(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】スーパールミネッセンスダイオード及び表示装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/06 20100101AFI20220928BHJP
H01L 33/14 20100101ALI20220928BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20220928BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20220928BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/14
H01L33/30
H01L33/32
(21)【出願番号】P 2018526005
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2017022624
(87)【国際公開番号】W WO2018008381
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2016132464
(32)【優先日】2016-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】渡部 義昭
(72)【発明者】
【氏名】河角 孝行
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-204605(JP,A)
【文献】特開平07-240560(JP,A)
【文献】特開2007-049109(JP,A)
【文献】特開2010-199219(JP,A)
【文献】特開2013-012599(JP,A)
【文献】特開2008-311640(JP,A)
【文献】特開2005-294306(JP,A)
【文献】特開2011-187581(JP,A)
【文献】国際公開第2010/022526(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/103835(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098273(WO,A1)
【文献】特開2016-006873(JP,A)
【文献】特開2014-082482(JP,A)
【文献】特開2013-165239(JP,A)
【文献】特開2011-023493(JP,A)
【文献】特開2011-003661(JP,A)
【文献】特開2008-227329(JP,A)
【文献】特開2007-095857(JP,A)
【文献】国際公開第2006/075759(WO,A1)
【文献】特開2003-218468(JP,A)
【文献】特開2003-115642(JP,A)
【文献】特開2002-314205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、
第2導電型層と、
前記第1導電型層と前記第2導電型層の間に設けられた厚みが10nm以下の1層の量子井戸層を有する活性層と
を具備し、
前記第1導電型層は、第1クラッド層と、前記第1クラッド層と前記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
前記第2導電型層は、第2クラッド層と、前記第2クラッド層と前記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
前記第1ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
前記第2ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
前記量子井戸層は、AlInGaP又はAlInGaNからなり、
前記量子井戸層がAlInGaPからなる場合、前記第1クラッド層と前記第1ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、前記第2クラッド層と前記第2ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、
前記量子井戸層がAlInGaNからなる場合、前記第1クラッド層と前記第1ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、前記第2クラッド層と前記第2ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、
前記活性層は、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下である
スーパールミネッセンスダイオード。
【請求項2】
請求項1に記載の
スーパールミネッセンスダイオードであって、
前記第1ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下であり、
前記第2ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下である
スーパールミネッセンスダイオード。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の
スーパールミネッセンスダイオードであって、
前記量子井戸層が前記AlInGaPからなる場合、
前記第1クラッド層と前記第1ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下であり、
前記第2クラッド層と前記第2ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下である
スーパールミネッセンスダイオード。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の
スーパールミネッセンスダイオードであって、
前記量子井戸層が前記AlInGaNからなる場合、
前記第1クラッド層と前記第1ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下であり、
前記第2クラッド層と前記第2ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下である
スーパールミネッセンスダイオード。
【請求項5】
スーパールミネッセンスダイオードと、
前記
スーパールミネッセンスダイオードから出射された光を2次元状にスキャン可能であり、画像データに基づき、投射される前記光による輝度を制御可能な画像生成部とを具備し、
前記
スーパールミネッセンスダイオードは、
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、
第2導電型層と、
前記第1導電型層と前記第2導電型層の間に設けられた厚みが10nm以下の1層の量子井戸層を有する活性層とを具備し、
前記第1導電型層は、第1クラッド層と、前記第1クラッド層と前記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
前記第2導電型層は、第2クラッド層と、前記第2クラッド層と前記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
前記第1ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
前記第2ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
前記量子井戸層は、AlInGaP又はAlInGaNからなり、
前記量子井戸層がAlInGaPからなる場合、前記第1クラッド層と前記第1ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、前記第2クラッド層と前記第2ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、
前記量子井戸層がAlInGaNからなる場合、前記第1クラッド層と前記第1ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、前記第2クラッド層と前記第2ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、
前記活性層は、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下である
表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、スーパールミネッセントダイオード(SLD)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパールミネッセントダイオード(SLD)は、発光ダイオードに比較的近い広い発光スペクトル幅を持ちながら、同時に半導体レーザの発光状態のような狭い放射角と強い強度で光を出射する特徴を持つ発光素子である。このSLDは、ファイバジャイロ等の干渉計分野に応用されている。近年では、その干渉性の低さから干渉ノイズの少ない画像投射用光源としてディスプレイへの応用も期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、直線状のリッジ導波路とこれに続く曲線状の導波路を備えるSLDが開示されている。リッジ導波路直下の活性層で発生した光は曲線状の導波路を進行し、SLDの端面に対して非垂直な方向に出射する。これにより、端面での反射光が導波路に戻ることが防止されている。
【0004】
要するに、SLDは、通常のレーザダイオード(LD)のように、両端面に設けられたミラーで光を往復させて共振(レーザ発振)させる構造ではなく、光を導波路で一方通行させて光を増幅させる(誘導放出は行われる)構造を有する。最初の光の発生源はSLDの後端面(光出射端面とは反対側の端面)付近の活性層で発生した自然放出光である。SLDはこのスペクトル幅が広い光をそのまま導波路で増幅して強度を高め、出射する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなSLDにおいては、ディスプレイ等への応用のために出射光の出力向上が求められている。しかしながら、出射光の出力とスペクトル幅はトレードオフの関係にあり、出射光を高出力化し、かつ広いスペクトル幅を実現することは容易ではない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、高出力かつスペクトル幅の広い光を出射することが可能な光学素子、活性層構造及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る光学素子は、第1導電型層と、第2導電型層と、活性層とを具備する。
上記第1導電型層は、電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する。
上記活性層は、上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層であって、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、上記1層の量子井戸層の厚みは10nm以下であり、上記複数層の量子井戸層の厚みの合計は10nm以下である。
【0009】
この構成によれば、量子井戸層の厚みを小さくすることにより、量子井戸への光閉じ込め効果が小さくなり、自然放出光の利用効率が小さくなる。このため、発光を開始するために必要なキャリア密度が大きくなり、単位体積当たりの自然放出光の発光量は大きくなる。また、自然放出光が増幅される利得領域においても、キャリア密度が大きいため、利得やスペクトル幅も大きくなる。これにより、光学素子の出射光を高出力かつスペクトル幅の広い光とすることが可能となる。
【0010】
上記1層の量子井戸層又は上記複数層の量子井戸層は、AlInGaPからなるものであってもよい。
【0011】
量子井戸層をAlInGaPからなるものとすることにより、赤色の光が光学素子から出射される。
【0012】
上記活性層は、上記1層の量子井戸層を有し、
上記1層の量子井戸層はAlInGaNからなるものであってもよい。
【0013】
量子井戸層をAlInGaNからなるものとすることにより、青紫色から緑色の光が光学素子から出射される。
【0014】
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
上記第2ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であってもよい。
【0015】
量子井戸への光閉じ込め率は、第1ガイド層及び第2ガイド層の厚さによって調整することができる。具体的にはこれらの層の厚さを10nm以上500nm以下とすることにより、量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることができる。
【0016】
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であってもよい。
【0017】
量子井戸層がAlInGaPからなり、発光色が赤色の場合、第1クラッド層と第1ガイド層の屈折率差及び第2クラッド層と第2ガイド層の屈折率差を0.03以上0.50以下とすることにより、量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることができる。
【0018】
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であってもよい。
【0019】
量子井戸層がAlInGaNからなり、発光色が青紫色から緑色の場合、第1クラッド層と第1ガイド層の屈折率差及び第2クラッド層と第2ガイド層の屈折率差を0.01以上0.10以下とすることにより、量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることができる。
【0020】
上記活性層は、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下であってもよい。
【0021】
量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることにより、上記のように光学素子の出射光を高出力かつスペクトル幅の広い光とすることが可能となる。
【0022】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る光学素子は、第1導電型層と、第2導電型層と、活性層とを具備する。
上記第1導電型層は、電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する。
上記活性層は、上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層であって、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下である。
【0023】
量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることにより、上記のように光学素子の出射光を高出力かつスペクトル幅の広い光とすることが可能となる。
【0024】
上記1層の量子井戸層又は上記複数層の量子井戸層は、AlInGaPからなるものであってもよい。
【0025】
上記活性層は、上記1層の量子井戸層を有し、
上記1層の量子井戸層はAlInGaNからなるものであってもよい。
【0026】
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
上記第2ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であってもよい。
【0027】
上記第1ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下であり、
上記第2ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下であってもよい。
【0028】
発光パターンの制御(出射光の広がり)やキャリアの閉じ込めを考慮すると、第1ガイド層及び第2ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下がより好適である。
【0029】
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であってもよい。
【0030】
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下であってもよい。
【0031】
発光色が赤色の場合、発光パターンの制御(出射光の広がり)やキャリアの閉じ込めを考慮すると、第1クラッド層と第1ガイド層の屈折率差及び第2クラッド層と第2ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下が好適である。
【0032】
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であってもよい。
【0033】
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下であってもよい。
【0034】
発光色が青紫色から緑色の場合発光パターンの制御(出射光の広がり)やキャリアの閉じ込めを考慮すると、第1クラッド層と第1ガイド層の屈折率差及び第2クラッド層と第2ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下が好適である。
【0035】
上記光学素子は、スーパールミネッセンスダイオードであってもよい。
【0036】
上記光学素子は、光増幅器であってもよい。
【0037】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る活性層構造は、電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、第2導電型層と、上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層とを具備する光学素子の活性層構造である。
上記活性層は、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、上記1層の量子井戸層の厚みは10nm以下であり、上記複数層の量子井戸層の厚みの合計は10nm以下である。
【0038】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る表示装置は、光学素子と、画像生成部とを具備する。
上記画像生成部は、上記光学素子から出射された光を2次元状にスキャン可能であり、画像データに基づき、投射される上記光による輝度を制御可能である。
上記光学素子は、第1導電型層と、第2導電型層と、活性層とを具備する。
上記第1導電型層は、電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する。
上記活性層は、上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層であって、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、上記1層の量子井戸層の厚みは10nm以下であり、上記複数層の量子井戸層の厚みの合計は10nm以下である。
【発明の効果】
【0039】
以上、本技術によれば、高出力かつスペクトル幅の広い光を出射することが可能な光学素子、活性層構造及び表示装置を提供することができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本技術の一実施形態に係る光学素子を示す斜視図及び平面図である。
【
図3】
図1に示す光学素子のバンド構造を示す模式図である。
【
図4】量子井戸の井戸幅とスペクトル幅の関係を示すグラフである。
【
図5】従来構造の光学素子と本技術の実施形態に係る光学素子の特性を示す表である。
【
図6】キャリア密度による波長と利得の関係を示すグラフである。
【
図7】量子井戸の井戸幅による電流と出力の関係を示すグラフである。
【
図8】量子井戸の井戸幅による波長と強度の関係を示すグラフである。
【
図9】量子井戸への光閉じ込め率とスペクトル幅の関係を示すグラフである。
【
図10】複数層の量子井戸層を有する光学素子のバンド構造を示す模式図である。
【
図11】
図10に示す光学素子の活性層の層構造を示す断面図である。
【
図12】本技術の一実施形態に係る表示装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(光学素子の構造)
図1Aは、本技術の一実施形態に係る光学素子100を示す模式的な斜視図であり、
図1Bはその平面図である。
図2は、
図1BにおけるC-C断面図である。この光学素子は、例えばp型またはn型の導電層にリッジ部10を有するリッジ型のスーパールミネッセントダイオード(SLD)である。
【0042】
光学素子100は、
図2において上から、p型電極層(または図示しないp型電極層に接するコンタクト層)11、半導体層のうちp型である第1導電型層13、活性層20、半導体層のうちn型である第2導電型層14、n型半導体の基板15、n型電極層(または図示しないn型電極層に接するコンタクト層)12を備える。
【0043】
第1導電型層13は、p型電極層11側から順に形成されたp型クラッド層131及びp型ガイド層132を有する。第2導電型層14は、基板15側から順に形成されたn型クラッド層141及びn型ガイド層142を有する。例えば、p型電極層11及びp型クラッド層131によりリッジ部10が構成される。基板15と第2導電型層14との間には、n型のバッファ層が設けられていてもよい。
図1Bに示すように、光学素子100は光出射端面33と、光出射端面33に対して反対側の端面である後端面35を備える。
【0044】
図1Bに示すようにリッジ部10は、直線状部分10aと曲線状部分10bを有する。直線状部分10aは後端面35に対して垂直方向に沿って直線状に延伸されており、曲線状部分10bは直線状部分10aに連続して曲線状に延伸されている。なお、リッジ部10は、必ずしも直線状部分10aと曲線状部分10bを有するものでなくてもよく、後端面35から光出射端面33にかけて直線状に構成されていてもよい。
【0045】
第1導電型層13は、
図2に示すように電流狭窄構造32を有する。具体的には、リッジ部10の構造により、p型電極層11からの活性層20までの電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造32が形成される。これにより、活性層20におけるリッジ部10付近に、リッジ部10の長手方向に沿った光導波路が形成される。
【0046】
p型ガイド層132上やリッジ部10の周囲には、図示しない絶縁層が形成される。
【0047】
なお、p型クラッド層131の下端は、リッジ部10の下端と一致しているが、そうでなくてもよいし、当該リッジ部10の下端がp型ガイド層132の一部を含んでいてもよい。
【0048】
図1Bに示すように、光出射端面33には低反射ミラー膜18が設けられ、その反対側の後端面35には高反射ミラー膜19が設けられている。
【0049】
p型電極層11とn型電極層12の間に電流を印加すると、後端面35近傍の活性層20で自然放出光が生じる。自然放出光は、光導波路を光出射端面33に向かって進行しながら誘導放出により増幅される。自然放出光のうち後端面35側に向かう光は、高反射ミラー膜19によって反射され、光出射端面33に向かって進行しながら増幅される。増幅された光は低反射ミラー膜18を介して光出射端面33から出射される。
図1A及び
図1Bに光学素子100の出射光Lを示す。
【0050】
リッジ部10が直線状部分10aと曲線状部分10bを有することにより、活性層20から出射される光は光出射端面33に対して垂直方向から傾斜した方向に出射される。これにより、低反射ミラー膜18でわずかに生じる反射光が活性層20に戻ることが防止されている。低反射ミラー膜18での反射光が活性層20に戻るとレーザ発振が生じるためである。
【0051】
なお、上記のようにリッジ部10は直線状部分のみから構成されていてもよい。また、高反射ミラー膜19に変えて低反射ミラー膜を設けてもよい。この場合、光学素子100の出射光は光学素子100の両端から出射される。
【0052】
光学素子100はSLDとして利用することができるが、他の光源で発生した光を増幅するための増幅器としても利用することができる。この場合には高反射ミラー膜19に変えて無反射膜が設けられる。他の光源で発生した光は当該無反射膜を介して光導波路に入射し、光導波路を進行しながら増幅される。
【0053】
(活性層の構造)
光学素子100の活性層構造について説明する。
図3は、各層のバンド構造を示す模式図である。横方向はエネルギー(図中、E)を示し、左側へ向かうほどエネルギーが高いことを示す。縦方向は光学素子100を構成する各層の積層方向を示す。エネルギーが低い側のバンドは価電子帯(VB:valence band)であり、エネルギーが高い側のバンドは伝導帯(CB:conduction band)である。
【0054】
活性層20は、単層の量子井戸層20aを有する。量子井戸層20aは
図3に示すように、周囲の層(p型ガイド層132及びn型ガイド層142)よりバンドギャップが小さい層である。p型電極層11とn型電極層12の間に電流が印加されると、伝導帯(CB)に存在する電子が量子井戸層20aのバンドギャップを介して価電子帯(VB)の正孔と再結合し、発光を生じる。この量子井戸層20aのバンドギャップは、発光再結合準位エネルギーギャップと呼ばれる。
【0055】
(量子井戸層の厚みについて)
量子井戸層20aの厚みTは、量子井戸層20aが形成する量子井戸の幅であり、以下、単位に井戸幅Tとする。井戸幅Tは、10nm以下が好適である。
【0056】
図4は、井戸幅TとSLDスペクトル幅(左軸)の関係及び井戸幅TとPLスペクトル幅(右軸)の関係を示すグラフである。SLDスペクトル幅は、光学素子100から出射される光(SLD)のスペクトル幅であり、PLスペクトル幅は、量子井戸層20aで生じる自然放出光(PL:Photoluminescence)のスペクトル幅である。
【0057】
同図に示すように、井戸幅Tを小さくするとPLスペクトル幅は小さくなる。これは、井戸幅Tが小さくなると発光に寄与する量子井戸内の遷移準位が少なくなるためである。このため、従来では単層で薄い量子井戸層をSLDに用いる理由はなかった。
【0058】
例えば、従来のSLDの構造としては、複数の薄い量子井戸を有する活性層を備えた構造(以下、従来構造1)がある。この構造では、スペクトル幅の拡大のため、各量子井戸の波長を様々に変え、広いスペクトル幅を得る構造となっている。一方、複数の量子井戸を備えた構造では、注入キャリアが複数の量子井戸に分散され、キャリア分布が不均一となり易く、高利得が得にくい。
【0059】
このため、単層で厚い量子井戸を有する活性層を備えたSLD(以下、従来構造2)が開発されている。この構造では、単層の量子井戸にキャリアが集中し、その中に含まれる多くのエネルギー準位で様々な波長の発光が生じる。しかしながらこの構造でも出力は不十分であり、特にディスプレイ用途には不適である。
【0060】
これに対し、本実施形態に係る活性層20は上記のように、単層で薄い量子井戸層20aを有する。井戸幅Tが小さくなると、PLスペクトル幅が小さくなることから、SLDスペクトル幅も小さくなる(図中、破線)と予測された。
【0061】
しかしながら、実際には、井戸幅Tを小さくすると図中囲みAに示すようにSLDスペクトル幅が向上することが判明した。
図5は、上記従来構造のSLDと本実施形態に係るSLDの特性を表す表である。
【0062】
同図の「本実施形態」に示すように、井戸幅Tを小さくすると、量子井戸での光閉じ込め効果が小さくなり、自然放出光(SLD発光の源となる光)の光導波路への結合割合が小さくなるため、自然放出光の利用効率が小さくなる。
【0063】
このため、SLD発光を開始するためには従来構造に対して数倍高いキャリア密度が必要となる。この結果、SLD発光の開始時にはキャリア密度が大きいため、単位体積当たりの自然放出光の発光量は大きくなる。また、自然放出光が増幅される利得領域(自然放出光が増幅される領域)においても、キャリア密度が大きいため、利得やスペクトル幅も大きくなる。
【0064】
図6はキャリア密度によるスペクトル幅と利得の関係を示すグラフである。同図に示すように、SLD発光開始時のキャリア密度が大きいと、スペクトル幅と利得の両者が向上する。
【0065】
さらに、井戸幅Tが小さく、キャリア密度が大きいために量子井戸の量子効果が大きくなり、注入キャリアの利用効率が促進され、出力改善や温度特性の改善も達成される。また、活性層20の体積減少により活性層ロスも低減する。
【0066】
結果として、井戸幅Tが小さいと困難とされていた広いスペクトル幅を実現し、高出力及び高効率も同時に達成することが可能となる。
【0067】
図7は、光学素子100に供給される電流と光学素子100の出射光の出力の関係を示すグラフであり、井戸幅Tが6nmの場合と15nmの場合についての計算結果である。同図に示すように、井戸幅Tが6nmの場合、15nmの場合に比べて出射光の出力が30%以上向上している。
【0068】
また、グラフの最大電流付近では15nmの場合に出力飽和がみられるのに対し、6nmの場合には出力飽和がみられない。このため、より高い電流では両者の差はさらに開くと予想される。また、この計算では、自己発熱効果も考慮されており、高電流域での動作での出力が特に改善されている結果から、高温での動作も6nmの場合が優位である。
【0069】
また、
図8は、光学素子100の出射光の波長と強度の関係を示すグラフであり、井戸幅Tが6nmの場合と15nmの場合についての計算結果である。同図に示すように、井戸幅Tが6nmの場合、15nmの場合に対してスペクトル幅やスペクトル形状が同等である。
【0070】
この他にも井戸幅Tが6nmの場合、15nmの場合と比べて温度特性が改善されており、ビーム形状も15nmの場合と同等となる。このように、井戸幅Tを10nm以下とすることにより、SLD光の立ち上がり電流低減、SLD光のスペクトル幅維持、発光効率の改善及び温度特性改善等を達成することが可能である。
【0071】
なお、井戸幅Tについては10nm以下が好適であるが、特性改善のためにはさらなる薄膜化によるキャリアの有効活用促進が有効であり、光学素子100製造時のエピタキシャル成長のプロセス上、結晶性を損なわないレベルで極薄化されることが望ましい。特に井戸幅Tが7nm以下の場合に効果が大きく、好適である。
【0072】
また、井戸幅Tが小さくなり、即ち活性層20の体積が低下した分だけ、非励起領域の活性層光吸収の光損失も低減し、活性層周辺の発熱源が小さくなることがわかっており、さらなる発光効率、またはエネルギー効率の改善の促進、素子内温度の低下、ひいては信頼性の改善にも効果がある。
【0073】
(量子井戸への光閉じ込め率について)
量子井戸層20aが形成する量子井戸への光閉じ込め率は3%以下が好適である。量子井戸への光閉じ込め率は、量子井戸に閉じ込められる光密度の割合を意味し、従来では量子井戸への光閉じ込め率は4%以上が一般的である。
【0074】
上記のように井戸幅Tを小さくすると量子井戸への光閉じ込め率は小さくなり、量子井戸層20aで生じる自然放出光のスペクトル幅は小さくなる。
図9は、量子井戸への光閉じ込め率とSLDスペクトル幅(左軸)の関係及び同閉じ込め率とPLスペクトル幅(右軸)の関係を示すグラフである。
【0075】
同図に示すように、量子井戸への光閉じ込め率が小さくなるとPLスペクトル幅が小さくなることから、SLDスペクトル幅も小さくなる(図中、破線)と予測された。しかしながら、実際には、量子井戸への光閉じ込め率を小さくすると、図中囲みBに示すようにSLDスペクトル幅が向上することが判明した。
【0076】
これは、
図5に示すように、量子井戸への光閉じ込め率が小さく、自然放出光の利用効率が小さくなると、SLD発光の開始時に高いキャリア密度が必要となり、上述のように量子井戸の量子効果が大きくなること及び活性層ロスが低減することによる。このように量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることにより、広いスペクトル幅を実現し、高出力及び高効率も同時に達成することが可能である。
【0077】
(量子井戸層の条件について)
上記のように、量子井戸層20aの厚み(井戸幅T)は10nm以下が好適であり、量子井戸層20aが形成する量子井戸への光閉じ込め率は3%以下が好適である。本実施形態に係る光学素子100は、量子井戸層20aの厚みが10nm以下という条件と、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下という条件のうち、少なくともいずれか一方を満たすものであればよい。
【0078】
(量子井戸層の材料について)
量子井戸層20aの材料は特に限定されないが、光学素子100の発光色は量子井戸層20aの材料によって異なる。例えば、量子井戸層20aがAlInGaPからなる場合、発光波長550~900nm(実用域630~680nm)の赤色光が生成される。また、量子井戸層20aがAlInGaNからなる場合、発光波長400~1000nm(実用域400~550nm)の青紫色から緑色の光が生成される。
【0079】
この他にも量子井戸層20aの材料としてAlGaN(発光波長紫外域~400nm)、AlGaAs(発光波長750~850nm、赤外域)、InGaAs(発光波長800~980nm、赤外域)、InGaAsP(発光波長1.2~1.6μm、赤外域)等が挙げられる。
【0080】
(ガイド層及びクラッド層ついて)
p型ガイド層132及びn型ガイド層142の厚みによって、量子井戸への光閉じ込め率を3%以下に調整することができる。p型ガイド層132及びn型ガイド層142の厚みはそれぞれ10nm以上500nm以下が好適であり、50nm以上200nm以下がより好適である。
【0081】
上記10nm以上500nm以下はSLDのデバイス設計で採り得る数値範囲であり、50nm以上200nmは、光の閉じ込めだけでなく、発光パターンの制御(出射光の広がり)やキャリアの閉じ込めも考慮した数値範囲である。
【0082】
また、p型クラッド層131とp型ガイド層132の屈折率差(以下、p型屈折率差)及びn型クラッド層141とn型ガイド層142の屈折率差(以下、n型屈折率差)によって量子井戸への光閉じ込め率を3%以下に調整することもできる。
【0083】
具体的には、量子井戸層20aがAlInGaPからなり、発光色が赤色の場合、p型屈折率差及びn型屈折率差はそれぞれ0.03以上0.50以下が好適であり、0.06以上0.30以下がより好適である。
【0084】
上記0.03以上0.50以下はSLDのデバイス設計で採り得る数値範囲であり、0.06以上0.30以下は、光の閉じ込めだけでなく、発光パターンの制御(出射光の広がり)やキャリアの閉じ込めも考慮した数値範囲である。
【0085】
また、量子井戸層20aがAlInGaNからなり、発光色が青紫色から緑色の場合、p型屈折率差及びn型屈折率差はそれぞれ0.01以上0.10以下が好適であり、0.02以上0.06以下がより好適である。
【0086】
上記0.01以上0.10以下はSLDのデバイス設計で採り得る数値範囲であり、0.02以上0.06以下は、光の閉じ込めだけでなく、発光パターンの制御(出射光の広がり)やキャリアの閉じ込めも考慮した数値範囲である。
【0087】
p型クラッド層131、p型ガイド層132、n型クラッド層141及びn型ガイド層142の材料は特に限定されない。例えば、p型クラッド層131はMgがドープされたAl0.5In0.5P、p型ガイド層132はGaxIn1-xP、n型クラッド層141はGaxIn1-xP、n型ガイド層142はSiがドープされたAl0.5In0.5Pからなるものとすることができる。
【0088】
(従来構造との比較による光学素子の効果について)
SLDの出力向上のためには、電流を多く注入する、導波路長を長くする、あるいはリッジ導波路の幅を大きくする等が考えられる。
【0089】
しかしながら、電流を多く注入する場合、その上限値は出力の熱飽和によって制限されるため、高出力化のためには、実装あるいはパッケージへの放熱負担が大きくなる。これは高コスト化の原因となる他、わずかな端面反射でレーザ発振が生じやすくなるため、熱飽和による制限よりも大幅に低い電流で使用する必要がある。
【0090】
また、導波路長を長くする場合、光が出射されるまでの間により長い経路で増幅されるため、光強度が大きくなる。一方で誘導放出による光の増幅をより多く受けることによって利得スペクトラム(波長依存性)の影響を強く受け、発光スペクトル幅が狭くなる。このため、低コヒーレンス性が低下する。即ち、出力とコヒーレンスはトレードオフの関係を有する。さらに、導波路長を長い場合、SLDのサイズが大きくなり、パッケージの小型化に不向きとなる上、全体の導波ロスの影響が増え、光変化効率も低下する。
【0091】
また、リッジ導波路の幅を大きくする場合、電流密度の集中を緩和して発光する面積を増やすことにより、出力を高めることができる。しかしながら、出射されるビームの幅が広くなり、特別に光学系が必要となる等、光源として利用しにくくなる。さらに、リッジ導波路の幅を大きくすることで導波し得るモードが多くなるため、出力の不安定性の原因となる。
【0092】
この他にも、増幅を受ける前の自然放出光の段階でスペクトル幅を大きくする方法もあるが、そのためには、注入電極を分割して設置するか、活性層の材料や構造を部分毎に変更する必要がある。前者の場合には別々のドライバで分割電極を駆動する必要があり、高コストである。後者の場合には結晶の再成長が必要になる等、製造が困難であり、やはり高コストとなる。
【0093】
また、上記いずれの方法でも消費される電流が増加するため、光源としての効率は低下する。
【0094】
これに対し、本実施形態に係る光学素子100では、量子井戸層20aの厚みを10nm以下とし、または量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることにより、高出力かつスペクトル幅の広い光を出射することが可能となっている。
【0095】
上記のように、従来構造では、スペクトル幅拡大と出力改善の間にトレードオフの関係があり、両特性の妥協点を考える素子設計が用いられていたが、本技術では、その制限を受けずに設計することが可能であり、より高い性能を両立できる。
【0096】
また、後端面近傍での自然放出光の導波路結合が素子特性に直接影響する独特の動作原理を利用したSLDに好適な構造であり、特別な活性層製成膜方法を必要とせず、既存の成膜方法を用いて作製することができる。
【0097】
さらに、量子井戸素の薄膜化による量子効果の増大によって光利得が改善されることでSLD出力を大幅に高め、かつ高温での特性劣化も抑制できる。また、追加される工程は、エピタキシャル成長での一部工程の変更のみであり、製造プロセス全体への影響は僅少である。
【0098】
活性層の組成及び膜厚に関しては、TEM(Transmission Electron Microscope)解析後でのEDX(Energy dispersive X-ray spectrometry)解析又はWDX(Wavelength Dispersive X-ray spectroscopy)解析で十分検出可能である。また、膜厚のみならず、光導波計算を組み合わせて光閉じ込め率算出も可能である。
【0099】
さらに、用途に合わせて出力を共振器長により調整し、必要となるスペクトル幅と出力に調整することができる。また、薄い量子井戸層を用いることで、スペクトラムが単峰化しやすく、OCT(Optical Coherence Tomography)等の干渉を利用する用途でも、外乱の少ない測定結果を得る事ができる。
【0100】
また、増幅器として利用する場合であっても、同様の効果が期待でき、同等の構造とすることによって増幅波長域の広帯域化、効率アップ等の機能向上を図ることができる。
【0101】
(量子井戸層の層数について)
上記実施形態においては活性層20は単層の量子井戸層20aを有するものとしたが、複数層の量子井戸層20aを有するものであってもよい。
図10は、複数層の量子井戸層20aを有する活性層20におけるバンド構造を示す模式図である。
【0102】
同図に示すように、活性層20は複数層の量子井戸層20aを有し、各量子井戸層20aの間には障壁層20bが設けられている。なお、活性層20が有する量子井戸層20aの数は3層に限られず、2層又は4層以上であってもよいが、ここでは3層の量子井戸層20aを例にとって説明する。
【0103】
それぞれの量子井戸層20aの厚みを厚みT1、厚みT2及び厚みT3とすると、量子井戸層20aの厚みの合計、即ち厚みT1、厚みT2及び厚みT3の合計は10nm以下が好適である。量子井戸層20aの数が2層又は4層以上の場合も同様に、量子井戸層20aの厚みの合計は10nm以下が好適である。
【0104】
これにより、活性層20が単層の量子井戸層20aを有する場合と同様の原理によって光学素子100は高出力かつスペクトル幅の広い光を出射することが可能となる。それぞれの量子井戸層20aの厚みは同一であってもよく、互いに異なってもよい。また、それぞれの量子井戸層20aのバンドギャップは同一であってもよく、互いに異なってもよい。
【0105】
また、量子井戸層20aが形成する量子井戸への光閉じ込め率は3%以下が好適である。量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることにより、広いスペクトル幅を実現し、高出力及び高効率も同時に達成することが可能である。
【0106】
活性層20が複数層の量子井戸層20aを有する場合であっても、量子井戸層20aの厚みの合計が10nm以下という条件と、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下という条件のうち、少なくともいずれか一方を満たすものであればよい。
【0107】
図11は、複数層の量子井戸層20aを備える活性層20の具体的構成を示す模式図である。なお、同図では活性層20、p型ガイド層132及びn型ガイド層142以外の構成については図示を省略する。同図に示すように、活性層20は、量子井戸層20aと障壁層20bが交互に積層されて構成されている。
【0108】
量子井戸層20aは、上述のようにAlInGaAlP(赤色)又はAlInGaN(青紫色から緑色)等の材料からなる。また、量子井戸層20aの間で材料が異なってもよい。障壁層20bは、例えばAlGaSs等からなるものとすることができる。
【0109】
なお、活性層20以外の構成は活性層20が単層の量子井戸層20aを有する構造と同一とすることができる。即ち、p型ガイド層132及びn型ガイド層142の厚みやp型クラッド層131とp型ガイド層132の屈折率差及びn型ガイド層142とn型クラッド層141の屈折率差を上記範囲とすることにより、量子井戸への光閉じ込め率を3%以下とすることができる。
【0110】
(表示装置)
図12は、上記実施形態に係る光学素子であるSLDを光源として用いる表示装置の構成を模式的に示す。この表示装置200は、ラスタスキャン方式のプロジェクタである。
【0111】
表示装置200は、画像生成部70を備える。画像生成部70は、光源としての光学素子から出射された光を2次元状にスキャン可能、例えばラスタスキャン可能であり、画像データに基づき、スクリーンや壁面等の照射面105に投射される光による輝度を制御可能に構成される。
【0112】
画像生成部70は、例えば水平スキャナ103及び垂直スキャナ104を主に含む。赤色発光の光学素子100R、緑色発光の光学素子100G及び青色発光の光学素子100Bからのビームのそれぞれは、ダイクロイックプリズム102R,102G,102Bによって1本のビームに纏められる。このビームが、水平スキャナ103及び垂直スキャナ104によってスキャンされ、照射面105に投影されることで画像が表示される。
【0113】
なお、RGBの各色発光の光源のうち、少なくとも1つが本実施形態に係る光学素子100の構成を有するSLDであればよく、他の素子は通常のLDであってもよい。
【0114】
水平スキャナ103及び垂直スキャナ104は、例えば、ポリゴンミラーとガルバノスキャナとの組合せにより構成される。この場合、輝度の制御手段としては、例えば光学素子へ注入する電流を制御する回路が用いられる。
【0115】
あるいは、水平スキャナ及び垂直スキャナとして、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて製造されるDMD(Digital Micro-mirror Device)等の、2次元光変調素子が用いられてもよい。
【0116】
あるいは、画像生成部70は、GLV(Grating Light Valve)素子等の1次元光変調素子と、上述の1次元スキャンミラーとの組み合わせにより構成されていてもよい。
【0117】
あるいは、画像生成部70は、音響光学効果スキャナや電気光学効果スキャナといった屈折率変調型スキャナにより構成されていてもよい。
【0118】
(他の実施形態)
本技術は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0119】
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造32は、リッジ部10を構成する構造に限られない。例えば電流狭窄構造は、埋め込み型又は埋め込みリッジ型の構造であってもよい。
【0120】
上記実施形態では、基板15としてn型基板が用いられたが、p型基板が用いられ、電流狭窄構造を構成する半導体層がn型であってもよい。この場合、「第1導電型」がn型、「第2導電型」がp型となる。
【0121】
上記実施形態に係る光学素子は、活性層20を中心として基板15の反対側に電流狭窄構造32が配置される構成を有していた。しかし、活性層20を中心として基板(n型でもp型でもよい)と同じ側に電流狭窄構造が配置されていてもよい。ただし、上記実施形態の光学素子は、そのように基板と同じ側に電流狭窄構造が配置される構成を有する光学素子に比べ、構造上、放熱性が高いとうメリットがある。
【0122】
以上説明した他の実施形態の特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。
【0123】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、
第2導電型層と、
上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層であって、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、上記1層の量子井戸層の厚みは10nm以下であり、上記複数層の量子井戸層の厚みの合計は10nm以下である活性層と
を具備する光学素子。
【0124】
(2)
上記(1)に記載の光学素子であって、
上記1層の量子井戸層又は上記複数層の量子井戸層は、AlInGaPからなる
光学素子。
【0125】
(3)
上記(1)に記載の光学素子であって、
上記活性層は、上記1層の量子井戸層を有し、
上記1層の量子井戸層はAlInGaNからなる
光学素子。
【0126】
(4)
上記(1)から(3)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
上記第2ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下である
光学素子。
【0127】
(5)
上記(1)から(4)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下である
光学素子。
【0128】
(6)
上記(1)から(4)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下である
光学素子。
【0129】
(7)
上記(1)から(6)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記活性層は、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下である
光学素子。
【0130】
(8)
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、
第2導電型層と、
上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層であって、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、量子井戸への光閉じ込め率が3%以下である活性層と
を具備する光学素子。
【0131】
(9)
上記(8)に記載の光学素子であって、
上記1層の量子井戸層又は上記複数層の量子井戸層は、AlInGaPからなる
光学素子。
【0132】
(10)
上記(8)に記載の光学素子であって、
上記活性層は、上記1層の量子井戸層を有し、
上記1層の量子井戸層はAlInGaNからなる
光学素子。
【0133】
(11)
上記(8)から(9)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下であり、
上記第2ガイド層の厚さは10nm以上500nm以下である
光学素子。
【0134】
(12)
上記(11)に記載の光学素子であって、
上記第1ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下であり、
上記第2ガイド層の厚さは50nm以上200nm以下である
【0135】
(13)
上記(8)から(12)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.03以上0.50以下である
光学素子。
【0136】
(14)
上記(13)に記載の光学素子であって、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.06以上0.30以下である
光学素子。
【0137】
(15)
上記(8)から(12)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
上記第1導電型層は、第1クラッド層と、上記第1クラッド層と上記活性層の間に設けられた第1ガイド層とを有し、
上記第2導電型層は、第2クラッド層と、上記第2クラッド層と上記活性層の間に設けられた第2ガイド層とを有し、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.01以上0.10以下である
光学素子。
【0138】
(16)
上記(15)に記載の光学素子であって、
上記第1クラッド層と上記第1ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下であり、
上記第2クラッド層と上記第2ガイド層の屈折率差は0.02以上0.06以下である
光学素子。
【0139】
(17)
上記(1)から(16)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
スーパールミネッセンスダイオードである
光学素子。
【0140】
(18)
上記(1)から(16)のうちいずれか一つに記載の光学素子であって、
光増幅器である
光学素子。
【0141】
(19)
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、第2導電型層と、上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層とを具備する光学素子の活性層構造であって、
上記活性層は、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、上記1層の量子井戸層の厚みは10nm以下であり、上記複数層の量子井戸層の厚みの合計は10nm以下である
活性層構造。
【0142】
(20)
光学素子と、
上記光学素子から出射された光を2次元状にスキャン可能であり、画像データに基づき、投射される上記光による輝度を制御可能な画像生成部とを具備し、
上記光学素子は、
電流の注入領域が狭窄するように構成された電流狭窄構造を有する第1導電型層と、
第2導電型層と、
上記第1導電型層と上記第2導電型層の間に設けられた活性層であって、1層の量子井戸層又は複数層の量子井戸層を有し、上記1層の量子井戸層の厚みは10nm以下であり、上記複数層の量子井戸層の厚みの合計は10nm以下である活性層と
を具備する表示装置。
【符号の説明】
【0143】
11…p型電極層
12…n型電極層
13…第1導電型層
131…p型クラッド層
132…p型ガイド層
14…第2導電型層
141…n型クラッド層
142…n型ガイド層
20…活性層
20a…量子井戸層
20b…障壁層
32…電流狭窄構造