥離した。なお、エッチング溶液としては、塩化鉄溶液を用いた。
エッチング処理後の区画化された金属層の幅寸法を測定し、多数個取り用セラミックス-金属接合体の表面の区画化された金属層の幅寸法の平均値と、裏面の区画化された金属層の幅寸法の平均値との差(エッチング処理後の金属層の幅寸法差)を表1に示した。この区画化された金属層の幅寸法の測定は、任意の5つの区画化された金属層を寸法測定器(光学顕微鏡)によって測定し、表面と裏面は同じ部位を測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果からわかるように、セラミックス母材の両面に溝が形成されている実施例1及び2は、エッチング処理後の金属層の幅寸法差が0.04mm以下であり、溝を両面に形成することで、エッチング処理後の区画化された金属層の幅(大きさ)を表裏のそれぞれで揃えることができた。特に、金属層としてJIS3003アルミニウム合金を用いた方が、その効果が大きかった。
【符号の説明】
【0052】
1 1A セラミックス回路基板(セラミックス-金属接合体)
2 セラミックス基板
2a 表面
2b 裏面
3,4 金属層
5 Al-Si系ろう材箔
6 6A 6B 接合領域
61 61A 61B 領域
20 20A セラミックス母材
20a 表面
20b 裏面
21,21a 溝
21b 非分割溝(溝)
21c スクライブライン(溝)
30,40 金属板
50 多数個取り用セラミックス-金属接合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9