(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】スラグのフォーミング抑制方法および転炉精錬方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20220928BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20220928BHJP
C21C 1/04 20060101ALI20220928BHJP
C21C 5/46 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C21C5/28 B
C21C1/02 110
C21C1/04 101
C21C5/46 103E
(21)【出願番号】P 2018244459
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松澤 玲洋
(72)【発明者】
【氏名】沼田 政憲
(72)【発明者】
【氏名】尾林 智
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/135347(WO,A1)
【文献】特開2000-328122(JP,A)
【文献】特開2009-287050(JP,A)
【文献】特開2018-095964(JP,A)
【文献】特開2016-148061(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039326(WO,A1)
【文献】特開2019-108566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28
C21C 1/02
C21C 1/04
C21C 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の下方に設置した排滓鍋へ、Sを20~55質量%含有する硫化鉱物を投入するスラグのフォーミング抑制方法であって、前記転炉の炉口からスラグを排出する前に、式(1)を満たす量の硫化鉱物を前記排滓鍋内に投入し、さらに、スラグの排出量が式(2)の条件を満たしている時期を開始点として、式(3)の範囲を満たす速度で水噴流を前記排滓鍋の
排滓流の落下中心部から半径1m以内の範囲に吹き付けることを特徴とする、スラグのフォーミング抑制方法。
【数1】
w
ore:硫化鉱物の排滓前投入量(kg)
W
slag-1:排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(kg)
(%S)
ore:硫化鉱物のS濃度(質量%)
【数2】
W
slag:スラグ排出量(kg)
【数3】
V
water:水噴流の吹き付け速度(kg/分)
V
slag:スラグ排出速度(kg/分)
【請求項2】
前記硫化鉱物の粒度は、粒径20mm以下が80質量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のスラグのフォーミング抑制方法。
【請求項3】
1基の転炉に溶銑を装入して脱珪・脱燐吹錬を行った後、炉内に溶銑を残したまま転炉を傾動させてスラグを炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱炭吹錬を行う精錬方法において、脱燐吹錬後のスラグ排出時に請求項1または請求項2に記載のスラグのフォーミング抑制方法を用いることを特徴とした転炉精錬方法。
【請求項4】
2基の転炉の片方に溶銑を装入して脱珪吹錬を行った後、炉内に溶銑を残したまま転炉を傾動させてスラグを炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱燐吹錬を
行い、転炉から溶銑を排出して該溶銑のみをもう一方の転炉に再度装入して脱炭吹錬を行う精錬方法において、脱珪吹錬後のスラグ排出時に請求項1または請求項2に記載のスラグのフォーミング抑制方法を用いることを特徴とした転炉精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラグのフォーミング(泡立ち)抑制方法および転炉精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスにおいて高炉などで製造された溶銑はC濃度が4~5質量%、P濃度が0.1質量%程度と高く、そのまま鋳造・圧延しても加工性や靱性が低いために鉄鋼製品として用いることが困難である。したがって精錬プロセスにおいて脱燐・脱炭処理を行うとともに各種成分を調整して要求品質を満たす鋼を製造している。この脱燐・脱炭処理では酸素ガスやFeOを含むスラグにより溶銑中のC、Pを酸化除去するが、溶銑に含まれるSiがPよりも酸化されやすいため、実質的には脱珪・脱燐・脱炭反応が並行して進行する。
【0003】
現在、精錬プロセスは予備処理プロセスも含めて生産性と反応効率が良好な転炉方式が主流である。その操業方法としては、高炉溶銑を転炉に装入して脱珪・脱燐吹錬を行った後、吹錬を一旦停止して転炉を傾動させ、脱珪・脱燐スラグの一部を炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱炭吹錬を行う方法(以降、連続処理方式と表記)が非特許文献1において開示されている。また別の操業方法としては、高炉溶銑を転炉に装入して脱珪吹錬を行った後、吹錬を一旦停止して転炉を傾動させ、脱珪スラグの一部を炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱燐吹錬を行い、さらに脱燐吹錬後は転炉から溶銑を一旦排出して脱燐スラグと分離し、該溶銑のみを別の転炉に再度装入して脱炭吹錬を行う方法(以降、分離処理方式と表記)が特許文献1で開示されている。前者は1基の転炉を用いる操業形態であって、炉口からのスラグ排出を脱珪・脱燐吹錬と脱炭吹錬の中間で行う方式である。後者は2基の転炉を用いる操業形態であって、そのうち1基の転炉を脱珪・脱燐吹錬に使用し、該転炉において炉口からのスラグ排出を脱珪吹錬と脱燐吹錬の中間で行う方式である。両者は、炉口からスラグを効率的に排出するために、吹錬中に発生するスラグのフォーミング(泡立ち)現象を利用してスラグの体積を増加させる点が共通している。
【0004】
転炉スラグのフォーミングは、吹錬中に溶銑中のCと酸素ガスあるいはスラグ中のFeOが反応してCO気泡が多数生成し、スラグ中に滞留することで発生する。CO気泡が発生する反応は式(A)で表記される。
C+FeO=CO(g)+Fe (A)
【0005】
連続処理方式、分離処理方式のいずれも、炉内でフォーミングしたスラグを炉口から排出し、転炉下方に設置した排滓鍋へ収容する。排滓鍋へのスラグ排出量が増加するほど、炉内に残留するSiO2やP2O5を少なくすることができるため、脱燐に必要なスラグの塩基度(CaO/SiO2)を確保する目的で投入する生石灰など精錬材の使用量を低減することができる。したがって短時間で多量のスラグを排出することが望ましいが、排滓鍋へ排出された後もスラグのフォーミングは起こり、排滓鍋から溢れてしまうと周辺設備を焼損して復旧に多大な時間と労力を必要とする。スラグ排出速度を下げる、あるいはスラグ排出を一時中断するといった方法により溢れを回避することは可能であるが、これは生産性を低下させるため、スラグのフォーミングを抑制する物質が排滓鍋へ投入される。
【0006】
フォーミングに伴う精錬容器からのスラグ溢れは、排滓鍋に限らず混銑車や溶銑鍋、転炉などでも生産性を阻害する事象である。このため、これまでに様々なフォーミング抑制方法が試みられてきた。従来のフォーミング抑制方法は大きく2つに分類できる。まず1つは気泡の生成を抑制する方法であり、例えば特許文献2では生ドロマイトのような炭酸塩を投入し、熱分解する際の吸熱によりCOガスの発生を抑制するフォーミング防止剤が開示されている。もう1つはスラグ内に滞留した気泡を破壊(破泡)する方法であり、例えば特許文献3ではパルプ廃滓を主成分として成形したフォーミング鎮静剤が開示されている。このフォーミング鎮静剤はスラグ内で燃焼や熱分解の反応により急速にガスを発生し、その体積膨張エネルギーにより破泡してスラグを収縮させる。
【0007】
また特許文献4~6では、水が高温で迅速に気化すること、入手が容易であること、安価であることに着目して、溶融スラグに対してミスト状や噴流状の水を吹き付け、スラグ表面の破泡や固化を行うことでフォーミングを鎮静する方法が開示されている。
【0008】
COガス発生抑制と破泡促進の両方による鎮静方法として、特許文献7においてAlとSを含有するフォーミング抑制剤が開示されている。このフォーミング抑制機構は、スラグ中のFeOをAlで還元し気泡の発生を抑制するとともに、Sによりスラグ-メタル間の界面張力が低下して気泡が安定維持されにくくなるとされている。
【0009】
Sがスラグのフォーミング現象に及ぼす影響については非特許文献2においても開示されている。それによれば、スラグのS濃度が高くなるとCO気泡の発生速度が低下してCO気泡が生成しにくくなり、気泡が発生したとしてもスラグ-メタル間の接触角が増大して気泡径が大きくなるために短時間で破泡するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-167015号公報
【文献】特開2003-213314号公報
【文献】特開昭54-32116号公報
【文献】特開平5-195040号公報
【文献】特開平8-325619号公報
【文献】特許5888445号公報
【文献】特開2000-328122号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】鉄と鋼、第87年(2001)第1号、第21~28頁
【文献】鉄と鋼、第78年(1992)第11号、第1682~1689頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記した連続処理方式や分離処理方式では、スラグが転炉の炉口から連続的に排出され、落下位置で激しく撹拌されるため、スラグ中に懸濁している銑鉄粒のCとスラグのFeOが反応して多量のCO気泡が継続的に発生し、排滓鍋の中でも急速にフォーミングする。排滓鍋の容積は転炉よりも大幅に小さいのが通例であるから、多量のスラグを転炉から短時間で排滓鍋へ排出するには、効率的にフォーミングを抑制しなければならない。
【0013】
この課題に対し、特許文献2の方法は熱分解でCO2ガスを発生した後の酸化物(例えばCaO、MgO)がスラグ中に溶解しないまま残留しやすく、路盤材などに使用された際に体積膨張を引き起こす恐れがある。次に特許文献3の方法は、成形体が投入ホッパー内で自身の重さにより押し潰されて粉状になることがあり、投入してもスラグ表面に留まって沈降しなかったり舞い上がったりして十分な効果が得られにくい。それを補うために投入量を多くすると、燃焼や熱分解の反応でガスが発生した際にパルプ廃滓の灰分が粉塵として舞い上がる量が増加し、作業環境を悪化させる恐れがある。
【0014】
水を吹き付ける特許文献4~6の方法はスラグ内の残留、形状の変化あるいは作業環境悪化という恐れはないが、水の吹き付け速度とスラグ排出速度の関係が開示されていないため、排滓鍋へ連続的に排出されて激しくフォーミングするスラグに対して十分な効果を得ることが難しい。
【0015】
特許文献7の方法は、Alがスラグ中のFeOを還元する際に発生する反応熱によりスラグの温度が上昇するが、CO気泡を発生する式(A)が吸熱反応であるために、CO気泡の発生速度が上昇してフォーミング抑制効果を阻害する恐れがある。また、投入した鎮静材に含まれるSの一部が未溶解のまま残留すると、排滓したスラグを散水冷却する際に有害なH2Sガスが発生する恐れもある。
【0016】
本発明はこのような問題を鑑みてなされたもので、スラグを炉口から連続的に排滓鍋へ排出する際にフォーミングを効率的に抑制し、かつ未溶解分の残留、作業環境の悪化および有毒ガスの発生も起こらない方法を提供することを目的とする。本発明のフォーミング抑制方法は、1基の転炉で脱珪・脱燐吹錬、排滓および脱炭吹錬を連続して行う転炉精錬方式(連続処理方式)や、2基の転炉の片方で脱珪吹錬、排滓および脱燐吹錬を行う転炉精錬方式(分離処理方式)で用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的に沿う本発明に係るスラグのフォーミング抑制方法は、以下の通りである。
[1]転炉の下方に設置した排滓鍋へ、Sを20~55質量%含有する硫化鉱物を投入するスラグのフォーミング抑制方法であって、前記転炉の炉口からスラグを排出する前に、式(1)を満たす量の硫化鉱物を前記排滓鍋内に投入し、さらに、スラグの排出量が式(2)の条件を満たしている時期を開始点として、式(3)の範囲を満たす速度で水噴流を前記排滓鍋の
排滓流の落下中心部から半径1m以内の範囲に吹き付けることを特徴とする、スラグのフォーミング抑制方法。
【数1】
【数2】
【数3】
w
ore:硫化鉱物の排滓前投入量(kg)
W
slag-1:排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(kg)
(%S)
ore:硫化鉱物のS濃度(質量%)
W
slag:スラグ排出量(kg)
V
water:水噴流の吹き付け速度(kg/分)
V
slag:スラグの排出速度(kg/分)
[2]前記硫化鉱物の粒度は、粒径20mm以下が80質量%以上であることを特徴とする、前記[1]に記載のスラグのフォーミング抑制方法。
【0018】
また、本発明に係る転炉精錬方法は、以下の通りである。
[3]1基の転炉に溶銑を装入して脱珪・脱燐吹錬を行った後、炉内に溶銑を残したまま転炉を傾動させてスラグを炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱炭吹錬を行う精錬方法において、脱燐吹錬後のスラグ排出時に[1]または[2]に記載のスラグのフォーミング抑制方法を用いることを特徴とした転炉精錬方法。
[4]2基の転炉の片方に溶銑を装入して脱珪吹錬を行った後、炉内に溶銑を残したまま転炉を傾動させてスラグを炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱燐吹錬を行い、転炉から溶銑を排出して該溶銑のみをもう一方の転炉に再度装入して脱炭吹錬を行う精錬方法において、脱珪吹錬後のスラグ排出時に前記[1]または[2]に記載のスラグのフォーミング抑制方法を用いることを特徴とした転炉精錬方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高濃度のSを含有する硫化鉱物を、スラグ排出前に排滓鍋内に投入し、さらに排滓開始後は前期排滓鍋内のスラグS濃度が0.1~0.4%の期間内に、転炉からのスラグ排出速度に対応した適切な速度で水噴流を吹き付けることで効率的にフォーミングを抑制でき、多量のスラグを排出できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】小型炉実験におけるスラグ高さの経時変化を示す図
【
図2】小型炉実験におけるスラグS濃度と最大フォーミング高さの関係を示す図
【
図3】小型炉実験におけるスラグS濃度と最大COガス発生速度の関係を示す図
【
図4】小型炉実験におけるスラグS濃度と気泡径の平均値の関係を示す図
【
図5】実機試験における排滓鍋スラグ高さの経時変化を示す図
【
図6】実機試験における排滓中のスラグS濃度変化を示す図
【
図7】実機試験における水噴流吹き付けの効果を示す図
【
図8】水噴流吹き付けのスラグ温度変化代を熱収支解析により計算した図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。転炉における脱燐吹錬では、高速で酸素ジェットを溶銑表面に吹き付けることで溶銑中のPを酸化し、スラグへP2O5として除去している。これと並行して、溶銑中のSiも酸化され、スラグへSiO2として移行する。また、溶銑中のCは酸素ガスあるいはスラグ中のFeOと反応してCO気泡を発生し、その一部がスラグ内に滞留することでフォーミングが起こる。
【0022】
スラグが適度にフォーミングした後、転炉の下方に設置した排滓鍋へ炉口からスラグを排出するが、排滓鍋の中でもフォーミングが発生する。これは、吹錬中に溶銑の一部が酸素ジェットにより引きちぎられてスラグ中に粒鉄として懸濁しており、この粒鉄中に含まれる炭素(C)が排滓鍋内でスラグ中のFeOと反応してCO気泡を発生するためである。
【0023】
排滓鍋内では落下してきたスラグの運動エネルギーにより強い攪拌が起こり、CO気泡が多量に発生してスラグが激しくフォーミングする。そのためフォーミング抑制効果のある物質を投入し、スラグの溢れを防止する必要がある。
【0024】
発明者らは、フォーミングを効率的に抑制するには気泡生成の抑制と破泡の促進を同時に進行させることが必要と考え、非特許文献2においてスラグ中のSがCO気泡の発生速度低下と気泡径粗大化の両方の作用を有するとされていることに着目した。すなわち、S含有物質を投入してスラグS濃度を高めれば、ガス発生速度の低下およびガス散逸速度の向上が起こり、その両方の作用により効率的にフォーミングを抑制できると考えた。そこで、前記した連続処理方式や分離処理方式の炉口排出スラグを想定した組成および温度の条件において、スラグのS濃度がフォーミング挙動に及ぼす影響を小型炉実験で検証した。すなわち、鉄坩堝内でスラグ100gを1350℃において溶解し、硫化鉄を加えてS濃度を調整した。このスラグに銑鉄を上方より投入し、一定の時間間隔で鉄棒をスラグに浸漬した。そして鉄棒のスラグ付着高さの経時変化を測定し、式(4)により最大フォーミング高さを算出してフォーミング抑制効果を評価した。
【数4】
H
0:銑鉄投入前のスラグ高さ(mm)
H
max:銑鉄投入後の最大スラグ高さ(mm)
【0025】
スラグ付着高さの経時変化を
図1に示す。硫化鉄なし(S=0.001%)の場合はスラグが大きくフォーミングしたが、硫化鉄を加えてスラグS濃度を上げるとフォーミングしにくくなった。スラグのS濃度と最大フォーミング高さの関係として
図2に示す。S濃度が高くなるほど最大フォーミング高さは低下した。
図2の結果から、スラグS濃度が0.1質量%以上であればフォーミングを大幅に抑制でき、0.4質量%以上ではフォーミング高さがほぼ下がり切ってしまうと言える。
【0026】
この実験でCOガスの発生速度を流量計で測定したところ、
図3に示すように、スラグのS濃度が高くなるほどCOガス発生速度の最大値は低下した。また、鉄棒に付着したスラグの気泡を任意に20個選択して直径を測定したところ、
図4に示すようにスラグのS濃度が高くなるほど気泡径の平均値は増加した。これらの結果から、スラグS濃度を高めることでCO気泡の発生速度低下と気泡径の増加(破泡促進)が起こり、フォーミングを抑制できることが分かった。
【0027】
本発明では、S源として硫化物の鉱石(硫化鉱物)を用いるのが良い。その理由は、S品位が高いために少ない投入量でも効果を期待できること、密度が大きいためにそのまま投入してもスラグ内に十分侵入できること、有機物を含まないために熱分解に伴う黒煙の発生がないこと、といった利点があるからである。特に、黄鉄鉱や磁硫鉄鉱、閃マンガン鉱は、S以外に含まれる元素の大半がFeやMnのようなスラグの構成元素であり、不可避的不純物として含まれる可能性のあるCaO、SiO2、Al2O3、MgOもスラグの構成成分であるため、スラグへ投入しても重金属溶出などの環境汚染を引き起こすリスクは極めて低い。
【0028】
次に、硫化鉱物の好適な組成範囲について説明する。硫化鉱物中に含まれるSをスラグ中に迅速に溶解させるには、スラグのS濃度と硫化鉱物のS濃度の差が大きいほど、即ち、硫化鉱物のS濃度が高い方が好ましい。この観点から、硫化鉱物のS濃度は20質量%を下限とする。20質量%未満では硫化鉱物に含まれるSがスラグへ迅速に溶解しにくく、フォーミング抑制効果が小さくなるためである。一方、S濃度が55質量%超になると単体のSが硫化鉱物中に存在するようになる。単体のSは沸点が低く、容易に蒸発してしまうためスラグ中には溶解しにくい。また蒸発したSは空気中の水分と反応して有毒なH2Sを発生する恐れもあり、作業環境面でも好ましくない。したがって、本発明では硫化鉱物のS濃度を20~55質量%とする。
【0029】
硫化鉱物に含まれる不可避的不純物であるCaO、SiO2、Al2O3、MgOの合計濃度は30質量%以下であることが好ましい。これらが高い硫化鉱物はS濃度が相対的に低く、フォーミング抑制効果が小さくなりやすいためである。特にSiO2とAl2O3はスラグの粘度を高める作用を有し、MgOはスラグの融点を高める作用を有するため、フォーミングしたスラグ表面からのガスの散逸を阻害する恐れもある。したがって、硫化鉱物に含まれるこれらの成分の合計濃度は30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。
【0030】
硫化鉱物に含まれる水分は10質量%以下が好ましい。水分が高いと排滓開始後にH2Sガスが発生しやすくなるためである。
【0031】
複数の硫化鉱物を混合する場合は、それぞれの硫化鉱物の組成を加重平均した組成が本発明の好適な範囲内にあれば良い。
【0032】
Sによりフォーミングが抑制されるのは、前記したようにCO気泡の発生速度が低下し、かつ発生する気泡径が増加するためである。この機構に基づき、発明者らは、排滓鍋にあらかじめ硫化鉱物を投入してから排滓を行うことで、フォーミング抑制効果を発現させることを着想した。排滓初期は排滓鍋内のスラグ量が少なく、スラグが強く撹拌されてCO気泡が激しく発生するが、硫化鉱物をあらかじめ投入しておけばスラグのS濃度を高めやすく、少ない投入量でもフォーミングを効率的に抑制できると考えた。
【0033】
この考えを検証するため、実機で試験を行った。すなわち、転炉へ溶銑を装入して脱珪・脱燐吹錬を行った後、吹錬を一旦中断して炉内に溶銑を残したまま転炉を傾動させ、炉体下方に設置した排滓鍋(内容積:70m3)に5分間排出した。排滓開始前には排滓鍋内に硫化鉱物を投入した。
【0034】
排滓中は、排滓鍋を保持する移動台車に取り付けた秤量機でスラグ排出量の経時変化を測定した。併せて、排滓鍋内の様子をビデオ撮影し、鍋底から鍋縁までの高さに対するスラグ面位置の割合から、スラグ高さを評価した。
【0035】
なお、排滓鍋の底面から鍋縁までの高さは4.5mである。スラグ組成は塩基度(CaO/SiO2)が1.0~1.2、酸化鉄濃度が20~30質量%、温度は1330~1350℃であった。投入した硫化鉱物には黄鉄鉱(S濃度:49%)を用いた。
【0036】
実機試験の結果を
図5に示す。スラグ排出速度は毎分2.5tとした。硫化鉱物の排滓前投入量を多くするほど、排滓鍋内におけるスラグ高さの増大速度が遅くなる傾向が見られ、すなわち、フォーミングの成長が遅くなり、スラグ面が鍋縁に到達するまでの時間が長くなった。また、
図5中に矢印を付与した時点から曲線の傾きが大きくなっており、フォーミングの成長が速くなる現象が見られた。
【0037】
硫化鉱物の排滓前投入量とスラグ排出量から算出したスラグS濃度の経時変化を
図6に示す。
図5でフォーミングの成長が速くなるのは、いずれもスラグS濃度が0.1%以下になったタイミングであった。すなわち、排滓初期は排滓鍋内スラグのS濃度が高いためにフォーミングが抑制されるが、次第にSが希釈されてS濃度が0.1%以下になるとフォーミングが起こりやすくなるといえる。このように、排滓前に硫化鉱物を投入することでフォーミングを抑制することができ、その効果が得られるスラグのS濃度は小型炉実験と同様に0.1%以上であることが分かった。
【0038】
排滓鍋へ排出されたスラグのフォーミングは、排滓開始から1分の間が最も激しい。そこで本発明では、排滓開始から1分間の間に排出されうる最大のスラグ量(W
slag-1)に対してスラグS濃度が0.1%以上となるように、硫化鉱物を排滓前に排滓鍋へ投入する。ただし、硫化鉱物の排滓前投入量を過剰投入すると溶解不良に繋がりやすい。したがって、過剰投入を避けるために、W
slag-1に対するスラグS濃度は0.4%を上限とする。これは、
図2で示したように0.4%超ではフォーミング抑制効果が変わらなくなるため、それ以上S濃度を高める必要がないからである。そのような条件を満足する硫化鉱物の排滓前投入量(w
ore)の範囲は式(5)(前記式(1)と同じ)で表される。なお、排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(W
slag-1)は、過去のデータに基づいて定めることができる。例えば、排滓開始から1分間の平均スラグ排出量を1.2倍にした値として定めることができる。
【数5】
w
ore:硫化鉱物の排滓前投入量(kg)
W
slag-1:排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(kg)
(%S)
ore:硫化鉱物のS濃度(質量%)
【0039】
前記したように、排滓の進行に伴ってスラグのS濃度は徐々に低下し、0.1質量%未満になるとフォーミングが成長しやすくなる。そのため、硫化鉱物の排滓前投入量とスラグ排出量からスラグのS濃度を算出し、スラグのS濃度が0.1質量%以上を維持できるよう硫化鉱物を追加投入することが考えられるが、排滓が進むほどスラグの撹拌は弱くなるため、投入した硫化鉱物の一部が未溶解のまま残留する可能性があり、スラグの散水冷却中にH2Sが発生したり、スラグを再利用した際にSが溶出して環境汚染を引き起したりする原因となる恐れがある。
【0040】
そこで発明者らは、フォーミングを抑制あるいは鎮静する効果を有し、かつスラグ中へ投入しても未反応分が残留しない物質を、スラグのS濃度が0.1%未満となる前にスラグ中へ投入することを鋭意検討し、水噴流の吹き付けを着想した。水噴流の利点としては、固体の連続投入では必要なホッパーや切り出し設備が不要であること、吹き付け速度を調節しやすいこと、全量が蒸発してスラグ中に残留しないこと、が挙げられる。この水噴流を排滓流の落下位置に吹き付ければ、水滴をスラグ中へ巻き込ませて効率的にフォーミングを抑制できると考え、さらに実機試験を行った。
【0041】
実機試験は、排滓開始前に硫化鉱物を排滓鍋へ投入し、排滓開始後は硫化鉱物の排滓前投入量とスラグ排出量からスラグのS濃度を算出して、その値が0.1~0.4質量%の期間内に水噴流の吹き付けを開始した。吹き付け開始時間が早すぎると、スラグS濃度が高いためH
2Sが発生する恐れがある。そのため、吹き付け開始時のスラグS濃度は0.4質量%以下とした。水噴流の吹き付けを開始するスラグ排出量は式(6)で表される。
【数6】
w
ore:硫化鉱物の排滓前投入量(kg)
(%S)
ore:硫化鉱物のS濃度(質量%)
W
slag:スラグ排出量(kg)
【0042】
実機試験の結果、
図7に示すように、スラグ排出速度V
slagに対する水噴流の吹き付け速度V
waterの比率が0.15以上の場合に、十分なフォーミング抑制効果が得られることが分かった。一方、この比率が0.6超になると、フォーミング抑制効果が得られにくくなった。すなわち、水噴流を吹き付ける好適な条件として式(7)が得られた。
【数7】
V
water:水噴流の吹き付け速度(kg/分)
V
slag:スラグ排出速度(kg/分)
【0043】
この実機試験では、排滓後のスラグ温度を放射温度計により測定したところ、
図7中に示すようにV
water/V
slagが高くなるほどスラグ温度が低くなった。熱収支解析では、
図8に示すように、H
2Oの蒸発熱によりスラグが冷却される場合はV
water/V
slagが0.15で約5℃、0.60でも約20℃である。一方、蒸発したH
2OがH
2とO
2に分解し、その分解熱もスラグ冷却に寄与する場合はV
water/V
slagが0.15で約20℃、0.60で約80℃低下する。さらに、V
water/V
slagが0.8まで高くなると蒸発熱と分解熱による温度低下代は約110℃になり、1250℃以下まで冷却される。ここまで温度が低下するとスラグの表面が固化していわゆる「皮張り」の状態になりやすい。「皮張り」が起こると気泡の破泡が促進されにくくなってフォーミングを抑制しにくくなる。
【0044】
すなわち、水の鎮静効果は蒸発時の体積膨張による破泡促進だけではなく、H2Oの蒸発・分解反応に伴ってスラグ温度が低下し、CO気泡の発生速度が低下することにも起因することが分かった。ただし、過剰に冷却されるとスラグ表面が固化して気泡がスラグ内部に残留しやすくなる。したがって、スラグ排出速度に対する水噴流吹き付け速度の比率に好適な範囲が存在するのである。
【0045】
水噴流の吹き付け位置としては、排滓流の落下位置が好適であった。「落下位置」とは排滓流の落下中心部から半径1m以内の範囲と定義する。この位置ではスラグが激しく撹拌されるため、吹き付けた水噴流をスラグ内に巻き込ませることができ、フォーミングを効率的に抑制しやすくなる。排滓流の落下位置から外れた箇所に水噴流を吹き付ける試験も行ったが、この場合は式(7)を満たす条件であっても十分なフォーミング抑制効果を得ることができなかった。排滓流の落下位置から外れた箇所では水分の巻き込みが弱く、スラグ冷却効果を十分に発揮する前に蒸発してしまうためと考えられる。したがって、水噴流は排滓流の落下位置に吹き付けることが必要である。
【0046】
本発明の方法を実施することにより、転炉の炉口からスラグを排出する際の排滓鍋内におけるスラグのフォーミングを抑制でき、スラグ溢れを起こすことなく多量のスラグを転炉から排出できる。さらに排滓前に排滓鍋へ投入した硫化鉱物の残留はなく、粉塵等の舞い上がりによる作業環境の悪化やH2Sのような有毒ガスの発生も起こらない。
【0047】
水噴流の吹き付けは、排滓終了まで投入を継続する必要はなく、排滓鍋内のスラグのフォーミング状況を見てスラグ溢れが起こらないと予想できる場合は途中で中断しても良い。
【0048】
排滓終了後は水分の投入を停止することが好ましい。排滓終了後も水噴流の吹き付けを継続すると、スラグ表面が次第に「皮張り」の状態になりやすい。この状態でさらに水噴流を吹き付けると、その一部が皮張りスラグの隙間から内部の溶融スラグと接触し、気化した水が放散されず水蒸気爆発を起こす恐れがあるためである。
【0049】
本発明で投入する硫化鉱物の粒度は、粒径が20mm以下の粒子が80質量%以上であることが好ましい。これは、20mm超の粒子はスラグへ迅速に溶解しにくく、フォーミング抑制効果が小さくなりやすいためである。
【0050】
本発明の実施形態の一例を
図9に示す。転炉1へ溶銑4を装入して吹錬を行い、吹錬を一旦中断して炉内に溶銑4を残したまま転炉1を傾動させて炉体下方に設置した排滓鍋2にスラグを排出する転炉精錬方法に用いることができる。具体的には、1基の転炉1に溶銑4を装入して脱珪・脱燐吹錬を行った後、炉内に溶銑4を残したまま転炉1を傾動させてスラグ5を炉口から排出し、転炉1を垂直に戻した後に引き続いて脱炭吹錬を行う転炉吹錬方法である。また他の転炉吹錬方法としては、2基の転炉の片方で脱珪吹錬を行った後、炉内に溶銑4を残したまま転炉1を傾動させてスラグ5を炉口から排出し、転炉を垂直に戻した後に引き続いて脱燐吹錬を行う転炉吹錬方法である。いずれの転炉吹錬方法でも、転炉1の炉口からスラグ5を排出する前に硫化鉱物6を排滓鍋2内に投入し、さらに、スラグの排出量が前記式(2)の条件を満たしている時期を開始点として、式(3)の範囲を満たす速度で水噴流3を排滓鍋2のスラグ落下位置に吹き付ける。これらはフォーミング現象を利用して炉口からスラグを排出するという形態は同様であるから、本発明を用いることでその効果を享受できる。
【0051】
前記した精錬方法以外においても、ある精錬容器から別の精錬容器へスラグが排出・流出する段階でフォーミングの抑制が必要な場合は、本発明を用いることでスラグの溢れを抑制できる。
【実施例】
【0052】
以下に表1~3を基にして本発明の実施例を具体的に説明する。内容積300m3の転炉へ400tの溶銑を装入して吹錬を行い、吹錬を一旦中断して炉内に溶銑を残したまま転炉を傾動させ、炉体下方に設置した排滓鍋(底面から鍋縁までの高さ:4.5m、内容積:70m3)に排出した。排滓開始前には硫化鉱物を排滓鍋内に投入し、排滓開始後は所定量のスラグを排出したところから、水噴流を排滓鍋内のスラグへ連続的に吹き付けた。排滓中は排滓鍋内の様子を観察し、スラグ表面が排滓鍋の鍋縁の高さに到達した時点で排滓を終了した。スラグ表面が鍋縁高さまで到達しなかった場合は、排滓開始から4分経過した時点で排滓を終了した。表1~3において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0053】
排滓鍋を設置する移動台車に取り付けた秤量機で重量変化を測定し、各時点のスラグ排出量(Wslag)及びスラグ排出終了後の合計スラグ排出量(Wslag-T)を評価した。フォーミング抑制効果が優れるほど、合計スラグ排出量(Wslag-T)が高くなる。
【0054】
排滓量(合計スラグ排出量)は、排滓鍋でのスラグのフォーミングの他、転炉内のスラグ重量や排滓鍋の内容積などの影響を受ける。本実施例の条件では、表2に結果を示す連続処理方式で排滓量12t以上を、表3に結果を示す分離処理方式で排滓量8t以上を良好な排滓量とする。
【0055】
排滓中はスラグ面の上方1mにおいて空気を30秒毎にサンプリングし、硫化水素の濃度を分析した。排滓鍋はスラグ処理場へ搬送して反転し、散水してスラグを冷却した。冷却中にスラグ面の上方1mにおいて空気をサンプリングし、硫化水素の濃度を分析した。
【0056】
本実施例における硫化鉱物の成分組成を表1に示す。A1~A2は黄鉄鉱、B1は硫化マンガン鉱であり、組成は本発明の範囲内である。C1~C2は比較例であり、下線を示した項目が請求項記載の範囲外である。C2については試験的にS濃度を高めるため、黄鉄鉱と高純度硫黄の混合物とした。
【0057】
【0058】
ここで、実施例が本発明の範囲内であることを判別する指標として「比率A」「比率B」「比率C」を定義する。まず「比率A」は式(8)より求められる数値である。この値が0.1~0.4であれば排滓前の硫化鉱物投入量は前記式(1)を満たす。
【数8】
w
ore:硫化鉱物の排滓前投入量(kg)
(%S)
ore:硫化鉱物のS濃度(質量%)
W
slag-1:排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(kg)
【0059】
また「比率B」は式(9)より求められる数値である。この値が0.1~0.4であれば前記式(2)を満たしており、水噴流の吹き付けを開始するタイミングは本発明の範囲内である。
【数9】
W
slag-w:水噴流吹き付け開始時のスラグ排出量(kg)
【0060】
さらに「比率C」は式(10)より求められる数値である。この値が0.15~0.60であれば前記式(3)を満たしており、水噴流の吹き付け速度は本発明の範囲内である。
【数10】
V
water:水噴流の吹き付け速度(kg)
V
slag:スラグ排出速度(kg)
【0061】
表2に連続処理方式の脱珪・脱燐吹錬後の排滓における実施例を示す。スラグ組成は塩基度(CaO/SiO2)が1.0~1.2、酸化鉄濃度が20~30質量%であり、温度は1330~1350℃であった。また、この条件における排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(Wslag-1)は8000kgであった。
【0062】
実施例1~5は発明例であり、いずれも硫化鉱物の投入方法および水噴流の吹き付け方法が本発明の範囲内であったため、スラグが鍋縁高さに到達することなく4分間排滓でき、排滓量は12.0t以上になった。発生H2S濃度は排滓中、スラグ冷却中のいずれも1ppm以下であった。なお硫化鉱石の粒度において、実施例5では20mm以上の質量割合が実施例1よりも多かったため、スラグへの溶解が遅くなり、排滓量が実施例1よりも低くなった。
【0063】
実施例6~15は比較例である。
実施例6では硫化鉱物を投入しなかったため排滓開始後0.8分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は6.0tにとどまった。実施例7では水噴流の吹き付けを行わなかったために排滓途中からフォーミング抑制効果が小さくなり、排滓開始後2.0分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は10.0tにとどまった。
実施例8では硫化鉱物のS濃度が本発明の範囲より過小であったためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後1.5分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は9.0tにとどまった。実施例9では硫化鉱物のS濃度が本発明の範囲より過大であったためSの蒸発が多くなり、排滓中にH2Sが最大で1.2ppm発生した。
実施例10では硫化鉱物の排滓前投入量が本発明の範囲より過小であったためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後2.0分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は9.5tにとどまった。
実施例11では水噴流の吹き付け開始が本発明の範囲より早かったためH2Sが最大で1.3ppm発生した。実施例12では水噴流の吹き付け開始が本発明の範囲より遅かったため十分なフォーミング抑制効果が得られず、排滓開始後2.3分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は10.5tにとどまった。
実施例13では排滓速度に対する水噴流の吹き付け速度が本発明の範囲より過小であったためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後2.2分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は10.5tにとどまった。実施例14では排滓速度に対する水噴流の吹き付け速度が本発明の範囲より過大であったためスラグが十分なフォーミング抑制効果が得られず、スラグ溢れは起こらなかったものの排滓量は11.5tにとどまった。
実施例15では水噴流の吹き付け位置が排滓流の落下位置から外れていたためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後1.5分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は9.3tにとどまった。
【0064】
【0065】
表3に分離処理方式における脱珪吹錬後の排滓における実施例を示す。スラグ組成は塩基度(CaO/SiO2)が0.6~0.8、酸化鉄濃度が20~30質量%であり、温度は1300~1330℃であった。また、この条件における排滓開始から1分間の最大スラグ排出量(Wslag-1)は5000kgであった。
【0066】
実施例16~20は発明例であり、いずれも硫化鉱物の投入方法および水噴流の吹き付け方法が本発明の範囲内であったため、スラグが鍋縁高さに到達することなく4分間排滓でき、排滓量は8.0t以上になった。発生H2S濃度は排滓中、スラグ冷却中のいずれも1ppm以下であった。なお、実施例20では20mm以上の質量割合が実施例16よりも多かったため、スラグへの溶解が遅くなり、排滓量が実施例1よりも低くなった。
【0067】
実施例21~30は比較例である。
実施例21では硫化鉱物を投入しなかったため排滓開始後0.8分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は3.0tにとどまった。実施例22では水噴流の吹き付けを行わなかったために排滓途中からフォーミング抑制効果が小さくなり、排滓開始後2.0分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は6.0tにとどまった。
実施例23では硫化鉱物のS濃度が本発明の範囲より過小であったためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後1.5分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は5.8tにとどまった。実施例24では硫化鉱物のS濃度が本発明の範囲より過大であったためSの蒸発が多くなり、排滓中にH2Sが最大で1.2ppm発生した。
実施例25では硫化鉱物の排滓前投入量が本発明の範囲より過小であったためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後2.0分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は6.5tにとどまった。
実施例26では水噴流の吹き付け開始が本発明の範囲より早かったためH2Sが最大で1.3ppm発生した。実施例27では水噴流の吹き付け開始が本発明の範囲より遅かったため十分なフォーミング抑制効果が得られず、排滓開始後2.3分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は6.5tにとどまった。
実施例28では排滓速度に対する水噴流の吹き付け速度が本発明の範囲より過小であったためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後2.2分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は6.5tにとどまった。実施例29では排滓速度に対する水噴流の吹き付け速度が本発明の範囲より過大であったためスラグが十分なフォーミング抑制効果が得られず、スラグ溢れは起こらなかったものの排滓量は7.5tにとどまった。
実施例30では水噴流の吹き付け位置が排滓流の落下位置から外れていたためフォーミング抑制効果が小さく、排滓開始後1.5分でスラグが鍋縁高さに達し、排滓量は5.5tにとどまった。
【0068】
【符号の説明】
【0069】
1 転炉
2 排滓鍋
3 水噴流
4 溶銑
5 スラグ
6 硫化鉱物