(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】徐放性複合粒子、徐放性複合粒子の製造方法及び乾燥粉体
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20220928BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20220928BHJP
C09K 23/56 20220101ALN20220928BHJP
【FI】
C09K3/00 110B
C08J3/12 CER
C09K23/56
(21)【出願番号】P 2018209862
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】薮原 靖史
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0275520(US,A1)
【文献】特開2001-329085(JP,A)
【文献】特開平10-007704(JP,A)
【文献】特表2014-533296(JP,A)
【文献】特開昭55-047138(JP,A)
【文献】藤澤秀次,Pickering Emulsionを用いた水系でのナノセルロース/疎水性高分子複合化技術,機能紙研究会誌,55,日本,2016年10月,25-29ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3
C08J3
C09K23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含むコア粒子と、
上記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆い、且つ微細化セルロースにより構成された被覆層と、を有し、
上記コア粒子及び上記被覆層のうち少なくとも上記被覆層に、機能性成分を含有し、
上記微細化セルロースと上記コア粒子は、結合して不可分の状態にあ
り、
上記コア粒子に含まれる上記重合性モノマーは、アクリル系モノマー、多官能のビニル系モノマー、または環状エーテル構造を有するモノマーであり、
上記コア粒子に含まれる上記ポリマーは、アクリル系ポリマー、または環状エーテル構造を有するポリマーであることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項2】
上記コア粒子が上記ポリマーを含み、そのポリマーを含むコア粒子が、生分解性を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の徐放性複合粒子。
【請求項3】
上記生分解性を有する化合物は、セルロースアセテートブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ステアリン酸、またはパラフィンワックスであることを特徴とする請求項2に記載の徐放性複合粒子。
【請求項4】
上記機能性成分として、香料、消臭剤、防カビ剤、肥料、pH調整剤、農薬、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分、植物ホルモン又は抗菌性物質の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1
~請求項3のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子。
【請求項5】
上記コア粒子に含まれる上記重合性モノマーは、ジビニルベンゼン、またはジエチレングリコールジアクリレートであり、
上記コア粒子に含まれる上記ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、またはポリヘキサメチレンオキシドであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子。
【請求項6】
上記被覆層の厚みは、3nm以上1000nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子。
【請求項7】
上記被覆層の厚みの値の変動係数は、0.5以下であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子。
【請求項8】
セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得る第1工程と、
上記第1工程で得た上記分散液を使用して、少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含む液滴の表面の少なくとも一部を上記微細化セルロースで覆い、上記液滴をエマルションとして安定化させる第2工程と、
上記第2工程で安定化させた上記液滴を、液滴の表面の少なくとも一部が上記微細化セルロースで覆われた状態で固体化してコア粒子とすることで、上記コア粒子の表面の少なくとも一部を上記微細化セルロースで覆い、かつ上記コア粒子と上記微細化セルロースとを不可分の状態にする第3工程と、
上記コア粒子の表面を被覆する上記微細化セルロースに機能性成分を付与する第4工程と、を備え
、
上記液滴に含まれる上記重合性モノマーは、アクリル系モノマー、多官能のビニル系モノマー、または環状エーテル構造を有するモノマーであり、
上記液滴に含まれる上記ポリマーは、アクリル系ポリマー、または環状エーテル構造を有するポリマーであることを特徴とする徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項9】
上記第2工程において、
上記微細化セルロースの分散液に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる工程、常温にて固体であるポリマーを上記微細化セルロースの分散液への相溶性が低い溶媒で溶解したものを上記微細化セルロースの分散液に添加しエマルション化させる工程、及び、上記微細化セルロースの分散液に常温にて固体であるポリマーを添加し上記ポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させる工程のうちいずれか1つの工程を用いることで、上記エマルションとして安定化させた上記液滴を得ることを特徴とする請求項
8に記載の徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項10】
上記コア粒子は、生分解性を有する化合物をさらに含み、
上記生分解性を有する化合物は、セルロースアセテートブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ステアリン酸、またはパラフィンワックスであることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項11】
上記液滴に含まれる上記重合性モノマーは、ジビニルベンゼン、またはジエチレングリコールジアクリレートであり、
上記液滴に含まれる上記ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、またはポリヘキサメチレンオキシドであることを特徴とする請求項8~請求項10のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項12】
上記第3工程において、上記コア粒子の表面を被覆する上記微細化セルロースの厚みを3nm以上1000nm以下の範囲内とすることを特徴とする請求項8~請求項11のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子を含み、固形分率が80%以上である乾燥粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分を含有する徐放性複合粒子、徐放性複合粒子の製造方法及び上記の徐放性複合粒子を含有する乾燥粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材中のセルロース繊維を、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化し、新規な機能性材料として利用しようとする試みが活発に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、木材セルロースに対しブレンダーやグラインダーによる機械処理を繰り返すことで、微細化セルロース、すなわちセルロースナノファイバー(以下、CNFとも称する)が得られることが開示されている。この方法で得られるCNFは、短軸径が10~50nm、長軸径が1μmから10mmに及ぶことが報告されている。このCNFは、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強さを誇り、250m2/g以上の膨大な比表面積を有することから、樹脂強化用フィラーや吸着剤としての利用が期待されている。
【0004】
また、木材中のセルロース繊維を微細化しやすいように予め化学処理したのち、家庭用ミキサー程度の低エネルギー機械処理により微細化してCNFを製造する試みが活発に行われている。上記化学処理の方法は、特に限定されないが、セルロース繊維にアニオン性官能基を導入して、微細化しやすくする方法が好ましい。セルロース繊維にアニオン性官能基が導入されることによってセルロースミクロフィブリル構造間に浸透圧効果で溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化に要するエネルギーを大幅に減少することができる。上記アニオン性官能基の導入方法は、特に限定されないが、例えば非特許文献1には、リン酸エステル化処理を用いてセルロースの微細繊維表面を選択的にリン酸エステル化処理する方法が開示されている。また、特許文献2には、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行う方法が開示されている。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物と、セルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい旨が記載されている。
【0005】
また、比較的安定なN-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)を触媒として用い、セルロースの微細繊維表面を選択的に酸化する方法も報告されている(例えば、特許文献3を参照)。TEMPOを触媒として用いる酸化反応(TEMPO酸化反応)は、水系、常温、常圧で進行する環境調和型の化学改質が可能であり、木材中のセルロースに適用した場合、結晶内部には反応が進行せず、結晶表面のセルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素のみを選択的にカルボキシ基へと変換することができる。
【0006】
TEMPO酸化によって選択的に結晶表面に導入されたカルボキシ基同士の電離に伴う浸透圧効果により、溶媒中で一本一本のセルロースミクロフィブリル単位に分散させた、セルロースシングルナノファイバー(以下、CSNFとも称する)を得ることが可能となる。CSNFは、表面のカルボキシ基に由来した高い分散安定性を示す。木材からTEMPO酸化反応によって得られる木材由来のCSNFは、短軸径が3nm前後、長軸径が数十nm~数μmに及ぶ高アスペクト比を有する構造体であり、その水分散液及び成形体は高い透明性を有することが報告されている。また、特許文献4には、CSNF分散液を塗布乾燥して得られる積層膜が、ガスバリア性を有することが報告されている。
【0007】
ここで、CNFの実用化において、得られる微細化セルロース分散液(CNF分散液とも称す)の固形分濃度が0.1~5%程度と低くなってしまうことが課題となっている。例えば微細化セルロース分散体を輸送しようとした場合、大量の溶媒を輸送するに等しいために輸送費の高騰を招き、事業性が著しく損なわれるという問題がある。また、樹脂強化用の添加剤として用いる際にも、固形分が低いことによる添加効率の悪化や、溶媒である水が樹脂と馴染まない場合には複合化が困難となるといった問題がある。また、含水状態で取り扱う場合、含水CNF分散体の腐敗の恐れもあるため、冷蔵保管や防腐処理などの対策が必要となり、コストが増加する恐れもある。
【0008】
しかしながら、単純に熱乾燥などで、CNF分散液中から溶媒を除去してしまうと、微細化セルロース同士が凝集・角質化、あるいは膜化してしまい、添加剤として安定な機能発現が困難になってしまう。さらにCNFの固形分濃度が低いため、乾燥による溶媒除去工程自体に多大なエネルギーが掛かってしまうことも事業性を損なう一因となる。
このように、CNFを分散液の状態で取り扱うこと自体が事業性を損なう原因となるため、CNFを容易に取り扱うことができる新たな取扱い様態を提供することが強く望まれている。
以上例示したように、カーボンニュートラル材料であるCNF又はCSNFをはじめとする、微細化セルロースに新たな機能性を付与する高機能部材開発に関して様々な検討がなされている。
【0009】
一方、従来から様々な分野における機能性材料として、各種マイクロ粒子やマイクロカプセルが実用化されている。通常マイクロ粒子は各種ポリマーから形成されたマイクロサイズオーダーの粒子であり、例えば、充填材、スペーサー、研磨剤等として利用されている。従来の樹脂粉体の作製方法としては、例えば、界面活性剤を用いてエマルション化させたモノマーを重合させて作製する方法や、樹脂の塊状物を-50~-180℃の低温に冷却しながら機械粉砕・分級して微細な粉体を得る方法(特許文献5)などが挙げられる。しかしながら、前者は、例えば、攪拌操作や移送、助剤添加、塗工などの各工程で、発泡による泡トラブルを引き起こしたり、生産効率の低下を招いたり、界面活性剤の系外流出による廃水負荷も問題となっている。また、後者は、例えば、粉砕・分級作業には多くの時間が必要であり、粉体の形状が均一ではないという課題がある。
【0010】
また、マイクロ粒子を芯物質として粒子表面を壁膜で被覆したマイクロカプセル構造とすることにより、さらなる機能性の付与・発現が試みられている。具体的には、例えば、芯物質内に磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料等の機能性材料を取り込ませた上でマイクロカプセル化することで、該機能性材料の保護や、放出挙動の制御などが可能となる。芯物質を覆う壁膜自体に機能性材料をさらに付与することも可能である。しかし、マイクロカプセルは芯物質を覆う壁膜を破壊することで芯物質の効能を発揮するが、その効能は壁膜を破壊した瞬間に放出されつくしてしまうため、継続して効能を維持することが困難である。また、マイクロカプセルは加工時に破壊されやすいため、ハンドリング性が悪いという問題点がある。この問題を解決すべく、多孔質微粒子に機能性物質を担持させ、その表面を硬化性化合物で被覆することで、機能性物質を保護するという方法(特許文献6参照)がある。しかし、この方法は、多孔質微粒子の表面を硬化性物質で被覆するため、硬化時に凝集物が発生してしまい、分散性が悪い。
このように、徐放性、分散性に優れたマイクロ粒子を容易に取り扱うことができる新たな取扱い様態を提供することが強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2010-216021号公報
【文献】国際公開第2014/088072号
【文献】特開2008-001728号公報
【文献】国際公開第2013/042654号
【文献】特開2001-288273号公報
【文献】特開2009-012996号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Noguchi Y, Homma I, Matsubara Y. Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation. Cellulose. 2017;24:1295.10.1007/s10570-017-1191-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、セルロースナノファイバーの特性を維持しつつ、機能性成分の効果を長期間維持することができ、取扱いが容易な徐放性複合粒子、その徐放性複合粒子の製造方法、及びその徐放性複合粒子を含んだ乾燥粉体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
課題を解決するために、本発明の一態様である徐放性複合粒子は、少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含むコア粒子と、上記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆い、且つ微細化セルロースにより構成された被覆層と、を有し、上記コア粒子及び上記被覆層のうち少なくとも上記被覆層に、機能性成分を含有し、上記微細化セルロースと上記コア粒子は、結合して不可分の状態にあることを要旨とする。
【0015】
本発明の一態様に係る徐放性複合粒子の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得る第1工程と、上記分散液中において少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含む液滴の表面の少なくとも一部を上記微細化セルロースで覆い、上記少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含む液滴をエマルションとして安定化させる第2工程と、
上記少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含む液滴の表面の少なくとも一部が上記微細化セルロースで覆われた状態で、上記少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含む液滴を固体化してコア粒子とすることで、上記コア粒子の表面の少なくとも一部を上記微細化セルロースで覆い、かつ上記コア粒子と上記微細化セルロースとを不可分の状態にする第3の工程と、上記コア粒子の表面を被覆する上記微細化セルロースに機能性成分を付与する第4の工程と、を有する。
本発明の一態様に係る乾燥粉体は、上述の徐放性複合粒子を含み、固形分率が80%以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、セルロースナノファイバーの特性を維持しつつ、機能性成分の効果を長期間維持することができ、取扱いが容易な徐放性複合粒子、その徐放性複合粒子の製造方法、及びその徐放性複合粒子を含んだ乾燥粉体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る複合粒子の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るCNFを用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の重合性モノマー又はポリマーを固体化することで得られた複合粒子と、複合粒子の被覆層に機能性成分を付加することで得られる徐放性複合粒子の概略図である。
【
図3】実施例1で得られた微細化セルロースの水分散液の分光透過スペクトル測定結果である。
【
図4】実施例1で得られた微細化セルロースの水分散液に対し、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果である。
【
図5】実施例1で得られた徐放性複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果を示す図(SEM画像)である。
【
図6】実施例1で得られた徐放性複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって高倍率で観察した結果を示す図(SEM画像)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
<複合粒子>
まず、本発明の実施形態に係る複合粒子4について説明する。
図1は、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子3の表面の少なくとも一部に、微細化セルロース1(以下、セルロースナノファイバー、CNFとも称する)により構成された被覆層2を有する複合粒子4の概略図である。
なお、本明細書における「微細化セルロース」とは、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下の範囲内である繊維状セルロースを意味する。
【0020】
徐放性複合粒子となる複合粒子4は、少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを含んだ粒子であるコア粒子3を含有し、コア粒子3の表面の少なくとも一部に、微細化セルロース1により構成された被覆層2を有する。コア粒子3と微細化セルロース1とが結合して不可分の状態になっている。複合粒子4は、コア粒子3及び被覆層2の少なくとも被覆層2に機能性成分を含有する。
コア粒子3の表面の60%以上、好ましくは90%以上に被覆層2が設けられていることが好ましい。被覆層2をコア粒子3の表面の60%以上設けることにより、複合粒子の分散性が向上し、機能性成分を十分に付与可能となる。
【0021】
複合粒子4の製造方法は、特に限定されないが、例えば、微細化セルロース1を用いたO/W型ピッカリングエマルションを形成させ、エマルション内部の液滴を固体化させて固体のコア粒子とする。これによって、コア粒子3と微細化セルロース1とが結合して不可分の状態にある複合粒子4を得ることができる。微細化セルロース1を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、液滴を形成することが可能であり、分散性の高い複合粒子4を得ることができる。
【0022】
本明細書における「不可分」とは、例えば、複合粒子4を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子4を精製・洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化セルロース1とコア粒子3とが分離せず、微細化セルロース1によるコア粒子3の被覆状態が保たれることを意味する。
上記の「分離せず」とは、例えば、90%以上分離しない場合を指す。
被覆状態の確認は、例えば、走査型電子顕微鏡による複合粒子4の表面観察により確認することができる。
【0023】
なお、複合粒子4において、微細化セルロース1とコア粒子3の結合メカニズムについては定かではないが、次のように推察される。すなわち、複合粒子4が、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製される。このため、エマルション内部の液滴に微細化セルロース1が接触した状態で、液滴が固体化する。この結果、固体化後に得られる複合粒子4において、コア粒子3の表面に存在する微細化セルロース1の少なくとも一部がコア粒子3の内部に取り込まれた状態となることが予想される。以上の理由により、物理的に微細化セルロース1が固体化後のコア粒子3に固定化されて、最終的に、コア粒子3と微細化セルロース1とが不可分な状態に至ると推察される。
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
【0024】
また、本実施形態の複合粒子4は、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、複合粒子4の形状が、O/W型エマルションに由来した真球状となることが特徴である。詳細には、真球状のコア粒子3の表面に微細化セルロース1からなる被覆層2が比較的均一な厚みで形成された態様となる。
被覆層2の平均厚みは、例えば、複合粒子4を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行って測定する。具体的には、被覆層2の平均厚みは、画像中の複合粒子4の断面像における被覆層2の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、その測定値の平均値を取ることで算出できる。
【0025】
また、本実施形態の複合粒子4は、比較的揃った厚みの被覆層2で均一に被覆されていることが特徴である。具体的には、上述した被覆層2の厚みの値の変動係数は、0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。微細化セルロース1を含む被覆層2の厚みの値の変動係数が0.5を超える場合には、例えば、複合粒子4の回収が困難となることがある。
さらに、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
【0026】
<徐放性複合粒子の製造方法>
図2に、本実施形態の徐放性複合粒子9の製造方法の一例を示す。本実施形態に係る徐放性複合粒子9は、次の第1工程~第4工程の製造工程を行うことで徐放性複合粒子9を製造することができる。
第1工程は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液6を得る工程である。
第2工程は、微細化セルロース1の分散液6中で、液滴5の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、液滴5をエマルションとして安定化させる工程である。
第3工程は、液滴5の表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で覆われた状態で、液滴5を固体化してコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、かつコア粒子3と微細化セルロース1とを不可分の状態にする工程である。
第4工程は、コア粒子3を被覆している微細化セルロース1に少なくとも一種類の機能性成分を付与する工程である。
【0027】
以上の製造方法により得られた徐放性複合粒子9は、溶媒中の分散体として得られる。さらに、分散液から溶媒を除去することにより、徐放性複合粒子9は乾燥固形物(乾燥粉体)として得られる。
溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって余剰の溶媒を除去し、さらにオーブンで熱乾燥することで乾燥固形物として得ることができる。この際、得られる乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体(乾燥粉体)として得られる。この理由としては定かではないが、次のように推察される。
【0028】
すなわち、通常、微細化セルロース分散体から溶媒を除去すると、微細化セルロース同士が強固に凝集、膜化することが知られている。一方、徐放性複合粒子9を含む分散液の場合、微細化セルロース1が表面に固定化された真球状の複合粒子であるため、溶媒を除去しても微細化セルロース1同士が凝集することなく、複合粒子間の点と点で接するのみである。このため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られると考えられる。また、徐放性複合粒子9同士の凝集がないため、乾燥粉体として得られた徐放性複合粒子9を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も徐放性複合粒子9の表面に結合された微細化セルロース1に由来した分散安定性を示す。
【0029】
また、徐放性複合粒子9の乾燥粉体は、溶媒をほとんど含まず、さらに溶媒に再分散可能であることを特徴とする乾燥固形物である。具体的には、乾燥粉体は、固形分率を80%以上となっている。好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。本発明を採用することで、固形分率を95%以上にすることができる。本実施形態では、徐放性複合粒子9を含む分散液から溶媒をほぼ除去することができる。このため、本実施形態の徐放性複合粒子9の乾燥粉体は、例えば、輸送費の削減、腐敗防止、添加率向上、樹脂との混練効率向上、といった観点から好ましい効果を得る。なお、乾燥処理により固形分率を80%以上にした際、微細化セルロース1は吸湿しやすいため、空気中の水分を吸着して固形分率が経時的に低下する可能性がある。しかしながら、徐放性複合粒子9は乾燥粉体として容易に得られ、さらに再分散させ得ることが特徴である本発明の技術的思想を考慮すると、徐放性複合粒子9を含む乾燥粉体の固形分率を80%以上とする工程を含む乾燥固形物の製造方法により製造された乾燥固形物であれば、本発明の技術的範囲に含まれると定義する。
【0030】
以下に、第1工程~第4工程の各工程について、詳細に説明する。
(第1工程)
第1工程は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程である。
第1工程では、まず、各種セルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。
懸濁液中のセルロース原料の濃度としては0.1%以上10%未満が好ましい。懸濁液中のセルロース原料の濃度が0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なう傾向があるため好ましくない。また、懸濁液中のセルロース原料の濃度が10%以上になると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となる傾向があるため好ましくない。
【0031】
懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%未満になると、後述するセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程において、微細化セルロース1の分散が阻害される傾向がある。また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒としては、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類や、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成する微細化セルロース1の分散性を上げるために、例えば、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0032】
第1工程では、続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。
物理的解繊処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース(微細化セルロース1)の分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細化セルロース1の数平均短軸径及び数平均長軸径を調整することができる。
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース1の分散体(微細化セルロース分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、又は希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
【0033】
通常、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いる微細化セルロース1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、微細化セルロース1の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロース1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上500nm以下である。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース構造をとることができないため、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することが困難となる傾向がある。一方、短軸径において数平均短軸径が1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られる複合粒子4のサイズや形状を制御することが困難となる傾向がある。また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、複合粒子4のサイズや形状を十分に制御することが困難となる傾向があるために好ましくない。
【0034】
なお、微細化セルロースの数平均短軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察及び原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロースの数平均長軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察及び原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求める。
【0035】
微細化セルロース1の原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、例えば、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製及び微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0036】
さらに微細化セルロース1の原料は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、微細化セルロース1の原料の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は、特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基がより好ましい。
【0037】
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。カルボキシ基を導入する方法は、具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性及び環境負荷低減のためにはN-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0038】
ここで、N-オキシル化合物としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01質量%以上5.00質量%以下である。
【0039】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0040】
共酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1質量%以上200質量%以下である。
【0041】
また、N-オキシル化合物及び共酸化剤とともに、臭化物及びヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウム又は臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1質量%以上50質量%以下である。
【0042】
酸化反応の反応温度は、4℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。酸化反応の反応温度が4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう傾向がある。酸化反応の反応温度が80℃を超えると副反応が促進して試料であるセルロースが低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが困難となる傾向がある。
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分以上5時間以下である。
【0043】
酸化反応時の反応系のpHは、特に限定されないが、9以上11以下が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料であるセルロースの分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9以上11以下に保つことが好ましい。反応系のpHを9以上11以下に保つ方法としては、例えば、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0044】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N-オキシル化合物による酸化反応は、例えば、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。添加するアルコールとしては、例えば、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0045】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよい。もっとも、酸化処理後の反応液は、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、例えば、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
得られたTEMPO酸化セルロースに対し解繊処理を行うと、3nm前後の均一な繊維幅を有するセルロースシングルナノファイバー(CSNF)が得られる。CSNFを複合粒子4の微細化セルロース1の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
【0046】
以上のように、本実施形態で用いられるCSNFは、セルロース原料を酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。
また、CSNFに導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることが困難となる傾向がある。また、カルボキシ基量が5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直な微細化セルロース構造をとることができず、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが困難となる傾向がある。
【0047】
(第2工程)
第2工程は、微細化セルロース1の分散液6を使用して、具体的には分散液6中で、液滴5の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で被覆して、液滴5をエマルションとして安定化させる工程である。
本実施形態の第2工程は、具体的には、第1工程で得られた微細化セルロース分散液に親和性のない、少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを、第1工程で得られた微細化セルロース分散液に添加し、微細化セルロース分散液中に液滴5として分散させる工程を有する。さらに第2工程は、液滴5の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1によって被覆し、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程を有する。
【0048】
O/W型エマルションを作製する方法としては、例えば、微細化セルロース分散液に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる方法、常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解したものを微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させる方法、微細化セルロース分散液に常温にて固体であるポリマーを添加しポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させる方法がある。いずれの方法においても添加する重合性モノマー又はポリマーは微細化セルロース分散液に対して相溶性がないものが好ましい。相溶性がある場合は、微細化セルロース分散液中にてポリマーの液滴を形成することが困難となり、複合体を得ることが困難となる傾向がある。
【0049】
本実施形態に用いられる重合性モノマーとしては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と完全に相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば、特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等、)を用いることも可能である。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むこと示す。
また、開始剤を含む重合性モノマーと生分解性を有する化合物を混合したものを微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させて、エマルションとして安定化させた液滴を得るようにしても良い。このような態様とすることで、セルロースナノファイバーの特性を維持しつつ、機能性成分の効果を長期間維持することが可能な徐放性複合粒子を提供することが可能となる。
【0050】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタン及びアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0053】
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレン及びスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、例えば、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
【0054】
多官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0055】
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料を限定しない。
上記重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
生分解性を有する化合物と重合性モノマーの混合比としては、生分解性を有する化合物/重合性モノマーの質量比で、10/90~85/15の範囲内であり、好ましくは15/85~70/30の範囲内である。生分解性を有する化合物量が10より低い場合、生分解性が弱く、重合性モノマー量が15より低い場合、重合体を構成することが難しくなる傾向がある。
また、重合性モノマーには予め重合開始剤が含まれていてもよい。一般的な重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えばパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルなどが挙げられる。
【0056】
アゾ重合開始剤としては、例えばADVN,AIBNが挙げられる。
例えば2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0057】
第2工程において予め重合開始剤が含まれた状態の重合性モノマーを用いれば、O/W型エマルションを形成した際にエマルション粒子内部の重合性モノマー液滴5中に重合開始剤が含まれるため、後述の第3工程においてエマルション内部のモノマーを重合させる際に重合反応が進行しやすくなる。
第2工程において用いることができる重合性モノマーと重合開始剤の質量比については、特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーが0.1質量部未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくない。
【0058】
常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解し微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させて、エマルションとして安定化させた液滴を得る方法に用いることができるものとしては、前述の重合性モノマーを重合させたポリマーが挙げられる。
また、常温にて固体であるポリマーを溶解する溶媒としては微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒が好ましい。水への溶解度が高い場合、ポリマー相から水相へ溶媒が容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる傾向がある。水への溶解性がない場合はポリマー相から溶媒が移動することができないため、複合粒子を得ることが極めて困難となる傾向がある。また、ポリマーを溶解する溶媒は沸点が90℃以下であることが好ましい。沸点が90℃より高い場合、ポリマーを溶解する溶媒よりも先に微細化セルロース分散液が蒸発してしまい複合粒子を得ることが極めて困難となる傾向がある。ポリマーを溶解する溶媒としては、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ベンゼンなどが挙げられる。
【0059】
微細化セルロース分散液に常温にて固体であるポリマーを添加しポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させて、エマルションとして安定化させた液滴を得る方法に用いることができるものとしては、常温で固体であり、加熱することで流動性を持つポリマーを挙げることが出来る。流動性を持つ温度とは、融点又はガラス転移温度である。添加するポリマーの融点又はガラス転移温度は40℃以上90℃以下のものが好ましい。ポリマーの融点又はガラス転移温度が40℃未満である場合、常温で固体化することが難しいため、複合体を得ることが極めて困難となる傾向がある。また、ポリマーの融点又はガラス転移温度が90℃以上である場合、ポリマーが溶解するよりも、一緒に加熱する微細化セルロース分散液の溶媒である水が気化してしまいエマルション化することが困難となる傾向がある。
【0060】
このため、本実施形態において使用できるポリマーとしては、具体的にはポリ‐S‐メチルヘプテン、ポリデセン、ポリビニルパルミテート、ポリビニルステアレート、cis‐1,4‐ポリクロロプレン、it cis‐1,4‐ポリ‐1,3ペンタジエン、it trans‐1,4‐ポリ‐1,3ヘキサジエン、it trans‐1,4‐ポリ‐1,3ヘプタジエン、it trans‐1,4‐ポリ‐1,3オクタジエン、ポリヘキサメチレンオキシド、ポリオクタメチレンオキシド、ポリブタジエンオキシド、ポリテトラメチレンスルフィド、ポリペンタメチレンスルフィド、ポリヘキサメチレンスルフィド、ポリメチレンチオテトラメチレンスルフィド、ポリエチレンチオテトラメチレンスルフィド、ポリトリメチレンジスルフィド、などが挙げられる。
【0061】
当該ポリマーに変えて生分解性を有する化合物を用いてもよい。
生分解性を有する化合物としては、具体的にはペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ステアリルステアレート、ステアリン酸バチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、ジステアリン酸エチレングリコール、ベヘニルアルコール、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、炭化水素ワックス、脂肪酸アルキルエステル、ポリオール脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとワックスの混合物、脂肪酸エステルの混合物、グリセリンモノパルミテート(/ステアリン酸モノグリセライド)、グリセリンモノ・ジステアレート(/グリセリンステアレート)、グリセリンモノアセトモノステアレート(/グリセリン脂肪酸エステル)、コハク酸脂肪族モノグリセライド(/グリセリン脂肪酸エステル)、クエン酸飽和脂肪族モノグリセライド、ソルビタンモノステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタントリベヘネート、プロピレングリコールモノベヘネート(/プロピレングリコール脂肪酸エステル)、アジピン酸ペンタエリスリトールポリマーのステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ステアリルシトレート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、超淡色ロジン、ロジン含有ジオール、超淡色ロジン金属塩、水素化石油樹脂、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、特殊ロジンエステル、ノボラック、結晶性ポリαオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレンエーテル等を主成分とするものが挙げられる。
【0062】
また、コア粒子3には機能性成分が含まれていても良い。コア粒子3に含有させる機能性成分は、香料、消臭剤、防カビ剤、肥料、pH調整剤、農薬、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分、植物ホルモン、抗菌性物質などが挙げられる。コア粒子3に、予め機能性成分が含まれている場合、徐放性複合粒子9の粒子内部に上述の機能性成分を含有させることができ、用途に応じた機能発現が可能となる。
【0063】
第2工程において用いることができる微細化セルロース分散液とポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液との質量比については、特に限定されないが、微細化セルロース100質量部に対し、ポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。ポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液が1質量部未満となると複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくない。また、ポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液が50質量部を超えると液滴5を微細化セルロース1で均一に被覆することが困難となる傾向があり好ましくない。
【0064】
O/W型エマルションを作製する方法としては、特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、第1工程にて得られた微細化セルロース分散液に対し重合性モノマーを添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては、特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm2以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
【0066】
上記超音波処理により、微細化セルロース分散液中に液滴5が分散してエマルション化が進行し、さらに液滴5と微細化セルロース分散液の液/液界面に選択的に微細化セルロース1が吸着することで、液滴5が微細化セルロース1で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細化セルロースによってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、セルロースはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0067】
O/W型エマルション構造は、例えば、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm~1000μm程度である。
O/W型エマルション構造において、液滴5の表層に形成された微細化セルロース層(被覆層2)の厚みは、特に限定されないが、通常3nm以上1000nm以下である。微細化セルロース層(被覆層2)の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
【0068】
(第3工程)
第3工程は、液滴5を固体化して微細化セルロース1でコア粒子3が被覆された複合粒子4を得る工程である。
より詳しくは、第3工程は、液滴5の表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で覆われた状態で、液滴5を固体化してコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、かつコア粒子3と微細化セルロース1とを不可分の状態にする工程である。
第2工程にて微細化セルロース分散液に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる方法を用いた場合、重合性モノマーを重合する方法は、特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜選択可能である。前述の重合性モノマーを重合する方法としては、例えば懸濁重合法が挙げられる。
【0069】
具体的な懸濁重合の方法についても、特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。懸濁重合の方法は、例えば第2工程で作製された、重合開始剤と重合性モノマーとを含有する液滴5が、微細化セルロース1によって被覆され安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20度以上90度以下が好ましい。加熱時の温度が20度未満であると重合の反応速度が低下する傾向があるため好ましくない。90度を超えると微細化セルロース分散液が蒸発してしまう傾向があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常、1時間以上24時間以下である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いても良い。
【0070】
第2工程にて常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解し微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させる方法を用いた場合、エマルションを加熱し、ポリマーを溶解した溶媒を揮発させることでポリマーを固体化させることができる。加熱時の温度条件については溶解する溶媒の種類によって適宜設定することが可能であるが、溶媒の沸点以上90度以下が好ましい。加熱時の温度が溶媒の沸点未満であると溶媒が水相へ移動するのが遅くなり、90度を超えると微細化セルロース分散液が蒸発してしまう傾向があるため好ましくない。
第2工程にて微細化セルロース分散液に、常温にて固体であるポリマーを添加しポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させる方法を用いた場合、エマルションを冷却し、ポリマーが流動性を持つ温度以下にすることでポリマーを固体化することができる。
上述の工程を経て、コア粒子3が微細化セルロース1によって被覆された真球状の複合粒子4を作製することができる。
【0071】
なお、固体化の反応終了直後の状態は、複合粒子4の分散液中に多量の水と複合粒子4の被覆層2に形成に寄与していない遊離した微細化セルロース1が混在した状態となっている。そのため、作製した複合粒子4を回収・精製する必要がある。回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄又はろ過洗浄が好ましい。遠心分離による洗浄方法としては、公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって複合粒子4を沈降させて上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して複合粒子4を回収する。ろ過洗浄についても、公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して複合粒子4を回収する。
残留溶媒の除去方法は、特に限定されず、例えば、風乾やオーブンで熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子4を含む乾燥固形物は、上述のように膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
【0072】
(第4工程)
第4工程は、コア粒子3の表面を被覆する上記微細化セルロース1に機能性成分を付与する得る工程である。
複合粒子4に機能性成分を混合し、微細化セルロースに機能性成分を吸着させることで、微細化セルロースに機能性成分を付与することができる。また、微細化セルロース1よりなる被覆層2は、微細化セルロース1が重なり合い微細な網目構造の様になっている。このため、微細化セルロース1に機能性成分が吸着されるとともに、微細な網目に機能性成分が入り込み、担持されることで、複合粒子における機能性成分の徐放性が向上する。
機能性成分は、複合粒子4にそのまま混合してもよいが、混合が困難な場合、複合粒子4及び機能性成分に親和性のある溶媒を用いて混合してもよい。機能性成分を付与した後、余分な機能性成分は遠心分離やろ過により除去することで機能性成分が付与された徐放性複合粒子9を得ることができる。
【0073】
コア粒子3の表面を被覆する微細化セルロース1に含まれる機能性成分は、特に限定されないが、例えば、香料、消臭剤、防カビ剤、肥料(生物肥料、化学肥料、有機肥料等)、pH調整剤、農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤等)、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分(ミネラル等)、植物ホルモン、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)、抗菌性物質等が挙げられる。
以上のような、本実施形態の徐放性複合粒子9を用いることで、CNF分散液の使用量を減らし、環境への負荷を低減することができる。
【0074】
香料としては、動植物等から抽出された天然香料、化学的に合成された合成香料、複数種類の香料を調合した調合香料がある。このうち天然香料としては例えばジャスミン、ローズ、カーネーション、ライラック、シクラメン、スズラン、バイオレット、ラベンダー、キンモクセイ等の花卉系、オレンジ、レモン、ライム等の柑橘系、シナモン、ナツメグ等の香辛料系、ヒノキ精油、ヒバ精油、スギ精油等の木材精油系等を挙げることができる。また合成香料としては例えばリモネン、ピネン、カンフェン等の炭化水素類、リナロール、ゲラニオール、メントール、シトロネロール、ベンジルアルコール等のアルコール類、シトラール、シトロネラール、ノナジエナール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド等のアルデヒド類、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、メチルノニルケトン、イロン、メントン等のケトン類、メチルアニソール、オイゲノール等のフェノール類、デカラクトン、ノニルラクトン、ウンデカラクトン等のラクトン類、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ベンジル、酢酸テルピニル、酢酸シトロネリル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソアミル、安息香酸ベンジル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル等のエステル類等が挙げられる。
【0075】
消臭剤としては、カテコール、4-メチルカテコール、5-メチルカテコール、レゾルシノール、2-メチルレゾルシノール、5-メチルレゾシノール、ハイドロキノン等のジフェノール類;4,4’-ビフェニルジオール、3,4’-ビフェニルジオール等のビフェニルジオール類;カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート等のカテキン類;ドーパ、ドーパミン、クロロゲン酸、コーヒー酸、パラクマル酸、チロシン等のカテコール誘導体。植物から抽出等した植物由来のポリフェノール;コーヒー、リンゴ、ぶどう、茶類(緑茶、焙じ茶、紅茶、ウーロン茶、マテ茶等)、柿、大豆、カカオ、ローズマリー、アロエ等の由来のものが挙げられる。
【0076】
農薬としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺そ剤、植物成長調整剤、誘引剤や忌避剤等が挙げられる。
殺虫剤としては、アゾキシベンゼン、アナバシン、アラマイト、アルドリン、アレスリン、イソキサチオン、イソチオエート、エチオン、エチルチオメトン、エンドリン、オルソジクロルベンゼン、カーバム、カルタップ、カルビンホス、クロルピクリン、クロルピリホス、クロルフェナミジン、クロルプロピレート、クロルベンジレート、クロルメタンスルホン酸アミド、ケイフッ化ナトリウム、ケルセン、サリチオン、酸化エチレン、酸化プロピレン、ジオアリホール、ジオキサカルブ、ジオメトエート、臭化メチル、水酸化トリシクロヘキシルスズ、ターバム、ダイアジノン、チオメトン、テトラジホン、テロドリン、バミドチオン、ひ酸石灰、ひ酸鉛、プロクロノール、プロパホス、プロメカルブ、ベンゾエピン、ベンゾメート、ホサロン、ホルモチオン、メカルバム、メソミル、メタアルデヒド、メチルジメトン、メナゾン、ヨウ化メチル、リン化亜鉛、リン化アルミニウム、APC、DDVP、MEP、PMP等が挙げられる。
【0077】
殺菌剤としては、アンバム、硫黄、エクロメゾール、塩化トリフェニル錫、塩化トリプロピル錫、塩化ニッケル、塩化ベンザルコニウム、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅、キャプタン、グアニジン、グリセオフルビンン、クロラムフェニコール、酢酸トリフェニル錫、酢酸トリブチル錫、酢酸ニッケル、次亜塩素酸ナトリウム、ジクロゾリン、シクロヘキシミド、ジクロン、ジチアノン、ジネブ、ジメチルアンバム、ジラム、水酸化トリフェニル錫、ストレプトマイシン、セロサイジン、ダイホルタン、チアジアジン、チアベンダゾール、チオファネート、チオファネートメチル、トリアジン、ニトロスチレン、ノボビオシン、バリダマイシン、ヒドロキシイソキサゾール、ファーバム、フォルペット、プロピケル、プロピネブ、ベノミル、ポリオキシン、ポリカーバメート、ホルムアルデヒド、マンゼブ、マンネブ、メチラム、MAF、PCP等が挙げられる。
【0078】
除草剤としては、アイオキシニル、アジプロトリン、アシュラム、アトラジン、アメトリン、アラクロール、エチルキサントゲン酸ナトリウム、塩素酸カルシウム、塩素酸ナトリウム、オキサジアゾン、クレダジン、クロチゾール、クロメトキシニル、シアン酸ナトリウム、ジクワット、シデュロン、ジフェナミド、シメトリン、スルファミン酸アンモニウム、ターバシル、デスメトリン、テトラピオン、トリエタジン、トリフルラリン、ニトラリン、バーナレート、パラコレート、ピクロラム、ピクロラム、フェノチオール、フェンメディファム、ブタクロール、プロピサミド、ブロマシル、プロメトリン、ベスロジン、ペブレート、モリネート、リニュロン、硫酸銅、レナシル、ACN、DBN等が挙げられる。
【0079】
殺そ剤としては、アンツー、黄りん、クロロファシノン、酢酸タリウム、シリロシド、チオセミカルバジド、モノフルオル酢酸ナトリウム、硫酸タリウム、リン化亜鉛等が挙げられる。
植物成長調整剤としては、インドール酪酸、オオキシエチレンナタネ油アルコール、オルソニトロフェノール、ジベレリン、α-ナフチルアセトアミド、ポリブテン、マレイン酸ヒドラジド、α-メトキシメチルナフタリン、硫酸オキシキノリン等が挙げられる。
誘引剤や忌避剤その他としては、キュウルア、クレゾール、酸化第二鉄、ジアリルジスルフィド、シクロヘキシミド、生石灰、炭酸カルシウム、チウラム、テトラヒドロチオフェン、β-ナウトール、メチルオイゲノール等が挙げられる。
【0080】
肥料としては、例えば、尿素、硫酸カリウム、リン酸カリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。特に、化学的緩効性肥料を用いることが好ましい。化学的緩効性肥料は、主に窒素肥料の溶解性を抑えるように化学処理を施したものである。水に溶解しにくく、土壌中でゆっくりと無機態窒素に転換されて肥料効果を発揮する。化学的緩効性肥料を複合粒子4に内包することにより、更にその肥効を制御することができる。
化学的緩効性肥料としては、例えば、尿素とアルデヒド類を原料とするウレアホルム(UF)、メチロール尿素、アセトアルデヒド縮合尿素(CDU)、イソブチルアルデヒド縮合尿素(IB)、グリオキサール縮合尿素、石灰窒素を原料とする硫酸グアニル尿素、シュウ酸ジエステルとアンモニアを原料とするオキサミドが挙げられる。
【0081】
(実施形態の効果)
本実施形態に係る徐放性複合粒子9は、徐放性複合粒子9の表面の微細化セルロース1の特性を維持しつつ、機能性成分の効果を長期間維持することができ、取扱いが容易な新たな徐放性複合粒子である。
また、本実施形態に係る徐放性複合粒子9を含む乾燥固形物(乾燥粉体)は肌理細やかな粉体として得られ、粒子同士の凝集がない。このため、乾燥粉体として得られた徐放性複合粒子9を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も徐放性複合粒子9の表面に結合された微細化セルロース1の被覆層に由来した分散安定性を示す。
【0082】
また、本実施形態に係る徐放性複合粒子9の製造方法によれば、簡便な方法で提供することが可能な新規な徐放性複合粒子9の製造方法を提供することができる。
また、本実施形態に係る微細化セルロース1の複合体を含む乾燥固形物(乾燥粉体)によれば、乾燥固形物を溶媒に再分散可能な形で提供することができる。
また、本実施形態に係る徐放性複合粒子9によれば、溶媒をほとんど除去することが可能なため、輸送費の削減、腐敗リスクの低減、添加剤としての添加効率の向上、疎水性樹脂への混練効率向上といった効果が期待できる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の第一実施形態及び変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
<実施例1>
(第1工程:セルロースナノファイバー分散液を得る工程)
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの質量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。
【0085】
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ及び再酸化パルプを固形分質量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
【0086】
(酸化パルプの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、CSNF濃度1%のCSNF水分散液を得た。CSNF分散液を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製、「UV-3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行った。その結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、CSNF水分散液は高い透明性を示した。また、CSNF水分散液に含まれるCSNFの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。さらに、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った。その結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、CSNF分散液はチキソトロピック性を示した。
【0087】
(第2工程:O/W型エマルションを作製する工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1g溶解させた。DVB/ADVN混合溶液全量を、CSNF濃度1%のCSNF分散液40gに対し添加したところ、DVB/ADVN混合溶液とCSNF分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2層に分離した。
次に、上記2層分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0088】
(第3工程:重合反応によりCNFで被覆された複合粒子4を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000g(gは重力加速度)で5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径2.1μmであった。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
【0089】
(第4工程:複合粒子4の被覆層に機能性成分を付与する工程)
メタノール10gに香料としてリモネン2gを溶かした溶液を水20gに混合した水溶液に得られた複合粒子5gを添加し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、24時間混合した。水溶液に浸漬させた複合粒子を孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いてろ過し、回収物を48時間風乾し、徐放性複合粒子9を得た。
【0090】
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を
図5及び
図6に示す。
図5から明らかなように、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の徐放性複合粒子9が無数に形成していることが確認された。さらに
図6に示されるように、その表面は幅数nmのCNFによって均一に被覆されていることが確認された。また、ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、徐放性複合粒子9の表面は等しく均一に微細化セルロース1によって被覆されている。このように、本発明に基づく徐放性複合粒子9では、徐放性複合粒子9内部のコア粒子3と微細化セルロース1であるCNFは結合している可能性があり、コア粒子3と微細化セルロース1とが不可分の状態にあることが示された。
【0091】
(再分散性の評価)
実施例1の徐放性複合粒子9の乾燥粉体を1%の濃度で純水に添加し、攪拌子で再分散させたところ、容易に再分散し、凝集も見られなかった。また、粒度分布計を用いて粒径を評価したところ、平均粒径は乾燥前と同様に2.1μmとなり、粒度分布計のデータにおいても凝集を示すようなシグナルは存在しなかった。
以上のことから、本発明に基づく徐放性複合粒子9は、その表面がCNFで被覆されているにもかかわらず、乾燥によって膜化することなく粉体として得られ、かつ再分散性も良好であることが示された。
【0092】
<実施例2>
実施例1において、DVBの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(商品名FA-222A、日立化成、以下、FA-222Aとも称する。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例2に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例3>
実施例1においてTEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で、実施例3に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0093】
<実施例4>
コア粒子3を形成するポリマーとしてポリスチレン(以下、PSと称する。)6gをジクロロメタン(沸点:39.6℃)4gに溶解させた。ポリ乳酸/ジクロロメタン混合溶液全量を、実施例1にて使用したCSNF分散液40gに対し添加した。
次に、上記混合液に対して実施例1と同様に周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行い、O/W型エマルション分散液を得た。
次に、O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、ジクロロメタンを揮発させた。8時間処理後に上記分散液を実施例1と同様に処理を行い、乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
次に、メタノール10gにリモネン2gを溶かした溶液を水20gに混合した水溶液に得られた複合粒子5gを添加し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、24時間混合した。水溶液に浸漬させた複合粒子を孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いてろ過し、回収物を48時間風乾し、実施例4に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0094】
<実施例5>
実施例4においてPSの代わりにポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAとも称する。)を、ジクロロメタンの代わりにクロロホルムをそれぞれ用いたこと以外は実施例4と同様の条件で、実施例5に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0095】
<実施例6>
コア粒子3を形成するポリマーとしてポリヘキサメチレンオキシド(以下、PHMOとも称する。融点:58℃)10gを、実施例1にて使用したCSNF分散液40gに対し添加した。
次に、上記混合液を、ウォーターバスを用いて80℃に加温し、PHMOを融解させた後、実施例1と同様に周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行い、O/W型エマルション分散液を得た。
次に、O/W型エマルション分散液を、室温まで冷却させた。
最後に、上記分散液を実施例1と同様に処理を行い、乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
次に、メタノール10gにリモネン2gを溶かした溶液を水20gに混合した水溶液に得られた複合粒子5gを添加し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、24時間混合した。水溶液に浸漬させた複合粒子を孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いてろ過し、回収物を48時間風乾し、実施例6に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0096】
<実施例7>
実施例1において香料としてのリモネンの代わりに、消臭剤としてエピガロカテキン(緑茶由来)を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で、実施例7に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例8>
実施例7においてTEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた特許文献2に従いカルボキシメチル化(以下、CM化とも称する。)処理を行って得られたCM化CNF分散液を用いたこと以外は実施例7と同様の条件で、実施例8に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0097】
<比較例1>
実施例1においてCSNF分散液の代わりに純水を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で、比較例1に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例2>
実施例1においてTEMPO酸化の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は実施例2と同様の条件で、比較例1に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例3>
実施例1においてCSNF分散液の代わりにポリビニルアルコール(以下、PVAとも称する。)8%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で、比較例3に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
【0098】
<比較例4>
市販のポリスチレン粒子(商品名エスタポール、コアフロント)を1%濃度で分散させた分散液を用いた以外は実施例1と同様の条件で、比較例4に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例5>
実施例4においてジクロロメタンの代わりにキシレン(沸点:144℃)を用いたこと以外は実施例4と同様の条件で、比較例5に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例6>
実施例6においてPHMOの代わりにポリアクリル酸ブチル(ガラス転移温度:-54℃、融点:48℃)を用いたこと以外は実施例6と同様の条件で、比較例6に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
【0099】
<比較例7>
実施例6においてPHMOの代わりにポリカーボネート(以下、PCとも称する。ガラス転移温度:150℃、融点:250℃)を用いたこと以外は実施例7と同様の条件で、比較例6に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例8>
実施例10においてCSNF分散液の代わりにラウリル硫酸ナトリウム(以下、SLSとも称する。)5%水溶液を用いたこと以外は実施例10と同様の条件で、比較例8に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<実施例9>
実施例1の第2工程において生分解性を有する化合物であるセルロースアセテートブチレート(商品名CAB-55 1-0.2以下、CABとも称する。)3g、DVBを7gに対し、重合開始剤であるADVNを1g溶解させた。CAB/DVB/ADVN混合溶液全量を、CSNF濃度1%のCSNF分散液40gに対し添加した工程以外は、実施例1と同様の条件で、実施例9に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
【0100】
<実施例10>
実施例9において、CBAの代わりにポリブチレンサクシネート(商品名BioPBS、三菱ケミカル、以下、PBSとも称する。)DVBの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(商品名FA-222A、日立化成、以下、FA-222Aとも称する。)を用いたこと以外は、実施例9と同様の条件で、実施例10に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例11>
実施例9においてTEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は実施例9と同様の条件で、実施例11に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0101】
<実施例12>
生分解性を有する化合物としてポリ乳酸(商品名テラマックTE4000、以下、PLAと称する。)6gをジクロロメタン(沸点:39.6℃)4gに溶解させた。ポリ乳酸/ジクロロメタン混合溶液全量を、実施例1にて使用したCSNF分散液40gに対し添加した。
次に、上記混合液に対して実施例1と同様に周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行い、O/W型エマルション分散液を得た。
次に、O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、ジクロロメタンを揮発させた。8時間処理後に上記分散液を実施例1と同様に処理を行い、乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
次に、メタノール10gにリモネン2gを溶かした溶液を水20gに混合した水溶液に得られた複合粒子5gを添加し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、24時間混合した。水溶液に浸漬させた複合粒子を孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いてろ過し、回収物を48時間風乾し、実施例4に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0102】
<実施例13>
実施例12においてポリ乳酸の代わりにポリカプロラクトン(商品名TONE、UCC、以下、PCLとも称する。)を、ジクロロメタンの代わりにクロロホルムをそれぞれ用いたこと以外は実施例12と同様の条件で、実施例13に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0103】
<実施例14>
生分解性を有する化合物としてステアリン酸(融点:69.6℃)10gを、実施例9にて使用したCSNF分散液40gに対し添加した。
次に、上記混合液を、ウォーターバスを用いて80℃に加温し、ステアリン酸を融解させた後、実施例1と同様に周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行い、O/W型エマルション分散液を得た。
次に、O/W型エマルション分散液を、室温まで冷却させた。
最後に、上記分散液を実施例9と同様に処理を行い、乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
次に、メタノール10gにリモネン2gを溶かした溶液を水20gに混合した水溶液に得られた複合粒子5gを添加し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、24時間混合した。水溶液に浸漬させた複合粒子を孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いてろ過し、回収物を48時間風乾し、実施例14に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0104】
<実施例15>
実施例14においてステアリン酸の代わりに、パラフィンワックス(商品名パラフィンワックス135°F、融点:57.2℃、山桂産業、以下、パラフィンとも称する。)を用いたこと以外は実施例14と同様の条件で、実施例15に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例16>
実施例9において香料としてのリモネンの代わりに、消臭剤としてエピガロカテキン(緑茶由来)を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で、実施例16に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0105】
<実施例17>
実施例16においてTEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた特許文献2に従いカルボキシメチル化(以下、CM化とも称する。)処理を行って得られたCM化CNF分散液を用いたこと以外は実施例16と同様の条件で、実施例17に係る徐放性複合粒子9を作製し、同様に各種評価を実施した。
<比較例9>
実施例10においてCSNF分散液の代わりに純水を用いたこと以外は実施例10と同様の条件で、比較例9に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例10>
実施例10においてTEMPO酸化の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は実施例10と同様の条件で、比較例10に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
【0106】
<比較例11>
実施例10においてCSNF分散液の代わりにポリビニルアルコール(以下、PVAとも称する。)8%水溶液を用いたこと以外は実施例10と同様の条件で、比較例11に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例12>
本発明の複合粒子ではなく、市販のポリ乳酸微粒子(商品名トレパールPLA、東レ)を1%濃度で分散させた分散液を用いた以外実施例9と同様の条件で、比較例12に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例13>
実施例13においてジクロロメタンの代わりにキシレン(沸点144℃)を用いたこと以外は実施例13と同様の条件で、比較例13に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例14>
実施例15においてステアリン酸の代わりにオレイン酸(融点:13.4℃)を用いたこと以外は実施例15と同様の条件で、比較例14に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
【0107】
<比較例15>
実施例15においてステアリン酸の代わりにアミド系ワックス(商品名ITOHWAX-J630、融点:135℃、山桂産業、以下ITOWAXと称する。)を用いたこと以外は実施例15と同様の条件で、比較例15に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
<比較例16>
実施例18においてCSNF分散液の代わりにラウリル硫酸ナトリウム(以下、SLSとも称する。)5%水溶液を用いたこと以外は実施例18と同様の条件で、比較例16に係る徐放性複合粒子9の作製を試みた。
【0108】
以上の実施例及び比較例を用いた評価結果については、以下の表1から表4にまとめて掲載した。
表1は重合性モノマー又はポリマーをコア粒子とした複合粒子に対し、機能性成分として香料としてリモネンを用いた実施例及び比較例を示した。
表2は重合性モノマー又はポリマーをコア粒子とした複合粒子に対し、機能性成分として消臭剤としてエピガロカテキンを用いた実施例及び比較例を示した。
表3は生分解性樹脂をコア粒子とした複合粒子に対し、機能性成分として香料としてリモネンを用いた実施例及び比較例を示した。
表4は生分解性樹脂をコア粒子とした複合粒子に対し、機能性成分として消臭剤としてエピガロカテキンを用いた実施例及び比較例を示した。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
なお、表1から表4において、エマルションの安定化剤とは、第2工程においてO/W型エマルションを安定化させるために用いた添加剤のことであって、例えば本実施形態における微細化セルロース1が相当する。
〔評価基準〕
表1及び表3において、第2工程の可否については、以下のように判定した。
○:O/W型エマルションの形成が可能
×:O/W型エマルションの形成が不可能
また、第3工程の可否については、以下のように判定した。
○:第3工程のエマルション鋳型とした真球状の粒子が得られた
×:上記粒子は得られなかった
また、再分散性に関しては、以下のように判定した。
○:得られた徐放性複合粒子が溶媒(水)に、凝集することなく分散した
×:分散せずに凝集した
【0114】
また、香気性の評価に関しては500ml三角フラスコに徐放性複合粒子1gを入れ、温度25度、湿度50%の雰囲気下で24時間静置させた後、フラスコ内の匂いを嗅ぎ、 香気性の評価を行った。
○:フラスコ内から香気を感じることができる
×:フラスコ内から香気を感じることができない
【0115】
また、消臭性の評価に関しては500ml三角フラスコに徐放性複合粒子1gとアンモニア0.1gを入れ、フラスコに蓋をして、密閉した状態で2時間静置させた後、フラスコ内の匂いを嗅ぎ、消臭性の評価を行った。
○:フラスコ内からアンモニア臭を感じることができない
×:フラスコ内からアンモニア臭を感じることができる
【0116】
また、表1及び表3の比較例中の各セルにおける斜線表記は、各工程実施中に工程の遂行が不可能となり、その後の工程を実施していないことを示している。
表1の実施例1~6の評価結果において明らかなように、微細化セルロース1の種類(TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF)、又はコア粒子の種類に拠らず、香気性が付与された徐放性複合粒子9を作製可能であり、本発明における課題解決に奏功することが確認された。
【0117】
表3の実施例8~15の評価結果において明らかなように、微細化セルロース1の種類(TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF)、又はコア粒子の種類に拠らず、生分解性を有し、香気性が付与された徐放性複合粒子9を作製可能であり、本発明における課題解決に奏功することが確認された。
一方、比較例1及び9においては、第2工程の遂行が不可能であった。具体的には、超音波ホモジナイザー処理を実施してもモノマー層とCNF分散液層が2層分離したままの状態となり、O/W型エマルションの作製自体が不可能であった。
【0118】
また、比較例2及び10においては、第2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であった。これはCMCが微細化セルロースと同様に両親媒性を示したため、エマルションの安定化剤として機能したと考えられる。しかしながら、続く第3工程において重合反応を実施すると、エマルションが崩壊してしまい、O/W型エマルションを鋳型とした複合粒子を得ることができなかった。この理由としては定かではないが、CMCは水溶性であるため、重合反応中もエマルション形状を維持するための被覆層としては脆弱である可能性が高く、そのため重合反応中にエマルションが崩壊したと考えられる。
【0119】
また、比較例3及び11においては、第3工程において重合することができ、粉体として回収することができたが、得られた粉体は再分散性、香気性ともに悪かった。
また、比較例4においては、類似の構成でCNFに被覆されていない市販のPS微粒子を用いたが、SEMによる形状観察により、微粒子表面に微細化セルロースが被覆している様子は観察できなかった。
また、比較例12においては、類似の構成でCNFに被覆されていない市販のPLA微粒子を用いたが、SEMによる形状観察により、微粒子表面に微細化セルロースが被覆している様子は観察できなかった。
【0120】
また、比較例5及び比較例13においては、第2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であった。しかし、第3工程においてキシレンを除去するにあたり、CNF分散液に水を使用しているためにキシレンの沸点以上にすることができないため、液滴5を固体化することができず、複合粒子4を得ることができなかった。
また、比較例6においては、第2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であった。しかし、第3工程において室温まで冷却してもポリアクリル酸ブチルは凝固することがなく、液滴5を固体化することができず、複合粒子4を得ることができなかった。
【0121】
また、比較例14においては、第2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であった。しかし、第3工程において室温まで冷却してもオレイン酸は凝固することがなく、液滴5を固体化することができず、複合粒子4を得ることができなかった。
また、比較例7においては、第2工程においてCNF分散液に使用している水の沸点よりも高温にすることができず、PCを融解させることができないため、O/W型エマルションの形成することができなかった。
【0122】
また、比較例15においては、第2工程においてCNF分散液に使用している水の沸点よりも高温にすることができず、ITOWAXを融解させることができないため、O/W型エマルションの形成することができなかった。
表2及び表4の実施例7、8及び実施例15、16の評価結果において明らかなように、微細化セルロース1の種類(TEMPO酸化CNF、CM化CNF)、に拠らず、消臭性の付与された徐放性複合粒子9を作製可能であり、本発明における課題解決に奏功することが確認された。
一方、比較例8及び15においては、第3工程において重合することができ、粉体として回収することができたが、得られた粉体は再分散性、消臭性ともに悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の徐放性複合粒子は、添加剤としての添加効率、樹脂との混練効率が向上し、また輸送効率向上や腐敗防止の観点からコスト削減にも寄与するなど、産業実施の観点から好ましい効果が得られる。また、本複合粒子は粒子表面の微細化セルロースの特性を活かすことによって、機能性成分を付与することができ、香料、消臭剤、防カビ剤、肥料、pH調整剤、農薬、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分、植物ホルモン、抗菌性物質などに適用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 微細化セルロース
2 被覆層
3 コア粒子
4 複合粒子
5 液滴(重合性モノマー液滴、ポリマー液滴)
6 分散液
7 機能性成分、機能性成分含有分散媒
8 機能性成分含有被覆層
9 徐放性複合粒子