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特許7147331リチウムイオン電池電極用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、並びにリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220928BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220928BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220928BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220928BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 C
H01M4/66 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018141760
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2020017504
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 真仁
(72)【発明者】
【氏名】笹川 巨樹
(72)【発明者】
【氏名】池谷 克彦
(72)【発明者】
【氏名】合田 英生
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-106488(JP,A)
【文献】特開2018-006334(JP,A)
【文献】特開2016-024934(JP,A)
【文献】特開2016-171074(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~90モル%並びに
不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、及びこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体(a)由来の構成単位を10モル%以上含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)、
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~80モル%及び
N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位を20~70モル%含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)、
10質量%水溶液に調整したときのpHが3以上8未満の電極活物質(B-1)及び
10質量%水溶液に調整したときのpHが8以上の電極活物質(B-2)を含む2種類以上の電極活物質、
並びに水を含む、リチウムイオン電池電極用スラリー。
【請求項2】
前記N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)が、下記一般式
【化1】
[式中、RB1は水素又はメチル基であり、RB2及びRB3はそれぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であるか、或いはRB2及びRB3が一緒になって環構造を形成する基であり、RB4及びRB5はそれぞれ独立して、水素、置換もしくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、-NRBaBb(RBa及びRBbはそれぞれ独立して水素又は置換もしくは非置換のアルキル基である)、アセチル基、スルホン酸基である。]で表される、請求項1に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
【請求項3】
前記電極活物質(B-1)及び(B-2)100質量%に対し、前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を1~15質量%含む、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
【請求項4】
前記電極活物質(B-1)及び/又は(B-2)が炭素層で覆われたシリコン又はシリコンオキサイドを5質量%以上含む、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
【請求項5】
前記電極活物質(B-1)及び/又は(B-2)が炭素層で覆われたシリコン又はシリコンオキサイドを5質量%以上含む、請求項に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
【請求項6】
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~90モル%並びに
不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、及びこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体(a)由来の構成単位を10モル%以上含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)並びに
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~80モル%及び
N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位を20~70モル%含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)を含む水溶液に
10質量%水溶液に調整したときのpHが3以上8未満の電極活物質(B-1)及び
10質量%水溶液に調整したときのpHが8以上の電極活物質(B-2)を含む2種類以上の電極活物質を分散させる工程を含む、リチウムイオン電池電極用スラリーの製造方法。
【請求項7】
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~90モル%並びに
不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、及びこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体(a)由来の構成単位を10モル%以上含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)、
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~80モル%及び
N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位を20~70モル%含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)、
10質量%水溶液に調整したときのpHが3以上8未満の電極活物質(B-1)及び
10質量%水溶液に調整したときのpHが8以上の電極活物質(B-2)を含む2種類以上の電極活物質並びに水を含む、リチウムイオン電池電極用スラリーを集電体に塗布し乾燥させることにより得られる、リチウムイオン電池用電極。
【請求項8】
前記集電体が銅箔である、請求項7に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池電極用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン電池の更なる高性能化を目的として、電極等の電池部材の改良が検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極及び負極はいずれも、電極活物質とバインダー樹脂とを溶媒に分散させてスラリーとしたものを集電体(例えば金属箔)上に両面塗布し、溶媒を乾燥除去して電極層を形成した後、これをロールプレス機等で圧縮成形して作製されている。
【0004】
近年、リチウムイオン電池用電極において、電池容量を高める観点から、様々な電極活物質が提案されている。このような背景を基に、バインダーに要求される特性としては、活物質粒子のスラリー分散性、活物質粒子同士の結着性、活物質粒子を含む電極活物質層と集電体との密着性、これらの層を備える電極を巻き取る工程における電極柔軟性、作製した電池のサイクル特性等がある。
【0005】
そこで斯界では、上記要求性能を満たすバインダー樹脂の開発検討がなされており、例えば、特許文献1では、共役ジエン化合物(SBR)、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を併用する水系バインダーが提案されている。一方、特許文献2では、特定構造のポリアクリルアミドを使用する技術が開示されている。また、特許文献3では、カチオン性単量体を含むポリアクリルアミドを使用する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-210318号公報
【文献】特開2014-222601号公報
【文献】特許第6233577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示した技術では、水分散体SBRと水溶性高分子CMCを併用する電極用バインダーを提案しているが、黒鉛とケイ素系活物質を併用した場合においてサイクル特性には改善の余地があった。
【0008】
また、特許文献2に開示した技術では、特定構造のポリアクリルアミドを電極用バインダーとして提案しており、黒鉛を使用した場合のスラリー分散性や電極密着性に関する記述はあるものの、黒鉛とケイ素系活物質を併用した場合の記述は殆どない。
【0009】
特許文献3に開示した技術では、少なくとも1種のカチオン性単量体を含むポリアクリルアミドを電極用バインダーとして提案しており、黒鉛を使用した場合、電極密着性に優れた電極が得られ、充放電レート耐性が良好であるとの記述がある。しかしながら、負極用活物質として、黒鉛とケイ素系活物質を併用した場合の記述は殆どない。
【0010】
黒鉛とケイ素系活物質を併用する、すなわちpHが異なる活物質を併用した場合において、以下の問題が挙げられる。一般的に黒鉛の活物質表面は酸性を示すために、アニオン性バインダーを使用するとスラリー分散性が良好となる。一方で、ケイ素系活物質に代表されるようなアルカリ性を示す活物質の場合には、カチオン性バインダーを使用するとスラリー分散性が良好となる。このような二種の活物質を併用した場合、アニオン性バインダーとカチオン性バインダーを併用する、あるいはアニオン性基とカチオン性基を同一分子内に有するバインダーを使用することで解決できると容易に類推できる。しかしながら、アニオン性バインダーとカチオン性バインダーを混合した場合、イオンコンプレックスを形成し、混合溶液が増粘し固化する、あるいはバインダーポリマーが沈殿するなどの現象が起こり問題が生じる。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、2種類以上の活物質を併用した場合においても、スラリー分散性、電極表面状態、電極密着性、電極柔軟性、容量維持率、レート耐性が良好なリチウムイオン電池に製造できるリチウムイオン電池電極用スラリーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の成分を含む、リチウムイオン電池電極用スラリーを用いることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~90モル%並びに
不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、及びこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体(a)由来の構成単位を10モル%以上含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)、
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~80モル%及び
N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位を20~70モル%含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)、
10質量%水溶液に調整したときのpHが3以上8未満の電極活物質(B-1)及び
10質量%水溶液に調整したときのpHが8以上の電極活物質(B-2)を含む2種類以上の電極活物質、
並びに水を含む、リチウムイオン電池電極用スラリー。
(項目2)
前記N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)が、下記一般式
【化2】
[式中、RB1は水素又はメチル基であり、RB2及びRB3はそれぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であるか、或いはRB2及びRB3が一緒になって環構造を形成する基であり、RB4及びRB5はそれぞれ独立して、水素、置換もしくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、-NRBaBb(RBa及びRBbはそれぞれ独立して水素又は置換もしくは非置換のアルキル基である)、アセチル基、スルホン酸基である。]で表される、上記項目に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
(項目3)
前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を含む水溶液を乾燥し、作成したフィルムのHAZEが4%以上である、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
(項目4)
前記電極活物質(B-1)及び(B-2)100質量%に対し、前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を1~15質量%含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
(項目5)
前記電極活物質(B-1)及び/又は(B-2)が炭素層で覆われたシリコン又はシリコンオキサイドを5質量%以上含む、上記項目に記載のリチウムイオン電池電極用スラリー。
(項目6)
前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を含む水溶液に前記電極活物質(B-1)及び(B-2)を分散させる工程を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池電極用スラリーの製造方法。
(項目7)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池電極用スラリーを集電体に塗布し乾燥させることにより得られる、リチウムイオン電池用電極。
(項目8)
前記集電体が銅箔である、上記項目に記載のリチウムイオン電池用電極。
(項目9)
上記項目に記載のリチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池。
【0014】
本開示において、上述した1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン電池電極用スラリーを用いることにより、2種類以上の活物質を併用した場合においても、スラリー分散性、電極表面状態、電極密着性、電極柔軟性、容量維持率、レート耐性が良好なリチウムイオン電池に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値αについて、数値αの上限がA1、A2、A3等が例示され、数値αの下限がB1、B2、B3等が例示される場合、数値αの範囲は、A1以下、A2以下、A3以下、B1以上、B2以上、B3以上、A1~B1、A1~B2、A1~B3、A2~B1、A2~B2、A2~B3、A3~B1、A3~B2、A3~B3等が例示される。
【0017】
[1.リチウムイオン電池電極用スラリー:スラリーともいう]
本開示は、全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~90モル%並びに
不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、及びこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体(a)由来の構成単位を10モル%以上含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)、
全構成単位100モル%に対し、
(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を30~80モル%及び
N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位を20~70モル%含む
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)、
10質量%水溶液に調整したときのpHが3以上8未満の電極活物質(B-1)及び
10質量%水溶液に調整したときのpHが8以上の電極活物質(B-2)を含む2種類以上の電極活物質、
並びに水を含む、リチウムイオン電池電極用スラリーを提供する。
【0018】
本開示において「スラリー」は、液体と固体粒子の懸濁液を意味する。
【0019】
本開示において、「水溶性」は、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満(2.5mg未満)であることを意味する。
【0020】
<水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド>
本開示において「ポリ(メタ)アクリルアミド」は、(メタ)アクリルアミド基含有化合物を含むモノマー群を重合させて得られる(共)重合物((コ)ポリマー)を意味する。上記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)は(A-1)成分ともいう。同様に上記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)は(A-2)成分ともいう。なお、上記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び上記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)はまとめて(A)成分ということもある。
【0021】
本発明の水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)と水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)は、機能を分離して発揮し得る。例えば、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)は、機械的強度、耐熱性、高凝集性、電極活物質(B-1)のスラリー分散性等を向上させ得る。一方、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)は水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)の凝集力の結果として生じる応力を緩和し、柔軟性、高密着性、電極活物質(B-2)のスラリー分散性を向上させ得る。
【0022】
前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)の機能を効率的に作用させるには、(A-1)及び(A-2)の親和性を低くすることが好ましい。例えば、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)に親水性が高い官能基で構成される親水性ユニット、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)には(A-1)に相溶化しない疎水性が高い官能基で構成される疎水性ユニットである場合が好ましい。
【0023】
本開示において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及びメタクリロイルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。
【0024】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量の上限は、90、85、80、70、60、50、40、35モル%等が例示され、下限は、85、80、70、60、50、40、35、30モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量は、30~90モル%が好ましい。
【0025】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量の上限は、90、85、80、70、60、50、40、35質量%等が例示され、下限は、85、80、70、60、50、40、35、30質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量は、30~90質量%が好ましい。
【0026】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量の上限は、80、75、70、60、50、40、35モル%等が例示され、下限は、75、70、60、50、40、35、30モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量は、30~80モル%が好ましい。
【0027】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量の上限は、75、70、60、50、40、30、25質量%等が例示され、下限は、70、60、50、40、30、25、20質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する(メタ)アクリルアミド由来の構成単位の含有量は、20~75質量%が好ましい。
【0028】
(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位が(A-1)成分及び(A-2)成分に特定の量含まれることにより、電極活物質の分散性が良好となり、均一な層(電極活物質層等)の製造が可能となるため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す。さらに(メタ)アクリルアミド基含有化合物に由来する構成単位が(A-1)成分及び(A-2)成分に特定の量含まれることにより、耐電解液性が良好となる。また、ポリマーの耐酸化性、耐還元性が良好となるため、高電圧時の劣化が抑制され良好な充放電耐久特性を示す。
【0029】
(不飽和カルボン酸、及び不飽和スルホン酸、並びにこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体(a):(a)成分ともいう)
【0030】
不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が例示される。
【0031】
不飽和スルホン酸は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のα,β-エチレン性不飽和スルホン酸;(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-スルホプロパン(メタ)アクリル酸エステル、ビス-(3-スルホプロピル)イタコン酸エステル等が例示される。
【0032】
上記不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸の塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が例示される。
【0033】
アルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が例示される。
【0034】
アルカリ土類金属塩は、マグネシウム塩、カルシウム塩等が例示される。
【0035】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する(a)成分由来構成単位の含有量の上限は、70、65、60、50、40、35、30、25、20、15モル%等が例示され、下限は、65、60、50、40、35、30、25、20、15、10モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する(a)成分由来構成単位の含有量は、10モル%以上が好ましく、10~70モル%がより好ましい。
【0036】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する(a)成分由来構成単位の含有量の上限は、70、65、60、50、40、30、20、15質量%等が例示され、下限は、65、60、50、40、30、20、15、10質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する(a)成分由来構成単位の含有量は、10~70質量%が好ましい。
【0037】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する(a)成分由来構成単位の含有量の上限は、40、35、30、20、10、5モル%等が例示され、下限は、35、30、20、10、5、0モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する(a)成分由来構成単位の含有量は、0~40モル%が好ましい。
【0038】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する(a)成分由来構成単位の含有量の上限は、40、35、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、35、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する(a)成分由来構成単位の含有量は、0~40質量%が好ましい。
【0039】
(N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b))
上記N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)は下記構造式
【化3】
(式中、RB1は水素又はメチル基であり、RB2及びRB3はそれぞれ独立して、置換若しくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であるか、或いはRB2及びRB3が一緒になって環構造を形成する基であり、RB4及びRB5はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、-NRBaBb(RBa及びRBbはそれぞれ独立して水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)、アセチル基、スルホン酸基である。置換アルキル基の置換基はヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、スルホン酸基等が例示される。また、RB2及びRB3が一緒になって環構造を形成する基は、モルホリル基等が例示される。)
により表現される化合物等が例示される。
【0040】
アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基等が例示される。
【0041】
直鎖アルキル基は、-C2n+1(nは1以上の整数)の一般式で表される。直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカメチル基等が例示される。
【0042】
分岐アルキル基は、直鎖アルキル基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキル基は、ジエチルペンチル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基等が例示される。
【0043】
シクロアルキル基は、単環シクロアルキル基、架橋環シクロアルキル基、縮合環シクロアルキル基等が例示される。
【0044】
本開示において、単環は、炭素の共有結合により形成された内部に橋かけ構造を有しない環状構造を意味する。また、縮合環は、2つ以上の単環が2個の原子を共有している(すなわち、それぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)している)環状構造を意味する。架橋環は、2つ以上の単環が3個以上の原子を共有している環状構造を意味する。
【0045】
単環シクロアルキル基は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロデシル基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0046】
架橋環シクロアルキル基は、トリシクロデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が例示される。
【0047】
縮合環シクロアルキル基は、ビシクロデシル基等が例示される。
【0048】
上記N,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)は、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリン等が例示される。
【0049】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量の上限は、70、60、50、40、30、25モル%等が例示され、下限は、60、50、40、30、25、20モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の全構成単位100モル%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量は、70モル%以下が好ましく、20~70モル%がより好ましい。
【0050】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量の上限は、80、70、60、50、40、30、25質量%等が例示され、下限は、70、60、50、40、30、25、20質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の全構成単位100質量%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量は、20~80質量%が好ましい。
【0051】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量の上限は、15、13、10、9、7、5、3、1モル%等が例示され、下限は、13、10、9、7、5、3、1、0モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100モル%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量は、0~15モル%が好ましい。
【0052】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量は、20、15、10、5、3、1質量%等が例示され、下限は、15、10、5、3、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100質量%に対するN,N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来構成単位の含有量は、0~20質量%が好ましい。
【0053】
((a)成分でも(b)成分でもない単量体:(c)成分ともいう)
上記単量体群には、(a)成分でも(b)成分でもない単量体((c)成分)を本発明の所望の効果を損ねない限り使用できる。(c)成分は、各種公知のものを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0054】
(c)成分は、N-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物、不飽和リン酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物等が例示される。
【0055】
(N-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物)
本開示において「N-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物」は、(メタ)アクリルアミド基の窒素上の水素1個が水素以外の基により置換された化合物を意味する。N-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0056】
N-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、下記構造式
【化4】
[式中、RA1は水素又はメチル基であり、RA2とRA3は一方が水素であり、もう一方は、置換若しくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であり、RA4及びRA5はそれぞれ独立して、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、-NRAaAb(RAa及びRAbはそれぞれ独立して水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)、アセチル基、スルホン酸基等が例示される。]
により表わされる化合物等が例示される。
【0057】
N-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が例示される。
【0058】
1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100モル%に対するN-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物由来構成単位の含有量は、50モル%未満(例えば40、30、20、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0059】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対するN-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0060】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対するN-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物由来構成単位の含有量の上限は、60、55、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、55、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の全構成単位100質量%に対するN-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物由来構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0061】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対するN-一置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0062】
不飽和リン酸は、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸及びこれらの塩等が例示される。
【0063】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する不飽和リン酸由来構成単位の含有量は、不飽和リン酸以外の上記(c)成分と不飽和リン酸との反応を考慮すると、40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0064】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する不飽和リン酸由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0065】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する不飽和リン酸由来構成単位の含有量の上限は、60、50、40、30、20、10、5、1質量%等が例示され、下限は、50、40、30、20、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0066】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する不飽和リン酸由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0067】
不飽和カルボン酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、直鎖(メタ)アクリル酸エステル、分岐(メタ)アクリル酸エステル、脂環(メタ)アクリル酸エステル、置換(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0068】
直鎖(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が例示される。
【0069】
分岐(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が例示される。
【0070】
脂環(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が例示される。
【0071】
置換(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等が例示される。
【0072】
不飽和カルボン酸エステルは、電極に柔軟性を与える目的で好適に使用できる。上記観点から、(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する不飽和カルボン酸エステル由来構成単位の含有量は、40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0073】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する不飽和カルボン酸エステル由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0074】
また、(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸エステル由来構成単位の含有量は、90質量%以下(例えば80、70、60、50、40、30、20、19、15、10、5、1質量%未満、0質量%)が好ましい。
【0075】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸エステル由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0076】
α,β-不飽和ニトリルは、電極に柔軟性を与える目的で好適に使用できる。α,β-不飽和ニトリルは、(メタ)アクリロニトリル、α-クロル(メタ)アクリロニトリル、α-エチル(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が例示される。これらのうち、(メタ)アクリロニトリルが好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0077】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対するα,β-不飽和ニトリル由来構成単位の含有量は、40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。上記含有量であることで、(A-1)成分の水への溶解性を保ちつつ、上記スラリーの層(コーティング層)が均一となり、柔軟性を発揮させやすくなる。
【0078】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対するα,β-不飽和ニトリル由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0079】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対するα,β-不飽和ニトリル由来構成単位の含有量の上限は、60、50、40、30、20、10、5、1質量%等が例示され、下限は、50、40、30、20、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0080】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対するα,β-不飽和ニトリル由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0081】
共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン、置換及び側鎖共役ヘキサジエン等が例示される。
【0082】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する共役ジエン由来構成単位の含有量は、リチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0083】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する共役ジエン由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0084】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する共役ジエン由来構成単位の含有量の上限は、30、20、10、5、1質量%等が例示され、下限は、20、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0085】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する共役ジエン由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0086】
また、芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が例示される。
【0087】
(A-1)成分の全構成単位100モル%に対する芳香族ビニル化合物由来構成単位の含有量は、リチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0088】
(A-2)成分の全構成単位100モル%に対する芳香族ビニル化合物由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0089】
(A-1)成分の全構成単位100質量%に対する芳香族ビニル化合物由来構成単位の含有量の上限は、30、20、10、5、1質量%等が例示され、下限は、20、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0090】
(A-2)成分の全構成単位100質量%に対する芳香族ビニル化合物由来構成単位の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0091】
上記不飽和リン酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物以外の(c)成分に由来する構成単位の割合は、(A-1)成分の全構成単位100モル%に対して、10モル%未満、5モル%未満、2モル%未満、1モル%未満、0.1モル%未満、0.01モル%未満、0モル%等が例示され、(A-1)成分の全構成単位100質量%に対して、10質量%未満、5質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0092】
上記不飽和リン酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物以外の(c)成分に由来する構成単位の割合は、(A-2)成分の全構成単位100モル%に対して、10モル%未満、5モル%未満、2モル%未満、1モル%未満、0.1モル%未満、0.01モル%未満、0モル%等が例示され、(A-2)成分の全構成単位100質量%に対して、10質量%未満、5質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0093】
上記スラリー100質量%に対する(A-1)成分の含有量の上限は、40、30、20、10、6質量%等が例示され、下限は、30、20、10、5質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記スラリー100質量%に対する(A-1)成分の含有量は、5~40質量%が好ましい。
【0094】
上記スラリー100質量%に対する(A-2)成分の含有量は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0095】
上記スラリーに含まれる(A-1)成分の質量と(A-2)成分の質量との質量比[(A-1)成分の質量/(A-2)成分の質量]の上限は、99、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、1、0.9、0.5、0.1、0.02等が例示され、下限は、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、1、0.9、0.5、0.1、0.02、0.01等が例示される。1つの実施形態において、上記スラリーに含まれる(A-1)成分の質量と(A-2)成分の質量との質量比[(A-1)成分の質量/(A-2)成分の質量]は、0.01~99が好ましい。
【0096】
<(A)成分の製造方法>
(A)成分は、各種公知の重合法、好ましくはラジカル重合法で合成され得る。具体的には、前記成分を含む単量体混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃で重合反応を行うことが好ましい。反応時間は特に限定されず、1~10時間が好ましい。
【0097】
ラジカル重合開始剤は、各種公知のものが特に制限なく使用される。ラジカル重合開始剤は、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;上記過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤;2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩等のアゾ系開始剤等が例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、(A)成分を与える単量体群100質量%に対し0.05~5.00質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がより好ましい。
【0098】
ラジカル重合反応前及び/又は得られた(A)成分を水溶化する際等に、製造安定性を向上させる目的で、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤で反応溶液のpH調整を行ってもよい。その場合、pHは2~11が好ましい。また、同様の目的で、金属イオン封止剤であるEDTA又はその塩等を使用することも可能である。
【0099】
(A)成分が酸基を有する場合には、用途に応じて適宜中和率を調整して使用され得る。ここで、中和率100%は(A)成分に含まれる酸成分と同モル数のアルカリにより中和することを示す。また中和率50%は(A)成分に含まれる酸成分に対して半分のモル数のアルカリにより中和されたことを示す。中和率は特に限定されないが、コーティング層等の形成後には中和率70~120%が好ましく、中和率80~120%がより好ましい。上記コーティング層製造後の中和率を上記範囲とすることで、酸の大半が中和された状態となり、電池内でLiイオン等と結合して、容量低下を起こすことがなくなるため好ましい。中和塩は、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩等が例示される。
【0100】
<(A)成分の物性>
(A-1)成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)の上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、25万、20万、15万、10万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、25万、20万、15万、10万、5万等が例示される。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用スラリーの分散安定性の観点から(A-1)成分の重量平均分子量(Mw)は5万~600万が好ましく、5万~300万がより好ましい。
【0101】
(A-2)成分の重量平均分子量(Mw)は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0102】
(A-1)成分の数平均分子量(Mn)の上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、20万、10万、5万、1万等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の数平均分子量(Mn)は、1万以上が好ましい。
【0103】
(A-2)成分の数平均分子量(Mn)は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0104】
重量平均分子量及び数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により適切な溶媒下で測定したポリアクリル酸換算値として求められ得る。
【0105】
(A-1)成分のB型粘度は特に限定されないが、その上限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000mPa・s等が例示され、下限は、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000mPa・s等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分のB型粘度の範囲は1000~10万mPa・sが好ましい。
【0106】
(A-2)成分のB型粘度は、(A-1)成分の値と同じもの等が例示される。
【0107】
B型粘度は東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」等のB型粘度計により測定される。
【0108】
(A-1)成分の水溶液濃度8質量%のときの表面張力の上限は、74、73、72、71等が例示され、下限は、73、72、71、70等が例示される。1つの実施形態において、(A-1)成分の水溶液濃度8質量%のときの表面張力は、70.0~74.0が好ましい。
【0109】
(A-2)成分の水溶液濃度8質量%のときの表面張力の上限は、69.9、69、67、65、63、60、59、57、56等が例示され、下限は、69、67、65、63、60、59、57、56、55等が例示される。1つの実施形態において、(A-2)成分の水溶液濃度8質量%のときの表面張力は、55.0~69.9が好ましい。
【0110】
各バインダー水溶液(8質量%に調整)の表面張力は、自動表面張力計(協和界面科学株式会社製 型式「CBVP-A3型」)を用い、25℃にて測定した。
洗浄し乾燥させたプレートをフックに下げ、バインダー水溶液をシャーレに入れ、AUTO条件にて測定した。プレートと液面が触れた時点でのデジタル表示を直読し、その値を表面張力とした。
【0111】
水は、超純水、純水、蒸留水、イオン交換水、及び水道水等が例示される。
【0112】
上記スラリー100質量%に対する水の含有量の上限は、95、90、80、70、65質量%等が例示され、下限は、90、80、70、65、60質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記スラリー100質量%に対する水の含有量は、60~95質量%が好ましい。
【0113】
<電極活物質(B)>
上記電極活物質(B-1)は(B-1)成分ともいう。同様に上記電極活物質(B-2)は(B-2)成分ともいう。なお、上記電極活物質(B-1)及び上記電極活物質(B-2)はまとめて(B)成分ということもある。電極活物質は、負極活物質、正極活物質が例示される。
【0114】
(電極活物質のpHの測定方法)
電極活物質のpHは、例えば、電極活物質10gを純水が90mL入っている容器(例えば、200mLビーカー)に移し、25℃で1時間マグネチックスターラー(例えば、東京理化器械株式会社製、商品名「強力マグネチックスターラー RCX-1000D」)を用いて攪拌速度100rpmで攪拌させて浸漬後、ガラス電極pHメータ(例えば、製品名「ハンディpHメータ D-52」、(株)堀場製作所製)を用いて水溶液のpHを測定することにより測定される。
【0115】
下記に例示する電極活物質のpHは、電極活物質を作製した際の処理内容等により同じ物質であっても変化し得る。
【0116】
負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵及び放出できるものであれば特に制限されず、目的とするリチウムイオン電池の種類により適宜適当な材料を選択でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。負極活物質は、炭素材料、並びにシリコン材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、及びアルミニウム化合物等のリチウムと合金化する材料等が例示される。
【0117】
上記炭素材料は、高結晶性カーボンであるグラファイト(黒鉛ともいい、天然グラファイト、人造グラファイト等が例示される)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等が例示される。
【0118】
上記シリコン材料は、シリコン、シリコンオキサイド、シリコン合金に加え、SiC、SiO(0<x≦3、0<y≦5)、Si、SiO、SiO(0<x≦2)で表記されるシリコンオキサイド複合体(例えば特開2004-185810号公報や特開2005-259697号公報に記載されている材料等)、特開2004-185810号公報に記載されたシリコン材料等が例示される。また、特許第5390336号公報、特許第5903761号公報に記載されたシリコン材料を用いても良い。
【0119】
上記シリコンオキサイドは、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるシリコンオキサイドが好ましい。
【0120】
上記シリコン合金は、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄及びモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のシリコン合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましい。シリコン合金は、ケイ素-ニッケル合金又はケイ素-チタン合金がより好ましく、ケイ素-チタン合金が特に好ましい。シリコン合金におけるケイ素の含有割合は、上記合金中の金属元素100モル%に対して10モル%以上が好ましく、20~70モル%がより好ましい。なお、シリコン材料は、単結晶、多結晶及び非晶質のいずれであってもよい。
【0121】
また、電極活物質としてシリコン材料を用いる場合には、シリコン材料以外の電極活物質を併用してもよい。このような電極活物質は、上記の炭素材料;ポリアセン等の導電性高分子;A(Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも一種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ0.05<X<1.10、0.85<Y<4.00、1.5<Z<5.00の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。電極活物質としてシリコン材料を用いる場合は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素材料を併用することが好ましい。
【0122】
上記リチウム原子を含む酸化物は、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウム-マンガン複合酸化物(LiMn等)、リチウム-ニッケル複合酸化物(LiNiO等)、リチウム-コバルト複合酸化物(LiCoO等)、リチウム-鉄複合酸化物(LiFeO等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2等)、リチウム-遷移金属リン酸化合物(LiFePO等)、及びリチウム-遷移金属硫酸化合物(LiFe(SO)、リチウム-チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム-遷移金属複合酸化物、及びその他の従来公知の電極活物質等が例示される。
【0123】
本発明の効果が顕著に発揮されるという観点から、炭素材料及び/又はリチウムと合金化する材料を電極活物質中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。
【0124】
正極活物質は、無機化合物を含む活物質と有機化合物を含む活物質とに大別される。正極活物質に含まれる無機化合物は、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等が例示される。上記遷移金属は、Fe、Co、Ni、Mn、Al等が例示される。正極活物質に使用される無機化合物は、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiNi1/2Mn3/2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]O、LiFeVO等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoS等の遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO-P、MoO、V、V13等の遷移金属酸化物等が例示される。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。正極活物質に含まれる有機化合物は、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性重合体等が例示される。電気伝導性に乏しい鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。これらの中でも実用性、電気特性、長寿命の点で、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiNi1/2Mn3/2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]Oが好ましい。
【0125】
電極活物質の形状は特に制限されず、微粒子状、薄膜状等の任意の形状であってよいが、微粒子状が好ましい。電極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、その上限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示され、下限は、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示される。1つの実施形態において、均一で薄い塗膜を形成する観点、より具体的には0.1μm以上であればハンドリング性が良好であり、50μm以下であれば電極の塗布が容易であることから、電極活物質の平均粒子径は0.1~50μmが好ましく、0.1~45μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましく、5μmが特に好ましい。
【0126】
本開示において「粒子径」は、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する(以下同様)。また本開示において「平均粒子径」は、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする(以下同様)。
【0127】
上記スラリーにおける電極活物質(B-1)成分及び(B-2)成分の合計100質量%に対する(A-1)成分及び(A-2)成分の合計含有量の上限は、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.5質量%等が例示され、下限は、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.5、1質量%等が例示される。1つの実施形態において、電極活物質(B-1)成分及び(B-2)成分の合計100質量%に対する(A-1)成分及び(A-2)成分の合計含有量は、1~15質量%が好ましい。
【0128】
上記スラリーに含まれる(B-1)成分の質量と(B-2)成分の質量との質量比[(B-1)成分の質量/(B-2)成分の質量]の上限は、99、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、1、0.9、0.5、0.1、0.02等が例示され、下限は、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、1、0.9、0.5、0.1、0.02、0.01等が例示される。1つの実施形態において、上記スラリーに含まれる(B-1)成分の質量と(B-2)成分の質量との質量比[(B-1)成分の質量/(B-2)成分の質量]は、0.01~99が好ましい。
【0129】
1つの実施形態において、電極活物質における炭素層で覆われたシリコン又はシリコンオキサイドの含有量はリチウムイオン電池の電池容量を高める観点から電極活物質100質量%に対し、5質量%以上(例えば、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、100質量%)が好ましい。
【0130】
1つの実施形態において、導電助剤が上記スラリーに含まれ得る。導電助剤は、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素、黒鉛粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、平均粒径10μm以下のCu、Ni、Al、Si又はこれらの合金からなる微粉末等が例示される。導電助剤の含有量は特に限定されないが、電極活物質成分に対して0~10質量%が好ましく、0.5~6質量%がより好ましい。
【0131】
1つの実施形態において、前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を含む水溶液を乾燥し、作成したフィルムのHAZEは4%以上(例えば、5%以上、7%以上、10%以上、11%以上、25%以上、50%以上、75%以上、90%以上、97.5%以上、99%以上等)が好ましく、下記観点から10%以上がより好ましい。上記フィルムは、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を含む水溶液を平坦なガラス板上に塗布し、80℃の順風乾燥機内でフィルムの厚さが100~250μmになるように作成する方法で得ることが好ましい。ここで、作成したフィルムのHAZEは、濁度計(例えば「NDH-2000(日本電色工業株式会社製)」)によって測定され得る。
【0132】
フィルムのHAZEが10%より低いと、(A-1)成分と(A-2)成分が相溶していることを示唆する。一方で、フィルムのHAZEが10%以上であると、(A-1)成分と(A-2)成分は相溶していない(ミクロ相分離している)ことを示唆する。この場合、フィルムは高い親水性を有するセグメントと疎水性を有するセグメントが分離した、親和性が低い状態であるため、フィルムに内部応力が働いたときには疎水性を有するセグメントに由来する柔軟性により応力を緩和し、高い親水性を有するセグメントに由来する高強度、高耐熱性も発揮する。
ひいては得られるリチウムイオン二次電池において、疎水性を有するセグメントを有することで電極密着性が高く、また充放電サイクル中に電極内での膨らみによる内部応力を緩和でき、高い親水性を有するセグメントによるサイクル特性の向上が見込める。
なお、上記はあくまでも1つの説であり、本発明が上記説に拘束されることを意図するものではない。
【0133】
<スラリー粘度調整溶媒>
スラリー粘度調整溶媒は、特に制限されることはないが、80~350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含めてよい。スラリー粘度調整溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。スラリー粘度調整溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン溶媒;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル溶媒;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル溶媒;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン溶媒;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン溶媒;水等が例示される。これらの中でも、塗布作業性の点より、N-メチルピロリドンが好ましい。上記非水系媒体の含有量は特に限定されないが、上記スラリー100質量%に対し0~10質量%が好ましい。
【0134】
<添加剤>
上記リチウムイオン電池電極用スラリーは、(A-1)成分、(A-2)成分、(B-1)成分、(B-2)成分、水、導電助剤、スラリー粘度調整溶媒のいずれにも該当しないものを添加剤として含み得る。
【0135】
添加剤は、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、分散体(エマルジョン)、架橋剤等が例示される。
【0136】
添加剤の含有量は、(A-1)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0137】
添加剤の含有量は、(A-2)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0138】
添加剤の含有量は、(B-1)成分に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0139】
添加剤の含有量は、(B-2)成分に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0140】
添加剤の含有量は、上記スラリー100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0141】
分散剤は、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物等が例示される。
【0142】
レベリング剤は、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤等が例示される。界面活性剤を用いることにより、塗工時に発生するはじきを防止し、上記スラリーの層(コーティング層)の平滑性を向上させ得る。
【0143】
酸化防止剤は、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が例示される。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体である。ポリマー型フェノール化合物の重量平均分子量は200~1000が好ましく、600~700がより好ましい。
【0144】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物等が例示される。
【0145】
分散体(エマルジョン)は、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリスチレン系重合体ラテックス、ポリブタジエン系重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリウレタン系重合体ラテックス、ポリメチルメタクリレート系重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリアクリレート系重合体ラテックス、塩化ビニル系重合体ラテックス、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、酢酸ビニル-エチレン系共重合体エマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド、アルギン酸とその塩、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が例示される。
【0146】
架橋剤は、ホルムアルデヒド、グリオキサール、ヘキサメチレンテトラミン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メチロールメラミン樹脂、カルボジイミド化合物、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、多官能ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、及びこれらの混合物が例示される。
【0147】
上記リチウムイオン電池電極用スラリーは、(A-1)成分でも(A-2)成分でもないバインダーが含まれても構わないが、全バインダー中の(A-1)成分及び(A-2)成分の合計含有量は、90質量%以上(例えば、91、95、98、99質量%以上、100質量%)が好ましい。
【0148】
なお、(A-1)成分でも(A-2)成分でもないバインダーは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体)、カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン等が例示される。
【0149】
上記リチウムイオン電池電極用スラリーは、リチウムイオン電池負極用スラリー、リチウムイオン電池正極用スラリーとして使用され得る。
【0150】
[3.リチウムイオン電池電極用スラリーの製造方法]
本開示は、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)及び(A-2)を含む水溶液に前記電極活物質(B-1)及び(B-2)を分散させる工程を含む、上記リチウムイオン電池電極用スラリーの製造方法を提供する。なお、本項目において記載される(A-1)成分等は上述したもの等が例示される。
【0151】
スラリーの混合手段は、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が例示される。
【0152】
[4.リチウムイオン電池用電極]
本開示は、上記リチウムイオン電池電極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることにより得られる、上記リチウムイオン電池電極用スラリーの乾燥物を集電体表面に有するリチウムイオン電池用電極を提供する。
【0153】
集電体は、各種公知のものを特に制限なく使用され得る。集電体の材質は特に限定されず、銅、鉄、アルミ、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が例示される。集電体の形態も特に限定されず、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が例示される。中でも、電極活物質を負極に用いる場合には集電体として銅箔が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。
【0154】
塗布手段は特に限定されず、コンマコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、バーコーター等従来公知のコーティング装置が例示される。
【0155】
乾燥手段も特に限定されず、温度は60~200℃が好ましく、100~195℃がより好ましい。雰囲気は乾燥空気又は不活性雰囲気であればよい。
【0156】
電極(硬化塗膜)の厚さは特に限定されないが、5~300μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。上記範囲とすることにより、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られやすくなり得る。
【0157】
上記リチウムイオン電池用電極は、リチウムイオン電池用正極、リチウムイオン電池用負極として用いられ得る。
【0158】
[5.リチウムイオン電池]
本開示は、上記リチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池を提供する。上記電池には、電解液、及び包装材料も含まれ、これらは特に限定されない。
【0159】
(電解液)
電解液は、非水系溶媒に支持電解質を溶解した非水系電解液等が例示される。また、上記非水系電解液には、被膜形成剤を含めてもよい。
【0160】
非水系溶媒は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。非水系溶媒は、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート溶媒;1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジオキソラン等の環状エーテル溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル溶媒;アセトニトリル等が例示される。これらのなかでも、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組み合わせが好ましい。
【0161】
支持電解質は、リチウム塩が用いられる。リチウム塩は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。支持電解質は、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLi等が例示される。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節できる。
【0162】
被膜形成剤は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。被膜形成剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等のカーボネート化合物;エチレンサルファイド、プロピレンサルファイド等のアルケンサルファイド;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物等の酸無水物等が例示される。電解質溶液における被膜形成剤の含有量は特に限定されないが、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、及び2質量%以下の順で好ましい。含有量を10質量%以下とすることで、被膜形成剤の利点である、初期不可逆容量の抑制や、低温特性及びレート特性の向上等が得られやすくなる。
【0163】
上記リチウムイオン電池の形態は特に制限されない。リチウムイオン電池の形態は、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が例示される。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0164】
上記リチウムイオン電池の製造方法は特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよい。リチウムイオン電池の製造方法は、特開2013-089437号公報に記載する方法等が例示される。外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板によって固定して電池を製造できる。
【実施例
【0165】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に説明がない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0166】
1.(A)成分の製造
製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1428g、50%アクリルアミド水溶液400g(2.81mol)、80%アクリル酸水溶液63.5g(0.70mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.56g(0.0035mol)を入れた。窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)2.5g、イオン交換水50gを投入し、80℃まで昇温し3.0時間反応を行い、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液を得た。
【0167】
製造例1以外の製造例及び比較製造例は、モノマー組成を表1で示すものに変更した他は製造例1と同様にして、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液を製造した。
【0168】
【表1】
・AM:アクリルアミド(三菱ケミカル株式会社製 「50%アクリルアミド」)
・AA:アクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製 「80%アクリル酸」)
・ATBS:アクリルアミドt-ブチルスルホン酸(東亞合成株式会社製 「ATBS」)
・SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
・DMAA:N,N-ジメチルアクリルアミド(東京化成工業株式会社製「N,N-ジメチルアクリルアミド」)
・AN:アクリロニトリル(三菱ケミカル株式会社製 「アクリロニトリル」)
・HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル(大阪有機化学工業株式会社製 「HEA」)
・DAM:ジメチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製 「ライトエステルDM」)
表中に記載の(A)成分の物性は下記のようにして測定した。
【0169】
B型粘度
各バインダー水溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、以下の条件で測定した。
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm、粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm。
【0170】
表面張力
表面張力は、各バインダー水溶液を8.0質量%に調整をし、自動表面張力計(協和界面科学株式会社製 型式「CBVP-A3型」)を用い、25℃にて測定した。
洗浄し乾燥させたプレートをフックに下げ、バインダー水溶液をシャーレに入れ、AUTO条件にて測定した。プレートと液面が触れた時点でのデジタル表示を直読し、その値を表面張力とした。
【0171】
重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル溶液(90/10、PH8.0)下で測定したポリアクリル酸換算値として求めた。GPC装置はHLC-8220(東ソー(株)製)を、カラムはSB-806M-HQ(SHODEX製)を用いた。
【0172】
HAZE
HAZEは、濁度計(日本電色工業株式会社製 製品名「NDH-2000」)を用い、厚み100~250μmのフィルムをガラス板(並質ガラス、厚み2mm)上にコーティングした積層体を測定した。この積層体はガラス板上に水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液を塗工し、順風乾燥機(アドバンテック東洋株式会社製、商品名「送風定温乾燥器 DSR420DA」)にて80℃2時間乾燥させて作成した。
【0173】
2.電極活物質(B)の 10質量%水溶液の測定
(1)10質量%水溶液に調整したときのpHが3以上8未満の電極活物質(B-1)
天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株) 製品名「Z-5F」)10gを純水が90mL入っている容器(200mLビーカー)に移し、水中に25℃で1時間マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、商品名「強力マグネチックスターラー RCX-1000D」)を用いて攪拌速度100rpmにて、攪拌させた条件で浸漬後、ガラス電極pHメータ(製品名「ハンディpHメータ D-52」、(株)堀場製作所製)を用いて水溶液のpHを測定したところ、6.52であった。
【0174】
(2)10質量%水溶液に調整したときのpHが8以上の電極活物質(B-2)
D50が5μmの一酸化ケイ素粒子(「CC粉末」、(株)大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを純水が90mL入っている容器(200mLビーカー)に移し、水中に25℃で1時間マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、商品名「強力マグネチックスターラー RCX-1000D」)を用いて攪拌速度100rpmにて、攪拌させた条件で浸漬後、ガラス電極pHメータ(製品名「ハンディpHメータ D-52」、(株)堀場製作所製)を用いて水溶液のpHを測定したところ、8.33であった。
【0175】
実施例1:
(1)リチウムイオン電池電極用スラリーの製造
市販の自転公転ミキサー(シンキー株式会社製、製品名「あわとり練太郎」)を用い、該ミキサー専用の容器に、製造例1で得られた水溶液と製造例4を50:50の固形分比率にて合計固形分換算で5質量部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を50質量部と、D50が5μmの一酸化ケイ素粒子(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製、製品名「CC粉末」)を50質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を上記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、電極用スラリーを得た。
【0176】
実施例1以外の実施例及び比較例は、組成を下記表で示すものに変更した他は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池電極用スラリーを調製した。
【0177】
【表2】
・SiO:(D50が5μmの一酸化ケイ素粒子(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製、製品名「CC粉末」)、pH=8.33)
・黒鉛:(天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、 製品名「Z-5F」)、pH=6.52)
【0178】
電極用スラリーの分散性を下記のようにして目視評価した。
調整した電極用スラリーを調製し室温にて24時間静置した後に、スラリーの分散性を以下の基準で評価した。
◎:全体が均質なペースト状であり、液状分離がなく、かつ、凝集物も認められない。
○:全体は略均質なペースト状であり、僅かな液状分離が認められるが、凝集物は認められない。
△:容器底部に少量の凝集物と、やや多くの液状分離とが認められる。
×:容器底部に粘土状の凝集物が多数認められ、液状分離も多く認められる。
【0179】
(2)リチウムイオン電池用電極の製造
銅箔からなる集電体の表面に、上記リチウムイオン電池電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、80℃で30分乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理して電極を得た。その後、膜(電極活物質層)の密度が1.5g/cmになるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
【0180】
上記電極の表面状態を下記のようにして目視評価した。
○:全体が均質な表面状態であり、凝集物も認められない。
△:全体は略均質な表面状態であり、僅かに電極層に凹凸が認められるが、凝集物は認められない。
×:全体に多量の凝集物と、電極層に多くの凹凸が認められる。
【0181】
上記電極の密着性を下記のように評価した。
電極から幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出し、コーティング面を上にして固定する。次いで、該試験片の活物質層表面に、幅15mmの粘着テープ(「セロテープ(登録商標)」 ニチバン(株)製))(JIS Z1522に規定)を押圧しながら貼り付けた後、25℃条件下で引張り試験機((株)エー・アンド・デイ製「テンシロンRTM-100」)を用いて、試験片の一端から該粘着テープを30mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定は5回行い、幅15mm当たりの値に換算し、その平均値をピール強度として算出した。ピール強度が大きいほど、集電体と活物質層との密着強度あるいは活物質同士の結着性が高く、集電体から活物質層あるいは活物質同士が剥離し難いことを示す。
ピール強度の値を元に下記のように評価した。
○:ピール強度が160N/m以上であった。
△:ピール強度が100~160N/mであった。
×:ピール強度が100N/m以下であった。
【0182】
上記電極の柔軟性を下記のように評価した。
電極から幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出し、コーティング面を上にして、直径6mmφのテフロン(登録商標)棒に捲き付け、電極表面の様子を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:集電体上に結着している活物質層にひび割れ及び剥がれが全く生じていない。
△:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られるが、剥がれは認められない。
×:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られ、剥がれも一部認められる。
【0183】
(3)ラミネート型リチウムイオン電池の製造
(3-1)負極の製造
上記で得られたリチウムイオン電池用電極を所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、電極活物質層の厚さが15μmの負極とした。
【0184】
(3-2)正極の製造
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3と導電助剤としてアセチレンブラックと、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部を混合し、この混合物を適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて、リチウムイオン電池正極用スラリーを製造した。次いで、正極の集電体としてアルミニウム箔を用意し、アルミニウム箔にリチウムイオン電池正極用スラリーをのせ、ドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。リチウムイオン電池正極用スラリーを塗布後のアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、正極活物質層の密度は3.2g/cmとなるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極活物質層の厚さが45μm程度の正極とした。
【0185】
(3-3)ラミネート型リチウムイオン電池の製造
上記負極及び正極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製造した。詳しくは、正極及び負極の間に、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)により挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=3/7(体積比)の溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。
【0186】
(4)電池評価
上記製造したリチウムイオン二次電池を用いて、25℃で0.1Cで2.5~4.2V電圧で充電し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで0.1Cで2.5Vまで放電する充放電を5回繰り返し、6サイクル目以降は放電のみ0.5Cに変更し充放電を50サイクル繰り返し、51サイクル目以降は放電のみ1Cに変更した。
【0187】
(4-1)放電容量維持率
放電容量維持率は以下の式より求めた。
放電容量維持率={(30サイクル目の放電容量)/(6サイクル目の放電容量)}×100(%)
放電容量維持率の値を元に下記のように評価した。
○:放電容量維持率が81%以上であった。
△:放電容量維持率が76~80%であった。
×:放電容量維持率が75%以下であった。
【0188】
(4-2)レート耐性
レート耐性維持率は以下の式より求めた。
レート耐性維持率={(51サイクル目の放電容量)/(50サイクル目の放電容量)}×100(%)
レート耐性維持率の値を元に下記のように評価した。
○:レート耐性維持率が81%以上であった。
△:レート耐性維持率が75~80%であった。
×:レート耐性維持率が74%以下であった。
【0189】
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0190】
表2から明らかなように、実施例1~5の電極用スラリーはいずれも、スラリー分散性の評価が良好であった。実施例1~5の電極用スラリーを用いて作製した電極はいずれも、電極状態の評価が良好であった。実施例1~5の電極を用いて作製したセル評価ではいずれも放電容量維持率およびレート耐性の評価が良好であった。
【0191】
これに対し、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)のみを用いた電極用スラリー(比較例1)および水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2)のみを用いた電極用スラリー(比較例2)の場合には、実施例の電極用スラリーに比べて、スラリー分散性が劣り、かつ作製した電極の状態は劣っていた。また、(メタ)アクリルアミド由来の単量体が多く、不飽和カルボン酸、及び不飽和スルホン酸、並びにこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の単量体が少ない水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを(A-1)成分の代わりに用いた電極用スラリー(比較例3)、及び、(メタ)アクリルアミド由来の単量体が少ない水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを(A-1)成分の代わりに用いた電極用スラリー(比較例4)、N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位が多い水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを(A-2)成分の代わりに用いた電極用スラリー(比較例5)、N-二置換(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)由来の構成単位が少ない水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを(A-2)成分の代わりに用いた電極用スラリー(比較例6)、(A-2)成分の代わりにカチオン性単量体からなる水溶性ポリマーを用いた電極用スラリー(比較例7)から作製したセルの評価は、放電容量維持率が実施例のものより劣っていた。