(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子積層膜及びその製造方法並びに銀ナノ粒子積層膜の呈色方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20220928BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220928BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20220928BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20220928BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220928BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220928BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220928BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20220928BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01B5/14 Z
B22F1/102
B22F9/24 E
B32B15/04 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
H01B1/00 E
H01B1/02 Z
H01B13/00 503Z
(21)【出願番号】P 2018092505
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大江 靖
(72)【発明者】
【氏名】田淵 恵里香
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0008602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色の基材と、前記黒色の基材上に形成され、銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層とを備え、
前記銀ナノ粒子含有層に含まれる前記銀ナノ粒子の少なくとも一部は、前記銀ナノ粒子含有層の表層に、前記銀ナノ粒子含有層の表面に沿って層状に凝集して
おり、
前記銀ナノ粒子の平均一次粒子径(D50)は、1nm以上30nm以下の範囲内であり、
前記銀ナノ粒子の表面は、複数の保護分子により覆われており、
前記銀ナノ粒子の表面を覆っている前記複数の保護分子のうち最も多い分子は、1級アミノ基と3級アミノ基とを有するアルキルジアミンであることを特徴とする銀ナノ粒子積層膜。
【請求項2】
黒色の基材と、前記黒色の基材上に形成され、銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層とを備え、
前記銀ナノ粒子含有層に含まれる前記銀ナノ粒子の少なくとも一部は、前記銀ナノ粒子含有層の表層に、前記銀ナノ粒子含有層の表面に沿って層状に凝集して
おり、
前記銀ナノ粒子含有層は、分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合とを有する化合物をさらに含み、
前記銀ナノ粒子の質量(W
Ag
)と、前記分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合とを有する化合物(W
C
)との混合質量割合(W
Ag
/W
C
)は、1/70以上1/10以下の範囲内であることを特徴とする銀ナノ粒子積層膜。
【請求項3】
前記黒色の基材と前記銀ナノ粒子含有層との間に下地層を更に有することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の銀ナノ粒子積層膜。
【請求項4】
前記分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合を有する化合物の前記カルボキシ基は、コハク酸であることを特徴とする請求項
2に記載の銀ナノ粒子積層膜。
【請求項5】
前記下地層は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むことを特徴とする請求項
3に記載の銀ナノ粒子積層膜。
【請求項6】
黒色の基材上に、銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層を形成する工程を有
し、
前記銀ナノ粒子の平均一次粒子径(D50)は、1nm以上30nm以下の範囲内であり、
前記銀ナノ粒子の表面は、複数の保護分子により覆われており、
前記銀ナノ粒子の表面を覆っている前記複数の保護分子のうち最も多い分子は、1級アミノ基と3級アミノ基とを有するアルキルジアミンであることを特徴とする銀ナノ粒子積層膜の製造方法。
【請求項7】
黒色の基材上に、銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層を形成する工程を有
し、
前記銀ナノ粒子含有層は、分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合とを有する化合物をさらに含み、
前記銀ナノ粒子の質量(W
Ag
)と、前記分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合とを有する化合物(W
C
)との混合質量割合(W
Ag
/W
C
)は、1/70以上1/10以下の範囲内であることを特徴とする銀ナノ粒子積層膜の製造方法。
【請求項8】
前記銀ナノ粒子含有層を形成する工程の前に、前記黒色の基材上に、下地層を形成する工程を更に有することを特徴とする請求項
6または請求項7に記載の銀ナノ粒子積層膜の製造方法。
【請求項9】
前記下地層を形成する工程は、
前記黒色の基材上に、(メタ)アクリル酸エステル化合物と、電離放射線により重合開始種を発生する化合物とを含む下地層用組成物を塗布する工程と、
前記基材上に塗布した前記下地層用組成物に前記電離放射線を照射して、前記下地層用組成物を硬化させる工程と、
を含み、
前記下地層用組成物の前記電離放射線により重合開始種を発生する化合物の添加量は、前記(メタ)アクリル酸エステル化合物の質量に対して0.5質量%以上1質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の銀ナノ粒子積層膜の製造方法。
【請求項10】
前記銀ナノ粒子含有層を形成する工程では、前記下地層上に、銀ナノ粒子と、(メタ)アクリレートモノマーとを含む銀ナノ粒子含有層用組成物を塗布し乾燥させて前記銀ナノ粒子含有層を形成することを特徴とする請求項9に記載の銀ナノ粒子積層膜の製造方法。
【請求項11】
黒色の基材上に銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層を備えた銀ナノ粒子積層膜の、前記銀ナノ粒子の少なくとも一部を前記銀ナノ粒子含有層の表層に層状に凝集させ
、
前記銀ナノ粒子の平均一次粒子径(D50)は、1nm以上30nm以下の範囲内であり、
前記銀ナノ粒子の表面は、複数の保護分子により覆われており、
前記銀ナノ粒子の表面を覆っている前記複数の保護分子のうち最も多い分子は、1級アミノ基と3級アミノ基とを有するアルキルジアミンであることを特徴とする銀ナノ粒子積層膜の呈色方法。
【請求項12】
黒色の基材上に銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層を備えた銀ナノ粒子積層膜の、前記銀ナノ粒子の少なくとも一部を前記銀ナノ粒子含有層の表層に層状に凝集させ
、
前記銀ナノ粒子含有層は、分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合とを有する化合物をさらに含み、
前記銀ナノ粒子の質量(W
Ag
)と、前記分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合とを有する化合物(W
C
)との混合質量割合(W
Ag
/W
C
)は、1/70以上1/10以下の範囲内であることを特徴とする銀ナノ粒子積層膜の呈色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子積層膜及びその製造方法並びに銀ナノ粒子積層膜の呈色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子は他の物質には見られない電気的、熱的、光学的特性を有し、太陽電池からセンサーに至る幅広い製品で利用されている。さらに、銀ナノ粒子は他の多くの色素や顔料と異なり、光の吸収や散乱が極めて効果的であり、粒子の大きさや形状に応じて色を有する。光と銀ナノ粒子との強い関係は、表面プラズモン共鳴と呼ばれ、特定の波長の光で励起された際に金属表面の伝導電子が集団的な振動を起こすためで、通常にはない散乱や吸収特性の原因となる。
【0003】
一般に金属銀が分散した塗液は、金属配線の用途に用いられることが多い。例えば、金属銀が分散した塗液で配線基板上にパターンを形成し、その塗液中に含まれる金属銀を焼結させ配線を形成する。金属銀を導電性材料として使用する場合、分散した金属銀の微細化による融点降下を利用して低温で焼結する必要があることが知られている。現在では、微細化したナノサイズの金属ナノ粒子が低温焼結可能な材料として期待されている。
【0004】
しかし、融点降下を示すほどの微小な金属銀の粒子は、互いに接触し凝集しやすい。この凝集を防止するためには、上述した塗液に分散剤を添加する必要があるが、分散剤を添加することによって、金属ナノ粒子特有の表面プラズモン共鳴が阻害され、特有の発色に悪影響を及ぼす可能性がある。また、銀ナノ粒子特有の光学的特性を有する機能膜を作製するためには、分散性がよい塗液であって、低温では焼結しない銀膜となる必要がある。上述の金属ナノ構造体によるプラズモン共鳴は、基礎と応用の両分野において進展がめざましく、銀ナノ粒子2次元結晶シートを金属基板上に積層すると、積層数に応じてオレンジ~赤~ピンク~紫の鮮やかな呈色が得られている(特許文献1)。
【0005】
従来、銀ナノ粒子を得ようとする場合、一般には硝酸銀や塩化銀などの銀塩を溶解させた水溶液などを用いて、存在する銀イオンを何らかの還元剤により還元して所望の形態の金属塩として析出させることが通常であった(特許文献2~4)。また、特に微細な銀粒子の製造においては、真空中において原子状銀を凝集させて銀ナノ粒子とする方法等も知られている(特許文献5)。
【0006】
また、シュウ酸銀とアミンを混合して、熱分解することによりシュウ酸銀アミン錯体を経て銀ナノ粒子を製造する方法等も知られている(特許文献6、7)。この手法によれば、原料となる化合物から解離して生じる銀原子が、銀ナノ粒子を構成する過程で銀イオンの状態を経ることがない。このため、上記手法であれば、銀イオンを還元するための還元剤を混合する必要がなく、単純な手法で平均粒子径が均一な銀微粒子を製造することが可能である。さらに、アミン錯体の分解の際、アミン分子のアミノ基が銀粒子表面に配位することから、分散剤を添加しなくてもある種の有機溶剤に分散可能な銀ナノ粒子が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6091417号公報
【文献】特表2012-509396号公報
【文献】特開2012-180589号公報
【文献】特開2012-140701号公報
【文献】特開2002-121437号公報
【文献】特開2012-162767号公報
【文献】特許第5574761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この銀ナノ粒子分散液のみを塗布した場合、その分散液に電離放射線により硬化する化合物を添加すると、黄褐色系の塗膜層しか得られないという課題、つまり呈色可能な色のバリエーションが少なくなるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、膜強度や基材との密着性が良好であり、角度依存性のない塗膜色が得られる銀ナノ粒子積層膜及びその製造方法並びに銀ナノ粒子積層膜の呈色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る銀ナノ粒子積層膜は、黒色の基材と、この黒色の基材上に形成され、銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層とを備え、前記銀ナノ粒子含有層に含まれる前記銀ナノ粒子の少なくとも一部は、前記銀ナノ粒子含有層の表層に、前記銀ナノ粒子含有層の表面に沿って層状に凝集している。
【0011】
また、発明の一態様に係る銀ナノ粒子積層膜の製造方法は、黒色の基材上に、銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層を形成する工程を有する。
【0012】
また、発明の一態様に係る銀ナノ粒子積層膜の呈色方法は、黒色の基材上に銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子含有層を備えた銀ナノ粒子積層膜の、上記銀ナノ粒子の少なくとも一部を上記銀ナノ粒子含有層の表層に層状に凝集させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銀ナノ粒子分散液のみを塗布した場合であっても膜強度や基材との密着性が良好であり、角度依存性のない塗膜色が得られる銀ナノ粒子積層膜及びその製造方法並びに銀ナノ粒子積層膜の呈色方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜における銀ナノ粒子の分散・凝集状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜の製造工程を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施例1で得られた銀ナノ粒子のトルエン溶媒分散液を基板に塗布し乾燥させた後、観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1で得られた銀ナノ粒子の粒度分布及び累積度数(%)を示す図である。
【
図6】本発明の実施例1で得られた硬化膜の反射スペクトルを示す図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明の各実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜及び銀ナノ粒子積層膜の製造方法について説明する。ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す各実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
(銀ナノ粒子積層膜5の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜5の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示す銀ナノ粒子積層膜5は、基材1と、基材1上に形成された下地層2と、下地層2上に形成され、銀ナノ粒子4を含有する銀ナノ粒子含有層3と、を少なくとも備えている。また、本実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜5は、様々な色を呈するが、銀ナノ粒子による構造色起因の反射色は何れの場合も緑色を呈する。そのため、銀ナノ粒子積層膜5は、一般に「呈色膜」または「呈色フィルム」とも呼ばれる。また、「下地層2」は、比較的厚みが薄い場合には「薄膜層」とも呼ばれ、比較的厚みが厚い場合には「フィルム」あるいは「厚膜層」とも呼ばれる。以下、これら各層の詳細について説明する。
【0017】
[基材1]
基材1は、下地層2を支持する層であり、構造色をより鮮明に発色させるために黒色である必要がある。このため、下地層2を支持し形成することが可能で黒色あれば、基材の種類を問わない。本実施形態では、基材1としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、ポリメタクリル酸エステルフィルム等に黒色顔料を練りこんだもの、表面或いは裏面に黒色塗料を塗布したもの等を用いることが出来る。さらに、メッシュ(ポリエチレン糸、ナイロン糸等黒染め、NBC社製)の他、黒色のコート紙、上質紙等の紙も用いることが出来る。
基材1の表面は、下地層2の形成が容易になるように処理が施されていてもよい。基材1の表面に施す処理としては、例えば、コロナ処理が挙げられる。
【0018】
[下地層2]
下地層2は、銀ナノ粒子含有層3を支持する、4μm~60μmの厚みを有する層である。本実施形態において、下地層2は、例えば、1種類または2種類以上の(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合させて形成した層である。より詳しくは、下地層2は、1種類または2種類以上のウレタンアクリルオリゴマー等を用いて形成された層であって、例えば、後述する下地層用組成物2a(
図3参照)を窒素パージした環境下、或いは大気下で硬化させた層である。
なお、下地層2は、電離放射線により重合開始種を発生する化合物、例えば、光重合開始剤を含んでいてもよい。
また、上述した「窒素パージした環境下」とは、大気中における窒素濃度よりも高い窒素濃度における環境下を意味する。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示す。例えば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタクリレート」の両方を示す。
【0019】
[銀ナノ粒子含有層3]
銀ナノ粒子含有層3は、下地層2上に形成された、1μm~7μmの厚みを有する層である。
銀ナノ粒子含有層3は、分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合を有する化合物を少なくとも含んでおり、それらの一部は重合している。このため、銀ナノ粒子含有層3は、三次元架橋構造を有する樹脂を含む場合もある。なお、銀ナノ粒子含有層3は、電離放射線により重合開始種を発生する化合物、例えば、光重合開始剤を含んでいてもよい。
また、上述の分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合を有する化合物の具体例については、後述する。
また、上述の光重合開始剤は、上述の重合性化合物を光重合させるための開始剤である。このため、上述の重合性化合物を光重合させることが可能であれば、その種類を問わない。なお、本実施形態で使用可能な光重合開始剤の具体例については、後述する。
【0020】
また、銀ナノ粒子含有層3は、
図2に示すように、上述の樹脂以外に、銀ナノ粒子4を含んでいる。
図2は、実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜5における銀ナノ粒子4の分散・凝集状態を模式的に示す1例の断面図であって、
図1の破線で囲まれた部分を拡大した図である。
図2に示すように、銀ナノ粒子4の多くは、銀ナノ粒子含有層3の表層(上部)に、銀ナノ粒子含有層3の表面に沿って層状に凝集しており、この時の銀ナノ粒子が短距離秩序によって配列していることから角度依存性のない構造色がみられると予想される。
【0021】
また、銀ナノ粒子4の表面は、例えば、1級アミノ基と3級アミノ基とを有するアルキルジアミンを主成分として含む保護分子により覆われている。ここでいう「主成分」とは、銀ナノ粒子4の表面を覆っている複数の保護分子のうち最も多い成分(分子)をいう。また、銀ナノ粒子4の平均一次粒子径(D50)は、例えば1nm以上30nm以下の範囲内である。また、上述の銀ナノ粒子4は、有機溶剤に分散可能である。なお、平均一次粒子径は、Nanotrac UPA-EX150粒度分布計(動的光散乱法、日機装社製)を用い、0.1質量%トルエン溶液にて測定した粒度分布から求めた。
【0022】
(銀ナノ粒子積層膜5の製造方法)
上述した実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜5を製造する上で必要となる銀ナノ粒子4の合成方法について、まず説明する。次に、銀ナノ粒子4を含んだ銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子含有層用組成物)3a(
図3参照)の調製等について説明する。次に、下地層2を形成するために用いる下地層用組成物2aの調製等について説明する。そして、最後に、上述した銀ナノ粒子積層膜5の製造工程を、
図3を参照しつつ説明する。
【0023】
[銀ナノ粒子4の合成]
銀ナノ粒子4を構成する銀の原料としては、含銀化合物のうちで、加熱により容易に分解して金属銀を生成する銀化合物が好ましく使用される。このような銀化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸と銀が化合したカルボン酸銀の他、塩化銀、硝酸銀、炭酸銀等がある。そして、それらの銀化合物の中でも、分解により容易に金属を生成し、かつ、銀以外の不純物を生じにくい観点からシュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、銀含有率が高いとともに、加熱によりシュウ酸イオンが二酸化炭素として分解除去される。このために、還元剤を必要とせず熱分解により金属銀がそのまま得られ、不純物が残留しにくい点で有利といえる。
【0024】
本実施形態では、上記銀化合物に所定のアルキルジアミンを加えて、銀化合物とアルキルジアミンとの錯化合物を生成させる。この錯化合物は、銀、アルキルジアミン及びシュウ酸イオンを含んでいる。なお、この錯化合物においては、銀化合物に含まれる各銀原子に対してアミンに含まれる窒素原子がその非共有電子対を介して配位結合することにより、錯化合物を生成しているものと推察される。
上記アルキルジアミンの銀原子への配位の容易さを考慮すると、アミノ基は1級であるRNH2(Rは炭化水素基)であることが好ましく、アミノ基が3級であるR3N(Rは炭化水素基)であると空間的に困難となる。このため、アルキルジアミンが1級のアミノ基(1級アミノ基)と3級のアミノ基(3級アミノ基)とを備えていれば、1級アミノ基が選択的に銀原子に配位し、3級アミノ基は分子鎖に応じて外側を向くことになる。なお、2級アミノ基は、配位可能であるが、合成上の問題で高価であることと、反応性が1級よりも落ちるため、1級アミノ基及び3級アミノ基の使用が好ましい。
【0025】
このようにして生成した、ジアミンが配位した金属銀原子は、その生成後に速やかに凝集し、相互に金属結合を生成して結合して銀ナノ粒子を形成する。この際に、各銀原子に配位したジアミンが銀ナノ粒子の表面に保護膜を形成するため、一定の銀原子が集合して銀ナノ粒子を形成した後は、当該ジアミンの保護膜によってそれ以上の銀原子が結合することが困難になると考えられる。このため、錯化合物に含まれる銀化合物の分解と銀ナノ粒子の生成を、溶媒が存在せず銀原子が極めて高密度に存在する状態で行った場合でも、典型的には、平均一次粒子径(D50)が1nm以上30nm以下の範囲内で粒子径の揃った銀ナノ粒子が安定して得られるものと考えられる。
【0026】
銀化合物とジアミンとの錯化合物の生成において、銀原子とジアミンとのモル比を1:1以上1:4以下の範囲内とすることが好ましく、1:2以上1:4以下の範囲内とすることがより好ましい。銀化合物とジアミンとの錯化合物の生成において、ジアミンの量が上記の範囲を超えて少なくなると、ジアミンが配位していない銀原子の割合が増加し、得られる銀ナノ粒子が肥大するようになる。また、銀原子の2倍量以上のジアミンが存在することにより、平均一次粒子径(D50)がほぼ30nm以下の銀ナノ粒子が安定して得られるようになることから、この程度のジアミン量により確実にすべての銀原子がジアミンにより配位可能になるものと考える。また、ジアミンが銀原子の4倍量以上になると、反応系における銀原子の密度が低下して、最終的な銀の回収歩留まりが低下するため、ジアミンの使用量は、銀原子の4倍量以下とすることが好ましい。また、銀原子とジアミンのモル比を1:1程度とする場合には、全てのアミンが銀原子に配位して錯化合物を形成して反応系を保持する分散溶媒が存在しないこととなるため、必要に応じてメタノール等の反応溶媒を混合することも好ましい。
【0027】
銀化合物とジアミンとの錯化合物を攪拌しながら加熱すると、青色光沢を呈する懸濁液が得られる。この懸濁液から過剰のジアミン等を除去することによって、本実施形態に係る保護分子で表面が被覆された銀ナノ粒子(以下、単に「銀ナノ粒子」とも称する)が得られる。銀化合物とジアミンとの錯化合物を加熱して銀ナノ粒子を得る際の条件は、使用する銀化合物やジアミンの種類に応じて、熱分解を行う際の温度、圧力、雰囲気などの条件を適宜選択できる。この際に、生成する銀ナノ粒子が、熱分解を行う雰囲気との反応により汚染されたり、銀ナノ粒子の表面を覆う保護膜が分解されたりすることを防止する観点から、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気内で銀化合物の熱分解を行うことが好ましい。一方、銀化合物としてシュウ酸銀を用いる場合には、シュウ酸イオンの分解によって発生する二酸化炭素により反応空間が保護されるため、大気中においてシュウ酸銀とジアミンとの錯化合物を加熱することでシュウ酸銀の熱分解が可能である。
【0028】
銀化合物の熱分解のために銀化合物とジアミンとの錯化合物を加熱する温度は、ジアミンの脱離を防止する観点から概ね使用するジアミンの沸点以下が好ましい。本実施形態では、一般的に80~130℃程度に加熱することで、ジアミンで形成された保護膜を有する銀ナノ粒子を得ることができる。
【0029】
上記の通り、一般に、銀に対して過剰量のアルキルアミンを必要とする他の銀ナノ粒子の合成方法に比べて、本実施形態では、銀原子:ジアミンの総量が1:1(モル比)でも銀ナノ粒子が高収率で合成できるため、アルキルジアミンの使用量を削減できる。また、シュウ酸イオンの熱分解で生じる二酸化炭素は、反応系外に容易に除去されるため、還元剤に由来する副生成物がなく、反応系から銀ナノ粒子の分離も簡単にでき、銀ナノ粒子の純度も高い。
【0030】
[銀ナノ粒子分散液3aの調製及び銀ナノ粒子含有層3の形成]
本実施形態に係る銀ナノ粒子4を分散溶媒として用いられる溶剤等に分散させる際、つまり銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子含有層用組成物)3aの調製する際には、銀ナノ粒子4が溶剤に対して3質量%以上20質量%以下の範囲内とすることが好ましい。また、銀ナノ粒子4の表面を保護する保護膜を脱離させないような条件で、保護膜を形成する際に用いた過剰のアルキルジアミン等を除去すると共に使用する溶剤で置換することで、保護膜を有する銀ナノ粒子4が分散した分散液を得ることが好ましい。
【0031】
上記保護膜を有する銀ナノ粒子4を分散させる分散媒としては、例えば、トルエン、日本テルペン化学社製のターピネオールC、ジヒドロターピネオール、テルソルブTHA-90等を挙げることができる。また、これらの溶剤のうち、数種類を混合して用いてもよい。また、これらの分散媒の中でも、特にトルエンが好ましい。上述の溶剤は、銀ナノ粒子分散液3a中に、銀ナノ粒子分散液3a全体の97質量%までの量で存在できるが、20質量%を超えるとメタリックな塗膜となり、3質量%未満では塗膜色が薄すぎる。このため、3質量%以上20質量%以下の範囲内が好ましい。なお、銀ナノ粒子分散液3aに添加した上記分散媒は、銀ナノ粒子分散液3aを基材1等に塗布し乾燥させる際に実質的に除去される。
【0032】
また、本実施形態に係る銀ナノ粒子4を大気等に晒した場合には、低温でもその保護膜が脱離して銀ナノ粒子4の凝集焼結が開始される。このため、銀ナノ粒子4をアルキルジアミン等から適宜の溶剤に置換する際には、銀ナノ粒子4が大気等に晒されない条件を選択して置換を行うことが好ましい。
なお、本実施形態において、上述した成分以外に、必要に応じて相溶性のある添加物、例えば、可塑剤、安定剤、界面活性剤、レベリング剤、カップリング剤などを、本実施形態の目的を損なわない範囲で添加することができる。
【0033】
本実施形態に係る銀ナノ粒子4を適宜の揮発性の分散溶媒に分散させた分散液、つまり銀ナノ粒子分散液3aを用いて、バーコート法、スピンコート法、インクジェット法等によって所望の基材1上に塗布し塗膜を形成して、色材や光機能性膜として適応する場合、銀のみからなる成分だけでは、膜強度や基材との密着性が弱く、触れただけで取れてしまうことがある。このため、強度や密着性を上げる成分を加える必要がある。膜特性の向上には、幾つかの手法があるが、熱重合や光重合を利用することが簡便である。このため、銀ナノ粒子分散液3aに不飽和二重結合やオキソラン環を有した化合物を添加してもよい。本実施形態に係る銀ナノ粒子4は、3級のアミノ基が保護膜の外側にある確率が高いため、添加する化合物にカルボキシ基があると均一に分散できることがわかった。熱重合では、銀の焼結も同時に起きてしまうため、光重合が好ましい。光重合の場合は、例えば、ラジカル重合やカチオン重合が一般的であり、銀ナノ粒子分散液3aに、適宜、カルボキシ基を有するモノマーや光重合開始剤を添加してもよい。
【0034】
以下、本実施形態について更に詳細に説明する。
<シュウ酸銀>
シュウ酸銀は、銀含有率が高く、通常200℃で分解する。熱分解すると、シュウ酸イオンが二酸化炭素として除去され金属塩がそのまま得られるため、還元剤を必要とせず、不純物が残留しにくい点で有利である。このため、本実施形態において銀ナノ粒子4を得るための銀の原料となる銀化合物としてはシュウ酸銀が好ましく用いられる。そこで、以下、銀化合物としてシュウ酸銀を用いた場合について、本実施形態を説明する。但し、上記のように、銀化合物と所定のジアミンとの間で生成する錯化合物において、当該ジアミンが銀原子に配位した状態であればシュウ酸銀に限定されずに用いられることは言うまでもない。
【0035】
本実施形態で用いられるシュウ酸銀として制限はなく、例えば、市販のシュウ酸銀を用いることができる。また、シュウ酸銀のシュウ酸イオンの20モル%以下を、例えば炭酸イオン、硝酸イオン及び酸化物イオンの少なくとも1種以上で置換してもよい。特に、シュウ酸イオンの20モル%以下を炭酸イオンで置換した場合、シュウ酸銀の熱的安定性を高める効果がある。置換量が20モル%を超えると上述の錯化合物が熱分解しにくくなる場合がある。特に、沸点が250℃以下のアルキルジアミンを含んだシュウ酸イオン・アルキルジアミン・銀錯化合物では、100℃以下の低い温度での熱分解で銀ナノ粒子を高効率で得ることができる。
【0036】
<アルキルジアミン>
本実施形態で用いられるアルキルジアミンは、特に、その構造に制限はない。アルキルジアミンは、シュウ酸銀と反応して、上述の錯化合物を形成するため、少なくともひとつのアミノ基が1級アミノ基、或いは2級アミノ基であることが必要であり、1級アミノ基であることが好ましい。さらに、非極性の分散溶媒との親和性を高めるため、もう一方のアミノ基は3級アミノ基であることが望ましい。アルキルジアミンとしては、例えば、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、N,N-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン等が挙げられるが、この限りではない。また、複数の異なるアルキルジアミンを同時にシュウ酸銀と反応させてもよい。
【0037】
また、本実施形態における、分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、アクリロイル基及びメタクリロイル基を有したアクリル樹脂、ウレタン樹脂等のオリゴマー、プレポリマー、モノマー等のラジカル重合性化合物等が例示できる。これらの樹脂は、例えば、熱、紫外線、電子線等のエネルギーを加えることで架橋するものである。これらの化合物を、膜強度、基材との密着性、カール量を考慮しながら適宜選択する。
【0038】
本実施形態に係る、分子内に少なくとも1個以上のカルボキシ基と1個以上の重合性不飽和二重結合を有する化合物に使用する成分として好ましいものは、以下のコハク酸等ジカルボン酸の片側をアクリルエステル、メタクリルエステルに置換したものが挙げられる。具体的には、新中村化学社、A-SA(2-アクリロイルオキシエチルコハク酸)、SA(2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸)、共栄社化学社、多塩基酸変性アクリレートであるDPE6A-MS(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸変性物)、PE3A-MS(ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸変性物)等を挙げることができるがこの限りではない。
【0039】
また、A-SA等単官能モノマーの場合は、光架橋させるために、多官能モノマーを添加してもよい。多官能モノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリートールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等を挙げることができるがこの限りではない。これら多官能モノマーは、銀ナノ粒子4が分散しにくい。しかし、トルエンのような分散媒の存在下であれば、上述のようにカルボキシ基を有するモノマーの質量に対して30%以下の添加量であれば分散性に悪影響を及ぼさない。
【0040】
本実施形態では、銀ナノ粒子4の質量(WAg)と、重合性化合物であるカルボキシ基及び重合性不飽和二重結合を有するモノマーの質量(WC)との混合質量割合(WAg/WC)は、1/70以上1/10以下の範囲内が好ましく、さらに好ましくは1/50以上1/20以下の範囲内である。銀ナノ粒子4の割合が1/10よりも多くなると、銀ナノ粒子4に由来する黄色のプラズモン共鳴吸収強度が増し、何をしても色の変化が見られない。さらに、1/30を超えると塗液(銀ナノ粒子分散液3a)の保存性が不安定になりやすく、数時間放置すると沈殿凝集物が見られることがある。一方、1/70よりも少なくなると、吸収強度が弱まり薄い色の塗膜しか得られない。
【0041】
また、本実施形態では、電離放射線により重合開始種を発生する化合物、即ち重合開始剤を含んでいてもよい。電離放射線のうち紫外線を照射することにより重合する化合物(光重合開始剤)を使用する場合、その光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α-ヒドロキシケトン、ベンジルメチルケタール、α―アミノケトン、モノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイド等を単独或いは混合して用いる。具体的には、BASF社、Irgacure 184、Irgacure 651、Irgacure 1173、Irgacure 907、Irgacure 369、Irgacure 819、Irgacure TPO、ランバルティ社、Esacure KIP-150、Esacure ONE等を挙げることができるが、この限りではない。
【0042】
光重合開始剤の使用量は、銀ナノ粒子分散液3a中の全固形分量を基準として0.5質量%以上10質量%以下の範囲内が好ましく、特に1質量%以上5質量%以下の範囲内が好ましい。この範囲より少なくとも多くても、銀ナノ粒子含有層3の硬度は低くなる傾向にある。
【0043】
本実施形態では、銀ナノ粒子4と重合性化合物とを溶剤等に分散・溶解して粘度を調製した塗液である銀ナノ粒子分散液3aを、フィルム基材やガラス基材に塗工し、紫外線照射等の電離放射線照射処理を行い硬化させて、銀ナノ粒子含有層3を形成する。この際、電離放射線照射部位は窒素パージを行うことにより表面硬化が促進される。
なお、本実施形態において、上述した成分以外に、必要に応じて相溶性のある添加物、例えば、可塑剤、安定剤、界面活性剤、レベリング剤、カップリング剤などを、本実施形態の目的を損なわない範囲で添加することができる。但し、カールを抑制するため、或いは硬度を上げるためのフィラー類は、透過率の低下や分散性に不具合を生じるため加えないことが好ましい。
【0044】
[下地層用組成物2aの調製及び下地層2の形成]
本実施形態では、(メタ)アクリル酸エステル化合物と、電離放射線により重合開始種を発生する化合物とを含む塗液組成物である下地層用組成物2aを基材1上に塗布し、下地層用組成物2aに電離放射線を照射し硬化させて、所謂下地層2を形成してもよい。なお、下地層2の形成工程の詳細については、後述する。
下地層2の形成に用いる(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、下地層2が光硬化後に適度な靭性、伸びを有し自立膜として基材1から剥離可能な層であることから、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のオリゴマー、プレポリマー、モノマー等のラジカル重合性化合物等が挙げられる。これらの樹脂は、例えば、熱、紫外線、電子線等のエネルギーを加えることで架橋するものである。これらの化合物を、膜強度、基材との密着性、カール量を考慮しながら適宜選択する。
【0045】
下地層用組成物2aは、(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、2種類のウレタン(メタ)アクリレート樹脂A(以下、単に「樹脂A」とも称する)及びウレタン(メタ)アクリレート樹脂B(以下、単に「樹脂B」とも称する)を少なくとも含む。樹脂Aは、1分子中に2つのアクリロイル基またはメタクリロイル基を含み、且つ分子量が2000以下のモノマー、オリゴマーである。また、樹脂Bは、1分子中に2つまたは3つのアクリロイル基またはメタクリロイル基を含み、且つ分子量が3000以上20000以下のオリゴマーである。なお、下地層用組成物2aにおいて、樹脂Aの質量%(WA)と樹脂Bの質量%(WB)の比(WA/WB)は、30質量%/70質量%~70質量%/30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0046】
本実施形態では、上述のように、樹脂Aとして、1分子中に2つのアクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマーを使用し、樹脂Bとして、1分子中に2つまたは3つのアクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマーを使用することが好ましい。これは、アクリロイル基またはメタクリロイル基が1つである場合には、目的とする光硬化性樹脂フィルムを形成することが困難であり、硬化不足によるタックを生じるおそれがあるからである。また、アクリロイル基またはメタクリロイル基が4つ以上である場合には、硬化収縮が大きいことによるカールが発生し、塗膜の引張伸度が著しく低下するおそれがあるからである。
【0047】
下地層用組成物2aを用いて形成した下地層2において、樹脂Aは、主に強度向上に寄与する。このため、樹脂Aと紫外線重合開始剤とを含み、樹脂Bを含まない塗液を光硬化させた光硬化物は、引張試験における最大応力が60N/mm2以上であり、且つ引張伸度が10%以下であることが好ましい。また、上記の引張特性を得るために、樹脂Aの分子量は、2000以下であることが好ましい。樹脂Aの分子量が2000より大きいと、塗液粘度が高くなり、塗工が困難となる。
【0048】
なお、樹脂Aとしては、例えば、特開2013-159691に記載の、ウレタンアクリレートC-1(新中村化学工業社)、AH-600、AT-600(共栄社化学社)などの他、UA-1280、UA-1280MK(新中村化学工業社)、紫光UV6300B、UV7620A、UV7600B(日本合成化学社)、UF-8001G(共栄社化学社)等を用いることができる。つまり、樹脂Aとしては、ウレタン(メタ)アクリレートのオリゴマーやモノマーを用いることができる。これらの中でも、特にUA-1280MKを好ましく用いることができる。
【0049】
また、樹脂Bとしては、例えば、紫光UV7000B、紫光UV3520(日本合成化学社)等を用いることができる。つまり、樹脂Bとしては、ウレタン(メタ)アクリレートのオリゴマーやモノマーを用いることができる。これらの中でも、特に紫光UV7000Bを好ましく用いることができる。
なお、下地層用組成物2aを用いて形成した下地層2に含まれる(メタ)アクリル酸エステル化合物は、PET等の基材1から容易に剥離しないために、靭性、伸度、基材密着性を必要とする。そのため、ウレタン(メタ)アクリレート以外のオリゴマーやモノマーのみを使用した場合、必要に応じて基材側の表面処理をする必要がある。
【0050】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物を硬化させるための電離放射線により重合開始種を発生する化合物、即ち重合開始としては、上述の銀ナノ粒子分散液3aと同様の光ラジカル重合開始剤を用いることが出来る。具体的には、光重合開始剤として、例えば、Esacure ONE(ランバルティ社)を用いることが出来る。
【0051】
重合開始剤の含有量は、塗液である下地層用組成物2a中の全固形分量を基準として0.5質量%以上1質量%以下の範囲内が好ましい。重合開始剤の含有量が1質量%より多いと、電離放射線照射時に窒素パージが無くても表面硬化が進み、目的とする呈色が得られにくい。また、重合開始剤の含有量が0.5質量%より少ないと、膜硬度は低くなり過ぎるおそれがある。
また、下地層用組成物2aは、溶剤をさらに含んでもよい。下地層用組成物2aに含まれる溶剤は、樹脂Aや樹脂Bとの相溶性が高いケトン系溶剤であるアセトン、またはメチルエチルケトンの中から塗工適性等を考慮して適宜選択し得る。
【0052】
[銀ナノ粒子積層膜5の製造工程]
上述した実施形態に係る各銀ナノ粒子積層膜5を製造するための各工程を、
図3を参照しつつ、説明する。
図3(a)に示すように、PETフィルム等の基材1上に上述の下地層用組成物2aを、例えば、下地層用組成物2aの厚みが4μm~60μmとなるようにバーコーターを用いて塗布する。
【0053】
次に、基材1上に塗布した下地層用組成物2aを、例えば、90℃の環境下に100秒間置いて乾燥させる。その後、下地層用組成物2aに電離放射線等を照射して、下地層用組成物2aを硬化する。本実施形態では、下地層用組成物2aを、窒素パージした環境下または大気中で硬化する。こうして、
図3(b)に示すように、本実施形態の下地層2を形成する。なお、下地層用組成物2aに照射する電離放射線としては、例えば、超高圧水銀灯、キセノン灯、UV-LED等が挙げられ、それらの中から照射波長や照射強度に応じて適宜選択される。また、電離放射線の照射エネルギーは、例えば、窒素パージした環境下で紫外光を照射する場合には230mJ/cm
2程度である。
【0054】
次に、
図3(c)に示すように、下地層2上に上述の銀ナノ粒子分散液3aを、例えば、銀ナノ粒子分散液3aの厚みが3μm~10μmとなるようにバーコーターを用いて塗布する。
次に、銀ナノ粒子分散液3aを、例えば、90℃の環境下に60秒間置いて乾燥させる。最後に、銀ナノ粒子分散液3aに電離放射線等を照射して銀ナノ粒子分散液3aを硬化させることで、銀ナノ粒子含有層3を形成する。なお、銀ナノ粒子分散液3aに照射する電離放射線としては、例えば、超高圧水銀灯、キセノン灯、UV-LED等が挙げられ、それらの中から照射波長や照射強度に応じて適宜選択される。また、電離放射線の照射エネルギーは、例えば、窒素パージした環境下で紫外光を照射する場合には230mJ/cm
2程度である。また、電離放射線照射部位は窒素パージを行うことにより表面硬化が促進される。
こうして、
図3(d)に示す銀ナノ粒子積層膜5を製造する。
【0055】
なお、本実施形態では、銀ナノ粒子分散液3a及び下地層用組成物2aを、バーコーターを用いて塗工した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、バーコーターに代えて、ロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、ディップコーター等の公知の塗工手段を用いてもよい。
【0056】
(呈色変化メカニズム)
銀ナノ粒子積層膜5が呈色する機構の詳細については明らかとなっていないが、角度依存性のない構造発色に起因していると考えられる。すなわち、本実施形態に係る銀ナノ粒子積層膜5は、銀ナノ粒子含有層3に含まれる銀ナノ粒子の少なくとも一部が表層Rs(
図2参照)に層状に凝集しているが、屈折率に短距離秩序をもった状態であると予想される。この微細構造によって散乱した光の多くは位相がずれるため、干渉して相殺されてしまうが、短距離秩序の長さの約2倍の波長の光は、あらゆる方向に強められた状態で散乱される。その結果、ここでは角度依存性のない緑色を示すと考えられる。さらに、それを際立たせるために、他の波長の影響を軽減する必要があり、黒色物質の存在がその効果を生み出すのだが、銀ナノ粒子分散液3a中に黒色物質を入れると紫外線硬化が出来なくなるため基材を黒色にすると同様の効果が得られる。
【0057】
上記黒色基材として具体的には、反射濃度で規定する場合、その反射絶対濃度が0.9以上、L*a*b*表色系において、L*<55、a*<0.35、b*>-0.60を満たす値であれば効果が発現する。この値を満たすのであれば、見た目が黒でなく、濃紺、濃緑といった色でも効果を発する。
L*a*b*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が推奨した表色系である。L*は明るさを示し、0から100まで数値が大きいほど明るくなる。
L*a*b*表色系は、L*、a*、b*の3つの軸がお互いに直交した座標系である。3つの軸が直交する点は、L*=50、a*、b*それぞれが0の値である。
【0058】
色みはa*b*で表し、a*b*ともに0の場合は無彩色となる。a*がプラスの方向になるほど赤みが強くなり、マイナスの方向になるほど緑みが強くなる。また、b*がプラスの方向になるほど黄みが強くなり、マイナスの方向になるほど青みが強くなる。
基材の材質、形状については次のようなものが利用可能である。
銀ナノ粒子積層膜を形成する面が紙、樹脂、金属、セラミックなどが挙げられる。基材は枚葉でも連続したロールでもよい。
また、基材表面が平面でなく凹凸があってもよく、メッシュ形状(基材の一部が不連続)であっても良い。
【0059】
基材がメッシュ形状の場合、銀ナノ粒子積層膜を形成する樹脂材料が硬化するまで当該材料を保持できるのであればよい。例えば目の粗いメッシュを基材に用いた場合、銀ナノ粒子積層膜を形成する樹脂材料が硬化するまで当該材料を保持する板状基材(補助基材)をメッシュ基材下に用いて、当該樹脂が硬化した後に補助基材を除いても良い。
基材表面に凹凸があるとは、基材の平滑性由来(基材自体が持っている凹凸)でもよく、エンボス加工などにより賦形したもの、基材を湾曲(変形)させたものでも良い。
本願での黒色基材とはこのようなものを包含する。
なお、紙基材やメッシュ基材のように銀ナノ粒子分散液3aを吸収する、または保持しにくい基材を用いる場合は、本実施形態(
図1参照)のように下地層2を備えることが好ましい。下地層2を有することで銀ナノ粒子含有層3を所望の厚さに形成しやすくなる。
【0060】
また、基材が樹脂、金属のように銀ナノ粒子分散液3aを吸収せず、当該分散液を保持できる場合は、後述の他の実施形態(
図7参照)のように下地層2を備えない形態でも、下地層2を備えた場合と同様の効果を得ることができる。
また、セラミックは表面状態で銀ナノ粒子分散液3aの吸収し易さが変わるため、このような材料を基材として用いる場合は、表面状態に応じて下地層2の有無を設定することが好ましい。
上記に関わらず、下地層2が不要な基材の目安としては、銀ナノ粒子が基材内に埋まってしまうと予想される、基材表面の細孔サイズが10nm程度以下であることが好ましいと考えられる。
【0061】
以上のように、従来の問題点を鑑みて、鋭意研究した結果、膜強度や密着性を上げるために加える成分が銀ナノ粒子4の分散に悪影響を及ぼして凝集してしまうが、銀の原料となる銀化合物を分解して銀ナノ粒子4を製造する際に、1級アミンと3級アミンを有するアルキルジアミンを介在させて用い、さらに、膜強度や密着性を上げるために加える成分中にカルボキシ基を有する重合性化合物を用いると、分散性を維持したまま膜強度や密着性を向上させることの可能な塗液組成物を作製できる。より詳しくは、銀の原料となる銀化合物として、例えば、シュウ酸銀を用いると共に、N,N-ジアルキルアミノアルキルアミンを介在させることによって、シュウ酸銀に含まれる銀原子にそのジアミンの1級アミノ基部分が配位した錯化合物が形成される。そして、この状態でシュウ酸銀を構成するシュウ酸イオンの部分を熱分解することにより、銀ナノ粒子4を高収率で調製することができる。また。銀ナノ粒子4は、錯形成しない3級アミノ基が粒子の最外面を向くため、カルボキシ基を有する例えばアクリレート化合物、メタクリレート化合物とイオン結合により引き寄せあうことで分散系を崩すことなく分散塗液として調製することができる。さらに得られた塗液は、有機溶剤等で容易に希釈可能であり、さらに、光重合開始剤等も添加可能である。この分散塗液を用いてプラスチック基材上で作製した銀ナノ粒子4の塗布膜を高圧水銀灯等でUV照射すると、膜強度が高く基材密着性の強い硬化膜を得ることができる。
【0062】
以下に、実施例として、銀ナノ粒子4の製造方法及び溶媒への分散性、塗膜形成用塗液の調液、塗膜の物性などの評価を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
〔シュウ酸銀の合成〕
シュウ酸二水和物(関東化学社)9.92gに蒸留水60mLを加え加温しながら溶解させ、110℃のオイルバス中で攪拌しながら、硝酸銀(関東化学社)26.7gに20mLの蒸留水を加え加温しながら溶解させたものを加え、1時間加熱攪拌を続けた。析出したシュウ酸銀を自然ろ過で回収し、さらに熱水200mL、メタノール(関東化学社)50mLでろ過洗浄した後、遮光デシケーター内で減圧しながら室温乾燥した。こうして得たシュウ酸銀の収量は、21.6g(収率90.4%)であった。
【0064】
〔銀ナノ粒子4の合成〕
N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成社)3.26gにオレイン酸0.13gを加えたところに、上述の工程で得たシュウ酸銀1.90gを加え、110℃のオイルバスで加熱攪拌した。1分以内で二酸化炭素の発泡が起こり、数分後に褐色の懸濁液に変化した。5分間加熱後、冷却したところにメタノール30mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を自然乾燥すると青色固形物1.48g(銀基準収率97.0)を得た。
【0065】
得られた銀ナノ粒子4を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社、SEM S-4800)を用いてS-TEMモード(加速電圧30kV)で観察したところ、粒子径が5~20nm程度の球状粒子が観察された。その結果を
図4に示す。より詳しくは、
図4は、実施例1で得た銀ナノ粒子4のトルエン溶媒分散液を基板(銅メッシュ・マイクログリッド)に垂らし乾燥させた後に観察した銀ナノ粒子4の走査型電子顕微鏡像である。
【0066】
次に、得られた銀ナノ粒子4の溶媒への分散性を評価した。その結果、トルエン、ターピネオールC(日本テルペン化学社)、ジヒドロターピネオール(日本テルペン化学社)、及び、これらを主剤としたヘキサン等との混合溶媒に良好に分散した。そのトルエン分散溶液の動的光散乱粒度測定(日機装社、Nanotrac UPA-EX150)により、得られた銀ナノ粒子4は平均粒子径15nmで良好に分散していることがわかった。その結果を
図5に示す。また、
図5に示した実線は、累積度数(%)を示している。
【0067】
〔銀ナノ粒子分散液3aの調製〕
上述の工程で得た青色固形物0.10gをトルエン(関東化学社)2.0gに分散させたところに、メタクリロイルオキシエチルコハク酸(SA、新中村化学社)5.0gを添加しよく攪拌したものに、光重合開始剤EsacureONE(ランバルティ社)を0.25g添加し溶解させたものを塗液、即ち銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子含有層用組成物)3aとした。
【0068】
〔下地層用組成物2aの調製〕
ウレタンアクリレート化合物(UA-1280MK(新中村化学社製):UV7000B(日本合成化学社製)=25.40g:8.63g)の混合物にMEK12.96g、光重合開始剤EsacureONE(ランバルティ社)0.34gを加え溶解したものを基材用塗液、即ち下地層用組成物2aとした。
【0069】
上記工程で得た基材用塗液を、#3ワイヤーバーを用い、125μm厚の黒PET(東レルミラーX30)に塗布後、90℃1分間オーブンにて溶剤を揮発させた。これをパージボックスに入れ窒素ガスを封入せずに、UVコンベアー(ヘレウス社、CV-110Q-G型、光源:ライトハンマー10 MerkII、Hバルブ、以下、単に「UV照射」とも称する)にて240mJ/cm2で露光、硬化させた。黒PETの色彩測定は、X-Rite社530JP色差濃度計で測定した(表1)。また、これらの基材の反射絶対濃度は0.9以上であった。反射絶対濃度はX-Riteで測定した。
【0070】
【0071】
上記工程で得た銀ナノ粒子4を含む塗液を、#10のワイヤーバーを用い、上記工程で硬化させた基材用塗液硬化膜である下地層2上に塗布後、90℃1分間オーブンにて溶剤を揮発させた。これをパージボックスに入れ窒素ガスを封入してから、UVコンベアーにて240mJ/cm
2で露光、硬化させた。こうして得た硬化膜はどの角度から見ても緑色に呈色してみえた。なお、本実施例及び後述する実施例に係る銀ナノ粒子積層膜5の反射スペクトル(島津製作所社製紫外可視分光光度計 UV-2600、反射モード)から求めた極大反射波長は505nmであり、反射スペクトルを
図6に示す。さらに、日立ハイテクノロジー社製 分光光度計 U-4100、角度可変絶対反射測定モード)を用いて、10°、20°、30°、40°、50°、60°入射での反射スペクトルを測定した結果、何れの角度においても極大反射波長は504nm±1nmであり角度依存性のない反射光であることがわかった(表2)。
【0072】
【0073】
[実施例2]
実施例1のウレタンアクリレート化合物(UA-1280MK(新中村化学社製):UV7000B(日本合成化学社製)=25.40g:8.63g)の混合物にMEK12.96gを加えた代わりに、UF-8001G(共栄社化学製):UV7000B(日本合成化学社製)=20.14g:8.63gの混合物にMEK18.22gを加える以外は実施例1と同様に操作し銀ナノ粒子積層膜5を得た。こうして得た硬化膜はどの角度から見ても緑色に呈色してみえた。極大反射波長は505nmであった。
【0074】
[実施例3]
実施例1で得られた青色固形物0.1gをトルエン2.0gに分散させたところに、メタクリロイルオキシエチルコハク酸(SA、新中村化学社)3.0gとメタクリロイルオキシエチルフタル酸多塩基酸変性アクリレートであるジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸変性物(DPE6A-MS、共栄社化学社)2.0gを添加し塗液とした以外は実施例1と同様に操作し銀ナノ粒子積層膜5を得た。こうして得た硬化膜はどの角度から見ても緑色に呈色し、極大反射波長は504nmであった。
【0075】
[実施例4]
実施例1の基材用塗液中の光重合開始剤EsacureONE(ランバルティ社)0.34gの代わりにイルガキュアー184(BASF社製)1.70gを添加した塗液とした以外は実施例1と同様に操作し銀ナノ粒子積層膜5を得た。こうして得た硬化膜は緑色に呈色し、極大反射波長は505nmであった。
【0076】
[実施例5]
実施例1の黒PET基材の代わりに、黒メッシュ(T-NO 420T B-LH BLACK、NBC社製、L*a*b*は表1)を用いた以外は実施例1と同様に操作し銀ナノ粒子積層膜5を得た。こうして得た硬化膜はどの角度から見ても緑色に呈色し、極大反射波長は504nmであった。
【0077】
[実施例6]
実施例1のウレタンアクリレート化合物(UA-1280MK(新中村化学社製):UV7000B(日本合成化学社製)=25.40g:8.63g)の混合物にMEK12.96gを加えた代わりに、トリメチロールプロパントリアクリレート(ライトアクリレートTMP-A、共栄社化学製):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ライトアクリレートTMP-A、共栄社化学製DPE-6A)=20.14g:8.63gの混合物にMEK18.22gを加える以外は実施例1と同様に操作し銀ナノ粒子積層膜5を得た。こうして得た硬化膜はどの角度から見ても緑色に呈色してみえた。極大反射波長は506nmであった。
【0078】
[実施例7]
実施例1の黒PET基材の代わりに、黒上質紙(A4版、90μm厚、HEIKOブランド、L*a*b*は表1)を用いた以外は実施例1と同様に操作し銀ナノ粒子積層膜5を得た。こうして得た硬化膜はどの角度から見ても緑色に呈色し、極大反射波長は504nmであった。
以上に示すように、実施例1~7で得られた各銀ナノ粒子積層膜5を黒色の基材上に設ければ、角度依存性のない明るい、構造色由来の緑色に呈色したフィルム、紙、メッシュ樹脂・金属を基材とした積層体を得ることができる。
【0079】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、黒色の基材1と銀ナノ粒子含有層3との間に下地層2を設けた銀ナノ粒子積層膜5に本発明を適用した場合について説明した。しかしながら、本発明はこの銀ナノ粒子積層膜5に限定されるものではなく、
図7に示すように、下地層2を設けず、黒色の基材1上に、直接、銀ナノ粒子含有層3を設けた銀ナノ粒子積層膜5Aにも本発明を適用することが可能である。この銀ナノ粒子積層膜5Aにおいても、上述の銀ナノ粒子積層膜5と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明における銀ナノ粒子を含む積層膜は、構造色由来と考えられる光学特性を有する機能膜を作製可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 …基材
2 …下地層
2a…下地層用組成物
3 …銀ナノ粒子含有層
3a…銀ナノ粒子分散液
4 …銀ナノ粒子
5,5A …銀ナノ粒子積層膜