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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】電極用バインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220928BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20220928BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20220928BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220928BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F265/06
H01G11/38
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018568545
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2018004974
(87)【国際公開番号】W WO2018151122
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2017025597
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】中村 美和
(72)【発明者】
【氏名】矢野 倫之
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 義広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-004229(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171028(WO,A1)
【文献】特開2016-046231(JP,A)
【文献】特開2014-186895(JP,A)
【文献】特開2014-209503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C08F 265/06
H01G 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体を含み、
前記重合体における前記一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位の比率は、12質量%以上60質量%以下である、電極用バインダー。
CH2=C(R1)-CO-O-R2-O-R3 (1)
(式中、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~12のアルキレン基、R3は炭素数1~12のアルキル基である。)
【請求項2】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体をコア部に有する請求項1記載の電極用バインダー。
【請求項3】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位、及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を有する重合体を有する請求項1又は2記載の電極用バインダー。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の電極用バインダーを含有する電極用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の電極用バインダー、又は電極用バインダー組成物を用いてなる電極。
【請求項6】
請求項5記載の電極を用いてなる蓄電デバイス。
【請求項7】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体であって、前記重合体における前記一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位の比率は、12質量%以上60質量%以下である重合体の、電極用バインダーとしての使用。
CH2=C(R1)-CO-O-R2-O-R3 (1)
(式中、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~12のアルキレン基、R3は炭素数1~12のアルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池、またはリチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池といった二次電池、電気化学キャパシタといった蓄電デバイスに用いる電極用バインダー、該電極用バインダーを用いてなる電極、及び該電極を備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスは、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。最近では環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。
【0003】
また、これらの応用が進むと同時に、蓄電デバイスに高性能化が求められており、電極等の部材の改良が進められている。このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、活物質と、導電助剤、バインダー、溶媒を含む塗工液を集電体上に塗布、乾燥して得られる。
【0004】
そこで、近年では、電極に用いられるバインダーの改良が試みられている。バインダーを改良することにより、活物質同士の結着性、活物質と導電助剤との結着性及び活物質と集電体との結着性を向上させ、電気的特性(例えば、サイクル特性、低温での出力特性)を向上させたりすることが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスにおいては、使用環境により様々な充電状態(以降、SOCと記載する)となることが考えられる。特に電気自動車用途の場合、SOC50%での充電状態で充放電を繰り返すことが多く、中でもSOC50%における低抵抗化が一つの課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2015/064570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた可撓性及び結着性を備えており、リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスにおいて、SOC50%における低抵抗化を実現する電極用バインダーを提供することを主な目的とする。更に、本発明は、該電極バインダーを用いてなる電極、及び該電極を備える蓄電デバイスも提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、特定の重合体を含む電極用バインダーを用いることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下に関する。
【0009】
項1. 一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体を含む、電極用バインダー。
CH2=C(R1)-CO-O-R2-O-R3 (1)
(式中、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~12のアルキレン基、R3は炭素数1~12のアルキル基である。)
項2. 一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体をコア部に有する項1記載の電極用バインダー。
項3. 一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位、及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を有する重合体を有する項1又は2記載の電極用バインダー。
項4. 項1~3いずれか記載の電極用バインダーを含有する電極用バインダー組成物。
項5. 項1~4いずれか記載の電極用バインダー、又は電極用バインダー組成物を用いてなる電極。
項6. 項5記載の電極を用いてなる蓄電デバイス。
項7. 一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体の、電極用バインダーとしての使用。
CH2=C(R1)-CO-O-R2-O-R3 (1)
(式中、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~12のアルキレン基、R3は炭素数1~12のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極用バインダーは、優れた可撓性及び結着性を備えており、リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスにおいて、SOC50%における低抵抗化を実現することができるため、該電極バインダーを用いてなる電極、及び該電極を備える蓄電デバイスは電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池に有用に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、蓄電デバイスとは、一次電池、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池等の二次電池、電気化学キャパシタを包含するものである。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、これに類する表現についても同様である。
【0012】
<1.電極用バインダー>
本発明の電極用バインダーは、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体を含む。
CH2=C(R1)-CO-O-R2-O-R3 (1)
(式中、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~12のアルキレン基、R3は炭素数1~12のアルキル基である。)
1は、水素、又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素、又はメチル基であることが特に好ましい。
2は、炭素数1~8のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であることが特に好ましい。
3は、炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが特に好ましい。
【0013】
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチルなどが挙げられる。
【0014】
本発明の電極用バインダーにおいては、重合体における一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位の比率の下限は5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることが特に好ましい。重合体における一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位の比率の上限は、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の電極用バインダーは、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位、及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を有することで、バインダーの親水性を高めることができる。その結果、電極スラリーを作製する固練り工程において、バインダーを含む電極部材と溶媒である水とのなじみが良くなり、固練りがしやすくなる効果があり、更にバインダーの親水性が高まることで、電極中での部材の分散に良好に働く効果が生じる。尚、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル、及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルから選択される(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位であることが好ましい。これら(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位は1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位であってよい。
【0017】
本発明の電極用バインダーにおいては、重合体における(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の比率の下限は5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。重合体における(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の比率の上限は、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。
【0018】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位以外にも、一般式(1)で示される化合物と共重合可能な化合物に由来する構成単位を有していてもよい。
【0019】
一般式(1)で示される化合物と共重合可能な化合物に由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位、水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位、多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位を例示することができる。
【0020】
(メタ)アクリル酸に由来する構成単位としては、アクリル酸、メタクリル酸から選択される化合物に由来する構成単位を例示することができる。
【0021】
重合体における(メタ)アクリル酸由来の構成単位の比率の下限は0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。重合体における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の比率の上限は、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0022】
水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては、下記一般式(2)で表される化合物(モノマー)に由来する構成単位を例示することができる。
【化1】
(式中、R4は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
【0023】
一般式(2)において、R4としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、構成単位において、R4が水素原子又はメチル基である(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0024】
一般式(2)において、(Cx2xO)としては、直鎖もしくは分岐のアルキルエーテル基であり、xは2~8の整数であり、好ましくは2~7の整数であり、より好ましくは2~6の整数である。
【0025】
一般式(2)において、nは2~30の整数であり、好ましくは2~25の整数であり、より好ましくは2~20の整数である。
【0026】
水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、下記一般式(3)で表される化合物(モノマー)に由来する構成単位が好ましい。
【化2】
一般式(3)において、R4は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、oは0~30の整数であり、pは0~30の整数であり、o+pは2~30である。ここで、o、およびpは、当該構成単位の構成比を表しているのみであって、(C24O)の繰り返し単位のブロックと(C36O)の繰り返し単位のブロックからなる化合物のみを意味するものではなく、(C24O)の繰り返し単位と、(C36O)の繰り返し単位が交互・ランダムに配置された、又はランダム部とブロック部が混在する化合物であってもよい。
【0027】
一般式(3)において、R4としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、当該構成単位において、R4が水素原子又はメチル基である(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0028】
一般式(3)において、oは0~30の整数であり、pは0~30の整数であり、o+pは2~30であり、oは0~25の整数であり、pは0~25の整数であり、o+pは2~25であることが好ましく、oは0~20の整数であり、pは0~20の整数であり、o+pは2~20であることが特に好ましい。
【0029】
一般式(3)で表わされる化合物の具体例としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位の比率の下限は0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0031】
多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては2官能~5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。2官能~5官能の多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、3官能または4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位であることが好ましい。
【0032】
多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては、下記一般式(4)で表される化合物(モノマー)に由来する構成単位を例示することができる。
【化3】
【0033】
一般式(4)において、R5は、それぞれ同一または異なって、水素原子又はメチル基であり、R6は、2~5価の炭素数1~100の有機基であり、mは2~5の整数である。
【0034】
2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0035】
3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2-トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレート及びトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートから選択される3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が好ましい。
【0036】
4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0037】
5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0038】
重合体における多官能(メタ)アクリレート由来の構成単位の比率の下限は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。重合体における多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0039】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体としては、上記以外にも、その他のモノマー由来の構成単位として、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルから選択されるモノマー由来の構成単位を有することできる。
【0040】
本発明の電極用バインダーにおいては、コアシェル構造であり、上記に記載した一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体をコア部、シェル部の一方、又は両方に有していればよく、少なくともコア部として有することが好ましい。また、本発明においては、重合体成分として、上記に記載した一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体のみをコア部、及び/又はシェル部とすることも可能であるが、上記に記載した一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体と他の重合体成分を併せて含有していてもよい。尚、本発明の電極用バインダーはコア部及びシェル部が明確な界面を持たず、これらが相溶した部分を備えていてもよい。
【0041】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体をコア部として有する際には、シェル部の重合体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、水酸基を有する(メタ)アクリレート、及び多官能(メタ)アクリレートから選択される構成単位を有することが好ましい。
【0042】
シェル部の重合体における(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸ラウリルから選択される(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を例示することができる。
【0043】
シェル部の重合体における(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の比率の下限は35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。重合体における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の比率の上限は、98.5質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
(メタ)アクリル酸に由来する構成単位としては、アクリル酸、メタクリル酸から選択される化合物に由来する構成単位を例示することができる。
【0045】
重合体における(メタ)アクリル酸由来の構成単位の比率の下限は0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。重合体における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の比率の上限は、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
シェル部の重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位としては、分子量が100~1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート由来の構成単位が好ましい。具体例としてはジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位が挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選択される水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位が好ましい。シェル部において、水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては、前記一般式(2)、(3)で表される化合物に由来する構成単位と同じものが好ましく例示される。
【0047】
シェル部の重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位の比率の下限は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
シェル部の重合体における多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては2官能~5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。2官能~5官能の多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、乳化重合での分散が良好であり、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、3官能または4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位であることが好ましい。シェル部において、多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては、前記一般式(4)で表される化合物(モノマー)に由来する構成単位と同じものが好ましく例示される。
【0049】
2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0050】
3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2-トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレート及びトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートから選択される3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が好ましい。
【0051】
4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0052】
5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0053】
シェル部の重合体におけるにおける多官能(メタ)アクリレート由来の構成単位の比率の下限は0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。重合体における多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0054】
シェル部の重合体におけるとしては、上記以外にも、その他のモノマー由来の構成単位として、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルから選択されるモノマー由来の構成単位を有することできる。
【0055】
一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有する重合体をシェル部として有する際には、コア部の重合体としては、特に限定されないが、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を主成分とする重合体であることが好ましく、水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位、多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有していてもよい。
【0056】
メタクリル酸メチルに由来する構成単位を主成分とする重合体において、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を「主成分とする」とは、重合体におけるメタクリル酸メチルに由来する構成単位の割合が、50質量%以上であることを意味する。また、メタクリル酸メチルに由来する構成単位の比率の下限は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。重合体におけるメタクリル酸メチルに由来する構成単位の比率の上限は、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
コア部の重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位としては、分子量が100~1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート由来の構成単位が好ましい。具体例としてはジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位が挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選択される水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位が好ましい。コア部において、水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては、前記一般式(2)、(3)で表される化合物に由来する構成単位と同じものが好ましく例示される。
【0058】
コア部の重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位の比率の下限は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0059】
メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の具体例としては、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位が挙げられる。アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルから選択される(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位であることが好ましい。
【0060】
コア部の重合体におけるメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の比率の下限は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。重合体における水酸基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0061】
(メタ)アクリル酸に由来する構成単位としては、アクリル酸、メタクリル酸から選択される化合物に由来する構成単位を例示することができる。
【0062】
重合体における(メタ)アクリル酸由来の構成単位の比率の下限は0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。重合体における(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の比率の上限は、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0063】
コア部の重合体における多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては2官能~5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。2官能~5官能多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、3官能または4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位であることが好ましい。コア部において、多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位としては、前記一般式(4)で表される化合物(モノマー)に由来する構成単位と同じものが好ましく例示される。
【0064】
2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0065】
3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2-トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレート及びトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートから選択される3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が好ましい。
【0066】
4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0067】
5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0068】
コア部の重合体におけるにおける多官能(メタ)アクリレート由来の構成単位の比率の下限は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。重合体における多官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の比率の上限は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0069】
コア部の重合体におけるとしては、上記以外にも、その他のモノマー由来の構成単位として、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルから選択されるモノマー由来の構成単位を有することできる。
【0070】
コア部を得る方法としては、一般的な乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、シード重合法、シード粒子にモノマー等を膨潤させた後に重合する方法等を使用することができる。具体的には、攪拌機、及び加熱装置付きの密閉容器に室温でモノマー、乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することでモノマー等を水に乳化させる。乳化の方法は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。次いで、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始させることで、重合体が水に分散した球形の重合体のラテックスを得ることができる。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。尚、プレエマルジョン滴下とは先にモノマー、乳化剤、水等を予め乳化させておき、その乳液を滴下していく添加方法を指す。
【0071】
本発明のコア部の周囲に、シェル部を形成する方法としては、例えば、上記方法で重合されたコア部をシード粒子としてコアシェル構造の複合重合体粒子を含む重合体のラテックスを形成する方法が使用できる。シード重合法は、例えば、「分散・乳化系の化学」(発行元:工学図書(株))に記載された方法を用いることができる。具体的には、上記の方法で作製したコア粒子を分散した系にモノマー、重合開始剤、乳化剤を添加し、核粒子を成長させる方法であり、上記方法を1回以上繰り返してもよい。
【0072】
本発明のシェル部を形成する方法として、コア部のモノマー粒子を重合した後、軽く単離し、再度、モノマー、乳化剤や分散剤等を用いて水中に分散させて、シェル部を形成し重合体のラテックスを得る方法もある。また、コア部の粒子にポリメタクリル酸メチル等の市販の微粒子を用いてもよい。
【0073】
シェル部を形成する場合の製造装置や乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等はコア部の粒子を製造する場合と同様の装置や材料を使用することができる。重合時のモノマーの添加方法は、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等がよく、コア部とシェル部は、モノマーの滴下方法によって連続して製造する方が、生産効率やコストの面で好ましい。
【0074】
本発明のバインダーであるコアシェル構造を有する重合体の粒子形状としては球形以外に、板状、中空構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造等が挙げられ、本発明を逸脱しない範囲で2種類以上の構造及び組成の粒子を用いることができる。
【0075】
本発明の電極用バインダーにおける上記重合体の粒子径は、動的光散乱法によって計測できる。特に動的光散乱法を用いて得た散乱強度により算出した平均粒子径は、例えば1nm~10μm、好ましくは10nm~1μmであり、より好ましくは50nm~300nmである。動的光散乱法を用いた具体的な測定装置としては、スペクトリス製のゼータサイザーナノ、堀場製作所製LB-500、シンパテック製NANOPHOX/R等が例示できる。
【0076】
本発明で用いられる乳化剤は特に限定されない。乳化剤は界面活性剤であり、この界面活性剤には反応性基を有する反応性界面活性剤が含まれる。乳化重合法おいて一般的に用いられるノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤等を使用することができる。
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、反応性ノニオン界面活性剤としては、ラテムルPD-420、430、450(花王社製)、アデカリアソープER(アデカ社製)、アクアロンRN(第一工業製薬社製)、アントックスLMA(日本乳化剤社製)、アントックスEMH(日本乳化剤社製)等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、硫酸エステル型、カルボン酸型、又はスルホン酸型の金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、リン酸エステル型の界面活性剤等を挙げることができる。硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型が好ましく、硫酸エステル型が特に好ましい。硫酸エステル型のアニオン界面活性剤の代表例としてはドデシル硫酸等のアルキル硫酸金属塩、アンモニウム、又はアルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸金属塩、アンモニウム塩、又はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられ、硫酸エステル型の反応性アニオン界面活性剤の具体例としては、ラテムルPD-104、105(花王社製)、アデカリアソープSR(アデカ社製)、アクアロンHS(第一工業製薬社製)、アクアロンKH(第一工業製薬社製)が挙げられる。好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラテムルPD-104等が挙げられる。
これらノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0077】
反応性界面活性剤の反応性とは、反応性二重結合を含有し、重合時にモノマーと重合反応することを意味する。すなわち、反応性界面活性剤は、重合体を作製する重合の際にモノマーの乳化剤として働くと共に、重合後は重合体の一部に共有結合して取り込まれた状態となる。そのため、乳化重合及び作製した重合体の分散が良好であり、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。
【0078】
乳化剤の構成単位の量は乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01~25質量%の範囲であり、好ましくは0.05~20質量%、更に好ましくは0.1~20質量%である。
【0079】
本発明で用いられる重合開始剤は特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法おいて一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。好ましくは乳化重合法である。乳化重合法では水溶性の重合開始剤、懸濁重合法では油溶性の重合開始剤が使われる。
【0080】
その水溶性の重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、またはその塩酸塩または硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパンアミジン)、又はその塩酸塩又は硫酸塩、3,3’-[アゾビス[(2,2-ジメチル-1-イミノエタン-2,1-ジイル)イミノ]]ビス(プロパン酸)、2,2’‐[アゾビス(ジメチルメチレン)]ビス(2‐イミダゾリン)などの水溶性のアゾ化合物の重合開始剤が好ましい。
油溶性の重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、アセチルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル) などの油溶性のアゾ化合物の重合開始剤、レドックス系開始剤が好ましい。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0081】
重合開始剤の使用量は乳化重合法または懸濁重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01~10質量%の範囲であり、好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.02~3質量%である。
【0082】
連鎖移動剤は、必要に応じて用いることができる。連鎖移動剤の具体例としては、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-メチル-2-ペンテン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、仕込モノマー量100質量部に対して0~5質量部にて使用される。
【0083】
重合体、コア部、及びシェル部の重合時間及び重合温度は特に限定されない。使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、一般的に、重合温度は20~100℃であり、重合時間は0.5~100時間である。
【0084】
本発明の電極用バインダーは、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体を含み、さらに、水分、又は乳化剤等の他の物質が重合体の内部に含有されてもよいし、又は他の物質が重合体の外部に付着されていてもよい。内部に含有される、又は外部に付着される物質の量は、重合体100質量部に対して、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
【0085】
<2.電極用バインダー組成物>
本発明のバインダー組成物は、先述の「1.電極用バインダー」を溶媒とともに含有するものであり、電極用バインダーが溶媒に分散されるものであってよい。溶媒は、水、有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類を例示することができる。
【0086】
本発明のバインダー組成物は、電極用バインダーを水で分散された水系バインダー組成物であることが好ましい。
【0087】
本発明のバインダー組成物は、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体を乳化重合で得る際に製造されるエマルジョンであってもよい。
【0088】
本発明のバインダー組成物における、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体の含有量は特に限定されないが、電極用バインダーにおける固形分濃度が0.2~80質量%となるように含有することが好ましく、0.5~70質量%となるように含有することがより好ましく、0.5~60質量%となるように含有することが特に好ましい。尚、バインダー組成物における固形分については、通常、重合体、と乳化剤(重合体が乳化重合で用いられた際のみ)と考えられる。
【0089】
本発明のバインダー組成物は、必要に応じてpH調整剤として塩基を用いることでpHを調整することができる。塩基の具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物、有機アミン化合物等が挙げられる。pHの範囲はpH2~11、好ましくはpH3~10、更に好ましくはpH4~9の範囲である。
【0090】
<3.電極材料>
本発明の電極材料は、少なくとも活物質、及び先述の「1.電極用バインダー」の欄で説明した本発明のバインダーを含有し、更に導電助剤、増粘剤を含有していてもよい。本発明の電極材料においては、本発明のバインダーを溶媒とともに含有する「2.電極用バインダー組成物」の欄で説明した本発明のバインダー組成物として含有してもよい。具体的には、正極に用いる正極材料としては正極活物質、及び本発明のバインダーを含有し、更に導電助剤、増粘剤を含有していてもよく、負極に用いる負極材料としては負極活物質、本発明のバインダーを含有し、更に導電助剤、増粘剤を含有していてもよい。
【0091】
正極活物質は、AMO2、AM24、A2MO3、AMBO4のいずれかの組成からなるアルカリ金属含有複合酸化物である。Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。BはP、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0092】
正極活物質の好ましい具体例としては、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixFeO2, LixCoaMn1-a2, LixCoaNi1-a2, LixCoaCr1-a2, LixCoaFe1-a2, LixCoaTi1-a2, LixMnaNi1-a2, LixMnaCr1-a2, LixMnaFe1-a2, LixMnaTi1-a2, LixNiaCr1-a2, LixNiaFe1-a2, LixNiaTi1-a2, LixCraFe1-a2, LixCraTi1-a2, LixFeaTi1-a2, LixCobMncNi1-b-c2, LixNiaCobAlc2, LixCrbMncNi1-b-c2, LixFebMncNi1-b-c2, LixTibMncNi1-b-c2, LixMn24, LixMndCo2-d4, LixMndNi2-d4, LixMndCr2-d4, LixMndFe2-d4, LixMndTi2-d4, LiyMnO3, LiyMneCo1-e3, LiyMneNi1-e3, LiyMneFe1-e3, LiyMneTi1-e3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixCofMn1-fPO4, LixCofNi1-fPO4, LixCofFe1-fPO4, LixMnfNi1-fPO4, LixMnfFe1-fPO4, LixNifFe1-fPO4,LiyCoSiO4, LiyMnSiO4, LiyNiSiO4, LiyFeSiO4, LiyCogMn1-gSiO4, LiyCogNi1-gSiO4, LiyCogFe1-gSiO4, LiyMngNi1-gSiO4, LiyMngFe1-gSiO4, LiyNigFe1-gSiO4, LiyCoPhSi1-h4, LiyMnPhSi1-h4, LiyNiPhSi1-h4, LiyFePhSi1-h4, LiyCogMn1-ghSi1-h4, LiyCogNi1-ghSi1-h4, LiyCogFe1-ghSi1-h4, LiyMngNi1-ghSi1-h4, LiyMngFe1-ghSi1-h4, LiyNigFe1-ghSi1-h4などのリチウム含有複合酸化物をあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99, g=0.01~0.99, h=0.01~0.99である。)
【0093】
また、前記の好ましい正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixCoaNi1-a2, LixMnaNi1-a2, LixCobMncNi1-b-c2, LixNiaCobAlc2, LixMn24, LiyMnO3, LiyMneFe1-e3, LiyMneTi1-e3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixMnfFe1-fPO4, を挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99である。なお、上記のx,yの値は充放電によって増減する。)
【0094】
負極活物質としてはリチウムイオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物、チタン系化合物等の金属からなる粉末である。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。なお負極活物質にはその気孔率が、70%程度のものを用いるのが望ましい。
【0095】
電極材料中の活物質の含有量としては、特に制限されず、水等のスラリーにするための成分を除いた電極材料(100質量%)に対して、例えば99.9~50質量%程度、より好ましくは99.5~70質量%程度、さらに好ましくは99~85質量%程度が挙げられる。活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0096】
導電助剤を用いる場合には、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0097】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。なお、正極材料中に導電助剤が含まれる場合、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、2質量部以上を例示することができる。
【0098】
本発明の電極材料には必要に応じて増粘剤を存在させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩等である。
【0099】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、正極材料中に増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0101】
本発明の電極材料としては、スラリー状とするために水を含有してもよい。水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、及び超純水である。
【0102】
本発明の電極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分濃度は、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることが特に好ましい。
【0103】
本発明の電極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分中の重合体量の割合は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましく、0.3~7質量%であることが特に好ましい。
【0104】
電極材料の調製方法としては特に限定されず、正極活物質あるいは負極活物質、本発明のバインダー、増粘剤、導電助剤、水等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0105】
<4.電極>
本発明の電極は、前述の「3.電極材料」の欄で説明した本発明の電極材料と、集電体とを備えることを特徴とする。本発明の電極材料の詳細については、前述の通りである。
【0106】
本発明の電極については、公知の集電体を用いることができる。具体的には、正極としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。負極としては、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。
【0107】
電極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いられる。電池材料をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより集電体(金属電極基板)表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0108】
例えばドクターブレード法では、電池電極用スラリーを金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な有機溶剤及び水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0109】
<5.蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、前述の「4.電極」の欄で説明した正極と、負極と、電解液とを備えることを特徴としている。すなわち、本発明の蓄電デバイスに用いられる電極は、本発明の電極材料、即ち本発明のバインダーを含んでいる。本発明の電極の詳細については、前述の通りである。尚、本発明の蓄電デバイスについては、正極と、負極の少なくとも一方に、本発明のバインダーを含んだ電極材料を用いた電極を使用していればよく、本発明のバインダーを含んだ電極材料を用いていない電極については、公知の電極を用いることができる。
【0110】
電解液としては、特に制限されず、公知の電解液を用いることができる。電解液の具体例としては、電解質と溶媒とを含む溶液が挙げられる。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
電解質としては、リチウム塩化合物を例示することができ、具体的には、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN[CF3SC(C25SO232などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
リチウム塩化合物以外の電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられる。
【0113】
電解液に用いる溶媒としては、有機溶剤、又は常温溶融塩を例示することができる。
【0114】
有機溶剤としては、非プロトン性有機溶剤を挙げることができ、具体的にはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0115】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0116】
本発明での常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0117】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウムなどのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0118】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N-メチルピリジウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0121】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6 -、PF6 -などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0122】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0123】
電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト-ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1-(p-トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0124】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、特に限定されず、正極、負極、電解液、必要に応じて、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の場合、正極、必要に応じてセパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電デバイスが得られる。蓄電デバイスの形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられる。
【0125】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、電解液による影響が少ないため、好ましい。
【実施例
【0126】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0127】
本実施例では、電極及びコイン電池を作製し、電極の評価として電極の屈曲試験、結着性試験、コイン電池の評価として内部抵抗測定を以下の実験にて行った。
【0128】
[作製した電極の物性評価]
作製した電極の物性評価としては、屈曲試験と結着性試験を行った。評価結果を表1にまとめて示した。
<屈曲試験>
屈曲試験はマンドレル屈曲試験にて行った。具体的には電極を幅3cm×長さ8cmに切り、長さ方向の中央(4cm部分)の基材側(電極表面が外側を向くように)に直径2mmのステンレス棒を支えにして180°折り曲げたときの折り曲げ部分の塗膜の状態を観察した。この方法で5回測定を行い、5回とも電極表面のひび割れまたは剥離や集電体からの剥がれが全く生じていない場合を○、1回でも1箇所以上のひび割れまたは剥がれが生じた場合を×と評価した。
【0129】
<結着性試験>
結着性試験はクロスカット試験にて行った。具体的には電極を幅3cm×長さ4cmに切り、1マスの1辺が1mmとなるように直角の格子パターン状にカッターナイフで切れ込みを入れ、縦5マス×横5マスの25マスからなる碁盤目にテープ(粘着テープ:ニチバン製)を貼り付け、電極を固定した状態でテープを一気に引き剥がしたとき、電極から剥がれずに残ったマスの数を計測した。試験は5回実施し、その平均値を求めた。
【0130】
[作製した電池の特性評価]
作製したコイン電池の特性評価としては、充放電による内部抵抗の測定を行った。評価結果を表2にまとめて示した。
<内部抵抗の測定>
(測定装置)
充放電評価装置:TSCAT-3100(東洋システム株式会社)
(測定方法)
作製したリチウムイオン電池を、定電流-定電圧充電により、4.2Vまで充電した。終止電流は1C相当であった。充電後、電池を10分間休止させた。次いで2Cでの定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、充電状態が100%(SOC100%)でのリチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
上記のリチウムイオン電池を2Cでの定電流充電を10秒間実施し、SOC100%の状態に戻した状態で電池を10分間休止させた。次いで1Cで30分間の定電流放電を実施し、SOC50%の状態に調整し、電池を10分間休止させた。そして2Cでの定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、充電状態が50%(SOC50%)でのリチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
更に上記のリチウムイオン電池を2Cでの定電流充電を10秒間実施し、SOC50%の状態に戻した状態で電池を10分間休止させた。次いで1Cで15分間の定電流放電を実施し、SOC25%の状態に調整し、電池を10分間休止させた。そして2Cでの定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、充電状態が25%(SOC25%)でのリチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
【0131】
<平均粒径の測定>
重合体の平均粒径は以下の条件で測定した。
(測定装置)
動的光散乱を用いた粒度分布測定装置:ゼータサイザーナノ(スペクトリス株式会社)
(測定条件)
1.合成したエマルジョン溶液50μLをサンプリングする。
2.サンプリングしたエマルジョン溶液にイオン交換水700μLを3回添加して希釈する。
3.希釈液から液を2100μL抜き取る。
4.残った50μLのサンプルに700μLイオン交換水を添加・希釈して測定する。
【0132】
[実施合成例1]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル21.2質量部、アクリル酸メトキシエチル34.4質量部、アクリル酸1.35質量部、メタクリル酸3.85質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)3.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)15.6質量部、乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム2質量部、イオン交換水150質量部及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2質量部を入れ、超音波ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し4時間重合した。次いで、アクリル酸2-エチルヘキシル18.2質量部、アクリル酸0.2質量部、メタクリル酸0.6質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)0.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)0.4質量部を30分かけて添加して重合した。添加が終了した後、更に2時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを2.6から8.1に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物A(重合転化率99%以上、固形分濃度39wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.178μmであった。
【0133】
[実施合成例2]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル38.8質量部、アクリル酸メトキシエチル16.8質量部、アクリル酸1.35質量部、メタクリル酸3.85質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)3.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)15.6質量部、乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム2質量部、イオン交換水150質量部及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2質量部を入れ、超音波ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し4時間重合した。次いで、アクリル酸2-エチルヘキシル18.2質量部、アクリル酸0.2質量部、メタクリル酸0.6質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)0.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)0.4質量部を30分かけて添加して重合した。添加が終了した後、更に2時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを2.7から8.0に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物B(重合転化率99%以上、固形分濃度39wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.170μmであった。
【0134】
[比較合成例1]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル55.6質量部、アクリル酸1.35質量部、メタクリル酸3.85質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)3.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)15.6質量部、乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム2質量部、イオン交換水150質量部及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2質量部を入れ、超音波ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し4時間重合した。次いで、アクリル酸2-エチルヘキシル18.2質量部、アクリル酸0.2質量部、メタクリル酸0.6質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)0.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)0.4質量部を30分かけて添加して重合した。添加が終了した後、更に2時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを2.4から7.8に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物C(重合転化率99%以上、固形分濃度39wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.182μmであった。
【0135】
[比較合成例2]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル10質量部、アクリル酸メトキシエチル66.4質量部、アクリル酸3質量部、メタクリル酸5質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)3.6質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)12質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部、イオン交換水150質量部及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを2.6から7.7に調整し、バインダー組成物D(重合転化率99%以上、固形分濃度39wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.185μmであった。
【0136】
[比較合成例3]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル44.2質量部、アクリル酸メトキシエチル35.8質量部、アクリル酸3質量部、メタクリル酸5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)12質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部、イオン交換水150質量部及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを2.8から8.1に調整し、バインダー組成物E(重合転化率99%以上、固形分濃度38wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.176μmであった。
【0137】
<電極の作製例>
[電極の実施作製例1]
正極活物質としてスピネル型マンガン酸リチウム94質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック3質量部、実施合成例1で得られたバインダー組成物Aの固形分として2質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩1質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が55質量%となるように水を加えて遊星型ミルを用いて十分に混合して正極用スラリーを得た。
【0138】
得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ32μmの正極を作製した。屈曲性試験と結着性試験の評価結果を表1の実施例1に示す。
【0139】
[電極の実施作製例2]
実施合成例2で得られたバインダー組成物Bを使用した以外は、電極の実施作製例1と同様にして正極を作製した。得られた正極の厚みは34μmであった。屈曲性試験と結着性試験の評価結果を表1の実施例2に示す。
【0140】
[電極の比較作製例1]
比較合成例1で得られたバインダー組成物Cを使用した以外は、電極の実施作製例1と同様にして正極を作製した。得られた正極の厚みは33μmであった。屈曲性試験と結着性試験の評価結果を表1の比較例1に示す。
【0141】
[電極の比較作製例2]
比較合成例2で得られたバインダー組成物Dを使用した以外は、電極の実施作製例1と同様にして正極を作製した。得られた正極の厚みは31μmであった。屈曲性試験と結着性試験の評価結果を表1の比較例2に示す。
【0142】
[電極の比較作製例3]
比較合成例3で得られたバインダー組成物Eを使用した以外は、電極の実施作製例1と同様にして正極を作製した。得られた正極の厚みは34μmであった。屈曲性試験と結着性試験の評価結果を表1の比較例3に示す。
【0143】
表1に実施例及び比較例の電極の物性評価結果を示す。
【表1】
【0144】
<電池の製造例>
[コイン電池の実施製造例1]
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、電極の実施作製例1で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物に、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネート(体積比3:5:2)を十分に含浸させてかしめ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗測定の評価結果を表2の実施例1に示す。
【0145】
[コイン電池の実施製造例2]
電極の実施作製例2で得た正極を用いた以外は、電極の実施作製例1と同様にしてコイン電池を作製した。内部抵抗測定の評価結果を表2の実施例2に示す。
【0146】
[コイン電池の比較製造例1]
電極の比較作製例1で得た正極を用いた以外は、電極の実施作製例1と同様にしてコイン電池を作製した。内部抵抗測定の評価結果を表2の比較例1に示す。
【0147】
[コイン電池の比較製造例2]
電極の比較作製例2で得た正極を用いた以外は、電極の実施作製例1と同様にしてコイン電池を作製した。内部抵抗測定の評価結果を表2の比較例2に示す。
【0148】
[コイン電池の比較製造例3]
電極の比較作製例3で得た正極を用いた以外は、電極の実施作製例1と同様にしてコイン電池を作製した。内部抵抗測定の評価結果を表2の比較例3に示す。
【0149】
表2に実施例及び比較例の電池の特性評価結果を示す。
【表2】
【0150】
本発明の正極を用いたリチウムイオン電池である(すなわち、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有し、コアシェル構造を有する重合体を含む)実施例1~2は、比較例1~3(比較例1は、一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位を有しておらず、比較例2,3はコアシェル構造を有していない)と比べて接着性に優れており、またコイン電池としても比較例1~3に比べてSOC50%の充電状態での内部抵抗が低く、PHEV等の電気自動車に用いる場合の性能が優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の電極用バインダーは優れた可撓性及び結着性を備えており、リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスにおいて、SOC50%における低抵抗化を実現する。本発明は、該電極バインダーを用いてなる電極、及び該電極を備える蓄電デバイスは携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用途に好適に利用可能である。