(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】膜付き物品の製造方法、及び保持具
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
C23C14/50 B
C23C14/50 D
(21)【出願番号】P 2018146070
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山口 義正
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-324273(JP,A)
【文献】特開平10-046338(JP,A)
【文献】実開昭61-073654(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性を有する板状のワークを保持具に保持させた状態で前記ワークに機能性膜を成膜する工程を備える膜付き物品の製造方法であって、
前記保持具は、前記ワークの第1主面
の一部を支持する支持部材と、前記ワークを前記支持部材に引き付ける磁石とを備え、
前記ワークの第1主面と前記磁石は、空間を隔てて対向しており、
前記製造方法では、前記ワークの第1主面とは反対側の第2主面に前記機能性膜を成膜することを特徴とする膜付き物品の製造方法。
【請求項2】
前記保持具は、複数の前記ワークに対応した複数の磁石を備え、前記複数のワークを保持することを特徴とする請求項1に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項3】
前記磁石の形状は、前記ワークの第1主面と対向する主面を有する板状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項4】
前記磁石は、平面視で前記ワークの外形と同一の外形、又は前記ワークの外形よりも小さい外形を有することを特徴とする請求項3に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項5】
前記保持具は、前記磁石を取り付けるための取付部材をさらに備え、
前記支持部材は、前記取付部材に取り付けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項6】
前記保持具の前記取付部材は、強磁性を有し、前記磁石は、磁力によって前記取付部材に取り付けられることを特徴とする請求項5に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項7】
前記保持具の前記取付部材は、前記磁石と前記支持部材との間隔を規制するスペーサー部を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項8】
前記保持具の前記支持部材は、貫通孔を有し、前記貫通孔の開口縁で前記ワークの前記第1主面における周縁の少なくとも一部を支持することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項9】
前記保持具は、前記支持部材上に配置される前記ワークを位置決めする位置決め部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の膜付き物品の製造方法。
【請求項10】
強磁性を有する板状のワークを保持する保持具であって、
前記保持具は、前記ワークの第1主面
の一部を支持する支持部材と、
前記ワークを前記支持部材に引き付ける磁石とを備え、
前記ワークの第1主面と前記磁石は、空間を隔てて対向しており、
前記ワークの第1主面とは反対側の第2主面に機能性膜を成膜する工程に用いられることを特徴とする保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き物品の製造方法、及び保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、基板を保持する保持具としては、基板が載置される凹部を有するキャリアと、基板を押さえる押さえ板とを備える構成が知られている。保持具のキャリアには、押さえ板を引き付ける磁石が埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のように押さえ板を用いて基板等の板状のワークを保持し、ワークの一方の面に機能性膜を成膜する場合、例えば、ワークの一方の面の全体に機能性膜を成膜することができず、またワークと押さえ板との接触によりワークに傷が付くおそれがある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、強磁性を有する板状のワークを好適に保持してワークに機能性膜を成膜することのできる膜付き物品の製造方法、及び保持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する膜付き物品の製造方法は、強磁性を有する板状のワークを保持具に保持させた状態で前記ワークに機能性膜を成膜する工程を備える膜付き物品の製造方法であって、前記保持具は、前記ワークの第1主面の少なくとも一部を支持する支持部材と、前記ワークを前記支持部材に引き付ける磁石とを備え、前記製造方法では、前記ワークの第1主面とは反対側の第2主面に前記機能性膜を成膜する。
【0007】
この方法によれば、ワークの第1主面を支持部材に磁石で引き付けてワークを保持させることができるため、ワークの第2主面の全体に機能性膜を成膜することが可能となる。また、ワークの第2主面に接触する部材を省略することができるため、ワークの第2主面における傷の発生を防止することができる。
【0008】
上記膜付き物品の製造方法において、前記保持具は、複数の前記ワークに対応した複数の磁石を備え、前記複数のワークを保持することが好ましい。
この方法によれば、一工程で複数のワークに機能性膜を成膜することができる。
【0009】
上記膜付き物品の製造方法において、前記磁石の形状は、前記ワークの第1主面と対向する主面を有する板状であることが好ましい。
この方法によれば、例えば、ワークを安定して支持部材に引き付けることができる。
【0010】
上記膜付き物品の製造方法において、前記磁石は、平面視で前記ワークの外形と同一の外形、又は前記ワークの外形よりも小さい外形を有することが好ましい。
この方法によれば、平面視において磁石の中央に対してワークの中央を合わせるようにしてワークを容易に保持させることができる。これにより、所定の位置にワークを保持させる作業を円滑に行うことができる。
【0011】
上記膜付き物品の製造方法において、前記保持具は、前記磁石を取り付けるための取付部材をさらに備え、前記支持部材は、前記取付部材に取り付けられることが好ましい。
この方法によれば、取付部材によって支持部材と磁石との相対位置を位置決めすることができる。
【0012】
上記膜付き物品の製造方法において、前記保持具の前記取付部材は、強磁性を有し、前記磁石は、磁力によって前記取付部材に取り付けられることが好ましい。
この方法によれば、例えば、保持具の磁石を容易に配置することができる。また、例えば、保持具において磁石の配置の変更やサイズの異なる磁石に変更することも容易に行うことができる。
【0013】
上記膜付き物品の製造方法において、前記保持具の前記取付部材は、前記磁石と前記支持部材との間隔を規制するスペーサー部を有することが好ましい。
この方法によれば、スペーサー部の寸法の設定により、支持部材に支持されるワークと磁石との間隔を設定することができる。
【0014】
上記膜付き物品の製造方法において、前記保持具の前記支持部材は、貫通孔を有し、前記貫通孔の開口縁で前記ワークの前記第1主面における周縁の少なくとも一部を支持することが好ましい。
【0015】
この方法によれば、ワークの第1主面と支持部材との接触面積を小さくすることで、ワークの第1主面における擦傷の発生を抑えることができる。
上記膜付き物品の製造方法において、前記保持具は、前記支持部材上に配置される前記ワークを位置決めする位置決め部材をさらに備えることが好ましい。
【0016】
この方法によれば、保持具の磁石に対応してワークを容易に配置することができる。
上記課題を解決する保持具は、強磁性を有する板状のワークを保持する保持具であって、前記保持具は、前記ワークの第1主面の少なくとも一部を支持する支持部材と、前記ワークを前記支持部材に引き付ける磁石とを備え、前記ワークの第1主面とは反対側の第2主面に機能性膜を成膜する工程に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、強磁性を有する板状のワークを好適に保持してワークに機能性膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態における保持具及びワークを示す平面図である。
【
図5】(a)は、成膜の工程を説明する断面図であり、(b)は、膜付き物品を示す模式図であり、(c)は、成膜の工程の一例を説明する説明図である。
【
図9】(a)~(d)は、ワーク用磁石の変更例とワークとの関係を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、膜付き物品の製造方法、及び保持具の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0020】
図1~
図4に示すように、磁性、特に強磁性を有する板状のワークWを保持する保持具11は、ワークWの第1主面Waの少なくとも一部を支持する支持部材12と、ワークWを支持部材12に引き付けるワーク用磁石13とを備えている。保持具11は、ワークWの第1主面Waとは反対側の第2主面Wbに機能性膜を成膜する工程に用いられる。
【0021】
保持具11は、複数のワークWに対応した複数のワーク用磁石13を備え、複数のワークWを保持するように構成されている。各ワーク用磁石13の形状は、ワークWの第1主面Waと対向する第1主面13aを有する板状である。
【0022】
ワーク用磁石13は、平面視でワークWの外形と同一の外形を有し、保持具11は、平面視においてワーク用磁石13の中央に対してワークWの中央が一致するようにワークWを保持している。本実施形態のワークWの形状は、平面視で四角形状であるが、四角形状以外の多角形状や円形状等の形状であってもよい。なお、例えば、四隅を面取りしたり、一部に切り欠きを設ける等、ワーク用磁石13の外形に部分的な変更を加えられている場合であっても、ワークWの吸着機能が損なわれず全体として実質的にワークWの外形と略同一の外形であれば、ワーク用磁石13の外形はワークWの外形と同一の外形と解される。
【0023】
ワーク用磁石13としては、永久磁石を用いることができる。永久磁石としては、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石等が挙げられる。なお、ワーク用磁石13として電磁石を用いることもできる。ワーク用磁石13の磁束密度は、0.1T以上であることが好ましい。
【0024】
図2~
図4に示すように、本実施形態の保持具11は、各ワーク用磁石13を取り付けるための取付部材14をさらに備えている。取付部材14は、強磁性を有し、各ワーク用磁石13は、磁力によって取付部材14に取り付けられることが好ましい。すなわち、各ワーク用磁石13は、第1主面13aとは反対側の第2主面13bを取付部材14に重ねるように配置することで取り付けられる。この取付部材14は、少なくともワーク用磁石13を取り付ける取付面が強磁体から構成されていればよい。なお、取付部材14を強磁性体以外の材料から構成する場合、例えば、接着層を用いてワーク用磁石13を取付部材14に取り付ければよい。
【0025】
保持具11の取付部材14は、取付基部14aと、取付基部14aから突出するスペーサー部14bとを有している。支持部材12は、取付部材14のスペーサー部14bにおける先端面に重なるように配置されている。磁石と支持部材12との間隔は、スペーサー部14bにより規制されている。
【0026】
保持具11の支持部材12は、複数の貫通孔12aを有している。
図4に示すように、支持部材12は、各貫通孔12aの開口縁でワークWの第1主面Waにおける周縁の少なくとも一部を支持するように構成されている。本実施形態の支持部材12は、平面視で四角形状のワークWの第1主面Waにおける四隅部を支持するように構成されているが、ワークWの辺部分の少なくとも一部を支持するように構成してもよいし、ワークWの第1主面Waにおける周縁全体にわたって支持するように構成してもよい。
【0027】
図2~
図4に示すように、保持具11は、支持部材12上に配置されるワークWを位置決めする位置決め部材15をさらに備えている。位置決め部材15は、平面視でワークWを取り囲む形状を有している。本実施形態の位置決め部材15は、貫通孔15aを有し、この貫通孔15a内にワークWが配置されるように構成されている。位置決め部材15は、貫通孔15aの内面にワークWの第1主面Waと第2主面Wbとの間の側面Wcが当接することでワークWを位置決めする。なお、位置決め部材15は、貫通孔15a内にワークWが配置される構成に限らず、貫通孔15aを切り欠き部に変更し、この切り欠き部にワークWが配置されるように構成することもできる。
【0028】
図2に示すように、保持具11の支持部材12及び位置決め部材15は、取付部材14に取り付けられている。本実施形態の保持具11における支持部材12及び位置決め部材15は、位置決め部材15上に配置された取付用磁石16により、強磁性を有する取付部材14に取り付けられている。このように取付用磁石16を用いることで、取付位置の調整や支持部材12や位置決め部材15の交換を容易に行うことができる。支持部材12の材料及び位置決め部材15の材料は、強磁性体であってもよいし、強磁性体以外の材料であってもよい。なお、取付部材14の材料として強磁性体以外の材料を用いる場合は、取付用磁石16を用いずに、例えば、接着層や締結具を用いて支持部材12及び位置決め部材15を取付部材14に取り付ければよい。
【0029】
次に、膜付き物品の製造方法について説明する。
膜付き物品の製造方法は、強磁性を有する板状のワークWを上述した保持具11に保持させた状態でワークWに機能性膜を成膜する工程を備えている。ワークWを保持具11に保持させるには、支持部材12の所定の位置にワークWの第1主面Waを重ねるようにしてワークWを支持部材12に載置する。このとき、ワークWは、ワーク用磁石13によって支持部材12に引き付けられることで、支持部材12上に保持される。
【0030】
膜付き物品の製造方法は、ワークWの第1主面Waとは反対側の第2主面Wbに機能性膜を成膜する。保持具11に保持されたワークWの第2主面Wbの全体が露出されている。このため、ワークWの第2主面Wbの全体に機能性膜を成膜することが可能となる。
【0031】
ワークWとしては、例えば、強磁性を有するステンレス鋼等の強磁性体から構成したワークや、強磁性体以外の材料から構成した基板と基板上の強磁性膜とを有するワーク等が挙げられる。具体的には、アイソレータ用のガーネット単結晶基板が挙げられる。ワークWが板状のワークの場合、板状のワークの寸法は、例えば、長さ5~20mm、幅5~20mm、厚さ0.1~1mmである。
【0032】
機能性膜を成膜する工程では、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スプレー、スピンコート等のコーティング法等の周知の成膜法を用いることができる。
【0033】
機能性膜としては、例えば、所定の光学的特性を有する膜(誘電体膜等)、所定の機械的特性を有する膜、及び所定の化学的特性を有する膜、所定の色を有する膜が挙げられる。機能性膜を形成するための成膜材料は、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。機能性膜の具体例としては、ITO膜、シリカ膜、タンタル酸化膜、チタン酸化物膜、アルミ酸化膜、フッ化物膜等が挙げられる。機能性膜の厚みは、例えば各層0.01~0.5μmの範囲内である。
【0034】
図5(a)及び
図5(b)には、膜付き物品の製造方法の一例として、イオンアシスト又はイオンプレーティングを用いた真空蒸着法によって機能性膜(例えば、反射防止膜)を成膜する方法を示している。
【0035】
図5(a)に示すように、膜付き物品の製造方法では、ワークWを保持した保持具11をワークWの第2主面Wbが下方に向くように配置し、白抜き矢印で示す方向を成膜方向として成膜する。すなわち、第2主面Wbの下方位置に機能性膜を形成する膜材料を配置して膜材料を蒸発させる。これにより、ワークWの第2主面Wbに膜材料が堆積され、機能性膜Fが形成される。このようにして得られた膜付き物品17は、
図5(b)に示すように、ワークWと、ワークWの第2主面Wbに積層された機能性膜Fを有している。
【0036】
ここで、
図5(c)に示すように、電気的に中性である膜材料(M)は、蒸発源からワークWの第2主面Wbに向かう直線状の軌道で第2主面Wbに到達するが、例えば、酸素イオン(O
+)等のイオンの軌道は、ワーク用磁石13の磁場中で
図5(c)に破線矢印で示すローレンツ力を受けることで曲がった軌道となる。また、ワーク用磁石13の磁束密度は、ワーク用磁石13の中央よりもワーク用磁石13の外周部で高くなる。本実施形態では、ワーク用磁石13が平面視でワークWの外形と同一の外形を有し、保持具11が平面視においてワーク用磁石13の中央に対してワークWの中央が一致するようにワークWを保持している。この場合、上述したイオンの軌道は、ローレンツ力を受けることでワークWの第2主面Wbの外周部に向かう軌道となるため、ワークWの第2主面Wbの外周部において、ワークWの第2主面Wbの中央部よりも緻密な機能性膜Fを形成することが可能となる。
【0037】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)膜付き物品17の製造方法は、強磁性を有する板状のワークWを保持具11に保持させた状態でワークWに機能性膜Fを成膜する工程を備えている。膜付き物品17の製造方法で用いる保持具11は、ワークWの第1主面Waの少なくとも一部を支持する支持部材12と、ワークWを支持部材12に引き付けるワーク用磁石13とを備えている。膜付き物品17の製造方法では、ワークWの第1主面Waとは反対側の第2主面Wbに機能性膜Fを成膜する。
【0038】
この方法によれば、ワークWの第1主面Waを支持部材12にワーク用磁石13で引き付けてワークWを保持させることができるため、ワークWの第2主面Wbの全体に機能性膜Fを成膜することが可能となる。また、ワークWの第2主面Wbに接触する部材を省略することができるため、ワークWの第2主面Wbにおける傷の発生を防止することができる。従って、強磁性を有する板状のワークWを好適に保持してワークWに機能性膜Fを成膜することができる。
【0039】
(2)膜付き物品17の製造方法で用いる保持具11は、複数のワークWに対応した複数のワーク用磁石13を備え、複数のワークWを保持することが好ましい。この場合、一工程で複数のワークWに機能性膜Fを成膜することができるため、膜付き物品17の生産性を高めることができる。
【0040】
(3)膜付き物品17の製造方法において、ワーク用磁石13の形状は、ワークWの第1主面Waと対向する主面(第1主面13a)を有する板状であることが好ましい。この場合、例えば、ワークWを安定して支持部材12に引き付けることができる。
【0041】
(4)膜付き物品17の製造方法で用いるワーク用磁石13の磁力は、ワーク用磁石13の周縁部において強くなる。ここで、ワーク用磁石13の外形が平面視でワークWの外形よりも大きい場合では、平面視でワーク用磁石13の中央にワークWの中央を合わせるようにワークWを保持具11に保持させようとしても、ワーク用磁石13の周縁部に向かってワークWが引き付けられることで、ワークWを円滑に保持することができないおそれがある。
【0042】
本実施形態の膜付き物品17の製造方法で用いるワーク用磁石13は、平面視でワークWの外形と同一の外形を有している。この場合、平面視においてワーク用磁石13の中央に対してワークWの中央を合わせるようにしてワークWを容易に保持させることができる。これにより、所定の位置にワークWを保持させる作業を円滑に行うことができる。従って、膜付き物品17の生産性を高めることが可能となる。
【0043】
(5)本実施形態では、ワーク用磁石13が平面視でワークWの外形と同一の外形を有し、保持具11は、平面視においてワーク用磁石13の中央に対してワークWの中央が一致するようにワークWを保持している。この場合、ワークWの第2主面Wbの外周部において、ワークWの第2主面Wbの中央部よりも緻密な機能性膜Fを形成することが可能となる。
【0044】
例えば、機能性膜Fが反射防止膜(誘電体多層膜)の場合、ワークWの第2主面Wbの外周部には、第2主面Wbの中央部よりも屈折率の大きな膜を形成することができる。また、例えば、ワークWの第2主面Wbの外周部には、第2主面Wbの中央部よりも緻密な機能性膜Fを形成することで、機能性膜Fの周縁部の強度が高められる結果、ワークWから機能性膜Fが剥離し難くなる。
【0045】
(6)膜付き物品17の製造方法で用いる保持具11は、ワーク用磁石13を取り付けるための取付部材14をさらに備え、支持部材12は、取付部材14に取り付けられていることが好ましい。この場合、取付部材14によって支持部材12と磁石との相対位置を位置決めすることができる。
【0046】
(7)膜付き物品17の製造方法で用いる保持具11の取付部材14は、強磁性を有し、ワーク用磁石13は、磁力によって取付部材14に取り付けられることが好ましい。この場合、例えば、ワーク用磁石13を容易に配置することができる。また、例えば、ワーク用磁石13の配置の変更やサイズの異なるワーク用磁石13に変更することも容易に行うことができる。
【0047】
(8)膜付き物品17の製造方法で用いる保持具11の取付部材14は、ワーク用磁石13と支持部材12との間隔を規制するスペーサー部14bを有している。この場合、スペーサー部14bの寸法の設定により、支持部材12に支持されるワークWとワーク用磁石13との間隔を設定することができる。これにより、ワークWを支持部材12に引き付けるワーク用磁石13によるワークWの引き付け力を容易に設定することができる。
【0048】
(9)保持具11の支持部材12は、貫通孔12aを有し、支持部材12の貫通孔12aの開口縁でワークWの第1主面Waにおける周縁の少なくとも一部を支持することが好ましい。この場合、ワークWの第1主面Waと支持部材12との接触面積を小さくすることで、ワークWの第1主面Waにおける擦傷の発生を抑えることができる。
【0049】
(10)保持具11は、ワークWの第1主面Waと第2主面Wbとの間の側面Wcに当接することでワークWを位置決めする位置決め部材15をさらに備えることが好ましい。この場合、ワーク用磁石13に対応してワークWを容易に配置することができる。また、機能性膜Fを成膜する工程では、位置決め部材15が当接しているワークWの側面Wcから成膜材料が第1主面Wa側に成膜材料が侵入することを抑えることができるため、機能性膜Fの成膜が不要な部分(第1主面Wa)に機能性膜Fが成膜されることを抑えることができる。
【0050】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・保持具11において、位置決め部材15を省略することもできる。
・保持具11において、位置決め部材15は支持部材12と一体的に構成することもできる。
【0052】
・
図6に示すように、保持具11において、支持部材12の貫通孔12aを省略し、ワークWの第1主面Waの全体を支持部材12によって支持してもよい。
・保持具11の取付部材14において、取付基部14aとスペーサー部14bとは一体成形品であってもよいし、取付基部14aとは別体で準備したスペーサー部14bを取付基部14aに取り付けることで形成してもよい。
【0053】
・
図7に示すように、保持具11において、取付部材14を省略することもできる。この場合、ワーク用磁石13を支持部材12に直接取り付ければよい。なお、取付部材14のスペーサー部14bを省略し、取付部材14を取付基部14aのみから構成することもできる。
【0054】
・
図8に示すように、保持具11のワーク用磁石13は、複数のワークWに対応して分割されずに一体の構成であってもよい。
・
図9(a)に示すように、平面視でワークWの外形よりも大きい外形を有するワーク用磁石13を備える保持具11に変更してもよい。この保持具11では、平面視においてワーク用磁石13の中央に対してワークWの中央が一致するようにワークWを保持させると、ワークWの第2主面Wb上における磁束密度の均一性が比較的高くなる。このため、機能性膜Fの成膜の際に、イオンが直線的にワークWの第2主面Wbに到達することで、ワークWの第2主面Wb上には、均一性の高い機能性膜Fを形成することが可能となる。例えば、機能性膜Fが反射防止膜の場合、ワークWの第2主面Wbに積層された膜の屈折率と第2主面Wbの中央部に形成された膜の屈折率との差を小さくすることができる。
【0055】
・
図9(b)に示すように、平面視でワークWの外形よりも小さいワーク用磁石13をワークWの第1主面Waに沿って複数配列した保持具11に変更してもよい。この保持具11では、平面視においてワーク用磁石13が配置されている領域内となるようにワークWを保持させると、ワークWの第2主面Wb上における磁束密度の均一性が比較的高くなる。この保持具11に保持されたワークWでは、第2主面Wb上における磁束密度の均一性が比較的高い。このため、機能性膜Fの成膜の際に、イオンが直線的にワークWの第2主面Wbに到達することで、ワークWの第2主面Wb上には、均一性の高い機能性膜Fを形成することが可能となる。
【0056】
・
図9(c)に示すように、平面視でワークWの外形よりも小さい外形を有するワーク用磁石13を備える保持具11に変更してもよい。この場合、上記(4)欄に記載の作用効果と同様の作用効果を得ることができる。この保持具11において、平面視においてワーク用磁石13の中央に対してワークWの中央が一致するようにワークWを保持させると、ワークWの第2主面Wb上における磁束密度の均一性が比較的高くなる。このため、機能性膜Fの成膜の際に、イオンが直線的にワークWの第2主面Wbに到達することで、ワークWの第2主面Wb上には、均一性の高い機能性膜Fを形成することが可能となる。
【0057】
・
図9(d)に示すように、平面視でワークWの外形と同一の外形を有するワーク用磁石13をワークWの第1主面Waに沿って複数配列した保持具11に変更してもよい。この保持具11では、平面視においてワーク用磁石13が配置されている領域内となるようにワークWを保持させると、ワークWの第2主面Wb上における磁束密度の均一性が比較的高くなる。このため、機能性膜Fの成膜の際に、イオンが直線的にワークWの第2主面Wbに到達することで、ワークWの第2主面Wb上には、均一性の高い機能性膜Fを形成することが可能となる。
【0058】
・保持具11において、ワーク用磁石13の形状は、筒状や中実の柱状等の形状であってもよい。
・保持具11は、一つのワークWを保持するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0059】
11…保持具、12…支持部材、12a…貫通孔、13…ワーク用磁石、14…取付部材、14b…スペーサー部、15…位置決め部材、17…膜付き物品、F…機能性膜、W…ワーク、Wa…第1主面、Wb…第2主面。