(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】車輪支持用転がり軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 37/00 20060101AFI20220928BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20220928BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220928BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20220928BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16C37/00 B
F16C33/76 A
F16C33/78 Z
F16C41/00
F16C19/38
(21)【出願番号】P 2018201658
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将充
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196906(JP,A)
【文献】特開昭52-046246(JP,A)
【文献】特開昭48-045735(JP,A)
【文献】特開2010-091054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 41/00
F16C 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有すると共に、アウトボード側に車輪を支持固定する為の回転側フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円錐ころと、
を備え、
前記ハブは、前記回転側フランジを有するハブ輪と、該ハブ輪の外周面に外嵌され、前記ハブ輪のインボード側端部に形成された加締め部によって、前記ハブ輪に位置決めされる少なくとも一つの内輪と、を備え、
前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する、前記複数の円錐ころが設けられた内部空間には、軸受を潤滑する潤滑用グリースが配置され、
前記外輪のインボード側端部の内周面には、エンドキャップが内嵌固定され、
インボード側の前記内輪軌道を有するインボード側の内輪と前記エンドキャップとの対向面間に形成される第1の空間には、熱伝導性部材が前記両対向面間を埋めるように充填さ
れ、
前記熱伝導性部材は、前記潤滑用グリースと異なる、熱伝導性グリースである、
車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記第1の空間は、前記加締め部の外径側で、前記インボード側の内輪の軸方向内端面と前記エンドキャップとの軸方向対向面間に形成される、請求項1に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項3】
インボード側の前記内輪の大鍔部には、エンコーダが取り付けられたスリンガが外嵌固定され、
前記エンドキャップは、非磁性材料から形成され、
前記エンコーダと前記エンドキャップとの対向面間に形成される第2の空間には、前記熱伝導性部材が充填される、請求項1又は2に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為に使用される車輪支持用転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
小型トラック、大型乗用車等、比較的重量が嵩む自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットでは、従来、転動体として円錐ころを複列で備えた複列円錐ころ軸受ユニットを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の複列円錐ころ軸受ユニットでは、ハブスピンドルの外周面の軸方向中間部に円筒面部が設けられ、円筒面部に一対の内輪が、それぞれ締め代を有する状態で外嵌固定されている。さらに、ハブスピンドルの軸方向内端部で軸方向内側の内輪の軸方向内端面よりも軸方向に突出した部分を、径方向外方に塑性変形させることで、加締め部が形成されている。そして、加締め部により、両内輪は、段差面に向けて軸方向外方に押圧されている。
尚、本明細書及び特許請求の範囲の全体で、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向外側を言い、反対に車体の幅方向中央側を、軸方向に関して「内」と言う。
【0004】
また、外輪の軸方向外端部内周面と軸方向外側の内輪の大径側端部外周面との間には、シールリングが設けられると共に、外輪の軸方向内端部には、有底円筒状のカバーが装着されている。これにより、軸受内部の空間内に封入したグリースが外部に漏洩したり、外部空間に存在する異物が該空間内に侵入することを防止している。さらに、軸方向内側の内輪の軸方向内端部にはエンコーダが支持固定されている。そして、図示しないセンサの検出部を、カバーを介して、エンコーダの被検出面に対向させることで、ハブスピンドル(車輪)の回転速度を検出可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような構成を有する複列円錐ころ軸受ユニットでは、軸受外部からの塵埃によりエンコーダが損耗することが無く、耐泥水性にも優れているが、カバーに用いられるオーステナイト系ステンレスは、外輪に用いられる炭素鋼と比べて熱伝導性が低いため、軸受ユニット内に熱がこもりやすい。
【0007】
また、円錐ころ軸受の場合、円錐ころの部分球面である頭部と、部分円錐面である大鍔部とが摺接(滑り摩擦)するため、当該接触部分での摩擦による発熱が大きくなる。軸方向外側(アウトボード側)の内輪の大鍔部は、熱容量が大きいハブ輪の根元部に広範囲に接触しているため、内輪の大鍔部での発熱は、ハブ輪に伝達されて放熱されるが、軸方向内側(インボード側)の内輪の大鍔部は、熱容量が小さい加締め部と部分的に接触しているのみであり、残りの部分は、金属に比べ、はるかに熱伝導率が低い空気に覆われている。このため、軸方向内側の内輪の大鍔部は、温度が上がりやすく、過熱状態となる結果、潤滑不良となる虞がある。
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、インボード側の内輪の大鍔部と円錐ころの頭部との摩擦による発熱を放熱することで、大鍔部が高温になることを抑制できる車輪支持用転がり軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有すると共に、アウトボード側に車輪を支持固定する為の回転側フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円錐ころと、
を備え、
前記ハブは、前記回転側フランジを有するハブ輪と、該ハブ輪の外周面に外嵌され、前記ハブ輪のインボード側端部に形成された加締め部によって、前記ハブ輪に位置決めされる少なくとも一つの内輪と、を備え、
前記外輪のインボード側端部の内周面には、エンドキャップが内嵌固定され、
インボード側の前記内輪軌道を有するインボード側の内輪と前記エンドキャップとの対向面間に形成される第1の空間には、熱伝導性部材が前記両対向面間を埋めるように充填される、車輪支持用転がり軸受ユニット。
(2) 前記第1の空間は、前記加締め部の外径側で、前記インボード側の内輪の軸方向内端面と前記エンドキャップとの軸方向対向面間に形成される、(1)に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
(3) インボード側の前記内輪の大鍔部には、エンコーダが取り付けられたスリンガが外嵌固定され、
前記エンドキャップは、非磁性材料から形成され、
前記エンコーダと前記エンドキャップとの対向面間に形成される第2の空間には、前記熱伝導性部材が充填される、(1)又は(2)に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の効果】
【0010】
上述の様な構成を有する本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットによれば、インボード側の内輪とエンドキャップとの対向面間に形成される第1の空間には、熱伝導性グリースが両対向面間を埋めるように充填されている。これにより、インボード側の内輪の大鍔部と円錐ころの頭部との摩擦による発熱を熱伝導性グリースを介してエンドキャップへ伝導し、該エンドキャップから放熱することで、大鍔部が高温になることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの、
図2に対応する断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの、
図2に対応する断面図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの、
図2に対応する断面図である。
【
図6】本発明の第5実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの、
図2に対応する断面図である。
【
図7】本発明の変形例に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の各実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットに就いて、
図1~6を用いて詳細に説明する。尚、
図1~6の左側は、自動車への組み付け状態で車体の幅方向外側であり、
図1~6の右側は、反対に車体の幅方向中央側となる。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットは、従動輪用であり、外輪1と、ハブ2と、複数の円錐ころ3、3と、複数本のスタッドボルト4と、組合せシールリング5と、エンドキャップ6とを備える。
【0014】
外輪1は、外周面に静止側フランジ7を、内周面に複列(2列)の外輪軌道8a、8bを、それぞれ有している。外輪1は、使用時に、静止側フランジ7を、懸架装置のナックルに結合固定する事により、この懸架装置に支持された状態で回転しない。
【0015】
ハブ2は、ハブ輪9と一対の内輪10、11とを結合する事により構成されており、外輪1の内径側に外輪1と同軸(同芯)に配置されている。
【0016】
ハブ輪9には、外輪1の軸方向外側(アウトボード側)開口から軸方向外方に突出した部分から外径側に延出し、車輪(従動輪)及びディスクロータ等の制動用回転部材を支持固定する為の円輪状の回転側フランジ14が設けられている。回転側フランジ14に設けられた複数の挿通孔14aには、それぞれスタッドボルト4がセレーション嵌合されている。
【0017】
又、ハブ輪9の外周面には、回転側フランジ14の近傍から軸方向内側(インボード側)に円筒状の小径段部13が形成される。そして、一対の内輪10、11は、互いの小鍔部15を当接させた状態(互いの大鍔部16を軸方向に関して反対側に設けた状態)で小径段部13の外周面に圧入によって外嵌され、ハブ輪9の軸方向内側端部に形成された加締め部23により内輪11の軸方向内端面を抑え付けられ、ハブ輪9に位置決め固定される。
【0018】
これにより、外輪1の内周面に設けられた軸方向外側列の外輪軌道8aと対向する部分には、内輪10の外周面に形成された軸方向外側列の内輪軌道12aが設けられている。又、外輪1の内周面に設けられた軸方向内側列の外輪軌道8bと対向する部分には、内輪11の外周面に形成された軸方向内側列の内輪軌道12bが設けられている。
【0019】
円錐ころ3、3は、軸方向外側列の外輪軌道8aと内輪軌道12aとの間部分、及び、軸方向内側列の外輪軌道8bと内輪軌道12bとの間部分に、それぞれ複数ずつ、保持器24、24により保持された状態で転動自在に設けられている。
【0020】
組合せシールリング5は、シールリング5aとスリンガ5bとからなり、外輪1の内周面とハブ2の外周面との間に存在する、複数の円錐ころ3、3が設けられた内部空間28の軸方向外端開口を塞いでいる。シールリング5aは、外輪1の内周面に固定され、スリンガ5bは、断面L字形に形成され、内輪10の大鍔部16の外周面に外嵌固定される。
【0021】
一方、エンドキャップ6は、好ましくは熱伝導性が高い材料(例えば、金属材料)により有底円筒状に構成されており、外輪1のインボード側端部の内周面に組み付けられた状態で、外輪1の軸方向内端開口を塞いでいる。エンドキャップ6は、外輪1のインボード側内端部の内周面に嵌合する円筒部30と、円筒部30から内径側に折り曲げられた円輪部31と、円輪部31から軸方向内方に向かって縮径するように傾斜するテーパ部32と、テーパ部32より径方向内側に位置する平板部33と、を備える。
【0022】
また、
図2に示すように、インボード側の内輪11には、その大鍔部16の外周面に、円筒部21及び立板部22を有する断面L字形のスリンガ20が外嵌固定されている。スリンガ20の立板部22の軸方向内側面には、車輪の回転速度を検出する為のエンコーダ19が取り付けられている。この場合、エンコーダ19の磁束信号は、エンドキャップ6の円輪部31を介して、エンドキャップ6の軸方向内側に配置された、図示しない回転検出センサによってセンシングされる。このため、エンドキャップ6は、非磁性材料で形成される。
【0023】
ここで、本実施形態では、加締め部23の外径側で、インボード側の内輪11とエンドキャップ6のテーパ部32との軸方向対向面間に形成される第1の空間S1に、熱伝導性部材である熱伝導性グリースG1が両対向面間を埋めるように充填されている。
また、スリンガ20に取り付けられるエンコーダ19とエンドキャップ6の円輪部31との対向面は、第1の空間S1と連通し、該第1の空間S1の対向面間の幅以下の幅で互いに近接する第2の空間S2を形成する。
【0024】
特に、スリンガ20の立板部22にエンコーダ19が取り付けられている場合は、第2の空間S2の軸方向幅が狭いほど、エンコーダ19の表面と図示しないセンサの検出部を近付けることができ、回転速度の検出精度が向上する。
しかしながら、ハブユニット軸受では、車両の走行時に、回転側フランジ14に路面反力に基づくモーメント荷重が加わり、外輪1の中心軸に対してハブ2の中心軸は、回転フランジ14に加わるモーメント荷重の大きさや方向などに応じて多少変化し、おおよそ、ハブ2の中心軸上で、軸方向に関して複列の円すいころ3、3同士の中央位置近傍を中心として傾斜する可能性がある。このため、第2の空間S2の軸方向幅は、車両の走行条件により変動するのであまり狭くできず、必ずしも、第1の空間S1内に位置する熱伝導性グリースG1が第2の空間S2に向かって流動するのを抑制できる対向面間の幅寸法とすることはできない。
【0025】
そこで、本例では、エンドキャップ6の円筒部30の内周面と、スリンガ20の立板部22及びエンコーダ19の外周面を該第1の空間S1の対向面間の幅以下の隙間で近接させて、第3の空間S3を形成させ、熱伝導性グリースG1が第1の空間S1から第3の空間S3まで連続して充填されている。
この様な構造によれば、車両の走行条件の変動によりハブ2の中心軸に傾きが生じた場合に、第2の空間S2の軸方向幅が広がる時は、第3の空間S3の径方向隙間が狭まるという様に、空間容積の増減が互いに相殺しあう相互作用で、熱伝導性グリースG1を第1の空間S1から第3の空間S3内に保持し易くしている。
なお、スリンガ20の立板部22の外径部分をアウトボード側に曲げて(スリンガ20を断面コの字形にして)、上記熱伝導性グリースG1の空間内での保持効果をさらに高めることもできる。
【0026】
熱伝導性グリースG1としては、比較的高粘度で、温度によって粘度の変化が少ない油(例えば、変性シリコン油など)を基油とし、熱伝導率が高く、非磁性の金属(銅、アルミなど)や、金属酸化物(アルミナ、酸化マグネシウムなど)、または、窒化アルミニウムなど)の顆粒、或いは、カーボンファイバーなどを分散させたグリース状のペーストを使用できる。
【0027】
これにより、インボード側の内輪11の大鍔部16と円錐ころ3の頭部とが摺接した際、摩擦による大鍔部16での発熱は、熱伝導性グリースG1を介して、エンドキャップ6へ伝導し、一部の熱は、エンドキャップ6の表面から大気中に放熱される。また、エンドキャップ6に伝達された熱は、外輪1にも伝達され、さらに外輪1から熱容量が大きい懸架装置のナックルに伝達されて懸架装置からも放熱される。
【0028】
また、大鍔部16の熱は、スリンガ20にも伝達され、さらにスリンガ20から第2の空間S2に充填された熱伝導性グリースG1と、第3の空間S3に充填された熱伝導グリースG1に分岐して伝達される。そして、第2の空間S2の熱伝導性グリースG1に伝達された熱は、エンドキャップ6に伝達され、上記と同様に、一部大気中に放熱されると共に、外輪1に伝達される。第3の空間S3の熱伝導性グリースG1に伝達された熱も、外輪1に伝達されて、第2の空間S2の熱伝導性グリースG1に伝達された熱と合流し、いずれも懸架装置から放熱される。これにより、大鍔部16が高温になることを抑制できる。
【0029】
このように、大鍔部16が高温になることが抑制できるので、軸受ユニットが高温となって、内部空間28の圧力が上昇することも抑えられる。即ち、内部空間28の圧力上昇によって内部空間28の空気が漏れた後、内部空間28が冷却されて生じうる、シールリング5のシールリップの変形や、摺接面への貼り付きによる回転トルクの上昇、また、エンドキャップ6が軸方向内側に押し出されたり、円輪部31が膨らんで回転検出センサと干渉することによるセンシング精度への影響といった課題が生じるのを防止することができる。
【0030】
また、内部空間28のうち、スリンガ20より軸方向外側には、軸受を潤滑する潤滑用グリースG2が配置されているが、第2の空間S2と第3の空間S3の相互作用によって、該第1の空間S1内の熱伝導性グリースG1が封止され、潤滑用グリースG2と混ざり合うことが防止できると共に、該潤滑用グリースG2が該第1の空間S1側に移動して潤滑不良になることを防止できる。
さらに、第2の空間S2には、熱伝導性グリースGが充填されているので、潤滑用グリースG2が第1の空間S1側に移動するのをより確実に防止することができ、さらに、大鍔部16からスリンガ20及びエンコーダ19に伝導された熱を、熱伝導性グリースG1を介して、エンドキャップ6へ伝導することができ、大鍔部16の発熱をさらに放熱することができる。
なお、軸受を潤滑する潤滑用グリースG2としては、基油が鉱油または合成炭化水素油を含有するウエア系グリースなど、基油が鉱油または合成潤滑油を含有し、熱伝導性グリースG1と相溶性のない一般的な軸受用グリースが使用される。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、インボード側の内輪11とエンドキャップ6との対向面間に形成される第1の空間S1に、熱伝導性グリースG1が両対向面間を埋めるように充填されることで、該内輪11の大鍔部16と円錐ころ3の頭部との摩擦による発熱を熱伝導性グリースG1を介してエンドキャップ6から放熱することができ、大鍔部16が高温になることを抑制できる。また、エンコーダ19とエンドキャップ6との対向面間は、第1の空間S1と連通し、該第1の空間S1の対向面間の幅以下の幅で互いに近接する第2の空間S2及び第3の空間S3を形成するので、該第2の空間S2及び第3の空間S3の相互作用によって、該第1の空間S1に熱伝導性グリースG1が封止され、熱伝導性グリースG1が潤滑用グリースG2と混ざり合うことが防止できると共に、該潤滑用グリースS2が該第1の空間S1側に移動して潤滑不良になることを防止できる。
【0032】
なお、上記実施形態では、スリンガ20にエンコーダ19が取り付けられる構成としているが、エンコーダ19を有さず、単にスリンガ20が設けられる構成としてもよい。この場合、スリンガ20とエンドキャップ6との対向面間が、互いに近接し、第1の空間S1と連通する第2の空間S2及び第3の空間S3を形成する。エンコーダ19は、ゴム又は樹脂製で、熱伝導性が低いが、スリンガ20は、金属製で、熱伝導性がよいので、単にスリンガのみを設けた場合には、第2の空間S2に熱伝導性グリースG1が充填されることで、放熱性をさらに向上させることができる。また、エンコーダ19を有しない場合には、エンドキャップ6は、非磁性材料でなくてもよい。
また、第2の空間S2及び第3の空間S3には、熱伝導性グリースG1が充填されていなくてもよい。
【0033】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットについて、
図3を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一、又は同等部分については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。また、以下に説明する、第2~第5実施形態では、インボード側の内輪の大鍔部付近の構成において、第1実施形態のものと異なるものであり、
図2に対応する図面を参照して各実施形態を説明する。
【0034】
第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットでは、第1実施形態と比べて、外輪1のインボード側端部が、内輪11の軸方向内端面よりもインボード側に長く設けられている。このため、外輪1のインボード側端部の内周面に内嵌固定されたエンドキャップ6aの円輪部31にエンコーダ19を近接させるべく、エンコーダ19が取り付けられるスリンガ20aの円筒部21が内輪11の軸方向内端面から軸方向内側に突出している。
なお、エンドキャップ6aは、円輪部31の長さやテーパ部32の傾斜角度が異なる以外は、第1実施形態のエンドキャップ6と略同じ形状を有する。
【0035】
したがって、本実施形態においても、加締め部23の外径側、且つ、スリンガ20aの円筒部21の内径側で、インボード側の内輪11とエンドキャップ6aの円輪部31との対向面間に形成される第1の空間S1には、熱伝導性グリースG1が両対向面間を埋めるように充填されている。また、スリンガ20aに取り付けられるエンコーダ19とエンドキャップ6の円輪部31との対向面は、第1の空間S1と連通し、該第1の空間S1の対向面間の幅以下の幅で互いに近接する第2の空間S2及び第3の空間S3が形成される。さらに、この第2の空間S2及び第3の空間S3にも、第1の空間S1から連続して、熱伝導性グリースG1が充填されている。
【0036】
これにより、本実施形態では、内輪11の内端面と、スリンガ20aの円筒部21の両面から熱伝導性グリースG1への放熱が可能なので、第1実施形態に比べて放熱性が向上する。
その他の構成及び作用については、第1実施形態と同様である。
なお、本実施形態においても、第2の空間S2及び第3の空間S3には、熱伝導性グリースG1が充填されていなくてもよい。
【0037】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットについて、
図4を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一、又は同等部分については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0038】
第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットでは、外輪1のインボード側端部の内周面に、円筒部41及び立板部42を有する、断面L字形の他のスリンガ40が取り付けられている。
【0039】
また、エンドキャップ6bは、円筒部30aが、円輪部31に対して軸方向内側に設けられており、外輪1のインボード側端部の内周面と嵌合している。したがって、他のスリンガ40は、エンドキャップ6bが内嵌固定される位置、及びスリンガ20が内輪11に外嵌固定される位置よりもアウトボード側となる位置に内嵌固定されている。他のスリンガ40は、円筒部41が立板部42に対して軸方向外側となる状態で取り付けられており、立板部42の軸方向内側面とスリンガ20の立板部22の軸方向外側面とが軸方向に近接対向している。さらに、立板部42の内径端部は、スリンガ20の円筒部21の外周面と径方向に近接対向している。
【0040】
これにより、スリンガ20と他のスリンガ40との軸方向対向面間に第1の空間S1の対向面間の幅以下の隙間で近接する第4の空間S4が形成される。また、第2の空間S2と第4の空間とを連通する位置には、エンコーダ19及びスリンガ20の外周面と、外輪1の内周面との間に形成され、径方向すきまが第2の空間S2及び第4の空間S4の軸方向幅より大きい、第3の空間S3が形成される。そして、第1の空間S1から第4の空間S4には、熱伝導性グリースG1が充填されている。
【0041】
したがって、本実施形態によれば、他のスリンガ40をさらに取り付けた効果と、ハブ2の中心軸に傾きが生じた場合に、第2の空間S2の軸方向幅が広がる時は、第4の空間S4の軸方向幅が狭まるという様に、空間容積の増減を互いに相殺しあう相互作用による、熱伝導性グリースG1を第1の空間S1から第4の空間S4内に保持する効果とで、潤滑用グリースG2が熱伝導性グリースG1と混ざり合うことをより確実に防止できる。
また、第1の空間S1及びラビリンス空間S2~S4には、熱伝導性グリースG1が充填されているので、インボード側の内輪11の大鍔部16における熱を、熱伝導性グリースG1を介して、エンドキャップ6bだけでなく、外輪1、及び、外輪1に固定したナックルを介して、放熱することができる。
また、ラビリンス空間S2~S4に熱伝導性グリースG1が充填されているので、第1の空間S1における熱伝導性グリースG1の流動性が抑えられ、大鍔部16の放熱を長期に亘って行うことができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態と同様である。
【0042】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットについて、
図5を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一、又は同等部分については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0043】
第4実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットでは、インボード側の内輪11の内端部、即ち、内輪11の大鍔部16の内端部に、断面L字形に切り欠かれた小径段差部50が形成される。また、エンドキャップ6cは、円輪部31と平板部33との間が、テーパ部の代わりに、小径段差部50と対向する円筒部32aによって形成されている。
【0044】
したがって、内輪11に小径段差部50とエンドキャップ6cの円筒部32aとの径方向対向面間に、熱伝導性グリースG1が充填される第1の空間S1が形成される。エンドキャップ6cの円筒部32aの少なくとも一部は、軸方向から見て、内輪11の大鍔部16と重なるので、該第1の空間S1の熱伝導性グリースG1が薄く充填される。
【0045】
また、本実施形態においても、エンコーダ19とエンドキャップ6の円輪部31との軸方向対向面間に、第1の空間S1と連通する第2の空間S2が形成され、第2の空間S2に、第1の空間S1と連続して、熱伝導性グリースG1が充填される。
【0046】
したがって、本実施形態によれば、インボード側の内輪11の大鍔部16における熱を、薄い層状の熱伝導性グリースG1を介して、エンドキャップ6cに伝導することができ、放熱性を向上できる。
また、ハブ2の中心軸に傾きが生じた場合に、第1の空間S1の径方向隙間が広がる時は、第2の空間S2の軸方向幅が狭まるという様に、空間容積の増減を互いに相殺しあう相互作用で、熱伝導性グリースG1を第1及び第2の空間S1、S2内に保持するので、潤滑用グリースG2が熱伝導性グリースG1と混ざり合うことをより確実に防止できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態と同様である。
なお、本実施形態において、第2の空間S2には、熱伝導性グリースGが充填されない構成であってもよい。
【0047】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットについて、
図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一、又は同等部分については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0048】
第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットでは、スリンガ20bは、インボード側の内輪11に外嵌固定される円筒部21から内径側に折れ曲がり、内輪11の軸方向内端面とエンドキャップ6dとにそれぞれ離間して、第1の空間S1内に延在する内径側立板部60をさらに備える。
第1の空間S1は、内径側立板部60の軸方向両側部(内輪11と内径側立板部60との間と、円輪部31bと内径側立板部60との間の、各空間)に形成されており、第1の空間S1には熱伝導性グリースG1が充填されている。
【0049】
また、エンドキャップ6dは、スリンガ20bの形状に倣って、円筒部30aから連続して、円輪部31a、他の円筒部34,他の円輪部31bによってクランク形状に形成される。
したがって、スリンガ20bの円筒部21とエンドキャップ6dの他の円筒部34との径方向対向面間、及びエンコーダ19とエンドキャップ6dの円輪部31aとの軸方向対向面間に、該第1の空間S1と連通する、第2の空間S2が形成され、この第2の空間S2に熱伝導性グリースG1が充填されている。また、この場合、図示しない回転速度センサは、このクランク形状によってエンドキャップ6dに形成されたコの字状空間S3内に配置される。
【0050】
さらに、インボード側の内輪11の軸方向内端面には、凹部61が形成され、該凹部61内にも熱伝導性グリースG1が充填される。
【0051】
したがって、本実施形態によれば、インボード側の内輪11の大鍔部16における熱は、スリンガ20bにも伝導され、第1の空間S1及び第2の空間S2内の熱伝導性グリースG1を介して、エンドキャップ6dに伝導することができ、放熱性を向上できる。
また、内輪11の軸方向内端面に形成された凹部61によって、軸方向内端面の表面積を増加することができ、凹部61内の熱伝導性グリースG1によって、放熱性をさらに向上できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態と同様である。
【0052】
なお、エンコーダ19は、スリンガ20bの内径側立板部60の軸方向内側面に取り付けられてもよい。また、本実施形態は、エンコーダ19を有しない構成であってもよい。ただし、エンコーダ19を有する場合には、エンドキャップ6dは、非磁性材料から形成される。
【0053】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形及び改良が可能である。
例えば、上記実施形態では、
図1に示すように、ハブ2は、ハブ輪9と、一対の内輪10、11とを有する構成としているが、本発明はこれに限定されない。即ち、
図7に示す変形例のように、ハブ2aは、ハブ輪9aと内輪11とを備え、軸方向外側列の内輪軌道12aは、ハブ輪9aの外周面に設けられ、軸方向内側の内輪軌道12bを有する内輪11が、加締め部23によって、ハブ輪9aの小径段部13に位置決め固定される構成であってもよい。また、内部空間28の軸方向外端開口は、外輪1の外端部に支持固定されるシールリング5cによって塞がれる。なお、
図7において、インボード側の内輪11の大鍔部16の熱を放熱する構成は、第1実施形態と同様である。
また、ハブ2aがハブ輪9aとインボード側の内輪11とを有する本変形例の構成は、第2~第5実施形態にも適用可能である。
【0054】
また、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、インボード側のスリンガと、外輪又はエンドキャップとの間に、接触タイプのシール構造を設け、熱伝導性グリースG1と潤滑用グリースG2が混じり合うのを防止するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットは、複列の円錐ころの互いのピッチ円直径を異ならせた、所謂、異径PCDタイプの複列円錐ころ軸受としてもよい。
また、本発明の熱伝導性部材は、本実施形態の熱伝導性グリースに限定されず、転がり軸受ユニットの回転を許容し、且つ、熱伝導性を有する部材であればよい。
本発明のエンドキャップは、上記実施形態の金属製のエンドキャップに限定されず、少なくとも外輪に嵌合される円筒部が金属材料で構成され、他の部分が樹脂材料で構成されたエンドキャップとしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 外輪
2、2a ハブ
3 円錐ころ
4 スタッドボルト
5 シールリング
6、6a、6b、6c、6d キャップ
7 静止側フランジ
8a、8b 外輪軌道
9、9a ハブ輪
10、11 内輪
14 回転側フランジ
12a、12b 内輪軌道
13 小径段部
14 大鍔部
19 エンコーダ
20、20a、20b スリンガ
23 加締め部
24 保持器
28 内部空間
40 他のスリンガ
50 小径段差部
60 内径側立板部
61 凹部
S1 第1の空間
S2 第2の空間
G1 熱伝導性グリース
G2 潤滑用グリース