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特許7147492光触媒コーティング剤用バインダー水溶液、光触媒コーティング剤、硬化物、及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】光触媒コーティング剤用バインダー水溶液、光触媒コーティング剤、硬化物、及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/26 20060101AFI20220928BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220928BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220928BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C09D133/26
C09D5/02
C09D7/61
B01J35/02 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018210919
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020076017
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笹川 巨樹
(72)【発明者】
【氏名】合田 英生
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-131640(JP,A)
【文献】特開2010-005613(JP,A)
【文献】特開2009-221362(JP,A)
【文献】特開2009-249592(JP,A)
【文献】特開2009-067871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含み、
前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドが、ケイ素原子及びフッ素原子を含まず、
前記水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドの重量平均分子量が30万~600万である、
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液。
【請求項2】
前記ポリ(メタ)アクリルアミド及び水のみを含む、請求項1に記載の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液。
【請求項3】
前記ポリ(メタ)アクリルアミドが、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(a)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマーを含む単量体群の共重合物である、請求項1又は2に記載の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液、及び光触媒を含む、光触媒コーティング剤。
【請求項5】
請求項4に記載の光触媒コーティング剤の硬化物。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化物を含む、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液、光触媒コーティング剤、硬化物、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器、金属、プラスチック等の各種基材表面に光触媒を含む光触媒コーティング剤を用いてコーティングを行い、各種基材表面に硬化物からなる膜を形成することにより、基材に防汚、消臭、抗菌等の機能を付与することができる。このような光触媒コーティング剤において、光触媒と基材との密着性を高めるためにバインダーが用いられることが公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-270040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、無機バインダーを用いた場合には、コーティング剤が水系である場合、せん断によって2次構造が破壊されたときに、水素結合を形成する官能基(Si-OH等)が強く水和されるため、新たに2次構造を形成するのに時間がかかり(チキソトロピー性が大きい)、粘度回復が遅いという欠点がある。
【0005】
このような観点から、バインダーとして有機バインダーが検討されているが、有機バインダーを用いた場合は、光触媒作用によって有機バインダーが分解されてしまうため、光触媒コーティング剤の硬化物からなるコーティング膜が劣化しやすいという欠点がある。また、光触媒の光触媒活性が有機バインダーの分解に発揮される分、本来の光触媒活性機能が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、有機バインダーが含まれていても、光触媒作用によって有機バインダーが分解されにくい光触媒コーティング剤用バインダー水溶液を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の成分を用いることにより、上記課題が解決されることを見出した。
【0008】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
ポリ(メタ)アクリルアミドを含む、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液。
(項目2)
前記ポリ(メタ)アクリルアミド及び水のみを含む、上記項目に記載の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液。
(項目3)
前記ポリ(メタ)アクリルアミドが、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(a)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b)を含む単量体群の共重合物である、上記項目のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液。
(項目4)
上記項目のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液、及び光触媒を含む、光触媒コーティング剤。
(項目5)
上記項目に記載の光触媒コーティング剤の硬化物。
(項目6)
上記項目に記載の硬化物を含む、物品。
【0009】
本開示において、上述した1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得る。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液を用いて製造したコーティング膜は劣化しにくく、光触媒活性機能も低下しにくい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値αについて、数値αの上限及び下限としてA1、A2、A3、A4(A1>A2>A3>A4とする)等が例示される場合、数値αの範囲は、A1以下、A2以下、A3以下、A2以上、A3以上、A4以上、A1~A2、A1~A3、A1~A4、A2~A3、A2~A4、A3~A4等が例示される。
【0012】
[光触媒コーティング剤用バインダー水溶液:水溶液ともいう]
本開示は、ポリ(メタ)アクリルアミドを含む、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液を提供する。
【0013】
<ポリ(メタ)アクリルアミド(A):(A)成分ともいう>
本開示において「ポリ(メタ)アクリルアミド」とは、(メタ)アクリルアミド基含有化合物を含む単量体群の重合物(ポリマー)を意味する。ポリ(メタ)アクリルアミドは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0014】
((メタ)アクリルアミド基含有化合物(a):(a)成分ともいう)
本開示において「(メタ)アクリルアミド基含有化合物」とは、(メタ)アクリルアミド骨格
【化1】
(式中、Rは水素又はメチル基である。)
を有する化合物又はその塩を意味する。(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、各種公知のものを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0015】
本開示において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及びメタクリロイルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。
【0016】
1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物は下記構造式
【化2】
(式中、Rは水素又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であるか、或いはR及びRが一緒になって環構造を形成する基であり、R及びRはそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基(-NR(R及びRはそれぞれ独立して水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)(以下同様))、アセチル基、スルホン酸基である。置換アルキル基の置換基はヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、スルホン酸基等が例示される。また、R及びRが一緒になって環構造を形成する基は、モルホリル基等が例示される。)
により表される。
【0017】
アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基等が例示される。
【0018】
直鎖アルキル基は、-C2n+1(nは1以上の整数)の一般式で表される。直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカメチル基等が例示される。
【0019】
分岐アルキル基は、直鎖アルキル基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキル基は、ジエチルペンチル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基等が例示される。
【0020】
シクロアルキル基は、単環シクロアルキル基、架橋環シクロアルキル基、縮合環シクロアルキル基等が例示される。
【0021】
本開示において、単環は、炭素の共有結合により形成された内部に橋かけ構造を有しない環状構造を意味する。また、縮合環は、2つ以上の単環が2個の原子を共有している(すなわち、それぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)している)環状構造を意味する。架橋環は、2つ以上の単環が3個以上の原子を共有している環状構造を意味する。
【0022】
単環シクロアルキル基は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロデシル基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0023】
架橋環シクロアルキル基は、トリシクロデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が例示される。
【0024】
縮合環シクロアルキル基は、ビシクロデシル基等が例示される。
【0025】
上記の(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)は、N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N,N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー等が例示される。
【0026】
N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド等が例示される。
【0027】
N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が例示される。
【0028】
N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が例示される。
【0029】
上記塩は、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド4級塩等が例示される。
【0030】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合の上限及び下限は、100、90、80、70、60、50、45、40質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合は、40~100質量%が好ましく、45~100質量%がより好ましく、50~100質量%が特に好ましい。
【0031】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)中の全構成単位100モル%に対する(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合の上限は、100、90、80、70、60、50モル%等が例示される。1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合は、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)中の全構成単位100モル%に対して、50~100モル%が好ましい。
【0032】
((a)成分ではない単量体:(b)成分ともいう)
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)には、(a)成分ではない単量体((b)成分)に由来する構成単位を含み得る。(b)成分は、各種公知のものを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。(b)成分は、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物等が例示される。
【0033】
不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びこれらの塩等が例示される。
【0034】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における不飽和カルボン酸の含有量は特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0035】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量の上限及び下限は、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0036】
不飽和スルホン酸は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー;(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-スルホプロパン(メタ)アクリル酸エステル、ビス-(3-スルホプロピル)イタコン酸エステル及びこれらの塩等が例示される。
【0037】
1つの実施形態において、上記ポリ(メタ)アクリルアミドは、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(a)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマーを含む単量体群の共重合物である。
【0038】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における不飽和スルホン酸の含有量は特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対する不飽和スルホン酸の含有量の上限及び下限は、40、30、20、19、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.02、0.01、0モル%等が例示される。
【0039】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和スルホン酸に由来する構成単位の含有量の上限及び下限は、70、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和スルホン酸に由来する構成単位の含有量は、0~70質量%が好ましい。
【0040】
不飽和リン酸単量体は、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸及びこれらの塩等が例示される。
【0041】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における不飽和リン酸等の酸基含有単量体の含有量は特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0042】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和リン酸に由来する構成単位の含有量の上限及び下限は、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和リン酸単量体に由来する構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0043】
1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体の合計含有量は、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0044】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体に由来する構成単位の合計含有量の上限及び下限は、70、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体に由来する構成単位の合計含有量は、0~70質量%が好ましい。
【0045】
不飽和カルボン酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、直鎖(メタ)アクリル酸エステル、分岐(メタ)アクリル酸エステル、脂環(メタ)アクリル酸エステル、置換(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0046】
直鎖(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が例示される。
【0047】
分岐(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が例示される。
【0048】
脂環(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が例示される。
【0049】
置換(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等が例示される。
【0050】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における不飽和カルボン酸エステルの含有量は特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステルの含有量はポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0051】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有量の上限及び下限は、80、70、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有量は、0~80質量%が好ましい。
【0052】
α,β-不飽和ニトリルは、(メタ)アクリロニトリル、α-クロル(メタ)アクリロニトリル、α-エチル(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が例示される。これらのうち、(メタ)アクリロニトリルが好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0053】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%におけるα,β-不飽和ニトリルの含有量は特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0054】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対するα,β-不飽和ニトリルに由来する構成単位の含有量の上限及び下限は、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対するα,β-不飽和ニトリルに由来する構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0055】
共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン、置換及び側鎖共役ヘキサジエン等が例示される。
【0056】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における共役ジエンの含有量は特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%のうち10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0057】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する共役ジエンに由来する構成単位の含有量の上限及び下限は、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する共役ジエンに由来する構成単位の含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0058】
また、芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が例示される。
【0059】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%における芳香族ビニル化合物の含有量は特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%のうち10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0060】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量の上限は、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対する芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0061】
上記不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物以外の(b)成分の含有量は、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100モル%に対して、10モル%未満、5モル%未満、2モル%未満、1モル%未満、0.1モル%未満、0.01モル%未満、0モル%等が例示され、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)の全構成単位100質量%に対して、10質量%未満、5質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0062】
<(A)成分の製造方法>
(A)成分は、各種公知の重合法、好ましくはラジカル重合法で合成され得る。具体的には、前記成分を含む単量体混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃で重合反応を行うことが好ましい。反応時間は特に限定されず、1~10時間が好ましい。
【0063】
ラジカル重合開始剤は、各種公知のものが特に制限なく使用される。ラジカル重合開始剤は、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;上記過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤;2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩等のアゾ系開始剤等が例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、(A)成分を与える単量体群100質量%に対し0.05~5.00質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がより好ましい。
【0064】
ラジカル重合反応前及び/又は得られた(A)成分を水溶化する際等に、製造安定性を向上させる目的で、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤で反応溶液のpH調整を行ってもよい。その場合、pHは2~11が好ましい。また、同様の目的で、金属イオン封止剤であるEDTA又はその塩等を使用することも可能である。
【0065】
(A)成分が酸基を有する場合には、用途に応じて適宜中和率を調整して使用され得る。ここで、中和率100%は(A)成分に含まれる酸成分と同モル数のアルカリにより中和することを示す。また中和率50%は(A)成分に含まれる酸成分に対して半分のモル数のアルカリにより中和されたことを示す。(A)成分の中和率は特に限定されないが、コーティング層等の形成後には中和率70~120%が好ましく、中和率80~120%がより好ましい。中和塩は、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩等が例示される。
【0066】
<(A)成分の物性>
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、その上限及び下限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の重量平均分子量(Mw)は30万~600万が好ましく、35万~600万がより好ましい。
【0067】
(A)成分の数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、その上限及び下限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万、1万等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の数平均分子量(Mn)は、1万以上が好ましい。
【0068】
重量平均分子量及び数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により適切な溶媒下で測定したポリアクリル酸換算値として求められ得る。
【0069】
(A)成分のB型粘度は特に限定されないが、その上限及び下限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000mPa・s等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分のB型粘度の範囲は1000~10万mPa・sが好ましい。なお、B型粘度は東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」等のB型粘度計により測定される。
【0070】
1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミドは水溶性であることが好ましい。
【0071】
本開示において、「水溶性」とは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満(2.5mg未満)であることを意味する。
【0072】
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含む水溶液のpH(25℃)の上限及び下限は、13、12、11、10、9、8、7、6.9、6.5、6、5.9、5.6、5.5、5.4、5、4.5、4、3、2.5、2等が例示される。1つの実施形態において、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含む水溶液のpH(25℃)は、溶液安定性の観点からpH2~13が好ましく、pH2~10がより好ましく、pH2~7がさらに好ましく、pH7未満が特に好ましい。
【0073】
水溶液のpHは、ガラス電極pHメーター(例えば株式会社堀場製作所製 製品名「pHメータ D-52」)を用い、25℃で測定され得る。
【0074】
(A)成分のガラス転移温度の上限及び下限は、145、140、130、120、110、105、100℃等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分のガラス転移温度は、100~145℃が好ましく、機械的強度、耐熱性の観点から110℃以上がより好ましい。
【0075】
(A)成分のガラス転移温度は、(a)成分や(b)成分の組み合わせによって調整可能である。(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)、(b)成分を用いた(A)成分において、そのガラス転移温度は、(a)成分、(b)成分それぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg 絶対温度:K)と前記単量体の質量分率から、以下に示すFoxの式に基づいて求められ得る。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
[式中、Tgは、求めようとしているポリマーのガラス転移温度(K)、W~Wは、各単量体の質量分率、Tg~Tgは、各単量体のホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す]
【0076】
例えば、ガラス転移温度は、アクリルアミドのホモポリマーでは165℃、アクリル酸のホモポリマーでは106℃、メタクリル酸メチルのホモポリマーでは126℃、アクリロニトリルのホモポリマーでは105℃である。所望のガラス転移温度を有する(A)成分が得られるように、それを構成する(a)成分、及び(b)成分の組成を決定することができる。なお、単量体のホモポリマーのガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)等によって例えば-100℃から300℃へ昇温させる条件(昇温速度10℃/min.)で測定することができる。また、文献に記載されている値を用いることもできる。文献は、「化学便覧 基礎編II 日本化学会編 (改訂5版)」、p325等が例示される。
【0077】
1つの実施形態において、(A)成分の15質量%水溶液のHAZEは、10以下(例えば、9以下、7以下、5以下、3以下、1以下、0.1以下、0)が好ましい。
【0078】
HAZE
HAZEは、濁度計(日本電色工業株式会社製 製品名「NDH-2000」)を用い、サンプルセルに試料をいれて測定され得る。
【0079】
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中のポリ(メタ)アクリルアミドの含有量の上限及び下限は、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0.5、0.1質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中のポリ(メタ)アクリルアミドの含有量は、0.1~90質量%が好ましく、1.0~80.0質量%がより好ましい。
【0080】
<水>
水は、超純水、純水、蒸留水、イオン交換水、及び水道水等が例示される。
【0081】
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の水の含有量の上限及び下限は、99.9、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の水の含有量は、10.0~99.9質量%が好ましく、20.0~99質量%がより好ましく、50.0~99.9質量%がさらに好ましい。
【0082】
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の水とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(水/ポリ(メタ)アクリルアミド)の上限及び下限は、1000、900、750、500、400、250、100、90、75、50、25、10、5、2、1、0.9、0.5、0.4、0.2、0.1等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の水とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(水/ポリ(メタ)アクリルアミド)は、0.1~1000が好ましい。
【0083】
1つの実施形態において、上記光触媒コーティング剤用バインダー水溶液は、前記ポリ(メタ)アクリルアミド及び水のみを含む。
【0084】
<架橋剤(A1):(A1)成分ともいう>
1つの実施形態において、上記光触媒コーティング剤用バインダー水溶液は、架橋剤を含む。架橋剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0085】
架橋剤は有機架橋剤、無機架橋剤等が例示される。
【0086】
(有機架橋剤)
有機架橋剤はホルムアルデヒド、グリオキサール、ヘキサメチレンテトラミン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メチロールメラミン樹脂、水溶性多価アルコール等が例示される。
【0087】
水溶性多価アルコールは、水酸基を2個以上有するアルコールのうち、水溶性のものである。水溶性の定義は上述のものと同じである。
【0088】
水溶性多価アルコールは、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等が例示される。
これらの中でも一般式(1):
【化3】
(式中、Rは、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であり、nは1以上の整数である。)で表される水溶性多価アルコール、特にポリエチレングリコール(n=1~6)が、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)との熱架橋性がよいことから好ましい。
【0089】
(無機架橋剤)
無機架橋剤は、ヒドロキシシリル化合物等が例示される。
【0090】
本開示において、ヒドロキシシリル化合物とはケイ素原子にヒドロキシ基(-OH)が直接結合している構造を有する化合物を意味し、トリヒドロキシシリル化合物とは、トリヒドロキシシリル基(-Si(OH))を有する化合物を意味し、テトラヒドロキシシリル化合物とは、Si(OH)で表わされる化合物を意味する。
【0091】
1つの実施形態において、トリヒドロキシシリル化合物は下記一般式
RSi(OH)
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基、ビニル基、又は(メタ)アクリロキシ基を表し、上記置換基は、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基、(メタ)アクリロキシ基、エポキシ基等が例示される。)
で表わされる化合物である。
【0092】
ヒドロキシシリル化合物はシランカップリング剤やテトラアルコキシシランを加水分解して調製することが好ましい。ヒドロキシシリル化合物は水溶性を失わない範囲内で、部分的に縮重合していても構わない。シランカップリング剤は、本発明の属する技術分野で一般的に使用されているシランカップリング剤を使用することができる。
【0093】
シランカップリング剤は、特に制限されない。シランカップリング剤から製造されるヒドロキシシリル化合物は、単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。1つの実施形態において、ヒドロキシシリル化合物はトリヒドロキシシリルプロピルアミンを含む。
【0094】
トリアルコキシシランは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、テトラヒドロキシシラン等が例示される。
またテトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランオリゴマー、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランオリゴマー等が例示される。
これらのうち、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)との安定性及び耐電解液性の観点から、3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いてヒドロキシシリル化合物を製造することが好ましい。
【0095】
これらのシラノール基の安定化を図るために、ヒドロキシシリル化合物が含まれる水溶液のpHを一定の範囲に調整することが好ましい。好適なpHの範囲はヒドロキシシリル化合物の原料であるシランカップリング剤によって異なる。
【0096】
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンにおける上記好適なpH(25℃)の範囲はpH9~12である。
【0097】
N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランオリゴマー、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランオリゴマーにおける上記好適なpH(25℃)の範囲はpH2~5である。
【0098】
(トリヒドロキシシリル化合物、テトラヒドロキシシリル化合物の製法)
加水分解の手法としては、特に限定されないが、水又は水・アルコール混合溶液中に、上記のシランカップリング剤を加え、濁りが無くなって均一化するまで加水分解、部分的な縮合反応を進めたゾル溶液を用いる手法等が例示される。
【0099】
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の架橋剤の含有量の上限及び下限は、15、14、13、11、10、9、7、5、3、2、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の架橋剤の含有量は、0~15質量%が好ましい。
【0100】
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の架橋剤とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(架橋剤/ポリ(メタ)アクリルアミド)の上限及び下限は、150、140、125、100、90、75、50、25、10、9、5、2、1、0等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤用バインダー水溶液中の架橋剤とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(架橋剤/ポリ(メタ)アクリルアミド)は、0~150が好ましい。
【0101】
<添加剤>
光触媒コーティング剤用バインダー水溶液は、(A)成分にも(A1)成分にも水にも該当しないものを添加剤として含み得る。添加剤は、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、分散体(エマルジョン)、金属化合物(亜鉛イオンの塩等の金属塩、水溶性金属キレート化合物等)、シロキサン等が例示される。添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、水100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、(A1)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、また上記水溶液100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0102】
分散剤は、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物等が例示される。
【0103】
レベリング剤は、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤等が例示される。
【0104】
酸化防止剤は、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が例示される。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体である。ポリマー型フェノール化合物の重量平均分子量は200~1000が好ましく、600~700がより好ましい。
【0105】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物等が例示される。
【0106】
分散体(エマルジョン)は、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリスチレン系重合体ラテックス、ポリブタジエン系重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリウレタン系重合体ラテックス、ポリメチルメタクリレート系重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリアクリレート系重合体ラテックス、塩化ビニル系重合体ラテックス、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、酢酸ビニル-エチレン系共重合体エマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド、アルギン酸とその塩、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が例示される。
【0107】
[光触媒コーティング剤:コーティング剤ともいう]
本開示は、上記光触媒コーティング剤用バインダー水溶液、及び光触媒を含む、光触媒コーティング剤を提供する。
【0108】
本開示において、「光触媒コーティング剤」は、例えば、光触媒を含むコーティング剤を意味する。
【0109】
光触媒コーティング剤に含まれるポリ(メタ)アクリルアミド(A)、水、架橋剤(A1)は上述したもの等が例示される。
【0110】
光触媒コーティング剤中のポリ(メタ)アクリルアミドの含有量の上限及び下限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0.9、0.5、0.2、0.1質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤中のポリ(メタ)アクリルアミドの含有量は、固形換算で0.1~50.0質量%が好ましい。
【0111】
光触媒コーティング剤中の水の含有量の上限及び下限は、99.9、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤中の水の含有量は、50.0~99.9質量%が好ましい。
【0112】
光触媒コーティング剤中の水とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(水/ポリ(メタ)アクリルアミド)の上限及び下限は、1000、900、750、500、400、250、100、90、75、50、25、10、5、2、1等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤中の水とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(水/ポリ(メタ)アクリルアミド)は、1~1000が好ましい。
【0113】
光触媒コーティング剤中の架橋剤の含有量の上限及び下限は、2.5、2、1.5、1、0.5、0.1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤中の架橋剤の含有量は0~2.5質量%が好ましい。
【0114】
光触媒コーティング剤中の架橋剤とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(架橋剤/ポリ(メタ)アクリルアミド)の上限及び下限は、25、23、20、17、15、13、10、9、7、5、4、2、1、0等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤中の架橋剤とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(架橋剤/ポリ(メタ)アクリルアミド)は、0~25が好ましい。
【0115】
<光触媒(B):(B)成分ともいう>
本開示において、「光触媒」は、例えば、その結晶の伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)の光(励起光)を照射したときに、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔とを生成し得る物質を意味する。
【0116】
光触媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。光触媒は、紫外光応答型光触媒、可視光応答型光触媒等が例示される。
【0117】
本開示において、紫外光応答型光触媒は、例えば、400nm未満の波長を有する可視光で光触媒活性及び/又は親水性を発現する光触媒を意味する。紫外光応答型光触媒は、TiO、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、GaAs、BaTiO、BaTiO、BaTi、KNbO、Nb、Fe、Ta、KTaSi、WO、SnO、Bi、BiVO、NiO、CuO、SiC、MoS、InPb、RuO、CeO等が例示される。
【0118】
層状酸化物光触媒は、Ti、Nb、Ta、及びVからなる群から選択される1種以上の元素を有する層状酸化物等が例示される。上記層状酸化物は、特開昭62-74452号公報、特開平2-172535号公報、特開平7-24329号公報、特開平8-89799号公報、特開平8-89800号公報、特開平8-89804号公報、特開平8-198061号公報、特開平9-248465号公報、特開平10-99694号公報、特開平10-244165号公報に記載されている。
【0119】
本開示において、可視光応答型光触媒は、例えば、400~800nmの波長を有する可視光で光触媒活性及び/又は親水性を発現する光触媒を意味する。可視光応答型光触媒は、TaON、LaTiON、CaNbON、LaTaON、CaTaON等のオキシニトリド化合物(例えば、特開2002-66333号公報を参照)、SmTi等のオキシスルフィド化合物(例えば、特開2002-233770号公報を参照)、CaIn、SrIn、ZnGa、NaSb等のd10電子状態の金属イオンを含む酸化物(例えば、特開2002-59008号公報を参照)、アンモニアや尿素に代表される窒素含有化合物存在下で、例えばオキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンに代表されるチタン酸化物前駆体や高表面積酸化チタンを焼成して得られる窒素ドープ酸化チタン(例えば、特開2002-29750号公報、特開2002-7818号公報、特開2002-154823号公報、特開2001-207082号公報を参照)、チオ尿素等の硫黄化合物存在下で、オキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンに代表されるチタン酸化物前駆体を焼成して得られる硫黄ドープ酸化チタン、酸化チタンを水素プラズマ処理したり真空下で加熱処理したりすることによって得られる酸素欠陥型の酸化チタン(例えば、特開2001-98219号公報を参照)、光触媒粒子をハロゲン化白金化合物で処理したもの(例えば、特開2002-239353号公報を参照)や光触媒粒子をタングステンアルコキシドで処理したもの(特開2001-286755号公報参照)に代表される表面処理光触媒等が例示される。
【0120】
光触媒活性を向上させるなどの観点から、光触媒の表面にPt、Au、Ag、Cu、Pd、Rh、Ru等の金属、その金属の酸化物を密着させたものも光触媒として使用され得る。また、分散性向上や耐候性向上の観点から、光触媒表面にシリカ、アルミナ等の金属酸化物を被着させたものも光触媒として使用され得る。
【0121】
1つの実施形態において、光触媒は、紫外光応答型光触媒が好ましく、安全性及びコストの観点から酸化チタンがより好ましい。酸化チタンにはアナタース型、ルチル型、ブルッカイト型の結晶構造があるが、いずれも使用され得る。
【0122】
1つの実施形態において、光触媒の粒子の粒子径は、光触媒としての性能を向上させる観点及び良好な分散性を示す観点から、その一次粒子径は1~400nmが好ましく、1~100nmがより好ましく、5~50nmがさらに好ましい。
【0123】
光触媒コーティング剤中の光触媒の含有量の上限及び下限は、99.9、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、49.9質量%等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤の光触媒の含有量は49.9~99.9質量%が好ましく、50.0~99.9質量%がより好ましい。
【0124】
光触媒コーティング剤中の光触媒とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(光触媒/ポリ(メタ)アクリルアミド)の上限及び下限は、1000、900、750、500、400、250、100、90、75、50、25、10、5、2、1等が例示される。1つの実施形態において、光触媒コーティング剤中の光触媒とポリ(メタ)アクリルアミドとの質量比(光触媒/ポリ(メタ)アクリルアミド)は、1~1000が好ましい。
【0125】
<添加剤>
光触媒コーティング剤は、(A)成分にも(A1)成分にも(B)成分にも水にも該当しないものを添加剤として含み得る。添加剤は、上述したもの等が例示される。添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、水100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、(A1)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、(B)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、また上記コーティング剤100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0126】
[硬化物]
本開示は、光触媒コーティング剤の硬化物を提供する。上記硬化物を製造する際の条件は後述のもの等が例示される。
【0127】
[物品]
本開示は、上記硬化物を含む、物品を提供する。
【0128】
上記物品は各種公知の方法で製造される。1つの実施形態において、物品の製造方法は、光触媒コーティング剤を被塗工物品の少なくとも片面に塗工する工程(塗工工程)、乾燥させて光触媒コーティング剤硬化物層を形成する工程(乾燥工程)を含む。
【0129】
被塗工物品は、ガラス、建材、建物外装、建物内装、窓枠、各種レンズ、構造部材、住宅等建築設備、車両用照明灯カバー、機械装置、防塵カバー、表示機器、表示機器のカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレール、トンネル内装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器、透明部材、ビニールハウス、温室等が例示される。
【0130】
(塗工工程)
塗工方法は、バーコーター塗工、ワイヤーバー塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が例示される。
【0131】
(乾燥工程)
乾燥方法は、循風乾燥機等による乾燥が例示される。乾燥条件は105℃で1時間静置等が例示される。
【実施例
【0132】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明を具体的に説明する。但し、上述の好ましい実施形態における説明及び以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、各実施例及び比較例において、特に説明がない限り、部、%等の数値は質量基準である。
【0133】
実施例1-1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水3380g、50%アクリルアミド水溶液1200g(8.44mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム1.34g(0.0082mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)6.0g、イオン交換水60gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行い、ポリ(メタ)アクリルアミドを14質量%、水を86質量%含む光触媒コーティング剤用バインダー水溶液を得た。
【0134】
実施例2-1
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、上記ミキサー専用の容器に実施例1-1の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液70.0gと、光触媒として酸化チタン(堺化学(株)製、製品名「SSP-M」 アナタース型 15nm(X線粒子径))10.0gと、水53.4gを加え、2000rpmで10分間自転公転させることにより、ポリ(メタ)アクリルアミドを7.5質量%、光触媒を7.5質量%、水を85質量%含む光触媒コーティング剤を製造した。
【0135】
比較例2-1
比較例2-1の光触媒コーティング剤は、実施例1-1の光触媒コーティング剤用バインダー水溶液の代わりに、ポリアクリル酸(荒川化学工業(株)製、製品名「タマノリG37」)を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして製造した。
【0136】
バインダーの安定性を下記手順により確認した。
まず、実施例及び比較例の光触媒コーティング剤を200nmのアプリケーターを用いてガラス板に塗工した後、順風乾燥機(アドバンテック東洋(株)製、商品名「送風定温乾燥器 DSR420DA」)にて105℃1時間乾燥させて試料を作成した。作成した試料に対し、UV照射装置(ダイプラ・ウィンテス(株)製、商品名「メタルウェザー」)を用いて放射照度:850W/m(300~400nm)の下、24時間、96時間それぞれ別々の試料に照射した。照射後、照射したコート層(酸化チタン+バインダー)を水で溶解させ、GPCとしてHLC-8220(東ソー(株)製)を、カラムとしてSB-806M-HQ(SHODEX製)を用いた)を用いて重量平均分子量(Mw)の測定を行った。測定結果を下記表に示す。
【0137】
【表1】