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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018170565
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020041503
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】坪川 徹也
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2014/045438(JP,A1)
【文献】特開2015-148162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の回転翼が形成されたロータを回動自在に保持するベースと、
複数段の固定翼と複数段のスペーサを含む積層体と、
前記積層体の下面に接して配置され、冷却液が流れる流路を有する冷却スペーサと、
前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置される断熱スペーサと、
前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置されるシール部材とを備え、
前記冷却スペーサの上面が前記積層体の下面と接する第1領域と、
前記冷却スペーサの下面が前記断熱スペーサの上面と接する第2領域とは、上面視において少なくとも一部が重複するとともに、
前記シール部材は、上面視において前記第1領域と重複する位置に配置されるか、または前記冷却スペーサの前記ロータの回転軸と平行であり、かつ、前記第1領域よりも前記ロータ側にある内周面上であって上下方向において前記第1領域と前記第2領域の間に当接しているターボ分子ポンプ。
【請求項2】
複数段の回転翼が形成されたロータを回動自在に保持するベースと、
複数段の固定翼と複数段のスペーサを含む積層体と、
前記積層体の下面に接して配置され、冷却液が流れる流路を有する冷却スペーサと、
前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置される断熱スペーサと、
前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置されるシール部材とを備え、
前記冷却スペーサの上面が前記積層体の下面と接する第1領域と、
前記冷却スペーサの下面が前記断熱スペーサの上面と接する第2領域とは、上面視において少なくとも一部が重複するとともに、
前記シール部材は、上面視において前記第1領域と重複する位置、または前記冷却スペーサの前記ロータの回転軸と平行な面上であって上下方向において前記第1領域と前記第2領域の間に配置されており、
前記ベースと前記冷却スペーサの間であって上面視において前記第1領域と重複しない位置には、前記冷却スペーサに上下方向の押圧力を生じさせるシール部材が配置されていないターボ分子ポンプ。
【請求項3】
複数段の回転翼が形成されたロータを回動自在に保持するベースと、
複数段の固定翼と複数段のスペーサを含む積層体と、
前記積層体の下面に接して配置され、冷却液が流れる流路を有する冷却スペーサと、
前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置される断熱スペーサと、
前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置されるシール部材とを備え、
前記冷却スペーサの上面が前記積層体の下面と接する第1領域と、
前記冷却スペーサの下面が前記断熱スペーサの上面と接する第2領域とは、上面視において少なくとも一部が重複するとともに、
前記シール部材は、上面視において前記第1領域と重複する位置、または前記冷却スペーサの前記ロータの回転軸と平行な面上であって上下方向において前記第1領域と前記第2領域の間に配置されており、
前記シール部材は前記断熱スペーサよりも前記ロータ側にあるターボ分子ポンプ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記断熱スペーサは離散的に配置されているターボ分子ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記積層体、前記冷却スペーサおよび前記断熱スペーサは、前記ロータを覆うケーシングと前記ベースにより挟持されているとともに、
前記ケーシングと前記ベースを結合するボルトは、前記断熱スペーサの近傍に配置されているターボ分子ポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記ボルトは、離散的に配置されている前記断熱スペーサの間隔Lに対して、前記断熱スペーサの1つから(L/3)以下の距離に配置されているターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や分析装置などの真空装置において使用されるターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程におけるドライエッチングやCVD等のプロセスでは、プロセスを高速で行うために大量のガスを供給しながら処理が行われる。これらのプロセスを行う半導体製造装置においては、プロセスチャンバを真空排気する真空ポンプとして、一般的にターボポンプ部とネジ溝ポンプ部とを備えたターボ分子ポンプが使用される。
【0003】
これらのプロセスにターボ分子ポンプを使用した場合に、プロセスガスの種類によってはポンプ内に反応生成物が堆積することがある。特に、反応生成物における圧力と昇華温度との関係から、後段のネジ溝ポンプ部において反応生成物の堆積が生じやすい。そのため、ネジ溝ポンプ部の温度を一定温度以上に保つことで、ネジ溝ポンプ部への反応生成物の堆積を防止することが望ましい。
【0004】
また、ターボ分子ポンプで大量のガスを排気すると、ガス排気に伴って熱が発生して回転翼の温度が上昇する。回転翼は、アルミニウム合金で形成されるのが一般的であり、許容できないクリープ変形を回避するため回転翼を適切に冷却する必要がある。ただし、真空中で高速回転する回転翼を直接冷却することは困難なため、回転翼から固定翼への熱輻射やガスを介した熱伝達による冷却を行うこととなる。
【0005】
そのため、特許文献1に記載のターボ分子ポンプでは、ケーシングとベースとの間に固定翼を積極的に冷却するための冷却スペーサを設けて回転翼の冷却を図るととともに、ネジ溝ポンプ部のステータの近傍のベースに温度制御部を設けてネジ溝ポンプ部を所定温度に維持するようにしている。さらに、ベースと冷却スペーサの間に断熱部材として機能する断熱用座金を設け、反応生成物の堆積防止のために比較的高温に維持される温度制御部の熱が冷却スペーサに伝導しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-148162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ターボポンプ部においては一般的に、固定翼は各固定翼の間隔および位置を決定するスペーサと共に多段に積層され、ターボポンプ部を覆うケーシングとベースとにより挟持されて固定される。
固定翼を冷却するための冷却スペーサも、固定翼の固定については通常のスペーサと同様に機能するため、その上面および下面は、他のスペーサ、固定翼あるいは断熱部材と直接接し、かつ固定のための押圧力を受ける。
【0008】
従って、冷却スペーサの保持方法が適切でないと冷却スペーサが外力により変形してしまい、固定翼やスペーサを十分に冷却できなくなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によると、ターボ分子ポンプは、複数段の回転翼が形成されたロータを回動自在に保持するベースと、複数段の固定翼と複数段のスペーサを含む積層体と、前記積層体の下面に接して配置され、冷却液が流れる流路を有する冷却スペーサと、前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置される断熱スペーサと、前記ベースと前記冷却スペーサの間に配置されるシール部材とを備え、前記冷却スペーサの上面が前記積層体の下面と接する第1領域と、前記冷却スペーサの下面が前記断熱スペーサの上面と接する第2領域とは、上面視において少なくとも一部が重複するとともに、前記シール部材は、上面視において前記第1領域と重複する位置、または前記冷却スペーサの前記ロータの回転軸と平行な面上であって上下方向において前記第1領域と前記第2領域の間に配置される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるターボ分子ポンプによれば、固定翼やスペーサおよび断熱部材からの押圧力による冷却スペーサの変形を防止し、冷却スペーサと固定翼またはスペーサとの接触面積を保ち、固定翼やスペーサを十分に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明に係るターボ分子ポンプの概略構成を示す断面図。
図2図2は、図1の冷却スペーサ11が設けられた部分の拡大図。
図3図3は、図1に示すベース2のBB断面図。
図4図4は、シール部材14の配置の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、図1を参照して本発明の第1実施形態について説明する。図1は本発明のターボ分子ポンプの第1実施形態を示す断面図である。
ターボ分子ポンプは、図1に示すポンプ本体1と、ポンプ本体1を駆動制御するためのコントロール部(不図示)と、温調用コントローラ(不図示)とを備えている。
実施の形態のターボ分子ポンプでは、ポンプ本体1は、ベース2と、ケーシング13と、ベース2とケーシング13との間に配置された冷却スペーサ11とを有し、これらは、ロータ3、固定翼6、スペーサ9などを収容する外筒(外胴)を構成する。
【0013】
ロータ3には、複数段の回転翼5と、回転翼5よりも排気下流側に設けられた円筒部8とが形成されている。ロータ3は、シャフト4に締結されている。ロータ3とシャフト4とによってポンプ回転体が構成される。シャフト4は、ベース2に設けられた磁気軸受22,23,24によって非接触支持される。なお、軸方向の磁気軸受24を構成する電磁石は、シャフト4の下端に設けられたロータディスク25を軸方向に挟むように配置されている。
【0014】
磁気軸受22~24によって回転自在に磁気浮上されたポンプ回転体(ロータ3およびシャフト4)は、モータ27により高速回転駆動される。モータ27には、例えば3相ブラシレスモータが用いられる。モータ27のモータステータ27aはベース2に設けられ、永久磁石を備えるモータロータ27bはシャフト4に設けられている。
このように、ポンプ回転体は回転軸AXを中心にモータ27により回転し、磁気軸受22,23,24によって回転自在に保持されている。磁気軸受が作動していない時には、シャフト4は非常用のメカニカルベアリング26a,26bによって支持される。
【0015】
本明細書では、回転軸AXの方向に平行な方向を上下方向(Z方向)とし、それと垂直な面内の方向を水平方向とする。そして、任意の構造物の上下方向に沿って図1中の上方側(+Z側)の面を上面、下方側(-Z側)の面を下面とする。また、上面視とは、ポンプ本体1を図1中の上方の遠方から見た状態を言うものとする。
【0016】
上下に隣接する回転翼5の間には、固定翼6がそれぞれ配置されている。ロータ3の周囲を取り巻くように配置される複数段の固定翼6および複数段のスペーサ9は、交互に積層されて積層体10を構成している。積層体10の下方には、ロータ3を取り巻くように、積層体10の下面に接して環状の冷却スペーサ11が配置されている。ベース2の冷却スペーサ11と対向する部分には断熱スペーサ12が配置され、冷却スペーサ11および積層体10は、断熱スペーサ12を介してベース2に支持されている。
【0017】
積層体10の最上部に位置するスペーサ9の上面は、ケーシング13の上端係止部18により係止され、ケーシング13はボルト17によってベース2に固定される。これにより、積層体10は、冷却スペーサ11および断熱スペーサ12とともに、ベース2とケーシング13によって挟持され、位置決めされている。
【0018】
冷却スペーサ11とベース2の間には、ポンプ内部すなわちロータ3の近傍をポンプ外部から気密化するための、Oリング等のシール部材14が設けられている。ベース2の上部にはフランジ2fが形成され、フランジ2fの上面に環状の冷却スペーサ嵌合部2aが突設されている。この冷却スペーサ嵌合部2aの外周面にシール部材14が装着されている。冷却スペーサ11は冷却スペーサ嵌合部2aに隙間を開けて嵌合され、シール部材14でケーシング内部が気密されている。
【0019】
また、冷却スペーサ11とケーシング13の間にも、ポンプ内部をポンプ外部から気密化するためのOリング等のシール部材15が設けられている。
なお、冷却スペーサ11およびその近傍部分の詳細構成は後述する。
【0020】
図1に示すターボ分子ポンプは、回転翼5と固定翼6とで構成されるタービン翼部と、円筒部8とネジステータ7とで構成されるネジ溝ポンプ部とを備えている。なお、ここではネジステータ7側にネジ溝が形成されているが、円筒部8側にネジ溝を形成しても構わない。ベース2の排気口20には排気ポート21が設けられ、この排気ポート21にバックポンプが接続される。ロータ3を磁気浮上させつつモータ27により高速回転させることで、吸気口19側の気体分子は排気ポート21側へと排気される。
【0021】
ベース2には、ネジステータ7の温度を制御するためのベース冷却パイプ29、ヒータ28および温度センサ30が設けられている。温度センサ30は、ネジステータ7の温度を計測するために設けられたものである。反応生成物が堆積しやすいガスを排気する場合には、ヒータ28による加熱およびベース冷却パイプ29による冷却を制御して、ネジステータ7の温度を反応生成物が堆積しない温度以上とする。ここで、反応生成物が堆積しない温度としては、反応生成物の昇華温度以上の温度が採用される。
【0022】
図2は、図1の冷却スペーサ11が設けられた部分の拡大図である。ただし、回転翼5等のロータ3側の構成、およびネジステータ7は、図示を省略している。図2中のZ方向は、図1中のZ方向と同一である。
【0023】
上述したように、複数段の固定翼6と複数のスペーサ9とを交互に積層した積層体10は、冷却スペーサ11上に載置される。冷却スペーサ11は下端側にフランジ11fを有し、フランジ11fの内側には上部に延びる環状部本体11hが設けられている。一方、ケーシング13の下端面の内周縁には環状の凹部13rが形成されている。ケーシング13の下端部が冷却スペーサ11の環状部本体11hの内周側に隙間を持って嵌合されている。ケーシング13の下端面の凹部13rは冷却スペーサ11のフランジ上面11gにシール部材15を介して配置されている。
【0024】
冷却スペーサ11には、内部に冷却用液体を流すための流路31が設けられている。上述したように、冷却スペーサ11はロータ3を取り囲むように形成される環状の部材であり、冷却スペーサ11の下端側にフランジ11fを有している。冷却スペーサ11の内周側の環状部本体11hの内部には環状の流路31が形成されており、冷却スペーサ11は、流路31内を流れる冷却液によって冷却される。そのため、回転翼5の熱は、始めに放射等により固定翼6に伝達され、スペーサ9、最下段の固定翼6aを経て冷却スペーサ11に伝達され、流路31内の冷却液に放熱される。
【0025】
図2に示すように、冷却スペーサ11の環状部本体11hの上面には、外周側にスペーサ受け面が形成され、内周側には固定翼受け面が形成されている。これらスペーサ受け面と固定翼受け面とは段差形状とされている。本例においては、積層体10の最下段は最下段の固定翼6aとなっており、最下段の固定翼6aの下面は冷却スペーサ11の上面に設けられた固定翼受け面と接している。以下では、最下段の固定翼6aの下面と冷却スペーサ11が接する部分を第1領域A1と呼ぶことにする。
【0026】
なお、冷却スペーサ11の上面にスペーサ受け面と固定翼受け面とを設けてなる段差は、最下段の固定翼6aを含む積層体10を上下方向と水平方向に位置決めする。そのため、冷却スペーサ11は図2に示した如く、最下段の固定翼6aの外周部とも接触する構成となっている。
【0027】
冷却スペーサ11の下面は、ベース2の端面に形成された凹部2b内に配置された断熱スペーサ12の上面と接している。以下では、冷却スペーサ11の下面と断熱スペーサ12の上面とが接する部分を第2領域A2と呼ぶことにする。
断熱スペーサ12により、反応生成物の堆積を防止するために比較的高温に維持されるベース2からの熱が、冷却スペーサ11および固定翼6に伝達されることが防止される。逆の見方をすれば、断熱スペーサ12により、冷却スペーサ11によるベース2に設けられているネジステータ7の過度な冷却が防止される。
【0028】
積層体10、冷却スペーサ11および断熱スペーサ12は、上述のとおりベース2とケーシング13によって挟持されている。従って、冷却スペーサ11には、上方から積層体10を介して第1領域A1に下方向の押圧力が加わり、下方から断熱スペーサ12を介して第2領域A2に上方向の押圧力が加わる。
従って、両押圧力が加わる第1領域A1と第2領域A2が水平方向(径方向に)にずれていると、冷却スペーサ11には回転モーメントが加わるため、冷却スペーサ11が変形する恐れがある。そして、冷却スペーサ11が変形すると変形により最下段の固定翼6aとの接触面積が減少し、積層体10を十分に冷却できなくなる恐れがある。
【0029】
そこで、本例では、両押圧力が加わる第1領域A1と第2領域A2は、水平方向(径方向)において少なくとも一部が重複するように配置されている。これは換言すれば、第1領域A1と第2領域A2とは上面視において少なくとも一部が重複するように配置されていることを意味する。
【0030】
次に、第1領域A1と第2領域A2の位置関係、および断熱スペーサ12の配置について、図3を用いて説明する。
図3は、図1のポンプ本体1のうちのベース2のBB断面図であり、BB断面においてベース2を上面視した、すなわち図1中の上方遠方から見た図である。
【0031】
ベース2は、ロータの回転軸AXを中心として概ね回転対象に構成されている。上述したとおり、冷却スペーサ嵌合部2aは、冷却スペーサ11との間を気密化するためにベース2上にロータの回転軸AXを中心として円環状に形成される。その外側には断熱スペーサ12が離散的に本例では一例として8個配置される。断熱スペーサ12の個数は8個に限られるものではなく、より多くても少なくても良く、配置の間隔も等間隔でなくても良い。またその形状(上面視した形状)も、図示した円形に限るわけではなく、多角形等の任意の形状で良い。そして、ベース2と冷却スペーサ11との断熱の観点からは、断熱スペーサ12は、各断面積が小さく、個数が少ないことが望ましい。
【0032】
断熱スペーサ12の材料としては、スペーサ9や冷却スペーサ11に用いられる材料(例えば、アルミ)よりも熱伝導率の低い材料が用いられる。例えば、金属の場合はステンレスなどが望ましく、非金属の場合は例えば耐熱温度120℃以上の樹脂(例えば、エポキシ樹脂)が望ましい。また、断熱性を確保するために、上下方向に例えば1cm程度以上のある程度の厚みを有することが望ましい。
【0033】
図2に示したとおり、本例では、断熱スペーサ12の上面の全てが冷却スペーサ11の下面に接触するので、本例においては断熱スペーサ12の上面が第2領域A2となる。
一方、冷却スペーサ11と最下段の固定翼6aが接する第1領域A1は、図3においては、上面視において破線で示した外境界ROと内境界RIで挟まれる領域である。
図3に示したとおり、第1領域A1(外境界ROと内境界RIで挟まれる領域)と第2領域A2は、上面視において少なくとも一部が重複して配置されている。
【0034】
第1領域A1と第2領域A2の、水平方向(径方向)における関係を上記のように設定することにより、冷却スペーサ11の変形およびそれに伴う冷却スペーサ11と最下段の固定翼6aとの接触面積の減少を防止し、積層体10を十分に冷却することができる。
なお、断熱スペーサ12は、上述のように離散的に配置にされたものに限るわけではなく、ロータ3の回転軸AXを中心とする円環状に連続して配置されていても良い。この場合にも、断熱スペーサ12の上面と冷却スペーサ11の接触面である第2領域と、冷却スペーサ11の積層体10との接触面である第1領域A1は、上面視において少なくとも一部が重なるように配置されることで、冷却スペーサ11の変形が防止される。
【0035】
ボルト孔32は、ボルト17を通すための孔である。ボルト17は、ケーシング13に設けられているネジ穴に螺合されることで、ベース2とケーシング13を固定する。従って、ベース2は、ボルト孔32の周辺部と断熱スペーサ12の部分とで上下に逆向きの力を受け、変形する恐れがある。
そこで、ボルト孔32すなわちボルト17を断熱スペーサ12の近傍に配置することで、ベース2の変形を防止することが望ましい。
【0036】
ボルト孔32と断熱スペーサ12の間隔の一例としては、1つのボルト孔32aと最近接の断熱スペーサ12aとの中心間隔Mは、その断熱スペーサ12aとそれに隣接する断熱スペーサ12bとの中心間隔Lに対して、M<(L/3)以下であることが好ましい。
なお、ボルト孔32の個数も、図3に示した16個に限るものではなく、それより多くても少なくても良い。また、ボルト孔32の個数と断熱スペーサ12の個数の関係も任意でよい。
【0037】
当然ながら、上記のボルト孔32と断熱スペーサ12の位置関係は、ボルト孔32に配備されるボルト17と断熱スペーサ12の位置関係と同じである。
なお、冷却スペーサ11のフランジ11fには、ボルト17の径より大きな通し孔が形成され、ボルト17はこの通し孔を貫通している。従って、ボルト17の締め付け力が冷却スペーサ11に直接伝達されることはない。
【0038】
冷却スペーサ11には外部から流路31に冷却用液体を供給するため、その外周面はポンプ本体1の外面に露出している。そのため、冷却スペーサ11と、その上下の構造物であるケーシング13およびベース2の間は、気密構造であることが好ましい。
本例においては、冷却スペーサ11とケーシング13の間は、ケーシング13の内周面側(ロータ3に近い側)にOリング等のシール部材15を設けてシールしている。また、冷却スペーサ11とベース2の間にも、Oリング等のシール部材14を設けてシールしている。
【0039】
冷却スペーサ11は、シール部材14からも押圧力を受ける。その押圧力は、積層体10および断熱スペーサ12から受ける押圧力に比べれば小さいが、それでも冷却スペーサ11を変形させる恐れがある。
そこで、本例においては、シール部材14を、冷却スペーサ11の内周面であり上記ロータの回転軸と平行な面上に配置している。具体的には、図2に示すごとく、冷却スペーサ11の内周面に対向する部分のベース2の上部に円環状の冷却スペーサ嵌合部2aを設け、冷却スペーサ嵌合部2aと冷却スペーサ11の内周面との間に、Oリング等のシール部材14を設けている。
【0040】
この構成においては、シール部材14からの押圧力は、冷却スペーサ11の内周面に垂直な方向すなわち水平面内方向に働く。さらに、力の作用点が上下方向において第1領域A1と第2領域A2の間に配置されているので、冷却スペーサ11に加わる力のモーメントが小さく抑えられる。よって、冷却スペーサ11の変形をさらに抑えることができる。
【0041】
(変形例)
ただし、シール部材14が配置される位置はこれに限られるわけではない。また、積層体10のうちの最下段は固定翼に限られるわけではなく、最下段にスペーサが配置されても良い。
そのような変形例を、図4を用いて説明する。
図4は、図2と同様に冷却スペーサ11aが設けられた部分の拡大図である。以下、図2との相違点を説明する。
【0042】
本変形例においても、冷却スペーサ11aは下端側にフランジ11afを有し、フランジ11afの内側には環状部本体11ahが設けられている。
本変形例では、積層体10のうちの最下段は最下段のスペーサ9bとなっている。
すなわち、回転翼5の熱は、始めに放射等により固定翼6に伝達され、スペーサ9、最下段のスペーサ9bを経て冷却スペーサ11aに伝達され、流路31内の冷却液に放熱されることとなる。最下段のスペーサ9bの下面は、冷却スペーサ11aと第1領域A11で接触している。
【0043】
冷却スペーサ11aの下面は、図2の例と同様に、ベース2の端面に形成された凹部2b内に配置された断熱スペーサ12の上面と第2領域A22で接している。
図2の例と同様に、第1領域A11と第2領域A22は、水平方向において少なくとも一部が重複するように、すなわち上面視において少なくとも一部が重複するように配置されている。このため、冷却スペーサ11aは、冷却スペーサ11aを変形させるような押圧力を受けない。
【0044】
一方、本変形例では、シール部材14aは、ベース2と対向する冷却スペーサ11aの下面に配置される。ただし、その水平面内の位置は、水平面内位置として第1領域A11と重複する位置、すなわち上面視において第1領域A11と重複する位置に配置されている。冷却スペーサ11aは、シール部材14aから冷却スペーサ11aの下面に垂直な押圧力、すなわち上方への押圧力を受ける。
【0045】
しかし、その力の作用線上には第1領域A11があり、すなわち、その力の作用線上において冷却スペーサ11aは最終段のスペーサ9bと接し、最終段のスペーサ9bに支えられている。よって、シール部材14aからの押圧力により冷却スペーサ11aが変形することはない。
すなわち、本変形例のように、シール部材14aを上面視において上記第1領域と重複する位置に配置することによっても、冷却スペーサ11aの変形を防止して最下段のスペーサ9bとの接触面積の低下を防止し、固定翼6の冷却効果を維持することができる。
【0046】
なお、冷却スペーサ11とベース2の間には、シール部材14を径方向に異なる領域に複数個設けることもできる。ただし、特に冷却スペーサ11に対して上下方向の押圧力を加えるシール部材は、冷却スペーサ11を変形させる恐れがあるので、上面視において第1領域A1と重複しない位置には、設けないことが好ましい。
【0047】
上述の実施形態および変形例のいずれにおいても、シール部材14を断熱スペーサ12よりもロータ3側、すなわち真空領域側に設けており、断熱スペーサ12を真空領域に配置する必要が無くなる。このため、断熱スペーサ12の材質として、アウトガスを考慮せずに断熱性の高い材質(樹脂等)を使用して、より高い断熱性を確保することができる。
ただし、吸気するガスの種類によっては、ベース2をそれほど高温化する必要が無く、従って、高い断熱性が要求されない場合もある。その場合には、断熱スペーサ12は樹脂に比べて断熱性には劣るが、アウトガス抑制に優れるステンレス等の材料を使用し、シール部材14よりもロータ3に近い側(真空領域)に配置することもできる。
【0048】
なお、本変形例では、上述の実施形態に対して、シール部材14aの配置位置の変更、および最下段の固定翼6aと最下段のスペーサ9bの配置の変更の双方を行ったが、変更はどちらか一方であっても良いことは言うまでもない。
【0049】
また、上述の実施形態および変形例のいずれにおいても、積層体10の最上部は、ケーシング13の上端係止部18により係止され、積層体10と冷却スペーサ11および断熱スペーサ12は、ベース2とケーシング13によって挟持されるとしたが、積層体10の保持方法は、これに限定されるものではない。
【0050】
なお、以上では能動型磁気軸受式ターボ分子ポンプを例に説明したが、本発明は、永久磁石を使った受動型磁気軸受によるターボ分子ポンプや、メカニカルベアリングを用いたターボ分子ポンプ等にも適用することができる。
【0051】
(本実施形態および変形例の効果)
(1)上述したように、本実施形態および変形例のターボ分子ポンプは、複数段の固定翼6と複数段のスペーサ9を含む積層体10と、積層体10の下面に接して配置され冷却液が流れる流路31を有する冷却スペーサ11と、ベース2と冷却スペーサ11の間に配置される断熱スペーサ12と、ベース2と冷却スペーサ11の間に配置されるシール部材14とを備えている。そして、冷却スペーサ11の上面が積層体10の下面と接する第1領域A1と、冷却スペーサ11の下面が断熱スペーサ12の上面と接する第2領域A2とは、上面視において少なくとも一部が重複するものである。さらに、シール部材14は、上面視において第1領域A1と重複する位置、または冷却スペーサ11のロータ3の回転軸AXと平行な面上であって上下方向において第1領域と第2領域の間に配置されている。
このような構成としたので、積層体10および断熱スペーサ12からの押圧力による冷却スペーサ11の変形を防止し、冷却スペーサ11と固定翼6またはスペーサ9との接触面積を保ち、固定翼6やスペーサ9を十分に冷却することができるという効果がある。
(2)さらに好ましい形態のターボ分子ポンプでは、ベース2と冷却スペーサ11の間であって上面視において第1領域と重複しない位置には、冷却スペーサ11に上下方向の押圧力を生じさせるシール部材が配置されない。
このような構成としたので、積層体10および断熱スペーサ12からの押圧力による冷却スペーサ11の変形をさらに防止できるという効果がある。
(3)さらに好ましい形態のターボ分子ポンプでは、シール部材14は断熱スペーサ12よりもロータ3側にある。
このような構成としたので、断熱スペーサ12を真空領域に配置する必要が無く、断熱スペーサ12の材質として、アウトガスを考慮せずに断熱性の高い材質(樹脂等)を使用して、より高い断熱性を確保することができるという効果がある。
(4)さらに好ましい形態のターボ分子ポンプでは、断熱スペーサ12は離散的に配置されている。
このような構成としたので、断熱スペーサ12と冷却スペーサ11との接触面積を低減することができ、断熱スペーサ12と冷却スペーサ11との断熱性を一層高めることができる。
【0052】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1:ターボ分子ポンプ本体、2:ベース、3:ロータ、5:回転翼、6:固定翼、9:スペーサ、10:積層体、11:冷却スペーサ、12:断熱スペーサ、13:ケーシング、14:シール部材、17:ボルト
図1
図2
図3
図4