(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】画像処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20220928BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61B6/00 350N
A61B6/00 350Z
G06T1/00 290A
(21)【出願番号】P 2018218799
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 達也
(72)【発明者】
【氏名】アグス スハルノ
(72)【発明者】
【氏名】畑野 亜麻衣
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/092982(WO,A1)
【文献】特開2004-016612(JP,A)
【文献】特開2018-148964(JP,A)
【文献】特開2012-239796(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026145(WO,A1)
【文献】特開2018-047192(JP,A)
【文献】米国特許第07020343(US,B1)
【文献】特開2016-214725(JP,A)
【文献】特開昭60-207642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14 、
G06T 1/00 - 1/40 、 3/00 - 7/90 、
G06V10/00 -20/90 、30/418、40/16 、
40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれから
前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれ
を画像解析することにより前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を認識し、その認識結果に基づいて、前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段と、
を備える画像処理装置。
【請求項3】
前記特定手段は、前記複数のフレーム画像のそれぞれから直接線領域を認識し、認識された直接線領域を前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域として特定する請求項
2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記特定手段は、前記複数のフレーム画像のそれぞれから直接線領域を認識し、認識された直接線領域のうち、前記複数のフレーム画像に共通して認識された領域を前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域として特定する請求項
3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記特定手段は、前記複数のフレーム画像のそれぞれ
に予め定められたサイズの複数の小領域を設定し、前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を認識し、認識された領域に設定された小領域のうち前記複数のフレーム画像に共通して存在する小領域を前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域として特定する請求項
2に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記特定手段は、前記画像解析による前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の特定に失敗した場合は予め定められた固定位置の領域を前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域として特定するか、又は警告を出力する請求項
2~5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記特定手段は、ユーザー操作により指定された領
域を前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域として特定する請求項
1に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記抽出手段により抽出された高周波成分に基づいて、前記補正手段による補正を行うか否かを判断する判断手段を備える請求項1~
7のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
コンピューターを、
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれから
前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
コンピューターを、
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれ
を画像解析することにより前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を認識し、その認識結果に基づいて、前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線源から被写体にパルス状の放射線を連続照射し、1秒間に複数回の撮影を行って、被写体の動態を示す複数のフレーム画像からなる動画像を取得する放射線撮影装置が知られている。このような放射線撮影装置では、
図7に示すように、放射線の照射ごとに放射線の照射線量がばらつく(変動する)ことにより、動画像を表示したときにちらつきが発生する、画像解析が正確にできない、等の問題が発生する。
【0003】
表示される透過X線画像の視認性を向上させる技術として、例えば、特許文献1には、ポイント指示部により指示された特定の点の画素を含む関心領域を画像データから抽出し、抽出した関心領域内の画素値に基づいてX線発生部のX線条件を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、真に観察したい部位に最適なX線量となるようにするために、X線発生部を制御する必要がある。また、X線を照射して得られた画像データに基づいてフィードバック制御を行っているため、応答に遅れが生じてしまう。さらに、照射線量の細かい変動については抑制できない。
【0006】
本発明の課題は、放射線の照射線量を制御することなく、かつ被写体起因の信号値変動を抑制することなく、放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像における照射線量の変動に起因する信号値変動を抑制できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の側面によると、画像処理装置は、
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段と、
を備える。
【0008】
また、本発明の第2の側面によると、画像処理装置は、
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれを画像解析することにより前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を認識し、その認識結果に基づいて、前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段と、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段と、
を備える。
【0009】
また、本発明の第3の側面によると、プログラムは、
コンピューターを、
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段、
として機能させる。
【0010】
また、本発明の第4の側面によると、プログラムは、
コンピューターを、
被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれを画像解析することにより前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を認識し、その認識結果に基づいて、前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域を特定する特定手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記被写体の動態に起因する信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出する抽出手段、
前記複数のフレーム画像のそれぞれから前記抽出手段により抽出された高周波成分を減算または除算することにより、前記放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する補正手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放射線の照射線量を制御することなく、かつ被写体起因の信号値変動を抑制することなく、被写体に放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像における照射線量の変動に起因する信号値変動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態における放射線画像取得システムの全体構成例を示す図である。
【
図2】
図1のコンソールの機能的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1の制御部により実行される照射線量変動補正処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】被写体起因の信号値変動がない領域の特定手法の一例を説明するための図である。
【
図6】被写体起因の信号値変動がない領域の特定手法の他の例を説明するための図である。
【
図7】動画像における照射線量の変動に起因する時間方向の信号値変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0020】
〔放射線画像取得システム100の構成〕
まず、本実施形態の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る放射線画像取得システム100の全体構成例を示す図である。
図1に示すように、放射線画像取得システム100は、撮影装置1と、コンソール2とがデータ送受信可能に接続されて構成されている。
【0021】
撮影装置1は、例えば、呼吸運動に伴う肺の膨張及び収縮の形態変化、心臓の拍動等の、被写体Hの動態を動画撮影する装置である。動画撮影とは、ここでは、被写体Hに対し、X線等の放射線をパルス状にして所定時間間隔で繰り返し照射することで、被写体Hの動態を示す複数の画像を取得することをいう。動画撮影により得られた一連の画像を動画像と呼ぶ。また、動画像を構成する複数の画像のそれぞれをフレーム画像と呼ぶ。なお、以下の実施形態では、胸部正面の動画撮影を行う場合を例にとり説明するが、これに限定されるものではない。
【0022】
撮影装置1は、放射線検出器Pと、放射線検出器Pを装填可能な撮影台11と、放射線発生装置12とを備えて構成されている。撮影台11は、そのホルダー11a内に放射線検出器Pを装填することができるようになっている。
【0023】
放射線検出器Pは、FPD(Flat Panel Detector)等の半導体イメージセンサーにより構成され、被写体Hを挟んで放射線発生装置12と対向するように設けられている。放射線検出器Pは、例えば、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線発生装置12から照射されて少なくとも被写体Hを透過した放射線(X線)をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の検出素子(画素)がマトリックス状に配列されている。各画素は、例えばTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部を備えて構成されている。放射線検出器Pは、コンソール2から入力された画像読取条件に基づいて各画素のスイッチング部を制御して、当該各画素に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、各画素に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データ(信号値)を取得する。この画像データがフレーム画像である。フレーム画像の信号値(画素値)は濃度値を示す。そして、放射線検出器Pは、取得したフレーム画像をコンソール2に出力する。
【0024】
放射線発生装置12は、被写体Hを挟んで放射線検出器Pと対向する位置に配置され、コンソール2から入力された放射線照射条件に基づいて被写体Hを介して、ホルダー11aに装填された放射線検出器Pに放射線を照射して撮影を行う。
【0025】
コンソール2は、放射線照射条件や画像読取条件等の撮影条件を撮影装置1に出力して撮影装置1による放射線撮影及び放射線画像の読み取り動作を制御するとともに、撮影装置1により取得された動画像のフレーム画像に画像処理を施す画像処理装置として機能する。
コンソール2は、
図2に示すように、制御部21、記憶部22、操作部23、表示部24、通信部25を備えて構成され、各部はバス26により接続されている。
【0026】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory
)等により構成される。制御部21のCPUは、操作部23の操作に応じて、記憶部22に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、コンソール2各部の動作や、撮影装置1の放射線照射動作及び読み取り動作を集中制御する。また、制御部21は、撮影装置1の放射線検出器Pから送信された動画像に対し、後述する照射線量変動補正処理等を始めとする各種処理を実行し、抽出手段、補正手段、特定手段、判断手段として機能する。
【0027】
記憶部22は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部22は、制御部21で実行される各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメーター、或いは処理結果等のデータを記憶する。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部21は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0028】
また、記憶部22は、撮影部位(ここでは胸部)に対応する撮影条件(放射線照射条件及び画像読取条件)を記憶している。更に、記憶部22は、図示しないRIS(Radiology Information System)等から送信される撮影オーダー情報が記憶されている。撮影オーダー情報には、患者情報、検査情報(検査ID、撮影部位(撮影方向も含む)、検査日等)等が含まれる。
【0029】
また、記憶部22は、撮影により取得された動画像を患者情報や検査情報に対応付けて記憶する。
【0030】
操作部23は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、ユーザーによるキーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部21に出力する。また、操作部23は、表示部24の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部21に出力する。更に、操作部23には、放射線発生装置12に動画撮影を指示するための曝射スイッチが備えられている。
【0031】
表示部24は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニターにより構成され、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、操作部23からの入力指示やデータ等を表示する。
【0032】
通信部25は、放射線発生装置12及び放射線検出器Pとデータ送受信を行うためのインターフェースを有する。なお、コンソール2と放射線発生装置12及び放射線検出器Pとの通信は、有線通信であっても無線通信であってもよい。
また、通信部25は、LANアダプターやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークに接続された図示しないRIS等との間のデータ送受信を制御する。
【0033】
〔放射線画像取得システム100の動作〕
撮影装置1においてホルダー11aに放射線検出器Pがセットされた状態で、コンソール2において操作部23により撮影対象の撮影オーダー情報が選択されると、選択された撮影オーダー情報に応じた撮影条件(放射線照射条件及び放射線画像読取条件)が記憶部22から読み出されて撮影装置1に送信され、撮影装置1に設定される。被写体Hのポジショニングが行われて曝射スイッチが押下されると、撮影装置1において、放射線発生装置12により放射線が複数回連続的に照射され、放射線検出器Pにより動画像の複数のフレーム画像が取得され、フレーム番号を付加してコンソール2に送信される。
【0034】
コンソール2においては、通信部25により放射線検出器Pから動画像を受信すると、制御部21により、受信した動画像が患者情報、検査情報に対応付けて記憶部22に記憶される。また、制御部21は、受信した動画像に対して照射線量変動補正処理を実行し、放射線撮影における放射線照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する。
【0035】
図3は、照射線量変動補正処理の流れを示すフローチャートである。照射線量変動補正処理は、制御部21と記憶部22に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0036】
まず、制御部21は、各フレーム画像に対数変換を行う(ステップS10)。
ここで、各フレーム画像の信号値を対数変換することで、照射線量の変動の振幅を一定にすることができる。
【0037】
次いで、制御部21は、各フレーム画像の被写体起因の信号値変動(被写体Hの動態に起因する信号値変動)がない領域にROI(関心領域)を設定する(ステップS11)。
被写体起因の信号値変動がない領域としては、例えば、被写体Hを透過せずに放射線検出器Pに直接放射線が入射した領域(直接線領域)が挙げられる。また、呼吸運動や心拍運動による信号値変動のない胸椎領域、肩領域についても、被写体起因の信号値変動がない領域としてROIを設定することができる。
ROIは、制御部21が自動で設定してもよいし、表示部24に動画像のフレーム画像を表示し、表示された画像上からユーザーが操作部23により指定した領域をROIとして設定してもよい。
【0038】
ROIを自動で設定する方法としては、例えば、制御部21が動画像を解析して被写体起因の信号値変動がない領域を特定し、特定した領域にROIを設定する方法がある。
例えば、動画像から直接線領域を認識し、認識した直接線領域内にROIを設定する。直接線領域は、公知の手法で認識することができる。例えば、直接線領域は、
図4に示すように信号値が他の領域に比べて非常に高いため、各フレーム画像において信号値が所定の閾値TH1以上の領域を直接線領域として認識する。そして、
図5に示すように、各フレーム画像において認識された直接線領域のうち全フレーム画像で共通の領域をROIとして設定する。
または、特開平05-7579号公報に記載のように、直接線領域は、信号値が他の領域に比べて非常に高く、かつ、一様であるため、各フレーム画像に複数画素からなる小領域を設定し、例えば、小領域内の平均信号値が所定の閾値TH1以上かつ信号値の分散値が所定の閾値TH2よりも低い小領域群を直接線領域として認識する。そして、
図6に示すように、各フレーム画像において直接線領域として認識された領域内に設定された小領域(
図6においてハッチングで示す)のうち全フレーム画像に共通して存在する小領域をROIとして設定する。
【0039】
または、動画像から胸椎領域を認識し、認識した胸椎領域内にROIを設定してもよい。胸椎領域は、公知の手法で認識することができる。例えば、特開2000-79110号公報に記載のように、まず、気管部分(肺野上端付近)の信号値の水平方向プロファイルが2つの極小値が極大値を挟むような形状をしていることを利用して胸椎左右端を認識する。次いで、肺野領域上端付近で信号値の垂直方向プロファイルが極小値をとることを利用して肺野上端を認識する。次いで、肺野上端を胸椎上端と考え、胸椎上端から一定距離の位置を胸椎下端とする。そして、胸椎上端から胸椎下端までの水平方向プロファイルの変曲点を胸椎左右端として認識しなおし、胸椎領域を認識し、各フレーム画像において認識された胸椎領域をROIとして設定する。あるいは、認識された胸椎領域の胸椎左右端の形状等に基づいて、胸椎領域から第1胸椎~第12胸椎の領域を認識し、認識された第1胸椎~第12胸椎を小領域として設定し、小領域のうち全フレーム画像において共通して存在する小領域をROIとして設定する。
または、動画像から肩領域を認識し、認識した肩領域内にROIを設定してもよい。肩領域は、公知の手法で認識することができる。例えば、特開2000-79110号公報に記載のように、信号値の水平方向プロファイルと垂直プロファイルを用いて肩領域を認識することができる。
【0040】
また、ROIを自動で設定する他の方法としては、各フレーム画像の予め定められた固定位置(例えば、左上のn×m画素(n、mは自然数)等)にROIを設定することとしてもよい。
【0041】
なお、制御部21は、設定したROIの領域にマーカーを付したフレーム画像(例えば、先頭のフレーム画像)を表示部24に表示してもよい。そして、ユーザーが操作部23の操作によりROIの位置やサイズを微調整できるようにしてもよい。
【0042】
また、画像解析により被写体起因の信号値変動がない領域を特定する処理において、被写体起因の信号値変動がない領域の検出が失敗した場合、制御部21は、予め定められた固定位置にROIを設定するか又は表示部24に警告を表示することとしてもよい。
【0043】
次いで、制御部21は、フレーム画像ごとに、ROI内の信号値の代表値(代表信号値と呼ぶ)を算出する(ステップS12)。代表信号値としては、例えば、中央値、平均値、累積ヒストグラムのN%値(Nパーセンタイル。Nは正の整数(例えば、N=90))等を用いることができる。
【0044】
次いで、制御部21は、全フレーム画像のROI内の代表信号値の平均値を算出し(ステップS13)、各フレーム画像のROI内の代表信号値からステップS13で算出した平均値を減算することにより各フレーム画像の信号値の補正量を算出する(ステップS14)。
【0045】
図7は、動画撮影における照射線量の変動に起因する動画像の信号値の時間変化(変動)を示すグラフである。動画撮影においては、放射線の照射ごとに照射線量が変動するため、この照射線量の変動に起因して複数のフレーム画像の信号値(同じ個所を表す信号値)は、時間方向に高い周波数で変動する。ステップS11で設定したROIでは、被写体起因の信号値変動がないため、代表信号値を時系列にプロットすると、
図7に示すグラフのように高周波数の時間変化を持つプロファイルを得ることができる。そこで、各フレーム画像のROIの代表信号値から全フレーム画像のROIの代表信号値の平均値を減算する。これにより、照射線量の変動に起因する信号値変動に対応する高周波成分を抽出することができる。この高周波成分を補正量とし、各画素の信号値から減算することで、各フレーム画像から照射線量の変動成分を取り除くことができる。
なお、ROIの代表信号値に予め定められたカットオフ周波数の時間方向のハイパスフィルターを適用したフィルタリング処理を行って高周波成分を抽出することで、照射線量の変動に起因する信号値の変動成分を取得することとしてもよい。
【0046】
次いで、制御部21は、算出した補正量の絶対値の最大値に基づいて、補正を行うか否かを判断する(ステップS15)。
ここで、算出した補正量が非常に小さいか又は非常に大きい場合、例えば、直接線領域や胸椎等の自動認識が失敗した、または、ユーザーが誤った領域にROIを設定した等により、ROIの設定が失敗している可能性がある。この場合に、算出した補正量に基づいて補正を行うと、被写体起因の信号値変動まで除去してしまうか、または補正を行っても十分に照射線量の変動に起因する信号値変動が除去できない可能性がある。そこで、制御部21は、ステップS14で算出した補正量の最大値が所定の範囲内であるか否かを判断し、所定の範囲内でない場合、補正を実施しないようにする。なお、制御部21は、補正実施の有無やROIの位置を、例えば表示部24に表示する等によりユーザーに通知することが好ましい。
【0047】
補正を行うと判断した場合(ステップS15;YES)、制御部21は、各フレーム画像の各画素の信号値から補正量を減算し(ステップS16)、ステップS17に移行する。
補正を行わないと判断した場合(ステップS15;NO)、制御部21は、ステップS17に移行する。
【0048】
ステップS17において、制御部21は、各フレーム画像の信号値を逆対数変換し(ステップS17)、逆対数変換した一連のフレーム画像(動画像)を出力し(ステップS18)、照射線量変動補正処理を終了する。
【0049】
例えば、制御部21は、照射線量変動補正処理により出力された動画像を患者情報、検査情報、補正前の動画像等に対応付けて記憶部22に記憶させるとともに、表示部24に表示する。
または、制御部21は、照射線量変動補正処理により出力された動画像に解析処理を施し、解析結果を表示部24に表示させることとしてもよい。解析処理としては、特に限定されないが、例えば、胸部の動画像の場合、換気機能の解析や血流機能の解析処理が挙げられる。換気機能の解析処理としては、例えば、動画像の各フレーム画像の肺野領域と基準フレーム画像(例えば、最大呼気位又は最大吸気位のフレーム画像)の肺野領域の画素ごとの信号値の差分値を算出し、算出した差分値に応じた色を付して表示する処理、又は算出した差分値をグラフ表示する処理が挙げられる。血流機能の解析処理としては、例えば、動画像の各フレーム画像における肺野領域と隣接するフレーム画像における肺野領域の画素ごとの信号値の差分値を算出し、算出した差分値に応じた色を付して表示する処理、又は算出した差分値をグラフ表示する処理が挙げられる。照射線量変動補正処理により出力された動画像は、照射線量の変動に起因する信号値変動が除去されているので、精度のよい解析を行うことができる。
なお、ステップS17における逆対数変換は、例えば、照射線量変動補正処理の処理後の動画像を表示部24に表示するだけの場合は省略してもよい。
【0050】
なお、線量計(AEC(Automatic Exposure Control)センサー)を用いても照射線量の変動を検出することができるが、線量計により検出された照射線量の変動を用いた補正では、線量計とコンソール2がデータ連動を行ったり、線量計による検出結果と画像との時間的な整合を図ったりする手間が必要であり、煩雑であるため、上記照射線量変動補正処理による補正は線量計を用いて補正を行うよりも有効である。
【0051】
以上説明したように、コンソール2の制御部21は、被写体Hに放射線を複数回連続して照射することにより取得された複数のフレーム画像のそれぞれから被写体起因の信号値変動がない領域の代表信号値を算出し、算出した代表信号値の時間変化の高周波成分を抽出し、抽出された高周波成分を複数のフレーム画像のそれぞれから減算することにより、放射線の照射ごとの照射線量の変動に起因する信号値変動を補正する。
したがって、放射線の照射線量を制御することなく、かつ被写体起因の信号値変動を抑制することなく、動画像の各フレーム画像から照射線量の変動に起因する信号値の変動を抑制することができる。その結果、動画像を表示したときの照射線量の変動によるちらつきを低減することができる。また、被写体起因の信号値変動についての解析を精度よく行うことが可能となる。
【0052】
また、例えば、制御部21が複数のフレーム画像を画像解析することにより被写体起因の信号値変動がない領域を認識し、認識結果に基づいて、被写体起因の信号値変動がない領域を特定することで、ユーザーの手間なく、容易に被写体起因の信号値変動がない領域を特定することができる。
【0053】
また、例えば、制御部11が複数のフレーム画像のそれぞれから直接線領域を認識し、認識された直接線領域のうち、複数のフレーム画像に共通して認識された領域を被写体起因の信号値変動がない領域として特定するか、または、複数のフレーム画像のそれぞれから被写体起因の信号値変動がない領域を認識し、認識された領域に設定された小領域のうち複数のフレーム画像に共通して存在する小領域を被写体起因の信号値変動がない領域として特定することで、より精度のよい補正を行うことが可能となる。
【0054】
また、例えば、画像解析による被写体起因の信号値変動がない領域の特定に失敗した場合は、予め定められた固定位置の領域を被写体起因の信号値変動がない領域として特定することで、被写体起因の信号値変動がない領域の特定に失敗した場合であっても、補正を行うことが可能となる。また、画像解析による被写体起因の信号値変動がない領域の特定に失敗した場合に、警告を出力することで、ユーザーは被写体起因する信号値変動がない領域の特定に失敗したことを認識することができる。
【0055】
また、例えば、ユーザー操作により指定された領域、又は予め定められた固定位置の領域を被写体起因の信号値変動がない領域として特定することで、画像解析を行うことなく、簡易に被写体起因の信号値変動がない領域を特定することができる。
【0056】
また、被写体起因の信号値変動がない領域から抽出された高周波成分に基づいて、補正を行うか否かを判断することで、補正により被写体起因の信号値変動まで除去してしまったり、効果のない無駄な補正を行ってしまったりすることを防止することができる。
【0057】
なお、上記実施形態における記述内容は、本発明の好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0058】
例えば、上記実施形態においては、各フレーム画像の信号値から補正量を減算することにより放射線撮影における照射線量の変動に起因する信号値変動を補正することとして説明したが、各フレーム画像の信号値から補正量を除算することにより放射線撮影における照射線量の変動に起因する信号値変動を補正することとしてもよい。
【0059】
また、例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0060】
その他、計測装置を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
100 放射線画像取得システム
1 撮影装置
11 撮影台
11a ホルダー
12 放射線発生装置
P 放射線検出器
2 コンソール
21 制御部
22 記憶部
23 操作部
24 表示部
25 通信部
26 バス